特許第5943369号(P5943369)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5943369熱伝導積層膜部材及びその製造方法、これを用いた放熱部品及び放熱デバイス
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5943369
(24)【登録日】2016年6月3日
(45)【発行日】2016年7月5日
(54)【発明の名称】熱伝導積層膜部材及びその製造方法、これを用いた放熱部品及び放熱デバイス
(51)【国際特許分類】
   H01L 23/373 20060101AFI20160621BHJP
   H01L 23/36 20060101ALI20160621BHJP
【FI】
   H01L23/36 M
   H01L23/36 C
【請求項の数】14
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2011-26543(P2011-26543)
(22)【出願日】2011年2月9日
(65)【公開番号】特開2012-169312(P2012-169312A)
(43)【公開日】2012年9月6日
【審査請求日】2014年1月22日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構委託研究「省エネルギー革新技術開発事業/先導研究/ナノ積層型高熱伝導膜によるホットスポットフリーLSIの研究開発」産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100131288
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 尚祐
(72)【発明者】
【氏名】岩下 徹幸
(72)【発明者】
【氏名】藤原 英道
(72)【発明者】
【氏名】青柳 昌宏
(72)【発明者】
【氏名】菊地 克弥
(72)【発明者】
【氏名】加藤 史樹
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 基史
【審査官】 馬場 慎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−192697(JP,A)
【文献】 特開2008−270724(JP,A)
【文献】 特開2009−094196(JP,A)
【文献】 特表2011−503833(JP,A)
【文献】 特開2006−165164(JP,A)
【文献】 特開2008−243939(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 23/373
H01L 23/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱伝導層とひずみ緩和層とを積層してなる熱伝導積層膜を反応性イオンエッチングにより加工する熱伝導積層膜部材の製造方法であって、
前記熱伝導層を構成する材料としてグラファイトを選定し、前記ひずみ緩和層を構成する材料として、アモルファスSi、アモルファスGe、アモルファスSiGe、アモルファスSiO、アモルファスSiOx、アモルファスTiO、及びこれらの組合せのいずれかを選定し、
前記熱伝導層をエッチングする酸素含有ガスと、前記ひずみ緩和層をエッチングする硫黄−フッ素化合物含有ガスと、それらのエッチング面を保護するフルオロカーボン化合物含有ガスとを用い、少なくとも前記3種のガスを切り替えながら、前記硫黄−フッ素化合物含有ガス、前記酸素含有ガス、前記フルオロカーボン化合物含有ガスの順序で適用してエッチングを行い、前記フルオロカーボン化合物含有ガスを用いるエッチング時に加工壁に保護膜を形成し、前記保護膜は前記硫黄−フッ素化合物含有ガスを用いたエッチングおよび前記酸素含有ガスを用いたエッチング後に残して、前記熱伝導積層膜を貫通する加工を施すことを特徴とする熱伝導積層膜部材の製造方法。
【請求項2】
前記熱伝導層とひずみ緩和層とを1層ずつもしくは複数層ずつ交互に積層したことを特徴とする請求項1に記載の熱伝導積層膜部材の製造方法。
【請求項3】
前記熱伝導層及びひずみ緩和層の層厚さがそれぞれ1nm以上20nm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の熱伝導積層膜部材の製造方法。
【請求項4】
前記反応性イオンエッチングによる加工をプロセス室内で行うに当たり、酸素含有ガス、硫黄−フッ素化合物含有ガス、フルオロカーボン化合物ガスのいずれか一つまたはこれらを複合して供給する場合に、それぞれの供給するガスの供給量をそれぞれ100sccm以下とすることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の熱伝導積層膜部材の製造方法。
【請求項5】
前記酸素含有ガスとしてOを用い、前記硫黄−フッ素化合物含有ガスとしてSFを用い、前記フルオロカーボン化合物としてCを用いることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の熱伝導積層膜部材の製造方法。
【請求項6】
熱伝導層とひずみ緩和層とを積層してなり、熱伝導層及びひずみ緩和層を貫通する加工構造部を有する熱伝導積層膜部材であって、
前記加工構造部の加工部壁面に凹凸を有し、
前記熱伝導層がグラファイトからなり、前記ひずみ緩和層が、アモルファスSi、アモルファスGe、アモルファスSiGe、アモルファスSiO、アモルファスSiOx、アモルファスTiO、及びこれらの組合せのいずれかからなり、
前記加工構造部が円以外の開口形状を有する孔状、溝状、もしくはパターン化された切欠形状を有し、
素子が配置される箇所に対応する前記熱伝導積層膜部材の位置を除く該熱伝導積層膜部材に、該熱伝導積層膜部材に接続される放熱部材に向かう方向に沿って溝の前記加工構造部が形成されていることを特徴とする熱伝導積層膜部材。
【請求項7】
前記加工構造部の外表面近傍にテーパーを有することを特徴とする請求項6に記載の熱伝導積層膜部材。
【請求項8】
前記熱伝導層及びひずみ緩和層の層厚さがそれぞれ1nm以上20nm以下であることを特徴とする請求項6または7に記載の熱伝導積層膜部材。
【請求項9】
前記熱伝導層とひずみ緩和層とを貫通する加工構造部の積層数が2層以上4000層以下であることを特徴とする請求項6〜8のいずれか1項に記載の熱伝導積層膜部材。
【請求項10】
前記熱伝導層とひずみ緩和層とを貫通する加工構造部の加工幅が100nm以上300μm以下であることを特徴とする請求項6〜9のいずれか1項に記載の熱伝導積層膜部材。
【請求項11】
請求項6〜10のいずれか1項に記載の熱伝導積層膜部材と放熱部材とを組み合わせた放熱部品であって、前記熱伝導積層膜部材の貫通加工構造部分に、前記放熱部材の一部を配置したことを特徴とする放熱部品。
【請求項12】
請求項11に記載の放熱部品と素子とを具備することを特徴とする放熱デバイス。
【請求項13】
シリコン基板に接合された請求項6〜10のいずれか1項に記載の熱伝導積層膜部材と、シリコン基板に実装した半導体素子と、前記半導体素子が発する熱を前記熱伝導積層膜部材を介して受容し外部にその熱を放出するヒートスプレッダーとを具備するLSIであって、
前記シリコン基板と熱伝導積層膜とには両者を貫通する断面非円形のビアホールが穿けられ、該ビアホールには伝熱性のビアポストが埋設され、該ビアポストを介して前記熱伝導積層膜を面方向に伝わってくる熱を前記ヒートスプレッダーに移送する構造としたことを特徴とするLSI。
【請求項14】
前記シリコン基板と前記熱伝導積層膜との接合体が多数積層され、該多数積層された接合体を貫通し連続するビアホールにビアポストが設けられ、該ビアポストは前記ヒートスプレッダーに熱を移送するように連結された請求項13記載のLSI。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子機器および半導体デバイスから発生する熱を有効に移動させることが必要とされるエレクトロニクス分野や自動車廃熱利用分野に好適に用いることができる熱伝導積層膜部材及びその製造方法、これを用いた放熱部品及び放熱デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体デバイスの冷却にはヒートシンクを取り付ける方法や、基板に放熱する方法等がとられてきた。その適用例として、半導体レーザダイオードや発光ダイオードなどの光デバイス、MOS型電界効果トランジスタ、ヘテロ接合型電界効果トランジスタなどの電子デバイスが挙げられる。具体的に、単体のレーザチップでは、Cu、Al等の熱伝導率の高い材料からなるヒートシンクを用いて放熱する方法が用いられている。Siチップ等の半導体素子及びこれらのモジュールでは、発熱素子等からの熱をリード経由で基板に放熱する方法が広く用いられている。あるいは、電子機器・電子デバイスや光デバイスなどの半導体デバイスから発生する熱の放熱や移送に、液体と熱交換して流体による熱輸送を行ったり、熱伝導性の高い材料に伝熱させたりする対応が挙げられる。
【0003】
しかしながら、ヒートパイプなどの蒸発・凝集型の伝熱モジュールは熱輸送路の向きや寸法、構成に制限があり、とくに機器の小型化に限界がある。また、従来の熱伝導性の高い材料により伝熱させる方法では、伝熱過程で熱放出するという問題があり、十分な熱輸送量を得ることができず、さらに伝熱過程での熱の放出、拡散などによる機器への悪影響があった。上記特許文献1に記載された従来技術などもあるが、膜内方向の熱伝導性を向上することよりもむしろ、膜厚方向の熱伝導性を抑えることにより、異方的な熱伝導材料を得ることを目的としていることから、本質的な熱伝導性の向上には至っていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−229174号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者は、上記の問題点に鑑み、発熱体から発生する熱の効率的な放熱および移送を省スペースで可能にした熱伝導膜を提案した(特許第4430112号明細書参照)。これは、グラファイトを含有する熱伝導層と特定のシリコン等からなるひずみ緩和層とを積層したものであり、これにより上述した課題を効果的に解決しうる。
【0006】
そこで本発明者はさらにこの技術を応用し、例えば多様な半導体デバイス等に適用しうる加工を施した膜部材とすることを試みた。ところが、この熱伝導積層膜に対し深堀加工等を施す好適な加工法がなく、所望の形状の構造部材にすることが困難であることが判明した。
【0007】
サンドブラスト法やドリル加工法などの機械的な加工方法があるが、加工形状の微細化には限界がある。また、加工壁面の平滑性を実現しにくく、放熱部材などをそこに配設して利用するときに十分な密着性が得られず、それでは結局期待したほどの放熱性が得られないこととなる。
【0008】
そこで、本発明の第1の目的は、グラファイトを含有する熱伝導層を含む積層膜を効率的にエッチングして加工し、例えば上記熱伝導層及び特定のシリコン等のひずみ緩和層を貫通する微細な幅の深堀を可能とする熱伝導積層膜部材の製造方法の提供である。
本発明の第2の目的は、上記製造方法で製造した微細な加工部を有する熱伝導積層膜部材を利用して、発熱体から発生する熱の効率的な放熱および移送を省スペースで可能にした熱伝導膜放熱部品及び放熱デバイスの提供である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題は以下の手段により解決された。
(1)熱伝導層とひずみ緩和層とを積層してなる熱伝導積層膜を反応性イオンエッチングにより加工する熱伝導積層膜部材の製造方法であって、
前記熱伝導層を構成する材料としてグラファイトを選定し、前記ひずみ緩和層を構成する材料として、アモルファスSi、アモルファスGe、アモルファスSiGe、アモルファスSiO、アモルファスSiOx、アモルファスTiO、及びこれらの組合せのいずれかを選定し、
前記熱伝導層をエッチングする酸素含有ガスと、前記ひずみ緩和層をエッチングする硫黄−フッ素化合物含有ガスと、それらのエッチング面を保護するフルオロカーボン化合物含有ガスとを用い、少なくとも前記3種のガスを切り替えながら、前記硫黄−フッ素化合物含有ガス、前記酸素含有ガス、前記フルオロカーボン化合物含有ガスの順序で適用してエッチングを行い、前記フルオロカーボン化合物含有ガスを用いるエッチング時に加工壁に保護膜を形成し、前記保護膜は前記硫黄−フッ素化合物含有ガスを用いたエッチングおよび前記酸素含有ガスを用いたエッチング後に残して、前記熱伝導積層膜を貫通する加工を施すことを特徴とする熱伝導積層膜部材の製造方法。
(2)前記熱伝導層とひずみ緩和層とを1層ずつもしくは複数層ずつ交互に積層したことを特徴とする(1)に記載の熱伝導積層膜部材の製造方法。
(3)前記熱伝導層及びひずみ緩和層の層厚さがそれぞれ1nm以上20nm以下であることを特徴とする(1)または(2)のいずれか1項に記載の熱伝導積層膜部材の製造方法。
(4)前記反応性イオンエッチングによる加工をプロセス室内で行うに当たり、酸素含有ガス、硫黄−フッ素化合物含有ガス、フルオロカーボン化合物ガスのいずれか一つまたはこれらを複合して供給する場合に、それぞれの供給するガスの供給量をそれぞれ100sccm以下とすることを特徴とする(1)〜(3)のいずれか1項に記載の熱伝導積層膜部材の製造方法。
(5)前記酸素含有ガスとしてOを用い、前記硫黄−フッ素化合物含有ガスとしてSFを用い、前記フルオロカーボン化合物としてCを用いることを特徴とする(1)〜(4)のいずれか1項に記載の熱伝導積層膜部材の製造方法。
(6)熱伝導層とひずみ緩和層とを積層してなり、熱伝導層及びひずみ緩和層を貫通する加工構造部を有する熱伝導積層膜部材であって、
前記加工構造部の加工部壁面に凹凸を有し、
前記熱伝導層がグラファイトからなり、前記ひずみ緩和層が、アモルファスSi、アモルファスGe、アモルファスSiGe、アモルファスSiO、アモルファスSiOx、アモルファスTiO、及びこれらの組合せのいずれかからなり、
前記加工構造部が円以外の開口形状を有する孔状、溝状、もしくはパターン化された切欠形状を有し、
素子が配置される箇所に対応する前記熱伝導積層膜部材の位置を除く該熱伝導積層膜部材に、該熱伝導積層膜部材に接続される放熱部材に向かう方向に沿って溝の前記加工構造部が形成されていることを特徴とする熱伝導積層膜部材。
(7)前記加工構造部の外表面近傍にテーパーを有することを特徴とする(6)に記載の熱伝導積層膜部材。
(8)前記熱伝導層及びひずみ緩和層の層厚さがそれぞれ1nm以上20nm以下であることを特徴とする(6)または(7)に記載の熱伝導積層膜部材。
(9)前記熱伝導層とひずみ緩和層とを貫通する加工構造部の積層数が2層以上4000層以下であることを特徴とする(6)〜(8)のいずれか1項に記載の熱伝導積層膜部材。
(10)前記熱伝導層とひずみ緩和層とを貫通する加工構造部の加工幅が100nm以上300μm以下であることを特徴とする(6)〜(9)のいずれか1項に記載の熱伝導積層膜部材。
(11)(6)〜(10)のいずれか1項に記載の熱伝導積層膜部材と放熱部材とを組み合わせた放熱部品であって、前記熱伝導積層膜部材の貫通加工構造部分に、前記放熱部材の一部を配置したことを特徴とする放熱部品。
(12)(11)に記載の放熱部品と素子とを具備することを特徴とする放熱デバイス。
(13)シリコン基板に接合された(6)〜(10)のいずれか1項に記載の熱伝導積層膜部材と、シリコン基板に実装した半導体素子と、前記半導体素子が発する熱を前記熱伝導積層膜部材を介して受容し外部にその熱を放出するヒートスプレッダーとを具備するLSIであって、
前記シリコン基板と熱伝導積層膜とには両者を貫通する断面非円形のビアホールが穿けられ、該ビアホールには伝熱性のビアポストが埋設され、該ビアポストを介して前記熱伝導積層膜を面方向に伝わってくる熱を前記ヒートスプレッダーに移送する構造としたことを特徴とするLSI。
(14)前記シリコン基板と前記熱伝導積層膜との接合体が多数積層され、該多数積層された接合体を貫通し連続するビアホールにビアポストが設けられ、該ビアポストは前記ヒートスプレッダーに熱を移送するように連結された(13)記載のLSI。
【発明の効果】
【0010】
本発明の製造方法によれば、グラファイトを含有する熱伝導層を含む積層膜を効率的にエッチングして加工し、例えば上記熱伝導層及び特定のシリコン等のひずみ緩和層を貫通する微細な幅の深堀を可能とする。また、本発明の熱伝導積層膜部材は所望の形状に加工された微細な貫通孔等の加工部を有し、これを利用して、発熱体から発生する熱の効率的な放熱および移送を省スペースで可能にした熱伝導膜放熱部品及び放熱デバイスとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施形態として用いられる熱伝導積層膜(エッチング前)の構造を模式的に示す断面図である。
図2】スパッタ製膜法の工程手順を説明するための説明図である。
図3】本発明の一実施形態におけるエッチング工程の一部を模式的に示す加工途中の熱伝導積層膜の断面図である。
図4】本発明の前記実施形態におけるエッチング工程の一部を模式的に示す加工途中の熱伝導積層膜の断面図である。
図5】本発明の前記実施形態におけるエッチング工程の一部を模式的に示す加工途中の熱伝導積層膜の断面図である。
図6】本発明の別の実施形態におけるエッチング工程の一部を模式的に示す加工途中の熱伝導積層膜の断面図である。
図7】参考例としての熱伝導積層膜を用いた発熱素子搭載放熱デバイスを模式的に示した図であり、(a)が平面図であり、(b)がB−B線矢視断面図であり、(c)がC−C線矢視断面図である。
図8】本発明におけるビアの開口部ないし断面の形状を模式的に示した断面輪郭図である。
図9】本発明の一実施形態としての熱伝導積層膜を用いた発熱素子搭載放熱デバイスを模式的に示した図であり、(a)が平面図であり、(b)がB−B線矢視断面図であり、(c)がC−C線矢視断面図である。
図10】本発明のまた別の実施形態に係る発熱素子搭載放熱デバイスを模式的に示した図であり、上図が側断面図であり、下図が平面図である。
図11-1】本発明の実施形態に係るエッチング工程の変形例を模式的に示した図である。
図11-2】本発明の実施形態に係るエッチング工程の変形例を模式的に示した図である。
図12】本発明の実施形態に係る発熱素子搭載放熱デバイス構造を単層LSIに適用した例を模式的に示した断面図である。
図13】本発明の実施形態に係る発熱素子搭載放熱デバイス構造を積層LSIに適用した例を模式的に示した断面図である。
図14】本発明の第2実施形態に係る放熱デバイスの放熱性能を評価するシミュレーションに使用した素子構造図である。
図15】本発明の第2実施形態に係る放熱デバイスの放熱性能を評価するシミュレーションに使用したFEMモデル図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<第1実施形態>
本実施形態においては、特定の熱伝導層と特定のひずみ緩和層とを積層してなる熱伝導積層膜を、新規の反応性イオンエッチングにより加工し、熱伝導積層膜部材を製造する。以下、その構成の詳細について説明する。
【0013】
(熱伝導積層膜)
図1は本実施形態に係る熱伝導膜を示す断面図である。熱伝導膜1はC(炭素)を含む材料であり、具体的にはグラファイトからなり熱を膜内方向(面方向)Xに伝導する。そして、積層膜としては、第1の構成材料からなる熱伝導層1と、そのひずみを緩和する第2の構成材料からなるひずみ緩和層2とを積層して構成されている。符号4はシリコン(Si)基板である。これにより、非常に薄い膜で、膜内方向に非常に高い熱伝導性を有する熱伝導膜が得られる。
【0014】
・熱伝導層
熱伝導層の構成材料として適用されるグラファイトとしては、結晶性が優れているHOPG(高配向性グラファイト)で1500〜2000W/mKの高熱伝導率が得られるものが好ましい。また、ナノカーボンによって3000W/mK以上の更なる高熱伝導特性を有するものでもよい。この熱伝導膜では、熱伝導層1の第1の構成材料として、グラファイトが選定されるが、通常グラファイトといわれるような六角板状の結晶としてすべてが完全に結晶化されているものでなくてもよい。また、本発明の効果を損ねない範囲で熱伝導層にはグラファイト以外の成分が含まれていてもよい。
前記熱伝導層の膜厚dは、それぞれ、1nm以上20nm以下の範囲内にあることが好ましく、3nm以上15nm以下であることがより好ましい。熱伝導層が薄すぎる場合には、Si層直上にグラファイトの核が生成し、グラファイト層の歪みが緩和しきらないうちに次のSi層になってしまうため、グラファイト層の結晶性が向上しないことがある。一方、熱伝導層の膜厚が大きすぎると、つまりグラファイト層が厚すぎる場合には、一度高配向化したグラファイト層の上にグラファイトが堆積していく際に、再び乱れが発生してしまうことがある。そのため、再びグラファイト層の結晶性が低下することにつながると考えられる。
【0015】
・ひずみ緩和層
本実施形態においては、ひずみ緩和層を構成する材料として、アモルファスSi、アモルファスGe、アモルファスSiGe、アモルファスSiO、アモルファスSiOx、アモルファスTiO、及びこれらの組合せのいずれかを選定する。なかでも、アモルファスSiを用いることが特に好ましい。
【0016】
ひずみ緩和層の膜厚tは、1nm以上20nm以下の範囲内であることが好ましく、3nm以上15nm以下の範囲内であるのがより好ましい。このひずみ緩和層が薄すぎる場合には、下の熱伝導層の凹凸がひずみ緩和層で覆われず、平坦化する前に次の熱伝導層になってしまう。一方、ひずみ緩和層が厚すぎる場合には、上述したように熱伝導層の結晶性が悪化してしまい、ひずみ緩和の効果が作用しにくくなる。また、ひずみ緩和層の構成材料として、アモルファスである材料が選定されることが好ましい。
【0017】
・積層構造
本実施形態においては、グラファイトからなる熱伝導層と、上記ひずみ緩和層とを組み合わせて積層することで、グラファイトの結晶性が向上し、熱伝導層の膜内熱伝導率が向上する。これにより、非常に薄い膜で、膜内方向に非常に高い熱伝導性を有する熱伝導膜が得られる。
【0018】
本実施形態においては、前記熱伝導層と前記ひずみ緩和層を、複数回交互に繰り返して積層し、前記熱伝導層が前記ひずみ緩和層の間に挟み込まれた構成にしてもよい。この態様によれば、熱伝導層とひずみ緩和層の積層数を適宜設定することで、膜内方向の熱伝導率(膜内熱伝導率)を向上させることができるとともに、面内方向における十分な熱輸送量を得ることができる。積層数は特に限定されないが、冷却効果と成膜コストのトレードオフ関係から制約される。2層以上4000層以下であることが好ましく、100層以上3000層以下であることがより好ましく、500層以上2000層以下であることが特に好ましい。
【0019】
薄膜化したグラファイトの結晶性を向上させるためには、グラファイト結晶のひずみを効果的に緩和させるように、ひずみ緩和層を熱伝導層の間に挟み込むことが好ましい。このとき、熱伝導層(グラファイト)の割合が少なすぎると、熱を伝える材料が少なくなるだけでなく、歪みが緩和しきらず結晶性の向上が期待できないため、熱伝導層の膜内方向の熱伝導率が向上しにくい。一方、熱伝導層(グラファイト)の割合が多すぎると、グラファイトの結晶性が悪くなり、熱伝導層の膜内方向の熱伝導率が向上しにくい。
【0020】
このような点を考慮し、本実施形態では、熱伝導層の膜厚dとひずみ緩和層の膜厚tの関係が、以下の式(1)を満たすようにすることが好ましく、式(2)を満たすようにすることがより好ましい。
【0021】
0.4≦d / (d+t) ≦0.8 ・・・(1)
0.5≦d / (d+t) ≦0.7 ・・・(2)
【0022】
(製膜法)
本発明において上記積層膜を形成する方法は特に限定されず、例えば、イオンビームスパッタ法、イオンクラスタービーム法、MBE法などの公知の手法が挙げられる。スパッタ法について詳述すると、2種類のターゲットを切り替えながら2種類の膜を交互に積層する方法が挙げられる。この状況を模式的に示したのが図2である。成膜手順としては下記のようになる。
1:膜を付ける試料と膜の原料(ターゲット)を近くにおく。
2:全体を真空状態にして、試料とターゲットの間に電圧をかける。
3:電子やイオンが高速移動し、イオンがターゲットに衝突する。高速移動した電子や
オンは、気体分子に衝突し、分子の電子をはじき飛ばし、さらにイオンとなる。
4:ターゲットに衝突したイオンは、ターゲットの粒子をはじき飛ばす(スパッタリング現象)。
5:はじき飛ばされた原料の粒子が試料に衝突、付着し、膜が形成される。
【0023】
(エッチング)
図3図6は本発明の好ましい実施形態におけるエッチング工程の一部を模式的に示す加工途中の熱伝導積層膜の断面図である。本実施形態においては、ひずみ緩和層のエッチングには公知の反応性イオンエッチングを適用することができる。例えばボッシュ法を用いることが好ましい。ひずみ緩和層を構成する特定のSiの代わりに、SiGe、Geを使用する場合も、Si膜と同様に、硫黄−フッ素化合物、好ましくはSFでエッチングすることが可能である。
【0024】
一方、熱伝導層を構成するグラファイトは上記ボッシュ法によったのではエッチングすることが難しく、酸素(0)ガスでエッチングする。本発明においては、このグラファイト(炭素)を含有する層を酸素ガスでエッチングすることが特徴であり、重要である。この2種のガスを適切に組み合わせエッチングを行なうことで、上記グラファイトからなる熱伝導層と特定のシリコン等からなるひずみ緩和層とを貫くように深堀り加工を施すことが可能となる。本明細書において各層を「貫く」もしくは「貫通する」とは、各層の平面領域の一部を除去しその厚み方向に空間を連続させることを指し、円筒状に貫通することのほか、任意の形状に貫通させてよく、溝状の加工や端部の切り欠き加工も、この貫くもしくは貫通するように加工するという語の意味に含める。
【0025】
本発明においては、さらに保護層を形成するガスをエッチング工程に適用する。これにより所望の異方性エッチングが達成され、積層膜を所望の開口形状ないし断面形状で貫通する深堀エッチングが可能となる。この保護ガスとしてフルオロカーボン化合物を適用することが好ましく、C(ヘキサフルオロ−1,3−ブタジエン等)又はC(パーフルオロシクロブタン等)が好ましく、Cが特に好ましい。なお、ボッシュ法における微細孔の形成としては、Chienliu Changら、J.Micromech.Microeng,15(2005)580-585等を参照することができ、そこで適用されている装置や工程条件等を参考にすることができる。
【0026】
図3図6についてさらに詳細に説明すると、図3の工程<1>では、まず特定のシリコン等からなるひずみ緩和層2をSFガスによりエッチングする。エッチングする以外の部分はエッチングマスク5が付されている。エッチングマスクとしてはこの種のレジストにおいて一般的なものを適用することができる。次にエッチングガスを酸素ガスに切り替えて、グラファイトからなる熱伝導膜のエッチングを行なう(図3の工程<2>)。その後、保護ガス(C)により加工部Kに面する加工表面(加工壁面Km、加工底面kn)を保護し保護膜6を構成する。図示したものでは保護膜6の厚みをやや誇張して描画しているが、極めて薄い膜あるいは表面の改質状態である(図4の工程<3>)。また、加工壁面Kmも波状に凹凸があるように描写しているが理解の便宜であり、本発明においてはこのような凹凸のない壁面が達成されることが利点の1つである。
【0027】
さらに、SFガスによるエッチングを行なうと、図4の工程<4>のように保護膜で保護された加工壁面kmの形状はそのまま維持され、加工底面knのみがエッチングされていく。その結果加工幅wは一定に保たれた、極めて精度の高い深堀加工が可能となり、縦断面において壁部が直線的な微細孔ないし溝を形成することができる。次いで、エッチングガスを酸素(O)ガスに切り替え、グラファイトからなる熱伝導層をエッチングする(図5の工程<5>)。これら一連の工程を繰り返すことにより、深さのある加工部(微細孔ないし溝)Kが得られる(図5の工程<6>)。
【0028】
各ガスによりエッチングおよび保護膜形成を行う順序は、SF=>O=>Cであることが好ましい。SF6によるエッチング工程では、まずICP−RIEのエッチング異方性により孔底面Kn部分の保護膜が無くなり、側壁Km部分には保護膜が残った状態となる(図4の<4>参照)。露出したSiは化学結合により等方性エッチングされる。次に、Oプラズマは多層膜中の熱伝導層もCによる保護膜も等方的にエッチングするので、図5の<5>において、OによってCによる膜6は、本来等方的にエッチングされ、かなり薄くなるか、または完全に無くなる。その際、完全にCによる保護膜が無くなり、かつ加工部壁面Kmの熱伝導層またはひずみ緩和層をエッチングしてしまうと、加工壁面の垂直性が得られなくなる。したがって、加工壁面の垂直加工性を得るにはC4F8による保護膜はSFおよびOのエッチング後に加工部壁面Kmに残っていることが望ましい。逆の言い方をすると加工部壁面Kmを垂直以外に加工したい場合にはC4F8による保護膜の厚みを変えることにより実現することが可能である。ただし、本発明はこの説明によって限定して解釈されるものではない。
【0029】
図6は上記エッチング加工の応用形態であり、エッチングマスクを積層膜の端部を残して配置し、その端部において上記所定のガスによるエッチングを施す。結果として、積層膜の端部に切り欠き加工部Kを形成することができる。
【0030】
本発明の製造方法においては、上記2種のエッチングガスと保護ガスとを適切に組み合わせて用いることが好ましい。プロセス室内の設定条件等は加工内容によって適宜選定すればよいが、特に微細かつ深さのある加工を施すためには下記のような設定とすることが好ましい。
<SF
ガス供給量 :80〜100sccm
バイアス電圧 :15
RFパワー :500
<C
ガス供給量 :40〜60sccm
バイアス電圧 :0
RFパワー :500
<O
ガス供給量 :30〜50sccm
バイアス電圧 :20
RFパワー :800
【0031】
上記条件を適宜設定することにより所望の形状に積層膜をエッチング加工することができる。これにより、例えば、所定幅及び深さの深堀エッチングが可能となり好ましい。加工される形態は孔状であっても、溝状であっても、端部の切り欠き状であってもよい。寸法として定義するときには、孔状もしくは溝状であれば、図6に示したもののように所定の断面の幅で特定することができる。厳密には、孔状であれば横断面の孔面積を求めその円相当直径として加工幅wを定義することができる。溝状であれば、溝幅が最も狭くなる縦断面を設定しそのときの溝幅wとして定義することができる。本発明によれば、極めて微細なエッチング加工も可能であり、例えば微細な深堀りを施すときには、上記加工幅wを100nm〜300μmとすることができる。さらに、機械的な加工法では困難なレベルにまで微細化するニーズにこたえる場合には、加工幅を100nm〜1μmとすることもでき好ましい。
【0032】
(熱伝導膜の性能評価)
次に、上記第1実施形態に係る熱伝導積層膜の具体的な実施例を、以下の表1に基づいて説明する。
【0033】
【表1】
【0034】
実施例1−1〜1−6の熱伝導積層膜1の製造方法は、次の通りである。単結晶Si(111)基板4上に、イオンビームスパッタ法にて熱伝導層1とひずみ緩和層2の多層膜を形成した。まず、Si基板4上にアモルファスSi(第2の構成材料)からなるひずみ緩和層2を形成した後、グラファイトC(第1の構成材料)からなる熱伝導層1とアモルファスSiからなるひずみ緩和層2を交互に形成し、最後に、最上層にひずみ緩和層2を形成した。
【0035】
このようにして作製した各実施例1−1〜1−6の熱伝導特性を測定した。膜厚方向の熱伝導特性は、サーモリフレクタンス法にて行った。試料表面にMoを蒸着後、試料中央部にパルスレーザを照射することによって加熱を行った。加熱レーザのスポット径は、3または7μmである。サーモリフレクタンス法では、加熱用レーザと検出用レーザを同じ場所に照射し、温度波の膜厚方向の位相遅れを測定し、膜厚方向熱伝導率を求めた。一方、膜内方向の熱伝導特性は、上記サーモリフレクタンス法にて、加熱用レーザと検出レーザを距離rだけ離すことによって測定を行った。求めた膜内熱伝導率及び、膜厚方向熱伝導率を表1に示した。なお、結果の詳細は、さらに特許第4430112号明細書を参照することができる。
前記実施例1−2で示した熱伝導積層膜およびSi基板のエッチングを行った。エッチングマスクには100nmのAlを用いた。SiのエッチングにはSFガスを85sccmでプロセス室に導入し500Wの電力でエッチングを行った。CのエッチングにはOガスを40sccmでプロセス室に導入し800Wの電力でエッチングを行った。保護膜形成にはCガスを50sccmでプロセス室に導入し500Wの電力でデポジションを行った。これにより作製した熱伝導積層膜の寸法等を下記に示す。
【0036】
【表2】
【0037】
<第2実施形態>
(放熱デバイスの構成例)
本発明の第2の実施形態は、発熱部を有するデバイスに対して、上記のようにして加工部を有する熱伝導積層膜を作製したデバイスに関する。図7は本実施形態の放熱デバイスを模式的に示す平面図及び各断面図である。本実施形態によれば、上記熱伝導膜により、半導体デバイスなどの発熱体で発生する熱を有効に移行させることができる。したがって、発熱体で発生する熱の効率的な放熱および移送を省スペースで可能にした熱伝導膜を実現できる。
【0038】
図7に示した放熱デバイス100においては、先に第1実施形態で説明した熱伝導層1とひずみ緩和層2とが積層した熱伝導積層膜11を有し、この積層膜には筒状の加工部(ビアホール)Kが複数形成されている(図7は参考例であり、開口部ないし断面において円筒状のビアホールを示している。)。この加工部(ビアホール)Kは上述のとおり、2種のガスを組み合わせた反応性イオンエッチング法を利用して形成されたものである(前記第1実施形態参照)。そして、この熱伝導積層膜11は本体基板14を被覆するように配設されている。この本体基板14にも筒状の加工部Kaが施され、前記熱伝導積層膜11の加工部Kとデバイスの厚み方向に連続した筒状細孔を形成している。なお、本体基板14は第1実施形態のシリコン基板4に相当しこの種の製品に適用される基板材料であれば特に制限なく用いることができる。
【0039】
上記本体基板14には素子13が内蔵されている。この素子13は発熱性のものであり、例えば、トランジスタや半導体レーザダイオードなどが挙げられる。さらに、上記加工部K及びKaが連続した空孔をなし、そこに放熱部材12が取りつけられている。この放熱部材は、第1部材12a、第2部材12b、第3部材12cからなり、第2部材(ビア)12bが上記のとおり細孔を縦貫し、その上下両面に面状に広がる第1部材(ヒートスプレッダー)12a及び第3部材(ヒートスプレッダー)12cと連続している。なお、加工部の形状が切り欠き状のような場合には、嵌合するように放熱部材の第2部材を配置するようにしてもよい。前記第1実施形態により熱伝導積層膜には寸法精度の高い加工が施されおり、具体的には、壁面において平滑性の高い形状が実現されている。そのため、同様にCuビアなどの放熱部材の第2部材12bの壁面とほぼ隙間無く密着している。
【0040】
上記放熱部材(ヒートスプレッダー)12a,12cは放熱性に優れる材料からなることが好ましく、銅・銅合金やアルミニウム・アルミニウム合金のような金属部材が挙げられる。なかでも、銅材料で形成された放熱ビアと接合が容易な銅・銅合金からなることが好ましい。
【0041】
各部材の厚さや大きさは特に限定されないが、典型的な素子13の寸法を挙げると、例えば上記トランジスタとして厚さ1μm〜10μm、縦・横の長さとして1μm〜100μmのものが典型的である。その場合、熱伝導積層膜11の厚さとしては、1μm〜10μm程度が実際的であり、デバイス全体の厚さは10μm〜300μmが実際的となる。また、このような場合、デバイス全体の寸法としては、縦・横の長さとして100μm〜10,000μmのものが実際的である。
【0042】
本実施形態の利点は、上記熱伝導積層膜11の上面に単に放熱板が載せられているのではなく、加工部(ビアホール)Kに縦貫させた放熱部材の第2部材(ビア)12aが各熱伝導層1,1,1に当接しているということである。その結果、デバイス内に伝播してくる素子からの熱を、熱伝導積層膜の熱伝導層1,1,1が効果的に面方向に熱輸送し、厚さ方向に不用意に熱を逃がしたりせず、効果的に第2部材12bを介して放熱部材12の全体に熱を伝えることができる。そして、放熱部材12の第1部材12a及び第3部材12cは面状に広がり、かつ外部に開放されており、極めて高い放熱性を実現することができる。これを、加工部(ビアホール)Kが無く放熱ビアを設けなかった場合との対比でその性能差を示すと下記のとおりである。
【0043】
さらに本発明において重要なことは、ビアホール及びそこに埋設されるビアポストの開口部及び断面の形状(単に断面形状ということがある)が、円形以外の形状にされているということである。本発明の好ましい実施例を図8に挙げた。(a)は十字型の断面形状、(b)は歯車型の断面形状、(c)は六角形の断面形状、(d)は星型の断面形状を示している。このような円形以外の断面形状は、機械的加工法によったのでは実現しがたい。上記のとおり本発明においては、円形以外の断面形状とすることで、熱伝導積層膜とビアとの接触面積を増やして、両者間の熱抵抗を低減することが可能となり、より放熱性に優れたデバイスを実現するという利点がある。例えば、図11に示したデバイス内の熱の流れは、発熱素子→Si基板→多層膜→多層膜・放熱ビア接触界面→放熱ビア→接続ペースト→ヒートスプレッダとなり、デバイス全体の熱抵抗は、各要素の熱抵抗を直列に接続したものとして評価できる。従って、熱伝導性に優れた高熱伝導多層膜を用いても、多層膜・放熱ビア接触界面で熱抵抗が大きくなると、全体の放熱性が低下し、高熱伝導多層膜の特性が生かされない。逆に言えば、本発明によれば、ビアの断面を非円形とすることで、熱伝導積層膜のもつ良好な熱伝導性をより効果的に引き出すことができ、放熱部材ないしデバイス全体の性能としてその放熱性を相乗的に高めることができる。
【0044】
(放熱デバイスの性能評価)
次に、上記第2実施形態に係る放熱デバイスの性能評価をシミュレーションにより行なった実施例を、以下の表2に基づいて説明する。
【0045】
【表3】
*実施例1−1で作成した積層膜を、発熱部を有するデバイスに形成した。積層膜全体の厚みは10μmとした。
【0046】
本シミュレーションの条件等は下記のとおりである。なお、FEMに用いた解析モデルを添付の図14図15に示す、三角形断面の角柱形状モデルを用いて計算した。
高熱伝導多層膜の熱伝導率:800W/m/K(膜内方向)、1W/m/K(膜厚方向)
放熱ビア・ヒートスプレッダ(銅製)の熱伝導率:360 W/m/K
接合ペーストの熱伝導率:262W/m/K
基板(シリコン)の熱伝導率:148W/m/K
ヒートスプレッダ・大気間の界面熱コンダクタンス:2.5kW/m2/K
その他の大気表面との界面熱コンダクタンス:10W/m2/K
放熱ビア・接合ペースト間の界面熱コンダクタンス:500kW/m2/K
高熱伝導多層膜・接合ペースト間の界面熱コンダクタンス:240kW/m2/K
高熱伝導多層膜・放熱ビア間の界面熱コンダクタンス:930kW/m2/K
環境温度:23℃
基板(シリコン)厚み:425μm
発熱量:0.3W
【0047】
上記の評価では、比較例に対して、本発明の実施例に係る放熱デバイスにより数〜十数ポイントの温度低下が確認された。これは、比較例のデバイスの最高到達温度を約60℃とすると、それよりも数〜十数℃低い温度と見積もることができる。さらに、上記シミュレーションでは、計算の便宜から放熱ビアの直径Φを150〜300μmと大きめに設定したが、上記第1実施形態に示した反応性イオンエッチングによれば、直径Φが1μmを切るビアホールの形成も可能である。このように1μm未満の微細な放熱ビアを、30〜50μmの厚みの基板に多数設けることを前提とすると、上記の差はさらに顕著なものとなる。ヒートスプレッダ(放熱部材)の形態等にもよるが、概略的に言えば、比較例のデバイスの最高到達温度が約100℃として、それよりも数十℃の範囲で温度低下させることができると推定される。
【0048】
(アプリケーション等)
本実施形態のデバイス構造は、伝熱過程での熱の放出、拡散が少なく、面内方向に十分な熱輸送量を得ることができるので、伝熱過程での熱の放出、拡散などにより機器へ与える影響が小さいという利点を有する。そして、発熱体で発生する熱を有効に移動させることが必要とされるエレクトロニクス分野、自動車廃熱利用分野などで用いられる電子機器や半導体デバイスの放熱に有効に用いることができる。また、省スペースが必要な携帯機器用デバイスなどの冷却に用いることができる。
【0049】
本実施形態の半導体デバイスとしては、例えば、並べて配置された複数の半導体レーザダイオードと、前記複数の半導体レーザダイオードからの出射光を集光する集光レンズと、冷却手段と、複数の半導体レーザダイオードの各々を間に挟むように配置された複数の前記熱伝導膜と、を備えた加工用レーザダイオードモジュールが挙げられる。このモジュールによれば、上記複数の熱伝導膜により、前記複数の半導体レーザダイオードからの熱を移送して、前記冷却手段側へ逃がすようにできる。また、複数の半導体レーザダイオードの活性層からの熱を、各半導体レーザダイオードを挟むように配置された複数の熱伝導膜により優先的に側面に移送できるため、トータルとしての放熱量が増加し、半導体デバイス温度を低減することができる。さらに、多層化された複数の半導体レーザダイオードの活性層からの熱を有効に排出することができる。
【0050】
図9は熱伝導積層膜に変更を加えた別の変形例である。具体的には、素子13の配置された箇所に対応する位置にのみ熱伝導積層膜が配置されるようにして、それ以外の部分には、素子から放熱部材に向かう方向に沿って溝Lを形成したものである。これにより隣接する素子13の影響を受けずに効率的に放熱冷却を行なうことができる。
【0051】
図10は多層膜に形成したビアホールにテーパーを設けたものである。これにより、本実施形態においてはとりわけ各層の膜厚が数〜十数nmであり、そのテーパーや凹凸による効果も含め、熱交換面積の大きな増大などの効果が見込める。ここでは、先に示した図4<4>または図5<5>において、Si膜またはC膜のエッチング量をコントロールすることにより図11−1、図11−2に示すように正テーパー・逆テーパーなどの量をコントロールしたものを適用することができる。なお、図中11−1,1−2中、(a)は図4および図5で挙げたものと同様、エッチング量最適に調整し垂直な加工側壁を得たものである。(b)は(a)の垂直断面形成後に熱伝導層またはひずみ緩和層の一方の膜のみを加工部壁面Kmからサイドエッチングを行い加工部壁面を凹凸状に加工したもの、(c)は熱伝導層およびひずみ緩和層の一方または両方をエッチング量不足に調整してエッチングを行い正テーパーに加工したもの)、(d)は熱伝導層およびひずみ緩和層の一方または両方をエッチング量過多に調整してエッチングを行い逆テーパーに加工したものの例をそれぞれ示している。
【0052】
図12及び13は第2実施形態に係るデバイス構造をさらに具体的な電子機器に応用した例であり、図12は単層LSIを示し、図13は積層LSIを示している。図12の例では、素子13としてプロセッサコアを適用し、これを基板14a及び基板14bにより載置している。この基板14aの上部には上記実施形態に係る熱伝導積層膜11が配設され、これを挟むようにして基板の反対側には放熱部材の第1部材12aとしてのヒートスプレッダーが配設されている。本実施形態においては、熱伝導積層膜11にビアホールKが設けられており、それが基板14a及び14bのビアホールKa
に連続するようにされている。このビアホールにはCu放熱ビア(第2部材)が縦貫するように形成されている。これにより、伝播してくる熱がこのCuビア(第2部材)を介して第1部材(ヒートスプレッダー)12aに熱を移行させる。
【0053】
図13は積層LSIの構造を示しているが、底部にははんだボール19が取り付けられ、回路基板に搭載可能とされている。発熱素子(プロセッサコア)13はSiチップ13A内部に埋め込まれ、このSiチップが複数の層をなして積層されている。各Siチップ13Aにはその上部に上記実施形態に係る熱伝導積層膜11が配設されている。ここにはビアホールが設けられており、Siチップ13を貫通して、各層のSiチップ及び熱伝導積層膜11がビアホールで連続するようにされている。このビアホールにはCuビア(第2部材)が導入され、複数のSiチップを連結するように伝熱構造が形成されている。この放熱ビアを第2部材12bとして、デバイス最上部に装着された放熱部材の第1部材(ヒートスプレッダー)12aに連続し、内部の熱を効率的に外部に放出することができる。なお、積層LSIは全体が封止樹脂15で封止されている。
【0054】
上記単層LSI及び積層LSIにおいても、本発明の熱伝導積層膜の優れた利点は効果的に活かされる。すなわち、素子から発せられる熱を熱伝導積層膜が受け止め、この厚み方向への移行は抑制しながら、面方向に優先的に移送する。そして、その移送された熱は各熱伝導層と連続した放熱部材の第2部材に極めて効率的に移行し、外部の第1部材(ヒートスプレダー)12aに移送される。このような選択的に移送する熱伝導経路を経て、内部に不用意に熱をためることなく、単層LSIないし積層LSIの極めて効果的な放熱及び冷却が可能となる。
【符号の説明】
【0055】
1 熱伝導層
2 ひずみ緩和層
4 シリコン基板
5 エッチングマスク
6 保護膜
11 熱伝導積層膜
12 放熱部材
12a 第1部材
12b 第2部材
12c 第3部材
13 素子
13A 素子を内臓したSiチップ
14 本体基板
15 封止樹脂
100、200、300、400、500、600 放熱デバイス
K 加工部(ビアホール)
Km 加工部壁面
Kn 加工部底面
L 溝
図1
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11-1】
図11-2】
図12
図13
図14
図2
図15