特許第5940386号(P5940386)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5940386耐ブロッキング性脂肪族ポリカーボネートおよびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5940386
(24)【登録日】2016年5月27日
(45)【発行日】2016年6月29日
(54)【発明の名称】耐ブロッキング性脂肪族ポリカーボネートおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 69/00 20060101AFI20160616BHJP
   C08L 1/02 20060101ALI20160616BHJP
   C08G 64/32 20060101ALI20160616BHJP
   C08J 3/20 20060101ALI20160616BHJP
【FI】
   C08L69/00
   C08L1/02
   C08G64/32
   C08J3/20 ZCFD
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-135684(P2012-135684)
(22)【出願日】2012年6月15日
(65)【公開番号】特開2014-1262(P2014-1262A)
(43)【公開日】2014年1月9日
【審査請求日】2014年12月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000195661
【氏名又は名称】住友精化株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081422
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 光雄
(74)【代理人】
【識別番号】100084146
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100156122
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 剛
(72)【発明者】
【氏名】藤本 信貴
(72)【発明者】
【氏名】竹森 信一
(72)【発明者】
【氏名】川北 知紀
(72)【発明者】
【氏名】西岡 聖司
【審査官】 藤井 勲
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−036954(JP,A)
【文献】 特開2006−257374(JP,A)
【文献】 特開2007−302731(JP,A)
【文献】 特開2010−222536(JP,A)
【文献】 特開2011−184816(JP,A)
【文献】 特開2014−001263(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 69/00
C08G 64/00 − 64/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪族ポリカーボネート100質量部に対して、セルロース繊維を0.1〜15質量部含有する耐ブロッキング性脂肪族ポリカーボネート組成物。
【請求項2】
二酸化炭素とアルキレンオキシドとを金属触媒の存在下で重合させて得られる脂肪族ポリカーボネートとセルロース繊維を、脂肪族ポリカーボネート100質量部に対して、セルロース繊維を0.1〜15質量部の割合で混合する耐ブロッキング性脂肪族ポリカーボネート組成物の製造方法。
【請求項3】
セルロース繊維が含水率30質量%以上の含水物である請求項2記載の耐ブロッキング性脂肪族ポリカーボネート組成物の製造方法。
【請求項4】
金属触媒が、有機亜鉛触媒である請求項2または3に記載の耐ブロッキング性脂肪族ポリカーボネート組成物の製造方法。
【請求項5】
有機亜鉛触媒が、亜鉛化合物と、脂肪族ジカルボン酸と、脂肪族モノカルボン酸とを反応させて得られる有機亜鉛触媒である請求項4に記載の耐ブロッキング性脂肪族ポリカーボネート組成物の製造方法。
【請求項6】
脂肪族モノカルボン酸の使用割合が、脂肪族ジカルボン酸1モルに対して、0.0001〜0.1モルである請求項5に記載の耐ブロッキング性脂肪族ポリカーボネート組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐ブロッキング性を有する脂肪族ポリカーボネートおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
産業革命以降、人類は化石燃料を大量消費することによって、現代社会を築いてきたが、一方で大気中における二酸化炭素濃度を増加させ、さらに、森林破壊等の環境破壊によってこの増加を助長させている。
【0003】
地球温暖化は、大気中の二酸化炭素、フロンやメタンといった温室効果ガスが増加したことが原因とされることから、地球温暖化への寄与率の高い二酸化炭素の大気中濃度を減少させることは極めて重要であり、この排出規制や固定化等の様々な研究が世界規模で行われている。
【0004】
中でも、井上らによって見出された二酸化炭素とエポキシドとの重合反応は、地球温暖化問題の解決を担う反応として期待されており、化学的な二酸化炭素の固定といった観点だけでなく、炭素資源としての二酸化炭素の利用といった観点からも盛んに研究されている(非特許文献1参照)。
【0005】
二酸化炭素とエポキシドとの重合反応には、通常、金属触媒が使用され、ジエチル亜鉛と複数の活性水素を持つ化合物との反応生成物(非特許文献2参照)、酸化亜鉛と脂肪族ジカルボン酸とを有機溶媒の存在下に機械的粉砕処理手段により接触させて得られる亜鉛含有固体触媒(特許文献1参照)、酸化亜鉛等の金属酸化物や水酸化カルシウム等の金属水酸化物等と、イソフタル酸等のジカルボン酸と、プロピオン酸等のモノカルボン酸とを反応させて得られる金属有機酸塩(特許文献2参照)、亜鉛化合物と脂肪族ジカルボン酸と特定量の脂肪族モノカルボン酸とを反応させて得られる亜鉛含有固体触媒(特許文献3参照)等が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平2−47134号公報
【特許文献2】特開昭52−151116号公報
【特許文献3】特開2007−302731号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Macromolecular Syntheses,Vol.7,p.87(1969)
【非特許文献2】高分子論文集、Vol.62,p.131(2005)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記先行技術文献に記載の方法により重合して得られる脂肪族ポリカーボネートは、軟化温度が低いため、例えばペレットのような形状に加工した場合、ペレット同士が固着し、塊状化することから、取り扱い性が悪いといった問題がある。
【0009】
本発明の目的は、耐ブロッキング性を有する脂肪族ポリカーボネートおよびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、脂肪族ポリカーボネートに対して特定量のセルロース繊維を添加することにより耐ブロッキング性の脂肪族ポリカーボネートが得られることを見出し、本発明を完成した。即ち、本発明は、
項1.セルロース繊維を含有する耐ブロッキング性脂肪族ポリカーボネート;
項2.セルロース繊維の含有量が、脂肪族ポリカーボネート100質量部に対して、0.1〜50質量部である項1に記載の耐ブロッキング性脂肪族ポリカーボネート;
項3.二酸化炭素とアルキレンオキシドとを金属触媒の存在下で重合させて得られる脂肪族ポリカーボネートとセルロース繊維を混合する耐ブロッキング性脂肪族ポリカーボネートの製造方法;
項4.金属触媒が、有機亜鉛触媒である項3に記載の耐ブロッキング性脂肪族ポリカーボネートの製造方法;
項5.有機亜鉛触媒が、亜鉛化合物と、脂肪族ジカルボン酸と、脂肪族モノカルボン酸とを反応させて得られる有機亜鉛触媒である項4に記載の耐ブロッキング性脂肪族ポリカーボネートの製造方法;および
項6.脂肪族モノカルボン酸の使用割合が、脂肪族ジカルボン酸1モルに対して、0.0001〜0.1モルである項5に記載の耐ブロッキング性脂肪族ポリカーボネートの製造方法
に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、耐ブロッキング性を有し、取り扱い性に優れた脂肪族ポリカーボネートを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の耐ブロッキング性脂肪族ポリカーボネートは、脂肪族ポリカーボネート中にセルロース繊維を含有していることを特徴とする。
【0013】
本発明に用いられる脂肪族ポリカーボネートとしては、特に限定されないが、二酸化炭素とアルキレンオキシドとを金属触媒の存在下で重合させて得られるものが好ましく用いられる。
【0014】
以下、脂肪族ポリカーボネートの製造方法について具体的に説明する。
アルキレンオキシドとしては、例えば、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、1−ブテンオキシド、2−ブテンオキシド、イソブチレンオキシド、1−ペンテンオキシド、2−ペンテンオキシド、1−ヘキセンオキシド、1−オクテンオキシド、1−デセンオキシド、シクロペンテンオキシド、シクロヘキセンオキシド、スチレンオキシド、ビニルシクロヘキセンオキシド、3−フェニルプロピレンオキシド、3,3,3−トリフルオロプロピレンオキシド、3−ナフチルプロピレンオキシド、3−フェノキシプロピレンオキシド、3−ナフトキシプロピレンオキシド、ブタジエンモノオキシド、3−ビニルオキシプロピレンオキシドおよび3−トリメチルシリルオキシプロピレンオキシド等が挙げられる。これらのアルキレンオキシドの中でも、二酸化炭素との高い重合反応性を有する観点から、エチレンオキシドおよびプロピレンオキシドが好適に用いられる。なお、これらのアルキレンオキシドは、それぞれ単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0015】
金属触媒としては、例えば、アルミニウム触媒、亜鉛触媒等が挙げられる。これらの中でも、二酸化炭素とアルキレンオキシドとの重合反応において、高い重合活性を有することから、亜鉛触媒が好ましく用いられ、亜鉛触媒の中でも、有機亜鉛触媒が好ましく用いられる。
【0016】
前記有機亜鉛触媒としては、例えば、酢酸亜鉛、ジエチル亜鉛、ジブチル亜鉛等の有機亜鉛触媒;一級アミン、2価のフェノール、2価の芳香族カルボン酸、芳香族ヒドロキシ酸、脂肪族ジカルボン酸、脂肪族モノカルボン酸等の化合物と亜鉛化合物とを反応させることにより得られる有機亜鉛触媒等が挙げられる。これらの有機亜鉛触媒の中でも、より高い重合活性を有することから、亜鉛化合物と、脂肪族ジカルボン酸と、脂肪族モノカルボン酸とを反応させて得られる有機亜鉛触媒であることが好ましい。
【0017】
本明細書においては、有機亜鉛触媒の実施形態の一例として、亜鉛化合物と、脂肪族ジカルボン酸と、脂肪族モノカルボン酸とを反応させて得られる有機亜鉛触媒についてより詳しく説明する。
【0018】
前記亜鉛化合物の具体例としては、酸化亜鉛、水酸化亜鉛、硝酸亜鉛、炭酸亜鉛等の無機亜鉛化合物;酢酸亜鉛、ジエチル亜鉛、ジブチル亜鉛等の有機亜鉛化合物等が挙げられる。これらの亜鉛化合物の中でも、高い触媒活性を有する有機亜鉛触媒が得られる観点から、酸化亜鉛および水酸化亜鉛が好適に用いられる。なお、これらの亜鉛化合物は、それぞれ単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0019】
前記脂肪族ジカルボン酸の具体例としては、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸等が挙げられる。これらの脂肪族ジカルボン酸の中でも、高い活性を有する有機亜鉛触媒が得られる観点から、グルタル酸およびアジピン酸が好適に用いられる。なお、これらの脂肪族ジカルボン酸は、それぞれ単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0020】
前記脂肪族ジカルボン酸の使用割合は、通常、前記亜鉛化合物1モルに対して、0.1〜1.5モルであることが好ましく、0.5〜1.0モルであることがより好ましい。脂肪族ジカルボン酸の使用割合が0.1モル未満の場合、亜鉛化合物との反応が進行しにくくなるおそれがある。また、脂肪族ジカルボン酸の使用割合が1.5モルを超える場合、得られる有機亜鉛触媒の活性において、使用量に見合う効果がなく経済的でなくなるおそれがある。
【0021】
前記脂肪族モノカルボン酸の具体例としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸等が挙げられる。これらの脂肪族モノカルボン酸の中でも、高い活性を有する有機亜鉛触媒が得られる観点から、ギ酸および酢酸が好適に用いられる。なお、これらの脂肪族モノカルボン酸は、それぞれ単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0022】
前記脂肪族モノカルボン酸の使用割合は、脂肪族ジカルボン酸1モルに対して、0.0001〜0.1モルであることが好ましく、0.001〜0.05モルであることがより好ましい。脂肪族モノカルボン酸の使用割合が0.0001モル未満の場合、得られる有機亜鉛触媒は、末端にカルボン酸基が含まれた構造を有しているため、活性の低い有機亜鉛触媒になるおそれがある。また、脂肪族モノカルボン酸の使用割合が0.1モルを超える場合、得られる有機亜鉛触媒の活性において、使用量に見合う効果がなく経済的でなくなるおそれがある。
【0023】
前記亜鉛化合物と、脂肪族ジカルボン酸と、脂肪族モノカルボン酸とを反応させる方法としては、特に限定されるものではなく、これらを同時に反応させてもよいし、脂肪族ジカルボン酸または脂肪族モノカルボン酸のどちらか一方と亜鉛化合物とを先に反応させた後、その反応生成物と他のもう一方とを引き続いて反応させてもよい。
【0024】
また、前記亜鉛化合物と、脂肪族ジカルボン酸と、脂肪族モノカルボン酸とを反応させる際に、反応を円滑に行う観点から、溶媒を用いてもよい。前記溶媒としては、反応を阻害するものでなければ特に限定されず、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶媒;ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート系溶媒;アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホトリアミド等が挙げられる。これらの溶媒の中でも、溶媒のリサイクル使用が容易である観点から、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒が好適に用いられる。また、溶媒の使用量は、反応を円滑に行う観点から、亜鉛化合物100質量部に対して500〜10,000質量部であることが好ましい。
【0025】
前記亜鉛化合物と、脂肪族ジカルボン酸と、脂肪族モノカルボン酸とを反応させる際の反応温度は、特に限定されないが、20〜110℃であることが好ましく、50〜100℃であることがより好ましい。また、反応時間は、反応温度により異なるために一概にはいえないが、通常1〜20時間であることが好ましい。
【0026】
かくして得られる有機亜鉛触媒は、前記反応終了後にろ過等の常法により単離して、または、単離せずに当該反応液に含まれたままで、二酸化炭素とエポキシドとを反応させる重合工程に用いることができる。
【0027】
なお、例えば、前記有機亜鉛触媒の使用において、単離せずに前記反応液に含まれた状態で使用する際には、二酸化炭素とエポキシドとの反応に悪影響を及ぼすおそれのある水分を充分に除去しておくことが好ましい。
【0028】
金属触媒の使用量は、アルキレンオキシド100質量部に対して、0.001〜20質量部であることが好ましく、0.01〜10質量部であることがより好ましい。金属触媒の使用量が0.001質量部未満の場合、重合反応が進行しにくくなるおそれがある。また、金属触媒の使用量が20質量部を超える場合、使用量に見合う効果がなく経済的でなくなるおそれがある。
【0029】
重合工程において必要に応じて用いられる反応溶媒としては、特に限定されるものではなく、種々の有機溶媒を用いることができる。前記有機溶媒としては、具体的には、例えば、ペンタン、ヘキサン、オクタン、デカン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素系溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒;クロロメタン、メチレンジクロリド、クロロホルム、四塩化炭素、1,1−ジクロロエタン、1,2−ジクロロエタン、エチルクロリド、トリクロロエタン、1−クロロプロパン、2−クロロプロパン、1−クロロブタン、2−クロロブタン、1−クロロ−2−メチルプロパン、クロルベンゼン、ブロモベンゼン等のハロゲン化炭化水素系溶媒;ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート系溶媒等が挙げられる。
【0030】
前記反応溶媒の使用量は、反応を円滑にさせる観点から、エポキシド100質量部に対して、300〜10,000質量部であることが好ましい。
【0031】
重合工程において、二酸化炭素とエポキシドとを金属触媒を用いて反応させる方法としては、特に限定されるものではなく、例えば、オートクレーブに、前記アルキレンオキシド、金属触媒、および必要により反応溶媒を仕込み、混合した後、二酸化炭素を圧入して、反応させる方法が挙げられる。
【0032】
重合工程において用いられる二酸化炭素の使用圧力は、特に限定されないが、通常、0.1〜20MPaであることが好ましく、0.1〜10MPaであることがより好ましく、0.1〜5MPaであることがさらに好ましい。二酸化炭素の使用圧力が20MPaを超える場合、使用圧力に見合う効果がなく経済的でなくなるおそれがある。
【0033】
重合反応温度は、特に限定されないが、30〜100℃であることが好ましく、40〜80℃であることがより好ましい。重合反応温度が30℃未満の場合、重合反応に長時間を要するおそれがある。また、重合反応温度が100℃を超える場合、副反応が起こり、収率が低下するおそれがある。重合反応時間は、重合反応温度により異なるために一概にはいえないが、通常、2〜40時間であることが好ましい。
【0034】
重合反応終了後は、ろ過や乾燥等の単位操作を組み合わせて、重合反応液から重合物である脂肪族ポリカーボネートを単離することができる。
【0035】
本発明に用いられるセルロース繊維としては特に限定されず、原料セルロースとして、植物(例えば、木材、竹、麻、ジュート、ケナフ、農地残廃物、布、パルプ、再生パルプ、古紙)、動物(例えば、ホヤ類)、藻類、微生物(例えば、酢酸菌(アセトバクター))、微生物産生物等を起源とするものが利用できる。好ましくは植物または微生物由来のセルロースであり、より好ましくは植物由来のセルロースである。
【0036】
本発明に用いられるセルロース繊維としては、種々の公知の方法により製造されたものが挙げられる。例えば、セルロースを高圧ホモジナイザー、グラインダー、ボールミル、高圧ジェット水等により機械的に解繊を行うことにより製造される。また、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン 1−オキシル(TEMPO)触媒等の化学的な方法で解繊を行うことにより、またイオン液体を利用し解繊を行うことにより製造される。なお、本発明においては、セルロースが繊維状態である限りにおいては、その製造方法についてはなんら制限なく、市販のものを用いてもよい。
【0037】
市販品としては、スギノマシン製 「BiNF-IS Cellulose、セルロース含有量5%の水分散液」、ダイセル株式会社製「セリッシュKY-100G、セルロース含有量10%の水分散液」、日本製紙製「TEMPO酸化パルプ品、セルロース含有量7%の水分散品」、日本製紙ケミカル製「KCフロック」やバッカイ・テクノロジーズ社製「コットンリンターパルプ」、日本製紙ケミカル製「ウッドパルプシート」を粗砕機、粉砕機により粉砕したもの等が挙げられる。
【0038】
本発明に用いられるセルロース繊維の繊維径は平均値が10nm〜500μmであることが好ましく、より好ましくは20nm〜400μm、さらに好ましくは25nm〜300μmである。また、セルロース繊維の長さについては、特に限定されるものではないが、アスペクト比(繊維長/繊維幅)が10〜10,000であることが好ましく、より好ましくは20〜5,000である。アスペクト比が10未満の場合、分散状態が悪化する恐れがある。
【0039】
前記セルロース繊維の性状としては、特に限定されないが、取扱いの容易さ、入手容易性の観点等から、含水率が30質量%以上の含水物が好ましく用いられる。これらの中でも、例えば、繊維径がnmサイズのセルロース繊維の場合には含水率が、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90〜99.5質量%である水分散液が好ましく用いられ、繊維径がμmサイズのセルロース繊維の場合には含水率が、好ましくは40〜80質量%、より好ましくは70〜80質量%の水湿潤体のものが用いられる。
【0040】
本発明の耐ブロッキング性脂肪族ポリカーボネートにおいて、セルロース繊維の含有量は脂肪族ポリカーボネート100質量部に対して0.1〜50質量部が好ましく、0.2〜30質量部がより好ましく、0.5〜15質量部がさらに好ましい。セルロース繊維の含有量が50質量部を超える場合、セルロース繊維の強直性に起因して成形加工性が低下したり、セルロース繊維が凝集するため脂肪族ポリカーボネートに均一に分散しないおそれがある。セルロース繊維の含有量が0.1質量部未満の場合、セルロース繊維の添加効果である、耐ブロッキング効果を発揮することができないおそれがある。
【0041】
本発明の耐ブロッキング性脂肪族ポリカーボネートの製造方法は、二酸化炭素とアルキレンオキシドとを金属触媒の存在下で重合させて得られる脂肪族ポリカーボネートとセルロース繊維を混合することを特徴とする。
【0042】
ここで、二酸化炭素とアルキレンオキシドとを金属触媒の存在下で重合させる方法については、前述の脂肪族ポリカーボネートの製造方法で記載した方法を用いればよい。
【0043】
脂肪族ポリカーボネートとセルロース繊維を混合する方法としては特に限定されず、例えば二酸化炭素とアルキレンオキシドとを金属触媒の存在下で重合させて得られる反応液にセルロース繊維を添加して混合する方法;重合後にろ過や乾燥して得られた脂肪族ポリカーボネートに、セルロース繊維を添加して混合する方法等が挙げられる。また、二酸化炭素とエポキシドとの重合反応を阻害しない限りにおいては、重合反応工程中にセルロース繊維が含まれていても良い。
【0044】
前記セルロース繊維を混合した後、乾燥等の単位操作を組み合わせて、本発明にかかる、セルロース繊維を含有する耐ブロッキング性脂肪族ポリカーボネートを得ることができる。
【0045】
本発明の耐ブロッキング性脂肪族ポリカーボネートの形状に制約はなく、ストランド状、シート状、平板状またはストランドを適当な長さに裁断したペレット状等、任意の形状が可能である。本発明の耐ブロッキング性脂肪族ポリカーボネートは耐ブロッキング性に優れているため、経時により固着することなく、これらの形状を保持することができる。
【0046】
本発明により、耐ブロッキング性に優れた脂肪族ポリカーボネートが得られる機構は定かではないが、脂肪族ポリカーボネートに取り込まれたセルロース繊維がストランド状、シート状、平板状またはペレット状等の任意の形状物の表面から適度に出ていることにより、脂肪族ポリカーボネート同士の接触を防止でき、経時による固着を防止することができるようになるものと推測される。
【実施例】
【0047】
以下に、実施例および比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0048】
[製造例1](有機亜鉛触媒の製造)
攪拌機、窒素ガス導入管、温度計、還流冷却管を備えた300mL容の四つ口フラスコに、酸化亜鉛8.1g(100ミリモル)、グルタル酸12.7g(96ミリモル)、酢酸0.1g(2ミリモル)およびトルエン130g(150mL)を仕込んだ。次に、反応系内を窒素雰囲気に置換した後、55℃まで昇温し、同温度で4時間攪拌して反応させた。その後、110℃まで昇温し、さらに同温度で4時間攪拌して共沸脱水させ、水分のみを除去した後、室温まで冷却して、有機亜鉛触媒を含む反応液を得た。
この反応液の一部を分取し、ろ過して得た有機亜鉛触媒について、IRを測定(サーモニコレージャパン株式会社製、商品名:AVATAR360)した結果、カルボン酸基に基づくピークは認められなかった。
【0049】
[実施例1]
攪拌機、ツインスター型攪拌翼(羽根径50mm)、ガス導入管、温度計を備えた1L容のオートクレーブ(胴内径95mm、高さ240mm)の系内をあらかじめ窒素雰囲気に置換した後、製造例1により得られた有機亜鉛触媒を含む反応液8.0mL(有機亜鉛触媒を1.0g含む)、ジメチルカーボネート214g(200mL)、エチレンオキシド35.2g(0.80モル)を仕込んだ。次に、攪拌下、二酸化炭素を加え、反応系内を二酸化炭素雰囲気に置換し、反応系内が1.5MPaとなるまで二酸化炭素を充填した。その後、60℃に昇温し、反応により消費される二酸化炭素を補給しながら6時間、重合反応を行なった。
【0050】
反応終了後、脱圧し、攪拌回転数100r/min、0.5℃/minの冷却速度で、60℃から25℃となるまで、70分間かけて冷却し、ジメチルカーボネートに溶解したポリエチレンカーボネートを得た。次に、得られた溶液に攪拌回転数100r/minでセルロース繊維(株式会社スギノマシン製、商品名 BiNF−IS Cellulose、セルロース含有量5質量%の水分散品)140gを加えた後、メタノール3000mL中に加えてポリエチレンカーボネートを析出させ、ろ過した後、ヘキサン500mLで洗浄し、減圧乾燥してセルロース繊維を含有するポリエチレンカーボネート75.6gを得た。
【0051】
厚さ0.6mmのアルミ製の型枠に得られたポリエチレンカーボネート7.5gを量り取り、ペットシートさらにステンレス板で挟み、プレス機(株式会社ゴンノ水圧機製作所製40t加熱プレス機)を用いて100℃、10MPaで5分間プレスした。プレス後、余熱を取り去るため、室温以下に冷却されたプレス装置に入れ、0.5〜1.0MPaの圧力で約1分間プレスすることでポリエチレンカーボネートのシートを得た。次に、得られたシートからダンベル4号を用いて試験片(1)を作成した。
【0052】
[実施例2]
実施例1において、エチレンオキシド35.2g(0.80モル)に代えて、プロピレンオキシド46.4g(0.80モル)を用いた以外は実施例1と同様にして、ポリプロピレンカーボネート86.3gを得た。
次に、得られたポリプロピレンカーボネートを用いて、実施例1と同様にして試験片(2)を作成した。
【0053】
[実施例3]
実施例2において、セルロース繊維(株式会社スギノマシン製、商品名 BiNF−I−S Cellulose、セルロース含有量 5質量%の水分散品)140gに代えて14gを用いた以外は実施例2と同様にして、ポリプロピレンカーボネート80.9gを得た。
次に、得られたポリプロピレンカーボネートを用いて、実施例1と同様にして試験片(3)を作成した。
【0054】
[実施例4]
実施例2において、セルロース繊維(株式会社スギノマシン製、商品名 BiNF−I−S Cellulose、セルロース含有量 5質量%の水分散品)140gに代えてコットンリンターパルプ(バッカイ・テクノロジーズ社製、商品名 PCS2400 コットンリンターパルプ)7gを用いた以外は実施例2と同様にして、ポリプロピレンカーボネート80.5gを得た。
次に、得られたポリプロピレンカーボネートを用いて、実施例1と同様にして試験片(4)を作成した。
【0055】
[比較例1]
実施例1において、セルロース繊維(株式会社スギノマシン製、商品名 BiNF−I−S Cellulose、セルロース含有量 5質量%の水分散品)140gを用いないこと以外は実施例1と同様にして、ポリエチレンカーボネート68.2gを得た。
次に、得られたポリエチレンカーボネートを用いて、実施例1と同様にして試験片(5)を作成した。
【0056】
[比較例2]
実施例2において、セルロース繊維(株式会社スギノマシン製、商品名 BiNF−I−S Cellulose、セルロース含有量 5質量%の水分散品)140gを用いないこと以外は実施例2と同様にして、ポリプロピレンカーボネート80.7gを得た。
次に、得られたポリプロピレンカーボネートを用いて、実施例1と同様にして試験片(6)を作成した。
【0057】
(耐ブロッキング性の評価)
実施例1〜4で得られた試験片および比較例1および2で得られた試験片について、25℃で保存し、経時により固着の有無を評価した。これらの結果を表1に示す。
【0058】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明によれば、耐ブロッキング性に優れた脂肪族ポリカーボネートを工業的に安定に提供することができる。本発明の脂肪族ポリカーボネートの用途としては、例えば、自動車の部品、各種電気製品の部品、各種機械の部品、構造物の部品等が挙げられる。