特許第5942897号(P5942897)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 信越化学工業株式会社の特許一覧

特許5942897酸化珪素析出体の連続製造方法及び製造装置
<>
  • 特許5942897-酸化珪素析出体の連続製造方法及び製造装置 図000002
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5942897
(24)【登録日】2016年6月3日
(45)【発行日】2016年6月29日
(54)【発明の名称】酸化珪素析出体の連続製造方法及び製造装置
(51)【国際特許分類】
   C01B 33/113 20060101AFI20160616BHJP
   H01M 4/48 20100101ALI20160616BHJP
【FI】
   C01B33/113 A
   H01M4/48
【請求項の数】11
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-36861(P2013-36861)
(22)【出願日】2013年2月27日
(65)【公開番号】特開2014-159358(P2014-159358A)
(43)【公開日】2014年9月4日
【審査請求日】2015年2月24日
(31)【優先権主張番号】特願2012-65185(P2012-65185)
(32)【優先日】2012年3月22日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2012-279544(P2012-279544)
(32)【優先日】2012年12月21日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2012-279556(P2012-279556)
(32)【優先日】2012年12月21日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2012-279567(P2012-279567)
(32)【優先日】2012年12月21日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2013-11658(P2013-11658)
(32)【優先日】2013年1月25日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079304
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 隆司
(74)【代理人】
【識別番号】100114513
【弁理士】
【氏名又は名称】重松 沙織
(74)【代理人】
【識別番号】100120721
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 克成
(74)【代理人】
【識別番号】100124590
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 武史
(74)【代理人】
【識別番号】100157831
【弁理士】
【氏名又は名称】正木 克彦
(72)【発明者】
【氏名】西峯 正進
(72)【発明者】
【氏名】福岡 宏文
【審査官】 森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−220123(JP,A)
【文献】 特開2011−139987(JP,A)
【文献】 特開2002−060212(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/00 − 33/193
H01M 4/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化珪素粉末を含む混合原料粉末を反応させて、酸化珪素蒸気を生成させる反応室と、上記酸化珪素蒸気を、冷却した基体表面に析出させる2以上の析出室と、上記酸化珪素蒸気を上記反応室から上記析出室に搬送する搬送管とを備えた装置の、上記反応室に二酸化珪素粉末を含む混合原料粉末を供給し、この反応室内で常圧又は減圧の不活性ガス中、1,200〜1,600℃に加熱して酸化珪素蒸気を発生させ、この酸化珪素蒸気を反応室と同じ温度以上に保持された搬送管を介して析出室に導入し、析出室内の冷却された基体表面に、酸化珪素を塊状で析出させ、析出室中への酸化珪素蒸気の導入停止中に、酸化珪素析出体を回収する酸化珪素析出体の製造方法であって、2以上の析出室を用いて、酸化珪素蒸気の導入を他の析出室に順次切り替えることにより、析出室中への酸化珪素蒸気の導入及び導入停止を、2以上の析出室で順次繰り返し、析出室中への酸化珪素蒸気の導入停止と基体の冷却とにより、酸化珪素析出体を基体から自然剥離させ、析出室とバルブを介して連結した回収機構に落下させ、上記バルブを閉めた後、酸化珪素析出体を回収することにより、酸化珪素析出体を2以上の析出室から回収することを特徴とする、酸化珪素析出体の連続製造方法。
【請求項2】
混合原料粉末が二酸化珪素と金属珪素粉末との混合物である請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
さらに、析出後に基体に振動を加えることを特徴とする請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
出室中への酸化珪素蒸気の導入停止から、酸化珪素析出体の自然剥離までの基体冷却速度が60℃/h(時間)以上である請求項1〜3のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項5】
析出室の基体の冷却温度が1,000℃以下である請求項1〜4のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項6】
基体表面に析出した塊状の酸化珪素の厚さが2〜100mmになった時点で、酸化珪素蒸気の導入を他の析出室に順次切り替える請求項1〜5のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項7】
酸化珪素蒸気を、析出室内の基体表面積に対して0.5〜50kg/m2/h(時間)で析出室に導入する請求項1〜6のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項8】
酸化珪素析出体のBET比表面積が、0.5〜30m2/gである請求項1〜のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項9】
酸化珪素析出体が、リチウムイオン二次電池負極活物質用である請求項1〜のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項10】
二酸化珪素粉末を含む混合原料粉末を反応させて、酸化珪素蒸気を生成させる反応室と、この反応室内に上記混合原料粉末を供給する原料供給機構と、上記酸化珪素蒸気を表面に析出させる基体を有する、2以上の析出室と、上記基体を冷却する冷却機構と、上記酸化珪素蒸気を上記反応室から上記析出室に搬送する搬送管と、2以上の上記析出室のいずれか1室に導入する切り替え機構と、上記基体表面に析出した酸化珪素析出体を回収する、上記析出室とバルブを介して連結した回収機構を備えることを特徴とする酸化珪素析出体の製造装置。
【請求項11】
さらに、上記基体に振動を加える振動機構を備える請求項10記載の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、包装用フィルム蒸着用、リチウムイオン二次電池負極活物質等として好適に使用される酸化珪素析出体の連続製造方法及び製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、酸化珪素粉末の製造方法として、二酸化珪素系酸化粉末からなる原料混合物を減圧非酸化性雰囲気中で熱処理することにより酸化珪素蒸気を発生させ、この酸化珪素蒸気を気相中で凝縮させて、0.1μm以下の微細アモルファス状の酸化珪素粉末を連続的に製造する方法(特許文献1:特開昭63−103815号公報)、及び原料珪素を加熱蒸発させて、表面組織を粗とした基体の表面に蒸着させる方法(特許文献2:特開平9−110412号公報)が知られている。また、二酸化珪素を含む混合原料粉末を反応炉内に供給し、酸化珪素ガスを発生させ、冷却した基体表面に析出させ、ついでこの酸化珪素析出物を連続的に回収する方法(特許文献3:特開2001−220123号公報)がある。
【0003】
しかしながら、上述した特開昭63−103815号公報の方法は、連続的な製造が可能であるが、生成したSiO粉末は微粉であり、大気に取り出した際の酸化反応により高純度の酸化珪素粉末が製造できない問題がある。一方で、特開平9−110412号公報に記載の方法は、高純度酸化珪素はできるものの回分法を前提としているため、量産化が困難であり、結果として高価な酸化珪素粉末しか製造できない。特開2001−220123号公報に記載の方法は、高純度酸化珪素粉末を連続的に回収することはできるが、実質的に回転機構を有するかき取り装置のため軸受け部分が長期の使用に耐えず、気密性が保てないという問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭63−103815号公報
【特許文献2】特開平9−110412号公報
【特許文献3】特開2001−220123号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記事情に鑑みなされたもので、高純度の酸化珪素析出体を、効率的に低コストで、しかも安定的に製造することができる酸化珪素析出体の連続製造方法、及び製造装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を行った結果、二酸化珪素粉末を含む混合原料粉末を1,200〜1,600℃に加熱保持された反応室に供給し、反応室で発生した酸化珪素蒸気を、反応室と同じ温度以上に保持された搬送管を介して2室以上の析出室に交互に搬送し、析出室内の冷却された基体表面に、酸化珪素を塊状で析出させ、酸化珪素を塊状で析出させた後、酸化珪素蒸気の導入を他の析出室に順次切り替えることにより、析出室中への酸化珪素蒸気の導入及び導入停止を、2以上の析出室で順次繰り返すことで、酸化珪素の析出と回収が別の析出室で並行して行われ、全体として析出及び回収が順次又は連続して行われ、高純度の酸化珪素析出体の連続的な製造が可能であることを見出した。
【0007】
従って、本発明は下記を提供する。
[1].二酸化珪素粉末を含む混合原料粉末を反応させて、酸化珪素蒸気を生成させる反応室と、上記酸化珪素蒸気を、冷却した基体表面に析出させる2以上の析出室と、上記酸化珪素蒸気を上記反応室から上記析出室に搬送する搬送管とを備えた装置の、上記反応室に二酸化珪素粉末を含む混合原料粉末を供給し、この反応室内で常圧又は減圧の不活性ガス中、1,200〜1,600℃に加熱して酸化珪素蒸気を発生させ、この酸化珪素蒸気を反応室と同じ温度以上に保持された搬送管を介して析出室に導入し、析出室内の冷却された基体表面に、酸化珪素を塊状で析出させ、析出室中への酸化珪素蒸気の導入停止中に、酸化珪素析出体を回収する酸化珪素析出体の製造方法であって、2以上の析出室を用いて、酸化珪素蒸気の導入を他の析出室に順次切り替えることにより、析出室中への酸化珪素蒸気の導入及び導入停止を、2以上の析出室で順次繰り返し、析出室中への酸化珪素蒸気の導入停止と基体の冷却とにより、酸化珪素析出体を基体から自然剥離させ、析出室とバルブを介して連結した回収機構に落下させ、上記バルブを閉めた後、酸化珪素析出体を回収することにより、酸化珪素析出体を2以上の析出室から回収することを特徴とする、酸化珪素析出体の連続製造方法。
[2].混合原料粉末が二酸化珪素と金属珪素粉末との混合物である[1]記載の製造方法。
[3].さらに、析出後に基体に振動を加えることを特徴とする[1]又は[2]記載の製造方法。
[4].出室中への酸化珪素蒸気の導入停止から、酸化珪素析出体の自然剥離までの基体冷却速度が60℃/h(時間)以上である[1]〜[3]のいずれかに記載の製造方法。
[5].析出室の基体の冷却温度が1,000℃以下である[1]〜[4]のいずれかに記載の製造方法。
[6].基体表面に析出した塊状の酸化珪素の厚さが2〜100mmになった時点で、酸化珪素蒸気の導入を他の析出室に順次切り替える[1]〜[5]のいずれかに記載の製造方法。
[7].酸化珪素蒸気を、析出室内の基体表面積に対して0.5〜50kg/m2/h(時間)で析出室に導入する[1]〜[6]のいずれかに記載の製造方法。
[8].酸化珪素析出体のBET比表面積が、0.5〜30m2/gである[1]〜[]のいずれかに記載の製造方法。
[9].酸化珪素析出体が、リチウムイオン二次電池負極活物質用である[1]〜[]のいずれかに記載の製造方法。
[10].二酸化珪素粉末を含む混合原料粉末を反応させて、酸化珪素蒸気を生成させる反応室と、この反応室内に上記混合原料粉末を供給する原料供給機構と、上記酸化珪素蒸気を表面に析出させる基体を有する、2以上の析出室と、上記基体を冷却する冷却機構と、上記酸化珪素蒸気を上記反応室から上記析出室に搬送する搬送管と、2以上の上記析出室のいずれか1室に導入する切り替え機構と、上記基体表面に析出した酸化珪素析出体を回収する、上記析出室とバルブを介して連結した回収機構を備えることを特徴とする酸化珪素析出体の製造装置。
[11].さらに、上記基体に振動を加える振動機構を備える[10]記載の製造装置。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、高純度の酸化珪素析出体の、効率的かつ連続的な製造が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の第1実施例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の製造方法は、二酸化珪素粉末を含む混合原料粉末を反応させて、酸化珪素蒸気を生成させる反応室と、上記酸化珪素蒸気を、冷却した基体表面に析出させる2以上の析出室と、上記酸化珪素蒸気を上記反応室から上記析出室に搬送する搬送管とを備えた装置の、上記反応室に二酸化珪素粉末を含む混合原料粉末を供給し、この反応室内で常圧又は減圧の不活性ガス中、1,200〜1,600℃に加熱して酸化珪素蒸気を発生させ、この酸化珪素蒸気を反応室と同じ温度以上に保持された搬送管を介して析出室に導入し、析出室内の冷却された基体表面に、酸化珪素を塊状で析出させ、析出室中への酸化珪素蒸気の導入停止中に、酸化珪素析出体を回収する酸化珪素析出体の製造方法であって、2以上の析出室を用いて、酸化珪素蒸気の導入を他の析出室に順次切り替えることにより、析出室中への酸化珪素蒸気の導入及び導入停止を、2以上の析出室で順次繰り返し、酸化珪素析出体を2以上の析出室から回収することを特徴とする、酸化珪素析出体の連続製造方法である。
【0011】
二酸化珪素粉末を含む混合原料粉末としては、二酸化珪素粉末とこれを還元する粉末との混合物を用いる。具体的な還元粉末としては、金属珪素化合物、炭素含有粉末等が挙げられるが、反応性を高め、収率を高めるといった点から、金属珪素粉末が好ましい。二酸化珪素粉末と金属珪素粉末の場合、下記の反応スキームによって進行する。
Si(s)+SiO2(s)→2SiO(g)
【0012】
本発明に用いる二酸化珪素粉末の平均粒子径は0.1μm以下であり、通常0.005〜0.1μm、好ましくは0.005〜0.08μmである。また金属珪素粉末の平均粒子径は30μm以下であり、通常0.05〜30μm、好ましくは0.1〜20μmである。二酸化珪素粉末の平均粒子径が0.1μmより大きい、または金属珪素粉末の平均粒子径が30μmより大きいと、反応性が低下し、生産性が低下するおそれがある。なお、本発明において、平均粒子径はレーザー光回折法による粒度分布測定における累積重量平均値D50(又はメジアン径)等として測定することができる。
【0013】
本発明では、上記混合原料粉末を反応室内において1,200〜1,600℃、好ましくは1,300〜1,500℃の温度に加熱、保持し、酸化珪素蒸気を生成させる。反応温度が1,200℃未満では反応が進行しがたく、生産性が低下してしまい、一方、1,600℃を超えると、混合原料粉末が溶融して炉材料の選定が困難になる場合がある。
【0014】
一方、炉内(反応室)雰囲気は、常圧又は減圧(好ましくは1,000Pa以下)の不活性ガス中で行う。中でも、酸化珪素が蒸気として発生しやすい減圧下で行うことが好ましい。不活性ガスとしては、アルゴンガス、ヘリウムガス等が挙げられる。
【0015】
上記反応室には、原料供給機構にて、上記混合原料粉末を適宜間隔ごと、又は連続的に供給し反応を連続的に行うものである。上記原料供給機構としては、スクリューフィーダー等による連続供給や、上下にバルブを設けた中間ホッパーによる間欠供給、及びこれらの組み合わせが挙げられる。
【0016】
上記反応室で生成した酸化珪素蒸気は、搬送管を介して析出室に連続的に供給される。本発明において、搬送管は反応室と同じ温度以上に保持される。搬送管の温度が反応室以下の温度では、酸化珪素蒸気が搬送管内壁に析出、付着して運転上の支障をきたし、安定的な運転ができなくなる。逆に、反応室を著しく超える温度に加熱しても、電力コストの上昇を招くだけで効果が得られないため、反応室と同じ温度〜反応室と同じ温度+200℃以下が妥当である。
【0017】
上記析出室は、2室以上が必要であり、3室でも、4室以上でもよい。反応室で発生する酸化珪素蒸気は、蒸気の流れを制御する切り替え機構によって、2室以上ある析出室のいずれか1室に導入される。析出室内には、冷却された基体が配置され、この析出室に導入された上記酸化珪素蒸気がこの冷却基体に接触し、冷却されることにより、この基体上に塊状の酸化珪素析出体(固体)として析出する。析出室の基体の冷却温度は、全工程において1,000℃以下が好ましく、析出のための基体温度(析出温度)は1,000℃まで基体温度を下げればよいが、基体の冷却温度は200〜1,000℃が好ましい。この温度幅が大きいのは、析出室中への酸化珪素蒸気の導入及び導入停止を、2以上の析出室で順次繰り返すため、析出初期と後期によって基体温度が異なるためである。200℃以上で析出が始まり、300〜900℃がより好ましく、300〜800℃がさらに好ましい。なお、析出温度を上記範囲よりも低くしすぎ、かつそれを維持すると、得られた酸化珪素は微粉となり、活性が強すぎるものとなるおそれがある。
【0018】
酸化珪素蒸気の供給量は、析出室内の冷却された基体表面積に対して0.5〜50kg/m2/h(時間)が好ましく、より好ましくは1〜25kg/m2/hで導入する。この範囲とすることで、酸化珪素をより高収率で析出させることができる。基体表面積に対して、酸化珪素蒸気が多すぎると基体上に析出しきれず、析出室の壁面に析出したり、析出室から流出したりするおそれがあり、結果として酸化珪素の収率が下がる。一方、基体表面積に対して、酸化珪素蒸気が少なすぎると、冷却されすぎて微粉となり、塊状の析出体となりづらい。なお、基体面積は目的とする生産量で規定され、特に限定されないが、0.02〜1,000m2の範囲とすることができる。上記範囲とするためには、基体表面積に対する酸化珪素蒸気の供給量を適宜調整すればよく、例えば、1〜500kg/hの範囲とすることができる。
【0019】
なお、酸化珪素蒸気の供給量の測定は、混合原料粉末の供給量とヒーター出力の関係で判断できる。つまり、反応炉内の混合原料粉末が一定量に維持できている場合、ヒーター出力は、供給した混合原料粉末が反応温度まで昇温するための熱量と、反応し昇華するための熱量、反応炉の熱ロス量の合計となり、ヒーター出力の安定で混合原料粉末供給量と酸化珪素蒸気発生量(供給量)が等しくなっていることが判断できる。
【0020】
酸化珪素蒸気を一の析出室に所望時間導入した後、酸化珪素蒸気の導入を他の析出室に順次切り替える。酸化珪素蒸気の導入を他の析出室に順次切り替える基準は、例えば、基体表面に析出した塊状の酸化珪素の厚さが挙げられる。この厚さは、2〜100mmが好ましく、5〜50mmがより好ましい。2mmより薄い場合は、低温で析出した酸化珪素と同様活性が強く、微粉の割合が増えるため、収率が低下するおそれがある。一方、100mmより厚くなると、析出体が高温化での熱履歴を受け、大きくなりすぎると基体に強固に張り付いて剥離し難くなったり、剥離しても析出室内にひっかかって、回収容器に落下しなくなるおそれがある。なお、酸化珪素析出体の厚さは、覗き窓に取り付けたスケールで確認することができる。
【0021】
酸化珪素蒸気を一の析出室に所望時間導入した後、酸化珪素蒸気の導入を他の析出室に順次切り替えることで、それまで酸化珪素蒸気を導入されていた析出室は酸化珪素蒸気の導入停止となり、酸化珪素蒸気によって持ち込まれる熱量がなくなるため、主として基体の冷却機構によって冷却される。この場合、通常昇華した酸化珪素を析出させるならば、1,000℃以下まで基体温度を下げることで、蒸気圧が低下し目的を達するが、酸化珪素蒸気の析出室への導入停止による、持ち込み熱量の遮断と、冷却機構とによって、基体を過冷却するとよい。この過冷却により基体の温度(剥離温度)は200〜700℃、好適には200〜500℃まで冷却される。なお、基体温度の測定は、酸化珪素蒸気が直接当たる面の裏側を測定する。
【0022】
析出室中への酸化珪素蒸気の導入停止と基体の冷却とにより、基体と酸化珪素析出体との熱収縮差によって、かき取り装置のように、直接物理的な力を加えることなく、酸化珪素析出体が基体表面から自然剥離できる。なお、自然剥離には、基体に振動を加える等のように、酸化珪素析出体に直接、物理的な力を加えることなく、剥離を促進する場合を含む。そして、特に剥離作業を必要とすることなく、析出室中への酸化珪素蒸気の導入停止中に、2以上の回収容器に、順次又は連続的に回収されるため、より効率的に製造が可能となる。析出室中への酸化珪素蒸気の導入停止から、酸化珪素析出体の自然剥離までの基体冷却速度は60℃/h(時間)以上が好ましく、120℃/h以上がさらに好ましい。上限は特に限定されないが、900℃/h以下程度である。上記冷却速度が低すぎると、析出室切替えまでに酸化珪素析出体が自然剥離しないおそれがあり、効率的なかつ連続的な、酸化珪素析出体の製造が難しくなる。基体を冷却する冷媒の種類については特に限定されないが、水、熱媒等の液体、空気、窒素等の気体が適宜選択される。また熱媒を使用すれば、出口側の高温となった熱媒からスチーム等を熱回収ができる。
【0023】
基体の種類については特に限定されないが、金属材料が好ましく、加工性の点でステンレス鋼、ニッケル合金、チタン合金等の金属材料が好適に用いられる。例えば、一般的なステンレス鋼SUS304(JIS規格)では、線膨張係数が20×10-6/℃と大きい。それ以外の金属材料として、ニッケル合金のハステロイC(商標)では13.4×10-6/℃、チタン合金では9.4〜10.8×10-6/℃である。一方酸化珪素のそれははっきりしないが、一般的に酸化物の線膨張係数は小さく、石英の場合0.54×10-6/℃と小さい。析出した温度から、熱を遮断し、冷却機構により温度を下げることによって、収縮差が生じ、析出体の剥離に至ると考えられる。基体に振動を加えること、例えば、析出室の基体に連結した振動機構を析出室外部に設け、析出室外部から基体に振動を加えることにより、基体表面から、酸化珪素析出体が自然剥離しやすくなる。
【0024】
このように、酸化珪素蒸気の導入を他の析出室に順次切り替える(例えば、析出室がa,b二つの場合は、a→b→a→bを繰返す)ことにより、酸化珪素の析出と回収が別の析出室で並行して行われ、全体として析出及び回収が順次又は連続して行われ、酸化珪素析出体を連続して製造できる。なお、酸化珪素蒸気の導入を他の析出室に順次切り替える時間は、酸化珪素析出体が(自然)剥離して落下する時間、原料の量、基体の冷却速度等により適宜選定されるが、1〜8時間が好ましく、4時間以内がより好ましい。
【0025】
上記析出室数は特に制限されないが、酸化珪素の析出と、酸化珪素析出体の回収に十分な時間が確保できるよう、析出室の大きさと室数は決められる。酸化珪素蒸気の流れを制御する切り替え機構は、各析出室の前段又は後段に切り替えバルブを設けることで達成されるが、酸化珪素蒸気の流れを阻害しないためには、後段に設置することが望ましい。
【0026】
酸化珪素蒸気の導入を止められた析出室は、基体の冷却機構によって冷却されるが、それ以外にも、搬送管からの輻射熱を遮蔽する目的で、搬送管出口にシャッター機構を設け、冷却を促進することもできる。
【0027】
回収容器に回収された酸化珪素析出体は、析出室と回収容器の間にあるバルブ(ダンパー)によって隔離され、連続運転中に取り出すことが可能であり、回収がより効率的になる。析出室は高真空で運転しているため、酸化珪素析出体を取り出すためには、気密性に優れ、バルブとして、開口の大きなバルブを選定することが望ましい。バルブとしては、ボール弁、バタフライ弁、ゲート弁等が挙げられる。基体から剥離した、好ましくは自然剥離した酸化珪素析出体を、析出室とバルブを介して連結した回収機構に落下させる。その後、バルブを閉めて回収容器を復圧した後、酸化珪素析出体を回収する。
【0028】
真空で使用する場合のバルブリーク量としては、1×10-3Pa・m3/s以下が好ましく、リークの少ないバルブの方がより好ましい。口径は、塊状の析出体がバルブでひっかからないように大きい方が好ましい。実際には100A(JIS規格呼び径)以上が好ましい。また、酸化珪素の塊〜微粉が通過するので、粉の噛み込みの起こりにくいバルブを選定するのがよい。
【0029】
このようにして、析出室の基体から酸化珪素析出体が剥離し取り出されると、析出室は空の状態になるので、酸化珪素蒸気の切り替え機構によって、析出室から酸化珪素析出体
を回収している間は、酸化珪素蒸気を他の析出室に切り替え、その後、酸化珪素蒸気を受け入れることが可能となり、この繰り返しによって、連続運転が達成される。
【0030】
このようにして得られた、塊状の酸化珪素析出体中の酸化珪素の純度は99.9〜99.95質量%であり、高純度のものを得ることができる。
【0031】
このようにして得られた、塊状の酸化珪素析出体は、適切な粉砕機と分級器を使用することによって酸化珪素粉末とすることができる。例えば、平均粒子径0.01〜30μm、BET比表面積0.5〜30m2/gの酸化珪素粉体とすることができる。このような酸化珪素粉末は、包装用フィルム蒸着用、リチウムイオン二次電池負極活物質用等として好適である。なお、本発明におけるBET比表面積とは、N2ガス吸着量によって評価するBET1点法にて測定した時の値のことである。
【0032】
上記方法に用いる装置としては、例えば、図1に示すような、二酸化珪素粉末を含む混合原料粉末を反応させて、酸化珪素蒸気を生成させる反応室と、この反応室内に上記混合原料粉末を供給する原料供給機構と、上記酸化珪素蒸気を表面に析出させる基体を有する、2以上の析出室と、上記基体を冷却する冷却機構と、上記酸化珪素蒸気を上記反応室から上記析出室に搬送する搬送管と、2以上の上記析出室に交互に搬送する切り替え機構と、上記基体表面に析出した酸化珪素析出体を回収する回収機構を備える酸化珪素析出体の連続製造装置を用いることができる。
【0033】
装置の一例について、図1を用いてより詳細に説明する。反応炉1はその内部に反応室2を有する。反応室2にはヒーター4が備えられており、反応室2には原料供給機構5が連結し、反応室2は搬送管6を介して2以上の析出室7と連結している。析出室7には切り替え機構10が備えられている。例えば、析出室7a,7bの二つがあった場合、各析出室7a,7bは搬送管を介して反応室2に連結しており、各析出室には切り替え機構10a,10bが備えられている。そして、少なくとも一つの析出室が、切り替え機構10を介して真空ポンプ14に連結している。析出室7の基体9に連結した、バイブレーター等の振動機構16が析出室外部に設けられている。析出室7はバルブ12を介して回収容器11と連結しており、バルブ12によって析出室と隔離されている。13〜15は真空ポンプであり、それぞれ原料供給機構5、析出室7、回収容器11と連結している。なお、左右対称に記載された設備は、搬送管、析出室、基体、冷却機構、切り替え機構、回収容器、バルブであり、切り替え機構で酸化珪素蒸気の流れが変えられた際に、同じ操作で使用される。
【0034】
反応室2には二酸化珪素粉末を含む混合原料粉末が供給される。反応室2はヒーター4によって1,200〜1,600℃に加熱される。上記混合原料粉末は、原料供給機構5によって、反応室2に連続もしくは間欠的に供給される。反応室2内で発生した酸化珪素蒸気は、搬送管6により2以上の析出室7に搬送される。搬送管6はヒーター(図示せず)を具備し、反応室2の温度以上に保持され、反応室2と2以上の析出室7とを連結している。析出室7には、基体8が配置され、冷却機構9によって所定温度に冷却される。酸化珪素蒸気の流れは、切り替え機構10によって制御される。例えば、析出室7a,7bの二つがあった場合、まず析出室として7aを選択した場合、析出室7aの切り替え機構10aを開き、析出室7bの切り替え機構10bを閉じる。真空ポンプ14で減圧し、所定温度まで昇温すると、酸化珪素蒸気が発生し、発生した酸化珪素蒸気は析出室7aに流れて導入され、酸化珪素析出体は析出室7aの基体に析出する。所望時間析出させた後、切り替え装置10bを開いた後、切り替え装置10aを閉じる。これによって酸化珪素蒸気は、析出室7bへ流れて、酸化珪素析出体が析出室7bの基体に析出する。
【0035】
基体8aに析出した酸化珪素析出体は、析出室7a中への酸化珪素蒸気の導入停止と基体の冷却とにより、基体8aから剥離して落下し、回収容器11aに回収される。回収された酸化珪素析出体は、析出室7aと回収容器11aの間にあるバルブ12aによって隔離され、その後、バルブ12aを閉めて回収容器11aを復圧した後、酸化珪素析出体を回収する。析出室7aは空の状態になるので、酸化珪素蒸気の切り替え機構によって、析出室7aから酸化珪素析出体を回収している間は、酸化珪素蒸気の導入を他の析出室7bに切り替え、析出室7aから酸化珪素析出体を回収している間以外は、酸化珪素蒸気を受け入れることが可能となり、酸化珪素析出体は適宜連続運転中に取り出すことができる。13〜15は真空ポンプであり、それぞれ中間タンク、析出室7、回収容器11と連結している。なお、左右対称に記載された設備は、搬送管、析出室、基体、冷却機構、切り替え機構、回収容器、バルブ(ダンパー)であり、切り替え機構で酸化珪素蒸気の流れが変えられた際に、同じ操作で使用される。
【0036】
上記装置によれば、酸化珪素蒸気の流れを切り替えることによって、酸化珪素析出体を連続的に安定して製造できる。
【実施例】
【0037】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0038】
[実施例1]
図1に示す装置を用いて酸化珪素析出体を製造した。原料は、二酸化珪素粉末(平均粒子径0.02μm、BET比表面積200m2/g)と金属珪素粉末(平均粒子径10μm、BET比表面積3m2/g)を等量モルの割合で撹拌混合機を用いて混合した混合粉末であり、反応室2の容積が40Lの反応炉1に6kgの混合原料粉を初期仕込した。二系列あるうちの、析出室7aに最初に酸化珪素蒸気を導入し、酸化珪素を析出させることとし、切り替え機構10aを開、10bを閉として、アルゴンガス雰囲気下、真空ポンプ14を用いて炉内を10Paまで減圧した後、ヒーターに通電して1,400℃に昇温、保持した。搬送管も同様に1,400℃に昇温、保持した。冷媒は水を用いてステンレス鋼製の基体(140×600mm、表面積は0.084m2)を冷却した。反応室の圧力上昇と析出室の温度上昇から、酸化珪素蒸気が発生していることを確認できた。反応室温度が1,400℃に到達したとき、析出室の基体温度は300℃となった。反応が安定してから原料供給機構5を用いて、混合原料を2kg/hで供給した。原料供給後も、反応室圧力と析出室温度が安定していることから、連続反応していることを確認した。反応室が1,400℃に達してから4時間運転後、酸化珪素蒸気が導入された析出室の基体温度は650℃(析出温度)となっていた。基体表面積あたりの酸化珪素蒸気の導入量は、23kg/m2/hであった。覗き窓に取り付けたスケールで析出体の厚みが30mmであることを確認した。切り替え機構10bを開、10aを閉として、析出室7bに酸化珪素蒸気を導入して、酸化珪素を析出させることとした。析出室7aは持ち込まれる熱量がなくなり、冷却機構で冷やされるため、2時間後、基体温度は250℃(剥離温度)まで低下し、基体表面の酸化珪素析出体は自然剥離し、50Lの回収容器11aに落下した。冷却速度は200℃/hrであった。バルブ12aは200A(JIS規格呼び径)のゲート弁を使用した。バルブ12aを閉めて回収容器を復圧したのち、酸化珪素析出体が取り出された。以降4時間ごとに析出室を切り替え、合計168時間継続し、連続運転が可能であることが証明された。この間、バルブ12aを閉めて回収容器を復圧した際に、析出室の圧力変化はなく、洩れはなかった。酸化珪素固体は、1.9kg/hで回収され収率は95%であった。得られた酸化珪素析出体は、BET比表面積8m2/g、純度は99%以上であった。運転後、装置内を観察したが、反応室、搬送管に目立った析出体は確認されなかった。析出室内の基体は、きれいに剥離していた。
【0039】
[実施例2]
析出室7bに酸化珪素蒸気を導入して、酸化珪素を析出させるまでは実施例1と同様にした。その後、析出室7aの基体8aに外部から振動を加えられる振動機構16を作動させた。析出室7aは持ち込まれる熱量がなくなり、冷却機構で冷やされるため、1時間後、基体温度は390℃(剥離温度)まで低下し、基体表面の酸化珪素析出体は自然剥離し、回収容器11aに落下した。冷却速度は260℃/hrであった。バルブ12aを閉めて回収容器を復圧したのち、酸化珪素析出体が取り出された。以降4時間ごとに析出室を切り替え、合計168時間継続し、連続運転が可能であることが証明された。酸化珪素固体は、1.9kg/hで回収され収率は95%であった。得られた酸化珪素析出体は、BET比表面積8m2/g、純度は99%以上であった。運転後、装置内を観察したが、反応室、搬送管に目立った析出体は確認されなかった。析出室内の基体は、きれいに剥離していた。
【0040】
[実施例3]
冷媒を、窒素を用いてステンレス鋼製の基体を冷却した以外は、実施例2と同じ条件で酸化珪素析出体を連続的に製造した。実施例2と同様、反応室が1,400℃に達してから4時間後、切り替え機構によって析出室を切り替えた。析出室の基体温度は最初780℃であったが、2時間後520℃となり、冷却速度は130℃/hrであった。運転後、装置内を観察したが、反応室、搬送管に目立った析出体は確認されなかった。析出室内の基体は、きれいに剥離していた。
【0041】
[実施例4]
基体表面積あたりの酸化珪素蒸気の導入量を調整し、基体表面積あたりの酸化珪素蒸気の導入量を6kg/m2/hにした以外は実施例1と同様の条件で酸化珪素析出体を製造し、酸化珪素析出体は剥離した。得られた酸化珪素析出体は、BET比表面積10m2/g、純度は99%以上であった。運転後、装置内を観察したが、反応室、搬送管に目立った析出体は確認されなかった。析出室内の基体は、きれいに剥離していた。
【0042】
[実施例5]
バルブ12aを200A(JIS規格呼び径)のゲート弁から、200A(JIS規格呼び径)のボール弁に変更した以外は、実施例1と同じ条件で酸化珪素析出体を連続的に製造した。実施例1と同様、合計168時間継続し、連続運転が可能であることが証明された。この間、バルブ12aを閉めて回収容器を復圧した際に、析出室の圧力変化はなく、洩れはなかった。また粉の噛み込みも発生しなかった。
【0043】
[比較例1]
搬送管の温度を1,000℃とした以外は、実施例1と同じ条件で酸化珪素析出体を連続的に製造した。運転開始後、48時間後に搬送管が、酸化珪素析出体によって閉塞し、運転継続できなくなった。
【0044】
[比較例2]
析出室の基体冷却をしない以外は、実施例1と同じ条件で酸化珪素析出体を連続的に製造した。実施例1と同様、反応室が1,400℃に達してから4時間後、切り替え機構によって析出室を切り替えた。析出室の基体温度は最初950℃であったが、4時間後でも750℃にしか低下せず、酸化珪素析出体は剥離しなかった。冷却速度は50℃/hrであった。このため、析出室を切り替えられず、連続運転できなかった。
【0045】
実施例で得られた塊状の酸化珪素析出体を粉砕し酸化珪素粉体を得て、リチウムイオン二次電池負極活物質として用いたところ、良好な電池特性を示した。
【符号の説明】
【0046】
1 反応炉
2 反応室
3 混合原料粉
4 ヒーター
5 原料供給機構
6a,6b 搬送管
7a,7b 析出室
8a,8b 基体
9a,9b 冷却機構
10a、10b 切り替え機構
11a、11b 回収容器
12a、12b バルブ
13〜15 真空ポンプ
16a,16b 振動機構
図1