特許第5945915号(P5945915)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5945915
(24)【登録日】2016年6月10日
(45)【発行日】2016年7月5日
(54)【発明の名称】粉末混合物および焼結部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22F 1/00 20060101AFI20160621BHJP
   B22F 3/02 20060101ALI20160621BHJP
【FI】
   B22F1/00 V
   B22F1/00 F
   B22F3/02 M
【請求項の数】11
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2012-46678(P2012-46678)
(22)【出願日】2012年3月2日
(65)【公開番号】特開2013-181229(P2013-181229A)
(43)【公開日】2013年9月12日
【審査請求日】2015年2月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】日立化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096884
【弁理士】
【氏名又は名称】末成 幹生
(72)【発明者】
【氏名】谷中 雅樹
(72)【発明者】
【氏名】筒井 唯之
(72)【発明者】
【氏名】手島 照雄
【審査官】 米田 健志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−026700(JP,A)
【文献】 特開平01−203478(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00〜8/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄粉末および/または鉄基合金粉末と、黒鉛粉末と、負帯電特性を持つ粉末と、結着剤とを含む粉末混合物であって、
前記黒鉛粉末が前記鉄粉末および/または鉄基合金粉末の表面にポリオレフィン系ワックスからなる結着剤で固着されて与えられ、
前記負帯電特性を持つ粉末が遊離粉末として与えられ
前記負帯電特性を持つ粉末の添加量が、鉄粉末および/または鉄基合金粉末100質量部に対し0.02〜0.5質量部であることを特徴とする粉末混合物。
【請求項2】
前記ポリオレフィン系ワックスがポリエチレンワックスおよび/またはポリプロピレンワックスであることを特徴とする請求項1に記載の粉末混合物。
【請求項3】
前記ポリオレフィン系ワックスの重量平均分子量が1000〜40000であることを特徴とする請求項1に記載の粉末混合物。
【請求項4】
前記負帯電特性を持つ粉末がアルキルシラン、ジメチルシラン、オクチルシラン、メタクリルシラン、フルオロアルキルシラン、およびヘキサメチルジシラザンのうちの少なくとも1種を表面に被覆した酸化物粉末であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の粉末混合物。
【請求項5】
前記酸化物粉末が酸化珪素粉末、酸化チタン粉末、酸化マグネシウム粉末のうちの少なくとも1種であることを特徴とする請求項4に記載の粉末混合物。
【請求項6】
前記負帯電特性を持つ粉末の最大粒径が1〜15μmであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の粉末混合物。
【請求項7】
副原料粉末をさらに含み、前記副原料粉末の全部が、前記鉄粉末および/または鉄基合金粉末の表面に前記黒鉛粉末とともにポリオレフィン系ワックスからなる結着剤で固着されていることを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の粉末混合物。
【請求項8】
副原料粉末をさらに含み、前記副原料粉末の一部が、前記鉄粉末および/または鉄基合金粉末の表面に前記黒鉛粉末とともにポリオレフィン系ワックスからなる結着剤で固着され、かつ前記副原料粉末の残部が遊離粉末として含まれていることを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の粉末混合物。
【請求項9】
副原料粉末をさらに含み、前記副原料粉末が、全て遊離粉末として含まれていることを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の粉末混合物。
【請求項10】
成形潤滑剤粉末をさらに含み、前記成形潤滑剤粉末が、全て遊離粉末として含まれていることを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の粉末混合物。
【請求項11】
鉄粉末および/または鉄基合金粉末と、黒鉛粉末と、負帯電特性を持つ粉末と、結着剤とを含む粉末混合物を圧縮して圧粉体を形成し、前記圧粉体を焼結する焼結部材の製造方法において、前記黒鉛粉末が前記鉄粉末および/または鉄基合金粉末の表面にポリオレフィン系ワックスからなる結着剤で固着されて与えられ、前記負帯電特性を持つ粉末が遊離粉末として与えられ、前記負帯電特性を持つ粉末の添加量が、鉄粉末および/または鉄基合金粉末100質量部に対し0.02〜0.5質量部であることを特徴とする焼結部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉末冶金法、特に押型法において原料粉末として用いられる粉末混合物に係り、混合粉末中の粉末の偏在が抑制されるとともに、混合粉末の流動性に優れた粉末混合物および該粉末混合物を用いることで成分の偏析を抑制した焼結部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
粉末冶金法による焼結機械部品の製造は、図4に示すように、ダイ10の型孔11と下パンチ20とで形成されるキャビティに原料粉末を充填した後、原料粉末を下パンチ20と上パンチ30とで圧縮成形して成形体を作製し(押型法)、得られた成形体を焼結炉中で加熱して焼結することで行われる。このような押型法は、焼結機械部品をニアネットシェイプに造形することができることに加え、一度押型を作製すれば同形状の製品を多量に生産可能であり、製造コストが低廉であるという利点を有していることから、種々の分野で利用されている。
【0003】
押型法において用いられる原料粉末は、目的とする機械部品に望まれる特性に応じて主原料粉末が選択され、これに副原料粉末を添加、混合して調整される。たとえば、構造用機械部品においては、鉄粉末および/または鉄基合金粉末を主原料粉末とし、黒鉛粉末、および銅粉末やニッケル粉末等の副原料粉末を添加するとともに、ステアリン酸亜鉛等の成形潤滑剤を添加、混合して調整される。また、上記の原料粉末においては、必要に応じて機械部品の切削性を改善する目的で、珪酸マグネシウム系鉱物粉末や硫化物粉末等の切削性改善粉末を上記副原料粉末として用いることも行われている。
【0004】
原料粉末は、一般に、ホッパー40に貯留され、ホース50を介して下面が開放されたフィーダ60により搬送される。このフィーダ60がダイ10上を前進してキャビティ上に位置した際に、フィーダ60の開放された下面からキャビティに原料粉末が重力落下により充填される。このため、原料粉末には、円滑な充填を行うとともに充填量のばらつきを抑制するため、流動性が高いことが求められる。
【0005】
また、原料粉末は、上記のように主原料粉末に黒鉛粉末および副原料粉末を添加、混合することから、大きさ、形状、比重の異なる粉末から構成される。このため、黒鉛粉末および副原料粉末の原料粉末中での偏在が生じ易く、その場合に焼結後の組織に成分の偏析が生じ、寸法変化および強度等の特性のバラツキが大きくなって不良品の発生原因となる。したがって、黒鉛粉末および副原料粉末の原料粉末中での偏在が生じないことが求められる。特に、黒鉛粉末は、主原料粉末である鉄粉末および/または鉄基合金粉末に比べて比重が小さいため、ホッパー4内で充填による粉末の滑落が生じた際に、比重が小さい黒鉛粉末が舞い上がり易い。このため、黒鉛粉末の原料粉末中での偏在を抑制することが強く望まれている。
【0006】
このような粉末の偏在の問題については、成形潤滑剤を溶融して黒鉛粉末および副原料粉末を主原料粉末表面に固着することにより偏在を抑制したり(特許文献1)、バインダ成分を添加して黒鉛粉末および副原料粉末を主原料粉末表面に固着することにより原料粉末中での偏在を抑制する(特許文献2)等の提案がなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平01−219101号公報
【特許文献2】特開平02−217403号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記の提案においては、主原料粉末表面への黒鉛粉末および副原料粉末の固着が不充分となることがあり、その場合には、固着されなかった黒鉛粉末等が偏在する。また、主原料粉末表面への黒鉛粉末および副原料粉末の固着が充分であっても、原料粉末の流動性が低下するという問題があった。
【0009】
したがって、主原料粉末表面への黒鉛粉末および副原料粉末の固着が充分であって、かつ原料粉末の流動性が高い粉末冶金用原料粉末が求められている。このような背景から、本発明は、黒鉛粉末の原料粉末中での偏在が抑制され、流動性等の粉末特性に優れた粉末混合物および該粉末混合物を用いることで成分の偏析を抑制した焼結部材の製造方法を提供することを目的とする。
【発明を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、主原料粉末表面へ黒鉛粉末および副原料粉末を固着するにあたり、ポリオレフィン系ワックスと主原料粉末を撹拌しながら、ポリオレフィン系ワックスの融点以上まで昇温させて、主原料粉末の表面に溶融したポリオレフィン系ワックスを被覆し、次いで、黒鉛粉末と副原料粉末を添加して撹拌しつつポリオレフィン系ワックスの融点以下に降温して、固化したポリオレフィン系ワックスにより主原料粉末表面へ黒鉛粉末および副原料粉末を固着した。その結果、得られた粉末は、固着性が良好であることが判明した。しかしながら、上記の溶融混合法により主原料粉末表面に黒鉛粉末および副原料粉末を固着した粉末は、流動性が低下していることが分かった。この流動性低下の原因について本発明者等が検討したところ、次のような知見を得た。
【0011】
すなわち、図3(a)は、複数の主原料粉末1がポリオレフィン系ワックス4によって互いに付着し、主原料粉末1の表面においてポリオレフィン系ワックス4に黒鉛粉末2および副原料粉末3が埋没した状態を示し、図3(b)は、主原料粉末1どうしが分離した状態を示している。図3の(a)と(b)のいずれの状態においても、主原料粉末1、黒鉛粉末2および副原料粉末3の表面の一部でポリオレフィン系ワックス4の剥離が生じ、主原料粉末1が完全にポリオレフィン系ワックス4で被覆された状態とすることが難しい。
【0012】
一方、図4に示すように、原料粉末はホッパー40からホース50およびフィーダ60を経由してダイ10の型孔11に充填されるが、この間、原料粉末は互いに接触し摩擦し合いながら流動するとともに、一部はホッパー40の内壁、ホース50の内表面およびフィーダ60の内壁と接触し摩擦しながら搬送される。
【0013】
このときの摩擦による帯電状況を図2(a)に示す。ポリオレフィン系ワックス4は、負帯電し易い物質であり、かつ絶縁性を有する物質であるため、搬送時の摩擦により、表面が負帯電する。また副原料粉末3として用いられる銅粉末3も負帯電し易い物質であるとともに、絶縁性を有するポリオレフィン系ワックス4により主原料粉末1としての鉄粉末1または鉄合金粉末1と絶縁された状態で結着されており、表面に露出した銅粉末3表面は搬送時の摩擦により負帯電する。
【0014】
一方、主原料粉末1である鉄粉末1および鉄合金粉末1は、摩擦により正帯電し易い物質であり、搬送時の摩擦により露出した表面が正帯電する。この正帯電した鉄粉末1または鉄合金粉末1の露出部に、図2(a)に示すように他の粉末の負帯電したポリオレフィン系ワックス4の表面や負帯電した銅粉末3表面が電気的に引き付け合って凝集する結果、流動性が低下するものと考えられる。
【0015】
そこで、本発明者等は、図2(b)に示すように、負帯電した粉末5を添加すれば、正帯電した鉄粉末1または鉄合金粉末1の露出部に、負帯電した粉末5が選択的に吸引されて、他の鉄粉末1または鉄合金粉末1の吸引を防止して凝集の発生を抑制するとともに、吸引されずに残った負帯電した粉末5と各鉄粉末1または鉄合金粉末1が電気的に反発し合う斥力により、原料粉末の流動性を向上できるのではとの推論に達し、本発明をなすに至った。
【0016】
本発明の粉末混合物は、上記知見に基づいてなされたもので、鉄粉末および/または鉄基合金粉末と、黒鉛粉末と、負帯電特性を持つ粉末と、結着剤を含む粉末混合物であって、黒鉛粉末が鉄粉末および/または鉄基合金粉末の表面にポリオレフィン系ワックスからなる結着剤で固着されて与えられ、負帯電特性を持つ粉末が遊離粉末として与えられ、負帯電特性を持つ粉末の添加量が、鉄粉末および/または鉄基合金粉末100質量部に対し0.02〜0.5質量部であることを特徴とする。
【0017】
本発明の粉末混合物においてポリオレフィン系ワックスは、ポリエチレンワックスおよび/またはポリプロピレンワックスであることが好ましい。
【0018】
また、本発明の粉末混合物において負帯電特性を持つ粉末は、アルキルシラン、ジメチルシラン、オクチルシラン、メタクリルシラン、フルオロアルキルシラン、およびヘキサメチルジシラザンのうちの少なくとも1種を表面に被覆した酸化物粉末であることが好ましい。また、酸化物粉末としては、酸化珪素粉末、酸化チタン粉末、酸化マグネシウム粉末のうちの少なくとも1種であることが好ましい。
【0019】
負帯電特性を持つ粉末は、細かいほど比表面積が増加するとともに、質量が小さくなって、上記の正帯電した鉄粉末1または鉄合金粉末1の露出部に吸引され易くなる。また、負帯電特性を持つ粉末が粗大となると焼結性を阻害する虞もある。このため、負帯電特性を持つ粉末は、最大粒径を15μm以下とすることが好ましい。一方、負帯電特性を持つ粉末あまりに微小になると、単未粉末の形態で添加された負帯電特性を持つ粉末が、ダイとパンチの隙間等に浸入し易く、型カジリが生じ易くなる。このため、負帯電特性を持つ粉末は最大粒径を1μm以上とすることが好ましい。また、負帯電特性を持つ粉末の添加量は、鉄粉末および/または鉄基合金粉末100質量部に対し0.02〜0.5質量部である負帯電特性を持つ粉末の添加量が0.02質量部未満であるとその効果を確実に得ることが困難となり、また、添加量が0.5質量部を超えると粉末を成形した後の圧粉体の抜き出し圧力が非常に増加するからである。
【0020】
さらに、本発明の粉末混合物には黒鉛粉末以外の副原料粉末を含むことができ、副原料粉末を黒鉛粉末とともに鉄粉末および/または鉄基合金粉末表面にポリオレフィン系ワックスからなる結着剤で固着することができる。この場合において、副原料粉末の一部もしくは全部が遊離粉末として含まれる態様であってもよい。
【0021】
加えて、本発明の焼結部材の製造方法は、鉄粉末および/または鉄基合金粉末と、黒鉛粉末と、負帯電特性を持つ粉末と、結着剤とを含む粉末混合物を圧縮して圧粉体を形成し、圧粉体を焼結する焼結部材の製造方法において、黒鉛粉末が鉄粉末および/または鉄基合金粉末の表面にポリオレフィン系ワックスからなる結着剤で固着されて与えられ、負帯電特性を持つ粉末が遊離粉末として与えられ、負帯電特性を持つ粉末の添加量が、鉄粉末および/または鉄基合金粉末100質量部に対し0.02〜0.5質量部であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、固着性が優れるポリオレフィン系ワックスを用いて主原料粉末の表面に黒鉛粉末を固着したことから、混合粉末中の黒鉛粉末の偏在を確実に抑制することができる。また、ポリオレフィン系ワックスの帯電による粉末どうしの凝集が負帯電特性を持つ粉末を混合粉末に添加することで抑制されるので、高い流動性を得ることができる。よって、そのような粉末混合物を用いることにより、成分の偏析が抑制された焼結部材を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の粉末混合物の一例を示す図である。
図2】粉末混合物の帯電状態を示す図であり、(a)は黒鉛粉末および副原料粉末を主原料粉末の表面にポリオレフィン系ワックスで固着した粉末のみの場合であり、(b)は黒鉛粉末および副原料粉末を主原料粉末の表面にポリオレフィン系ワックスで固着した粉末に負帯電粉末を添加した場合である。
図3】黒鉛粉末および副原料粉末を主原料粉末の表面にポリオレフィン系ワックスで固着した粉末を示す図である。
図4】押型法による成形工程における成形装置の概要を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1に本発明の一実施形態の粉末混合物を示す。粉末混合物は、鉄粉末および/または鉄基合金粉末からなる主原料粉末1と、黒鉛粉末2と、銅粉末からなる副原料粉末3と、成形潤滑剤粉末6と、負帯電特性を持つ粉末5と結着剤4とからなる。黒鉛粉末2と副原料粉末3は、主原料粉末1の表面にポリオレフィン系ワックスからなる結着剤4で固着されている。また負帯電特性を持つ粉末5と、成形潤滑剤粉末6は、主原料粉末に結着されておらず、遊離粉末として存在する。
【0025】
上記のような粉末混合物においては、搬送時の摩擦により主原料粉末1の露出した表面が正帯電する。この正帯電した主原料粉末1の露出部に、負帯電した粉末5が選択的に吸引されて、他の主原料粉末1の吸引を防止して凝集の発生を抑制するとともに、吸引されずに残った負帯電した粉末5と各主原料粉末1が電気的に反発し合う斥力により粉末混合物の流動性を向上することができる。
【0026】
結着剤は、第1に、搬送から成形段階までの間、黒鉛粉末の主原料粉末の表面への固着を持続する必要がある。このため、結着剤としては、高い固着力のみならず、搬送時の振動等に耐える強度を有することが必要となる。特許文献1の結着剤(潤滑剤)は脆く、一時的に黒鉛粉末を主原料粉末表面に固着できても、搬送時の振動等により容易に剥離するため黒鉛粉末の偏在を抑制することができない。本発明において結着剤として用いるポリオレフィン系ワックスは、固着力が高いとともに、ある程度の伸びを有し、搬送時の振動等に充分に耐える強度を有している。
【0027】
結着剤は、第2に、成形体を焼結する際には焼結の加熱時に容易に分解して、焼結体に全く影響を与えないものである必要がある。また、このように結着剤は消失させるものであるため、できるだけ安価なものであることが求められる。この点で、本発明において結着剤として用いるポリオレフィン系ワックスは、構造が比較的単純であり、安価であるとともに、加熱より容易に分解して消失し、焼結体に全く影響を与えない。
【0028】
結着剤は、第3に、主原料粉末の表面に黒鉛粉末を容易に固着することができるものである必要がある。ポリオレフィン系ワックスは、融点が低く、容易に溶融させることができるため、低い温度で溶融混合を行って主原料粉末の表面に黒鉛粉末を固着することができる。
【0029】
結着剤として用いるポリオレフィン系ワックスは、分子量が大きいものほど固着性および強度が増加する。この観点からポリオレフィン系ワックスは、重量平均分子量Mwが1000以上のものが好ましい。一方、分子量が大きいものほど融点および分解温度が上昇するため、重量平均分子量Mwが400,000以下のものを用いることが好ましい。これらのことから、ポリオレフィン系ワックスのうち、ポリエチレンワックス(重量平均分子量Mw:1,000〜10,000程度)やポリプロピレンワックス(重量平均分子量Mw:10,000〜35,000程度)を用いることが好ましい。ポリエチレンワックスおよびポリプロピレンワックスは、それぞれ重量平均分子量が異なる2種以上のものを混合して用いると、焼結時の結着剤の分解が一度に生じず、段階的に行われるようになるため好ましい。
【0030】
結着剤として用いるポリオレフィン系ワックスは、焼結時に消失させて焼結体の特性に影響を与えないことが必要であるため、使用する量は黒鉛粉末を充分に主原料粉末となる鉄粉末および/または鉄基合金粉末の表面に固着できる量とする。たとえば、結着剤は比重が小さいため、多量に使用すると成形体に含まれる結着剤の量が多くなり、その分、成形体密度が低下し、原料粉末の成形性が低下する。このため、結着剤として用いるポリオレフィン系ワックスの使用量は、黒鉛粉末の添加量により調整されるべきものであり、黒鉛粉末の添加量に対して、10〜80質量%となるよう使用することが好ましい。
【0031】
ポリオレフィン系ワックスは、主原料粉末の表面を完全に被覆する状態となることが好ましいが、このような状態とすることは難しく、一部表面に主原料粉末の表面が露出する。本発明において、主原料粉末として鉄粉末および/または鉄基合金粉末を用いるため、一部表面に、鉄粉末および/または鉄基合金粉末が露出する。
【0032】
このようなポリオレフィン系ワックスで表面を被覆して黒鉛粉末を固着した粉末においては、搬送時の摩擦により、ポリオレフィン系ワックス表面が負の電荷に摩擦帯電する。ここで、ポリオレフィン系ワックスは絶縁性が高いので、ポリオレフィン系ワックス表面は負帯電した状態となる。一方、一部表面に露出する鉄粉末および/または鉄基合金粉末は、搬送時の摩擦により正帯電するので、負帯電した周囲のポリオレフィン系ワックス被覆を有する粉末を電気的に吸引する力が働く。
【0033】
このポリオレフィン系ワックス被覆粉末どうしの電気的吸引を防止するため、本発明においては、負帯電特性を持つ粉末を遊離粉末として添加する。負帯電特性を持つ粉末は、固着されていない遊離粉末であるので、正帯電した鉄粉末および/または鉄基合金粉末の露出部に電気的に吸引され、鉄粉末および/または鉄基合金粉末の露出部を覆う。このため、負帯電特性を持つ粉末が吸着したポリオレフィン系ワックス被覆粉末は、表面全体が負電荷となり、ポリオレフィン系ワックス被覆粉末どうしの電気的吸引が抑制される。
【0034】
さらに、鉄粉末および/または鉄基合金粉末の露出部に電気的に吸引されていない余剰の負帯電特性を持つ粉末は、表面全体が負電荷となっているポリオレフィン系ワックス被覆粉末に対して電気的に反発しあう斥力が働き、粉末混合物の流動性を向上させる。
【0035】
なお、鉄粉末および/または鉄基合金粉末の表面をポリオレフィン系ワックスで完全に被覆できた場合、上記のポリオレフィン系ワックス被覆粉末どうしの電気的吸引は生じないが、この場合であっても、負帯電特性を持つ粉末を添加すると、負帯電特性を持つ粉末とポリオレフィン系ワックス被覆粉末との間で電気的に反発しあう斥力が働くため、粉末混合物の流動性を向上させる作用を得ることができる。
【0036】
負帯電特性を持つ粉末は、鉄粉末および/または鉄基合金粉末の露出部に積極的に吸引される作用を発揮するため、摩擦帯電したポリオレフィン系ワックスの負電荷よりも、大きい負電荷を有するものを用いる。アルキルシラン、ジメチルシラン、オクチルシラン、メタクリルシラン、フルオロアルキルシラン、およびヘキサメチルジシラザンは高い負帯電性を有しているため、これらのうち少なくとも1種を表面に被覆した粉末を用いることが好ましい。
【0037】
負帯電特性を持つ粉末は、焼結を阻害したり、焼結体に影響を与えるものは好ましくない。この点からアルキルシラン、ジメチルシラン、オクチルシラン、メタクリルシラン、フルオロアルキルシラン、およびヘキサメチルジシラザンのうちの少なくとも1種を被覆する粉末は酸化物が好ましく、最大粒径が1〜15μmの微粉を用いることが好ましい。このような大きさの酸化物微粉としては酸化珪素粉末、酸化チタン粉末、酸化マグネシウム粉末が安価に入手可能である。
【0038】
アルキルシラン等を酸化物微粉に被覆するには、アルキルシラン等と酸化物微粉とを撹拌しながら、アルキルシラン等の融点以上まで昇温する混合工程を行う。この混合工程により、溶融したアルキルシラン等が酸化物微粉の表面に被覆され、その後、アルキルシラン等の融点以下まで冷却することにより、酸化物微粉の表面にアルキルシラン等の固化した被膜が形成される。
【0039】
負帯電特性を持つ粉末は、多量に添加すると焼結を阻害したり、焼結体に影響を与える虞があるため、必要量のみ添加することが好ましい。具体的には、主原料粉末となる鉄粉末および/または鉄基合金粉末100質量部に対し0.02〜0.5質量部とすることが好ましい。
【0040】
黒鉛粉末以外の副原料粉末は、以下の作用を得るために添加される。
1.主原料粉末により形成される焼結体の基地に拡散して焼結体基地を固溶強化したり、化合物を形成して焼結体の基地を強化して焼結体の強度を向上させる。
2.主原料粉末により形成される焼結体の基地に拡散して焼結体基地の焼入れ性等の特性を改善する。
3.焼結を活性にして焼結を促進し焼結体の強度を向上させる。
4.焼結体中に分散して焼結体の耐摩耗性や焼結体の被削性等の特性を改善する。
【0041】
主原料粉末として鉄粉末および/または鉄合金粉末を用いるので、副原料粉末としては、例えば、銅粉末や銅錫合金粉末等の銅合金粉末、ニッケル粉末、モリブデン粉末、鉄燐合金粉末等の鉄合金粉末、各種硬質相形成粉末、珪酸マグネシウム系鉱物粉末、弗化カルシウム粉末、硫化物粉末等が用いられる。副原料粉末は主原料粉末に対し30質量%以下、好ましくは20質量%以下、更に好ましくは10質量%以下が用いられる。
【0042】
このような副原料粉末は、黒鉛粉末と同様に、図1の副原料粉末3のように、主原料粉末となる鉄粉末および/または鉄基合金粉末の表面に固着して与えると好ましい。特に、例示した珪酸マグネシウム系鉱物粉末、弗化カルシウム粉末や一部硫化物粉末のような、主原料粉末となる鉄粉末および/または鉄基合金粉末に比して比重が小さい副原料粉末を用いる場合や、副原料粉末として粒径が小さい粉末を用いる場合は、黒鉛粉末と同様に偏在が生じ易いため、黒鉛粉末とともに副原料粉末を主原料粉末となる鉄粉末および/または鉄基合金粉末の表面に固着して与えることが好ましい。
【0043】
一方、比重が鉄粉末および/または鉄基合金粉末に近い金属粉末であってある程度の大きさを有する副原料粉末を用いる場合には、偏在が生じ難いので遊離粉末の形態で付与しても差し支えない。この場合、副原料粉末を固着する必要がないので、その分ポリオレフィン系ワックスの量を少なくすることができる。
【0044】
このため、副原料粉末が複数種の粉末からなり、一部が偏在し易い粉末である場合、偏在が生じ易い一部の副原料粉末のみを鉄粉末および/または鉄基合金粉末の表面に固着して与え、偏在が生じ難い残部の副原料粉末を遊離粉末として与えると、ポリオレフィン系ワックスの量を必要量のみとできるので好ましい。
【0045】
ポリオレフィン系ワックスは成形潤滑剤としても使用されるものであるが、本発明の粉末混合物において、ポリオレフィン系ワックスは結着剤として用いられるため、成形潤滑剤としての機能は低い。このため、金型の壁面を粉体あるいは液体の潤滑剤を塗布して成形を行う金型潤滑法(外部潤滑法)を用いた場合は、粉末混合物をそのまま使用できるが、金型の壁面を粉体あるいは液体の潤滑剤を塗布せず成形する場合は、成形潤滑剤の粉末を原料粉末に混合して与える混入潤滑法(内部潤滑法)とする必要がある。
【0046】
成形潤滑剤は従来から用いられているものを使用することができる。たとえば、ステアリン酸等の高級脂肪酸、ステアリン酸亜鉛やステアリン酸リチウム等の高級脂肪酸の金属塩等を用いることができる。成形潤滑剤は、溶融して付与すると潤滑特性が低下するため、遊離粉末として与えることが好ましい。また成形潤滑剤粉末の添加量は、従来から行われているように、粉末混合物100質量部に対し0.1〜1.5質量部程度である。
【0047】
上記の粉末混合物は、例えば、次のようにして製造することができる。まず、結着剤であるポリオレフィン系ワックスと、主原料粉末である鉄粉末および/または鉄基粉末の混合物を撹拌しながら、ポリオレフィン系ワックスの融点以上まで昇温する一次混合工程を行う。この一次混合工程により、溶融したポリオレフィン系ワックスが鉄粉末および/または鉄基粉末の表面に被覆される。
【0048】
次いで、一次混合工程により得られた粉末混合物をポリオレフィン系ワックスの融点以上で黒鉛粉末を添加し、撹拌する二次混合工程を行う。この二次混合工程により、鉄粉末および/または鉄基粉末の表面を被覆する溶融したポリオレフィン系ワックスに黒鉛粉末を付着する。この状態から冷却してポリオレフィン系ワックスの融点以下の温度とすれば、鉄粉末および/または鉄基粉末の表面にポリオレフィン系ワックスを結着剤として黒鉛粉末が固着された粉末混合物を得ることができる。一次混合工程の後、いったん冷却して粉末混合物とした後、これを別途再加熱して二次混合工程を行ってもよいが、冷却の手間と再加熱のエネルギーのロスを考えると、一次混合工程の後、冷却せず引き続き黒鉛粉末を添加して二次混合工程を行うことが好ましい。
【0049】
二次混合工程の後、得られた粉末混合物をポリオレフィン系ワックスの融点以下の温度で、負帯電特性を持つ粉末を添加し、混合する三次混合工程を行う。このようにポリオレフィン系ワックスの融点以下の温度で三次混合工程を行うことで、負帯電特性を持つ粉末を遊離粉末として与えることができる。三次混合工程は、二次混合工程の後の冷却過程でポリオレフィン系ワックスの融点以下の温度になった段階で開始してもよいが、二次混合工程で得られた粉末混合物を室温まで冷却した後、室温で、負帯電特性を持つ粉末を添加し混合してもよい。成形潤滑剤を添加する場合、この三次混合工程で添加して混合を行うことにより、成形潤滑剤を遊離粉末として与えることができる。
【0050】
粉末混合物が黒鉛粉末以外の副原料粉末を含む場合、二次混合工程で副原料粉末を添加して混合すると、副原料粉末を鉄粉末および/または鉄基粉末の表面に固着して与えることができる。また、三次混合工程で副原料粉末を添加して混合すると、副原料粉末を遊離粉末として与えることができる。
【0051】
上記のような粉末混合物を圧縮して圧粉体を形成し、圧粉体を焼結することにより、成分の偏析が抑制された焼結部材を得ることができる。成形および焼結の条件は、鉄系の焼結部材を製造するための一般的な条件でよい。
【実施例】
【0052】
[第1実施例]
鉄粉末(−300メッシュ)、電解銅粉末(−200メッシュ)、黒鉛粉末(−325メッシュ)および成形潤滑剤としてステアリン酸亜鉛粉末を用意するとともに、重量平均分子量Mwが8,000のポリオレフィン系ワックス(ポリエチレンワックス)を用意した。また、負帯電特性を持つ粉末として、表面をアルキルシランで被覆した酸化チタン粉末および酸化珪素粉末、表面をヘキサメチルジシラザンで被覆した酸化チタン粉末および酸化珪素粉末(いずれも最大粒径5μm)を用意した。
【0053】
鉄粉末100質量部に対し、0.5質量%のポリエチレンワックスを添加して、ヘンシェルミキサーに投入し、ミキサー内で加熱しつつ混合してポリエチレンワックスの融点(110℃)より高い130℃まで昇温し、溶融したポリエチレンワックスを鉄粉末表面に被覆する一次混合工程を行った。次いでポリエチレンワックスが溶融した状態において、銅粉末1.5質量%、黒鉛粉末1.0質量%になるように、それぞれ混合物に添加し混合して、溶融しているポリエチレンワックスにより鉄基粉末に銅粉末と黒鉛粉末を十分に付着させ、均質に分散させて二次混合工程を行った。この後撹拌しつつ室温まで冷却を行い二次混合物を得た。
【0054】
得られた二次混合物に負帯電特性を持つ粉末を表1に示す割合で添加(添加割合は鉄粉末に対する質量部)するとともに、成形潤滑剤粉末0.8質量%を添加してV型ミキサーで混合し試料番号01〜33の粉末混合物を作製した。また、比較のため、鉄粉末に銅粉末1.5質量%、黒鉛粉末1.0質量%および成形潤滑剤粉末0.8質量%を添加してV型ミキサーで混合し試料番号34の粉末混合物を作製した。
【0055】
これらの粉末混合物について、黒鉛粉末の付着率、流動度、および抜き出し圧力を測定した。
【0056】
黒鉛粉末の付着率は、まず、負帯電粉末を添加しない粉末混合物(試料番号01)について、JIS規格のG1211に規定された高周波誘導加熱炉燃焼−赤外線吸収法により炭素量分析を行って炭素量を測定した。この炭素量は固着できず遊離した黒鉛粉末を含む粉末混合物試料全体の炭素量(黒鉛粉末およびワックスの炭素成分合計の炭素量)である。次いで、各粉末混合物試料について、固着できず遊離した黒鉛粉末等や遊離して与えた負帯電粉末の影響を避けるため、混合粉末を100メッシュおよび200メッシュの篩で篩い分け、100メッシュの篩を通過し200メッシュの篩を通過しない粉末(粒径75〜150μmの粉末)を採取し、この粉末についてJIS規格のG1211に規定された高周波誘導加熱炉燃焼−赤外線吸収法により炭素量分析を行って炭素量を測定した。この炭素量は、鉄粉にワックスを介して付着した黒鉛粉末の炭素量(黒鉛粉末およびワックスの炭素成分合計の炭素量)である。黒鉛粉末の付着率は、このように測定した遊離した黒鉛粉末を含む粉末混合物試料全体の炭素量と、鉄粉にワックスを介して付着した黒鉛粉末の炭素量を用い、遊離した黒鉛粉末を含む粉末混合物試料全体の炭素量に対し、鉄粉にワックスを介して付着した黒鉛粉末の炭素量の割合として求めた。
【0057】
粉末混合物の流動度の測定はJIS規格のZ2502に規定された流動度試験方法により行った。なお、流動度は、数値が低い方がよい。
【0058】
抜き出し圧力は、ダイをスプリングにより支持し下パンチ固定のフローティングダイ方式のダイセットとし、下パンチの受圧板にロードセルを組み込んだ構造のダイセットを用い、アムスラー型万能試験機により直径11.3mm、高さ10mmの円柱状成形体を700MPaの圧力で成形し、金型から抜き出す際の抜き出し荷重を測定し、成形体の外周面積で除して求めた。これらの値を表1に併せて示す。
【0059】
【表1】
【0060】
表1は負帯電粉末の添加量の影響を調べたものであり、試料番号01〜09は表面をアルキルシランで被覆した酸化チタン粉末、試料番号01、10〜17は表面をアルキルシランで被覆した酸化珪素粉末、試料番号01、18〜25は表面をヘキサメチルジシラザンで被覆した酸化チタン粉末、試料番号01、26〜33は表面をヘキサメチルジシラザンで被覆した酸化珪素粉末を用いた場合の例である。
【0061】
表1の試料番号34は、ポリオレフィン系ワックスを用いない通常の単純混合した粉末混合物の例であるが、100メッシュの篩を通過し200メッシュの篩を通過しない粉末(粒径75〜150μmの粉末)において、黒鉛粉末の付着率は30%と低い値となっている。なお、この30%の黒鉛粉末は、不規則形状の鉄粉末の窪み等に嵌って存在する黒鉛粉末である。一方、試料番号01の粉末混合物試料は、鉄粉末表面にポリオレフィン系ワックスにより黒鉛粉末が付着し、黒鉛粉末の付着率が97%と高い付着率を示す。しかしながら、試料番号01の粉末混合物試料は、流動性が試料番号34の通常の単純混合した粉末混合物に対し低下している。
【0062】
このような鉄粉末表面にポリオレフィン系ワックスにより黒鉛粉末を付着させた粉末混合物に負帯電粉末を0.02質量%添加した粉末混合物試料(試料番号02、10、18および26)は、粉末混合物の流動性が向上し、試料番号34の通常の単純混合した粉末混合物よりも流動度が小さくなっている。また、負帯電粉末の添加量が増加するに従い粉末混合物の流動性はさらに向上している。ただし、負帯電粉末を0.3質量%を超えて粉末混合物に添加してもそれ以上の流動性の向上は認められない。
【0063】
以上のことから、ポリオレフィン系ワックスを用いて黒鉛粉末を鉄粉末の表面に付着することで黒鉛粉末の付着率を大幅に向上できるが、流動性が低下すること、この流動性の低下は、ポリオレフィン系ワックスを用いて黒鉛粉末を鉄粉末の表面に付着した粉末混合物に負帯電粉末を0.02質量%以上添加することにより抑制することができ、この場合、流動性を通常の単純混合した粉末混合物よりも向上することができることが確認された。
【0064】
また、以上の負帯電粉末の効果は、負帯電粉末として、アルキルシラン被覆酸化チタン粉末、アルキルシラン被覆酸化珪素粉末、ヘキサメチルジシラザン被覆酸化チタン粉末、およびヘキサメチルジシラザン被覆酸化珪素粉末のいずれを用いた場合でも同様の効果があることが確認され、負帯電特性を持つ粉末であれば同様の効果が得られることが確認された。
【0065】
なお、鉄粉末表面にポリオレフィン系ワックスにより黒鉛粉末を付着させた粉末混合物(試料番号01)は、ワックスが潤滑剤として機能して通常の単純混合した粉末混合物(試料番号34)に比して抜き出し圧力が7割程度に低減するが、鉄粉末表面にポリオレフィン系ワックスにより黒鉛粉末を付着させた粉末混合物に負帯電粉末を添加すると、抜き出し圧力が増加する。また、負帯電粉末の添加量が増加するに従い抜き出し圧力が増加する傾向が認められ、負帯電粉末の添加量が0.5質量%の試料(試料番号08、16、24および32)の粉末混合物は、抜き出し圧力が、通常の単純混合した粉末混合物(試料番号34)に対して8割程度にまで低減し、負帯電粉末の添加量が0.5質量%を超えると、抜き出し圧力が、通常の単純混合した粉末混合物(試料番号34)に対して9割程度にまで低減することとなる。以上のことから鉄粉末表面にポリオレフィン系ワックスにより黒鉛粉末を付着させた粉末混合物への負帯電粉末の添加量は0.5質量%以下とすることが好ましいことがわかった。
【0066】
[第2実施例]
第1実施例の鉄粉末、銅粉末、黒鉛粉末、成形潤滑剤粉末を用いるとともに、負帯電特性を有する粉末としてアルキルシランで被覆した酸化チタン粉末を用い、ポリオレフィン系ワックスを表2の重量平均分子量Mwのものに変更した以外は第1実施例と同様にして試料番号35〜45の粉末混合物を作製した。得られた粉末混合物について、第1実施例と同様にして付着率、流動度、見掛け密度および抜き出し圧力を測定した。これらの結果を表2に併せて示す。
【0067】
【表2】
【0068】
表2より、ポリオレフィン系ワックスの重量平均分子量Mwによらず、ポリオレフィン系ワックスを用いて鉄粉末表面に黒鉛粉末を付着させた粉末混合物は、通常の単純混合した粉末混合物(試料番号34)に比べて高い黒鉛粉末の付着率を示す。
【0069】
なお、ポリオレフィン系ワックスの重量平均分子量Mwが500の粉末混合物試料(試料番号27)は、鉄粉末表面に被覆したワックスが軟らかく、このため付着率が若干低く、かつ流動度が通常の単純混合した粉末混合物(試料番号34)と同程度である。一方、ポリオレフィン系ワックスの重量平均分子量Mwが1000以上の粉末混合物試料(試料番号06、36〜45)では、鉄粉末表面に被覆したワックスが試料番号27の粉末混合物試料よりも硬くなるため、付着率が向上し、かつ流動性が通常の単純混合した粉末混合物(試料番号34)よりも向上する。このことから、重量平均分子量Mwが1000以上のポリオレフィン系ワックスを用いると、黒鉛粉末の付着率のみならず流動性をも向上できることがわかった。
【0070】
一方、ポリオレフィン系ワックスの重量平均分子量Mwが増加するに従い、抜き出し圧力は増加する傾向を示している。ただし、ポリオレフィン系ワックスの重量平均分子量Mwが40,000の粉末混合物試料(試料番号45)は、通常の単純混合した粉末混合物(試料番号34)より抜き出し圧力が低い値である。しかしながら、ポリオレフィン系ワックスの重量平均分子量Mwが40,000を超えると、通常の単純混合した粉末混合物(試料番号34)と同程度まで低下すると考えられる。このため、抜き出し圧力を考慮すると、ポリオレフィン系ワックスの重量平均分子量Mwは、40,000以下のものを用いることが望ましい。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明の粉末混合物は、混合粉末中の粉末の偏在が抑制され、混合粉末の流動性に優れており、押型法による焼結機械部品を成分の偏析を抑制してバラツキを生じさせることなく製造できるものであるから、各種焼結機械部品の製造に好適である。
【符号の説明】
【0072】
1…主原料粉末、2…黒鉛粉末、3…副原料粉末、4…ポリオレフィン系ワックス、
5…負帯電特性を持つ粉末、6…成形潤滑剤粉末
図1
図2
図3
図4