特許第5943342号(P5943342)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5943342
(24)【登録日】2016年6月3日
(45)【発行日】2016年7月5日
(54)【発明の名称】概日リズム改善剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/747 20150101AFI20160621BHJP
   A61K 35/74 20150101ALI20160621BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20160621BHJP
   A61P 25/26 20060101ALI20160621BHJP
   A23L 33/10 20160101ALI20160621BHJP
   A23L 2/52 20060101ALI20160621BHJP
【FI】
   A61K35/747
   A61K35/74 A
   A61P25/00
   A61P25/26
   A23L33/10
   A23L2/00 F
【請求項の数】10
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-46806(P2012-46806)
(22)【出願日】2012年3月2日
(65)【公開番号】特開2013-181005(P2013-181005A)
(43)【公開日】2013年9月12日
【審査請求日】2015年2月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】303040183
【氏名又は名称】サッポロビール株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000002196
【氏名又は名称】サッポロホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100176773
【弁理士】
【氏名又は名称】坂西 俊明
(72)【発明者】
【氏名】大石 勝隆
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 歴
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 奈々子
(72)【発明者】
【氏名】山本 幸織
(72)【発明者】
【氏名】中北 保一
(72)【発明者】
【氏名】金田 弘挙
【審査官】 高橋 樹理
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−036158(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/120713(WO,A1)
【文献】 特開2012−017282(JP,A)
【文献】 国際公開第2005/094849(WO,A1)
【文献】 Jpn J Physiol.,1981年,Vol.31 No.6,pp.957-961
【文献】 喉頭,2010年,Vol.22,pp.77-82
【文献】 Ann N Y Acad Sci.,2005年 4月,Vol.1040,pp.508-511
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/00
A23L 2/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳酸菌の菌体又はその処理物を有効成分として含有する概日リズム改善剤(但し、発酵ホエーを含有するものを除く。)
【請求項2】
前記乳酸菌が、ラクトバチラス・ブレビス(Lactobacillus brevis)に属する乳酸菌である、請求項1に記載の概日リズム改善剤。
【請求項3】
前記乳酸菌が、ラクトバチラス・ブレビス(Lactobacillus brevis)SBC8803(受託番号:FERM BP−10632)である、請求項1又は2に記載の概日リズム改善剤。
【請求項4】
時計遺伝子のmRNA発現量を正常化させることに基づくものである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の概日リズム改善剤。
【請求項5】
前記時計遺伝子が、Per2又はBmal1である、請求項4に記載の概日リズム改善剤。
【請求項6】
概日リズム睡眠障害改善用である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の概日リズム改善剤。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の概日リズム改善剤の概日リズム改善用飲食品の製造における使用。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の概日リズム改善剤を含有する概日リズム改善用医薬品。
【請求項9】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の概日リズム改善剤を含有する概日リズム改善用飲食品。
【請求項10】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の概日リズム改善剤を含有する概日リズム改善用飲食品添加物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概日リズム改善剤に関する。
【背景技術】
【0002】
概日リズム(サーカディアンリズム)は、約24時間の周期で変動する生理現象である。概日リズムは、脳波、ホルモン分泌、細胞の再生等の生命活動にも存在しており、睡眠及び摂食のパターン決定において重要な役割を果たしている。概日リズムの乱れや概日リズム機能の低下等により、例えば、睡眠障害、不眠症、自律神経失調症及び内分泌障害等の様々な変調が引き起こされる。
【0003】
このような観点から、概日リズムの乱れや概日リズム機能を回復することのできる概日リズム改善剤は有用である。例えば、特許文献1には豆乳の乳酸菌発酵物を有効成分とする、概日リズムを調節する機能性組成物が開示されている。また、特許文献2には、ホエーを有効成分として含む概日リズム改善剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−179573号公報
【特許文献2】国際公開第2005/094849号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
現代社会においては、昼夜の乱れや不規則な食生活のため、概日リズムの乱れや概日リズム機能の低下等により、日本人の5人に1人(特に、60歳以上では3人に1人)が何らかの睡眠障害を患っていると言われている。睡眠障害は、うつ病や不登校などの精神疾患、高血圧、心疾患及び脳血管障害等の危険因子であると共に、交通事故の原因になる等様々な社会問題を引き起こす原因になる。また、2006年の日本の睡眠障害による経済損失は、3兆5千億円/年と発表されている。
【0006】
睡眠障害の改善に用いられている抗うつ薬や精神安定剤等は、連続して投薬することにより依存性が生じたり、副作用を生じたりする等の危険性を伴っている。したがって、このような危険性を低減させた、よりマイルドな作用を示すような薬や食品の開発が待ち望まれている。また、概日リズムの改善を介して睡眠障害等を改善できればより効果的である。
【0007】
このような概日リズム改善剤として、これまでにいくつかのものが知られている(例えば、特許文献1及び2)。しかしながら、消費者の多様なニーズを満たすためには、未だ充分な選択肢が存在するとは言えない。そこで、本発明は、新規の概日リズム改善剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、乳酸菌であるラクトバチラス・ブレビス(Lactobacillus brevis)SBC8803の菌株又はその処理物そのものに、概日リズムを改善する作用があることを見出した。本発明はこの新規な知見に基づくものである。
【0009】
すなわち、本発明は、乳酸菌の菌体又はその処理物を有効成分として含有する概日リズム改善剤を提供する。
【0010】
乳酸菌は古くから発酵食品に利用されており、生体への安全性が確立されている。したがって、上記概日リズム改善剤は、依存性が生じたり、副作用を生じたりする等の危険性がない。また、これまでに乳酸菌発酵物(豆乳の乳酸菌発酵物、ホエー等)により概日リズムを改善するとの報告はあるが、乳酸菌の菌体又はその処理物そのものが概日リズムを改善することは知られていない。乳酸菌発酵物はそれ自体が有する風味のため、添加できる飲食品等が限定されるが、乳酸菌の菌体又はその処理物そのものは、特別の風味等を生じないため、幅広い飲食品等に添加することができる。この点でも上記概日リズム改善剤は有利である。
【0011】
上記乳酸菌は、ラクトバチラス・ブレビス(Lactobacillus brevis)に属する乳酸菌であることが好ましく、ラクトバチラス・ブレビスSBC8803であることがより好ましい。これにより、より一層優れた概日リズムの改善効果を得ることができる。
【0012】
また、ラクトバチラス・ブレビスは、古くから発酵食品に利用されている乳酸菌の一種であり、生体への安全性が充分に確立されている。生体への安全性が高いことから、長期間継続的に摂取することも可能である。
【0013】
なお、ラクトバチラス・ブレビスSBC8803は、2006年6月28日に独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6(郵便番号305−8566))に寄託された、受託番号がFERM BP−10632の菌株である。本明細書において、この菌株を「SBL88株」とも称する。
【0014】
上記概日リズム改善剤は、時計遺伝子のmRNA発現量を正常化させることができる。したがって、上記概日リズム改善剤による概日リズムの改善効果は、少なくともその一部として、時計遺伝子のmRNA発現量を正常化させることに基づいて得られるものである。上記時計遺伝子としては、例えば、Per2又はBmal1が挙げられる。
【0015】
上記概日リズム改善剤は、概日リズムの改善を通じて睡眠覚醒リズムを改善することができるため、概日リズム睡眠障害(サーカディアンリズム睡眠障害)改善用としてもよい。概日リズム睡眠障害は、例えばストレスによって引き起こされ、睡眠時間帯における活動量の増加、及び活動時間帯における活動量の低下を引き起こす。すなわち、例えば、夜充分な睡眠がとれず、昼間居眠りをしてしまうといった変調を引き起こす。一般的に、薬等(例えば、覚醒剤である「メタンフェタミン」)で活動時間帯の活動量を増加させようとした場合、睡眠時間帯の活動量も増加してしまう。これに対し、上記概日リズム改善剤は、活動時間帯の活動量を増加させる一方で、睡眠時間帯の活動量は増加させないため、概日リズム睡眠障害改善用として好適である。
【0016】
本発明はまた、上記概日リズム改善剤を含有する医薬品、飲食品、飲食品添加物を提供する。上記概日リズム改善剤は、生体への安全性が高く、長期間継続的に摂取することができるため、医薬品成分、飲食品成分、飲食品添加物、飼料成分、飼料添加物等として使用することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、生体への安全性が高く、飲食品の成分としても使用可能な新規の概日リズム改善剤が提供される。また、当該概日リズム改善剤を含有する医薬品、飲食品、飲食品添加物等が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】マウスの行動パターンを示す図である。
図2】暗期における1日あたりの活動量を示すグラフである。
図3】明期における1日あたりの活動量を示すグラフである。
図4】明期初期の活動量を1日の総活動量に対する相対活動量(%)で表したグラフである。
図5】非ストレス下又はストレス下でのマウスの活動量の概日リズムを示すグラフである。
図6】時計遺伝子(Per1、Per2、BMAL1)の発現量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0020】
本発明の概日リズム改善剤は、乳酸菌の菌体又はその処理物を有効成分として含有する。乳酸菌としては、生体への安全性の観点から、発酵食品等の食品、経口投与する医薬品等に用いられてきた実績のある乳酸菌が好ましい。具体的には、例えば、ラクトバチラス属、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属、エンテロコッカス(Enterococcus)属、ラクトコッカス(Lactococcus)属、ペディオコッカス(Pediococcus)属及びリューコノストック(Leuconostoc)属、ストレプトコッカス(Streptococcus)属に属する乳酸菌からなる群より選択される乳酸菌が挙げられる。
【0021】
上記乳酸菌としては、ラクトバチラス・ブレビスに属する乳酸菌であることが好ましく、ラクトバチラス・ブレビスSBC8803であることがより好ましい。上記乳酸菌は、例えば、自然界から分離可能なもの、又はATCC等の細胞バンクから入手可能なものであってもよい。
【0022】
本発明の概日リズム改善剤には、上記乳酸菌を1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。菌体の処理物についても同様である。
【0023】
乳酸菌の菌体は、生菌体及び死菌体のいずれであってもよい。菌体は、生菌体を培養することにより大量に生産することができる。培地は、液体培地及び固体培地のいずれでもよいが、窒素源及び炭素源を含有するものが好ましい。窒素源としては、肉エキス、ペプトン、グルテン、カゼイン、酵母エキス、アミノ酸等を、また、炭素源としては、グルコース、キシロース、フルクトース、イノシトール、マルトース、水アメ、麹汁、デンプン、バカス、フスマ、糖蜜、グリセリン等を用いることができる。また、無機質として、硫酸アンモニウム、リン酸カリウム、塩化マグネシウム、食塩、鉄、マンガン、モリブデン等を添加することができ、更にビタミン等を添加することができる。好適な培地としては、MRS培地、LBS培地、Rogosa培地、WYP培地、GYP培地等が挙げられる。
【0024】
生菌体の培養条件は、各乳酸菌に適した条件を採用すればよいが、例えば、培養温度は通常20〜50℃、好ましくは25〜40℃、より好ましくは30℃である。培養時間は通常6〜62時間であり、好ましくは12〜48時間であり、より好ましくは15〜30時間である。培地のpHは通常3〜8、好ましくは4〜7であり、より好ましくは6〜7である。培養はインキュベーター中で行ってもよく、また、培養の際は通気振とうしてもよい。
【0025】
菌体の処理物としては、上記菌体(生菌体又は死菌体)に、加熱、加圧、乾燥、粉砕、破壊又は自己溶解等の処理を行って得られる処理物が挙げられる。これらの処理は2種以上を組み合わせてもよい。菌体の処理物としては、例えば、菌体を100℃以上で数分以上加熱して得られる処理物(例えば、菌体に、110〜125℃の温度で10分以上、オートクレーブ処理を施して得られる処理物)、菌体に対して凍結乾燥、噴霧乾燥等を行って得られる処理物、菌体を有機溶媒(アセトン、エタノール等)に接触させて得られる処理物、菌体を酸若しくはアルカリ溶液に接触させて得られる処理物、菌体を酵素的に破砕して得られる処理物、又は菌体を超音波、フレンチプレス等で物理的に破壊して得られる処理物が挙げられる。このような菌体処理物は、未処理菌体(特に生菌体)と比較して、取り扱いが容易な点で好適である。
【0026】
本発明の概日リズム改善剤は、固体(例えば、凍結乾燥させて得られる粉末)、液体(水溶性又は脂溶性の溶液又は懸濁液)、ペースト等のいずれの形状であってもよく、また、散剤、丸剤、顆粒剤、錠剤、シロップ剤、トローチ剤、カプセル剤等のいずれの剤形であってもよい。
【0027】
上述の各種製剤は、有効成分である上記乳酸菌の菌体又はその処理物のみからなるものであってもよく、例えば、当該乳酸菌の菌体又はその処理物を上記剤形に成形することによって調製することができる。上述の各種製剤はまた、上記有効成分と、薬学的に許容される添加剤(賦形剤、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、乳化剤、界面活性剤、基剤、溶解補助剤、懸濁化剤等)とを混和し、成形することによって調製することもできる。この場合の上記有効成分の含有量は、製剤全量を基準として、0.5〜50質量%である。
【0028】
例えば、賦形剤としては、ラクトース、スクロース、デンプン、デキストリン等が挙げられる。結合剤としては、ポリビニルアルコール、アラビアゴム、トラガント、ゼラチン、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリビニルピロリドン等が挙げられる。滑沢剤としては、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、タルク等が挙げられる。崩壊剤としては、結晶セルロース、寒天、ゼラチン、炭酸カルシウム、炭酸水素ナトリウム、デキストリン等が挙げられる。乳化剤又は界面活性剤としては、Tween60、Tween80、Span80、モノステアリン酸グリセリン等が挙げられる。基剤としては、セトステアリルアルコール、ラノリン、ポリエチレングリコール、米糠油、魚油(DHA、EPA等)、オリーブ油等が挙げられる。溶解補助剤としては、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、炭酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、Tween80等が挙げられる。懸濁化剤としては、Tween60、Tween80、Span80、モノステアリン酸グリセリン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、アルギン酸ナトリウム等が挙げられる。
【0029】
本発明の概日リズム改善剤は、ヒトに投与しても、非ヒト哺乳動物に投与してもよい。投与量及び投与方法は、投与される個体の状態、年齢等に応じて適宜決定することができる。好適な投与方法としては、例えば、経口投与が挙げられる。投与量及び投与方法の一例として、概日リズム改善剤を有効成分量が0.5mg〜500mgとなる量を1日1回経口で投与する方法を挙げることができる。
【0030】
本発明の概日リズム改善剤は、医薬品成分、飲食品成分、飲食品添加物、飼料成分、飼料添加物等として使用することができる。
【0031】
例えば、本発明の概日リズム改善剤は、水、清涼飲料水、果汁飲料、乳飲料、アルコール飲料、パン類、麺類、米類、豆腐、乳製品、醗酵食品、発酵乳、醤油、味噌、菓子類等の飲食品への添加物として使用することができる。これらの飲食品は、当分野で通常使用される他の添加物を更に含有してもよく、そのような添加物としては、例えば、苦味料、香料、リンゴファイバー、大豆ファイバー、肉エキス、黒酢エキス、ゼラチン、コーンスターチ、蜂蜜、動植物油脂;グルコース、フルクトース等の単糖類;スクロース等の二糖類;デキストロース、デンプン等の多糖類;エリスリトール、キシリトール、ソルビトール、マンニトール等の糖アルコール類;ビタミンC等のビタミン類、が挙げられる。本発明の概日リズム改善剤はまた、特定保健用食品、特別用途食品、栄養補助食品、健康食品、機能性食品、病者用食品等の成分として使用することもできる。本発明の概日リズム改善剤を含有する飲食品は、上記乳酸菌で牛乳、脱脂乳、豆乳、野菜、果汁、穀物、及びそれらの加工品等を発酵させて得られる発酵物であってもよい。
【0032】
本発明者らは、ラクトバチラス・ブレビスSBC8803の菌体処理物を投与したストレス性睡眠障害マウスにおいて、ストレス性睡眠障害により亢進した時計遺伝子のmRNA発現量が正常化される(すなわち、非ストレス時のmRNA発現量に近づく)ことを見出した。時計遺伝子は概日リズムを司る遺伝子として知られており、例えば、Rev−erb遺伝子(Rev−erbα、Rev−erbβ等)、Clock遺伝子(Clock等)、Per遺伝子(Per1、Per2等)、Bmal遺伝子(Bmal1等)、Cry遺伝子(Cry1、Cry2等)、Dec遺伝子(Dec1、Dec2等)が挙げられる。したがって、本発明の概日リズム改善剤は、少なくともその一部の作用として時計遺伝子のmRNA発現量を正常化させることに基づいて、概日リズムを改善する。
【0033】
本発明の概日リズム改善剤は、上記のような作用に基づくため、概日リズムの乱れや概日リズム機能の低下により引き起こされる様々な変調、障害及び疾患等の治療用、回復用及び改善用に使用することができる。
【0034】
このような変調、障害及び疾患等としては、例えば、ストレス性睡眠障害等の概日リズム睡眠障害、体温リズムの乱れ、交感神経系の亢進等の自律神経失調症、双極性障害、高血圧、糖尿病、気管支喘息、冠攣縮性狭心症、内分泌障害が挙げられる。
【0035】
中でも、本発明の概日リズム改善剤は、睡眠覚醒リズムに対する改善作用があるため、概日リズム睡眠障害治療用、回復用又は改善用として使用することが好ましい(すなわち、睡眠障害治療剤、睡眠障害回復剤又は睡眠障害改善剤であってもよい)。概日リズム睡眠障害は、概日リズムの乱れや概日リズム機能の低下によって引き起こされる睡眠障害であり、例えば、ストレス性睡眠障害、時差ぼけ、シフトワーク及び夜勤等による内因性急性症候群における睡眠障害、並びに、睡眠相後退症候群、睡眠相前進症候群、非24時間睡眠覚醒障害及び不規則型睡眠覚醒パターン等の内因性慢性症候群における睡眠障害が挙げられる。
【0036】
また、本発明の概日リズム改善剤は、非ストレス条件下のマウスにおいても(すなわち、概日リズム睡眠障害が生じていないマウス)暗期の活動量を増加させる効果を奏する。すなわち、睡眠覚醒リズムの振幅を増大(すなわち、活動期の活動量の増加及び/又は休息期の活動量の低下)できる。したがって、例えば高齢化(加齢)に起因する概日リズム機能(睡眠覚醒リズム、メラトニン等のホルモン分泌リズム、深部体温リズム等)の低下を改善する作用が期待できる。
【実施例】
【0037】
以下、実施例等に基づいて本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0038】
〔実施例1:ストレス性睡眠障害マウスにおける概日リズムの改善〕
ストレス性睡眠障害を誘発したマウスを用い、マウスの自発行動量(輪回し行動量。以下「活動量」ともいう。)を指標としてSBL88株の菌体処理物による概日リズムの改善効果を評価した。
【0039】
<菌体処理物の調製>
SBL88株を培地(組成:マルトース2質量%、酵母エキス1.4質量%、酢酸ナトリウム0.5質量%、硫酸マンガン0.005質量%、pH6.5〜7.0)に植菌し、30℃で1日間静置培養した。得られた培養液(約8×10cfu/ml)を8,000rpmで10分間遠心分離し、菌体を回収した。回収した菌体を蒸留水に再懸濁し、8,000rpmで10分遠心分離し、菌体を回収した。この操作を2度繰り返した。回収した菌体を蒸留水に懸濁し、105℃で10分間加熱処理した後、凍結乾燥して加熱処理菌体粉末(菌体処理物)を得た。
【0040】
<マウス飼料の調製>
粉末飼料CE−2(日本クレア株式会社製)にSBL88株の菌体処理物を0.5質量%添加した後、ペレット化して菌体処理物を含むマウス飼料(SBL88含有CE−2飼料)を調製した。対照として、粉末飼料CE−2をペレット化して菌体処理物を含まないマウス飼料(CE−2飼料)を調製した。
【0041】
<マウスの飼育>
全期間を通して、マウスを回転かご(SW−15S、有限会社メルクエスト)内で飼育した。マウスの活動量は、クロノバイオロジーキット(Stanford Software Systems,CA)を用いて測定した。
【0042】
C3H/HeN系統のマウス(3週齢の雄性、日本エスエルシー株式会社)を明期12時間、暗期12時間の明暗サイクル下(8:00点灯、20:00消灯)で2週間飼育した(馴化飼育期間)。馴化飼育期間後、マウスを2群(各群12匹)に分け、対照群には食餌としてCE−2飼料を、被検群(SBL88群)には食餌としてSBL88含有CE−2飼料を与え、4週間自由摂食させた(非ストレス飼育期間)。
【0043】
<マウスへのストレス負荷>
非ストレス飼育期間後、物理的に遮蔽してマウスが回転輪から降りられないように制限することにより、ストレス性睡眠障害を2週間連続的に誘発した(ストレス飼育期間)。このストレス性睡眠障害マウスは、一般的な睡眠障害に外挿できるリズム障害を示す。また、総活動量がやや低下するとともに、明期暗期ともに活動が見られる行動リズムの乱れが観察される。特に明期前半の過活動が特徴である。またこれに連動するように、明期前半の睡眠量低下、活動期(暗期)における睡眠量の増加が認められる。
【0044】
<マウスの行動パターン観察>
図1は、マウスの1日の行動パターンを示す図である。図1中、縦軸は飼育期間を表し、非ストレス飼育期間の開始日を0週間(0w)、馴化飼育期間の開始日をマイナス2週間(−2w)で表す。横軸は時刻を表す。ドットはマウスの輪回し行動が観察されたことを示す。なお、図1(A)はストレス負荷していないマウスの行動パターンを、図1(B)はストレス負荷したマウスの行動パターン(非ストレス飼育期間4w経過時点からストレス負荷開始)を示す。図1より、明期(8〜20時:睡眠時間帯)では、ほとんど輪回し行動が観察されないことが分かる(ドットが少ない)。一方、暗期(20〜8時:活動時間帯)では、活発に輪回し行動を行っていることが分かる(ドットが多い)。また、マウスに上記ストレスを与えることで、明期におけるドットの増加及び暗期におけるドットの減少が観察され、行動パターンが乱れることが分かる。
【0045】
<ストレス負荷マウスの活動量>
ストレス飼育期間における暗期(20〜8時:活動時間帯)と明期(8〜20時:睡眠時間帯)とで、対照群とSBL88群の1日あたりの活動量を比較した。図2は、暗期における1日あたりの活動量を示すグラフである。図3は明期における1日あたりの活動量を示すグラフである。図2及び図3において、ストレス飼育期間(2週間)の最初の1週間を前期とし、残りの1週間を後期とした。
【0046】
図2に示すとおり、SBL88群は対照群に対して暗期(活動時間帯)の活動量が統計上有意に増加した(各期間のp値(t−検定):前期(0.02)、後期(0.05))。一方、明期(睡眠時間帯)における活動量には、SBL88群と対照群との間に統計的な有意差は認められなかった(図3)。
【0047】
図4は、明期初期(8〜11時)の活動量を1日の総活動量に対する相対活動量(%)で表し、SBL88群と対照群とを比較したグラフである。マウスのストレス下での特徴的な行動パターンとして、暗期の活動量低下、及び明期初期(8〜11時)の過活動が認められる。図4に示したグラフはこの過活動の指標となる。ストレス負荷前1週間の間は、SBL88群と対照群との間に相対活動量の差異は認められなかった(図4)。一方、ストレス負荷後1週間の間は、対照群に比べてSBL88群の相対活動量は低かった(図4)。SBL88群は、ストレス下での明期初期の活動亢進(過活動)が抑制される傾向にあった。
【0048】
図5は、ストレス負荷開始前7日間(非ストレス)又はストレス負荷開始後6日間(ストレス)の間におけるSBL88群と対照群の活動量の概日リズムを示すグラフである。図5のグラフの縦軸は、SBL88群及び対照群の1時間毎の回転輪の回転数(平均値±標準誤差、n=12)を示す。各個体の活動量として、ストレス負荷開始前7日間の平均値、及びストレス負荷開始後6日間の平均値を用いた。
【0049】
マウスは夜行性であるため、明暗サイクル下で飼育すると自発行動(輪回し行動)は暗期に集中する。暗期における活動量にも変動があり、暗期の前半に活動量が多く、暗期の中盤にかけて行動量の低下がみられる。非ストレス下及びストレス下のいずれにおいても、SBL88群は、対照群と比較して、暗期中盤における活動量が有意に増加した(図5)。
【0050】
ストレス性睡眠障害マウスでは、明期前半の過活動と、本来の活動時間帯である暗期の自発行動量の減少が観察される(例えば、図5中、対照群の非ストレス及びストレスの比較)。SBL88群では、ストレス性睡眠障害の誘発による明期前半の過活動が抑制され(図4)、かつ暗期の活動量の減少が有意に抑制された(図5)。
【0051】
ストレス性睡眠障害を誘発したマウスは、活動時間帯の活動量が減少するが、SBL88株の菌体処理物を食していたマウスの活動量の減少は有意に抑制された(図2図5)。また、一般的に、薬物等(例えば、覚醒剤である「メタンフェタミン」)で活動時間帯の活動量を増加させようとした場合、睡眠時間帯の活動量も増加してしまう。一方、SBL88の菌体処理物を食していたマウスは、睡眠時間帯の活動量は対照群と変わらなかった(図3)。すなわち、本発明の概日リズム改善剤によれば、睡眠障害からの“自然”な回復が可能である。
【0052】
〔実施例2:時計遺伝子の発現量変化〕
実施例1における、ストレス負荷最終日(2週間負荷後)の午前8〜10に殺処分したマウスの大腸から全mRNAを抽出した後、定量PCR法にて時計遺伝子(Per1、Per2、BMAL1)の発現量を調べた。
【0053】
図6は、大腸の時計遺伝子(Per1、Per2、BMAL1)の発現量の解析結果を示すグラフである。図6中、時計遺伝子の発現量は、β−Actinに対する比として示してある。SBL88群では、対照群と比較して、Per2及びBMAL1遺伝子の発現量が有意に減少した(図6)。すなわち、SBL88の菌体処理物の投与により、睡眠障害ストレスにより増加した時計遺伝子(例えば、Per2及びBMAL1)の発現量が正常な発現量に調節されることで、概日リズムが改善された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6