特許第5941612号(P5941612)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5941612
(24)【登録日】2016年5月27日
(45)【発行日】2016年6月29日
(54)【発明の名称】研磨用組成物
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/304 20060101AFI20160616BHJP
   B24B 37/00 20120101ALI20160616BHJP
   C09K 3/14 20060101ALI20160616BHJP
【FI】
   H01L21/304 622B
   B24B37/00 H
   C09K3/14 550D
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2010-193558(P2010-193558)
(22)【出願日】2010年8月31日
(65)【公開番号】特開2012-54281(P2012-54281A)
(43)【公開日】2012年3月15日
【審査請求日】2012年9月18日
【審判番号】不服2014-15580(P2014-15580/J1)
【審判請求日】2014年8月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000236702
【氏名又は名称】株式会社フジミインコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】芦高 圭史
(72)【発明者】
【氏名】森永 均
(72)【発明者】
【氏名】田原 宗明
【合議体】
【審判長】 平岩 正一
【審判官】 渡邊 真
【審判官】 落合 弘之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−266597(JP,A)
【文献】 特開2009−176397(JP,A)
【文献】 特開2001−150334(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L21/304
H01L21/463
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コロイダルシリカを含有する研磨用組成物であって、コロイダルシリカの平均アスペクト比をA(無次元)、コロイダルシリカの平均粒子径をD(単位nm)、コロイダルシリカの粒子径の標準偏差をE(単位nm)、コロイダルシリカ中に占める粒子径が1〜300nmである粒子の体積割合をF(単位%)としたとき、式:A×D×E×Fで求められる値が370,000以上且つ459401以下であり、なおかつ、コロイダルシリカ中に占める粒子径が1〜300nmである粒子の体積割合が90%以上であり、コロイダルシリカ中に占める粒子径が50nm以上でかつアスペクト比が1.2以上である粒子の体積割合は50%以上であることを特徴とする研磨用組成物。
【請求項2】
コロイダルシリカ中に占める粒子径が300nmを超える粒子の体積割合は2%未満である、請求項1に記載の研磨用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体デバイス材料からなる研磨対象物、例えばシリコンウェーハをはじめとする半導体ウェーハを研磨する用途で主に使用される研磨用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、より高い研磨速度を得ることを主な目的として、非球形のコロイダルシリカやバイモーダルの粒子径分布を有するコロイダルシリカを研磨用組成物の砥粒として使用することが知られている(例えば、特許文献1及び2参照)。
【0003】
しかしながら、沈降安定性も含めた総合的な特性に関してより良好なコロイダルシリカを求める要求は依然として高い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平07−221059号公報
【特許文献2】特開2007−137972号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで本発明の目的は、優れた研磨速度と沈降安定性を両立したコロイダルシリカを含んだ研磨用組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、本発明の一様態では、コロイダルシリカを含有する研磨用組成物であって、コロイダルシリカの平均アスペクト比をA(無次元)、コロイダルシリカの平均粒子径をD(単位nm)、コロイダルシリカの粒子径の標準偏差をE(単位nm)、コロイダルシリカ中に占める粒子径が1〜300nmである粒子の体積割合をF(単位%)としたとき、式:A×D×E×Fで求められる値が370,000以上且つ459401以下であり、なおかつ、コロイダルシリカ中に占める粒子径が1〜300nmである粒子の体積割合が90%以上であり、コロイダルシリカ中に占める粒子径が50nm以上でかつアスペクト比が1.2以上である粒子の体積割合は50%以上であることを特徴とする研磨用組成物を提供する。
【0008】
記の態様において、コロイダルシリカ中に占める粒子径が300nmを超える粒子の体積割合は2%未満であることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、優れた研磨速度と沈降安定性を両立したコロイダルシリカを含んだ研磨用組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一実施形態を説明する。
本実施形態の研磨用組成物は、少なくともコロイダルシリカを含有し、半導体デバイス材料からなる研磨対象物、例えばシリコンウェーハや化合物半導体ウェーハなどの半導体ウェーハ、あるいはウェーハ上に形成された誘電体物質又は導電体物質の膜を研磨する用途で主に使用される。
【0011】
研磨用組成物中のコロイダルシリカの平均アスペクト比をA(無次元)、コロイダルシリカの平均粒子径をD(単位nm)、コロイダルシリカの粒子径の標準偏差をE(単位nm)、コロイダルシリカ中に占める粒子径が1〜300nmである粒子の体積割合をF(単位%)としたとき、これらの積、すなわちA×D×E×Fの値は、350,000以上であることが必須であり、好ましくは370,000以上である。また、コロイダルシリカのアスペクト比の標準偏差をB(無次元)としたとき、A×B×D×E×Fの値は、30,000以上であることが好ましく、より好ましくは60,000以上である。
【0012】
コロイダルシリカ中の各粒子のアスペクト比は、走査型電子顕微鏡による当該粒子の画像に外接する最小の長方形の長辺の長さを同じ長方形の短辺の長さで除することにより求めることができる。コロイダルシリカの平均アスペクト比及びアスペクト比の標準偏差は、走査型電子顕微鏡の視野範囲内にある複数の粒子のアスペクト比の平均値及び標準偏差であり、これらは一般的な画像解析ソフトウエアを用いて求めることができる。
【0013】
コロイダルシリカ中の各粒子の粒子径は、走査型電子顕微鏡による当該粒子の画像の面積を計測し、それと同じ面積の円の直径として求めることができる。コロイダルシリカの平均粒子径及び粒子径の標準偏差は、走査型電子顕微鏡の視野範囲内にある複数の粒子の粒子径の平均値及び標準偏差であり、これらも一般的な画像解析ソフトウエアを用いて求めることができる。
【0014】
A×D×E×Fの値が350,000以上である場合、さらに言えば370,000以上である場合には、コロイダルシリカの平均アスペクト比が比較的高く、かつコロイダルシリカ中に研磨に有効なサイズの粒子が比較的多く含まれ、かつコロイダルシリカの粒子径分布が比較的ブロードであることが理由で、高い研磨速度を得ることが可能となる。
【0015】
A×B×D×E×Fの値が30,000以上である場合、さらに言えば60,000以上である場合には、さらにコロイダルシリカのアスペクト比の分布が比較的ブロードであることが理由で、研磨用組成物による研磨速度をより向上させることができる。
【0016】
コロイダルシリカ中に占める粒子径が1〜300nmである粒子の体積割合(F)は、90%以上であることが必須であり、好ましくは95%以上である。この値が90%以上である場合、さらに言えば95%以上である場合には、コロイダルシリカ中に沈降しやすい粗大な粒子が少ないことが理由で、高い沈降安定性を得ることが可能となる。研磨用組成物の沈降安定性が劣る場合には、研磨用組成物を用いて研磨した後の研磨対象物の表面に多数のスクラッチが生じたり、当該表面の平滑性が良好でなかったり、研磨中の研磨用組成物の供給安定性が得られずに研磨速度が安定しないなどの不都合の原因となる。なお、コロイダルシリカ中の各粒子の体積は、先に説明した方法で求められる当該粒子の粒子径を直径とする球の体積として求めることができる。
【0017】
コロイダルシリカ中に占める粒子径が50nm以上でかつアスペクト比が1.2以上である粒子の体積割合は50%以上であることが好ましく、より好ましくは60%以上である。この値が50%以上である場合、さらに言えば60%以上である場合には、コロイダルシリカ中に研磨に特に有効なサイズ及びアスペクト比の粒子が比較的多く含まれることが理由で、研磨用組成物による研磨速度をより向上させることができる。
【0018】
コロイダルシリカ中に占める粒子径が300nmを超える粒子の体積割合は2%未満であることが好ましく、より好ましくは1.5%未満である。この値が2%未満である場合、さらに言えば1.5%未満である場合には、研磨用組成物の沈降安定性をより向上させることができる。
【0019】
研磨用組成物中のコロイダルシリカの含有量は特に限定されるものでないが、一般的には0.1〜20質量%であることが好ましく、より好ましくは1.0〜15質量%、さらに好ましくは3.0〜10質量%である。
【0020】
研磨用組成物のpHは、研磨対象物の種類に応じて適宜に設定される。研磨用組成物のpHは、例えば、研磨対象物がシリコンウェーハである場合には10〜12であることが好ましく、ヒ化ガリウムなどの化合物半導体である場合には6〜10であることが好ましく、半導体デバイスである場合には2〜11であることが好ましい。研磨対象物がガラスである場合には、研磨用組成物のpHは2〜4又は9〜11の範囲であることが好ましい。pHの調整は、アルカリ又は酸を研磨用組成物に添加することにより行うことができる。
【0021】
本実施形態によれば以下の利点が得られる。
・ 本実施形態の研磨用組成物中に含まれるコロイダルシリカの平均アスペクト比A(無次元)、平均粒子径D(単位nm)、粒子径の標準偏差E(単位nm)及び粒子径が1〜300nmである粒子の体積含有率F(単位%)の積(A×D×E×Fの値)は350,000以上である。これにより、コロイダルシリカの平均アスペクト比が比較的高く、かつコロイダルシリカ中に研磨に有効なサイズの粒子が比較的多く含まれ、かつコロイダルシリカの粒子径分布が比較的ブロードであることが理由で、本実施形態の研磨用組成物は高い研磨速度で研磨対象物を研磨することができる。また、研磨用組成物中に含まれるコロイダルシリカに占める粒子径が1〜300nmである粒子の体積割合が90%以上であることにより、コロイダルシリカ中に沈降しやすい粗大な粒子が少ないことが理由で、本実施形態の研磨用組成物は高い沈降安定性を有する。よって、本実施形態によれば、優れた研磨速度と沈降安定性を両立したコロイダルシリカを含んだ研磨用組成物を提供することができる。
【0022】
前記実施形態は次のように変更してもよい。
・ 前記実施形態の研磨用組成物は、公知の添加剤を必要に応じてさらに含有してもよい。例えば、(a)アルカリ金属の水酸化物、アルカリ金属塩、アンモニア、アンモニウム塩、アミン、アミン化合物、第四級アンモニウム水酸化物、第四級アンモニウム塩等のアルカリ、(b)塩酸、リン酸、硫酸、ホスホン酸、硝酸、ホスフィン酸、ホウ酸等の無機酸、あるいは、酢酸、イタコン酸、コハク酸、酒石酸、クエン酸、マレイン酸、グリコール酸、マロン酸、メタンスルホン酸、ギ酸、リンゴ酸、グルコン酸、アラニン、グリシン、乳酸、hydroxyethylidene diphosphonic acid(HEDP)、nitrilotris[methylene phosphonic acid](NTMP)、phosphonobutane tricarboxylic aci d(PBTC)等の有機酸、(c)ノニオン性、アニオン性、カチオン性又は両性の界面活性剤、(d)水溶性セルロース、ビニル系ポリマー、ポリアルキレンオキサイド等の水溶性ポリマー、(e)ポリアミン、ポリホスホン酸、ポリアミノカルボン酸、ポリアミノホスホン酸等のキレート剤、(f)過酸化水素、過酸化物、オキソ酸、酸性金属塩化合物等の酸化剤、(g)防かび剤、殺菌剤、殺生物剤等のその他の添加剤のいずれかを含有してもよい。
【0023】
・ 前記実施形態の研磨用組成物は、研磨用組成物の原液を水で希釈することによって調製されてもよい。
・ 前記実施形態の研磨用組成物は、半導体デバイス材料からなる研磨対象物を研磨する以外の用途で使用されてもよい。
【0024】
次に、本発明の実施例及び比較例を説明する。
実施例1〜3及び比較例1〜10では、コロイダルシリカスラリーを純水で希釈した後、48質量%水酸化カリウム水溶液を用いてpH11.0に調整することにより研磨用組成物を調製した。いずれの研磨用組成物の場合も研磨用組成物中のコロイダルシリカの含有量は10.0質量%である。各例の研磨用組成物中に含まれるコロイダルシリカの詳細、各例の研磨用組成物を用いて測定した研磨速度の値、並びに各例の研磨用組成物の沈降安定性を評価した結果を表1に示す。
【0025】
【表1】
表1の“平均アスペクト比”欄には、各例の研磨用組成物中のコロイダルシリカの平均アスペクト比を測定した結果を示す。
【0026】
表1の“アスペクト比の標準偏差”欄には、各例の研磨用組成物中のコロイダルシリカのアスペクト比の標準偏差を測定した結果を示す。
表1の“粒子径が50nm以上でかつアスペクト比が1.2以上である粒子の体積含有率”欄には、各例の研磨用組成物中のコロイダルシリカに占める粒子径が50nm以上でかつアスペクト比が1.2以上である粒子の体積割合を測定した結果を示す。
【0027】
表1の“平均粒子径”欄には、各例の研磨用組成物中のコロイダルシリカの平均粒子径を測定した結果を示す。
表1の“粒子径の標準偏差”欄には、各例の研磨用組成物中のコロイダルシリカの粒子径の標準偏差を測定した結果を示す。
【0028】
表1の“粒子径が1〜300nmである粒子の体積含有率”欄には、各例の研磨用組成物中のコロイダルシリカに占める粒子径が1〜300nmである粒子の体積割合を測定した結果を示す。
【0029】
表1の“A×D×E×F”欄には、各例の研磨用組成物中のコロイダルシリカの平均アスペクト比、平均粒子径、粒子径の標準偏差及び粒子径が1〜300nmである粒子の体積含有率を乗ずることにより得られる値を示す。
【0030】
表1の“A×B×D×E×F”欄には、各例の研磨用組成物中のコロイダルシリカの平均アスペクト比、アスペクト比の標準偏差、平均粒子径、粒子径の標準偏差及び粒子径が1〜300nmである粒子の体積含有率を乗ずることにより得られる値を示す。
【0031】
表1の“研磨速度”欄には、各例の研磨用組成物を用いて、PE−TEOS(plasma-enhanced tetraethyl orthosilicate)ブランケットウェーハの表面を表2に記載の研磨条件で研磨したときの研磨速度を示す。研磨速度の値は、精密電子天秤を用いて測定される研磨前後のウェーハの重量の差に基づいて、以下の計算式に従って求めた。
【0032】
研磨速度[Å/min]=研磨前後のウェーハの重量の差[g]/研磨時間[分]/ウェーハ表面の面積[cm](=20.26cm)/TEOSの真密度[g/cm](=2.2g/cm)×10
表1の“沈降安定性”欄には、各例の研磨用組成物250mLを蓋付き透明樹脂容器に入れ、蓋を閉めて室温下にて5日間静置した後に、容器の底部を観察して固形の凝集物の有無を調べることにより、研磨用組成物の沈降安定性を評価した結果を示す。同欄中の×(不良)は容器の底部の全体にわたり凝集物が認められたことを示し、△(やや不良)は、容器の底部の全体にわたってではないものの凝集物が認められたこと、○(良)は、凝集物が認められなかったことを示す。
【0033】
【表2】
表1に示されるように、実施例1〜3の研磨用組成物を使用した場合にはいずれも、3800Å/分前後の高い研磨速度が得られた。また、実施例1〜3の研磨用組成物は沈降安定性も良好であった。それに対し、A×D×E×Fの値が350,000未満である比較例1,3〜10の研磨用組成物を使用した場合には、研磨速度に関して得られた値は低かった。また、コロイダルシリカ中に占める粒子径が1〜300nmである粒子の体積割合が90%未満である比較例2の研磨用組成物を使用した場合には、沈降安定性が良好ではなかった。