特許第5945091号(P5945091)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5945091
(24)【登録日】2016年6月3日
(45)【発行日】2016年7月5日
(54)【発明の名称】冷凍天ぷら用バッターミックス
(51)【国際特許分類】
   A23L 7/157 20160101AFI20160621BHJP
【FI】
   A23L1/176
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2010-173835(P2010-173835)
(22)【出願日】2010年8月2日
(65)【公開番号】特開2012-29656(P2012-29656A)
(43)【公開日】2012年2月16日
【審査請求日】2013年4月10日
【審判番号】不服2015-6318(P2015-6318/J1)
【審判請求日】2015年4月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】398012306
【氏名又は名称】日清フーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100077562
【弁理士】
【氏名又は名称】高野 登志雄
(74)【代理人】
【識別番号】100096736
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 俊夫
(74)【代理人】
【識別番号】100117156
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 正樹
(74)【代理人】
【識別番号】100111028
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 博人
(72)【発明者】
【氏名】榊原 通宏
(72)【発明者】
【氏名】小島 和子
(72)【発明者】
【氏名】樋渡 総一郎
(72)【発明者】
【氏名】重松 亨
(72)【発明者】
【氏名】谷口 公志郎
(72)【発明者】
【氏名】伊東 貴史
【合議体】
【審判長】 紀本 孝
【審判官】 千壽 哲郎
【審判官】 佐々木 正章
(56)【参考文献】
【文献】 特開平6−98706(JP,A)
【文献】 特開平11−137198(JP,A)
【文献】 特開2004−57041(JP,A)
【文献】 特開2007−37449(JP,A)
【文献】 特開平10−327788(JP,A)
【文献】 特開平9−173001(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)ソルビトール、マルチトール、オリゴトース、及びキシリトールから選択されるいずれか1種類以上の糖類4〜15質量%;
(2)卵白粉、大豆蛋白質及び小麦蛋白質から選択される水溶性蛋白質1.0〜5.0質量%;
及び
(3)薄力粉及び中力粉から選択される穀粉、
からなる冷凍天ぷら用バッターミックス。
【請求項2】
前記穀粉が薄力粉である、請求項1記載のバッターミックス。
【請求項3】
前記穀粉の含有量が0〜95質量%である、請求項1又は2記載のバッターミックス。
【請求項4】
さらに澱粉、脱脂粉乳、膨張剤、デキストリン、乳化剤、油脂類、着色料、調味料から選択される原料を含有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載のバッターミックス。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の冷凍天ぷら用バッターミックスを用いた冷凍天ぷら。
【請求項6】
冷凍天ぷらの製造方法であって、
以下の(1)〜(3)からなるバッターミックスから調製されたバッター液を具材に付着させ、油ちょうして天ぷらを製造すること:
(1)ソルビトール、マルチトール、オリゴトース、及びキシリトールから選択されるいずれか1種類以上の糖類4〜15質量%;
(2)卵白粉、大豆蛋白質及び小麦蛋白質から選択される水溶性蛋白質1.0〜5.0質量%;
(3)薄力粉及び中力粉から選択される穀粉、
及び
該天ぷらを冷凍すること、
を含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷凍天ぷら用バッターミックス、特に冷凍後再油ちょうして食する天ぷら用として好適なバッターミックスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、天ぷら等の揚げ物用バッターミックスとしては、一般に薄力粉等の小麦粉主体の配合組成物が汎用されている。しかしながら、斯かる従来のバッターミックスを用いて得られた天ぷらは、これを冷凍保存すると、冷凍中の凍結乾燥による澱粉や蛋白質の劣化等により天ぷらの衣が白っぽくなる、所謂「冷凍焼け」が生じ易い、という問題がある。この「冷凍焼け」は、天ぷらを冷凍後再油ちょうした場合に、澱粉、蛋白質の過変性による衣の硬化と相俟って更に明瞭なものとなり、外観や食感が劣化したものとして、商品価値を著しく減じるものとなっていた。
【0003】
そこで、斯かる「冷凍焼け」による外観や食感の劣化の改善を目的として、例えば、湿熱処理小麦粉、デュラム小麦粉、及び水溶性蛋白質を含有する天ぷら用バッターミックス(特許文献1)や、冷水に溶解しにくく、且つ熱水に溶解する性質を有する増粘剤を含有する衣ミックス(特許文献2)、天ぷらに温水を掛け流した後、溶き粉水溶液でコーティングする製造方法(特許文献3)が既に報告されている。
【0004】
しかしながら、斯かる従来のミックスは、特殊な湿熱小麦粉や特殊な性質を有する増粘剤を必要としたり、ハンドリングが煩雑であるなど、何れも、簡便性、汎用性に乏しく未だ十分満足いくものが得られていなかったのが実状であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−137198号公報
【特許文献2】特開2003−135013号公報
【特許文献3】特開平10−257860号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、油ちょうした天ぷらを冷凍保存後、再油ちょうしても、「冷凍焼け」による外観の劣化や食感の劣化が生じず、揚げたてと同様な外観と衣本来のサクミのある食感を維持することのできる冷凍天ぷら用バッターミックスを提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく種々研究を重ねた結果、ソルビトール、マルチトール、オリゴトース、キシリトールという特定の糖と、水溶性蛋白質、及び/又は蛋白質を11質量%以上含む小麦粉とを併用すれば、極めて良い結果が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、ソルビトール、マルチトール、オリゴトース、及びキシリトールから選択されるいずれか1種類以上の糖類と;水溶性蛋白質、及び蛋白質を11質量%以上含む小麦粉から選択されるいずれか1種類以上の蛋白素材とを含有することを特徴とする冷凍天ぷら用バッターミックスにより、上記課題を解決したものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、油ちょうした天ぷらを冷凍保存後、再油ちょうしても、「冷凍焼け」による変質(外観の白化や食感の劣化等)が生じず、揚げたてのような外観と衣のサクミのある食感とを維持した天ぷらを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明においては、まず、ソルビトール、マルチトール、オリゴトース、及びキシリトールから選択されるいずれか1種類以上の糖類を必須の成分としている。これら糖類は、いずれか1種類を単独で使用してもよく、複数の種類を組み合わせて使用してもよい。斯かる糖類は、バッターミックスの全組成中に、0.5〜15質量%、好ましくは4〜15質量%、より好ましくは5〜10質量%配合するのが、「冷凍焼け」を防止する上で有利である。
【0011】
また、本発明においては、水溶性蛋白質、及び蛋白質を11質量%以上含む小麦粉から選択されるいずれか1種類以上の蛋白素材を必須の成分としている。ここに、水溶性蛋白質としては、例えば、全卵、卵白、大豆蛋白質、小麦蛋白質、カゼイン等が挙げられ、就中、卵白粉、大豆蛋白質、小麦蛋白質が好適に用いられる。これら水溶性蛋白質は、いずれか1種類を単独で使用してもよく、複数の種類を組み合わせて使用してもよい。斯かる水溶性蛋白質は、蛋白素材として水溶性蛋白質のみを使用する場合、バッターミックスの全組成中に、0.3〜10質量%、好ましくは0.3〜7.0質量%、より好ましくは1.0〜5.0質量%配合するのが、「冷凍焼け」を防止する上で有利である。
【0012】
また、蛋白質を11質量%以上含む小麦粉としては、例えば、強力小麦粉、準強力小麦粉、デュラム小麦粉等が挙げられ、就中、強力小麦粉、デュラム小麦粉が好適に用いられる。これらの小麦粉は、いずれか1種類を単独で使用してもよく、複数の種類を組み合わせて使用してもよい。斯かる小麦粉は、蛋白素材として当該小麦粉のみを使用する場合、バッターミックスの全組成中に、10〜50質量%、好ましくは10〜40質量%、より好ましくは15〜35質量%配合するのが、「冷凍焼け」を防止する上で有利である。
【0013】
蛋白素材として水溶性蛋白質と、蛋白質を11質量%以上含む小麦粉とを併用する場合、バッターミックスの全組成中に、水溶性蛋白質0.3〜10質量%及び当該小麦粉10〜50質量%、好ましくは、水溶性蛋白質0.3〜7.0質量%及び当該小麦粉10〜40質量%、より好ましくは、水溶性蛋白質0.5〜4.0質量%及び当該小麦粉10〜30質量%で配合するのが、「冷凍焼け」を防止する上で有利である。
【0014】
本発明において、バッターミックスに用いられる他の原料としては、特に限定されないが、例えば、薄力小麦粉、中力小麦粉、米粉等の穀粉;澱粉、脱脂粉乳;膨張剤;デキストリン;乳化剤;油脂類;着色料;調味料等が挙げられる。
【0015】
上記の如き組成から成る本発明のバッターミックスに、適宜水を添加混合してバッター液を調製し、エビ等の具材に付着させた後、油ちょうして天ぷらを得、その後冷凍することにより、本発明の冷凍天ぷらが得られる。
【実施例】
【0016】
以下、実施例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例にのみ限定されるものではない。
【0017】
実施例1〜7(糖の種類)
それぞれ表1に示す配合で調製したバッターミックス100質量部に、水160質量部を添加混合してバッター液を調製し、殻を除いたエビ(ブラックタイガー:サイズ21−25)に、打粉として澱粉(コーンスターチ)をまぶした後、付着させた。これを170℃の油で1.5分間油ちょうしてエビ天を得た。次いで、これを−10℃で2週間冷凍保存した後、170℃で3分間再油ちょうした。
【0018】
【表1】
【0019】
試験例1
実施例1〜7で得られた再油ちょうエビ天について、10名のパネルにより、表2に示す評価基準に従い外観と食感を評価した。その評価結果の平均値を表3に示す。
【0020】
【表2】
【0021】
【表3】
【0022】
実施例8〜15(蛋白素材の種類)
それぞれ表4に示す配合で調製したバッターミックスを用いて、実施例1と同様にして再油ちょうえび天を得た。
【0023】
【表4】
【0024】
試験例2
実施例8〜15で得られた再油ちょうエビ天の外観と食感を、試験例1と同様に評価した。その評価結果の平均値を表5に示す。尚、表5中には、試験例1における実施例1の評価結果を併せて記した。
【0025】
【表5】
【0026】
試験例3(糖類の量)
それぞれ表6に示す配合で調製したバッターミックスを用いて、実施例1と同様にして再油ちょうえび天を得た。得られた各再油ちょうエビ天の外観と食感を、試験例1と同様に評価した。その評価結果の平均値を表7に示す。尚、表7中には、試験例1における実施例1の評価結果を併せて記した。
【0027】
【表6】
【0028】
【表7】
【0029】
試験例4(水溶性蛋白質の量)
それぞれ表8に示す配合で調製したバッターミックスを用いて、実施例1と同様にして再油ちょうえび天を得た。得られた各再油ちょうエビ天の外観と食感を、試験例1と同様に評価した。その評価結果の平均値を表9に示す。尚、表9中には、試験例1における実施例1の評価結果を併せて記した。
【0030】
【表8】
【0031】
【表9】
【0032】
試験例5(高蛋白小麦粉の量)
それぞれ表10に示す配合で調製したバッターミックスを用いて、実施例1と同様にして再油ちょうえび天を得た。得られた各再油ちょうエビ天の外観と食感を、試験例1と同様に評価した。その評価結果の平均値を表11に示す。尚、表11中には、試験例2における実施例10の評価結果を併せて記した。
【0033】
【表10】
【0034】
【表11】
【0035】
比較例1〜5
それぞれ表12に示す配合で調製したバッターミックスを用いて、実施例1と同様にして再油ちょうえび天を得た。
【0036】
【表12】
【0037】
試験例6
比較例1〜5で得られた再油ちょうエビ天の外観と食感を、試験例1と同様に評価した。その評価結果の平均値を表13に示す。
【表13】