特許第5944639号(P5944639)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5944639TGG単結晶育成におけるシーディング方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5944639
(24)【登録日】2016年6月3日
(45)【発行日】2016年7月5日
(54)【発明の名称】TGG単結晶育成におけるシーディング方法
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/28 20060101AFI20160621BHJP
   C30B 15/36 20060101ALI20160621BHJP
【FI】
   C30B29/28
   C30B15/36
【請求項の数】2
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2011-194902(P2011-194902)
(22)【出願日】2011年9月7日
(65)【公開番号】特開2013-56785(P2013-56785A)
(43)【公開日】2013年3月28日
【審査請求日】2013年10月11日
【審判番号】不服2015-7166(P2015-7166/J1)
【審判請求日】2015年4月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107836
【弁理士】
【氏名又は名称】西 和哉
(74)【代理人】
【識別番号】100185018
【弁理士】
【氏名又は名称】宇佐美 亜矢
(72)【発明者】
【氏名】土橋 大輔
【合議体】
【審判長】 大橋 賢一
【審判官】 永田 史泰
【審判官】 後藤 政博
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−221035(JP,A)
【文献】 特開平11−60379(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B1/00-35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
単結晶用原料として、Tb、又はTbから選ばれるTb酸化物、及びGa酸化物のGaを含む酸化物粉末を使用し、該Tb酸化物、及びGa酸化物がTb:Ga:O=3:5:12の比率となる量を混合し加熱融解して製造した原料融液に種結晶を接触させて、Cz法(回転引き上げ法)により、成長結晶を引き上げるテルビウム・ガリウム・ガーネット(TGG)単結晶の育成におけるシーディング方法において、
種結晶として、TGGと同じガーネット構造のYAG単結晶、GGG単結晶又はGSGG単結晶で、融点が1750℃以上、TGGとの格子定数差が±3%以下の単結晶を選択し、かつ該種結晶の先端直径を3mm以上5mm以下の先細形状とし、先端から5mm以内の表面を算術平均粗さRaで10μm以下に仕上げて用いることを特徴とするTGG単結晶育成におけるシーディング方法。
【請求項2】
炉内は、酸素を4体積%以下含有する不活性ガス雰囲気とし、ガス流量を1〜5L/分
とすることを特徴とする請求項1に記載のTGG単結晶育成におけるシーディング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、TGG単結晶育成におけるシーディング方法に関し、より詳しくは、光アイソレータ用ファラデー回転子として用いられるテルビウム・ガリウム・ガーネット(TGG)を主成分とする常磁性ガーネット結晶(組成式TbGa12)をチョクラルスキー法によって容易に製造できるTGG単結晶育成におけるシーディング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光アイソレータや高温超伝導ケーブルなどには、希土類・ガリウム・ガーネット結晶であるネオジム・ガリウム・ガーネット(NGG)結晶、サマリウム・ガリウム・ガーネット(SGG)結晶、ガドリニウム・ガリウム・ガーネット(GGG)結晶等が使用されている。
【0003】
希土類・ガリウム・ガーネット結晶の一般的な製造方法としては、るつぼ中で溶融した原料に種結晶をつけて回転させながら引き上げるというチョクラルスキー法(CZ法:回転引き上げ法)が知られている。このCZ法により、ネオジム・ガリウム・ガーネット(NGG)結晶、サマリウム・ガリウム・ガーネット(SGG)結晶、ガドリニウム・ガリウム・ガーネット(GGG)結晶等が生産されている。そして、ランタン・イッテルビウム・ガリウム・ガーネット(LYGG)結晶をCZ法で製造する方法が提案されている(特許文献1)。
一方、本出願人は、ガドリニウム・ガリウム・ガーネット(GGG)結晶の育成に関して、特に大型の単結晶において、肩部のクラックの発生を抑制し、かつ肩部を直胴部から切断するとき直胴部へのクラック伝播を防止できる育成方法を提案し、種結晶としてGGG結晶を用いて引き上げることで、歪みの少ないガーネット単結晶が得られることを確認している(特許文献2)。このように、従来は種結晶として、育成される結晶と同じ種類の結晶が使用されている。
【0004】
ところで、希土類・ガリウム・ガーネット結晶には、希土類にテルビウムを用いたテルビウム・ガリウム・ガーネット結晶(以下TGG結晶と略すことあり)がある。このTGG結晶は、低光損失、高熱伝導率、高ダメージ閾値、高ベルデ定数の結晶として知られており、主に400nm〜1100nm(470nm〜500nmを除く)用のローテーターや光アイソレータなどに利用されている。
前記GGG結晶育成の場合、GGG種結晶は、GGG融液に接触しても容易には溶融しないので、結晶育成を行うことができた。
【0005】
ところが、種結晶と育成結晶が共にTGGの場合は、種結晶としてTGG結晶を用いて、TGG結晶をCZ法によって製造しようとすると、種結晶が溶融してシーディングの成功率が低く、安定した育成が行えなかった。
そのため、光アイソレータ用ファラデー回転子として用いられるテルビウム・ガリウム・ガーネット(TGG)を主成分とする常磁性ガーネット結晶(組成式TbGa12)をチョクラルスキー法によって容易に製造できるTGG単結晶育成におけるシーディング方法が必要とされていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−001397号公報(実施例1)
【特許文献2】特開2005−29400号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、上記従来技術の課題に鑑み、チョクラルスキー法によってテルビウム・ガリウム・ガーネット(TGG)結晶を、捩れや結晶内の歪を生じることなく容易に製造できる酸化物単結晶の育成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記従来の問題点を解決するために鋭意研究を重ね、テルビウム・ガリウム・ガーネット(TGG)単結晶をCz法(回転引き上げ法)により育成するに当たり、種結晶として異種の組成で、TGGよりも高融点、かつTGGとの格子定数差が特定のものを採用することにより、シーディング時に種結晶が溶解することがなく、シーディング成功率が高くなり、容易に高品質なTGG結晶を製造することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、単結晶用原料として、Tb、又はTbから選ばれるTb酸化物、及びGa酸化物のGaを含む酸化物粉末を使用し、該Tb酸化物、及びGa酸化物がTb:Ga:O=3:5:12の比率となる量を混合し加熱融解して製造した原料融液に種結晶を接触させて、Cz法(回転引き上げ法)により、成長結晶を引き上げるテルビウム・ガリウム・ガーネット(TGG)単結晶の育成におけるシーディング方法において、種結晶として、TGGと同じガーネット構造のYAG単結晶、GGG単結晶又はGSGG単結晶で、融点が1750℃以上、TGGとの格子定数差が±3%以下の単結晶を選択し、かつ該種結晶の先端直径を3mm以上5mm以下の先細形状とし、先端から5mm以内の表面を算術平均粗さRaで10μm以下に仕上げて用いることを特徴とするTGG単結晶育成におけるシーディング方法。
が提供される。
【0010】
さらに、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、炉内は、酸素を4体積%以下含有する不活性ガス雰囲気とし、ガス流量を1〜5L/分とすることを特徴とするTGG単結晶育成におけるシーディング方法が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、Cz法によって結晶を引き上げる際に、種結晶として、TGGよりも融点が高く、TGGとの格子定数差が特定のものを用いるので種結晶の溶解という問題が生じないので、シーディングの成功率が高くなり、高品質なTGG結晶が育成できる。従来の育成方法ではシーディングの成功率が4割程度であったものが、10割に近い成功率を得ることができる。
また、種結晶の先端形状や表面粗さが特定の物性を有する種結晶を用いてTGG単結晶を育成すれば、クラックの発生が大幅に減少するので、これにより、製造困難であったTGG単結晶を、一般的な製造方法で容易に育成することができる。
そして、これにより得られるTGG結晶は、高品質であることから、可視光波長域光アイソレータの回転子として光特性の優れるTGG単結晶が比較的容易に得られ、可視光波長域用の光アイソレータを実用化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の方法に用いられる種結晶の先端形状を示す斜視図である。
図2】本発明により単結晶を引き上げている状態を示す模式図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明のTGG単結晶育成におけるシーディング方法について、図面を用いて詳細に説明する。
【0014】
本発明は、単結晶用原料として、Tb、又はTbから選ばれるTb酸化物、及びGa酸化物のGaを含む酸化物粉末を使用し、該Tb酸化物、及びGa酸化物がTb:Ga:O=3:5:12の比率となる量を混合し加熱融解して製造した原料融液に種結晶を接触させて、Cz法(回転引き上げ法)により、成長結晶を引き上げるテルビウム・ガリウム・ガーネット(TGG)単結晶の育成におけるシーディング方法において、種結晶として、TGGと同じガーネット構造のYAG単結晶、GGG単結晶又はGSGG単結晶で、融点が1750℃以上、TGGとの格子定数差が±3%以下の単結晶を選択し、かつ該種結晶の先端直径を3mm以上5mm以下の先細形状とし、先端から5mm以内の表面を算術平均粗さRaで10μm以下に仕上げて用いることを特徴とする。
【0015】
1.種結晶
本発明におけるTGG育成では、種結晶として、育成するTGGと同じガーネット構造の単結晶ではあるが、育成するTGG単結晶とは組成の異なる結晶であり、かつ、融点が1750℃以上で、TGGとの格子定数差が±3%以下である結晶を使用する。
【0016】
本発明では、種結晶の融点が1750℃以上であることが必須要件である。TGG育成の際、結晶欠陥などを避けるため引き上げ軸方向の温度勾配を緩やかとしなければならない場合、機能的にはTGGの融液に接触した種結晶が溶融してはならない。これに適う融点を有する組成の種結晶を選択すると1750℃以上となる。これより融点が低い種結晶を選択すると、種結晶がTGG融液に接触後、溶融するので育成結晶(TGG)の引き上げができなくなる。
また、種結晶がTGG融液に溶けなくても、TGGとの格子定数差が±3%を超えると、育成結晶にクラックが生じるなどの不具合が発生する。したがって、融点が1750〜2000℃で、TGGとの格子定数差が±2.8%以下である結晶が好適である。
【0017】
このような好ましい種結晶として、例えば、YAG単結晶(融点1970℃、TGGとの格子定数差2.753%;12.01Å/12.35Å)、GGG単結晶(融点2098℃、TGGとの格子定数差0.24%)、あるいはGSGG単結晶(融点1750〜1850℃、TGGとの格子定数差1.70%;12.56Å/12.35Å)を用いることができる(表1参照)。
【0018】
また、育成される結晶は結晶欠陥がないことが望ましいが、欠陥のひとつ「転位」という問題が生じることがある。転位とは、単独の原子が不足したり、余計に存在したりするタイプの欠陥ではなく、線上に並んだ原子の位置がまとまってずれてしまった欠陥のことである。このような転位は、温度変化などによって伸びたり枝分かれしたりして増殖するので対処しにくい。CZ法で大きな結晶を成長しようとすると、中心部と外側で温度差が大きくなって結晶が歪み、これが転位発生の原因になる。
この転位をなくすために、図1のように種結晶のそばの部分の結晶を細くする。このように結晶を細くすると温度差も小さくなり、転位も減り、やがて全くなくすことができる。TGGでは一旦、転位がなくなると、その後かなりの温度差が結晶にかかっても転位が新たに発生しないという性質があるので、大きくても転位のない結晶ができる。
したがって、本発明では、種結晶の先端形状は先端直径を3mm以上5mm以下の先細形状とし、先端から5mm以内の表面を算術平均粗さRaで10μm以下に仕上げたものを使用することが好ましい。
【0019】
【表1】
【0020】
2.結晶育成装置
本発明のシーディング方法では、TGG育成に使用されている公知の単結晶育成装置を用いることができる。
【0021】
すなわち、図2に示すような製造装置を用いてシーディングが行われる。この製造装置aは、その外側が保温材bにより覆われ内部に原料cが投入されるルツボdと、上記保温材bの外側に配置されルツボd内の原料を加熱する高周波加熱コイルeと、上記ルツボdの上方側に昇降可能に設けられその先端に種結晶fが保持されると共に矢印方向へ回転する引上げ軸gとでその主要部が構成されており、かつ、これ等構成部材は図示外の密封された圧力容器内に組込まれている。
【0022】
3.結晶育成
単結晶を製造するには、まず、上記の製造装置のルツボd内に原料cを投入して充填した後、高周波加熱コイルeに通電して上記ルツボdを高周波誘導加熱法により発熱させ、ルツボd内の原料cをその融点以上の温度に加熱して融解させる。
次に、上記引上げ軸gを降下させて融解した原料融液の中心部に種結晶fとなるLN等の単結晶片を接触させる。そして、ルツボdに投入する高周波電力を調節して種結晶fを中心に原料融液を徐々に固化させると同時に、上記種結晶fを回転させながら上昇させるという操作を連続的に行うことにより、略円筒形状の単結晶hを製造する。
【0023】
(単結晶用原料)
本発明においては、単結晶用原料としては、Tb、又はTbから選ばれるTb酸化物、及びGa酸化物のGaを含む酸化物粉末を使用する。それらの純度は4N以上であることが好ましい。Tb酸化物、及びGa酸化物は、基本的にはTb:Ga:O=3:5:12の比率となる量を用いる。
【0024】
(加熱融解)
次に、この坩堝内の原料粉末を加熱融解させる。その際、炉内雰囲気は、酸素と窒素などの不活性ガスの混合ガス雰囲気にすることが好ましい。混合ガス雰囲気の成分組成、ガス流量は特に制限されるわけではないが、酸素を4体積%以下、さらに好ましくは2体積%以下含有し、ガス流量を1〜5L/分、さらに好ましくは2〜3L/分とすると、酸化ガリウムの昇華、坩堝の酸化抑制の点で好ましい。酸素量が過多の場合、坩堝が酸化して、シードタッチする際に酸化イリジウムが浮遊して酸化イリジウムから結晶の固化が発生し、シードタッチを妨げることがある。
本発明では、種結晶の組成を育成結晶と異ならせるようにしたから、加熱温度、加熱時間は、従来技術の範囲を採用することができる。
【0025】
(シーディング)
原料が融解したら、種結晶軸を適当な回転数で回転させながら降下させ、融液に種結晶を付ける。シーディングとは、種結晶が坩堝内に溶融した融液表面に接触することを表し、育成結晶の引き上げを開始する作業である。これはまた、タッチとも呼ばれる。タッチ温度は、種結晶が融液に接触する際の坩堝底の温度を熱電対の起電力で示したものである。
【0026】
本出願人は、従来の方法として、TGG単結晶を種結晶に用い、タッチ温度を様々に変えて、TGG単結晶を育成する方法を試みた。まず、純度99.99%の酸化テルビウム(Tb)原料と、純度99.99%の酸化ガリウム(Ga)とを準備した。この調合物を混合し、イリジウム製のるつぼに投入し、通常の高周波加熱炉を用いて溶融させて、CZ法によって結晶を育成した。
種結晶としては7mm角に切り出したTGG結晶(TbGa12結晶、融点1725℃)を用いた。育成雰囲気は、酸素濃度2%、残りは窒素ガスとした雰囲気で行い、ガス流量は2.5リットル/分とした。その後、溶融物に種結晶を接触させ、種結晶回転速度0.5〜13rpm、引き上げ速度1mm/hで育成結晶を引き上げた。
【0027】
まず、タッチ温度を10.775mVに設定してTGG種結晶を融液に向かって下降させたところ、タッチ前に融液の固化が始まった。そこで、タッチ温度を10.890mVに漸増させ、再度降下させたが、同様に固化が生じた。そこで、タッチ温度を11.000mVに増加させ、再度降下させたところ、種結晶がタッチ前に溶融し始めた。そこで、タッチ温度を10.847mVに低下させ、再度降下させたところ、融液の固化が始まった。今度は、タッチ温度を10.960mVに漸増させ、再度降下させたところ、種結晶がタッチ前に溶融し始めた。再度、タッチ温度を10.910mVに低下させ、降下させたが、種結晶がタッチ前に溶融し始めた。今度は、タッチ温度を10.860mVに低下させ、再度降下させたところ、種結晶がタッチ前に溶融し始め、最終的に引上げを成功させることはできなかった(比較例2参照)。
タッチ温度が10.860mVで種結晶の溶融が始まり、これよりタッチ温度が高い10.890mVで融液の固化が始まるという温度の逆転が生じる要因の一つに、融液表面に坩堝の表面が酸化して浮遊したものを核として固化が始まるような状況がある。このような要因を排除することは、現実的には困難である。
【0028】
上記の状態を考察すると、TGG結晶の引上げにおいては、種結晶と育成結晶が同じであるため、融液と種結晶の融点が等しく、そのため、タッチ温度の設定のわずかな違いでシーディングの成否が分かれる結果になったと考えられる。このような状況では、安定したシーディングは望めないので、溶融しない種結晶を採用することとした。TGG融液に溶けない結晶の融点として1750℃以上のものが適切である。しかし、育成結晶と異なる種類の種結晶を使用する場合、両結晶の格子定数の差が大きいと、育成結晶にクラックが生じるなどの不具合が発生する。そこで、上記格子定数の差が±3%以下である結晶を種結晶として採用する必要がある。
【0029】
すなわち、本発明では、種結晶として、TGGと同じガーネット構造の単結晶であり、かつ融点が1750℃以上で、TGGとの格子定数差が±3%以下である結晶、具体的には、YAG単結晶、GGG単結晶あるいはGSGG単結晶を用いることで、上記のような問題点を解消しようとするものである。種結晶として、先端直径を3mm以上5mm以下の先細形状とし、先端から5mm以内の表面を算術平均粗さRaで10μm以下に仕上げた単結晶を用いることが好ましい。
これにより、シーディングの成功率を大幅に高めることが可能となった。
【0030】
(単結晶の引き上げ)
単結晶の育成は、チャンバ内を混合ガス雰囲気に保ち、回転数や引き上げ速度を調整して、ネック部および肩部を形成し、引き続き直胴部を形成する。結晶形状の調節は、育成中の結晶重量を測定し、直径や育成速度などを計算によって導き出し、回転速度や引き上げ速度を調整して行う。また、結晶重量の変化を加熱ヒータ投入電力にフィードバックして融液温度をコントロールする。
【0031】
TGG結晶では、結晶径が1インチ程度の小径では、比較的形状制御が容易である。ところが、直胴部の結晶径が1インチを大幅に超え、例えば50mm程度まで結晶径を拡大していくと、前記のとおり、捩れや結晶内に歪を生じて、高品質なTGG結晶を製造することができなくなってしまう。
TGGの場合、育成軸方向の温度勾配は、一般的に数十〜100℃/cm程度であり、ガーネット結晶以外のものと比べると一桁以上も急峻である。温度勾配が異なる理由のひとつは、融液の粘性の違いによるもので、TGG結晶の原料融液の粘性が比較的低いので、低温度勾配下では、融液内対流が乱れやすく、安定した結晶成長が困難となることによる。
【0032】
そのため、結晶の広がり角θを特定の角度以上としながら、前記坩堝の上部で直胴部直径(d)に対して1.3倍以下の内径(D)を持つ平板円環状のジルコニウム製の絞りを通過させることにより、融液表面の径方向温度勾配が強くなるようにすることが好ましい。
結晶肩部の広がり角θは、45°以上、好ましくは60°以上とする。広がり角θが45°未満であると、結晶に捩れ、割れが発生するので好ましくない。また、結晶の直胴部直径に対して絞りの内径が1.3倍を超えても、結晶に捩れ、割れが発生してしまう。捩れが発生した結晶では、サンプルが切り出しても、消光比が光アイソレーターとして使用可能な下限値30dBを下回るので好ましくない。
引き上げ速度は、特に制限されるわけではないが、例えば1〜5mm/hrとし、1〜3mm/hrとするのが好ましい。また、回転速度は、特に制限されるわけではないが、例えば5〜20rpmとし、8〜15rpmとするのが好ましい。
【0033】
このようにして坩堝内で単結晶が育成され、引き上げられた後、予め設定された結晶長さに成長すると、融液から結晶を切り離す工程に移行し、その後、制御装置のシーケンスパターンにより降温する。
【実施例】
【0034】
以下に、実施例を用いて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これら実施例によって限定されるものではない。なお、シーディング結果は、種結晶の表面および育成結晶との界面を観察し、△:急成長・固化、×:溶融、○:良好と評価した。
【0035】
(比較例1〜10)
まず、純度99.99%の酸化テルビウム(Tb)原料と、純度99.99%の酸化ガリウム(Ga)とを準備した。この原料粉末を混合し、イリジウム製のるつぼに投入し、通常の高周波加熱炉を用いて溶融させて、CZ法によって結晶を育成した。イリジウム製のるつぼ形状は直径約160mm、高さ約160mmで、種結晶としては7mm角に切り出したTGG結晶(TbGa12結晶、融点1725℃)を用いた。育成する結晶の直径は60mm、全長120mmとした。育成雰囲気は、酸素濃度2%、残りは窒素ガスとした雰囲気で行い、ガス流量は2.5リットル/分とした。その後、溶融物に種結晶を接触させ、種結晶回転速度0.5〜13rpm、引き上げ速度1.0mm/hで育成結晶を引き上げた。
比較例1(TG−047)の場合、タッチ温度を10.470mVに設定してTGG種結晶を融液に向かって下降させたところ、タッチ前に融液の固化が始まった。そこで、タッチ温度を10.860mVに漸増させ、再度降下させたところ、種結晶がタッチ前に溶融し始めた。そこで、タッチ温度を10.700mVに低下させ、再度降下させたところ、融液の固化が始まった。今度は、タッチ温度を10.760mVに漸増させ、再度降下させたところ、引上げを成功させることができた。
また、比較例2(TG−048)の場合、同様に7回行ったが、引上げを成功させることができず、再度、タッチ温度を10.855mVに設定して行ったところ、やっと引上げを成功させることができた(比較例3(TG−048再))。
。比較例4〜10でも、同様にして育成を行った。その結果は表2に示したとおり、成功率が低かった。
【0036】
【表2】
【0037】
(実施例1〜4)
まず、純度99.99%の酸化テルビウム(Tb)原料と、純度99.99%の酸化ガリウム(Ga)とを準備した。この原料粉末を混合し、イリジウム製のるつぼに投入し、通常の高周波加熱炉を用いて溶融させて、CZ法によって結晶を育成した。イリジウム製のるつぼ形状は直径約160mm、高さ約160mmで、種結晶としては図1に示されるような7mm角(先端長さ8mm、先端直径3mm)に切り出したGSGG結晶(GdScGa12結晶、融点1750〜1850℃、TGGとの格子定数差1.7%)を用いた。育成する結晶の直径は60mm、全長120mmとした。育成雰囲気は、酸素濃度2%、残りは窒素ガスとした雰囲気で行い、ガス流量は2.5リットル/分とした。その後、溶融物に種結晶を接触させ、種結晶回転速度5.0〜15.0rpm、引き上げ速度1.0〜1.5mm/hで育成結晶を引き上げた。育成の結果は表3に示したとおり、いずれも一度でシーディングが成功し良好であった。
【0038】
(実施例5〜26)
実施例1〜4と同様に、原料粉末を混合し、イリジウム製のるつぼに投入し、通常の高周波加熱炉を用いて溶融させて、CZ法によって結晶を育成した。イリジウム製のるつぼ形状は直径約160mm、高さ約160mmで、種結晶としては7mm角に切り出したYAG結晶(YAl12結晶、融点1970℃、TGGとの格子定数差2.753%)を用いた。育成する結晶の直径は60mm、全長120mmとした。育成雰囲気は、酸素濃度2%、残りは窒素ガスとした雰囲気で行い、ガス流量は2.5リットル/分とした。その後、溶融物に種結晶を接触させ、種結晶回転速度、0.5〜13.0rpm、引き上げ速度0.5〜13.0mm/hで育成結晶を引き上げた。育成の結果は表3に示したとおり、いずれも一度でシーディングが成功し良好であった。
【0039】
そして、実施例9のガーネット結晶から、直径4.2mm、長さ12.6mmの結晶を5個くりぬいて、両端面を鏡面加工として内部を観察した結果、気泡、介在物は見られなかった。このくりぬいた結晶について、消光性能を測定した結果、42、42.5、43、44.5、45dBと非常に良好な値を示し、光アイソレータ用途に問題なく使えることが確認できた。
【0040】
【表3】
【0041】
(実施例27)
種結晶として基部7mm、先端直径3〜5mmに切り出したGGG結晶(GdGa12)の先端5mmまでを表面粗さRa10μm以下に研磨したものを用いて、実施例1と同様に実験を行った。GSGG種結晶やYAG種結晶同様、一度でシーディングが成功した。
【0042】
「評価」
以上、表3の結果から明らかなように、実施例1〜26では、種結晶として、TGG融液に溶けない結晶の融点として1750℃以上のGSGG、YAG(TGGとの格子定数の差が±3%以下)である結晶を採用したため、一度でシーディングが成功し、高品質のTGG結晶が得られている。また、実施例27では、種結晶として、先細形状で、先端から5mm以内の表面を特定値以下の算術平均粗さRaに仕上げた単結晶を用いており、格子定数においてGGG種結晶はTGG単結晶に最も近いことから、シーディング後の引き上げ工程において、TGG単結晶に格子定数不整合に起因するクラックの発生頻度をより低減させることができる。
これに対して、比較例1〜10では、表2の結果から明らかなように、種結晶として、育成する結晶と同じTGGを用いたために、シーディングの成功率が低く、高品質のTGG結晶を得ることができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明によれば、高品質なTGG結晶が得られることから、小型で特性に優れたローテーターや光アイソレータファラデー回転子など、光学用途の単結晶の製造に適用することができる。
【符号の説明】
【0044】
a 製造装置
b 保温材
c 原料
d ルツボ
e 高周波加熱コイル
f 種結晶
g 引上げ軸
h 単結晶
図1
図2