(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5944775
(24)【登録日】2016年6月3日
(45)【発行日】2016年7月5日
(54)【発明の名称】エマルション樹脂用成膜助剤組成物
(51)【国際特許分類】
C09D 201/00 20060101AFI20160621BHJP
C09D 5/02 20060101ALI20160621BHJP
C09D 7/12 20060101ALI20160621BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20160621BHJP
C08K 5/103 20060101ALI20160621BHJP
C08K 5/11 20060101ALI20160621BHJP
C08K 5/09 20060101ALI20160621BHJP
C08K 5/092 20060101ALI20160621BHJP
【FI】
C09D201/00
C09D5/02
C09D7/12
C08L101/00
C08K5/103
C08K5/11
C08K5/09
C08K5/092
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-165402(P2012-165402)
(22)【出願日】2012年7月26日
(65)【公開番号】特開2014-24935(P2014-24935A)
(43)【公開日】2014年2月6日
【審査請求日】2015年5月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000387
【氏名又は名称】株式会社ADEKA
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【弁理士】
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【弁理士】
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100122437
【弁理士】
【氏名又は名称】大宅 一宏
(74)【代理人】
【識別番号】100161115
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 智史
(72)【発明者】
【氏名】小野 高志
(72)【発明者】
【氏名】白井 博明
(72)【発明者】
【氏名】保坂 将毅
【審査官】
中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭57−133141(JP,A)
【文献】
特開2005−200611(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D1/00−10/00、
C09D101/00−201/10、
B01F17/00−17/56、
C08K3/00−13/08、
C08L1/00−101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の一般式(1)及び/又は一般式(2)で表されるエステル化合物(A)、及び一般式(3)
で表されるジカルボン酸及び/又は一般式(4)で表される脂肪酸(B)を含有し、且つ酸価が0.05〜5mgKOH/gであることを特徴とするエマルション樹脂用成膜助剤組成物:
【化1】
(式中、R
1及びR
5は、それぞれ炭素数1〜10の炭化水素基を表し、R
2及びR
4は、それぞれ炭素数2〜4のアルキレン基を表し、R
3は、炭素数1〜15のアルキレン基を表し、p及びrは、それぞれ1〜5の数を表す。)
【化2】
(式中、R
6及びR
8は、それぞれ炭素数1〜10の炭化水素基を表し、R
7は、炭素数2〜4のアルキレン基を表し、mは、2〜10の数を表す。)
HOOC−R
9−COOH (3)
(式中、R
9は、炭素数1〜15のアルキレン基を表す。)
R
10−COOH (4)
(式中、R
10は、炭素数1〜10の炭化水素基を表す。)
【請求項2】
一般式(1)のR2及びR4、及び一般式(2)のR7がエチレン基である、請求項1に記載のエマルション樹脂用成膜助剤組成物。
【請求項3】
成膜助剤組成物が非水溶性である、請求項1または2に記載のエマルション樹脂用成膜助剤組成物。
【請求項4】
エマルション樹脂に、請求項1ないし3のいずれか1項に記載のエマルション樹脂用成膜助剤組成物を、エマルション樹脂組成物全量に対して0.1〜10質量%含有することを特徴とするエマルション樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製品安定性が良好で、更に、配合したエマルション樹脂の長期保存安定性が良好なエマルション樹脂用成膜助剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
エマルション樹脂は媒体が水であり、引火性及び毒性の点で安全であることから、接着剤、塗料など広範囲に使用されている。一般に、エマルション樹脂が乾燥して連続的な皮膜を形成する最低温度を最低成膜温度(MFT)という。MFTはエマルション樹脂の種類、組成などによって異なるが、一般的に使用されているエマルション樹脂のMFTは、10〜70℃の範囲にある。このため、特に冬期にエマルションを使用する場合、MFT以下の温度で乾燥すると透明な連続皮膜を形成せずに白化し、十分な性能を得られない場合や意匠性が悪化する等の問題が生じていた。中でもアクリルエマルション系樹脂のMFTは高く、夏場でさえ十分な接着力を得られない種類のエマルションも多い。このため強制的に加熱などを行い、皮膜形成に十分な温度を与えてやるなどの処理が成されているが、高温で長時間の処理が必要であり、MFTを下げてかつ短時間で皮膜形成できるような成膜助剤が求められていた。
【0003】
一般に成膜助剤としては、可塑剤や高沸点溶剤を成膜助剤として添加するのが一般的である。可塑剤としては、ジブチルフタレート、ジメチルフタレート、トリクレジルホスフェート等を、また高沸点溶剤としては、ブチルセロソルブ、ブチルカルビトール、N−メチルピロリドン等を添加するのが一般的である。特に、ジブチルフタレートは価格も安く、可塑化したエマルションの安定性も良好なため一般的に用いられているが、成膜性能はあまり優れておらず、低温で成膜するエマルションを得るためには多量に使用する必要がある。しかも形成された膜は過度に可塑化され、膜の耐熱性が低下し、荷重下に容易にクリープする欠点がある。また、ジブチルフタレートを代表とするフタル酸エステル類は、環境ホルモンとして生殖異常を引き起こすことが指摘されているため、その使用は敬遠されている。
【0004】
一方、ブチルセロソルブ、ブチルカルビトール、N−メチルピロリドンなどの高沸点溶剤は特有の臭気があり、また形成した膜の耐水性を低下させるという欠点を有している。成膜性についてはジブチルフタレートより優れているものの、十分な性能を有しているとはいえない。また、これらの溶剤は人体への影響を憂慮され、揮発性有機化合物(VOC)として規制されており、その使用を制限されている。具体的には、大気中に放出される有機化合物の排出を抑制するために、大気汚染防止法によって有機化合物の排出量が規制されているが、沸点が260℃未満の化合物は排出量が大きくなるため、成膜助剤としても沸点が260℃以上の有機化合物が望まれていた。
【0005】
そこで様々な化合物が成膜助剤として検討されてきたが、中でも特定のエステル化合物からなる成膜助剤は、高沸点で臭気もなく、成膜性も良好であることが確認されている。例えば、特許文献1には、エステル結合を2つ及びエーテル結合を1〜10持つ化合物からなるアクリルエマルション系樹脂用成膜助剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−200611号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら特許文献1に記載の成膜助剤を配合したエマルション樹脂を長期間保存すると、分離や沈殿等の問題が生じることがあり、使用が困難となることがあった。
【0008】
従って、本発明が解決しようとする課題は、低臭気及び高沸点で成膜性が良好な成膜助剤であり、且つ配合したエマルション樹脂の長期保存安定が良好なエマルション樹脂用成膜助剤組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで、本発明者等は鋭意検討し、成膜助剤として良好な性能を保ちつつ、配合したエマルション樹脂の長期保存安定性が良好なエマルション樹脂用成膜助剤組成物を見出し、本発明に至った。
即ち、本発明は、下記の一般式(1)及び/又は一般式(2)で表されるエステル化合物(A)、及び一般式(3)
で表されるジカルボン酸及び/又は一般式(4)で表される脂肪酸(B)を含有し、且つ酸価が0.05〜5mgKOH/gであることを特徴とするエマルション樹脂用成膜助剤組成物である:
【化1】
(式中、R
1及びR
5は、それぞれ炭素数1〜10の炭化水素基を表し、R
2及びR
4は、それぞれ炭素数2〜4のアルキレン基を表し、R
3は、炭素数1〜15のアルキレン基を表し、p及びrは、それぞれ1〜5の数を表す。)
【化2】
(式中、R
6及びR
8は、それぞれ炭素数1〜10の炭化水素基を表し、R
7は、炭素数2〜4のアルキレン基を表し、mは、2〜10の数を表す。)
HOOC−R
9−COOH (3)
(式中、R
9は、炭素数1〜15のアルキレン基を表す。)
R
10−COOH (4)
(式中、R
10は炭素数1〜10の炭化水素基を表す。)
【発明の効果】
【0010】
本発明の効果は、低臭気及び高沸点で成膜性が良好な成膜助剤であり、且つ配合したエマルションの長期保存安定が良好なエマルション樹脂用成膜助剤組成物を提供したことにある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明のエマルション樹脂用成膜助剤組成物に使用できるエステル化合物(A)は、下記の一般式(1)または一般式(2)で表される:
【化3】
【0012】
一般式(1)のR
1及びR
5は、それぞれ炭素数1〜10の炭化水素基を表す。こうした炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、2級ブチル基、ターシャリブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、2級ペンチル基、ヘキシル基、イソヘキシル基、2級へキシル基、ヘプチル基、イソヘプチル基、2級ヘプチル基、オクチル基、イソオクチル基、2級オクチル基、ノニル基、イソノニル基、2級ノニル基、デシル基、イソデシル基等のアルキル基;ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、イソブテニル基、ペンテニル基、イソペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基等のアルケニル基;フェニル基、トルイル基、キシリル基、クメニル基等のアリール基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、メチルシクロペンチル基、メチルシクロヘキシル基等のシクロアルキル基が挙げられる。これらの中でも、MFTが低くなることから炭素数2〜8の炭化水素が好ましく、炭素数3〜6の炭化水素基がより好ましく、炭素数3〜6のアルキル基が更に好ましい。炭素数が10を超えると、エマルション樹脂への混和性が悪化して、エマルションの増粘等の悪影響がでる場合がある。
【0013】
一般式(1)のR
3は、炭素数1〜15のアルキレン基を表す。こうしたアルキレン基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、イソプロピレン基、ブチレン基、イソブチレン基、ペンチレン基、イソペンチレン基、ヘキシレン基、イソヘキシレン基、ヘプチレン基、イソヘプチレン基、オクチレン基、イソオクチレン基、ノニレン基、イソノニレン基、デシレン基、イソデシレン基、ウンデシレン基、イソウンデシレン基、ドデシレン基、イソドデシレン基、トリデシレン基、イソトリデシレン基、テトラデシレン基、イソテトラデシレン基、ペンタデシレン基、イソペンタデシレン基等のアルキレン基;フェニレン基、メチルフェニレン基、ジメチルフェニレン基、エチルフェニレン基、プロピルフェニレン基、ブチルフェニレン基、ナフタレン基等のアリーレン基が挙げられる。これらの中でもMFTが低くなることからアルキレン基が好ましく、更に原料の入手が容易であることから、炭素数1〜4もしくは8のアルキレン基がより好ましい。
【0014】
一般式(1)のR
2及びR
4は、それぞれ炭素数2〜4のアルキレン基を表す。こうした基としては、例えば、エチレン基、プロピレン基、イソプロピレン基、ブチレン基、イソブチレン基等が挙げられる。これらの中でもエマルション樹脂への混和性が良好で、MFTを下げる効果が高いことからエチレン基が好ましい。
【0015】
一般式(1)のp及びrは、それぞれ1〜5の数を表すが、成膜性能が良好なことから2〜4の数が好ましい。p及びrが5より大きくなると成膜性能が不十分になる場合がある。なお、p及びrが2以上の数のとき、対応するR
2及びR
4もそれに対応して2以上の基が含まれることになるが、これらは全て同一でも異なっていてもよい。
【0016】
一般式(1)で表される化合物の製造方法に指定はないが、製造が容易で原料が安価なことからジカルボン酸1モルと1価のアルコールアルコキシレート2モルとをエステル化反応させることが好ましい。ジカルボン酸としては、例えば、メタンジカルボン酸、エタンジカルボン酸、プロパンジカルボン酸、ブタンジカルボン酸、ペンタンジカルボン酸、ヘキサンジカルボン酸、ヘプタンジカルボン酸、オクタンジカルボン酸、ノナンジカルボン酸、デカンジカルボン酸、ウンデカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸、トリデカンジカルボン酸、テトラデカンジカルボン酸、ペンタデカンジカルボン酸等が挙げられる。
【0017】
【化4】
【0018】
一般式(2)のR
6及びR
8は、それぞれ炭素数1〜10の炭化水素基を表す。こうした炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、2級ブチル基、ターシャリブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、2級ペンチル基、ヘキシル基、イソヘキシル基、2級へキシル基、ヘプチル基、イソヘプチル基、2級ヘプチル基、オクチル基、イソオクチル基、2級オクチル基、ノニル基、イソノニル基、2級ノニル基、デシル基、イソデシル基等のアルキル基;ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、イソブテニル基、ペンテニル基、イソペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基等のアルケニル基;フェニル基、トルイル基、キシリル基、クメニル基等のアリール基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、メチルシクロペンチル基、メチルシクロヘキシル基等のシクロアルキル基が挙げられる。これらの中でも、MFTが低くなることから炭素数2〜8の炭化水素が好ましく、炭素数3〜6の炭化水素基がより好ましく、炭素数3〜6のアルキル基が更に好ましい。炭素数が10を超えると、エマルション樹脂への混和性が悪化して、エマルションの増粘等の悪影響がでる場合がある。
【0019】
一般式(2)のR
7は、炭素数2〜4のアルキレン基を表す。こうした基としては、例えば、エチレン基、プロピレン基、イソプロピレン基、ブチレン基、イソブチレン基等が挙げられる。これらの中でもエマルション樹脂への混和性が良好で、MFTを下げる効果が高いことからエチレン基が好ましい。
【0020】
一般式(2)のmは、2〜10の数を表すが、成膜性能が良好なことから2〜8の数が好ましく、2〜5の数がより好ましい。2未満の場合はエマルション樹脂への配合性が悪化する場合があり、10より大きくなると成膜性能が不十分になる場合がある。なお、mに対応するR
7は2以上の基が含まれることになるが、これらは全て同一でも異なっていてもよい。
【0021】
一般式(2)で表される化合物の製造方法に指定はないが、製造が容易で原料が安価なことから、ポリアルキレングリコール1モルと1価の脂肪酸2モルとをエステル化反応するのが好ましい。1価の脂肪酸としては、例えば、酢酸、プロピオン酸、ブタン酸(酪酸)、ペンタン酸、イソペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、イソヘプタン酸、オクタン酸、2−エチルヘキサン酸、イソオクタン酸、ノナン酸、イソノナン酸、デカン酸、イソデカン酸、ウンデカン酸、イソウンデカン酸などのアルキル脂肪酸;安息香酸、メチル安息香酸、エチル安息香酸、プロピル安息香酸、イソプロピル安息香酸、ブチル安息香酸、ターシャリブチル安息香酸などの芳香族カルボン酸などが挙げられる。また、脂肪酸の鎖長を調整した、天然油脂から得られる混合脂肪酸であってもよい。天然油脂としては、例えば、アマニ油、エノ油、オイチシカ油、オリーブ油、カカオ脂、カポック油、白カラシ油、ゴマ油、コメヌカ油、サフラワー油、シアナット油、シナキリ油、大豆油、茶実油、ツバキ油、コーン油、ナタネ油、パーム油、パーム核油、ひまし油、ひまわり油、綿実油、ヤシ油、木ロウ、落花生油などの植物性油脂;馬脂、牛脂、牛脚脂、牛酪脂、豚脂、山羊脂、羊脂、乳脂、魚油、鯨油などの動物性油脂などが挙げられる。
【0022】
エステル化合物(A)は、上記一般式(1)及び一般式(2)で表される化合物であり、それぞれ単独でエステル化合物(A)としても、混合してエステル化合物(A)としてもよいが、MFTを下げる効果が大きいことから一般式(1)で表される化合物を含有することが好ましく、一般式(1)で表される化合物単独であることがより好ましい。
【0023】
本発明のエマルション樹脂用成膜助剤組成物に使用でき
る(B)は、下記の一般式(3)
で表されるジカルボン酸または一般式(4)で表される
脂肪酸である:
HOOC−R
9−COOH (3)
【0024】
一般式(3)のR
9は、炭素数1〜15のアルキレン基を表す。こうしたアルキレン基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、イソプロピレン基、ブチレン基、イソブチレン基、ペンチレン基、イソペンチレン基、ヘキシレン基、イソヘキシレン基、ヘプチレン基、イソヘプチレン基、オクチレン基、イソオクチレン基、ノニレン基、イソノニレン基、デシレン基、イソデシレン基、ウンデシレン基、イソウンデシレン基、ドデシレン基、イソドデシレン基、トリデシレン基、イソトリデシレン基、テトラデシレン基、イソテトラデシレン基、ペンタデシレン基、イソペンタデシレン基等のアルキレン基;フェニレン基、メチルフェニレン基、ジメチルフェニレン基、エチルフェニレン基、プロピルフェニレン基、ブチルフェニレン基、ナフタレン基等のアリーレン基が挙げられる。これらの中でもMFTが低くなることからアルキレン基が好ましく、更に原料の入手が容易であることから、炭素数1〜4もしくは8のアルキレン基がより好ましい。
【0025】
R
10−COOH (4)
一般式(4)のR
10は、炭素数1〜10の炭化水素基を表す。こうした炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、2級ブチル基、ターシャリブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、2級ペンチル基、ヘキシル基、イソヘキシル基、2級へキシル基、ヘプチル基、イソヘプチル基、2級ヘプチル基、オクチル基、イソオクチル基、2級オクチル基、ノニル基、イソノニル基、2級ノニル基、デシル基、イソデシル基等のアルキル基;ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、イソブテニル基、ペンテニル基、イソペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基等のアルケニル基;フェニル基、トルイル基、キシリル基、クメニル基等のアリール基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、メチルシクロペンチル基、メチルシクロヘキシル基等のシクロアルキル基が挙げられる。これらの中でも、MFTが低くなることから炭素数2〜8の炭化水素が好ましく、炭素数3〜6の炭化水素基がより好ましく、炭素数3〜7のアルキル基が更に好ましい。炭素数が10を超えると、エマルション樹脂への混和性が悪化して、エマルションの増粘等の悪影響がでる場合がある。
【0026】
(B)は、上記一般式(3)
で表されるジカルボン酸及び一般式(4)で表される
脂肪酸であり、それぞれ単独で使用しても混合して使用してもよいが、エステル化合物(A)に一般式(1)の化合物を使用するときは、一般式(3)の化合物を使用することが好ましく、エステル化合物(A)に一般式(2)の化合物を使用するときは、一般式(4)の化合物を使用することが好ましい。
【0027】
本発明の成膜助剤組成物における、エステル化合物(A)
と(B)との配合比は、成膜助剤組成物全体の酸価によって定められる
。(B)の配合量が多いと、酸価は上がり、少ないと、酸価は下がる。具体的には、酸価の値が0.05〜5mgKOH/gでなければならず、0.1〜3mgKOH/gであることが好ましい。0.05mgKOH/g未満になると配合したエマルション樹脂の長期保存安定性が悪化し、5mgKOH/gを超えるとエマルション樹脂に配合すると分離や沈殿物が発生してしまう場合や配合したエマルション樹脂を塗膜にしたときの耐水性が下がる場合、あるいは長期保存安定性が悪化する場合がある。
【0028】
本発明の効果であるエマルション樹脂の長期安定性の改善は
、(B)が配合されることに起因していると考えられる。その機構は不明であるが、エマルション樹脂は通常アルカリ性であるため
、(B)はエマルション樹脂の中では脂肪酸塩となり、それが界面活性剤的な働きをしてエマルション樹脂全体の分散性を改善していると推測される。なお
、(B)からなる
ジカルボン酸または脂肪酸
の塩は親水基と疎水基のバランスが悪く、界面活性剤としての機能は高くはないと予想されるが、一般的に高機能と呼ばれる界面活性剤を使用しても本発明の効果は得られない。
【0029】
本発明の成膜助剤組成物は、更に非水溶性であることが好ましい。水溶性の場合は、添加した樹脂膜の耐水性が低下して樹脂物性が悪化する場合がある。なお、非水溶性であるかどうかは以下の方法で判断することができる:
純水95質量部に対して測定したい成膜助剤組成物を5質量部入れて全体を25℃にする。その後、全体がよく混ざり合うように撹拌器で5分間撹拌する。撹拌を停止した後、25℃の恒温槽内に30分間静置して完全に2層分離していれば「非水溶性」と判断する。この際、全体が均一に溶解している場合、乳化して全体が白濁している場合、あるいは分離しているが水との境界面にエマルション層ができている場合は「非水溶性」とは判断しない。
【0030】
本発明のエマルション樹脂組成物は、エマルション樹脂に本発明の成膜助剤組成物添加したものであり、エマルション樹脂組成物全量に対して本発明の成膜助剤組成物が0.1〜10質量%、好ましくは0.5〜8質量%含有するものである。使用できるエマルション樹脂の種類は特に規定されず、例えば、アクリレート系エマルション、スチレン系エマルション、酢酸ビニル系エマルション、ウレタン系エマルション、エポキシエマルション、SBR(スチレン/ブタジエン)エマルション、ABS(アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン)エマルション、BR(ブタジエン)エマルション、IR(イソプレン)エマルション、NBR(アクリロニトリル/ブタジエン)エマルション等が挙げられる。
【0031】
本発明のエマルション樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で公知の添加剤、例えば、二酸化チタン、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、カオリンなどの白色顔料;カーボンブラック、ベンガラ、シアニンブルーなどの有色系顔料などの顔料;酸化防止剤、紫外線吸収剤、耐水化剤、防腐防菌剤、殺虫殺菌剤、溶剤、可塑剤、分散剤、増粘剤、消泡剤、消臭剤、香料、増量剤、染料などを使用することもできる。なお、本発明のエマルション樹脂組成物は、水系塗料、粘着剤、接着剤などに利用することができる。
【実施例】
【0032】
以下、本発明を実施例により、更に具体的に説明する。
<試験用エマルション樹脂>
以下の2種類のエマルション樹脂を実験に使用した。
樹脂1:アクリル系エマルション樹脂(モビニール6520、日本合成化学工業社製)
樹脂2:ウレタン系エマルション樹脂(HUX−370、株式会社ADEKA製)
【0033】
<試験用サンプル>
一般式(1)の試験サンプルを以下の表1に記載する:
【表1】
【0034】
一般式(2)の試験サンプルを以下の表2に記載する:
【表2】
【0035】
B−1:エタンジカルボン酸[一般式(3)のR
9がエチレン]
B−2:オクタンジカルボン酸[一般式(3)のR
9がオクチレン]
B−3:ブタン酸[一般式(4)のR
10がプロピル]
B−4:オクチル酸[一般式(4)のR
10がヘプチル]
C−1:ブチルセロソルブ
C−2:N−メチルピロリドン
D−1:ポリオキシエチレン(10)ドデシルエーテル
D−2:ドデシル硫酸ナトリウム
【0036】
<本発明品の作成>
本発明品1:A−1にB−1を配合して酸価0.5mgKOH/gに調整した。
本発明品2:A−2にB−1を配合して酸価0.5mgKOH/gに調整した。
本発明品3:A−3にB−1を配合して酸価0.5mgKOH/gに調整した。
本発明品4:A−4にB−1を配合して酸価0.5mgKOH/gに調整した。
本発明品5:A−5にB−2を配合して酸価0.5mgKOH/gに調整した。
本発明品6:A−2にB−1を配合して酸価0.05mgKOH/gに調整した。
本発明品7:A−2にB−1を配合して酸価0.1mgKOH/gに調整した。
本発明品8:A−2にB−1を配合して酸価1mgKOH/gに調整した。
本発明品9:A−2にB−1を配合して酸価5mgKOH/gに調整した。
本発明品10:A−7にB−3を配合して酸価0.5mgKOH/gに調整した。
本発明品11:A−8にB−3を配合して酸価0.5mgKOH/gに調整した。
本発明品12:A−9にB−3を配合して酸価0.5mgKOH/gに調整した。
本発明品13:A−10にB−4を配合して酸価0.5mgKOH/gに調整した。
本発明品14:A−11にB−4を配合して酸価0.5mgKOH/gに調整した。
【0037】
<比較品の作成>
比較品1:A−1
比較品2:A−2
比較品3:A−2にB−1を配合して酸価0.03mgKOH/gに調整した。
比較品4:A−2にB−1を配合して酸価6mgKOH/gに調整した。
比較品5:A−7
比較品6:A−8にB−3を配合して酸価0.03mgKOH/gに調整した。
比較品7:A−8にB−3を配合して酸価6mgKOH/gに調整した。
比較品8:A−2にD−1を配合
した。
比較品9:A−8にD−2を配合
した。
比較品10:C−1
比較品11:C−2
比較品12:A−6にB−1を配合して酸価0.5mgKOH/gに調整した。
【0038】
<試験1:最低造膜温度(MFT)>
MFT測定装置であるMINIMUM FILUM FORMING TEMPRATURE BAR(PHOPOINT Instrumentation Ltd製)を使用してMFTを測定した。
具体的には、試験用エマルション樹脂(樹脂1及び樹脂2)に本発明品1〜14及び比較品1〜12をそれぞれ5質量%になるように配合し、温度勾配のかけられたMFT測定装置上に、専用のアプリケーターで75μmの塗膜を作成する。1時間後に塗膜の状態を観察し、ひび割れが生じずに成膜している最低温度を読み、これをMFTとした。MFTが低いほど成膜助剤としての性能に優れる。なお、比較品12は、完全に分離してしまい、アプリケーターで塗膜を作成することができず、この時点で試験を中止した。
【0039】
<試験2:保存安定性試験>
試験用エマルション樹脂に本発明品1〜14及び比較品1〜11をそれぞれ5質量%になるように配合したものを、100mlのスクリュー管に80ml入れて蓋をして40℃の恒温槽内に1週間放置し、放置後のエマルション樹脂の外観を下記の基準で判断した:
◎:均一溶液
○:分離はしていないが溶液の一部に不均一の部分がある(使用には耐えられる)
△:わずかに分離が確認される
×:完全に分離あるいは沈殿が確認される
【0040】
<試験3:水溶性確認試験>
純水に本発明品1〜14及び比較品1〜11をそれぞれ5質量%になるように配合したものを、100mlのスクリュー管に80ml入れて蓋をした。その後、当該スクリュー管を上下に10往復強く振って内容物を強制的に混合し、テーブルの上に30分間静置した後の外観を下記の基準で判断した:
○:完全に分離
△:分離面が一部乳化している
×:全体が均一あるいは乳化している
【0041】
<試験4:耐水性試験>
樹脂1に本発明品1〜14及び比較品1〜11をそれぞれ5質量%になるように配合し、洗浄したガラス板の上にアプリケーターで75μmの塗膜を作成した。当該塗膜が完全に乾燥した後、50℃の温水の中に塗膜の塗ったガラス板を入れ、塗膜が白化するかどうかを確認した。短時間で白化するほど耐水性がない塗膜である。試験は1時間ごとにガラス板を確認して12時間測定を続け、12時間で白化しなかったものは合格とした。
【0042】
樹脂1に配合したときの試験結果
【表3】
比較品13:ブランク(樹脂1)
【0043】
樹脂2に配合したときの試験結果
【表4】
【0044】
比較品13:ブランク(樹脂2)
【0045】
比較品10と11は、既存の成膜助剤でその性能は優れているが、C−1のブチルセロソルブの沸点は171℃、C−2のN−メチルピロリドンの沸点は202℃であり、VOC規制の下では好ましい添加剤ではない。なお、A−1〜A−11(A−6を除く)の各サンプルはいずれも沸点が260℃以上あった。