特許第5943349号(P5943349)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5943349鉛含有ガラスの表面処理方法及び表面処理装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5943349
(24)【登録日】2016年6月3日
(45)【発行日】2016年7月5日
(54)【発明の名称】鉛含有ガラスの表面処理方法及び表面処理装置
(51)【国際特許分類】
   C03C 23/00 20060101AFI20160621BHJP
   B09B 3/00 20060101ALI20160621BHJP
【FI】
   C03C23/00 Z
   B09B3/00 303Z
   B09B3/00ZAB
   B09B3/00 304Z
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-221120(P2012-221120)
(22)【出願日】2012年10月3日
(65)【公開番号】特開2014-73920(P2014-73920A)
(43)【公開日】2014年4月24日
【審査請求日】2015年8月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100099933
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 敏
(72)【発明者】
【氏名】山下 勝
(72)【発明者】
【氏名】赤井 智子
(72)【発明者】
【氏名】松本 佐智子
【審査官】 岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−208276(JP,A)
【文献】 特開平07−140304(JP,A)
【文献】 特開昭59−146022(JP,A)
【文献】 特開平07−002547(JP,A)
【文献】 特開平07−041335(JP,A)
【文献】 特開平11−092172(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 23/00
B09B 3/00
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
DWPI(Thomson Innovation)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉛含有ガラスを、酸溶液中に浸漬するステップと、
前記酸溶液から取出した前記鉛含有ガラスを、300℃以上の高温環境に曝すステップとを含むことを特徴とする表面処理方法。
【請求項2】
前記酸溶液中の酸濃度は、0.001規定以上1規定以下であり、
前記酸溶液の温度は、50℃以上120℃以下であることを特徴とする請求項1に記載の表面処理方法。
【請求項3】
前記高温環境は、350℃以上500℃以下の空気中であることを特徴とする請求項1又は2に記載の表面処理方法。
【請求項4】
前記酸溶液は、酢酸溶液であり、
前記酸溶液中の酸濃度は、0.1規定以上1規定以下であることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の表面処理方法。
【請求項5】
前記酸溶液は、塩酸溶液又は硝酸溶液であり、
前記酸溶液中の酸濃度は、0.001規定以上0.1規定以下であることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の表面処理方法。
【請求項6】
前記鉛含有ガラスは、ブラウン管テレビのファンネルガラスを破砕して生成されたカレットであることを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の表面処理方法。
【請求項7】
酸溶液を収容する酸処理部と、
300℃以上の高温環境を形成する熱処理部とを備え、
鉛含有ガラスを前記酸処理部の酸溶液中に浸漬した後、前記酸溶液から取出した前記鉛含有ガラスを、前記熱処理部により形成された高温環境に曝すことを特徴とする表面処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブラウン管ガラス等の鉛含有ガラスを接液状態(表面が液体に接した状態)にしたときに、鉛含有ガラスから溶出する鉛の量を低減することができる鉛含有ガラスの表面処理方法及び表面処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
地上波によるテレビ放送がアナログ方式からデジタル方式に変更されたこと、及び、液晶テレビ等の薄型テレビの普及により、ブラウン管テレビが大量に廃棄されるようになり、その再利用が問題となっている。ブラウン管に使用されているガラス(以下、ブラウン管ガラスという)には、鉛(酸化鉛)を含んでいるガラス(以下、鉛含有ブラウン管ガラスという)が含まれている。具体的には、ブラウン管の前面パネルガラスには、鉛は含まれていない。電子銃を囲むファンネル及びネックチューブにはPbO(酸化鉛)が含まれている。また、各パーツをつなぐ封着ガラスにもPbOが含まれている。ファンネルガラスは、ネックチューブ及び封着ガラスよりも量が多いので、特に問題となる。
【0003】
ファンネルガラス等に関しては、鉛を高濃度に含有するため、ブラウン管以外の用途に再利用することが容易ではない。現在では、鉛精錬等に使用されてはいるが、その量は限定的であり、主に、カレット化してテレビ用ブラウン管の原材料としてリサイクルされている。国内ではブラウン管テレビが製造されていないことから、輸出され、海外でブラウン管へのリサイクルが行なわれている。
【0004】
また、国内に限らず、国際的にもブラウン管テレビから液晶テレビ等の薄型テレビへの転換が加速されており、ブラウン管の需要が減少傾向にある。したがって、廃棄されたブラウン管ガラスを十分にリサイクルすることができず、余剰が発生する可能性がある。そのために、廃棄された鉛含有ブラウン管ガラスを埋立処分するための技術、及び、他用途への再利用を可能にする技術が確立されるまで、廃棄された鉛含有ブラウン管ガラスを一時的に保管するための技術が検討されている。
【0005】
鉛含有ブラウン管ガラスのリサイクル技術としては、精錬による金属回収(鉛精錬、亜鉛・鉛同時精錬等)、熱処理による鉛分離手法(還元溶融、塩化揮発、溶融分相法等)、湿式分離手法(アルコール浸出、電解還元、酸抽出、非加熱分離・回収等)が知られている。これらの技術により、ガラス(SiO)と鉛とを分離することができる。
【0006】
鉛含有ブラウン管ガラスを破棄する場合、ファンネルガラス等に含有された鉛は、酸等の液体に接すると、表面から鉛が溶出する可能性がある。例えば、埋立てた鉛含有ブラウン管ガラスが雨水又は地下水等に接した場合に、鉛が漏れ出す可能性がある。鉛含有ブラウン管ガラスに初期pHを3〜12に調整した溶液を加えてバッチ式浸透試験を行ない、溶出成分の経時変化(1〜4週間)を調査した結果、溶出液中の鉛濃度は環境基準値(0.01mg/L)を大きく超過したとの報告もある。したがって、鉛含有ブラウン管ガラスを廃棄するため、又は、一時保管する場合にも、鉛含有ブラウン管ガラスが接液されない状態にする、又は、接液されても鉛が溶出しないようにすることが望ましい。
【0007】
このように、ブラウン管ガラスカレットのうち、鉛が含有されているファンネルガラス等をそのまま埋立処分した場合、鉛の溶出量が埋立の許容基準を上回る可能性が示唆されている。また、埋立処分する際のサイズ及び周辺環境(pH等)によって溶出量が変化する。これらの点を考慮して、前処理により鉛の溶出量を抑えて埋立処分する方法、及び、埋立方法により鉛の溶出量を抑えて埋立処分する方法が検討されている。
【0008】
前処理により鉛の溶出量を抑える方法としては、不溶化処理、又はコンクリート固化等の技術が知られている。
【0009】
不溶化処理には、大きく分けて無機系及び有機系の処理がある。無機系の処理は、鉛を難溶性の塩として固定化する方法、有機系の処理は、鉛を不溶性のキレート錯体として固定化する方法である。
【0010】
無機系の処理には、リン酸系処理及び炭酸化処理がある。リン酸系処理では、例えば、リン酸系薬剤をファンネルガラスに添加し、ヒドロキシアパタイト及び難溶性のピロモルファイトを生成して、鉛の溶出制御を図る。炭酸化処理では、鉛イオンを酸化炭素と反応させて難溶性の炭酸塩を生成することで鉛の溶出制御を図る。
【0011】
有機系の処理は、もともとは焼却飛灰中の鉛等の重金属を不溶化するための技術であり、ジチオカルバミン酸塩系及び二酸化硫黄発生を抑えたピペラジン系が主流である。
【0012】
コンクリート固化は破砕した鉛ガラスを水硬性セメントと練り合わせ、鉛ガラスを固化した上で最終処分するという方法である。国立環境研究所の試験によると、カレット単独と比較した場合、水との接触による鉛の溶解は1/100程度に少なくなることが期待される、という結果が示されている。
【0013】
埋立方法により溶出量を抑える方法としては、例えば、鉛含有ブラウン管ガラスを埋立処分する際の形状を規定することが考えられる。粒度が高い(粉末状に近い)ものほど溶出試験における溶出量が増加する傾向が見られることから、破砕・粉砕をある程度抑えた粗い状態で埋立てることで溶出量を下げる可能性が検討されている。例えば、粒径が100mm程度のカレットと、これをさらに0.5〜5mmまで粉砕したカレットとを比較すると、粒径が100mm程度のカレットの方が鉛の流出量が少ない。
【0014】
一方、鉛含有ガラスにはクリスタルガラスも含まれている。従来、クリスタルガラスに関して、鉛の溶出を低減するための種々の表面処理法が検討されている。例えば、下記特許文献1には、クリスタルガラスを、硫酸アンモニウムガスに接触させた後、水洗及び乾燥する処理方法が開示されている。これにより、食品安全基準の溶出試験(4%の酢酸溶液中に24時間放置した後、溶出した鉛の量を測定)において、鉛の溶出量を低減することができる。
【0015】
また、下記特許文献2には、クリスタルガラスを、硫酸アンモニウム及び硫酸アルミニウムのガスに、クリスタルガラスの軟化温度を超えない温度で接触させた後、冷却及び洗浄を行なう処理方法が開示されている。これにより、硫酸アンモニウムのみを用いて同様に処理した場合よりも、鉛の溶出量を低減することができる。
【0016】
また、下記特許文献3には、重金属を含むガラス材料で形成された固体製品の表面に、シリコ−アルミナバリアを形成する方法が開示されている。具体的には、固体製品の表面領域から鉛イオンを一部除去し、その表面にカオリン等を含有する泥漿の被覆剤を塗布した後、加熱して、シリコ−アルミナバリアを表面領域に形成しつつ、被覆剤をシリコ−アルミナ硬皮とさせ、その後、表面上のシリコ−アルミナ硬皮を除去する。
【0017】
また、下記特許文献4には、鉛含有ガラスの表面をアルミナゾル、又はアルミナゾルに軽金属等を混合したものでコーティングし、室温で乾燥させた後、500℃で焼成して表面保護膜を形成する方法が開示されている。これにより、鉛溶出量を低減することができる。
【0018】
また、下記特許文献5には、鉛含有ガラスからの鉛の溶出量を低減することが目的ではないが、鉛含有ガラスの表面を、60℃以上の弱酸溶液で処理し、水洗した後、110℃で加熱脱水して反射防止層を形成する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】特開平5−97467
【特許文献2】特許第3626509号明細書
【特許文献3】特許第2535258号明細書
【特許文献4】特開平8−310838
【特許文献5】特許第2710071号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
上記したように、鉛含有ブラウン管ガラス、特にファンネルガラスの廃棄に関して、鉛の溶出を抑制する方法が種々検討されている。しかし、現在何れの方法によっても十分な結果が得られていない。
【0021】
例えば、不溶化処理に関しては、無機系の処理及び有機系の処理の何れにおいても、鉛不溶化のための前処理として粉末状態になる程度の粉砕が必要である。したがって、そのためのコスト及びエネルギーが増大する問題がある。
【0022】
コンクリート固化に関しては、遊離アルカリによる固化体の内部崩壊が起こった場合には、長期にわたる固化体強度について保証がないことが指摘されている。また、固化体の亀裂から水が浸透した場合には、鉛の溶出促進が想定されることも指摘されている。
【0023】
また、鉛含有ブラウン管ガラスを埋立処分する際の形状を規定する方法は、表面処理方法ではなく、基本的に鉛の溶出を抑制することはできない。
【0024】
また、特許文献1〜5に開示された技術は、鉛含有ブラウン管ガラス(ファンネルガラス等)の処理には、必ずしも有効ではない。
【0025】
例えば、特許文献1及び2に開示された技術は、ガラス表面のアルカリ分除去によりガラスの耐水性を高めて、鉛の拡散速度を下げる方法であり、鉛溶出低減に大きな効果が認められている。しかし、鉛含有ブラウン管ガラスを廃棄するための鉛溶出低減を目的とする場合には、より長期間にわたる鉛溶出低減が要求されるので、ガラス表面から鉛を除去することがより好ましい。
【0026】
特許文献3及び4に開示された技術は、鉛溶出低減に大きな効果はあるが、ガラス表面にスラリー等を塗布する必要があり、大量の処理には適していない。
【0027】
また、特許文献5に開示された技術は、表面からの鉛除去が可能ではあるが、鉛溶出低減の効果が不明である。後述するように、実際にファンネルガラスのカレットに適用した結果、鉛溶出低減の効果は十分ではなかった。
【0028】
したがって、本発明は、鉛含有ガラスを接液状態にしたときに、鉛含有ガラスから溶出する鉛の量を低減することができる鉛含有ガラスの表面処理方法及び表面処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0029】
本願発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、鉛含有ガラスを酸溶液(例えば酢酸溶液)中に浸漬して表面近傍の鉛を溶出させた後、300℃以上で熱処理を行なうことにより、その後の鉛溶出を大きく低減できることを見出し、本発明をするに至った。
【0030】
本発明の第1の局面に係る鉛含有ガラスの表面処理方法は、鉛含有ガラスを酸溶液中に浸漬するステップと、酸溶液から取出した鉛含有ガラスを300℃以上の高温環境に曝すステップとを含む。
【0031】
好ましくは、酸溶液中の酸濃度は0.001規定以上1規定以下であり、酸溶液の温度は50℃以上120℃以下である。
【0032】
より好ましくは、高温環境は、350℃以上500℃以下の空気中である。
【0033】
さらに好ましくは、酸溶液は酢酸溶液であり、酸溶液中の酸濃度は0.1規定以上1規定以下である。
【0034】
好ましくは、酸溶液は塩酸溶液又は硝酸溶液であり、酸溶液中の酸濃度は0.001規定以上0.01規定以下である。
【0035】
より好ましくは、鉛含有ガラスは、ブラウン管テレビのファンネルガラスを破砕して生成されたカレットである。
【0036】
本発明の第2の局面に係る鉛含有ガラスの表面処理装置は、酸溶液を収容する酸処理部と、300℃以上の高温環境を形成する熱処理部とを備え、鉛含有ガラスを酸処理部の酸溶液中に浸漬した後、酸溶液から取出した鉛含有ガラスを、熱処理部により形成された高温環境に曝す。
【発明の効果】
【0037】
本発明によれば、鉛含有ガラスを接液状態にしたときに、鉛含有ガラスから溶出する鉛の量を著しく低減することができる。したがって、廃棄された鉛含有ブラウン管ガラス、特にファンネルガラスのカレットを、安全に埋立処理することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1】本発明の実施の形態に係る鉛含有ガラスの表面処理方法を示す断面図である。
図2】本発明の実施の形態に係る鉛含有ガラスの表面処理方法に基づく実験の結果を示す表である。
図3】比較実験の結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下の実施の形態では、同一の部品には同一の参照番号を付してある。それらの名称及び機能も同一である。したがって、それらについての詳細な説明は繰返さない。
【0040】
図1を参照して、本発明の実施の形態に係る鉛含有ガラスの表面処理方法は、順次実行される次の工程を含む。
【0041】
ステップ1:鉛含有ガラス100を所定温度の酸溶液110中に、所定時間浸漬する(以下、酸処理ともいう)。
【0042】
ステップ2:酸溶液110から取出した鉛含有ガラス100を水洗した後、所定時間、鉛含有ガラス100の表面を高温状態にする(以下、熱処理ともいう)。具体的には、鉛含有ガラス100を高温環境120に曝す。
【0043】
鉛含有ガラス100は、例えばファンネルガラスを粉砕して生成されたカレットである。図1では、1個の鉛含有ガラス100を示しているが、複数の鉛含有ガラスを同時に処理してもよい。
【0044】
酸溶液110の種類は特に限定されないが、酢酸、塩酸、又は硝酸であることが好ましい。酸溶液110中の酸の濃度は、0.001〜1規定であることが好ましい。塩酸又は硝酸溶液を使用する場合、鉛含有ガラス100の表面が浸食されて粗くならないように、また、酸溶液110への鉛の溶出量が多くならないように、比較的低濃度(例えば0.001〜0.1規定)あることが好ましい。鉛含有ガラス表面が粗くなると、機械的に損傷され易く、埋立処理された鉛含有ガラスが接液状態になったときに鉛が溶出する可能性が高くなる。また、溶出された鉛を多く含む酸溶液110は、廃液処理時に大きな問題が生じる。酢酸溶液の場合には、比較的高濃度(例えば0.1〜1規定)であっても、鉛含有ガラス表面が粗くなることはなく、酸溶液110への鉛の溶出量は比較的少ない。
【0045】
酸溶液110の温度は、好ましくは50〜120℃、より好ましくは60〜110℃である。100℃以上の温度にするためには、鉛含有ガラス100を浸漬した酸溶液を圧力容器等に入れ、1気圧以上に加圧して加熱する。また、浸漬する時間は、酸の種類及びその濃度に依存するが、1日以上であることが好ましい。
【0046】
高温環境120は、例えば、所定の容器内に密閉された300〜550℃の空気122である。容器は、300℃以上で耐熱性のあるもの、例えばステンレス製、又は耐火レンガ製である。
【0047】
熱処理の時間は10分以上であることが好ましい。
【0048】
なお、高温環境は、密閉された空気中でなくてもよい。鉛含有ガラス100の表面を、ほぼ一定の高温に維持することができる環境であればよい。例えば、略密閉された空間中を循環する、一定の高温の気体(ガラスに対して不活性な気体)中に、鉛含有ガラス100を配置してもよい。
【0049】
上記のステップ1を実行することにより、鉛含有ガラス100の表面層(表面及び表面下の所定の深さ領域)から鉛が溶出する。その後、ステップ2を実行することにより、鉛含有ガラス100の表面層が変化し、接液状態における鉛の溶出を抑制することができる。
【0050】
なお、公知の破棄処理場等の施設と同様に、酸処理用の酸溶液槽、及び熱処理用の高温室を含むプラントを設置し、順次上記のステップ1及びステップ2が実行されるように、ファンネルガラスを粉砕して生成されたカレットをコンベヤ等の搬送設備を用いて、酸溶液槽及び熱処理室の間を搬送すればよい。
【0051】
以下に実験結果を示し、本発明の有効性を示す。
【実施例1】
【0052】
酸化鉛(PbO)を24mass%(質量%)含有するブラウン管ファンネルガラスを15×6×4mmの直方体にカットし、その表面を灯油中で、#2000研磨紙を用いて研磨し、試料を作製した。表面を研磨するのは、表面の凹凸状態を一定にするためである。即ち、同じ外形寸法であっても表面積は、表面の凹凸状態に依存するので、溶液に浸漬された場合に、溶液と接する面積を一定にするためである。
【0053】
作製した試料(1個)を、テフロン(登録商標)製容器を用い濃度及び温度が異なる条件の酸性溶液中で所定時間浸漬した(酸処理)。その後、試料を酸性溶液から取出し、これを水洗した後、周囲環境及びその温度が異なる条件で30分間熱処理を行なった。具体的には、酸処理の条件及び熱処理の条件の組合せで、各試料に関して、図2に示す実験A〜Gの7種類の実験を行なった。
【0054】
酸処理後の酸溶液中の鉛の溶出量を、公知のICP発光分光分析法により測定した。また、酸処理及び熱処理後の試料を、濃度0.001M(モラー、1M=1mol/L)、90℃の塩酸水溶液40mLに、7日間浸漬した(以下、溶出処理という)。溶出処理後の塩酸溶液中の鉛の溶出量を、ICP発光分光分析法により測定した。
【0055】
実験A〜Gにおける、鉛の溶出量を図2に示す。なお、酸処理及び熱処理の何れも行なわなかった試料に関しても、溶出処理後の塩酸溶液中の鉛の溶出量を、ICP発光分光分析法により測定した。これを比較実験Hとして、図2に示す。検出精度(測定誤差)は、±0.08mg/kgである。図2においては、検出誤差範囲内の負の測定値を“0”と表記している。
【0056】
図2に示した酸処理後及び溶出処理後の鉛溶出量の値から分かるように、酸処理によりガラスの表面層の鉛が溶出する。その後の熱処理によりガラスの表面層の状態が変化し、塩酸に対する耐性が高くなり、鉛溶出量が低減した。
【0057】
実験A〜Gの何れの条件で試料が表面処理された場合にも、溶出処理後の鉛溶出量は、未処理の比較実験Hの値と比較して、ほぼゼロ(0.07mg/kg(0.07ppm)以下の非常に小さい値)であった。即ち、実験A〜Gの何れかの条件で酸処理及び熱処理された後の鉛含有ガラスは、接液状態において鉛の流出量を著しく低減することができる。実験A〜Gの何れかの酸処理及び熱処理条件は、鉛含有ガラスからの鉛の溶出を抑制するための表面処理として非常に有効である。このことは、後述する実施例2の結果と比較することでより明らかになる。
【0058】
また、実験Aの条件で表面処理された試料に関しては、さらに、上記の溶出処理で用いたのと同じ塩酸水溶液(濃度0.001M、90℃、40mL)に、28日間浸漬し、時間経過による鉛の溶出量への影響を測定した。その結果、鉛の溶出量は0であった。これに対して、酸処理及び熱処理を行なわなかった試料に関して、同じ溶出処理を28日間実施した場合の鉛の溶出量は、7日間溶出処理を実施した場合の2倍であった。図2に示した実験B〜Gの測定結果から、実験B〜Gの条件で表面処理された試料に関しても同様に、時間経過によって鉛の溶出量はほとんど増加することはないと思われる。このように、図2に示した実験A〜Gの条件で表面処理された鉛含有ガラスは、長期間接液状態に維持されたとしても、鉛の溶出を防止することができる。
【実施例2】
【0059】
上記の実施例1の効果を確認するために、実施例1と同様に作成した各試料を用いて、次の比較実験を行なった。
【0060】
比較実験I:実施例1と同様の酢酸溶液(濃度0.1M、温度110℃)を用いて、酸処理のみを7日間行なった。熱処理は行なわなかった。
【0061】
比較実験J:実施例1と同様の酢酸溶液(濃度0.1M、温度110℃)を用いて、酸処理を3日間行なった。その後、150℃の空気中での熱処理を30分間行なった。
【0062】
比較実験K:酸処理を行なわず、500℃の空気中での熱処理のみを30分間行なった。
【0063】
比較実験L:酸処理を行なわず、450℃の硫酸アンモニウム((NHSO)ガス中での熱処理のみを30分間行なった。なお、硫酸アンモニウムガス中での熱処理後、試料表面を水洗した。
【0064】
実施例1と同様に、酸処理後の酸溶液中の鉛の溶出量、及び、溶出処理後の塩酸溶液中の鉛の溶出量を、ICP発光分光分析法により測定した。各比較実験I〜Lに関して、鉛の溶出量を図3に示す。比較実験K及びLに関しては、酸処理を行なっていなので、酸処理後の酸溶液中の鉛の溶出量は測定されず、記載されていない。なお、図3に示した比較実験Hの値は、図2に示したものと同じである。
【0065】
比較実験I〜Lの何れに関しても、溶出処理後の塩酸溶液中の鉛の溶出量は、未処理の比較実験Hの値よりも小さいが、実施例1の実験A〜Gの何れの値よりも非常に大きい値(10倍以上)である。特に、実験A、及びD〜Fとの差は著しい。
【0066】
比較実験Lに関しては、溶出処理後の塩酸溶液中の鉛の溶出量は、0.13mg/kgと、未処理の比較実験Hの値(2.4mg/kg)の1/10以下であるが、実験A〜Gの何れの値よりも大きい。このことからも、上記の実験A〜G(特に実験A、及びD〜F)の処理条件は、鉛溶出の抑制に非常に有効であることが分かる。
【0067】
なお、酸処理のみを行なった比較実験Iの溶出処理後の鉛の溶出量は、未処理の比較実験Hの値の約1/3であった。このことから、酸処理が、鉛の溶出の抑制に有効であることが分かる。また、熱処理のみを行なった比較実験Kの溶出処理後の鉛の溶出量は、未処理の比較実験Hの値の約1/2であった。このことから、熱処理が、鉛の溶出の抑制に有効であることが分かる。
【0068】
比較実験Jでは酸処理及び熱処理を行なった。比較実験Jは、特許文献5に開示されている処理に対応する。比較実験Jの結果では、溶出処理後の鉛の溶出量(0.62mg/kg)は、酸処理のみを行なった比較実験I(0.76mg/kg)と同程度の値であり、実施例1の実験A〜Gの結果ほどの鉛溶出低減効果は得られなかった。これは、酸処理に関しては、実施例1の実験A等と同様の条件であったが、熱処理の温度が150℃であり、実験A等よりも低いことによることが原因であると思われる。したがって、熱処理温度は、ガラスの転移温度に近い温度であることが好ましい。
【0069】
以上、実施の形態を説明することにより本発明を説明したが、上記した実施の形態は例示であって、本発明は上記した実施の形態に限定されるものではなく、種々変更して実施することができる。
【符号の説明】
【0070】
100 鉛含有ガラス
110 酸溶液
120 高温環境
122 空気
図1
図2
図3