(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、表面が皮革様に加飾された射出インサート成形体、それを製造するためのプレフォーム成形体及びプレフォーム成形用シートの好ましい実施形態を説明する。
【0021】
図1は射出インサート成形の際に金型内に配置されるプレフォーム成形体を成形するための
、プレフォーム成形用シート10の模式断面図である。
図1中、1は基材層であり、2はポリウレタン層である銀面層である。
【0022】
プレフォーム成形用シート10は、ポリエステル極細繊維の繊維束を絡合させた不織布1aにポリウレタン1bを含浸付与させてなる、厚み0.5mm以下の基材層1と、基材層1の表面に形成され、全厚みの10〜40%の割合を占めるポリウレタン層である銀面層2とを備える。基材層1は空隙1cを含む。
【0023】
基材層1に含まれる不織布1aは、平均繊維径0.1〜6μm程度のポリエステル極細繊維の繊維束を3次元的に絡合させて得られる不織布である。不織布1aが極細繊維の絡合体であるために
、プレフォーム成形用シートをプレフォーム成形する際に、加熱による軟化時の延伸性が優れ、高い賦形性を維持することができる。
【0024】
極細繊維を形成するポリエステルの具体例としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、変性ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリトリエチレンテレフタレート、ポリヘキサメチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、等の芳香族ポリエステル系樹脂;ポリ乳酸、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリヒドロキシブチレート−ポリヒドロキシバリレート共重合体等の脂肪族ポリエステル系樹脂等が挙げられる。
これらの中では、ガラス転移温度(T
g)が120℃以下のポリエチレンテレフタレートがプレフォーム成形性に優れる点から好ましい。
【0025】
ガラス転移温度(T
g)が120℃以下のポリエチレンテレフタレートとしては、芳香族ポリエチレンテレフタレートの構成単位に直鎖の構造を乱す共重合成分を構成単位として含有する変性ポリエチレンテレフタレート、特に、イソフタル酸、フタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸等の非対称型芳香族カルボン酸や、アジピン酸等の脂肪族ジカルボン酸を共重合成分として所定割合で含有する変性ポリエチレンテレフタレートが好ましい。さらに具体的には、モノマー成分としてイソフタル酸単位を2〜12モル%含有する変性ポリエチレンテレフタレートが好ましい。
【0026】
不織布1aの見かけ密度は0.45g/cm
3以上、さらには0.45〜0.70g/cm
3であることが好ましい。不織布1aの見かけ密度が低すぎる場合には、繊維の密な部分と疎な部分とが存在するため
にプレフォーム成形用シートが反りすくなる傾向がある。
【0027】
不織布1aは、極細繊維が複数本集束して繊維束を形成しているために高い見かけ密度に調整することができる。このような繊維束は、具体的には、例えば、5〜1000本、さらには5〜200本、特に好ましくは10〜50本、最も好ましくは10〜30本の極細繊維が繊維束を形成していることが好ましい。
【0028】
また、極細繊維は長繊維であることが、見かけ密度を高められる点から好ましい。ここで、長繊維とは、所定の長さに意図的に切断処理された短繊維ではないことを意味する。
長繊維の長さとしては、100mm以上、さらには、200mm以上であることが、極細繊維の繊維密度を充分に高めることができる点から好ましい。極細繊維の長さが短すぎる場合には、繊維の高密度化が困難になる傾向がある。
【0029】
次に、不織布1aを結着して形態安定性を高めるために含浸付与される、第一のポリウレタン1bについて説明する。
【0030】
ポリウレタン1bとしては、例えば、ポリウレタン水性エマルジョンに由来するポリウレタンが好ましく用いられる。その具体例としては、例えば、水性エマルジョンに由来するポリカーボネート系ポリウレタン、ポリエステル系ポリウレタン、ポリエーテル系ポリウレタン、ポリカーボネート/エーテル系ポリウレタンが挙げられる。このようなポリウレタン水性エマルジョンに由来するポリウレタンは、プレフォーム成形体の成形時において、金型から離型した後の寸法安定性に優れている。
【0031】
基材層1中のポリウレタン1bの含有割合は、5〜25質量%、さらには、10〜22質量%、とくには15〜22%の範囲で含有させることが好ましい。ポリウレタン1bの含有割合が低すぎる場合には
、プレフォーム成形用シート10の形状安定性が低下する傾向がある。また、高すぎる場合には得られるプレフォーム成形体の寸法安定性が低下する傾向がある。
【0032】
基材層1の厚みは0.5mm以下であり、好ましくは、0.25〜0.5mm、さらには0.3〜0.4mmであることが好ましい。基材層1の厚みが0.5mmを超える場合には、加飾インサート成形体の薄肉化を実現することが困難になる。
【0033】
基材層1はその表面に、銀面様の外観を付与するためのポリウレタン層である銀面層2を有する。銀面層2は
、プレフォーム成形用シート10の全厚みの10〜40%の割合を占める。
【0034】
銀面層2を形成するポリウレタンは特に限定されないが、非水系ポリウレタンに由来するポリウレタンを含有することが好ましく、その具体例としては、例えば、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂、ポリエステル系ポリウレタン樹脂、ポリエーテル系ポリウレタン樹脂等の各種ポリウレタン系樹脂の非水系溶液に由来するポリウレタンが挙げられる。
【0035】
銀面層2は
、プレフォーム成形用シート10の全厚みの10〜40%、好ましくは、15〜35%、さらに好ましくは20〜30%を占める
。プレフォーム成形用シート10は、基材層1の厚みが0.5mm以下のように薄肉であり、銀面層2の厚みが占める割合が高い。従来、このように基材層が薄く、銀面層の割合が高い場合には、反りが大きくなったが
、プレフォーム成形用シート10においては、TD方向に対するMD方向の20%引張応力の比(MD/TD)を1.9〜2.5に調整することによりこのような反りが抑制された。
【0036】
銀面層2の厚みは、0.03〜0.3mm、さらには0.05〜0.2mmであることが好ましい。また、基材層1と銀面層2との合計厚みは、0.3〜0.8mm、さらには0.4〜0.6mmであることが好ましい。
【0037】
プレフォーム成形用シート10は、不織布1aが最も延伸されている方向をMD方向、MD方向に面方向に垂直な方向をTD方向とした場合、TD方向に対するMD方向の20%引張応力の比(MD/TD)が1.9〜2.5である。基材層1に含まれる不織布1aは、通常、上述のように、生産時の製品の搬送方向に由来する機械的特性の異方性を有する。従って20%引張応力も、製造時に高い延伸性が付与される搬送方向(MD方向)の方が、MD方向に垂直なTD方向よりも高い。
【0038】
プレフォーム成形用シート10は、TD方向に対するMD方向の20%引張応力の比(MD/TD)が1.9〜2.5であり、好ましくは、1.9〜2.1である。MD方向とTD方向との機械的特性の比は、通常、異方性を無くすためには1により近づけることが好ましいと思われるが、本発明者らは、20%引張応力の比(MD/TD)が1.9〜2.5の範囲である場合には
、プレフォーム成形用シート10の反りが抑制されることを見出した。20%引張応力の比(MD/TD)が2.5より大きい場合には下に凸に大きく反り、1.9より小さい場合には上に凸に大きく反る。
【0039】
20%引張応力は、JIS L1096の6.12「引張り強度試験」に準じて、25mm幅、長さ200mmの長方形の試験片を、掴み間隔50mmとなるよう引張試験機に取り付け、応力−歪み曲線から20%伸長時の応力を読み取ることにより求められる。
【0040】
MD方向の20%伸長時の応力は、その厚みにもよるが、例えば、0.5mm程度の時には、8.5〜9.0kg/25mm程度であることが好ましい。MD方向の20%伸長時の応力が高すぎる場合には、下に凸に反りやすくなり、MD方向の20%伸長時の応力が低すぎる場合には、上に凸に反りやすくなる傾向がある。
【0041】
また、TD方向の20%伸長時の応力は、その厚みにもよるが、例えば、0.5mm程度の時には、4.0〜4.5kg/25mm程度であることが好ましい。TD方向の20%伸長時の応力が高すぎる場合には、下に凸に反りやすくなり、TD方向の20%伸長時の応力が低すぎる場合には、上に凸に反りやすくなる傾向がある。
【0042】
プレフォーム成形用シート10には、必要に応じて、銀面層2が形成されていない側の面に、形態安定性を保持すること等を目的として樹脂フィルムを別途積層してもよい。このような樹脂フィルムの厚みとして、0.05〜0.35mm、さらには0.1〜0.3mm程度であることが好ましい。
【0043】
プレフォーム成形用シート10に樹脂フィルムを積層する方法の具体例としては、樹脂フィルムに接着剤を介して予め用意された基材層1を貼り合わしたり、熱圧着したりするドライラミネートによる方法が好ましく用いられる。接着剤としては、熱により延伸可能なホットメルト型接着剤が好ましく用いられる。接着層の厚みとしては、20〜100μm程度であることが好ましい。
【0044】
次に
、プレフォーム成形用シート10を熱プレス成形することによりプレフォーム成形体を製造する方法について説明する。なお、本実施形態においては、プレス成形について詳しく説明するが、プレス成形の代わりに、従来から知られた、真空成形、圧空成形、真空圧空成形等その他のプレフォーム成形法を用いてもよい。
【0045】
図2は頂面が略正方形で断面が台形の深絞り形状のプレフォーム成形体を成形するための金型5の斜視模式図である。
図2中、5aは雄型である上金型、5bは雌型である下金型である。
【0046】
図3を参照して
、プレフォーム成形用シート10を金型5を用いてプレフォーム成形する工程について説明する。プレフォーム成形においては、はじめに、
図3(a)に示すように、赤外線やヒータによる加熱により軟化され
たプレフォーム成形用シート10を、銀面層2が下金型5bに対向するような方向で、上金型5aと下金型5bとの間に配置する。そして、
図3(b)に示すように上金型5aと下金型5bとを型締めすることにより、軟化され
たプレフォーム成形用シート10に賦形する。加熱により軟化するための温度は、例えば、極細繊維のガラス転移温度以上で融点温度以下の温度であることが好ましい。具体的には、例えば、120〜180℃程度で軟化させることが好ましい。
【0047】
そして、
図3(c)に示すように上金型5aと下金型5bとを型開きする。そして、
図3(d)に示すように得られたプレフォーム成形体20’を離型する。そして、
図3(e)に示すように、射出インサート成形の金型のキャビティの形状に沿うように、プレフォーム成形体20’の周囲の不要な部分をトリミングして除去する。このようにして、射出インサート成形の金型のキャビティの形状に沿うように成形されたプレフォーム成形体20が得られる。
【0048】
次に、プレフォーム成形体20を射出インサート成形の金型のキャビティにインサートし、プレフォーム成形体20の裏面に樹脂を射出することにより成形する射出インサート成形の各工程を
図4を参照して説明する。
【0049】
図4中の射出成形の金型15は、インサート部を有するキャビティ15cを備える可動側金型15aと、固定側金型15bとを備える。
【0050】
図4(a)に示すように、はじめに、プレフォーム成形体20をマテリアルハンドリングロボット14の動作により、キャビティ15cに配置する。そして、
図4(b)に示すように可動側金型15aと固定側金型15bとを型締めする。そして、
図4(c)に示すように射出成形機のノズル16を固定側金型15bのスプルーブッシュ15fに接触するまで前進させて、射出成形機のシリンダ内で溶融された溶融樹脂を金型15内に射出する。射出された溶融樹脂は、樹脂流路を流れてキャビティ内に流入する。そして、射出終了後、冷却工程を経て、
図5(d)に示すように、可動側金型15aと固定側金型15bとが型開きされ、プレフォーム成形体20と射出成形により成形された成形体本体21とが一体化されたインサート成形体30がマテリアルハンドリングロボット14により把持されて取り出される。
図5(a)〜
図5(d)に示した工程を1ショットの工程として、この一連の工程が自動化されて行われる。
【0051】
射出インサート成形で射出される、成形体本体21を形成するための樹脂としては、各種熱可塑性樹脂が特に限定なく用いられ、用途に応じて適宜選択される。例えば、携帯電話、モバイル機器、家電製品等の筐体に用いられる樹脂としては、ポリカーボネート系樹脂やABS系樹脂等の耐衝撃性に優れた樹脂が挙げられる。
【0052】
上述したように、プレフォーム成形体20は、反りが小さいために、
図4(a)の工程において、金型のキャビティ15cに正確に配置され、また、配置されたプレフォーム成形体20が落下したり、位置ズレしたりしにくくなる。また、マテリアルハンドリングロボット14による搬送動作が正確になり、自動化された射出成形サイクルの自動化の中断が少なくなる。
【0053】
次に、本実施形態
のプレフォーム成形用シート10の製造方法の一例について説明する
。プレフォーム成形用シート10は、はじめに、基材層1を製造し、基材層1の表面に銀面層2を形成することにより得られる。
【0054】
基材層1は、例えば、次のような一連の工程により、製造される。すなわち、(1)溶融紡糸によりポリエステルを島成分とする海島型繊維からなる長繊維ウェブを製造するウェブ製造工程と、(2)得られた長繊維ウェブを複数枚重ねて3次元的に絡合させることによりウェブ絡合シートを形成するウェブ絡合工程と、(3)ウェブ絡合シートを湿熱収縮させる湿熱収縮処理工程と、(4)ウェブ絡合シートにポリウレタンのエマルジョンを含浸させた後、ポリウレタンを凝固させるポリウレタン含浸工程と、(5)ウェブ絡合シート中の海島型繊維を極細単繊維化することにより極細繊維の不織布を形成する極細繊維形成工程と、を備えるような工程により得られる。本実施形態の製造方法においては、このような一連の工程の何れかの工程において、不織布の幅出し、すなわち、生産時の製品の搬送方向(MD方向)に対して面方向に垂直方向(TD方向)の幅の寸法を所定の倍率で拡幅するように延伸させる。以下に各工程について、詳しく説明する。
【0055】
(1)ウェブ製造工程
本工程においては、はじめに、溶融紡糸により、ポリエステルを島成分とする海島型繊維からなる長繊維ウェブを製造する。長繊維ウェブは、例えば、いわゆるスパンボンド法を用いて、ポリエステルを島成分とする海島型繊維を溶融紡糸法を用いて紡糸し、これを切断せずにネット上に捕集してウェブを形成する方法が好ましく用いられる。
【0056】
海島型繊維の海成分は、ウェブ絡合シートを形成させた後の適当な段階で抽出または分解されて除去される。この分解除去または抽出除去により極細繊維からなる繊維束を形成させることができる。
【0057】
海島型繊維の島成分を構成する熱可塑性樹脂としては、上述したような極細繊維を形成するための各種ポリエステルが用いられる。一方、海島型繊維の海成分を構成する熱可塑性樹脂としては、島成分を構成する樹脂とは溶剤に対する溶解性または分解剤に対する分解性を異にする熱可塑性樹脂が選ばれる。
【0058】
海成分を構成する熱可塑性樹脂の具体例としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、エチレンプロピレン共重合体、エチレン酢酸ビニル共重合体、スチレンエチレン共重合体、スチレンアクリル共重合体、ポリビニルアルコール系樹脂などが挙げられる。中でも、湿熱や熱水で収縮し易い点でポリビニルアルコール系樹脂、特にエチレン変性ポリビニルアルコール系樹脂が好ましい。
【0059】
海島型繊維の紡糸およびウェブ形成には、スパンボンド法が用いられる。具体的には、多数のノズル孔が、所定のパターンで配置された複合紡糸用口金を用いて、海島型繊維を個々のノズル孔からコンベヤベルト状の移動式のネット上に連続的に吐出させ、高速気流を用いて冷却しながら堆積させる。このような方法によりウェブが形成される。ネット上に形成されたウェブには融着処理が施されることが好ましい。融着処理により形態安定性が付与される。融着処理の具体例としては、例えば、熱プレス処理が挙げられる。熱プレス処理としては、例えば、カレンダーロールを使用し、所定の圧力と温度をかけて処理する方法を採用することができる。
【0060】
(2)ウェブ絡合工程
次に、得られた長繊維ウェブを5〜100枚程度重ねて絡合させることによりウェブ絡合シートを形成する。ウェブ絡合シートは、ニードルパンチや高圧水流処理等の公知の不織布製造方法を用いて長繊維ウェブに絡合処理を行うことにより形成される。
【0061】
具体的には、例えば、長繊維ウェブに針折れ防止油剤、帯電防止油剤、絡合向上油剤などのシリコーン系油剤または鉱物油系油剤を付与する。その後、ニードルパンチにより三次元的に繊維を絡合させる絡合処理を行う。ニードルパンチ処理を行うことにより、繊維密度が高く、繊維の抜けを起こしにくいウェブ絡合シートが得られる。ウェブ絡合シートの目付量は、目的とする厚みに応じて適宜選択されるが、具体的には、例えば、500〜2000g/m
2の範囲であることが取扱い性に優れる点から好ましい。
【0062】
(3)熱収縮処理工程
次に、ウェブ絡合シートを熱収縮させることにより、ウェブ絡合シートの繊維密度および絡合度合を高める。なお、本工程においては、長繊維を含有するウェブ絡合シートを熱収縮させることにより、短繊維を含有するウェブ絡合シートを熱収縮させる場合に比べて、ウェブ絡合シートを大きく収縮させることができる。熱収縮処理されたウェブ絡合シートは、加熱ロールや加熱プレスすることにより、さらに、繊維密度が高められてもよい。
【0063】
熱収縮処理工程におけるウェブ絡合シートの目付量の変化としては、収縮処理前の目付量に比べて、1.1倍(質量比)以上、さらには、1.3倍以上で、2.0倍以下、さらには1.6倍以下であることが好ましい。
【0064】
(4)ポリウレタン含浸工程
ウェブ絡合シートの形態安定性を高める目的で、ウェブ絡合シートの極細繊維化処理を行う前または後に、収縮処理されたウェブ絡合シートにポリウレタンのエマルジョンを含浸させた後、ポリウレタンを凝固させる。
【0065】
収縮処理されたウェブ絡合シートにポリウレタンのエマルジョンを含浸させる場合には、ウェブ絡合シートをポリウレタンのエマルジョンで満たされた浴中へ浸した後、プレスロール等で所定の含浸状態になるように絞るという処理を1回又は複数回行うディップニップ法が好ましく用いられる。また、その他の方法として、バーコーティング法、ナイフコーティング法、ロールコーティング法、コンマコーティング法、スプレーコーティング法等を用いてもよい。
【0066】
ポリウレタンとしては、平均分子量500〜3000の高分子ポリオールと有機ポリイソシアネ−トと、鎖伸長剤とを、所定のモル比で反応させることにより得られる各種のポリウレタンが挙げられる。
【0067】
高分子ポリオールの具体例としては、平均分子量500〜3000の、ポリエステルジオール、ポリエーテルジオール、ポリエーテルエステルジオール、ポリカーボネートジオール等のポリマーポリオールが挙げられる。また、有機ポリイソシアネ−トの具体例としては、例えば、4,4‘−ジフェニルメタンジイソシアネート等の芳香族系イソシアネート、イソホロンジイソシアネート等の脂環族系イソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネートなどの脂肪族系イソシアネート等が挙げられる。また、鎖伸長剤としては、エチレングリコール、エチレンジアミン等の2個以上の活性水素原子を有する低分子化合物が挙げられる。
【0068】
ポリウレタンのエマルジョンをウェブ絡合シートに含浸し、湿式法または乾式法により凝固させることにより、ポリウレタンをウェブ絡合シートに固定する。なお、凝固させたポリウレタンを架橋させるために、凝固及び乾燥後に加熱処理してキュア処理を行ってもよい。
【0069】
(5)極細繊維形成工程
ウェブ絡合シート中の海島型繊維は、海成分を水や溶剤等で抽出または分解除去することにより極細繊維に変換される。
【0070】
ポリビニルアルコール系樹脂等の水溶性樹脂を海成分に用いた海島型繊維の場合においては、水、アルカリ性水溶液、酸性水溶液等で熱水加熱処理することにより海成分が除去される。
【0071】
本工程においては、海島型繊維から海成分を溶解して極細繊維を形成する際に、極細繊維が大きく捲縮される。この捲縮により繊維密度が緻密になるために、高密度の繊維絡合体が得られる。
【0072】
そして、海島型繊維から海成分を溶解して極細繊維を形成させた後、そのシートを、例えば、搬送されるシートの両端に沿ったレールに万遍なく複数のテンタークリップを並べ、テンタークリップでシートの幅方向の両端を掴み、幅方向に拡幅しながら搬送及び加熱するような、テンター乾燥機で乾燥する。本実施形態においては、このように、シートを幅方向に所定の倍率で拡幅処理することにより、TD方向の延伸度を調整する。
【0073】
上述したようなテンター乾燥機を用いた乾燥工程において、シートの拡幅の倍率は、得られるプレフォーム成形用シートが、TD方向に対するMD方向の20%引張応力の比(MD/TD)が1.9〜2.5になるように適宜選択されるが、具体的には、例えば、厚み1.0mmのシートを拡幅する場合、テンター乾燥機に入るときの幅(入巾)に対し、テンター乾燥機から出るときの幅(出巾)が104〜108%になっていること、すなわち、1.04〜1.08倍広げるように拡幅することが好ましい。
【0074】
以上のような工程により、好ましくは300〜1800g/m
2の目付を有する基材層1の中間体シートを得る。
【0075】
このようにして得られた基材層1の中間体シートは、乾燥後、厚さ方向に垂直な方向に複数枚にスライスされたり研削されたりすることにより、厚さ調節や表面状態を調整されて厚み0.5mm以下の基材層1のシートに仕上げられる。
【0076】
そして、基材層1のシートの表面に銀面層2として、ポリウレタン層を形成する。
【0077】
銀面層2は、例えば、離形紙上で予め形成したポリウレタン膜を基材層1の表面に転写して、ポリウレタン系接着剤により接着させる方法が好ましく用いられる。この場合、ポリウレタン系接着剤は硬化収縮し、そのときに発生する内部応力を緩和するために
、プレフォーム成形用シート10が反ると思われる。なお、銀面層2は、接着性を高めることを目的としてアンカーコート層を設けたり、表面にトップコート層を設けたような積層構造であってもよい。
【0078】
また、銀面層2の表面には、必要に応じて公知のエンボス機を用いることにより、エンボス模様が形成されていてもよい。このような模様を付与することにより、表面をさらに皮革に似たような外観を実現することができる。
【実施例】
【0079】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。なお、本発明は実施例により何ら限定されるものではない。
【0080】
[実施例1]
海成分の熱可塑性樹脂としてエチレン変性ポリビニルアルコール(エチレン単位の含有量8.5モル%、重合度380、ケン化度98.7モル%)、島成分の熱可塑性樹脂としてTgが110℃である、イソフタル酸変性したポリエチレンテレフタレート(イソフタル酸単位の含有量6.0モル%)を、それぞれ個別に溶融させた。そして、海成分中に均一な断面積の島成分が25個分布した断面を形成しうるような、多数のノズル孔が並列状に配置された複数紡糸用口金に、それぞれの溶融樹脂を供給した。このとき、海成分と島成分との質量比が海成分/島成分=25/75となるように圧力調整しながら供給した。
そして、口金温度260℃に設定されたノズル孔より吐出させた。
【0081】
そして、ノズル孔から吐出された溶融繊維を平均紡糸速度が3700m/分となるように気流の圧力を調節したエアジェット・ノズル型の吸引装置で吸引することにより延伸し、平均繊維径が20〜25μmの海島型長繊維を紡糸した。紡糸された海島型長繊維は、可動型のネット上に、ネットの裏面から吸引しながら連続的に堆積された。堆積量はネットの移動速度を調節することにより調節された。そして、表面の毛羽立ちを抑えるために、ネット上の堆積された海島型長繊維を42℃の金属ロールで軽く押さえた。そして、海島型長繊維をネットから剥離し、表面温度75℃の格子柄の金属ロールとバックロールとの間を通過させることにより、線圧200N/mmで熱プレスした。このようにして、表面の繊維が格子状に仮融着された目付34g/m
2の長繊維ウェブが得られた。
【0082】
次に、得られた長繊維ウェブの表面に、帯電防止剤を混合した油剤をスプレー付与した後、クロスラッパー装置を用いて長繊維ウェブを10枚重ねて総目付が340g/m
2の重ね合せウェブを作成し、更に、針折れ防止油剤をスプレーした。そして、重ね合せウェブをニードルパンチングすることにより三次元絡合処理した。具体的には、針先端から第1バーブまでの距離が3.2mmの6バーブ針を用い、針深度8.3mmで積層体の両面から交互に3300パンチ/cm
2のパンチ数でニードルパンチした。このニードルパンチ処理による面積収縮率は68%であり、ニードルパンチ後の絡合ウェブの目付は415g/m
2であった。
【0083】
得られた絡合ウェブは、以下のようにして湿熱収縮処理されることにより、緻密化された。具体的には、18℃の水を絡合ウェブに対して10質量%均一にスプレーし、温度70℃、相対湿度95%の雰囲気中で3分間張力が掛からない状態で放置して熱処理することにより湿熱収縮させて見かけの繊維密度を向上させた。この湿熱収縮処理による面積収縮率は45%であり、緻密化された絡合ウェブの目付は750g/m
2であり、見かけ密度は0.52g/cm
3であった。そして、絡合ウェブをさらに緻密化するために乾熱ロールプレスすることにより、見かけ密度0.60g/cm
3に調整した。
【0084】
次に、緻密化された絡合ウェブに、非発泡のポリウレタンを以下のようにして含浸させた。ポリカーボネート/エーテル系ポリウレタンを主体とする水系ポリウレタンエマルジョン(固形分濃度30%)を緻密化された絡合ウェブに含浸させた。そして、150℃の乾燥炉で水分を乾燥し、さらにポリウレタンを架橋させた。このようにして、ポリウレタン/絡合ウェブの質量比が10/90のポリウレタン絡合ウェブ複合体を形成した。
【0085】
次に、ポリウレタン絡合ウェブ複合体を95℃の熱水中に20分間浸漬することにより海島型長繊維に含まれる海成分を抽出除去して極細繊維化した。そして、極細繊維化したシートを、120℃に設定したテンター乾燥機で乾燥した。なお、テンター乾燥機は、入口から出口まで約15mであり、搬送スピードは3m/分であり、入口から出口までテンタークリップでTD方向に引っ張ることにより、105%の幅出しをした。このようにして得られたシートをスライス及び研削することにより、厚さ約1.0mmの中間体シートが得られた。
【0086】
得られた中間体シートに含有される繊維絡合体の見かけ密度は0.53g/cm
3であり、ポリウレタン/繊維絡合体の質量比は14/86であった。また、繊維絡合体の極細単繊維の平均繊維径は2〜4μmであった。
【0087】
そして得られた中間体シートを厚み方向に2分割し、0.40mmに研削して基材層を形成した。そして得られた基材層に、ポリエーテル系ポリウレタン樹脂を表皮とする厚み0.1mmのポリウレタン層を形成した。このようにして、プレフォーム成形用シートを得た。得られたプレフォーム成形用シートの比重は0.66であった。また、150℃における30%伸長応力が29N/25mmであった。
【0088】
このようにして得られたプレフォーム成形用シートのTD方向及びMD方向の20%引張応力を測定し、MD/TDを求めた。また、このようにして得られたプレフォーム成形用シートの反り量を次のような方法により、測定した。
【0089】
[プレフォーム成形用シートの反り量の測定]
得られたプレフォーム成形用シートを20cm(TD方向)×30cm(MD方向)に切出して試験片を作製した。そして、
図5に示すように、平坦な定盤のうえに下に凸になるように静置し、端面の垂直高さを高さゲージで測定した。なお、銀面層が上になるように沿った場合には反り量の極性を+とし、基材層が上になるように沿った場合には反り量の極性を−とした。
【0090】
次に、得られ
たプレフォーム成形用シートを用いて、
図2に示すような形状の断面が台形状の山形の3次元形状のキャビティを有する金型を用いてプレフォーム成形体を成形した。具体的には、常温の一対の金型の下金型
にプレフォーム成形用シートを配置し、シート表面を赤外線で温度150℃に加熱した後に、0.4MPaの圧力をかけた後、冷却することによりプレフォーム成形体を得た。そして、トリミングすることにより、後の射出インサート成形の金型に合う形状にトリミングした。そして、このようにして得られたプレフォーム成形用シートの反りを目視により次のように判定した。
【0091】
A:目視により、反りや歪みが認識しにくい。
B:目視により、明らかな反りや歪みが容易に認識される。
【0092】
以上の結果を表1に示す。
【0093】
【表1】
【0094】
[実施例2]
実施例1において、テンター乾燥機の入口から出口までテンタークリップでTD方向に引っ張ることにより、105%の幅出しをする代わりに、104%の幅出しをした以外は実施例1と同様にして成形用シートを得、また、プレフォーム成形体を得た。そして、同様にして評価した。結果を表1に示す。
【0095】
[実施例3]
実施例1において、テンター乾燥機の入口から出口までテンタークリップでTD方向に引っ張ることにより、105%の幅出しをする代わりに、106%の幅出しをした以外は実施例1と同様にして成形用シートを得、また、プレフォーム成形体を得た。そして、同様にして評価した。結果を表1に示す。
【0096】
[実施例4]
実施例1において、基材層の厚みを0.4mmの代わりに、0.
5mmにし、テンター乾燥機の入口から出口までテンタークリップでTD方向に引っ張ることにより、105%の幅出しをする代わりに、100%の幅出しをした以外は実施例1と同様にして成形用シートを得、また、プレフォーム成形体を得た。そして、同様にして評価した。結果を表1に示す。
【0097】
[実施例5]
実施例1において、基材層の厚みを0.4mmの代わりに、0.
5mmにし、テンター乾燥機の入口から出口までテンタークリップでTD方向に引っ張ることにより、105%の幅出しをする代わりに、104%の幅出しをした以外は実施例1と同様にして成形用シートを得、また、プレフォーム成形体を得た。そして、同様にして評価した。結果を表1に示す。
【0098】
[実施例6]
実施例1において、銀面層の厚みを0.1mmの代わりに、0.
2mmにし、テンター乾燥機の入口から出口までテンタークリップでTD方向に引っ張ることにより、105%の幅出しをする代わりに、108%の幅出しをした以外は実施例1と同様にして成形用シートを得、また、プレフォーム成形体を得た。そして、同様にして評価した。結果を表1に示す。
【0099】
[比較例1]
実施例1において、テンター乾燥機の入口から出口までテンタークリップでTD方向に引っ張ることにより、105%の幅出しをする代わりに、102%の幅出しをした以外は実施例1と同様にして成形用シートを得、また、プレフォーム成形体を得た。そして、同様にして評価した。結果を表1に示す。
【0100】
[比較例2]
実施例1において、テンター乾燥機の入口から出口までテンタークリップでTD方向に引っ張ることにより、105%の幅出しをする代わりに、110%の幅出しをした以外は実施例1と同様にして成形用シートを得、また、プレフォーム成形体を得た。そして、同様にして評価した。結果を表1に示す。
【0101】
[比較例3]
実施例6において、テンター乾燥機の入口から出口までテンタークリップでTD方向に引っ張ることにより、108%の幅出しをする代わりに、100%の幅出しをした以外は実施例6と同様にして成形用シートを得、また、プレフォーム成形体を得た。そして、同様にして評価した。結果を表1に示す。
【0102】
[比較例4]
実施例1において、基材層の厚みを0.4mmから1.0mmに変更した以外は実施例1と同様にして成形用シートを得、また、プレフォーム成形体を得た。そして、同様にして評価した。結果を表1に示す。
【0103】
本発明に係る実施例1〜6の成形用シートは、基材層の厚みが0.5mm以下であり、銀面層の厚みの割合が10%以上と高いにもかかわらず、その反り量がいずれも−1.5〜+3mmの範囲に抑えられていた。一方、20%引張応力のMD/TDが2.5を超えるような比較例1又は比較例3の成形用シートは、その反り量が+10mmを超えており、著しく反りが大きかった。また、20%引張応力のMD/TDが1.9未満である比較例2の成形用シートは、反り量が−5mmになり、反りが大きかった。なお、比較例4のように、基材層の厚みが厚い場合には、反り量は小さいが、このような場合には、成形体の薄肉化を実現できない。