(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
近年、半導体装置は目覚しい技術革新を迎えている。スマートフォン、タブレットなど携帯情報、通信端末は大容量の情報を高速で処理できるよう、TSV(スルーシリコンビア)技術が用いられている。該技術では先ず半導体素子を多層接続し、8インチ乃至12インチのシリコンインターポーザーにフリップチップ接続する。その後、多層接続された半導体素子が複数個搭載されたインターポーザーごと熱硬化樹脂により封止する。半導体素子上の不要な硬化樹脂を研磨した後、個片化し、薄型で小型、多機能かつ高速処理可能な半導体装置を得ることができる。しかしながら8インチ乃至12インチの薄いシリコンインターポーザー上の全面に熱硬化樹脂を塗布し、封止した場合、シリコンと熱硬化性樹脂の熱膨張係数の違いから大きな反りが発生する。反りが大きいとその後の研磨工程や個片化工程に適用することができず大きな技術課題となっている。
【0003】
また近年、地球温暖化対策として、化石燃料からのエネルギー転換などといった地球レベルでの環境対策が進められている。そのため、ハイブリット車や電気自動車の生産台数が増えてきている。また中国やインドなど新興国の家庭用電気機器も省エネルギー対策としてインバーターモーターを搭載した機種が増えてきている。
【0004】
ハイブリッド車や電気自動車、インバーターモーターには、交流を直流、直流を交流に変換したり、電圧を変圧する役割を担うパワー半導体が重要となる。しかしながら長年半導体として使用されてきたシリコン(Si)は性能限界に近づいており、飛躍的な性能向上を期待することが困難になってきた。そこで炭化ケイ素(SiC)、チッ化ガリウム(GaN)、ダイヤモンドなどの材料を使った次世代型パワー半導体に注目が集まるようになっている。例えば、電力変換の際のロスを減らすためにパワーMOSFETの低抵抗化が求められている。しかし現在主流のSi−MOSFETでは大幅な低抵抗化は難しい。そこでバンドギャップが広い(ワイドギャップ)半導体であるSiCを使った低損失パワーMOSFETの開発が進められている。
【0005】
SiCやGaNは、バンドギャップがSiの約3倍、破壊電界強度が10倍以上という優れた特性を持っている。また高温動作(SiCでは650℃動作の報告がある)、高い熱伝導度(SiCはCu並み)、大きな飽和電子ドリフト速度などの特徴もある。この結果、SiCやGaNを使えばパワー半導体のオン抵抗を下げ、電力変換回路の電力損失を大幅に削減することが可能である。
【0006】
パワー半導体は、一般的にエポキシ樹脂によるトランスファー成形、シリコーンゲルによるポッティング封止により保護されている。最近は小型、軽量化の観点(特に自動車用途)からエポキシ樹脂によるトランスファー成形が主流になりつつある。しかし、エポキシ樹脂は成形性、基材との密着性、機械的強度に優れるバランスの取れた熱硬化樹脂であるが、200℃を超える温度では架橋点の熱分解が進行し、SiC、GaNに期待される高温での動作環境では封止材としての役割を担えないのではないかと不安視されている(非特許文献1)。
【0007】
そこで耐熱特性に優れる材料としてシアネート樹脂を含む熱硬化性樹脂組成物が検討されている。例えば、特許文献1は、エポキシ樹脂をフェノールノボラック樹脂の硬化物中に多価シアン酸エステルとエポキシ樹脂の反応によるオキサゾール環を形成し、安定した耐熱性を得ることを記載している。特許文献1はエポキシ樹脂のエポキシ当量が1に対してフェノールノボラック樹脂の水酸基当量が0.4〜1.0であり、多価シアン酸エステルのシアナート当量が0.1〜0.6であることにより、耐熱性及び耐水性に優れる硬化物を提供できると記載している。また、特許文献2は、特定構造を有するシアン酸エステル化合物、フェノール化合物、及び無機充填剤を含む熱硬化性樹脂組成物を記載しており、該樹脂組成物は耐熱性に優れ、高い機械的強度を有すると記載している。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下本発明につき更に詳しく説明する。
【0016】
(A)シアネートエステル化合物
(A)成分は、1分子中に2個以上のシアナト基を有するシアネートエステル化合物である。本発明におけるシアネートエステル化合物は1分子中に2個以上のシアナト基を有するものであればよく、一般に公知のものが使用できる。該シアネートエステル化合物は、例えば下記一般式(1)で表すことができる。
【化5】
(式中、R
1及びR
2は、互いに独立に、水素原子または炭素数1〜4のアルキル基であり、R
3は、互いに独立に、下記のいずれかである。
【化6】
R
4は水素原子またはメチル基であり、nは0〜10の整数である)
【0017】
本発明のシアネートエステル化合物としては、例えば、ビス(4−シアナトフェニル)メタン、ビス(3−メチル−4−シアナトフェニル)メタン、ビス(3−エチル−4−シアナトフェニル)メタン、ビス(3,5−ジメチル−4−シアナトフェニル)メタン、1,1−ビス(4−シアナトフェニル)エタン、2,2−ビス(4−シアナトフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−シアナトフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、ジ(4−シアナトフェニル)チオエーテル、1,3−および1,4−ジシアナトベンゼン、2−tert−ゾチル−1,4−ジシアナトベンゼン、2,4−ジメチル−1,3−ジシアナトベンゼン、2,5−ジ−tert−ブチル−1,4−ジシアナトベンゼン、テトラメチル−1,4−ジシアナトベンゼン、1,3,5−トリシアナトベンゼン、2,2’−または4,4’−ジシアナトビフェニル、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジシアナトビフェニル、1,3−、1,4−、1,5−、1,6−、1,8−、2,6−、または2,7−ジシアナトナフタレン、1,3,6−トリシアナトナフタレン、ビス(4−シアナトフェニル)メタン;2,2−ビス(4−シアナトフェニル)プロパン、1,1,1−1トリス(4−シアナトフェニル)エタン、ビス(4−シアナトフェニル)エーテル;4,4’−(1,3−フェニレンジイソピロピリデン)ジフェニルシアネート、ビス(4−シアナトフェニル)チオエーテル、ビス(4−シアナトフェニル)スルホン、トリス(4−シアナト−フェニル)ホスフィン、トリス(4−シアナトフェニル)ホスフェート、フェノールノボラック型シアネート、クレゾールノボラック型シアネート、ジシクロペンタジエンノボラック型シアネート、フェニルアラルキル型シアネートエステル、ビフェニルアラルキル型シアネートエステル、ナフタレンアラルキル型シアネートエステルなどが挙げられる。これらのシアネートエステル化合物は1種または2種以上混合して用いることができる。
【0018】
上記シアネートエステル化合物はフェノール類と塩化シアンを塩基性下で反応させることにより得られる。上記シアネートエステル化合物は、その構造より軟化点が106℃の固形のものから、常温で液状のものまでの幅広い特性を有するものの中から用途に合せて適宜選択することができる。例えば、液状のエポキシ樹脂組成物を製造する際には常温で液状の化合物を使用し、溶媒に溶かしてワニスにする場合は溶解性や溶液粘度に応じて選択することが好ましい。またパワー半導体封止用にトランスファー成形で使用するときには常温で固体の化合物を選択することが好ましい。
【0019】
また、シアネート基の当量が小さいもの、即ち官能基間分子量が小さいものは硬化収縮が小さく、低熱膨張、高Tgの硬化物を得ることができる。シアネート基当量が大きいものは若干Tgが低下するが、トリアジン架橋間隔がフレキシブルになり、低弾性化、高強靭化、低吸水化が期待できる。シアネートエステル化合物中に結合あるいは残存している塩素は50ppm以下、より好ましくは20ppm以下であることが好適である。塩素の量が50ppmを超えると高温下に長期間置いたときに熱分解により遊離した塩素あるいは塩素イオンが、酸化されたCuフレームやCuワイヤー、Agメッキを腐食し、硬化物の剥離や電気的不良を引き起こす可能性がある。また樹脂の絶縁性も低下する恐れがある。
【0020】
(B)フェノール化合物
(B)成分は1分子中に2個以上のフェノール性水酸基を有するフェノール化合物であり、1分子中に2個以上の水酸基を有するものであれば一般に公知のものが使用できる。該フェノール化合物は、例えば下記一般式(2)で表すことができる。
【化7】
上記式中、R
5及びR
6は、互いに独立に、水素原子または炭素数1〜4のアルキル基であり、mは0〜10の整数である。
上記式中、R
7は、互いに独立に、下記のいずれかである。
【化8】
(上記式中、R
4は、互いに独立に、水素原子またはメチル基である)
【0021】
上記式(2)で表されるフェノール化合物としては、ビスフェノールF型樹脂、ビスフェノールA型樹脂、フェノールノボラック樹脂、フェノールアラルキル型樹脂、ビフェニルアラルキル型樹脂、ナフタレンアラルキル型樹脂が挙げられる。これらは1種単独でも2種以上を併用してもよい。尚、上記式(2)においてR
7がCH
2である化合物(例えば、フェノールノボラック樹脂)を含む組成物は耐熱性が劣るおそれや、シアネート化合物との反応性が早すぎるため成形性が劣るおそれがある。従って、R
7はCH
2以外であることが特には好ましい。
【0022】
従来、シアネートエステル化合物の硬化触媒としては金属塩、金属錯体などが用いられていた(特開昭64−43527号公報、特開平11−106480号公報、特表2005−506422号公報)。しかしながら金属塩、金属錯体として用いられるのは遷移金属であり、遷移金属類は高温下、有機樹脂の酸化劣化を促進する懸念がある。本発明の組成物では上記フェノール化合物がシアネートエステル化合物の環化反応の触媒として機能する。従って、金属塩及び金属錯体を使用する必要がない。これにより高温下での長期保管安定性をより向上することができる。
【0023】
また、一分子中に少なくとも2個以上の水酸基を持つフェノール化合物はトリアジン環をつなぐ架橋剤として期待できる。フェノール化合物は、エポキシ化合物やアミン化合物と異なり、シアネートエステル化合物と結合することにより−C−O−Ar−で表される構造を形成することができる。該構造は、シアネートエステル化合物を単独で硬化した時に形成されるトリアジン環構造と類似している為、得られる硬化物の耐熱性をさらに向上することが期待できる。
【0024】
なお、水酸基当量が小さいフェノール化合物、例えば水酸基当量が110以下であるフェノール化合物はシアネート基との反応性が高い。そのため、120℃以下で組成物を溶融混練する際に硬化反応が進行してしまい、流動性が著しく損なわれる場合があり、トランスファー成形には好ましくない。従って、フェノール化合物は水酸基当量111以上であるのが特に好ましい。
【0025】
フェノール化合物の配合量はシアナト基1モルに対し水酸基が0.2〜0.4モルとなる量である。フェノール化合物の量が上記下限値より少ないと、シアナト基の反応が不十分となり、未反応のシアナト基が残存する。残存したシアナト基は高湿度雰囲気下において加水分解を受ける。そのため、高温高湿下に置くと、機械的強度の低下や、基材との密着力低下を引き起こす。また、フェノール化合物の量が上記上限値より多いと、硬化反応が低温から進行してしまう。そのため、組成物の流動性が損なわれ、成形性が悪くなる。また、上記フェノール化合物中のハロゲン元素やアルカリ金属などは、120℃、2気圧下での抽出で10ppm、特に5ppm以下であることが望ましい。
【0026】
(C)無機充填剤
本発明において無機充填剤の種類は特に制限されず、半導体封止用樹脂組成物の無機充填剤として公知のものを使用できる。例えば、溶融シリカ、結晶性シリカ、クリストバライト等のシリカ類、アルミナ、窒化珪素、窒化アルミニウム、ボロンナイトライド、酸化チタン、ガラス繊維、酸化マグネシウム、及び酸化亜鉛等が挙げられる。これら無機充填剤の平均粒径や形状は、用途に応じて選択されればよい。中でも、シリコンに近い熱膨張係数を得るためには、溶融シリカが好ましく、形状は球状のものが好適である。無機充填剤の平均粒径は0.1〜40μmであることが好ましく、より好ましくは0.5〜15μmであるのがよい。該平均粒径は、例えばレーザー光回折法等による重量平均値(又はメディアン径)等として求めることができる。
【0027】
無機充填剤は、120℃、2.1気圧でサンプル5g/水50gの抽出条件で抽出される不純物として塩素イオンが10ppm以下、ナトリウムイオンが10ppm以下であることが好適である。10ppmを超えると組成物で封止された半導体装置の耐湿特性が低下する場合がある。
【0028】
本発明において無機充填剤の配合量は、組成物全体の60〜94重量%、好ましくは70〜92重量%、更に好ましくは75〜90重量%とすることができる。
【0029】
無機充填剤は、樹脂と無機充填剤との結合強度を強くするため、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤などのカップリング剤で予め表面処理したものを配合することが好ましい。このようなカップリング剤としては、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のエポキシシラン、N−β(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、イミダゾールとγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランの反応物、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノシラン、などのシランカップリング剤を用いることが好ましい。また、γ−メルカプトシラン、γ−エピスルフィドキシプロピルトリメトキシシラン等のメルカプトシランで表面処理された無機充填剤を使用することもできるが、本発明ではあまり好ましくない。ここで表面処理に用いるカップリング剤の配合量及び表面処理方法については特に制限されるものではない。
【0030】
(D)エポキシ樹脂
(D)成分は下記式(3)または(4)で表されるエポキシ樹脂である。
【化9】
【化10】
上記式(3)及び(4)中、k及びpは、互いに独立に、0以上10以下の整数であり、jは1〜6の整数であり、R
5は互いに独立に、水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基であり、R
6及びR
7は互いに独立に、下記のいずれかである。
【化11】
【0031】
上記エポキシ樹脂としては、例えば、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、ナフタレン型アラルキルエポキシ樹脂などが挙げられる。エポキシ樹脂はシアネート樹脂とオキサゾール環を形成するが、シアナト基のトリアジン環形成にくらべると反応性が遅い。尚、エポキシ基の割合が多いと硬化時間が長くなりトランスファー成形には不利である。ここにトリエチルアミンのような3級アミンを使用する例もあるが、保存性が悪くなる恐れがある。
【0032】
上記エポキシ樹脂はシアネートエステル化合物と反応してオキサゾール環を形成する。本発明においてエポキシ樹脂化合物の添加量は、シアネートエステル化合物のシアナト基1モルに対しエポキシ基当量が0.04〜0.25となる量である。エポキシ樹脂の量が上記下限値より少ないと、硬化物の吸湿量が多くなり、高温高湿度下でリードフレームと硬化物の間に剥離が発生する。また、エポキシ樹脂の量が上記上限値より多いと、硬化が不十分となり、硬化物のガラス転移温度の低下や、高温高湿保管特性の低下を引き起こす。
【0033】
本発明の組成物では、シアネートエステル化合物の環化反応によるトリアジン環形成に加えて、エポキシ化合物とシアネートエステル化合物との反応(オキサゾール環の形成)、フェノール化合物とシアネートエステル化合物との反応、及びエポキシ化合物とフェノール化合物との反応がおこる。本発明の組成物は、上述した特定の配合比の基でこれらの反応を起こすことにより、高温高湿耐性に極めて優れた硬化物を提供することができる。
【0034】
(E)メルカプトプロピル基含有アルコキシシラン化合物
(E)成分は下記一般式(5)で表される化合物である。
【化12】
上記式(5)において、R
8及びR
9は、互いに独立に炭素数1〜3のアルキル基であり、dは0〜2の整数である。該メルカプトプロピル基含有アルコキシシラン化合物としては、例えば、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、及び3−メルカプトプロピルメチルジエトキシシランなどが挙げられる。
【0035】
本発明の組成物は、上記式(5)で表されるメルカプトプロピル基含有アルコキシシラン化合物を含有することにより、Cu合金リードフレーム、Agメッキ、Auメッキ、及びNiPdAuメッキなどの金属基板と硬化物との密着性を大幅に向上する。(E)成分の配合量は、(A)成分及び(B)成分の合計100重量部に対し、0.3〜1.0重量部、好ましくは0.4〜0.8重量部であるのがよい。(E)成分の量が上記下限値より少ないと、金属基板と硬化物の密着性が不足する可能性がある。また(E)成分の量が上記上限値を超えても密着性がさらに向上することはないため、経済上好ましくない。
【0036】
(F)モリブデン酸金属塩担持物質
(F)成分は、モリブデン酸金属塩を無機担体に担持してなる物質である。(F)成分は、組成物のpHを酸性から中性よりに変化させる効果、及びリードフレームやメッキ由来のCuイオンやAgイオンの遊離を抑制または捕捉する効果を有する。本発明は、(F)成分を下記に記載する(G)成分と併せて配合することを特徴とする。これにより、本発明の組成物の硬化物で封止したデバイスを高温下に長期間置いたときに生じる金属フレームの腐食を抑制し、かつ、高温下で硬化物と金属フレームとの優れた密着性を維持することができる。
【0037】
モリブデン酸金属塩を担持させる無機担体としては、上記(C)無機充填剤として挙げられるものが使用できる。例えば、溶融シリカ、結晶性シリカ等のシリカ類、タルク、酸化亜鉛、アルミナ、窒化珪素、窒化アルミニウム、ボロンナイトライド、酸化チタン、ガラス繊維等が挙げられる。該無機担体は上記(C)成分と同じであっても異なっていてもよい。特に好ましくは、シリカ、タルク、酸化亜鉛である。
【0038】
モリブデン酸金属塩としては、モリブデン酸亜鉛、モリブデン酸カルシウム、モリブデン酸ストロンチウム、モリブデン酸バリウム、又はこれらの混合物を使用することができる。また、モリブデン酸金属塩に亜鉛、カルシウム、ストロンチウム、バリウム等の金属の酸化物を組合せても良い。好ましくはモリブデン酸亜鉛である。モリブデン酸亜鉛を無機担体に担持してなる物質としては、例えばSHERWIN−WILLIAMS社のKEMGARDシリーズが挙げられる。
【0039】
無機担体に担持するモリブデン酸金属塩の量は、無機担体の全量に対して5〜40質量%、特に10〜30質量%であることが好ましい。モリブデン酸金属塩の含有量が少なすぎると十分な効果が得られない場合があり、また多すぎると成形時の流動性、硬化性が低下する場合がある。
【0040】
(F)成分の添加量は(A)及び(B)成分の合計100重量部に対し、3〜30重量部、好ましくは5〜20重量部とすることが好ましい。(F)成分の量が上記下限値未満では効果が十分得られない。また上記上限値を超えて添加した場合、流動性の低下を引き起こす場合がある。
【0041】
(G)ハイドロタルサイト様化合物
(G)成分はハイドロタルサイト様化合物及び/またはハイドロタルサイト様化合物の焼成物である。ハイドロタルサイト様化合物とは例えば下記組成式で表される層状複水酸化物であり、陰イオン交換体として機能する。
[M
2+1−xM
3+x(OH)
2]
x+[(A
n−x/n)・mH
2O]
x−
上記式中、M
2+はMg
2+、Ca
2+、Zn
2+、Co
2+、Ni
2+、Cu
2+、Mn
2+、などの2価金属イオンであり、M
3+はAl
3+、Fe
3+、Cr
3+などの3価金属イオンであり、A
n−はOH
−、Cl
−、CO
32−、SO
42−などのn価のアニオンである。xは0より大きい数であり、特には0.10〜0.50、さらには0.20〜0.33であり、mは0または0より大きい数であり、特には0〜10、さらには0〜4である。ハイドロタルサイト様化合物の焼成物は例えば一般式M
2+1−xM
3+xO
1+x/2(xは正数である)で表すことができる複酸化物である。また、本発明の(F)成分として、Mg
3ZnAl
2(OH)
12CO
3・wH
2O、Mg
3ZnAl
2(OH)
12CO
3等の亜鉛変性ハイドロタルサイト系化合物を使用する事もできる(wは実数である)。
【0042】
ハイドロタルサイト様化合物及びハイドロタルサイト様化合物の焼成物は陰イオン交換能を有する。よって(D)成分の酸化により発生する硫酸イオンを捕捉することができ、これによりCuリードフレームやAgメッキの硫化や腐食を防止する効果がある。また上記の通り(
G)成分を(
F)成分と併せて使用することにより、Cu、Agの腐食やマイグレーションなどの不具合を極めて効果的に防止することができる。
【0043】
本発明の(
G)成分は、好ましくは下記一般式(6)で表されるハイドロタルサイト化合物及び/または該ハイドロタルサイト化合物の焼成物である。
Mg
aAl
b(OH)
cCO
3・nH
2O (6)
上記式(6)中、a、b、及びcは2a+3b−c=2を満たす0より大きい数であり、nは0≦n≦4を満たす数である。
【0044】
上記式(6)で表されるハイドロタルサイト化合物としては、例えば、Mg
4.5Al
2(OH)
13CO
3・3.5H
2O、Mg
4.5Al
2(OH)
13CO
3、Mg
4Al
2(OH)
12CO
3・3.5H
2O、Mg
6Al
2(OH)
16CO
3・4H
2O、Mg
5Al
2(OH)
14CO
3・4H
2O、Mg
3Al
2(OH)
10CO
3・1.7H
2O等が挙げられる。市販品としては、商品名「DHT−4A」、「DHT−6」、「DHT−4A−2」(いずれも協和化学工業社製)などを挙げることができる。
【0045】
(
G)成分の配合量は(A)成分及び(B)成分の合計100重量部に対し、1〜10重量部、好ましくは2〜8重量部とすることが好ましい。(
G)成分の量が上記下限値より少ないと効果が十分得られない。また(
G)成分の量が上記上限値を超えて添加した場合、硬化性や密着性の低下を引き起こす場合がある。
【0046】
本発明の封止樹脂組成物には、更に必要に応じて 離型剤、難燃剤、酸化防止剤、接着付与剤、低応力剤、(E)成分以外のカップリング剤など各種の添加剤を配合することができる。
【0047】
離型剤は特に制限されず公知のものを使用することができる。例えば、カルナバワックス、ライスワックス、キャンデリラワックス、ポリエチレン、酸化ポリエチレン、ポリプロピレン、モンタン酸、モンタン酸と、飽和アルコール、2−(2−ヒドロキシエチルアミノ)−エタノール、エチレングリコール、グリセリン等とのエステル化合物であるモンタン酸ワックス、ステアリン酸、ステアリン酸エステル、ステアリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンと酢酸ビニルとの共重合体等が挙げられる。これらは1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0048】
(E)成分以外のカップリング剤としては、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のエポキシシラン、N−β(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、イミダゾールとγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランの反応物、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノシランなどのシランカップリング剤を1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0049】
難燃剤は特に制限されず公知のものを使用することができる。例えば、ホスファゼン化合物、シリコーン化合物、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、酸化モリブデン、及び三酸化アンチモンが挙げられる。
【0050】
本発明の組成物の製造方法は特に制限されるものでない。例えば、上記(A)〜(G)成分を同時に又は別々に、必要により加熱処理を加えながら、撹拌、溶解、混合、分散し、場合によってはこれらの混合物にその他の添加剤を加えて混合、撹拌、分散させることにより得ることができる。混合等に使用する装置は特に限定されないが、撹拌、加熱装置を備えたライカイ機、2本ロール、3本ロール、ボールミル、連続押し出し機、プラネタリーミキサー、マスコロイダー等を用いることができる。これらの装置を適宜組み合わせて使用しても良い。
【0051】
本発明の組成物は、トランジスタ型、モジュール型、DIP型、SO型、フラットパック型、ボールグリッドアレイ型等の半導体パッケージに有用である。本発明の組成物の整形は、従来より採用されている成形法に従えばよい。例えば、トランスファー成形、コンプレッション成形、インジェクション成形、注型法等を利用することができる。特に好ましいのはトランスファー成形である。本発明の組成物の成形温度は、160〜190℃で45〜180秒間、ポストキュアーは170〜250℃で2〜16時間であるのが望ましい。
【0052】
本発明の組成物は、200℃以上、特には200℃〜250℃の高温下に長期保管した場合の熱分解(重量減少)が少ない。また、高温高湿環境下に長期間置いてもCuLFやAgメッキとの優れた密着性を維持することができ、かつ金属フレームの腐食を効果的に抑制することができる。そのため本発明の組成物の硬化物で封止された半導体装置は高温長期信頼性を有することができる。また従来トランスファー成形材料として一般的に使用されているエポキシ樹脂組成物と同様の装置に使用することができ、また同様の成形条件を用いることができる。さらに生産性にも優れている。
【実施例】
【0053】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明をより詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、各例中の部はいずれも重量部である。
【0054】
[実施例1〜7、比較例1〜6]
下記に示す各成分を表1に示す組成で配合し、高速混合機で均一に混合した後、加熱2本ロールで均一に混練、冷却後 粉砕することで樹脂組成物を得た。
【0055】
(A)シアネートエステル化合物
(イ)下記式(7)で表されるシアネートエステル化合物(プリマセットPT−60、ロンザジャパン株式会社製、シアネート基当量119)
【化13】
(n=0〜10の混合物)
【0056】
(ロ)下記合成例1で得たシアネートエステル化合物
[合成例1]
100gのフェノール化合物 MEH−7851SS(明和化成製)を600gの酢酸ブチル中に溶解した。その溶液を約−15℃に冷却し、32gのガス状塩化シアンを導入した。ついで、約30分間にわたって、50gのトリエチルアミンを攪拌下に滴下して加え、その間、温度は−10℃以下に保った。この温度にさらに30分間保った後、冷却を止めて反応混合物を濾過した。濾液を継続的にイオン交換体充填カラムに通した。続いて、減圧下、浴温度70℃で溶剤を除去し、その後揮発性の不純物(溶媒の残留物、遊離のトリエチルアミン、ジエチルシアナミドを含む)を、流下フィルム型蒸発器を用い、1mbar、130℃にて除去した。得られた生成物は下記式(8)で示すシアネートエステル化合物(シアネート基当量208)であった。
【化14】
(n=0〜10の混合物)
【0057】
(B)フェノール化合物
(ハ)下記式(9)で示すフェノール化合物(MEH−7800SS、明和化成製、フェノール性水酸基当量175)
【化15】
(n=0〜10の混合物)
(ニ)下記式(10)で示すフェノール化合物(MEH−7851SS、明和化成製、フェノール性水酸基当量203)
【化16】
(n=0〜10の混合物)
(ホ)下記式(11)で示すフェノール化合物(TD−2131、DIC製、フェノール性水酸基当量110)
【化17】
(n=0〜10の混合物)
【0058】
(C)無機充填剤
(ヘ)平均粒径15μmの溶融球状シリカ(龍森製)
【0059】
(D)エポキシ樹脂
(ト)下記式(12)で示すエポキシ樹脂化合物(NC−3000、日本化薬製、エポキシ当量272)
【化18】
(n=0〜10の混合物)
(チ)下記式(13)で示すエポキシ樹脂化合物(HP−4770、日本化薬製、エポキシ当量204)
【化19】
(n及びmは0または1)
【0060】
(E)メルカプトプロピル基含有アルコキシシラン化合物
(ト)3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン:(CH
3O)
3−Si−C
3H
6−SH
【0061】
(F)成分
(チ)モリブデン酸亜鉛担持酸化亜鉛(KEMGARD−911B、シャーウイン・ウイリアムズ製)
(リ)モリブデン酸亜鉛担持タルク(KEMGARD−911C、シャーウイン・ウイリアムズ製)
【0062】
(G)ハイドロタルサイト様化合物
(ヌ)Mg
6Al
2(CO
3)(OH)
16・4H
2Oの焼成品(DHT−4A−2、協和化学製)
【0063】
(H)その他の成分
・カルナバワックス(TOWAX−131、東亜化成製)
・イミダゾール(四国化成社製)
【0064】
各組成物について以下の評価試験を行った。結果を下記表1に示す。
【0065】
[CuLFの腐食確認]
Cu合金(Olin C7025)製100pin QFPリードフレーム(ダイパッド部)を175℃x120秒間、成形圧6.9MPaの条件でトランスファー成形、次いで180℃、4時間ポストキュアした。リードフレームカッターでタイバーを切断し、20mmx14mmx2.7mmのQFPパッケージを得た。
このパッケージを225℃オーブン中に1000時間保管した。保管後、封止樹脂を機械的に破壊し、内部のダイパッド部の変色の有無を観察した。
【0066】
[Agメッキの腐食確認]
ダイパッド部(8mmx8mm)及びワイヤーボンディング部がAgメッキされたCu 合金(Olin C7025)製100pin QFPリードフレームを175℃x120秒間、成形圧6.9MPaの条件でトランスファー成形、次いで180℃、4時間ポストキュアした。リードフレームカッターでタイバーを切断し、20mmx14mmx2.7mmのQFPパッケージを得た。
このパッケージを225℃オーブン中に1000時間保管した。保管後、封止樹脂を機械的に破壊し、内部のAgメッキダイパッド部の変色の有無を観察した。
【0067】
[AgメッキされたCuLFとの密着性確認−1]
ダイパッド部(8mmx8mm)及びワイヤーボンディング部がAgメッキされたCu 合金(Olin C7025)製 100pin QFPリードフレームを175℃x120秒間、成形圧6.9MPaの条件でトランスファー成形、次いで180℃、4時間ポストキュアした。リードフレームカッターでタイバーを切断し、20mmx14mmx2.7mmのQFPパッケージを得た。
このパッケージ12個を225℃オーブン中に1000時間保管した。保管後、超音波探傷装置を使用して、内部クラック及びリードフレームとの剥離の有無を観察した。クラックまたは剥離が生じたパッケージの個数を表に記載する。
【0068】
[AgメッキされたCuLFとの密着性確認−2]
ダイパッド部(8mmx8mm)及びワイヤーボンディング部がAgメッキされたCu 合金(Olin C7025)製100pin QFPリードフレームを175℃x120秒間、成形圧6.9MPaの条件でトランスファー成形、次いで180℃、4時間ポストキュアした。リードフレームカッターでタイバーを切断し、20mmx14mmx2.7mmのQFPパッケージを得た。
このパッケージ12個をPCT(121℃x100%RH 2.1atm)中に96時間保管し、保管後、超音波探傷装置を使用して内部クラック及びリードフレームとの剥離の有無を観察した。クラックまたは剥離が生じたパッケージの個数を表に記載する。
【0069】
【表1】
【0070】
モリブデン酸金属塩担持物質またはハイドロジェンタルサイト様化合物のいずれか一方を含有しない組成物では、高温下に長期間置いた時に金属フレームの変色を抑制することができず、また金属フレームと硬化物との界面に剥離が生じる。これに対し、本発明の組成物で封止した試験体では、225℃下に1000時間おいても金属フレームが変色せず、剥離やクラックも生じなかった。また、本発明の組成物から得られた硬化物は高温高湿環境下でも金属基板に対する優れた密着性を維持することができた。