特許第5943341号(P5943341)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5943341
(24)【登録日】2016年6月3日
(45)【発行日】2016年7月5日
(54)【発明の名称】単結晶状GeSn含有材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/20 20060101AFI20160621BHJP
   H01L 29/786 20060101ALI20160621BHJP
   H01L 21/336 20060101ALI20160621BHJP
【FI】
   H01L21/20
   H01L29/78 618B
   H01L29/78 627G
【請求項の数】9
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2012-42746(P2012-42746)
(22)【出願日】2012年2月29日
(65)【公開番号】特開2013-179200(P2013-179200A)
(43)【公開日】2013年9月9日
【審査請求日】2014年12月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】100168583
【弁理士】
【氏名又は名称】前井 宏之
(72)【発明者】
【氏名】志村 考功
(72)【発明者】
【氏名】渡部 平司
(72)【発明者】
【氏名】細井 卓治
【審査官】 河合 俊英
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−246310(JP,A)
【文献】 特開2008−288395(JP,A)
【文献】 特開2003−051505(JP,A)
【文献】 特開2007−288127(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/20
H01L 21/336
H01L 29/786
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
単結晶状GeSn含有材料を製造する製造方法であって、
物理成膜法により、Ge及びSn、あるいはGe、Sn及びSiを保持基板上に蒸着させて、前記保持基板にアモルファス状GeSn含有材料を保持させる用意工程と、
Geの融点よりも低い所定温度まで前記アモルファス状GeSn含有材料を昇温する加熱工程と
前記アモルファス状GeSn含有材料を冷却する冷却工程と、
を包含し、集光ランプアニール処理を実施することなく、Snが析出する前に前記アモルファス状GeSn含有材料を結晶化して、前記単結晶GeSn含有材料を製造する、単結晶状GeSn含有材料の製造方法。
【請求項2】
前記加熱工程は、前記アモルファス状GeSn含有材料を前記アモルファス状GeSn含有材料の融点温度以上にまで昇温することにより実行される、請求項1に記載の単結晶状GeSn含有材料の製造方法。
【請求項3】
前記加熱工程は、前記アモルファス状GeSn含有材料を前記アモルファス状GeSn含有材料の融点温度未満にまで昇温することにより実行される、請求項1に記載の単結晶状GeSn含有材料の製造方法。
【請求項4】
前記冷却工程は、前記アモルファス状GeSn含有材料を自然冷却することにより実行される、請求項1〜請求項3のうちの1項に記載の単結晶状GeSn含有材料の製造方法。
【請求項5】
前記冷却工程は、前記アモルファス状GeSn含有材料を一定速度で冷却することにより実行される、請求項1〜請求項3のうちの1項に記載の単結晶状GeSn含有材料の製造方法。
【請求項6】
前記加熱工程は、不活性ガス雰囲気中で実行される、請求項1〜請求項5のうちの1項に記載の単結晶状GeSn含有材料の製造方法。
【請求項7】
前記用意工程は、
前記アモルファス状GeSn含有材料の上にSiO2層を積層する積層工程を包含する、請求項1〜請求項6のうちの1項に記載の単結晶状GeSn含有材料の製造方法。
【請求項8】
前記保持基板は、Si基板、Ge基板、単結晶Ge/Si基板、Si/SiO2/Si基板のうちの1つである、請求項1〜請求項7のうちの1項に記載の単結晶状GeSn含有材料の製造方法。
【請求項9】
前記用意工程では、分子線エピタキシー装置を用いて、Ge及びSn、あるいはGe、Sn及びSiを蒸着させる、請求項1〜請求項8のうちの1項に記載の単結晶状GeSn含有材料の製造方法

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単結晶状GeSn含有材料の製造方法および単結晶状GeSn含有材料基板に関する。
【背景技術】
【0002】
最先端のSi−LSIではMOSFETの微細化によってSi−LSIの性能向上を達成してきたが、MOSFETの微細化の限界のため、キャリアが走行するチャネルに対して高移動度材料(Geや歪みGe等)を用いる手法が検討されている。また、Si−LSIのスイッチング素子だけでなく、Si−LSIに光配線をチップレベルで導入することが検討されている。光配線の発光素子および受光素子の代表的な材料がGeである。Si−LSIの更なる性能向上を実現するためには、Ge−on−insulator(GOI)構造が必要だが、GOI構造の作製法に問題があり、新しい手法が求められている。
【0003】
非特許文献1及び非特許文献2には、GOI構造の新たな作製法として急速加熱液相エピタキシャル成長に関する技術が開示されている。さらに、特許文献1には、Ge基板上に薄膜単結晶GeSn層を多層に積み上げることで単結晶GeSn層を形成する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】T.Hashimoto et.al., Appl.Phys.Express 2 (2009) 066502
【非特許文献2】S.Assefa et.al., Nature 464 (2010) 80
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−288395号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、非特許文献1及び非特許文献2に開示の技術では、Geの融点(938度)以上でGe含有基板を熱処理する必要があった。高温による熱処理のため、採用し得る基板の材料が限定される。例えば樹脂基板やガラス基板は採用し得ない。また、特許文献1に開示の技術では、化学蒸着によって薄膜単結晶GeSn層を多層に積み上げるため、積層速度の高速化に限界があり、さらに作製された単結晶GeSn層には格子欠陥が多く存在する。
【0007】
本発明は上記課題を鑑みてなされたものであり、Ge層やSiGe層にSnを添加することでGeの歪み量を増加させること、Ge層やSiGe層にSnを添加することで単結晶状GeSn含有層の成長温度を下げること、更には、単結晶状GeSn含有層の積層速度を高速化することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明による単結晶状GeSn含有材料の製造方法は、保持基板に保持されたアモルファス状GeSn含有材料を用意する用意工程と、前記アモルファス状GeSn含有材料を加熱する加熱工程と前記アモルファス状GeSn含有材料を冷却する冷却工程とを包含する。
【0009】
ある実施形態において、前記加熱工程は、前記アモルファス状GeSn含有材料を前記アモルファス状GeSn含有材料の融点温度以上にまで昇温することにより実行される。
【0010】
ある実施形態において、前記加熱工程は、前記アモルファス状GeSn含有材料を前記アモルファス状GeSn材料の融点温度未満にまで昇温することにより実行される。
【0011】
ある実施形態において、前記冷却工程は、前記アモルファス状GeSn含有材料を自然冷却することにより実行される。
【0012】
ある実施形態において、前記冷却工程は、前記アモルファス状GeSn含有材料を一定速度で冷却することにより実行される。
【0013】
ある実施形態において、前記加熱工程は、不活性ガス雰囲気中で実行される。
【0014】
ある実施形態において、前記用意工程は、前記アモルファス状GeSn含有材料の上にSiO2層を積層する積層工程を包含する。
【0015】
ある実施形態において、前記保持基板は、Si基板、Ge基板、単結晶Ge/Si基板、Si/SiO2/Si基板のうちの1つである。
【0016】
本発明の単結晶状GeSn含有材料基板は、保持基板と、前記保持基板に保持された単結晶状GeSn含有材料であって、上記に記載の単結晶状GeSn含有材料の製造方法によって製造された単結晶状GeSn含有材料とを備える。
【0017】
ある実施形態において、前記単結晶状GeSn含有材料の上にSiO2層が積層されている。
【0018】
ある実施形態において、前記保持基板は、Si基板、Ge基板、単結晶Ge/Si基板、Si/SiO2/Si基板のうちの1つである。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施形態における単結晶状GeSn層を含む単結晶状GeSn基板の模式図を示す。
図2】本発明の実施形態における単結晶状GeSn基板の製造方法を示すフローチャートである。
図3】単結晶状GeSn基板の断面TEM像およびエネルギー分散型X線分析結果を示す。
図4】EBSDを説明する図である。
図5】EBSDの測定対象を説明する図である。
図6】単結晶状GeSn基板に含まれるGeSn層およびアモルファス状GeSn基板に含まれるGeSn層の分析結果を示す。
図7】単結晶状GeSn基板に含まれた単結晶状GeSn層のEBSDの測定結果を示す。
図8】各種基板に積層されたGeSn層(又はSiGeSn層)を対象とするXRD結果を示す。
図9】様々な温度で熱処理されたGeSn層(又はSiGeSn層)を対象とするXRD結果を示す。
図10】様々な温度保持時間を導入して熱処理形成されたSiGeSn層を対象とする分析結果を示す。
図11】本発明によるTFT製造工程を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されない。
【0021】
[単結晶状GeSn層]
図1は、本発明の実施形態における単結晶状GeSn層120を含む単結晶状GeSn基板100の模式図を示す。単結晶状GeSn基板100は、保持基板110と単結晶状GeSn層120とSiO2層130とを含む。保持基板110は、Si基板110aと単結晶Ge層110bとを含み、単結晶Ge層110bはSi基板110aの上に積層されている。単結晶状GeSn層120は単結晶Ge層110bの上に積層されている。さらに、SiO2層130は単結晶状GeSn層120の上に積層されている。
【0022】
本発明の実施形態において、保持基板110はSi基板110aと単結晶Ge層110bとを含むことに限定されない。単結晶状GeSn層120が保持基板110の上に積層され得る限りは、例えば、保持基板110は、Si基板、Ge基板、Si/SiO2/Si基板のうちの1つであり得る。Si/SiO2/Si基板においては、Si基板の上にSiO2層が積層され、SiO2層の上にSi層が積層される。
【0023】
さらに、本発明の実施形態において、単結晶状GeSn基板100は単結晶状GeSn含有層120を備えるだけでなく、単結晶状GeSn含有層120に代替して単結晶状SiGeSn含有層を備え得る。単結晶状SiGeSn含有層を備えた基板は、単結晶状SiGeSn基板として機能する。
【0024】
さらにまた、本発明の実施形態において、SiO2層130を含むことに限定されない。保持基板110の上に単結晶状GeSn含有層120が積層されている限りは、SiO2層130は必須ではない。更に、保持基板110も必須ではない。
【0025】
[単結晶状GeSn基板製造方法]
図2は、本発明の実施形態における単結晶状GeSn基板100の製造方法を示すフローチャートである。ステップS302、ステップS304を実行することによって、アモルファス状GeSn基板200から単結晶状GeSn基板100が製造される。アモルファス状GeSn基板200は、保持基板110とアモルファス状GeSn層220とSiO2層130とを含む。アモルファス状GeSn層220は保持基板110の上に積層されている。さらに、SiO2層130はアモルファス状GeSn層220の上に積層されている。
【0026】
以下、ステップS302及びステップS304を説明する。
【0027】
ステップS302:保持基板110に保持されたアモルファス状GeSn層220を用意する。
【0028】
ステップS302は、アモルファス状GeSn基板200を用意することで実行し得るが、保持基板110の上にアモルファス状GeSn層220を積層し、更にアモルファス状GeSn層220の上にSiO2層130を積層する工程によっても実行され得る。
【0029】
ステップS302を実行した後に、ステップS304を実行する。
【0030】
ステップS304:アモルファス状GeSn層220を加熱し、さらに、加熱したアモルファス状GeSn層220を冷却する。
【0031】
アモルファス状GeSn層220への加熱は、アモルファス状GeSn層220をアモルファス状GeSn層220の融点温度以上にまで昇温することにより実行されるが、昇温温度は、アモルファス状GeSn層220の融点温度未満でもあり得る。昇温スピードは特に限定されないが、例えば、一定速度(例えば、20℃/sec)であり得る。
【0032】
加熱したアモルファス状GeSn層220への冷却は、アモルファス状GeSn層220を自然冷却することにより実行されるが、一定速度(例えば、20℃/sec)で冷却することでも実行され得る。
【0033】
アモルファス状GeSn層220をアモルファス状GeSn層220の融点温度以上にまで昇温した後、一定時間温度保持した後に、アモルファス状GeSn層220を冷却し始める。なお、温度保持時間は、例えば1〜2分であるが、温度を一定時間保持することなくアモルファス状GeSn層220を冷却し始めることができる。
【0034】
なお、加熱・冷却は、不活性ガス雰囲気中(例えばN2ガス中)で行い得る。
【0035】
ステップS304を実行することでアモルファス状GeSn層220が単結晶状GeSn層120に結晶化され、単結晶状GeSn基板100の製造が完成する(ステップS306)。
【0036】
[単結晶状GeSn基板のTEM像]
図3は、単結晶状GeSn基板100の断面TEM像およびエネルギー分散型X線分析(EDX:Energy dispersive X−ray spectrometry)結果を示す。図3で示した単結晶状GeSn基板100として、Si基板110a上に64nm厚のGe層110bをエピタキシャル成長させたものを用いた。分子線エピタキシー装置を用いて、アモルファス状Ge1-xSnx層を室温で82nm蒸着し、さらにスパッタ法にてキャップSiO2層130を100nm成膜させた。さらに、N2雰囲気中で800℃まで加熱し、1分間温度保持した後、室温にまで自然冷却した。初期Sn組成は6%であった。
【0037】
図3(a)は、単結晶状GeSn基板100の断面TEM像を示す。図3(b)は、単結晶状GeSn基板100の単結晶状GeSn層120とSiO2層130との積層部分の断面TEM像を示す。図3(c)は、単結晶状GeSn基板100のSi基板110aとGe層110bとの積層部分の断面TEM像を示す。Ge1-xSnx(x=0.06)の融点(910℃)よりも十分低い温度(800℃)での加熱処理にも関わらず、良好な結晶性を持つ単結晶Ge1-xSnx層が形成されていることがわかる。
【0038】
図3(d)は、単結晶状GeSn層120のEDX結果を示す。EDX結果からGe1-xSnxのSn組成は2.4%程度であることが確認できた。
【0039】
[GeSn層の測定・評価]
単結晶状GeSn基板100に含まれるGeSn層およびアモルファス状GeSn基板200に含まれるGeSn層をX線回折(XRD:X−ray diffraction)、X線光電子分光(XPS:X−ray Photoelectron Spectroscopy)分析、および電子線後方散乱回折(EBSD:Electron Backscatter Diffraction)によって測定し、評価した。以下、図4図10を参照して、GeSn層の測定・評価の内容を説明する。
【0040】
図4は、EBSDを説明する図である。測定原理は以下のとおりである。試料1に電子線2を照射すると、試料表面で生じる電子線後方散乱回折により菊池線回折図形すなわちEBSDパターン3が観測される。得られたEBSDパターン3を解析することにより結晶方位を測定することができる。試料1の表面を電子線で走査することによって、試料1の表面の結晶方位分布を得る。
【0041】
図5は、EBSDの測定対象を説明する図である。測定対象は、単結晶状GeSn基板100に含まれる単結晶状GeSn層120である。始めに単結晶状GeSn基板100を用意した(図5(a)参照)。次に、単結晶状GeSn基板100からSiO2層130をフッ酸でエッチングし、単結晶状GeSn層120を露出させた(図5(b)参照)。次にEBSDにより単結晶状GeSn層120の表面の結晶性を評価した(図5(c)参照)。測定対象(単結晶状GeSn層120)から得られたEBSDパターンを解析することによって、測定対象の結晶方位を測定することができた。
【0042】
図6は、単結晶状GeSn基板100に含まれるGeSn層およびアモルファス状GeSn基板200に含まれるGeSn層の分析結果を示す。
【0043】
図6(a)は、アモルファス状GeSn層220に含まれるGeSn層の分析結果を示す。図6(a1)はXRD結果を示し、図6(a2)はXPS分析結果を示し、図6(a3)はEBSD結果を示す。XRD結果によれば、単結晶Ge層のピーク強度がGeSn層を積層する前と比べて変化していないということからGeSn層がアモルファス状であることが確認できた。EBSD結果によって、アモルファス状GeSn層220に含まれるGeSn層はアモルファス状であることが確認できた。
【0044】
図6(b)は、単結晶状GeSn層120に含まれるGeSn層の分析結果を示す。単結晶状GeSn層120は、昇温800℃、保持時間1分間の処理後の層であり、図3を参照して説明した単結晶状GeSn層120と同一対象である。図6(b1)はXRD結果を示し、図6(b2)はXPS分析結果を示し、図6(b3)はEBSD結果を示す。XRD結果によれば、図6(a1)と比較して、ピーク強度が強くなっているということからGeSn層が単結晶状であることが確認できた。EBSD結果によって、単結晶状GeSn層120に含まれるGeSn層が単結晶状であることが確認できた。
【0045】
図6(b1)において、XRD結果はX線逆格子マップで示される。図6(b3)において、GeSn層は(001)面を有していることが確認できた。なお、図3(d)からSn組成は2.4%程度と見積もることができる。
【0046】
単結晶状GeSn層120に含まれるGeSn層の分析結果により、Ge1-xSnx(x=0.06)の融点は910℃であり、融点よりも極めて低い温度での短時間熱処理でエピタキシャル成長を確認することができた。
【0047】
図7は、単結晶状GeSn基板100に含まれた単結晶状GeSn層120のEBSDの測定結果を示す。具体的には、単結晶状Ge/Si基板に含まれたGeSn層と単結晶状Ge基板に含まれたGeSn層とを対象として、熱処理前のアモルファス状GeSn層の初期Sn組成、熱処理温度、熱処理時間及び熱処理後のGeSn層の表面の結晶性を示す。
【0048】
図7において、得られた結晶方位分布を色分けして示している。同じ色であるということは同じ結晶方位であることを示しており、図7はモノクロデータであり、黒色は(001)面であることを示している。エピタキシャルGe/Si基板及びGe基板のいずれも(001)面を有しており、GeSn層で黒色を示しているということはGeSn層も基板と同じ(001)面を有しており、GeSn層がエピタキシャル成長により単結晶として結晶化したことが確認できる。
【0049】
初期Sn組成が6%の場合、エピタキシャルGe/Si基板及びGe基板のいずれも550℃、1minの熱処理でGeSn層がエピタキシャル成長しており、500℃以下ではアモルファス構造のままであることが確認できる。しかしながら、初期Sn組成を13%にすると500℃、1minの熱処理でもGeSn層がエピタキシャル成長している。これは、初期Sn組成を増加させることにより、さらに低温でのエピタキシャル成長ができることを示している。
【0050】
図8は、各種基板に積層されたGeSn層(又はSiGeSn層)を対象とするXRD結果を示す。図8(a)は単結晶Ge/Si基板に積層されたSiGeSn層(800℃での熱処理)を対象とするXRD結果であり、図8(b)は、Si基板に積層されたSiGeSn層(800℃での熱処理)を対象とするXRD結果であり、図8(c)は、Ge基板に積層されたGeSn層(600℃での熱処理)を対象とするXRD結果であり、図8(d)は、Si/SiO2/Si基板に積層されたSiGeSn層(800℃での熱処理)を対象とするXRD結果である。EBSDの測定結果をも参照して、GeSn層やSiGeSn層がエピタキシャル成長により単結晶化したことを確認した。
【0051】
図9は、様々な温度で熱処理して形成されたGeSn層(又はSiGeSn層)を対象とするXRD結果を示す。保持基板は単結晶Ge/Si基板であり、熱処理時における温度保持時間は1分間である。
【0052】
図9(a)は、928℃で熱処理して形成されたSiGeSn層を対象とするXRD結果である。更に、EBSDの測定結果をも参照すればSiGeSn層は(001)面を有しており、アモルファス状GeSn層がエピタキシャル成長により単結晶化したことを確認できた。
【0053】
図9(b)は、800℃で熱処理して形成されたSiGeSn層を対象とするXRD結果である。図3を参照して説明した単結晶状GeSn層120と同一対象である。図3(d)からSn組成は2.4%程度と見積もることができる。更に、EBSDの測定結果をも参照すればSiGeSn層は(001)面を有しており、アモルファス状GeSn層がエピタキシャル成長により単結晶化したことを確認できた。
【0054】
図9(c)は、700℃で熱処理して形成されたGeSn層を対象とするXRD結果であり、この反射の位置からSn組成は3.0%程度と見積もることができた。更に、EBSDの測定結果をも参照すればGeSn層は(001)面を有しており、アモルファス状GeSn層がエピタキシャル成長により単結晶化したことを確認できた。
【0055】
図9(d)は、600℃で熱処理して形成されたGeSn層を対象とするXRD結果であり、この反射の位置からSn組成は3.2%程度と見積もることができた。更に、EBSDの測定結果をも参照すればGeSn層は(001)面を有しており、アモルファス状GeSn層がエピタキシャル成長により単結晶化したことを確認できた。
【0056】
図9(e)は、550℃で熱処理して形成されたGeSn層を対象とするXRD結果であり、この反射の位置からSn組成は3.6%程度と見積もることができた。更に、EBSDの測定結果をも参照すればGeSn層は(001)面を有しており、アモルファス状GeSn層がエピタキシャル成長により単結晶化したことを確認できた。
【0057】
アモルファス状GeSn層220への加熱は、アモルファス状GeSn層220をアモルファス状GeSn層220の融点温度以上にまで昇温することにより実行されるが、図9を参照すれば、昇温温度は、アモルファス状GeSn層220の融点温度未満でもあり得ることを確認できる。
【0058】
図10は、様々な温度保持時間を導入して熱処理形成されたSiGeSn層を対象とする分析結果を示す。保持基板は単結晶Ge/Si基板であり、熱処理温度は928度である。
【0059】
図10(a1)は、昇温終了後から冷却開始までの温度保持時間が1分間で熱処理形成されたSiGeSn層を対象とするXRD結果であり、図10(a2)は、温度保持時間が1分間で熱処理形成されたSiGeSn層を対象とするXPS結果である。EBSDの測定結果をも参照すればSiGeSn層は(001)面を有しており、アモルファス状GeSn層がエピタキシャル成長により単結晶化したことを確認できた。
【0060】
図10(b1)は、昇温終了後から冷却開始までの温度保持時間が0分間(温度保持時間なし)で熱処理形成されたSiGeSn層を対象とするXRD結果であり、図10(b2)は、温度保持時間が0分間で熱処理形成されたSiGeSn層を対象とするXPS結果である。EBSDの測定結果をも参照すればSiGeSn層は(001)面を有しており、アモルファス状GeSn層がエピタキシャル成長により単結晶化したことを確認できた。
【0061】
図10を参照すれば、温度保持時間は、例えば1〜2分であるが、温度保持することなくアモルファス状GeSn層220を冷却し始め得ることが確認できる。
【0062】
以上、図1図10を参照して、本発明による単結晶状GeSn含有材料の製造方法および単結晶状GeSn含有材料基板を説明した。本発明による単結晶状GeSn含有材料の製造方法および単結晶状GeSn含有材料基板によれば、Ge層にSnを添加することでGeの歪み量を増加させること、Ge層にSnを添加することで単結晶GeSn層の成長温度を下げること、更には、単結晶GeSn層の積層速度を高速化することが可能になる。Snの融点は232℃で、SiやGeに混ぜることにより成長の低温化を促進している。また、一般にはSiやGeに対するSnの固溶度は1%以下であるが、室温でアモルファス状態で混ぜることにより高濃度のGeSnを形成することができ、また、急速加熱処理によりSnの析出前に成長を行い得る。
【0063】
本発明はSi層またはGe基板上にSn添加アモルファスGe層を堆積後、急速昇温熱処理により単結晶SiGeSnまたは単結晶GeSnを形成する方法である。Snを添加することによりSiGeSnやGeSnの融点以下の熱処理で単結晶層を形成する点が従来技術と比べ新しく、革新的である。
【0064】
なお、本発明において、単結晶状GeSn基板や単結晶状SiGeSn基板は、単結晶状GeSn含有材料基板として機能する。また、単結晶状GeSn層や単結晶状SiGeSn層は単結晶状GeSn含有材料として機能する。さらに、アモルファス状GeSn層やアモルファス状SiGeSn層はアモルファス状GeSn含有材料として機能する。更にまた、単結晶状GeSn基板の製造方法は単結晶状GeSn含有材料の製造方法として機能する。
【0065】
本発明は、様々な工業分野に適用可能である。以下、図11を参照して、本発明の適用例の一部を説明する。
【0066】
[適用例1:MOSFETの製造]
GOI構造の新たな作製法として急速加熱液相エピタキシャル成長に関する技術があるが、Geの融点(938度)以上でGe含有基板を熱処理する必要があった。しかし、本発明の実施形態によれば、700℃以下でGe含有基板を熱処理し得るという基板処理の低温化が可能となる。
【0067】
本発明による単結晶状GeSn含有材料の製造方法および単結晶状GeSn含有材料基板は、MOSFETのソース・ドレイン(歪みGeをチャンネルとする)、あるいは、MOSFETのチャンネル自体に適用し得る。
【0068】
[適用例2:TFTの製造]
ディスプレイの大型化、高機能化のため、ディスプレイで用いられるTFTの高性能化が求められている。ガラス基板上に形成したSiやGeの結晶化のために様々な手法が検討されているが、単結晶化には至っていない。本発明による単結晶状GeSn含有材料の製造方法および単結晶状GeSn含有材料基板によれば、低温化が可能となりガラス基板上に単結晶GeSnを形成することが可能でTFTの大幅な高性能化を実現できる。本発明により作製された単結晶状GeSn含有材料は、TFTのソース・ドレインやTFTのチャンネルに適用し得る。
【0069】
図11は、本発明によるTFT製造工程を示す。始めに、ガラス基板402上にゲート電極404及びゲート絶縁膜406を形成する((a)参照)。次に、インプリントによりガラス基板402上にseed408を形成する((b)参照)。次に、アモルファス状GeSn層410を積層する((c)参照)。次に、アモルファス状GeSn層410をパターニングする((d)参照)。次にSiO2層412を積層する。さらに加熱、冷却することでパターニングしたアモルファス状GeSn層410から単結晶状SiGeSn層414(単結晶状GeSn含有材料)を作製する((e)参照)。最後に、単結晶状SiGeSn層412からソース電極416とドレイン電極418とを形成する((f)参照)。ガラス基板402上にseed408を形成し、アモルファス状GeSn層410とSiO2層412とを形成後、本発明の急速加熱処理を施すことで、基板面内への結晶成長が促される。
【0070】
[適用例3:太陽電池の製造]
本発明により作製された単結晶SiGeSn(単結晶状GeSn含有材料)は、太陽電池の光吸収層に適用し得る。例えば、本発明の単結晶SiGeSnを用いた4層接合型太陽電池は、次の工程を実施することで製造される。4層は、例えば、InGaP/InGaAs/SiGeSn/Geである。始めにGe基板上にアモルファス状SiGeSnを成膜する。次にSiO2層(キャップ層)を形成後、急速加熱処理により結晶成長を行う。次に、SiO2層を剥離し、MOCVDでInGaP/InGaAsを積層する。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明によれば、MOSFET、TFT、太陽電池などの様々な工業分野に利用可能である。
【符号の説明】
【0072】
100 単結晶状GeSn基板
110 保持基板
120 単結晶状GeSn層
130 SiO2層
200 アモルファス状GeSn基板
220 アモルファス状GeSn層
図1
図2
図5
図11
図3
図4
図6
図7
図8
図9
図10