【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記した目的を達成すべく鋭意研究を重ねてきた。その結果、9族元素からなる金属、又は金属成分として8族元素若しくは9族元素を含み、配位子として窒素含有多環式化合物を含む金属錯体は、ヒドラジン化合物に対して電気化学的酸化触媒として良好な活性を有するものであり、同時に、ヒドラジン化合物の自己分解反応に対する活性が非常に低いことを見出した。そして、これらの金属錯体又は金属をアノード触媒として用いることにより生じるヒドラジン化合物の電気化学的酸化反応を、カソードにおける水素発生反応と組み合わせることによって、水素の発生速度・発生量等の制御が可能となり、しかも、水素発生反応の際に生じる電気化学的エネルギーを有効利用することが可能となることを見出した。本発明は、これらの知見に基づいて更に研究を重ねた結果完成されたものである。
【0010】
即ち、本発明は、下記の水素発生方法、及び該方法に用いる水素発生装置に関する。
項1. ヒドラジン化合物を含む水溶液中に、アノード極とカソード極を浸漬し、外部回路によって両極を電気的に接続することを含む水素発生方法であって、
アノード極が、(1)9族元素からなる金属、及び(2)金属成分として8族元素又は9族元素を含み、配位子として窒素含有多環式化合物を含む金属錯体、からなる群から選ばれた少なくとも一種をアノード触媒として含むものである、水素発生方法。
項2. カソード極が、10族元素からなる金属をカソード触媒として含むものである、項1に記載の水素発生方法。
項3. 更に、アノード極とカソード極間に接続した直流電源により、アノード極に正の電圧を印加することを含む、項1又は2に記載の水素発生方法。
項4. ヒドラジン化合物が、ヒドラジン、ヒドラジン水和物、及びヒドラジン誘導体からなる群から選ばれた少なくとも一種の化合物である、項1〜3のいずれかに記載の水素発生方法。
項5. ヒドラジン化合物を含む水溶液が、pH11以上のアルカリ性水溶液である項1〜4のいずれかに記載の水素発生方法。
項6. 水素取出口を備えた、ヒドラジン化合物を含有する水溶液を収容する容器と、
該容器中に設置したアノード極及びカソード極と、
該アノード極とカソード極を電気的に接続する外部回路と、
該外部回路を開閉する開閉部とを有する水素発生装置であって、
該アノード極が、(1)9族元素からなる金属、及び(2)金属成分として8族元素又は9族元素を含み、配位子として窒素含有多環式化合物を含む金属錯体、からなる群から選ばれた少なくとも一種をアノード触媒として含むものである、水素発生装置。
項7. 水素取出口を備えた、ヒドラジン化合物を含有する水溶液を収容する容器と、
該容器中に設置したアノード極及びカソード極と、
該アノード極とカソード極の間に結合された直流電源とを有する水素発生装置であって、
該アノード極が、(1)9族元素からなる金属、及び(2)金属成分として8族元素又は9族元素を含み、配位子として窒素含有多環式化合物を含む金属錯体、からなる群から選ばれた少なくとも一種をアノード触媒として含むものである、水素発生装置。
項8. カソード極が、10族元素からなる金属をカソード触媒として含むものである、6又は7に記載の水素発生装置。
項9. 項6に記載の水素発生装置であって、アノード極用触媒として、開回路時のアノード極の電位がカソード極の電位より低い触媒を用いることを特徴とする自己発電作用を有する水素発生装置。
【0011】
以下、本発明の水素発生方法、及び該方法に用いる水素発生装置について説明する。
【0012】
(1)水素発生用化合物
本発明では、水素発生源となる化合物としては、ヒドラジン、ヒドラジン水和物、及びヒドラジン誘導体からなる群から選ばれた少なくとも一種のヒドラジン化合物を用いる。
【0013】
これらの内で、ヒドラジン誘導体の具体例としては、下記一般式
【0014】
【化1】
【0015】
(式中、X
1は、水素原子又は低級アルキル基を示す。)で表されるカルバジン酸エステル、下記一般式
【0016】
【化2】
【0017】
(式中、X
2及びX
3は、同一又は異なって、-NH
2、水素原子又は低級アルキル基を示す。)で表されるカルバジン酸アミドなどを挙げることができる。
【0018】
上記各一般式において、低級アルキル基としては、炭素数1〜5程度の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を挙げることができ、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、tert−ブチル、sec−ブチル、n−ペンチル、1−エチルプロピル、イソペンチル、ネオペンチル等を例示できる。
【0019】
上記一般式で表されるカルバジン酸エステルの具体例としては、メチルカルバゼート等を挙げることができ、カルバジン酸アミドの具体例としては、カルボヒドラジド等を挙げることができる。
【0020】
本発明では、水素発生源としては、ヒドラジン、ヒドラジン水和物、及びヒドラジン誘導体を一種単独又は二種以上混合して用いることができる。
【0021】
(2)水素発生方法
本発明の水素発生方法は、水素発生用原料化合物としてのヒドラジン化合物を含む水溶液中に、アノード極とカソード極を浸漬し、外部回路によって両極を電気的に接続し、必要に応じて、両極間に直流電源を接続してアノード極に正電圧を印加することによって、下記化学反応式に示すアノード反応としてのヒドラジン化合物の電気化学的酸化反応と、カソード反応としての水の電気化学的還元反応による水素発生反応を促進させ、これによって水素を発生させる方法である。尚、下記アノード反応の反応式では、ヒドラジンを代表例として示す。
【0022】
アノード反応: N
2H
4 → N
2 + 4H
+ +4e
−
カソード反応: 4H
+ +4e
− → 2H
2
この方法によれば、アノード極とカソード極間を電気的に接続した外部回路の開閉と、印加電圧の制御によって、水素発生量を制御することが可能である。このため、必要とされる水素供給量に応じて、必要時にのみ必要量に応じた水素を発生させることができる。
【0023】
以下、本発明の水素発生方法で用いる電極触媒について説明する。
【0024】
(i)アノード触媒
本発明の水素発生方法では、上記アノード反応に用いる触媒として、(1)9族元素からなる金属、及び(2)金属成分として8族元素又は9族元素を含み、配位子として窒素含有多環式化合物を含む金属錯体、からなる群から選ばれた少なくとも一種を用いる。
【0025】
これらの金属及び金属錯体は、いずれもヒドラジン化合物の電気化学的酸化反応に対して活性を有すものであって、ヒドラジン化合物の自己分解反応に対しては活性を示さないか、或いは活性が非常に低い物質である。
【0026】
このため、上記した触媒をアノード極用の触媒として用いることによって、アノード極とカソード極を電気的に接続した場合、水素発生反応の反応速度を向上させることができ、アノード極とカソード極間の回路を開いた場合には、水素発生反応を制御するか、或いは水素発生反応を停止することが可能となる。
【0027】
上記したアノード触媒の内で、9族元素からなる金属の具体例としては、コバルト、ロジウム、イリジウム等を例示できる。これらの金属からなる触媒の形態については特に限定はなく、任意の形態の金属を用いることができるが、例えば、線状の金属を用いることができる。
【0028】
金属錯体における8族元素としては、鉄、ルテニウムなどを例示でき、9族元素としては、コバルト、ロジウム、イリジウムなど例示できる。また、配位子として用いる窒素含有多環式化合物としては、ポルフィリン化合物、フタロシアニン化合物、サレン化合物等を例示できる。
【0029】
本発明で用いるアノード触媒は、8族元素又は9族元素を金属成分として含み、配位子として、窒素含有多環式化合物を含む金属錯体であればよく、配位子の具体的な構造については特に限定的ではない。
【0030】
以下、該アノード触媒の有効成分である金属錯体について、好ましい具体例を示す。
【0031】
(1)化学式:
【0032】
【化3】
【0033】
(式中、R
1〜R
12は、同一又は異なって、それぞれ、アルキル基、置換基を有することのあるアリール基、水素原子又はハロゲン原子を示し、Mは、8族元素又は9族元素を示す。)で表される金属ポルフィリン錯体。
【0034】
上記化学式において、Mで表される中心金属元素は、8族元素又は9族元素であり、具体例として、鉄、ルテニウム、コバルト、ロジウムなどを挙げることができる。
【0035】
R
1〜R
12は、同一又は異なって、それぞれ、アルキル基、置換基を有することのあるアリール基、水素原子又はハロゲン原子を示す。これらの内で、アルキル基としては、メチル、エチル、イソプロピル、n−プロピル、t−ブチル、sec−ブチル、n−ブチル、イソブチル、n−ペンチルなどの炭素数1〜5程度の直鎖状又は分岐鎖状の低級アルキル基が好ましい。また、ハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素などが好ましい。置換基を有することのあるアリール基としては、フェニル基、置換基を有するフェニル基、ピリジル基、置換基を有するピリジル基等が好ましい。
【0036】
これらの内で、R
1、R
4、R
7及びR
10が全て置換基を有することのあるアリール基である場合には、メソ位が化学的に保護されているために、酸化反応などに対する安定性が高くなる。
【0037】
置換基を有するアリール基の内で、置換基を有するピリジル基としては、1−メチルピリジル基等を例示できる。置換基を有するフェニル基における置換基としては、低級アルコシキ基、低級アルキル基、ハロゲン原子、−SO
3M
1(式中、M
1は水素原子、アルカリ金属又は−NH
4である)、−COOM
2(式中、M
2は水素原子、アルカリ金属、−NH
4又はアルキル基である)、−OCH
2−COOM
3(式中、M
3は水素原子、アルカリ金属、−NH
4又はアルキル基である)等を例示できる。
【0038】
これらの内で、置換基として低級アルコキシ基を有するフェニル基としてはパラ-メトキシフェニル基等、置換基として低級アルキル基を有するフェニル基としては、パラ-メチルフェニル基、2,4,6-トリメチルフェニル基等、置換基としてハロゲン原子を有するフェニル基としてはペンタフルオロフェニル基等を例示できる。
【0039】
フェニル基の置換基の内で、−SO
3M
1では、M
1は水素原子、アルカリ金属又は−NH
4である。これらの内で、アルカリ金属としては、K、Na等を例示できる。フェニル基の置換基の内で、−COOM
2では、M
2は水素原子、アルカリ金属、−NH
4又はアルキル基である。これらの内で、アルカリ金属としては、K、Na等を例示できる。アルキル基としては、上記した基と同様の基を例示できる。また、フェニル基の置換基の内で、−OCH
2−COOM
3では、M
3は水素原子、アルカリ金属、−NH
4又はアルキル基である。これらの内で、アルカリ金属としては、K、Na等を例示できる。アルキル基としては、上記した基と同様の基を例示できる。
【0040】
−SO
3M
1、−COOM
2、−OCH
2−COOM
3等の置換基は、例えばフェニル基の4位に置換することができるが、これに限定されるものではない。
【0041】
上記化学式で表されるポルフィリン錯体の代表例として、R
1, R
4, R
7及びR
10が置換基を有することのあるフェニル基であって、R
2, R
3, R
5, R
6, R
8, R
9, R
11及びR
12が水素原子であるテトラフェニルポリフィリン錯体; R
1, R
4, R
7及びR
10が水素原子であって、R
2, R
3, R
5, R
6, R
8, R
9, R
11及びR
12が低級アルキル基であるオクタアルキルポリフィリン錯体等を挙げることができる。
【0042】
(2)化学式
【0043】
【化4】
【0044】
(式中、R
1〜R
8は、同一又は異なって、それぞれ、水素原子、アルキル基、ヒドロキシアルキル基、アルケニル基、基:-SO
3M
1(式中、M
1は、水素原子、アルカリ金属又は−NH
4である)、又は基:−R
9−COOM
2(式中、R
9は直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基であり、M
2は水素原子、アルカリ金属又はアルキル基である)を示すか、或いは、R
1とR
2、R
3とR
4、R
5とR
6、R
7とR
8の各組み合わせの少なくとも一組は互いに結合して、これらの各基が結合する炭素原子と共に、置換基を有することのある芳香族環を形成してもよい。Mは、8族元素又は9族元素を示す。但し、R
1〜R
8の少なくとも一つは、基:−R
9−COOM
2である)で表される金属ポルフィリン錯体。
【0045】
上記化学式において、Mで表される中心金属元素は、8族元素又は9族元素であり、具体例として、鉄、ルテニウム、コバルト、ロジウムなどを挙げることができる。
【0046】
上記化学式において、アルキル基としては、メチル、エチル、イソプロピル、n−プロピル、t−ブチル、sec−ブチル、n−ブチル、イソブチル、n−ペンチルなどの炭素数1〜5程度の直鎖状又は分岐鎖状の低級アルキル基が好ましい。
【0047】
ヒドロキシアルキル基のアルキル基部分としては、メチル、エチル、イソプロピル、n−プロピル、t−ブチル、sec−ブチル、n−ブチル、イソブチル、n−ペンチルなどの炭素数1〜5程度の直鎖状又は分枝鎖状の低級アルキル基を例示できる。ヒドロキシ基は、該アルキル基の任意の炭素原子に置換することができる。
【0048】
アルケニル基としては、例えばビニル、アリル、2−ブテニル、3−ブテニル、1−メチルアリル、2−ペンテニル、2−ヘキセニル基等の炭素数2〜6の直鎖又は分枝鎖状アルケニル基を挙げることができる。
【0049】
基:-SO
3M
1において、M
1は水素原子、アルカリ金属又は−NH
4である。これらの内で、アルカリ金属としては、K、Na等を例示できる。
【0050】
基:−R
9−COOM
2において、R
9で表されるアルキレン基としては、例えばメチレン、エチレン、トリメチレン、2−メチルトリメチレン、2,2−ジメチルトリメチレン、1−メチルトリメチレン、メチルメチレン、エチルメチレン、テトラメチレン、ペンタメチレン、ヘキサメチレン基等の炭素数1〜6の直鎖又は分枝鎖状アルキレン基を例示できる。M
2で表されるアルキル基とアルカリ金属は、上記したものと同様である。
【0051】
(3)化学式
【0052】
【化5】
【0053】
(式中、R
1〜R
16は、同一又は異なって、それぞれ、水素原子、アルキル基、アルコキシル基、ハロゲン原子又はスルホン酸基を示すか、或いは、R
2とR
3、R
6とR
7、R
10とR
11、R
14とR
15の各組み合わせの少なくとも一組は互いに結合して、これらの各基が結合する炭素原子と共に、置換基を有することのある芳香族環を形成してもよい。また、Mは、8族元素又は9族元素を示す。)で表される金属フタロシアニン錯体。
【0054】
上記化学式において、Mで表される中心金属元素は、8族元素又は9族元素であり、具体例として、鉄、ルテニウム、コバルト、ロジウムなどを挙げることができる。
【0055】
上記化学式において、R
1〜R
16は、同一又は異なって、それぞれ、水素原子、アルキル基、アルコキシル基、ハロゲン原子又はスルホン酸基を示す。更に、これらの内で、R
2とR
3、R
6とR
7、R
10とR
11、R
14とR
15の各組み合わせの少なくとも一組は互いに結合して、これらの各基が結合する炭素原子と共に、置換基を有することのある芳香族環を形成してもよい。
【0056】
これらの内で、アルキル基としては、メチル、エチル、イソプロピル、n−プロピル、t−ブチル、sec−ブチル、n−ブチル、イソブチル、n−ペンチルなどの炭素数1〜5程度の直鎖状又は分岐鎖状の低級アルキル基が好ましい。アルコキシ基としては、例えば、メトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、イソプロポキシ、n−ブトキシ、tert−ブトキシ、n−ペンチルオキシ、n−ヘキシルオキシ基等の炭素数1〜6の直鎖又は分枝鎖状アルコキシル基が好ましい。また、ハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素などが好ましい。
【0057】
また、R
2とR
3、R
6とR
7、R
10とR
11、R
14とR
15の各組み合わせが互いに結合して、これらの各基が結合する炭素原子と共に、置換基を有することのある芳香族環を形成した化合物として、下記化学式
【0058】
【化6】
【0059】
で表される化合物を例示できる。上記化学式において、R
17〜R
32は、同一又は異なって、それぞれ、水素原子、アルキル基、アルコキシル基、ハロゲン原子又はスルホン酸基を示す。これらの各基の具体例は、R
1〜R
16と同様である。
【0060】
(4)化学式:
【0061】
【化7】
【0062】
(式中、Mは、8族元素又は9族元素を示す。)で表される金属サレン錯体。
【0063】
上記化学式において、Mで表される中心金属元素は、8族元素又は9族元素であり、具体例として、鉄、ルテニウム、コバルト、ロジウムなどを挙げることができる。
【0064】
尚、上記したサレン錯体では、サレン環上に任意の置換基が存在しても良い。
【0065】
金属錯体の製造方法
上記した金属錯体は、例えば、目的とする錯体の配位子となる化合物と金属化合物を溶媒中に溶解し、加熱することによって製造することができる。
【0066】
溶媒としては、配位子となる化合物と金属化合物を溶解できる溶媒を用いればよく、例えば、エタノール、ジメチルフォルムアミドなどを用いることができる。加熱温度については、例えば、使用する溶媒の還流温度とすればよい。
【0067】
担持触媒
上記した金属錯体は、導電性担体に担持させることにより、ヒドラジン化合物の電気化学的酸化反応に対して高い触媒活性を有するものとすることができる。
【0068】
導電性担体としては、特に限定はなく、例えば、従来から固体高分子形燃料電池用の触媒担体等として用いられている各種の担体を用いることができる。この様な担体の具体例としては、カーボンブラック、活性炭、黒鉛等の炭素質材料を挙げることができる。これらの内で、カーボンブラックは、導電性に優れ、比表面積も大きいために、導電性担体として特に好ましい物質である。
【0069】
導電性担体の形状などについては特に限定はないが、例えば、平均粒径が0.1〜100μm程度、好ましくは1〜10μm程度のものを用いることができる。また、カーボンブラックを用いる場合には、例えば、BET法による比表面積が100〜800m
2/g程度の範囲内にあるものが好ましく、200〜300 m
2/g程度の範囲内にあるものがより好ましい。この様なカーボンブラックの具体例としては、Vulcan XC-72R(Cabot社製)の商標名で市販されているものを挙げることができる。
【0070】
導電性担体に担持させる方法としては、例えば、溶解乾燥法、気相法などの公知の方法を適用できる。
【0071】
例えば、溶解乾燥法では、金属錯体を有機溶媒に溶解させ、この溶液に導電性担体を加えて、例えば、数時間撹拌して、該担体に金属錯体を吸着させた後、有機溶媒を乾燥させればよい。また、有機溶媒中に金属錯体が多量に含まれる場合には、平衡に達するまで金属錯体を導電性担体に吸着させた後、濾過することによって、導電性担体に吸着していない金属錯体を除去して、該担体と相互作用している金属錯体のみを該担体の表面に残すことができる。
【0072】
この方法では、有機溶媒としては、金属錯体を溶解できるものであれば、特に限定なく使用できる。例えば、ジクロロメタン、クロロホルム等の塩素系炭化水素やエタノールなど低級アルコールを好適に用いることができる。
【0073】
濾過によって得られた分散物を、さらに有機溶媒を用いて洗浄液が透明になるまで洗浄すれば、導電性担体との相互作用の弱い金属錯体を洗い流すことができ、導電性担体に強固に吸着している金属錯体のみを含む高活性な触媒を得ることができる。
【0074】
気相法で担持させる場合には、例えば、プラズマ蒸着法、CVD法、加熱蒸着法などを公知の方法を採用できる。
【0075】
導電性担体上に担持させる金属錯体の量については、特に限定はないが、例えば、
導電性担体上に担持させる金属錯体の量については、特に限定はないが、例えば、導電性担体1gに対して、金属錯体を10μmol〜1000μmol程度担持させることが好ましく、20μmol〜100μmol程度担持させることがより好ましい。
【0076】
(ii)カソード触媒
本発明の水素発生方法では、カソード反応用の触媒としては、水を電気化学的に還元して水素を発生する反応の過電圧が低い金属、金属酸化物などを用いることができる。本発明では、特に、10族元素からなる金属をカソード触媒とすることが好ましい。10族元素からなる金属は、水の電気化学的還元反応に対する過電圧が低く、且つ、ヒドラジン化合物の自己分解反応に対して活性が殆ど無い物質であり、ヒドラジン化合物を含有する水溶液中に浸漬するだけでは、ヒドラジンの分解反応や水素の発生反応を進行させることが殆どなく、上記したアノード極と電気的に接続し、必要に応じて、電圧を印加することによって、水素発生反応を促進することができる。
【0077】
(iii)水素発生方法
本発明の水素発生方法では、ヒドラジン化合物を含有する水溶液中に、上記したアノード触媒を有するアノード極と、カソード触媒を有するカソード極を浸漬し、外部回路によって両極を電気的に接続する。この際、開回路時のアノード極の電位がカソード極の電位よりも負である場合には、外部回路を閉じて両極を電気的に接続することによって、カソード極において水素発生反応の反応速度が上昇して、水素発生を促進することができる。更に、両極間に直流電源を接続し、アノード極に正電圧を印加することによって、水素発生速度を向上させることができる。
【0078】
また、開回路時のアノード電位がカソード電位よりも正である場合には、ヒドラジン化合物を含有する水溶液中に浸漬したアノード極とカソード極を電気的に接続するだけでは水素発生反応を促進させることができないが、両極間に直流電源を接続し、アノード極に正電圧を印加することによって、水素発生速度を上昇させることができる。具体的に印加する電圧の大きさについては、使用するヒドラジン化合物の種類、水溶液の状態、アノード触媒の種類、カソード触媒の種類などと、目的とする水素発生速度、水素発生量などに応じて適宜決めればよい。
【0079】
アノード極及びカソード極としては、上記したアノード触媒とカソード触媒を有する電極であれば良く、具体的な形状などは特に限定されない。
【0080】
例えば、アノード触媒として9族元素の金属を用いる場合、カソード触媒として10族元素の金属を用いる場合等には、これらの金属からなる金属線をそのままアノード極として用いることができる。
【0081】
また、アノード触媒として上記した金属錯体、又は該金属錯体を導電性担体に担持させた担持触媒を用いる場合には、炭素材料(Vulcan XC72R, ケッチェンブラック等)等の導電性基材にアノード触媒を固定した電極を用いることができる。アノード極における触媒の量については特に限定はないが、例えば、0.1〜5.0mg/cm
2程度とすることができ、0.1〜3.0mg/cm
2程度とすることが好ましい。
【0082】
本発明の水素発生方法では、ヒドラジン化合物を含有する水溶液におけるヒドラジン化合物の濃度については、特に限定的ではないが、効率よく水素を発生させるためには、上記したヒドラジン化合物の濃度を1mmol/L〜5mol/L程度含有することが好ましく、0.2mol/L〜1.5mol/L程度含有することがより好ましい。
【0083】
更に、ヒドラジン化合物を含有する水溶液は、アルカリ性であることが好ましく、特に、pHが11程度以上であることが好ましい。
【0084】
本発明の水素発生方法では、ヒドラジン化合物を含有する水溶液の液温については特に限定はなく、通常は、室温で反応を進行させることができる。
【0085】
図1に、本発明の水素発生方法に用いる水素発生装置の一実施態様の概略図を示す。
【0086】
図1に示す装置は、水素取出口を備えた、ヒドラジン化合物を含有する水溶液を収容する容器と、該容器中に設置したアノード極及びカソード極と、該アノード極とカソード極の間に接続された直流電源とを有するものであって、アノード極が、(1)9族元素からなる金属、及び(2)金属成分として8族元素又は9族元素を含み、配位子として窒素含有多環式化合物を含む金属錯体、からなる群から選ばれた少なくとも一種をアノード触媒として含むものである。
【0087】
本発明で用いるアノード触媒は、ヒドラジン化合物の電気化学的酸化反応に対して高い活性を有すものであって、ヒドラジン化合物の自己分解反応に対しては不活性であるか、或いは活性が非常に低い物質である。このため、アノード極とカソード極を連結する外部回路を開いた状態では、ヒドラジン水素化物の自己分解による水素発生を抑制することができる。また、外部回路を閉じ、使用する電解液の種類、アノード触媒の種類、カソード触媒の種類などに応じて、外部電源から付与する電圧を調整することにより、水素発生反応の速度、水素発生量などを簡単に制御することができる。具体的には、上記した構造の水素発生装置において、開回路時のアノード極の電位がカソード極の電位より低い場合には、外部回路を閉じることによって、前述した反応に基づく水素発生反応を進行させることができる。更に、必要に応じて、両極間に接続した直流電源を用いてアノード極に正電圧を付与し、電位を調整することによって、水素発生速度、水素発生量などを制御することができる。また、開回路時のアノード極の電位がカソード極の電位より高い場合には、両極間に接続した直流電源を用いて、アノード極に正電圧を印加することによって、水素発生反応を進行させることができる。このため、両極間に印加する電圧を調整することによって、水素発生速度、水素発生量などを制御することが可能である。
【0088】
特に、開回路時のアノード極の電位がカソード極の電位より低い場合には、
図2に示す、外部電源を含まない水素発生装置を用いた場合にも、水素発生反応を促進させることができる。
図2に示す水素発生装置は、水素取出口を備えた、ヒドラジン化合物を含有する水溶液を収容する容器と、該容器中に設置したアノード極及びカソード極と、該アノード極とカソード極を電気的に接続する外部回路と、該外部回路を開閉する開閉部を備えたものであって、アノード触媒として、上記した特定の触媒を有するものである。
【0089】
図2に示す水素発生装置は、外部回路を閉じることによって、カソード反応とアノード反応を自発的に進行させることができるので、水素発生のために外部電源が不要であり、装置の構造が簡略化される。更に、
図2に示す水素発生装置によれば、外部回路を閉じるだけで水素発生反応進行するので、水素発生反応時のカソード電位とアノード電位の電位差を電気エネルギーとして取得できる。このため、自己発電作用を有する水素発生装置として、原料とするヒドラジン化合物から、高いエネルギー変換効率で化学エネルギーと電気エネルギーを得ることが可能となる。
【0090】
本発明の水素発生装置を用いて発生した水素の用途については特に限定はないが、例えば、燃料電池の燃料等として用いることができる。この場合には、例えば、上記した水素発生装置の水素取り出し口を水素供給ラインに接合して、発生した水素を燃料電池に供給すればよい。