(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、多層構造を有する光学多層フィルムを製造するためには、フィルム製造装置における樹脂流路を長く設定する必要があるが、樹脂流路が長くなり過ぎると、各溶融樹脂層間の界面が波状に乱れてしまう。その結果、得られた光学多層フィルムの各光学材料層の層厚の均一性が低下するため、光学多層フィルムの品質が不安定になる。しかし、上記従来技術においては、そのような問題点について何ら考慮されていない。
【0005】
本発明の目的は、光学多層フィルムの各光学材料層の層厚精度を向上させることができる光学多層フィルムの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、複数種類の光学材料層が交互に積層されてなる光学多層フィルムの製造方法であって、溶融樹脂をシート状に加工する複数のマニホールドを有するフィードブロックを用いて、複数種類の溶融樹脂を各マニホールドによりシート状に成形し、その状態で複数種類の溶融樹脂同士を交互に合流させて積層することにより、10層〜400層の溶融樹脂層からなる樹脂積層体を形成する工程と、Tダイを用いて樹脂積層体の薄肉化を行うことにより、各溶融樹脂層の厚みが300nm〜2000nmである未延伸多層フィルムを形成する工程と、未延伸多層フィルムを加熱延伸することにより、光学材料層の総層数が10層〜400層であり、各光学材料層の厚みが200nm以下である光学多層フィルムを形成する工程とを含むことを特徴とするものである。
【0007】
このような本発明に係る光学多層フィルムの製造方法においては、複数のマニホールドを有するフィードブロックのみを用いて、10層〜400層の溶融樹脂層からなる樹脂積層体を形成することにより、フィルム製造装置における樹脂流路が必要以上に長くなることが防止されるため、各溶融樹脂層間の界面の波状の乱れが低減される。これにより、光学多層フィルムの各光学材料層の層厚精度を向上させることができる。
【0008】
好ましくは、マニホールドの幅及び厚みが溶融樹脂の種類毎に設定されている。この場合には、同じ種類の溶融樹脂をシート状に加工するマニホールドについては、幅及び厚みが全て同じとなる。このため、光学多層フィルムにおいて同じ種類の光学材料層の厚みを均一にすることができる。
【0009】
また、好ましくは、樹脂積層体をTダイに供給する前に、樹脂積層体に対して積層されるスキン層を形成する工程を更に含む。この場合には、複数種類の光学材料層が交互に積層されてなる各スタック間にスキン層が形成された構造を有する光学多層フィルムや、最下層及び最上層にスキン層が形成された光学多層フィルムを、一連の流れによって容易に製造することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、光学多層フィルムの各光学材料層の層厚精度を向上させることができる。これにより、品質の安定した光学多層フィルムを製造することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る光学多層フィルムの製造方法について、図面を参照して詳細に説明する。
【0013】
図1は、本発明に係る光学多層フィルムの製造方法の一実施形態によって製造される光学多層フィルムを示す側面図である。同図において、光学多層フィルム1は、例えば液晶表示装置に適用され得る。
【0014】
光学多層フィルム1は、目標反射スペクトルに合致する反射スペクトルを有するように設計されている。目標反射スペクトルは、400nm以上700nm以下の波長範囲のうちの所定の波長範囲における特定の方向に偏光した第1の偏光光を主に反射すると共に、400nm以上700nm以下の波長範囲において波長に依存せずに、上記特定方向に対して直交する方向に偏光した第2の偏光光を主に透過する。即ち、光学多層フィルム1は、偏光分離機能を有すると共に波長選択機能を有する波長選択性偏光分離フィルムである。なお、上記所定の波長帯域は、例えば赤色波長帯域(430nm≦λ≦480nm)、緑色波長帯域(510nm≦λ≦560)及び青色波長帯域(600nm≦λ≦660nm)である。
【0015】
光学多層フィルム1は、3つのスタック2を有している。最下層のスタック2の下部及び最上層のスタック2の上部には、保護層(スキン層)3がそれぞれ形成されている。また、各スタック2間には、スペーサ層(スキン層)4がそれぞれ介在されている。ここでは、スタック2の積層方向をz方向とし、z方向に直交する方向をx方向及びy方向としている。
【0016】
スタック2は、2種類の光学材料層5a,5bがz方向に積層された基本ブロック(基本対)5を複数有している。スタック2は、複数の基本ブロック5がz方向に積層された積層体であり、光学材料層5a,5bが交互に積層されてなる構造を有している。各スタック2における光学材料層5a,5bの合計の総層数は、10層〜400層である。なお、3つのスタック2各々の厚みは、目標とする光学多層フィルムの光学特性に応じて適宜調整することができ、同じであっても良いし、異なっていても良い。
【0017】
図2は、上記の光学多層フィルム1の製造工程を示すフローチャートである。
図2において、まず2種類の樹脂を準備し、これらの樹脂を別々の押出機(図示せず)により溶融して押し出すことで、2種類の溶融樹脂をフィードブロック10(
図3参照)へ移送する(工程S101)。
【0018】
ここで、樹脂としては、透明な熱可塑性樹脂が使用される。透明な熱可塑性樹脂としては、例えばメタクリル樹脂(PMMA等)、ポリカーボネート樹脂(PC)、ABS樹脂(アクリロニトリル−スチレン−ブタジエン共重合体樹脂)、MS樹脂(メタクリル酸メチル−スチレン共重合体樹脂)、ポリスチレン樹脂(PS)、AS樹脂(アクリロニトリル−スチレン共重合体樹脂)、ポリオレフィン樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレン等)、環状ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂(ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等)、ポリエーテルサルホン樹脂(PES)、ポリサルホン樹脂等が挙げられる。
これらの樹脂の中から、2種類の樹脂を選定する。
【0019】
このとき、樹脂を多層に形成したときに、互いに良くなじむ(相溶性が良い)樹脂を組み合わせることが、剥がれにくく、乱れの少ない界面が得られるという点で好ましい。例えばPMMAとPC、MSとPC、PMMAとAS等といった組み合わせが挙げられる。
【0020】
さらに、組成の異なる同種の樹脂同士の組み合わせが好ましい。例えばPENとPET、PENとPETG、coPENとPET、coPENとPETG、あるいは共重合組成比の異なる2種以上の樹脂の組み合わせであるMS(例えばメタクリル酸メチル/スチレン=6/4とメタクリル酸メチル/スチレン=8/2等)、PENとcoPEN、PETとPETG、PETとPCTG等の組み合わせが挙げられる。ここで、PETG、PCTGは、ともにCHDM(シクロヘキサンジメタノール)変性PETで、CHDMの比率が異なるものである。coPENは、例えば2,6ナフタレンジカルボキシレートメチルエステルとジメチルイソフタレート及びジメチルテレフタレートとエチレングリコールとのコポリマーである。
【0021】
十分な光学特性を持たせるためには、屈折率差が0.01以上、好ましくは0.05以上、より好ましくは0.08以上となるような組み合わせを選ぶ。
【0022】
また、特定の層に屈折率異方性を付与する場合は、固有複屈折の絶対値が大きい樹脂同士の組み合わせ、固有複屈折の絶対値が大きい樹脂と小さい樹脂との組み合わせ、あるいは固有複屈折の符号(正負)が異なるような樹脂の組み合わせを選ぶ。固有複屈折の絶対値が大きい樹脂としては、PS、PC、PET等が挙げられ、固有複屈折の絶対値が小さい樹脂としては、PMMA等が挙げられる。
【0023】
更に十分な屈折率異方性を付与する場合は、結晶性を有する樹脂同士の組み合わせ、あるいは結晶性を有する樹脂と結晶性が殆ど無い樹脂との組み合わせを選ぶ。結晶性を有する樹脂としては、SPS(シンジオタクチックポリスチレン)、PEN、PET等が挙げられる。結晶性が殆ど無い樹脂としては、PMMA、PS、PC、PCTG、PETGが挙げられる。
【0024】
押出機としては、一般的なものが使用される。具体的には、押出機は、特に図示はしないが、回転により個体粒状または溶融状態の樹脂を混練するスクリューと、このスクリューに樹脂を供給するためのホッパーと、スクリューを覆うように設けられ、樹脂を加熱するヒータ部を有する筒状のシリンダーとを有している。樹脂を十分に混練する必要がある場合は、1つのシリンダー内に2つのスクリューが配置された二軸押出機が使用される。
【0025】
次いで、別々の押出機から供給された2種類の溶融樹脂をフィードブロック10(
図3参照)によりシート状に加工して積層することにより、2層の溶融樹脂層が交互に複数ずつ積層されてなる樹脂積層体を形成する(工程S102)。
【0026】
フィードブロック10は、
図3に示すように、押出機と接続された複数のマニホールド11を有している。マニホールド11は、押出機と樹脂導入路(図示せず)を介して接続された主マニホールド12と、押出機と樹脂導入路13を介して接続されると共に、主マニホールド12と一体化された複数の合流マニホールド14とからなっている。合流マニホールド14は、略屈曲形状をなしている。互いに隣り合うマニホールド11は、異なる押出機と接続されている。つまり、互いに隣り合うマニホールド11には、異なる種類の溶融樹脂が供給される。
【0027】
マニホールド11の幅及び厚みは、マニホールド11を通る溶融樹脂の種類毎に設定されている。従って、同種類の溶融樹脂が通るマニホールド11については、幅及び厚み、つまり形状が全て同じとなる。なお、溶融樹脂の種類にかかわらず、全てのマニホールド11の幅及び厚みを等しくしても良い。
【0028】
図4に示すように、主マニホールド12に供給された溶融樹脂J
1は、主マニホールド12内で平たくシート状に成形される。
図4及び
図5に示すように、複数の合流マニホールド14のうち最も上流側に位置する合流マニホールド14に供給された溶融樹脂J
2は、当該合流マニホールド14内で平たくシート状に成形された状態で、シート状の溶融樹脂J
1に合流する。また、その合流マニホールド14よりも一つ下流側に位置する合流マニホールド14に供給された溶融樹脂J
1は、当該合流マニホールド14内で平たくシート状に成形された状態で、シート状の溶融樹脂J
2に合流する。さらに、その合流マニホールド14よりも一つ下流側に位置する合流マニホールド14に供給された溶融樹脂J
2は、当該合流マニホールド14内で平たくシート状に成形された状態で、シート状の溶融樹脂J
1に合流する。以下、シート状の溶融樹脂層J
1,J
2同士が順次合流して積層されていく。
【0029】
これにより、溶融樹脂層J
1,J
2が複数ずつ交互に積層されてなる樹脂積層体が形成されることとなる。このとき、フィードブロック10によって溶融樹脂層J
1,J
2の合計層数が10層〜400層となるような樹脂積層体が形成される。なお、溶融樹脂層J
1,J
2の厚みの比率は、2つの押出機から供給される各溶融樹脂の吐出量の比率を変えることで、制御することができる。
【0030】
次いで、フィードブロック10から送られてきた樹脂積層体をTダイ20(
図6参照)に通過させることにより、各溶融樹脂層の幅及び厚みが所望値となるように樹脂積層体を広幅化及び薄肉化して未延伸多層フィルムを形成する(工程S103)。このとき、各溶融樹脂層の厚みが300nm〜2000nmとなるような未延伸多層フィルムを形成する。
【0031】
Tダイ20は、
図6に示すように、フィードブロック10より供給された樹脂積層体を導入する樹脂導入部21と、この樹脂導入部21に導入された樹脂積層体の幅を広げると共に樹脂積層体の厚みを薄くするマニホールド/プリランド部22と、このマニホールド/プリランド部22の下流側に設けられ、Tダイ20から押し出される未延伸多層フィルムの厚みを調整するダイリップ部23とを有している。
【0032】
ここで、得られるフィルムの厚み精度を確保するためには、マニホールド/プリランド部22及びダイリップ部23の寸法精度が重要となる。一つの層の設計厚さに対し、厚みの振れ幅を50nm以下に抑えることが好ましく、その時のマニホールド/プリランド部22及びダイリップ部23の寸法精度は、厚みの振れ幅に対して概ね1/10〜1/5程度に設定することが好ましい。つまり、マニホールド/プリランド部22及びダイリップ部23の寸法精度は、5nm〜10nm以下の振れ幅に抑えることが好ましい。これ以上の振れ幅があると、フィルム面内で透過光の色ムラが顕著に表れるようになる。
【0033】
さらに、フィルムの厚み精度を安定的に維持するためには、Tダイ20の温度制御が重要となる。この場合、例えばダイリップ部23の温度バラツキ(フィルム幅方向及び経時変化)を10℃以下、好ましくは5℃以下とする。
【0034】
次いで、Tダイ20により形成された未延伸多層フィルムを加熱延伸することにより、上記の各光学材料層5a,5bの厚みが200nm以下のスタック2を形成する(工程S104)。加熱延伸法としては、縦延伸、横延伸及び同時二軸延伸がある。
【0035】
縦延伸では、加熱ロールでフィルムを所定の温度に制御した状態で、低速回転の延伸ロールと高速回転の延伸ロールとの間でフィルムを流れ方向に延伸する。このとき、主に各延伸ロールの回転速度(比)を調節することにより、所望の延伸倍率を得ることができる。また、複数の延伸ロールを使用し、徐々に延伸倍率を上げることにより所望の倍率にする多段延伸法を用いることもできる。さらに、各延伸ロール間の距離により、各延伸ロール間での冷却速度を調節することができる。また、冷却温度をより精密に制御するために、赤外線ヒータ等の外部熱源を用いて保温することもできる。
【0036】
横延伸では、例えば
図7に示すような横延伸機24が使用される。横延伸機24は、フィルムFの両端部を保持する複数のクリップ25と、フィルムFを加熱する熱風循環加熱炉(図示せず)とを有している。フィルムFの両端部が複数のクリップ25により保持された状態で、フィルムFが熱風循環加熱炉に送られる。そして、フィルムFの進行方向に向かって幅が広がるように設置されたレール26の上をクリップ25が走行することにより、フィルムFが幅方向に延伸されるようになる。このとき、各レール26間の幅を調整することで、所望の延伸倍率を得ることができる。
【0037】
縦延伸の後に横延伸を行うことで、逐次的に二軸延伸を行うことが可能であるが、横延伸に用いられるクリップをパンタグラフ方式等にすることにより、縦横同時二軸延伸が可能である。同時二軸延伸を行う際は、パンタグラフ方式のクリップを用い、更に横延伸における熱風循環炉の入口のクリップ走行速度よりも熱風循環炉の出口のクリップ走行速度を速くする。このとき、各レール間の幅及びクリップ走行速度差を調整することで、縦横それぞれ所望の延伸倍率を得ることができる。
【0038】
以上により、光学材料層5a,5bの総層数が10層〜400層であり、各光学材料層5a,5bの厚みが200nm以下であるスタック2が製造される。
【0039】
このとき、樹脂積層体がTダイ20に導かれる前に、樹脂積層体に対して積層されるスキン層を形成する溶融樹脂を専用の樹脂流路を介してTダイ20に供給することにより、複数のスタック2とスキン層3,4とが積層されてなる光学多層フィルム1を一括して製造しても良い。スキン層を形成する溶融樹脂としては、溶融樹脂層を形成する溶融樹脂と同様に、透明な熱可塑性樹脂(前述)が使用される。この場合には、複数のスタック2を別々に作製してからスタック2にスキン層3,4を積層する場合と異なり、光学多層フィルム1を一連の流れで容易に製造することができる。
【0040】
以上のように本実施形態にあっては、フィードブロック10のみを使用して、溶融樹脂層の総層数が10層〜400層という比較的少ない樹脂積層体を形成するようにしたので、溶融樹脂の流路を必要以上に長く設定しなくて済む。このため、各溶融樹脂層間の界面が波状に乱れることが少なくなり、各溶融樹脂層の層膜の均一性低下が防止される。これにより、光学多層フィルム1の各光学材料層5a,5bの層厚精度を向上させることができる。このように本実施形態によれば、品質の安定した光学多層フィルム1を簡便なプロセスで製造することができる。また、フィードブロック10のみによって溶融樹脂層を多層化するので、フィルム製造装置の構成を簡素化し、低コスト化を図ることができる。
【0041】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。例えば上記実施形態では、異なる2種類の光学材料層5a,5bを交互に積層してなる光学多層フィルム1を製造したが、特にそれには限られず、異なる3種類以上の光学材料層を交互に積層してなる光学多層フィルムを製造しても良い。