特許第5943488号(P5943488)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5943488半導体封止用樹脂組成物及びその硬化物を備えた半導体装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5943488
(24)【登録日】2016年6月3日
(45)【発行日】2016年7月5日
(54)【発明の名称】半導体封止用樹脂組成物及びその硬化物を備えた半導体装置
(51)【国際特許分類】
   C08L 63/00 20060101AFI20160621BHJP
   C08G 59/20 20060101ALI20160621BHJP
   C08G 59/40 20060101ALI20160621BHJP
   C08L 23/30 20060101ALI20160621BHJP
   C08K 5/13 20060101ALI20160621BHJP
   C08K 5/315 20060101ALI20160621BHJP
   C08K 3/00 20060101ALI20160621BHJP
   C08K 5/10 20060101ALI20160621BHJP
   H01L 23/29 20060101ALI20160621BHJP
   H01L 23/31 20060101ALI20160621BHJP
【FI】
   C08L63/00 Z
   C08G59/20
   C08G59/40
   C08L23/30
   C08K5/13
   C08K5/315
   C08K3/00
   C08K5/10
   H01L23/30 R
【請求項の数】8
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2013-182126(P2013-182126)
(22)【出願日】2013年9月3日
(65)【公開番号】特開2015-48434(P2015-48434A)
(43)【公開日】2015年3月16日
【審査請求日】2015年7月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085545
【弁理士】
【氏名又は名称】松井 光夫
(72)【発明者】
【氏名】長田 将一
(72)【発明者】
【氏名】萩原 健司
(72)【発明者】
【氏名】横田 竜平
【審査官】 佐藤 のぞみ
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−026419(JP,A)
【文献】 特開2012−131945(JP,A)
【文献】 特開2013−053218(JP,A)
【文献】 特開2008−214382(JP,A)
【文献】 特開2006−249377(JP,A)
【文献】 特開2013−107960(JP,A)
【文献】 国際公開第2004/065486(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/053522(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 63/00−63/10
C08K 3/00−13/08
C08L 61/00−61/34
C08L 23/00−23/36
C08G 59/00−59/72
H01L 23/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)1分子中に2個以上のシアナト基を有するシアネートエステル化合物
(B)下記一般式(2)で表されるフェノール化合物
【化1】
(式(2)中、R及びRは、互いに独立に、水素原子または炭素数1〜4のアルキル基であり、Rは、互いに独立に、下記のいずれかである。
【化2】
は、互いに独立に、水素原子またはメチル基であり、mは0〜10の整数である)
(C)無機充填剤(ただし、不定形の無機充填剤、並びに、窒化ホウ素、及びジルコニウム粒子を除く)
(D)下記一般式(3)または(4)で表されるエポキシ樹脂
【化3】
【化4】
(上記式(3)及び(4)中、k及びpは、互いに独立に、0以上10以下の整数であり、jは1〜6の整数であり、Rは互いに独立に、水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基であり、R及びRは互いに独立に、下記式で表される基である)
【化5】
及び
(E)酸価が30以下であり、かつケン化価が150以下である離型剤(但し、酸価が5未満のときケン化価は80以上150以下であり、ケン化価が5未満のとき酸価は20以上30以下である)を含み、
(A)シアネートエステル化合物中のシアナト基に対する(B)フェノール化合物中のフェノール性水酸基のモル比が0.2〜0.4であり、かつ(A)シアネートエステル化合物中のシアナト基に対する(D)エポキシ樹脂中のエポキシ基のモル比が0.04〜0.25である組成物。
【請求項2】
(E)成分が、脂肪酸エステル及び酸化ポリエチレンから選ばれる少なくとも1種である、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
(A)成分が下記一般式(1)で表される化合物である、請求項1または2記載の組成物
【化6】
(式(1)中、R及びRは、互いに独立に、水素原子または炭素数1〜4のアルキル基であり、Rは、互いに独立に、下記のいずれかである。
【化7】
は、互いに独立に、水素原子またはメチル基であり、nは0〜10の整数である)。
【請求項4】
(C)無機充填剤が、溶融シリカ、アルミナ、クリストバライト、及び窒化ケイ素から選ばれる、請求項1〜3のいずれか1項記載の組成物
【請求項5】
(C)無機充填剤が球状溶融シリカである、請求項4記載の組成物。
【請求項6】
請求項1〜のいずれか1項記載の組成物の硬化物を備えた半導体装置。
【請求項7】
SiCまたはGaNからなる半導体素子を搭載している、請求項記載の半導体装置。
【請求項8】
請求項1〜のいずれか1項記載の組成物をトランスファー成形により成形する工程を含む、請求項またはに記載の半導体装置を製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は半導体封止用樹脂組成物に関する。詳細には、高温高湿下にて長期間優れた熱安定性を有し、かつCuリードフレーム(LF)やAgメッキとの優れた密着性を有する、信頼性に優れる硬化物を提供することができ、かつトランスファー成形性に優れる組成物、及び該組成物の硬化物を備える半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体装置は目覚しい技術革新を迎えている。スマートフォン、タブレットなど携帯情報、通信端末は大容量の情報を高速で処理できるよう、TSV(スルーシリコンビア)技術が用いられている。該技術では先ず半導体素子を多層接続し、8インチ乃至12インチのシリコンインターポーザーにフリップチップ接続する。その後、多層接続された半導体素子が複数個搭載されたインターポーザーごと熱硬化樹脂により封止する。半導体素子上の不要な硬化樹脂を研磨した後、個片化し、薄型で小型、多機能かつ高速処理可能な半導体装置を得ることができる。しかしながら8インチ乃至12インチの薄いシリコンインターポーザー上の全面に熱硬化樹脂を塗布し、封止した場合、シリコンと熱硬化性樹脂の熱膨張係数の違いから大きな反りが発生する。反りが大きいとその後の研磨工程や個片化工程に適用することができず大きな技術課題となっている。
【0003】
また近年、地球温暖化対策として、化石燃料からのエネルギー転換などといった地球レベルでの環境対策が進められている。そのため、ハイブリット車や電気自動車の生産台数が増えてきている。また中国やインドなど新興国の家庭用電気機器も省エネルギー対策としてインバーターモーターを搭載した機種が増えてきている。
【0004】
ハイブリッド車や電気自動車、インバーターモーターには、交流を直流、直流を交流に変換したり、電圧を変圧する役割を担うパワー半導体が重要となる。しかしながら長年半導体として使用されてきたシリコン(Si)は性能限界に近づいており、飛躍的な性能向上を期待することが困難になってきた。そこで炭化ケイ素(SiC)、チッ化ガリウム(GaN)、ダイヤモンドなどの材料を使った次世代型パワー半導体に注目が集まるようになっている。例えば、電力変換の際のロスを減らすためにパワーMOSFETの低抵抗化が求められている。しかし現在主流のSi−MOSFETでは大幅な低抵抗化は難しい。そこでバンドギャップが広い(ワイドギャップ)半導体であるSiCを使った低損失パワーMOSFETの開発が進められている。
【0005】
SiCやGaNは、バンドギャップがSiの約3倍、破壊電界強度が10倍以上という優れた特性を持っている。また高温動作(SiCでは650℃動作の報告がある)、高い熱伝導度(SiCはCu並み)、大きな飽和電子ドリフト速度などの特徴もある。この結果、SiCやGaNを使えばパワー半導体のオン抵抗を下げ、電力変換回路の電力損失を大幅に削減することが可能である。
【0006】
パワー半導体は、一般的にエポキシ樹脂によるトランスファー成形、シリコーンゲルによるポッティング封止により保護されている。最近は小型、軽量化の観点(特に自動車用途)からエポキシ樹脂によるトランスファー成形が主流になりつつある。しかし、エポキシ樹脂は成形性、基材との密着性、機械的強度に優れるバランスの取れた熱硬化樹脂であるが、200℃を超える温度では架橋点の熱分解が進行し、SiC、GaNに期待される高温での動作環境では封止材としての役割を担えないのではないかと不安視されている(非特許文献1)。
【0007】
そこで耐熱特性に優れる材料としてシアネート樹脂を含む熱硬化性樹脂組成物が検討されている。例えば、特許文献1は、エポキシ樹脂をフェノールノボラック樹脂の硬化物中に多価シアン酸エステルとエポキシ樹脂の反応によるオキサゾール環を形成し、安定した耐熱性を得ることを記載している。特許文献1はエポキシ樹脂のエポキシ当量が1に対してフェノールノボラック樹脂の水酸基当量が0.4〜1.0であり、多価シアン酸エステルのシアナート当量が0.1〜0.6であることにより、耐熱性及び耐水性に優れる硬化物を提供できると記載している。また、特許文献2は、特定構造を有するシアン酸エステル化合物、フェノール化合物、及び無機充填剤を含む熱硬化性樹脂組成物を記載しており、該樹脂組成物は耐熱性に優れ、高い機械的強度を有すると記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特公平6−15603号公報
【特許文献2】特開2013−53218号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】工業材料 2011年11月号(vol59 No.11)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、特許文献1に記載の組成物は、エポキシとシアナト基の反応によるオキサゾール環の形成に高温かつ長時間の熱硬化が必要であり、量産性に劣るという問題を有する。また、特許文献2に記載の組成物は耐湿性が不十分であるため、高温高湿下に長期間置くと、CuLFやAgメッキと硬化物の密着性が低下して剥離やクラックが生じるという問題を有する。そこで本発明は、上記事情に鑑み、200℃以上、例えば200℃〜250℃の高温下に長期間置いても熱分解(重量減少)が少なく、高温高湿環境下にてCuLFやAgメッキとの密着性に優れた硬化物を与えることができ、かつトランスファー成形性に優れる樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討し、シアネートエステル化合物及び無機充填剤を含有する組成物にフェノール化合物、及び特定構造を有するエポキシ樹脂を配合し、かつ、シアネートエステル化合物に対するフェノール化合物の配合量及びシアネートエステル化合物に対するエポキシ樹脂の配合量を特定の範囲内にすることにより、優れた熱安定性及び高温高湿耐性を有する硬化物を提供できることを見出した。しかし該組成物は連続成形性が十分ではない。
【0012】
そこで本発明者らはさらに鋭意検討し、上記組成物にさらに、酸価が30以下であり、かつケン化価が150以下である離型剤(但し、酸価が5未満のときケン化価は80以上150以下であり、ケン化価が5未満のとき酸価は20以上30以下である)を配合することにより、樹脂組成物の連続成形性を向上できることを見出し、本発明を成すに至った。
【0013】
即ち、本発明は、
(A)1分子中に2個以上のシアナト基を有するシアネートエステル化合物
(B)下記一般式(2)で表されるフェノール化合物
(式(2)中、R及びRは、互いに独立に、水素原子または炭素数1〜4のアルキル基であり、Rは、互いに独立に、下記のいずれかである。
は、互いに独立に、水素原子またはメチル基であり、mは0〜10の整数である)
(C)無機充填剤(ただし、不定形の無機充填剤、並びに、窒化ホウ素、及びジルコニウム粒子を除く)
(D)下記一般式(3)または(4)で表されるエポキシ樹脂
【化1】
【化2】
(上記式(3)及び(4)中、k及びpは、互いに独立に、0以上10以下の整数であり、jは1〜6の整数であり、Rは互いに独立に、水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基であり、R及びRは互いに独立に、下記式で表される基である)
【化3】
及び
(E)酸価が30以下であり、かつケン化価が150以下である離型剤(但し、酸価が5未満のときケン化価は80以上150以下であり、ケン化価が5未満のとき酸価は20以上30以下である)を含み、
(A)シアネートエステル化合物中のシアナト基に対する(B)フェノール化合物中のフェノール性水酸基のモル比が0.2〜0.4であり、かつ(A)シアネートエステル化合物中のシアナト基に対する(D)エポキシ樹脂中のエポキシ基のモル比が0.04〜0.25である組成物である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の組成物は、高温高湿条件下に長期間置いても熱分解(重量減少)が少なく、CuLFやAgメッキとの密着性に優れる硬化物を提供することができる。そのため本発明の組成物の硬化物で封止された半導体装置は高温高湿下での長期信頼性を有する。また、本発明の組成物は連続成形性に優れるため、トランスファー成形用材料として好適に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下本発明につき更に詳しく説明する。
【0016】
(A)シアネートエステル化合物
(A)成分は、1分子中に2個以上のシアナト基を有するシアネートエステル化合物である。本発明におけるシアネートエステル化合物は1分子中に2個以上のシアナト基を有するものであればよく、一般に公知のものが使用できる。該シアネートエステル化合物は、例えば下記一般式(1)で表すことができる。
【化4】
(式中、R及びRは、互いに独立に、水素原子または炭素数1〜4のアルキル基であり、Rは、互いに独立に、下記のいずれかである。
【化5】
は水素原子またはメチル基であり、nは0〜10の整数である)
【0017】
本発明のシアネートエステル化合物としては、例えば、ビス(4−シアナトフェニル)メタン、ビス(3−メチル−4−シアナトフェニル)メタン、ビス(3−エチル−4−シアナトフェニル)メタン、ビス(3,5−ジメチル−4−シアナトフェニル)メタン、1,1−ビス(4−シアナトフェニル)エタン、2,2−ビス(4−シアナトフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−シアナトフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、ジ(4−シアナトフェニル)チオエーテル、1,3−および1,4−ジシアナトベンゼン、2−tert−ゾチル−1,4−ジシアナトベンゼン、2,4−ジメチル−1,3−ジシアナトベンゼン、2,5−ジ−tert−ブチル−1,4−ジシアナトベンゼン、テトラメチル−1,4−ジシアナトベンゼン、1,3,5−トリシアナトベンゼン、2,2’−または4,4’−ジシアナトビフェニル、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジシアナトビフェニル、1,3−、1,4−、1,5−、1,6−、1,8−、2,6−、または2,7−ジシアナトナフタレン、1,3,6−トリシアナトナフタレン、ビス(4−シアナトフェニル)メタン;2,2−ビス(4−シアナトフェニル)プロパン、1,1,1−1トリス(4−シアナトフェニル)エタン、ビス(4−シアナトフェニル)エーテル;4,4’−(1,3−フェニレンジイソピロピリデン)ジフェニルシアネート、ビス(4−シアナトフェニル)チオエーテル、ビス(4−シアナトフェニル)スルホン、トリス(4−シアナト−フェニル)ホスフィン、トリス(4−シアナトフェニル)ホスフェート、フェノールノボラック型シアネート、クレゾールノボラック型シアネート、ジシクロペンタジエンノボラック型シアネート、フェニルアラルキル型シアネートエステル、ビフェニルアラルキル型シアネートエステル、ナフタレンアラルキル型シアネートエステルなどが挙げられる。これらのシアネートエステル化合物は1種または2種以上混合して用いることができる。
【0018】
上記シアネートエステル化合物はフェノール類と塩化シアンを塩基性下で反応させることにより得られる。上記シアネートエステル化合物は、その構造より軟化点が106℃の固形のものから、常温で液状のものまでの幅広い特性を有するものの中から用途に合せて適宜選択することができる。例えば、液状のエポキシ樹脂組成物を製造する際には常温で液状の化合物を使用し、溶媒に溶かしてワニスにする場合は溶解性や溶液粘度に応じて選択することが好ましい。またパワー半導体封止用にトランスファー成形で使用するときには常温で固体の化合物を選択することが好ましい。
【0019】
また、シアネート基の当量が小さいもの、即ち官能基間分子量が小さいものは硬化収縮が小さく、低熱膨張、高Tgの硬化物を得ることができる。シアネート基当量が大きいものは若干Tgが低下するが、トリアジン架橋間隔がフレキシブルになり、低弾性化、高強靭化、低吸水化が期待できる。シアネートエステル化合物中に結合あるいは残存している塩素は50ppm以下、より好ましくは20ppm以下であることが好適である。塩素の量が50ppmを超えると高温下に長期間置いたときに熱分解により遊離した塩素あるいは塩素イオンが、酸化されたCuフレームやCuワイヤー、Agメッキを腐食し、硬化物の剥離や電気的不良を引き起こす可能性がある。また樹脂の絶縁性も低下する恐れがある。
【0020】
(B)フェノール化合物
(B)成分は1分子中に2個以上のフェノール性水酸基を有するフェノール化合物であり、1分子中に2個以上のフェノール性水酸基を有するものであれば一般に公知のものが使用できる。該フェノール化合物は、例えば下記一般式(2)で表すことができる。
【化6】
上記式中、R及びRは、互いに独立に、水素原子または炭素数1〜4のアルキル基であり、mは0〜10の整数である。
上記式中、Rは、互いに独立に、下記式で表される基である。
【化7】
(上記式中、Rは、互いに独立に、水素原子またはメチル基である)
【0021】
上記式(2)で表されるフェノール化合物としては、ビスフェノールF型樹脂、ビスフェノールA型樹脂、フェノールノボラック樹脂、フェノールアラルキル型樹脂、ビフェニルアラルキル型樹脂、ナフタレンアラルキル型樹脂が挙げられる。これらは1種単独でも2種以上を併用してもよい。尚、上記式(2)においてRがCHである化合物(例えば、フェノールノボラック樹脂)を含む組成物は耐熱性が劣るおそれや、シアネート化合物との反応性が早すぎるため成形性が劣るおそれがある。従って、RはCH以外であることが特には好ましい。
【0022】
従来、シアネートエステル化合物の硬化触媒としては金属塩、金属錯体などが用いられていた(特開昭64−43527号公報、特開平11−106480号公報、特表2005−506422号公報)。しかしながら金属塩、金属錯体として用いられるのは遷移金属であり、遷移金属類は高温下、有機樹脂の酸化劣化を促進する懸念がある。本発明の組成物では上記フェノール化合物がシアネートエステル化合物の環化反応の触媒として機能する。従って、金属塩及び金属錯体を使用する必要がない。これにより高温下での長期保管安定性をより向上することができる。
【0023】
また、一分子中に少なくとも2個以上の水酸基を持つフェノール化合物はトリアジン環をつなぐ架橋剤として期待できる。フェノール化合物は、エポキシ化合物やアミン化合物と異なり、シアネートエステル化合物と結合することにより−C−O−Ar−で表される構造を形成することができる。該構造は、シアネートエステル化合物を単独で硬化した時に形成されるトリアジン環構造と類似している為、得られる硬化物の耐熱性をさらに向上することが期待できる。
【0024】
なお、水酸基当量が小さいフェノール化合物、例えば水酸基当量が110以下であるフェノール化合物はシアネート基との反応性が高い。そのため、120℃以下で組成物を溶融混練する際に硬化反応が進行してしまい、流動性が著しく損なわれる場合があり、トランスファー成形には好ましくない。従って、フェノール化合物は水酸基当量111以上であるのが特に好ましい。
【0025】
フェノール化合物の配合量はシアナト基1モルに対し水酸基が0.2〜0.4モルとなる量である。フェノール化合物の量が上記下限値より少ないと、シアナト基の反応が不十分となり、未反応のシアナト基が残存する。残存したシアナト基は高湿度雰囲気下において加水分解を受ける。そのため、高温高湿下に置くと、機械的強度の低下や、基材との密着力低下を引き起こす。また、フェノール化合物の量が上記上限値より多いと、硬化反応が低温から進行してしまう。そのため、組成物の流動性が損なわれ、成形性が悪くなる。また、上記フェノール化合物中のハロゲン元素やアルカリ金属などは、120℃、2気圧下での抽出で10ppm、特に5ppm以下であることが望ましい。
【0026】
(C)無機充填剤
本発明において無機充填剤の種類は特に制限されず、半導体封止用樹脂組成物の無機充填剤として公知のものを使用できる。例えば、溶融シリカ、結晶性シリカ、クリストバライト等のシリカ類、アルミナ、窒化珪素、窒化アルミニウム、ボロンナイトライド、酸化チタン、ガラス繊維、酸化マグネシウム、及び酸化亜鉛等が挙げられる。これら無機充填剤の平均粒径や形状は、用途に応じて選択されればよい。中でも、シリコンに近い熱膨張係数を得るためには、溶融シリカが好ましく、形状は球状のものが好適である。無機充填剤の平均粒径は0.1〜40μmであることが好ましく、より好ましくは0.5〜15μmであるのがよい。該平均粒径は、例えばレーザー光回折法等による重量平均値(又はメディアン径)等として求めることができる。
【0027】
無機充填剤は、120℃、2.1気圧でサンプル5g/水50gの抽出条件で抽出される不純物として塩素イオンが10ppm以下、ナトリウムイオンが10ppm以下であることが好適である。10ppmを超えると組成物で封止された半導体装置の耐湿特性が低下する場合がある。
【0028】
本発明において無機充填剤の配合量は、組成物全体の60〜94重量%、好ましくは70〜92重量%、更に好ましくは75〜90重量%とすることができる。
【0029】
無機充填剤は、樹脂と無機充填剤との結合強度を強くするため、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤などのカップリング剤で予め表面処理したものを配合することが好ましい。このようなカップリング剤としては、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のエポキシシラン、N−β(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、イミダゾールとγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランの反応物、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノシラン、γ−メルカプトシラン、γ−エピスルフィドキシプロピルトリメトキシシラン等のメルカプトシランなどのシランカップリング剤を用いることが好ましい。ここで表面処理に用いるカップリング剤の配合量及び表面処理方法については特に制限されるものではない。
【0030】
(D)エポキシ樹脂
(D)成分は下記式(3)または(4)で表されるエポキシ樹脂である。
【化8】
【化9】
上記式(3)、(4)中、k、pは、互いに独立に、0以上10以下の整数であり、jは1〜6の整数であり、Rは互いに独立に、水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基であり、R及びRは互いに独立に、下記のいずれかである。
【化10】
【0031】
上記エポキシ樹脂としては、例えば、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、ナフタレン型アラルキルエポキシ樹脂などが挙げられる。エポキシ樹脂はシアネート樹脂とオキサゾール環を形成するが、シアナト基のトリアジン環形成にくらべると反応性が遅い。尚、エポキシ基の割合が多いと硬化時間が長くなりトランスファー成形には不利である。ここにトリエチルアミンのような3級アミンを使用する例もあるが、保存性が悪くなる恐れがある。
【0032】
上記エポキシ樹脂はシアネートエステル化合物と反応してオキサゾール環を形成する。本発明においてエポキシ樹脂化合物の添加量は、シアネートエステル化合物のシアナト基1モルに対しエポキシ基当量が0.04〜0.25モルとなる量である。エポキシ樹脂の量が上記下限値より少ないと、硬化物の吸湿量が多くなり、高温高湿度下でリードフレームと硬化物の間に剥離が発生する。また、エポキシ樹脂の量が上記上限値より多いと、硬化が不十分となり、硬化物のガラス転移温度の低下や、高温高湿保管特性の低下を引き起こす。
【0033】
本発明の組成物では、シアネートエステル化合物の環化反応によるトリアジン環形成に加えて、エポキシ化合物とシアネートエステル化合物との反応(オキサゾール環の形成)、フェノール化合物とシアネートエステル化合物との反応、及びエポキシ化合物とフェノール化合物との反応がおこる。本発明の組成物は、上述した特定の配合比の基でこれらの反応を起こすことにより、高温高湿耐性に極めて優れた硬化物を提供することができる。
【0034】
(E)離型剤
本発明で用いられる(E)成分は、酸価が30以下であり、かつケン化価が150以下である離型剤である。好ましくは、酸価は10〜25である。また好ましくは、ケン化価は70〜140、さらに好ましくは70〜100である。酸価及びケン化価はいずれか一方が0であってもよい。但し、酸価が5未満のときケン化価は80以上150以下、好ましくは100以上150以下であり、ケン化価が5未満のとき酸価は20以上30以下、好ましくは25以上30以下であることが必要である。酸価及びケン化価が共に小さすぎる離型剤は樹脂との相溶性が良すぎるため、十分な離型効果(即ち、連続成形性)を発揮することができず好ましくない。また、酸価、ケン化価が大きすぎると、硬化物表面の滲み出しがひどく外観不良となる場合がある。特に、ケン化価が上記上限値を超えると、離型剤は室温で固形ではなく液体(潤滑油)になるおそれがある。このような離型剤を組成物に添加して成形すると、経時でブリードアウトして硬化物の外観を損ねるおそれがあるため好ましくない。
【0035】
本発明の離型剤としては、例えば、カルナバワックス、ライスワックス、酸化ポリエチレン、モンタン酸、モンタン酸と飽和アルコール、2−(2−ヒドロキシエチルアミノ)−エタノール、エチレングリコール、またはグリセリン等のエステル化合物などワックス;ステアリン酸、ステアリン酸エステル、エチレンと酢酸ビニルとの共重合体等が挙げられ、これらは1種を単独でも2種以上を組み合わせて使用してもよい。中でも、酸化ポリエチレン、または脂肪酸エステルが好ましい。離型剤の配合量は、組成物全体の0.3〜1.5質量%、好ましくは0.35〜0.8質量%、さらに好ましくは0.35〜0.5質量%である。
【0036】
本発明の封止樹脂組成物には、更に必要に応じて、難燃剤、イオントラップ剤、酸化防止剤、接着付与剤、低応力剤など各種の添加剤を配合することができる。また、密着性付与剤として前述したカップリング剤を使用することができる。金属フレームとの密着性を向上するためには、特にはメルカプト系シランカップリング剤が好適である。
【0037】
難燃剤は特に制限されず公知のものを使用することができる。例えば、ホスファゼン化合物、シリコーン化合物、モリブデン酸亜鉛担持タルク、モリブデン酸亜鉛担持酸化亜鉛、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、酸化モリブデン、及び三酸化アンチモンが挙げられる。
【0038】
イオントラップ剤は特に制限されず公知のものを使用することができる。例えば、ハイドロタルサイト類、水酸化ビスマス化合物、希土類酸化物等が挙げられる。
【0039】
本発明の組成物の製造方法は特に制限されるものでない。例えば、上記(A)〜(E)成分を同時に又は別々に、必要により加熱処理を加えながら、撹拌、溶解、混合、分散し、場合によってはこれらの混合物にその他の添加剤を加えて混合、撹拌、分散させることにより得ることができる。混合等に使用する装置は特に限定されないが、撹拌、加熱装置を備えたライカイ機、2本ロール、3本ロール、ボールミル、連続押し出し機、プラネタリーミキサー、マスコロイダー等を用いることができる。これらの装置を適宜組み合わせて使用しても良い。
【0040】
本発明の組成物は、トランジスタ型、モジュール型、DIP型、SO型、フラットパック型、ボールグリッドアレイ型等の半導体パッケージに有用である。本発明の組成物の成形は、従来より採用されている成形法に従えばよい。例えば、トランスファー成形、コンプレッション成形、インジェクション成形、注型法等を利用することができる。特に好ましいのはトランスファー成形である。本発明の組成物の成形温度は、160〜190℃で45〜180秒間、ポストキュアーは170〜250℃で2〜16時間であるのが望ましい。
【0041】
本発明の組成物は、200℃以上、特には200℃〜250℃の高温下に長期間置いたときの熱分解(重量減少)が少なく、CuLFやAgメッキとの密着性に優れる硬化物を提供することができる。また、高温高湿環境下においても金属フレームとの優れた密着性を維持することができる。そのため本発明の組成物の硬化物で封止された半導体装置は高温高湿下での長期信頼性を有することができる。さらに本発明の組成物は連続成形性に優れるため、特にトランスファー成形材料として好適に使用できる。
【実施例】
【0042】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明をより詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、各例中の部はいずれも質量部である。
【0043】
[実施例1〜6、比較例1〜5]
下記に示す各成分を表1に示す組成で配合し、高速混合機で均一に混合した後、加熱2本ロールで均一に混練、冷却後 粉砕することで樹脂組成物を得た。
【0044】
(A)シアネートエステル化合物
(イ)下記式(5)で表されるシアネートエステル化合物(プリマセットPT−60、ロンザジャパン株式会社製、シアネート基当量119)
【化11】
(n=0〜10の混合物)
【0045】
(ロ)下記合成例1で得たシアネートエステル化合物
[合成例1]
100gのフェノール化合物 MEH−7851SS(明和化成製)を600gの酢酸ブチル中に溶解した。その溶液を約−15℃に冷却し、32gのガス状塩化シアンを導入した。ついで、約30分間にわたって、50gのトリエチルアミンを攪拌下に滴下して加え、その間、温度は−10℃以下に保った。この温度にさらに30分間保った後、冷却を止めて反応混合物を濾過した。濾液を継続的にイオン交換体充填カラムに通した。続いて、減圧下、浴温度70℃で溶剤を除去し、その後揮発性の不純物(溶媒の残留物、遊離のトリエチルアミン、ジエチルシアナミドを含む)を、流下フィルム型蒸発器を用い、1mbar、130℃にて除去した。得られた生成物は下記式(6)で示すシアネートエステル化合物(シアネート基当量208)であった。

【化12】
(n=0〜10の混合物)
【0046】
(B)フェノール化合物
(ハ)下記式(7)で示すフェノール化合物(MEH−7800SS、明和化成製、フェノール性水酸基当量175)
【化13】
(n=0〜10の混合物)

(ニ)下記式(8)で示すフェノール化合物(MEH−7851SS、明和化成製、フェノール性水酸基当量203)
【化14】
(n=0〜10の混合物)

(ホ)下記式(9)で示すフェノール化合物(TD−2131、DIC製、フェノール性水酸基当量110)
【化15】
(n=0〜10の混合物)
【0047】
(C)無機充填剤
(ヘ)平均粒径15μmの溶融球状シリカ(龍森製)
【0048】
(D)エポキシ樹脂
(ト)下記式(10)で示すエポキシ樹脂化合物(NC−3000、日本化薬製、エポキシ当量272)
【化16】
(n=0〜10の混合物)

(チ)下記式(11)で示すエポキシ樹脂化合物(HP−4770、日本化薬製、エポキシ当量204)
【化17】
(n及びmは0または1)
【0049】
(E)離型剤
(リ)離型剤1:酸価25、ケン化価0の酸化ポリエチレン(リコワックスPED−522、クラリアント社製)
(ヌ)離型剤2:酸価10、ケン化価85の脂肪酸エステル(TOWAX−131、東亜合成株式会社製)
(ル)離型剤3:酸価25、ケン化価140の脂肪酸エステル(ITO−WAX TP NC−133、伊藤製油株式会社製)
【0050】
・比較試験用離型剤
(ヲ)離型剤4:酸価0、ケン化価0のポリエチレン(リコワックスPE−522、クラリアント社製)
(ワ)離型剤5:酸価86、ケン化価0のポリプロピレンと無水マレイン酸コポリマー(エレクトールD121−41、日産化学工業株式会社製)
【0051】
(F)その他の成分
・シランカップリング剤:3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン(KBM−803、信越化学工業株製)
・イミダゾール(四国化成社製)
【0052】
各組成物について以下の評価試験を行った。結果を下記表1に示す。
【0053】
[スパイラルフロー]
EMMI規格に準じた金型を使用して、175℃、6.9N/mm、成形時間180秒の条件で測定した。
【0054】
[高温下保管時の重量変化]
175℃x120秒間、成形圧6.9MPaの条件でトランスファー成形、次いで180℃、4時間ポストキュアすることにより10x100x4mmの試験片を得た。該試験片を250℃オーブン中に500時間保管し、重量減少率を測定した。
【0055】
[AgメッキされたCuLFとの密着性確認−1]
ダイパッド部(8mmx8mm)及びワイヤーボンディング部がAgメッキされたCu 合金(Olin C7025)製100pin QFPリードフレームを175℃x120秒間、成形圧6.9MPaの条件でトランスファー成形、次いで180℃、4時間ポストキュアした。リードフレームカッターでタイバーを切断し、20mmx14mmx2.7mmのQFPパッケージを得た。
このパッケージ12個を250℃オーブン中に500時間保管し、保管後パッケージのクラックの有無を目視で確認した。また、超音波探傷装置を使用して内部クラック及びリードフレームとの剥離の有無を観察した。クラックまたは剥離が生じたパッケージの個数を表に記載する。
【0056】
[AgメッキされたCuLFとの密着性確認−2]
ダイパッド部(8mmx8mm)及びワイヤーボンディング部がAgメッキされたCu 合金(Olin C7025)製100pin QFPリードフレームを175℃x120秒間、成形圧6.9MPaの条件でトランスファー成形、次いで180℃、4時間ポストキュアした。リードフレームカッターでタイバーを切断し、20mmx14mmx2.7mmのQFPパッケージを得た。
このパッケージ12個をPCT(121℃x100%RH 2.1atm)中に96時間保管し、保管後、超音波探傷装置を使用して内部クラック及びリードフレームとの剥離の有無を観察した。クラックまたは剥離が生じたパッケージの個数を表に記載する。
【0057】
[成形性]
80pin QFP(14x20x2.7mm)を175℃x120秒、6.9MPa で100ショット成形し、金型張り付きやカル、ランナー折れ発生までのショット数を観察した。
【0058】
【表1】
【0059】
酸価及びケン化価が本発明の範囲を満たさない離型剤を含有する組成物は連続成形性が悪い。これに対し、本発明の組成物は連続成形性に優れている。さらに、本発明の組成物は、高温下に長期間おいても重量減少率が少なく、また高温高湿条件下において金属フレームとの密着性を長時間維持することができる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の組成物の硬化物は高温高湿下で長期間の熱安定性を有し、金属フレームとの優れた密着性を維持することができるため、高温高湿下で長期信頼性に優れた半導体装置を提供できる。さらに本発明の組成物は連続成形性に優れるため、トランスファー成形用材料として好適に使用することができる。