(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態を説明する。
[1]被加工物
図1(a)、(b)は、一実施形態に係る被加工物1を示している。被加工物1は、円板状の基板2の表面2aに保護テープ3が貼着されたものである。基板2は、例えば表面2aに多数のデバイスが形成された半導体ウェーハ等であり、保護テープ3は表面2aを保護するために表面2aに貼着される。この状態で被加工物1は、例えば基板2の裏面2bが研削加工されて薄化される。裏面2bの研削加工は、保持テーブル等の保持面に保護テープ3における基材3aの表面をその保持面に吸着させ、露出した裏面2bを研削手段で研削するといった手段が採られる。
【0014】
保護テープ3は厚さが50〜300μm程度の粘着テープであり、
図1(c)に示すように、基材3aの片面に粘着層3bが形成されたものである。基材3aは塩化ビニルやポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート等の比較的剛性を有する樹脂から形成されており、粘着層3bは、ゴム系やアクリル系の材料が用いられている。
【0015】
本実施形態は、被加工物1の保護テープ3における基材3aの表面全面を切削して平坦加工するためのバイト切削装置であり、
図2に装置全体を示している。基材3aの表面を平坦化する理由としては、例えば上記のようにして基板2の裏面2bを研削加工する際に、上記保持面に吸着される基材3aの表面を平坦化することで、研削された裏面3が高い平坦度となるようにするためである。
【0016】
[2]バイト切削装置
(a)基本構成
以下、
図2に示す一実施形態のバイト切削装置10の基本構成を説明する。
図2で符号11は装置台である。装置台11の長手方向一端部(
図2の右奥側の端部)には、壁部12が立設されている。
図2では、装置台11の長手方向、幅方向および鉛直方向を、それぞれY方向、X方向およびZ方向としている。
【0017】
装置台11上においては、長手方向のほぼ中間部分から壁部12側に切削液回収用の凹所13が形成されており、この凹所13内には、移動台(加工送り手段)14を介して、真空チャック式の円板状の保持テーブル20がY方向に移動可能に設けられている。移動台14は、装置台11内に配設された図示せぬ移動機構によりY方向に沿って往復移動する。
【0018】
移動台14の移動経路は、移動台14の移動方向両側に設けられた蛇腹状のカバー15,16によって覆われている。カバー15,16は移動台14の移動に伴って伸縮し、これらカバー15,16によって該移動経路への加工屑の落下が防がれるようになっている。
【0019】
保持テーブル20は、移動台14に固定状態で支持されている。保持テーブル20は、多孔質体で形成された円形状の水平な保持面21を有している。保持面21は図示せぬ吸引機構の運転によって負圧状態となり、被加工物1は、保持面21に載置され、かつ、負圧作用によって吸引、保持される。保持テーブル20は、移動台14が壁部12側に移動することにより、所定の加工位置に位置付けられる。その加工位置の上方には、バイト切削手段30が配設されている。
【0020】
バイト切削手段30は、装置台11の壁部12の前面に、切込み送り手段40によってZ方向に昇降自在に設けられている。切込み送り手段40は、壁部12の前面に固定された左右一対のZ方向に延びるガイドレール41と、ガイドレール41に摺動可能に支持された昇降スライダ42と、昇降スライダ42に螺合して連結されたボールねじ43と、ボールねじ43を正逆回転させるモータ44とから構成され、ボールねじ43の回転により昇降スライダ42をガイドレール41に沿って昇降させるものである。
【0021】
バイト切削手段30は、軸方向がZ方向に延びる円筒状のハウジング31と、ハウジング31内に同軸的、かつ回転自在に支持されたスピンドル32と、スピンドル32を回転駆動するサーボモータ33と、スピンドル32の下端に同軸的に固定されることにより保持テーブル20に対面して配設され、被加工物1を切削する切り刃34を有した円板状のバイトホイール35とから構成されている。切り刃34は被加工物1の保護テープ3における上記樹脂からなる基材3aを切削可能なダイヤモンド等からなるものであり、
図3および
図4に示すように、バイトホイール35の外周部に下方に突出する状態に取り付けられている。
【0022】
バイト切削手段30は、ハウジング31がホルダ39を介して切込み送り手段40の昇降スライダ42に固定されており、昇降スライダ42と一体に鉛直方向(切込み方向)に移動し、これによりバイトホイール35は保持テーブル20の保持面21に対して近接離反させられる。サーボモータ33でスピンドル32が回転駆動されることによりバイトホイール35は回転し、切り刃34がそれに伴って旋回するようになっている。保持テーブル20は、移動台14により、バイト切削手段30に対して水平方向に近接離反可能に移動させられる。保持テーブル20の移動方向(Y方向)は、バイト切削手段30の切込み方向(Z方向)に直交している。
図3に示すように、切り刃34の旋回軌跡すなわちバイトホイール35による切削領域は、被加工物1の外径よりも大きいものとされている。
【0023】
移動台14が加工位置から壁部12と離れる方向に移動した移動端が、退避位置となっており、保持テーブル20に保持された被加工物1は、移動台14の移動により、バイト切削手段30の下方の加工位置と退避位置とを往復移動させられる。すなわち、保持テーブル20に保持された被加工物1は、バイト切削手段30に対してY方向に沿って近接離反可能に移動させられる。
【0024】
図2に示すように、装置台11の凹所13より手前側は被加工物1の供給・回収エリア17となっている。供給・回収エリア17の中央には、2節リンク式のピックアップロボット50が設置されており、このピックアップロボット50の周囲には、上から見た状態で、反時計回りに、カセット51、位置決め手段52、搬入手段53、搬出手段54、スピンナ式の洗浄装置55、カセット56が、それぞれ配置されている。
【0025】
カセット51、位置決め手段52および搬入手段53は、被加工物1を保持テーブル20に搬入する系統であり、搬出手段54、洗浄手段55およびカセット56は、切削加工後の被加工物1を保持テーブル20から搬出する系統である。2つのカセット51,56は同一の構造であるが、ここでは用途別に、搬入カセット51、搬出カセット56と称する。これらカセット51,56は、複数の被加工物1を積層状態で収容して運搬可能とするもので、装置台11の所定位置にセットされる。搬入手段53および搬出手段54はともに同様の構造であって、それぞれ水平旋回アーム53a,54aの先端に、被加工物1の上面を負圧作用で吸着する吸着パッド53b,54bが取り付けられたものである。
【0026】
(b)基本動作
次いで、上記バイト切削装置10によって被加工物1の保護テープ3における樹脂製の基材3aを切削加工する動作を説明する。
【0027】
ピックアップロボット50によって、搬入カセット51内から1枚の被加工物1が取り出され、その被加工物1は、ピックアップロボット50によって位置決め手段52上に保護テープ3を上側にして載置される。位置決め手段52上で被加工物1は所定の搬送開始位置に位置付けられ、次いでその被加工物1が、搬入手段53の吸着パッド53bで保持され、水平旋回アーム53aの旋回により、予め退避位置に位置付けられている保持テーブル20の保持面21に基板2の裏面2bを合わせて載置される。
【0028】
被加工物1は保持テーブル20の保持面21に負圧作用で吸着、保持され、移動台14が壁部12側に移動して加工位置に送られる。この場合、被加工物1は、
図3(a)に示すように、バイトホイール35の切削領域内に収まる位置まで送られる。そして、バイトホイール35を回転させたバイト切削手段30を切込み送り手段40によって切り刃34が保護テープ3の基材3aを所定厚さ切削する高さになるまでバイト切削手段30を下降させる。続いて、移動台14を被加工物1の退避位置方向に移動させる加工送りを行う。
【0029】
被加工物1が加工送りされるに伴って、保護テープ3の基材3aの表面が旋回する切り刃34により切削される。そして被加工物1がバイトホイール35の切削領域を脱すると、基材3aの表面全面が切削されて平坦に形成される。なお、切削中においては、後述するように切削液が被加工物1に供給される。基材3aが切削されると加工屑が生じるが、その加工屑は切削液に混じって凹所13に流れ落ち、凹所13を流れて凹所13の隅に形成された加工屑排出口18から排出される。
【0030】
保護テープ3の基材3aの表面全面が平坦に切削されたら、保持テーブル20を退避位置まで移動させるとともに保持面21への被加工物1の吸着が解除され、被加工物1は搬出手段54によって洗浄手段55内に移送される。被加工物1は、洗浄手段55内で水洗、乾燥処理され、この後、ピックアップロボット50によって搬出カセット56内に移送、収容される。
【0031】
以上が1枚の被加工物11に対して保護テープ3の基材3aの表面を平坦に切削加工し、この後、洗浄して回収するサイクルであり、このサイクルが繰り返し行われる。そして搬入カセット51内の全ての被加工物1に対して処理が終わったら、被加工物1は搬出カセット56ごと次の工程に移される。
【0032】
以上が一実施形態のバイト切削装置10の基本的な構成および動作である。次に、当該装置10が具備する本発明に係る加工屑飛散防止壁の一実施形態について説明する。
【0033】
[3」加工屑飛散防止壁
(a)加工屑飛散防止壁の構成
図2に示すように、装置台11の凹所13における壁部12側には、被加工物1の保護テープ3における基材3aを切削加工することにより発生する樹脂の加工屑の飛散を防止する矩形の枠状に組まれた加工屑飛散防止壁(以下、防止壁と略称する)60が設けられている。この防止壁60は、移動台14が移動して保持テーブル20が上記加工位置に位置付けられた際に、保持テーブル20と、基材3aを切削中のバイト切削手段30のバイトホイール35を囲繞する位置に配設されている。
【0034】
図5に示すように、防止壁60は、保持テーブル20およびバイトホイール35の側方(X方向側)を覆う一対の側板61と、これら側板61のY方向両端部をそれぞれ連結して保持テーブル20およびバイトホイール35の前側および後側(Y方向の両側)を覆う端板62とから構成されている。各側板61は、凹所13の底面に当接し、かつ、互いに対向する状態に支持されている。
図5に示すように、側板61と、移動台14およびカバー15,16との間には、隙間63が空いている。端板62は側板61の上部に固着され、これにより防止壁60は矩形の枠状に構成される。端板62の下方には、保持テーブル20を支持する移動台14およびカバー15,16が通過可能な空間が空けられている。防止壁60は、凹所13の底面に着脱可能に載置される。
【0035】
図5に示すように、2つの側板61のうちの一方には切削液噴出口611が形成されており、この切削液噴出口611に、凹所13から延びる切削液供給ノズル71の先端部が挿入されている。また、他方の側板61には吸引口612が形成され、この吸引口612には、ダクトボックス72を介して、空気を吸引する吸引源73に連通されたダクト74が接続されている。
【0036】
(b)防止壁の作用ならびにそれに伴う効果
上記のように、保護テープ3の基材3aをバイト切削手段30で切削加工する際には、切削液供給ノズル71に切削液が送られ、切削液噴出口611から切削加工点に切削液が噴出される。切削液は、切削加工点の冷却や摩擦低減、あるいは加工屑の洗浄のために供給される。また、切削加工中には吸引源73が運転され、防止壁60内の粉塵が、吸引口612からダクトボックス72を経てダクト74に吸引される。被加工物1に供給された切削液は基材3aの加工屑を含んで防止壁60内の凹所13に流れ落ち、側板61と移動台14およびカバー15,16との間の隙間63を通って防止壁60の外部に流れ出て、加工屑排出口18に流れていく。
【0037】
さて、本装置10では、切削加工中に生じる加工屑は、防止壁60の内面に当たって飛散が防止される。ここで、保護テープ3の基材3aを切削して糸状の加工屑が生じた場合も、その糸状の加工屑は防止壁60により飛散が防止される。このため、保持テーブル20の周囲の切削液供給ノズル71や、その他の図示せぬ配管等に、そのような糸状の加工屑が堆積することが防止される。
【0038】
従来では、糸状の加工屑が堆積して一度に多量の糸状の加工屑が排水ライン(ここでは凹所13の加工屑排出口18に至る切削廃液の経路)に流れて詰まるといった問題が生じていたわけであるが、本実施形態では、防止壁60によって加工屑の飛散が防止され、防止壁60に当たった加工屑は、順次凹所13に落下し、堆積することなく円滑に凹所13を流れて加工屑排出口18に達する。したがって一度に多量の糸状の加工屑が排水ラインに流れ、排水ラインを詰まらせてしまうおそれが低減する。
【0039】
防止壁60は、被加工物1を保持する保持テーブル20が加工位置に位置付けられた際に保持テーブル20とバイトホイール35を囲繞する位置に配設されており、このため、防止壁60による加工屑の飛散防止が適確になされる。なお、排水ラインに流れ出ず防止壁60内に加工屑がとどまった場合には、防止壁60を取り外し、加工屑を取り除く作業を必要に応じて行えばよい。
【0040】
(c)防止壁の他の実施形態
図6〜8は、上記実施形態の防止壁60に基づいた他の実施形態の防止壁を示している。
図6に示す防止壁60は、側板61と端板62との間の角部601をR状に形成している。この場合、上記一実施形態のように角部が直角の場合と比べると、R状の角部601の内面に付着した加工屑が取りやすく、防止壁60の内面の清掃がしやすいという利点を得ることができる。
【0041】
図7に示す防止壁60は、側板61が内側、すなわち保持テーブル20側に傾倒して支持されている。側板61の内面には加工屑が付着する場合があるが、このように内側に傾倒していると加工屑は側板61の内面から剥落しやすく、したがって加工屑が側板61の内面へ付着することを低減することができる。なお、側板61だけではなく、端板62も内側に傾倒した状態にしてもよい。
【0042】
図7に示す防止壁60は、内側に傾倒させた側板61の内面の上端部に洗浄水パイプ64を配設し、洗浄水パイプ64から下方に向けて供給した洗浄水で側板61の内面を洗浄する形態となっている。これによると、洗浄水を常時、または間欠的に供給することで側板61への加工屑の付着を防止することができる。この場合、切削液の噴出を阻害しないように切削液噴出口611へは洗浄水を流さないようにした方がよい。また、吸引口612は側板61の下端に開放しており、防止壁60内の空気はその吸引口612からダクトボックス72に流れ込むようにしている(
図8:Aは該空気の流れ)。