特許第5940688号(P5940688)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5940688ジルコニウム抽出剤及びジルコニウム抽出方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5940688
(24)【登録日】2016年5月27日
(45)【発行日】2016年6月29日
(54)【発明の名称】ジルコニウム抽出剤及びジルコニウム抽出方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 34/14 20060101AFI20160616BHJP
【FI】
   C22B34/14
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-8636(P2015-8636)
(22)【出願日】2015年1月20日
【審査請求日】2016年1月26日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】後藤 雅宏
(72)【発明者】
【氏名】久保田 富生子
(72)【発明者】
【氏名】馬場 雄三
【審査官】 坂本 薫昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開平05−070856(JP,A)
【文献】 特開2012−102062(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/069562(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 1/00−61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表されるアミド誘導体からなる、ジルコニウム抽出剤。
【化1】
(式中、R及びRは、それぞれ同一又は別異のアルキル基を示す。アルキル基は直鎖でも分鎖でも良い。Rは水素原子又はアルキル基を示す。Rは水素原子、又はアミノ酸としてα炭素に結合される、アミノ基以外の任意の基を示す。)
【請求項2】
前記式中、R及びRのアルキル基は分鎖であり、R及びRのアルキル基の炭素数は5以上11以下である、請求項1に記載のジルコニウム抽出剤。
【請求項3】
前記アミド誘導体がグリシンアミド誘導体、ヒスチジンアミド誘導体、リジンアミド誘導体、アスパラギン酸アミド誘導体及びノルマル−メチルグリシン誘導体のいずれか1以上である、請求項1又は2に記載のジルコニウム抽出剤。
【請求項4】
ジルコニウムを含有するか、又はジルコニウムとスカンジウムとを含有する第1の酸性溶液を、請求項1から3のいずれかに記載のジルコニウム抽出剤による溶媒抽出に付し、前記第1の酸性溶液から前記ジルコニウムを抽出するジルコニウム抽出方法。
【請求項5】
前記第1の酸性溶液は、スカンジウム、チタン、ランタン及びイットリウムから選択される一以上をさらに含有し、
前記第1の酸性溶液のpHを0.8以下に調整しながら前記第1の酸性溶液を前記溶媒抽出に付す、請求項4に記載のジルコニウム抽出方法。
【請求項6】
前記ジルコニウム抽出剤による溶媒抽出に付した後、前記第1の酸性溶液から前記ジルコニウムを抽出した前記抽出剤に対し、pHが0以上0.5以下の第2の酸性溶液を混合することで逆抽出を行い、その後、前記抽出剤と前記第2の酸性溶液とを分離することで、ジルコニウムとスカンジウム、チタン、ランタン及びイットリウムから選択される少なくとも一以上の成分とを分離する、請求項4又は5に記載のジルコニウム抽出方法。
【請求項7】
前記逆抽出の後、前記抽出剤に対し、pHが0.8以上1.5以下である第3の酸性溶液に接触させて、ジルコニウム又はジルコニウム及びスカンジウムと、チタン、ランタン及びイットリウムから選択される一以上の成分とを分離し、
その後、前記抽出剤にpHが0.2以下に調整した第4の酸性溶液を混合し、ジルコニウムとスカンジウムとを分離する、請求項6に記載のジルコニウム抽出方法。
【請求項8】
前記第1の酸性溶液が、固体電解質燃料電池の電極材を酸溶解して得たものである、請求項4から7のいずれかに記載のジルコニウム抽出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジルコニウム抽出剤及びジルコニウム抽出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ジルコニウムは、合金として原子炉の燃料棒の被覆材料として使われるほか、酸化ジルコニウムとして白色顔料や圧電素子などに用いられる有価な金属である。一方、希土類元素の中でもっとも原子番号が小さいスカンジウムは、メタルハライドランプの材料、合金への添加元素、近年では触媒セラミックスへの添加元素等として使用される等の用途がある。
【0003】
さらに、ジルコニアとスカンジウム両方に共通する用途として、最近ではSOFCと称せられる固体酸化物型燃料電池の電解質として、ScSZ(Sc−doped ZrO/スカンジア安定化ジルコニア)の利用が検討されている。
【0004】
このように、ジルコニウムとスカンジウムは両方とも有価な元素であり、効率的な回収や精製が試みられてきた。また、将来的に使用済みSOFCをリサイクルしてスカンジウムとジルコニウムを分離して拐取し、再度利用することも考えられる。
【0005】
このような分離に用いる方法として、例えば上記の使用済みSOFC電解質のScSZに強酸を加えて溶解し、中和沈殿等の手段を用いて不純物を分離し、さらに溶媒抽出等の手段でスカンジウムとジルコニウムを分離することが考えられる。
【0006】
例えば、特許文献1には、プロパンジアミドによって水性酸溶液中に存在するアクチニド及び/又はランタニドから鉄及び/又はジルコニウムを分離する方法が示されている。この方法は、下記化学式の構造を持つ五−置換プロパンジアミドを利用するものである。
【化1】
(式中、R、R及びRは、同じであっても異なっていてもよく、連鎖中に1又は2個の酸素原子を有することができるアルキル基である。)
【0007】
しかしながら、上記特許文献1には、ランタノイドと同じ3族ではあるものの、化学的性質が微妙に異なるスカンジウムの挙動に関する記載はなく、ジルコニウムとスカンジウムとを分離する知見はない。
【0008】
ジルコニウムとスカンジウムとを分離すること関し、特許文献2には、汎用性のある試薬を用いてSc3+とSc3+以外の金属イオンとを含む水溶液からSc3+を分離する技術を提供するもので、具体的には、Sc3+とSc3+以外の金属イオンとを含む水溶液に、有機溶媒と、Sc3+を有機溶媒中で錯形成させるための第1のキレート剤とを加える工程と、水溶液と有機溶媒とを混合して混合液を形成させ、Sc3+と第1のキレート剤とを錯形成させる工程と、混合液を有機相と水相とに相分離する工程と、を行うことが開示されている。
【0009】
しかしながら、特許文献2に記載の方法を用いた場合、特許文献2の本文及び図1〜7に示されるように、ジルコニウムが抽出されずにむしろスカンジウムを抽出したり、あるいは鉄やアルミニウムの抽出挙動がジルコニウムの抽出挙動と一部で同一傾向を示す等、シャープな分離とは言い難く、高純度なジルコニウムを得ることが難しいという課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平5−70856号公報
【特許文献2】特開2013−57115号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、SOFC電極材等、ジルコニウム及びスカンジウムを含有する材料を酸浸出して得た酸性溶液からジルコニウムを早期かつ高効率に抽出できる抽出剤、及びこの抽出剤を用いたジルコニウム抽出方法を提供することを目的とする。
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、下記一般式(I)で表されるアミド誘導体からなるジルコニウム抽出剤を提供することで、スカンジウムや多種多量な不純物を含有する溶液からジルコニウムを回収できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0013】
具体的に、本発明では、以下のようなものを提供する。
【0014】
(1)本発明は、下記一般式(I)で表されるアミド誘導体からなる、ジルコニウム抽出剤である。
【化2】
(式中、R及びRは、それぞれ同一又は別異のアルキル基を示す。アルキル基は直鎖でも分鎖でも良い。Rは水素原子又はアルキル基を示す。Rは水素原子、又はアミノ酸としてα炭素に結合される、アミノ基以外の任意の基を示す。)
【0015】
(2)また、本発明は、前記式中、R及びRのアルキル基は分鎖であり、R及びRのアルキル基の炭素数は5以上11以下である、(1)に記載のジルコニウム抽出剤である。
【0016】
(3)また、本発明は、前記アミド誘導体がグリシンアミド誘導体、ヒスチジンアミド誘導体、リジンアミド誘導体、アスパラギン酸アミド誘導体及びノルマル−メチルグリシン誘導体のいずれか1以上である、(1)又は(2)に記載のジルコニウム抽出剤である。
【0017】
(4)また、本発明は、ジルコニウムを含有する酸性溶液、又はジルコニウムとスカンジウムとを含有する酸性溶液を、(1)から(3)のいずれかに記載のジルコニウム抽出剤による溶媒抽出に付し、前記酸性溶液から前記ジルコニウムを抽出するジルコニウム抽出方法である。
【0018】
(5)また、本発明は、前記酸性溶液は、スカンジウム、チタン、ランタン及びイットリウムから選択される一以上をさらに含有し、前記酸性溶液のpHを0.8以下に調整しながら前記酸性溶液を前記溶媒抽出に付す、(1)から(4)のいずれかに記載のジルコニウム抽出方法である。
【0019】
(6)また、本発明は、前記ジルコニウム抽出剤による溶媒抽出に付した後、前記酸性溶液から前記ジルコニウムを抽出した前記抽出剤に対し、pHが0以上0.5以下の酸性溶液を混合することで逆抽出を行い、その後、前記抽出剤と前記酸性溶液とを分離することで、ジルコニウムとスカンジウム、チタン、ランタン及びイットリウムから選択される少なくとも一以上の成分とを分離する、(4)又は(5)に記載のジルコニウム抽出方法である。
【0020】
(7)また、本発明は、前記逆抽出の後、前記酸性溶液のpHを1.0に調整して、ジルコニウム又はジルコニウム及びスカンジウムと、チタン、ランタン及びイットリウムから選択される一以上の成分とを分離し、その後、前記抽出剤にpHが0.2以下に調整した酸性溶液を混合し、ジルコニウムとスカンジウムとを分離する、(6)に記載のジルコニウム抽出方法である。
【0021】
(8)また、本発明は、前記酸性溶液が、固体電解質燃料電池の電極材を酸溶解して得たものである、(4)から(7)のいずれかに記載のジルコニウム抽出方法である。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、スカンジウムや多種多量な不純物を含有する酸性溶液からジルコニウムを一度に回収できる。酸性溶液からジルコニウムを抽出する工程が1回だけとなり、抽出液の体積を大幅に減らすことができるため、コンパクトな設備で済み、かつジルコニウムを含有する酸性溶液からジルコニウムを早期かつ高効率に抽出できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】実施例1で合成されたグリシンアミド誘導体のH−NMRスペクトルを示す図である。
図2】実施例1で合成されたグリシンアミド誘導体の13C−NMRスペクトルを示す図である。
図3】実施例で合成したアミド誘導体を抽出剤としたときの元液pHと各種金属の抽出率との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の具体的な実施形態について詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0025】
<ジルコニウム抽出剤>
本発明のジルコニウム抽出剤は、下記一般式(I)で表されるアミド誘導体からなる。
【化3】
【0026】
式中、R及びRは、それぞれ同一又は別異のアルキル基を示す。アルキル基は直鎖でも分鎖でも良いが、有機溶媒への溶解性に優れることから、アルキル基は、分鎖であることが好ましい。加えて、有機溶媒への溶解性によりいっそう優れることから、アルキル基が分鎖であり、さらにR及びRの長さがそれぞれ異なることがより好ましい。
【0027】
また、アルキル基の炭素数は、特に限定されるものでないが、5以上11以下であることが好ましく、7以上9以下であることがより好ましい。炭素数が少なすぎると、ジルコニウム抽出剤が水溶性となり、抽出剤の水への漏洩(分配)が問題となり得るため、好ましくない。また、炭素数が多すぎると、抽出剤の界面活性能が上がり、エマルションを形成し得ること、また、水層及び有機相の他に第3層を形成し得るため、好ましくない。
【0028】
は水素原子又はアルキル基を示す。Rは水素原子、又はアミノ酸としてα炭素に結合される、アミノ基以外の任意の基を示す。
【0029】
本発明ではアミドの骨格にアルキル基を導入することによって、親油性を高め、抽出剤として用いることができる。
【0030】
上記アミド誘導体は、グリシンアミド誘導体、ヒスチジンアミド誘導体、リジンアミド誘導体、アスパラギン酸アミド誘導体及びノルマル−メチルグリシン誘導体のいずれか1以上であることが好ましい。
【0031】
アミド誘導体がグリシンアミド誘導体である場合、上記のグリシンアミド誘導体は、次の方法によって合成できる。まず、NHR(R,Rは、上記の置換基R,Rと同じ)で表される構造のアルキルアミンに2−ハロゲン化アセチルハライドを加え、求核置換反応によりアミンの水素原子を2−ハロゲン化アセチルに置換することによって、2−ハロゲン化(N,N−ジ)アルキルアセトアミドを得る。
【0032】
次に、グリシン又はN−アルキルグリシン誘導体に上記2−ハロゲン化(N,N−ジ)アルキルアセトアミドを加え、求核置換反応によりグリシン又はN−アルキルグリシン誘導体の水素原子の一つを(N,N−ジ)アルキルアセトアミド基に置換する。これら2段階の反応によってグリシンアルキルアミド誘導体を合成できる。
【0033】
なお、グリシンをヒスチジン、リジン、アスパラギン酸に置き換えれば、ヒスチジンアミド誘導体、リジンアミド誘導体、アスパラギン酸アミド誘導体を合成できるが、リジンやアスパラギン酸誘導体による抽出挙動は、対象とするマンガンやコバルト等の錯安定定数から、グリシン誘導体及びヒスチジンアミド誘導体を用いた結果の範囲内に収まると考えられる。
【0034】
一般式(I)で表される化合物がヒスチジンアミド誘導体である場合、ヒスチジンアミド誘導体は下記一般式(II)で表される。
【化4】
【0035】
前記一般式(I)で表される化合物がリジンアミド誘導体である場合、リジンアミド誘導体は下記一般式(III)で表される。
【化5】
【0036】
前記一般式(I)で表される化合物がアスパラギン酸アミド誘導体である場合、アスパラギン酸アミド誘導体は下記一般式(IV)で表される。
【化6】
【0037】
<ジルコニウムの選択抽出方法>
上記方法によって合成した抽出剤を用いてジルコニウムイオンを抽出し、スカンジウムと分離するには、ジルコニウムイオンとスカンジウムイオンを含む酸性溶液を調整しながら、この酸性溶液を、上記抽出剤の有機溶液に加えて混合する。これによって、有機相にジルコニウムイオンを選択的に抽出することができる。ジルコニウムを含有する酸性溶液から、ジルコニウムを効率的に抽出する際、抽出剤は、上記のアミノ誘導体であれば、いずれの化合物であってもよい。
【0038】
本発明のジルコニウム抽出剤は、強酸性溶液からの抽出能力が優れている。このためスカンジウムやチタンやランタンやイットリウム等を抽出できない低いpH領域でジルコニウムを抽出することができる。ジルコニウムとスカンジウムを含む原料を酸溶解した溶解液をそのまま抽出に付することができる。
【0039】
有機溶媒は、抽出剤及び金属抽出種が溶解する溶媒であればどのようなものであってもよく、例えば、クロロホルム、ジクロロメタン等の塩素系溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、ヘキサン等の脂肪族炭化水素等が挙げられる。これらの有機溶媒は、単独でも複数混合しても良く、1−オクタノールのようなアルコール類を混合しても良い。
【0040】
抽出剤の濃度は、ジルコニウムやスカンジウムの濃度によって適宜設定できる。また、撹拌時間及び抽出温度は、平衡到達時間がジルコニウムやスカンジウムの濃度のほか、加える抽出剤の量によって変化するため、ジルコニウムイオンとスカンジウムイオンの酸性水溶液、及び抽出剤の有機溶液の条件によって適宜設定すればよい。
【0041】
本抽出剤は、pHが0.2程度の他の金属成分が抽出できないような強酸性領域であってもジルコニウムを抽出できる。このため、ジルコニウムイオン等複数種類のイオンを抽出した後の有機溶媒を分取し、これに上記酸性水溶液よりpHを低く調整した逆抽出始液(例えば、pHが0.2程度の酸溶液)を加えて撹拌することにより、ジルコニウムイオンを有機溶媒中に残して、ジルコニウム以外のスカンジウム、チタン、イットリウム、ランタン等を酸溶液中に逆抽出し、さらに、有機溶媒からジルコニウムイオンを逆抽出することで、ジルコニウムイオンを水溶液中に回収することができる。逆抽出溶液としては、例えば、硝酸、塩酸、硫酸を希釈した水溶液が好適に用いられる。また、有機相と水相の比率を適宜変更することによって、ジルコニウムイオンを濃縮することもできる。
【0042】
また、pHが0.8〜1.5程度、好ましくは1.0程度のジルコニウムとスカンジウムが抽出されイットリウムやランタンが抽出されないpH領域に調整した酸を接触させてイットリウムやランタン等を分離し、ジルコニウムとスカンジウムの割合を増してからスカンジウムを濃縮してジルコニウムから分離することもできる。
【0043】
なお、抽出剤からジルコニウムを分離して回収するには、例えばジルコニウムを抽出能力一杯まで抽出した本抽出剤を焼却等の方法により分解することで行える。
【0044】
本発明の抽出剤が従来の抽出剤と異なる抽出挙動をとるメカニズムは正確にはわからないが、本発明の抽出剤の構造上の特徴によって従来なかった効果を得られたと考えられる。
【実施例】
【0045】
以下、実施例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの記載に何ら制限を受けるものではない。
【0046】
<実施例>
抽出剤となるアミド誘導体の一例として、下記一般式(I)で表されるグリシンアミド誘導体、すなわち、2つの2−エチルヘキシル基を導入したN−[N,N−ビス(2−エチルヘキシル)アミノカルボニルメチル]グリシン(N−[N,N−Bis(2−ethylhexyl)aminocarbonylmethyl]glycine)(あるいはN,N−ジ(2−エチルヘキシル)アセトアミド−2−グリシン(N,N−di(2−ethylhexyl)acetamide−2−glycine)ともいい、以下「D2EHAG」という。)を合成した。
【0047】
D2EHAGの合成は、次のようにして行った。まず、下記反応式(II)に示すように、市販のジ(2−エチルヘキシル)アミン23.1g(0.1mol)と、トリエチルアミン10.1g(0.1mol)とを分取し、これにクロロホルムを加えて溶解し、次いで2−クロロアセチルクロリド13.5g(0.12mol)を滴下した後、1mol/lの塩酸で1回洗浄し、その後、イオン交換水で洗浄し、クロロホルム相を分取した。
【0048】
次に、無水硫酸ナトリウムを適量(約10〜20g)加え、脱水した後、ろ過し、黄色液体29.1gを得た。この黄色液体(反応生成物)の構造を、核磁気共鳴分析装置(NMR)を用いて同定したところ、上記黄色液体は、2−クロロ−N,N−ジ(2−エチルヘキシル)アセトアミド(以下「CDEHAA」という。)の構造であることが確認された。なお、CDEHAAの収率は、原料であるジ(2−エチルヘキシル)アミンに対して90%であった。
【化7】
【0049】
次に、下記反応式(III)に示すように、水酸化ナトリウム8.0g(0.2mol)にメタノールを加えて溶解し、さらにグリシン15.01g(0.2mol)を加えた溶液を撹拌しながら、上記CDEHAA12.72g(0.04mol)をゆっくりと滴下し、撹拌した。撹拌を終えた後、反応液中の溶媒を留去し、残留物にクロロホルムを加えて溶解した。この溶液に1mol/lの硫酸を添加して酸性にした後、イオン交換水で洗浄し、クロロホルム相を分取した。
【0050】
このクロロホルム相に無水硫酸マグネシウム適量を加え脱水し、ろ過した。再び溶媒を減圧除去し、12.5gの黄色糊状体を得た。上記のCDEHAA量を基準とした収率は87%であった。黄色糊状体の構造をNMR及び元素分析により同定したところ、図1及び図2に示すように、D2EHAGの構造を持つことが確認された。上記の工程を経て、実施例1のジルコニウム抽出剤を得た。
【化8】
【0051】
<ジルコニウムの抽出>
実施例(D2EHAG)に係る抽出剤を用いて、ジルコニウムの抽出を行った。
【0052】
ジルコニウムとスカンジウム、チタン、イットリウム、ランタンをそれぞれ1×10−4mol/l含み、pHを0.2〜4.1に調整した数種類の塩酸酸性溶液を元液とし、それと同体積の0.01mol/lのジルコニウム抽出剤を含むノルマルドデカン溶液を試験管に加えて25℃恒温庫内に入れ、24時間振とうした。このとき、塩酸溶液のpHは、濃度0.1mol/lの塩酸や濃度1mol/lの水酸化ナトリウム溶液を用いて調整した。
【0053】
振とう後、水相を分取し、誘導プラズマ発光分光分析装置(ICP−AES)を用いてジルコニウム濃度及スカンジウム濃度及びチタン濃度、イットリウム濃度、ランタン濃度を測定した。また、有機相について、1mol/lの塩酸を用いて逆抽出した。そして、逆抽出相中のジルコニウム濃度及スカンジウム濃度及びチタン濃度、イットリウム濃度、ランタン濃度を、ICP−AESを用いて測定した。これらの測定結果から、ジルコニウム、スカンジウム、チタン、ランタン、イットリウムの抽出率を、それぞれ(1−抽出後の濃度/抽出前の濃度)×100で定義し、求めた。結果を図3及び表1に示す。図3の横軸は、塩酸酸性溶液の抽出後のpHであり、縦軸は、ジルコニウム、スカンジウム、チタン、イットリウム、ランタンの抽出率(単位:%)である。
【0054】
【表1】
【0055】
実施例のジルコニウム抽出剤を用いると、pHが0.2程度の強酸性領域であっても、ジルコニウムの抽出率はほぼ100%に近い。一方、スカンジウムはpH0.2付近では10%程度しか抽出されないが、pHが1.0では80%以上抽出される。さらに、チタンやイットリウムやランタンはpH1.0程度では10〜20%程度しか抽出されず、pHが1.5以上の領域にならないと抽出されないことが分かる。
【0056】
このように、本発明の抽出剤を用いることで、ジルコニウムを、pH調整によりスカンジウムやチタンやイットリウムやランタンと分離して回収できることが確認された。
【要約】      (修正有)
【課題】固体酸化物型燃料電池(SOFC)電極材等、ジルコニウム(Zr)及びスカンジウム(Sc)を含有する材料を酸浸出して得た酸性溶液からZrを早期かつ高効率に抽出できる抽出剤、及びこの抽出剤を用いたZr抽出方法の提供。
【解決手段】Zr抽出剤は、式(I)で表されるアミド誘導体。Zrを含有する酸性溶液、又はZrとScとを含有する酸性溶液を、上記Zr抽出剤による溶媒抽出に付し、酸性溶液からZrを抽出することで、ジルコニウムを早期かつ高効率に抽出する方法。
(R及びRは、各々独立に直鎖/分鎖アルキル基を示す。RはH又はアルキル基。Rは水素原子、又はアミノ酸としてα炭素に結合される、アミノ基以外の任意の基)
【選択図】図3
図1
図2
図3