(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5943184
(24)【登録日】2016年6月3日
(45)【発行日】2016年6月29日
(54)【発明の名称】米粉を用いた焼き菓子およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
A21D 13/08 20060101AFI20160616BHJP
A23G 3/50 20060101ALI20160616BHJP
A21D 2/18 20060101ALI20160616BHJP
A21D 2/36 20060101ALI20160616BHJP
【FI】
A21D13/08
A23G3/00 102
A21D2/18
A21D2/36
【請求項の数】2
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2012-47011(P2012-47011)
(22)【出願日】2012年3月2日
(65)【公開番号】特開2013-179908(P2013-179908A)
(43)【公開日】2013年9月12日
【審査請求日】2014年12月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000231637
【氏名又は名称】日本製粉株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092093
【弁理士】
【氏名又は名称】辻居 幸一
(74)【代理人】
【識別番号】100082005
【弁理士】
【氏名又は名称】熊倉 禎男
(74)【代理人】
【識別番号】100084663
【弁理士】
【氏名又は名称】箱田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100093300
【弁理士】
【氏名又は名称】浅井 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100156982
【弁理士】
【氏名又は名称】秋澤 慈
(72)【発明者】
【氏名】風早 浩行
(72)【発明者】
【氏名】小島 伶奈
【審査官】
福間 信子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−155854(JP,A)
【文献】
特開2002−345422(JP,A)
【文献】
特開2002−045130(JP,A)
【文献】
特開2007−215401(JP,A)
【文献】
日本レオロジー学会誌, 2005, vol.33, no.2, p.81-85
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A21D
A23G
A23L
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
小麦粉30〜80質量部に対し、常圧下で品温80〜115℃の範囲で湿熱処理した米粉を70〜20質量部使用することを特徴とする焼き菓子の製造方法。
【請求項2】
湿熱処理を10〜40分間行うことを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は米粉を用いた焼き菓子およびその製造方法に関するものである。詳細には、小麦粉と湿熱処理をした米粉を併用した焼き菓子およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、スポンジケーキ、ホットケーキ、クッキー、ビスケット、クラッカー等の焼き菓子には、主原料として小麦粉が使用されている。我が国では小麦は輸入に頼らざるを得ない一方で、米は長年主食として用いられ、国内で唯一自給できる穀物であり、国内で容易に入手可能な原料である。近年の食生活の欧米化や多様化により米の消費は年々低下しているが、将来予測される食糧不足の問題を解消する為にも自給可能で、小麦よりも単位面積あたりの収量の多い米の用途を拡大して消費を促進し食糧自給率を上げることが望まれている。
従って近年、嗜好の多様性や米の消費拡大を目的としてこれらの焼き菓子において小麦粉の代わりに米粉を使用する試みが行われているが、単に小麦粉の代わりに米粉を用いるだけでは、小麦粉を使用した場合と同様の食感や外観を有する焼き菓子を得ることができないという問題点がある。
これに対し米粉を用いながら、卵と糖を混合してメレンゲ状原料物を得、これに米粉を加えることで小麦粉製のような食感を有する洋菓子を製造する技術(特許文献1)や、5大アレルゲンのうち卵、乳、小麦粉およびこれら由来の成分の代替として米粉、糖類、豆乳、気泡性油脂を使用して食感、外観の優れた焼き菓子を製造する技術(特許文献2)が提案されている。
【0003】
しかし、米粉を配合した焼き菓子では、小麦粉のみを使用した場合に比べ、クラックがおとなしく、口溶けの劣る食感となるという問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−141096
【特許文献2】特開2006−230348
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで本発明者等は上記課題を解決する為鋭意研究を重ねた結果、澱粉等の食品材料に対し、耐熱性、耐酸性、機械耐性及び粘度の経時安定性等の特性を改変する目的とした、化学薬品の添加を伴わない物理的加工方法として知られている湿熱処理に着目し、湿熱処理を施した米粉と小麦粉を併用することで、口溶けが良くかつクラックが深く、食感及び外観の優れたクッキー、ビスケット、クラッカー等の焼き菓子を提供できることを見出し、本発明を完成するにいたった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち本発明は、
(1)小麦粉30〜80質量部に対し、常圧下で品温80〜115℃の範囲で湿熱処理した米粉を70〜20質量部使用することを特徴とする焼き菓子の製造方法。
(2)湿熱処理を10〜40分間行うことを特徴とする前記(1)に記載の製造方法。
(3)前記(1)又は(2)に記載の製造方法により製造される焼き菓子
である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の製造方法により、口溶けが良くかつクラックが深く、食感及び外観の優れたクッキー、ビスケット、クラッカー等の焼き菓子を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】クッキーの外観写真(a)実施例2(b)比較例2
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明における焼き菓子とは小麦粉、糖類、食用油脂および食塩を原料とし、必要により澱粉、乳製品、卵製品、膨張剤、食品添加物を配合し、または、添加したものを焼いて作る菓子であり、嗜好に応じ、卵、乳製品、ナッツ類、乾果、蜂蜜、酵素、イーストなどにより製品の特徴づけを行ったものである。具体的にはクッキー、ビスケット、クラッカー、サブレなどが挙げられる。
【0010】
本発明の焼き菓子の製造方法に使用する原料米としては粳米、糯米のいずれも使用することができアミロース含量の低いヒヨクモチなどの糯米原料から、アミロース含量が18%〜22%である「あきたこまち」や「コシヒカリ」などの普通品種、アミロース含量が23%以上である「越のかおり」や「モミロマン」等の高アミロース米を使用することができ、また同一の品種を原料とする場合であっても異なる品種を原料とするものが配合された場合であっても、いずれも使用することができる。
【0011】
本発明の焼き菓子の製造方法に用いる米粉は米粉の粒径や、水分量の差によらず湿熱処理によって改質効果を得ることができる。
【0012】
本発明の焼き菓子の製造方法に用いる米粉の調製方法や入手法等は特に制限されないが、例えば原料であるうるち米を胴搗き製粉、ロール製粉、気流粉砕製粉、高速回転打撃製粉等などを単独又は組み合わせることにより得ることができる。また必要に応じて粉砕前に水浸漬や酵素液処理等の前処理や、得られた米粉の粉砕物を篩い分けや空気分級等の分級手段を用いて粒度分布の調整を行っても良い。本発明においては気流粉砕製粉で得られた米粉が望ましい。
【0013】
本発明において、湿熱処理とは、飽和水蒸気、熱水又は過熱蒸気等を熱媒体として高湿度雰囲気例えば湿度70%以上の雰囲気で対象物を加熱する方法である。熱媒体を直接加熱対象物に接触させても良く、また対象物を高湿度雰囲気下において間接的に加熱しても良い。オートクレーブやスチームオーブン等の装置で実施可能であるが、これに限られない。具体的には、常圧下、品温80〜115℃で、10〜40分間処理する。好ましくは常圧下、品温90〜100℃で10〜20分間処理する。米粉を湿熱処理する本発明の方法は、原料米を処理する乾燥α化米を粉砕して得る米粉と比較して、米粉に直接強い熱がかかるため、米粉品質をより大きく効果的に改質可能である。
【0014】
本発明における小麦粉としては、薄力粉であれば特に限定されないが、例えばアメリカ合衆国産のWW(Western White)を原料とした薄力粉を使用することが好ましい。
【0015】
本発明の焼き菓子の製造方法は、小麦粉と湿熱処理した米粉を使用する以外は、常法を用いることができる。
【0016】
本発明の焼き菓子の製造方法においては、さらにライ麦粉、コーンフラワー、大麦粉などの穀粉類;イースト、イーストフード;タピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、小麦澱粉など及びこれらにα化、エーテル化、エステル化、アセチル化、架橋処理等を行った加工澱粉類;ブドウ糖、果糖、乳糖、砂糖、イソマルトースなどの糖類;卵黄、卵白、全卵その他の卵に由来する成分である卵成分;粉乳、脱脂粉乳、大豆粉乳等の乳成分;ショートニング、ラード、マーガリン、バター、液状油等の油脂類;乳化剤;食塩等の無機塩類;保存料;ビタミン;カルシウム等の強化剤等の通常焼き菓子製造に用いる副原料を使用することができる。
【実施例】
【0017】
以下本発明を具体的に説明する為に実施例を示すが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
試験例1 [米粉の湿熱処理]
加熱水蒸気が米粉全体にまんべんなく当たるように、米粉をバットの上に厚さ1cmに広げ、スチームオーブン(ラショナル社製)内で、常圧下、表2−1および表2−2の上部に記載した処理温度及び処理時間で湿熱処理し、実施例1〜8および、比較例1〜6の湿熱処理米粉を得た。
【0018】
試験例2 [クッキーの製造]
実施例1〜8および、比較例1〜6の湿熱処理を施した米粉を用いて、クッキーの製造試験を行った。詳細には、下記の工程で製造した。
重曹0.4質量部、重炭酸アンモニウム0.5質量部、水22質量部、上白糖46質量部、食塩0.8質量部、脱脂粉乳3質量部を低速1分でミキシングし生地を得た。この生地にショートニング30質量部を加えさらに、低速1分、中速3分、高速3分でミキシングし、米粉100質量部を合わせて生地をまとめ400gの棒状に伸ばした。
この棒状に伸ばした生地を6等分し天板の上に麺棒で厚さ0.7cmに延ばし直径6cmのセルクルで抜き上火210℃、下火210℃のオーブンで14分間焼成してクッキーを得た。
焼成後、室温で30分間冷却し、ビニール袋に包装した。
【0019】
翌日、得られたクッキーについて、表1に示す評価基準により、外観(上面のクラック)および食感を10名のパネラーで評価した。得られた結果を下記の表2に示す。また、
図1に実施例2と比較例2のクッキーの外観写真を示す。
【表1】
【0020】
【表2-1】
【0021】
【表2-2】
【0022】
上記表2の結果から、実施例1〜8では、製品外観、製品食感ともに優れたクッキーが得られることが確認された。
一方、米粉配合割合が20質量部より低い比較例1および米粉配合割合が70質量部より高い比較例2、6、品温が80度より低い比較例4および品温が115度よりも高い比較例3については、製品外観、製品食感ともに劣っていた。処理時間が40分よりも長い比較例5も劣る製品食感となった。