(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの製造工程においては、外気を遮断したチャンバー内で基板上に反応ガスを供給し、基板上に薄膜(エピタキシャル層)をエピタキシャル成長させる工程がある。このようなエピタキシャル成長に用いる一般的なエピタキシャル成長装置を、
図19に示した概略図により説明する。
図19に示すエピタキシャル成長装置101は、外気と遮断した状態で、反応ガス供給手段104から反応ガスGをチャンバー102内へと供給し、チャンバー102内に配置されるサポートシャフト107により支持されているサセプタ103上の基板109を処理することにより、基板109の表面にエピタキシャル層を成長させるものである。エピタキシャル層の成長時には、サセプタ103を支持するサポートシャフト107が回転することにより、基板109が回転するようになっている。また、反応後のガスGは反応ガス排出手段105によりチャンバー102外へと排出される。
【0003】
このサセプタ103の縁部の内側には基板径よりも数ミリ程度大きい凹形状のポケット部131が形成されている。また、サセプタ103には、リフトピン用や基板109の裏面への水素供給用、又は基板109の滑りを防止するためや処理後の基板109を剥離させやすくするため等の理由により貫通孔106を複数有していることもある。このサセプタ103のポケット部131に基板109が収まることにより、サセプタ103を回転させても基板109が特定の位置に留まることができるようになっており、均質な反応が行われる。
【0004】
しかし、ポケット部131に載置された基板109の位置が偏芯して基板109とポケット部131との隙間が不均一になることにより処理ガスの局所的な乱流が発生し、エピタキシャル層膜厚の局所的な不均一が発生し、エピタキシャルウェーハの平坦度の悪化の要因となってしまうという問題がある。
【0005】
このような問題に対し、従来、基板の載置位置の偏芯評価方法として、カメラまたは目視により偏芯量を見積もる方法などがある。しかし、これは室温での評価方法であり、エピタキシャル成長時の高温の状態では、サセプタやサポートシャフト等の治具の熱変形等の影響により、例え事前に室温で基板の載置位置を修正したとしても、エピタキシャル層の成長時に基板の載置位置が偏芯してしまう。
【0006】
このようなエピタキシャル層成長時の高温の状態で、基板の位置を識別するためにパイロメータを設けて熱放射を測定し、その測定信号のゆらぎの振幅を求めることで基板の不適切な位置を推定する方法が開示されている(特許文献1参照)。
【0007】
また、基板の表面にレーザー光を照射するレー
ザー光源と、集光された反射光を検出する光量検出器を設けて基板の位置ずれを検出する方法が開示されている(特許文献2)。
【0008】
さらには、複数の貫通孔を有するサセプタ上に基板を載置させ、エピタキシャル成長温度と同じ温度でエッチングガスを導入し、前記基板の裏面にサセプタ貫通孔パターンを転写させ、サセプタ貫通孔パターンの位置を測定して、基板の載置位置の偏芯量を評価する方法が提案されている(特許文献3)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、特許文献1や特許文献2にある従来の方法では、パイロメータや光量検出器等の設備を新たに設ける必要や、装置を改造する必要等がありコストが増加してしまう。また、評価精度が必ずしも十分でなく、評価後の載置位置の補正が困難であるという問題がある。
【0011】
特許文献3にある方法については、特許文献1や特許文献2にある方法に比べて、コストが掛からず、評価精度はかなり高い利点がある。しかし、基板のエピタキシャル成長以外に、エッチングガスを導入し、基板の裏面にサセプタ貫通孔パターンを転写させ、サセプタ貫通孔パターンの位置を測定して偏芯量を求める工程が必要となり、簡便に基板の載置位置の補正ができないという問題があった。また、貫通孔の無いサセプタを用いた場合には、貫通孔パターンの転写ができない為、基板の載置位置の評価ができず、載置位置の補正ができないという問題があった。
【0012】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、追加の設備や装置の改造を必要とせず、貫通孔を有していないサセプタを用いた場合でも、エピタキシャル成長時の高温状態での基板の載置位置の偏芯を簡便に評価できる方法を提供することを課題とする。また、基板上に均一な膜厚のエピタキシャル層を形成できるエピタキシャルウェーハの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明の偏芯評価方法は、凹形状のポケット部が形成されたサセプタの前記ポケット部に基板を載置して前記基板上にエピタキシャル層を成長させる成長工程と、
その成長工程で得られたエピタキシャル層の外周部における円周方向の膜厚分布を測定する測定工程と、
その測定工程で得られた膜厚分布に基づいて前記サセプタにおける前記基板の載置位置の偏芯を評価する評価工程と、
を含むことを特徴とする。
【0014】
本発明によれば、成長工程において、基板上に実際にエピタキシャル層を成長させる。その成長の際、ポケット部における基板の載置位置が偏芯すると、ポケット部の壁面と基板外周との距離に偏りが生じ、その結果、得られるエピタキシャル層の外周部の膜厚分布が、基板の偏芯量及び偏芯方向を反映した膜厚分布となる。そこで、測定工程でエピタキシャル層の外周部における円周方向の膜厚分布を測定し、評価工程では、測定した膜厚分布を見ることで、基板の載置位置の偏芯(偏芯量、偏芯方向)を評価することができる。これにより、エピタキシャル層を成長させる際の高温状態での基板の載置位置の偏芯を簡便に高精度に評価できる。また、追加の設備や装置の改造を必要とせず、コストの増加を抑制できる。更には、貫通孔を有していないサセプタを用いた場合でも簡便で、高精度に基板の載置位置の偏芯を評価できる。
【0015】
また、前記評価工程では、前記膜厚分布の平均値からの前記膜厚分布の偏差に基づいて前記基板の載置位置の偏芯を評価する。このように、膜厚分布の平均値からの偏差は膜厚分布の特徴をあらわした指標となるので、その偏差を用いることで簡便に基板の偏差を評価できる。
【0016】
この場合、評価工程では、前記膜厚分布における最小の膜厚の前記平均値からの偏差に基づいて前記基板の載置位置の偏芯量を算出する。本発明者は、サセプタのポケット部の壁面に近づいた基板部分のエピタキシャル層の膜厚が薄くなるという知見を得ている。その知見によると、膜厚分布における最小の膜厚をとる基板部分が、ポケット部の壁面に最も近づいていると考えることができる。よって、最小の膜厚の平均値からの偏差を用いることで、簡便に基板の偏芯量を算出できる。
【0017】
またこの場合、評価工程では、前記外周部の円周方向に沿った各位置のうち前記最小の膜厚の位置の方向に前記基板の載置位置が偏芯していると評価する。これによって、簡便に基板の偏芯方向を評価できる。
【0018】
また、本発明は前記偏差と前記偏芯量の関係を求める関係取得工程を含み、前記評価工程では、前記関係取得工程で得られた関係に基づいて今回の前記偏差に対する前記偏芯量を算出するのが好ましい。このように、関係取得工程で偏差と偏芯量の関係(相関)を予め求めておくことで、以降、その関係を参照することで今回の偏差に対する偏芯量を簡便に算出できる。
【0019】
また、本発明は、前記膜厚分布のデータをフィルタリング処理して前記膜厚分布を短周期成分と長周期成分とに分離する分離工程を含み、前記評価工程では、前記分離工程で得られた前記膜厚分布の長周期成分のデータに基づいて前記基板の載置位置の偏芯を評価するのが好ましい。外周部の膜厚分布は、基板の載置位置の偏芯に起因する長周期成分の他に、エピタキシャル成長する基板の結晶方位に依存したファセット成長による短周期成分が含まれている。本発明によれば、その短周期成分を分離して、長周期成分のデータで偏芯を評価するので、基板の載置位置の偏芯をより高精度に評価できる。
【0020】
また、前記測定工程では、フーリエ赤外分光光度計にて前記膜厚分布を測定することができる。このようにフーリエ赤外分光光度計を用いることで、膜厚分布を簡便に測定することができる。特に、低抵抗率の基板上に基板よりも高抵抗のエピタキシャル層を成長させた場合におけるそのエピタキシャル層の膜厚分布の測定に好適である。
【0021】
また、前記測定工程では、エピタキシャル成長前後の前記基板の厚み測定を行い、その差から前記膜厚分布を測定するようにしても良い。これによれば、高抵抗の基板にエピタキシャル層を成長させた場合のように、フーリエ赤外分光光度計では高精度に膜厚分布を測定できない場合であっても、膜厚分布を高精度に測定することができる。
【0022】
本発明のエピタキシャルウェーハの製造方法は、本発明の偏芯評価方法によって評価した前記基板の偏芯量及び偏芯方向に基づいて、前記サセプタにおける基板の載置位置を補正した後、基板上にエピタキシャル層を成長させることを特徴とする。これによれば、エピタキシャル層を成長させる際の高温状態での基板の載置位置の偏芯量及び偏芯方向の評価結果に基づいてサセプタ上の載置位置を補正しているので、エピタキシャル成長時の基板の偏芯を抑えることができる。その結果、均一な膜厚のエピタキシャル層が形成されたエピタキシャルウェーハを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明についての実施の形態を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0025】
従来、エピタキシャルウェーハの製造において、サセプタ上に載置する基板の載置位置の偏芯によって処理ガスの局所的な乱流が発生し、エピタキシャル層膜厚の局所的な不均一が発生する問題があった。基板のサセプタへの載置調整は通常常温で行われ、この際に偏芯しないように載置位置が調整される。しかし、エピタキシャル成長時の高温の状態では、サセプタやサポートシャフト等の治具の熱変形等の影響により基板の載置位置が変化し、偏芯してしまう。
【0026】
このような問題に対して、本発明者は特別な測定器具などの設備を追加することなく、簡便な方法で解決するための鋭意検討を重ねた。その結果、基板の載置位置がずれた場合、サセプタのポケット部の壁面に近づいた外周部分のエピタキシャル層膜厚が薄くなり、その対角の部分のエピタキシャル層膜厚が厚くなる現象を見出した。そこで、先ず、以下に説明する実験により、その現象が正しいことについて説明する。
【0027】
図19で示したような一般的なエピタキシャル成長装置において、基板109としてφ300mmシリコンウェーハを用い、その表面にシリコンエピタキシャル層を成長させた。この際、
図1(サセプタ103及び基板109を上から見た図)に示すように、サセプタ103のポケット部131の中で、基板109の載置位置がノッチを下(6時方向)にして2時方向(A方向)に偏芯(サセプタ中心Cからの基板中心Oの偏芯)していたとする。その後、成長させたエピタキシャル層のA方向及びそれに垂直なB方向での膜厚分布をそれぞれ測定した。
図2、
図3はその測定結果であり、詳細には基板109(エピタキシャル層)の外周縁から内側の2mmから50mmまでの範囲の膜厚分布を示している。なお、
図2はA方向の膜厚分布を示しており、
図3はB方向の膜厚分布を示している。
図2、
図3の横軸は基板109(エピタキシャル層)の中心Oからの距離Positionを示している。
図2、
図3の縦軸は、目標膜厚からの偏差Deviaitonを示している。
図2(A)は、
図1のA方向の矢印の根本側(
図1の外周部111側)の膜厚分布を示している。
図2(B)は、A方向の矢印の先端側(
図1の外周部112側)の膜厚分布を示している。
図3(A)は、B方向の矢印の根本側(
図1の外周部113側)の膜厚分布を示している。
図3(B)は、B方向の矢印の先端側(
図1の外周部114側)の膜厚分布を示している。
【0028】
図2(B)に示すように、ポケット部131の壁面と基板109との隙間が狭くなっている基板部分の外周2mmから5mmの範囲112(
図1の外周部112)の膜厚がそれ以外の範囲に比べて薄くなっている。他方、
図2(A)に示すように、
図2(B)の範囲112と対角方向のポケット部131の壁面と基板109との隙間が広くなっている基板部分については、基板109の外周2mmから5mmの範囲111(
図1の外周部111)の膜厚がそれ以外の範囲に比べて厚くなっている。これに対して、
図3(A)、(B)に示すように、基板109の偏芯方向Aに垂直なB方向については、対角同士で外周2mmから5mmの範囲113、114の膜厚分布に差が見られない事が分かる。
【0029】
以上の考察を経て、本発明者らは、基板109が偏芯している場合に、基板109の外周部のエピタキシャル層膜厚を円周方向に測定することにより、基板109の偏芯方向及び偏芯量を推定できることを見出した。
【0030】
図4は、本発明のエピタキシャルウェーハ製造方法で用いるエピタキシャル成長装置の一例の概略図(側面断面図)である。
図4に示すように、エピタキシャル成長装置1は、例えばSUSからなるチャンバーベース21を上下から挟む透明石英部材22と、チャンバーベース21をカバーする不透明石英部材23とからなるチャンバー2を備える。そのチャンバー2内には、エピタキシャル成長させるシリコンウェーハ等の基板9を載置する為の例えば黒鉛製のサセプタ3が配置されている。
図4では、貫通孔の開いていないサセプタ3を用いているが、貫通孔の開いているサセプタ3を用いても良い。サセプタ3の縁部の内側には基板径よりも数ミリ程度大きい凹形状(平面視で円状)のポケット部31が形成されており、このポケット部31に基板9が収まることにより、サセプタ3を回転させても基板9が特定の載置位置に留まることができるようになっている。
【0031】
チャンバー2の周囲(
図4ではチャンバー2の上下)には、エピタキシャル成長時に基板9をエピタキシャル成長温度に加熱するハロゲンランプ等のヒータ10が配置されている。
【0032】
チャンバー2には、チャンバー2内に原料ガス及びキャリアガス(例えば水素)を含むエピタキシャル成長ガスG(反応ガス)をサセプタ3の上側の領域に導入して、サセプタ3に載置された基板9の主表面上に反応ガスGを供給する、反応ガス供給手段4が接続されている。また、チャンバー2の反応ガス供給手段4が接続された側の反対側には、チャンバー2内から反応後のガスGを排出する、反応ガス排出手段5が接続されている。サセプタ3は、主支柱71の上端に副支柱72が溶接されたサポートシャフト7により支持されている。そのサポートシャフト7は、基板回転機構8に接続されている。そして、エピタキシャル成長を行う際には、基板回転機構8により、サポートシャフト7に支持されたサセプタ3(基板9)がサセプタ3の中心周りに回転するようになっている。これによって、基板9上に均等に反応ガスGを供給するようにしている。
【0033】
本発明の偏芯評価方法は、例えばこのようなエピタキシャル成長装置1を用いてエピタキシャルウェーハを製造する際に、サセプタ3に載置する基板9の載置位置の偏芯量及び偏芯方向を評価するための方法である。以下、本発明の偏芯評価方法について詳細に説明する。
【0034】
図5は、本発明の偏芯評価方法の手順を示したフローチャートである。先ず、基板の偏芯評価をする事前準備として、後述する偏差と偏芯量の関係(相関)を求める(S1)。その関係の求めかたの詳細は、説明の便宜上、後述する。なお、S1の工程が本発明の「関係取得工程」に相当する。
【0035】
S1で偏差と偏芯量の関係を予め求めたら、S2以降で実際に基板の偏芯を評価することになる。先ず、
図4のエピタキシャル成長装置1を用いて、製品となるエピタキシャルウェーハを製造するときと全く同一のエピタキシャル成長条件(基板、成長温度、ガス流量等)で、偏芯評価用の基板の表面に所定の厚さのエピタキシャル層を成長させる(S2)。なお、S2の工程が本発明の「成長工程」に相当する。
【0036】
次に、S2で得られたエピタキシャルウェーハ(偏芯評価用の基板)のエピタキシャル層の外周膜厚を基板の円周方向に対して測定する(S3)。つまり、エピタキシャル層の外周部における円周方向の膜厚分布を測定する(S3)この際、測定する外周部の膜厚は、基板の外周5mm(外周縁から5mm内側の位置)よりも外側、さらには外周縁から2mmの位置を測定するのが望ましい。
図2、
図3で説明したように、外周2mmから5mmの範囲(特に外周2mm)の膜厚は、ポケット部31の壁面からの距離に応じて変化しやすいからである。なお、外周2mmよりも外側(例えば外周1mm)では、ファセット成長成分(短周期成分)の影響が膜厚分布に強くでるので、後述するS4で短周期成分の分離が困難となる。また、外周2mmよりも外側では、膜厚測定自体も困難(特にFTIRを用いて膜厚測定する場合)となる。ただし、それら困難が解決できるのであれば、外周2mmよりも外側の膜厚分布を測定してもかまわない。
【0037】
S2で例えばP型の低抵抗率0.02Ωcm以下の基板上(P+あるいはP++の基板上)に基板よりも高抵抗率のエピタキシャル層を形成した場合には、S3では例えばフーリエ赤外分光光度計(FTIR)を用いた膜厚測定を行う。これにより、簡単にエピタキシャル層の膜厚を測定できる。あるいは、エピタキシャル成長前に予め基板の厚さを測定し、エピタキシャル成長後に再度基板の厚みを測定し、その差からエピタキシャル層の厚さを求めても良い。このエピタキシャル成長前後の厚み差から膜厚を測定する手法は、特に、FTIRで膜厚測定が困難な場合、具体的には、高抵抗率(10Ωcm程度)の基板上に基板と同程度の抵抗率のエピタキシャル層を形成した場合に、好適である。なお、S3の工程が本発明の「測定工程」に相当する。
【0038】
図6は、S3で得られる外周2mmの位置での膜厚分布を例示している。なお、
図6の横軸は、基板の円周方向の各位置を0から360度の角度であらわした軸である。
図6の縦軸は、各位置の膜厚の目標膜厚からの偏差を示している。
図6の膜厚分布では、角度に応じて膜厚が薄くなったり厚くなったりしている。
【0039】
ここで、外周部のエピタキシャル層の膜厚分布(
図6の膜厚分布)は、基板の載置位置の偏芯に起因する長周期(長波長)の成分とエピタキシャル成長する基板の結晶方位に依存したファセット成長による短周期(短波長)の成分とで形成されている。例えば、結晶方位(100)のシリコンウェーハを用いた場合には、そのシリコンウェーハの外周部では、ファセット成長する方位<110>が90度周期で現れる。そのため、基板の外周部では、90度周期で膜厚が大きくなる。
【0040】
そこで、S3で得られた膜厚分布のデータをフィルター処理して、膜厚分布の長周期成分と短周期成分とを分離する(S4)。言い換えると、S3で得られた膜厚分布からファセット成長に起因した短周期成分を取り除く(S4)。ここでは、フィルター処理として得られたエピタキシャル層膜厚分布データの移動平均を求め、それを長周期成分とし、ファセット成長起因による短周期成分を分離した(
図7参照)。
図7は、S3で得られた膜厚分布200(
図6の膜厚分布)と、その膜厚分布200から分離した長周期成分201と短周期成分202とを示している。なお、移動平均以外のフィルター処理(例えば高速フーリエ変換)を用いて長周期成分と短周期成分とを分離しても良い。なお、S4の工程が本発明の「分離工程」に相当する。
【0041】
次に、
図8に示すように、ファセット成長に起因した短周期成分を除いた後の膜厚分布、つまり基板の載置位置の偏芯に起因する長周期成分201の値が最も小さくなる角度Dを求める(S5)。
図8の例では、45度付近で長周期成分201の値が最も小さくなっている。ポケット部131(
図1参照)の壁面と基板との距離が小さいほど、長周期成分201の値が小さくなると考えられるので、長周期成分201の値が最小となる位置210(
図8参照)で、基板はポケット部131の壁面に最接近していると言える。よって、その位置210での角度Dの方向に基板の載置位置が偏芯していると言える。
【0042】
次に、長周期成分201の平均値(平均膜厚)を求め、角度Dでの長周期成分201の値(最小値)の、平均値からの偏差ΔDを求める(S6)。なお、
図8には、長周期成分201の平均値のライン203を図示している。
図8の例では、ライン203と点210(角度Dでの膜厚)の偏差ΔDを求める。
【0043】
本発明者は、その偏差ΔDと基板の載置位置の偏芯量とに相関があるという知見を得ている。先のS1では、その相関を求めることになる。具体的には、S1では、相関導出用の複数のサンプル基板を準備し、各サンプル基板に対して上述のS2〜S6の工程を実施して各サンプル基板の偏差ΔDを算出する。この際、各サンプル基板の載置位置を故意に偏芯させるとともに、各サンプル基板の偏芯量をサンプル基板間で異ならせる。そして、偏差ΔDの算出と共に特許文献3等の方法で高温状態での各サンプル基板の偏芯量を求める。ここで、
図9は、S1で得られた各サンプル基板の偏差ΔDと偏芯量との関係401を例示している。
図9に示すように、偏差ΔDが大きくなるほど偏芯量が大きくなることが分かる。また、偏差ΔDと偏芯量はほぼ線形関係となっている。
【0044】
S7では、S1で求めた関係401(
図9参照)に基づいて、S6で求めた偏差ΔDを偏芯量に換算する。
図9の例では関係401は直線となっているので、直線401の傾きを換算係数として求めてその換算係数を偏差ΔDに乗じることで偏芯量に換算できる。
図10は、以上の手順で得られた偏芯量及び偏芯方向をベクトル300として示した図(基板のノッチの方向を6時方向とした極座標の図)である。
図10において、ベクトル300の向き(横軸に対するベクトル300の角度D)が基板の載置位置の偏芯方向をあらわしている。ベクトル300の大きさが基板の載置位置の偏芯量をあらわしている。なお、S5〜S7の工程が本発明の「評価工程」に相当する。
【0045】
このように、
図5に示した手順を実施することで、より簡便に基板の載置位置の偏芯量及び偏芯方向を高精度に評価でき、評価後の載置位置の補正も容易となる。
【0046】
次に、本発明のエピタキシャルウェーハの製造方法について詳細に説明する。ここでは、
図4のエピタキシャル成長装置1を用いた場合について説明する。先ず、上記した本発明の偏芯評価方法(
図5の手順)によって基板の載置位置の偏芯量及び偏芯方向を評価する。このときに用いるエピタキシャル成長装置は実際にエピタキシャルウェーハを製造する際に用いる装置と同一のものを用いるが、基板は評価用のものを準備しても良いし、実際に製造に用いているものと同じ基板を用いても良い。
【0047】
そして、評価した基板の載置位置の偏芯量及び偏芯方向に基づいてサセプタ上の載置位置を補正する。この補正は、例えばロボットアーム等によって基板を保持して予め設定された載置位置に載置するときの予め設定する載置位置を補正することによって行うことができる。具体的には例えば、予め設定する載置位置を、偏芯評価方法で得られた偏芯方向と逆方向に、得られた偏芯量の分だけ補正する。
【0048】
このようにして基板の載置位置を補正し、その補正後の載置位置に基板(シリコンウェーハ)を載置した後、エピタキシャル層を成長させることによってエピタキシャルウェーハを製造する。このエピタキシャル層の成長は、以下のような従来と同様の方法によって行うことができる。
【0049】
先ず、チャンバー2内に水素ガスを流した状態で、ヒータ10により、チャンバー2内の温度を基板にエピタキシャル層を気相成長するための所望の成長温度まで昇温する。この成長温度は基板
表面の自然酸化膜を水素で除去できる例えば1000℃以上に設定することができる。
【0050】
次に、チャンバー2内を所望の成長温度に保持したまま、基板の表面上に反応ガス供給手段4を介して原料ガス(例えばトリクロロシラン)及びキャリアガス(例えば水素)をそれぞれ略水平に供給することによって、基板の表面上にエピタキシャル層を気相成長させてシリコンエピタキシャルウェーハを製造する。最後に、取り出し温度(例えば650℃)まで降温し、シリコンエピタキシャルウェーハをチャンバー2外へと搬出する。
【0051】
このように、本発明のエピタキシャルウェーハの製造方法によれば、本発明の偏芯評価方法で得られた高精度な偏芯量及び偏芯方向に基づいて載置位置を補正した後に、エピタキシャルウェーハを製造しているので、エピタキシャルウェーハの膜厚均一性を向上することができる。
【実施例】
【0052】
以下、本発明の実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0053】
(比較例及び実施例1)
貫通孔が形成されたサセプタを有した
図4に示すようなエピタキシャル成長装置を用いて、特許文献3にある方法を用いてφ300mmシリコンウェーハの裏面側に貫通孔を転写させ、その貫通孔パターンより載置位置の偏芯量を求めた。その偏芯方向はノッチを下(6時方向)にして10時半方向で、偏芯量は899.8μmであった(比較例)。
【0054】
次に比較例と同じエピタキシャル成長装置で、予め厚さを測定したP型8−12Ωcmのφ300mmシリコンウェーハの基板を用い、その基板上に平均厚さ2.75μmのエピタキシャル層を成長させ、エピタキシャル成長後に厚さを再測定して、円周方向について外周2mmのエピタキシャル層膜厚分布を求めた。厚さの測定には、ケー・エル・エー・テンコール社製のウェーハサイトを用いた。求めた膜厚分布から本発明の手法を用いて載置位置の偏芯量及び偏芯方向を求めた。その偏芯方向はノッチを下(6時方向)にして10時半方向で、偏芯量は906.2μmであった(実施例1)。
図11は、比較例及び実施例1のそれぞれの偏芯量と偏芯方向とを、基板のノッチの方向を6時方向とした極座標中の点としてあらわした図である。
図11の原点から●の点までの距離が実施例1の偏芯量(906.2μm)を示し、原点から●の点に向かう方向(10時半方向)が実施例1の偏芯方向を示している。同様に、
図11の原点から△の点までの距離が比較例の偏芯量(899.8μm)を示し、原点から△の点に向かう方向(10時半方向)が比較例の偏芯方向を示している。
【0055】
また、
図12は、実施例1の偏芯量及び偏芯方向を求める際に得られた膜厚分布を示している。なお、
図12の横軸、縦軸は
図7と同じである。
図12は、具体的には、
図5のS3で得られた膜厚分布220とその膜厚分布220からS4で分離された長周期成分221と短周期成分222とを示している。
【0056】
次に、比較例及び実施例1で求めた載置位置の偏芯量及び偏芯方向を基にそれぞれ搬送位置(載置位置)を調整した後に再度上記と同じ条件で載置位置の偏芯量及び偏芯方向を求めた。その結果、比較例は282.3μm、実施例1は260.1μmに改善された。なお、偏芯方向は比較例、実施例1共に10時半方向となった。
図13は、搬送位置(載置位置)の調整後の比較例及び実施例1のそれぞれの偏芯量と偏芯方向とを
図11と同じ極座標中の点としてあらわした図である。また、
図14は、搬送位置の調整後の実施例1の膜厚分布230、長周期成分231及び短周期成分232を示している。
【0057】
図11、
図13の結果から、本発明は特許文献3にある載置位置の偏芯評価方法と同等以上の精度を有していることが確認された。また、搬送位置の調整後のエピタキシャルウェーハの膜厚分布230(
図14参照)は、調整前の膜厚分布220(
図12参照)に比べて均一性が向上している。
【0058】
このように、本発明の偏芯評価方法により、エピタキシャル層を成長させる際の高温状態での基板の載置位置の偏芯量及び偏芯方向を簡便に高精度に評価でき、追加の設備や装置の改造を必要とせず、コストの増加を抑制でき、さらに、この評価結果に基づいて載置位置を高精度に補正でき、エピタキシャルウェーハの膜厚均一性を向上できることが確認できた。
【0059】
(実施例2)
貫通孔の無いサセプタを有した
図4に示すようなエピタキシャル成長装置を用いて、P型、抵抗率0.01Ωcm(いわゆるP+)のφ300mmシリコンウェーハ表面に、抵抗率8Ωcm、平均厚さ2.75μmのエピタキシャル層を成長させ、円周方向に外周2mmのエピタキシャル層膜厚分布を測定した。エピタキシャル層の膜厚測定には、フーリエ変換赤外分光器を用いたナノメトリクス社製エピタキシャル層膜厚測定機QS3300EGを用いた。
【0060】
図5に示した手順で載置位置の偏芯量及び偏芯方向を求めた結果、偏芯方向はノッチを下(6時方向)にして2時半方向で、偏芯量は906.2μmであった(実施例2)。
図15は、得られた偏芯量、偏芯方向を
図11と同じ極座標中の点(●)であらわしている。また、
図16は、
図15の偏芯量及び偏芯方向を求める際に得られた膜厚分布240とその膜厚分布240から分離された長周期成分241と短周期成分242とを示している。
【0061】
次に、
図15の偏芯量及び偏芯方向を基に搬送位置を調整した後に再度載置位置の偏芯量及び偏芯方向を求めた。その結果、
図17に示すように、偏芯量は290.0μmに改善された(実施例2)。また、
図18は、
図17の偏芯量及び偏芯方向を求める際に得られた膜厚分布250とその膜厚分布250から分離された長周期成分251と短周期成分252とを示している。搬送位置の調整後の膜厚分布250(
図18参照)のほうが、調整前の膜厚分布240(
図16参照)よりも均一性が向上している。
【0062】
このように、本発明の偏芯評価方法はサセプタの貫通孔の有無によらず、エピタキシャル層を成長させる際の高温状態での基板の載置位置の偏芯量及び偏芯方向を簡便に高精度に評価できる。
【0063】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載を逸脱しない限度で種々の変更が可能である。例えば、上記実施形態では、膜厚分布の最小値の平均値からの偏差を用いて偏芯量を算出していたが、膜厚分布の最大値の平均値からの偏差を用いて偏芯量を算出しても良い。また、膜厚分布の複数の位置での偏差を用いて偏芯量を算出しても良く、具体的には例えば膜厚分布の全位置での偏差の総和(膜厚分布の積分値)や全位置での偏差の平均値等を用いて偏芯量を算出しても良い。