【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用 2009年(平成21年)秋季 第70回応用物理学会学術講演会講演予稿集 第3分冊(平成21年9月8日)社団法人応用物理学会発行第1106ページに発表
【文献】
Katsuhiro Tomioka et al.,Selective−area growth of vertically aligned GaAs and GaAs/AlGaAs core−shell nanowires on Si(111)subs,Nanotechnology,2009.4.8,Vol.20/No.14,p.145302,p1−p8
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記基板を低温熱処理するステップの前に、前記基板を高温熱処理することにより、前記IV族半導体基板の表面に形成された自然酸化膜を除去するステップをさらに含む、請求項8に記載の製造方法。
前記(111)A面または前記(111)B面に変換された(111)1×1面に、V族原料とIII族原料とを交互に供給することで、III−V族化合物半導体の薄膜を形成するステップをさらに含む、請求項8に記載の製造方法。
前記(111)面を(111)1×1面とするステップと、前記(111)面を前記(111)A面または(111)B面に変換するステップとを、順に行なうか、または同時に行う、請求項8に記載の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0036】
1.本発明の発光素子
本発明の発光素子は、IV族半導体基板、絶縁膜、III−V族化合物半導体からなるコアマルチシェルナノワイヤ、第1の電極および第2の電極を有する。後述するように、本発明の発光素子は、1)ナノワイヤがIV族半導体基板の(111)面上に配置されており、2)ナノワイヤがコアマルチシェル構造であり、かつ3)ナノワイヤの側面が金属電極(第2の電極)で被覆されていることを特徴とする。
【0037】
IV族半導体基板は、シリコンやガリウムなどのIV族半導体からなる、(111)面を有する基板である。IV族半導体基板は、第1の導電型(n型またはp型)にドープされている。IV族半導体基板の例には、n型シリコン(111)基板およびp型シリコン(111)基板が含まれる。
【0038】
絶縁膜は、IV族半導体基板の(111)面を被覆しており、1または2以上の開口部を有している。絶縁膜は、中心ナノロッド(後述)をIV族半導体基板の(111)面から成長させる際にマスクパタンとして機能する。絶縁膜の材料は、中心ナノロッドの成長を阻害することができ、かつ絶縁体であれば特に限定されない。絶縁膜の材料の例には、酸化シリコン(SiO
2)、窒化シリコン(SiN)、酸化アルミニウム(Al
2O
3)などが含まれる。絶縁膜は、1層であってもよいし、2層以上からなっていてもよい。絶縁膜の膜厚は、絶縁性能を発揮しうる限り特に限定されない。絶縁膜の膜厚は、例えば20nmである。
【0039】
前述の通り、絶縁膜には、1または2以上の開口部が形成されている。開口部はIV族半導体基板の(111)面まで貫通しており、開口部内ではIV族半導体基板の(111)面が露出している。開口部は、本発明の発光素子を製造する際に、中心ナノロッドの成長位置、太さおよび形状を規定する。開口部の形状は、特に限定されず、任意に決定することができる。開口部の形状の例には、三角形、四角形、六角形および円形が含まれる。開口部の直径は、2〜500nm程度であればよい。開口部の数が2以上の場合、開口部の中心間距離は、数十nm〜数μm程度であればよい。
【0040】
コアマルチシェルナノワイヤは、III−V族化合物半導体からなる、直径40〜520nm、長さ100nm〜100μmの構造体である。コアマルチシェルナノワイヤは、絶縁膜(および開口部内で露出しているIV族半導体基板の(111)面)上に、その長軸が絶縁膜の表面(IV族半導体基板の(111)面)に垂直になるように配置されている。本明細書では、コアマルチシェルナノワイヤの2つの端面(長軸方向の中心線と交わる2つの面)のうち、基板(絶縁膜)側の端面を「下側の端面」といい、その反対側の端面を「上側の端面」という。後述するように、IV族半導体基板の(111)面上にナノワイヤを形成することで、ナノワイヤを(111)面に垂直になるように配置することができ、ナノワイヤを高密度に配置することができる。コアマルチシェルナノワイヤは、IV族半導体基板の表面1cm
2あたり10億本以上配置されうる。
【0041】
前述の通り、本発明の発光素子は、ナノワイヤがコアマルチシェル構造であることを一つの特徴とする。すなわち、コアマルチシェルナノワイヤは、
中心ナノロッドと、前記
中心ナノロッドの側面(長軸方向の中心線と交わらない面)を被覆する第1のバリア層と、第1のバリア層を被覆する量子井戸層と、量子井戸層を被覆する第2のバリア層と、第2のバリア層を被覆するキャッピング層とを有する。すべての被覆層(第1のバリア層、量子井戸層、第2のバリア層、キャッピング層)は、
中心ナノロッドの側面を被覆しているが、
中心ナノロッドの2つの端面は被覆していない。
中心ナノロッドおよびその側面を被覆するすべての被覆層は、コアマルチシェルナノワイヤの両端部において端面を形成している。被覆層全体の膜厚は、特に限定されないが、20〜300nm程度であればよい。
【0042】
中心ナノロッドおよび第1のバリア層は、IV族半導体基板と同じ第1の導電型(n型またはp型)のIII−V族化合物半導体からなる。一方、第2のバリア層およびキャッピング層は、第1の導電型と異なる第2の導電型(p型またはn型)のIII−V族化合物半導体からなる。したがって、コアマルチシェルナノワイヤ内では、動径方向にpn接合(またはpin接合)が形成されており、
中心ナノロッドの側面全面上においてpn接合(pin接合)が形成されている。このような構成とすることで、従来の発光素子よりもpn接合の面積(発光面積)を大幅に増大させることができ(平面型pn接合を有する発光素子の4〜10倍)、高輝度化を実現することができる。次に、
中心ナノロッドおよび各被覆層についてより詳細に説明する。
【0043】
中心ナノロッドは、IV族半導体基板と同じ第1の導電型のIII−V族化合物半導体からなり、IV族半導体基板の(111)面から絶縁膜の開口部を通って上方に延伸している。
中心ナノロッドを構成するIII−V族化合物半導体は、2元化合物半導体、3元化合物半導体、4元化合物半導体、それ以上の元素からなる半導体のいずれでもよい。2元化合物半導体の例には、InAs、InP、GaAs、GaN、InSb、GaSbおよびAlSbが含まれる。3元化合物半導体の例には、AlGaAs、InGaAs、InGaN、AlGaN、GaNAs、InAsSb、GaAsSb、InGaSbおよびAlInSbが含まれる。4元化合物半導体の例には、InGaAlN、AlInGaP、InGaAsP、GaInAsN、InGaAlSb、InGaAsSbおよびAlInGaPSbが含まれる。
中心ナノロッドの直径は、2〜500nm程度であればよい。また、
中心ナノロッドの長さは、100nm〜100μm程度であればよい。
【0044】
第1のバリア層は、
中心ナノロッドの側面を被覆している。第1のバリア層は、絶縁膜に接触しているが、IV族半導体基板には接触していない。第1のバリア層は、
中心ナノロッドを構成するIII−V族化合物半導体よりもバンドギャップが大きい、第1の導電型のIII−V族化合物半導体からなる。第1のバリア層は、量子井戸構造のバリア層として機能する。したがって、第1のバリア層を構成するIII−V族化合物半導体は、量子井戸層を構成するIII−V族化合物半導体よりもバンドギャップが大きくなければならない。ただし、第1のバリア層を構成するIII−V族化合物半導体と量子井戸層を構成するIII−V族化合物半導体との界面にバンド不連続性が形成されると、発光素子の抵抗が増大してしまう。したがって、第1のバリア層を構成するIII−V族化合物半導体のバンドギャップを
中心ナノロッド側から量子井戸層側に向けて徐々に小さくして、量子井戸層との界面付近では、第1のバリア層を構成するIII−V族化合物半導体のバンドギャップと量子井戸層を構成するIII−V族化合物半導体のバンドギャップとを等しくすることが好ましい。このようにすることで、発光素子の抵抗を低減させることができる。
【0045】
第1のバリア層を構成するIII−V族化合物半導体は、
中心ナノロッドを構成するIII−V族化合物半導体および量子井戸層を構成するIII−V族化合物半導体よりもバンドギャップが大きければ特に限定されず、2元化合物半導体、3元化合物半導体、4元化合物半導体、それ以上の元素からなる半導体のいずれでもよい。前述のように、第1のバリア層を構成するIII−V族化合物半導体のバンドギャップを
中心ナノロッド側から量子井戸層側に向けて徐々に小さくする場合は、第1のバリア層を構成するIII−V族化合物半導体は、3元化合物半導体または4元化合物半導体のいずれかが好ましい。3元化合物半導体または4元化合物半導体におけるIII族元素またはV族元素の組成を
中心ナノロッド側から量子井戸層側に向けて徐々に変化させることで、第1のバリア層を構成するIII−V族化合物半導体のバンドギャップを
中心ナノロッド側から量子井戸層側に向けて徐々に小さくすることができるからである。たとえば、第1のバリア層がAlGaAsからなる場合、
中心ナノロッド側から量子井戸層側に向けてGa(III族元素)の割合を徐々に大きくすることで(Al(III族元素)の割合を徐々に小さくすることで)、AlGaAsのバンドギャップを
中心ナノロッド側から量子井戸層側に向けて徐々に小さくすることができる。また、第1のバリア層がInAsPからなる場合、
中心ナノロッド側から量子井戸層側に向けてAs(V族元素)の割合を徐々に大きくすることで(P(V族元素)の割合を徐々に小さくすることで)、InAsPのバンドギャップを
中心ナノロッド側から量子井戸層側に向けて徐々に小さくすることができる。第1のバリア層の膜厚は、pn接合界面に形成される空乏層の厚さよりも厚ければ特に限定されず、例えば5nm以上であればよい。
【0046】
量子井戸層は、第1のバリア層を被覆している。量子井戸層は、絶縁膜に接触しているが、IV族半導体基板には接触していない。量子井戸層は、第1のバリア層を構成するIII−V族化合物半導体および第2のバリア層を構成するIII−V族化合物半導体よりもバンドギャップが小さいIII−V族化合物半導体からなる。量子井戸層を構成するIII−V族化合物半導体は、第1の導電型または第2の導電型にドープされていてもよいし、真性半導体であってもよい。量子井戸層は、量子井戸構造の量子井戸層として機能する。量子井戸層の膜厚は、1〜50nm程度であればよい。
【0047】
第2のバリア層は、量子井戸層を被覆している。第2のバリア層は、絶縁膜に接触しているが、IV族半導体基板には接触していない。第2のバリア層は、第1のバリア層を構成するIII−V族化合物半導体と同じ組成のIII−V族化合物半導体である。
第2のバリア層を構成するIII−V族化合物半導体は、第2の導電型にドープされている。第2のバリア層は、第1のバリア層と同様に、量子井戸構造のバリア層として機能する。第2のバリア層を構成するIII−V族化合物半導体は、第1のバリア層を構成するIII−V族化合物半導体と同様に、量子井戸層を構成するIII−V族化合物半導体よりもバンドギャップが大きい。第1のバリア層と同様に、第2のバリア層を構成するIII−V族化合物半導体と量子井戸層を構成するIII−V族化合物半導体との界面にバンド不連続性が形成されると、発光素子の抵抗が増大してしまう。したがって、第2のバリア層を構成するIII−V族化合物半導体のバンドギャップをキャッピング層側から量子井戸層側に向けて徐々に小さくして、量子井戸層との界面付近では、第2のバリア層を構成するIII−V族化合物半導体のバンドギャップと量子井戸層を構成するIII−V族化合物半導体のバンドギャップとを等しくすることが好ましい。このようにすることで、発光素子の抵抗を低減させることができる。第1のバリア層と同様に、3元化合物半導体または4元化合物半導体におけるIII族元素またはV族元素の組成をキャッピング層側から量子井戸層側に向けて徐々に変化させることで、第2のバリア層を構成するIII−V族化合物半導体のバンドギャップをキャッピング層側から量子井戸層側に向けて徐々に小さくすることができる。第2のバリア層の膜厚は、例えば5〜100nm程度であればよい。
【0048】
キャッピング層は、第2のバリア層を被覆している。キャッピング層は、絶縁膜に接触しているが、IV族半導体基板には接触していない。キャッピング層は、第2のバリア層と同じ第2の導電型のIII−V族化合物半導体からなる層を含み、第2の電極との間でオーミック接続を形成しやすくする。たとえば、キャッピング層は、第2の導電型のIII−V族化合物半導体からなる層か、または第2の導電型のIII−V族化合物半導体からなる層と第2の導電型で不純物濃度の高いIII−V族化合物半導体からなる層との積層体である。キャッピング層の膜厚は、5〜10nm程度であればよい。
【0049】
第1の電極は、コアマルチシェルナノワイヤと接触しないように、IV族半導体基板に接続されている。たとえば、第1の電極は、IV族半導体基板の裏面に配置されている。第1の電極の材料は、IV族半導体基板とオーミック接続できる金属であれば特に限定されない。たとえば、基板がn型IV族半導体からなる場合、第1の電極は、Ti/Au多層膜、Ti/Al多層膜などであればよい。また、基板がp型IV族半導体からなる場合、第1の電極は、Cr/Au多層膜、AuZn合金膜などであればよい。第1の電極の膜厚は、特に限定されず、1〜1000nm程度であればよい。
【0050】
第2の電極は、コアマルチシェルナノワイヤの側面を被覆しており、コアマルチシェルナノワイヤのキャッピング層に接続されている。第2の電極は、コアマルチシェルナノワイヤの側面を被覆しているため、
中心ナノロッドの側面に形成されたpn接合に効率よく電流を注入することができる。これにより、低消費電力化が実現される。また、第2の電極は、コアマルチシェルナノワイヤの側面において光を反射するため、コアマルチシェルナノワイヤ内で生じた光をコアマルチシェルナノワイヤ内に閉じ込めることができる。コアマルチシェルナノワイヤ内に閉じ込められた光は、コアマルチシェルナノワイヤの上側の端面から外部に効率的に放出される。これにより、高輝度化が実現される。
【0051】
コアマルチシェルナノワイヤの側面の総面積に占める第2の電極が被覆する面積の割合は、低消費電力化および高輝度化を両立する観点から、10〜100%の範囲内が好ましく、20〜100%の範囲内がより好ましく、50〜100%の範囲内が特に好ましい。コアマルチシェルナノワイヤの側面のうち第2の電極で被覆されていない領域は、誘電体膜で被覆されていることが好ましい。たとえば、コアマルチシェルナノワイヤの側面のうち上端側の80%が第2の電極で被覆されている場合、下端側(基板側)の20%は誘電体膜で被覆されていることが好ましい。このようにすることで、第2の電極とIV族半導体基板との間にリーク電流が流れることをより確実に防ぐことができる。誘電体膜の例には、SiO
2膜やAl
2O
3膜などが含まれる。
【0052】
第2の電極の材料は、キャッピング層とオーミック接続できる金属であれば特に限定されない。たとえば、キャッピング層がn型III−V族化合物半導体からなる場合、第2の電極は、Ti/Au多層膜、Ti/Al多層膜などであればよい。また、キャッピング層がp型III−V族化合物半導体からなる場合、第2の電極は、Cr/Au多層膜、AuZn合金膜などであればよい。第2の電極の膜厚は、特に限定されず、1〜1000nm程度であればよい。
【0053】
第2の電極で被覆されているコアマルチシェルナノワイヤ間の空隙は、絶縁体、半絶縁性半導体または金属で充填されていることが好ましい。これらの材料でコアマルチシェルナノワイヤ間の空隙を充填することで、発光素子全体の強度を向上させることができる。また、絶縁体または半絶縁性半導体でコアマルチシェルナノワイヤ間の空隙を充填することで、コアマルチシェルナノワイヤ間を電気的に確実に分離して発光素子の信頼性を向上させることができる。絶縁体の例には、BCB樹脂などの絶縁樹脂が含まれる。これらの材料は、固体であれば特に限定されないが、コアマルチシェルナノワイヤ内で発生した光を効率よく取り出す観点からは透明な材料が好ましい。
【0054】
また、ジュール熱による発光素子の劣化を抑制する観点からは、第2の電極で被覆されているコアマルチシェルナノワイヤ間の空隙は、絶縁樹脂よりも熱伝導率が高い半絶縁性半導体または金属で充填されていることが好ましい。たとえば、絶縁樹脂であるBCB樹脂の熱伝導率は0.29W/m・Kである。一方、半絶縁性半導体であるSiの熱伝導率は163.3W/m・Kであり、GaAsの熱伝導率は55W/m・Kである。半絶縁性半導体および金属の種類は、特に限定されないが、熱伝導率が高いものが好ましい。熱伝導率が高い半絶縁性半導体の例には、Si、Geのほかに、前述のIII−V族化合物半導体などが含まれる。熱伝導率が高い金属の例には、銀、銅、金などが含まれる。このように熱伝導率が高い半絶縁性半導体または金属でコアマルチシェルナノワイヤ間の空隙を充填することで、コアマルチシェルナノワイヤ内で生じたジュール熱をコアマルチシェルナノワイヤ外に効率よく放出させることが可能となり、ジュール熱による発光特性の低下および発光素子の劣化を抑制することができる。また、ジュール熱による発光素子の劣化を抑制することができるため、高電流を注入することが可能となり、発光素子の出力をさらに向上させることもできる。
【0055】
本発明の発光素子は、1)ナノワイヤがIV族半導体基板の(111)面上に配置されており、2)ナノワイヤがコアマルチシェル構造であり、かつ3)ナノワイヤの側面が金属電極(第2の電極)で被覆されている。
【0056】
1)本発明の発光素子では、ナノワイヤがIV族半導体基板の(111)面上に配置されているため、ナノワイヤが基板の表面に対して垂直方向に配向している。したがって、本発明の発光素子では、発光単位となるナノワイヤを高密度(10億本/cm
2以上)に配置することができ、発光素子全体の輝度を向上させることができる。
【0057】
2)本発明の発光素子では、ナノワイヤがコアマルチシェル構造であるため、pn接合の面積が大きい。したがって、本発明の発光素子では、基板の単位面積当たりの発光面積を増大させることができ、発光素子全体の輝度を向上させることができる。
【0058】
3)本発明の発光素子では、ナノワイヤの側面が金属電極(第2の電極)で被覆されているため、pn接合全面に効率よく電流を注入することができる。したがって、本発明の発光素子では、低消費電力化を実現することができる。また、本発明の発光素子は、ナノワイヤの側面が金属電極(第2の電極)で被覆されているため、ナノワイヤ内で生じた光をナノワイヤ内に閉じ込めることができる。したがって、本発明の発光素子では、ナノワイヤ内で生じた光をナノワイヤの上側の端面から効率的に放出させることができ、発光素子全体の輝度を向上させることができる。
【0059】
以上のように、本発明の発光素子は、従来の半導体発光素子では実現できなかった高輝度化および低消費電力化を両立することができる。
【0060】
本発明の発光素子は、レーザー発振器としても動作することができる(実施例参照)。本発明の発光素子をレーザー発振器として動作させるには、量子井戸層内においてナノワイヤの長軸方向に光を繰り返し反射させる必要がある。そのためには、まず、第1のバリア層および第2のバリア層の屈折率が量子井戸層の屈折率よりも
小さくなるように、各層を構成するIII−V族化合物半導体を選択することが好ましい。このようにすることで、量子井戸層で生じた光を量子井戸層内に閉じ込めることができる。
【0061】
また、量子井戸層の2つの端面(上側の端面および下側の端面)が共振器ミラーとして機能できるように、量子井戸層を構成するIII−V族化合物半導体、基板を被覆する絶縁膜を選択することが好ましい。具体的には、量子井戸層の下側の端面と基板を被覆する絶縁膜との界面を「III−V族化合物半導体/全反射絶縁膜」とすることが好ましい。すなわち、量子井戸層の下側の端面と接触する絶縁膜の最表層を全反射絶縁膜とすることが好ましい。また、量子井戸層の上側の端面を含む界面を「III−V族化合物半導体/空気」または「III−V族化合物半導体/部分反射絶縁膜」とすることが好ましい。すなわち、コアマルチシェルナノワイヤの上側の端面を外部雰囲気に直接露出させるか、部分反射絶縁膜で被覆することが好ましい。このようにすることで、量子井戸層内において上側の端面と下側の端面との間で光を往復させるとともに、増幅した光をコアマルチシェルナノワイヤの上側の端面から取り出すことができる。全反射絶縁膜および部分反射絶縁膜の材料は、光透過性を有し(透明または半透明)、かつ第2のバリア層を構成するIII−V族化合物半導体よりも屈折率の小さい絶縁体が好ましい。全反射絶縁膜および部分反射絶縁膜の材料の例には、SiO
2、SiN、Al
2O
3などが含まれる。
【0062】
上記構成を採用することで、量子井戸層内で光を増幅させることが可能となり、本発明の発光素子をレーザー発振器として動作させることができるようになる。
【0063】
以上のように、本発明の発光素子は、高輝度化および低消費電力化を両立することができるだけでなく、レーザー発振器としても動作することができる。
【0064】
本発明の発光素子は、本発明の効果を損なわない限り任意の方法で製造されうる。たとえば、本発明の発光素子は、次に説明する本発明の製造方法で製造されうる。
【0065】
2.本発明の発光素子の製造方法
本発明の発光素子の製造方法は、1)基板を準備する第1のステップと、2)コアマルチシェルナノワイヤを形成する第2のステップと、3)第1の電極および第2の電極を形成する第3のステップを含む。
【0066】
1)基板の準備
第1のステップでは、(111)面を有するIV族半導体基板と前記(111)面を被覆する絶縁膜とを含む基板を準備する。IV族半導体基板の種類は、(111)面を有するものであれば特に限定されず、例えばn型シリコン(111)基板やp型シリコン(111)基板である。
【0067】
IV族半導体基板の(111)面は、開口部を有する絶縁膜で被覆されている。(111)面を被覆する絶縁膜の材料は、中心ナノロッドの成長を阻害することができ、かつ絶縁体であれば特に限定されない。絶縁膜の材料の例には、SiO
2、SiN、Al
2O
3などなどが含まれる。(111)面を被覆する絶縁膜の厚さは、特に限定されないが、例えば20nm程度であればよい。酸化シリコン膜は、例えばシリコン基板を熱酸化することで形成されうる。もちろん、絶縁膜は、スパッタ法などの通常の薄膜形成法により形成されてもよい。
【0068】
IV族半導体基板の(111)面を被覆する絶縁膜には、1または2以上の開口部が形成される。開口部は、電子ビームリソグラフィーや、フォトリソグラフィー、ナノインプリントリソグラフィーなどの微細パターン加工技術を用いることで形成されうる。IV族半導体基板の(111)面は、開口部を通して外部に露出している。開口部の形状は、特に限定されず、任意に決定することができる。開口部の形状の例には、三角形、四角形、六角形および円形が含まれる。開口部の直径は、2〜500nm程度であればよい。開口部の直径が大きすぎると、IV族半導体基板の(111)面と
中心ナノロッドとの接合界面に多数の転位または欠陥が形成されるおそれがある。開口部の数が2以上の場合、開口部の中心間距離は、数十nm〜数μm程度であればよい。
【0069】
通常、IV族半導体基板の表面には、自然酸化膜が形成されている。この自然酸化膜は、
中心ナノロッドの成長を阻害するので、除去することが好ましい。そこで、IV族半導体基板の(111)面を覆う絶縁膜に開口部を設けた後、高温熱処理することにより、IV族半導体基板の表面に形成された自然酸化膜を除去することが好ましい。高温熱処理は、例えば水素ガスや窒素ガス、アルゴンガスなどの不活性ガス雰囲気中で約900℃の条件で熱処理すればよい。このように高温熱処理を行うことにより、開口部を通して露出した(111)面を被覆する自然酸化膜が除去されるとともに、IV族半導体と自然酸化膜との界面における結晶構造から、酸素原子が除去される。この酸素原子が除去された箇所には、酸素原子の代わりにIII族原子またはV族原子が吸着する(後述)。
【0070】
高温熱処理後の(111)面は、1×1構造で構成される。ところが、そのまま基板の温度を下げると、
図1に示される分類(化合物半導体成長温度範囲)のように不規則な原子配列が基板表面に形成される。しかしながら、さらに温度を400℃程度にまで下げると、再び基板表面が1×1構造に回復する。そこで、本発明の製造方法では、高温熱処理後に、基板温度を一旦低温(約400℃程度)に下げる。ここで「低温」とは、化合物半導体ナノワイヤを成長させるのに必要な温度よりも低い温度をいう。このように基板温度を低下させることにより、IV族半導体基板の(111)2×1面を(111)1×1面に変換することができる。「(111)2×1面」とは、
図2Aに示されるように、原子配列を構成する最小単位が2原子間隔×1原子間隔となっている面をいう。一方、「(111)1×1面」とは、
図2Bに示されるように、原子配列を構成する最小単位が1原子間隔×1原子間隔となっている面をいう。
【0071】
後述の通り、IV族半導体基板の(111)1×1面は、III族元素またはV族元素により、(111)A面または(111)B面に変換される。ここで、「(111)A面」とは、表面にIII族元素が配置されている面をいう。また、「(111)B面」とは、表面にV族元素が配置されている面をいう。
【0072】
IV族半導体基板の(111)1×1面を(111)A面または(111)B面にすることで、その面からIII−V族化合物半導体を成長させやすくすることができる。III−V族化合物半導体の(111)A面または(111)B面は、(111)2×2面、つまり最小単位が2原子間隔×2原子間隔の周期で構成された構造である。よって、IV族半導体基板の表面に、2原子間隔×2原子間隔よりも小さい最小単位でIII族元素またはV族元素が配置されていると、その表面にIII−V族化合物半導体が成長しやすい。
【0073】
一方、シリコン基板を熱処理することによって生じやすい(111)面の安定構造は、(111)7×7面であると報告されている(Surf. Sci. Vol.164, (1985), p.367-392)。(111)7×7面を、(111)A面または(111)B面に変換しても、最小単位が7原子間隔×7原子間隔の配列周期となる。この最小単位は、III−V族化合物半導体の結晶構造における配列周期の最小単位よりも大きい。よって、その表面にIII−V族化合物半導体が成長しにくい。
【0074】
IV族半導体基板の(111)2×1面を(111)1×1面にするための低温熱処理は、約350〜450℃(例えば、約400℃)の温度で行えばよい。低温熱処理は、水素ガス、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガスなどの不活性ガス囲気下で行うことが好ましい。
【0075】
IV族半導体基板の(111)2×1面を低温熱処理により(111)1×1面に変換するとともに、III族原料またはV族原料をIV族半導体基板の表面に供給して(111)A面または(111)B面に変換する。III族原料は、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、インジウムまたは
タリウム(有機金属化合物であってもよい)を含むガスであることが好ましい。III族原料は、例えばトリメチルガリウムやトリメチルインジウムなどの有機アルキル金属化合物である。V族原料は、窒素、リン、ヒ素、アンチモンまたはビスマス(有機金属化合物であってもよい)を含むガスであることが好ましい。V族原料は、例えば水素化ヒ素(アルシン;AsH3)である。III族原料またはV族原料の供給は、400〜500℃にて行われることが好ましい。
【0076】
IV族半導体基板の表面を(111)A面または(111)B面に変換する工程は、IV族半導体基板の表面を(111)1×1面に変換する工程の後に行ってもよいが、(111)1×1面に変換する工程と同時に行ってもよい。すなわち、IV族半導体基板の(111)面を約400℃での低温熱処理により(111)1×1面に変換しながら、III族原料またはV族原料も供給して(111)A面または(111)B面に変換してもよい。
【0077】
前述の通り、IV族半導体基板を高温(例えば900℃)で熱処理して自然酸化膜を除去するときに、(111)面から酸素原子が除去される。酸素原子が除去された状態で(111)1×1面とすると、IV元素同士の結合が切れている部分が形成される。
図1に示されるように、高温熱処理した後の(111)面は1×1構造で構成され、そのまま温度を下げると、様々な不規則な周期の原子配列が表面に形成される。さらに温度を400℃程度まで下げることで、(111)面は1×1構造に回復する。回復した1×1構造は、熱力学的に不安定であり、この状態にIII族元素またはV族元素を供給すると、III族元素またはV族元素は、最表面のIV族原子(例えばシリコン原子)と置き換わるように表面吸着して、(111)A面または(111)B面を形成する。したがって、比較的容易に(111)A面または(111)B面を形成することができる。
【0078】
2)コアマルチシェルナノワイヤの作製
第2のステップでは、絶縁膜上にコアマルチシェルナノワイヤを形成する。より具体的には、開口部を通して露出したIV族半導体基板の(111)面から
中心ナノロッドを成長させ、次いで前記
中心ナノロッドの側面に複数の被覆層を形成する。このとき、
中心ナノロッドを成長させる前に、交互原料供給変調法によりIV族半導体基板の(111)面にIII−V族化合物半導体の薄膜を形成することが好ましい。
【0079】
[交互原料供給変調法]
IV族半導体基板にIII族元素を含む原料ガスとV族元素を含む原料ガスとを交互に提供して(以下「交互原料供給変調法」という)、絶縁膜の開口部を通して露出した(111)A面または(111)B面にIII−V族化合物半導体の薄膜を形成する。この交互原料供給変調法による薄膜形成は、
中心ナノロッドを成長させるために必要な温度よりも低い温度にて行われることが好ましい。たとえば、交互原料供給変調法による薄膜形成は、約400℃で行うか、または400℃から昇温しながら行えばよい。
【0080】
具体的には、IV族半導体基板に(111)A面が形成されている場合は、まずIII族元素を含む原料ガスを供給し、その後V族元素を含む原料ガスを供給する。さらに、III族元素を含む原料ガスとV族元素を含む原料ガスとを交互に繰り返し供給する。一方、IV族半導体基板に(111)B面が形成されている場合は、まずV族元素を含む原料ガスを供給し、その後III族元素を含む原料ガスを供給する。さらに、V族元素を含む原料ガスとIII族元素を含む原料ガスとを交互に繰り返し供給する。
【0081】
V族元素を含む原料ガスの供給時間およびIII族元素を含む原料ガスの供給時間は、それぞれ数秒程度であればよい。また、V族元素を含む原料ガスの供給とIII族元素を含む原料ガスの供給との間に、数秒のインターバルを設けることが好ましい。III−V族化合物半導体の薄膜が所望の厚さになるまで、V族元素を含む原料ガスとIII族元素を含む原料ガスとを交互に供給すればよい。何回か繰り返してガスを供給することにより、III−V化合物半導体の薄膜が形成される。
【0082】
この交互原料供給変調法は、IV族半導体基板の(111)1×1面を(111)A面または(111)B面に変換したときに変換できなかった部位があったとしても、(111)A面または(111)B面を再形成することができるという補償効果もある。交互原料供給変調法により、IV族元素とIII族元素またはV族元素とが結合するからである。
【0083】
この後、半導体ナノワイヤを成長させるために基板温度を上げるが、交互原料供給変調法により形成されたIII−V化合物半導体の薄膜は、基板に吸着したIII族元素やIV族元素が熱で乖離することを防ぐ。
【0084】
[
中心ナノロッドの形成]
III−V化合物半導体の薄膜を形成した後に、IV族半導体基板の表面から絶縁膜の開口部を通してIII−V族化合物半導体からなる
中心ナノロッドを成長させる。
中心ナノロッドの成長は、例えば有機金属化学気相エピタキシ法(以下「MOVPE法」ともいう)や、分子線エピタキシ法(以下「MBE法」ともいう)などにより行われる。好ましくは、
中心ナノロッドの成長は、MOVPE法により行われる。なお、開口部以外の領域では、絶縁膜により
中心ナノロッドの成長は阻害される。
【0085】
MOVPE法による半導体ナノワイヤの形成は、通常のMOVPE装置を用いて行うことができる。つまり、所定の温度かつ減圧条件下で、III族元素を含む原料ガスおよびV族元素を含む原料ガスを提供すればよい。たとえば、InAsナノワイヤを形成するときは、約540℃でトリメチルインジウムおよび水素化ヒ素を含むガスを提供すればよい。また、GaAsナノワイヤを形成するときは、約750℃でトリメチルガリウムおよび水素化ヒ素を含むガスを提供すればよい。
【0086】
以上の手順によりIII−V族化合物半導体からなる
中心ナノロッドを、その長軸が(111)面に対して垂直になるようにIV族半導体基板の(111)面上に形成することができる。このようにして形成された
中心ナノロッドとIV族半導体基板の(111)面との接合界面は、基本的に無転位かつ無欠陥である。
【0087】
中心ナノロッドは、第1の導電型(n型またはp型)にドープされる。たとえば、MOVPE法で
中心ナノロッドを形成している間にドーピングガスまたはドーピング有機金属を供給することで、
中心ナノロッドにn型ドーパントまたはp型ドーパントをドープすることができる。具体的には、MOVPE法でIV族原子を含むガスまたは有機金属材料と
中心ナノロッドの材料とを同時に供給することで、n型の
中心ナノロッドを形成することができる。同様に、VI族原子を含むガスまたは有機金属材料と
中心ナノロッドの材料とを同時に供給することで、p型の
中心ナノロッドを形成することができる。ドーピングガスおよびドーピング有機金属の種類は、n型にドープする場合はC、Si、Ge、Sn、O、S、SeまたはTeを含むものであれば特に限定されず;p型にドープする場合はC、ZnまたはTeを含むものであれば特に限定されない。この他にも、
中心ナノロッドに対してIV族原子からなるイオンをイオン注入法で打ち込むことで、n型の
中心ナノロッドを形成することができる。同様に、
中心ナノロッドに対してVI族原子からなるイオンを打ち込むことで、p型の
中心ナノロッドを形成することができる。キャリアの濃度は、特に限定されず、1×10
16〜5×10
20cm
-3程度であればよい。
【0088】
[被覆層の形成]
第2のステップでは、
中心ナノロッドの側面に被覆層を形成する。より具体的には、
中心ナノロッドの側面に第1のバリア層を形成し、次いで第1のバリア層の上に量子井戸層、第2のバリア層およびキャッピング層をこの順番で積層させる。被覆層の形成は、例えば有機金属化学気相エピタキシ法(以下「MOVPE法」ともいう)や、分子線エピタキシ法(以下「MBE法」ともいう)などにより行われる。作業工程を減らす観点からは、被覆層の形成方法は、
中心ナノロッドの製造方法と同じであることが好ましい。
【0089】
中心ナノロッドの側面に被覆層を形成するためには、
中心ナノロッドの長さ方向よりも動径方向の成長を促進させることが好ましい。動径方向の成長を促進させるには、基板温度を中心ナノロッドを成長させた際の温度から50〜200℃程度低下させればよい。これにより、ナノロッドの側面における成長速度がナノロッドの長さ方向の成長速度よりも大きくなり、
中心ナノロッドの側面に被覆層を形成する横方向成長を実現できる。縦方向の成長は完全に阻害されていなければならないわけではなく、
中心ナノロッドの上側の端面を被覆するように被覆層が形成された場合は、機械研磨などにより
中心ナノロッドおよび各被覆層の端面を露出させればよい。
【0090】
第1のバリア層、量子井戸層、第2のバリア層およびキャッピング層を順に形成するには、被覆層の形成過程において供給する原料ガスの種類を切り替えればよい。たとえば、
中心ナノロッド側から動径方向にAlGaAs、GaAs、AlGaAs、GaAsの順で積層した構造の被覆層を形成するには、トリメチルアルミニウムガス、トリメチルガリウムガスおよび水素化ヒ素ガスを供給して750℃でAlGaAsを成長させ;次いでトリメチルガリウムガスおよび水素化ヒ素ガスを供給して700℃でGaAsを成長させ;次いでトリメチルアルミニウムガス、トリメチルガリウムガスおよび水素化ヒ素ガスを供給して750℃でAlGaAsを成長させ;次いでトリメチルガリウムガスおよび水素化ヒ素ガスを供給して750℃でGaAsを成長させればよい。また、第1のバリア層および第2のバリア層において、3元化合物半導体または4元化合物半導体におけるIII族元素またはV族元素の組成を徐々に変化させるには、III族元素またはV族元素の原料ガスの組成を経時的に変化させればよい。
【0091】
第1のバリア層、第2のバリア層およびキャッピング層は、第1の導電型(n型またはp型)または第2の導電型(p型またはn型)にドープされる。量子井戸層は、第1の導電型(n型またはp型)または第2の導電型(p型またはn型)にドープされることもあれば、ドープされないこともある。MOVPE法でIV族原子を含むガスまたは有機金属材料と被覆層の材料とを同時に供給することで、n型の被覆層を形成することができる。同様に、VI族原子を含むガスまたは有機金属材料と被覆層の材料とを同時に供給することで、p型の被覆層を形成することができる。ドーピングガスおよびドーピング有機金属の種類は、n型にドープする場合はC、Si、Ge、Sn、O、S、SeまたはTeを含むものであれば特に限定されず;p型にドープする場合はC、ZnまたはTeを含むものであれば特に限定されない。キャリアの濃度は、特に限定されず、1×10
16〜5×10
20cm
-3程度であればよい。
【0092】
3)第1の電極および第2の電極の形成
第3のステップでは、第1の電極および第2の電極を形成する。
【0093】
第1の電極は、コアマルチシェルナノワイヤと接触しないようにIV族半導体基板上に形成すればよい。第1の電極をIV族半導体基板上に形成する方法は特に限定されない。たとえば、フォトリソグラフィー法を用いて、電極形成予定部位以外の領域をレジスト膜でマスクし、金や白金、チタン、クロム、アルミニウム、パラジウム、モリブデンなどの金属を蒸着させ、レジスト膜を除去(リフトオフ)すればよい。また、クロムやチタンなどを蒸着した後、さらに金を蒸着して二層構造の電極としてもよい。
【0094】
第2の電極は、IV族半導体基板と接触しないようにコアマルチシェルナノワイヤの側面(キャッピング層)上に形成すればよい。第2の電極をコアマルチシェルナノワイヤの側面に形成する方法は特に限定されない。
【0095】
たとえば、コアマルチシェルナノワイヤを絶縁体または半絶縁性半導体中に包埋する場合は、1)コアマルチシェルナノワイヤの表面を所定の膜厚の誘電体膜で被覆し、2)誘電体膜で被覆されたコアマルチシェルナノワイヤを絶縁体または半絶縁性半導体中に包埋し、3)絶縁体または半絶縁性半導体の一部を除去して誘電体膜で被覆されたコアマルチシェルナノワイヤの先端部分を露出させ、4)コアマルチシェルナノワイヤを被覆する誘電体膜を除去してコアマルチシェルナノワイヤと絶縁体または半絶縁性半導体との間に空隙を形成し、5)4)で形成された空隙に金属を堆積させて第2の電極を形成すればよい(実施の形態1、3参照)。
【0096】
また、コアマルチシェルナノワイヤを金属中に包埋する場合は、1)コアマルチシェルナノワイヤの側面をオーミック電極を形成しうる金属で被覆し、2)オーミック電極を形成しうる金属で被覆されたコアマルチシェルナノワイヤを、前記オーミック電極を形成しうる金属と同一または異なる金属中に包埋すればよい。この場合は、コアマルチシェルナノワイヤの側面を被覆するオーミック電極を形成しうる金属が、第2の電極として機能する。
【0097】
前述の通り、コアマルチシェルナノワイヤ間の空隙に絶縁体、半絶縁性半導体または金属を充填することで、発光素子全体の強度を向上させることができる。特に、コアマルチシェルナノワイヤ間の空隙に半絶縁性半導体または金属を充填することで、ジュール熱による発光特性の低下および発光素子の劣化を抑制することもできる。
【0098】
コアマルチシェルナノワイヤを絶縁体、半絶縁性半導体または金属中に包埋する方法は、特に限定されない。たとえば、コアマルチシェルナノワイヤを絶縁樹脂中に包埋する場合は、コアマルチシェルナノワイヤの表面を誘電体膜で被覆した後に、IV族半導体基板上に樹脂組成物を塗布すればよい。また、コアマルチシェルナノワイヤを半絶縁性半導体中に包埋する場合は、
中心ナノロッドの側面に被覆層を形成した方法と同様に、コアマルチシェルナノワイヤの側面に半絶縁性半導体からなる層をコアマルチシェルナノワイヤの動径方向に成長させればよい。前述の通り、動径方向の成長を促進させるには、基板温度を
中心ナノロッドを成長させた際の温度から50〜200℃程度低下させればよい。たとえば、コアマルチシェルナノワイヤをSiまたはGe中に包埋する場合は、コアマルチシェルナノワイヤの表面を誘電体膜で被覆した後に、例えばシランガスまたは水素化ゲルマニウムガスを供給して300〜500℃でSiまたはGeを動径方向に成長させればよい。また、コアマルチシェルナノワイヤをIII−V族化合物半導体中に包埋する場合は、
中心ナノロッドの側面に被覆層を形成する場合と同じ条件でIII−V族化合物半導体を動径方向に成長させればよい。また、コアマルチシェルナノワイヤを金属中に包埋する場合は、コアマルチシェルナノワイヤ間の空隙に金属を堆積させればよい。
【0099】
また、コアマルチシェルナノワイヤを絶縁体または半絶縁性半導体中に包埋する場合は、誘電体膜を除去する程度(面積)を調整することで、第2の電極がコアマルチシェルナノワイヤを被覆する面積を調整することができる。たとえば、コアマルチシェルナノワイヤを被覆する誘電体膜のうち、コアマルチシェルナノワイヤの上側80%の部分を被覆する誘電体膜を除去した場合、第2の電極はコアマルチシェルナノワイヤの上側80%の部分を被覆することになる。この場合、コアマルチシェルナノワイヤの下側20%の部分は、誘電体膜で被覆されたままとなる。
【0100】
本発明の発光素子では、コアマルチシェルナノワイヤの上側の端面(特に量子井戸層の上側の端面)が金属膜(遮光物)で被覆されておらず、かつ第2の電極がコアマルチシェルナノワイヤの側面(第4の被覆膜)にのみ接続されていることを要する。したがって、第2の電極を形成する際にコアマルチシェルナノワイヤの上側の端面が金属膜で被覆されてしまった場合は、機械研磨などによりコアマルチシェルナノワイヤの端面を露出させることが好ましい。
【0101】
以上の手順により、本発明の発光素子を製造することができる。
【0102】
本発明の発光素子の製造方法は、コアマルチシェルナノワイヤを基板の表面に対して垂直方向に配向させることができるため、コアマルチシェルナノワイヤを高密度(10億本/cm
2以上)で配置することができる。また、本発明の発光素子の製造方法は、金属触媒を用いずに
中心ナノロッドを形成するため、金属汚染の影響を受けることなく高品位の結晶構造でコアマルチシェルナノワイヤを形成することができる。
【0103】
3.複数の発光素子の製造方法
本発明の発光素子(レーザー発振器を含む)の製造方法では、互いに発光波長が異なる複数の発光素子を1つの基板上に同時に製造することができる。
【0104】
前述の通り、本発明の発光素子の製造方法は、1)基板を準備する第1のステップと、2)コアマルチシェルナノワイヤを形成する第2のステップと、3)第1の電極および第2の電極を形成する第3のステップを含む。ここで、第1のステップにおいて、絶縁膜の開口部の中心間距離および/または開口部のサイズを変化させると、第2のステップにおいて、
中心ナノロッドおよび各被覆層の組成ならびに各被覆層の膜厚が変わる(理由は後述)。第1のバリア層、量子井戸層および第2のバリア層の組成(バンドギャップ)および膜厚が変わると、発光素子の発光波長が変わる。したがって、1つの基板において絶縁膜を2以上の領域に区分し、その領域ごとに開口部の中心間距離および/または開口部のサイズを変えることで、発光素子の発光波長を領域ごとに変えることができる。
【0105】
以下、互いに発光波長が異なる複数の発光素子を1つの基板上に同時に製造する方法について、より詳細に説明する。「2.本発明の発光素子の製造方法」で説明した事項と重複する事項については、説明を省略する。
【0106】
第1のステップでは、(111)面を有するIV族半導体基板と前記(111)面を被覆する絶縁膜とを含む基板を準備する。前述の通り、絶縁膜は2以上の領域に区分されている。後述するように、絶縁膜の領域ごとにコアマルチシェルナノワイヤ(
中心ナノロッドおよび各被覆層)の組成および各被覆層の膜厚を変えるために、絶縁膜の領域ごとに開口部の中心間距離および/または開口部のサイズ(直径)を変える。
【0107】
第2のステップでは、絶縁膜上にコアマルチシェルナノワイヤを形成する。より具体的には、開口部を通して露出したIV族半導体基板の(111)面から
中心ナノロッドを成長させ、次いで前記
中心ナノロッドの側面に各被覆層を形成する。
中心ナノロッドおよび各被覆層の形成は、例えばMOVPE法や、MBE法などにより行われる。好ましくは、
中心ナノロッドおよび各被覆層の形成は、MOVPE法により行われる。MOVPE法による半導体ナノワイヤの形成は、所定の温度かつ減圧条件下で、III族元素を含む原料ガスおよびV族元素を含む原料ガスを提供すればよい。たとえば、InGaAs層を形成するときは、トリメチルインジウム、トリメチルガリウムおよび水素化ヒ素を含むガスを提供すればよい。
【0108】
トリメチルインジウム、トリメチルガリウムおよび水素化ヒ素を含むガスを供給すると、これらのガスは基板表面付近で熱分解反応を起こし、分解した元素(In、GaおよびAs)は絶縁膜の開口部に絶縁膜の表面を移動して集まる。絶縁膜で被覆された領域では結晶成長が起こらず、開口部内で半導体結晶が露出している部分で結晶成長が起こる。絶縁膜の表面では基板が加熱されているため、表面に付着した元素や原料ガスは、一定時間経過した後に、基板表面から気相中へと離散する。絶縁膜の表面におけるInの表面移動距離はGaの表面移動距離よりも長いため、開口部から離れた位置に付着した元素のうち、Inの方がGaよりも多く開口部に到達する。このように開口部の中心間距離が大きい場合には、Inの割合が大きく、膜厚が薄いInGaAs層となる。一方、開口部の中心間距離が小さい場合、Inの表面移動距離およびGaの表面移動距離が開口部の中心間距離よりも長くなり、Gaの割合が大きく、膜厚が厚いInGaAs層となる。この原理は、他のIII−V族化合物半導体を成長させる場合も成り立つ。
【0109】
このように、第1のステップで領域ごとに開口部の中心間距離および/または開口部のサイズを変化させることで、第2のステップで領域ごとに
中心ナノロッドおよび各被覆層の組成ならびに各被覆層の膜厚を変えることができる。
【0110】
第3のステップでは、第1の電極および第2の電極を形成する。
【0111】
以上の手順により、基板上の絶縁膜が2以上の領域に区分されており、絶縁膜に形成された開口部の中心間距離および/またはサイズが領域ごとに異なり、コアマルチシェルナノワイヤの組成も領域ごとに異なる発光素子(レーザー発振器を含む)を製造することができる。
【0112】
たとえば、本発明の製造方法によれば、互いに発光波長の異なる複数のレーザー発振器を同一基板上に同時に製造することができる。
【0113】
以下、図面を参照して本発明の発光素子をより詳細に説明する。
【0114】
(実施の形態1)
実施の形態1では、n型シリコン(111)基板を有する本発明の発光素子の例を示す。
【0115】
図3は、実施の形態1の発光素子の構成を示す断面図である。
図4は、実施の形態1の発光素子のコアマルチシェルナノワイヤの断面図(基板面と平行な断面の図)である。
【0116】
図3に示されるように、実施の形態1の発光素子100は、n型シリコン基板110、絶縁膜120、コアマルチシェルナノワイヤ130、絶縁樹脂140、第1の電極150、第2の電極160、誘電体膜170を有する。
図3および
図4に示されるように、コアマルチシェルナノワイヤ130は、n型III−V族化合物半導体からなる
中心ナノロッド131、n型III−V族化合物半導体からなる第1のバリア層132、i型III−V族化合物半導体からなる量子井戸層133、p型III−V族化合物半導体からなる第2のバリア層134およびp型III−V族化合物半導体からなるキャッピング層135を含む。この発光素子100は、コアマルチシェルナノワイヤ130の下端側から上端側(
図3において白矢印の方向)に向けて光を放出する。
【0117】
n型シリコン基板110は、n型にドープされたシリコン(111)基板である。
【0118】
絶縁膜120は、n型シリコン基板110のコアマルチシェルナノワイヤ130が配置されている面((111)面)を被覆する絶縁性の膜である。絶縁膜120は、例えば膜厚20nmのSiO
2膜である。n型シリコン基板110と
中心ナノロッド131とは直接接触しているので、その界面に絶縁膜120は存在しない。
【0119】
コアマルチシェルナノワイヤ130は、III−V族化合物半導体からなるコアマルチシェル構造のナノワイヤである。
中心ナノロッド131は、n型III−V族化合物半導体(例えば、n型GaAs)からなり、n型シリコン基板110の(111)面上に、その長軸が前記(111)面に対して略垂直になるように配置されている。第1のバリア層132は、n型III−V族化合物半導体(例えば、n型AlGaAs)からなり、
中心ナノロッド131の側面を被覆する。量子井戸層133は、i型III−V族化合物半導体(例えば、i型GaAs)からなり、第1のバリア層132を被覆する。第2のバリア層134は、p型III−V族化合物半導体(例えば、p型AlGaAs)からなり、量子井戸層133を被覆する。キャッピング層135は、p型III−V族化合物半導体(例えば、p型GaAs)からなり、第2のバリア層134を被覆する。第1のバリア層132、量子井戸層133、第2のバリア層134およびキャッピング層135は、
中心ナノロッド131の側面のみを被覆し、
中心ナノロッド131の端面は被覆しない。したがって、
中心ナノロッド131、第1のバリア層132、量子井戸層133、第2のバリア層134およびキャッピング層135の上側の端面は、いずれも外界雰囲気に露出している。
【0120】
絶縁樹脂140は、n型シリコン基板110(絶縁膜120)上においてコアマルチシェルナノワイヤ130間の空隙を埋めるように配置されており、各コアマルチシェルナノワイヤ130を電気的に分離している。絶縁樹脂140は、コアマルチシェルナノワイヤ130と直接接触しておらず、絶縁樹脂140とコアマルチシェルナノワイヤ130との間には、第2の電極160または誘電体膜170が配置されている。絶縁樹脂140の材料は、絶縁性を有する樹脂であれば特に限定されないが、透明絶縁樹脂が好ましい。コアマルチシェルナノワイヤ130内で発生した光を効率よく取り出すためである。
【0121】
第1の電極150は、n型シリコン基板110上に配置されており、n型シリコン基板110に接続されている。第1の電極150は、n型シリコン基板110にオーミック接続されていることが好ましい。第1の電極150は、例えばTi/Au多層膜やTi/Al多層膜などである。
【0122】
第2の電極160は、絶縁樹脂140とコアマルチシェルナノワイヤ130との間および絶縁樹脂140上に配置されている。第2の電極160は、コアマルチシェルナノワイヤ130の側面の一部(上側の部分)を被覆するとともに、コアマルチシェルナノワイヤ130の側面(キャッピング層135)に接続されている。第2の電極160は、コアマルチシェルナノワイヤ130の側面(キャッピング層135)にオーミック接続されていることが好ましい。第2の電極160は、例えばCr/Au多層膜やAuZn合金膜などである。
【0123】
誘電体膜170は、コアマルチシェルナノワイヤ130の側面の一部(第2の電極で被覆されていない下側の部分)および絶縁膜120の一部(コアマルチシェルナノワイヤ130が配置されていない部分)を被覆する絶縁性の膜である。誘電体膜170は、例えば膜厚15nmのAl
2O
3膜および膜厚50nmのSiO
2膜の積層膜、または膜厚50nmのSiO
2膜である。
【0124】
実施の形態1の発光素子100では、
中心ナノロッド131の側面全面に形成されたpn接合において光が発生する。発生した光は、第2の電極160で反射されるため、コアマルチシェルナノワイヤ130の側面ではなく上側の端面から外部に放出される(
図3中の白矢印)。
【0125】
実施の形態1の発光素子100は、レーザー発振器としても動作することができる。そのためには、1)第1のバリア層132および第2のバリア層134の屈折率が量子井戸層133の屈折率よりも
小さくなるように、各層を構成するIII−V族化合物半導体を選択し、かつ2)量子井戸層133の上側の端面(
図3中のA)および下側の端面(
図3中のB)が共振器ミラーとして機能できるように、量子井戸層133を構成するIII−V族化合物半導体、絶縁膜120の材料を選択することが好ましい。このようにすることで、量子井戸層133の上側の端面(
図3中のA)と下側の端面(
図3中のB)との間で光を繰り返し反射させて、光を増幅させることができる。
【0126】
以下、
図5〜7を参照して実施の形態の1の発光素子100の製造方法について説明する。
図5は、コアマルチシェルナノワイヤ130の形成過程を示す模式図である。
図6は、コアマルチシェルナノワイヤ130を形成した後の基板の斜視図である。
図7は、第1の電極150および第2の電極160の形成過程を示す模式図である。
図7では、コアマルチシェルナノワイヤ130の被覆層132〜135を省略している。
【0127】
まず、
図5Aに示されるように、n型シリコン基板110を準備する。このn型シリコン基板110上には、SiO
2からなる膜厚20nmの絶縁膜120が熱酸化法により形成されている。次いで、
図5Bに示されるように、n型シリコン基板110上の絶縁膜120に、フォトリソグラフィー法などを用いて開口部を形成する。次いで、
図5Cに示されるように、MOVPE法により、開口部を通して露出したn型シリコン基板110の(111)面から
中心ナノロッド131を成長させる。このとき、
中心ナノロッド131を成長させる前に、交互原料供給変調法によりn型シリコン基板110の(111)面にIII−V族化合物半導体の薄膜を形成することが好ましい。次に、
図5Dに示されるように、
中心ナノロッド131の側面に第1のバリア層132、量子井戸層133、第2のバリア層134およびキャッピング層135を形成する。以上の手順により、
図6に示されるように、n型シリコン基板110上にコアマルチシェルナノワイヤ130を形成することができる。
【0128】
次に、
図7A(
図5Dと同じ状態)および
図7Bに示されるように、コアマルチシェルナノワイヤ130の周囲を誘電体膜170で被覆する。たとえば、ALD法で膜厚15nmのAl
2O
3膜を形成した後、スパッタリング法で膜厚50nmのSiO
2膜を形成すればよい。ALD法でAl
2O
3膜を形成するのは、SiO
2膜を形成する際にコアマルチシェルナノワイヤ130が損傷を受けないようにするためである。したがって、コアマルチシェルナノワイヤ130の損傷を防止できれば、Al
2O
3膜を形成せずに、プラズマCVD法などでSiO
2膜のみを形成してもよい。誘電体膜170は、ガスエッチングの際にコアマルチシェルナノワイヤ130を保護するとともに(
図7D参照)、コアマルチシェルナノワイヤ130と絶縁樹脂140との間に第2の電極160を形成するための空隙を確保する役割を担っている(
図7E参照)。
【0129】
次に、
図7Cに示されるように、誘電体膜170で被覆されたコアマルチシェルナノワイヤ130を絶縁樹脂140中に包埋する。次いで、
図7Dに示されるように、ガスエッチングなどにより絶縁樹脂140を部分除去して、コアマルチシェルナノワイヤ130の先端部分を露出させる。次いで、
図7Eに示されるように、ウェットエッチングなどによりコアマルチシェルナノワイヤ130の周囲の誘電体膜170を選択的に除去して、コアマルチシェルナノワイヤ130の上側の端面および側面を露出させる。エッチング時間を調整することにより、コアマルチシェルナノワイヤ130の側面の露出面積を任意に調整することができる。
【0130】
次に、
図7Fに示されるように、コアマルチシェルナノワイヤ130と絶縁樹脂140との間の空隙に金属を堆積して第2の電極160を形成する。オーミック接続とするため、第2の電極160を形成した後アニーリングすることが好ましい。次いで、
図7Gに示されるように、コアマルチシェルナノワイヤ130の上部に堆積した金属をコアマルチシェルナノワイヤ130ごと機械研磨して、コアマルチシェルナノワイヤ130の上側の端面を露出させる。これにより、第2の電極160は、コアマルチシェルナノワイヤ130の側面のみを被覆するようになる。最後に、
図7Hに示されるように、n型シリコン基板110の裏面に金属を堆積して第1の電極150を形成する。
【0131】
以上の手順により、実施の形態1の発光素子100を製造することができる。
【0132】
実施の形態1の発光素子は、1)ナノワイヤがIV族半導体基板の(111)面上に配置されており、2)ナノワイヤがコアマルチシェル構造であり、かつ3)ナノワイヤの側面が金属電極(第2の電極)で被覆されているため、従来の半導体発光素子では実現できなかった高輝度化および低消費電力化を両立することができる。
【0133】
(実施の形態2)
実施の形態2では、p型シリコン(111)基板を有する本発明の発光素子の例を示す。
【0134】
図8Aは、実施の形態2の発光素子の構成を示す断面図である。
図8Bは、実施の形態2の発光素子のコアマルチシェルナノワイヤの断面図(基板面と平行な断面の図)である。実施の形態1の発光素子と同じ構成要素については同一の符号を付し、重複箇所の説明を省略する。
【0135】
図8Aに示されるように、実施の形態2の発光素子200は、p型シリコン基板210、絶縁膜120、コアマルチシェルナノワイヤ220、絶縁樹脂140、第1の電極230、第2の電極240、誘電体膜170を有する。
図8Aおよび
図8Bに示されるように、コアマルチシェルナノワイヤ220は、p型III−V族化合物半導体からなる
中心ナノロッド221、p型III−V族化合物半導体からなる第1のバリア層222、i型III−V族化合物半導体からなる量子井戸層223、n型III−V族化合物半導体からなる第2のバリア層224およびn型III−V族化合物半導体からなるキャッピング層225を含む。
【0136】
p型シリコン基板210は、p型にドープされたシリコン(111)基板である。
【0137】
コアマルチシェルナノワイヤ220は、III−V族化合物半導体からなるコアマルチシェル構造のナノワイヤである。実施の形態2の発光素子200のコアマルチシェルナノワイヤ220は、各構成要素の導電型が反対である点を除いては実施の形態1の発光素子のコアマルチシェルナノワイヤと同じである。すなわち、
中心ナノロッド221は、p型III−V族化合物半導体(例えば、p型GaAs)からなる。第1のバリア層222は、p型III−V族化合物半導体(例えば、p型AlGaAs)からなる。量子井戸層223は、i型III−V族化合物半導体(例えば、i型GaAs)からなる。第2のバリア層224は、n型III−V族化合物半導体(例えば、n型AlGaAs)からなる。キャッピング層225は、n型III−V族化合物半導体(例えば、n型GaAs)からなる。
【0138】
第1の電極230は、p型シリコン基板210上に配置されており、p型シリコン基板210に接続されている。第1の電極230は、p型シリコン基板210にオーミック接続されていることが好ましい。第1の電極230は、例えばCr/Au多層膜やAuZn合金膜などである。
【0139】
第2の電極240は、絶縁樹脂140とコアマルチシェルナノワイヤ220との間および絶縁樹脂140上に配置されている。第2の電極240は、コアマルチシェルナノワイヤ220の側面の一部を被覆するとともに、コアマルチシェルナノワイヤ220の側面(キャッピング層225)に接続されている。第2の電極240は、コアマルチシェルナノワイヤ220の側面(キャッピング層225)にオーミック接続されていることが好ましい。第2の電極240は、例えばTi/Au多層膜やTi/Al多層膜などである。
【0140】
実施の形態2の発光素子200は、実施の形態1の発光素子100と同様の手順で作製することができる。
【0141】
実施の形態2の発光素子は、実施の形態1の発光素子と同様に、高輝度化および低消費電力化を両立することができる。
【0142】
(実施の形態3)
実施の形態3では、コアマルチシェルナノワイヤ間の空隙が半絶縁性半導体で充填されている本発明の発光素子の例を示す。
【0143】
図9は、実施の形態3の発光素子の構成を示す断面図である。実施の形態1の発光素子と同じ構成要素については同一の符号を付し、重複箇所の説明を省略する。
【0144】
図9に示されるように、実施の形態3の発光素子300は、n型シリコン基板110、絶縁膜120、コアマルチシェルナノワイヤ130、半絶縁性半導体310、第1の電極150、第2の電極160、誘電体膜170を有する。
図9に示されるように、コアマルチシェルナノワイヤ130は、n型III−V族化合物半導体からなる
中心ナノロッド131、n型III−V族化合物半導体からなる第1のバリア層132、i型III−V族化合物半導体からなる量子井戸層133、p型III−V族化合物半導体からなる第2のバリア層134およびp型III−V族化合物半導体からなるキャッピング層135を含む。
【0145】
半絶縁性半導体310は、n型シリコン基板110(絶縁膜120)上においてコアマルチシェルナノワイヤ130間の空隙を埋めるように配置されており、各コアマルチシェルナノワイヤ130を電気的に分離している。半絶縁性半導体310は、コアマルチシェルナノワイヤ130と直接接触しておらず、半絶縁性半導体310とコアマルチシェルナノワイヤ130との間には、第2の電極160または誘電体膜170が配置されている。半絶縁性半導体310の例には、ドープされていないSiまたはGe、ドープされていないIII−V族化合物半導体などが含まれる。
【0146】
以下、
図10を参照して実施の形態の3の発光素子300の製造方法について説明する。コアマルチシェルナノワイヤ130を形成するまでの手順は、実施例1と同様であるため(
図5〜
図7B参照)、説明を省略する。
【0147】
図10Aに示されるように、コアマルチシェルナノワイヤ130の表面を誘電体膜170で被覆した後に、
図10B、
図10Cに示されるように、半絶縁性半導体310を動径方向に成長させる。これにより、コアマルチシェルナノワイヤ130間の空隙が、半絶縁性半導体310で充填される。次いで、
図10Dに示されるように、ガスエッチングなどにより半絶縁性半導体310を部分除去して、コアマルチシェルナノワイヤ130の先端部分を露出させる。次いで、
図10Eに示されるように、ウェットエッチングなどによりコアマルチシェルナノワイヤ130の周囲の誘電体膜170を選択的に除去して、コアマルチシェルナノワイヤ130の上側の端面および側面を露出させる。エッチング時間を調整することにより、コアマルチシェルナノワイヤ130の側面の露出面積を任意に調整することができる。
【0148】
次に、
図10Fに示されるように、コアマルチシェルナノワイヤ130と半絶縁性半導体310との間の空隙に金属を堆積して第2の電極160を形成する。オーミック接続とするため、第2の電極160を形成した後アニーリングすることが好ましい。次いで、
図10Gに示されるように、コアマルチシェルナノワイヤ130の上部に堆積した金属をコアマルチシェルナノワイヤ130ごと機械研磨して、コアマルチシェルナノワイヤ130の上側の端面を露出させる。これにより、第2の電極160は、コアマルチシェルナノワイヤ130の側面のみを被覆するようになる。最後に、
図10Hに示されるように、n型シリコン基板110の裏面に金属を堆積して第1の電極150を形成する。
【0149】
以上の手順により、実施の形態3の発光素子300を製造することができる。
【0150】
実施の形態3の発光素子は、実施の形態1の発光素子と同様に、高輝度化および低消費電力化を両立することができる。また、実施の形態3の発光素子は、放熱性に優れているため、ジュール熱による発光特性の低下および発光素子の劣化を抑制することもできる。
【0151】
以下、本発明について実施例を参照して詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されない。
【0152】
[実施例1]
1.発光素子の作製
(1)基板の準備
n型シリコン(111)基板を、熱酸化処理して、表面に膜厚20nmのSiO
2膜(絶縁膜)を形成した(
図5A参照)。電子線ビームリソグラフィーおよびウェットケミカルエッチングによりSiO
2膜に周期的に開口部を形成して、シリコン基板の(111)面を露出させた(
図5B参照)。開口部の形状は六角形とし、開口部の直径は100nmとした。開口部の中心間距離は、400nmとした。
【0153】
(2)コアマルチシェルナノワイヤの作製
絶縁膜を形成したシリコン基板を減圧横型MOVPE装置(HR2339;大陽日酸株式会社)にセットした。シリコン基板の温度を925℃に上昇させて5分間維持することで、開口部内のシリコン基板表面に形成された自然酸化膜を除去した。次いで、シリコン基板の温度を925℃から400℃に低下させた。水素化ヒ素ガスを水素ガス(キャリアガス)とともに供給した。水素化ヒ素の分圧は1.3×10
-4atmとした。
【0154】
次に、交互原料供給変調法により開口部内のシリコン基板表面にGaAsの薄膜を形成した。この工程では、トリメチルガリウムガスと水素化ヒ素ガスとを交互に供給した。具体的には、シリコン基板の温度を400℃から750℃に上昇させながら、トリメチルガリウムガスの供給を2秒間、水素ガスによるインターバルを1秒間、水素化ヒ素ガスの供給を2秒間、水素ガスによるインターバルを1秒間の組合せを1サイクルとして、3分間かけて30回繰り返した。
トリメチルガリウムの分圧は1.0×10
-6atmとし、水素化ヒ素の分圧は2.5×10
-4atmとした。
【0155】
次に、シリコン基板表面から開口部を通してn型GaAsナノワイヤ(
中心ナノロッド)を成長させた(
図5C参照)。具体的には、シリコン基板の温度を750℃としてトリメチルガリウムガス、水素化ヒ素ガスおよびモノシランガスを水素ガスとともに供給して、シリコン基板表面から開口部を通して直径100nmのGaAsナノワイヤを成長させた。トリメチルガリウムの分圧は2.5×10
-6atmとし、水素化ヒ素の分圧は1.0×10
-4atmとした。n型GaAsナノワイヤのキャリア濃度は、7×10
17〜2.0×10
18cm
-3とした。
【0156】
次に、n型GaAsナノワイヤ(
中心ナノロッド)の周囲(主として側面)に、n型AlGaAs層(第1のバリア層)、p型GaAs層(量子井戸層)、p型AlGaAs層(第2のバリア層)およびp型GaAs層(キャッピング層)をこの順番で形成した(
図5D参照)。具体的には、シリコン基板の温度を700℃としてトリメチルアルミニウムガス、トリメチルガリウムガス、水素化ヒ素ガスおよびモノシランガスを水素ガスとともに供給して、n型GaAsナノワイヤ(
中心ナノロッド)の側面に膜厚22nmのn型AlGaAs層(第1のバリア層)を形成した。次いで、トリメチルガリウムガス、水素化ヒ素ガスおよびジメチル亜鉛を水素ガスとともに供給して、n型AlGaAs層(第1のバリア層)の上に膜厚3nmのp型GaAs層(量子井戸層)を形成した。次いで、トリメチルアルミニウムガス、トリメチルガリウムガス、水素化ヒ素ガスおよびジメチル亜鉛を水素ガスとともに供給して、p型GaAs層(量子井戸層)の上に膜厚22nmのp型AlGaAs層(第2のバリア層)を形成した。次いで、トリメチルガリウムガス、水素化ヒ素ガスおよびジメチル亜鉛を水素ガスとともに供給して、p型AlGaAs層(第2のバリア層)の上に膜厚10nmのp型GaAs層(キャッピング層)を形成した。トリメチルアルミニウムの分圧は7.5×10
-7atmとし、トリメチルガリウムの分圧は8.2×10
-7atmとし、水素化ヒ素の分圧は1.3×10
-4atmとした。n型AlGaAs層(第1のバリア層)のキャリア濃度は、7×10
17〜2.0×10
18cm
-3とし、p型GaAs層(量子井戸層)のキャリア濃度は、4.8×10
18cm
-3とし、p型AlGaAs層(第2のバリア層)のキャリア濃度は、4.8×10
18cm
-3とし、p型GaAs層(キャッピング層)のキャリア濃度は、4.8×10
18cm
-3とした。
【0157】
この工程により、長さ3μmのコアマルチシェルナノワイヤがシリコン基板表面に形成された。シリコン基板上のコアマルチシェルナノワイヤの密度は、10億本/cm
2以上である。コアマルチシェルナノワイヤの長軸は、シリコン基板の表面に対して垂直であった。
【0158】
図11Aは、コアマルチシェルナノワイヤが周期的に配列されたシリコン基板の走査電子顕微鏡写真(斜視像)である。
図11Bは、コアマルチシェルナノワイヤの構成を示す断面模式図である。
図11Bに示されるように、n型GaAsナノワイヤ(
中心ナノロッド)431は、n型シリコン基板410の(111)面からSiO
2膜(絶縁膜)420の開口部を通して成長している。このn型GaAsナノワイヤ(
中心ナノロッド)431の側面に、n型AlGaAs層(第1のバリア層)432、p型GaAs層(量子井戸層)433、p型AlGaAs層(第2のバリア層)434およびp型GaAs層(キャッピング層)435が積層されている。
図11Cは、コアマルチシェルナノワイヤの断面(
図11BのA−A’線)を示す走査電子顕微鏡写真である。
図11Cの写真から、
図11Bに示されるコアマルチシェル構造が形成されていることがわかる。
【0159】
(3)発光素子の作製
コアマルチシェルナノワイヤを形成したシリコン基板上に誘電体膜を形成した(
図7B参照)。具体的には、ALD法により、膜厚15nmのAl
2O
3膜を形成した後、スパッタリング法により、膜厚50nmのSiO
2膜を形成した。
【0160】
次に、誘電体膜を形成したシリコン基板上に絶縁樹脂(BCB樹脂)膜を形成して、シリコン基板上のコアマルチシェルナノワイヤを絶縁樹脂中に包埋した(
図7C参照)。次いで、反応性イオンエッチングにより絶縁樹脂の上側の一部を除去して、コアマルチシェルナノワイヤの先端を露出させた(
図7D参照)。
図12Aは、コアマルチシェルナノワイヤの先端を露出させた後の素子表面の走査電子顕微鏡写真(斜視像)である。
【0161】
次に、ウェットエッチングにより、コアマルチシェルナノワイヤの上部および側面の一部(上側部分)の誘電体膜を選択的に除去した(
図7E参照)。具体的には、シリコン基板をアンモニウム:過酸化水素:超純水混合水溶液に2秒間浸漬してエッチングを行った。
【0162】
次に、コアマルチシェルナノワイヤが露出した面に第2の電極として膜厚150nmのCr/Au多層膜を形成した(
図7F参照)。第2の電極を形成する際には、コアマルチシェルナノワイヤと絶縁樹脂との空隙に金属が効率的に入り込むように、試料回転機構を有する金属蒸着器を用いた。また、オーミック電極を形成するために、400℃で5分間、窒素雰囲気中でアニールした。
図12Bは、Cr/Au多層膜を形成した後の素子表面の走査電子顕微鏡写真(斜視像)である。
【0163】
次に、コアマルチシェルナノワイヤの先端部分をCr/Au多層膜とともに機械的に研磨して、コアマルチシェルナノワイヤの上側の端面を露出させた。
図12Cは、コアマルチシェルナノワイヤの先端部分を研磨した後の素子表面の走査電子顕微鏡写真(斜視像)である。
【0164】
最後に、シリコン基板の裏面(コアマルチシェルナノワイヤが形成されていない面)に第1の電極として膜厚100nmのTi/Au多層膜またはTi/Al多層膜を形成した(
図7H参照)。
【0165】
図13は、作製した発光素子の構成を示す断面模式図である。
図13に示されるように、p型GaAs層(量子井戸層)433は、下端側の端面においてSiO
2膜420と界面を形成し、上側の端面において外部雰囲気(空気)と界面を形成している。SiO
2膜420の上には、誘電体膜470、絶縁樹脂440およびCr/Au多層膜(第2の電極)460が形成されている。Cr/Au多層膜(第2の電極)460は、コアマルチシェルナノワイヤ430の側面(p型GaAs層(キャッピング層)435)に接続されている。また、Ti/Au多層膜またはTi/Al多層膜(第1の電極)450は、n型シリコン基板410に接続されている。
【0166】
2.作製した発光素子の特性
図14は、作製した発光素子の電流電圧曲線を示すグラフである。内装図は、片対数グラフに変換したものである。この実験では、コアマルチシェルナノワイヤの長さは3μmであり、そのうち上部2μmの部分の側面が第2の電極で被覆されている発光素子を使用した。これらのグラフから、作製した発光素子は、立ち上がり電圧が1.4Vのpn接合ダイオードとして機能していることがわかる。
【0167】
図15は、作製した発光素子の電流注入発光スペクトルを示すグラフである(室温;直流電流駆動)。この実験では、コアマルチシェルナノワイヤの長さは3μmであり、そのうち上部2μmの部分の側面が第2の電極で被覆されている発光素子を使用した。aは、注入電流が0.50mAのときの発光スペクトルを示す(×30)。bは、注入電流が0.65mAのときの発光スペクトルを示す(×20)。cは、注入電流が1.30mAのときの発光スペクトルを示す(×3.0)。dは、注入電流が1.84mAのときの発光スペクトルを示す(×1.5)。eは、注入電流が4.00mAのときの発光スペクトルを示す。fは、この構造の室温におけるフォトルミネセンススペクトルを示す。このグラフから、発光の閾値は、0.5mA(電流密度3.2A/cm
2)であり、作製した発光素子は、市販のGaAs−LEDよりも小さな電流で発光することがわかる。
【0168】
図16は、作製した発光素子のレーザー発振スペクトルを示すグラフである(室温;直流電流駆動)。この実験では、III−V族化合物半導体ナノワイヤの長さは5μmであり、そのうち上部3μmの部分の側面が第2の電極で被覆されている発光素子を使用した。このときの発光の閾値は、0.3mA(電流密度5A/cm
2)であった。また、レーザー発振時の
注入電流は、46mA(電流密度750A/cm
2)であった。この結果から、作製した発光素子は、レーザー発振器としても機能できることがわかる。
【0169】
図17は、ウェットエッチングで形成したコアマルチシェルナノワイヤの周囲の空隙の深さ(第2の電極で被覆されている部分の長さ)と発光素子の閾値電流との関係を示すグラフである(室温;直流電流駆動)。この実験では、コアマルチシェルナノワイヤの長さは5μmの発光素子を使用した。このグラフから、空隙の深さが深く、第2の電極の接触面積が大きいほど、低電流で発光できることがわかる。
【0170】
[実施例2]
実施例1では、コアマルチシェルナノワイヤ間の空隙を絶縁樹脂(BCB樹脂)で充填した発光素子を作製した例を示した。実施例2では、コアマルチシェルナノワイヤ間の空隙を半絶縁性半導体(GaAs)で充填した発光素子を作製した例を示す。
(1)基板の準備およびコアマルチシェルナノワイヤの作製
実施例1と同様の手順で、n型シリコン(111)基板の上にコアマルチシェルナノワイヤを作製した(
図11参照)。
【0171】
(2)発光素子の作製
コアマルチシェルナノワイヤを形成したシリコン基板上に誘電体膜を形成した(
図10A参照)。具体的には、ALD法により、膜厚15nmのAl
2O
3膜を形成した後、スパッタリング法により、膜厚50nmのSiO
2膜を形成した。
【0172】
次に、誘電体膜で被覆されたコアマルチシェルナノワイヤの周囲(主として側面)に半絶縁性GaAs層を形成して、コアマルチシェルナノワイヤを半絶縁性GaAs中に包埋した(
図10B〜10C参照)。具体的には、シリコン基板の温度を700℃として、トリメチルガリウムガスおよび水素化ヒ素ガスを水素ガスとともに供給して、コアマルチシェルナノワイヤ側面のSiO
2膜(誘電体膜)の上にGaAs層を形成した。トリメチルガリウムの分圧は8.2×10
-7atmとし、水素化ヒ素の分圧は1.3×10
-4atmとした。
図18は、コアマルチシェルナノワイヤの周囲(主として側面)に半絶縁性GaAs層を形成した後の素子表面の走査電子顕微鏡写真である。
【0173】
次に、反応性イオンエッチングにより半絶縁性GaAsの上側の一部を除去して、コアマルチシェルナノワイヤの先端を露出させた(
図10D参照)。
【0174】
次に、ウェットエッチングにより、コアマルチシェルナノワイヤの上部および側面の一部(上側部分)の誘電体膜を選択的に除去した(
図10E参照)。具体的には、シリコン基板をアンモニウム:過酸化水素:超純水混合水溶液に2秒間浸漬してエッチングを行った。
【0175】
次に、コアマルチシェルナノワイヤが露出した面に第2の電極として膜厚150nmのCr/Au多層膜を形成した(
図10F参照)。第2の電極を形成する際には、コアマルチシェルナノワイヤと半絶縁性GaAsとの空隙に金属が効率的に入り込むように、試料回転機構を有する金属蒸着器を用いた。また、オーミック電極を形成するために、400℃で5分間、窒素雰囲気中でアニールした。
【0176】
次に、コアマルチシェルナノワイヤの先端部分をCr/Au多層膜とともに機械的に研磨して、コアマルチシェルナノワイヤの上側の端面を露出させた。
【0177】
最後に、シリコン基板の裏面(コアマルチシェルナノワイヤが形成されていない面)に第1の電極として膜厚100nmのTi/Au多層膜またはTi/Al多層膜を形成した(
図10H参照)。
【0178】
前述の通り、
図18は、コアマルチシェルナノワイヤの周囲(主として側面)に半絶縁性GaAs層を形成した後の素子表面の走査電子顕微鏡写真である。この写真から、実施例2の発光素子では、コアマルチシェルナノワイヤ間の空隙が半絶縁性半導体(GaAs)で充填されていることがわかる。
【0179】
本出願は、2009年12月1日出願の特願2009−273561に基づく優先権を主張する。当該出願明細書および図面に記載された内容は、すべて本願明細書に援用される。