特許第5943148号(P5943148)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5943148積層多孔質フィルム、非水電解液二次電池用セパレータおよび非水電解液二次電池
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  • 特許5943148-積層多孔質フィルム、非水電解液二次電池用セパレータおよび非水電解液二次電池 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5943148
(24)【登録日】2016年6月3日
(45)【発行日】2016年6月29日
(54)【発明の名称】積層多孔質フィルム、非水電解液二次電池用セパレータおよび非水電解液二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 2/16 20060101AFI20160616BHJP
   H01M 10/0566 20100101ALI20160616BHJP
   B32B 5/18 20060101ALI20160616BHJP
   B32B 27/32 20060101ALI20160616BHJP
【FI】
   H01M2/16 L
   H01M2/16 P
   H01M10/0566
   B32B5/18
   B32B27/32 Z
【請求項の数】9
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2015-525687(P2015-525687)
(86)(22)【出願日】2015年4月20日
(86)【国際出願番号】JP2015062625
【審査請求日】2015年5月19日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113000
【弁理士】
【氏名又は名称】中山 亨
(74)【代理人】
【識別番号】100151909
【弁理士】
【氏名又は名称】坂元 徹
(72)【発明者】
【氏名】王 剣
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 博彦
【審査官】 宮田 透
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−026609(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/005796(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/146126(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/031012(WO,A1)
【文献】 特開2015−111598(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/080700(WO,A1)
【文献】 特開2013−011774(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 2/14− 2/18
B32B 5/18
B32B 27/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン多孔質フィルムの少なくとも片面に、重合体を含む層が積層された積層多孔質フィルムであって、下記(1)および(2)を満足する積層多孔質フィルム。
(1)機械方向に平行な辺の長さが60mm、機械方向と直交する方向に平行な辺の長さが40mmに矩形に切り出した前記積層多孔質フィルムを、温度23℃湿度50%環境下に1時間静置したときの、機械方向と直交する方向に平行な辺の浮き上がり量が8mm以上である。
(2)機械方向に平行な辺の長さが60mm、機械方向と直交する方向に平行な辺の長さが40mmに矩形に切り出した前記積層多孔質フィルムを、温度23℃湿度5%環境下に1時間静置したときの、機械方向に平行な辺の浮き上がり量が12mm以下である。
【請求項2】
ポリオレフィン多孔膜フィルムの機械方向に直交する方向の弾性率が、機械方向の弾性率よりも低い請求項1に記載の積層多孔質フィルム。
【請求項3】
重合体が吸湿性重合体である請求項1又は2に記載の積層多孔質フィルム。
【請求項4】
重合体を含む層が、さらに微粒子を含む請求項1〜3のいずれかに記載の積層多孔質フィルム。
【請求項5】
ポリオレフィン多孔質フィルムの片面のみに、重合体を含む層が積層された請求項1〜4のいずれかに記載の積層多孔質フィルム。
【請求項6】
重合体が、水に可溶な重合体である請求項1〜5のいずれかに記載の積層多孔質フィルム。
【請求項7】
温度23℃湿度50%環境下に1時間静置したときの水分量と、温度23℃湿度5%環境下に1時間静置したときの水分量との差分が、45mg/m以上である請求項1〜6のいずれかに記載の積層多孔質フィルム。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の積層多孔質フィルムからなる非水電解液二次電池用セパレータ。
【請求項9】
請求項8に記載の非水電解液二次電池用セパレータを用いてなる非水電解液二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解液二次電池用セパレータとして好適な積層多孔質フィルム、この積層多孔質フィルムからなる非水電解液二次電池用セパレータ、およびこの非水電解液二次電池用セパレータを用いてなる非水電解液二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
非水電解液二次電池、特にリチウムイオン二次電池は、エネルギー密度が高いのでパーソナルコンピュータ、携帯電話、携帯情報端末などに用いる電池として広く使用されている。
これらのリチウムイオン二次電池に代表される非水電解液二次電池は、エネルギー密度が高く、電池の破損あるいは電池を用いている機器の破損等により内部短絡・外部短絡が生じた場合には、大電流が流れて激しく発熱する。そのため、非水電解液二次電池には一定以上の発熱を防止し、高い安全性を確保することが求められている。
かかる安全性の確保手段として、異常発熱の際に、セパレータにより、正−負極間のイオンの通過を遮断して、さらなる発熱を防止するシャットダウン機能を付与する方法が一般的である。シャットダウン機能をセパレータに付与する方法としては、異常発熱時に溶融する材質からなる多孔質フィルムをセパレータとして用いる方法が挙げられる。すなわち、このセパレータを用いた電池は、異常発熱時に多孔質フィルムが溶融・無孔化し、イオンの通過を遮断し、さらなる発熱を抑制することができる。
このようなシャットダウン機能を有するセパレータとしては例えば、ポリオレフィン製の多孔質フィルムが用いられる。このポリオレフィン多孔質フィルムからなるセパレータは、電池の異常発熱時には、約80〜180℃で溶融して、無孔化することでイオンの通過を遮断(シャットダウン)することにより、さらなる発熱を抑制する。
ポリオレフィン多孔質フィルムには、ポリオレフィン以外の重合体を含む層を積層することで、ポリオレフィンの融点以上での加熱形状維持特性や電極との密着性などの機能を付与することができる。ポリオレフィン多孔質フィルムに、ポリオレフィン以外の重合体を含む層を積層してなる積層多孔質フィルムとして、ポリオレフィン多孔質フィルムに、セルロースエーテルと微粒子とを含む層を積層してなり、ポリオレフィンの融点以上での加熱形状維持性が付与された積層多孔質フィルム(特許文献1)や、ポリオレフィン多孔質フィルムに、ポリフッ化ビニリデンを含む層を積層してなり、電極との接着性が付与され、電極間距離の均一性が良好な積層多孔質フィルム(特許文献2)などが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
特許文献1:特開2011−198532号公報
特許文献2:特開平10−189054号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
非水電解液二次電池は、通常、正極と負極とをセパレータを介して複数積層して構成される。また、非水電解液二次電池の製造において、電極とセパレータとを積層する工程は、低湿度環境下で行われることがある。そこで、非水電解液二次電池用セパレータは、低湿度環境下において、電極との積層が容易であり、ハンドリング性が良好であることが望まれることがある。
しかしながら、上述した特許文献1および2においては、積層多孔質フィルムを非水電解液二次電池用セパレータとして用いる際、積層多孔質フィルムと電極とを積層するときの周辺環境については考慮されていないものであり、低湿度環境下でのハンドリング性に改善の余地がある。
本発明の目的は、低湿度環境下でのハンドリング性が良好な積層多孔質フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、下記の発明が上記目的に合致することを見出し、本発明に至った。
すなわち本発明は、以下の発明に係るものである。
[1]ポリオレフィン多孔質フィルムの少なくとも片面に、重合体を含む層が積層された積層多孔質フィルムであって、下記(1)および(2)を満足する積層多孔質フィルム。
(1)機械方向に平行な辺の長さが60mm、機械方向と直交する方向に平行な辺の長さが40mmに矩形に切り出した前記積層多孔質フィルムを、温度23℃湿度50%環境下に1時間静置したときの、機械方向と直交する方向に平行な辺の浮き上がり量が8mm以上である。
(2)機械方向に平行な辺の長さが60mm、機械方向と直交する方向に平行な辺の長さが40mmに矩形に切り出した前記積層多孔質フィルムを、温度23℃湿度5%環境下に1時間静置したときの、機械方向に平行な辺の浮き上がり量が12mm以下である。
[2]ポリオレフィン多孔膜フィルムの機械方向に直交する方向の弾性率が、機械方向の弾性率よりも低い[1]に記載の積層多孔質フィルム。
[3]重合体が吸湿性重合体である[1]又は[2]に記載の積層多孔質フィルム。
[4]重合体を含む層が、さらに微粒子を含む[1]〜[3]のいずれかに記載の積層多孔質フィルム。
[5]ポリオレフィン多孔質フィルムの片面のみに、重合体を含む層が積層された[1]〜[4]のいずれかに記載の積層多孔質フィルム。
[6]重合体が、水に可溶な重合体である[1]〜[5]のいずれかに記載の積層多孔質フィルム。
[7]温度23℃湿度50%環境下に1時間静置したときの水分量と、温度23℃湿度5%環境下に1時間静置したときの水分量との差分が、45mg/m以上である[1]〜[6]のいずれかに記載の積層多孔質フィルム。
[8][1]〜[7]のいずれかに記載の積層多孔質フィルムからなる非水電解液二次電池用セパレータ。
[9][8]に記載の非水電解液二次電池用セパレータを用いてなる非水電解液二次電池。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、低湿度環境下でのハンドリング性が良好であり、非水電解液二次電池用セパレータとして好適な積層多孔質フィルムが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の一実施形態にかかる積層多孔質フィルムを示す概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の積層多孔質フィルムは、ポリオレフィン多孔質フィルムの少なくとも片面に、重合体を含む層が積層されてなるものであって、機械方向に平行な辺(以下、MD辺ということがある)の長さが60mm、機械方向と直交する方向に平行な辺(以下、TD辺ということがある)の長さが40mmに矩形に切り出したフィルムを、温度23℃湿度50%環境下に1時間静置したときの、TD辺の浮き上がり量が8mm以上であり、温度23℃湿度5%環境下に1時間静置したときの、MD辺の浮き上がり量が12mm以下である。本明細書において、機械方向(以下、MDと記すことがある。)は、フィルムの製造過程でフィルムが機械的に流される方向、機械方向と直交する方向(以下、TDと記すことがある。)は、機械方向とフィルムの厚み方向との両方に対して直交する方向、と定義される。
積層多孔質フィルムにおいて、ポリオレフィン多孔質フィルム(以下、A層と記すことがある。)は、ポリオレフィンを主成分として含み、高温になると溶融して無孔化する性質があるため、本発明の積層多孔質フィルムをセパレータとして使用したときには、電池の異常発熱時に、溶融して無孔化することにより、積層多孔質フィルムにシャットダウンの機能を付与する。
また、重合体を含む層(以下、B層と記すことがある。)は、A層に積層されることで、本発明の積層多孔質フィルムをセパレータとして使用したときに、ポリオレフィンの融点以上での加熱形状維持性や、積層多孔質フィルムに電極との接着性などの機能を付与する。
【0009】
<ポリオレフィン多孔質フィルム>
A層を構成する、ポリオレフィン多孔質フィルムについて説明する。
A層は、その内部に連結した細孔を有す構造を有し、一方の面から他方の面に気体や液体が透過可能である。
A層に含まれる固形分に対するポリオレフィン成分の割合は、通常50体積%を超え、70体積%以上であることが好ましく、90体積%以上であることがより好ましく、95体積%以上であることがさらに好ましい。
A層のポリオレフィン成分には、A層、さらにはA層を含む積層多孔質フィルム全体の強度が高くなるという点で、重量平均分子量が5×10〜15×10の高分子量成分が含まれていることが好ましい。
ポリオレフィンとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセンなどのオレフィンを重合した単独重合体又は共重合体が挙げられる。これらの中でもエチレンを主体とする重量平均分子量100万以上の高分子量ポリエチレンが好ましい。
A層には、必要に応じてポリオレフィンの他に、A層の機能を損なわない範囲で、他の成分が含まれていてもよい。
A層の孔径は、積層多孔質フィルムを電池のセパレータとした際に、優れたイオン透過性を有し、かつ正極や負極への粒子の入り込みを防止できる点で、3μm以下が好ましく、1μm以下がさらに好ましい。
A層の厚みは、4〜40μmが好ましく、7〜30μmがより好ましいが、積層多孔質フィルムの、B層の厚みを勘案して適宜決定される。
A層の空隙率は、20〜80体積%が好ましく、さらに好ましくは30〜70体積%である。このような範囲であると、イオン透過性に優れ、積層多孔質フィルムを電池のセパレータとして用いた際に、優れた特性を示す。
A層の目付としては、積層多孔質フィルムの強度、膜厚、ハンドリング性及び重量、さらには、積層多孔質フィルムを電池のセパレータとして用いた場合の電池の重量エネルギー密度や体積エネルギー密度を高くすることができる点で、通常、4〜15g/mであり、5〜12g/mが好ましい。
A層を構成するポリオレフィン多孔質フィルムの製法は、特に限定されるものではなく、例えば特開平7−29563号公報に記載されたように、熱可塑性樹脂に可塑剤を加えてフィルム成形した後、該可塑剤を適当な溶媒で除去する方法や、特開平7−304110号公報に記載されたように、公知の方法により製造した熱可塑性樹脂からなるフィルムを用い、該フィルムの構造的に弱い非晶部分を選択的に延伸して微細孔を形成する方法、特開2002−69221号公報に記載されたように、熱可塑性樹脂に微粒子を加えてフィルム成型した後、該微粒子を除去する方法が挙げられる。
【0010】
<重合体を含む層(B層)>
B層は、好ましくは、温度23度湿度50%環境下における飽和水分率がA層よりも高い層である。温度23度湿度50%環境下における、B層の飽和水分率は、好ましくは1重量%以上であり、より好ましくは、5重量%以上である。
B層を構成する、重合体について説明する。本発明における重合体は、A層に含まれるポリオレフィン以外の重合体であり、通常、A層に含まれるポリオレフィンと異なる吸湿特性を有する。好ましくは、温度23度湿度50%環境下における飽和水分率がA層に含まれるポリオレフィンよりも高い重合体であり、より好ましくは、温度23度湿度50%環境下における飽和水分率が1重量%以上の重合体であり、さらに好ましくは、温度23度湿度50%環境下における飽和水分率が5重量%以上の重合体である。本明細書において、温度23度湿度50%環境下における飽和水分率が1重量%以上の重合体を吸湿性重合体という。前記重合体は、B層をどのように機能させるのかに応じて選択すればよい。
B層を構成する重合体は1種類でもよく、複数種類の重合体の組み合わせでもよい。
温度23度湿度50%環境下における重合体の飽和水分率は、温度23度湿度50%環境下に24時間静置した重合体に含有されている水分の含有割合であり、重合体を、温度23度湿度50%環境下に24時間静置し、次いで、150℃に加熱したときに、該重合体から気化される水分の重量を測定することで求められる。
B層は、B層に含まれる重合体の種類を選択することで、例えば、接着層や耐熱層として機能し、積層多孔質フィルムに電極との接着性や、ポリオレフィンの融点以上での加熱形状維持性などの機能を付与する。以下、B層の具体的な例として、接着層と耐熱層を挙げるが、B層はこれらに限定されるものではない。
B層が接着層である場合、積層多孔質フィルムからなる非水電解液二次電池用セパレータを用い、電極(正極及び負極)と該セパレータとを積層して得られる非水電解液二次電池は、A層と電極との間にB層が介在することになり、A層と電極とが、B層により良好に接合される。
B層を接着層として機能させる場合の、B層に含まれる重合体としては、正極及び負極と、ポリオレフィン多孔質フィルムとの、いずれに対しても接着性に優れ、電池の電解液に対して不溶であり、またその電池の使用範囲内で電気的に安定である重合体が好ましい。かかる重合体としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン系樹脂が挙げられる。ポリフッ化ビニリデン系樹脂としては、フッ化ビニリデンの単独重合体(すなわちポリフッ化ビニリデン)、フッ化ビニリデンと他の共重合可能なモノマーとの共重合体、及びこれらの混合物等が挙げられる。またこの際、後述するようにB層には微粒子を含有させてもよい。
B層が耐熱層である場合、積層多孔質フィルムからなる非水電解液二次電池用セパレータは、高温での形状安定性に優れ、ポリオレフィンの融点以上の温度での加熱形状維持特性に優れる。
B層を耐熱層として機能させる場合の、B層に含まれる重合体としては、耐熱性に優れ、電池の電解液に対して不溶であり、またその電池の使用範囲で電気化学的に安定である重合体が好ましい。かかる重合体としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン等の含フッ素樹脂;エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体等の含フッ素ゴム;スチレン−ブタジエン共重合体及びその水素化物、メタクリル酸エステル共重合体、アクリロニトリル−アクリル酸エステル共重合体、スチレン−アクリル酸エステル共重合体、ポリ酢酸ビニル、エチレン−酢酸ビニル−バーサチック酸ビニル重合体等のゴム類;ポリフェニレンエーテル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、アラミド、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルアミド、ポリエステル等の融点やガラス転移温度が180℃以上の樹脂;ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、セルロースエーテル、アルギン酸ナトリウム、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、ポリメタクリル酸等のバインダー樹脂;が挙げられる。中でも、水に可溶な重合体である水溶性高分子は、プロセスや環境負荷の点で好ましい。水溶性高分子の中でも、セルロースエーテル、ポリビニルアルコール及びアルギン酸ナトリウムからなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、特にセルロースエーテルが好ましく用いられる。セルロースエーテルの中でも化学的な安定性に優れたカルボキシメチルセルロース(CMC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)が好ましく、特にCMCが好ましい。
好ましい吸湿性重合体としては、上記の水溶性高分子が挙げられる。
また、B層に含まれる温度23度湿度50%環境下における飽和水分率がA層に含まれるポリオレフィンよりも高い重合体重合体の割合は、B層に含有される重合体成分の合計100体積%に対して、50体積%を超え、70体積%以上であることが好ましく、90体積%以上であることがより好ましく、95体積%以上であることがさらに好ましい。
また、B層に含まれる吸湿性重合体の割合は、B層に含有される重合体成分の合計100体積%に対して、50体積%を超え、70体積%以上であることが好ましく、90体積%以上であることがより好ましく、95体積%以上であることがさらに好ましい。
B層は、必要に応じて重合体の他に、B層の機能を損なわない範囲で、他の成分を含んでいてもよい。そのような成分として、例えば、微粒子、分散剤、可塑剤、pH調製剤などが挙げられる。
B層は、重合体に加えてさらに微粒子を含むことで、加熱形状維持特性に優れる層として機能することができ、また、B層の内部に連結した細孔を形成することができ、連通性が高まる。
微粒子には、充填剤と一般的に呼ばれる無機または有機のフィラーを用いることができる。具体的にはスチレン、ビニルケトン、アクリロニトリル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、グリシジルメタクリレート、グリシジルアクリレート、アクリル酸メチル等の単独あるいは2種類以上の共重合体;ポリテトラフルオロエチレン、4フッ化エチレン−6フッ化プロピレン共重合体、4フッ化エチレン−エチレン共重合体、ポリビニリデンフルオライド等のフッ素系樹脂;メラミン樹脂;尿素樹脂;ポリエチレン;ポリプロピレン;ポリメタクリレート等の有機物からなるフィラーや炭酸カルシウム、タルク、クレー、カオリン、シリカ、ハイドロタルサイト、珪藻土、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化チタン、アルミナ、マイカ、ゼオライト、ガラス等の無機物からなるフィラーが挙げられる。フィラーとしては、これらの中でも耐熱性および化学的安定性の観点から、無機フィラーが好ましく、無機酸化物がより好ましく、アルミナが特に好ましい。
なお、これらのフィラーは、単独あるいは2種以上を混合して用いることができる。
アルミナには、α−アルミナ、β−アルミナ、γ−アルミナ、θ−アルミナ等の多くの結晶形が存在するが、いずれも好適に使用することができる。これらの中でも、α−アルミナが熱的・化学的安定性が特に高いため、最も好ましい。
微粒子は、微粒子材料の製造方法やB層の成分を含む塗工液を作製の際の分散条件によって、球形、長円形、短形、瓢箪形等の形状や、特定の形状を有さない不定形など、様々なものが存在するが、いずれも使用できる。
B層は、その機能や、非水電解液二次電池の電解液中における、重合体の膨潤度にもよるが、多孔質の層であることが好ましく、その空隙率は30〜90体積%が好ましく、より好ましくは40〜85体積%である。その孔径は、孔を球形に近似したときの球の直径として3μm以下が好ましく、1μm以下がさらに好ましい。孔径の平均の大きさが3μm以下であると、非水電解液二次電池を製造した場合に、正極や負極の主成分である炭素粉やその小片が脱落しても短絡しにくい。
B層の厚みは、その機能にもよるが、通常0.1μm以上15μm以下であり、好ましくは1μm以上10μm以下の範囲である。B層の厚みが10μm以下であると、得られる積層多孔質フィルムの、温度23℃湿度5%環境下に静置したときの、機械方向と直交する方向に平行な辺の浮き上がり(以下、機械方向と直交する方向に平行な辺の浮き上がりのことをMDカールということがある)量が大きくなりすぎず、また非水電解液二次電池を製造した場合に、良好な負荷特性が発現しやすい。0.1μm以上であるとB層の機能が発現し易い。
なお、B層がA層の両面に形成される場合には、両面のB層の厚みを合計した厚みが、上記B層の厚みの所定の範囲内であることが好ましい。
B層の目付は、通常、1〜30g/mであり、好ましくは3〜25g/mである。
B層をA層の少なくとも片面に形成させる方法としては、A層とB層を別々に作製し貼合する方法もあるが、B層の成分を含む塗工液(以下、B液と記すことがある。)を作製し、A層上に、ウェットコーティングし媒体を除去する方法が好ましい。
該B液の媒体(溶媒又は分散媒)としては、重合体を含むB層の成分が均一かつ安定に溶解又は分散させることができる媒体あればよい。具体的には、水、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどのアルコール類、アセトン、トルエン、キシレン、ヘキサン、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミドなどを単独、または相溶する範囲で複数混合することが挙げられる。
プロセスや環境負荷の点で媒体の80重量%以上が水であることがより好ましく、水のみがより好ましい。
B液をA層に塗布する方法は、均一にウェットコーティングできる方法であれば特に制限はなく、従来公知の方法を採用することができる。例えば、キャピラリーコート法、スピンコート法、スリットダイコート法、スプレーコート法、ロールコート法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、バーコーター法、グラビアコーター法、ダイコーター法などを採用することができる。形成されるB層の厚さはB液の塗布量、B液中の重合体の濃度、B液が微粒子を含む場合では、微粒子の重合体に対する比を調節することによって制御することができる。通常、A層へのB液の塗布、およびA層に塗布したB液からの媒体の除去は、A層を搬送しながら、連続して行われる。このようにすることで、A層が長尺であっても、連続的にA層とB層を積層することが可能である。なお、このA層が搬送される搬送方向が、A層が機械的に流される方向、すなわち機械方向(MD)である。本明細書において、B液をA層に塗布する工程を、塗布工程と定義する。
B液を得る方法としては、均質なB液を得ることができる方法であれば、特に限定されない。B液として重合体の他に、他の成分、特に微粒子を含む場合は、機械攪拌法、超音波分散法、高圧分散法、メディア分散法などの方法が好ましく、より均一に分散させることが容易であるという点で、高圧分散法がより好ましい。その際の混合順序も、沈殿物が発生するなど特段の問題がない限り、重合体と微粒子などのその他成分を一度に媒体に添加して混合してもよいし、任意の順番で媒体に添加して混合してもよいし、それぞれを媒体に溶解又は分散した後に混合するなど任意である。
B液の媒体として水を含む場合、該B液をA層上に塗布する前に、あらかじめA層に親水化処理を行うことが好ましい。A層を親水化処理することにより、より塗布性が向上し、より均質なB層を得ることができる。この親水化処理は、特に媒体中の水の濃度が高いときに有効である。
A層の親水化処理は、いかなる方法でもよく、具体的には酸やアルカリ等による薬剤処理、コロナ処理、プラズマ処理等が挙げられる。
ここで、コロナ処理は、比較的短時間でA層を親水化できることに加え、コロナ放電によるポリオレフィンの改質が、A層の表面近傍のみに限られ、A層内部の性質を変化させることなく、高い塗工性を確保できるという利点がある。
A層上に塗布したB液からの媒体の除去は乾燥が好ましい。乾燥方法としては、例えば、自然乾燥、送風乾燥、加熱乾燥、減圧乾燥などが挙げられる。これらの中でも、加熱乾燥が好ましい。使用する媒体にも依存するが、乾燥温度は30〜80℃であることが好ましく、50〜80℃がより好ましい。30℃以上であれば十分な乾燥速度が得られ、80℃以下であれば、外観良好な積層多孔質フィルムが得られる。本明細書において、この塗布工程後に乾燥により媒体を除去する工程を、乾燥工程と定義する。
【0011】
<フィルムテンション付与工程>
A層とB層を別々に作製し貼合した後、又は、乾燥工程後に、所定の温度環境下で、該温度環境下と同じ温度環境下において、B液が塗布されていないポリオレフィン多孔質フィルムに付与したときに、該ポリオレフィン多孔質フィルムの伸び率が0.3〜2%、好ましくは0.3〜2.0%、より好ましくは0.4〜1.5%、より好ましくは0.5〜1.0%となるフィルムテンションを、得られたフィルムに付与することが好ましい。また、フィルムテンションを付与する時間は、好ましくは10秒以上であり、より好ましくは20秒以上であり、また、好ましくは10分以内であり、より好ましくは5分以内である。
本明細書において、この乾燥工程後にフィルムテンションを付与する工程を、フィルムテンション付与工程と定義する。
フィルムテンション付与工程における前記伸び率及び前記時間等を調整することで、温度23℃湿度50%環境下に1時間静置したときのMDカール量を制御することができ、そして、温度23℃湿度5%環境下に1時間静置したときの、機械方向に平行な辺の浮き上がり(以下、機械方向に平行な辺の浮き上がりのことをTDカールということがある)量を制御することができる。
上記所定の温度環境の温度はポリオレフィン多孔質フィルムの材質によって異なるが、前述のフィルムテンションがコントロールしやすい温度であることが好ましく、具体的には、30〜100℃が好ましく、50〜80℃がより好ましい。特に、A層がポリエチレンを含む場合には、上記の温度であることが特に好ましい。
フィルムテンション付与工程を、乾燥工程の後に設ける場合、乾燥工程の直後に設けてもよいし、乾燥工程後、1以上の他の工程を経た後に設けてもよい。例えば、A層がロールで扱われる長尺のフィルムである場合は、乾燥工程の後、フィルムをロールに巻き取るまでの間にフィルムテンション付与工程を設けるのが好ましい。また、乾燥工程の後に、得られたフィルムをロールに巻き取ってフィルムロールを得、このフィルムロールから再びフィルムを巻き出しながら、フィルムテンション付与工程に供してもよい。
所定の温度環境下において、B液が塗布されていないポリオレフィン多孔質フィルムの伸び率が所定の範囲となるフィルムテンションは、加熱引張り試験で測定することができる。
フィルムテンション付与工程におけるフィルムテンションは、フィルム幅1mmあたりに0Nを越え、0.02N以上が好ましく、0.05N以上がより好ましい。このようなフィルムテンションを付与しながら長尺のA層を搬送し、塗布工程、乾燥工程、及びフィルムテンション付与工程を行うことで、A層にB層を安定的に連続塗工することができる。
本発明の積層多孔質フィルムを製造する方法としては、上述の塗布工程、乾燥工程およびフィルムテンション付与工程を有していることが好ましく、これらの工程に加えて、さらに1以上の他の工程を有していてもよい。
本発明の積層多孔質フィルムについて、図1を参照して説明する。図1は、本発明の一実施形態にかかる積層多孔質フィルムを示す概略説明図である。積層多孔質フィルム1は、ポリオレフィン多孔質フィルム(A層)5の片面に、重合体を含む層(B層)6が積層されてなる2層構成であり、機械方向に平行な辺(MD辺)2と、機械方向と直交する方向に平行な辺(TD辺)3とから構成されうる。なお、ポリオレフィン多孔質フィルムも、積層多孔質フィルムと同様に、MD辺とTD辺とから構成されうる。
図1の積層多孔質フィルムの層構成は、A層の片面にB層が積層されてなる2層構成であるが、本発明の積層多孔質フィルムの層構成は、これに限定されるものではなく、A層の少なくとも片面にB層が積層されていればよく、例えば、A層の両面にB層が積層されてなる3層構成であってもよい。好ましくは、A層の片面のみにB層が積層されている。
本発明の積層多孔質フィルムは、MD辺の長さが60mm、TD辺の長さが40mmに矩形に切り出した当該フィルムを、温度23℃湿度50%環境下に1時間静置したときの、MDカール量が8mm以上であり、且つ、温度23℃湿度5%環境下に1時間静置したときのTDカール量が12mm以下である。本発明の積層多孔質フィルムは、該MDカール量が8mm以上であり、該TDカール量が12mm以下であることで、非水電解液二次電池用セパレータとして用いるときに、例えば温度23℃湿度5%などのセパレータを電池に組み込む低湿度環境下において、MDカール量とTDカール量とが低減され、電極と積層し易く、ハンドリング性が良好となる。また、電池組立て時にセパレータをカットして作業を中断しても、セパレータの端部の位置がほとんど変化しないため、速やかに作業を再開することが可能である。なお、本発明の積層多孔質フィルムにおいては、通常、MDカールとTDカールとが同時に生じることはない。なぜならば、例えば、TDカールを有する積層多孔質フィルムにおいては、そのTDカールが阻害するために、さらにMDにカールすることができないためである。すなわち、少ないTDカール量を有する積層多孔質フィルムは、同時にMDカールもしないためハンドリング性に優れる。
A層とB層との吸湿特性が異なると、温度23℃湿度5%などの低湿度環境下においては一方が他方より大きく収縮し、カールが誘発される。なお、材質の異なるA層とB層とが同一の吸湿特性を有することは実質的に有り得ない。特にA層の、機械方向に直交する方向の弾性率(以下、TD弾性率ということがある)が、機械方向の弾性率(以下、MD弾性率ということがある)よりも低い場合、TDカールが誘発される傾向がある。そこで、当該TDカールが発生する方向とは逆側の方向に、温度23℃湿度50%環境下に1時間静置したときのMDカール量が8mm以上になるようにカールを付与することで、温度23℃湿度5%という低湿度環境下においてもTDカール量が12mm以下であるセパレータを得ることができる。かかるMDカール量は、上記のフィルムテンション付与工程の条件によって制御することができる。
前記TDカールが発生する方向とは逆側の方向とは、例えば、積層多孔質フィルムを水平な板の上に置いたときに、TDカールが上側に反り上がる方向に生じた場合には、下側に反り下がる方向を意味する。
温度23℃湿度50%環境下に1時間静置したときのMDカール量は、フィルムが丸まらない程度であることが、温度23℃湿度50%環境などの通常雰囲気下でのハンドリングが良好になるためより好ましい。また温度23℃湿度5%環境下に1時間静置したときのTDカール量は、10mm以下が好ましく、5mm以下がさらに好ましい。また、温度23℃湿度5%環境下に1時間静置したときのTDカール量は、MDカールを抑制する観点で0.5mm以上が好ましく、1mm以上がより好ましい。
本発明の積層多孔質フィルムは、好ましくは、温度23℃湿度50%環境下に1時間静置したときの水分量と、温度23℃湿度5%環境下に1時間静置したときの水分量との差分が、45mg/m以上である。かかる積層多孔質フィルムは、B層における、重合体の種類、重合体の含有割合、及び、B層の厚みを適宜調節することによって得ることができる。
このような水分量(含水量)の差を有する積層多孔質フィルムによれば、フィルムテンション付与工程の条件を調整することによる、MDカール量及びTDカール量の制御が容易となる。
MDカール量は、MD辺の長さが60mm、TD辺の長さが40mmに矩形に切り出した積層多孔質フィルムを、温度23℃湿度50%環境下で平坦面上に1時間静置した後、該平坦面からのTD辺の浮き上がりが最も大きい箇所における、該平坦面からTD辺までの距離を測定して求められる値である。
TDカール量は、MD辺の長さが60mm、TD辺の長さが40mmに矩形に切り出した積層多孔質フィルムを、温度23℃湿度5%環境下で平坦面上に1時間静置した後、該平坦面からのMD辺の浮き上がりが最も大きい箇所における、該平坦面からMD辺までの距離を測定して求められる値である。
MDカール量およびTDカール量は、積層多孔質フィルムの一方の面が平坦面と接する面となる場合と、他方の面が平坦面と接する面となる場合との、いずれの場合についても測定を行い、求められる数値のうち、より大きい数値を、同じ数値であればその数値を、積層多孔質フィルムのMDカール量およびTDカール量とする。
本発明の積層多孔質フィルム全体(A層+B層)の厚みは、通常5〜50μmであり、好ましくは8〜40μmであり、特に好ましくは9〜30μmである。積層多孔質フィルム全体の厚みが5μm以上であると、該積層多孔質フィルムをセパレータとして用いて非水電解液二次電池を製造した場合に、内部短絡による初期不良が生じにくく、また50μm以下であると、該電池の容量が大きくなる傾向にある。
本発明の積層多孔質フィルム全体(A層+B層)の目付は、通常、5〜45g/mであり、好ましくは8〜35g/mである。
なお、本発明の積層多孔質フィルムには、A層とB層以外の、例えば、耐熱膜、接着膜、保護膜等の多孔膜が本発明の目的を損なわない範囲で含まれていてもよい。
本発明の積層多孔質フィルムは、電池、特にはリチウムイオン二次電池などの非水電解液二次電池のセパレータとして好適に使用することができる。
本発明の非水電解液二次電池用セパレータを用いて非水電解液二次電池を製造すると、高い負荷特性を有し、セパレータは優れたシャットダウン機能を発揮し、優れた非水電解液二次電池となる。
【実施例】
【0012】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
実施例及び比較例において、B層が含有する重合体、ポリオレフィン多孔質フィルムおよび積層多孔質フィルムの物性等は以下の方法で測定した。
【0013】
(1)B層が含有する重合体の飽和水分率(単位:重量%):
サーモプレップ860型(メトローム社製)を用いて、温度23度湿度50%環境下に24時間静置した重合体を150℃に加熱し、次いで、この重合体から気化された水分量を、831型KFクーロメーター(メトローム社製)を用いて測定した。そして、温度23度湿度50%環境下に24時間静置した後であって、かつ加熱する前の重合体の重量100重量%に対する、前記水分量の重量割合を算出し、得られた水分量の重量割合を、温度23度湿度50%環境下における重合体の飽和水分率とした。
【0014】
(2)積層多孔質フィルムの水分量の差分(単位:g/m):
サーモプレップ860型(メトローム社製)を用いて、温度23度湿度50%環境下に24時間静置した積層多孔質フィルム(積層多孔質フィルムA)と温度23度湿度5%環境下に24時間静置した積層多孔質フィルム(積層多孔質フィルムB)とのそれぞれについて、150℃に加熱し、次いで、各積層多孔質フィルムから気化された水分量を、831型KFクーロメーター(メトローム社製)を用いて測定し、各積層多孔質フィルム1mあたりの水分量を求めた。さらに、得られた積層多孔質フィルムAの水分量と積層多孔質フィルムBの水分量とから、差分(差分=積層多孔質フィルムAの水分量−積層多孔質フィルムBの水分量)を算出し、この差分を、積層多孔質フィルムの水分量の差分とした。
【0015】
(3)ポリオレフィン多孔質フィルム伸び率(単位:%):
引張り試験機(株式会社エー・アンド・デイ社製、テンシロン万能試験機RTG−1310)を用いて、JISK7127に準じて、各測定温度において、ポリオレフィン多孔質フィルムへ、歪速度250%/分で、フィルム1mmあたり所定のフィルムテンションを付与したときの、伸び率(伸び率=100×(フィルムテンションを付与した後のフィルム長さ−フィルムテンションを付与する前のフィルム長さ)/フィルムテンションを付与する前のフィルム長さ)を求めた。
【0016】
(4)厚み測定(単位:μm):
高精度デジタル測長機(株式会社ミツトヨ製)を用いて、ポリオレフィン多孔質フィルムおよび積層多孔質フィルムの厚みを測定した。
【0017】
(5)目付(単位:g/m):
ポリオレフィン多孔質フィルムおよび積層多孔質フィルムを、それぞれ一辺の長さ10cmの正方形に切り、重量W(g)を測定した。次いで、式:目付(g/m)=W/(0.1×0.1)に基づき、ポリオレフィン多孔質フィルムおよび積層多孔質フィルムの目付をそれぞれ算出した。B層の目付は、積層多孔質フィルムの目付からポリオレフィン多孔質フィルムの目付を差し引いて算出した。
【0018】
(6)MDカール量(単位:mm):
積層多孔質フィルムを、MD辺の長さが60mm、TD辺の長さが40mmに矩形に切り出してサンプルを得、得られたサンプルを温度23℃湿度50%環境下で平坦面上に1時間静置した後、該平坦面からのTD辺の浮き上がりが最も大きい箇所における、該平坦面からTD辺までの距離を、物差しを用いて測定し、求められた値をMDカール量とした。MDカール量の測定は、サンプルの一方の面が平坦面と接する面となる場合と、他方の面が平坦面と接する面となる場合との、いずれの場合についても行い、求められるMDカール量のうち、より大きい数値を、同じ数値であればその数値を、積層多孔質フィルムのMDカール量とした。また、サンプルが、MD辺が筒状に巻いた場合は、測定不能とした。
【0019】
(7)TDカール量(単位:mm)
積層多孔質フィルムを、MD辺の長さが60mm、TD辺の長さが40mmに矩形に切り出してサンプルを得、得られたサンプルを温度23℃湿度5%環境下で平坦面上に1時間静置した後、該平坦面からのMD辺の浮き上がりが最も大きい箇所における、該平坦面からMD辺までの距離を、物差しを用いて測定し、求められた値をTDカール量とした。TDカール量の測定は、サンプルの一方の面が平坦面と接する面となる場合と、他方の面が平坦面と接する面となる場合との、いずれの場合についても行い、求められるTDカール量のうち、より大きい数値を、同じ数値であればその数値を、積層多孔質フィルムのMDカール量とした。またTD辺が筒状に巻いた場合は、測定不能とした。
【0020】
<ポリオレフィン多孔質フィルム(A層)>
高分子量ポリエチレン粉末(GUR4032、ティコナ株式会社製)を70重量%、重量平均分子量1000のポリエチレンワックス(FNP−0115、日本精鑞株式会社製)を30重量%、この高分子量ポリエチレンとポリエチレンワックスの合計100重量%に対して、酸化防止剤(Irg1010、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製)0.4重量%、酸化防止剤(P168、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製)0.1重量%、ステアリン酸ナトリウム1.3重量%を加え、さらに全体積に対して38体積%となるように平均粒径0.1μmの炭酸カルシウム(丸尾カルシウム株式会社製)を加え、これらを粉末のままヘンシェルミキサーで混合した後、二軸混練機で溶融混練してポリオレフィン樹脂組成物とした。該ポリオレフィン樹脂組成物を表面温度が150℃の一対のロールにて圧延しシートを作製した。このシートを塩酸水溶液(塩酸4mol/L、非イオン系界面活性剤0.5重量%)に浸漬させることで炭酸カルシウムを除去し、続いて105℃で6倍に延伸してポリオレフィン多孔質フィルム(膜厚:18μm、目付:7g/m)を得た。得られたポリオレフィン多孔膜のTD弾性率はMD弾性率よりも低い値を示した。得られたポリオレフィン多孔質フィルムの伸び率を表1に示す。
【0021】
【表1】
【0022】
実施例1
(1)B液の調製
実施例1のB液を以下の手順で作製した。
純水:イソプロピルアルコールの重量比が95:5である媒体に固形分濃度が28重量%となるようにカルボキシメチルセルロース(CMC、ダイセルファインケム株式会社:1110、水分率14重量%)とアルミナ(住友化学株式会社製:AKP3000)を6:100の重量比で添加、混合して、高圧分散条件にて3回処理することにより、B液を調製した。
【0023】
(2)積層多孔質フィルムの製造
グラビア塗工機を用いて、コロナ処理を行ったポリオレフィン多孔質フィルムの片面に直接B液を塗布し、乾燥した。次いで、フィルム幅1mmあたり0.07Nのフィルムテンションを付与しながら、65℃の加熱炉内を25秒間通過させて積層多孔質フィルムを得た。得られた積層多孔質フィルムの全体の厚みは24μmであり、B層の目付は8.7g/mであり、全体の目付は15.9g/mであった。フィルムテンション付与工程の処理条件、および得られた積層多孔質フィルムの物性を表2に示す。
【0024】
実施例2
実施例1において、フィルムテンションをフィルム幅1mmあたり0.10Nとした以外は同様の操作で、積層多孔質フィルムを得た。得られた積層多孔質フィルムの全体の厚みは24μmであり、B層の目付は9.1g/mであり、全体の目付は16.3g/mであった。フィルムテンション付与工程の処理条件、および得られた積層多孔質フィルムの物性を表2に示す。
【0025】
実施例3
実施例1において、フィルムテンションをフィルム幅1mmあたり0.13Nとした以外は同様の操作で、積層多孔質フィルムを得た。得られた積層多孔質フィルムの全体の厚みは24μmであり、B層の目付は9.1g/mであり、全体の目付は16.3g/mであった。フィルムテンション付与工程の処理条件、および得られた積層多孔質フィルムの物性を表2に示す。
【0026】
比較例1
実施例2において、加熱炉内を通過させる時間を5秒間とした以外は同様の操作で、積層多孔質フィルムを得た。得られた積層多孔質フィルムの全体の厚みは24μmであり、B層の目付は8.1g/mであり、全体の目付は15.3g/mであった。フィルムテンション付与工程の処理条件、および得られた積層多孔質フィルムの物性を表2に示す。
【0027】
比較例2
実施例1において、加熱炉の温度を80℃とし、フィルムテンションをフィルム幅1mmあたり0.15Nとした以外は同様の操作を行ったところ加熱炉出口近傍にて、フィルムの端部が折り曲がり、積層多孔質フィルムを得ることはできなかった。
【0028】
【表2】
【0029】
実施例1〜3で得られた各積層多孔質フィルムは、非水電解液二次電池用セパレータとして用いるときに、温度23℃湿度5%の低湿度環境下において、TDカール量が低く、さらに、MDカールがないため、電極との積層が容易であり、ハンドリング性が良好であった。比較例1で得られた積層多孔質フィルムは、非水電解液二次電池用セパレータとして用いるときに、温度23℃湿度5%の低湿度環境下において、TDカール量が低減されることなく、電極と積層し難く、ハンドリング性が悪かった。
【符号の説明】
【0030】
1 積層多孔質フィルム
2 機械方向に平行な辺(MD辺)
3 機械方向と直交する方向に平行な辺(TD辺)
4 ポリオレフィン多孔質フィルム(A層)
5 重合体を含む層(B層)
【要約】
低湿度環境下でのハンドリング性が良好な積層多孔質フィルムとして、ポリオレフィン多孔質フィルムの少なくとも片面に、重合体を含む層が積層された積層多孔質フィルムであって、下記(1)および(2)を満足する積層多孔質フィルムを提供する。
(1)機械方向に平行な辺の長さが60mm、機械方向と直行する方向に平行な辺の長さが40mmに矩形に切り出した前記積層多孔質フィルムを、温度23℃湿度50%環境下に1時間静置したときの、機械方向と直交する方向に平行な辺の浮き上がり量が8mm以上である。
(2)機械方向に平行な辺の長さが60mm、機械方向と直行する方向に平行な辺の長さが40mmに矩形に切り出した前記積層多孔質フィルムを、温度23℃湿度5%環境下に1時間静置したときの、機械方向に平行な辺の浮き上がり量が12mm以下である。
図1