(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
アクリル系単量体混合物(A)を重合して得られる重合体(A)の溶解パラメーター(SA)が、アクリル系単量体混合物(B)を重合して得られる重合体(B)の溶解パラメーター(SB)より小さい請求項1記載のアクリル系重合体の製造方法。
【背景技術】
【0002】
アクリル系重合体に複数の機能を付与する方法として、機能が異なる複数の層を多段階で乳化重合する方法が知られている。
【0003】
例えば、エポキシ樹脂等の耐衝撃性の改質剤として、内層がガラス転位温度が−30℃以下の(メタ)アクリレート系重合体、外層のガラス転位温度が70℃以上の(メタ)アクリレート系重合体からなるコアシェル型の粉末状重合体(特許文献1)が報告されている。
【0004】
また、塩ビゾルの代替材料として、塗膜の柔軟性を付与するコア層と、コア層の重合体が可塑剤に接触するのを抑制し貯蔵安定性を付与するシェル層からなる(メタ)アクリル系重合体粒子が知られている。例えば、コア部とシェル部が特定の溶解性パラメーター及びガラス転位温度を持つコアシェル型のアクリル系重合体粒子(特許文献2)が報告されている。また、重合工程の途中で重合禁止剤を添加し、粒子径の異なる重合体を含むエマルションの製造方法(特許文献3)が報告されている。
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載される方法では、重合体粒子中のシェル成分の質量比を減らしていくと、シェル層で均一に被覆した粒子の形成が困難になる。これはシェル成分の単量体がコアの重合体に接触した部分から順次重合反応が進行するためと考えられる。コア成分を80質量%以上にすると、シェル層でコア成分を完全に被覆することが困難になり、貯蔵安定性が不充分になる傾向がある。また、コア成分を均一に被覆するために必要な量のシェル成分を用いると、コア成分の割合が少なくなり、本来の目的である耐衝撃性の改質効果が低い重合体となる。
【0006】
特許文献2に記載される方法でも、重合体粒子中のシェル部の質量比を減らしていくと、シェル成分による充分な被覆の形成が困難になる。このため、柔軟性を満足する塗膜を得るためにコア成分の質量比を増加するとコアを完全に被覆することが困難となり、貯蔵安定性が不充分となりやすい。また、コア成分を均一に被覆するための必要量のシェル成分を用いると、塗膜の柔軟性が低下する。
【0007】
また、特許文献3に記載の方法は、2つの異なる物性重合体粒子を含む分散体を得るものであり、コア成分の重合体を少量のシェル成分の重合体で均一に被覆し、コア成分とシェル成分の性能を発現させるものではない。
【0008】
このように、従来の方法では、コア成分の重合体を、少量のシェル成分の重合体で均一に被覆し、コア成分とシェル成分の性能をバランスよく発現することが困難である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のアクリル系重合体の製造方法は、アクリル系単量体混合物(A)を乳化重合する工程と、乳化重合によって得られる重合体分散液(D)中で、下記式(1)を満足する量の重合開始剤及び重合禁止剤の存在下でアクリル系単量体混合物(B)を乳化重合する工程とを含む。
【0017】
0.1≦Q/I≦30 (1)
(式(1)中、Qは重合禁止剤のモル量を示し、Iは重合禁止剤の投入前に重合体分散液中に存在する重合開始剤のモル量を示す。)
【0018】
[アクリル系単量体混合物(A)の乳化重合]
アクリル系単量体混合物(A)は乳化重合により重合する。乳化重合は一回の反応でも、また、複数回に亘る、多段階の反応によってもよい。乳化重合は、適宜、温度調整等を行うことができる。乳化重合反応の終了は、単量体の残留量から判断することができる。アクリル系単量体混合物(A)の乳化重合により得られる重合体(A)を含む重合体分散液(D)は、後述するアクリル系単量体混合物(B)の重合に用いる。
【0019】
アクリル系単量体混合物(A)の乳化重合は、種粒子となる重合体粒子(S)の存在下で行ってもよい。重合体粒子(S)はアクリル系単量体のソープフリー重合、微細懸濁重合、などの公知の方法で製造できる。
【0020】
[アクリル系単量体混合物(A)]
アクリル系単量体混合物(A)は、アクリル系単量体を含むものであれば特に限定されない。アクリル系単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸−2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸−2−アセトアセトキシエチル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチル等の(メタ)アクリル酸エステルや酢酸ビニル等の不飽和カルボン酸エステル類、アクリル酸、メタクリル酸等の不飽和カルボン酸、アクリロニトリル、アクリルアミドを挙げることができる。これらは1種、又は2種類以上を組み合わせて用いることができる。更に、単量体としてこれらと共に、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、ジビニルベンゼン等の芳香族ビニル化合物、塩化ビニル、塩化ビニリデンのような置換エチレン化合物等を用いることができる。
【0021】
得られるアクリル系重合体をプラスチゾルに用いる場合は、アクリル系単量体混合物(A)から得られる重合体(A)が可塑剤に対して相溶性を有することが、得られる塗膜の柔軟性を向上させる点から好ましい。プラスチゾルの可塑剤として例えばジイソノニルフタレートを用いる場合、上記例示のアクリル系単量体を用いることが好ましい。これらのうち特に、メタクリル酸メチル、メタクリル酸ブチルを含むことが好ましい。これらの含有量を調整して、可塑剤に対する相溶性を有する重合体(A)が得られるにように調整する。アクリル系単量体混合物(A)中、メタクリル酸メチル及びメタクリル酸ブチルの合計質量が50質量%以上とすることが好ましい。より好ましくはメタクリル酸メチルとメタクリル酸ブチルの質量比が20/80〜75/25である。
【0022】
更に、メタクリル酸ブチル中、メタクリル酸t−ブチルを10質量%以上含むことが、チッピング強度向上、及び貯蔵安定性の観点から、更に好ましい。
【0023】
また、アクリル系単量体混合物(A)を重合して得られる重合体(A)の溶解パラメーター(SA)は可塑剤との相溶性の点から、20.14(J/cm
3)
1/2以下が好ましい。
【0024】
ここで、溶解パラメーターは、重合体を構成する単量体単位のSp値(Sp(Ui))を下記式(2)に代入して求める。Sp(ui)は、polymer Engineering and Science,Vol.14,147(1974)に記載されているFedorsの方法にて求めることができる。表1に、使用した単量体単位のSp値(Sp(Ui))を示す。
【0027】
(式(2)中、Miは単量体単位i成分のモル分率を示し、ΣMi=1である。)
【0028】
[乳化剤]
アクリル系単量体混合物(A)の乳化重合には、乳化剤として、アニオン性界面活性剤や、ノニオン性界面活性剤を用いることができる。アニオン性界面活性剤としては、例えば、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルスルホン酸塩、アルキル硫酸エステル塩、脂肪酸金属塩、ポリオキシアルキルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンカルボン酸エステル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステル塩、コハク酸ジアルキルエステルスルホン酸塩等を挙げることができる。これらの1種を用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0029】
ノニオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテルグリセリンホウ酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル、ポリオキシエチレン等、ポリオキシエチレン鎖を分子内に有し界面活性能を有する化合物や、これら化合物のポリオキシエチレン鎖がオキシエチレン及びオキシプロピレンの共重合体で代替されている化合物、ソルビタン脂肪酸エステル、脂肪酸グリセリンエステル、グリセリン脂肪酸エステル、ペンタエリスリトール脂肪酸エステル等を挙げることができる。これらは1種を用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの界面活性剤の使用量は、アクリル系単量体混合物(A)100質量部に対して、0.1〜5質量部の範囲内であることが好ましい。
【0030】
[重合開始剤]
アクリル系単量体の乳化重合に用いる重合開始剤としては、過酸化水素、水溶性無機過酸化物、又は水溶性還元剤と有機過酸化物との組み合わせを挙げることができる。水溶性無機過酸化物としては、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等を挙げることができる。これらは1種を用いても又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。その使用量は、重合に供される全単量体100質量部当り、0.01〜0.5質量部の範囲内であることが好ましい。水溶性還元剤としては、エチレンジアミン四酢酸やそのナトリウム塩やカリウム塩、これらの鉄、銅、クロム等の金属との錯化合物、スルフィン酸やそのナトリウム塩やカリウム塩、L−アスコルビン酸やそのナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、ピロリン酸第一鉄、硫酸第一鉄、硫酸第一鉄アンモニウム、亜硫酸ナトリウム、酸性亜硫酸ナトリウム、ホルムアルデヒドスルホキシル酸ナトリウム、還元糖類等が挙げられる。これらは1種を用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、有機過酸化物としては、具体的には、クメンヒドロペルオキシド、p−サイメンヒドロペルオキシド、t−ブチルイソプロピルベンゼンヒドロペルオキシド、ジイソプロピルベンゼンヒドロペルオキシド、p−メンタンヒドロペルオキシド、デカリンヒドロペルオキシド、t−アミルヒドロペルオキシド、t−ブチルヒドロペルオキシド、イソプロピルヒドロペルオキシド等のヒドロペルオキシド類が挙げられる。これらは1種を用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0031】
[アクリル系単量体混合物(B)の乳化重合]
上記アクリル系単量体混合物(A)を乳化重合して得られた重合体分散液(D)中で、下式(1)を満足する量の重合開始剤及び重合禁止剤の存在下でアクリル系単量体混合物(B)を乳化重合する。
【0032】
0.1≦Q/I≦30 (1)
(式(1)中、Qは重合禁止剤のモル量を示し、Iは重合禁止剤の投入前に重合体分散液中に存在する重合開始剤のモル量を示す。)
【0033】
アクリル系単量体混合物(B)の乳化重合は、アクリル系単量体混合物(A)の乳化重合反応が終了した重合体分散液(D)に重合禁止剤を添加して行う。重合禁止剤はアクリル系単量体混合物(B)の重合反応を一時的に阻害するものであり、重合禁止剤が存在することにより、重合体分散液(D)に添加されたアクリル系単量体混合物(B)は、重合開始剤によるラジカルの生成とラジカルによる重合反応の進行が抑制され、重合体(A)に接触しても重合反応の進行が開始されず、その間に重合体分散液(D)中の重合体(A)と充分に混合され、重合体(A)の表面に行き亘る。その後、重合反応が開始されることにより、アクリル系単量体混合物(B)の重合体(B)の被覆が重合体(A)の全周に亘って形成される。
【0034】
重合体分散液(D)中の重合禁止剤の量は、重合開始剤のモル量(I)に対するモル量(Q)として、Q/Iが0.1以上30以下とする。Q/Iが0.1以上であれば、重合開始剤によるラジカルの生成を一定時間抑制することができ、重合体(A)に全周に亘って重合体(B)の被覆を形成することで、プラスチゾルとして用いた場合、貯蔵安定性が良好になる。Q/Iが30以下であれば、単量体混合物(B)の重合が停止することなく、重合体(B)の被覆を形成することで、貯蔵安定性が良好となる。Q/Iは0.1以上、27.5以下であることが好ましい。より好ましくはQ/Iは0.5以上25以下である。
【0035】
重合禁止剤の添加量の基準となる重合体分散液(D)中に存在する重合開始剤の含有量は、アクリル系単量体混合物(A)の重合に用いた重合体開始剤の重合体分散液中の残存量であり、下記式(3)、(4)により求めることができる。
【0036】
kd(1/s)=Aexp(−△E/RT) (3)
kd:重合開始剤の熱分解速度定数
A:重合開始剤の頻度因子(1/s)
△E:重合開始剤の活性化エネルギー(J/mol)
R:気体定数(8.314J/mol・K)
T:重合反応の絶対温度(K)
重合開始剤の残存率(%)=exp(−kdt)×100 (4)
t:重合反応時間(s)
【0037】
即ち、式(3)により、用いる重合開始剤の、アクリル系単量体混合物(A)の重合温度Tにおける熱分解速度定数kdを求める。更に、求めたkdを用いて式(4)より、重合温度Tの条件下でt(s)時間反応後の重合開始剤の残存率を求め、重合体開始剤の使用量から残存量を求めることができる。
【0038】
頻度因子A、活性化エネルギー△Eは重合開始剤の特有の定数であり、高分子論文集VOL.32,No.4,p229−234(1975)松本、大久保著に記載のデータより計算できる。具体的には、過硫酸カリウムの場合、
A=2.87×10
16(1/s)
△E=137937(J/mol)
である。
【0039】
重合禁止剤としては、具体的には、ヒドロキノン、p−メトキシフェノール、p−t−ブチルカテコール等のフェノール化合物、N,N−ジエチルヒドロキシルアミン、N−ニトロソフェニルヒドロキシルアミンアンモニウム塩(クペロン)等のヒドロキシルアミン化合物、ジチオベンゾイルジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド等の有機イオウ化合物などが挙げられる。これらは1種用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらのうち、25℃での水への溶解度が5g/100ml以下の重合禁止剤が好ましい。かかる重合禁止剤として、p−メトキシフェノール、p−t−ブチルカテコール、ジフェニルアミン等を挙げることができる。
【0040】
重合禁止剤の添加方法としては、アクリル系単量体混合物(A)の乳化重合反応終了後、アクリル系単量体混合物(B)の添加に先立って重合体分散液(D)に重合禁止剤を添加する方法や、アクリル系単量体混合物(B)に予め重合禁止剤を添加し、これを重合体分散液(D)に添加する方法であってもよい。
【0041】
アクリル系単量体混合物(B)に用いるアクリル系単量体は、アクリル系単量体混合物(A)に用いるアクリル系単量体と同様のものを用いることができる。得られるアクリル系重合体をプラスチゾルに用いる場合、アクリル系単量体混合物(B)は、これから得られる重合体(B)が可塑剤に対し難相溶性を示すことが、アクリルゾルに貯蔵安定性を付与する点から好ましい。可塑剤として、例えば、ジイソノニルフタレートを用いる場合、アクリル系単量体混合物(B)に用いるアクリル系単量体として、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸、メタクリル酸−2−ヒドロキシルエチル等を挙げることができる。これらの含有量を調整して、可塑剤に対する難溶性の重合体(B)が得られるように調整する。アクリル系単量体混合物(B)中、メタクリル酸メチルを75質量%以上含むことが好ましい。
【0042】
また、得られるアクリル系重合体をプラスチゾルに用いる場合、アクリル系単量体混合物(B)を重合して得られる重合体(B)は、上記方法により得られる溶解パラメーター(SB)が、アクリル系単量体混合物(A)を重合して得られる重合体(A)の溶解パラメーター(SA)より大きいことが、貯蔵安定性の点から好ましい。
【0043】
溶解パラメーター(SB)は、可塑剤の溶解パラメーターより高い方が貯蔵安定性の点から好ましく、20.22(J/cm
3)
1/2以上が好ましい。
【0044】
アクリル系単量体混合物(B)の使用量は、アクリル系単量体混合物(A)とアクリル系単量体混合物(B)との質量比(A)/(B)が、70/30〜95/5となる量である。より好ましくは、質量比(A)/(B)が80/20〜95/5である。アクリル系単量体混合物(B)の使用割合が5質量%以上であれば、重合体(A)を充分に被覆することができ、アクリルゾルに用いた場合、貯蔵安定性が良好となる。アクリル系単量体混合物(B)の使用割合が、30質量%以下であれば、得られる塗膜等の成形体において、優れた柔軟性を有する。塗膜等の成形体の引張強度、耐チッピング強度の点から、アクリル系単量体混合物(B)の使用割合が15質量%以下であることが好ましい。
【0045】
アクリル系単量体混合物(B)の乳化重合は、アクリル系単量体混合物(A)の乳化重合と同様の方法で行うことができる。アクリル系単量体混合物(B)の重合体分散液(D)への添加は、一度に添加しても、又は数回に分割して添加してもよいが、攪拌下、滴下することが好ましい。
【0046】
[アクリル系重合体]
本発明の製造方法により得られるアクリル系重合体の重量平均分子量は、1万〜400万であることが好ましく、より好ましくは5万〜300万であり、更に好ましくは30万〜200万の範囲である。重量平均分子量が400万以下であれば、可塑剤により容易に可塑化され、プラスチゾルとして優れた加工性を有するものが得られ、1万以上であれば、プラスチゾルとして貯蔵安定性が低下するのを抑制することができる。
【0047】
また、得られるアクリル系重合体は、乳化重合反応後の分散液中でのアクリル系重合体の体積平均粒子径として、0.05〜2μmであることが好ましい。アクリル系重合体をプラスチゾルに用いる場合、体積平均粒子径が大きい程、即ち、表面積が小さい程、貯蔵安定性に優れる。アクリル系重合体の体積平均粒子径は、0.2〜2μmであることがより好ましい。
【0048】
ここで、体積平均粒子径は、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置LA−920(HORIBA製)を用いて測定した測定値を採用することができる。
【0049】
上記アクリル系重合体の製造方法により生成されたアクリル系重合体は、アクリル系単量体混合物(B)の乳化重合後、重合体分散液から、噴霧乾燥法(スプレードライ法)や、酸凝固や塩凝固させた後に乾燥させることによって、粉体として分別できる。得られる粉体は、重合体が多数凝集した二次粒子構造や、それ以上の高次に凝集した凝集粒子であり、一次粒子同士が強固に結合せず、緩く凝集し、弱いせん断力で容易に一次粒子の状態にすることができる粉体が得られる噴霧乾燥法が好ましい。
【0050】
このようにして得られるアクリル系重合体の粉体は、プラスチゾルに用いる場合、体積平均粒子径が、5〜200μmであることが好ましい。アクリル系重合体粉体の体積平均粒子径が、5μm以上であれば、プラスチゾル組成物製造時の重合体の取り扱いが容易であり、200μm以下であれば、プラスチゾル組成物中の重合体を均一に分散させることができ、これを用いて得られる塗膜は重合体の分散不良によって生じるブツなどが少なく、良好な外観を有する成形体を得ることができる。
【0051】
[プラスチゾル組成物]
本発明のプラスチゾル組成物は、上記アクリル系重合体の製造方法により得られるアクリル系重合体と可塑剤とを含み、必要に応じてその他フィラー等を混合して得られる。上記アクリル系重合体を含有することにより、貯蔵安定性に優れ、ゾル性状を長期に亘って保持することができる。
【0052】
可塑剤としては、例えば、ジメチルフタレート、ジエチルフタレート、ジブチルフタレート、ジヘプチルフタレート、ジ−2−エチルヘキシルフタレート、ジ−n−オクチルフタレート、ジイソノニルフタレート、ジイソデシルフタレート、ブチルベンジルフタレート等のフタル酸エステル系可塑剤、ジメチルアジペート、ジブチルアジペート、ジイソブチルアジペート、ジヘキシルアジペート、ジー2−エチルヘキシルアジペート、ジイソノニルアジペート、ジブチルジグリコールアジペート等のアジピン酸エステル系可塑剤、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリ−2−エチルヘキシルホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジルフェニルホスフェート等のリン酸エステル系可塑剤、トリ−2−エチルヘキシルトリメリテート等のトリメリット酸エステル系可塑剤、ジメチルセバケート、ジブチルセバケート、ジ−2−エチルヘキシルセバケート等のセバチン酸エステル系可塑剤、ポリ−1,3−ブタンジオールアジペート等の脂肪族系ポリエステル可塑剤、ジエチレングリコールジベンゾエート、ジブチレングリコールジベンゾエート等の安息香酸系可塑剤、エポキシ化大豆油等のエポキシ化エステル系可塑剤、アルキルスルホン酸フェニルエステル等のアルキルスルホン酸フェニルエステル系可塑剤、脂環式二塩基酸エステル系可塑剤、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール等のポリエーテル系可塑剤、クエン酸アセチルトリブチル等のクエン酸系可塑剤等を挙げることができる。これらは1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。これらのうち、ジオクチルフタレート、ジイソノニルフタレート、ジイソデシルフタレート、メザモール、クエン酸アセチルトリブチルの1種又は2種以上を主成分として用いることが好ましい。
【0053】
プラスチゾル組成物中のアクリル系重合体粒子の含有量は、5質量%以上70質量%以下であることが好ましい。5質量%以上であると得られる被膜や成形品において強度に優れ、70質量%以下であるとプラスチゾル組成物の粘度が低くなり加工性に優れる。
【0054】
プラスチゾル組成物は、上記成分の機能を阻害しない範囲において、必要に応じて、充填剤、接着剤等を含有していてもよい。充填剤としては、例えば、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、コロイダルシリカ、タルク、ガラス粉末、酸化アルミニウム等を挙げることができ、その含有量は目的によって適宜選択することができる。
【0055】
接着剤としては、基材によって、適宜選択することができる。基材が電着板や鋼板の場合、エポキシ樹脂、ブロックウレタン樹脂、ポリアミン等の接着剤を用いることができる。これらは1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。更に、これらの接着剤の硬化剤として、例えば、エポキシ樹脂の接着剤に対して、酸無水物、イミダゾール化合物等を、ブロックウレタン樹脂の接着剤に対して、ジヒドラジド化合物等を用いることができる。
【0056】
プラスチゾル組成物には、その他、酸化チタン、カーボンブラック等の顔料、ミネラルターペン、ミネラルスピリット等の希釈剤、更に消泡剤、防黴剤、レベリング剤等を上記成分を阻害しない範囲で含有させることができる。
【0057】
プラスチゾル組成物を製造する機器としては、公知のものを使用することができ、例えば、ポニーミキサー(Pony mixer)、チェンジキャンミキサー(Change−can mixer)、ホバートミキサー(Hobert mixer)、プラネタリーミキサー、バタフライミキサー、らいかい機、ニーダー等を挙げることができる。
【0058】
本発明のプラスチゾル組成物は、被膜材料としても成形材料としても使用可能であり、被膜材料として特に有用である。その成形方法はいずれの方法によってもよいが、被膜を形成する方法としては、ディップコーティング法、スプレーコーティング法等により塗工膜を形成し、これを焼き付ける方法を挙げることができる。
【0059】
プラスチゾル組成物はいずれの成形品にも適用することができ、例えば、自動車用アンダーコート、自動車ボディーシーラー、自動車マスチック接着剤、自動車用塗付型制振材、タイルカーペットパッキング材、クッションフロア、壁紙、鋼板塗料等を挙げることができる。
【実施例】
【0060】
以下に、本発明を実施例により詳述する。実施例中の評価方法と評価基準は以下の通りである。以下において、「部」は「質量部」を示す。
【0061】
[実施例1]
[アクリル系重合体の調製]
温度計、窒素ガス導入管、攪拌棒、滴下漏斗及び冷却管を装備した2リットルの4つ口フラスコに、イオン交換水544gを入れ、30分間窒素ガスを通気し、イオン交換水中の溶存酸素を置換した。窒素ガスの通気を停止した後、200rpmで攪拌しながら80℃に昇温した。内温が80℃に達した時点で、メタクリル酸メチル26.1g、メタクリル酸n−ブチル19.9gの単量体混合物(S)を一括投入した。続いて過硫酸カリウム0.40gとイオン交換水16gを投入した。続いて45分後にジアルキルスルホコハク酸ナトリウム(商品名:ペレックスOT−P、花王(株)製)0.32g及びイオン交換水16.0gを投入した。さらに15分後にメタクリル酸メチル336g、メタクリル酸t−ブチル318g、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル17.5g、ペレックスOT−P5.8g及びイオン交換水235gの単量体混合物(A)を4時間30分間かけて滴下して重合を完了し、重合体(A)の分散液を得た。
【0062】
次いで80℃にて60分保持した後、重合体(A)の分散液中に重合禁止剤としてp−メトキシフェノール24mg及びイオン交換水4gを投入した。重合禁止剤の添加量は前記式(3)、(4)によって算出した。重合体分散液中に含有される重合開始剤に対し、添加した重合禁止剤の量はモル比で1.8とした。重合禁止剤添加の直前における単量体混合物(A)の反応率は97%であった。
【0063】
重合禁止剤投入から5分後にメタクリル酸メチル77.6g、メタクリル酸−2−ヒドロキシエチル2.4g、ペレックスOT−P0.8g及びイオン交換水28gの単量体混合物(B)を30分間かけて滴下した。80℃にて2時間30分攪拌を継続して重合体(P−1)の分散液を得た。重合は毎分25mlの窒素ガスを通気した環境下で行った。得られた重合体(P−1)の分散液をL−8型スプレードライヤー(大河原化工機(株)製)を用いて入口温度/出口温度=150/65℃及びディスク回転数20,000rpmの条件で噴霧乾燥した。
【0064】
重合体(P−1)のスプレードライ前の重合体分散液中の1次粒子径及びスプレードライ後の2次粒子の体積平均粒子径をレーザー回折粒度分布測定装置(商品名:HORIBA LA−920、堀場製作所(株)製)を使用して測定した。
【0065】
[重合禁止剤の量]
重合開始剤投入後、重合温度は80℃で一定であり、重合禁止剤は重合開始剤投入時から390分後に投入した。
【0066】
前記式(3)により過硫酸カリウムの80℃における熱分解速度定数kdは1.11×10
−4である。過硫酸カリウム0.4g(分子量:270.3)を用いて80℃条件下で重合を開始し、390分後の過硫酸カリウムの残存率は前記式(4)より7.4%と求められる。よって重合禁止剤投入時の過硫酸カリウムの残存mol数は2.19×10
−4molである。
【0067】
また、重合禁止剤としてp−メトキシフェノール24mg(分子量:124.1)は1.93×10
−4molであることから、重合禁止剤投入時の、重合開始剤と重合禁止剤のモル比は1.8である。
【0068】
[プラスチゾル組成物の調製]
炭酸カルシウム(商品名:NS#200、日東粉化工業(株)製)100部、表面処理炭酸カルシウム(商品名:白艶華CCR、白石工業(株)製)150部と、可塑剤としてジイソノニルフタレート((株)ジェイプラス製)180部、アルキルスルフォン酸フェニル系可塑剤(商品名:Mesamoll、バイエル社製)20部、ブロックウレタン樹脂(商品名:タケネートB−7040、三井化学ポリウレタン(株)製)40部、アジピン酸ジヒドラジド(商品名:アジピン酸ジヒドラジド、大塚化学(株)製)1.76部、酸化カルシウム3部を計量し真空ミキサーARV−200((株)シンキー製)にて5秒間大気圧(0.1MPa)で混合した後、2.7kPaに減圧して175秒間混合して炭酸カルシウムと可塑剤の混練物を得た。続いて重合体(P−1)100部を添加し真空ミキサーにて5秒間大気圧下(0.1MPa)で混合した後、2.7kPaに減圧して115秒間混合しプラスチゾル組成物を得た。得られたプラスチゾル組成物について、耐チッピング強度、接着強度、引張強度、引張伸度、貯蔵安定性について以下のように評価した。結果を表2に示す。
【0069】
[接着強度]
70×25×0.8mmのカチオン電着版(日本ルートサービス(株)製)2枚を45mm重ねて、この間の中央部にプラスチゾル組成物を25×25×3mmに塗布し、130℃で30分加熱して試験片を得た。得られた試験片の2枚のカチオン電着板を23℃環境下で長軸反対方向に引張り、剪断接着強度を測定した。測定には引張測定装置(商品名:AG−IS 5KN、(株)島津製作所製)を用い、試験速度を50mm/分とした。
【0070】
[引張強度、引張伸度]
テフロン(登録商標)コーティングした鉄板上にプラスチゾル組成物を2mm厚で塗布し、130℃のオーブン中30分間で加熱し塗膜を得た。この塗膜をダンベル2号形状に打ち抜き、試験片を得た。これを23℃環境下で引張試験を行い、塗膜の強度を測定した。測定には引張測定装置(商品名:AG−IS 5KN、(株)島津製作所製)を用い、試験速度を200mm/分とした。
【0071】
[耐チッピング強度]
プラスチゾル組成物を、150×70×0.8mmのカチオン電着版(日本ルートサービス(株)製)に塗布し、130℃で30分加熱し、膜厚1mmの被膜を成形した。縦2mm×横4mmの切込みを入れて試験片とし、水平から60度の角度で設置した。真鋳製ナット(M4サイズ)3kgを直径20mmの塩ビパイプを通して2mの高さから試験片に衝突させる試験を繰り返し、試験片が破壊して基材が露出するまでに落したナットの合計質量を測定した。
【0072】
[貯蔵安定性]
重合体(P−1)100部、可塑剤としてジイソノニルフタレート((株)ジェイプラス製)100部を真空ミキサーにて5秒間大気圧下(0.1MPa)で混合した後、2.7kPaに減圧して115秒間混合し貯蔵安定性評価用プラスチゾル組成物を得た。得られたプラスチゾル組成物を25℃の恒温槽で2時間保温した後、BH型粘度計((株)東京計器製)NO.7ローターを用いて、回転数20rpmにおいて1分後の粘度(α)(単位:Pa・s)を測定し初期粘度とした。測定後の貯蔵安定性評価用プラスチゾル組成物を40℃雰囲気下で保管し、初期粘度と同様の方法で5日後、10日後の粘度(β)を測定し、この値と初期粘度(α)から下記式(5)により増粘率(%)を求めた。
増粘率(%)=〔(β−α)/α〕×100 (5)
【0073】
[実施例2〜11、比較例1〜3]
単量体混合物(A)、単量体混合物(B)、重合禁止剤種類及び量、重合禁止剤投入時及び投入方法を、表2に示すように変更した以外は、実施例1と同様に重合体P−2〜P−11、及びC−1〜C−4を調製し、プラスチゾル組成物を調製し、評価を行った。結果を表2に示す。
【0074】
【表2】
【0075】
表中の略称は以下の化合物を示す。
MMA:メタクリル酸メチル(三菱レイヨン(株)製)
t−BMA:メタクリル酸−t−ブチル(三菱レイヨン(株)製)
i−BMA:メタクリル酸−i−ブチル(三菱レイヨン(株)製)
2−HEMA:メタクリル酸−2−ヒドロキシエチル(三菱レイヨン(株)製)
MEHQ:p−メトキシフェノール(関東化学(株)製)
TBC:t−ブチルカテコール(東京化成工業(株)製)
DPA:ジフェニルアミン(ナカライタスク(株)製)
【0076】
表2に示すように、重合禁止剤を添加せずに作製したアクリル系重合体を用いたプラスチゾル組成物の比較例1、3は貯蔵安定性が劣っていた。また、重合禁止剤を過剰に添加して作製したアクリル系重合体を用いたプラスチゾル組成物の比較例2は、単量体混合物(B)の重合反応の制御ができず、貯蔵安定性が不十分であった。比較例4は単量体混合物(A)の割合が少ないため、引張伸度および耐チッピング強度が劣っていた。