特許第5941390号(P5941390)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5941390
(24)【登録日】2016年5月27日
(45)【発行日】2016年6月29日
(54)【発明の名称】工業用抗菌方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/50 20060101AFI20160616BHJP
   C02F 1/76 20060101ALI20160616BHJP
   D21H 21/02 20060101ALI20160616BHJP
【FI】
   C02F1/50 510A
   C02F1/50 510C
   C02F1/50 520K
   C02F1/50 531J
   C02F1/50 531P
   C02F1/50 532J
   C02F1/50 540B
   C02F1/76 A
   D21H21/02
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-221857(P2012-221857)
(22)【出願日】2012年10月4日
(65)【公開番号】特開2014-73451(P2014-73451A)
(43)【公開日】2014年4月24日
【審査請求日】2014年8月13日
【審判番号】不服2015-5609(P2015-5609/J1)
【審判請求日】2015年3月25日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112874
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 薫
(72)【発明者】
【氏名】杉 卓美
【合議体】
【審判長】 新居田 知生
【審判官】 永田 史泰
【審判官】 中澤 登
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−267811(JP,A)
【文献】 特開2008−121167(JP,A)
【文献】 特開2012−130852(JP,A)
【文献】 特開2009−95742(JP,A)
【文献】 特開2012−36108(JP,A)
【文献】 特表2003−503323(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F1/50,1/76
A01N1/00-65/48
A61P1/00-23/02
D21B1/00-1/38
D21C1/00-11/14
D21D1/00-99/00
D21F1/00-13/12
D21G1/00-9/00
D21H11/00-27/42
D21J1/00-7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
pH6以下の酸性抄紙系である水系のスライムコントロール及び防腐を行う工業用抗菌方法であって、
前記水系に、スルファミン酸及び/若しくはスルファミン酸塩を添加する工程と、
前記スルファミン酸及び/若しくはスルファミン酸塩とは別に、前記水系に、アンモニウム塩と次亜塩素酸ナトリウムとの反応生成物を添加する工程であり、前記反応生成物の前記水系への添加量を有効塩素濃度1〜100mg/Lする工程と、
を有し、
前記反応生成物を添加する工程は、前記スルファミン酸及び/若しくはスルファミン酸塩を添加する工程の後、又は、前記スルファミン酸及び/若しくはスルファミン酸塩を添加する工程と同時に行う工業用抗菌方法。
【請求項2】
前記反応生成物及び前記スルファミン酸(塩)の添加量を、モル比で、反応生成物(有効塩素濃度換算):スルファミン酸(塩)=5:95〜95:5とすることを特徴とする請求項1に記載の工業用抗菌方法。
【請求項3】
前記反応生成物として、臭化アンモニウムと次亜塩素酸ナトリウムとの反応生成物を用いることを特徴とする請求項1又は2に記載の工業用抗菌方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙・パルプ工業における製紙工程水や各種工業用の冷却水などの工業用抗菌方法に関する。より詳しくは、殺菌作用によって、スライムの形成や成長及び澱粉スラリーや工業製品の腐敗を抑制する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
各種工場のプラント冷却水系、排水処理水系、鉄鋼水系、紙パルプ水系及び切削油水系などの水系においては、細菌や糸状菌などの微生物が発生して、スライムが形成されることがある。そして、水系にスライムが形成されると、熱交換効率の低下、通水量の減少、配管や機器の腐食などの障害が起こる。
【0003】
このようなスライムに起因する障害を防止する方法としては、例えば、次亜塩素酸ナトリウム(NaOCl)などの活性塩素ドナー(酸化剤)と臭化アンモニウムの混合溶液を、水系に添加する方法がある(特許文献1,2参照)。例えば、特許文献2に記載の工業用抗菌方法では、臭化アンモニウムと酸化剤との混合液の他に、有機抗菌剤を添加しているため、スライムコントロールと併せて防腐処理を行うことができる。また、次亜塩素酸ナトリウムなどの酸化剤とアンモニウム塩などのアミン源とを混合して得られる反応生成物を、水系に添加することにより生物の増殖を阻害する処理方法もある(特許文献3参照)。
【0004】
従来、次亜塩素酸(塩)とスルファミン酸(塩)とを含有し、一製剤として調整されたスライム剥離剤も提案されている(特許文献4参照)。また、臭化ナトリウムと次亜塩素酸ナトリウムとを反応させて得た次亜臭素酸ナトリウムの水溶液に、アルカリ金属のスルファミン酸水溶液を添加して安定化させた水溶液を、水系に添加するスライムコントロール方法も提案されている(特許文献5参照)。
【0005】
更に、ハロゲン系殺菌剤として、臭化アンモニウム及び/又は塩化アンモニウムを含む水溶液と次亜塩素酸塩を含む水溶液とを混合して得られる反応生成物を含む水溶液に、アンモニア、スルファミン酸及び水酸化ナトリウムのうちの1種以上を添加した水溶液を用いるスライム防止方法も提案されている(特許文献6参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−51500号公報
【特許文献2】特開2002−336867号公報
【特許文献3】特表平10−506835号公報
【特許文献4】特開2003−267811号公報
【特許文献5】特表平11−506139号公報
【特許文献6】特開2009−95742号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前述した従来の殺菌又は抗菌方法には、以下に示す課題がある。先ず、特許文献1〜3に記載されている方法で用いている活性塩素ドナー(酸化剤)とアンモニウム塩との反応生成物は、水系に添加すると分解が進行し、殺菌効果が低下するという課題がある。特に、臭化アンモニウムと次亜塩素酸ナトリウムとの反応生成物は、pHが低い系での分解速度が速く、添加後すぐに分解するため、十分な効果が得られない。
【0008】
一方、特許文献4に記載されているスルファミン酸(塩)と次亜塩素酸ナトリウムとの反応生成物、及び特許文献5に記載されている臭化ナトリウムと次亜塩素酸ナトリウムとスルファミン酸(塩)との反応生成物は、水系内での安定性は優れているが、スライムコントロール効果が十分に得られないという課題がある。
【0009】
また、特許文献6に記載されているスライム防止方法は、臭化アンモニウム及び/又は塩化アンモニウムと次亜塩素酸塩との反応生成物を含む水溶液にスルファミン酸を添加すると、pHが低下して溶液の安定性が大幅に低下するという課題がある。また、この方法では、臭化アンモニウム、次亜塩素酸塩及びスルファミン酸が高濃度で反応するため、副生成物として、クロロスルファミン酸やブロモスルファミン酸が生成し、殺菌効果が低下するという課題もある。
【0010】
そこで、本発明は、殺菌効果を長時間維持することが可能な工業用抗菌方法を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、前述した課題を解決するために、鋭意実験研究を行った結果、水系にスルファミン酸又はその塩を添加することにより、アンモニウム塩と活性塩素源との反応生成物の分解を抑制できることを見出し、本発明に至った。
【0012】
即ち、本発明に係る工業用抗菌方法は、pH6以下の酸性抄紙系である水系のスライムコントロール及び防腐を行う工業用抗菌方法であって、前記水系に、スルファミン酸及び/若しくはスルファミン酸塩を添加する工程と、前記スルファミン酸及び/若しくはスルファミン酸塩とは別に、前記水系に、アンモニウム塩と活性塩素源との反応生成物を、有効塩素濃度が1〜100mg/Lになるよう添加する工程と、を有し、前記反応生成物を添加する工程は、前記スルファミン酸及び/若しくはスルファミン酸塩を添加する工程の後、又は、前記スルファミン酸及び/若しくはスルファミン酸塩を添加する工程と同時に行う。
この工業用抗菌方法では、前記反応生成物及び前記スルファミン酸(塩)の添加量を、モル比で、反応生成物(Cl換算値):スルファミン酸及びその塩(合計値)=5:95〜95:5とすることができる。
また、前記反応生成物としては、臭化アンモニウムと次亜塩素酸ナトリウムとの反応生成物を用いることができる。
更に、前記反応生成物は、スルファミン酸及び/若しくはスルファミン酸塩を添加した後で、又は、スルファミン酸及び/若しくはスルファミン酸塩と共に、前記水系に添加することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、アンモニウム塩と活性塩素源との反応生成物と、スルファミン酸及び/又はスルファミン酸塩とを併用しているため、工業用水系において反応生成物の分解が抑制され、長時間に亘って優れた殺菌効果を維持することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態について、詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0015】
本実施形態に係る抗菌方法においては、工業用水系に、アンモニウム塩と活性塩素源との反応生成物と、スルファミン酸及び/又はスルファミン酸塩とを個別に添加する。
【0016】
[反応生成物]
アンモニウム塩と活性塩素源との反応生成物は、水系において、スライムの原因となる細菌や糸状菌などの微生物の付着や増殖を防止する効果がある。この反応生成物は、例えばアンモニウム塩を含有する水溶液と活性塩素源を含有する水溶液とを所定の比率で混合することにより製造することができる。
【0017】
なお、反応生成物の製造方法は、特に限定されるものではなく、例えば、水が通流する配管中に1Lあたり数千mgのアンモニウム塩を添加すると共に、活性塩素源を有効塩素濃度が数千mg/Lとなるように添加し、ライン混合することにより製造してもよい。また、有効塩素濃度が数千mg/Lである活性塩素源水溶液のラインに、数十質量%のアンモニウム塩水溶液をライン添加することにより製造することもできる。
【0018】
また、反応生成物を構成するアンモニウム塩としては、例えば臭化アンモニウム、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、炭酸アンモニウム及びカルバミン酸アンモニウムなどを使用することができる。一方、活性塩素源としては、例えば次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カルシウム、塩素化イソシアヌル酸及び塩素化ヒダントインなどを使用することができる。そして、これらの反応生成物の中でも、特に殺菌効果が優れていることから、臭化アンモニウムと次亜塩素酸ナトリウムの反応生成物を使用することが好ましい。
【0019】
[スルファミン酸及びその塩]
スルファミン酸及びその塩は、前述した反応生成物を安定化し、水系での分解を抑制する効果がある。一般に、スルファミン酸が存在する系に次亜塩素酸ナトリウムや臭素を添加すると、クロロスルファミン酸やブロモスルファミン酸などの比較的安定な塩素化合物や臭素化合物が生成することが知られている。これらの化合物は、水系において分解されにくいため、系内に長時間留めることができるが、殺菌効果が低く、十分なスライムコントロール効果が得られない。なお、「スライムコントロール」とは、水系におけるスライムの形成や成長を抑制し、スライムに起因する各種障害の発生を防止することをいう。
【0020】
一方、アンモニウム塩と活性塩素源との反応生成物は、クロロスルファミン酸やブロモスルファミン酸などの安定化した塩素化合物や臭素化合物に比べて殺菌効果が高い。そして、その機構は明らかではないが、この反応生成物をスルファミン酸又はその塩が存在する系に添加すると、系内での分解が抑制され、優れた殺菌効果を長時間維持することが可能となる。
【0021】
[添加条件]
スルファミン酸(塩)及びアンモニウム塩と活性塩素源との反応生成物の添加時期及び添加場所は、特に限定されるものではないが、水系に、スルファミン酸(塩)を添加した後又はスルファミン酸(塩)の添加と同時に、反応生成物を添加することが好ましい。これにより、反応生成物の分解を効果的に抑制することができる。なお、ここでいう「添加後」や「同時」には、時間的な意味だけでなく、場所的な意味もある。例えば、抄紙系に反応生成物を添加する場合は、スルファミン酸(塩)は、反応生成物と同様に抄紙系に添加してもよいが、原料系に添加することもできる。
【0022】
また、スルファミン酸(塩)及び反応生成物の添加比率も特に限定されるものではないが、反応生成物の添加量に対してスルファミン酸(塩)の添加量が過剰であることが好ましい。ただし、例えば工業用水系では、反応生成物は分解されるがスルファミン酸(塩)は分解されないため、これらを連続的又は間欠的に添加すると、水系内にスルファミン酸が濃縮する。そこで、反応生成物の分解抑制効果及び処理コストの観点から、スルファミン酸(塩)及び反応生成物の添加比率は、モル比で、スルファミン酸及びその塩:反応生成物=5:95〜95:5とすることが好ましい。なお、ここでいう反応生成物の添加量は、有効塩素濃度から換算した値であり、スルファミン酸及びその塩の添加量は、これらの合計値である。
【0023】
更に、反応生成物の水系への添加量も、特に限定されるものではないが、スライムコントロール効果を十分に発揮させる観点から、有効塩素濃度で0.1mg/L以上とすることが好ましく、1mg/L以上とすることがより好ましい。一方、反応生成物の自己分解を抑制する観点から、反応生成物の添加量は500mg/L以下とすることが好ましく、300mg/L以下とすることがより好ましく、100mg/L以下とすることが更に好ましい。
【0024】
以上詳述したように、本実施形態の工業用抗菌方法では、アンモニウム塩と活性塩素源との反応生成物と、スルファミン酸及び/又はその塩とを併用しているため、殺菌効果及びスライム付着効果を長時間維持することができる。その結果、従来のスライムコントロール剤よりも少ない添加量で、優れたスライムコントロール効果及び防腐効果を安定して得ることが可能となる。
【0025】
特に、本実施形態の工業用抗菌方法では、特許文献6に記載の方法のように予め混合せず、水系に反応生成物とスルファミン酸(塩)とを個別に添加しているため、水系内でこれらが低濃度で共存することとなる。これにより、pHの低下やスルファミン酸による副生成物の生成を抑制することができるため、スルファミン酸(塩)による安定化効果に優れ、反応生成物による殺菌作用を効率的に得ることができる。
【0026】
そして、本実施形態の工業用抗菌方法では、紙パルプの製造工程におけるスライムコントロールや原料防腐、冷却水、膜分離工程及び洗浄工程などの水系におけるスライムコントロール、澱粉防腐やラテックス、水性エマルション塗料及び水性エマルション接着剤などの各種工業製品の防腐などに好適である。例えば、本実施形態の抗菌方法を澱粉スラリーに適用すると、腐敗により有機酸が生成してpHが低下し、腐敗臭が発生したり、澱粉のりの粘度や接着力が低下したりすることを、効果的に防止することが可能である。
【実施例】
【0027】
以下、本発明の実施例及び比較例を挙げて、本発明の効果について具体的に説明する。
【0028】
(第1実施例)
先ず、本発明の第1実施例として、スルファミン酸による臭化アンモニウムと次亜塩素酸ナトリウムとの反応生成物の安定化効果について調べた。具体的には、pH4.5の0.01M酢酸緩衝液に、スルファミン酸を濃度5.5mg/Lとなるように添加した後、臭化アンモニウムと次亜塩素酸ナトリウムとの反応生成物を、有効塩素塩素濃度が約2mg/Lとなるように添加し、液温を約30℃に保持して静置した。そして、経時的に、有効塩素濃度と酸化還元電位(ORP)を測定した。
【0029】
また、比較例として、スルファミン酸添加なしの液を調整し、前述した実施例と同様の方法で、有効塩素濃度と酸化還元電位(ORP)を測定した。以上の結果を、下記表1に示す。
【0030】
【表1】
【0031】
上記表1に示すように、スルファミン酸を添加していない比較例1の液では、経時的に有効塩素濃度が低下し、酸化還元電位(ORP)が上昇した。これは、臭化アンモニウムと次亜塩素酸ナトリウムとの反応生成物が、酸性化により酸化力が強い物質に変化し、分解速度が上昇したためと考えられる。
【0032】
一方、スルファミン酸を添加した実施例1の液では、酸化還元電位(ORP)はほぼ一定であり、比較例1の液に比べて有効塩素濃度の低下速度も緩やかであった。この結果から、スルファミン酸を添加することにより、臭化アンモニウムと次亜塩素酸ナトリウムとの反応生成物が安定化されることが確認された。
【0033】
(第2実施例)
次に、本発明の第2実施例(実施例2)として、臭化アンモニウムと次亜塩素酸ナトリウムとの反応生成物とスルファミン酸とを併用することによる殺菌作用の持続性向上効果について調べた。具体的には、滅菌したpH4.5の0.01M酢酸緩衝液に、スルファミン酸及び臭化アンモニウムと次亜塩素酸ナトリウムとの反応生成物を、所定濃度になるように添加し、液温を約30℃に保持して静置した。
【0034】
そして、経時的に、有効塩素濃度を測定すると共に、液を10mL採取し、ヘプトン−酵母エキス培地で1日間培養したP.putia(シュードモナス・プチダ)を添加し、30℃で10分間振とうした。その後、寒天平板希釈法により菌数測定を行い、殺菌効果を確認した。更に、この液を5mL採取し、滅菌したpH4.5の0.01M酢酸緩衝液を5mL添加して2倍に希釈した。この2倍希釈液にも、前述したP.putia(シュードモナス・プチダ)を添加し、30℃で10分間振とうし、同様の方法で殺菌効果を確認した。
【0035】
また、比較例2として、スルファミン酸添加なしの液を調整し、前述した実施例2と同様の方法で、殺菌効果を確認した。更に、比較例3として、特許文献6に記載の方法のように予め反応生成物とスルファミン酸を混合した溶液を用いた液についても、殺菌効果を確認した。
【0036】
比較例3では、2900mg/Lの臭化アンモニウム水溶液と、有効塩素濃度が2000mg/Lの次亜塩素酸ナトリウム水溶液とをライン混合し、その混合物に、pH11に調整したスルファミン酸ナトリウム溶液を3000mg/L添加した後、1分間撹拌して得た水溶液を調整した。そして、この水溶液を、滅菌したpH4.5の0.01M酢酸緩衝液に所定濃度添加し、前述した実施例2と同様の方法で殺菌効果を確認した。以上の結果を、下記表2にまとめて示す。
【0037】
【表2】
【0038】
上記表2に示すように、スルファミン酸を添加していない比較例2の液は、2倍に希釈すると2.5時間後に、希釈しない場合でも3.5時間後に、殺菌効果が低下した。一方、スルファミン酸を添加した実施例2の液は、2倍に希釈しても3.5時間以上殺菌効果を維持していた。
【0039】
また、反応生成物とスルファミン酸を予め混合したものを添加した比較例3の液は、実施例2の液に比べて、残留濃度の低下がやや速く、安定性が低下していた。また、有効塩素濃度が同程度(1.3mg/L程度)で比較しても、実施例2の液は2倍希釈の菌数が100CFU/mL未満であるのに対して、比較例3の液は2倍希釈で菌が検出され、殺菌効果が低下していた。以上の結果から、スルファミン酸を併用し、かつスルファミン酸と反応生成物とを混合せず、個別に水系に添加することにより、殺菌効果の持続性が向上することが確認された。
【0040】
(第3実施例)
次に、本発明の第3実施例として、段ボール製造に使用する白水を用いて殺菌効果の持続性を調べた。具体的には、段ボール原紙製造装置から採取したpH6.5の白水に、下記表3に示す各薬品を添加し、35℃で4時間振とうした。その後、振とう後の液の20質量%にあたる量の白水を添加して、更に30分間振とうしたものについて、寒天平板希釈法により菌数測定を行った。その結果を下記表3に示す。なお、下記表3には、薬品を添加していない液の菌数測定結果も併せて示す。
【0041】
【表3】
【0042】
上記表3に示すように、本実施例では、4時間振とう後に白水を20質量%加えることにより、8.1×10×0.2=1.6×107CFU/mLの菌を添加しているが、スルファミン酸を併用した実施例3,4の液では、スルファミン酸を添加していない比較例4,5の液に比べて、より優れた殺菌効果が得られた。また、次亜塩素酸ナトリウムとスルファミン酸を添加した比較例6の液では、クロロスルファミン酸が生成していると考えられるが、殺菌効果は確認できなかった。
【0043】
(第4実施例)
次に、本発明の第4実施例として、抄紙装置におけるスライムコントロール効果を調べた。具体的には、本実施例では、バージンパルプ(LBKP)と脱墨パルプ(DIP)とを配合して、pH7〜8で、塗工原紙を450t/日抄造している製造装置の白水サイロに、臭化アンモニウムと次亜塩素酸ナトリウムとの反応生成物を、有効塩素で93g/分の速度で30分間添加し、これを12回/日行った。その結果、白水中に、反応生成物が有効塩素として0.5mg/L残留し、優れた殺菌効果及びスライムコントロール効果が得られた。
【0044】
次に、反応生成物に加えて、種箱に、スルファミン酸ナトリウムを20g/分の速度で10分間添加し、これを24回/日行った。その結果、反応生成物添加前の白水の有効塩素濃度が1.5mg/Lに上昇し、菌数と相関するATP値が98000RLUから8000RLUに低下した。そこで、反応生成物の添加回数を6回/日に半減したが、反応生成物添加前の白水の有効塩素濃度は0.5mg/L以上を維持し、ATP値も98000RLU未満であった。
【0045】
このように、本実施例では、白水に添加する薬品の合計量を、スルファミン酸ナトリウム併用前の64質量%まで低減しても、同等の殺菌効果及びスライムコントロール効果が得られた。この結果から、スルファミン酸ナトリウムを添加することにより、薬品添加量を低減しても、同等の効果が得られることが確認された。
【0046】
(第5実施例)
次に、本発明の第5実施例として、酸性抄紙装置におけるスライムコントロール効果を調べた。具体的には、バージンパルプ(LBKP)を原料として、pH4〜5で、特殊紙を300t/日抄造している製造装置を用いて行った。この系は、白水が酸性であるため、分解が速い臭化アンモニウムと次亜塩素酸ナトリウムとの反応生成物は適用できず、白水サイロに、ブロモニトロエタノールを50g/分の速度で30分間添加しており、これを4回/日行っていた。
【0047】
そこで、本実施例では、種箱にスルファミン酸ナトリウムを20g/分の速度で15分間添加すると共に、白水サイロに臭化アンモニウムと次亜塩素酸ナトリウムとの反応生成物を50g/分の速度で15分間添加した。これらを同時刻に、4回/日行った。その結果、スルファミン酸の添加により、反応生成物の分解が抑制され、ブロモニトロエタノールよりも短時間の添加でも、良好なスライムコントロール効果が得られた。
【0048】
この結果から、スルファミン酸ナトリウムを併用することにより、酸性の水系においても殺菌効果が高い反応生成物の使用が可能となり、薬品の添加時間を短縮し、薬品使用量を削減できることが確認された。