特許第5940758号(P5940758)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5940758
(24)【登録日】2016年5月27日
(45)【発行日】2016年6月29日
(54)【発明の名称】細胞培養方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/071 20100101AFI20160616BHJP
   C12M 3/00 20060101ALI20160616BHJP
【FI】
   C12N5/071
   C12M3/00 A
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2009-552517(P2009-552517)
(86)(22)【出願日】2009年2月5日
(86)【国際出願番号】JP2009051991
(87)【国際公開番号】WO2009099153
(87)【国際公開日】20090813
【審査請求日】2012年2月1日
【審判番号】不服2014-11479(P2014-11479/J1)
【審判請求日】2014年6月17日
(31)【優先権主張番号】特願2008-26385(P2008-26385)
(32)【優先日】2008年2月6日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人名古屋大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】曽我部 正博
(72)【発明者】
【氏名】古家 喜四夫
(72)【発明者】
【氏名】田崎 剛
(72)【発明者】
【氏名】鶴田 仁志
(72)【発明者】
【氏名】福田 始弘
【合議体】
【審判長】 中島 庸子
【審判官】 飯室 里美
【審判官】 田村 明照
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−191809号公報(JP,A)
【文献】 第132回 日本獣医学会学術集会 講演要旨集、2001年9月7日、132nd,p.110,PS−3034
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC C12N 1/00-7/08
C12M 3/00-3/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
BIOSIS/MEDLINE/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
区画された微小空間内において、乳腺上皮細胞を重層化した状態で培養し、生体類似機能を有する組織構造体を得る細胞培養方法であって、
前記区画された微小空間を、表面に複数のマイクロ容器を有する細胞培養容器における当該マイクロ容器とし、
前記マイクロ容器の底面積が9×10−4mm〜9×10−2mm、側壁の高さが15μm〜300μmであり、
隣接する前記マイクロ容器同士を仕切る全ての側壁の中央部に、幅3μm〜20μmの開口部を設け、当該マイクロ容器同士を連通させることにより、
培養された前記乳腺上皮細胞が分化し、中空の腺胞様構造を形成する、
細胞培養方法。
【請求項2】
前記乳腺上皮細胞が初代細胞であることを特徴とする請求項1に記載の細胞培養方法。
【請求項3】
前記マイクロ容器の底面積が9×10−4mm〜1×10−2mm、側壁の高さが15μm〜50μmであり、側壁の幅が3μm〜15μmであることを特徴とする請求項1又は2に記載の細胞培養方法。
【請求項4】
前記細胞培養容器におけるマイクロ容器が形成された領域が透明性を有することを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載の細胞培養方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞培養方法に関する。
【背景技術】
【0002】
組織から単離した細胞を試験、検査に用いる手法は、バイオテクノロジー関連分野では欠かせない方法となっている。疾病、病態の診断、新薬の探索及び薬効の判定、あるいは動物検査、植物検査、環境汚染物質の試験などに幅広く用いられている。そのため、バイオテクノロジー分野で使用される細胞類は、極めて多様化してきている。
【0003】
単離した細胞は、直ちに浮遊状態にて試験に用いられる場合もあるが、多くの場合、培養皿に接着させた状態で培養し、種々の試験、検査に用いられる。細胞培養に用いられる初代細胞、株化細胞には、生体内での試験いわゆるin vivo試験と同様の薬剤感受性、毒性反応などを示すことが要求される。すなわち、細胞培養容器上で生体内類似の細胞機能が必要とされる。また、初代細胞を得るための単離操作が煩雑であること、細胞培養試験に用いられる細胞培養株は高額であることから、少ない細胞数での試験方法が望まれている。
【0004】
上記細胞培養試験は、同一条件下、評価する薬物等の量、濃度などを変量し、その効果を測定するものである。そのため、細胞培養容器の材質、形状等も同一にする必要がある。この細胞培養容器としては、プラスチック製シャーレ、ガラス製シャーレ、容器内に固定されたガラスプレート、ウェルプレート等が一般的に用いられる。ウェルプレートには、6ウェル、12ウェル、48ウェル、96ウェルの各プレート又はシャーレがある。これらは、一般に、プレート全体の大きさはほぼ同じであり、ウェル数が大きくなるほど、1ウェルのサイズが小さくなる。この1ウェルが1培養皿に相当する。また、最近の微量化への流れから、さらに小口径で多数の培養皿からなる384ウェルプレートも使用され始めている。これらの培養皿の底部は平坦な平板状であり、この底面を培養面として用いている。
【0005】
しかしながら、組織細胞の培養に従来の培養容器を用いると、本来の機能を消失させ脱分化してしまう場合があり、目的の細胞機能を発現しないことが問題となっている。
【0006】
上記問題を解決するため、ヒトあるいは動物由来の生体物質(糖タンパク質、タンパク質等)を培養容器表面へコーティングする試み(特許文献1参照)や、高分子ゲル中で培養する試み(特許文献2参照)がなされている。
【特許文献1】特開平8−317786号公報
【特許文献2】国際公開第03/006635号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示された方法では、コーティングする生体物質が特殊であるため高コストとなること、脱分化を抑制して均一な細胞集合体を形成することが困難であることなどの問題がある。特許文献2に開示された方法でも、細胞集合体の大きさが制御できないこと、顕微鏡観察が容易にできないことなどの問題がある。例えば、マウス乳腺上皮細胞の場合、コラーゲンをコートした培養皿で培養しても細胞は敷石状に培養され脱分化した状態となる問題がある。また、コラーゲンゲル内で培養した場合、生体内類似の腺胞構造は形成されない上、顕微鏡観察が困難であることが問題となっている。
【0008】
本発明は、脱分化を抑制して生体内機能を長期間維持できる細胞培養方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る細胞培養方法は、区画された微小空間内において、細胞を重層化した状態で培養し、生体類似機能を有する組織構造体を得るものである。ここで、重層化とは2層以上に細胞の積層化が起ることをいう。前記細胞は、初代細胞であることが好ましい。また、前記細胞が乳腺上皮細胞であれば、中空の腺胞様構造を形成することができ、特に好ましい。
【0010】
また、前記区画された微小空間が、表面に複数のマイクロ容器を有する細胞培養容器における当該マイクロ容器であることが特に好ましい。ここで、前記マイクロ容器の底面積が9×10−4mm〜9×10−2mm、側壁の高さが15μm〜300μm、側壁の幅が3μm〜15μmであることが好ましい。また、隣接する前記マイクロ容器同士が開口部により連通し、当該開口部の幅が3μm〜20μmであることが好ましい。さらに、顕微鏡観察を容易にするため、前記細胞培養容器におけるマイクロ容器が形成された領域が透明性を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、脱分化を抑制して生体内機能を長期間維持できる細胞培養方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1A】実施例1に係る細胞培養容器の構成を示す平面図である。
図1B】実施例1に係る細胞培養容器の構成を示すSEM斜視像である。
図2】実施例1に係る細胞培養容器の構成を示す断面図である。
図3】細胞培養容器の構成を示す平面図である。
図4】細胞培養容器の構成を示す断面図である。
図5】実施例1に係る細胞培養方法で培養した細胞の光学顕微鏡像である。
図6】比較例1に係る細胞の光学顕微鏡像である。
図7】実施例1に係る細胞培養方法で培養した細胞の共焦点レーザー顕微鏡像である。
【符号の説明】
【0013】
10 細胞培養容器
11 マイクロ容器
12 側壁
13 開口部
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明は、マイクロ容器内で細胞を重層化させることで、分化状態を維持し、生体内類似機能を発現させる。乳腺上皮細胞は、市販ディッシュ上では脱分化してしまう。発明者らは、乳腺上皮細胞が、マイクロ容器内では分化状態を維持し、生体内と類似の腺胞構造を形成、乳脂肪滴を産生することを見出した。
【0015】
本発明に係る培養方法で用いる培養容器の表面には、凹凸パターンすなわち複数のマイクロ容器すなわち培養空間が形成されている。このマイクロ容器を仕切る側壁(凸部)の幅及び高さを最適化することで、マイクロ容器内のみで細胞を培養し、均一な分化状態を維持させることができる。なお、マイクロ容器に代えてゲルからなる区画された培養空間を形成することも考えられる。
【0016】
側壁により囲まれたマイクロ容器の寸法は、細胞を培養するために最適な範囲とする必要がある。マイクロ容器の底面面積が大きすぎると、平板上での培養と同様、部分的に細胞は薄く伸び、均一な重層化状態を形成しない。一方、マイクロ容器の底面面積が小さすぎると、細胞を収容できなくなる。従って、空間の寸法は、培養する細胞種に応じて、複数個〜数十個が収容できる範囲とすることが好ましい。
【0017】
また、マイクロ容器の側壁も細胞を培養するために最適な範囲とする必要がある。側壁の幅が広すぎると、側壁の上面へ細胞が接着してしまい、培養に適さない。側壁の幅が狭すぎると、作製が困難となる。側壁の高さは低すぎると、細胞が側壁を乗り越えてしまい、培養に適さない。側壁の高さが高すぎると、作製が困難な上、物質拡散がしにくくなり培養環境が悪化してしまう。
【0018】
また、側壁に開口部を設け、隣接する複数のマイクロ容器を連通した構造にすることにより、細胞への酸素の供給や栄養分の供給、細胞が産生した生理活性物質の供給を効率良く行うことができ、さらには開口部により、重層化した細胞集合体同士が接点を有することで、分化状態を維持することができる。なお、培養する細胞種に応じ、マイクロ容器の底面積、側壁の高さ、開口部の幅を便宜設定することにより、多様な培養系に適用することもできる。
【0019】
以下に、本発明の実施の形態について説明する。ただし、本発明が以下の実施の形態に限定される訳ではない。また、説明を明確にするため、以下の記載及び図面は、適宜、簡略化されている。
【0020】
実施の形態
実施の形態に係る細胞培養方法に用いる細胞培養容器の構成について図1A図1B、及び図2を用いて説明する。図1Aは、本実施の形態に係る細胞培養容器の構成を示す平面図であり、図1Bは同SEM斜視像である。また、図2図1AのII−II断面図である。図1A図1B、及び2に示すように、細胞培養容器10はマイクロ容器11、側壁12、開口部13を備える。細胞培養容器10の培養面には、複数の側壁12が網目状に形成されており、この側壁12に四方を囲われた空間がマイクロ容器11となる。また、各マイクロ容器11の四辺に形成された側壁12の各辺の中央部に、開口部13が形成されている。
【0021】
図1A図1B、及び2において、マイクロ容器11の底部の幅a、マイクロ容器11を区画化するための側壁12の幅b、高さc、隣接するマイクロ容器11が互いに連通するための開口部13の幅dを示した。
【0022】
マイクロ容器11の底面形状は特に制限されるものではなく、正方形、円、多角形以外にも種々の形状を採用することができる。この底面面積は、9×10−4mm〜9×10−2mmが好ましい。また、等方的形状が好ましく、底面が矩形状の場合、長辺が短辺の1〜1.5倍であることが好ましい。
【0023】
側壁12の幅bは、マイクロ容器11のみで細胞を重層化させて培養するため、側壁12の上面に細胞が付着しない程度の幅であればよい。例えば、マウス乳腺上皮細胞を培養する場合、3μm〜15μmが好ましい。
【0024】
側壁12の高さcは、マイクロ容器11で細胞を重層化させて培養するため、例えばマウス乳腺上皮細胞を培養する場合は15μm〜300μmが好ましい。
【0025】
隣接するマイクロ容器11を互いに連通するための開口部13の幅dは、培養細胞が最初に播種されたマイクロ容器11と隣接するマイクロ容器11に移動できない程度で1細胞程度が隣接するマイクロ容器11の細胞と接触することができる程度、あるいは1細胞程度が隣接するマイクロ容器11に移動できる程度であればよい。例えば、培養細胞の直径が20μmであれば、3μm〜20μmであることが好ましい。
【0026】
なお、図3及び図4に示すように、マイクロ容器11の四辺が側壁12より完全に囲まれていても良い。ここで、図3は、本実施の形態に係る他のマイクロ容器の構成を示す平面図であり、図4図3のIV−IV断面図である。
【0027】
本発明の細胞培養方法に用いる細胞培養容器上の凹凸パターンを作製する方法としては、特に限定されないが、例えば、モールドを用いた転写成形、3次元光造形、精密機械切削、ウェットエッチング、ドライエッチング、レーザー加工、放電加工等の方法が挙げられる。細胞培養容器の用途、要求される加工精度、コスト等を考慮してこれらの製造方法を適宜選択することが好ましい。
【0028】
モールドを用いて転写成形方法の具体例としては、金属構造体を型として樹脂成形で凹凸パターンを形成する方法が挙げられる。この方法は金属構造体の形状を高い転写率で樹脂へ凹凸パターンに再現することが可能であり、また汎用の樹脂材料を使用することにより材料コストを低くできるので好ましい。このような金属構造体の型を用いる方法は、低コストであり、高い寸法精度を満足できる点で優れている。
【0029】
上記金属構造体の製造方法としては、例えば、フォトリソグラフィによって作製されたレジストパターンや3次元光造形によって作製された樹脂パターンへのメッキ処理、精密機械切削、ウェットエッチング、ドライエッチング、レーザー加工、放電加工等が挙げられる。用途、要求される加工精度、コスト等を考慮して適宜選択すればよい。
【0030】
上記で得られた金属構造体を型として用いて樹脂へ凹凸パターンを成形する方法としては、例えば、射出成形、プレス成形、モノマーキャスト成形、溶剤キャスト成形、ホットエンボス成形、押出成形によるロール転写等の方法を挙げることができる。生産性及び型転写性の観点から射出成形を採用することが好ましい。
【0031】
本発明の細胞培養方法に用いる細胞培養容器を構成する材料としては、自己支持性を有するものであれば特に制限されず、例えば、合成樹脂、シリコン、ガラス等が挙げられる。コスト面や顕微鏡観察による細胞視認性の観点から、透明な合成樹脂を材料とすることが好ましい。透明な合成樹脂としては、例えば、ポリメタクリル酸メチル、メタクリル酸メチル−スチレン共重合体等のアクリル系樹脂、ポリスチレン等のスチレン系樹脂、シクロオレフィン等のオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリ乳酸等のエステル系樹脂、ポリジメチルシロキサン等のシリコーン系樹脂、ポリカーボネート樹脂等が挙げられる。このような樹脂には、透明性を損なわない範囲で着色剤、拡散剤、増粘剤等の各種添加剤を含んでいてもよい。
【0032】
本発明の細胞培養方法に用いる細胞培養容器は、容器表面の親水性、生体適合性、細胞親和性等を向上させることを目的として、凹凸パターン表面側に表面処理を行い、改質層及び/又はコーティング層が配されていてもよい。
【0033】
上記改質層を設ける方法としては、自己支持性を失う方法や100μm以上の極端な表面荒れを起こす方法でなければ特に制限はないが、例えば、薬品処理、溶剤処理、表面グラフト重合によるグラフトポリマーの導入等の化学的処理、コロナ放電、オゾン処理、プラズマ処理等の物理的処理等の方法が挙げられる。
【0034】
また、コーティング層を設ける方法としては、特に制限されるものではないが、例えば、スパッタ、蒸着等のドライコーティング、無機材料コーティング、ポリマーコーティング等のウェットコーティング等の方法が挙げられる。
【0035】
凹凸パターン上には、気泡の混入することなく培養液を注入するために親水性を付与することが望ましく、均一な親水性膜を形成させる方法として、無機蒸着が好ましい。
【0036】
また、細胞親和性を考慮した場合には、例えば、コラーゲン、フィブロネクチン等の細胞親和性タンパク質をコーティングすることがより好ましい。コラーゲン水溶液等を均一にコートするために、上述の親水性膜を形成させた後、コートすることが好ましい。通常、細胞培養においては、生体内環境を模倣して細胞外マトリックス表面での培養が望ましいため、上記のように均一な親水性無機膜を配した後に、培養細胞に適した細胞外マトリックスからなる有機膜を配することが特に好ましい。
【0037】
本発明の細胞培養方法で培養する細胞は、特に制限がなく、平板では脱分化してしまう細胞が好ましい。また、動物種はラット、マウス、ニワトリ、イヌ、サル、ヒトなど目的に応じて選択すれば良い。例えば、軟骨細胞、骨芽細胞、象牙芽細胞、エナメル芽細胞、乳腺上皮細胞、繊毛上皮細胞、腸上皮細胞、脂肪細胞、肝細胞、メサンギウム細胞、糸球体上皮細胞、類洞内皮細胞、筋芽細胞などが挙げられる。
【0038】
本発明の細胞培養方法は、細胞を培養するマイクロ容器のみに細胞を配置させ、その空間内で重層化させるため、適切な細胞数を播種する必要があり、細胞播種密度1.0×10〜1.0×10細胞/cmが好ましい。例えば、マイクロ容器が正方形で、1辺が100μmの場合、5.0×10〜5.0×10細胞/cmが好ましい。このような条件のもと、重層化した状態で培養し分化細胞を得ることができる。
【実施例】
【0039】
次に本発明に係る細胞培養容器の実施例について説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0040】
<乳腺上皮細胞の調製>
妊娠後期又は授乳期のマウスをエーテルで麻酔後頸椎脱臼し乳腺組織を取り出した。取り出した組織を替え刃メスで用いて細切し、Dispase(II、合同酒精、2000PU/ml)処理37℃90分、Collagenase(typeIII、Wothington、0.5mg/ml)処理37℃、8分の後、ナイロンフィルターで濾過、培養液に分散させ、乳腺上皮細胞を得た。
【0041】
<培養方法>
培養液はDME/F12(Sigma)に1−2%Serum Replacement 2(Sigma)を加えたものを用い、EGF(上皮性増殖因子)50ng/ml、インスリン5μg/mlを添加した。細胞は5%CO、37℃で3日から3週間培養し、その間2−3日おきに培養液を新しいものと半分交換した。
【0042】
[実施例1]
図1A図1B、及び図2に示す凹凸パターン形状であって、a=100μm、b=10μm、c=50μm、d=10μmのパターンをフォトリソグラフィにより作製し、Ni電解メッキを行い、対応する凹凸形状を有する金型を得た。その金型を用い、ホットエンボス成形によりポリメタクリル酸メチル上にパターン転写を行い、前記寸法の樹脂基材を作製した。その樹脂基材表面へ真空蒸着により二酸化ケイ素膜を100nm形成させ、γ線滅菌を行い、凹凸パターン基材を得た。その凹凸基材上でI型コラーゲンをコート後、マウス乳腺上皮細胞を培養した。
【0043】
[比較例1]
実施例1及び2で用いたポリメタクリル酸メチルの平板状の樹脂基材を作製した。その樹脂基材表面へ真空蒸着により二酸化ケイ素膜を100nm形成させ、γ線滅菌を行い、凹凸パターン基材を得た。その凹凸基材上でI型コラーゲンをコート後、マウス乳腺上皮細胞を培養した。
【0044】
図5に示すように、実施例1での培養8日目の乳腺上皮細胞は、重層化した状態で培養され、分化状態の形態を維持しており、乳脂肪滴を生成している。図7には、共焦点レーザー顕微鏡の焦点を上部から下部へ動かした際の面像を示す。図7より明らかなように、中空の腺胞構造を形成していた。
【0045】
一方、図6に示すように、比較例1での培養8日目の乳腺上皮細胞は、単層で脱分化した形態を維持していた。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は、組織から単離した細胞を培養する細胞培養方法に適用することができる。
図1A
図1B
図2
図3
図4
図5
図6
図7