特許第5945178号(P5945178)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5945178ガスクラスター照射機構およびそれを用いた基板処理装置、ならびにガスクラスター照射方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5945178
(24)【登録日】2016年6月3日
(45)【発行日】2016年7月5日
(54)【発明の名称】ガスクラスター照射機構およびそれを用いた基板処理装置、ならびにガスクラスター照射方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/304 20060101AFI20160621BHJP
   H01L 21/3065 20060101ALI20160621BHJP
   H01L 21/302 20060101ALI20160621BHJP
   B08B 5/00 20060101ALI20160621BHJP
【FI】
   H01L21/304 645Z
   H01L21/302 102
   H01L21/302 201A
   B08B5/00 Z
【請求項の数】17
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-150695(P2012-150695)
(22)【出願日】2012年7月4日
(65)【公開番号】特開2014-13834(P2014-13834A)
(43)【公開日】2014年1月23日
【審査請求日】2015年3月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000219967
【氏名又は名称】東京エレクトロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099944
【弁理士】
【氏名又は名称】高山 宏志
(72)【発明者】
【氏名】井内 健介
(72)【発明者】
【氏名】土橋 和也
【審査官】 ▲高▼須 甲斐
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第6449873(US,B1)
【文献】 特開2011−198934(JP,A)
【文献】 特開2011−171584(JP,A)
【文献】 特開2010−287881(JP,A)
【文献】 特開2000−188273(JP,A)
【文献】 特開2000−349059(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
B08B 5/00
H01L 21/302
H01L 21/3065
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空に保持された処理容器内にガスを噴射して断熱膨張によりガスクラスターを生成し、前記処理容器内に配置された被処理基板にガスクラスターを照射するガスクラスター照射機構であって、
前記処理容器内にガスを噴射する複数のガス噴射ノズルを有するノズルユニットと、
前記ノズルユニットにガスクラスターを生成するためのガスを供給するガス供給部と
を具備し、
前記ノズルユニットは、前記ガス噴射ノズルから前記ガスが必要な流量で供給された際に到達する前記処理容器内の圧力が、ガスクラスターを破壊しない程度の圧力となるように前記ガス噴射ノズルの本数が設定され、
前記ノズルユニットにおいて、前記複数のガス噴射ノズルのうち隣接するものどうしを、これらから噴射されたガスのうちガスクラスターの形成に寄与しなかった残留ガスの広がる範囲が互いに重ならないように配置することを特徴とするガスクラスター照射機構。
【請求項2】
前記処理容器内の圧力は、前記ノズルユニットに供給するガスの供給圧力が1MPa以下では0.3kPa以下、供給圧力が1〜5MPaでは3kPa以下であることを特徴とする請求項1に記載のガスクラスター照射機構。
【請求項3】
前記複数のガス噴射ノズルのうち隣接するものどうしの距離を20mm以上とすることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のガスクラスター照射機構。
【請求項4】
前記ノズルユニットと被処理基板とは相対的に移動可能に設けられ、これらを相対移動させながら被処理基板全面にガスクラスターを照射することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のガスクラスター照射機構。
【請求項5】
前記ノズルユニットを複数有し、前記複数のノズルユニットのうち一つからガスを噴射するとともに、順次ノズルユニットを変えてガスを噴射することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のガスクラスター照射機構。
【請求項6】
前記複数のノズルユニットのうち互いに隣接するノズルユニットにおける前記ガス噴射ノズルの位置がずれていることを特徴とする請求項5に記載のガスクラスター照射機構。
【請求項7】
前記互いに隣接するノズルユニットにおける前記ガス噴射ノズルのずらす距離を、一つのガス噴射ノズルからのクラスター照射範囲と同じかそれよりも小さくし、前記ノズルユニットの数を、被処理基板の直径方向において、ガス噴射ノズルからガスクラスターが照射されない部分が形成されない数とすることを特徴とする請求項6に記載のガスクラスター照射機構。
【請求項8】
前記ガスクラスター照射機構は、処理チャンバに被処理基板を搬送するための真空トランスファチャンバまたはロードロックチャンバに設けられ、被処理基板を搬送する搬送アームに被処理基板を載せた状態でガスクラスターの照射を行うことを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか1項に記載のガスクラスター照射機構。
【請求項9】
真空に保持される処理容器と、
前記処理容器内で被処理基板を支持する基板支持部と、
前記処理容器内にガスを噴射して断熱膨張によりガスクラスターを生成し、被処理基板にガスクラスターを照射するガスクラスター照射機構と
を具備し、ガスクラスターにより被処理基板に所定の処理を施す基板処理装置であって、
前記ガスクラスター照射機構は、
前記処理容器内にガスを噴射する複数のガス噴射ノズルを有するノズルユニットと、
前記ノズルユニットにガスクラスターを生成するためのガスを供給するガス供給部と
を有し、
前記ノズルユニットは、前記ガス噴射ノズルから前記ガスが必要な流量で供給された際に到達する前記処理容器内の圧力が、ガスクラスターを破壊しない程度の圧力となるように前記ガス噴射ノズルの本数が設定され、
前記ノズルユニットにおいて、前記複数のガス噴射ノズルのうち隣接するものどうしを、これらから噴射されたガスのうちガスクラスターの形成に寄与しなかった残留ガスの広がる範囲が互いに重ならないように配置することを特徴とする基板処理装置。
【請求項10】
前記処理容器内の圧力は、前記ノズルユニットに供給するガスの供給圧力が1MPa以下では0.3kPa以下、供給圧力が1〜5MPaでは3kPa以下であることを特徴とする請求項9に記載の基板処理装置。
【請求項11】
前記複数のガス噴射ノズルのうち隣接するものどうしの距離を20mm以上とすることを特徴とする請求項9または請求項10に記載の基板処理装置。
【請求項12】
前記ノズルユニットと被処理基板とを相対的に移動させる駆動機構をさらに具備し、前記ガスクラスター照射機構は、これらを相対移動させながら被処理基板全面にガスクラスターを照射することを特徴とする請求項9から請求項11のいずれか1項に記載の基板処理装置。
【請求項13】
前記ガスクラスター照射機構は、前記ノズルユニットを複数有し、前記複数のノズルユニットのうち一つからガスを噴射して処理を行うとともに、順次ノズルユニットを変えてガスを噴射することを特徴とする請求項9から請求項12のいずれか1項に記載の基板処理装置。
【請求項14】
前記複数のノズルユニットのうち互いに隣接するノズルユニットにおける前記ガス噴射ノズルの位置がずれていることを特徴とする請求項13に記載の基板処理装置。
【請求項15】
前記互いに隣接するノズルユニットにおける前記ガス噴射ノズルのずらす距離を、一つのガス噴射ノズルからのクラスター照射範囲と同じかそれよりも小さくし、前記ノズルユニットの数を、被処理基板の直径方向において、ガス噴射ノズルからガスクラスターが照射されない部分が形成されない数とすることを特徴とする請求項14に記載の基板処理装置。
【請求項16】
前記処理容器は、処理チャンバに被処理基板を搬送するための真空トランスファチャンバまたはロードロックチャンバであり、被処理基板を搬送する搬送アームに被処理基板を載せた状態で前記ガスクラスター照射機構からガスクラスターの照射を行うことを特徴とする請求項9から請求項15のいずれか1項に記載の基板処理装置。
【請求項17】
真空に保持された処理容器内にガスを噴射して断熱膨張によりガスクラスターを生成し、前記処理容器内に配置された被処理基板にガスクラスターを照射するガスクラスター照射方法であって、
前記処理容器内に複数のガス噴射ノズルからガスを噴射する際に、前記ガス噴射ノズルから前記ガスが必要な流量で供給された際に到達する前記処理容器内の圧力が、ガスクラスターを破壊しない程度の圧力となるように前記ガス噴射ノズルの本数を設定し、
前記複数のガス噴射ノズルのうち隣接するものどうしを、これらから噴射されたガスのうちガスクラスターの形成に寄与しなかった残留ガスの広がる範囲が互いに重ならないように配置することを特徴とするガスクラスター照射方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスクラスター照射機構およびそれを用いた基板処理装置、ならびにガスクラスター照射方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近時、試料表面にガスクラスターを照射して試料表面の加工や洗浄を行うガスクラスター技術が、選択性の高い加工や洗浄を可能にする技術として注目されている。
【0003】
試料表面にガスクラスターを照射する方法としては、例えば、ガスクラスターをイオン化し、電界や磁界により加速して試料表面に衝突させる、ガスクラスターイオンビームを用いた方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
上記ガスクラスターイオンビームを用いた方法では、クラスターはイオン化しており、基板への電気的ダメージが懸念されるため、ニュートライザー等を用いてクラスターイオンを電気的に中性にして試料に衝突させるようにしているが、このような手法を用いてもクラスターを完全に電気的中性にすることが困難である。
【0005】
そこで、このような電気的ダメージを生じないガスクラスター照射技術として、ガスの断熱膨張を利用して中性のガスクラスターを照射する技術が提案されている(特許文献2)。
【0006】
特許文献2では、反応ガスであるClFガスと、それよりも低沸点のガスであるArガスとの混合ガスを、液化しない範囲の圧力で噴出部から断熱膨張させながら真空処理室内に噴出させ、反応性クラスターを生成し、その反応性クラスターを真空処理室内の試料に噴射して試料表面を加工する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8−319105号公報
【特許文献2】国際公開第2010/021265号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、上記特許文献2に開示された技術では、基本的に一つの噴射部(ノズル)からガスを噴射させてクラスターを生成しているが、一つのノズルから生成されるガスクラスターの照射領域は数mmφであり、半導体ウエハのような大面積の基板の処理に適用する場合に、スループットが問題となる。
【0009】
このようなスループットの問題は、ガス噴射ノズルを複数本設けることにより解消することは可能であるが、ガス噴射ノズルを複数設けるとガス流量が増加し、それによる真空度の低下によって処理性能が低下してしまう。すなわち、ガスクラスターは真空度が低いと破壊されてしまうため、ノズルの本数が多くなって真空度が所定値よりも低下すると、ガスクラスターの破壊により処理性能が低下してしまうのである。また、ガスクラスターノズルの本数が適正でも局所的に真空度が低くなることがあり、その場合にはその部分で処理性能が低下してしまう。
【0010】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであって、ガスクラスターを破壊させずに高スループットでガスクラスターによる処理が可能なガスクラスター照射機構およびガスクラスター照射方法、ならびにそのようなガスクラスター照射機構を備えた基板処理装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明の第1の観点では、真空に保持された処理容器内にガスを噴射して断熱膨張によりガスクラスターを生成し、前記処理容器内に配置された被処理基板にガスクラスターを照射するガスクラスター照射機構であって、前記処理容器内にガスを噴射する複数のガス噴射ノズルを有するノズルユニットと、前記ノズルユニットにガスクラスターを生成するためのガスを供給するガス供給部とを具備し、前記ノズルユニットは、前記ガス噴射ノズルから前記ガスが必要な流量で供給された際に到達する前記処理容器内の圧力が、ガスクラスターを破壊しない程度の圧力となるように前記ガス噴射ノズルの本数が設定され、前記ノズルユニットにおいて、前記複数のガス噴射ノズルのうち隣接するものどうしを、これらから噴射されたガスのうちガスクラスターの形成に寄与しなかった残留ガスの広がる範囲が互いに重ならないように配置することを特徴とするガスクラスター照射機構を提供する。
【0012】
前記処理容器内の圧力は、前記ノズルユニットに供給するガスの供給圧力が1MPa以下では0.3kPa以下、供給圧力が1〜5MPaでは3kPa以下であることが好ましい。また、前記複数のガス噴射ノズルのうち隣接するものどうしの距離を20mm以上とすることが好ましい。
【0013】
前記ノズルユニットと被処理基板とは相対的に移動可能に設けられ、これらを相対移動させながら被処理基板全面にガスクラスターを照射するように構成することができる。
【0014】
ガスクラスター照射機構としては、前記ノズルユニットを複数有し、前記複数のノズルユニットのうち一つからガスを噴射するとともに、順次ノズルユニットを変えてガスを噴射するものとすることができる。この場合に、前記複数のノズルユニットのうち互いに隣接するノズルユニットにおける前記ガス噴射ノズルの位置がずれていることが好ましい。前記互いに隣接するノズルユニットにおける前記ガス噴射ノズルのずらす距離を、一つのガス噴射ノズルからのクラスター照射範囲と同じかそれよりも小さくし、前記ノズルユニットの数を、被処理基板の直径方向において、ガス噴射ノズルからガスクラスターが照射されない部分が形成されない数とすることが好ましい。
【0015】
ガスクラスター照射機構は、処理チャンバに被処理基板を搬送するための真空トランスファチャンバまたはロードロックチャンバに設けられ、被処理基板を搬送する搬送アームに被処理基板を載せた状態でガスクラスターの照射を行うものとすることができる。
【0016】
本発明の第2の観点では、真空に保持される処理容器と、前記処理容器内で被処理基板を支持する基板支持部と、前記処理容器内にガスを噴射して断熱膨張によりガスクラスターを生成し、被処理基板にガスクラスターを照射するガスクラスター照射機構とを具備し、ガスクラスターにより被処理基板に所定の処理を施す基板処理装置であって、前記ガスクラスター照射機構は、前記処理容器内にガスを噴射する複数のガス噴射ノズルを有するノズルユニットと、前記ノズルユニットにガスクラスターを生成するためのガスを供給するガス供給部とを有し、前記ノズルユニットは、前記ガス噴射ノズルから前記ガスが必要な流量で供給された際に到達する前記処理容器内の圧力が、ガスクラスターを破壊しない程度の圧力となるように前記ガス噴射ノズルの本数が設定され、前記ノズルユニットにおいて、前記複数のガス噴射ノズルのうち隣接するものどうしを、これらから噴射されたガスのうちガスクラスターの形成に寄与しなかった残留ガスの広がる範囲が互いに重ならないように配置することを特徴とする基板処理装置を提供する。
【0017】
本発明の第3の観点では、真空に保持された処理容器内にガスを噴射して断熱膨張によりガスクラスターを生成し、前記処理容器内に配置された被処理基板にガスクラスターを照射するガスクラスター照射方法であって、前記処理容器内に複数のガス噴射ノズルからガスを噴射する際に、前記ガス噴射ノズルから前記ガスが必要な流量で供給された際に到達する前記処理容器内の圧力が、ガスクラスターを破壊しない程度の圧力となるように前記ガス噴射ノズルの本数を設定し、前記複数のガス噴射ノズルのうち隣接するものどうしを、これらから噴射されたガスのうちガスクラスターの形成に寄与しなかった残留ガスの広がる範囲が互いに重ならないように配置することを特徴とするガスクラスター照射方法を提供する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ガス噴射ノズルからガスが必要な流量で供給された際に到達する処理容器内の圧力が、ガスクラスターを破壊しない程度の圧力となるようにガス噴射ノズルの本数が設定され、複数のガス噴射ノズルのうち隣接するものどうしを、これらから噴射されたガスのうちガスクラスターの形成に寄与しなかった残留ガスの広がる範囲が互いに重ならないように配置するので、全体的にも局所的にもガスクラスターが破壊するような高い圧力になることがなく、ガスクラスターを破壊させずに高スループットでガスクラスターによる処理が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の第1の実施形態に係るガスクラスター照射機構を備えた基板処理装置を示す断面図である。
図2】本発明の第1の実施形態に係るガスクラスター照射機構を示す平面図である。
図3】隣接するガス噴射ノズルのガスクラスターの形成に寄与しなかった残留ガスが重なった状態を示す模式図である。
図4】実際にガス噴射ノズルからのガスの流れをシミュレーションし、どの範囲まで残留ガスが広がるかを確認した結果を示す図である。
図5図4の結果に基づいてサンプル面上の圧力分布を求めた結果を示す図である。
図6】本発明の第2の実施形態に係るガスクラスター照射機構を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。
<第1の実施形態>
まず、第1の実施形態について説明する。
図1は本発明の第1の実施形態に係るガスクラスター照射機構を備えた基板処理装置を示す断面図、図2は第1の実施形態に係るガスクラスター照射機構を示す平面図である。
【0021】
基板処理装置100は、ガスクラスターにより基板の処理を行うものである。基板の処理としては、基板の洗浄処理、エッチング後の基板の残渣処理、エッチング処理等を挙げることができる。
【0022】
この基板処理装置100は、基板処理を行うための処理室を区画する処理容器1を有している。処理容器1内には基板載置台2が設けられており、その上に被処理基板Sが載置される。被処理基板Sとしては、半導体ウエハ、フラットパネルディスプレイ用のガラス基板等、種々のものを挙げることができ、特に限定されない。基板載置台2は、例えばXYテーブルからなる駆動機構3により一平面内で自由に移動できるようになっており、これにともなってその上の被処理基板Sも平面移動可能となっている。
【0023】
処理容器1の側壁下部には排気口4が設けられており、排気口4には排気配管5が接続されている。排気配管5には、真空ポンプ等を備えた排気機構6が設けられており、この排気機構6により処理容器1内が真空排気されるようになっている。このときの真空度は排気配管5に設けられた圧力制御バルブ7により制御可能となっている。
【0024】
基板載置台2の上方には、被処理基板Sにガスクラスターを照射するガスクラスター照射機構10が配置されている。ガスクラスター照射機構10は、基板載置台2に対向して設けられたノズルユニット11と、ノズルユニット11にクラスターを生成するためのガスを供給するガス供給部12と、ガス供給部12からのガスをノズルユニット11へ導くガス供給配管13とを有している。ガス供給配管13には、開閉バルブ14および流量制御器15が設けられている。ノズルユニット11は、ヘッダ16とヘッダ16に設けられた複数(図では4個)のガス噴射ノズル17とを有している。そして、ガス供給配管13からのガスクラスターを生成するためのガスは、ヘッダ16を経て複数のガス噴射ノズル17から噴出される。ガス噴射ノズル17は先端がラッパ状をなすコニカルノズルとして構成されているが、形状はこれに限定されず、単にヘッダ16に形成された小孔(オリフィス)であってもよい。
【0025】
ガス噴射ノズル17から噴射されたガスは、排気機構6により真空排気された処理容器1(処理室)内で断熱膨張し、ガスの原子または分子の一部がファンデルワールス力により数個から数万個凝集してガスクラスターとなる。ガスクラスターは直進する性質を有しており、直進したガスクラスターが被処理基板Sの表面に照射され、所望の処理、例えば、被処理基板Sの表面の洗浄処理が行われる。ガスクラスターにより洗浄処理を行う場合には、通常のガスでは除去できない付着物を有効に除去することができる。このとき、処理容器1内の圧力とガス噴射ノズル17から噴射する前のガスの圧力との差圧が大きいほどガス噴射ノズル17から噴射されるガスクラスターが被処理基板Sに衝突する際のエネルギーを大きくすることができる。
【0026】
ガスクラスターを形成するためのガスは特に限定されないが、Arガス、Nガス、COガス、ClFガス、HFガス等が例示される。また、HO等の液体の蒸気を使用してもよい。これらは単独でも、混合したものでも適用可能であり、混合ガスとしてHeガスを用いてもよい。
【0027】
生成されたガスクラスターを破壊させずに被処理基板Sに噴射させるためには、処理容器1内の真空度は高い方ほうがよく(つまり圧力が低いほうがよく)、ノズルユニット11に供給するガスの供給圧力が1MPa以下では0.3kPa以下、供給圧力が1〜5MPaでは3kPa以下であることが好ましい。
【0028】
本実施形態では、スループットを高めるため、ガス噴射ノズル17を複数設けている。ただし、ガス噴射ノズル17の本数が多くなると、ガス流量が増加して真空度が低下し、ガスクラスターの破壊につながるおそれがあるため、ガス噴射ノズル17の本数は、ガス噴射ノズル17からガスが必要な流量で供給された際に到達する処理容器1内の圧力が、ガスクラスターを破壊しない程度の圧力となる本数に設定される。
【0029】
また、ガス噴射ノズル17からガスが噴射された際には、ガスクラスターの形成に寄与しなかった残留ガスが周囲に広がるが、この残留ガスの広がる範囲が隣接するガス噴射ノズル17どうしで重なると、その部分で局部的に真空度が低下し(圧力が上昇し)、ガスクラスターが破壊されて処理性能が低下してしまうおそれがあるため、本実施形態では、複数のガス噴射ノズル17のうち隣接するものどうしを、これらから噴射されたガスのうちガスクラスターの形成に寄与しなかった残留ガスの広がる範囲が互いに重ならないように配置する。
【0030】
処理容器1の側面には、被処理基板Sの搬入出を行うための搬入出口18が設けられている。この搬入出口18はゲートバルブ19により開閉可能となっている。なお、基板処理装置100は、基板を搬送する搬送装置を有し、その中が真空に保持される真空搬送室、またはロードロック室に接続されている。
【0031】
上述したように、駆動機構3は、基板載置台2を一平面内で移動するものであり、ノズルユニット11と被処理基板Sとの間に相対移動を生じさせるものである。この駆動機構3は、ガス噴射ノズル17から噴射されたガスクラスターが基板載置台2上の被処理基板Sの全面に照射されるように基板載置台2を移動させる。なお、駆動機構としては基板載置台2を移動させる代わりにノズルユニット11を移動させてもよい。
【0032】
図1に示すように、基板処理装置100は制御部20を有している。制御部20は、基板処理装置100のガスの供給(開閉バルブ14および流量制御器15)、ガスの排気(圧力制御バルブ7)、駆動機構3による基板載置台2の駆動等を制御する、マイクロプロセッサ(コンピュータ)を備えたコントローラを有している。コントローラには、オペレータが基板処理装置100を管理するためにコマンドの入力操作等を行うキーボードや、基板処理装置100の稼働状況を可視化して表示するディスプレイ等が接続されている。また、コントローラには、基板処理装置100における処理をコントローラの制御にて実現するための制御プログラムや処理条件に応じて基板処理装置100の各構成部に所定の処理を実行させるための制御プログラムである処理レシピや、各種データベース等が格納された記憶部が接続されている。レシピは記憶部の中の適宜の記憶媒体に記憶されている。そして、必要に応じて、任意のレシピを記憶部から呼び出してコントローラに実行させることで、コントローラの制御下で、基板処理装置100での所望の処理が行われる。
【0033】
次に、以上のような基板処理装置100の処理動作について説明する。
まず、ゲートバルブ19を開けて搬入出口18を介して被処理基板Sを搬入し、基板載置台2上に載置する。
【0034】
次いで、駆動機構3により基板載置台2を初期位置に設定し、処理容器1内を排気機構6により真空引きするとともに、ノズルユニット11の複数のガス噴射ノズル17から所定のガスを所定流量で噴射する。これにより、処理容器1内を、ノズルユニット11に供給するガスの供給圧力が1MPa以下では0.3kPa以下、供給圧力が1〜5MPaでは3kPa以下の真空状態とするとともに、ガス噴射ノズル17から噴射されたガスが断熱膨張してガスクラスターを生成し、このガスクラスターが直進して基板載置台2上の被処理基板Sに衝突し、洗浄処理等が行われる。このとき、被処理基板S表面上にまんべんなくガスクラスターが照射されるように、駆動機構3により被処理基板Sを移動させる。
【0035】
上述したように、一つのガス噴射ノズルから生成されるガスクラスターの照射領域は数mmφであるから、ガス噴射ノズルが一つの場合には、大きい被処理基板Sを処理するとスループットが低いものとなる。このため、本実施形態では、ガス噴射ノズル17を複数設けている。しかし、ガス噴射ノズル17の本数が多くなると、ガス流量が増加して真空度が低下し、ガスクラスターの破壊につながるおそれがあるため、ガス噴射ノズル17の本数は、ガス噴射ノズル17からガスが必要な流量で供給された際に到達する処理容器1内の圧力が、ガスクラスターを破壊しない程度の圧力となる本数に設定される。
【0036】
例えば、ガスクラスターを生成させるためのガス噴射ノズルが1本のとき、ガス流量が700sccmで処理容器1内の真空度(圧力)が1Paとなるとすると、処理容器内の真空度をガスクラスターを破壊しない範囲内である15Paで基板処理を行う場合には、上記ガス噴射ノズルを15本配置する。
【0037】
しかし、処理容器1内の全体の平均的な真空度が適切でも、局部的に真空度の低い領域が形成されると、その領域でクラスターが破壊して処理性能が低下することが見出された。また、このような局部的な真空度の低下は、隣接するガス噴射ノズル17が近接して配置されていることが原因であることが見出された。すなわち、図3に示すように、ガス噴射ノズル17からガスが噴射されてガスクラスターCが形成され、ガスクラスターの形成に寄与しなかった残留ガスが破線で示す領域Rのように周囲に広がる。この残留ガスの広がる領域Rの範囲が隣接するガス噴射ノズル17どうしで重なると、その部分で局部的に真空度が低下し(圧力が上昇し)、ガスクラスターが破壊されて処理性能が低下してしまうおそれがある。
【0038】
そこで、本実施形態では、複数のガス噴射ノズル17のうち隣接するものどうしを、これらから噴射されたガスのうちガスクラスターの形成に寄与しなかった残留ガスの広がる範囲が互いに重ならないように配置する。
【0039】
実際にガス噴射ノズルからのガスの流れをシミュレーションし、どの範囲まで残留ガスが広がるかを確認した結果について説明する。ここでは、汎用熱流体解析ソフトであるFLUENT Ver.3を使用し、COガス流れのシミュレーションを行った。ガス噴出ノズルとしてコニカルノズルを用い、ガス噴射ノズルに対向してサンプル面が配置されている状態とし、計算条件は以下の表1に示すA〜Cの3条件とした。
【0040】
【表1】
【0041】
上記シミュレーション結果を図4に示す。図4は、各条件において、ノズルからCOガスを噴射した場合のガスの圧力分布を示すものである。また、図4の結果に基づいてサンプル面上の圧力分布を求めた結果を図5に示す。図5の横軸は、ノズル中心からの距離をとっている。
【0042】
これらの図に示すように、条件A〜Cのいずれにおいても、サンプル面においては、ノズル近傍部分に圧力が最も高い部分が存在し、ノズル中心から10mm付近でほぼバルクの圧力となっていることがわかる。この結果から、圧力にかかわらず、ノズルから噴射されたCOガスが半径10mmの範囲に広がっていると考えられる。以上のシミュレーション結果から、隣接するガス噴射ノズル17は20mm以上離隔していることが好ましい。
【0043】
例えば、上記例のように、1本で処理容器1内の真空度(圧力)が1Paとなるガス噴射ノズルを15本設けて、処理容器内の圧力を15Paにして基板処理を行う場合、基板として300mmウエハを用いると、上述のように20mmずつ離してガス噴射ノズルを配置すれば、300mmウエハの直径に対応させて15本のガス噴射ノズルを1列に並べて配置することができる。
【0044】
<第2の実施形態>
次に、第2の実施形態について説明する。
図6は、本発明の第2の実施形態に係るガスクラスター照射機構を示す平面図である。
図6に示すように、本実施形態のガスクラスター照射機構10′は、基板載置台2に対向して設けられた3つのノズルユニット11a、11b、11cと、これらノズルユニット11a、11b、11cにクラスターを生成するためのガスを供給するガス供給部12′と、ガス供給部12′からのガスをノズルユニット11a、11b、11cへ導くガス供給配管とを有している。ガス配管は、ガス供給部12′から延びる共通配管13′と共通配管13′から分岐してノズルユニット11a、11b、11cに接続された分岐配管13a、13b、13cを有している。分岐配管13a、13b、13cには、それぞれ、開閉バルブ14a、14b、14cおよび流量制御器15a、15b、15cが設けられている。ノズルユニット11a、11b、11cは、上記ノズルユニット11と同様、ヘッダ16とヘッダ16に設けられた複数(図では4個)のガス噴射ノズル17とを有している。そして、ガスクラスターを生成するためのガスは、ノズルユニット11a、11b、11cのヘッダ16を経て複数のガス噴射ノズル17から噴出される。ノズルユニット11a、11b、11cは一体的に設けられている。
【0045】
ノズルユニット11a、11b、11cは、それぞれ第1の実施形態のノズルユニット11と同様、ガス噴射ノズル17の本数が、ガス噴射ノズル17からガスが必要な流量で供給された際に到達する処理容器1内の圧力が、ガスクラスターを破壊しない程度の圧力となる本数に設定される。また、ノズルユニット11a、11b、11cの複数のガス噴射ノズル17の配置に関しても、ノズルユニット11と同様、隣接するものどうしを、これらから噴射されたガスのうちガスクラスターの形成に寄与しなかった残留ガスの広がる範囲が互いに重ならないように配置する。
【0046】
そして、制御部20′により、ノズルユニット11a、11b、11cの開閉バルブ14a、14b、14cを順次開くように制御することにより、ノズルユニット11a、11b、11cの順に時間をずらしてガスクラスターを照射することができ、処理容器1内の全体的および局所的な真空度低下による処理性能の低下を抑制しつつ、一層高いスループットを得ることができる。
【0047】
このとき、図6に示すように、ガス噴射ノズル17を、隣接するノズルユニットでずらして配置することにより、駆動機構3によるノズルユニット11a、11b、11cの横方向の移動を少なくすることができ、スループットをより高めることができる。特に、隣接するノズルユニットにおけるガス噴射ノズル17のずらす距離を、一つのガス噴射ノズルからのクラスター照射範囲と同じかそれよりも小さくし、ノズルユニットの数を、被処理基板Sの直径方向において、ガス噴射ノズルからガスクラスターが照射されない部分が形成されない数とすることが好ましい。図6の例では、ノズルユニット11aのガス噴射ノズル17と、ノズルユニット11bのガス噴射ノズル17と、ノズルユニット11cのガス噴射ノズル17とが、被処理基板Sの直径方向でガスクラスターが照射されない部分が形成されないように少しずつずれて配置されている。このようにすることにより、駆動機構3による被処理基板Sの移動方向を一方向のみとすることができ、極めて高いスループットを得ることができる。
【0048】
例えば、上記例のように、1本で処理容器1内の真空度(圧力)が1Paとなるガス噴射ノズルを15本設けて、処理容器内の圧力を15Paにして300mmウエハを処理する場合、一つのノズルユニットにガス噴射ノズルを20mm間隔で15本設ける場合、例えば一つのノズルからガスクラスターが照射される範囲を4mmとすると、ガス噴射ノズルの位置を4mmずつずらしたノズルユニットを5個設けることにより、300mmウエハの直径方向でガスクラスターが照射されない部分が形成されないようにすることができ、これらノズルユニットを一つずつ用いて順にガスを噴射することにより、ウエハの移動方向を一方向にして極めて高いスループットで処理を行うことができる。
【0049】
<他の適用>
なお、本発明は、上記実施の形態に限定されることなく種々変形可能である。例えば、上記実施の形態においては、ノズルユニットとしてガス噴射ノズルを一列に配置したものを示したが、これに限るものではない。
【0050】
また、上記実施形態では、基板の洗浄処理等を行う専用の装置に本発明のガスクラスター照射機構を用いた例を示したが、これに限るものではない。例えば、エッチング後またはアッシング後に基板の残渣処理を行う場合等は、例えばエッチングチャンバやアッシングチャンバ等の処理チャンバが接続された真空トランスファチャンバや、大気雰囲気に存在する基板を真空状態のエッチングチャンバやアッシングチャンバに搬送するためのロードロックチャンバに本発明のガスクラスター照射機構を設けて、エッチング処理やアッシング処理が終了した後、基板の搬送中にこれらチャンバでガスクラスターによる基板の残渣処理を行うことができる。この場合に、特別の基板載置台および駆動機構を設けることなく、システムに搭載された搬送アームに被処理基板を載せた状態で被処理基板を移動させながらガスクラスターを照射することが可能である。
【符号の説明】
【0051】
1;処理容器
2;基板載置台
3;駆動機構
6;排気機構
10、10′;ガスクラスター照射機構
11、11a、11b、11c;ノズルユニット
12、12′;ガス供給部
14、14a,14b,14c;開閉バルブ
16;ヘッダ
17;ガス噴射ノズル
20、20′;制御部
100;基板処理装置
C;ガスクラスター
R;残留ガスが広がる領域
S;被処理基板
図1
図2
図3
図5
図6
図4