【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために検討した結果、本発明者等はカルバゾール骨格よりも縮合環が1つ少ないインドール骨格を有するオキシムエステル化合物に着目し、更にインドール骨格を特定の官能基で置換することで目的を達成できることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、置換基を有していてもよいインドール骨格にオキシムエステル結合を有する基が結合しており、かつインドール骨格が少なくとも1つのニトロ基で置換されていることを特徴とする光重合開始剤である。
【0010】
ここで、本発明の光重合開始剤は、インドール骨格の3位に下記一般式(1)で表されるオキシムエステル結合を有する基が直接又はカルボニル基を介して結合し、かつインドール骨格の5位がニトロ基で置換されていることが好ましい。
−C(R
11)=N−O−C(R
12)=O (1)
(ただし、R
11及びR
12は置換基を有していてもよい炭素原子数1〜20の飽和又は不飽和の一価の有機基を表す。R
11及びR
12は分岐構造や環構造を形成していてもよく、任意の位置にヘテロ原子が存在していてもよい。また、R
11はインドール骨格上の置換基と結合していてもよい。更に、R
11は水素原子でもよい。)
【0011】
また、本発明は、オレフィン結合を有する重合性化合物及び上記光重合開始剤を含有する感光性組成物、並びに当該感光性組成物を硬化した硬化物である。ここで、上記感光性組成物について、好適には溶剤としてプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートを含有するものであるのがよい。
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の光重合開始剤は、置換基を有していてもよいインドール骨格にオキシムエステル結合を有する基が結合してなる。ここで、インドール骨格は少なくとも1つのニトロ基で置換されていることが必要であり、その置換位置は5位であることが好ましい。また、オキシムエステル結合を有する基としては下記一般式(1)で表される基が有利であり、このオキシムエステル結合を有する基がインドール骨格の3位に直接又はカルボニル基を介して結合していることが好ましい。
−C(R
11)=N−O−C(R
12)=O (1)
(ただし、R
11及びR
12は置換基を有していてもよい炭素原子数1〜20の飽和又は不飽和の一価の有機基を表す。R
11及びR
12は分岐構造や環構造を形成していてもよく、任意の位置にヘテロ原子が存在していてもよい。また、R
11はインドール骨格上の置換基と結合していてもよい。更に、R
11は水素原子でもよい。)
【0013】
ここで、オキシム部位のC=N二重結合にはE体及びZ体の幾何異性体が存在し得るが、本発明ではこれらを特に区別することなく扱う。したがって、一般式(1)及び後述の式で示される構造のオキシム部位は、これら幾何異性体の混合物又はそのうちのいずれか一つを表すものである。
【0014】
本発明の光重合開始剤において、好ましい構造は下記一般式(2)、
で表される。ここで、R
1、R
2、R
4、R
6及びR
7は任意の置換基であってよいが、置換基を有していてもよい炭素原子数1〜20の飽和又は不飽和の一価の有機基であるか、水素原子、ハロゲン原子又はニトロ基であることが好ましい。かかる一価の有機基の場合、R
1、R
2、R
4、R
6及びR
7は分岐構造や環構造を形成していてもよく、任意の位置にヘテロ原子が存在していてもよく、また相互に結合していてもよい。なお、R
11及びR
12は一般式(1)と同様である。
【0015】
一般式(1)及び(2)における、置換基を有していてもよい炭素原子数1〜20の飽和又は不飽和の一価の有機基の具体的な例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、2−エチルヘキシル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、イコシル基、シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロペンチルエチル基、シクロヘキシル基、シクロヘキシルメチル基、4−メチルシクロヘキシル基、アダマンチル基、ビニル基、アリル基、エチニル基、フェニル基、トリル基、メシチル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基、ベンジル基、2−フェニルエチル基、2−フェニルビニル基等の飽和又は不飽和の一価の炭化水素基や、ピリジル基、ピペリジル基、ピペリジノ基、ピロリル基、ピロリジニル基、イミダゾリル基、イミダゾリジニル基、フリル基、テトラヒドロフリル基、チエニル基、テトラヒドロチエニル基、モルホリニル基、モルホリノ基、キノリル基等の飽和又は不飽和の一価の複素環基等を挙げることができる。更に、上記の炭化水素基及び複素環基等の任意の位置に、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、スルファニル基、カルボニル基、チオカルボニル基、カルボキシ基、チオカルボキシ基、ジチオカルボキシ基、ホルミル基、シアノ基、ニトロ基、ニトロソ基、スルホ基、アミノ基、イミノ基、シリル基、エーテル基、チオエーテル基、エステル基、チオエステル基、ジチオエステル基、アミド基、チオアミド基、ウレタン基、チオウレタン基、ウレイド基、チオウレイド基等を置換基として導入した構造も挙げることができる。ここで、一価の有機基としては、メチル基のような炭素原子上の一価の有機基だけでなく、メトキシ基、メチルスルファニル基、ジメチルアミノ基のようなヘテロ原子上の一価の有機基も含まれる。あるいは、一価の有機基としては、カルボキシ基、チオカルボキシ基、ジチオカルボキシ基、ホルミル基、シアノ基、第一級アミド基、第一級チオアミド基、ウレイド基、チオウレイド基等の炭素原子数1の官能基が直接結合したものであってもよい。
【0016】
かかる一価の有機基は、目的とする光重合開始剤の分子量、感度、溶解性等に応じて適宜選定されればよいが、性能及び経済性の点から炭素原子数1〜20の飽和又は不飽和の一価の炭化水素基であることが好ましく、炭素原子数1〜12の飽和又は不飽和の一価の炭化水素基であることがより好ましく、更には炭素原子数1〜4の飽和又は不飽和の一価の炭化水素基であることが最も好ましい。炭素原子数が20を超える場合は、光重合開始剤の溶解性が低下する懸念がある。なお後述の実施例には、一価の炭化水素基について、飽和又は不飽和、分岐構造や環構造の有無を問わず実施可能であることが具体的に示されている。
【0017】
以下に、本発明の光重合開始剤の具体例を示す。ただし、本発明はこれらに限定されない。
【0018】
置換基が相互に結合する例としては、次の構造が挙げられる。
【0019】
本発明の光重合開始剤は、下記一般式(19)及び(20)で表される構造のように、適当な置換基を介して多量化させたものであってもよい。
(ただし、R
1a及びR
11aは置換基を有していてもよい炭素原子数1〜20の飽和又は不飽和の二価の有機基を表す。R
1、R
2、R
4、R
6、R
7、R
11及びR
12は一般式(1)及び(2)と同様である。)
【0020】
また、本発明の光重合開始剤は、下記一般式(21)、(22)及び(23)で表される構造であってもよい。
(ただし、R
1、R
2、R
4、R
6、R
7、R
11及びR
12は一般式(1)及び(2)と同様であり、R
1a及びR
11aは一般式(19)及び(20)と同様である。)
【0021】
本発明の光重合開始剤の製造方法は特に制限されないが、例えば一般式(2)の光重合開始剤を得るには、工業的に入手可能な5−ニトロインドールを原料として以下の手順を適用することが経済的に有利である。5−ニトロインドールの1位に求核置換反応等でR
1を導入した後、フリーデルクラフツアシル化反応で3位にR
11COを導入し、ケトン体を得る。これをヒドロキシルアミンでオキシムに変換し、更にR
12COOHの酸ハロゲン化物又は酸無水物でオキシムのエステル化を行って、目的の光重合開始剤に導く。また一般式(21)の光重合開始剤を得るには、上記ケトン体に亜硝酸エステルを作用させてα−オキソオキシムとし、同様にオキシムのエステル化を行えばよい。なお、5−ニトロインドールを出発物質とせず、インドールにR
1やR
11COを先に導入し、その後ニトロ化を行ってもよい。
【0022】
本発明の光重合開始剤はインドール骨格を有するが、これはカルバゾール骨格と比較して縮合環の数が1つ少なく、平面の広がりの小さい骨格である。そのため、本発明の光重合開始剤は溶解性に優れており、感光性組成物の設計自由度を向上させる効果を有している。例えば、カラーフィルターのブラックマトリクスの製造に用いられる遮光性のフォトレジストのように光硬化が困難な用途においても、感光性組成物中に高濃度で存在させることで良好な感度を得ることができるようになる。一方、光重合開始剤がその機能を発現するためには光吸収を起こして励起状態になる必要があるが、縮合環の数が少ないとπ共役系が小さくなるため一般に光吸収には不利となる。しかし、本発明の光重合開始剤ではインドール骨格を少なくとも1つのニトロ基で置換することでかかる課題を克服し、紫外光から可視光にわたる広い波長範囲において光吸収を起こすことができる。
【0023】
本発明の感光性組成物は、上記の光重合開始剤に加えて、オレフィン結合を有する重合性化合物を含有する。オレフィン結合を有する重合性化合物としては、従来感光性組成物に用いられている公知の化合物を特に制限なく使用することができるが、アクリル酸及びメタクリル酸(以下、両者をあわせて「(メタ)アクリル酸」等という)の誘導体が有利であり、例えば、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル誘導体や、ビスフェノールA型エポキシジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールF型エポキシジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールフルオレン型エポキシジ(メタ)アクリレート、フェノールノボラック型エポキシポリ(メタ)アクリレート、クレゾールノボラック型エポキシポリ(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エポキシエステル誘導体等を好ましく用いることができる。また、上記(メタ)アクリル酸誘導体と、構造中に(好ましくは複数の)イソシアネート基や酸無水物基等を有する化合物との反応生成物等も適している。更に、公知の樹脂類であるビニル樹脂(アクリル酸(共)重合体、メタクリル酸(共)重合体、マレイン酸(共)重合体、スチレン(共)重合体等)、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエーテル樹脂等の主鎖又は側鎖に、エステル結合、アミド結合、ウレタン結合等により(メタ)アクリロイル基を導入した樹脂類等も用いることができる。なお、(メタ)アクリル酸誘導体以外にも、マレイン酸誘導体、マレイミド誘導体、クロトン酸誘導体、イタコン酸誘導体、ケイヒ酸誘導体、ビニル誘導体、ビニルアルコール誘導体、ビニルケトン誘導体、ビニル芳香族誘導体等も挙げることができる。これらのオレフィン結合を有する重合性化合物は、更にエポキシ基等の熱反応性の官能基やカルボキシ基等のアルカリ溶解性の官能基等を有して、複合機能化されたものであってもよい。これらのオレフィン結合を有する重合性化合物は、単独で用いてもよく、複数を組み合わせて用いてもよい。
【0024】
本発明の感光性組成物における光重合開始剤の配合割合は特に制限されないが、オレフィン結合を有する重合性化合物100重量部に対して光重合開始剤が0.01〜50重量部であることが好ましく、0.1〜20重量部であることがより好ましい。
【0025】
本発明の感光性組成物は溶剤を含んだものであってもよく、特にプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートを好ましく使用できる。プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートは適度な溶解性と乾燥性を有する安全溶剤であり、カラーフィルターの製造に用いられるフォトレジスト等で広く使用されているが、本発明の光重合開始剤は当該溶剤系において溶解不良等の問題を生じにくく、感光性組成物を有利に作製することができる。また、溶剤としてはプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート以外の公知の化合物も利用でき、例えばエステル系溶剤、ケトン系溶剤、エーテル系溶剤、アルコール系溶剤、芳香族系溶剤、脂肪族系溶剤、アミン系溶剤、アミド系溶剤等を特に制限なく使用することができる。
【0026】
本発明の感光性組成物は、必要に応じてその他の任意の成分を含んだものであってもよく、例えば着色材、フィラー、樹脂、添加剤等を配合させることができる。ここで、着色材としては染料、有機顔料、無機顔料、カーボンブラック顔料等を、フィラーとしてはシリカ、タルク等を、樹脂としてはビニル樹脂(アクリル酸(共)重合体、メタクリル酸(共)重合体、マレイン酸(共)重合体、スチレン(共)重合体等)、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエーテル樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂等を、添加剤としては硬化剤、架橋剤、分散剤、界面活性剤、シランカップリング剤、粘度調整剤、湿潤剤、消泡剤、酸化防止剤等を挙げることができる。これら任意の成分としては、公知の化合物を特に制限なく使用することができる。
【0027】
また、本発明の感光性組成物には、本発明の光重合開始剤に加えて、公知の光重合開始剤や色素増感剤等を併用することもできる。例えば、アセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、ベンジルジメチルケタール等のアセトフェノン化合物、ベンゾフェノン、2,4,6−トリメチルベンゾフェノン、4,4′−ビス(N,N−ジエチルアミノ)ベンゾフェノン等のベンゾフェノン化合物、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾイン−tert−ブチルエーテル等のベンゾインエーテル化合物、2−メチル−1−[4−(メチルスルファニル)フェニル]−2−モルホリノプロパン−1−オン、2−ベンジル−2−(N,N−ジメチルアミノ)−1−(4−モルホリノフェニル)ブタン−1−オン等のα−アミノアルキルフェノン化合物、チオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン等のチオキサントン化合物、3,3′,4,4′−テトラキス(tert−ブチルペルオキシカルボニル)ベンゾフェノン等の有機過酸化物、2,2′−ビス(2−クロロフェニル)−4,4′,5,5′−テトラフェニル−1,2−ビイミダゾール等のビイミダゾール化合物、ビス(η
5−シクロペンタジエニル)ビス[2,6−ジフルオロ−3−(1−ピロリル)フェニル]チタン等のチタノセン化合物、2,4,6−トリス(トリクロロメチル)−1,3,5−トリアジン、2−[3,4−(メチレンジオキシ)フェニル]−4,6−ビス(トリクロロメチル)−1,3,5−トリアジン等のトリアジン化合物、(2,4,6−トリメチルベンゾイル)ジフェニルホスフィンオキシド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド等のアシルホスフィンオキシド化合物、カンファーキノン等のキノン化合物、1−[4−(フェニルスルファニル)フェニル]オクタン−1,2−ジオン=2−O−ベンゾイルオキシム、1−[9−エチル−6−(2−メチルベンゾイル)カルバゾール−3−イル]エタノン=O−アセチルオキシム等のオキシムエステル化合物等を特に制限なく使用することができる。
【0028】
本発明の感光性組成物の硬化物を作製する方法としては公知の方法が利用でき、目的や用途に合わせた適切な基材や型へ感光性組成物を塗布又は注入した後、露光により硬化が行われればよい。ここで、フォトマスク等を使用して選択的な露光を行い、更に現像を実施することで、画像形成や造形等の加工を行うこともできる。本発明の光重合開始剤は現像液への溶解性にも優れているため、感光性組成物の現像に要する時間を短縮させる効果があり、生産の効率が向上する点で好ましい。露光や現像を行った後、必要に応じて更に焼成等の処理を行ってもよい。