(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記周波数特性非平坦度計算部は、前記周波数特性を多項式近似し、当該多項式の係数の二乗和に基づいて前記周波数特性の非平坦度を計算する、請求項1に記載のスピーカアレイ駆動装置。
前記合成波面乱れ度計算部は、前記仮想音像位置に実音像を置いた場合の音圧と、前記重み付け駆動信号を前記スピーカアレイにより再生した際の音圧との差分を、前記受音エリアにおいて空間的に積分することにより、前記合成波面の乱れ度を計算する、請求項1又は2に記載のスピーカアレイ駆動装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
映像ディスプレイの周りに配した窓枠状のスピーカアレイの場合には、特に映像ディスプレイの中央に対応したチャネルへの仮想音像を形成する場合に、その近傍に実際のスピーカが存在せず、スピーカからの距離も遠いため、仮想音像からの音波の合成波面や音の周波数特性が損なわれたりすることがあり、特に22.2チャネル音響を映像ディスプレイ一体型のスピーカアレイで再生する場合の問題となっていた。
【0005】
したがって、かかる点に鑑みてなされた本発明の目的は、映像ディスプレイの周囲に配置可能なスピーカアレイにおいて、実際のスピーカが配置されていない仮想音像からの音波の合成波面や音の周波数特性を改善可能なスピーカアレイ駆動装置およびスピーカアレイ駆動方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した諸課題を解決すべく、本発明に係るスピーカアレイ駆動装置は、複数のスピーカを有するスピーカアレイと、仮想音像位置と前記スピーカアレイ中のスピーカの位置に基づき前記スピーカアレイの駆動信号を計算する駆動信号計算部と、前記駆動信号に対して重み係数を乗算して重み付け駆動信号を生成する重み係数乗算部と、前記重み付け駆動信号により前記スピーカアレイを駆動することにより受音点で得られる周波数特性を計算する周波数特性計算部と、前記周波数特性の非平坦度を計算する周波数特性非平坦度計算部と、前記重み付け駆動信号を前記スピーカアレイにより再生した際の前記受音点を含む受音エリアでの音波の合成波面の乱れ度を計算する合成波面乱れ度計算部と、前記周波数特性の非平坦度と前記合成波面の乱れ度とを最小化するように前記重み係数を計算する重み係数計算部と、を備える。
【0007】
また、前記周波数特性非平坦度計算部は、前記周波数特性を多項式近似し、当該多項式の係数の二乗和に基づいて前記周波数特性の非平坦度を計算する、ことが好ましい。
【0008】
また、前記合成波面乱れ度計算部は、前記仮想音像位置に実音像を置いた場合の音圧と、前記重み付け駆動信号を前記スピーカアレイにより再生した際の音圧との差分を、前記受音エリアにおいて空間的に積分することにより、前記合成波面の乱れ度を計算する、ことが好ましい。
【0009】
さらに、本発明に係るスピーカアレイ駆動方法は、複数のスピーカを有するスピーカアレイを備えるスピーカアレイ駆動装置におけるスピーカアレイ駆動方法であって、前記スピーカアレイ駆動装置による処理手順が、仮想音像位置と前記スピーカアレイ中のスピーカの位置に基づき前記スピーカアレイの駆動信号を計算するステップと、前記駆動信号に対して重み係数を乗算して重み付け駆動信号を生成するステップと、前記重み付け駆動信号により前記スピーカアレイを駆動することにより受音点で得られる周波数特性を計算するステップと、前記周波数特性の非平坦度を計算するステップと、前記重み付け駆動信号を前記スピーカアレイにより再生した際の前記受音点を含む受音エリアでの音波の合成波面の乱れ度を計算するステップと、前記周波数特性の非平坦度と前記合成波面の乱れ度とを最小化するように前記重み係数を計算するステップと、を備える。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係るスピーカアレイ駆動装置およびスピーカアレイ駆動方法によれば、映像ディスプレイの周囲に配置可能なスピーカアレイにおいて、実際のスピーカが配置されていない仮想音像からの音波の合成波面や音の周波数特性を改善することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以降、諸図面を参照しながら、本発明の実施態様を詳細に説明する。ここで、以下の説明においては、スピーカアレイに入力される駆動信号として、スーパーハイビジョン音響である22.2チャネル音響を例に説明を行うが、本発明は22.2チャネル音響のみに限定されるものではない点に留意されたい。
【0013】
図1は、本発明の一実施形態に係るスピーカアレイ駆動装置1のスピーカアレイ配置を示す図である。図示の通り、スピーカアレイ駆動装置1のスピーカアレイ90の各スピーカは、表示部DISの周囲に配置されている。以降の説明において、スピーカアレイ駆動装置1の水平方向をx軸、垂直方向をy軸、光軸方向をz軸とし、表示部DISの中央を原点とする座標系を用いて説明を行う。
【0014】
ここで、22.2チャネル音響は、視聴者より高い位置に配置された上層の9チャネルと、視聴者の耳の高さの位置に配置された中層の10チャネルと、視聴者より低い位置に配置された下層の3チャネルと、低音用LFEの2チャネル(0.2チャネル)とから構成される。22.2チャネル音響のうち、視聴者の前方の11チャネルは、上層の3ch、中層の5ch、および下層の3chから構成される。
【0015】
図2は、22.2チャネル音響の前方11チャネルの位置を示す図である。表示部DISの上辺にはTpFL、TpFC、TpFRの上層3チャネル、表示部DISの垂直方向中央にはFL、FLc、FC、FRc、FRの中層5チャネル、表示部DISの下辺にはBtFL、BtFC、BtFRの下層3チャネルが配置されている。特に、中層5チャネルのうち、FLc、FC、FRcの3チャネルは表示部DIS内(スピーカが存在しない領域)に位置しており、実際のスピーカが存在しないチャネルとなっている。
【0016】
ここで、
図1に示すスピーカアレイ90を駆動する方法として、第1種レイリー積分が知られている。スピーカアレイ90中のスピーカ位置をr(r=(x,y,z))、形成すべき仮想音像位置をr
s(r
s=(x
s,y
s,z
s))とすると、第1種レイリー積分によるスピーカの駆動信号q
r(t)は、式(1)により計算することができる。ここでcは音速を表し、S(t)は22.2チャネル音響の各チャネルの時刻tにおける入力信号を表す関数である。
【0018】
図3は、式(1)の駆動信号のシミュレーション環境を示す図である。本シミュレーションにおけるスピーカアレイ90では、表示部DISの周りの横1.58m、縦1.0mのフレーム上に、直径4.5cmの実スピーカが60個配置されている。仮想音源からは1kHz正弦波が放射されるものとし、1kHz正弦波の合成波面と、仮想音源から聴取位置(x,y,z)=(0,0,1)までの伝達関数の周波数特性について評価を行なった。
図4は、従来方式である式(1)を用いて、22.2チャネル音響のFCチャネルの位置(x
s,y
s,z
s)=(0,0,0.05)に仮想音像を形成した場合のシミュレーション結果を示す図である。表示部DIS中央に位置するFCチャネルには、スピーカアレイ90(実スピーカ)が存在しないため、合成波面や周波数特性ともに乱れが見られ、特に周波数特性の乱れは顕著である。このように、実スピーカが存在しない位置での仮想音像は、音色が大きく損なわれることが予想される。
【0019】
ここで、スピーカアレイ90によって安定した仮想音像を形成するためには、仮想音像位置に実音像を置いた場合に得られる周波数特性及び合成波面を、スピーカアレイ90による再生で実現すれば良い。このため、本発明に係るスピーカアレイ駆動装置1は、式(1)に示す駆動信号に対して、スピーカアレイ再生による合成波面の乱れや、周波数特性の非平坦度を考慮した重みを乗算し、良好な合成波面及び周波数特性を実現するものである。
【0020】
図5は、本発明の一実施形態に係るスピーカアレイ駆動装置1の機能ブロックを示す図である。スピーカアレイ駆動装置1は、駆動信号計算部10と、信号分配器20と、合成波面乱れ度計算部30と、周波数特性計算部40と、周波数特性非平坦度計算部50と、重み係数計算部60と、重み係数乗算部70と、増幅器80と、スピーカアレイ90と、を備える。
【0021】
駆動信号計算部10は、22.2チャネル音響の各チャネルの信号から、スピーカアレイ90用の駆動信号を計算する。駆動信号計算部10は、仮想音像位置とスピーカアレイ90中のスピーカの位置に基づきスピーカアレイ90の駆動信号を計算する。具体的には、駆動信号計算部10は、式(1)によりスピーカアレイ90の駆動信号を計算し、計算した駆動信号を信号分配器20に出力する。なお、スピーカアレイ駆動装置1において、スピーカアレイ90の各スピーカ位置は既知であるものとする。
【0022】
信号分配器20は、駆動信号計算部10の出力を、合成波面乱れ度計算部30、周波数特性計算部40、及び重み係数計算部70に出力する。
【0023】
重み係数乗算部70は、駆動信号計算部10からの駆動信号に対して重み係数を乗算した重み付け駆動信号を増幅器80に出力する。以下、スピーカアレイ再生による合成波面の乱れ度及び周波数特性の非平坦度を考慮した重み係数の計算方法について詳述する。
【0024】
合成波面乱れ度計算部30は、重み付け駆動信号をスピーカアレイ90により再生した際の受音点を含む受音エリアでの音波の合成波面の乱れ度(合成波面乱れ度)を計算する。ここで、合成波面乱れ度は、適宜定めた受音点を含む受音エリアにおいて、仮想音像位置に実音像を置いた場合の音圧と、重み付け駆動信号をスピーカアレイ90により再生した際の音圧との差の二乗を積分したものである。受音エリアをR
Aとし、各スピーカが点音源で近似できるとすると、仮想音像位置に実音源を置いた場合の受音点r
A∈R
Aにおける音圧は、式(2)で表される。ここで、Gはスピーカから単位距離離れた点での音圧と単位駆動信号との比例定数であり、r
s(r
s=(x
s,y
s,z
s))は形成すべき仮想音像位置である。
【0026】
また、スピーカアレイ90による音圧は、式(3)で表される。ここで、Lはスピーカアレイ90におけるスピーカの個数、r
j(r
j=(x
j、y
j、z
j))はj番目(j=1〜L)のスピーカの位置、w
jを重み係数計算部60により計算されたj番目のスピーカの駆動信号に対する重み係数、wはw
jを要素とするベクトルである。
【0028】
合成波面乱れ度計算部30は、式(2)に示す実音像を置いた場合の音圧と、式(3)に示すスピーカアレイ90による音圧とから、合成波面乱れ度を式(4)により計算する。ここで、Tは予め定めた時間区間である。
【0030】
合成波面乱れ度計算部30は、計算した合成波面乱れ度E
p(w)を、重み係数計算部60に出力する。
【0031】
周波数特性計算部40は、重み付け駆動信号によりスピーカアレイ90を駆動することにより受音点で得られる周波数特性を計算する。式(3)に示すスピーカアレイ90による音圧に単位インパルス関数δ(t)を代入して、フーリエ変換を行うと、受音点r
Aにおける周波数応答は、式(5)により表される。ここで、Fはフーリエ変換であり、fは周波数を表す。
【0033】
周波数特性計算部40は、fを0HzからFs/2Hzまで変化させることにより、式(6)で示す周波数特性を得る。なおFsは信号周波数の上限を表す。
【0035】
周波数特性計算部40は、計算した周波数特性を周波数特性非平坦度計算部50に出力する。
【0038】
周波数特性非平坦度計算部50は、周波数特性の概形に着目し、式(6)の周波数特性を式(8)に示す多項式により近似する。
【0042】
周波数特性非平坦度計算部50は、計算した周波数特性非平坦度E
f(w)を重み係数計算部60に出力する。
【0043】
重み係数計算部60は、合成波面乱れ度計算部30からの合成波面乱れ度E
p(w)と、周波数特性非平坦度計算部50からの周波数特性非平坦度E
f(w)とにより式(10)に示す誤差関数を定義し、当該誤差関数を最小化する重み係数wを計算する。ここで、γは予め定めた係数である。
【0045】
重み係数wの求め方については、種々の方法があるが、例えば、重み係数計算部60は、simulated annealing法(例えば非特許文献2参照)を用いた繰り返し処理により、誤差関数を最小化する重み係数を算出することができる。simulated annealing法は、重み係数の初期値に対して誤差関数を計算した後重み係数に摂動を与え、その結果誤差関数が小さくなった場合には、摂動を与えた重み係数を新たな重み係数として採用する。また、重み係数に摂動を与えた結果誤差関数が大きくなった場合でも、温度と呼ばれるパラメータによって定まる確率にしたがって、摂動を与えられた重み係数を新たな重み係数として採用するものである。
【0046】
重み係数計算部60は、計算した重み係数を重み係数乗算部70に出力する。
【0047】
重み係数乗算部70は、上述の通り、駆動信号計算部10からの駆動信号に対して、重み係数計算部60からの重み係数を乗算し、乗算後の駆動信号を増幅器80に出力する。
【0048】
増幅器80は、重み係数乗算部70からの駆動信号を増幅し、スピーカアレイ90の各スピーカに出力する。
【0049】
スピーカアレイ90の各スピーカは、増幅器80より入力される駆動信号をそれぞれ音に変換して放射する。
【0050】
このように、本実施形態によれば、重み係数計算部60は、周波数特性の非平坦度と合成波面の乱れ度とを最小化するように重み係数を計算し、重み係数乗算部70は、駆動信号に対して重み係数を乗算して重み付け駆動信号を生成する。これにより、映像ディスプレイの周囲に設置可能なスピーカアレイ90において、実際のスピーカが配置されていない仮想音像からの音波の合成波面や音の周波数特性を改善することができる。また、例えば、スーパーハイビジョン用の22.2チャネル音響信号の前方11チャネルを、映像ディスプレイの周りに配したスピーカアレイによって高音質で再生することが可能となり、将来の3次元音響の家庭導入が促進される。
【0051】
また、周波数特性非平坦度計算部50は、周波数特性を多項式近似し、当該多項式の係数の二乗和に基づいて前記周波数特性の非平坦度を計算する。これにより、平坦周波数特性に対する周波数特性の概形の非平坦度を定量的に計算することが可能となる。
【0052】
また、合成波面乱れ度計算部30は、仮想音像位置に実音像を置いた場合の音圧と、重み付け駆動信号をスピーカアレイ90により再生した際の音圧との差分を、受音エリアにおいて空間的に積分することにより、合成波面の乱れ度を計算する。これにより、これにより、実音像による波面に対するスピーカアレイ90による波面の乱れ度を定量的に計算することが可能となる。
【0053】
本発明を諸図面や実施例に基づき説明してきたが、当業者であれば本開示に基づき種々の変形や修正を行うことが容易であることに注意されたい。従って、これらの変形や修正は本発明の範囲に含まれることに留意されたい。例えば、各構成部材、各手段などに含まれる機能などは論理的に矛盾しないように再配置可能であり、複数の構成部や手段などを1つに組み合わせたり、或いは分割したりすることが可能である。
【0054】
例えば、スピーカアレイ駆動装置1は、22.2チャネル音響のうち、FCチャネル、FLcチャネル、FRcチャネルなど、実スピーカが存在しない表示部DIS内のチャネルの入力信号について、重み係数乗算部70により重み付け駆動信号を求め、TpFLチャネルのように、実スピーカが存在するチャネルの入力信号については、式(1)に示す駆動信号をそのままスピーカアレイ90の駆動信号とすることができる。
【0055】
また、上記実施形態においては、表示部DISを方形状の映像ディスプレイとして説明を行ったが、本発明は、方形状のディスプレイに限らず中央部分にスピーカを有しない任意のスピーカアレイに適応可能である。さらに、映像ディスプレイの周りにスピーカを配したスピーカアレイに限らず、任意のスピーカアレイにも適用可能な技術であることは言うまでもない。