【実施例】
【0014】
本実施例では、希土類磁石から希土類金属を回収する希土類金属回収装置および方法の例を説明する。
【0015】
図1は、本実施例にて使用する希土類金属回収装置の構成図である。
希土類金属回収装置100は、鉄鋼製の密閉型容器101a,101b、タンタルもしくはモリブデン製の反応容器102、密閉型容器101aの上部、下部を加熱する加熱用ヒーター103、鉄鋼製のカゴ104、カゴの上下移動機構105、(真空引き、ガス導入、閉)切替えバルブ106a,106b、フィルター107a,107b、真空ポンプ108a,108b、両密閉型容器を繋ぐ配管部112を保温するシースヒーター109、容器間開閉バルブ110を有する。ここで、密閉型容器101a,101bを鉄鋼製にするのは、マグネシウム(固体)20、およびマグネシウム(液体)21と極めて反応性が低いためである。カゴ104を鉄鋼製とするのも同様の理由である。
【0016】
リサイクルプロセスの最初、タンタルもしくはモリブデン製の反応容器102内には、希土類磁石10およびマグネシウム(固体)20が設置されている。希土類磁石10が鉄鋼製のカゴ104をすり抜けて下方に落下しないように、目開きが希土類磁石10の投入形状よりも小さい鉄鋼製のカゴ104を使用する。
【0017】
図2Aは、本実施例の希土類金属回収方法の一部を示す第一の模式図である。
鉄鋼製のカゴ104の中に希土類磁石10を適当な形状にスライス(表面積を大きくするため、また希土類金属の磁石中の拡散距離を短くするためには薄くスライスする)した原材料、およびマグネシウム(固体)20を投入・設置した。
希土類磁石10は、成分比率がNd 21.2%,Dy 4.16%,Pr 6.00%,Co 0.88%,Cu 0.11%,Al 0.22%,C 0.066%,O 0.52%,B 0.93%,残部Feよりなる希土類磁石を投入原料とした。
マグネシウム(固体)の投入量は、希土類磁石の投入重量に対し、0.5〜40倍の範囲の比率で、
図3(a)に示す7通りに変えて投入して、希土類金属回収プロセスを実施して、各希土類金属の抽出率の確認を行なった。マグネシウム(固体)と希土類磁石の各投入重量比ごとに実施例1〜実施例7と呼び、その他の抽出条件は同じにして実施している。
【0018】
希土類磁石とマグネシウム(固体)を投入後、鉄鋼製の両密閉型反応容器101a、101b中を真空ポンプ108aで真空引きした後、切替えバルブ106aを切替えてアルゴンガスを導入し、十分アルゴンガスで置換した。容器間開閉バルブを閉め、密閉型容器101aにはアルゴンガスを供給し続け、アルゴンガス気流中で、加熱用ヒーター103の下側のみを加熱した。
アルゴンガスの排気は、密閉型容器101aに図示していない排気口を設けて排気される。
【0019】
図2Bは、本実施例の希土類金属回収方法の一部を示す第二の模式図である。
マグネシウム(固体)20部分が、1000℃の温度になるように加熱して、マグネシウム(固体)20を溶融させ、マグネシウム(液体)21とし、希土類磁石10をマグネシウム(液体)21に浸した。
【0020】
本実施例の希土類金属回収方法の抽出工程では、希土類金属抽出反応を650℃以上、および1000℃以下の温度で行うのがよい。650℃以上とするのは、マグネシウムの融点が650℃であるからであり、1000℃以下とするのは、抽出工程での希土類磁石からのFeの溶出を極力抑制するためである。
【0021】
図2Cは、本実施例の希土類金属回収方法の一部を示す第三の模式図である。
1000℃の温度で、希土類磁石10をマグネシウム(液体)21に接触させることにより、希土類磁石10中の希土類金属成分がマグネシウム(液体)21側に移動する(抽出される)。その結果、希土類磁石10は、鉄およびホウ素を主成分とする合金11になり、マグネシウム(液体)21は、マグネシウム−希土類金属合金23になる。希土類金属抽出時間は6時間とした。
【0022】
抽出処理後に得られたマグネシウム−希土類金属合金23の一部をサンプリングし、成分分析を実施した。各実施例において、成分分析結果をもとに計算した、Nd,Dy,Prの抽出率(投入された希土類磁石に含まれていた希土類金属のうち、マグネシウム(液体)へ抽出された割合を表わす)を
図3(a),(b)に示す。NdとPrは全ての処理条件において、高い抽出率が得られているのに対し、Dyの抽出率はNd,Prの抽出率に比べて低いことが分かる。Dyの抽出率は、投入した磁石重量に対してMg重量が10倍となるまでは、マグネシウム重量を増やすに伴い、上昇したが、それ以上にマグネシウム重量を増やすと低下する傾向を示した。
【0023】
Dyは、Nd,Prと比べて、前記した通り希少価値が極めて高い元素であり、Dyのリサイクル率を最大に高めた希土類金属回収方法が望まれる。
【0024】
従って、本実施例ではサンプル数は7であるが、例えば投入するマグネシウム重量を、希土類磁石重量の10倍近傍を目標とすることが望ましい。多少の誤差が見込まれるので、今回の最大のDy抽出率に対して80%以上のDy抽出率と予測される範囲にあるマグネシウム投入重量である、希土類磁石重量の5〜15倍とすることが望ましい。そのためには、例えば、投入するマグネシウムの量、希土類磁石の量(重量、容積など)の一方または両方を量り、上記の割合になるように投入するマグネシウムの量、希土類磁石の量の一方または両方を調整すればよい。マグネシウム、希土類磁石を自動で投入する場合には、マグネシウム、希土類磁石の計量を自動で調整する機構を装置に設けるとよい。
【0025】
図2Dは、本実施例の希土類金属回収方法の一部を示す第四の模式図である。
前記抽出処理により希土類金属がマグネシウム(液体)に十分に抽出された後、(真空引き、ガス導入、閉)切替えバルブ106aを閉めてアルゴンガスの供給を止めて、カゴの上下移動機構105を作動させ、鉄鋼製のカゴ104および鉄およびホウ素を主成分とする合金11がマグネシウム−希土類金属合金23に触れない位置まで上昇させた。
【0026】
図2Eは、本実施例の希土類金属回収方法の一部を示す第五の模式図である。
容器間開閉バルブ110を開放し、鉄鋼製の両密閉型反応容器101a、101b中を真空ポンプ108bにより真空引きし、次に、左側の密閉型容器101a内のタンタルもしくはモリブデン製の反応容器102中のマグネシウム−希土類金属合金23を660℃の温度になるように加熱した。またマグネシウム−希土類金属合金23から気化したマグネシウム(気体)22が右側の密閉型容器101bへ移動する前に、左側の密閉型容器101a内上部や密閉型容器101a上部の配管内部112に再付着しないように、配管部112をシースヒーター109により加熱した。これにより、タンタルもしくはモリブデン製の反応容器102中のマグネシウム−希土類金属合金23中のマグネシウムのみが気化し、マグネシウム(気体)22となって、右側の鉄鋼製の密閉型反応容器101b側へ移動する。移動したマグネシウム(気体)22は、冷却されることにより、マグネシウム(液体)21もしくはマグネシウム(固体)20となり、密閉型反応容器101bの内壁面、および底部に回収される。
【0027】
ここで、マグネシウム−希土類金属合金23の加熱温度を660℃としたのはマグネシウムの融点温度である650℃以上であり、また、残留する希土類金属とタンタルもしくはモリブデン製の反応容器102との固着力を低減し、回収を容易にするため、融点直上の温度とするのが好ましいためである。この加熱温度は、上記した理由を満たす範囲で、650℃以上、および750℃以下の温度で行うのがよい。
マグネシウム−希土類金属合金23中のマグネシウム量が減少し続けると、マグネシウム−希土類金属合金23は固化するが、マグネシウムは昇華により気化される。右側の(真空引き、ガス導入、閉)切替えバルブ106bと真空ポンプ108bの間にフィルター107bを設置することにより、マグネシウムが真空ポンプ側に行くことを防ぐことができる。
【0028】
最終的に、タンタルもしくはモリブデン製の反応容器102中から希土類金属12、鉄鋼製のカゴ104内から鉄およびホウ素を主成分とする合金11、右側の鉄鋼製の密閉型反応容器101b中からマグネシウム(固体)20をそれぞれ回収した。右側の鉄鋼製の密閉型反応容器101b中のマグネシウム(固体)20は希土類磁石をリサイクル処理する際に再利用することができる。
【0029】
本実施例1〜7の結果、いずれの条件においても、タンタルもしくはモリブデン製の反応容器102内に希土類金属12として、Nd,Pr,Dyからなるスポンジ状の希土類金属が得られた。具体的には、純度95.0%以上の希土類金属を得た。回収された希土類金属は各実施例において、
図3(a)に記載した各希土類金属の抽出率×投入量に相当する収量が得られた。各希土類元素を分離して得るにはかなりコストを要するが、回収した希土類金属合金はNd-Fe-B磁石製造用の希土類金属原料として使用されるため、分離する必要は無い。
なお、回収した希土類金属合金中に微量のFe不純物が残留していたが、上記の用途に使用することから、特に問題となることはない。
【0030】
以上、説明した本発明の希土類金属回収方法において、前記磁石は、希土類磁石製造工程で発生するスクラップでも、使用済製品から取り出した廃磁石でもよい。使用済製品としては、ハードディスクドライブ装置、家電製品・産業製品のモーター、コンプレッサー、ハイブリッド自動車、プラグインハイブリッド自動車、電気自動車のモーター、自動車の電動パワーステアリング用モーターなどでよい。
【0031】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。