特許第5942986号(P5942986)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本ゼオン株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5942986
(24)【登録日】2016年6月3日
(45)【発行日】2016年6月29日
(54)【発明の名称】炭化水素原料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C10G 69/06 20060101AFI20160616BHJP
   C10G 9/00 20060101ALI20160616BHJP
   C10G 45/06 20060101ALI20160616BHJP
   C10G 45/36 20060101ALI20160616BHJP
【FI】
   C10G69/06
   C10G9/00
   C10G45/06 Z
   C10G45/36
【請求項の数】6
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2013-507763(P2013-507763)
(86)(22)【出願日】2012年3月30日
(86)【国際出願番号】JP2012058509
(87)【国際公開番号】WO2012133732
(87)【国際公開日】20121004
【審査請求日】2014年8月21日
(31)【優先権主張番号】特願2011-79067(P2011-79067)
(32)【優先日】2011年3月31日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】とこしえ特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】谷地 義秀
(72)【発明者】
【氏名】三木 英了
【審査官】 古妻 泰一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−202696(JP,A)
【文献】 特開2008−266438(JP,A)
【文献】 特開2010−275550(JP,A)
【文献】 特開2008−023524(JP,A)
【文献】 特開2007−326955(JP,A)
【文献】 特開昭50−135054(JP,A)
【文献】 特開昭48−076840(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0108866(US,A1)
【文献】 特開2013−060509(JP,A)
【文献】 米国特許第3510405(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10G 69/06
C10G 9/00
C10G 45/06
C10G 45/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナフサを熱分解してエチレンを生産する際に副生する、炭素数5の有機化合物を主成分とするC5留分から、少なくともイソプレンの一部を抽出蒸留により分離した後に、抽出残油として得られる、ジシクロペンタジエンを10重量%以上含有するC5ラフィネートからの、炭化水素原料の製造方法であって、 前記C5ラフィネートを気化させて、ガス化C5ラフィネートに含まれる炭素数10のジオレフィン類の少なくとも一部を熱分解させる気相熱分解工程と、 前記気相熱分解工程後に、気相状態で、前記気相熱分解工程後のガス化C5ラフィネートに含まれる含硫黄成分の少なくとも一部を除去する脱硫工程と、 前記脱硫工程後に、気相状態で、前記脱硫工程後のガス化C5ラフィネートに含まれるジオレフィン類およびオレフィン類から選ばれる少なくともいずれかの炭素−炭素二重結合の、少なくとも一部を水素化することで、ジオレフィン類およびオレフィン類の合計濃度が0.5重量%以下である炭化水素原料を得る水素添加工程と、を備え 前記脱硫工程を、還元雰囲気下において、圧力0.3MPa以下、および温度180〜400℃の条件で行なうことを特徴とする炭化水素原料の製造方法。
【請求項2】
前記脱硫工程を、担持型のニッケルを主成分とする触媒を使用して行なうことを特徴とする請求項に記載の炭化水素原料の製造方法。
【請求項3】
前記水素添加工程を、還元雰囲気下において、圧力0.3MPa以下、および温度140〜400℃の条件で行なうことを特徴とする請求項1または2に記載の炭化水素原料の製造方法。
【請求項4】
前記水素添加工程を、担持型のニッケルを主成分とする触媒を使用して行なうことを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の炭化水素原料の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法により得られた炭化水素原料をエチレンクラッカーの原料として用いるエチレンの製造方法。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法により得られた炭化水素原料を用いるガソリン基材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ナフサを熱分解してエチレンを生産する際に副生する、炭素数5の有機化合物を主成分とするC5留分から、少なくともイソプレンの一部を抽出蒸留により分離した後に、抽出残油として得られるC5ラフィネートからの、炭化水素原料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
合成ゴム等の主原料であるイソプレンは、通常、エチレンセンターのエチレンクラッカーより排出されるC5留分中に含まれるイソプレンを抽出蒸留することによって得られる。
【0003】
C5留分中に含まれるイソプレンを抽出蒸留するプロセスにおいては、C5留分からシクロペンタジエンを二量化(ジシクロペンタジエンとなる)除去した後、ペンタン、ペンテン類等の軽質分、およびペンタジエン類(ジシクロペンタジエンおよび1,3−ペンタジエンを含む)、アセチレン類等の重質分をそれぞれ2つの蒸留塔で除去し、さらに次の抽出蒸留塔でジオレフィン類(1,3−ペンタジエンを含む)および残りのアセチレン類を除去した後、残留分を蒸留することで、塔底より効率よくイソプレンを得ることができる。
【0004】
この際、抽出残油であるC5ラフィネートが得られるが、該C5ラフィネートをエチレンセンターに返送して、主としてガソリン基材やエチレンクラッカーの原料として利用することができる。また、除去したジシクロペンタジエンおよび1,3−ペンタジエン等は、樹脂等の原料として利用することができる。
【0005】
ところで、C5留分中の、イソプレン、ジシクロペンタジエンおよび1,3−ペンタジエン等のそれぞれの濃度は概ね一定であるのに対し、それぞれを原料とする製品の需要はその濃度比率に適合するとは限らない。よって、その余剰分をC5ラフィネートに戻す場合がある。そのため、エチレンセンターに返送するC5ラフィネート中のジオレフィン類の濃度は、数十%のレベルで変動することがある。
【0006】
また、C5留分中には、含硫黄成分が数重量ppm〜数百重量ppmの濃度で含まれており、そのため、抽出残油であるC5ラフィネートにも、含硫黄成分が数重量ppm〜数百重量ppm含まれていることになる。
【0007】
そのため、C5ラフィネートをエチレンクラッカーの原料として利用する場合、C5ラフィネート中に含硫黄成分や、ジオレフィン類が上記のように多量に含まれていると、エチレンセンターにあるエチレンプラントの精製部に設置されたジエン除去塔内の触媒が著しく劣化し、精製部における水素の消費量が大幅に増大し、エチレンプラントの採算性が悪化してしまうという問題がある。また、ジオレフィン類の多くは重合性が高く、その重合物が冷却管における汚れの開始物質となりやすいため、ジオレフィン類が多量に含まれると、冷却管内のクリーニングの頻度増大を招くという問題もある。さらに、含硫黄成分によりジエン除去塔内の触媒が被毒されてしまうため、含硫黄成分が多量に含まれると、被毒した触媒を再生したり、入れ替えを行なう必要が生じてしまい、触媒のランニングコストが悪化するという問題もある。
【0008】
そのため、ジオレフィン類や含硫黄成分が多量に含まれるC5ラフィネートは、品質的にもコスト的にも問題があるため、炭化水素原料として、特にエチレンクラッカーの炭化水素原料に利用することはできず、燃料として焼却しているというのが現状である。
【0009】
その一方で、昨今の環境問題への関心の高まりから、二酸化炭素の増加が懸念されており、原油を有効利用する必要性が高まっていることから、C5ラフィネートを燃焼せず、炭化水素原料として利用することが望まれている。
【0010】
そのため、濃度数十%のジオレフィン類を含み、含硫黄成分が数重量ppm〜数百重量ppm含まれているC5ラフィネートを、特にエチレンクラッカー用の炭化水素原料として利用するためには、含硫黄成分を可能な限り除去するとともに、ジオレフィン類およびオレフィン類等の二重結合を可能な限り水素化する必要がある。
【0011】
これに対して、たとえば、特許文献1および特許文献2には、熱分解ガソリンを選択的水素化する方法において、固体金属触媒を充填した反応管により、1段目の触媒としてパラジウム系触媒を、2段目の触媒としてコバルト−モリブデン系触媒を用いて選択的水素化を行なう方法が開示されている。
【0012】
しかしながら、特許文献1および特許文献2に記載の方法では、高圧下で水素化を実施しており、生産性に劣るという問題がある。また、この特許文献1および特許文献2には、脱硫の効果について何ら記載がなく、さらには、選択的水素化を行なう際に用いる触媒の寿命についても何ら記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特公平6−104628号公報
【特許文献2】特開2004−323485号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、C5ラフィネートから、炭化水素原料を得る際に、C5ラフィネート中のジオレフィン類およびオレフィン類、ならびに含硫黄成分を効率的に除去し、かつ、触媒の寿命を伸ばすことにより、生産性を向上させることのできる炭化水素原料の製造方法を提供することを目的とする。また、本発明は、このような製造方法により得られる高品質な炭化水素原料を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者等は、上記目的を達成するために鋭意研究した結果、C5ラフィネートを、気体状態で熱分解させ、次いで、気体状態で脱硫および水素化することにより、C5ラフィネート中のジオレフィン類およびオレフィン類、ならびに含硫黄成分を効率的に除去し、かつ、触媒の寿命を伸ばすことができ、これにより生産性を向上させることができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0016】
すなわち、本発明によれば、ナフサを熱分解してエチレンを生産する際に副生する、炭素数5の有機化合物を主成分とするC5留分から、少なくともイソプレンの一部を抽出蒸留により分離した後に、抽出残油として得られるC5ラフィネートからの、炭化水素原料の製造方法であって、前記C5ラフィネートを気化させて、ガス化C5ラフィネートに含まれる炭素数10のジオレフィン類の少なくとも一部を熱分解させる気相熱分解工程と、前記気相熱分解工程後に、気相状態で、前記気相熱分解工程後のガス化C5ラフィネートに含まれる含硫黄成分の少なくとも一部を除去する脱硫工程と、前記脱硫工程後に、気相状態で、前記脱硫工程後のガス化C5ラフィネートに含まれるジオレフィン類およびオレフィン類から選ばれる少なくともいずれかの炭素−炭素二重結合の、少なくとも一部を水素化することで、ジオレフィン類およびオレフィン類の合計濃度が0.5重量%以下である炭化水素原料を得る水素添加工程と、を備えることを特徴とする炭化水素原料の製造方法が提供される。
【0017】
本発明においては、前記脱硫工程を、還元雰囲気下において、圧力0.3MPa以下、および温度180〜400℃の条件で行なうことが好ましい。
本発明においては、前記脱硫工程を、担持型のニッケルを主成分とする触媒を使用して行なうことが好ましい。
本発明においては、前記水素添加工程を、還元雰囲気下において、圧力0.3MPa以下、および温度140〜400℃の条件で行なうことが好ましい。
本発明においては、前記水素添加工程を、担持型のニッケルを主成分とする触媒を使用して行なうことが好ましい。
本発明においては、前記C5ラフィネートが、ジシクロペンタジエンを10重量%以上含有するものであることが好ましい。
【0018】
また、本発明によれば、上記いずれかの製造方法により得られた炭化水素原料が提供される。本発明の炭化水素原料は、エチレンクラッカーの原料またはガソリン基材として用いられることが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、C5ラフィネートから、炭化水素原料を得る際に、C5ラフィネート中のジオレフィン類およびオレフィン類、ならびに含硫黄成分を効率的に除去し、かつ、触媒の寿命を伸ばすことにより、生産性を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の炭化水素原料の製造方法は、C5ラフィネートからの、炭化水素原料の製造方法であって、後述する気相熱分解工程と、脱硫工程と、水素添加工程とを含むものである。
【0021】
本発明で用いるC5ラフィネートは、ナフサを熱分解してエチレンを生産する際に副生する、炭素数5の有機化合物を主成分とするC5留分から、少なくともイソプレンの一部を抽出蒸留により分離した後に、抽出残油として得られる留分である。
【0022】
ここで、本発明で用いるC5ラフィネートは、炭素数5の有機化合物を主成分とするC5留分から、少なくともイソプレンの一部を抽出蒸留により分離した後に、抽出残油として得られる留分であるため、イソプレンを抽出蒸留した際に、イソプレンの一部は残存する場合も考えられる。そのため、本発明で用いるC5ラフィネートは、イソプレンを含んでいてもよい。
【0023】
また、本発明で用いるC5ラフィネートは、少なくともイソプレンの一部を抽出蒸留により分離した後に、抽出残油として得られる留分であればよいが、イソプレンに加えて、ジシクロペンタジエン、および1,3−ペンタジエンの3成分のそれぞれ一部を抽出蒸留により分離した後に、抽出残油として得られる留分であることが好ましい。この場合においても、各成分を抽出蒸留した際に、イソプレン、ジシクロペンタジエン、および1,3−ペンタジエンの3成分のそれぞれ一部は残存する場合も考えられる。そのため、本発明で用いるC5ラフィネートは、イソプレン、ジシクロペンタジエン、および1,3−ペンタジエンを含んでいてもよい。なお、C5ラフィネートとしては、分離されたイソプレン、ジシクロペンタジエン、および1,3−ペンタジエンのうち、利用見込みのない分(余剰分)が、抽出残油に混合されたものも含まれる。
【0024】
また、本発明において、炭素数5の有機化合物を主成分とするC5留分から、イソプレン、ジシクロペンタジエン、および1,3−ペンタジエンを抽出蒸留する方法としては、特に限定されないが、たとえば、GPI(日本ゼオン株式会社)等の公知の方法を採用することができる。
【0025】
本発明で用いるC5ラフィネートとしては、炭素数10のジオレフィン類としてのジシクロペンタジエンを、10重量%以上含有するものが好ましく、30重量%以上含有するものがより好ましく、一方、70重量%以下含有するものが好ましく、60重量%以下含有するものがより好ましい。また、本発明で用いるC5ラフィネートとしては、ジオレフィン類の含有割合が、好ましくは10重量%以上であり、より好ましくは30重量%以上であり、一方、好ましくは70重量%以下であり、より好ましくは60重量%以下である。さらに、本発明で用いるC5ラフィネートとしては、硫黄原子(硫黄および含硫黄成分中の硫黄原子)の含有割合が、C5ラフィネート全体に対して、好ましくは10重量ppm以上であり、より好ましくは30重量ppm以上であり、一方、好ましくは500重量ppm以下であり、より好ましくは300重量ppm以下である。ジシクロペンタジエン、ジオレフィン類および硫黄原子の含有割合が、それぞれ上記範囲にあるC5ラフィネートを用いることにより、本発明の効果をより一層顕著なものとすることができる。
【0026】
<気相熱分解工程>
次いで、気相熱分解工程について説明する。気相熱分解工程は、上述したC5ラフィネートを気化させて、ガス化C5ラフィネートに含まれる炭素数10のジオレフィン類の少なくとも一部を熱分解させる工程である。
【0027】
気相熱分解工程においては、まず、C5ラフィネートを加熱することにより気化させる。たとえば、C5ラフィネートを加熱して気化させる方法としては、反応装置内に備えられた予熱器に、C5ラフィネートを供給して予熱した後、該予熱器と配管によって接合された気化器に供給して加熱する方法が挙げられる。加熱温度は、通常、180〜400℃である。
【0028】
なお、C5ラフィネートを気化させる際には、希釈剤やエントレーナー(添加剤)等を添加することもできる。
【0029】
このような希釈剤やエントレーナーとしては、気相熱分解工程における熱分解反応や、後述する脱硫工程の脱硫反応、および後述する水素添加工程における水素化反応を阻害しないものであれば、特に限定さない。
【0030】
希釈剤の具体例としては、窒素ガス、へリウムガス、アルゴンガス等の不活性ガス;n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン等の炭素数5〜10のアルカン類;シクロペンタン、シクロへキサン、シクロヘプタン等の炭素数5〜10のシクロアルカン類;1−ペンテン、2−ペンテン、1−ヘキセン、2−ヘキセン、1−ヘプテン等の炭素数5〜10のアルケン類;シクロペンテン、シクロへキセン、シクロヘプテン等の炭素数5〜10のシクロアルケン類;などが挙げられる。これらの中でも、沸点が40〜300℃の範囲にあるものが好ましい。
【0031】
エントレーナーとしては、高沸点不純物を溶解することが必要なことから、沸点が150℃以上のものが望ましい。具体的には、鉱油系および合成系の潤滑油、ならびに熱媒油等が挙げられる。
【0032】
希釈剤およびエントレーナーの使用量は、特に限定されないが、通常、C5ラフィネート100重量部に対して、0〜3000重量部、好ましくは0〜2000重量部、より好ましくは0〜1000重量部である。希釈剤およびエントレーナーの使用量が多すぎると、プロセス効率の面で不利となる場合がある。
【0033】
次いで、気化したC5ラフィネートを、熱分解器に供給し、ガス化C5ラフィネート中に含まれる、炭素数10のジオレフィン類の少なくとも一部を熱分解する処理を行なう。なお、炭素数10のジオレフィン類としては、たとえば、ジシクロペンタジエンが挙げられ、この場合には、熱分解反応により、ガス化C5ラフィネート中に含まれるジシクロペンタジエンがシクロペンタジエンに分解することとなる。このように、ガス化C5ラフィネートについて、熱分解を行なうことにより、C5ラフィネート中に炭素数10のジオレフィン類が高濃度で含まれる場合であっても、後述する水素添加工程における水素化反応が効率よく進行し、結果として、得られる炭化水素原料中のジオレフィン類およびオレフィン類を効率的に除去することができる。
【0034】
熱分解を行なう際における温度は、通常、200〜500℃、好ましくは310〜450℃である。また、熱分解における圧力は、ゲージ圧で、好ましくは0.5MPa以下、より好ましくは0.3MPa以下であり、一方、好ましくは0MPa以上である。
【0035】
また、熱分解の時間としては、たとえば、熱分解器内で熱分解を行う場合、熱分解器内の滞留時間(ガス基準)を、所定の分解率が得られるような範囲とすればよく、特に限定されないが、好ましくは0.01〜60秒、より好ましくは0.05〜40秒である。
【0036】
そして、このような気相熱分解工程により、C5ラフィネート中に含まれていた炭素数10のジオレフィン類の少なくとも一部が分解されたガス化C5ラフィネート(以下、「分解ガス化C5ラフィネート」という。)を得ることができる。
【0037】
このような気相熱分解工程により、分解ガス化C5ラフィネート中の炭素数10のジオレフィン類の含有割合を、好ましくは1重量%以下、より好ましくは0.5重量%以下、特に好ましくは0.1重量%以下に減少させることができる。
【0038】
<脱硫工程>
次いで、脱硫工程について説明する。脱硫工程は、気相状態で、上述した気相熱分解工程後のガス化C5ラフィネート中に含まれる含硫黄成分の少なくとも一部を除去する工程である。
【0039】
脱硫工程においては、脱硫反応は、触媒の存在下で行なうことが好ましく、通常、触媒が充填された脱硫反応器に、上述した気相熱分解工程で得られた分解ガス化C5ラフィネートを供給することにより行なわれる。触媒としては、特に限定されないが、本発明においては、担持型のニッケルを主成分とする触媒を用いることが好ましい。
【0040】
担持型のニッケルを主成分とする触媒としては、担体としての担持無機化合物に、金属としてのニッケルを担持してなる化合物を主成分として含む触媒である。担体としての担持無機化合物の具体例としては、シリカ、アルミナ、ボリア、シリカ−アルミナ、珪藻土、白土、粘土、マグネシア、マグネシア−シリカ、チタニア、ジルコニアなどが挙げられ、これらのなかでも、脱硫性能がより高いという点より、珪藻土が好ましい。すなわち、脱硫工程においては、珪藻土にニッケルを担持してなる化合物を主成分として含む触媒が好ましい。このような触媒を用いることにより、分解ガス化C5ラフィネート中に含まれる含硫黄成分を効率的に除去することができ、また、脱硫性能を長時間維持することができるため、生産性を向上させることができる。
【0041】
また、担体に担持する金属としては、ニッケル単体でも、十分な脱硫性能を実現することができるが、脱硫性能をより高めることができるという点より、ニッケルに加えて、パラジウム、白金、ルテニウム、銅、クロム、モリブデン、亜鉛、およびコバルトからなる群より選択される少なくとも一種の金属を含有するものが好ましく、脱硫性能をさらに高めることができるという点より、ニッケルに加えて、銅およびクロムを含有するものが特に好ましい。なお、この場合における、ニッケルの含有割合は、担体に担持する金属の全体に対して、好ましくは60〜99.5重量%、より好ましくは80〜99重量%、さらに好ましくは90〜95重量%である。一方、ニッケル以外の金属の含有割合は、担体に担持する金属の全体に対して、好ましくは0.5〜40重量%、より好ましくは1〜20重量%、さらに好ましくは5〜10重量%である。ニッケル以外の金属の含有量が少なすぎると、脱硫性能の向上効果が得難くなる場合がある。一方、多すぎると、ニッケル単体で用いた場合よりも脱硫性能が低下してしまう場合がある。なお、ニッケル以外の金属として、2種以上の金属を含有させる場合にも、ニッケル以外の金属の合計含有割合は、上記範囲とすればよい。
【0042】
触媒全体に対する、担体に担持する金属の含有割合は、好ましくは20〜90重量%、より好ましくは40〜70重量%である。一方、触媒全体に対する、担体としての担持無機化合物の含有割合は、好ましくは80〜10重量%、より好ましくは60〜30重量%である。担体に担持する金属の含有量が少なすぎると、脱硫性能が長時間維持しにくくなる場合がある。一方、多すぎると、触媒自体の機械的強度が低下したり、十分な脱硫性能を発揮できない場合がある。
【0043】
また、触媒の形状は特に制限されず、一般的には、ペレット状、球状、円柱状、リング状等である。さらに、触媒の粒径も特に制限されず、脱硫反応器の内径等によって最適な値を選べばよいが、本発明で用いる触媒の平均粒径は、効率よく脱硫反応が進行する観点から、好ましくは1〜40mmであり、より好ましくは2〜20mmである。
【0044】
脱硫工程において、用いる脱硫反応器としては、特に限定されないが、多管式固定床流通反応器であるのが好ましい。また、多管式固定床流通反応器の反応管の内径は、好ましくは6〜100mm、より好ましくは10〜70mmであり、反応管の長さは、好ましくは0.1〜10m、より好ましくは0.3〜7mである。
【0045】
脱硫工程においては、脱硫反応の前処理として、脱硫反応器に充填した触媒を、脱硫反応器内であらかじめ、公知の方法等により還元処理しておくことが好ましい。触媒をあらかじめ還元処理することにより、触媒の活性をより高めることができる。そして、これにより、脱硫工程における含硫黄成分の除去の効率をより向上させることができ、しかも、触媒の寿命をより延ばすことも可能となる。
【0046】
触媒をあらかじめ還元処理する方法としては、特に限定されないが、たとえば、触媒を脱硫反応器に入れ、触媒を入れた脱硫反応器に、水素などの還元性のガスを流しながら、脱硫反応器を加熱することで、脱硫反応器に入れた触媒を加熱して還元処理する方法等が挙げられる。
【0047】
還元処理を行なう際における、触媒の加熱温度は、特に限定されないが、たとえば、担持型のニッケルを主成分とする触媒を用いる場合には、通常、200〜500℃である。加熱温度をこの範囲とすることにより、触媒活性を適切に向上させることができる。
【0048】
また、還元処理を行なう際における、触媒の加熱時間は、特に限定されないが、たとえば、担持型のニッケルを主成分とする触媒を用いる場合には、好ましくは1時間以上、より好ましくは3時間以上である。加熱時間をこの範囲とすることにより、還元処理による触媒の活性化を十分なものとすることができる。
【0049】
さらに、還元処理を行なう際における、水素のガス空間速度(水素ガスの1時間当りの総流量を触媒の充填容積(空筒基準)で除した値。以下、「GHSV」という。)は、特に限定されないが、たとえば、担持型のニッケルを主成分とする触媒を用いる場合には、100〜10000/時間が好ましく、200〜5000/時間がより好ましい。
【0050】
脱硫工程においては、脱硫反応は、還元雰囲気下で行うことが好ましく、特に水素ガス雰囲気下で行うことが好ましい。水素ガス雰囲気下で脱硫反応を行うことにより、脱硫反応の効率をより高めることができる。脱硫反応を水素ガス雰囲気下で行う際における、水素のガス空間速度(GHSV)は、特に限定されないが、100〜10000/時間が好ましく、200〜5000/時間がより好ましい。
【0051】
本発明においては、脱硫反応を、触媒として担持型のニッケルを主成分とする触媒を用い、かつ、還元雰囲気下で行うことにより、脱硫反応に加えて、後述する水素化反応を進行させることもできる。そして、この場合には、脱硫工程で、脱硫と同時に水素化反応をある程度進行させ、続く水素添加工程で水素化反応をほぼ完全に進行させることができ、これにより、最終的に得られる炭化水素原料中における、ジオレフィン類およびオレフィン類の濃度をより効率的に低減することが可能となる。また、たとえば、含硫黄成分の影響により、脱硫工程で用いる触媒の水素化反応の反応性が低下した場合でも、脱硫工程に続く水素添加工程において、含硫黄成分により被毒されていない触媒を用いて、水素化反応を行うことができるため、このような場合でも、最終的に得られる炭化水素原料中における、ジオレフィン類およびオレフィン類の濃度を効果的に低減することができる。さらに、水素添加工程前に脱硫工程を設けることにより、分解ガス化C5ラフィネート中に含まれる含硫黄成分を効率的に除去できるため、水素化触媒は含硫黄成分により被毒されにくく、触媒の寿命を著しく伸ばすことができ、生産性を向上させることができる。
【0052】
脱硫反応の温度は特に制限されないが、効率よく脱硫反応が進行する観点から、好ましくは180〜400℃、より好ましくは190〜350℃、さらに好ましくは200〜320℃である。
【0053】
また、脱硫反応の圧力は、ゲージ圧で、好ましくは0.3MPa以下、より好ましくは0.1MPa以下、さらに好ましくは0.05MPa以下であり、一方、好ましくは0MPa以上である。脱硫反応の圧力が高すぎると、分解ガス化C5ラフィネート中に含まる、気相熱分解工程で熱分解された成分(たとえば、シクロペンタジエン)が、二量化反応してしまい、熱分解前の炭素数10のジオレフィン類(たとえば、ジシクロペンタジエン)に戻ってしまうという不具合がある。そして、熱分解前の炭素数10のジオレフィン類に戻ってしまうと、後述する水素添加工程における水素化が困難となってしまい、結果として、得られる炭化水素原料中のジオレフィン類およびオレフィン類の含有割合が高くなってしまう。特に、原料となるC5ラフィネートとして、ジシクロペンタジエンを10重量%以上含有するものを用いた場合において、脱硫反応の圧力を高くし過ぎた場合に、このような傾向が強くなる。
【0054】
さらに、脱硫反応の分解ガス化C5ラフィネートのガス空間速度(GHSV)は、特に限定されないが、好ましくは50〜500/時間、より好ましくは100〜300/時間である。
【0055】
そして、このような脱硫工程により、分解ガス化C5ラフィネート中に含まれていた含硫黄成分の少なくとも一部が除去されたガス化C5ラフィネート(以下、「脱硫ガス化C5ラフィネート」という。)を得ることができる。
【0056】
このような脱硫工程により、脱硫ガス化C5ラフィネート中の硫黄原子の含有割合を、脱硫ガス化C5ラフィネート全体に対して、好ましくは5重量ppm以下、より好ましくは3重量ppm以下、さらに好ましくは1重量ppm以下に減少させることができる。
【0057】
<水素添加工程>
次いで、水素添加工程について説明する。水素添加工程は、気相状態で、上述した脱硫工程後のガス化C5ラフィネートに含まれるジオレフィン類およびオレフィン類から選ばれる少なくともいずれかの炭素−炭素二重結合の、少なくとも一部を水素化する工程である。
【0058】
水素添加工程においては、水素化反応は、触媒の存在下で行なうことが好ましく、通常、触媒が充填された水素化反応器に、上述した脱硫工程で得られた脱硫ガス化C5ラフィネートを供給することにより行なわれる。触媒としては、特に限定されないが、本発明においては、担持型のニッケルを主成分とする触媒を用いることが好ましい。
【0059】
担持型のニッケルを主成分とする触媒としては、担体としての担持無機化合物に、金属としてのニッケルを担持してなる化合物を主成分として含む触媒である。担体としての担持無機化合物の具体例としては、シリカ、アルミナ、ボリア、シリカ−アルミナ、珪藻土、白土、粘土、マグネシア、マグネシア−シリカ、チタニア、ジルコニアなどが挙げられ、これらのなかでも、水素化性能が高いという点より、マグネシア−シリカが好ましい。すなわち、水素添加工程においては、マグネシア−シリカにニッケルを担持してなる化合物を主成分として含む触媒が好ましい。このような触媒を用いることにより、脱硫ガス化C5ラフィネート中に含まれるジオレフィン類およびオレフィン類を効率的に除去することができる。
【0060】
また、担体に担持する金属としては、ニッケルに加えて、ニッケル以外の金属を、担体に担持する金属の全体に対して、好ましくは25重量%以下、より好ましくは10重量%以下含有するものを用いることもできるが、ニッケル以外の金属を含有せず、ニッケル単体のもののほうが、水素化性能が高いためさらに好ましい。
【0061】
触媒全体に対する、担体に担持する金属の含有割合は、好ましくは20〜90重量%、より好ましくは40〜70重量%である。一方、触媒全体に対する、担体としての担持無機化合物の含有割合は、好ましくは80〜10重量%、より好ましくは60〜30重量%である。担体に担持する金属の含有量が少なすぎると、水素化性能の向上効果が得難くなる場合がある。一方、多すぎると、触媒自体の機械的強度が低下したり、十分な水素化性能を発揮できない場合がある。
【0062】
また、触媒の形状は特に限定されず、一般的には、ペレット状、球状、円柱状、リング状等である。さらに、触媒の粒径も特に限定されず、水素化反応器の内径等によって最適な値を選べばよいが、本発明で用いる触媒の平均粒径は、効率よく水素化反応が進行する観点から、好ましくは1〜40mmであり、より好ましくは2〜20mmである。
【0063】
水素添加工程において、用いる水素化反応器としては、特に限定されないが、多管式固定床流通反応器であるのが好ましい。また、多管式固定床流通反応器の反応管の内径は、好ましくは6〜100mm、より好ましくは10〜70mmであり、反応管の長さは、好ましくは0.1〜10m、より好ましくは0.3〜7mである。
【0064】
水素添加工程においては、水素化反応の前処理として、水素化反応器に充填した触媒を、水素化反応器内であらかじめ、公知の方法等により還元処理しておくことが好ましい。触媒をあらかじめ還元処理する際における還元処理方法および還元処理条件としては、たとえば、上述した脱硫工程におけるものと同様とすることができる。
【0065】
水素添加工程においては、水素化反応は、還元雰囲気下で行うことが好ましく、特に水素ガス雰囲気下で行うことが好ましい。水素ガス雰囲気下で水素化反応を行うことにより、水素化反応の効率をより高めることができる。水素化反応を水素ガス雰囲気下で行う際における、水素のガス空間速度(GHSV)は、特に限定されないが、100〜10000/時間が好ましく、200〜5000/時間がより好ましい。
【0066】
水素化反応の温度は特に制限されないが、効率よく水素化反応が進行する観点から、好ましくは140〜400℃、より好ましくは150〜300℃、さらに好ましくは160〜250℃である。
【0067】
また、水素化反応の圧力は、ゲージ圧で、好ましくは0.3MPa以下、より好ましくは0.1MPa以下、さらに好ましくは0.05MPa以下であり、一方、好ましくは0MPa以上である。水素化反応の圧力が高すぎると、脱硫ガス化C5ラフィネート中に含まる、気相熱分解工程で熱分解された成分(たとえば、シクロペンタジエン)が、二量化反応してしまい、熱分解前の炭素数10のジオレフィン類(たとえば、ジシクロペンタジエン)に戻ってしまうという不具合がある。そして、熱分解前の炭素数10のジオレフィン類に戻ってしまうと、水素添加工程における水素化が困難となってしまい、結果として、得られる炭化水素原料中のジオレフィン類およびオレフィン類の含有割合が高くなってしまう。特に、原料となるC5ラフィネートとして、ジシクロペンタジエンを10重量%以上含有するものを用いた場合において、水素化反応の圧力を高くし過ぎた場合に、このような傾向が強くなる。
【0068】
さらに、水素化反応の脱硫ガス化C5ラフィネートのガス空間速度(GHSV)は、特に限定されないが、好ましくは50〜500/時間、より好ましくは100〜300/時間である。
【0069】
そして、このような水素添加工程により、脱硫ガス化C5ラフィネート中に含まれていたジオレフィン類およびオレフィン類から選ばれる少なくともいずれかの炭素−炭素二重結合の、少なくとも一部が除去されたガス化C5ラフィネートを得ることができ、そして、これを熱交換型の冷却器などで凝縮することにより、炭化水素原料(気相熱分解、脱硫、および水素化されたC5ラフィネート)を得ることができる。
【0070】
本発明によれば、このようにして炭化水素原料を得ることができる。
【0071】
本発明によれば、C5ラフィネートを気化させて、ガス化C5ラフィネートに含まれる炭素数10のジオレフィン類の少なくとも一部を熱分解し、続いて、気相状態で、脱硫および水素化するため、C5ラフィネート中のジオレフィン類およびオレフィン類、ならびに含硫黄成分を効率的に除去することができる。具体的には、得られる炭化水素原料のジオレフィン類およびオレフィン類の合計濃度を0.5重量%以下、好ましくは0.3重量%以下、より好ましくは0.1重量%以下とすることができ、また、硫黄原子の含有割合を好ましくは1重量ppm以下、より好ましくは0.5重量ppm以下、さらに好ましくは0.1重量ppm以下とすることができる。そのため、本発明の製造方法により得られる炭化水素原料は、エチレンクラッカーの原料またはガソリン基材として好適に用いることができる。すなわち、エチレンセンターに返送して、ガソリン基材やエチレンクラッカーの原料として利用することができ、このような場合でも、エチレンプラントの精製部に設置されたジエン除去塔内の触媒を劣化させることがないという利点を奏することができる。
【0072】
加えて、本発明においては、気相熱分解を行なったガス化C5ラフィネートについて、脱硫工程にて脱硫を行い、これに引き続いて、水素添加工程において水素化を行なうことにより、脱硫工程および水素添加工程において、それぞれ脱硫触媒および水素化触媒を用いた場合に、各触媒の寿命を極めて長いものとすることができる。そして、これにより、本発明によれば、触媒の再生や交換に要する時間およびコストを削減することができ、生産性を向上させることができる。
【0073】
さらに、本発明では、脱硫工程と水素添加工程とを別々に有するため、脱硫工程および水素添加工程のそれぞれにおいて、より効率的に、脱硫および水素化を行なうことができるような触媒を用いることができ、これにより、より効率的に高品質な炭化水素原料を得ることができる。さらに、本発明では、脱硫工程と水素添加工程とを別々に有するため、脱硫工程により脱硫をほぼ完全に終了させてから、水素化反応を行うことができるため、水素添加工程において用いる水素化触媒が含硫黄成分により被毒してしまうことを有効に防止することができ、その結果、水素化触媒の寿命を著しく伸ばすことができる。また、本発明では、脱硫工程と水素添加工程とを別々に有するため、たとえば、脱硫工程で用いる脱硫触媒の効率が低下した場合には、脱硫触媒のみを交換すればよく、そのため、触媒の再生や交換に要する時間およびコストを削減することができ、生産性を向上させることができる。
【0074】
なお、本発明においては、気相熱分解工程、脱硫工程および水素添加工程の全てを気相状態で行なうため、気相熱分解工程で用いる予熱器、気化器、および熱分解器、脱硫工程で用いる脱硫反応器、ならびに、水素添加工程で用いる水素化反応器を、必ずしも別個のものとする必要はなく、共通の反応器を用いることももちろん可能である。
【0075】
なお、本発明においては、気相熱分解工程に続いて脱硫工程、さらに脱硫工程に続いて水素添加工程を行うことが好ましいが、気相熱分解工程、脱硫工程および水素添加工程のそれぞれの各工程の間に、別の任意の工程を設けることは、本実施技術の範囲内である。また、気相熱分解工程、脱硫工程および水素添加工程のそれぞれの工程を複数設け、各工程の間に追加の工程を任意に設けることも、本実施技術の範囲内である。
【実施例】
【0076】
以下、本発明を、さらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。なお、以下において、「%」は、特に断りのない限り重量基準である。また、試験および評価は下記に従った。
【0077】
〔実施例1〕
(気相熱分解工程)
C5ラフィネートとして、下記表1に示す原料1を用い、これを送液ポンプにて190℃に加熱したステンレス鋼製気化管(長さ:250mm、内径23.2mm)に導入することで、C5ラフィネートを気化させた。次いで、気化したC5ラフィネートを350℃に加温したステンレス鋼製熱分解管(長さ:250mm、内径23.2mm)に導入し、C5ラフィネート中の主にジシクロペンタジエンを熱分解した。このときのジシクロペンタジエンの分解率は、99.9%以上であった。
【0078】
(脱硫工程)
次いで、ジャケット式ステンレス鋼製反応管(内径:23.2mm)に、ニッケル担持触媒(日揮化学社製、N112触媒、担持金属:ニッケル50%、銅2%、クロム2%、担体:珪藻土)48.8mlを充填し、供給速度200ml/minの水素を導入することにより、200℃に加温した反応器内であらかじめ触媒を還元処理した後、気相熱分解工程で得られた供給速度がGHSV=207の分解ガス化C5ラフィネートと、供給速度300ml/minの水素を共に導入し、気相にて脱硫反応を行った。このときの反応器内温は、200〜250℃であり、反応圧力は、0.01MPa以下であった。
【0079】
(水素添加工程)
続いて、得られた脱硫ガス化C5ラフィネートを、ジャケット式ステンレス鋼反応管(内径:23.2mm)に、ニッケル担持触媒(日揮化学社製、N102F触媒、担持金属:ニッケル60%、担体:マグネシア−シリカ)48.8mlを充填し、200℃に加温した反応器内であらかじめ触媒を還元処理した反応管へ導入し、気相にて水素化反応を行った。このときの反応器内温は、200〜250℃であり、反応圧力は、0.01MPa以下であった。そして、反応管出口ガスを熱交換型の冷却器で凝縮し、凝縮液を得た。
【0080】
なお、本実施例においては、気相熱分解工程で用いる予熱器、気化器および熱分解器、脱硫工程で用いる脱硫反応器、ならびに水素添加工程で用いる水素化反応器は、1つに連結された流通式反応装置を使用した。
【0081】
そして、本実施例においては、C5ラフィネートを、上述した気相熱分解工程、脱硫工程および水素添加工程に連続的に供給することで、連続運転を行ない、一定時間毎に、得られた凝縮液を抽出し、抽出した凝縮液について、ガスクロマトグラフによる組成分析、および化学発光型硫黄検出器付きガスクロマトグラフによる硫黄原子濃度の分析を行った。
【0082】
分析の結果、生成する代表的オレフィンであるシクロペンテンの水素化率が99%を下回った反応時間(水素化触媒寿命時間)を表2に、シクロペンテンの水素化率が99%を下回ったときの組成分析結果を表3に、シクロペンテンの水素化率が99%を下回ったときの硫黄原子濃度を表4に、それぞれ示した。なお、表2においては、脱硫工程・水素添加工程における、ガス化C5ラフィネートの流量および単位水素化触媒当たりの処理量(=流量×寿命時間)を併せて示した。また、実施例1においては、1500時間連続運転を行なっても、シクロペンテンの水素化率が99%を下回らなかったため、1500時間後の組成分析結果および硫黄原子濃度を、それぞれ、表3、表4に示した。
【0083】
なお、本実施例においては、組成分析は、測定装置として、FID検出器付きガスクロマト装置(Agilent Technologies社製)を、キャピラリーカラムとして、HP−1(60m×250μm×1.0μm)を用い、試料注入量:1.0μL、スプリット比:1/50、注入口温度:140℃、検出器温度:300℃、キャリヤガス:ヘリウム、および、キャリヤガス流量:1.0ml/minとし、オーブン温度:40℃の条件で加熱を開始し、40℃で10分間保持し、次いで、250℃まで10℃/minの速度で昇温させ、さらに、280℃まで20℃/minの速度で昇温させることにより行なった。そして、得られた分析結果から、面積比率により組成割合を求めた。
また、ジシクロペンタジエンの分解率は、原料のジシクロペンタジエンと気相熱分解後に残存するジシクロペンタジエンの組成割合をそれぞれ求め、原料のジシクロペンタジエンの組成割合から気相熱分解後に残存するジシクロペンタジエンの組成割合を差し引き、原料のジシクロペンタジエンの組成割合で除した値として求めた。
【0084】
また、本実施例においては、硫黄原子濃度の分析は、測定装置として、化学発光型硫黄検出器付きガスクロマト装置(Agilent Technologies社製)を、キャピラリーカラムとして、HP−1(30m×320μm×1.0μm)を用い、試料注入量:0.2μL、スプリット比:1/50、注入口温度:140℃、検出器温度:800℃、キャリヤガス:ヘリウム、および、キャリヤガス流量:1.0ml/minとし、オーブン温度:40℃の条件で加熱を開始し、40℃で10分間保持し、次いで、240℃まで10℃/minの速度で昇温させ、さらに、280℃まで20℃/minの速度で昇温させることにより行なった。そして、得られた分析結果から、絶対検量線法により、硫黄原子濃度を算出した。
【0085】
さらに、シクロペンテンの水素化率は、シクロペンテンとシクロペンタンの割合から算出した。
【0086】
〔比較例1〕
(気相熱分解工程)
C5ラフィネートとして、下記表1に示す原料1を用い、実施例1と同様にして、気相熱分解工程を行った。このときのジシクロペンタジエンの分解率は、99.9%以上であった。
【0087】
(水素添加工程)
次いで、ジャケット式ステンレス鋼製反応管(内径:23.2mm)に、ニッケル担持触媒(日揮化学社製、N112触媒)33.9mlを充填し、供給速度200ml/minの水素を導入することにより、200℃に加温した反応器内であらかじめ触媒を還元処理した後、気相熱分解工程で得られた供給速度がGHSV=309の分解ガス化C5ラフィネートと、供給速度375ml/minの水素を共に導入し、気相にて水素化反応を行った。このときの反応器内温は、250〜300℃であり、反応圧力は、0.01MPa以下であった。そして、反応管出口ガスを熱交換型の冷却器で凝縮し、凝縮液を得た。
【0088】
そして、比較例1においても、実施例1と同様に、連続運転を行ない、一定時間毎に、得られた凝縮液を抽出し、抽出した凝縮液について、同様に分析を行なった。なお、比較例1においては、連続運転開始後355時間後に、シクロペンテンの水素化率が99%を下回ったため、その時点で、水素化触媒の寿命が到来したと判断し、連続運転を中止した。
【0089】
〔比較例2〕
(気相熱分解工程)
C5ラフィネートとして、下記表1に示す原料1を用い、実施例1と同様にして、気相熱分解工程を行った。このときのジシクロペンタジエンの分解率は、99.9%以上であった。
【0090】
(水素添加工程)
次いで、ジャケット式ステンレス鋼製反応管(内径:23.2mm)に、ニッケル担持触媒(日揮化学社製、N102F触媒)31.8mlを充填し、供給速度200ml/minの水素を導入することにより、200℃に加温した反応器内であらかじめ触媒を還元処理した後、気相熱分解工程で得られた供給速度がGHSV=337の分解ガス化C5ラフィネートと、供給速度375ml/minの水素を共に導入し、気相にて水素化反応を行った。このときの反応器内温は、250〜300℃であり、反応圧力は、0.01MPa以下であった。そして、反応管出口ガスを熱交換型の冷却器で凝縮し、凝縮液を得た。
【0091】
そして、比較例2においても、実施例1と同様に、連続運転を行ない、一定時間毎に、得られた凝縮液を抽出し、抽出した凝縮液について、同様に分析を行なった。なお、比較例2においては、連続運転開始後320時間後に、シクロペンテンの水素化率が99%を下回ったため、その時点で、水素化触媒の寿命が到来したと判断し、連続運転を中止した。
【0092】
〔比較例3〕
(気相熱分解工程)
C5ラフィネートとして、下記表1に示す原料2を用い、実施例1と同様にして、気相熱分解工程を行った。このときのジシクロペンタジエンの分解率は、99.9%以上であった。
【0093】
(水素添加工程)
次いで、ジャケット式ステンレス鋼製反応管(内径:23.2mm)に、パラジウム担持触媒(日揮化学社製、N1182AZ触媒)92.6mlを充填し、反応管を180℃に加温した後、気相熱分解工程で得られた供給速度がGHSV=172の分解ガス化C5ラフィネートと、供給速度500ml/minの水素を共に導入し、気相にて水素化反応を行った。このときの反応器内温は、250〜300℃であり、反応圧力は、0.01MPa以下であった。そして、反応管出口ガスを熱交換型の冷却器で凝縮し、凝縮液を得た。
【0094】
そして、比較例3においても、実施例1と同様に、連続運転を行ない、一定時間毎に、得られた凝縮液を抽出し、抽出した凝縮液について、同様に分析を行なった。なお、比較例3においては、連続運転開始後4時間後に、シクロペンテンの水素化率が99%を下回ったため、その時点で、水素化触媒の寿命が到来したと判断し、連続運転を中止した。
【0095】
〔比較例4〕
(気相熱分解工程)
C5ラフィネートとして、下記表1に示す原料3を用い、実施例1と同様にして、気相熱分解工程を行った。このときのジシクロペンタジエンの分解率は、99.9%以上であった。
【0096】
(2段階水素添加工程)
次いで、ジャケット式ステンレス鋼製反応管(内径:23.2mm)に、パラジウム担持触媒(日揮化学社製、N1182AZ触媒)83.4mlを充填し、反応管を180℃に加温した後、気相熱分解工程で得られた供給速度がGHSV=165の分解ガス化C5ラフィネートと、供給速度500ml/minの水素を共に導入し、気相にて水素化反応を行った。このときの反応器内温は、180〜250℃であり、反応圧力は、0.01MPa以下であった。
【0097】
続いて、得られた反応ガスを、ジャケット式ステンレス鋼製反応管(内径:23.2mm)に、ニッケル担持触媒(日揮化学社製、N102F触媒)63.7mlを充填し、供給速度200ml/minの水素を導入することにより、200℃に加温した反応器内であらかじめ触媒を還元処理した反応管に導入し、気相にてさらに水素化反応を行った。このときの反応器内温は、200〜250℃であり、反応圧力は、0.01MPa以下であった。そして、反応管出口ガスを熱交換型の冷却器で凝縮し、凝縮液を得た。
【0098】
そして、比較例4においても、実施例1と同様に、連続運転を行ない、一定時間毎に、得られた凝縮液を抽出し、抽出した凝縮液について、同様に分析を行なった。なお、比較例4においては、連続運転開始後1018時間後に、シクロペンテンの水素化率が99%を下回ったため、その時点で、水素化触媒の寿命が到来したと判断し、連続運転を中止した。
【0099】
【表1】
なお、表1および表4より、原料1〜原料3は、いずれも、ジオレフィン類およびオレフィン類の含有割合が同程度であり、かつ、硫黄原子含有量も同程度であり、ジオレフィン類およびオレフィン類、ならびに含硫黄成分を効率的に除去できるか否かを判断する際においては、同程度の原料と判断することができる。
【0100】
【表2】
【0101】
【表3】
【0102】
【表4】
【0103】
表1〜表4より、C5ラフィネートを気化させて、ガス化C5ラフィネートに含まれる炭素数10のジオレフィン類の少なくとも一部を熱分解し、続いて、気相状態で、脱硫し、さらにその後に水素化した実施例1では、1500時間を経過しても、ジオレフィン類およびオレフィン類がほとんど残留しておらず、また、含硫黄成分もほとんど検出されない結果となった。すなわち、この結果より、本発明によれば、長時間にわたり、ジオレフィン類およびオレフィン類、ならびに含硫黄成分を効果的に除去することが可能であることが確認できる。加えて、表2より、実施例1では、比較例1〜4と比較して、単位触媒当たりの処理量も多く、ジオレフィン類およびオレフィン類、ならびに含硫黄成分を効率的に除去することが可能であることも確認できる。
【0104】
一方、脱硫工程を実施しなかった比較例1〜3においては、短時間で水素化触媒の性能が低下し、シクロペンタジエン等のジオレフィン類、シクロペンテン等のオレフィン類が残留するようになり、短時間で触媒を交換する必要が生じる。また、比較例3においては、脱硫効果も不十分であった。そのため、比較例1〜3においては、長時間にわたり、安定してジオレフィン類およびオレフィン類、ならびに含硫黄成分を除去することができず、生産性の低いものであった。さらに、比較例4において、パラジウム触媒を用いて1段目の水素化反応を行い、次いで、ニッケル触媒を用いて2段目の水素化反応を行った場合にも、一定時間経過後、シクロペンテン等のオレフィン類が残留するようになり、触媒寿命が十分ではない。また、脱硫効果も十分ではなかった。そのため、比較例4では、長時間にわたり、安定してジオレフィン類およびオレフィン類、ならびに含硫黄成分を除去することができず、生産性に劣るものであった。