(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1工程において、前記シリコン基板の裏面側全体に酸化シリコン膜を形成し、その後、前記外周部を被覆する部分の酸化シリコン膜をエッチングして前記酸化シリコン層を形成する、請求項3または4に記載の製造方法。
【背景技術】
【0002】
Al、GaなどとNとの化合物からなるIII族窒化物半導体で構成されるIII族窒化物半導体素子は、発光素子または電子デバイス用素子として広く用いられている。このようなIII族窒化物半導体は、例えばシリコンやサファイアなどの異種基板からなる結晶成長基板上に、MOCVD法により形成されるのが一般的である。
【0003】
このようなIII族窒化物半導体エピタキシャル基板を用いたIII族窒化物半導体素子の一つとして、高速の電界効果トランジスタ(FET:Field Effect Transistor)である高電子移動度トランジスタ(HEMT:High Electron Mobility Transistor)が広く用いられるようになっている。このような電界効果型のトランジスタは、例えば
図1に模式的に示されるように、異種基板2上にチャネル層3および電子供給層4を積層し、この電子供給層4の表面にソース電極5a、ドレイン電極5bおよびゲート電極5cを配設することにより形成される。デバイスの動作時には、ソース電極5a、電子供給層4、チャネル層3、電子供給層4およびドレイン電極5bの順に電子が移動して、横方向が主な電流導通方向となる。なお、この横方向の電子の移動は、ゲート電極5cに印加される電圧により制御される。HEMTにおいて、バンドギャップの異なる電子供給層4およびチャネル層3の接合界面に生じる電子は、通常の半導体内と比較して高速で移動することができる。
【0004】
例えば特許文献1において、高抵抗Si単結晶基板の一方の面上に、不純物拡散抑制層を形成する工程と、前記高抵抗Si単結晶基板の他方の面上に、絶縁層としてのバッファを形成する工程と、該バッファ上に、複数層のIII族窒化物層をエピタキシャル成長させて主積層体を形成してエピタキシャル基板を作製する工程と、該エピタキシャル基板の主積層体の抵抗を非接触で測定する工程とを具える横方向を電流導通方向とする電子デバイス用エピタキシャル基板の製造方法を、本願出願人は先に提案している。
【0005】
特許文献1に記載の製造方法によって製造された電子デバイス用エピタキシャル基板は、高抵抗Si単結晶基板の裏面に酸化シリコン膜などの不純物拡散層を形成されるため、III族窒化物層をエピタキシャル成長させる際に、基板裏面におけるIII族元素の汚染を抑制することができる。
【0006】
Si単結晶基板の裏面に酸化シリコン膜を設ける技術として、本願出願人は他にも、特許文献2において、B濃度が2×10
18/cm
3以上であるSi単結晶基板と、前記Si単結晶基板の主面上に形成されたSi単結晶層を有し、前記Si単結晶層の表面のB濃度がSi単結晶基板のB濃度よりも小さく、前記Si単結晶基板の主面とは反対側の裏面に、酸化シリコンを含む不純物拡散抑制層を有する、III族窒化物半導体成長用Si単結晶基板を提案している。
【0007】
特許文献2に記載されたIII族窒化物半導体成長用Si単結晶基板は、エピ表面のピット欠陥を低減させ、さらに、裏面への不純物拡散抑制も可能とすることができるのである。
【0008】
また、例えば2DEGの電流密度向上によるクラック発生を防止するため等の目的で、HEMTの電子供給層の上に窒化シリコン膜を形成し、該窒化シリコン膜上に電極を形成したHEMT構造が知られている。例えば、特許文献3には、基板と、好ましくはGaNで形成される第1活性層と、前記第1活性層上の第2活性層であって、前記第1活性層より高いバンドギャップを有し、好ましくはAlGaNまたはAlGaInNで形成されているものと、前記第1活性層と前記第2活性層との間の二次元電子ガス層と、前記第2活性層上の、電子供与体元素および窒素を含み、好ましくはSiNを含む不動態化層と、前記不動態化層上に直接的なソース接点およびドレイン接点とを含む半導体装置が開示されている。
【0009】
特許文献3によると、ソースおよびドレイン接点のオーミック接触が、SiN層の存在により妨害されず、むしろ改良され、エピタキシャル基板がSiN不動態化層により非常に良好に保護される、というものである。
【0010】
また、特許文献4には、基板と、前記基板上に形成され、チャネル層及び電子供給層を含む窒化物半導体層と、前記窒化物半導体層上に設けられたソース電極、ゲート電極、及びドレイン電極と、少なくとも前記ゲート電極、及び前記ゲート電極と前記ドレイン電極との間の前記窒化物半導体層の表面を覆う窒化シリコンからなる絶縁膜と、前記窒化物半導体層上であって、前記ゲート電極と前記ドレイン電極との間に設けられたフィールドプレートと、を具備する半導体装置が開示されている。
【0011】
さらに、特許文献5には、化合物半導体領域と、前記化合物半導体領域の表面の少なくとも一部を覆う保護絶縁膜とを含み、前記保護絶縁膜は、前記化合物半導体基板の表面と化学的活性度の高い状態に形成された第1の絶縁膜と、前記第1の絶縁膜上に積層され、前記第1の絶縁膜よりも化学的活性度の低い第2の絶縁膜とからなる2層構造を有する半導体装置において、前記第1および第2の絶縁膜のいずれか一方または両方に、シリコン窒化膜を用いることが開示されている。特許文献3〜5に開示されているように、電子供給層上に窒化シリコン膜を形成することが行われている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明者らは、異種基板としてシリコン基板を用いたIII族窒化物半導体エピタキシャル基板において、特許文献1,2に記載されているように、シリコン基板の裏面に酸化シリコン膜を予め設け、その後、シリコン基板の主面側の主積層体表面に窒化シリコン膜を形成することを検討した。
【0014】
ここで、III族窒化物半導体エピタキシャル基板が電子デバイス用途に用いられる場合、裏面側の酸化シリコン膜はデバイス工程投入前までに除去されるのが通常である。これは、特許文献1,2に記載の酸化シリコン膜は、デバイス形成工程投入前までの裏面の汚染を防ぐことを目的とするものであるからである。そこで、デバイス形成を想定して、裏面側の酸化シリコン膜をエッチングによって除去したところ、III族窒化物半導体エピタキシャル基板の裏面に酸化シリコンおよび窒化シリコンが部分的に残ることでパーティクルが発生して主面に付着してしまい、製品化できなくなってしまう場合があることが判明した。
【0015】
そこで本発明は、III族窒化物半導体エピタキシャル基板の主面へのパーティクル付着が抑制されたIII族窒化物半導体エピタキシャル基板およびパーティクル付着を抑制することのできるIII族窒化物半導体エピタキシャル基板ならびにそれらの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
ここで、
図2(A),(B)を用いて、一般的なシリコン基板20について予め説明する。本明細書において、シリコン基板20のうち、III族窒化物半導体層を形成する側の面を主面と称し、主面と反対側の面を裏面と称する。
図2(A)は、一般的なシリコン基板20の裏面を平面視したときの模式図であり、
図2(B)は、
図2(A)におけるI-I断面の拡大模式図である。なお、
図2(A)下部に示す円形の切り欠き部分23はオリエンテーションフラット(「オリフラ」と略称されることがある。)である。シリコン基板20を搬送するときの割れや欠けを防ぐため、
図2(B)に示すように、シリコン基板20の周縁部は一般的に面取加工される。シリコン基板20の仕様によっても異なるが、基板20の端面と、基板20の平坦面との間に傾斜面(「ベベル」と呼ばれ、ベベルの幅は通常1mm以内である。)が形成される。ここで、本明細書において、シリコン基板20の裏面を以下の定義に従い、領域21と、外周部22とに区画する。すなわち、シリコン基板20の端面と、端面から1〜5mm程度の範囲で任意に設定される内側の線との間の領域(ベベルを含む)を外周部22とし、外周部22を除く領域(すなわち裏面側中央部の領域)を領域21とする。なお、
図2は、領域21および外周部22の実際の比率から誇張して図示している。以下、同様の意味でこれらの用語を用いる。
【0017】
さて、本発明者らは、前述のパーティクル付着の原因を詳細に検討した。シリコン基板20の裏面全体に酸化シリコン層10が設けられ、シリコン基板10の主面側には、主積層体30および窒化シリコン膜40がこの順に設けられた比較例に係るIII族窒化物半導体エピタキシャル基板100′を
図3に模式的に示す。但し、
図3におけるシリコン基板20の周縁部を簡略化している。本発明者らは、前述のパーティクル付着の原因を以下のように考えている。すなわち、シリコン基板20の裏面全体に酸化シリコン層10が設けられている場合、主積層体30を被覆する窒化シリコン膜を更に設けようとすると、シリコン基板20の裏面側の外周部22にまで窒化シリコンが回り込む。その結果、外周部22において窒化シリコン膜40の一部分40aが酸化シリコン層10を部分的に被覆することとなる。この窒化シリコン膜の一部分40aおよび重なった部分の酸化シリコン層10は、エッチング等によって酸化シリコン層10を除去した後でも部分的に残存したり、浮遊物となったりする。このことが、III族窒化物半導体エピタキシャル基板100′の主面へのパーティクル付着源となると考えられる。
【0018】
そこで本発明者は、上記諸課題を解決する方途について鋭意検討した。主積層体30を被覆する窒化シリコン膜40を形成する場合、シリコン基板20の裏面側にまで窒化シリコンが回り込み、窒化シリコンが析出することは避け難い。しかしながら、窒化シリコン膜40の形成に先立ち、予め外周部22における酸化シリコンを除去しておき、外周部22を除く領域21表面のみに酸化シリコン層10を形成しておけば、窒化シリコン膜40が酸化シリコン層10を被覆することがないため、酸化シリコン層10の除去時にIII族窒化物半導体エピタキシャル基板100′の主面へのパーティクル付着問題が生じないことを本発明者らは知見し、本発明を完成するに至った。
【0019】
すなわち、本発明の要旨構成は以下のとおりである。
(1)シリコン基板と、前記シリコン基板の主面上に、複数層のIII族窒化物層がエピタキシャル成長して形成された主積層体と、前記主積層体および前記シリコン基板を被覆する窒化シリコン膜と、を有するIII族窒化物半導体エピタキシャル基板であって、前記シリコン基板の裏面側では、前記窒化シリコン膜が前記シリコン基板の
裏面上の外周部のみを直接被覆し、かつ、前記裏面側の前記外周部を除く領域で前記シリコン基板が露出することを特徴とする、III族窒化物半導体エピタキシャル基板。
【0020】
(2)シリコン基板と、前記シリコン基板の主面上に、複数層のIII族窒化物層がエピタキシャル成長して形成された主積層体と、前記主積層体および前記シリコン基板を被覆する窒化シリコン膜と、を有するIII族窒化物半導体エピタキシャル基板であって、前記シリコン基板の裏面側では、前記窒化シリコン膜が前記シリコン基板の外周部のみを直接被覆し、前記裏面側の前記外周部を除く表面には酸化シリコン層が更に設けられることを特徴とする、III族窒化物半導体エピタキシャル基板。
【0021】
(3)シリコン基板の裏面側の外周部を除く表面に酸化シリコン層を形成する第1工程と、前記シリコン基板の主面に複数層のIII族窒化物層をエピタキシャル成長させて主積層体を形成する第2工程と、前記主積層体および前記シリコン基板を被覆し、かつ、前記シリコン基板の裏面側では、前記外周部のみを直接被覆する窒化シリコン膜を形成する第3工程と、を含むことを特徴とする、III族窒化物半導体エピタキシャル基板の製造方法。
【0022】
(4)前記第3工程の後、前記酸化シリコン層を除去する第4工程を更に含む、上記(3)に記載の製造方法。
【0023】
(5)前記第1工程において、前記シリコン基板の裏面側の前記外周部にレジストを塗布し、次いで前記シリコン基板の裏面側に酸化シリコン膜を形成し、その後、前記レジストを除去して前記酸化シリコン層を形成する、上記(3)または(4)に記載の製造方法。
【0024】
(6)前記第1工程において、前記シリコン基板の裏面側全体に酸化シリコン膜を形成し、その後、前記外周部を被覆する部分の酸化シリコン膜をエッチングして前記酸化シリコン層を形成する、上記(3)または(4)に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、窒化シリコン膜が酸化シリコン層を被覆することがないので、III族窒化物半導体エピタキシャル基板の主面へのパーティクル付着が抑制されたIII族窒化物半導体エピタキシャル基板およびパーティクル付着を抑制することのできるIII族窒化物半導体エピタキシャル基板ならびにその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。なお、同一の構成要素には原則として同一の参照番号を付して、説明を省略する。また、既述の
図2,3および後述の
図4〜
図7において、説明の便宜上、各層、各膜および基板等の縦横の比率を実際の比率から誇張して図示している。但し、
図4〜
図7では、図面の簡略化のためにシリコン基板20の周縁部を簡略化して図示している。
【0028】
(第1実施形態:III族窒化物半導体エピタキシャル基板の製造方法)
図4(A)〜(D)に示すように、本発明の第1実施形態に従うIII族窒化物半導体エピタキシャル基板100の製造方法は、シリコン基板20の裏面側の外周部22を除く領域21の表面に酸化シリコン層10を形成する第1工程(
図4(A),(B))と、シリコン基板20の主面に複数層のIII族窒化物層をエピタキシャル成長させて主積層体30を形成する第2工程(
図4(C))と、主積層体30およびシリコン基板20を被覆し、かつ、シリコン基板20の裏面側では、外周部22のみを直接被覆する窒化シリコン膜40を形成する第3工程(
図4(D))と、を含むことを特徴とする。かかる行程を経て製造されたIII族窒化物半導体エピタキシャル基板100は、裏面側の酸化シリコン膜10を除去する際に、III族窒化物半導体エピタキシャル基板100の主面へのパーティクル付着を抑制することができる。なお、窒化シリコン膜40のうち、シリコン基板20の裏面側の外周部22における部分を窒化シリコン膜40の一部分40aと表記する。本実施形態において、窒化シリコン膜40の一部分40aは、酸化シリコン層10を被覆せず、重なることがない。以下、各工程の詳細を順に説明する。
【0029】
第1工程では、
図4(A)に示すように、まずシリコン基板20を用意する。シリコン基板20の面方位は特に指定されず、(111),(100),(110)面等の任意の面方位を使用することができる。III族窒化物の(0001)面を表面平坦性よく成長させるためには、(111)面を使用することが好ましい。シリコン基板20の導電性については、10000Ω・cm以上の絶縁性の高い高比抵抗基板から、0.001Ω・cm程度までの低比抵抗基板まで、用途に応じて適宜使用することができる。なお、シリコン基板20は、p型、n型いずれの伝導型としてもよい。このシリコン基板20の製法としては、CZ法、FZ法等各種方法を用いることができる。シリコン基板20としては、バルクのシリコン単結晶基板以外にも基板の主面に、Si,SiC等をエピタキシャル成長させた基板を用いてもよい。なお、シリコン基板20の基板表裏面に自然酸化膜が形成されていてもよいが、この場合、後述の第3工程を行うまでに、少なくとも裏面側の外周部22における自然酸化膜を除去しておく。シリコン基板20の厚さおよび幅等のその他の仕様は、III族窒化物半導体エピタキシャル基板100の用途に応じて、適宜設計すればよい。
【0030】
特に、III族窒化物半導体エピタキシャル基板100を高周波特性に優れた電子デバイス用エピタキシャル基板として作製するためには、シリコン基板20の比抵抗を、1000Ω・cm以上とすることが好ましい。このような基板は、Si結晶の高純度化が容易なFZ法により作製することができる。
【0031】
次に、
図4(B)に示すように、シリコン基板20の裏面側の外周部22を除く領域21における表面に酸化シリコン層10を形成する。酸化シリコン層10の形成方法は後述する。なお、後述の酸化シリコン膜を含めて、「酸化シリコン」の記載が、化学量論としてのSiO
2への限定を意図するものではなく、シリコン基板20に通常形成される酸化シリコン(SiO
x)を意味する。
【0032】
ここで、酸化シリコン層10は、シリコン基板20の裏面を保護することができ、さらに、シリコン基板裏面に回りこんでp型のキャリアとなるIII族元素が基板中に拡散し、シリコン基板20の導電性が大きくなってしまうことを防ぐこともできる。その結果、シリコン基板20の裏面側の外周部22を除く領域21の表面から1μmの深さ位置までの範囲において、III族元素の濃度を、1×10
16atoms/cm
3以下とすることができる。すなわち、酸化シリコン層10は不純物拡散抑制層としても機能する。シリコン基板20の裏面の外周部22に酸化シリコンが形成されていなくとも、外周部はデバイスとして用いられることがない。そのため、酸化シリコン層10がシリコン基板10の裏面全体に設けられていなくても、III族窒化物半導体エピタキシャル基板100を電子デバイス用エピタキシャル基板として用いた場合に行われることのある、電磁誘導方式などで測定する非接触式のシート抵抗測定に影響しない。
【0033】
なお、シリコン基板20の主面および裏面は、いずれも領域21および外周部22に区画されるのは前述のとおりであり、外周部22は、シリコン基板20の端面と、端面から1〜5mm程度の範囲で任意に設定される内側の線との間で区画される。窒化シリコン膜40については詳細を後述するが、シリコン基板20の裏面において、窒化シリコン膜40と酸化シリコン層10とが重ならないことが肝要であり、シリコン基板20の裏面上で窒化シリコン膜40と酸化シリコン層10との間に間隙が設けられて離隔していてもよい。但し、不純物汚染を抑制する観点では、後述の第3工程における窒化シリコン膜40の形成条件を踏まえて、間隙を設けないように酸化層10を形成することが好ましい。この場合、外周部20を、シリコン基板20の端面から5mmまでの範囲とすることが好ましく、2mmまでの範囲とすることがより好ましい。
【0034】
酸化シリコン層10の形成方法は限定されないが、例えば
図5に示すように、シリコン基板20の裏面の外周部22にレジストRを塗布し、次いでシリコン基板20裏面に酸化シリコン膜10′を形成し、その後、レジストRを除去することで、酸化シリコン層10を領域21の表面に形成することができる。
【0035】
ここで、酸化シリコン膜10′は、化学気相成長(CVD: chemical vapor deposition)法および熱酸化法などの常法に従い形成することができる。熱酸化法の場合、シリコン基板20表面全体に酸化シリコン膜が形成されるので、主面側および側面の酸化シリコン膜については除去すればよい。酸化シリコン膜10′の厚みは特に限定されないが、基板中央部分において例えば10nm〜10μmとすることができる。上記の不純物拡散抑制層として機能させるには100nm以上とすることがより好ましい。
【0036】
また、レジストRとしては、ネガ型の他、ポジ型などを用いることができる。アセトンなどを用いてレジストRを溶解することにより、レジストR上の酸化シリコン膜10′がリフトオフされ、裏面中央部上のみに酸化シリコン層10が形成される。このリフトオフの際に、シリコン基板20に自然酸化膜が予め形成されている場合でも、外周部22における自然酸化膜は除去される。
【0037】
他にも、シリコン基板20の裏面全体に酸化シリコン膜10′を形成し、その後、外周部22をエッチングして酸化シリコン層10を形成してもよい。すなわち、
図6(A)〜(C)に示すように、まず、シリコン基板20の裏面全体に酸化シリコン膜10′を形成する。その後、外周部22に形成された部分の酸化シリコン膜10′をエッチングする。
【0038】
エッチングとしては、例えば酸化シリコン膜10′の領域21上方にマスクを形成し、エッチング液によりマスクの形成されていない外周部22にある部分の酸化シリコン膜10′を除去し、最後にマスクを除去すれば、酸化シリコン層10が形成される(図示せず)。なお、酸化シリコン膜10′のエッチング液としてはバッファードフッ酸(BHF)、フッ酸(HF)などを用いることができる。このエッチングの際に、シリコン基板20に自然酸化膜が形成されている場合でも、外周部22における自然酸化膜は除去される。
【0039】
次の第2工程では、
図4(C)に示すように、裏面側の領域21に酸化シリコン層10が形成されたシリコン基板20の主面に、複数層のIII族窒化物層をエピタキシャル成長させて主積層体30を形成する。
【0040】
この主積層体30は、化学気相成長法を用いてエピタキシャル成長させることにより形成することができ、有機金属気相成長(MOCVD: Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法を用いることが好ましい。MOCVD法におけるIII族原料としては、TMA(トリメチルアルミニウム)・TMG(トリメチルガリウム)等、V族原料としてはアンモニア等を用い、キャリアガスとして、水素および窒素ガス等を用いることができる。詳細を後述するが、本実施形態により製造されたIII族窒化物半導体エピタキシャル基板100を、HEMTなどの横方向を電流導通方向とする電子デバイス用エピタキシャル基板として用いる場合には、主積層体30は、シリコン基板20から順に、バッファ、チャネル層および電子供給層を含むことが好ましい。後述のIII族窒化物半導体エピタキシャル基板200の主積層体30についでも同様である。なお、図面の簡略化のために、主積層体30の複数層構造については、ここでは図示しない。
【0041】
続く第3工程では、
図4(D)に示すように、主積層体30およびシリコン基板20を被覆し、かつ、シリコン基板20の裏面側では、外周部22のみを直接被覆する窒化シリコン膜40を形成する。なお、窒化シリコン膜はシリコン基板20の端面およびベベルを含む側面部を被覆する。ここで、シリコン基板20の裏面側において、酸化シリコン層10と、窒化シリコン膜40の一部分40aとが重なることなく、外周部22のみにおいて、窒化シリコン膜の一部分40aが形成されることが、本発明において肝要である。なお、「窒化シリコン」の記載が、化学量論としてのSi
3N
4への限定を意図するものではなく、通常形成される窒化シリコン(SiN
x)を意味する。外周部22における窒化シリコンは、エネルギー分散X線分光法(EDS; Energy Dispersive X-ray Spectrometry)によりSiおよびNのピークの有無を検出して確認することができる。
【0042】
窒化シリコン膜40は、MOCVD法、プラズマCVD法または電子ビーム(EB)蒸着法等によって形成することができる。既述のとおり、
図4(D)に図示するようにシリコン基板20および主積層体30を被覆する窒化シリコン膜40を形成する際には、窒化シリコンが基板裏面の領域22にも回り込むことを本発明者らは知見した。なお、窒化シリコン膜40の厚みは特に限定されず、用途に応じて適宜定めることができ、限定を意図しないものの、主積層体上面の中央部分において例えば10nm〜1μmとすることができ、窒化シリコン膜40の一部分40aの厚みを例えば10nm〜1μmとすることができる。MOCVD法の場合、例えば成長時間を調整することで、窒化シリコンの裏面側での析出領域をシリコン基板20の端面から1.0mm〜2.0mmまでの範囲で調整することができる。なお、成長中の基板が下凸に反るほど、裏面側での析出領域の範囲が広がる。そのため、下凸の反りがあれば、窒化シリコンの裏面側での析出領域がシリコン基板20の端面から1.0〜3.0mmまで及ぶ場合がある。とくにオリフラ付近の裏面側での析出領域が大きくなる。そのため、主積層体上面の中央部分における窒化シリコン膜を厚くしたい場合には、基板の反りを小さくすることが好ましい。
【0043】
以上のとおりにして得られたIII族窒化物半導体エピタキシャル基板100は、
図3に示したIII族窒化物半導体エピタキシャル基板100′とは異なり、シリコン基板20の裏面側において、酸化シリコン層10と、窒化シリコン膜40の一部分40aとで重なる部分がない。したがって、酸化シリコン層10をエッチング等によって除去する際に、除去後に酸化シリコン層一部が残存したり、酸化シリコン層を介して基板と接合していた窒化シリコン層の一部が、酸化シリコン層が除去されたことによって基板と離間して浮遊物となったりすることを防止することができる。シリコン基板20の裏面側の外周部22に位置する窒化シリコン膜40aはシリコン基板20の裏面に直接着いているため、III族窒化物半導体エピタキシャル基板100主面へのパーティクル付着を抑制することができる。
【0044】
なお、上記実施形態では第1工程を先に行い、次いで第2工程を行っているが、この順序を入れ替えても構わない。ただし、基板成長面を入れ替える際の汚染を避けるために上記実施形態と同様に第1工程、第2工程の順に行うことが通常であり、好ましい。
【0045】
(第2実施形態)
また、本発明に従う第2実施形態に係るIII族窒化物半導体エピタキシャル基板200の製造方法は、既述の第1実施形態における第1〜第3工程の後、酸化シリコン層10を除去する第4工程を更に含むことが好ましい。
【0046】
すなわち、本発明の第2実施形態に従うIII族窒化物半導体エピタキシャル基板200の製造方法は、シリコン基板20の裏面側の外周部22を除く領域21の表面に酸化シリコン層10を形成する第1工程(
図4(A),(B))と、シリコン基板20の主面に複数層のIII族窒化物層をエピタキシャル成長させて主積層体30を形成する第2工程(
図4(C))と、主積層体30およびシリコン基板20を被覆し、かつ、シリコン基板20の裏面側では、外周部22のみを直接被覆する窒化シリコン膜40を形成する第3工程(
図4(D))と、を含み、酸化シリコン層10を除去する第4工程(
図4(E))を更に含むことを特徴とする。この場合、シリコン基板20の裏面側の領域21では、シリコン基板20が露出することとなる。
【0047】
第1〜第3工程は前述の第1実施形態と同様であり、重複する説明を省略する。酸化シリコン層10の除去は、常法に従い行うことができ、エッチング液としてはバッファードフッ酸(BHF)、フッ酸(HF)などを用いることができる。
【0048】
かかる行程を経て製造されたIII族窒化物半導体エピタキシャル基板200は、III族窒化物半導体エピタキシャル基板の主面へのパーティクル付着が抑制される。
【0049】
(第3実施形態:III族窒化物半導体エピタキシャル基板)
本発明の一実施形態に従うIII族窒化物半導体エピタキシャル基板200は、シリコン基板20と、シリコン基板20の主面上に、複数層のIII族窒化物層がエピタキシャル成長して形成された主積層体30と、主積層体30およびシリコン基板20を被覆する窒化シリコン膜40と、を有する。ここで、シリコン基板20の裏面側では窒化シリコン膜40がシリコン基板20の外周部22のみを直接被覆し、かつ、裏面側の外周部22を除く領域21でシリコン基板20が露出することが本実施形態の特徴である。本実施形態に従うIII族窒化物半導体エピタキシャル基板200は、III族窒化物半導体エピタキシャル基板の主面へのパーティクル付着を抑制することができる。
【0050】
ここで、前述のとおり、III族窒化物半導体エピタキシャル基板200をHEMTなどの横方向を電流導通方向とする電子デバイス用エピタキシャル基板として用いることが好適であり、この場合、主積層体30は、シリコン基板20から順に、バッファ31、チャネル層32および電子供給層33を含むことが好ましい(
図7)。
【0051】
この場合、バッファ31は、超格子構造または傾斜組成構造を有することも好ましい。超格子構造とは、
図7に示すように、第1層32cと第2層32dを周期的に含むように積層することを意味する。第1層32cと第2層32d以外の層(たとえば組成遷移層)を含んでもよい。なお、傾斜組成構造とは、特定のIII族元素含有量を膜厚方向に傾斜させることを意味する。
【0052】
さらに、バッファ31は、
図7に示すように、シリコン基板20と接する初期成長層31aおよび初期成長層31a上の超格子積層構造からなる超格子積層体31bを有することも好ましい。初期成長層31aは例えばAlN材料からなることができ、初期成長層31aをAlNで形成することにより、シリコン基板20との反応を抑制し、HEMTにおける縦方向耐圧の向上を可能とする。これは、初期成長層31aをGa,Inを含むIII族窒化物材料で形成した場合、Ga,Inが基板のSiと反応して欠陥を発生させ、エピタキシャル層内に貫通欠陥を誘起することによる、縦方向耐圧の低下の抑制を目的としている。ただし、ここでいうAlN材料は、1%以下の微量不純物を含んでいてもよく、例えば、上記Ga,Inをはじめとして、Si,H,O,C,B,Mg,As,Pなどの不純物を含むことができる。なお、バッファ31のC濃度を1×10
18atoms/cm
3以上とすることも好ましい。縦方向耐圧を向上することができる。
【0053】
チャネル層32は、B
a1Al
b1Ga
c1In
d1N(0≦a
1≦1,0≦b
1≦1,0≦c
1≦1,0≦d
1≦1,a
1+b
1+c
1+d
1=1)とすることができ、電子供給層33は、チャネル層32よりバンドギャップの大きな、B
a2Al
b2Ga
c2In
d2N(0≦a
2≦1,0≦b
2≦1,0≦c
2≦1,0≦d
2≦1,a
2+b
2+c
2+d
2=1)とすることができる。この際、両層とも単一もしくは複数の組成から構成してもよい。合金散乱をさけ、電流導通部分の比抵抗を下げるためには、チャネル層の少なくとも電子供給層と接する部分をGaN(a
1=0,b
1=0,c
1=1,d
1=0)とすることが好ましい。チャネル層全体をGaNとしてもよい。
【0054】
前述のバッファ、チャネル層および電子供給層は常法に従い形成することができる。また、既述のように、III族窒化物半導体エピタキシャル基板の窒化シリコン膜40上にソース電極、ゲート電極およびドレイン電極を形成することにより、HEMTとすることができる。
【0055】
なお、
図7に示したIII族窒化物半導体エピタキシャル基板は、本発明に従う一実施形態を示したものであって、本発明はこの実施形態に限定されるものではない。たとえば、各層の間に本発明の効果に悪影響を与えない程度の中間層や他の超格子層を挿入したり、組成に傾斜をつけたりすることもできる。
【0056】
(第4実施形態:III族窒化物半導体エピタキシャル基板)
本発明の別の実施形態に従うIII族窒化物半導体エピタキシャル基板100は、シリコン基板20と、シリコン基板20の主面上に、複数層のIII族窒化物層がエピタキシャル成長して形成された主積層体30と、主積層体30およびシリコン基板20を被覆する窒化シリコン膜40と、を有する。ここで、シリコン基板20の裏面側では、窒化シリコン膜40がシリコン基板20の外周部22のみを直接被覆し、シリコン基板20の裏面側の外周部22を除く領域21の表面には、酸化シリコン層10が設けられることが本実施形態の特徴である。既述のとおり、同一の構成要素には原則として同一の参照番号を付して、説明を省略する。
【0057】
本実施形態に従うIII族窒化物半導体エピタキシャル基板100は、シリコン基板20裏面の酸化シリコン層10を除去する際に、III族窒化物半導体エピタキシャル基板の主面へのパーティクル付着を抑制することができる。
【0058】
なお、第1実施形態および第2実施形態に係る製造方法は、本発明に従うIII族窒化物半導体エピタキシャル基板100,200の製造方法の一実施形態に過ぎず、他の製造方法により、本発明に従うIII族窒化物半導体エピタキシャル基板100,200を製造してもよいことはもちろんである。
【0059】
以下、実施例を用いて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0060】
(実施例1)
図4,5に示すフローチャートに従い、実施例1に係るIII族窒化物半導体エピタキシャル基板を作製した。すなわち、まず、(111)面、3インチのシリコン単結晶基板(厚さ:600μm,比抵抗:6×10
3Ω・cm)を用意した。次に、シリコン単結晶基板の裏面外周部(シリコン基板の端面から3mmまでの範囲)にレジスト(AZ5218E、厚さ:2.0μm)を塗布した。なお、本実施例において、外周部は、シリコン単結晶基板の端面と端面から3mm内側の線との間の領域である。その後、プラズマCVD法により、基板の両面に酸化シリコン膜を形成し、さらに主面側の酸化シリコン膜を除去し、裏面のみに酸化シリコン膜(厚さ:0.3μm)を形成した。次いで、アセトンを用いてレジストを溶解除去して、リフトオフした。こうして、裏面外周部を除く領域の表面のみに酸化シリコン層を形成した。その後、シリコン基板の表面にエピレディ処理をおこなった。
【0061】
次いで、シリコン基板の主面上に、初期成長層(AlN材料,厚さ:100nm)および超格子積層体(AlN,厚さ:4nmおよびAl
0.10Ga
0.90N,厚さ:25nm、合計75層)を成長させてバッファを形成し、さらにこの超格子積層体上にチャネル層(GaN,厚さ:0.75μm)および電子供給層(Al
0.15Ga
0.85N,厚さ:40nm)をMOCVD法によりエピタキシャル成長させて主積層体を形成した。III族原料としては、TMA(トリメチルアルミニウム)・TMG(トリメチルガリウム)、V族原料としてはアンモニアを用い、キャリアガスとして、水素および窒素ガスを用いた。
【0062】
さらに、主積層体を被覆する窒化シリコン膜をMOCVD法In-Situ(その場)成長により形成した。原料ガスとしては、SiH
4およびNH
3を用いた。主積層体上面の中央部分の窒化シリコン膜の厚さは150nmである。このとき、原料ガスがシリコン単結晶基板の裏面外周部にまで回り込み、裏面側の外周部にも窒化シリコン膜が形成された。裏面側において、窒化シリコン膜は、シリコン単結晶基板の端面から最大で2mmまでの範囲に形成されていることを、SEM−EDS(エネルギー分散型X線分光分析)による元素マッピングにより観察した。最後に、シリコン基板裏面に形成した酸化シリコン膜をBHFで除去し、実施例1に係るIII族窒化物半導体エピタキシャル基板を作製した。なお、TXRF(全反射蛍光X線分析)にてシリコン基板裏面(ウェハ中心部)のごく浅い表層の不純物を測定したところ、測定した全範囲で、Ga、Al等の主積層体の構成元素が検出され、Fe、Cr、Niなどの不純物濃度は、1×10
11atoms/cm
2以下であった。
【0063】
(比較例1)
実施例1におけるレジスト塗布およびレジスト除去を行わなかった以外は、実施例1と同様にして、比較例1に係るIII族窒化物半導体エピタキシャル基板を作製した。すなわち、比較例1に係るIII族窒化物半導体エピタキシャル基板は、
図2に示す裏面全体に酸化シリコンを形成したIII族窒化物半導体エピタキシャル基板を形成した後に、この酸化シリコンを除去して作製したものである。裏面側において、窒化シリコン膜は、シリコン単結晶基板の端面から最大で2mmまでの範囲に形成されていることを、SEM−EDSによる元素マッピングにより観察した。なお、実施例と比較すると外周部の色が異なった。これは、外周部において酸化シリコンを被覆するように窒化シリコン膜が形成されたからだと考えられる。
【0064】
(評価)
裏面側の酸化シリコン層を除去した後の、実施例1および比較例1に係るIII族窒化物半導体エピタキシャル基板の裏面のオリエンテーションフラット近傍を蛍光灯下においてデジタルカメラにてそれぞれ撮影した。結果を
図8(A),(B)に示す。また、表1に、酸化シリコン除去後のパーティクル付着の有無を示す。
【0065】
【表1】
【0066】
図8(A)ではシリコン基板の裏面に膜残りがなく、実施例1ではシリコン表面が露出していることが確認できた。一方、
図8(B)では曇りが観察されることから、比較例1では部分的に酸化層が残っていることが確認できた。また、比較例1では外周部に(とくにオリフラ部において顕著に)窒化シリコン膜に被覆された酸化層が溶けずに残存していた。従って、比較例1において、エピタキシャル基板をデバイス作製に供する際には、酸化層を完全に除去する必要があるので、この酸化層と、酸化層を完全に除去しようとした際の外周部のシリコン基板との密着性を欠いた部分の窒化シリコン膜がパーティクル付着の原因となる。これに対して、実施例1では、主面へのパーティクル付着の原因を抑制できていることがわかる。したがって、シリコン基板の裏面において、酸化シリコン層が被覆されないように窒化シリコン膜を形成することで、酸化シリコン層を除去したときに、主面へのパーティクル付着を防止できることがわかった。