特許第5944580号(P5944580)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5944580
(24)【登録日】2016年6月3日
(45)【発行日】2016年7月5日
(54)【発明の名称】スパッタリングターゲット
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/34 20060101AFI20160621BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20160621BHJP
   C22C 5/04 20060101ALI20160621BHJP
   G11B 5/851 20060101ALI20160621BHJP
   B22F 3/02 20060101ALN20160621BHJP
   B22F 3/10 20060101ALN20160621BHJP
【FI】
   C23C14/34 A
   C22C38/00 303S
   C22C5/04
   G11B5/851
   !B22F3/02 P
   !B22F3/10 E
   !B22F3/10 G
【請求項の数】4
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2015-512326(P2015-512326)
(86)(22)【出願日】2014年1月29日
(86)【国際出願番号】JP2014051970
(87)【国際公開番号】WO2014171161
(87)【国際公開日】20141023
【審査請求日】2015年3月16日
(31)【優先権主張番号】特願2013-84817(P2013-84817)
(32)【優先日】2013年4月15日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100093296
【弁理士】
【氏名又は名称】小越 勇
(74)【代理人】
【識別番号】100173901
【弁理士】
【氏名又は名称】小越 一輝
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 敦
【審査官】 末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/046882(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/073882(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/133166(WO,A1)
【文献】 国際公開第2007/080781(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/024519(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00−14/58
B22F 3/00−3/26
C22C 5/04
G11B 5/851
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Fe−Pt系合金相とAg相とC相とからなるスパッタリングターゲットであって、スパッタリングターゲット全体の組成においてCの原子数比率をAgの原子数比率で除した値が4以上10以下であり、スパッタリングターゲットの断面においてAg相が、Ag相内の任意の点を中心に描いた半径10μmの全ての仮想円に含まれるか又は該仮想円とAg相の外周との間で少なくとも2点以上の接点又は交点を有する形状を備えており、スパッタリングターゲットの断面においてC相の面積比率が10%以上45%以下であることを特徴とするスパッタリングターゲット。
【請求項2】
Fe−Pt系合金相とAg相とC相と酸化物相とからなるスパッタリングターゲットであって、スパッタリングターゲット全体の組成においてCの原子数比率をAgの原子数比率で除した値が4以上10以下であり、スパッタリングターゲットの断面においてAg相が、Ag相内の任意の点を中心に描いた半径10μmの全ての仮想円に含まれるか又は該仮想円とAg相の外周との間で少なくとも2点以上の接点又は交点を有する形状を備えており、スパッタリングターゲットの断面においてC相と酸化物相の面積比率の合計が10%以上45%以下であることを特徴とするスパッタリングターゲット。
【請求項3】
酸化物相が、Al、B、Ba、Be、Bi、Ca、Ce、Co、Cr、Cs、Cu、Dy、Er、Eu、Fe、Ga、Gd、Ge、Hf、Ho、La、Li、Lu、Mg、Mo、Nb、Nd、Ni、Pr、Sb、Sc、Si、Sm、Sn、Sr、Ta、Tb、Te、Ti、Tm、V、W、Y、Yb、Zn、Zrから選択した一種以上の元素を構成成分とする酸化物であることを特徴とする請求項2に記載のスパッタリングターゲット。
【請求項4】
Au、B、Co、Cr、Cu、Ga、Ge、Mn、Mo、Nb、Ni、Pd、Re、Rh、Ru、Sn、Ta、W、V、Znから選択した一種以上の元素を金属成分として含有し、その含有率が金属成分中における原子数の比率で0.5%以上15%以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のスパッタリングターゲット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録媒体における磁性薄膜の形成に使用されるスパッタリングターゲットに関する。
【背景技術】
【0002】
ハードディスクドライブに代表される磁気記録の分野では、磁気記録媒体の磁性薄膜の材料として、強磁性金属であるCo、Fe、あるいはNiをベースとした材料が用いられている。例えば、面内磁気記録方式を採用するハードディスクの磁性薄膜にはCoを主成分とするCo−Cr系やCo−Cr−Pt系の強磁性合金が用いられてきた。
また、近年実用化された垂直磁気記録方式を採用するハードディスクの磁性薄膜には、Coを主成分とするCo−Cr−Pt系の強磁性合金と酸化物からなる複合材料が多く用いられている。そして上記の磁性薄膜は、生産性の高さから、上記材料を成分とするスパッタリングターゲットをマグネトロンスパッタ装置でスパッタして作製されることが多い。
【0003】
一方、ハードディスクの記録密度は年々急速に増大しており、1 Tbit/inを超えつつある。1Tbit/inに記録密度が達すると記録bitのサイズが10nmを下回るようになり、その場合、熱揺らぎによる超常磁性化が問題となってくると予想される。現在使用されている磁気記録媒体の材料、例えばCo基合金にPtを添加して結晶磁気異方性を高めた材料では十分ではないことが予想される。10nm以下のサイズで安定的に強磁性として振る舞う磁性粒子は、より高い結晶磁気異方性を持っている必要があるからである。
【0004】
上記のような理由から、L1構造を有するFe−Pt合金が超高密度記録媒体用材料として注目されている。L1構造を有するFe−Pt合金は高い結晶磁気異方性とともに、耐食性、耐酸化性に優れているため、磁気記録媒体としての応用に適した材料として期待されているものである。
【0005】
ところで、スパッタ法により成膜したFe−Pt膜は準安定相の不規則相であり、規則相であるL1構造を発現させるためには、規則化温度で熱処理する必要がある。この規則化温度は高いため、基板の耐熱性の問題が生じる。そこで、Fe−Pt合金にAgやCuを添加して規則化温度を下げる試みがなされている。
【0006】
さらにFe−Pt合金を超高密度記録媒体用材料として使用する場合には、Fe−Pt合金をL1構造の磁性粒子として磁気的に孤立させた状態で出来るだけ高密度に、かつ方位を揃えて分散させるという技術の開発が求められている。
このようなことから、磁性粒子を酸化物や炭素といった非磁性材料で孤立させたグラニュラー構造の磁性薄膜が、次世代ハードディスクの磁気記録媒体用に提案されている。このグラニュラー構造の磁性薄膜は、磁性粒子同士が非磁性物質の介在により磁気的に絶縁される構造となっている。グラニュラー構造の磁性薄膜を有する磁気記録媒体及びこれに関連する公知文献としては、例えば、特許文献1を挙げることができる。
【0007】
このようなグラニュラー構造の磁性薄膜は、従来はそれぞれの材料からなるターゲットを用意し、コスパッタして作製されることが多かった。しかし、コスパッタ装置は高価でかつ装置自体も大型になるため、量産時にはFe−Pt系合金と非磁性材料からなる一体型のスパッタリングターゲットを用いて、磁性薄膜を作製することが一般的である。そしてこのようなターゲットは粉末焼結法により作製される。
【0008】
ところが、Fe−Pt系合金とCからなるスパッタリングターゲットをスパッタした場合、スパッタ面においてCが容易に脱離して、基板上へ付着するという問題が生じている。この付着物はパーティクルと呼ばれている。ハードディスクドライブの記録密度の向上に伴い、磁気ヘッドの浮上量が小さくなっているため、磁気記録媒体で許容されるパーティクルのサイズや個数は、ますます厳しく制限されるようになってきている。
参考までにFe−Pt系材料を用いた記録媒体用のスパッタリングターゲットに関する特許文献を下記に示す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004−152471号公報
【特許文献2】特開2003−313659号公報
【特許文献3】特開2011−210291号公報
【特許文献4】特許第5041262号
【特許文献5】特許第5041261号
【特許文献6】特開2012-214874号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、スパッタ時に発生するパーティクル量を大幅に低減させたFe−Pt系合金とAgとCとからなるスパッタリングターゲットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するために、本発明者らは鋭意研究を行った結果、スパッタリングターゲットの組成、組織構造を調整することで、スパッタ時に発生するパーティクル量を大幅に低減することが可能になることを見出した。なお、本発明では、ターゲットの組織構造を分析する際、ターゲットのスパッタ面に対して垂直な断面を用いていることから、後述するターゲット断面又は切断面とは、このスパッタ面に対して垂直な断面を意味する。
【0012】
このような知見に基づき、本発明は、
1)Fe−Pt系合金相とAg相とC相とからなるスパッタリングターゲットであって、スパッタリングターゲット全体の組成においてCの原子数比率をAgの原子数比率で除した値が4以上10以下であり、スパッタリングターゲットの断面においてAg相が、Ag相内の任意の点を中心に描いた半径10μmの全ての仮想円に含まれるか又は該仮想円とAg相の外周との間で少なくとも2点以上の接点又は交点を有する形状を備えていることを特徴とするスパッタリングターゲット、
2)スパッタリングターゲットの断面においてC相の面積比率が10%以上45%以下であることを特徴とする上記1)記載のスパッタリングターゲット、
3)Fe−Pt系合金相とAg相とC相と酸化物相とからなるスパッタリングターゲットであって、スパッタリングターゲット全体の組成においてCの原子数比率をAgの原子数比率で除した値が4以上10以下であり、スパッタリングターゲットの断面においてAg相が、Ag相内の任意の点を中心に描いた半径10μmの全ての仮想円に含まれるか又は該仮想円とAg相の外周との間で少なくとも2点以上の接点又は交点を有する形状を備えていることを特徴とするスパッタリングターゲット、
4)酸化物相が、Al、B、Ba、Be、Bi、Ca、Ce、Co、Cr、Cs、Cu、Dy、Er、Eu、Fe、Ga、Gd、Ge、Hf、Ho、La、Li、Lu、Mg、Mo、Nb、Nd、Ni、Pr、Sb、Sc、Si、Sm、Sn、Sr、Ta、Tb、Te、Ti、Tm、V、W、Y、Yb、Zn、Zrから選択した一種以上の元素を構成成分とする酸化物であることを特徴とする上記3)記載のスパッタリングターゲット、
5)スパッタリングターゲットの断面においてC相と酸化物相の面積比率の合計が10%以上45%以下であることを特徴とする上記3)又は4)に記載のスパッタリングターゲット、
6)Au、B、Co、Cr、Cu、Ga、Ge、Mn、Mo、Nb、Ni、Pd、Re、Rh、Ru、Sn、Ta、W、V、Znから選択した一種以上の元素を金属成分として含有し、その含有率が金属成分中における原子数の比率で0.5%以上15%以下であることを特徴とする上記1)〜5)のいずれか一に記載のスパッタリングターゲット、を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、スパッタ時に発生するパーティクルの量を大幅に低減したスパッタリングターゲットを提供することができる。したがって、スパッタ成膜時における歩留まりを向上することができるという優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明のAg相の形状の一例を示す模式図である。
図2】本発明の範囲外のAg相の形状の一例を示す模式図である。
図3】実施例1のスパッタリングターゲットの断面を電子線プローブマイクロアナライザー(EPMA)で観察したときの二次電子画像及び元素分布画像である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のスパッタリングターゲットは、Fe−Pt系合金相とAg相とC相とからなることを特徴とする。ここで、前記Fe−Pt系合金相とは、FeとPtを主成分として含む合金を意味し、FeとPtのみを含む2元系合金だけでなく、FeとPtを主成分として含み、FeとPt以外の金属元素を含む3元系以上の合金も含むものである。3元系以上の合金として、例えば、Fe−Pt−Cuなどが挙げられる。
【0016】
また、本発明のスパッタリングターゲットは、スパッタリングターゲット全体の組成においてCの原子数比率をAgの原子数比率で除した値が4以上10以下であることを特徴とする。Ag相は、スパッタ時にターゲット表面のCの脱落を抑制する効果があり、パーティクルの発生を著しく抑制することが可能となる。本発明者らの研究によると、Cの原子数比をAgの原子数比で除した値が4未満であると、パーティクルの発生を抑制する効果が大幅に減少することが明らかになっている。また、この値が10よりも大きい場合、パーティクルの発生を抑制する効果はあるものの、スパッタ膜においてAgが偏析することがあり、磁性薄膜の磁気特性を損なう恐れがある。
【0017】
また、本発明のスパッタリングターゲットは、その断面において、Ag相がAg相内の任意の点を中心に描いた半径10μmの全ての仮想円に含まれるか又は該仮想円とAg相の外周との間で少なくとも2点以上の接点又は交点を有する形状を備えることを特徴とする。この特徴はターゲット組織中に粗大なAg相がほとんど存在しないことを意味する。粗大なAg相がターゲット組織中に存在すると、スパッタレートの高いAgが選択的にスパッタされて、スパッタ面の平滑性を損ね、パーティクル量が増加するという問題が生じる。但し、上記の形状を備えない粗大なAg相が存在する場合であっても、その面積率がAg相全体の面積に対して20%未満であれば、本発明の効果を得ることができる。
【0018】
また、本発明のスパッタリングターゲットはその断面において、C相の面積比率が10%以上45%以下であることが好ましい。C相の面積比率が10%未満であると、スパッタ膜においてCが磁性粒子間の磁気的相互作用を十分に絶縁することができないため、良好な磁気特性が得られない場合がある。また、45%よりも大きい場合、Cが凝集して、ターゲット組織中に粗大なC相が生じて、パーティクルの発生が多くなる場合がある。なお、前記C相の面積比率は、観察場所によるバラつきを少なくするため、合計1mm程度となる複数の断面を観察して、その平均から求めることが好ましい。
【0019】
本発明のスパッタリングターゲットは、Fe−Pt系の合金相とAg相とC相とからなる組織において、さらに酸化物相を含むことができる。酸化物相は、スパッタ膜中において、Cと同様に磁性粒子間の磁気的相互作用を絶縁するのに有効である。
また、酸化物相としては、Al、B、Ba、Be、Bi、Ca、Ce、Co、Cr、Cs、Cu、Dy、Er、Eu、Fe、Ga、Gd、Ge、Hf、Ho、La、Li、Lu、Mg、Mo、Nb、Nd、Ni、Pr、Sb、Sc、Si、Sm、Sn、Sr、Ta、Tb、Te、Ti、Tm、V、W、Y、Yb、Zn、Zrから選択した一種以上の元素を構成成分とする酸化物を挙げることができる。これらは所望する磁気特性に合わせて、任意に選択することができる。
【0020】
また、本発明において、上記酸化物相を含むスパッタリングターゲット中におけるC相と酸化物相の面積比率の合計が10%以上45%以下とすることが好ましい。C相と酸化物相の面積比率の合計が10%未満であると、スパッタ膜においてCおよび酸化物が磁性粒子間の磁気的相互作用を十分に絶縁することができないため、良好な磁気特性が得られない場合がある。また、45%よりも大きい場合には、Cや酸化物が凝集してターゲット中に粗大なC相や酸化物相が生じて、パーティクルの発生が多くなる場合がある。なお、前記C相と酸化物相の面積比率は、観察場所によるバラつきを少なくするため、合計1mm程度となる複数の断面を観察して、その平均から求めることが好ましい。
【0021】
また、本発明のスパッタリングターゲットは、Au、B、Co、Cr、Cu、Ga、Ge、Mn、Mo、Nb、Ni、Pd、Re、Rh、Ru、Sn、Ta、W、V、Znから選択した一種以上の金属元素を含有することが好ましい。また、その含有率は金属成分中の原子数の比率で0.5〜15%であることが望ましい。これらの添加金属は、主にL1構造を発現させるための熱処理の温度を下げるために添加するものである。含有率が0.5%未満であると上記の効果が得られ難く、一方、15%より大きいと、磁性薄膜の磁気特性を損ねる場合がある。
【0022】
本発明のスパッタリングターゲットは粉末焼結法によって作製される。例えば、以下の方法によって作製することができる。
まず、金属粉としてFe粉、Pt粉、Ag粉、また、必要に応じて添加金属粉を用意する。このとき、単元素の金属粉だけでなく、合金粉を用いることもできる。これらの金属粉は、平均粒径が1〜10μmのものを用いることが望ましい。平均粒径が1〜10μmであると、より均一な混合が可能であり、ターゲット組織中の偏析と粗大結晶化を防止できる。一方、金属粉の平均粒径が10μm超であると、C相や酸化物相が均一に分散しないことがあり、また、1μm未満であると、金属粉の酸化の影響が問題になることがある。但し、この粒径範囲は好ましい条件であり、この範囲を超えることが本発明を否定することにはならない。なお、Ag粉には、粒径や形状によって凝集性が強いものがあり、その場合は、凝集防止のコーティング処理を施されたものを使用することが好ましい。
【0023】
また、C粉は、平均粒径が1〜30μmのものを用いることが望ましい。平均粒径が1〜30μmであると、金属粉と混合した際にC粉同士が凝集し難くなり、C相を均一に分散させることが可能になる。但し、この粒径範囲は好ましい条件であり、この範囲を超えることが本発明を否定することにはならない。C粉の種類としては、グラファイト(黒鉛)やナノチューブのように結晶構造を有するものと、カーボンブラックに代表される非晶質のものがあるが、いずれのC粉を使用してもよい。
【0024】
また、酸化物粉は、平均粒径が0.2〜5μmのものを用いることが望ましい。平均粒径が0.2〜5μmであると、金属粉との均一な混合が容易になるという利点がある。一方、酸化物粉の平均粒径が5μm超であると、焼結後に粗大な酸化物相が生じることがあり、また0.2μm未満であると、酸化物粉同士の凝集が生じることがある。但し、この粒径範囲は好ましい条件であり、この範囲を超えることが本発明を否定することにはならない。
【0025】
次に、上記の原料粉を所望の組成になるように秤量し、ボールミル等の公知の手法を用いて粉砕を兼ねて混合する。このとき、粉砕容器内に不活性ガスを封入して原料粉の酸化を抑制することが望ましい。
【0026】
このようにして得られた混合粉末をホットプレス法で真空雰囲気、あるいは、不活性ガス雰囲気において成型・焼結させる。また、前記ホットプレス以外にも、プラズマ放電焼結法など様々な加圧焼結方法を使用することができる。特に、熱間静水圧焼結法は焼結体の密度向上に有効である。
焼結時の保持温度はターゲットの構成成分にもよるが、多くの場合、500〜950°Cの温度範囲とすることが好ましい。さらに、Ag相がターゲットの断面においてAg相内の任意の点を中心に描いた半径10μmの全ての仮想円よりも小さいか又は該仮想円とAg相の外周との間で少なくとも2点以上の接点又は交点を有する形状を実現するためには900℃以下の温度にすることが望ましい。900℃以上の温度ではAgが粒成長して上記の特徴を満たすことが難しくなるからである。
【0027】
このようにして得られた焼結体を旋盤等で所望のターゲット形状に加工することにより、本発明のスパッタリングターゲットを作製することができる。
このようにして製造したスパッタリングターゲットは、スパッタリング時に発生するパーティクル量を低減することができるので、成膜時における歩留まりを向上することができるという優れた効果を有する。
【実施例】
【0028】
以下、実施例及び比較例に基づいて説明する。なお、実施例等はあくまで一例でありこの例によって何ら制限されるものではない。すなわち、本発明は、特許請求の範囲によってのみ制限されるものであり、本発明に含まれる実施例以外の種々の変形も包含するものである。
【0029】
(実施例1)
原料粉として平均粒径3μmのFe粉、平均粒径3μmのPt粉、平均粒径2μmのAg粉、平均粒径10μmのC粉(グラファイト粉)を用意した。Ag粉には凝集防止のため有機系材料でコーティング処理が施されたものを用いた。
そして以下の組成比で合計の重量が2500gとなるように秤量した。
秤量組成(モル分率):30Fe−30Pt−5Ag−35C
【0030】
次に、秤量した粉末を、粉砕媒体のジルコニアボールと共に容量10リットルのボールミルポットにAr雰囲気で封入し、4時間回転させて混合・粉砕した。そして、ポットから取り出した粉末を、カーボン製の型に充填しホットプレス装置を用いて成型・焼結した。ホットプレスの条件は、真空雰囲気、昇温速度300°C/時間、保持温度900°C、保持時間2時間とし、昇温開始時から保持終了まで30MPaで加圧した。また、保持終了後はチャンバー内でそのまま自然冷却させた。
【0031】
このようにして作製した焼結体の一部を切り出し、その切断面を研磨して電子線プローブマイクロアナライザー(EPMA)で観察した。その結果、Fe−Pt合金相とAg相とC相が互いに均一分散した組織構造が確認された。また、0.2mmの範囲をEPMAで観察した結果、面積率でAg相のうちの80%以上が、Ag相内の任意の点を中心に描いた半径10μmの全ての仮想円に含まれるか又は該仮想円とAg相の外周との間で少なくとも2点以上の接点又は交点を有する形状を備えていることを確認した。さらに1mmの範囲を光学顕微鏡で観察した画像から、C相の面積比率を求めた結果、25.5%であった。
【0032】
さらに、焼結体から採取した小片を用いて組成分析を実施した。Fe、Pt、AgはICP−AES装置を用いて測定し、Cは高周波誘導加熱炉燃焼−赤外線吸収法を採用した炭素分析装置で測定した。このようにして得られた重量比率から原子数比率を計算した結果、Cの原子数比率をAgの原子数比率で除した値は6.9であった。
【0033】
次に、焼結体を直径180.0mm、厚さ5.0mmの形状へ旋盤で切削加工し、円盤状のターゲットを作製した。これをマグネトロンスパッタ装置(キヤノンアネルバ製C-3010スパッタリングシステム)に取り付け、スパッタリングを行った。
スパッタリングの条件は、投入電力1kW、Arガス圧1.7Paとし、2kWhrのプレスパッタリングを実施した後、4インチ径のシリコン基板上に20秒間成膜した。そして、基板上へ付着したパーティクルの個数をパーティクルカウンターで測定した。その結果、パーティクル個数は83個であった。
【0034】
(比較例1)
原料粉として平均粒径3μmのFe粉、平均粒径3μmのPt粉、平均粒径2μmのAg粉、平均粒径10μmのC粉(グラファイト粉)を用意した。Ag粉には凝集防止のため有機系材料でコーティング処理が施されたものを用いた。
そして以下の組成比で合計の重量が2500gとなるように秤量した。
秤量組成(モル分率):30Fe−30Pt−2Ag−38C
【0035】
次に秤量した粉末を、粉砕媒体のジルコニアボールと共に容量10リットルのボールミルポットにAr雰囲気で封入し、4時間回転させて混合・粉砕した。そして、ポットから取り出した粉末を、カーボン製の型に充填しホットプレス装置を用いて成型・焼結した。ホットプレスの条件は、真空雰囲気、昇温速度300°C/時間、保持温度900°C、保持時間2時間とし、昇温開始時から保持終了まで30MPaで加圧した。保持終了後はチャンバー内でそのまま自然冷却させた。
【0036】
このようにして作製した焼結体の一部を切り出し、その断面を研磨して、電子線プローブマイクロアナライザー(EPMA)で観察した。その結果、Fe−Pt合金相とAg相とC相が互いに均一分散した組織構造が確認された。また、0.2mmの範囲をEPMAで観察した結果、面積率でAg相のうちの80%以上が、Ag相内の任意の点を中心に描いた半径10μmの全ての仮想円に含まれるか又は該仮想円とAg相の外周との間で少なくとも2点以上の接点又は交点を有する形状を備えていることを確認した。さらに1mmの範囲を光学顕微鏡で観察した画像から、C相の面積比率を求めた結果、28.4%であった。
【0037】
さらに、焼結体から採取した小片を用いて組成分析を実施した。Fe、Pt、AgはICP−AES装置を用いて測定し、Cは高周波誘導加熱炉燃焼−赤外線吸収法を採用した炭素分析装置で測定した。このようにして得られた重量比率から原子数比率を計算し、Cの原子数比率をAgの原子数比率で除したところ18.5であった。この値は、本願請求項で規定する範囲から逸脱するものであった。
【0038】
次に、焼結体を直径180.0mm、厚さ5.0mmの形状へ旋盤で切削加工し、円盤状のターゲットを作製した。これをマグネトロンスパッタ装置(キヤノンアネルバ製C-3010スパッタリングシステム)に取り付け、実施例1と同様の条件でスパッタリングを行った。その結果、パーティクル個数は561個と実施例1より大幅にパーティクル数が増加していた。
【0039】
(比較例2)
原料粉として平均粒径3μmのFe粉、平均粒径3μmのPt粉、平均粒径30μmのAg粉、平均粒径10μmのC粉(グラファイト粉)を用意した。そして以下の組成比で合計の重量が2500gとなるように秤量した。
秤量組成(モル分率):30Fe−30Pt−5Ag−35C
【0040】
次に、秤量した粉末を、粉砕媒体のジルコニアボールと共に容量10リットルのボールミルポットにAr雰囲気で封入し、4時間回転させて混合・粉砕した。そして、ポットから取り出した粉末を、カーボン製の型に充填しホットプレス装置を用いて成型・焼結した。ホットプレスの条件は、真空雰囲気、昇温速度300°C/時間、保持温度960°C、保持時間2時間とし、昇温開始時から保持終了まで30MPaで加圧した。保持終了後はチャンバー内でそのまま自然冷却させた。
【0041】
このようにして作製した焼結体の一部を切り出し、その断面を研磨して、電子線プローブマイクロアナライザーで観察したところ、Fe−Pt合金相とAg相とC相が互いに均一分散した組織構造が確認された。また、0.2mmの範囲を観察した結果、粗大なAg相が観察され、Ag相がその相内の任意の点を中心に描いた半径10μmの全ての仮想円に含まれるか又は該仮想円とAg相の外周との間で少なくとも2点以上の接点又は交点を有する形状を備えていないものが、面積率でAg相全体の面積に対して20%以上存在することを確認した。これは、大きな粒径のAg粉を用いたことと、焼結温度が高かったことが原因であると考えられる。さらに1mmの範囲を光学顕微鏡で観察した画像から、C相の面積比率を求めた結果、25.5%であった。
【0042】
さらに、焼結体から採取した小片を用いて組成分析を実施した。Fe、Pt、AgはICP−AES装置を用いて測定し、Cは高周波誘導加熱炉燃焼−赤外線吸収法を採用した炭素分析装置で測定した。このようにして得られた重量比率から、原子数比率を計算し、Cの原子数比率をAgの原子数比率で除したところ7.0であった。
【0043】
次に、焼結体を直径180.0mm、厚さ5.0mmの形状へ旋盤で切削加工し、円盤状のターゲットを作製した。これをマグネトロンスパッタ装置(キヤノンアネルバ製C-3010スパッタリングシステム)に取り付け、実施例1と同様の条件でスパッタリングを行った。その結果、パーティクル個数は245個と実施例1よりパーティクル数が増加した。
【0044】
(比較例3)
原料粉として平均粒径3μmのFe粉、平均粒径3μmのPt粉、平均粒径2μmのAg粉、平均粒径10μmのC粉(グラファイト粉)を用意した。Ag粉には凝集防止のため有機系材料でコーティング処理が施されたものを用いた。
そして以下の組成比で合計の重量が1800gとなるように秤量した。
秤量組成(モル分率):17Fe−17Pt−6Ag−60C
【0045】
次に、秤量した粉末を、粉砕媒体のジルコニアボールと共に容量10リットルのボールミルポットにArで封入し、4時間回転させて混合・粉砕した。そして、ポットから取り出した粉末をカーボン製の型に充填しホットプレス装置を用いて成型・焼結した。ホットプレスの条件は、真空雰囲気、昇温速度300°C/時間、保持温度900°C、保持時間2時間とし、昇温開始時から保持終了まで30MPaで加圧した。保持終了後はチャンバー内でそのまま自然冷却させた。
【0046】
このようにして作製した焼結体の断面を研磨して、電子線プローブマイクロアナライザー(EPMA)で観察したところ、Fe−Pt合金相とAg相とC相が互いに均一分散した組織構造が確認された。また、0.2mmの範囲をEPMAで観察した結果、面積率でAg相のうちの80%以上が、Ag相内の任意の点を中心に形成した半径10μmの全ての仮想円に含まれるか又は該仮想円とAg相の外周との間で、少なくとも2点以上の接点又は交点を有する形状を備えていることを確認した。さらに1mmの範囲を光学顕微鏡で観察した画像から、C相の面積比率を求めた結果、C相の面積比率は48.1%であった。この値は、本願請求項で規定する範囲から逸脱するものであった。
【0047】
さらに、焼結体から採取した小片を用いて組成分析を実施した。Fe、Pt、AgはICP−AES装置を用いて測定し、Cは不活性ガス融解-赤外吸収法を採用した酸素分析計で測定した。このようにして得られた重量比率から原子数比比率を計算した結果、Cの原子数比比率をAgの原子数比比率で除したところ9.8であった。
【0048】
次に焼結体を直径180.0mm、厚さ5.0mmの形状へ旋盤で切削加工し、円盤状のターゲットを作製した。これをマグネトロンスパッタ装置(キヤノンアネルバ製C-3010スパッタリングシステム)に取り付け、実施例1と同様の条件でスパッタリングを行った。その結果、パーティクル個数は880個と実施例1より大幅にパーティクル数が増加した。
【0049】
(実施例2)
原料粉として平均粒径3μmのFe粉、平均粒径3μmのPt粉、平均粒径2μmのAg粉、平均粒径10μmのC粉(グラファイト粉)、平均粒径1μmのSiO粉を用意した。Ag粉には、凝集防止のため有機系材料でコーティング処理が施されたものを用いた。
そして以下の組成比で合計の重量が2200gとなるように秤量した。
秤量組成(モル分率):30Fe−30Pt−5Ag−30C−5SiO
【0050】
次に秤量した粉末を、粉砕媒体のジルコニアボールと共に容量10リットルのボールミルポットにAr雰囲気で封入し、4時間回転させて混合・粉砕した。そしてポットから取り出した粉末をカーボン製の型に充填しホットプレス装置を用いて成型・焼結させた。ホットプレスの条件は、真空雰囲気、昇温速度300°C/時間、保持温度900°C、保持時間2時間とし、昇温開始時から保持終了まで30MPaで加圧した。保持終了後はチャンバー内でそのまま自然冷却させた。
【0051】
このようにして作製した焼結体の一部を切り出し、その切断面を研磨して電子線プローブマイクロアナライザー(EPMA)で観察した。その結果、Fe−Pt合金相とAg相とC相と酸化物(SiO)相が互いに均一分散した組織構造が確認された。また0.2mmの範囲をEPMAで観察した結果、面積率でAg相のうちの80%以上が、Ag相内の任意の点を中心に形成した半径10μmの全ての仮想円に含まれるか又は該仮想円とAg相の外周との間で、少なくとも2点以上の接点又は交点を有する形状を備えていることを確認した。さらに1mmの範囲を光学顕微鏡で観察した画像から、C相と酸化物相の合計の面積比率を求めた結果、35.5%であった。
【0052】
さらに、焼結体から採取した小片を用いて組成分析を実施した。Fe、Pt、Ag、SiはICP−AES装置を用いて測定し、Cは高周波誘導加熱炉燃焼−赤外線吸収法を採用した炭素分析装置で測定し、Oは不活性ガス融解−赤外線吸収法を採用した酸素分析装置で測定した。このようにして得られた重量比率から原子数比率を計算し、Cの原子数比率をAgの原子数比率で除したところ6.0であった。
【0053】
次に焼結体を直径180.0mm、厚さ5.0mmの形状へ旋盤で切削加工し、円盤状のターゲットを作製した。これをマグネトロンスパッタ装置(キヤノンアネルバ製C-3010スパッタリングシステム)に取り付け、実施例1と同様の条件でスパッタリングを行った。その結果、パーティクル個数は34個であった。
【0054】
(比較例4)
原料粉として平均粒径3μmのFe粉、平均粒径3μmのPt粉、平均粒径2μmのAg粉、平均粒径10μmのC粉(グラファイト粉)、平均粒径1μmのSiO粉を用意した。Ag粉には、凝集防止のため有機系材料でコーティング処理が施されたものを用いた。
そして以下の組成比で合計の重量が2300gとなるように秤量した。
秤量組成(モル分率):32.5Fe−32.5Pt−2Ag−28C−5SiO
【0055】
次に、秤量した粉末を、粉砕媒体のジルコニアボールと共に容量10リットルのボールミルポットにAr雰囲気で封入し、4時間回転させて混合・粉砕した。そしてポットから取り出した粉末を、カーボン製の型に充填しホットプレス装置を用いて成型・焼結させた。ホットプレスの条件は、真空雰囲気、昇温速度300°C/時間、保持温度900°C、保持時間2時間とし、昇温開始時から保持終了まで30MPaで加圧した。保持終了後はチャンバー内でそのまま自然冷却させた。
【0056】
このようにして作製した焼結体の断面を研磨して、電子線プローブマイクロアナライザー(EPMA)で観察したところ、Fe−Pt合金相とAg相とC相と酸化物(SiO)相が互いに均一分散した組織構造が確認された。また、0.2mmの範囲をEPMAで観察した結果、面積率でAg相のうちの80%以上が、Ag相内の任意の点を中心に形成した半径10μmの全ての仮想円に含まれるか又は該仮想円とAg相の外周との間で、少なくとも2点以上の接点又は交点を有する形状を備えていることを確認した。さらに1mmの範囲を光学顕微鏡で観察した画像から、C相と酸化物相の合計の面積比率を求めた結果、34.2%であった。
【0057】
さらに、焼結体から採取した小片を用いて組成分析を実施した。Fe、Pt、Ag、SiはICP−AES装置を用いて測定し、Cは高周波誘導加熱炉燃焼−赤外線吸収法を採用した炭素分析装置で測定し、Oは不活性ガス融解−赤外線吸収法を採用した酸素分析装置で測定した。このようにして得られた重量比率から原子数比率を計算し、Cの原子数比率をAgの原子数比率で除したところ13.9であった。この値は、本願請求項で規定する範囲から逸脱するものであった。
【0058】
次に、焼結体を直径180.0mm、厚さ5.0mmの形状へ旋盤で切削加工し、円盤状のターゲットを作製した。これをマグネトロンスパッタ装置(キヤノンアネルバ製C-3010スパッタリングシステム)に取り付け、実施例2と同様の条件でスパッタリングを行った。その結果、パーティクル個数は189個と実施例2より大幅にパーティクル数が増加した。
【0059】
(比較例5)
原料粉として平均粒径3μmのFe粉、平均粒径3μmのPt粉、平均粒径2μmのAg粉、平均粒径10μmのC粉(グラファイト粉)を用意した。Ag粉には凝集防止のため有機系材料でコーティング処理が施されたものを用いた。
そして以下の組成比で合計の重量が1700gとなるように秤量した。
秤量組成(モル分率):24Fe−24Pt−5Ag−40C−7SiO
【0060】
次に、秤量した粉末を、粉砕媒体のジルコニアボールと共に容量10リットルのボールミルポットにArで封入し、4時間回転させて混合・粉砕した。そして、ポットから取り出した粉末をカーボン製の型に充填しホットプレス装置を用いて成型・焼結した。ホットプレスの条件は、真空雰囲気、昇温速度300°C/時間、保持温度900°C、保持時間2時間とし、昇温開始時から保持終了まで30MPaで加圧した。保持終了後はチャンバー内でそのまま自然冷却させた。
【0061】
このようにして作製した焼結体の断面を研磨して、電子線プローブマイクロアナライザー(EPMA)で観察したところ、Fe−Pt合金相とAg相とC相と酸化物相(SiO)が互いに均一分散した組織構造が確認された。また、0.2mmの範囲をEPMAで観察した結果、面積率でAg相のうちの80%以上が、Ag相内の任意の点を中心に形成した半径10μmの全ての仮想円に含まれるか又は該仮想円とAg相の外周との間で、少なくとも2点以上の接点又は交点を有する形状を備えていることを確認した。さらに1mmの範囲を光学顕微鏡で観察した画像から、C相と酸化物相の合計の面積比率を求めた結果、47.4%であった。この値は、本願請求項で規定する範囲から逸脱するものであった。
【0062】
さらに、焼結体から採取した小片を用いて組成分析を実施した。Fe、Pt、Ag、SiはICP−AES装置を用いて測定し、Cは高周波誘導加熱炉燃焼−赤外線吸収法を採用した炭素分析装置で測定し、Oは不活性ガス融解−赤外線吸収法を採用した酸素分析装置で測定した。このようにして得られた重量比率から原子数比比率を計算した結果、Cの原子数比比率をAgの原子数比比率で除したところ7.9であった。
【0063】
次に焼結体を直径180.0mm、厚さ5.0mmの形状へ旋盤で切削加工し、円盤状のターゲットを作製した。これをマグネトロンスパッタ装置(キヤノンアネルバ製C-3010スパッタリングシステム)に取り付け、実施例1と同様の条件でスパッタリングを行った。その結果、パーティクル個数は716個と実施例1より大幅にパーティクル数が増加した。
【0064】
(実施例3)
原料粉として平均粒径3μmのFe粉、平均粒径3μmのPt粉、平均粒径2μmのAg粉、平均粒径3μmのCu粉、平均粒径3μmのCo粉、平均粒径10μmのC粉(グラファイト粉)を用意した。Ag粉には凝集防止のため有機系材料でコーティング処理が施されたものを用いた。
そして以下の組成比で合計の重量が2200gとなるように秤量した。
秤量組成(モル分率):26Fe−26Pt−6Cu−5Co−7Ag−30C
【0065】
次に秤量した粉末を、粉砕媒体のジルコニアボールと共に容量10リットルのボールミルポットにAr雰囲気で封入し、4時間回転させて混合・粉砕した。そしてポットから取り出した粉末をカーボン製の型に充填しホットプレス装置を用いて成型・焼結させた。ホットプレスの条件は、真空雰囲気、昇温速度300°C/時間、保持温度900°C、保持時間2時間とし、昇温開始時から保持終了まで30MPaで加圧した。保持終了後はチャンバー内でそのまま自然冷却させた。
【0066】
このようにして作製した焼結体の一部を切り出し、その切断面を研磨して電子線プローブマイクロアナライザー(EPMA)で観察した。その結果、Fe−Pt−Cu−Co合金相とAg相とC相が互いに均一分散した組織構造が確認された。また、0.2mmの範囲を観察した結果、面積率でAg相のうちの80%以上が、Ag相内の任意の点を中心に形成した半径10μmの全ての仮想円に含まれるか又は該仮想円とAg相の外周との間で、少なくとも2点以上の接点又は交点を有する形状を備えていることを確認した。さらに1mmの範囲を光学顕微鏡で観察した画像から、C相の面積比率を求めた結果、21.6%であった。
【0067】
さらに、焼結体から採取した小片を用いて組成分析を実施した。Fe、Pt、Ag、Cu、CoはICP−AES装置を用いて測定し、Cは高周波誘導加熱炉燃焼−赤外線吸収法を採用した炭素分析装置で測定した。このようにして得られた重量比率から原子数比率を計算し、Cの原子数比率をAgの原子数比率で除したところ4.2であった。
【0068】
次に焼結体を直径180.0mm、厚さ5.0mmの形状へ旋盤で切削加工し、円盤状のターゲットを作製した。これをマグネトロンスパッタ装置(キヤノンアネルバ製C-3010スパッタリングシステム)に取り付け、実施例1と同様の条件でスパッタリングを行った。その結果、パーティクル個数は17個であった。
【0069】
(比較例6)
原料粉として平均粒径3μmのFe粉、平均粒径3μmのPt粉、平均粒径2μmのAg粉、平均粒径3μmのCu粉、平均粒径3μmのCo粉、平均粒径10μmのC粉(グラファイト粉)を用意した。Ag粉には凝集防止の処理が施されていないものを用いた。
そして以下の組成比で合計の重量が2200gとなるように秤量した。
秤量組成(モル分率):26Fe−26Pt−6Cu−5Co−7Ag−30C
【0070】
次に、秤量した粉末を、粉砕媒体のジルコニアボールと共に容量10リットルのボールミルポットにAr雰囲気で封入し、4時間回転させて混合・粉砕した。そして、ポットから取り出した粉末を、カーボン製の型に充填しホットプレス装置を用いて成型・焼結した。ホットプレスの条件は、真空雰囲気、昇温速度300°C/時間、保持温度900°C、保持時間2時間とし、昇温開始時から保持終了まで30MPaで加圧した。保持終了後はチャンバー内でそのまま自然冷却させた。
【0071】
このようにして作製した焼結体の一部を切り出し、その断面を研磨して、電子線プローブマイクロアナライザー(EPMA)で観察したところ、Fe−Pt−Cu−Co合金相とAg相とC相が互いに均一分散した組織構造が確認された。また、0.2mmの領域をEPMAで観察した結果、粗大なAg相が観察され、Ag相がその相内の任意の点を中心に描いた半径10μmの全ての仮想円に含まれるか又は該仮想円とAg相の外周との間で少なくとも2点以上の接点又は交点を有する形状を備えていないものが、面積率でAg相のうちの20%以上存在することを確認した。これは、Ag粉に凝集防止処理を施していないものを用いたことが原因であると考えられる。さらに1mmの範囲を光学顕微鏡で観察した画像から、C相の面積比率を求めた結果、21.7%であった。
【0072】
さらに、焼結体から採取した小片を用いて組成分析を実施した。Fe、Pt、AgはICP−AES装置を用いて測定し、Cは高周波誘導加熱炉燃焼−赤外線吸収法を採用した炭素分析装置で測定した。このようにして得られた重量比率から、原子数比比率を計算し、Cの原子数比率をAgの原子数比率で除したところ4.2であった。
【0073】
次に、焼結体を直径180.0mm、厚さ5.0mmの形状へ旋盤で切削加工し、円盤状のターゲットを作製した。これをマグネトロンスパッタ装置(キヤノンアネルバ製C-3010スパッタリングシステム)に取り付け、実施例1と同様の条件でスパッタリングを行った。その結果、パーティクル個数は183個と実施例3よりパーティクル数が増加した。
【0074】
以上の通り、いずれの実施例においても、スパッタリング時に発生するパーティクル量を低減することができ、成膜時の歩留まりを向上するために非常に重要な役割を有することが分かった。
なお、実施例では、添加金属としてCu、Coを含有するターゲットを例示したが、この他の金属元素(Au、B、Cr、Ga、Ge、Mn、Mo、Nb、Ni、Pd、Re、Rh、Ru、Sn、Ta、W、V、Zn)を含有する場合であっても、同様の結果が得られた。
【0075】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明のスパッタリングターゲットは、スパッタ時に発生するパーティクル量を低減することができ、成膜時における歩留まりを向上することができるという優れた効果を有する。したがって、グラニュラー構造型の磁性薄膜を形成するためのスパッタリングターゲットとして有用である。
図1
図2
図3