【実施例】
【0037】
以下、実施例等に基づいて本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0038】
〔実施例1:ストレス性睡眠障害マウスにおける概日リズムの改善〕
ストレス性睡眠障害を誘発したマウスを用い、マウスの自発行動量(輪回し行動量。以下「活動量」ともいう。)を指標としてSBL88株の菌体処理物による概日リズムの改善効果を評価した。
【0039】
<菌体処理物の調製>
SBL88株を培地(組成:マルトース2質量%、酵母エキス1.4質量%、酢酸ナトリウム0.5質量%、硫酸マンガン0.005質量%、pH6.5〜7.0)に植菌し、30℃で1日間静置培養した。得られた培養液(約8×10
8cfu/ml)を8,000rpmで10分間遠心分離し、菌体を回収した。回収した菌体を蒸留水に再懸濁し、8,000rpmで10分遠心分離し、菌体を回収した。この操作を2度繰り返した。回収した菌体を蒸留水に懸濁し、105℃で10分間加熱処理した後、凍結乾燥して加熱処理菌体粉末(菌体処理物)を得た。
【0040】
<マウス飼料の調製>
粉末飼料CE−2(日本クレア株式会社製)にSBL88株の菌体処理物を0.5質量%添加した後、ペレット化して菌体処理物を含むマウス飼料(SBL88含有CE−2飼料)を調製した。対照として、粉末飼料CE−2をペレット化して菌体処理物を含まないマウス飼料(CE−2飼料)を調製した。
【0041】
<マウスの飼育>
全期間を通して、マウスを回転かご(SW−15S、有限会社メルクエスト)内で飼育した。マウスの活動量は、クロノバイオロジーキット(Stanford Software Systems,CA)を用いて測定した。
【0042】
C3H/HeN系統のマウス(3週齢の雄性、日本エスエルシー株式会社)を明期12時間、暗期12時間の明暗サイクル下(8:00点灯、20:00消灯)で2週間飼育した(馴化飼育期間)。馴化飼育期間後、マウスを2群(各群12匹)に分け、対照群には食餌としてCE−2飼料を、被検群(SBL88群)には食餌としてSBL88含有CE−2飼料を与え、4週間自由摂食させた(非ストレス飼育期間)。
【0043】
<マウスへのストレス負荷>
非ストレス飼育期間後、物理的に遮蔽してマウスが回転輪から降りられないように制限することにより、ストレス性睡眠障害を2週間連続的に誘発した(ストレス飼育期間)。このストレス性睡眠障害マウスは、一般的な睡眠障害に外挿できるリズム障害を示す。また、総活動量がやや低下するとともに、明期暗期ともに活動が見られる行動リズムの乱れが観察される。特に明期前半の過活動が特徴である。またこれに連動するように、明期前半の睡眠量低下、活動期(暗期)における睡眠量の増加が認められる。
【0044】
<マウスの行動パターン観察>
図1は、マウスの1日の行動パターンを示す図である。
図1中、縦軸は飼育期間を表し、非ストレス飼育期間の開始日を0週間(0w)、馴化飼育期間の開始日をマイナス2週間(−2w)で表す。横軸は時刻を表す。ドットはマウスの輪回し行動が観察されたことを示す。なお、
図1(A)はストレス負荷していないマウスの行動パターンを、
図1(B)はストレス負荷したマウスの行動パターン(非ストレス飼育期間4w経過時点からストレス負荷開始)を示す。
図1より、明期(8〜20時:睡眠時間帯)では、ほとんど輪回し行動が観察されないことが分かる(ドットが少ない)。一方、暗期(20〜8時:活動時間帯)では、活発に輪回し行動を行っていることが分かる(ドットが多い)。また、マウスに上記ストレスを与えることで、明期におけるドットの増加及び暗期におけるドットの減少が観察され、行動パターンが乱れることが分かる。
【0045】
<ストレス負荷マウスの活動量>
ストレス飼育期間における暗期(20〜8時:活動時間帯)と明期(8〜20時:睡眠時間帯)とで、対照群とSBL88群の1日あたりの活動量を比較した。
図2は、暗期における1日あたりの活動量を示すグラフである。
図3は明期における1日あたりの活動量を示すグラフである。
図2及び
図3において、ストレス飼育期間(2週間)の最初の1週間を前期とし、残りの1週間を後期とした。
【0046】
図2に示すとおり、SBL88群は対照群に対して暗期(活動時間帯)の活動量が統計上有意に増加した(各期間のp値(t−検定):前期(0.02)、後期(0.05))。一方、明期(睡眠時間帯)における活動量には、SBL88群と対照群との間に統計的な有意差は認められなかった(
図3)。
【0047】
図4は、明期初期(8〜11時)の活動量を1日の総活動量に対する相対活動量(%)で表し、SBL88群と対照群とを比較したグラフである。マウスのストレス下での特徴的な行動パターンとして、暗期の活動量低下、及び明期初期(8〜11時)の過活動が認められる。
図4に示したグラフはこの過活動の指標となる。ストレス負荷前1週間の間は、SBL88群と対照群との間に相対活動量の差異は認められなかった(
図4)。一方、ストレス負荷後1週間の間は、対照群に比べてSBL88群の相対活動量は低かった(
図4)。SBL88群は、ストレス下での明期初期の活動亢進(過活動)が抑制される傾向にあった。
【0048】
図5は、ストレス負荷開始前7日間(非ストレス)又はストレス負荷開始後6日間(ストレス)の間におけるSBL88群と対照群の活動量の概日リズムを示すグラフである。
図5のグラフの縦軸は、SBL88群及び対照群の1時間毎の回転輪の回転数(平均値±標準誤差、n=12)を示す。各個体の活動量として、ストレス負荷開始前7日間の平均値、及びストレス負荷開始後6日間の平均値を用いた。
【0049】
マウスは夜行性であるため、明暗サイクル下で飼育すると自発行動(輪回し行動)は暗期に集中する。暗期における活動量にも変動があり、暗期の前半に活動量が多く、暗期の中盤にかけて行動量の低下がみられる。非ストレス下及びストレス下のいずれにおいても、SBL88群は、対照群と比較して、暗期中盤における活動量が有意に増加した(
図5)。
【0050】
ストレス性睡眠障害マウスでは、明期前半の過活動と、本来の活動時間帯である暗期の自発行動量の減少が観察される(例えば、
図5中、対照群の非ストレス及びストレスの比較)。SBL88群では、ストレス性睡眠障害の誘発による明期前半の過活動が抑制され(
図4)、かつ暗期の活動量の減少が有意に抑制された(
図5)。
【0051】
ストレス性睡眠障害を誘発したマウスは、活動時間帯の活動量が減少するが、SBL88株の菌体処理物を食していたマウスの活動量の減少は有意に抑制された(
図2、
図5)。また、一般的に、薬物等(例えば、覚醒剤である「メタンフェタミン」)で活動時間帯の活動量を増加させようとした場合、睡眠時間帯の活動量も増加してしまう。一方、SBL88の菌体処理物を食していたマウスは、睡眠時間帯の活動量は対照群と変わらなかった(
図3)。すなわち、本発明の概日リズム改善剤によれば、睡眠障害からの“自然”な回復が可能である。
【0052】
〔実施例2:時計遺伝子の発現量変化〕
実施例1における、ストレス負荷最終日(2週間負荷後)の午前8〜10に殺処分したマウスの大腸から全mRNAを抽出した後、定量PCR法にて時計遺伝子(Per1、Per2、BMAL1)の発現量を調べた。
【0053】
図6は、大腸の時計遺伝子(Per1、Per2、BMAL1)の発現量の解析結果を示すグラフである。
図6中、時計遺伝子の発現量は、β−Actinに対する比として示してある。SBL88群では、対照群と比較して、Per2及びBMAL1遺伝子の発現量が有意に減少した(
図6)。すなわち、SBL88の菌体処理物の投与により、睡眠障害ストレスにより増加した時計遺伝子(例えば、Per2及びBMAL1)の発現量が正常な発現量に調節されることで、概日リズムが改善された。