(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述のような事情に基づいてなされたものであり、目止め性や耐水性に優れる剥離紙原紙、その製造方法、及びそれを用いた剥離紙や剥離性を有する積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するためになされた発明は、
下記式(1)で表される基を有する単量体単位を含み、下記式(I)を満たすPVAを含有する剥離紙原紙である。
【0008】
【化1】
【0009】
上記式(1)中、R
1は、水素原子又は炭素原子数1〜5のアルキル基である。R
2は、アルコキシル基、アシロキシル基又はOMで表される基である。Mは、水素原子、アルカリ金属又はアンモニウム基である。R
3及びR
4は、それぞれ独立して、水素原子又はアルキル基である。R
1〜R
4で表されるアルキル基、アルコキシル基及びアシロキシル基が有する水素原子は、酸素原子又は窒素原子を含有する置換基で置換されていてもよい。mは、0〜2の整数である。nは、3以上の整数である。R
1〜R
4がそれぞれ複数存在する場合、複数存在する各R
1〜R
4は、独立して上記定義を満たす。
370≦P×S≦6,000 ・・・(I)
P:粘度平均重合度
S:上記単量体単位の含有率(モル%)
【0010】
当該剥離紙原紙に含有されるPVAは、上記式(1)で表される基を有する単量体単位を含み、シリル基が炭素原子数3以上のアルキレン基を介して主鎖と連結した構造を有している。このため、例えば、当該剥離紙原紙の塗工層を上記PVAを含むコーティング剤を用いて製造する際、このコーティング剤に含まれるPVAのシリル基の変性量を高めても、このPVAの中性領域における水溶性が高いためコーティング剤の取扱性がよく、粘度安定性の低下も抑えられる。従って、当該剥離紙原紙によれば、含まれるPVAのシリル基変性量を高めることができ、その結果、目止め性や耐水性を高めることができる。
【0011】
上記PVAが、下記式(II)及び(III)をさらに満たすことが好ましい。
200≦P≦4,000 ・・・(II)
0.1≦S≦10 ・・・(III)
P:粘度平均重合度
S:上記単量体単位の含有率(モル%)
【0012】
このように上記PVAの粘度平均重合度(P)及び上記単量体単位の含有率(S)を上記範囲とすることで、PVAの水溶性及び粘度安定性が高まり、当該剥離紙原紙において目止め性や耐水性を高めることができる。
【0013】
上記式(1)中のnは、6以上20以下の整数であることが好ましい。nを上記範囲とすることで、上記PVAと併用して用いられる架橋剤の含有量を減らすことができ、架橋剤を用いない場合にも、得られる感熱記録材の耐水性や耐可塑剤性等を十分に発揮することができる。
【0014】
上記単量体単位は下記式(2)で表されることが好ましい。
【0015】
【化2】
【0016】
上記式(2)中、R
1〜R
4、m及びnの定義は、上記式(1)と同様である。Xは、直接結合、2価の炭化水素基又は酸素原子若しくは窒素原子を含む2価の有機基である。R
5は、水素原子又はメチル基である。
【0017】
上記単量体単位が上記式(2)で表される構造を有することで、当該剥離紙原紙の諸性能をより高めることができる。
【0018】
上記式(2)中のXは−CO−NR
6−*(R
6は、水素原子又は炭素原子数1〜5のアルキル基である。*は、上記式(1)で表される基との結合箇所を示す。)で表されることが好ましい。このように上記単量体単位がシリル基と離れた位置にアミド構造を有することで上記PVAのシリル基に由来する性能を維持しつつ、水溶性及び粘度安定性等をより高めることができ、その結果、当該剥離紙原紙の諸機能をより高めることができる。
【0019】
上記式(2)中のXは−CO−NH−*(*は、上記式(1)で表される基との結合箇所を示す。)で表され、nが12以下の整数であるとよい。上記単量体単位をこのような構造とすることで、上記PVAの水溶性や粘度安定性等が高まり、当該剥離紙原紙の諸機能をより高めることができ、また、上記PVAの製造を容易に行うことができる。
【0020】
上記式(2)で表される基を有する単量体単位を含む上記PVAは、下記式(3)で表される不飽和単量体とビニルエステル系単量体との共重合体をけん化することにより得られたものであるとよい。このような方法で得られたPVAを用いることで、当該剥離紙原紙の諸特性をより好適に発揮することができる。
【0021】
【化3】
【0022】
上記式(3)中、R
1〜R
5、X、m及びnの定義は、上記式(2)と同様である。
【0023】
当該剥離紙原紙が、紙基材と、この紙基材の表面に形成される塗工層とを備え、上記塗工層が、上記PVAを含むコーティング剤の塗工により形成されているとよい。このようにすることで、当該剥離紙原紙の上記塗工層を上記PVA等から形成することができ、より効果的に目止め性や耐水性を高めることができる。
【0024】
上記剥離紙原紙を製造するための本発明の製造方法は、上記PVAを含むコーティング剤を紙基材に塗工する工程を有する。当該製造方法によれば、上記剥離紙原紙を容易に得ることができる。
【0025】
また本発明は、上記剥離紙原紙と、この剥離紙原紙の表面に形成される剥離層とを有する剥離紙を包含する。当該剥離紙においては、上記剥離紙原紙の表面に剥離層が形成されているため、剥離層の形成に使用されるワニスの紙中への浸透が効果的に防止され剥離性能が向上する。
【0026】
さらに本発明は、上記剥離紙原紙、この剥離紙原紙の表面に形成される剥離層、及びこの剥離層の表面に形成される粘着層を有する積層体を包含する。当該積層体は、剥離層と粘着層との間での剥離性に優れる。
【発明の効果】
【0027】
以上説明したように、本発明の剥離紙原紙は、特定のPVAを含有することで、高い目止め性及び耐水性を有する。また、当該製造方法によれば、上記剥離紙原紙を容易に得ることができる。さらに、本発明の剥離紙及び積層体は上記剥離紙原紙を用いるため、優れた剥離性を有する。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の剥離紙原紙、その製造方法、及びそれを用いた剥離紙や積層体の実施の形態について、詳説する。
【0029】
本発明の剥離紙原紙は、以下に詳説する特定の単量体単位を含むPVAを含有する。当該剥離紙原紙は、例えば、紙基材と、この紙基材の表面に形成される塗工層とを有し、上記塗工層が、上記PVAを含むコーティング剤の塗工により形成されている。このようにすることで、当該剥離紙原紙の上記塗工層を上記PVA等から形成することができ、より効果的に目止め性や耐水性を高めることができる。
【0030】
<紙基材>
当該剥離紙原紙の紙基材は、広葉樹クラフトパルプ、針葉樹クラフトパルプ等の化学パルプやGP、RGP、TMP等の機械パルプ等を抄紙して得られる公知の紙又は合成紙を用いることができる。上記紙基材としては、上質紙、中質紙、アルカリ性紙、グラシン紙、セミグラシン紙等も含み、セミグラシン紙が好ましい。
【0031】
上記紙基材の坪量としては、特に限定されないが、得られる剥離紙原紙の目止め性や取扱性等を考慮すると、10g/m
2以上120g/m
2以下が好ましく、40g/m
2以上100g/m
2以下がより好ましい。
【0032】
<コーティング剤>
上記コーティング剤は、通常、上記PVAの水溶液である。上記コーティング剤には、本発明の効果が大きく阻害されない範囲で、他の成分を含んでいてもよい。また、水以外の溶媒(例えば、アルコールやエーテル等)を用いてもよい。
【0033】
<PVA>
上記PVAは、上記式(1)で表される基を有する単量体単位を含む。すなわち、上記PVAは、上記式(1)で表される基を有する単量体単位とビニルアルコール単位(−CH
2−CHOH−)とを含む共重合体であり、さらに他の単量体単位を有していてもよい。
【0034】
上記式(1)中、R
1は、水素原子又は炭素原子数1〜5のアルキル基である。上記アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基等を挙げることができる。
【0035】
R
2は、アルコキシル基、アシロキシル基又はOMで表される基である。Mは、水素原子、アルカリ金属又はアンモニウム基(
+NH
4)である。上記アルコキシル基としてはメトキシ基、エトキシ基等を挙げることができる。上記アシロキシル基としては、アセトキシ基、プロピオニルオキシ基等を挙げることができる。上記アルカリ金属としては、ナトリウム、カリウム等を挙げることができる。R
2で表されるこれらの基の中でも、アルコキシル基又はOMで表される基が好ましく、炭素原子数1〜5のアルコキシル基及びMが水素若しくはアルカリ金属であるOMで表される基がより好ましく、メトキシ基、エトキシ基及びMがナトリウム若しくはカリウムであるOMで表される基がさらに好ましい。
【0036】
R
3及びR
4は、それぞれ独立して、水素原子又はアルキル基である。このアルキル基としては、上述した炭素原子数1〜5のアルキル基を挙げることができる。R
3及びR
4としては、水素原子又はメチル基が好ましい。
【0037】
R
1〜R
4で表されるアルキル基、アルコキシル基及びアシロキシル基が有する水素原子は、酸素原子又は窒素原子を含有する置換基で置換されていてもよい。酸素原子を含有する置換基としては、アルコキシル基やアシロキシル基等を挙げることができる。また、窒素原子を含有する置換基としては、アミノ基やシアノ基等を挙げることができる。
【0038】
なお、R
1〜R
4がそれぞれ複数存在する場合、複数存在する各R
1〜R
4は、独立して上記定義を満たす。
【0039】
mは、0〜2の整数であるが、0が好ましい。mが0である、すなわち、上記単量体単位が、3つのR
2基を有することで、変性による効果をより高めることができる。
【0040】
nは、3以上の整数である。nの上限としては、特に制限されないが、例えば20であり、12が好ましい。上記PVAは、上記式(1)中のnが3以上、すなわちシリル基が炭素原子数3以上のアルキレン基を介して主鎖と連結した構造を有していることで、シリル基の変性量を高めても、水溶性及び粘度安定性の低下が抑えられる。このような効果が発現する理由は十分解明されてはいないが、例えば、疎水性を示す炭素原子数3以上のアルキレン基が、水溶液中において、Si−R
2の加水分解速度を低下させ、反応を阻害させるためであると推測される。さらにnは、6以上の整数であることがより好ましい。nをこのような範囲にすることで、通常、上記PVAと併用して用いられる架橋剤の含有量を減らすことができ、架橋剤を用いない場合にも、得られる剥離紙原紙の目止め性や耐水性等を十分に発揮することができる。
【0041】
上記単量体単位の具体的構造は、上記式(1)で表される基を有する限り特に限定されないが、上記式(2)で表されることが好ましい。
【0042】
上記式(2)中、R
1〜R
4、m及びnの定義は、上記式(1)と同様である。また、これらの好ましい基又は数値範囲も同様である。
【0043】
Xは、直接結合、2価の炭化水素基又は酸素原子若しくは窒素原子を含む2価の有機基である。上記単量体単位が上記式(2)で表される構造を有することで、水溶性及び粘度安定性、得られる剥離紙原紙の目止め性や耐水性等の諸性能をより高めることができ、また、上記PVAの製造を容易に行うことができる。
【0044】
上記2価の炭化水素基としては、炭素原子数1〜10の2価の脂肪族炭化水素基、炭素原子数6〜10の2価の芳香族炭化水素基等を挙げることができる。上記炭素原子数1〜10の脂肪族炭化水素基としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基等を挙げることができる。上記炭素原子数6〜10の2価の芳香族炭化水素基としては、フェニレン基等を挙げることができる。上記酸素原子を含む2価の有機基としては、エーテル基、エステル基、カルボニル基、アミド基、及びこれらの基と2価の炭化水素基とが連結した基等を挙げることができる。上記窒素原子を含む2価の有機基としては、イミノ基、アミド基、及びこれらの基と2価の炭化水素基とが連結した基等を挙げることができる。
【0045】
上記Xで表される基の中でも、酸素原子又は窒素原子を含む2価の有機基が好ましく、アミド基を含む基がより好ましく、−CO−NR
6−*(R
6は、水素原子又は炭素原子数1〜5のアルキル基である。*は、上記式(1)で表される基との結合箇所を示す。)で表される基であることがさらに好ましい。このように上記単量体単位がシリル基と離れた位置に極性構造、好ましくはアミド構造を有することで、シリル基に由来する性能を維持しつつ、水溶性や粘度安定性等をより高めることができる。なお、上記R
6としては、上記機能をより高めることができることから、水素原子が好ましい。
【0046】
R
5は、水素原子又はメチル基である。
【0047】
上記単量体単位としては、下記式(4)で表されるものがさらに好ましい。
【0049】
上記式(4)中、R
1、R
2、R
5、X及びmの定義は、上記式(2)と同様である。また、これらの好ましい基又は数値範囲も同様である。
【0050】
上記式(4)中、R
3’及びR
4’は、それぞれ独立して、水素原子又はアルキル基である。このアルキル基としては、上述した炭素原子数1〜5のアルキル基を挙げることができる。R
3’及びR
4’としては、水素原子又はメチル基が好ましく、水素原子がより好ましい。R
3’及びR
4’で表されるアルキル基が有する水素原子は、酸素原子又は窒素原子を含有する置換基で置換されていてもよい。酸素原子を含有する置換基としては、アルコキシル基やアシロキシル基等を挙げることができる。また、窒素原子を含有する置換基としては、アミノ基やシアノ基等を挙げることができる。なお、R
3’及びR
4’がそれぞれ複数存在する場合、複数存在する各R
3’及びR
4’は、独立して上記定義を満たす。
【0051】
上記式(4)中、n’は、1以上の整数である。nの上限としては、特に制限されないが、例えば18であり、10が好ましい。
【0052】
上記単量体単位が、上記式(4)で表される場合、当該剥離紙原紙の諸機能をより効果的に発現させることができる。この理由も定かではないが、上記PVAを含むコーティング剤(水溶液)中においてSi−R
2の加水分解速度を低下させ、反応を阻害させるという上述した機能がより効果的に発揮されるためと推測される。
【0053】
上記PVAは、下記式(I)を満たす。
370≦P×S≦6,000 ・・・(I)
P:粘度平均重合度
S:上記単量体単位の含有率(モル%)
【0054】
上記粘度平均重合度(P)は、JIS−K6726に準じて測定される。すなわち、上記PVAをけん化度が99.5モル%未満の場合は、けん化度99.5モル%以上に再けん化し、精製した後、30℃の水中で測定した極限粘度[η](単位:デシリットル/g)から次式により求めることができる。
P=([η]×1000/8.29)
(1/0.62)
【0055】
上記単量体単位の含有率(S:モル%)は、けん化する前のビニルエステル系重合体のプロトンNMRから求められる。ここで、けん化する前のビニルエステル系重合体のプロトンNMRを測定するに際しては、このビニルエステル系重合体をヘキサン−アセトンにより再沈精製して重合体中から未反応のシリル基を有する単量体を十分に取り除き、次いで90℃減圧乾燥を2日間行った後、CDCl
3溶媒に溶解して分析に供する。
【0056】
粘度平均重合度(P)と上記単量体単位の含有率(S)との積(P×S)は、分子100個あたりの上記単量体単位の数(平均値)に相当する。この積(P×S)が上記下限未満の場合は、当該剥離紙原紙の目止め性や耐水性等のシリル基に由来する諸特性を十分に発揮することができない。逆に、この積(P×S)が上記上限を超えると、PVAの水溶性や水溶液の粘度安定性が低下することで、得られる剥離紙原紙の諸性能が低下しやすくなる。積(P×S)は、下記式(I’)を満たすことが好ましく、下記式(I’’)を満たすことがより好ましい。
400≦P×S≦3,000 ・・・(I’)
500≦P×S≦2,000 ・・・(I’’)
【0057】
上記PVAは、下記式(II)及び(III)をさらに満たすことが好ましい。
200≦P≦4,000 ・・・(II)
0.1≦S≦10 ・・・(III)
P:粘度平均重合度
S:上記単量体単位の含有率(モル%)
【0058】
このように粘度平均重合度(P)及び上記単量体単位の含有率(S)を上記範囲とすることで、水溶性及び粘度安定性等を高め、得られる剥離紙原紙の目止め性や耐水性等を高めることができる。
【0059】
さらには、上記粘度平均重合度(P)において、下記式(II’)を満たすことがより好ましく、下記式(II’’)を満たすことがさらに好ましい。
500≦P≦3,000 ・・・(II’)
1,000≦P≦2,400 ・・・(II’’)
【0060】
粘度平均重合度(P)が上記下限未満の場合は、得られる剥離紙原紙の目止め性や耐水性等が低下する場合がある。逆に、粘度平均重合度(P)が上記上限を超える場合は、水溶性や粘度安定性等が低下する場合がある。
【0061】
また、上記単量体単位の含有率においては、下記式(III’)を満たすことがより好ましく、下記式(III’’)を満たすことがさらに好ましい。
0.25≦S≦6 ・・・(III’)
0.5≦S≦5 ・・・(III’’)
【0062】
上記単量体単位の含有率(S)が上記下限未満の場合は、得られる剥離紙原紙の目止め性や耐水性等が低下する場合がある。逆に、単量体単位の含有率(S)が上記上限を超える場合は、水溶性や粘度安定性等が低下する場合がある。
【0063】
上記PVAのけん化度としては、特に制限はないが、80モル%以上が好ましく、90モル%以上がより好ましく、95モル%以上がさらに好ましく、97モル%以上が特に好ましい。上記PVAのけん化度が上記下限未満の場合は、得られる剥離紙原紙の目止め性や耐水性等が低下する場合がある。なお、上記PVAのけん化度の上限としては、特に制限はないが、生産性等を考慮すると、例えば99.9モル%である。ここで、PVAのけん化度は、JIS−K6726に記載の方法に準じて測定した値をいう。
【0064】
<PVAの製造方法>
上記PVAの製造方法としては、特に限定されないが、例えば、ビニルエステル系単量体と、上記式(1)で表される基を有する単量体とを共重合させ、得られる共重合体(ビニルエステル系重合体)をけん化することにより得ることができる。
【0065】
上記ビニルエステル系単量体としては、例えば、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル等を挙げることができ、これらの中でも、酢酸ビニルが好ましい。
【0066】
また、上記式(1)で表される基を有する単量体とビニルエステル系単量体との共重合に際して、得られるPVAの重合度(P)を調節すること等を目的として、本発明の主旨を損なわない範囲で連鎖移動剤の存在下で重合を行っても差し支えない。連鎖移動剤としては、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド等のアルデヒド類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、2−ヒドロキシエタンチオール、n−ドデカンチオール、メルカプト酢酸、3−メルカプトプロピオン酸等のメルカプタン類;テトラクロロメタン、ブロモトリクロロメタン、トリクロロエチレン、パークロロエチレン等のハロゲン類が挙げられる。
【0067】
上記式(1)で表される基を有する単量体としては、例えば上記式(3)で表される化合物を挙げることができる。上記式(3)で表される化合物を使用することにより、最終的に、上記式(2)で表される基を有する単量体単位を含むPVAが容易に得られる。
【0068】
上記式(3)中、R
1〜R
5、X、m及びnの定義は、上記式(2)と同様である。また、これらの好ましい基又は数値範囲も同様である。
【0069】
上記式(3)で表される化合物としては、3−(メタ)アクリルアミドプロピルトリメトキシシラン、4−(メタ)アクリルアミドブチルトリメトキシシラン、8−(メタ)アクリルアミドオクチルトリメトキシシラン、6−(メタ)アクリルアミドヘキシルトリメトキシシラン、12−(メタ)アクリルアミドドデシルトリメトキシシラン、18−(メタ)アクリルアミドオクタデシルトリメトキシシラン、3−(メタ)アクリルアミドプロピルトリエトキシシラン、3−(メタ)アクリルアミドプロピルトリブトキシシラン、3−(メタ)アクリルアミドプロピルメチルジメトキシシラン、3−(メタ)アクリルアミドプロピルジメチルメトキシシラン、3−(メタ)アクリルアミド−3−メチルブチルトリメトキシシラン、4−(メタ)アクリルアミド−4−メチルブチルトリメトキシシラン、4−(メタ)アクリルアミド−3−メチルブチルトリメトキシシラン、5−(メタ)アクリルアミド−5−メチルヘキシルトリメトキシシラン、4−ペンテニルトリメトキシシラン、5−へキセニルトリメトキシシラン等を挙げることができる。
【0070】
上記ビニルエステル系単量体と上記式(1)で表される基を有する単量体とを共重合させる方法としては、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法等の公知の方法が挙げられる。特に、重合温度が30℃より低い場合には、乳化重合法が好ましく、重合温度が30℃以上の場合には、無溶媒で行う塊状重合法又はアルコール等の溶媒を用いて行う溶液重合法が通常採用される。
【0071】
乳化重合法の場合、溶媒としては水が挙げられ、メタノール、エタノール等の低級アルコールを併用してもよい。また、乳化剤としては、公知の乳化剤を使用することができる。共重合の際の開始剤としては、鉄イオン−酸化剤−還元剤を併用したレドックス系開始剤が重合をコントロールする上で好適に用いられる。塊状重合法や溶液重合法の場合、共重合反応を行うにあたって、反応の方式は回分式及び連続式のいずれの方式にても実施可能である。溶液重合法を採用して共重合反応を行う際に、溶媒として使用されるアルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール等の低級アルコールが挙げられる。この場合の共重合反応に使用される開始剤としては、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、2,2’−アゾビス(N−ブチル−2−メチルプロピオンアミド)などのアゾ系開始剤;過酸化ベンゾイル、n−プロピルパーオキシカーボネートなどの過酸化物系開始剤などの公知の開始剤が挙げられる。共重合反応を行う際の重合温度については特に制限はないが、5℃〜50℃の範囲が適当である。
【0072】
この共重合反応の際には、本発明の趣旨が損なわれない範囲であれば、必要に応じて、共重合可能な単量体を共重合させることができる。このような単量体としてはエチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテン、1−ヘキセン等のα−オレフィン類;フマール酸、マレイン酸、イタコン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸等のカルボン酸又はその誘導体;(メタ)アクリル酸又はその塩、若しくはエステル類;アクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド等のアクリルアミド誘導体;メタクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド、N−エチルメタクリルアミド等のメタクリルアミド誘導体;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル類;エチレングリコールビニルエーテル、1,3−プロパンジオールビニルエーテル、1,4−ブタンジオールビニルエーテル等のヒドロキシ基含有ビニルエーテル類;アリルアセテート;プロピルアリルエーテル、ブチルアリルエーテル、ヘキシルアリルエーテル等のアリルエーテル類;オキシアルキレン基を有する単量体;酢酸イソプロペニル;3−ブテン−1−オール、4−ペンテン−1−オール、5−ヘキセン−1−オール、7−オクテン−1−オール、9−デセン−1−オール、3−メチル−3−ブテン−1−オール等のヒドロキシ基含有α−オレフィン類;エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸等のスルホン酸基を有する単量体;ビニロキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、ビニロキシブチルトリメチルアンモニウムクロライド、ビニロキシエチルジメチルアミン、ビニロキシメチルジエチルアミン、N−アクリルアミドメチルトリメチルアンモニウムクロライド、N−アクリルアミドエチルトリメチルアンモニウムクロライド、N−アクリルアミドジメチルアミン、アリルトリメチルアンモニウムクロライド、メタアリルトリメチルアンモニウムクロライド、ジメチルアリルアミン、アリルエチルアミン等のカチオン基を有する単量体などが挙げられる。これらの単量体の使用量は、その使用される目的や用途等によっても異なるが、通常、共重合に用いられる全ての単量体を基準にした割合で20モル%以下、好ましくは10モル%以下である。
【0073】
上記共重合により得られたビニルエステル系重合体は、次いで、公知の方法に従って溶媒中でけん化され、PVAへと導かれる。
【0074】
けん化反応の触媒としては、通常、アルカリ性物質が用いられ、その例として、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等のアルカリ金属の水酸化物、及びナトリウムメトキシド等のアルカリ金属アルコキシドなどが挙げられる。上記アルカリ性物質の使用量は、ビニルエステル系重合体中のビニルエステル単量体単位を基準にしたモル比で、0.004〜0.5の範囲内であることが好ましく、0.005〜0.05の範囲内であることがより好ましい。また、この触媒は、けん化反応の初期に一括して添加してもよいし、けん化反応の初期に一部を添加し、残りをけん化反応の途中で追加して添加してもよい。
【0075】
けん化反応に用いることができる溶媒としては、メタノール、酢酸メチル、ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド等が挙げられる。これらの溶媒の中でもメタノールが好ましい。また、メタノールの使用にあたり、メタノール中の含水率が好ましくは0.001〜1質量%、より好ましくは0.003〜0.9質量%、特に好ましくは0.005〜0.8質量%に調整されているのがよい。
【0076】
けん化反応は、好ましくは5〜80℃、より好ましくは20〜70℃の温度で行われる。けん化反応に必要とされる時間としては、好ましくは5分間〜10時間、より好ましくは10分間〜5時間である。けん化反応は、バッチ法及び連続法のいずれの方式にても実施可能である。けん化反応の終了後に、必要に応じて、残存するけん化触媒を中和してもよく、使用可能な中和剤として、酢酸、乳酸などの有機酸、及び酢酸メチル等のエステル化合物などを挙げることができる。
【0077】
けん化反応により得られたPVAは、必要に応じて、洗浄することができる。この洗浄の際に用いられる洗浄液としては、メタノール等の低級アルコール、酢酸メチル等の低級脂肪酸エステル、及びそれらの混合物等を挙げることができる。これらの洗浄液には、少量の水やアルカリ又は酸等が添加されていてもよい。
【0078】
上記コーティング剤における上記PVAの含有割合としては、特に限定されないが、4質量%以上20質量%以下が好ましい。このように上記コーティング剤における上記PVAの含有割合を比較的高濃度とすることにより、得られる剥離紙原紙の目止め性や耐水性等を効果的に高めることができる。
【0079】
<他の成分>
上記コーティング剤に含まれる上記PVA以外の成分としては、各種高分子(水溶性高分子、高分子分散体等)、充填剤、耐水化剤、界面活性剤(ノニオン性、アニオン性等)、滑剤、消泡剤、分散剤、湿潤剤、pH調節剤、紫外線吸収剤等を挙げることができる。
【0080】
上記水溶性高分子及び高分子分散体としては、例えば、澱粉及びその誘導体、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース等のセルロース誘導体、アラビアゴム、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸のアルカリ塩(ナトリウム塩等)、ポリビニルピロリドン、(メタ)アクリルアミド−(メタ)アクリル酸エステル共重合体、(メタ)アクリルアミド−(メタ)アクリル酸エステル−(メタ)アクリル酸三元共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体のアルカリ塩(ナトリウム塩等)、イソブチレン−無水マレイン酸共重合体のアルカリ塩(ナトリム塩等)、ジイソブチレン−無水マレイン酸共重合体のアルカリ塩(ナトリウム塩等)、ポリアクリルアミド、アルギン酸ナトリウム、ゼラチン、カゼイン等の水溶性高分子;ポリ酢酸ビニル、ポリウレタン、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸エステル、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリブチルメタクリレート、エチレン−酢酸ビニル共重合体等のエマルジョン、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−ブタジエン−アクリル酸共重合体等のラテックス等を挙げることができる。
【0081】
上記充填剤としては、例えば、カオリン、クレー、炭酸カルシウム、焼成クレー、酸化チタン、ケイソウ土、シリカ、コロイダルシリカ、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、合成ケイ酸アルミニウム、合成ケイ酸マグネシウム、ポリスチレン微粒子、ポリ酢酸ビニル系微粒子、尿素−ホルマリン樹脂微粒子、小麦粉等を挙げることができる。
【0082】
上記耐水化剤としては、例えば、グリオキザール、尿素樹脂、メラミン樹脂、多価金属塩、水溶性ポリアミド樹脂等を挙げることができる。
【0083】
上記コーティング剤の固形分濃度としては、特に限定されないが、塗工性等の点から、1質量%以上20質量%以下が好ましい。
【0084】
上記コーティング剤のpHとしては、特に限定されないが、4以上8以下とすることが好ましい。上記コーティング剤は、用いる上記PVAが水への溶解性に優れるため、水に対して水酸化ナトリウムなどのアルカリや酸を特に添加しなくとも均一な水溶液を得ることができ、取扱性に優れる。また、上記コーティング剤によれば、中性領域においても、十分な粘度安定性を発揮することができる。従って、当該剥離紙原紙の諸性能を効果的に発揮することができる。
【0085】
上記コーティング剤を紙基材に塗工して剥離紙原紙を製造する方法としては、特に限定されず、公知の方法で行うことができる。具体的な塗工方法としては、エアーナイフ法、プレート法、グラビア法、ロールコーター法、スプレー法、ディップ法、バー法、エクストルージョン法などの方法が利用可能である。
【0086】
上記コーティング剤の塗工量としては、特に限定されないが、固形分換算で(両面に塗工する場合は片面あたり)0.1g/m
2以上3g/m
2以下が好ましく、0.2g/m
2以上2g/m
2以下がさらに好ましい。塗工量が上記下限未満の場合は、十分な目止め性や耐水性を発揮できない場合がある。逆に、塗工量が上記上限を超えると、塗工性が低下したり、不経済となる場合がある。
【0087】
通常、上記コーティング剤の塗工後は、乾燥処理が行われる。上記乾燥は、例えば熱風、赤外線、加熱シリンダーやこれらを組み合わせた方法により行うことができる。また、乾燥した剥離紙原紙は、調湿及びカレンダー処理、特にスーパーカレンダー処理することにより、目止め性等を更に向上させることができる。調湿条件としては、紙中水分率を10〜30質量%とすることが好ましい。また、カレンダー処理条件としては、ロール温度が常温〜200℃、ロール線圧20〜350kg/cmが好ましい。
【0088】
当該剥離紙原紙の透気抵抗度(以下、「透気度」と略記することがある。)としては、10,000秒以上が好ましく、30,000秒以上がより好ましく、50,000秒以上がさらに好ましく、100,000秒以上が特に好ましい。透気度が10,000秒未満の場合には、剥離紙原紙への上塗り塗工剤(上記ワニス等)に対する目止め性が十分でない。上記透気度は、JIS−P8117に準じ、王研式滑度透気度試験器を用いて測定した値である。
【0089】
なお、当該剥離紙原紙においては、上記紙基材と塗工層との他に、例えば紙基材と塗工層との間に他の層等を有していてもよい。また、当該剥離紙原紙は、上記PVAを紙基材中に含んでいてもよい。このような場合であっても、当該剥離紙原紙は、高い目止め性や耐水性を発揮することができる。
【0090】
<剥離紙>
本発明の剥離紙は上記剥離紙原紙と、この剥離紙原紙の表面に形成される剥離層とを有する。通常、当該剥離紙における上記剥離紙原紙は、上述のように紙基材とこの紙基材の表面に形成される塗工層とを有する。当該剥離紙の剥離層は、上記剥離紙原紙における塗工層の表面に形成される。このような剥離紙は、上記剥離紙原紙に、上記上塗り塗工剤として、剥離層を形成するための剥離剤を塗工することにより得ることができる。上記剥離剤としては、溶媒系のシリコーン、非溶媒系(エマルジョン系、オリゴマー系)のシリコーンを挙げることができる。剥離剤が含む溶媒としては、トルエン等の有機溶媒が挙げられる。
【0091】
<積層体>
また、本発明の積層体は上記剥離紙原紙、この剥離紙原紙の表面に形成される剥離層、及びこの剥離層表面に形成される粘着層を少なくとも有する。当該積層体において、粘着層の、剥離層が接触する側とは反対の側の面には、紙層、プラスチック層等の基材層がさらに配置されるのが好ましい。このような積層体は、剥離層と粘着層との間での剥離性に優れる。このような積層体は剥離紙における剥離層に、上記上塗り塗工剤として、粘着層を形成するための粘着剤を塗工することにより得ることができる。上記粘着剤としては、溶媒系の粘着剤やエマルジョン系の粘着剤を挙げることができる。
【実施例】
【0092】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。また、以下の実施例及び比較例において、特に断りがない場合、部及び%はそれぞれ質量部及び質量%を示す。
【0093】
なお、実施例及び比較例で用いたシリル基を有する単量体(モノマーA)は、以下のとおりである。
MAmPTMS :3−メタクリルアミドプロピルトリメトキシシラン
MAmPTES :3−メタクリルアミドプロピルトリエトキシシラン
MAmBTMS :4−メタクリルアミドブチルトリメトキシシラン
MAmOTMS :8−メタクリルアミドオクチルトリメトキシシラン
MAmDDTMS:12−メタクリルアミドドデシルトリメトキシシラン
MAmODTMS:18−メタクリルアミドオクタデシルトリメトキシシラン
AMBTMS :3−アクリルアミド−3−メチルブチルトリメトキシシラン
4−PTMS :4−ペンテニルトリメトキシシラン
VMS :ビニルトリメトキシシラン
MAmMTMS :メタクリルアミドメチルトリメトキシシラン
AMPTMS :2−アクリルアミド−2−メチルプロピルトリメトキシシラン
【0094】
[シリル基含有PVAの合成]
下記の方法によりPVAを製造し、そのけん化度、上記式(1)で表される基を有する単量体単位の含有率(S)(一部の例では、シリル基を有する単量体単位の含有率)、粘度平均重合度(P)を求めた。また、以下の評価方法にしたがって、剥離紙原紙の性能を評価した。
【0095】
[PVAの分析方法]
PVAの分析は、特に断らない限りJIS−K6726に記載の方法に従って行った。
【0096】
[合成例1]PVA1の製造
撹拌機、還流冷却管、窒素導入管、コモノマー滴下口及び開始剤の添加口を備えた6Lセパラブルフラスコに、酢酸ビニル1,500g、メタノール500g、上記式(1)で表される基を有する単量体(モノマーA)としてのMAmPTMS1.87gを仕込み、窒素バブリングをしながら30分間系内を窒素置換した。また、ディレー溶液としてMAmPTMSをメタノールに溶解して濃度8%としたコモノマー溶液を調製し、窒素ガスのバブリングにより窒素置換した。反応器の昇温を開始し、内温が60℃となったところで、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.8gを添加し重合を開始した。ディレー溶液を滴下して重合溶液中のモノマー組成(酢酸ビニルとモノマーA(MAmPTMS)の比率)が一定となるようにしながら、60℃で2.7時間重合した後、冷却して重合を停止した。重合を停止するまで加えたコモノマー溶液(逐次添加液)の総量は99gであった。また、重合停止時の固形分濃度は29.0%であった。続いて30℃、減圧下でメタノールを時々添加しながら未反応の酢酸ビニルモノマーの除去を行い、上記式(1)で表される基を有するポリ酢酸ビニル(PVAc)を40%含有するメタノール溶液を得た。さらに、これにPVAc中の酢酸ビニル単位に対する水酸化ナトリウムのモル比が0.04、PVAcの固形分濃度が30質量%となるように、メタノール及び水酸化ナトリウムを10質量%含有するメタノール溶液をこの順序で撹拌下に加え、40℃でけん化反応を開始した。アルカリ溶液を添加後、約5分でゲル状物が生成した。このゲル状物を粉砕器にて粉砕し、40℃で1時間放置してけん化を進行させた後、酢酸メチルを加えて残存するアルカリを中和した。フェノールフタレイン指示薬を用いて中和が終了したことを確認した後、濾別して白色固体を得、これにメタノールを加えて室温で3時間放置洗浄した。上記の洗浄操作を3回繰り返した後、遠心脱液して得られた白色固体を乾燥機中65℃で2日間放置し、上記式(1)で表される基を有するPVA1を得た。PVA1の重合度(P)は1,700、けん化度は98.6モル%であった。
【0097】
得られたPVA1の上記式(1)で表される基を有する単量体単位の含有率(シリル基を有する単量体単位の含有率)は、このPVAの前駆体であるPVAcのプロトンNMRから求めた。具体的には、得られたPVAcの再沈精製をn−ヘキサン/アセトンで3回以上十分に行った後、50℃の減圧下で乾燥を2日間行い、分析用のPVAcを作製した。このPVAcをCDCl
3に溶解させ、500MHzのプロトンNMR(JEOL GX−500)を用いて室温で測定した。酢酸ビニル単位の主鎖メチンに由来するピークα(4.7〜5.2ppm)とモノマーA単位のメトキシ基のメチルに由来するピークβ(3.4〜3.8ppm)とから、下記式を用いて上記式(1)で表される基を有する単量体単位の含有率(S)を算出した。PVA1において、含有率(S)は0.5モル%であった。得られたPVAについて分析した結果を表1に示す。
式(1)で表される基を有する単量体単位の含有率S(モル%)
={(βのピーク面積/9)/(αのピーク面積+(βのピーク面積/9))}×100
【0098】
[合成例2〜21及び比較合成例1〜15]PVA2〜PVA36の製造
酢酸ビニル及びメタノールの仕込み量、モノマーAの種類や添加量等の重合条件、けん化時におけるPVAcの濃度、酢酸ビニル単位に対する水酸化ナトリウムのモル比等のけん化条件を表1及び表2に示すように変更したこと以外は、合成例1と同様にしてPVA2〜PVA36を得た。得られた各PVAについて分析した結果を表1及び表2に示す。
【0099】
【表1】
【0100】
【表2】
【0101】
[実施例1]剥離紙原紙の製造
下記の方法により、剥離紙原紙を製造し、目止め性(透気度及びトルエンバリヤー性)及び耐水性を評価した。
坪量80g/m
2、透気度140秒のセミグラシン紙に、濃度4%の上記PVA1の水溶液を、塗工量が固形分換算で0.5g/m
2になるようにMayerBarを用いて手塗り塗工した。次に、110℃で1分間熱風乾燥機を用いて乾燥させ、20℃、65%RHで72時間調湿し、150℃、250Kg/cm、10m/分の条件でスーパーカレンダー処理を1回実施し、剥離紙原紙を得た。得られた剥離紙原紙について、下記に示す方法で、透気度試験、トルエンバリヤー性試験及び耐水性試験を実施した。
【0102】
[透気度]
JIS−P8117に準じ王研式滑度透気度試験器を用いて剥離紙原紙の透気度を測定し、下記の基準により透気度(目止め性)を判定した。
A:100,000秒以上
B:50,000秒以上、100,000秒未満
C:30,000秒以上、50,000秒未満
D:10,000秒以上、30,000秒未満
E:10,000秒未満
【0103】
[トルエンバリヤー性]
剥離紙原紙の塗工層表面に着色トルエン(赤)を塗布(5×5cm)後、裏面(未塗工面)への裏抜け(小さな赤色の斑点ないし未塗布面の着色)の度合いとして、トルエンバリヤー性(目止め性)を下記の基準により判定した。
A:裏面に斑点なし
B:斑点が数個(〜3個)
C:斑点が多数(着色面積が塗布面積の20%未満)
D:着色面積が塗布面積の20%以上、50%未満
E:着色面積が塗布面積の50%以上
【0104】
[耐水性(ウェットラブ試験)]
剥離紙原紙の塗工層表面に20℃のイオン交換水を1ml滴下した後に、その部分を指先でこすり、指先にヌメリが感じられた回数を測定し、下記基準により判定した。
S:120回以上
A:100回以上、120回未満
B:50回以上、100回未満
C:30回以上、50回未満
D:10回以上、30回未満
E:10回未満
【0105】
[実施例2〜21及び比較例1〜15]
実施例1において用いたPVA1に代えて、表3に示したPVAを用いたこと以外は、実施例1と同様にして剥離紙原紙を製造し、その剥離紙原紙の透気度、トルエンバリヤー性及び耐水性を評価した。その結果を表3に併せて示す。
【0106】
【表3】
【0107】
表3に示されるように、実施例1〜21の剥離紙原紙は、剥離紙原紙の透気度、トルエンバリヤー性、耐水性が良好であることが分かる。ここで、各評価項目はC以上であり、かつ、3項目中2項目以上でB以上の評価であることが良好であるとする。さらに、PVAの粘度平均重合度(P)、けん化度、単量体単位の構造、含有率(S)、粘度平均重合度(P)と含有率(S)の積(P×S)を特定した、実施例1、2、5、6、9、10、13、15、16、17、20、21の剥離紙原紙は、透気度、トルエンバリヤー性及び耐水性に特に優れている(B以上の評価が1項目、A以上の評価が2項目ある)。なお、例えば実施例3、4、7、8、11、12、14、18、19の剥離紙原紙は、透気度、トルエンバリヤー性又は耐水性が若干低下することが分かる。これは粘度平均重合度(P)が大きく、または小さくなることや、含有率(S)が大きく、または小さくなること、粘度平均重合度(P)と含有率(S)の積(P×S)が小さく、または大きくなること、けん化度の低下や、単量体単位の構造が違うことに起因していると考えられる。
【0108】
一方、PVAが規定の要件を満たさない場合(比較例1〜15)、剥離紙原紙の透気度、トルエンバリヤー性、耐水性の低下、もしくはPVA自体の水溶性が低下することが分かる。これは単量体単位の構造が違うことや、粘度平均重合度(P)と含有率(S)の積(P×S)が小さく、または大きくなることに起因していると考えられる。