(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明者等は、非水電解液二次電池において従来よりも高い安全性の確保を目指して、添加する難燃剤および過充電防止剤について鋭意検討した。その結果、特定の置換基を有する化合物(リン酸エステルまたは亜リン酸エステル)からなる難燃剤を非水電解液に所定の量添加することによって、二次電池の電池特性を犠牲にすることなく、難燃性と過充電防止性とを同時に付与できることを見出した。本発明は、該知見に基づいて完成されたものである。
【0029】
本発明は、前述した非水電解液および非水電解液二次電池において、以下のような改良や変更を加えることができる。
(i)前記非水溶媒のハンセン溶解度パラメータと前記難燃剤のハンセン溶解度パラメータとの差が4以下である。その差が4以下になれば、難燃剤を高濃度で(例えば、非水電解液の全質量に対して10質量%以上で)電解液に溶解させることができる。その差が3以下になるとより好ましく、2以下が更に好ましい。
なお、ハンセン溶解度パラメータ(HSP)とは、ある物質が他のある物質にどのくらい溶けるかを示す溶解性の指標の1つであり、本発明では「(HSP)
2=(dD)
2+(dP)
2+(dH)
2」という関係式で表されるものと定義する。該関係式において、「dD」は「分子間の分散力に由来するエネルギー」を示し、「dP」は「分子間の極性力に由来するエネルギー」を示し、「dH」は「分子間の水素結合力に由来するエネルギー」を示し、それぞれ物質種による物性値である(Charles M. Hansen, “Hansen Solubility Parameters: A User’s Handbook, Second Edition”, CRC Press, Boca Raton FL, (2007) 参照)。
(ii)前記化合物の前記第2の置換基は、その構造中にチオエーテル基、チオカルボニル基、カルボニル基、エーテル基、カルボキシル基、およびアミド基の内の少なくとも1つの結合構造を有している。
(iii)前記非水電解液は、界面活性剤を含む。
(iv)前記難燃剤が、マイクロカプセル内に充填されており、当該マイクロカプセルが、前記非水電解液中に保持されている。
【0030】
さらに、本発明は、前述した非水電解液二次電池において、以下のような改良や変更を加えることができる。
(v)前記マイクロカプセルが、前記正極の表面および/または前記正極に対面する前記セパレータの表面に保持されている。
(vi)前記非水電解液が含有する前記難燃剤と異なる構造を有する第2の難燃剤が、更に前記正極に添加されており、前記第2の難燃剤は、前記非水電解液に対して難溶性の化合物である。
【0031】
以下、本発明に係る実施形態について、より具体的に説明する。ただし、本発明は、ここで取り上げた実施形態に限定されることはなく、発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜組み合わせや改良が可能である。
【0032】
[非水電解液]
前述したように、本発明に係る非水電解液は、非水溶媒と電解質とを含有し、下記の化学式(1)または化学式(2)で表わされる化合物からなる難燃剤を含有する。
【0035】
化学式(1)は亜リン酸トリエステルであり、化学式(2)はリン酸トリエステルである。リンは電解液の燃焼反応を防止する機能があることが知られている。本発明で添加する難燃剤は、燃焼反応を防止する機能に加えて、過充電を防止する機能も有する。
【0036】
難燃剤を構成する化合物の3つの置換基(X1、X2、X3)の内の1つまたは2つの置換基(第1の置換基)は、非水電解液二次電池が過充電される電位において、化合物の重合反応に関与する置換基である。言い換えると、非水電解液二次電池の充電終止電位超の電位が該難燃剤に印加されると、第1の置換基を介して化合物同士が重合する。一方、該化合物の3つの置換基(X1、X2、X3)の内の、第1の置換基を除いた残りの置換基(第2の置換基)は、非水溶媒と難燃剤との相溶性の向上に寄与する置換基である。
【0037】
第1の置換基としては、その構造中にフェニル基を有することが好ましい。例えば、フェニルシクロヘキシル基(C
6H
4C
6H
11)、ビフェニル基(C
6H
4C
6H
5)、それらのハロゲン化物などが挙げられる。上記化合物の3つの置換基(X1、X2、X3)が全て第1の置換基になると、化合物全体の極性が低下して、非水溶媒との相溶性が低下する。また、化合物の分子サイズが大きくなり過ぎると、非水電解液としての粘度を著しく増大させ、非水電解液の導電率を低下させる。これらのことから、第1の置換基は、3つの置換基の内の1つまたは2つであることが好ましい。
【0038】
第2の置換基としては、炭素数が1以上3以下の有機基であることが好ましい。炭素数の少ないC-H結合基がエステル結合することで、置換基全体として極性を呈するようになる。例えば、メチル基(CH
3)、エチル基(CH
2CH
3)、それらのハロゲン化物などが挙げられる。さらに、第2の置換基は、その構造中にチオエーテル基(C-S)、チオカルボニル基(C=S)、カルボニル基(C=O)、エーテル基(C-O)、カルボキシル基(C=O-O)、およびアミド基(N-C=O)の内の少なくとも1つの結合構造を有していることが好ましい。それにより、第2の置換基の極性が更に高くなり、その結果、難燃剤と非水溶媒との相溶性がより高まる。また、難燃剤の分子サイズが小さくなるので、難燃剤が非水電解液の粘度の増加を抑制し、リチウムイオンの移動を妨げない利点もある。
【0039】
非水電解液二次電池を過充電すると、正極側での非水電解液の酸化や正極材料の結晶構造の破壊によって電池が発熱する。過充電は、非水電解液二次電池を急激に劣化させるだけでなく、電池の破裂・発火の要因となる場合がある。そのため、過充電の防止は、非水電解液二次電池の安全性確保の観点から、非常に重要な課題である。
【0040】
前述したように、本発明に係る非水電解液は、非水電解液二次電池が過充電される電位において、第1の置換基が化合物の重合反応を起こすように作用する。これは、二次電池に流入する電流が、化合物の重合反応に消費されることを意味する。言い換えると、過充電となる電位において重合反応を促進して、重合反応に消費される電流(酸化電流)を大きくすれば、二次電池を過充電してしまう電流(過充電電流)を小さくすることができる。その結果、二次電池の過充電の進行を防止することができる。
【0041】
さらに、重合反応生成物は、二次電池の正極表面で高抵抗な被膜を形成する。これにより、二次電池に流入する電流自体が抑制されるため、二次電池の過充電の進行を防止することができる。なお、化合物の重合反応による過充電の防止は、非水電解液二次電池の正極側で行う方がより効果的である。重合反応の開始電位は、通常の充電時における正極の上限電位(充電上限電位)に対して、0.1 V以上1 V以下の範囲で高いことが望ましい。重合反応の開始電位が「充電上限電位+0.1 V未満」であると、充電の最終段階で難燃剤の重合反応が起こり易くなり、二次電池の容量を低下させる要因となる。一方、重合反応の開始電位が「充電上限電位+1 V超」であると、過充電を抑止することが困難になる。
【0042】
化合物の重合反応の進行速度は、正極への難燃剤の供給速度(すなわち、難燃剤の添加濃度)に律速される。難燃剤の添加濃度は、非水電解液全量に対して5質量%以上30質量%以下であることが好ましい。難燃剤の添加濃度が5質量%未満であると、重合反応を促進することができず、二次電池の過充電を防止する効果が不十分となる。また、難燃剤の添加濃度が30質量%よりも大きいと、非水電解液の導電率が低下し、二次電池としての容量が低下する。なお、本発明では、二次電池の初期容量を評価する際の放電電流として、0.5 C(定格容量10 Ahの二次電池の場合、5 Aに相当)と、3 C(定格容量10 Ahの二次電池の場合、30 Aに相当)を想定している。
【0043】
ここで、添加する難燃剤として、フェニルシクロヘキシル基(C
6H
4C
6H
11)の第1の置換基と、メチル基(CH
3)の第2の置換基とを有する化学式(1)の化合物(亜リン酸モノ(シクロヘキシルベンゼン)ジメチル)を例にとり、重合反応の機構を説明する。重合反応は、異なる分子中の第1の置換基同士が反応して起こる。反応式は、下記の化学式(3)の通りである。
【0045】
上記の反応では、それぞれの分子の第1の置換基C
6H
4C
6H
11内のベンゼン環のHが酸化されて、H
2が発生する。Hが脱離したベンゼン環同士が結合して2つの分子が縮合重合し、重合反応生成物が生じる。
【0046】
化合物の重合反応を効率的に進行させるためには、非水電解液の非水溶媒と添加する化合物との相溶性が高いことが望ましい。その観点において、非水溶媒のハンセン溶解度パラメータ(HSP
sol)と添加する難燃剤のハンセン溶解度パラメータ(HSP
add)との差が4以下となるように選択されることが好ましい。なお、前述したように、ハンセン溶解度パラメータ(HSP)は、「(HSP)
2=(dD)
2+(dP)
2+(dH)
2」という関係式で表されるものと定義する。
【0047】
非水溶媒のHSP
solと添加する難燃剤のHSP
addとの差が4以下であるとき、非水溶媒と難燃剤との相溶性が高まって、難燃剤の濃度を高めに設定することができる(例えば、非水電解液全量に対して10質量%以上)。その結果、難燃剤の燃焼反応を防止する効果と過充電を防止する効果が十分に発揮される。HSPの差は、3以下がより好ましく、2以下が更に好ましい。
【0048】
非水溶媒と難燃剤との相溶性を高める(HSPの差を小さくする)ために、非水電解液に界面活性剤を添加してもよい。添加する界面活性剤としては、二次電池の正極上または負極上で分解されにくいものを選択することが好ましい。界面活性剤として、例えば、分子量50〜300のポリエチレングリコール、該ポリエチレングリコールの末端OH基をメチル基に置換したもの、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ソルビタミン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、ポリオキシエチレンアルキルアミン、パーフルオロアルキルアミンオキサイド等が挙げられる。さらには、アルキルジメチルカルボキシベタイン、アルキルアミノカルボン酸塩、パーフルオロアルキルベタインを好適に使用することができる。
【0049】
非水溶媒への難燃剤の他の添加形態として、難燃剤の一部または全部をマイクロカプセルに充填して、当該マイクロカプセルを非水電解液中に保持することが可能である。マイクロカプセルを利用することにより、平常時における非水電解液の導電率の低下を抑制しながら所望の量の難燃剤を添加することができる。マイクロカプセルの材質としては、非水電解液と化学反応しなければ特に限定されないが、例えば、ゼラチンとアラビアゴムを組み合わせたもの、ポリ乳酸、メラミン樹脂、ウレタン樹脂などを好適に用いることができる。
【0050】
非水電解液の非水溶媒としては、正極上または負極上で分解されないものであれば、特に限定されない。例えば、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、γ-ブチロラクトン、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、1,2-ジメトキシエタン、2-メチルテトラヒドロフラン、ジメチルスルフォキシド、1,3-ジオキソラン、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、リン酸トリエステル、トリメトキシメタン、ジオキソラン、ジエチルエーテル、スルホラン、3-メチル-2-オキサゾリジノン、テトラヒドロフラン、1,2-ジエトキシエタン、クロルエチレンカーボネート、クロルプロピレンカーボネートを好適に用いることができる。これらの非水溶媒を用いるとき、上述した本発明の難燃剤とのHSPの差を4以下とすることができる。なお、言うまでもないが、界面活性剤を添加することによって、これ以外の非水溶媒を用いることもできる。
【0051】
次に、非水電解液の電解質(支持塩とも言う)について説明する。非水電解液に用いる電解質としては、従前のものを利用することができ、例えば、LiPF
6、LiBF
4、LiClO
4、LiCF
3SO
3、LiCF
3CO
2、LiAsF
6、LiSbF
6、LiCF
3SO
3、LiN(SO
2CF
3)
2のいずれかの単体または混合物を好適に用いることができる。
【0052】
また、固体高分子電解質(ポリマ電解質)を用いる場合には、エチレンオキシド、アクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン、メタクリル酸メチル、ヘキサフルオロプロピレンのポリエチレンオキサイドなどのイオン導電性ポリマを電解質に用いることができる。
【0053】
さらに、イオン性液体を用いることができる。例えば1-エチル-3-メチルイミダゾリウム-テトラフルオロボレイト(EMI-BF4)、リチウム塩とトリグライムとテトラグライムの混合錯体(LiN(SO
2CF
3)
2(LiTFSI))、N-メチル-N-プロピルピロリジウム等の環状四級アンモニウム系陽イオン、ビス(フルオロスルフォニル)イミド等のイミド系陰イオンを電解質に用いることができる。
【0054】
これら電解質の濃度については、非水溶媒の合計体積に対して、0.8〜2.0 mol/Lの範囲とすることが好ましい。難燃剤の添加量(質量%)は、電解液質量全体に対して決定される。また、固体高分子電解質を利用する場合、本発明の難燃剤の添加量は、当該固体高分子に対する質量濃度で、添加比率は非水電解液の場合と同じとすることが好ましい。これは、難燃剤の濃度が(すなわち難燃剤が電極表面上での高抵抗被膜を形成する速度が)、本発明の作用効果に関して重要な役割を担うためである。
【0055】
なお、本発明において、非水溶媒と難燃剤とのハンセン溶解度パラメータの差が小さいことに加えて、電解質と難燃剤とのハンセン溶解度パラメータの差が小さいことはより好ましい。電解質は、通常、非水溶媒中に溶解するが、電解質と難燃剤とのハンセン溶解度パラメータの差が小さくなると、電解質は、非水溶媒のみならず難燃剤への溶解性も高まる。これは、難燃剤を高濃度で非水電解液に添加する場合に(例えば、非水電解液の全質量に対して10質量%以上で添加する場合に)特に効果的であり、リチウムイオンの導電率の低下を防止することができる。
【0056】
[非水電解液二次電池]
非水電解液二次電池の構成について説明する。非水電解液二次電池とは、非水電解液中における電極へのイオンの吸蔵・放出により、電気エネルギーを貯蔵・利用可能とする電気化学デバイスの総称である。本実施例では、リチウムイオン二次電池を代表例として説明する。
【0057】
図1は、本発明に係る非水電解液二次電池の一例を示す断面模式図である。
図1に示したように、正極107および負極108は、これらが直接接触しないようにセパレータ109を挟み込んだ状態で惓回されて、電極群を形成している。なお、電極群の構造は、円筒状、扁平状などの任意の形状の捲回に限定されるものではなく、短冊状電極を積層したものであってもよい。
【0058】
正極107には正極リード110が付設されており、負極108には負極リード111が付設されている。リード110、111は、ワイヤ状、箔状、板状などの任意の形状を採ることができる。電気的損失を小さくし、かつ化学的安定性を確保できるような構造・材質が選定される。
【0059】
電極群は、電池容器102に収容されており、電池容器102の上部に設置された絶縁シール112および底部に設置された絶縁シール(図示せず)によって、挿入された電極群が電池容器102と直接接触しないようになっている。さらに、セパレータ109の細孔には、本発明に係る非水電解液が含浸されている。電極群を電池容器102に収納し密閉した後に、本発明に係る非水電解液を注液口106より滴下し、所定量の充填した後に、注液口106を密封する。なお、非水電解液の注入方法・手順は、他の方法・手順でもよい。
【0060】
電池容器102の形状は、通常、電極群の形状に合わせた形状(例えば、円筒状、扁平長円柱状、角柱など)が選択される。絶縁性シール112は、非水電解液と反応せず、かつ気密性に優れた任意の材質(例えば、熱硬化性樹脂、ガラスハーメチックシールなど)を好適に使用することができる。
【0061】
電池容器102の材質は、アルミニウム、ステンレス鋼、ニッケルメッキ鋼製など、非水電解液に対し耐食性のある材料から選択される。電池容器102への蓋103の取り付けは、溶接の他に、かしめ、接着などの他の方法も採ることができる。非水電解液の注液に用いる注液口106に安全機構としての機能を付与することも可能である。安全機構としては、例えば、電池容器内部の圧力が所定以上となった際に解放する圧力弁がある。
【0062】
正極リード110または負極リード111の途中、あるいは正極リード110と正極外部端子104との接続部や、負極リード111と負極外部端子105との接続部に、正温度係数抵抗素子を利用した電流遮断機構(図示せず)を設けることは好ましい。電流遮断機構を設けると、電池内部の温度が高くなったときに、リチウムイオン二次電池101の充放電を停止させ、電池を保護することが可能となる。
【0063】
リチウムイオン二次電池を構成する正極107は、正極集電体の片面または両面に正極活物質を含む正極合剤スラリーを塗布・乾燥させた後、ロールプレス機などを用いて圧縮成形して、所定の大きさに切断することで作製される。正極の集電体には、厚さが10〜100μmのアルミニウム箔や、厚さ10〜100μmで孔径0.1〜10 mmのアルミニウム製穿孔箔、エキスパンドメタル、発泡アルミニウム板などが用いられる。材質は、アルミニウムの他に、ステンレス、チタンなども適用可能である。
【0064】
同様に、リチウムイオン二次電池を構成する負極108は、負極集電体の片面または両面に負極活物質を含む負極合剤スラリーを塗布・乾燥させた後、ロールプレス機などを用いて圧縮成形して、所定の大きさに切断することで作製される。負極の集電体には、厚さが10〜100μmの銅箔や、厚さ10〜100μmで孔径0.1〜10mmの銅製穿孔箔、エキスパンドメタル、発泡銅板などが用いられ、材質は、銅の他に、ステンレス、チタン、ニッケルなども適用可能である。
【0065】
正極合剤スラリーおよび負極合剤スラリーの塗布方法に特段の限定はなく、従前の方法(例えば、ドクターブレード法、ディッピング法、スプレー法など)を利用することができる。また、塗布から乾燥までを複数回行うことにより、複数の合剤層を集電体に積層することも可能である。
【0066】
正極107に用いられる正極活物質としては、リチウムイオンの吸蔵および放出をすることができるリチウム化合物であれば特に限定されない。例えば、リチウムマンガン酸化物、リチウムコバルト酸化物、リチウムニッケル酸化物などのリチウム遷移金属複合酸化物が挙げられる。これらいずれかの単独または2種以上の混合物を用いることができる。正極活物質に対して、バインダ、増粘剤、導電材、溶媒等を必要に応じて混合して正極合剤スラリーが作製される。
【0067】
正極活物質の粒径は、合剤層の厚さ以下になるように規定される。正極活物質粉末中に合剤層厚さ以上の粒径を有する粗粒がある場合、ふるい分級、風流分級などにより粗粒を予め除去し、合剤層厚さ以下の粒子を用意する。
【0068】
正極活物質とバインダとの混合比率は、質量比で85 : 15〜95 : 5の範囲になるようにすることが好ましい。正極活物質の質量比率が85/100未満では、二次電池のエネルギー密度が低下する。一方、正極活物質の質量比率が95/100超では、充放電できる最大電流値が低下する。
【0069】
正極の導電剤としては、導電性繊維(例えば、気相成長炭素、カーボンナノチューブ、ピッチ(石油、石炭、コールタールなどの副生成物)を原料に高温で炭化して製造した繊維、アクリル繊維から製造した炭素繊維など)が好適に用いられる。また、導電剤は、正極活物質よりも電気抵抗の低い材料であって、正極の充放電電位(通常は2.5〜4.2Vである)にて酸化溶解しない材料を使用してもよい。例えば、耐食性金属(チタンや金など)、炭化物(SiCやWCなど)、窒化物(Si
3N
4やBNなど)が挙げられる。高比表面積の炭素材料(例えば、カーボンブラックや活性炭など)も使用できる。
【0070】
負極108に用いられる負極活物質は、リチウムイオンの吸蔵および放出をすることができる材料であれば特に限定されない。例えば、アルミニウム、シリコン、錫、炭素材料(黒鉛、易黒鉛化炭素、難黒鉛化炭素天然黒鉛、人造黒鉛、メソフェ−ズ炭素、膨張黒鉛、炭素繊維、気相成長法炭素繊維、ピッチ系炭素質材料、ニードルコークス、石油コークス、ポリアクリロニトリル系炭素繊維、カーボンブラック、非晶質炭素など)が利用可能である。非晶質炭素は、例えば、5員環または6員環の環式炭化水素や環式含酸素有機化合物を熱分解して作製される。これらいずれかの単独または2種以上の混合物を用いることができる。これらの中でも、非晶質炭素はリチウムイオンの吸蔵および放出の際の体積変化率が少ない材料であるため、充放電のサイクル特性が高いことから、負極活物質として非晶質炭素を含むことは好ましい。また、上述した炭素材料に加えて、導電性高分子材料(ポリアセン、ポリパラフェニレン、ポリアニリン、ポリアセチレンなど)を添加してもよい。負極活物質に対して、バインダ、増粘剤、導電剤、溶媒等を必要に応じて混合して負極合剤スラリーが作製される。
【0071】
負極活物質とバインダの混合比率は、質量比で90 : 10〜99 : 1の範囲になるようにすることが好ましい。負極活物質の質量比率が90/100未満では、二次電池のエネルギー密度が低下する。一方、負極活物質の質量比率が99/100超では、バインダ量が少な過ぎて充放電サイクルによる容量低下が顕著になる。負極の導電剤としては、正極導電剤と同様の材料を用いることが可能である。
【0072】
正極合剤スラリーおよび負極合剤スラリーに用いられるバインダ、増粘剤および溶媒に特段の限定はなく、従前と同様のものを用いることができる。
【0073】
セパレータ109は、二次電池の充放電時にリチウムイオンを透過させる必要があるため、多孔体(例えば、細孔径が0.01〜10μm、気孔率が20〜90%)であることが好ましい。セパレータ109の素材としては、ポリオレフィン系高分子シート(例えば、ポリエチレンやポリプロピレンなど)や、ポリオレフィン系高分子シートとフッ素系高分子シート(例えば、四フッ化ポリエチレン)とを溶着させた多層構造シートを好適に使用できる。また、セパレータ109の表面にセラミックスとバインダの混合物を薄層状に形成しても良い。
【0074】
また、前述した非水電解液の電解質として、固体高分子電解質(ポリマー電解質)を用いる場合には、セパレータ109を省略することができる。
【0075】
前述したように、化合物の重合反応による過充電の防止は、非水電解液二次電池の正極側で行う方がより効果的である。また、本発明に係る非水電解液二次電池は、難燃剤の一部または全部をマイクロカプセルに充填して二次電池内の所望の箇所に保持することも可能である。これらの観点から、難燃剤が充填されたマイクロカプセルを、非水電解液二次電池の表面および/または該正極に対面するセパレータの表面に保持させることは、とても有効である。マイクロカプセルをそれらの箇所に保持する方法に特段の限定はなく、例えば、バインダと混合してそれらの箇所に塗布する方法が挙げられる。なお、この場合においても、二次電池内の難燃剤の総量は、非水電解液に対して5〜30質量%となるように調整する。
【0076】
また、本発明に係る非水電解液二次電池は、本発明に係る非水電解液(難燃剤を含有する非水電解液)に加えて、別の難燃剤(第2の難燃剤)を正極に添加してもよい。このとき、正極に添加する第2の難燃剤は、非水電解液に添加する難燃剤と異なる構造を有するものとし、非水電解液に対して難溶性の化合物であることが好ましく、不溶性化合物であることがより好ましい。正極に添加する第2の難燃剤が非水電解液に添加する難燃剤と同じ構造を有すると、第2の難燃剤が非水電解液に溶解してしまい非水電解液中の難燃剤量が過剰となって、非水電解液の導電率が低下することから好ましくない。
【0077】
第2の難燃剤としては、非水電解液に対する難溶性化合物または不溶性化合物であれば従前のものを利用することができ、非水電解液の導電率を低下させない範囲で添加できる。正極への第2の難燃剤の添加方法に特段の限定はないが、例えばスプレーコーティング法を用いて、正極表面に第2の難燃剤をコーティングすることができる。前述した本発明に係る非水電解液に加えて、正極に第2の難燃剤を添加することで、非水電解液二次電池の安全性を更に高めることができる。
【0078】
[二次電池システム]
二次電池システムの構成について説明する。本発明に係る二次電池システムとは、少なくとも2個以上の非水電解液二次電池を直列あるいは並列に接続し、かつ充放電制御機構を有するシステムと定義する。
図2は、本発明に係る二次電池システムの一例を示す断面模式図である。
図2に示したように、本構成では2個のリチウムイオン二次電池101a,101bが直列に接続されている。
図2の紙面右側に配置したリチウムイオン二次電池101aの負極外部端子105は、電力ケーブル213により充放電制御機構216の負極入力ターミナルに接続されている。リチウムイオン電池101aの正極外部端子104は、電力ケーブル214を介して、紙面左側に配置したリチウムイオン二次電池101bの負極外部端子105に接続されている。リチウムイオン二次電池101bの正極外部端子104は、電力ケーブル215により充放電制御機構216の正極入力ターミナルに接続されている。このような配線構成によって、2個のリチウムイオン二次電池101a,101bを充放電制御機構216で制御しながら充電または放電させることができる。なお、
図1,
図2において、同じ構成物には同じ符号を付している。
【0079】
充放電制御機構216は、電力ケーブル217,218を介して、外部機器219との間で電力の授受を行う。外部機器219は、外部負荷の他、充放電制御機構216に給電するための外部電源や回生モータ等の各種電気機器を含む。また、外部機器が対応する交流、直流の種類に応じて、インバータやコンバータを設けることができる。
【0080】
発電装置222が、電力ケーブル220,221を介して充放電制御機構216に接続される。発電装置222が発電しているときには、充放電制御機構216が充電モードに移行し、外部機器219に給電するとともに、余剰電力をリチウムイオン二次電池101a,101bに充電する。発電装置222の発電量が外部機器219の要求電力よりも少ないときには、リチウムイオン二次電池101a,101bから電力供給させるように充放電制御機構216が放電モードに移行する。充放電制御機構216は、そのようなモード移行が自動的に行われるようにプログラムが記憶されていることが好ましい。
【0081】
発電装置222としては、再生可能エネルギーを生み出す発電装置(例えば、風力発電装置、地熱発電装置、太陽電池)や、通常の発電装置(例えば、燃料電池、ガスタービン発電機など)を用いることができる。
【0082】
本発明に係る二次電池システムは、例えば、電気自動車、ハイブリッド電気自動車、プラグインハイブリッド電気自動車、電動式建設機械、運搬機器、建設機械、介護機器、軽車両、電動工具、ロボット、離島の電力貯蔵システム、宇宙ステーションなどの電源として利用することができる。
【0083】
本発明は、リチウムイオン電池に限らず、非水電解液を用い、電極へのイオンの吸蔵・放出により、電気エネルギーを貯蔵・利用可能とする電気化学デバイスに適用することが可能である。本発明は安全性に優れるため、特に大型の移動体または定置型の電池システムに好適である。
【実施例】
【0084】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0085】
[実施例1]
(B1〜B19のリチウムイオン二次電池の作製)
(1)正極の作製
まず、正極活物質(85質量%、LiNi
1/3Mn
1/3Co
1/3O
2)、バインダ(8質量%、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、株式会社クレハ製)、導電剤(7質量%、カーボンブラック)および溶媒(1-メチル-2-ピロリドン)を調合して正極合剤スラリーを作製した。
【0086】
次に、この正極合剤スラリーを、厚さ20μmの正極集電体(アルミニウム箔)の片面にドクターブレード法を用いて塗布し、乾燥させて、正極合剤層を形成した。その後、ロールプレス機により圧縮成形し、所定の大きさに切断してリチウムイオン二次電池用正極を作製した。
【0087】
(2)負極の作製
負極活物質(98質量%、黒鉛(XRD測定により求めた(002)の面間隔d
002 = 0.35〜0.36 nm))と、バインダ(2質量%、スチレンブタジエンゴム(1質量%)+カルボキシルメチルセルロース(1質量%))とを水に添加し、負極合剤スラリーを作製した。
【0088】
次に、この負極合剤スラリーを、厚さ20μmの負極集電体(銅箔)の片面にドクターブレード法を用いて塗布し、乾燥させて、負極合剤層を形成した。その後、ロールプレス機により圧縮成形し、所定の大きさに切断してリチウムイオン二次電池用負極を作製した。
【0089】
(3)非水電解液の作製
非水電解液の非水溶媒として、エチレンカーボネート(EC)およびエチルメチルカーボネート(EMC)の混合溶媒(体積比=1 : 1)を調合した。次に、該混合溶媒に対して、電解質として六フッ化リン酸リチウム(LiPF
6)を1 mol/Lとなるように溶解させた。最後に、該混合溶液に対して、後述する表1に示す難燃剤を、所定濃度で添加・混合し、非水電解液を作製した。難燃剤の添加量は、電解液全体の質量に対する割合(質量%)とした。電解質の濃度は非水溶媒全体に対するに対する体積モル濃度である(以下、同様)。
【0090】
また、非水溶媒と難燃剤とのハンセン溶解度パラメーター(HSP)の差を表1に併記する。ハンセン溶解度パラメータの算出には、市販の計算ソフトを利用した(Hansen Solubility Parameters: A User’s Handbookを参照)。
【0091】
難燃剤のハンセン溶解度パラメーター(HSP
add)の計算の際に、便宜上、分子量を変更せず酸素の位置を変更して計算し、近似的なHSP
addを求めたものもある。例えば、後述する表1に示した「P(C
6H
4C
6H
11)(OCH
3)
2」は、「O=P(OCH
3)
2(C
6H
4C
6H
11)」としてHSP
addを算出した。
【0092】
この近似方法は、以下の理由で妥当と判断した。亜リン酸トリメチル((CH
3O)
3P)の溶解度パラメータは、「E. StefanisとC. Panayiotou」の方法により計算することができる(前述のHansen Solubility Parameters: A User’s Handbookを参照)。「(CH
3O)
3P」と「(CH
3O)
2(CH
3)P=O」の溶解度パラメータは、それぞれ「17.4」、「16.7」となり、両者の差は十分小さい(ほぼ一致したと言える)。このことから、ハンセン溶解度パラメータを直接的に計算できなかった難燃剤(B11〜B17, B52, B53, B55)については、酸素の位置のみを変更して計算したHSP
addを用いた。
【0093】
(4)リチウムイオン二次電池の作製
上記で作製した正極、負極および非水電解液を使用して、
図1に示したリチウムイオン二次電池(定格容量:10 Ah)を作製した。電池容器102および蓋103にはステンレス鋼を用い、セパレータ109には厚さ30μmの多孔性のポリエチレンフィルムを用い、絶縁性シール112にはガラスハーメチックシールを用いた。また、
図1に示したように、セパレータ109は、正極107と電池容器102との間、負極108と電池容器102との間にも配置し、電池容器102を通じて正極107と負極108とが短絡しない構成とした。
【0094】
(試験評価)
(a)充放電試験(初期容量評価)
(a-1)放電電流が0.5 Cの場合
上記で用意したリチウムイオン二次電池について、以下の充放電試験を実施し、初期容量を評価した。まず、作製した電池を開回路の状態から電池電圧が4.2 Vになるまで、2時間率相当の定電流にて充電した。電池電圧が4.2 Vに達した後は、電流値が100時間率相当になるまで4.2 Vを保持した。その後、充電を停止し、30分間の休止時間を設けた。次いで、2時間率相当の定電流の放電を開始し、電池電圧が3.0 Vに達するまで放電させた。その後、放電を停止し、30分の休止時間を設けた。ここまでの工程を初期エージングと称す。この初期エージングを3回繰り返した後に得られた放電容量を当該二次電池の初期容量とした。同じ条件の二次電池を5個作製し、上述した試験を同様に実施して、初期容量の平均値を算出した。定格容量に対して、90%以上の初期容量を「合格」と評価し、90%未満の初期容量を「不合格」と評価した。結果を後述する表2に示す。
【0095】
(a-2)放電電流が3 Cの場合
上記の試験を行った後、充電条件を変えずに放電電流のみを30 Aに増大させた条件で放電を行い、初期容量を算出した。この試験は、高いレート(大電流)で放電させたときの電池特性(ハイレート特性)を確認するためのものである。結果を表2に併記する。
【0096】
なお、ここで言う時間率とは、電池の設計放電容量を所定の時間で放電する電流値と定義する(以下、同様)。例えば、上述の5時間率とは、電池の設計容量を5時間で放電する電流値である。さらに具体的には電池の容量をC(単位:Ah)とすると、5時間率の電流値はC/5(単位:A)となる。
【0097】
(b)過充電試験(安全性評価)
初期容量を評価した二次電池に対し過充電試験を実施した。過充電試験の手順を以下に示す。B1〜B19の電池を初期エージングの充電条件に従って再充電し、充電深度100%にした。その状態から、上限電圧4.2 Vを10 Vに変更し、10 Vに達するまで過充電を継続した。この間、二次電池の破裂または発火がないものを「合格」と評価し、二次電池の破裂または発火があったものを「不合格」と評価した。結果を表2に併記する。
【0098】
【表1】
【0099】
【表2】
【0100】
表2に示したように、本発明に係る非水電解液二次電池(B1〜B19)は、初期容量(0.5 C放電)、過充電試験の両方の項目において、要求されるレベルを全てクリアしていることが分かる。また、初期容量(3 C放電)においても、定格容量の約80%〜約90%を達成しており、本発明に係る非水電解液二次電池(B1〜B19)は優れたハイレート特性を有していることが確認され、特に、分子量の小さい難燃剤(B1, B2)、酸素またはイオウ原子数の多い置換基を有する難燃剤(B8, B14, B16)が優れていた。
【0101】
過充電試験中、4.4 V付近から電池電圧の上昇が抑制される傾向が見られた。これは、非水電解液に添加した難燃剤(化合物)が重合反応を起こし始めたことに起因すると考えられた。その後、4.8 Vから急激に電圧が上昇し10 Vに達した後に、電流がほぼゼロとなって、充電することができなくなった。これは、化合物の重合生成物が正極上で高抵抗の被膜を形成したことに起因すると考えられた。これらのことから、本発明に係る非水電解液は過充電を防止する機能を有していることが確認された。
【0102】
(B51のリチウムイオン二次電池の作製と試験評価)
難燃剤を添加せずに非水電解液を調合したこと以外は、前述と同様にして、B51のリチウムイオン二次電池を作製し、充放電試験および過充電試験を実施した。試験・評価結果を後述する表4に示す。
【0103】
(B52のリチウムイオン二次電池の作製と試験評価)
B1〜B4で用いた難燃剤(P(OC
6H
4C
6H
11)(OCH
3)
2)の添加量を2質量%として非水電解液を調合したこと以外は前述と同様にして、B52のリチウムイオン二次電池を作製し、充放電試験および過充電試験を実施した。添加した難燃剤を後述する表3に併記し、試験・評価結果を表4に併記する。
【0104】
(B53のリチウムイオン二次電池の作製と試験評価)
B1〜B4で用いた難燃剤(P(OC
6H
4C
6H
11)(OCH
3)
2)の添加量を40質量%として非水電解液を調合したこと以外は前述と同様にして、B53のリチウムイオン二次電池を作製し、充放電試験および過充電試験を実施した。添加した難燃剤を表3に併記し、試験・評価結果を表4に併記する。
【0105】
(B54のリチウムイオン二次電池の作製と試験評価)
難燃剤としてP(OC
6H
5C
6H
11)
3を1質量%添加して非水電解液を調合したこと以外は前述と同様にして、B54のリチウムイオン二次電池を作製し、充放電試験および過充電試験を実施した。添加した難燃剤を表3に併記し、試験・評価結果を表4に併記する。
【0106】
(B55のリチウムイオン二次電池の作製と試験評価)
難燃剤としてP(OC
6H
5C
6H
11)
3を5質量%添加して非水電解液を調合した。しかしながら、添加した難燃剤の約1/5量は非水電解液に溶解したが、大半の難燃剤が未溶解の状態で残った。そこで、未溶解の難燃剤を濾別し、濾液を非水電解液とした。それ以外は前述と同様にして、B55のリチウムイオン二次電池を作製し、充放電試験および過充電試験を実施した。添加した難燃剤を表3に併記し、試験・評価結果を表4に併記する。
【0107】
【表3】
【0108】
【表4】
【0109】
表3・表4から分かるように、難燃剤を添加しないB51、および難燃剤の添加濃度が本発明の規定より少ないB52では、安全性評価(過充電試験)が不合格となった。一方、難燃剤の添加濃度が本発明の規定より多いB53では、初期容量が著しく低下した。
【0110】
難燃剤が本発明の規定から外れるB54では、難燃剤の分子サイズが大きいことから電解液の粘度を高めたため、リチウムイオンの導電率が減少し、初期容量が著しく低下した。また、B55では、難燃剤と非水溶媒とのHSPの差が4.4と本発明の規定よりも大きいことから、前述したように5質量%の難燃剤を非水電解液に溶解させることは困難であることがわかった。B55では、未溶解の難燃剤を除去した非水電解液を用いた結果、B54と同様の電池特性を示した。
【0111】
[実施例2]
電池B1に使用した正極に、第2の難燃剤としてP(OC
6H
4C
6H
11)
3をスプレーコーティング法によりコーティングして、リチウムイオン二次電池B56を作製した。正極への第2の難燃剤の添加量は、正極活物質質量に対して1%となるようにした。第2の難燃剤の溶媒にはジメチルカーボネートを用いた。コーティング後、真空で乾燥し、正極表面にP(OC
6H
4C
6H
11)
3の被覆層を形成した。B56で使用した難燃剤を表5に示し、試験・評価結果を表6に示す。
【0112】
【表5】
【0113】
【表6】
【0114】
上記で調製した非水電解液に火炎を近づけたところ、該非水電解液は燃焼しなかった。これは、非水電解液に添加したP(OC
6H
4C
6H
11)(OCH
3)
2の効果によるものと考えられた。また、表6に示したように、本実施例の非水電解液二次電池(B56)は、初期容量(0.5 C放電)、過充電試験の両方の項目において、要求されるレベルを全てクリアした。さらに、初期容量(3 C放電)においても、定格容量の90%弱を達成しており、本実施例の非水電解液二次電池(B25)は優れたハイレート特性を有していることが確認された。
【0115】
[実施例3]
B1〜B4で用いた難燃剤(P(OC
6H
4C
6H
11)(OCH
3)
2)を、ゼラチン−アラビアゴム製のマイクロカプセルに充填してバインダと混合し、正極に対面するセパレータの表面に塗布した。それ以外は実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池を作製した。二次電池内(マイクロカプセル中+非水電解液中)の難燃剤の総量は、非水電解液に対して10質量%になるように調整した。
【0116】
初期エージングの後、充電深度100%まで充電した二次電池をオーブン内に設置し、200℃まで昇温・保持した。加熱によって電池容器に亀裂が入り、その部分から非水電解液が漏洩したが、該非水電解液が燃焼することはなかった。同様にして、初期エージングの後、充電深度100%まで充電した二次電池を、火炎中に投入した。電池容器に亀裂が入って、そこから非水電解液が漏洩したが、それが燃焼して二次電池が破裂することはなかった。
【0117】
いずれの場合も、加熱によってマイクロカプセルが溶融し、難燃剤が二次電池内部に十分拡散したことに起因して、難燃剤の効果が十分に発現したものと考えられた。本実施例の実験から、本発明の難燃剤は、非水電解液の燃焼反応を防止する機能を有することが実証された。
【0118】
[実施例4]
実施例1で用意した二次電池B1を用いて、
図2に示す二次電池システムを作製し、充放電試験、サイクル試験、および過充電試験を行った。
【0119】
発電装置222における発電状況に合わせて、リチウムイオン二次電池101a,101bの充放電を行いながら、外部機器219に電力を供給する実験を行った。2時間率の充電を行った後に1時間率の放電を行い、初期の放電容量を求めた。その結果、各二次電池101a、101bの設計容量10 Ahの99.5〜100%の容量が得られることが確認された。
【0120】
その後、環境温度20〜30℃の条件で、充放電サイクル試験を行った。まず、2時間率の電流(5 A)にて充電を行い、充電深度50%(5 Ah充電した状態)になった時点で、充電方向に5秒のパルスを、放電方向に5秒のパルスを二次電池101a、101bに与え、発電装置222からの電力の受け入れと外部機器319への電力供給を模擬するパルス試験を行った。電流パルスの大きさは、ともに15Aとした。
【0121】
続けて、残りの容量5 Ahを2時間率の電流(5 A)で各二次電池の電圧が4.2 Vに達するまで充電し、その電圧で1時間の定電圧充電を行って充電を終了させた。その後、1時間率の電流(10 A)にて各二次電池の電圧が3.0 Vまで放電した。
【0122】
上記一連の充放電サイクル試験を500回繰り返したところ、初期の放電容量に対し、98〜99%の容量を得た。電力受け入れと電力供給の電流パルスを二次電池に与えても、本実施例の二次電池システムの性能はほとんど低下しないことが確認された。
【0123】
次に、二次電池101aのみを予め充電深度100%まで充電し、二次電池101bは放電した状態で、二次電池システムを組み立てた。この状態から二次電池101bを充電深度100%まで充電した。充電過程において、二次電池101aは過充電状態になったが、本発明の難燃剤の重合反応による過充電防止作用によって、二次電池101aへの充電は停止された。その結果、二次電池101aにおいて過充電に起因する破裂・発火は発生せず、高い安全性を示すことが確認された。
【0124】
以上説明したように、本発明によれば、非水電解液二次電池の電池特性を犠牲にすることなく、難燃性および過充電防止性を付与する非水電解液を提供できることが確認された。また、該非水電解液を用いることによって、従来と同等以上の電池特性を確保しながら、従来よりも安全性の高い非水電解液二次電池、およびそれを用いた二次電池システムを提供できることが確認された。
【0125】
なお、上述した実施形態および実施例は、本発明の理解を助けるために具体的に説明したものであり、本発明は、説明した全ての構成を備えることに限定されるものではない。例えば、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。さらに、各実施例の構成の一部について、削除・他の構成に置換・他の構成の追加をすることが可能である。