特許第5942992号(P5942992)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5942992電気化学素子電極用導電性接着剤組成物、接着剤層付集電体および電気化学素子電極
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5942992
(24)【登録日】2016年6月3日
(45)【発行日】2016年6月29日
(54)【発明の名称】電気化学素子電極用導電性接着剤組成物、接着剤層付集電体および電気化学素子電極
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/13 20100101AFI20160616BHJP
   H01M 4/66 20060101ALI20160616BHJP
   H01G 11/28 20130101ALI20160616BHJP
   H01G 11/38 20130101ALI20160616BHJP
【FI】
   H01M4/13
   H01M4/66 A
   H01G11/28
   H01G11/38
【請求項の数】11
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2013-526965(P2013-526965)
(86)(22)【出願日】2012年8月3日
(86)【国際出願番号】JP2012069833
(87)【国際公開番号】WO2013018887
(87)【国際公開日】20130207
【審査請求日】2015年3月3日
(31)【優先権主張番号】特願2011-170386(P2011-170386)
(32)【優先日】2011年8月3日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100097180
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 均
(74)【代理人】
【識別番号】100110917
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 亨
(74)【代理人】
【識別番号】100147393
【弁理士】
【氏名又は名称】堀江 一基
(72)【発明者】
【氏名】前田 耕一郎
(72)【発明者】
【氏名】吉田 直樹
【審査官】 福井 美穂
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−177061(JP,A)
【文献】 特表2006−513554(JP,A)
【文献】 特開2010−129186(JP,A)
【文献】 特開2010−171212(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4
H01G 11
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性カーボン、二塩基酸単量体単位を0.1〜5質量%含む粒子状共重合体(A)、エチレン性不飽和カルボン酸アミド誘導体単位を含み、二塩基酸単量体単位の含有量が0.1質量%未満である粒子状共重合体(B)、及び分散媒を含む、電気化学素子電極用導電性接着剤組成物であって、
前記二塩基酸単量体単位は、二塩基酸であり重合性を有する化合物から導かれる繰り返し単位である電気化学素子電極用導電性接着剤組成物
【請求項2】
前記粒子状共重合体(A)が、
エチレン性不飽和カルボン酸エステル60〜90質量%、重合性を有する二塩基酸単量体0.1〜5質量%、およびこれらと共重合可能なモノオレフィン性単量体39.9〜5質量%を含む単量体混合物を、乳化重合して得られる粒子状共重合体(A−I)および/または、
ジエン系モノマー20〜50質量%、重合性を有する二塩基酸単量体0.1〜5質量%、およびこれらと共重合可能なモノオレフィン性単量体79.9〜50質量%を含む単量体混合物を、乳化重合して得られる粒子状共重合体(A−II)である請求項1に記載の電気化学素子電極用導電性接着剤組成物。
【請求項3】
前記粒子状共重合体(B)が、エチレン性不飽和モノカルボン酸単量体1〜5質量%、エチレン性不飽和カルボン酸アミド誘導体0.1〜3質量%、およびこれらと共重合可能なモノオレフィン性単量体35〜90質量%を含む単量体混合物を、乳化重合して得られる粒子状共重合体である請求項1または2に記載の電気化学素子電極用導電性接着剤組成物。
【請求項4】
導電性カーボンの含有割合が8〜38質量%、粒子状共重合体(A)の含有割合が1〜4質量%、粒子状共重合体(B)の含有割合が0.1〜1質量%、分散媒の含有割合が60〜90質量%である、請求項1〜3の何れかに記載の電気化学素子電極用導電性接着剤組成物。
【請求項5】
イソチアゾリン系化合物を導電性カーボンに対して0.01〜1.0質量%含有してなる請求項1〜4の何れかに記載の電気化学素子電極用導電性接着剤組成物。
【請求項6】
前記粒子状共重合体(A)の体積平均粒子径が200〜500nmである請求項1〜5の何れかに記載の電気化学素子電極用導電性接着剤組成物。
【請求項7】
前記粒子状共重合体(B)の体積平均粒子径が80〜250nmである請求項1〜6の何れかに記載の電気化学素子電極用導電性接着剤組成物。
【請求項8】
集電体上に、請求項1〜7の何れかに記載の電気化学素子電極用導電性接着剤組成物を塗布・乾燥してなる導電性接着剤層を有する、接着剤層付集電体。
【請求項9】
集電体上に、導電性カーボン、二塩基酸単量体単位を0.1〜5質量%含む粒子状共重合体(A)、エチレン性不飽和カルボン酸アミド誘導体単量体単位を含み、二塩基酸単量体単位の含有量が0.1質量%未満である粒子状共重合体(B)を含む導電性接着剤層を有し、
前記二塩基酸単量体単位は、二塩基酸であり重合性を有する化合物から導かれる繰り返し単位である、接着剤層付集電体。
【請求項10】
前記導電性接着剤層の厚さが0.5〜5μmである、請求項8または9に記載の接着剤層付集電体。
【請求項11】
請求項8〜10の何れかに記載の接着剤層付集電体の、導電性接着剤層上に、電極活物質を含む電極組成物層を有する、電気化学素子用電極。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学素子電極用導電性接着剤組成物に関し、特に、リチウムイオン二次電池の集電体表面に均一で密着性のよい導電性接着剤層を形成するのに好適な接着剤組成物に関する。また、本発明は、かかる接着剤組成物により形成した導電性接着剤層を有する接着剤層付集電体および該集電体の導電性接着剤層上に電極活物質を含む電極組成物層が形成された電気化学素子電極に関する。
【背景技術】
【0002】
小型で軽量、且つエネルギー密度が高く、さらに繰り返し充放電が可能な電気化学素子、特にリチウムイオン電池は、その特性を活かして急速に需要を拡大している。また、リチウムイオン電池に代表される電気化学素子は、エネルギー密度、出力密度が大きいことから、携帯電話やノート型パーソナルコンピュータの小型用途から、車載などの大型用途での利用が期待されている。そのため、これらの電気化学素子には、用途の拡大や発展に伴い、低抵抗化、高容量化、高耐電圧、機械的特性、サイクル寿命の向上など、よりいっそうの改善が求められている。
【0003】
電気化学素子は、有機系電解液を用いることで作動電圧を高め、エネルギー密度を高めることができるが、一方では電解液の粘度が高いために、内部抵抗が大きいという問題点があった。
【0004】
内部抵抗を低減する目的で、電極組成物層と集電体との間に導電性接着剤層を設けることが提案されている(特許文献1)。特許文献1における導電性接着剤は、導電材としてカーボンブラックを含み、バインダーとしてポリビニリデンフルオライド樹脂を含む。
【0005】
特許文献2には、リチウムイオンキャパシタ用電極において、電極強度を向上し、また内部抵抗を低下させるために、集電体と電極組成物層との間に導電性接着剤層を設けることが教示されている。特許文献2には、導電性接着剤に用いるバインダーとして、ポリアミドやアクリレート重合体などが各種例示されている。また、アクリレート重合体には、フマル酸やイタコン酸などの二塩基酸単量体が含まれていても良いとも記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−075805号公報
【特許文献2】WO2010/024327
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、本発明者らが検討したところ、特許文献1における導電性接着剤では、電極の内部抵抗の低減がまだ不十分であることがわかった。
【0008】
また、特許文献2のようなリチウムイオンキャパシタ用電極においては、集電体としてエキスパンドアルミニウムのような貫通孔を有する金属膜が用いられている。このような孔開集電体の場合には、上記のような導電性接着剤層を形成しても、接着剤が集電体によりはじかれることは少なく、均一で密着性のよい導電性接着剤層を形成することができる。
【0009】
しかし、リチウムイオンキャパシタと異なり、リチウムイオン二次電池では集電体として貫通孔を有しない箔状金属を用いることが多い。このような箔状金属集電体に対して、通常の導電性接着剤を塗工すると、接着剤が金属箔表面ではじかれてしまい、接着剤層にピンホールが発生したり、接着剤層の均一性や集電体に対する密着性が損なわれることがあった。この結果、接着剤層上に形成される電極組成物層の均一性も低下し、また電極組成物層と接着剤層との接着性も不十分になり、電池の寿命や電極強度が損なわれることがあることがわかった。
【0010】
したがって、本発明は、集電体と電極組成物層との間に介在し、両者の密着性向上に寄与しうる均一性の高い導電性接着剤層の形成に用いられる電気化学素子電極用導電性接着剤組成物を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は上記課題を解決すべく鋭意検討を続けたところ、集電体と電極組成物層との間に設けられる導電性接着剤層のバインダーとして、特定の2種の粒子状共重合体を併用することで、導電性接着剤の塗工が円滑になり、均一かつ強度の高い導電性接着剤層が形成され、しかも導電性接着剤層を介して集電体と電極組成物層との密着性が向上し、特に耐久性や電極強度の高い二次電池が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、上記課題の解決を目的とした本発明の要旨は以下のとおりである。
【0013】
(1) 導電性カーボン、二塩基酸単量体単位を含む粒子状共重合体(A)、エチレン性不飽和カルボン酸アミド誘導体単位を含む粒子状共重合体(B)、及び分散媒を含む、電気化学素子電極用導電性接着剤組成物。
【0014】
(2) 前記粒子状共重合体(A)が、
エチレン性不飽和カルボン酸エステル60〜90質量%、二塩基酸単量体0.1〜5質量%、およびこれらと共重合可能なモノオレフィン性単量体39.9〜5質量%を含む単量体混合物を、乳化重合して得られる粒子状共重合体(A−I)および/または、
ジエン系モノマー20〜50質量%、二塩基酸単量体0.1〜5質量%、およびこれらと共重合可能なモノオレフィン性単量体79.9〜50質量%を含む単量体混合物を、乳化重合して得られる粒子状共重合体(A−II)である上記(1)に記載の電気化学素子電極用導電性接着剤組成物。
【0015】
(3) 前記粒子状共重合体(B)が、エチレン性不飽和カルボン酸単量体1〜5質量%、エチレン性不飽和カルボン酸アミド誘導体0.1〜3質量%、およびこれらと共重合可能なモノオレフィン性単量体35〜90質量%を含む単量体混合物を、乳化重合して得られる粒子状共重合体である上記(1)または(2)に記載の電気化学素子電極用導電性接着剤組成物。
【0016】
(4) 導電性カーボンの含有割合が8〜38質量%、粒子状共重合体(A)の含有割合が1〜4質量%、粒子状共重合体(B)の含有割合が0.1〜1質量%、分散媒の含有割合が60〜90質量%である、上記(1)〜(3)の何れかに記載の電気化学素子電極用導電性接着剤組成物。
【0017】
(5) イソチアゾリン系化合物を導電性カーボンに対して0.01〜1.0質量%含有してなる上記(1)〜(4)の何れかに記載の電気化学素子電極用導電性接着剤組成物。
【0018】
(6) 前記粒子状共重合体(A)の体積平均粒子径が200〜500nmである上記(1)〜(5)の何れかに記載の電気化学素子電極用導電性接着剤組成物。
【0019】
(7) 前記粒子状共重合体(B)の体積平均粒子径が80〜250nmである上記(1)〜(6)の何れかに記載の電気化学素子電極用導電性接着剤組成物。
【0020】
(8) 集電体上に、上記(1)〜(7)の何れかに記載の電気化学素子電極用導電性接着剤組成物を塗布・乾燥してなる導電性接着剤層を有する、接着剤層付集電体。
【0021】
(9) 集電体上に、導電性カーボン、二塩基酸単量体単位を含む粒子状共重合体(A)、エチレン性不飽和カルボン酸アミド誘導体単量体単位を含む粒子状共重合体(B)を含む導電性接着剤層を有する、接着剤層付集電体。
【0022】
(10) 前記導電性接着剤層の厚さが0.5〜5μmである、上記(8)または(9)に記載の接着剤層付集電体。
【0023】
(11) 上記(8)〜(10)の何れかに記載の接着剤層付集電体の、導電性接着剤層上に、電極活物質を含む電極組成物層を有する、電気化学素子用電極。
【発明の効果】
【0024】
集電体と電極組成物層との間に設けられる導電性接着剤層のバインダーとして、二塩基酸単量体単位を含む粒子状共重合体(A)とエチレン性不飽和カルボン酸アミド誘導体単位を含む粒子状共重合体(B)とを併用することで、導電性接着剤の塗工が円滑になり、均一かつ強度の高い導電性接着剤層が形成され、しかも導電性接着剤層を介して集電体と電極組成物層との密着性が向上し、特に耐久性や電極強度の高い二次電池が得られる。
【0025】
このような本発明の効果が発現する作用機構必ずしも明らかではない。何ら限定的に解釈されるものではないが、本発明者らは、上記効果が奏される機構を以下のように推定している。すなわち、粒子状共重合体(A)は二塩基酸単量体単位を含むことから、導電性接着剤組成物に含まれる導電性カーボンとの親和性が高く、導電性接着剤組成物における導電性カーボンの分散性を均一にする。また導電性接着剤組成物の塗工、乾燥後には、導電性カーボン間の密着性を向上し、導電性接着剤層の強度および表面状態の平滑化に寄与する。しかし、粒子状共重合体(A)のみからなるバインダーでは、集電体表面ではじかれやすく、導電性接着剤層の均一性が損なわれ、集電体に対する密着性が不十分になる。
【0026】
一方、粒子状共重合体(B)は、アミド基を有するため、集電体に対する濡れ性が高く、密着性向上に寄与する。このため、粒子状共重合体(B)を含む接着剤は、集電体表面に均一に塗工できる。しかし、粒子状共重合体(B)単独では、接着力が不十分になり、電極強度が低下することがある。
【0027】
そして、粒子状共重合体(A)と粒子状共重合体(B)とを併用することで、特に粒子状共重合体(A)の作用により接着剤組成物の塗工性および塗膜強度が向上し、また特に粒子状共重合体(B)の作用により集電体と導電性接着剤層とを強固に接着する。この結果、平滑であり強度の高い導電性接着剤層を介して、集電体と電極組成物層とが強固に接着する。
【0028】
このように、2種の粒子状共重合体を併用することで、導電性接着剤の塗工が円滑になり、導電性接着剤層が均一かつ強固になる。また集電体に対して密着性の高いアミド基を含むため、接着剤層と集電体との密着性が高く、該接着剤層を介して集電体と電極組成物層とが強固に接着し、特に耐久性や電極強度の高い二次電池が得られると考えられる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下本発明について、その最良の実施形態を含めてさらに具体的に説明する。
本発明に係る電気化学素子電極用導電性接着剤組成物は、導電性カーボン、二塩基酸単量体単位を含む粒子状共重合体(A)、エチレン性不飽和カルボン酸アミド誘導体単位を含む粒子状共重合体(B)、及び分散媒を含み、必要に応じその他の成分を含んでいても良い。以下、各成分について説明する。
【0030】
[導電性カーボン]
本発明に係る電気化学素子電極用導電性接着剤組成物(以下、単に「接着剤組成物」と記載することがある)に用いる導電性カーボンは、その形態は特に限定はされないが、一般的には炭素粒子である。炭素粒子とは、炭素のみからなるか、又は実質的に炭素のみからなる粒子である。その具体例としては、非局在化したπ電子の存在によって高い導電性を有する黒鉛(具体的には天然黒鉛、人造黒鉛など)、黒鉛質の炭素微結晶が数層集まって乱層構造を形成した球状集合体であるカーボンブラック(具体的にはアセチレンブラック、ケッチェンブラック、その他のファーネスブラック、チャンネルブラック、サーマルランプブラックなど)、炭素繊維やカーボンウィスカーなどが挙げられ、これらの中でも、炭素粒子が高密度に充填し、導電性接着剤層の電子移動抵抗を低減でき、さらにリチウムイオン電池の内部抵抗をより低減できる点で、黒鉛又はカーボンブラックが、特に好ましい。これらの導電性カーボンは、単独で用いてもよいが、二種類を組み合わせて用いることも出来る。
【0031】
導電性カーボンの電気抵抗率は、好ましくは0.0001〜1Ω・cmであり、より好ましくは0.0005〜0.5Ω・cm、特に好ましくは0.001〜0.1Ω・cmである。導電性カーボンの電気抵抗率がこの範囲にあると、導電性接着剤層の電子移動抵抗をより低減し、リチウムイオン電池の内部抵抗をより低減することができる。ここで、電気抵抗率は、粉体抵抗測定システム(MCP−PD51型:ダイアインスツルメンツ社製)を用いて、炭素粒子に圧力をかけ続けながら抵抗値を測定し、圧力に対して収束した抵抗値R(Ω)と、圧縮された炭素粒子層の面積S(cm)と厚みd(cm)から電気抵抗率ρ(Ω・cm)=R×(S/d)を算出する。
【0032】
導電性カーボンの体積平均粒子径は、好ましくは0.01〜20μm、より好ましくは0.05〜15μm、特に好ましくは0.1〜10μmである。導電性カーボンの体積平均粒子径がこの範囲であると、導電性接着剤層の導電性カーボンが高密度に充填するため、電子移動抵抗がより低減され、リチウムイオン電池の内部抵抗がより低減する。ここで体積平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定装置(SALD−3100島津製作所製)にて測定し、算出される体積平均粒子径である。
【0033】
[粒子状共重合体(A)]
粒子状共重合体(A)は、二塩基酸単量体単位を含む。ここで、二塩基酸単量体単位とは、二塩基酸であり重合性を有する化合物から導かれる繰り返し単位である。粒子形状は真球状であっても、楕円球状であってもよく、その他の異形形状であってもよいが、球形度の高い形状であることが好ましい。
【0034】
二塩基酸単量体としては、たとえばイタコン酸、マレイン酸、フマル酸、無水マレイン酸、無水シトラコン酸などのエチレン性不飽和多価カルボン酸およびそれらの無水物;フマル酸モノブチル、マレイン酸モノブチル、マレイン酸モノ2−ヒドロキシプロピルなどのエチレン性不飽和多価カルボン酸の部分エステル化物;などが挙げられる。これらの中でも重合が比較的容易なイタコン酸が特に好ましい。これらの二塩基酸単量体は一種単独で用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
【0035】
粒子状共重合体(A)は、二塩基酸単量体単位が含まれる限り、特に限定はされないが、適当な結着性、分散性、粒子性状を達成する観点から、二塩基酸単量体に加えて、エチレン性不飽和カルボン酸エステルおよびこれらと共重合可能なモノオレフィン性単量体を含む単量体混合物を、乳化重合して得られる粒子状共重合体(A−I)および/または、二塩基酸単量体に加えて、ジエン系モノマーおよびこれらと共重合可能なモノオレフィン性単量体を含む単量体混合物を、乳化重合して得られる粒子状共重合体(A−II)であることが好ましい。
【0036】
エチレン性不飽和カルボン酸エステルの具体例としては、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸n−アミル、アクリル酸イソアミル、アクリル酸n−ヘキシル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸ノニル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸ステアリルなどのアクリレート等;メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸n−アミル、メタクリル酸イソアミル、メタクリル酸n−ヘキシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸オクチル、メタクリル酸イソデシル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸トリデシル、メタクリル酸ステアリルなどのメタアクリレート等が挙げられる。これらの中でも、アクリレートが好ましく、アクリル酸n−ブチルおよびアクリル酸2―エチルヘキシルが、得られる電極の強度を向上できる点で、特に好ましい。これらのエチレン性不飽和カルボン酸エステルは一種単独で用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
【0037】
ジエン系モノマーの具体例としては、1,3−ブタジエン、イソプレン、2−クロロ−1,3−ブタジエン、クロロプレン、ペンタジエン等が挙げられる。これらの中でも、1,3−ブタジエン、イソプレンが好ましく、1,3−ブタジエンが、得られる電池の寿命を向上できる点で、特に好ましい。これらのジエン系モノマーは一種単独で用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
【0038】
上記各単量体と、共重合可能なモノオレフィン性単量体としては、たとえば、エチレン性不飽和ニトリル単量体、芳香族ビニル単量体、エチレン性不飽和モノカルボン酸単量体などが挙げられる。
【0039】
エチレン性不飽和ニトリル単量体としては、たとえば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、フマロニトリル、α−クロロアクリロニトリルなどが挙げられる。これらのなかでも、特に、アクリロニトリルが好ましい。
【0040】
芳香族ビニル単量体としては、たとえば、スチレン、α−メチルスチレン、モノクロルスチレン、ビニルトルエンなどが挙げられる。これらのなかでも、特に、スチレンが好ましい。
【0041】
エチレン性不飽和モノカルボン酸単量体としては、たとえば、アクリル酸、メタクリル酸などのエチレン性不飽和モノカルボン酸があげられる。また、これらのエチレン性不飽和カルボン酸単量体は、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩などの塩の状態で使用しても良い。
【0042】
さらにその他の配合可能な単量体化合物の具体例としては、プロピオン酸ビニル等のカルボン酸ビニルエステル等が挙げられる。
【0043】
これらのモノオレフィン性単量体は、単独でまたは2種以上を組み合せて用いることができる。
【0044】
なお、粒子状共重合体(A)には、後述するような粒子状共重合体(B)の必須構成要素であるエチレン性不飽和カルボン酸アミド誘導体から導かれる構成単位は実質的に含まれておらず、エチレン性不飽和カルボン酸アミド誘導体から導かれる構成単位の含有量は0.1質量%未満である。
【0045】
粒子状共重合体(A−I)を形成するための単量体混合物の組成は特に限定はされないが、好適な組成の一例は、二塩基酸単量体が0.1〜5質量%、好ましくは0.5〜4.5質量%、さらに好ましくは1〜4.0質量%であり、エチレン性不飽和カルボン酸エステルが60〜90質量%、好ましくは65〜85質量%、さらに好ましくは68〜82質量%であり、モノオレフィン性単量体が39.9〜5質量%、好ましくは35〜10質量%、さらに好ましくは30〜15質量%である。
【0046】
粒子状共重合体(A−II)を形成するための単量体混合物の組成は特に限定はされないが、好適な組成の一例は、二塩基酸単量体が0.1〜5質量%、好ましくは0.5〜4.5質量%、さらに好ましくは1〜4.0質量%であり、ジエン系モノマーが20〜50質量%、好ましくは25〜45質量%、さらに好ましくは30〜40質量%であり、モノオレフィン性単量体が79.9〜50質量%、好ましくは75〜52質量%、さらに好ましくは70〜55質量%である。
【0047】
このような粒子状共重合体(A)のガラス転移温度は、好ましくは−40〜40℃の範囲にある。
【0048】
粒子状共重合体(A)のテトラヒドロフラン不溶解分は、好ましくは60〜99質量%、より好ましくは70〜95質量%である。テトラヒドロフラン不溶解分が上記範囲にあると剥離強度の高い活物質層を持つ電極が得られる。
【0049】
粒子状共重合体(A)には、二塩基酸構造が含まれるため、導電性カーボンに対する親和性が高い。このため、導電性接着剤組成物中においては、導電性カーボンの分散性を向上し、組成物中に導電性カーボンを均一に分散する。導電性接着剤組成物の塗工性が良好になり、得られる導電性接着剤の表面状態が向上し、接着剤層表面が平滑になる。また、組成物の乾燥後には、導電性カーボンどうしを強固に結合し、導電性接着剤層の強度の向上に寄与する。
【0050】
[粒子状共重合体(B)]
粒子状共重合体(A)は、エチレン性不飽和カルボン酸アミド誘導体単位を含む。ここで、エチレン性不飽和カルボン酸アミド誘導体単位とは、分子内にカルボン酸アミド、その誘導体またはカルボン酸アミド構造を誘導しうる前駆体構造を含み、かつエチレン性不飽和結合を有する重合性化合物から導かれる繰り返し単位である。粒子形状は真球状であっても、楕円球状であってもよく、その他の異形形状であってもよいが、球形度の高い形状であることが好ましい。
【0051】
エチレン性不飽和カルボン酸アミド単量体としては、たとえば、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−エチロール(メタ)アクリルアミド、N−ブチロール(メタ)アクリルアミドなどのN−(ヒドロキシアルキル)置換エチレン性不飽和カルボン酸アミド;(メタ)アクリルアミド、メチル(メタ)アクリルアミド、エチル(メタ)アクリルアミド、ジエチル(メタ)アクリルアミド、ジメチル(メタ)アクリルアミド、イソプロピル(メタ)アクリルアミド、ブチル(メタ)アクリルアミド、ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、アクリロイルモルフォリンなどが挙げられる。
【0052】
これらのなかでも、N−(ヒドロキシアルキル)置換エチレン性不飽和カルボン酸アミドが好ましく、特にN−メチロールアクリルアミドが好ましい。これらのエチレン性不飽和カルボン酸アミド誘導体は、単独でまたは2種以上を組み合せて用いることができる。
【0053】
粒子状共重合体(B)は、エチレン性不飽和カルボン酸アミド誘導体単位が含まれる限り、特に限定はされないが、適当な結着性、分散性、粒子性状を達成する観点から、エチレン性不飽和カルボン酸アミド誘導体に加えて、エチレン性不飽和カルボン酸およびこれらと共重合可能なモノオレフィン性単量体を含む単量体混合物を、乳化重合して得られる粒子状共重合体であることが好ましい。
【0054】
エチレン性不飽和カルボン酸単量体としては、前記粒子状共重合体(A)について説明したものと同様に、アクリル酸、メタクリル酸などのエチレン性不飽和モノカルボン酸があげられる。また、これらのエチレン性不飽和カルボン酸単量体は、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩などの塩の状態で使用しても良い。さらに、プロピオン酸ビニル等のカルボン酸ビニルエステル等を配合することもできる。
【0055】
上記各単量体と、共重合可能なモノオレフィン性単量体としては、たとえば、エチレン性不飽和ニトリル単量体、芳香族ビニル単量体、エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体などが挙げられる。これら単量体の具体例としては、前記粒子状共重合体(A)について説明したものと同様の単量体があげられる。
【0056】
なお、粒子状共重合体(B)には、前述した粒子状共重合体(A)の必須構成要素である二塩基酸単量体から導かれる構成単位は実質的に含まれておらず、二塩基酸単量体から導かれる構成単位の含有量は0.1質量%未満である。
【0057】
粒子状共重合体(B)を形成するための単量体混合物の組成は特に限定はされないが、好適な組成の一例は、エチレン性不飽和カルボン酸アミド誘導体が0.1〜3質量%、好ましくは0.2〜2.5質量%、さらに好ましくは0.5〜2.0質量%であり、エチレン性不飽和カルボン酸が1〜5質量%、好ましくは1.2〜4.5質量%、さらに好ましくは1.5〜4質量%であり、モノオレフィン性単量体が35〜90質量%、好ましくは40〜85質量%、さらに好ましくは50〜80質量%である。
【0058】
このような粒子状共重合体(B)のガラス転移温度は、好ましくは−40〜40℃、の範囲にある。
【0059】
粒子状共重合体(B)のテトラヒドロフラン不溶解分は、好ましくは0〜25質量%、より好ましくは0〜20質量%である。テトラヒドロフラン不溶解分が上記範囲にあると集電体表面に展開しやすくなり、剥離強度が向上しやすい。
【0060】
粒子状共重合体(B)には、カルボン酸アミド構造が含まれるため、集電体のような金属に対する親和性が高い。このため、集電体に対する導電性接着剤組成物の濡れ性が高く、組成物を集電体表面に均一に塗工でき、ピンホールの発生も抑制され、表面状態の良好な導電性接着剤層を形成することができる。したがって、接着剤層上に形成される電極組成物層も平滑になる。また組成物の塗工、乾燥後には、接着剤層に含まれるカルボン酸アミド構造により集電体に密着するため、電極強度が向上する。
【0061】
本発明では、導電性接着剤層を形成するためのバインダーとして、二塩基酸単量体単位を含む粒子状共重合体(A)とエチレン性不飽和カルボン酸アミド誘導体単位を含む粒子状共重合体(B)とを併用することによって、上述したような独特の作用効果が達成されている。一方、バインダーとして、二塩基酸単量体単位とエチレン性不飽和カルボン酸アミド誘導体単位とを同一共重合体内に含む粒子状共重合体を用いた場合には、かかる作用効果は大幅に減殺される。
【0062】
[粒子状共重合体の粒子径]
粒子状共重合体(A)の体積平均粒子径は、好ましくは200〜500nm、より好ましくは300〜500nm、さらに好ましくは330〜450nm、特に好ましくは350〜430nmである。また、粒子状共重合体(B)の体積平均粒子径は、好ましくは80〜250nm、さらに好ましくは85〜200nm、特に好ましくは90〜180nmである。ここで体積平均粒子径は、粒子径測定機(コールターLS230:コールター社製)にて測定し、算出される体積平均粒子径である。
【0063】
微粒子を含む液状の組成物を塗工し、乾燥する際、乾燥中に、粒径のより小さな微粒子が塗膜中を移動しやすく、塗膜表面側に移動し、粒径のより小さな微粒子の濃度差が発生する傾向がある。一方、比較的大径の微粒子は移動しにくく、塗膜中の濃度差は小さい。
【0064】
粒子状共重合体(A)および(B)の体積平均粒子径が、上記の範囲であると、粒子状共重合体(A)の運動が粒子状共重合体(B)に比べて制限される。導電性カーボンと親和性の高い粒子状共重合体(A)が比較的移動が制限されるため、粒子状共重合体(A)および導電性カーボンはともに移動が少なく、塗膜中に均一に分散された状態が維持される。この結果、導電性カーボンが均一に分散された導電性接着剤層が得られる。
【0065】
粒子状共重合体(A)および(B)の体積平均粒子径は、後述する製造条件を適宜に設定することで制御される。たとえば、乳化重合に使用する界面活性剤の使用量が多くなると、得られる粒子の粒子径は小さくなる傾向がある。
【0066】
[粒子状共重合体の製造]
粒子状共重合体(A)および(B)は、その製法は特に限定はされないが、上述したように、各共重合体を構成する単量体を含む単量体混合物を、それぞれ乳化重合して得ることができる。乳化重合の方法としては、特に限定されず、従来公知の乳化重合法を採用すれば良い。
【0067】
乳化重合に使用する重合開始剤としては、たとえば、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過リン酸カリウム、過酸化水素等の無機過酸化物;t−ブチルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、p−メンタンハイドロパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、イソブチリルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシイソブチレート等の有機過酸化物;アゾビスイソブチロニトリル、アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル、アゾビスシクロヘキサンカルボニトリル、アゾビスイソ酪酸メチル等のアゾ化合物等が挙げられる。
【0068】
これらのなかでも、無機過酸化物が好ましく使用できる。これらの重合開始剤は、それぞれ単独でまたは2種類以上を組み合わせて使用することができる。また、過酸化物開始剤は、重亜硫酸ナトリウム等の還元剤と組み合わせて、レドックス系重合開始剤として使用することもできる。
【0069】
重合開始剤の使用量は、重合に使用する単量体混合物の全量100質量部に対して、好ましくは0.05〜5質量部、より好ましくは0.1〜2質量部である。
【0070】
得られる共重合体粒子のテトラヒドロフラン不溶解分量を調節するために、乳化重合時に連鎖移動剤を使用することが好ましい。連鎖移動剤としては、たとえば、n−ヘキシルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、t−オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、n−ステアリルメルカプタン等のアルキルメルカプタン;ジメチルキサントゲンジサルファイド、ジイソプロピルキサントゲンジサルファイド等のキサントゲン化合物;ターピノレンや、テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラメチルチウラムモノスルフィド等のチウラム系化合物;2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、スチレン化フェノール等のフェノール系化合物;アリルアルコール等のアリル化合物;ジクロルメタン、ジブロモメタン、四臭化炭素等のハロゲン化炭化水素化合物;チオグリコール酸、チオリンゴ酸、2−エチルヘキシルチオグリコレート、ジフェニルエチレン、α−メチルスチレンダイマーなどが挙げられる。
【0071】
これらのなかでも、アルキルメルカプタンが好ましく、t−ドデシルメルカプタンがより好ましく使用できる。これらの連鎖移動剤は、単独または2種以上組み合わせて使用することができる。
【0072】
連鎖移動剤の使用量は、単量体混合物100質量部に対して、好ましくは0.05〜2質量部、より好ましくは0.1〜1質量部である。
【0073】
乳化重合時に、さらにアニオン性界面活性剤を使用することが好ましい。アニオン性界面活性剤を使用することにより、重合安定性を向上させることができる。
【0074】
アニオン性界面活性剤としては、乳化重合において従来公知のものが使用できる。アニオン性界面活性剤の具体例としては、ナトリウムラウリルサルフェート、アンモニウムラウリルサルフェート、ナトリウムドデシルサルフェート、アンモニウムドデシルサルフェート、ナトリウムオクチルサルフェート、ナトリウムデシルサルフェート、ナトリウムテトラデシルサルフェート、ナトリウムヘキサデシルサルフェート、ナトリウムオクタデシルサルフェートなどの高級アルコールの硫酸エステル塩;ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ヘキサデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムなどのアルキルベンゼンスルホン酸塩;ラウリルスルホン酸ナトリウム、ドデシルスルホン酸ナトリウム、テトラデシルスルホン酸ナトリウムなどの脂肪族スルホン酸塩;などが挙げられる。
【0075】
アニオン性界面活性剤の使用量は、単量体混合物100質量部に対して、好ましくは0.5〜10質量部、より好ましくは1〜5質量部である。この使用量が少ないと、得られる粒子の粒径が大きくなり、使用量が多いと粒径が小さくなる傾向がある。また、アニオン性界面活性剤に加えて、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤などを併用することもできる。
【0076】
さらに乳化重合の際に、水酸化ナトリウム、アンモニアなどのpH調整剤;分散剤、キレート剤、酸素捕捉剤、ビルダー、粒子径調節のためのシードラテックスなどの各種添加剤を適宜使用することができる。特にシードラテックスを用いた乳化重合が好ましい。シードラテックスとは、乳化重合の際に反応の核となる微小粒子の分散液をいう。微小粒子は粒径が100nm以下であることが多い。微小粒子は特に限定はされず、アクリル系重合体などの汎用の重合体が用いられる。シード重合法によれば、比較的粒径の揃った粒子状共重合体が得られる。
【0077】
重合反応を行う際の重合温度は、特に限定されないが、通常、0〜100℃、好ましくは40〜80℃とする。このような温度範囲で乳化重合し、所定の重合転化率で、重合停止剤を添加したり、重合系を冷却したりして、重合反応を停止する。重合反応を停止する重合転化率は、好ましくは93質量%以上、より好ましくは95質量%以上である。
【0078】
重合反応を停止した後、所望により、未反応単量体を除去し、pHや固形分濃度を調整して、粒子状共重合体が分散媒に分散された形態(ラテックス)で得られる。その後、必要に応じ、分散媒を置換してもよく、また分散媒を蒸発し、粒子状共重合体を粉末形状で得ても良い。
【0079】
得られる粒子状共重合体の分散液には、公知の分散剤、増粘剤、老化防止剤、消泡剤、防腐剤、抗菌剤、ブリスター防止剤、pH調整剤などを必要に応じて添加することができる。
【0080】
[分散媒およびその他の成分]
本発明に係る電気化学素子電極用導電性接着剤組成物は、上記した導電性カーボン、粒子状共重合体(A)および粒子状共重合体(B)が分散媒に分散されたスラリー状の組成物である。ここで分散媒は、上記各成分を均一に分散でき、安定的に分散状態を保ちうる限り、水、各種有機溶媒が特に制限されることなく使用できる。製造工程の簡素化の観点から、上記の乳化重合後に溶媒置換などの操作を行うことなく、直接接着剤組成物を製造することが好ましく、分散媒としては乳化重合時の反応溶媒を使用することが望ましい。乳化重合時には、水が反応溶媒として用いられることが多く、また作業環境の観点からも水を分散媒とすることが特に好ましい。
【0081】
さらに本発明の電気化学素子電極用導電性接着剤組成物には、上記各成分を分散させるための分散剤が含まれていても良い。
【0082】
分散剤の具体例としては、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロースおよびヒドロキシプロピルセルロースなどのセルロース系ポリマー、ならびにこれらのアンモニウム塩またはアルカリ金属塩、ポリ(メタ)アクリル酸ナトリウムなどのポリ(メタ)アクリル酸塩、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキシドポリビニルピロリドン、ポリカルボン酸、酸化スターチ、リン酸スターチ、カゼイン、各種変性デンプンなどが挙げられる。これらの分散剤は、それぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用できる。
【0083】
[導電性接着剤組成物]
本発明に係る電気化学素子電極用導電性接着剤組成物における各成分の含有割合は特に限定はされないが、各成分の分散性や塗工性の観点から、導電性カーボンの含有割合は、好ましくは8〜38質量%、さらに好ましくは10〜35質量%、特に好ましくは15〜30質量%であり、粒子状共重合体(A)の含有割合は好ましくは0.1〜10質量%、さらに好ましくは0.5〜9質量%、特に好ましくは1〜8質量%であり、粒子状共重合体(B)の含有割合は、好ましくは0.1〜5質量%、さらに好ましくは0.2〜4質量%、特に好ましくは0.3〜3質量%である。残部は、分散媒および必要に応じて添加される各種成分である。分散媒の含有割合は、好ましくは60〜90質量%であり、更に好ましくは65〜85質量%、特に好ましくは68〜85質量%である。
【0084】
バインダーとして用いられる粒子状共重合体(A)および(B)の合計含有量は、導電性カーボン100質量部に対して、好ましくは0.5〜20質量部、より好ましくは1〜19質量部、特に好ましくは2〜18質量部である。バインダー量がこの範囲にあると、導電性の良好な接着剤層が得られる。
【0085】
粒子状共重合体(A)および(B)の比率は特に限定はされないが、共重合体(A)/共重合体(B)の質量比は、好ましくは50〜1、さらに好ましくは25〜3の範囲にある。共重合体(A)/共重合体(B)が上記範囲にあると、強度、均一性の高い導電性接着剤層が、集電体に強固に密着した接着剤層付集電体が得られる。
【0086】
粒子状共重合体(A)および(B)は、それぞれ固有のガラス転移温度Tgを有する。本発明においては、バインダー全体のガラス転移温度が好ましくは−40〜40℃、さらに好ましくは−40〜0℃となるように、粒子状共重合体(A)および(B)の使用量を選択することが好ましい。バインダーのガラス転移温度(Tg)がこの範囲にあると、少量の使用量で結着性に優れ、電極剥離強度が強く、柔軟性に富み、電極形成時のプレスエ程により電極密度を容易に高めることができる。
【0087】
さらに、導電性接着剤組成物には、上記以外のバインダー、増粘剤、老化防止剤、消泡剤、抗菌剤、ブリスター防止剤、pH調整剤などを必要に応じて添加することができる。
【0088】
また、本発明の導電性接着剤組成物は、防腐剤を含んでいることが好ましい。
防腐剤の具体例としては、イソチアゾリン化合物やハロゲン化脂肪族ニトロアルコールなどが挙げられるが、本発明において、好ましくはイソチアゾリン化合物である。
なお、本発明において、本発明の効果を妨げない範囲において、上記以外の防腐剤も使用することができ、さらに防腐剤は、それぞれ単独でまたは2種以上の組み合わせで使用することもできる。
【0089】
本発明の導電性接着剤組成物は、特定量のイソチアゾリン系化合物を含有することで、菌類の繁殖を抑制することができるため、異臭の発生や該導電性接着剤組成物の増粘を防ぐことができ、長期保存安定性に優れる。
【0090】
イソチアゾリン系化合物は、一般的な防腐剤としては公知の化合物であり、下記構造式(1)で示される。
【0091】
【化1】
【0092】
(式中、Yは水素又は置換されていてもよい炭化水素基を、X及びXは、それぞれ、水素原子、ハロゲン原子又は炭素数1〜6のアルキル基をそれぞれ示す。なお、X、Xが共同して芳香環を形成してもよい。なお、X及びXは、それぞれ同一でもよく、相異なっていてもよい。)
【0093】
まず、上記構造式(1)で表されるイソチアゾリン系化合物について説明する。
上記構造式(1)において、Yは水素原子又は置換されていてもよい炭化水素基を示す。Yで示される置換されていてもよい炭化水素基の置換基としては、例えばヒドロキシル基、ハロゲン原子(例えば塩素、フッ素、臭素、ヨウ素等)、シアノ基、アミノ基、カルボキシル基、炭素数1〜4のアルコキシ基(例えばメトキシ基、エトキシ基等)、炭素数6〜10のアリールオキシ基(例えばフェノキシ基等)、炭素数1〜4のアルキルチオ基(例えばメチルチオ基、エチルチオ基等)及び炭素数6〜10のアリールチオ基(例えばフェニルチオ基等)等が挙げられる。前記置換基の中では、ハロゲン原子、炭素数1〜4のアルコキシ基が好ましい。これらの置換基は1〜5個、好ましくは1〜3個の範囲で前記炭化水素基の水素を置換していてもよく、また前記置換基はそれぞれ同一でもよく、相異なっていてもよい。
【0094】
Yで示される置換されていてもよい炭化水素基の該炭化水素基としては、例えば炭素数1〜10のアルキル基、炭素数2〜6のアルケニル基、炭素数2〜6のアルキニル基、炭素数3〜10のシクロアルキル基、炭素数6〜14のアリール基等が挙げられる。前記炭化水素基の中では炭素数1〜10のアルキル基や炭素数3〜10のシクロアルキル基が好ましく、炭素数1〜10のアルキル基がより好ましい。
【0095】
前記炭素数1〜10のアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、イソオクチル基、sec−オクチル基、tert−オクチル基、ノニル基及びデシル基等が挙げられる。これらアルキル基の中では、例えばメチル基、エチル基等の炭素数1〜3のアルキル基や、例えばオクチル基、tert−オクチル基等の炭素数7〜10のアルキル基がより好ましく、炭素数1〜3のアルキル基がより好ましい。
【0096】
前記炭素数2〜6のアルケニル基としては、例えばビニル基、アリル基、イソプロペニル基、1−プロペニル基、2−プロペニル基、2−メチル−1−プロペニル基等が挙げられる。前記アルケニル基の中では、ビニル基、アリル基が好ましい。
【0097】
前記炭素数2〜6のアルキニル基としては、例えばエチニル基、1−プロピニル基、2−プロピニル基、ブチニル基、ペンチニル基等が挙げられる。前記アルキニル基の中では、エチニル基、プロピニル基が好ましい。
【0098】
前記炭素数3〜10のシクロアルキル基としては、例えばシクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基等が挙げられる。前記シクロアルキル基の中では、シクロペンチル基、シクロヘキシル基が好ましい。
【0099】
前記炭素数6〜14のアリール基としては、例えばフェニル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基等が挙げられる。前記アリール基の中では、フェニル基が好ましい。
【0100】
以上説明したように、Yで示される置換されていてもよい炭化水素基として種々のものが挙げられるが、これら炭化水素基の中では、メチル基やオクチル基がより好ましく、メチル基がさらに好ましい。
【0101】
上記構造式(1)において、X及びXは、同一又は相異なる水素原子、ハロゲン原子又は炭素数1〜6のアルキル基をそれぞれ示す。
前記ハロゲン原子としては、例えば、フッ素、塩素、臭素及びヨウ素が挙げられ、これらの中では塩素原子が好ましい。
【0102】
前記炭素数1〜6のアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基等が挙げられる。前記アルキル基の中では、例えばメチル基、エチル基、プロピル基等の炭素数1〜4のアルキル基が好ましい。以上説明した置換基の中で、Xとしては水素原子又は塩素原子がより好ましく、塩素原子がさらに好ましい。また、Xとしては水素原子又は塩素原子がより好ましく、水素原子がさらに好ましい。
【0103】
上記構造式(1)で表されるイソチアゾリン系化合物の具体例としては、例えば5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン、4,5−ジクロロ−2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン、2−エチル−4−イソチアゾリン−3−オン、4,5−ジクロロ−2−シクロヘキシル−4−イソチアゾリン−3−オン、5−クロロ−2−エチル−4−イソチアゾリン−3−オン、5−クロロ−2−t−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン等が挙げられる。
これらの化合物の中では、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン(以下において「CIT」と表すことがある。)、2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン(以下において「MIT」と表すことがある。)、2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン(以下において「OIT」と表すことがある。)、4,5−ジクロロ−2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オンが好ましく、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンや2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンがより好ましい。
【0104】
下記構造式(2)は、上記構造式(1)において、X、Xが共同して芳香環を形成したもののうち、ベンゼン環を形成した場合を示す。
【化2】
【0105】
(式中、Yは構造式(1)の場合と同様であり、X〜Xは水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、シアノ基、アミノ基、カルボキシル基、炭素数1〜4のアルキル基又は炭素数1〜4のアルコキシ基をそれぞれ示す。)
【0106】
上記構造式(2)において、X〜Xは、水素原子、ヒドロキシル基、ハロゲン原子(例えば塩素、フッ素、臭素、ヨウ素等)、シアノ基、アミノ基、カルボキシル基、炭素数1〜4のアルキル基(例えばメチル基、エチル基、プロピル基等)、炭素数1〜4のアルコキシ基(例えばメトキシ基及びエトキシ基等)等が挙げられるが、これらの中では、ハロゲン原子や炭素数1〜4のアルキル基が好ましい。これらX〜Xは、それぞれ同一でもよく、相異なっていてもよい。
【0107】
上記構造式(2)で表わされるイソチアゾリン系化合物としては、1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン(以下において「BIT」と表すことがある。)、N−メチル−1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン等が挙げられる。
【0108】
これらイソチアゾリン系化合物は、単独でまたは二種以上を組み合わせて用いることができる。導電性接着剤組成物の長期貯蔵安定性と該導電性接着剤組成物を用いた電池特性(サイクル寿命)においては、これらの中でも、1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オンが含まれることが特に好ましい。
【0109】
本発明においては、導電性接着剤組成物に対する、イソチアゾリン系化合物の含有量は、導電性カーボン100質量%に対し、0.01〜1.0質量%の範囲であり、好ましくは0.03〜0.7質量%、より好ましくは0.05〜0.5質量%である。イソチアゾリン系化合物の含有量が0.01質量%未満では、前記導電性接着剤組成物中における菌類の繁殖が抑制されず、該導電性接着剤組成物の長期保存安定性が低下する。また、同導電性接着剤組成物中における菌類の繁殖に伴い、導電性接着剤組成物が変性し、導電性接着剤組成物の粘度が増加する。その結果、導電性接着剤組成物の取扱いが困難になると共にピール強度が低下する。一方、イソチアゾリン系化合物の含有量が1.0質量%を超えると、防菌効果を得ることができるが、導電性接着剤層で抵抗体となり、電池の出力特性が低下する。
【0110】
電気化学素子電極用導電性接着剤組成物が分散剤を含む場合、分散剤の使用量は、本発明の効果を損なわない範囲で用いることができ、格別な限定はないが、導電性カーボン100質量部に対して、通常は0.1〜15質量部、好ましくは0.5〜10質量部、より好ましくは0.8〜5質量部の範囲である。
【0111】
電気化学素子電極用導電性接着剤組成物の固形分濃度は、塗布法にもよるが、通常10〜60%、好ましくは15〜50%、特に好ましくは20〜40%である。固形分濃度がこの範囲にあると、導電性接着剤層が高充填化され、得られる電気化学素子のエネルギー密度と出力密度が高まる。
【0112】
電気化学素子電極用導電性接着剤組成物はスラリー状であり、その粘度は、塗布法にもよるが、通常10〜10,000mPa・s、好ましくは50〜5,000mPa・s、特に好ましくは100〜2,000mPa・sである。接着剤組成物スラリーの粘度がこの範囲にあると、集電体上へ均一な導電性接着剤層を形成することができる。
【0113】
接着剤組成物の製造方法は、特に限定はされず、上記各固形成分を分散媒に分散させることができればいかなる手段であってもよい。たとえば、粒子状重合体(A)の分散液、粒子状共重合体(B)の分散液、導電性カーボンおよび必要に応じ添加される任意成分を一括して混合し、その後必要に応じ分散媒を添加し、分散液の固形分濃度を調整してもよい。また、導電性カーボンを何等かの分散媒に分散した状態で添加してもよい。
【0114】
また、分散性の良好な組成物スラリーを得る観点から、粒子状重合体(A)と導電性カーボンとを接触させた後に、他の成分を添加することが特に好ましい。粒子状共重合体(A)は二塩基酸単量体単位を含むことから、導電性接着剤に含まれる導電性カーボンとの親和性が高く、組成物における導電性カーボンの分散性を向上する。
【0115】
[接着剤層付集電体]
本発明の接着剤付集電体は、上記の電気化学素子電極用導電性接着剤組成物を電気化学素子用集電体に塗布乾燥して得られる。
【0116】
集電体の材料は、例えば、金属、炭素、導電性高分子などであり、好適には金属が用いられる。集電体用金属としては、通常、アルミニウム、白金、ニッケル、タンタル、チタン、ステンレス鋼、銅、その他の合金等が使用される。これらの中で導電性、耐電圧性の面から銅、アルミニウムまたはアルミニウム合金を使用するのが好ましい。
【0117】
集電体の厚みは、5〜100μmで、好ましくは10〜70μm、特に好ましくは15〜50μmである。
【0118】
導電性接着剤層の形成方法は、特に制限されない。例えば、ドクターブレード法、ディップ法、リバースロール法、ダイレクトロール法、グラビア法、エクストルージョン法、ハケ塗りなどによって、集電体上に形成される。また、剥離紙上に、導電性接着剤層を形成した後に、これを集電体に転写してもよい。
【0119】
導電性接着剤層の乾燥方法としては、例えば温風、熱風、低湿風による乾燥、真空乾燥、(遠)赤外線や電子線などの照射による乾燥法が挙げられる。中でも、熱風による乾燥法、遠赤外線の照射による乾燥法が好ましい。乾燥温度と乾燥時間は、集電体上に塗布したスラリー中の溶媒を完全に除去できる温度と時間が好ましく、乾燥温度は通常50〜300℃、好ましくは80〜250℃である。乾燥時間は、通常2時間以下、好ましくは5秒〜30分である。
【0120】
導電性接着剤層の厚みは、通常は0.5〜5μm、好ましくは0.8〜2.5μm、特に好ましくは1.0〜2.0μmである。導電性接着剤層の厚みが前記範囲であることにより、接着剤層を介して電極組成物層と集電体とが良好に接着し、かつ電子移動抵抗を低減することができる。
【0121】
導電性接着剤層は、電気化学素子電極用導電性接着剤組成物の固形分組成に応じた組成を有し、導電性カーボン、二塩基酸単量体単位を含む粒子状共重合体(A)、エチレン性不飽和カルボン酸アミド誘導体単量体を含む粒子状共重合体(B)を含む。
【0122】
[電気化学素子用電極]
本発明の電気化学素子用電極は、上記接着剤付集電体の導電性接着剤層上に電極組成物層を有する。電極組成物層は、電極活物質と電極用導電材および電極用バインダーとからなり、これら成分を含むスラリーから調整される。
【0123】
(電極活物質)
電極活物質は負極活物質であってもよく、また正極活物質であってもよい。電極活物質は、電池内で電子の受け渡しをする物質である。電極活物質の体積平均粒子径は、正極、負極ともに通常0.01〜100μm、好ましくは0.05〜50μm、より好ましくは0.1〜20μmである。これらの電極活物質は、それぞれ単独でまたは二種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0124】
(電極用導電材)
電極用導電材は、導電性を有し、電気二重層を形成し得る細孔を有さない、粒子状の炭素の同素体からなり、具体的には、ファーネスブラック、アセチレンブラック、及びケッチェンブラック(アクゾノーベルケミカルズベスローテンフェンノートシャップ社の登録商標)などの導電性カーボンブラックが挙げられる。これらの中でも、アセチレンブラックおよびファーネスブラックが好ましい。
【0125】
(電極用バインダー)
電極用バインダーは、電極活物質、導電材を相互に結着させることができる化合物であれば特に制限はない。好適なバインダーは、溶媒に分散する性質のある分散型バインダーである。分散型バインダーとして、例えば、フッ素重合体、ジエン重合体、アクリレート重合体、ポリイミド、ポリアミド、ポリウレタン重合体等の高分子化合物が挙げられ、フッ素重合体、ジエン重合体又はアクリレート重合体が好ましく、ジエン重合体又はアクリレート重合体が、耐電圧を高くでき、かつリチウムイオン電池のエネルギー密度を高くすることができる点でより好ましい。
【0126】
ジエン重合体は、共役ジエンの単独重合体もしくは共役ジエンを含む単量体混合物を重合して得られる共重合体、またはそれらの水素添加物である。
【0127】
前記単量体混合物における共役ジエンの割合は通常40質量%以上、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上である。ジエン重合体の具体例としては、ポリブタジエンやポリイソプレンなどの共役ジエン単独重合体;カルボキシ変性されていてもよいスチレン・ブタジエン共重合体(SBR)などの芳香族ビニル・共役ジエン共重合体;アクリロニトリル・ブタジエン共重合体(NBR)などのシアン化ビニル・共役ジエン共重合体;水素化SBR、水素化NBR等が挙げられる。
【0128】
アクリレート重合体は、一般式(1):CH=CR−COOR(式中、Rは水素原子またはメチル基を、Rはアルキル基またはシクロアルキル基を表す。)で表される化合物を含む単量体混合物を重合して得られる重合体である。一般式で表される化合物の具体例としては、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸n−アミル、アクリル酸イソアミル、アクリル酸n−ヘキシル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸ノニル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸ステアリルなどのアクリレート;メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸n−アミル、メタクリル酸イソアミル、メタクリル酸n−ヘキシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸オクチル、メタクリル酸イソデシル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸トリデシル、メタクリル酸ステアリルなどのメタアクリレート等が挙げられる。これらの中でも、アクリレートが好ましく、アクリル酸n−ブチルおよびアクリル酸2−エチルヘキシルが、得られる電極の強度を向上できる点で、特に好ましい。アクリレート重合体中のアクリル酸エステルおよび/またはメタクリル酸エステル由来の単量体単位の割合は、通常50質量%以上、好ましくは70質量%以上である。前記アクリル酸工ステルおよび/またはメタクリル酸エステル由来の単量体単位の割合が前記範囲であるアクリレート重合体を用いると、耐熱性が高く、かつ得られるリチウムイオン電池用電極の内部抵抗を小さくできる。
【0129】
前記アクリレート重合体は、一般式(1)で表される化合物の他に、共重合可能なカルボン酸基含有単量体を用いることができ、具体例としては、アクリル酸、メタクリル酸などの一塩基酸含有単量体、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などの二塩基酸含有単量体が挙げられる。なかでも、二塩基酸含有単量体が好ましく、導電性接着剤層との結着性を高め、電極強度を向上できる点で、イタコン酸が特に好ましい。これらの一塩基酸含有単量体、二塩基酸含有単量体は、それぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用できる。共重合の際の、前記単量体混合物におけるカルボン酸基含有単量体の量は、一般式(1)で表される化合物100質量部に対して、通常は0.1〜50質量部、好ましくは0.5〜20質量部、より好ましくは1〜10質量部の範囲である。カルボン酸基含有単量体の量がこの範囲であると、導電性接着剤層との結着性に優れ、得られる電極強度が高まる。
【0130】
前記アクリレート重合体は、一般式(1)で表される化合物の他に、共重合可能なニトリル基含有単量体を用いることができる。ニトリル基含有単量体の具体例としては、アクリロニトリルやメタクリロニトリルなどが挙げられ、中でもアクリロニトリルが、導電性接着剤層との結着性が高まり、電極強度が向上できる点で好ましい。共重合の際の、前記単量体混合物におけるアクリロニトリルの量は、一般式(1)で表される化合物100質量部に対して、通常は0.1〜40質量部、好ましくは0.5〜30質量部、より好ましくは1〜20質量部の範囲である。アクリロニトリルの量がこの範囲であると、導電性接着剤層との結着性に優れ、得られる電極強度が高まる。
【0131】
電極用バインダーの形状は、特に制限はないが、導電性接着剤層との結着性が良く、また、作成した電極の容量の低下や充放電の繰り返しによる劣化を抑えることができるため、粒子状であることが好ましい。
【0132】
電極用バインダーのガラス転移温度(Tg)は、好ましくは50℃以下、さらに好ましくは−40〜0℃である。バインダーのガラス転移温度(Tg)がこの範囲にあると、少量の使用量で結着性に優れ、電極強度が強く、柔軟性に富み、電極形成時のプレスエ程により電極密度を容易に高めることができる。
【0133】
電極用バインダーが粒子状である場合、その数平均粒子径は、格別な限定はないが、通常は0.0001〜100μm、好ましくは0.001〜10μm、より好ましくは0.01〜1μmである。バインダーの数平均粒子径がこの範囲であるときは、少量の使用でも優れた結着力を電極に与えることができる。ここで、数平均粒子径は、透過型電子顕微鏡写真で無作為に選んだバインダー粒子100個の径を測定し、その算術平均値として算出される個数平均粒子径である。粒子の形状は球形、異形、どちらでもかまわない。これらのバインダーは単独でまたは二種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0134】
電極用バインダーの量は、電極活物質100質量部に対して、通常は0.1〜50質量部、好ましくは0.5〜20質量部、より好ましくは1〜10質量部の範囲である。電極用バインダーの量がこの範囲にあると、得られる電極組成物層と導電性接着剤層との密着性が充分に確保でき、リチウムイオン電池の容量を高く且つ内部抵抗を低くすることができる。
【0135】
(電極組成物層)
電極組成物層は、導電性接着剤層上に設けられるが、その形成方法は制限されない。電極形成用組成物は、電極活物質、導電材及びバインダーを必須成分として、必要に応じてその他の分散剤および添加剤を配合することができる。その他の分散剤の具体例としては、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロースおよびヒドロキシプロピルセルロースなどのセルロース系ポリマー、ならびにこれらのアンモニウム塩またはアルカリ金属塩;ポリ(メタ)アクリル酸ナトリウムなどのポリ(メタ)アクリル酸塩;ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキシド、ポリビニルピロリドン、ポリカルボン酸、酸化スターチ、リン酸スターチ、カゼイン、各種変性デンプンなどが挙げられる。これらの分散剤は、それぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用できる。中でも、セルロース系ポリマーが好ましく、カルボキシメチルセルロースまたはそのアンモニウム塩もしくはアルカリ金属塩が特に好ましい。これらの分散剤の量は、格別な限定はないが、電極活物質100質量部に対して、通常は0.1〜10質量部、好ましくは0.5〜5質量部、より好ましくは0.8〜2質量部の範囲である。
【0136】
電極組成物層を形成する場合、ペースト状の電極形成用組成物(以下、「電極組成物層用スラリー」と記載することがある。)は、電極活物質、導電材及びバインダーの必須成分、並びにその他の分散剤および添加剤を、水またはN−メチル−2−ピロリドンやテトラヒドロフランなどの有機溶媒中で混練することにより製造することができる。
【0137】
スラリーを得るために用いる溶媒は、特に限定されないが、上記の分散剤を用いる場合には、分散剤を溶解可能な溶媒が好適に用いられる。具体的には、通常水が用いられるが、有機溶媒を用いることもできるし、水と有機溶媒との混合溶媒を用いてもよい。有機溶媒としては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール等のアルキルアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のアルキルケトン類;テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジグライム等のエーテル類;ジエチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルイミダゾリジノン等のアミド類;ジメチルスルホキサイド、スルホラン等のイオウ系溶剤;等が挙げられる。この中でも有機溶媒としては、アルコール類が好ましい。電極組成物層用スラリーは、電極組成物層の乾燥の容易さと環境への負荷に優れる点から水を分散媒とした水系スラリーが好ましい。水と、水よりも沸点の低い有機溶媒とを併用すると、噴霧乾燥時に、乾燥速度を速くすることができる。また、水と併用する有機溶媒の量または種類によって、バインダーの分散性または分散剤の溶解性が変わる。これにより、スラリーの粘度や流動性を調整することができ、生産効率を向上させることができる。
【0138】
スラリーを調製するときに使用する溶媒の量は、スラリーの固形分濃度が、通常1〜90質量%、好ましくは5〜85質量%、より好ましくは10〜80質量%の範囲となる量である。固形分濃度がこの範囲にあるときに、各成分が均一に分散するため好適である。
【0139】
電極活物質、導電材、バインダー、その他の分散剤や添加剤を溶媒に分散または溶解する方法または手順は特に限定されず、例えば、溶媒に電極活物質、導電材、バインダーおよびその他の分散剤や添加剤を添加し混合する方法;溶媒に分散剤を溶解した後、溶媒に分散させたバインダーを添加して混合し、最後に電極活物質および導電材を添加して混合する方法;溶媒に分散させたバインダーに電極活物質および導電材を添加して混合し、この混合物に溶媒に溶解させた分散剤を添加して混合する方法等が挙げられる。混合の手段としては、例えば、ボールミル、サンドミル、ビーズミル、顔料分散機、らい潰機、超音波分散機、ホモジナイザー、ホモミキサー、プラネタリーミキサー等の混合機器が挙げられる。混合は、通常、室温〜80℃の範囲で、10分〜数時間行う。
【0140】
スラリーの粘度は、室温において、通常10〜100,000mPa・s、好ましくは30〜50,000mPa・s、より好ましくは50〜20,000mPa・sの範囲である。スラリーの粘度がこの範囲にあると、生産性を上げることができる。
【0141】
スラリーの導電性接着剤層上への塗布方法は特に制限されない。例えば、ドクターブレード法、ディップ法、リバースロール法、ダイレクトロール法、グラビア法、エクストルージョン法、ハケ塗り法などの方法が挙げられる。スラリーの塗布厚は、目的とする電極組成物層の厚みに応じて適宜に設定される。
【0142】
乾燥方法としては例えば温風、熱風、低湿風による乾燥、真空乾燥、(遠)赤外線や電子線などの照射による乾燥法が挙げられる。中でも、遠赤外線の照射による乾燥法が好ましい。乾燥温度と乾燥時間は、集電体に塗布したスラリー中の溶媒を完全に除去できる温度と時間が好ましく、乾燥温度としては100〜300℃、好ましくは120〜250℃である。乾燥時間としては、通常10分〜100時間、好ましくは20分〜20時間である。
【0143】
電極組成物層の密度は、特に制限されないが、通常は0.30〜10g/cm、好ましくは0.35〜8.0g/cm、より好ましくは0.40〜6.0g/cmである。また、電極組成物層の厚みは、特に制限されないが、通常は5〜1000μm、好ましくは20〜500μm、より好ましくは30〜300μmである。
【0144】
(電気化学素子)
前記電気化学素子用電極の使用態様としては、かかる電極を用いたリチウムイオン二次電池、電気二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタ、ナトリウム電池、マグネシウム電池などが挙げられ、リチウムイオン二次電池が好適である。たとえばリチウムイオン二次電池は、上記電気化学素子用電極、セパレータおよび電解液で構成される。
【0145】
(セパレータ)
セパレータは、電気化学素子用電極の間を絶縁でき、陽イオンおよび陰イオンを通過させることができるものであれば特に限定されない。具体的には、(a)気孔部を有する多孔性セパレータ、(b)片面または両面に高分子コート層が形成された多孔性セパレータ、または(c)無機セラミック粉末を含む多孔質の樹脂コート層が形成された多孔性セパレータが挙げられる。これらの非制限的な例としては、ポリプロピレン系、ポリエチレン系、ポリオレフィン系、またはアラミド系多孔性セパレーター、ポリビニリデンフルオリド、ポリエチレンオキシド、ポリアクリロニトリルまたはポリビニリデンフルオリドヘキサフルオロプロピレン共重合体などの固体高分子電解質用またはゲル状高分子電解質用の高分子フィルム、ゲル化高分子コート層がコートされたセパレータ、または無機フィラー、無機フィラー用分散剤からなる多孔膜層がコートされたセパレータなどを用いることができる。セパレータは、上記一対の電極組成物層が対向するように、電気化学素子用電極の間に配置され、素子が得られる。セパレータの厚みは、使用目的に応じて適宜選択されるが、通常は1〜100μm、好ましくは10〜80μm、より好ましくは20〜60μmである。
【0146】
(電解液)
電解液は、特に限定されないが、例えば、非水系の溶媒に支持電解質としてリチウム塩を溶解したものが使用できる。リチウム塩としては、例えば、LiPF、LiAsF、LiBF、LiSbF、LiAlCl、LiClO、CFSOLi、CSOLi、CFCOOLi、(CFCO)NLi、(CFSONLi、(CSO)NLiなどのリチウム塩が挙げられる。特に溶媒に溶けやすく高い解離度を示すLiPF、LiClO、CFSOLiは好適に用いられる。これらは、単独、または2種以上を混合して用いることができる。支持電解質の量は、電解液に対して、通常1質量%以上、好ましくは5質量%以上、また通常は30質量%以下、好ましくは20質量%以下である。支持電解質の量が少なすぎても多すぎてもイオン導電度は低下し電池の充電特性、放電特性が低下する。
【0147】
電解液に使用する溶媒としては、支持電解質を溶解させるものであれば特に限定されないが、通常、ジメチルカーボネート(DMC)、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、およびメチルエチルカーボネート(MEC)などのアルキルカーボネート類;γ−ブチロラクトン、ギ酸メチルなどのエステル類、1,2−ジメトキシエタン、およびテトラヒドロフランなどのエーテル類;スルホラン、およびジメチルスルホキシドなどの含硫黄化合物類;が用いられる。特に高いイオン伝導性が得易く、使用温度範囲が広いため、ジメチルカーボネート、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネートが好ましい。これらは、単独、または2種以上を混合して用いることができる。また、電解液には添加剤を含有させて用いることも可能である。また、添加剤としてはビニレンカーボネート(VC)などのカーボネート系の化合物が好ましい。
【0148】
上記以外の電解液としては、ポリエチレンオキシド、ポリアクリロニトリルなどのポリマー電解質に電解液を含浸したゲル状ポリマー電解質や、硫化リチウム、LiI、LiNなどの無機固体電解質を挙げることができる。
【0149】
二次電池は、負極と正極とをセパレーターを介して重ね合わせ、これを電池形状に応じて巻く、折るなどして電池容器に入れ、電池容器に電解液を注入して封口して得られる。さらに必要に応じてエキスパンドメタルや、ヒューズ、PTC素子などの過電流防止素子、リード板などを入れ、電池内部の圧力上昇、過充放電の防止をすることもできる。電池の形状は、ラミネートセル型、コイン型、ボタン型、シート型、円筒型、角形、扁平型などいずれであってもよい。
【実施例】
【0150】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに具体的に説明するが、これらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例および比較例における部および%は、特に断りのない限り質量基準である。実施例および比較例における各特性は、下記の方法に従い測定した。
【0151】
(導電性接着剤層の外観)
アルミニウム集電体に形成された導電性接着剤層表面の外観を目視で判断した。導電性接着剤層表面に欠陥が無い場合をA、ピンホールや、直径1μm以下のクレーターが見られる場合をB、直径1μm以上のクレーターや、亀裂が見られる場合をCとした。
【0152】
(リチウムイオン二次電池の電池特性および耐久性)
実施例および比較例で製造するリチウムイオン二次電池用電極を用いてコイン型のリチウムイオン二次電池を作製する。このリチウムイオン二次電池の電池特性として、容量と内部抵抗について、24時間静置させた後に充放電の操作を行い測定する。ここで、充電は定電流で開始し、電圧が4.0Vに達したらその電圧を1時間保って定電圧充電とする。また、放電は充電終了直後に定電流で2.0Vに達するまで行う。
【0153】
容量は放電時のエネルギー量から電極活物質の単位質量あたりの容量として算出する。
【0154】
(サイクル寿命)
サイクル寿命は、リチウムイオン二次電池を、70℃の恒温槽内で充放電サイクルを繰り返し、100サイクル後の初期容量に対する容量維持率を算出し、以下の基準で評価を行う。容量維持率が大きいほど耐久性に優れる。
SA:容量維持率が93%以上
A:容量維持率が90%以上93%未満
B:容量維持率が80%以上90%未満
C:容量維持率が80%未満
【0155】
(電極のピール強度)
電極組成物層の塗布方向が長辺となるようにリチウムイオン二次電池用電極を長さ100mm、幅10mmの長方形に切り出して試験片とする。試験片の電極組成物層面を下にして、電極組成物層表面にセロハンテープ(JISZ1522に規定されるもの)を貼り付け、集電体の一端を引張り速度50mm/分で垂直方向に引張り、テープを剥がしたときの応力を測定する(なお、セロハンテープは試験台に固定されている。)。この測定を3回行い、その平均値を求めてこれをピール強度とし、以下の基準で評価する。ピール強度が大きいほど電極組成物層の集電体への結着力が大きい、すなわち電極強度が大きいことを示す。
A:ピール強度が20N/m以上
B:ピール強度が10N/m以上20N/m未満
C:ピール強度が10N/m未満
【0156】
(長期保存試験)
長期保存試験は、リチウムイオン二次電池を4.2Vまで充電し、45℃の恒温槽内で30日間保管した後、保持容量と初期容量から容量維持率(保持容量/初期容量)を算出し、以下の基準で評価を行う。容量維持率が大きいほど長期保存特性に優れる。
A:容量維持率が90%以上
B:容量維持率が70%以上90%未満
C:容量維持率が70%未満
【0157】
(粒子状共重合体の体積平均粒子径)
体積平均粒子径は、粒子径測定機(コールターLS230:コールター社製)を用いて、測定した。
【0158】
(バインダー組成物の製造)
<粒子状共重合体(A1)の製造>
攪拌装置を備えたステンレス製耐圧反応器に、シードラテックス(スチレン38部、メチルメタアクリレート60部及びメタクリル酸2部を重合して得られる、粒子径70nmの重合体粒子のラテックス)を固形分にて3部、ブチルアクリレート:10部、2エチルヘキシルアクリレート:56部、イタコン酸:1部、スチレン6部、アンモニウムラウリルサルフェート(アニオン性界面活性剤):2部、およびイオン交換水:108部を添加し、攪拌した。次いで、反応器内の温度を60℃に昇温した後、4%過硫酸カリウム水溶液:10部を投入して重合反応を開始させた。そして、重合反応を進行させ、重合転化率が70%に達したとき、反応温度を70℃に昇温した。反応温度を70℃に維持しながら、重合転化率が97%に達するまで、重合反応を継続した。反応系を室温まで冷却して、重合反応を停止し、減圧して未反応単量体を除去した。イオン交換水を添加し、固形分濃度を45%、分散液のpHを7.5に調整することにより、粒子状共重合体(A1)の分散液を得た。なお、分散液のpHの調整は、10%アンモニア水溶液を添加することにより行った。得られた粒子状共重合体(A1)の体積平均粒子径は、320nm、THF不溶分は88%であった。
【0159】
<粒子状共重合体(A2)の製造>
攪拌装置を備えたステンレス製耐圧反応器に、シードラテックスを固形分にて3部、スチレン:6部、2エチルヘキシルアクリレート:60部、アクリル酸:1部、イタコン酸:3部、アンモニウムラウリルサルフェート:2部、およびイオン交換水:108部を添加し、攪拌した。次いで、反応器内の温度を60℃に昇温した後、4%過硫酸カリウム水溶液:10部を投入して重合反応を開始させた。そして、重合反応を進行させ、重合転化率が70%に達したとき、反応温度を70℃に昇温した。反応温度を70℃に維持しながら、重合転化率が97%に達するまで、重合反応を継続した。その後、反応系を室温まで冷却して、重合反応を停止し、未反応単量体を除去した。その後、固形分濃度を45%、分散液のpHを7.5に調整することにより、粒子状共重合体(A2)の分散液を得た。なお、分散液のpHの調整は、10%アンモニア水溶液を添加することにより行った。得られた粒子状共重合体(A2)の体積平均粒子径は、380nm、THF不溶分は81%であった。
【0160】
<粒子状共重合体(A3)の製造>
攪拌機付き5MPa耐圧容器に、スチレン60部、1,3−ブタジエン37部、イタコン酸3部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム5部、イオン交換水150部、及び重合開始剤として過硫酸カリウム1部を入れ、十分に攪拌した後、50℃に加温して重合を開始した。重合転化率が65%となった時点で、反応温度を70℃へ昇温した。
モノマー消費量が95.0%になった時点で冷却し反応を止め、固形分濃度40%のジエン系重合体粒子水分散液のpHを7.5に調整することにより、粒子状共重合体(A3)の分散液を得た。なお、分散液のpHの調整は、10%アンモニア水溶液を添加することにより行った。得られた粒子状共重合体(A3)の体積平均粒子径は、310nm、THF不溶分は86%であった。
【0161】
<粒子状共重合体(B1)の製造>
攪拌装置を備えたステンレス製耐圧反応器に、シードラテックスを固形分にて3部、スチレン:40部、ブチルアクリレート:50部、N−メチロールアクリルアミド:2部、アクリル酸:1部、メタクリル酸:1部、アンモニウムラウリルサルフェート:3部、およびイオン交換水:108部を添加し、攪拌した。次いで、反応器内の温度を60℃に昇温した後、4%過硫酸カリウム水溶液:10部を投入して重合反応を開始させた。そして、重合反応を進行させ、重合転化率が70%に達したとき、反応温度を70℃に昇温した。反応温度を70℃に維持しながら、重合転化率が95%に達するまで、重合反応を継続した。その後、反応系を室温まで冷却して、重合反応を停止し、未反応単量体を除去した。その後、固形分濃度を45%、分散液のpHを7.5に調整することにより、粒子状共重合体(B1)の分散液を得た。なお、分散液のpHの調整は、10%アンモニア水溶液を添加することにより行った。得られた粒子状共重合体(B1)の体積平均粒子径は、180nm、THF不溶分は18%であった。
【0162】
<粒子状共重合体(B2)の製造>
攪拌装置を備えたステンレス製耐圧反応器に、シードラテックスを固形分にて3部、アクリロニトリル:30部、スチレン:6部、2エチルヘキシルアクリレート:30部、アクリル酸:1部、メタクリル酸:1部、アクリルアミド:2部、アンモニウムラウリルサルフェート:2.5部、およびイオン交換水:108部を添加し、攪拌した。次いで、反応器内の温度を60℃に昇温した後、4%過硫酸カリウム水溶液:10部を投入して重合反応を開始させた。そして、重合反応を進行させ、重合転化率が70%に達したとき、反応温度を70℃に昇温した。反応温度を70℃に維持しながら、重合転化率が95%に達するまで、重合反応を継続した。その後、反応系を室温まで冷却して、重合反応を停止し、未反応単量体を除去した。その後、固形分濃度を45%、分散液のpHを7.5に調整することにより、粒子状共重合体(B2)の分散液を得た。なお、分散液のpHの調整は、10%アンモニア水溶液を添加することにより行った。得られた粒子状共重合体(B2)の体積平均粒子径は、120nm、THF不溶分は22%であった。
【0163】
<粒子状共重合体(C)の製造>
攪拌装置を備えたステンレス製耐圧反応器に、シードラテックスを固形分にて3部、アクリロニトリル10部、スチレン:6部、ブチルアクリレート:10部、2エチルヘキシルアクリレート:60部、イタコン酸:2部、アクリル酸:1部、メタクリル酸:1部、N−メチロールアクリルアミド:2部、アンモニウムラウリルサルフェート:2部、およびイオン交換水:108部を添加し、攪拌した。次いで、反応器内の温度を60℃に昇温した後、4%過硫酸カリウム水溶液:10部を投入して重合反応を開始させた。重合反応を進行させ、重合転化率が70%に達したとき、反応温度を70℃に昇温した。反応温度を70℃に維持しながら、重合転化率が93%に達するまで、重合反応を継続した。その後、反応系を室温まで冷却して、重合反応を停止し、未反応単量体を除去した。その後、固形分濃度を45%、分散液のpHを7.5に調整することにより、粒子状共重合体(C)の分散液を得た。なお、分散液のpHの調整は、10%アンモニア水溶液を添加することにより行った。得られた粒子状共重合体(C)の体積平均粒子径は、200nm、THF不溶分は58%であった。
【0164】
<粒子状共重合体(D)の製造>
攪拌装置を備えたステンレス製耐圧反応器に、シードラテックスを固形分にて3部、スチレン:27部、ブチルアクリレート:70部、アンモニウムラウリルサルフェート:2部、およびイオン交換水:108部を添加し、攪拌した。次いで、反応器内の温度を60℃に昇温した後、4%過硫酸カリウム水溶液:10部を投入して重合反応を開始させた。重合反応を進行させ、重合転化率が70%に達したとき、反応温度を70℃に昇温した。反応温度を70℃に維持しながら、重合転化率が93%に達するまで、重合反応を継続した。その後、反応系を室温まで冷却して、重合反応を停止し、未反応単量体を除去した。その後、固形分濃度を45%、分散液のpHを7.5に調整することにより、粒子状共重合体(D)の分散液を得た。なお、分散液のpHの調整は、10%アンモニア水溶液を添加することにより行った。得られた粒子状共重合体(D)の体積平均粒子径は、180nm、THF不溶分は62%であった。
【0165】
(実施例1〜5および比較例2〜6)
(導電性接着剤組成物の製造)
イオン交換水に分散剤(ポリビニルアルコール)を溶かした水溶液へ、炭素材料(デンカブラック)を添加し、ビーズミルを用いて60分間高速回転して分散した後、さらに粒子状共重合体の分散液を添加して、同様に5分間低速回転で分散し、表1に記載の固形分比率となるように導電性接着剤組成物を作製した。(固形分濃度18〜20%)
【0166】
(導電性接着剤層の形成)
アルミニウム集電体に前記導電性接着剤を、キャスト法を用いてロールバーで塗布し、20m/分の成形速度で集電体の表裏両面に塗布し、60℃で1分間、引き続き120℃で2分間乾燥して、厚さ1.2μmの導電性接着剤層を形成した。
【0167】
(電極の作製)
正極の電極活物質として、体積平均粒子径が8μmのコバルト酸リチウムを100部、分散剤としてカルボキシメチルセルロースアンモニウムの1.5%水溶液(DN−800Hlダイセル化学工業社製)を固形分相当で2.0部、導電材としてアセチレンブラック(デンカブラック粉状:電気化学工業社製)を5部、電極組成物用バインダーとしてガラス転移温度が−28℃で、数平均粒子径が0.25μmのアクリレート系重合体の40%水分散体を固形分相当で3.0部、およびイオン交換水を全固形分濃度が35%となるようにプラネタリーミキサーにより混合し、正極の電極用組成物を調製した。
【0168】
前記にて導電性接着剤層を形成したアルミニウム集電体に前記正極用組成物を20m/分の電極成形速度で集電体の表裏両面に塗布し、120℃で5分間乾燥した後、5cm正方に打ち抜いて、片面厚さ100μmの電極組成物層を有する正極のリチウムイオン電池用電極を得た。
【0169】
一方負極の活物質として、体積平均粒子径が3.7μmであるグラファイト(KS−6:ティムカル社製)を100部、分散剤としてカルボキシメチルセルロースアンモニウムの1.5%水溶液(DN−800H:ダイセル化学工業社製)を固形分相当で2.0部、導電材としてアセチレンブラック(デンカブラック粉状:電気化学工業社製)を5部、電極組成物用バインダーとしてガラス転移温度が−48℃で、数平均粒子径が0.18μmのジエン重合体の40%水分散体を固形分相当で3.0部、およびイオン交換水を全固形分濃度が35%となるように混合し、負極の電極用組成物を調製した。
【0170】
上記負極の電極用組成物をコンマコーターを用いて、厚さ18μmの銅箔の片面に乾燥後の膜厚が100μm程度になるように塗布し、60℃で20分乾燥後、150℃で20分間加熱処理して負極活物質層を形成した。次いで、ロールプレスで圧延して厚さ50μmの負極用極板を得た。
【0171】
(電池の製造)
前記正極、負極及びセパレータを用いて、積層型ラミネートセル形状のリチウムイオン電池を作製した。電解液としてはエチレンカーボネート、ジエチルカーボネートを質量比で1:2とした混合溶媒に、LiPFを1.0mol/リットルの濃度で溶解させたものを用いた。
【0172】
(実施例6〜9)
実施例6〜9において、導電性接着剤組成物として、分散剤、炭素材料および粒子状共重合体を分散した溶液に、さらにイソチアゾリン化合物の水溶液を添加し、ディスパーにより30分間攪拌して、表1に記載の固形分比率となるように調整した他は、実施例1と同様にしてリチウムイオン電池用電極、リチウムイオン電池を作製した。このリチウムイオン電池の各特性について測定結果を表1に示す。
【0173】
なお、実施例6、8および9で用いられたイソチアゾリン化合物の水溶液は、ソー・ジャパン製ACTICIDE(登録商標)MBS(2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン(MIT)/1,2−ベンズ−4−イソチアゾリン−3−オン(BIT)=50/50の5%水溶液)であった。
【0174】
また、実施例7で用いられたイソチアゾリン化合物の水溶液は、ソー・ジャパン製ACTICIDE(登録商標)MBSの代わりにソー・ジャパン製ACTICIDE(登録商標)5008(5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン(CIT)/2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン(MIT)=50/50の5%水溶液)であった。
【0175】
(比較例1)
実施例1において、正極用集電体として導電性接着剤層を形成していない厚み30μmのアルミニウム集電体を用いる他は、実施例1と同様にしてリチウムイオン電池用電極、リチウムイオン電池を作製した。このリチウムイオン電池の各特性について測定結果を表1に示す。
【表1】