【実施例1】
【0027】
図1は、走査電子顕微鏡(SEM)の概略構成図である。電子銃101から発生した電子線102は、加速電極103によって加速され、コンデンサレンズ104により収束、偏向器105により偏向された後、試料107側に印加された負の電圧(リターディング電圧)により減速され、かつ対物レンズ106で最終的に径数nm(ナノメートル)の電子線に収束されて、観察対象である試料107の表面に入射する。
【0028】
入射した一次電子の一部は後方反射して反射電子111(後方散乱電子)となり、また一部は試料内を散乱しながら二次電子112を生成する。ここでリターディング電圧とは、試料107上の回路パターンを損傷させることなく電子線102を収束させるために、試料107(試料ホルダー108または試料ステージ109)側に印加される負の電圧であり、これによって電子線102の照射エネルギーが制御される。生成した反射電子111、二次電子112は反射板113と衝突して新たな電子を発生し、当該新たな電子は検出器114にて検出される。検出器114には光電子増倍管が内蔵されており、電子の検出量に応じて電圧を発生させるので、これを信号処理装置115で処理した後、画像表示部116にて画像として表示する。信号処理装置115は、試料から放出される二次電子等に基づいて、縦軸を信号量、横軸を電子線の走査位置とするプロファイル波形を形成する。そして当該プロファイル波形のピーク間の距離を求めることによって、パターン寸法を測定するように動作する。
【0029】
次に、二次電子112、反射電子111について信号検出を行う際の光学条件について説明する。二次電子は約50eV未満の低エネルギー信号電子であり、反射電子は約50eV以上の高エネルギー信号電子であるため、SEMを構成する各々の電極に与える電圧その他の光学パラメータを制御することによってこれらの信号検出を選択、及び両者の切り替えが可能である。上記の条件は、(1)電子光学系、または/及び(2)電子検出系において設定される。
【0030】
(1)では、電子銃101から照射された電子線102を、試料107側に加速するための正の加速電圧Vaから、減速させるための負の電圧(リターディング電圧Vr等)を引いた入射電圧の値が、正の方向に大きいほど二次電子信号検出量が増大し、反対にこの値が負の方向に大きいほど反射電子信号検出量が増大する。また、対面電極119や対物レンズ106上方に配置されたブースター電極110に対し、試料107側が持つ電圧よりも大きい負の電圧(ブースター電圧)を印加することで、エネルギーの低い二次電子112を試料107側へ引き戻し、高エネルギーの反射電子111のみを選択的に検出することも可能である。この場合、変換電極117に正の電圧を印加し、対物レンズ106よりも電子銃101側へ移動した反射電子111を更に引き上げて検出器114へ導入する。
【0031】
上記の方法にて反射電子111を検出する場合、絶縁材料を含む試料等において表面に帯電が生じる場合にも、試料表面の帯電を進行させることなく像を形成できるという利点がある。
【0032】
(2)では、試料107側から発生する電子を、エネルギーの大きさに応じて分離するエネルギーフィルタを用いた方法が適用される。
図8にエネルギーフィルタの基本構造を示す。エネルギーフィルタは、2枚のシールドメッシュ801aとフィルタメッシュ801bから構成される。また、これらのメッシュには電子線102を通過させるための開口802が設けられている。フィルタメッシュ801aは1枚であっても、複数枚あってもよく、フィルタ電圧を印加するための電源803が接続される。エネルギーの大きさに応じて分離された反射電子111、二次電子112は、反射電子検出器804a、二次電子検出器804bにそれぞれ検出される。
【0033】
上記の方法では、各々の検出器がエネルギーに応じて確実に分離された電子を検出できるため、分解能が高くなる。上記(1)、(2)の方法を凹凸がある半導体デバイスパターンや平坦は磁気ヘッドパターンなど、目的や用途に応じて適宜組み合わせることも可能である。電子光学系の切替えは予め装置の校正を行うことで正確な計測値を保証することが可能である。
【0034】
また、本実施の形態は上記(1)、(2)に限られるものではなく、これ以外にも、SEMを構成するその他の電極やコイルに印加または供給する電圧、電流等の光学パラメータを制御して反射電子111、二次電子112の信号検出光学条件を設定することが可能である。
【0035】
なお、SEMを構成する各々の電極やコイルは、
図9にて後述する制御装置によって、電圧、或いは電流が印加或いは供給される。制御装置は演算装置を備えてなり、当該演算装置は、レシピと呼ばれるSEMの動作プログラムに基づいて、装置を制御する。
【0036】
図9は、SEMを含む半導体測定、検査システムの概要構成図である。本システムには、SEM本体901、A/D変換器903、制御装置904が含まれている。
【0037】
SEM本体901は半導体ウエハ等の試料に電子線を照射し、試料から放出された電子を検出器902で捕捉し、A/D変換器903でデジタル信号に変換する。デジタル信号は制御装置904に入力されてメモリ906に格納され、各種機能を有する演算装置905に内像されるCPU等の画像処理ハードウェアによって、目的に応じた画像処理が行われる。また、演算装置905は、検出信号に基づいて、ラインプロファイルを作成し、プロファイルのピーク間の寸法を測定する機能も備えている。
【0038】
更に制御装置904は、入力手段を備えた入力装置907と接続され、当該入力装置907に設けられた表示装置、または外部ディスプレイ(図示せず)には、操作者に対して画像や測定結果を表示するGUI(Graphical User Interface)等の機能を有する。
【0039】
なお、制御装置904における制御や処理の一部又は全てを、CPUや画像の蓄積が可能なメモリを搭載した電子計算機等に割り振って処理・制御することも可能である。また、制御装置904は、測定等に必要とされる電子デバイスの座標、位置決めに利用するパターンマッチング用のテンプレート、撮像条件等を含む撮像レシピをメモリから読み出し、あるいは上記レシピを手動、もしくは電子デバイスの設計データを活用して作成する撮像レシピ作成装置とネットワーク等を介して接続することもできる。
【0040】
図3に基づいて、SEMにおけるビーム偏向の基本的な概念を説明する。
図3(A)は、試料上における電子線偏向の断面概略図である。電子線ビーム301があるパターン302からパターン303まで偏向するときの幅Lとする。
図3(B)に、SEMの電子光学系におけるレンズ、偏向器、走査コイル等の位置関係を示す。電子線301は対物絞り穴304を通過後、コンデンサレンズ305に収束され、試料面308上にて走査される。このとき、対物レンズ307の上に設けられた偏向器306に一定な電場または磁場を加えることにより、電子線を一定幅で指定した場所へ変更され、指定した倍率で走査し、像取得するよう調整する。ビーム偏向がイメージシフトと呼ばれ、イメージシフトX/Yコイルの制御動作量IS(X)(LSB),IS(Y)(LSB)と、イメージシフト実動作量即ち物理的な移動距離(L
def(X)(μm),L
def(Y)(μm)は、関係式(1)、(2)下記のように示されるが成り立つ。
【0041】
IS(X)(LSB)=A*L
def(X)(μm)+B*L
def(Y)(μm) (1)
IS(Y)(LSB)=C*L
def(X)(μm)+D*L
def(Y))(μm) (2)
A,B,C,Dはビーム偏向時のビーム偏向、ビーム回転を補正する所定の係数である、装置調整時予め一定な距離が分かるパターンを用いて校正を行い、偏向制御動作量と実偏向物理距離の補正テーブルを持つ。よって、実測長時のイメージシフトの制御偏向量から、上記の式(1)(2)を用いて物理的な移動距離L
def(X)とL
def(Y)を逆算で求められる。
【0042】
図4に任意パターン間の高精度計測原理を説明する。計測目的にするパターン401と402が試料上に配置され、両パターン間の距離L
x,L
yを求める。パターン形状はラインやホールと異なる、従来長方形の計測ボックスを置いてラインプロファイルを検出し、波形処理でパターン寸法を求めるのは困難である。
【0043】
また現状一定な計測精度を保証するため高倍率SEM条件を使用することが一般である。例え測定倍率100k以上は、視野範囲は1.35μm以下となり、両パターン間の距離は10μm以上となる場合は、高倍率で両パターン共に収めることは不可能である。逆に倍率を落として両パターンを共に収めて測定を行う時には、低倍率の計測精度保証は困難になる。高倍率計測と広い範囲計測が、原状計測手法の対応では両立している。
【0044】
本実施例では、任意パターンの計測配置問題及び高倍率と広い範囲の計測精度両立を解決する方法を提供する。
図7を用いて、ビーム偏向とパターンマッチングで任意パターン間の距離計測の具体的なフローについて説明する。まずステージを制御し、計測ターゲットとするパターン401、402の近傍にある基準点パターン403に移動する。基準点403からパターン401、402にビームをそれぞれ偏向して、各々のパターンの高倍率SEM像を取得する(S701)。次に、制御システムから、ビーム偏向した時の制御量(LSB単位)を読出し、上記式(1)(2)を用いて、実偏向距離、即ち基準点からのパターン距離(μm単位)L
def(X1,Y1)(パターン401−パターン403)及びL
def(X2,Y2)(パターン402−パターン403)を算出する。
【0045】
ここでは、一旦パターン401と402の間の距離は算出できる(S702)が、ビーム偏向の位置決め精度は電気的な制御の性能に制限され、約数十nmであり、デバイス性能を評価するための計測精度はサブnmレベルにはまだ不十分である。S703−705では上記高倍で各パターンのSEM画像処理によりビーム偏向のズレ分を補正し、偏向分の誤差を吸収してサブnmレベルの計測精度を達成する。
【0046】
図5には画像マッチングの一例を示す。基準点から偏向先にて高倍率で取得した画像と事前に登録した画像とのマッチングを行う(S703)。高倍率SEM視野範囲501内、上記401のパターンがSEM像502として取得されている。但し偏向量のズレ分で、事前に登録した画像503との場所ズレが生じる。逆にパターンマッチングすることで、ズレ量を算出することも可能で、画像マッチングの手法は多様で、次の節で幾つの例を説明する。一つの方法として、502と503パターンのそれぞれの重心を算出し、重心の位置差分を導き、画像処理ピクセル単位をμm単位に換算して画像のズレ分、即ち偏向量の誤差補正分L
mtchg(X1,Y1)(パターン401−パターン403)及びL
mtchg(X2,Y2)(パターン402−パターン403)を求められる。上記偏向量とあわせると、基準点パターンからの距離は
L
ptrn(X1,Y1)=L
mtchg(X1,Y1)+L
def(X1,Y1) (3)
L
ptrn(X2,Y2)=L
mtchg(X2,Y2)+L
def(X2,Y2) (4)
パターン402と403間の距離L
ptrn(X,Y)は
L
ptrn(X,Y)=L
ptrn(X1,Y1)−L
ptrn(X2,Y2) (5)
画像処理上、ピクセル単位をμm単位に換算するのは下記式(6)で求める。
【0047】
1ピクセルあたり距離(μm)=画像サイズ/(測定倍率xスキャンピクセル) (6)
図6にて、画像パターンマッチングの幾つの例を列挙する。
図6(A)では、
図5にも述べたよう、重心を算出して取得した画像の重心601と登録したモデルの重心602間の距離として、パターンマッチングのズレ量として求める。
図6(B)では三角形パターンの底辺の中点位置として、取得した画像の底辺中点603と登録したモデルの底辺中点604間の距離として、パターンマッチングのズレ量として算出する。
図6(C)の場合、対称としたパターンには有効で、取得画像605中心軸607に画像606を折り返して中心対称軸からのズレ量として検出する。この場合は、予めパターン登録も不要で、ピクセルの1/10以下の精度でズレ量を求められる。
【0048】
ここで幾つの簡単な画像処理手法として提示してあるが、実デバイスパターンが複雑となる場合は、パターンマッチングとして広く応用されている正規化相関法などを用いて、パターンの回転やスケール変動などにも処理して高精度でズレ量を導くことができる。なお、画像処理のエッジ検出精度向上のため、エッジのプロファイルを平滑化や微分化することは有効な手段である。実デバイス評価は、デバイス性能との相関性を検証した上で、一定なマッチング手法、或いは幾つのマッチング手法を組み合わせる事で最適化することが重要である。
【0049】
画像マッチングを行う誤差としては手法によって若干異なるが、上記手法を用いて画像マッチングを行えば、サブピクセルレベルまでの精度が得ることが可能である。SEM倍率100k、画像スキャンピクセル1024、画像サイズが135mmの場合、1ピクセル相当なサイズは135mm/(1024x100k)〜1.3nmである。従ってサブピクセル程度の画像マッチングで偏向量のズレ分を補正すると、零点数ナノレベルの高精度で距離計測精度を達成は可能である。ビーム偏向可能な範囲であれば、低倍でなく各々のパターンにおいて高倍の画像を取得して測定を行うことにより、精度を保つことができる。本手法は、パターンマッチングでズレ量を算出となるため、従来計測手法のボックス配置は不要となる。よって、ラインやホールと異なる、任意なパターンでも登録モデルと画像処理を行えば測定は可能である。
【0050】
なお、ここに説明するパターンは一例であり、これに限定されるものではない。
図4にて、401を基準点、402、403を計測目的パターンとして説明したが、計測目的パターン402自身を基準パターンとして402−403の距離計測も可能である。二つのパターンの距離計測を例として説明したが、複数のパターンでも同様に展開ができ、各パターン間の距離計測が可能である。複数パターンの場合は、類似パターンの計測を平均化して、N倍による更に計測精度を向上することも応用できる。
【0051】
計測時の倍率切替え、電子光学モードの切替えによるビーム偏向量の差、SEM像の走査幅の差は装置調整時同一標準試料を用いて予め校正しておくことで、モード間誤差、倍率間誤差を最小限に抑え、同一基準で評価することが可能である。絶縁物など帯電しやすい試料の場合、像ドリフトによる位置ずれの計測精度悪化になるが、絶縁物対応に電子光学系の切替えによる像ドリフトを抑制し、本手法の計測精度を維持することは有効な手段である。レジスト付きの試料など、電子ビーム照射による変形しやすいパターンは、可能な限り対称なパターンを基準点として選択して画像変形を最小限にすることで、マッチングの誤差を低減する。
【実施例2】
【0052】
次に、ビームの偏向とパターンマッチングを用いた他の計測法について説明する。
図10は、アドレッシングパターン1001を用いて周囲の測定対象パターンとの間、或いは基準パターンと測定対象パターンとの間の寸法を測定する例を説明する図である。実施例1と同じ要領でアドレッシングパターン1001を用いて、三角パターン1002と四角パターン1003との間の寸法を測定することができる。このとき、所定のビーム偏向量(Δx
1,Δy
1)及び(Δx
2,Δy
2)と、高倍率画像1006、1007内におけるパターンマッチングに基づいて得られるずれ量(Δx
3,Δy
3)及び(Δx
4,Δy
4)から、三角パターン1002と四角パターン1003との間の寸法Δx
s,Δy
sを以下のように求めることができる。
【0053】
Δx
s=Δx
1+Δx
2+Δx
3+Δx
4 (7)
Δy
s=Δy
1+Δy
2+Δy
3+Δy
4 (8)
位置1004と位置1005は、アドレッシングパターン1001を基準とした偏向目標位置である。また、更に位置1004を基準として、ビームを偏向量(Δx
5,Δy
5)分、偏向し、そこでの位置1010と丸パターン1009とのずれ量(Δx
6,Δy
6)を求めることによって、三角パターン1002と丸パターン1009との間の距離を求めることもできる。このようにアドレッシングパターンと微細パターンとの間だけではなく、微細パターン間の寸法測定への応用も可能である。
【0054】
また、上記各寸法を測定した上で、ステージ移動を行い、次にアドレッシングパターン1012を探索した上で、上記実施例と同じ要領でアドレッシングパターン1012と丸パターン1009との間の寸法、及びアドレッシングパターン1012と菱形パターン1013との間の寸法を求めれば、四角パターン1003と菱形パターン1013との寸法を求めることができる。この場合、ステージ移動前後で2つのアドレッシングパターン1001と1012を用いて、共通のパターン(丸パターン1009)の位置を特定しているため、ステージ移動を伴う距離の離れたパターン間であっても、高精度な測定を行うことができる。
【0055】
更に、
図11に例示するように、ステージ移動を伴う視野移動によって得られる2つの低倍率画像1102と1103に含まれるパターン1104と1105との間の寸法の測定も可能である。この場合、2つの低倍率画像1102、1103の双方に同じアドレッシングパターン1101が含まれるように画像取得を行う。このような手法によっても、ステージ移動を伴う距離の離れたパターン間であっても高精度な測定を行うことができる。
【0056】
図12は、ステージ移動を伴う2つのパターン間の寸法を高精度に測定する工程を示すフローチャートである。まず、測定対象となる第1のパターンとアドレッシングパターンを含む視野領域にビーム照射位置を位置付けるためのステージ移動を行う(ステップ1201)。次にパターンマッチングを実行し、アドレッシングパターンデータの探索を行う(ステップ1202)。ここで、アドレッシングパターンの位置をより正確に特定すべく、アドレッシングパターンを探索する画像と比較して、視野を狭めて画像を取得し、例えば、基準位置(例えば画像中心位置)とアドレッシングパターンの中心位置との差分に基づいて、アドレッシングパターンの正確な位置を特定する(ステップ1203)。
図10の例では、測定対象パターンと同じ大きさの視野の画像1008を取得している。この差分データをビーム偏向量(Δx
1,Δy
1)に重畳してアドレッシングパターンと被測定対象との距離を求めるようにしても良い。
【0057】
次に、予め登録されたアドレッシングパターンと測定対象パターンとの距離情報、或いは偏向信号情報に基づいて、ビームを偏向する(ステップ1204)。そしてこの偏向先で高倍率画像(ステップ1202のアドレッシングのときに用いた画像に対して相対的に高倍率の画像)を取得する(ステップ1205)。このようにして取得された高倍率画像内にてテンプレートマッチングを行い(ステップ1207)、マッチング位置と基準位置との差異に基づいてずれを測定する(ステップ1207)。
【0058】
ここで、全ての測定が終了していれば、得られた複数のパターン間寸法を加算することによって、離間したパターン間の寸法を演算し(ステップ1208)、その測定結果を登録、或いは表示画像に出力する(ステップ1209)。また、必要なデータの取得が終了していない場合には、他のアドレッシングパターン、或いは他の測定対象パターンを含むような画像を取得すべく、ステージ移動を行い、ステップ1202〜1207の工程を繰り返す。
【0059】
以上のような測定工程を実行する測定装置、或いは上記測定をコンピュータに実行させるコンピュータプログラムによれば、ステージ移動を伴う離間したパターン間の寸法測定を高精度に行うことが可能となる。