特許第5946038号(P5946038)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5946038
(24)【登録日】2016年6月10日
(45)【発行日】2016年7月5日
(54)【発明の名称】ヒドラジン化合物からの水素発生方法
(51)【国際特許分類】
   C25B 1/02 20060101AFI20160621BHJP
   C25B 11/06 20060101ALI20160621BHJP
   C25B 11/08 20060101ALI20160621BHJP
   C01B 3/22 20060101ALI20160621BHJP
   C01B 3/04 20060101ALI20160621BHJP
【FI】
   C25B1/02
   C25B11/06 A
   C25B11/08 A
   C25B11/08 Z
   C01B3/22 Z
   C01B3/04 Z
【請求項の数】7
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2012-182516(P2012-182516)
(22)【出願日】2012年8月21日
(65)【公開番号】特開2014-40625(P2014-40625A)
(43)【公開日】2014年3月6日
【審査請求日】2015年3月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 眞一
【審査官】 伊藤 寿美
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−071645(JP,A)
【文献】 特開2010−075921(JP,A)
【文献】 特開2012−148225(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 1/00−15/08
C01B 3/00− 3/58
B01J 23/00−23/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒドラジン化合物を含む水溶液中に、アノード極とカソード極を浸漬し、外部回路によって両極を電気的に接続することを含む水素発生方法であって、
アノード極が、(1)9族元素からなる金属、及び(2)金属成分として8族元素又は9族元素を含み、配位子として窒素含有多環式化合物を含む金属錯体、からなる群から選ばれた少なくとも一種をアノード触媒として含むものであり、
カソード極が、10族元素からなる金属をカソード触媒として含むものである、水素発生方法。
【請求項2】
更に、アノード極とカソード極間に接続した直流電源により、アノード極に正の電圧を印加することを含む、請求項1に記載の水素発生方法。
【請求項3】
ヒドラジン化合物が、ヒドラジン、ヒドラジン水和物、及びヒドラジン誘導体からなる群から選ばれた少なくとも一種の化合物である、請求項1又は2に記載の水素発生方法。
【請求項4】
ヒドラジン化合物を含む水溶液が、pH11以上のアルカリ性水溶液である請求項1〜のいずれかに記載の水素発生方法。
【請求項5】
水素取出口を備えた、ヒドラジン化合物を含有する水溶液を収容する容器と、
該容器中に設置したアノード極及びカソード極と、
該アノード極とカソード極を電気的に接続する外部回路と、
該外部回路を開閉する開閉部とを有する水素発生装置であって、
該アノード極が、(1)9族元素からなる金属、及び(2)金属成分として8族元素又は9族元素を含み、配位子として窒素含有多環式化合物を含む金属錯体、からなる群から選ばれた少なくとも一種をアノード触媒として含むものであり、
カソード極が、10族元素からなる金属をカソード触媒として含むものである、水素発生装置。
【請求項6】
水素取出口を備えた、ヒドラジン化合物を含有する水溶液を収容する容器と、
該容器中に設置したアノード極及びカソード極と、
該アノード極とカソード極の間に結合された直流電源とを有する水素発生装置であって、
該アノード極が、(1)9族元素からなる金属、及び(2)金属成分として8族元素又は9族元素を含み、配位子として窒素含有多環式化合物を含む金属錯体、からなる群から選ばれた少なくとも一種をアノード触媒として含むものであり、
カソード極が、10族元素からなる金属をカソード触媒として含むものである、水素発生装置。
【請求項7】
請求項に記載の水素発生装置であって、開回路時のアノード極の電位がカソード極の電位より低いことを特徴とする自己発電作用を有する水素発生装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒドラジン化合物からの水素発生方法、及び該方法に用いる水素発生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題やエネルギー問題から、新しいエネルギー源として水素が有望視されている。例えば水素を直接燃料として用いる水素自動車や水素を用いる燃料電池などの開発が進められている。燃料電池は小型でも高い発電効率を有しており、騒音や振動も発生せず、廃熱を利用することができるなどの優れた利点を有している。
【0003】
水素をエネルギー源として利用するに当っては、燃料となる水素を安全にかつ安定的に供給することが必要であり、圧縮水素、液体水素として直接供給する方法、水素吸蔵合金などの水素吸蔵材料を利用して水素を貯蔵、供給する方法、メタノールや炭化水素を水蒸気改質して水素を供給する方法など、種々の方法が提案されている。
【0004】
しかしながら、これらの方法は、工場規模での生産や実験室で用いる程度の量の水素発生には利用可能であるが、所要量の水素燃料を継続的に供給でき、しかも小型化が要求される、自動車搭載用燃料電池;携帯電話用、パーソナルコンピュータ用等のポータブル燃料電池等の水素供給方法としては不適当である。
【0005】
ヒドラジン(H2NNH2)は、室温で液体であり、取り扱いが容易であることに加えて、高い水素含有量を有する化合物であり、水素源として有望視されている。
【0006】
ヒドラジン類を原料として水素を発生させる方法としては、ヒドラジン又はその誘導体を、ニッケル、コバルト、鉄、銅、パラジウム、白金等の水素発生用の金属触媒と接触させる方法が知られている(特許文献2参照)。しかしながら、この方法は、ヒドラジンを含有する水溶液を触媒と接触させて化学反応によって水素を発生させる方法であり、触媒との接触によって反応が開始した後は、水素発生を制御することが困難である。しかも、 上記した金属触媒を用いる場合には、水素発生反応の選択率が低く、十分な水素生成量が得られていないという問題点もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭61-42875号公報
【特許文献2】特開2006-244961号公報
【特許文献3】特開2007−269514号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記した従来技術の現状に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、ヒドラジン、ヒドラジン誘導体などのヒドラジン化合物を水素発生源として用いて、制御が可能な条件下で、効率良く水素を発生させることができる方法、及びこの方法に適した水素発生装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記した目的を達成すべく鋭意研究を重ねてきた。その結果、9族元素からなる金属、又は金属成分として8族元素若しくは9族元素を含み、配位子として窒素含有多環式化合物を含む金属錯体は、ヒドラジン化合物に対して電気化学的酸化触媒として良好な活性を有するものであり、同時に、ヒドラジン化合物の自己分解反応に対する活性が非常に低いことを見出した。そして、これらの金属錯体又は金属をアノード触媒として用いることにより生じるヒドラジン化合物の電気化学的酸化反応を、カソードにおける水素発生反応と組み合わせることによって、水素の発生速度・発生量等の制御が可能となり、しかも、水素発生反応の際に生じる電気化学的エネルギーを有効利用することが可能となることを見出した。本発明は、これらの知見に基づいて更に研究を重ねた結果完成されたものである。
【0010】
即ち、本発明は、下記の水素発生方法、及び該方法に用いる水素発生装置に関する。
項1. ヒドラジン化合物を含む水溶液中に、アノード極とカソード極を浸漬し、外部回路によって両極を電気的に接続することを含む水素発生方法であって、
アノード極が、(1)9族元素からなる金属、及び(2)金属成分として8族元素又は9族元素を含み、配位子として窒素含有多環式化合物を含む金属錯体、からなる群から選ばれた少なくとも一種をアノード触媒として含むものである、水素発生方法。
項2. カソード極が、10族元素からなる金属をカソード触媒として含むものである、項1に記載の水素発生方法。
項3. 更に、アノード極とカソード極間に接続した直流電源により、アノード極に正の電圧を印加することを含む、項1又は2に記載の水素発生方法。
項4. ヒドラジン化合物が、ヒドラジン、ヒドラジン水和物、及びヒドラジン誘導体からなる群から選ばれた少なくとも一種の化合物である、項1〜3のいずれかに記載の水素発生方法。
項5. ヒドラジン化合物を含む水溶液が、pH11以上のアルカリ性水溶液である項1〜4のいずれかに記載の水素発生方法。
項6. 水素取出口を備えた、ヒドラジン化合物を含有する水溶液を収容する容器と、
該容器中に設置したアノード極及びカソード極と、
該アノード極とカソード極を電気的に接続する外部回路と、
該外部回路を開閉する開閉部とを有する水素発生装置であって、
該アノード極が、(1)9族元素からなる金属、及び(2)金属成分として8族元素又は9族元素を含み、配位子として窒素含有多環式化合物を含む金属錯体、からなる群から選ばれた少なくとも一種をアノード触媒として含むものである、水素発生装置。
項7. 水素取出口を備えた、ヒドラジン化合物を含有する水溶液を収容する容器と、
該容器中に設置したアノード極及びカソード極と、
該アノード極とカソード極の間に結合された直流電源とを有する水素発生装置であって、
該アノード極が、(1)9族元素からなる金属、及び(2)金属成分として8族元素又は9族元素を含み、配位子として窒素含有多環式化合物を含む金属錯体、からなる群から選ばれた少なくとも一種をアノード触媒として含むものである、水素発生装置。
項8. カソード極が、10族元素からなる金属をカソード触媒として含むものである、6又は7に記載の水素発生装置。
項9. 項6に記載の水素発生装置であって、アノード極用触媒として、開回路時のアノード極の電位がカソード極の電位より低い触媒を用いることを特徴とする自己発電作用を有する水素発生装置。
【0011】
以下、本発明の水素発生方法、及び該方法に用いる水素発生装置について説明する。
【0012】
(1)水素発生用化合物
本発明では、水素発生源となる化合物としては、ヒドラジン、ヒドラジン水和物、及びヒドラジン誘導体からなる群から選ばれた少なくとも一種のヒドラジン化合物を用いる。
【0013】
これらの内で、ヒドラジン誘導体の具体例としては、下記一般式
【0014】
【化1】
【0015】
(式中、X1は、水素原子又は低級アルキル基を示す。)で表されるカルバジン酸エステル、下記一般式
【0016】
【化2】
【0017】
(式中、X2及びX3は、同一又は異なって、-NH2、水素原子又は低級アルキル基を示す。)で表されるカルバジン酸アミドなどを挙げることができる。
【0018】
上記各一般式において、低級アルキル基としては、炭素数1〜5程度の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を挙げることができ、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、tert−ブチル、sec−ブチル、n−ペンチル、1−エチルプロピル、イソペンチル、ネオペンチル等を例示できる。
【0019】
上記一般式で表されるカルバジン酸エステルの具体例としては、メチルカルバゼート等を挙げることができ、カルバジン酸アミドの具体例としては、カルボヒドラジド等を挙げることができる。
【0020】
本発明では、水素発生源としては、ヒドラジン、ヒドラジン水和物、及びヒドラジン誘導体を一種単独又は二種以上混合して用いることができる。
【0021】
(2)水素発生方法
本発明の水素発生方法は、水素発生用原料化合物としてのヒドラジン化合物を含む水溶液中に、アノード極とカソード極を浸漬し、外部回路によって両極を電気的に接続し、必要に応じて、両極間に直流電源を接続してアノード極に正電圧を印加することによって、下記化学反応式に示すアノード反応としてのヒドラジン化合物の電気化学的酸化反応と、カソード反応としての水の電気化学的還元反応による水素発生反応を促進させ、これによって水素を発生させる方法である。尚、下記アノード反応の反応式では、ヒドラジンを代表例として示す。
【0022】
アノード反応: N → N + 4H +4e
カソード反応: 4H +4e → 2H
この方法によれば、アノード極とカソード極間を電気的に接続した外部回路の開閉と、印加電圧の制御によって、水素発生量を制御することが可能である。このため、必要とされる水素供給量に応じて、必要時にのみ必要量に応じた水素を発生させることができる。
【0023】
以下、本発明の水素発生方法で用いる電極触媒について説明する。
【0024】
(i)アノード触媒
本発明の水素発生方法では、上記アノード反応に用いる触媒として、(1)9族元素からなる金属、及び(2)金属成分として8族元素又は9族元素を含み、配位子として窒素含有多環式化合物を含む金属錯体、からなる群から選ばれた少なくとも一種を用いる。
【0025】
これらの金属及び金属錯体は、いずれもヒドラジン化合物の電気化学的酸化反応に対して活性を有すものであって、ヒドラジン化合物の自己分解反応に対しては活性を示さないか、或いは活性が非常に低い物質である。
【0026】
このため、上記した触媒をアノード極用の触媒として用いることによって、アノード極とカソード極を電気的に接続した場合、水素発生反応の反応速度を向上させることができ、アノード極とカソード極間の回路を開いた場合には、水素発生反応を制御するか、或いは水素発生反応を停止することが可能となる。
【0027】
上記したアノード触媒の内で、9族元素からなる金属の具体例としては、コバルト、ロジウム、イリジウム等を例示できる。これらの金属からなる触媒の形態については特に限定はなく、任意の形態の金属を用いることができるが、例えば、線状の金属を用いることができる。
【0028】
金属錯体における8族元素としては、鉄、ルテニウムなどを例示でき、9族元素としては、コバルト、ロジウム、イリジウムなど例示できる。また、配位子として用いる窒素含有多環式化合物としては、ポルフィリン化合物、フタロシアニン化合物、サレン化合物等を例示できる。
【0029】
本発明で用いるアノード触媒は、8族元素又は9族元素を金属成分として含み、配位子として、窒素含有多環式化合物を含む金属錯体であればよく、配位子の具体的な構造については特に限定的ではない。
【0030】
以下、該アノード触媒の有効成分である金属錯体について、好ましい具体例を示す。
【0031】
(1)化学式:
【0032】
【化3】
【0033】
(式中、R〜R12は、同一又は異なって、それぞれ、アルキル基、置換基を有することのあるアリール基、水素原子又はハロゲン原子を示し、Mは、8族元素又は9族元素を示す。)で表される金属ポルフィリン錯体。
【0034】
上記化学式において、Mで表される中心金属元素は、8族元素又は9族元素であり、具体例として、鉄、ルテニウム、コバルト、ロジウムなどを挙げることができる。
【0035】
〜R12は、同一又は異なって、それぞれ、アルキル基、置換基を有することのあるアリール基、水素原子又はハロゲン原子を示す。これらの内で、アルキル基としては、メチル、エチル、イソプロピル、n−プロピル、t−ブチル、sec−ブチル、n−ブチル、イソブチル、n−ペンチルなどの炭素数1〜5程度の直鎖状又は分岐鎖状の低級アルキル基が好ましい。また、ハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素などが好ましい。置換基を有することのあるアリール基としては、フェニル基、置換基を有するフェニル基、ピリジル基、置換基を有するピリジル基等が好ましい。
【0036】
これらの内で、R、R、R及びR10が全て置換基を有することのあるアリール基である場合には、メソ位が化学的に保護されているために、酸化反応などに対する安定性が高くなる。
【0037】
置換基を有するアリール基の内で、置換基を有するピリジル基としては、1−メチルピリジル基等を例示できる。置換基を有するフェニル基における置換基としては、低級アルコシキ基、低級アルキル基、ハロゲン原子、−SO(式中、Mは水素原子、アルカリ金属又は−NHである)、−COOM(式中、Mは水素原子、アルカリ金属、−NH又はアルキル基である)、−OCH−COOM(式中、Mは水素原子、アルカリ金属、−NH又はアルキル基である)等を例示できる。
【0038】
これらの内で、置換基として低級アルコキシ基を有するフェニル基としてはパラ-メトキシフェニル基等、置換基として低級アルキル基を有するフェニル基としては、パラ-メチルフェニル基、2,4,6-トリメチルフェニル基等、置換基としてハロゲン原子を有するフェニル基としてはペンタフルオロフェニル基等を例示できる。
【0039】
フェニル基の置換基の内で、−SOでは、Mは水素原子、アルカリ金属又は−NHである。これらの内で、アルカリ金属としては、K、Na等を例示できる。フェニル基の置換基の内で、−COOMでは、Mは水素原子、アルカリ金属、−NH又はアルキル基である。これらの内で、アルカリ金属としては、K、Na等を例示できる。アルキル基としては、上記した基と同様の基を例示できる。また、フェニル基の置換基の内で、−OCH−COOMでは、Mは水素原子、アルカリ金属、−NH又はアルキル基である。これらの内で、アルカリ金属としては、K、Na等を例示できる。アルキル基としては、上記した基と同様の基を例示できる。
【0040】
−SO、−COOM、−OCH−COOM等の置換基は、例えばフェニル基の4位に置換することができるが、これに限定されるものではない。
【0041】
上記化学式で表されるポルフィリン錯体の代表例として、R1, R4, R7及びR10が置換基を有することのあるフェニル基であって、R2, R3, R5, R6, R8, R9, R11及びR12が水素原子であるテトラフェニルポリフィリン錯体; R1, R4, R7及びR10が水素原子であって、R2, R3, R5, R6, R8, R9, R11及びR12が低級アルキル基であるオクタアルキルポリフィリン錯体等を挙げることができる。
【0042】
(2)化学式
【0043】
【化4】
【0044】
(式中、R〜Rは、同一又は異なって、それぞれ、水素原子、アルキル基、ヒドロキシアルキル基、アルケニル基、基:-SO3M1(式中、M1は、水素原子、アルカリ金属又は−NHである)、又は基:−R−COOM2(式中、Rは直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基であり、Mは水素原子、アルカリ金属又はアルキル基である)を示すか、或いは、R1とR2、R3とR4、R5とR6、R7とR8の各組み合わせの少なくとも一組は互いに結合して、これらの各基が結合する炭素原子と共に、置換基を有することのある芳香族環を形成してもよい。Mは、8族元素又は9族元素を示す。但し、R〜Rの少なくとも一つは、基:−R−COOM2である)で表される金属ポルフィリン錯体。
【0045】
上記化学式において、Mで表される中心金属元素は、8族元素又は9族元素であり、具体例として、鉄、ルテニウム、コバルト、ロジウムなどを挙げることができる。
【0046】
上記化学式において、アルキル基としては、メチル、エチル、イソプロピル、n−プロピル、t−ブチル、sec−ブチル、n−ブチル、イソブチル、n−ペンチルなどの炭素数1〜5程度の直鎖状又は分岐鎖状の低級アルキル基が好ましい。
【0047】
ヒドロキシアルキル基のアルキル基部分としては、メチル、エチル、イソプロピル、n−プロピル、t−ブチル、sec−ブチル、n−ブチル、イソブチル、n−ペンチルなどの炭素数1〜5程度の直鎖状又は分枝鎖状の低級アルキル基を例示できる。ヒドロキシ基は、該アルキル基の任意の炭素原子に置換することができる。
【0048】
アルケニル基としては、例えばビニル、アリル、2−ブテニル、3−ブテニル、1−メチルアリル、2−ペンテニル、2−ヘキセニル基等の炭素数2〜6の直鎖又は分枝鎖状アルケニル基を挙げることができる。
【0049】
基:-SO3M1において、M1は水素原子、アルカリ金属又は−NHである。これらの内で、アルカリ金属としては、K、Na等を例示できる。
【0050】
基:−R−COOM2において、R9で表されるアルキレン基としては、例えばメチレン、エチレン、トリメチレン、2−メチルトリメチレン、2,2−ジメチルトリメチレン、1−メチルトリメチレン、メチルメチレン、エチルメチレン、テトラメチレン、ペンタメチレン、ヘキサメチレン基等の炭素数1〜6の直鎖又は分枝鎖状アルキレン基を例示できる。M2で表されるアルキル基とアルカリ金属は、上記したものと同様である。
【0051】
(3)化学式
【0052】
【化5】
【0053】
(式中、R〜R16は、同一又は異なって、それぞれ、水素原子、アルキル基、アルコキシル基、ハロゲン原子又はスルホン酸基を示すか、或いは、RとR、RとR、R10とR11、R14とR15の各組み合わせの少なくとも一組は互いに結合して、これらの各基が結合する炭素原子と共に、置換基を有することのある芳香族環を形成してもよい。また、Mは、8族元素又は9族元素を示す。)で表される金属フタロシアニン錯体。
【0054】
上記化学式において、Mで表される中心金属元素は、8族元素又は9族元素であり、具体例として、鉄、ルテニウム、コバルト、ロジウムなどを挙げることができる。
【0055】
上記化学式において、R〜R16は、同一又は異なって、それぞれ、水素原子、アルキル基、アルコキシル基、ハロゲン原子又はスルホン酸基を示す。更に、これらの内で、RとR、RとR、R10とR11、R14とR15の各組み合わせの少なくとも一組は互いに結合して、これらの各基が結合する炭素原子と共に、置換基を有することのある芳香族環を形成してもよい。
【0056】
これらの内で、アルキル基としては、メチル、エチル、イソプロピル、n−プロピル、t−ブチル、sec−ブチル、n−ブチル、イソブチル、n−ペンチルなどの炭素数1〜5程度の直鎖状又は分岐鎖状の低級アルキル基が好ましい。アルコキシ基としては、例えば、メトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、イソプロポキシ、n−ブトキシ、tert−ブトキシ、n−ペンチルオキシ、n−ヘキシルオキシ基等の炭素数1〜6の直鎖又は分枝鎖状アルコキシル基が好ましい。また、ハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素などが好ましい。
【0057】
また、RとR、RとR、R10とR11、R14とR15の各組み合わせが互いに結合して、これらの各基が結合する炭素原子と共に、置換基を有することのある芳香族環を形成した化合物として、下記化学式
【0058】
【化6】
【0059】
で表される化合物を例示できる。上記化学式において、R17〜R32は、同一又は異なって、それぞれ、水素原子、アルキル基、アルコキシル基、ハロゲン原子又はスルホン酸基を示す。これらの各基の具体例は、R〜R16と同様である。
【0060】
(4)化学式:
【0061】
【化7】
【0062】
(式中、Mは、8族元素又は9族元素を示す。)で表される金属サレン錯体。
【0063】
上記化学式において、Mで表される中心金属元素は、8族元素又は9族元素であり、具体例として、鉄、ルテニウム、コバルト、ロジウムなどを挙げることができる。
【0064】
尚、上記したサレン錯体では、サレン環上に任意の置換基が存在しても良い。
【0065】
金属錯体の製造方法
上記した金属錯体は、例えば、目的とする錯体の配位子となる化合物と金属化合物を溶媒中に溶解し、加熱することによって製造することができる。
【0066】
溶媒としては、配位子となる化合物と金属化合物を溶解できる溶媒を用いればよく、例えば、エタノール、ジメチルフォルムアミドなどを用いることができる。加熱温度については、例えば、使用する溶媒の還流温度とすればよい。
【0067】
担持触媒
上記した金属錯体は、導電性担体に担持させることにより、ヒドラジン化合物の電気化学的酸化反応に対して高い触媒活性を有するものとすることができる。
【0068】
導電性担体としては、特に限定はなく、例えば、従来から固体高分子形燃料電池用の触媒担体等として用いられている各種の担体を用いることができる。この様な担体の具体例としては、カーボンブラック、活性炭、黒鉛等の炭素質材料を挙げることができる。これらの内で、カーボンブラックは、導電性に優れ、比表面積も大きいために、導電性担体として特に好ましい物質である。
【0069】
導電性担体の形状などについては特に限定はないが、例えば、平均粒径が0.1〜100μm程度、好ましくは1〜10μm程度のものを用いることができる。また、カーボンブラックを用いる場合には、例えば、BET法による比表面積が100〜800m/g程度の範囲内にあるものが好ましく、200〜300 m/g程度の範囲内にあるものがより好ましい。この様なカーボンブラックの具体例としては、Vulcan XC-72R(Cabot社製)の商標名で市販されているものを挙げることができる。
【0070】
導電性担体に担持させる方法としては、例えば、溶解乾燥法、気相法などの公知の方法を適用できる。
【0071】
例えば、溶解乾燥法では、金属錯体を有機溶媒に溶解させ、この溶液に導電性担体を加えて、例えば、数時間撹拌して、該担体に金属錯体を吸着させた後、有機溶媒を乾燥させればよい。また、有機溶媒中に金属錯体が多量に含まれる場合には、平衡に達するまで金属錯体を導電性担体に吸着させた後、濾過することによって、導電性担体に吸着していない金属錯体を除去して、該担体と相互作用している金属錯体のみを該担体の表面に残すことができる。
【0072】
この方法では、有機溶媒としては、金属錯体を溶解できるものであれば、特に限定なく使用できる。例えば、ジクロロメタン、クロロホルム等の塩素系炭化水素やエタノールなど低級アルコールを好適に用いることができる。
【0073】
濾過によって得られた分散物を、さらに有機溶媒を用いて洗浄液が透明になるまで洗浄すれば、導電性担体との相互作用の弱い金属錯体を洗い流すことができ、導電性担体に強固に吸着している金属錯体のみを含む高活性な触媒を得ることができる。
【0074】
気相法で担持させる場合には、例えば、プラズマ蒸着法、CVD法、加熱蒸着法などを公知の方法を採用できる。
【0075】
導電性担体上に担持させる金属錯体の量については、特に限定はないが、例えば、
導電性担体上に担持させる金属錯体の量については、特に限定はないが、例えば、導電性担体1gに対して、金属錯体を10μmol〜1000μmol程度担持させることが好ましく、20μmol〜100μmol程度担持させることがより好ましい。
【0076】
(ii)カソード触媒
本発明の水素発生方法では、カソード反応用の触媒としては、水を電気化学的に還元して水素を発生する反応の過電圧が低い金属、金属酸化物などを用いることができる。本発明では、特に、10族元素からなる金属をカソード触媒とすることが好ましい。10族元素からなる金属は、水の電気化学的還元反応に対する過電圧が低く、且つ、ヒドラジン化合物の自己分解反応に対して活性が殆ど無い物質であり、ヒドラジン化合物を含有する水溶液中に浸漬するだけでは、ヒドラジンの分解反応や水素の発生反応を進行させることが殆どなく、上記したアノード極と電気的に接続し、必要に応じて、電圧を印加することによって、水素発生反応を促進することができる。
【0077】
(iii)水素発生方法
本発明の水素発生方法では、ヒドラジン化合物を含有する水溶液中に、上記したアノード触媒を有するアノード極と、カソード触媒を有するカソード極を浸漬し、外部回路によって両極を電気的に接続する。この際、開回路時のアノード極の電位がカソード極の電位よりも負である場合には、外部回路を閉じて両極を電気的に接続することによって、カソード極において水素発生反応の反応速度が上昇して、水素発生を促進することができる。更に、両極間に直流電源を接続し、アノード極に正電圧を印加することによって、水素発生速度を向上させることができる。
【0078】
また、開回路時のアノード電位がカソード電位よりも正である場合には、ヒドラジン化合物を含有する水溶液中に浸漬したアノード極とカソード極を電気的に接続するだけでは水素発生反応を促進させることができないが、両極間に直流電源を接続し、アノード極に正電圧を印加することによって、水素発生速度を上昇させることができる。具体的に印加する電圧の大きさについては、使用するヒドラジン化合物の種類、水溶液の状態、アノード触媒の種類、カソード触媒の種類などと、目的とする水素発生速度、水素発生量などに応じて適宜決めればよい。
【0079】
アノード極及びカソード極としては、上記したアノード触媒とカソード触媒を有する電極であれば良く、具体的な形状などは特に限定されない。
【0080】
例えば、アノード触媒として9族元素の金属を用いる場合、カソード触媒として10族元素の金属を用いる場合等には、これらの金属からなる金属線をそのままアノード極として用いることができる。
【0081】
また、アノード触媒として上記した金属錯体、又は該金属錯体を導電性担体に担持させた担持触媒を用いる場合には、炭素材料(Vulcan XC72R, ケッチェンブラック等)等の導電性基材にアノード触媒を固定した電極を用いることができる。アノード極における触媒の量については特に限定はないが、例えば、0.1〜5.0mg/cm程度とすることができ、0.1〜3.0mg/cm程度とすることが好ましい。
【0082】
本発明の水素発生方法では、ヒドラジン化合物を含有する水溶液におけるヒドラジン化合物の濃度については、特に限定的ではないが、効率よく水素を発生させるためには、上記したヒドラジン化合物の濃度を1mmol/L〜5mol/L程度含有することが好ましく、0.2mol/L〜1.5mol/L程度含有することがより好ましい。
【0083】
更に、ヒドラジン化合物を含有する水溶液は、アルカリ性であることが好ましく、特に、pHが11程度以上であることが好ましい。
【0084】
本発明の水素発生方法では、ヒドラジン化合物を含有する水溶液の液温については特に限定はなく、通常は、室温で反応を進行させることができる。
【0085】
図1に、本発明の水素発生方法に用いる水素発生装置の一実施態様の概略図を示す。
【0086】
図1に示す装置は、水素取出口を備えた、ヒドラジン化合物を含有する水溶液を収容する容器と、該容器中に設置したアノード極及びカソード極と、該アノード極とカソード極の間に接続された直流電源とを有するものであって、アノード極が、(1)9族元素からなる金属、及び(2)金属成分として8族元素又は9族元素を含み、配位子として窒素含有多環式化合物を含む金属錯体、からなる群から選ばれた少なくとも一種をアノード触媒として含むものである。
【0087】
本発明で用いるアノード触媒は、ヒドラジン化合物の電気化学的酸化反応に対して高い活性を有すものであって、ヒドラジン化合物の自己分解反応に対しては不活性であるか、或いは活性が非常に低い物質である。このため、アノード極とカソード極を連結する外部回路を開いた状態では、ヒドラジン水素化物の自己分解による水素発生を抑制することができる。また、外部回路を閉じ、使用する電解液の種類、アノード触媒の種類、カソード触媒の種類などに応じて、外部電源から付与する電圧を調整することにより、水素発生反応の速度、水素発生量などを簡単に制御することができる。具体的には、上記した構造の水素発生装置において、開回路時のアノード極の電位がカソード極の電位より低い場合には、外部回路を閉じることによって、前述した反応に基づく水素発生反応を進行させることができる。更に、必要に応じて、両極間に接続した直流電源を用いてアノード極に正電圧を付与し、電位を調整することによって、水素発生速度、水素発生量などを制御することができる。また、開回路時のアノード極の電位がカソード極の電位より高い場合には、両極間に接続した直流電源を用いて、アノード極に正電圧を印加することによって、水素発生反応を進行させることができる。このため、両極間に印加する電圧を調整することによって、水素発生速度、水素発生量などを制御することが可能である。
【0088】
特に、開回路時のアノード極の電位がカソード極の電位より低い場合には、図2に示す、外部電源を含まない水素発生装置を用いた場合にも、水素発生反応を促進させることができる。図2に示す水素発生装置は、水素取出口を備えた、ヒドラジン化合物を含有する水溶液を収容する容器と、該容器中に設置したアノード極及びカソード極と、該アノード極とカソード極を電気的に接続する外部回路と、該外部回路を開閉する開閉部を備えたものであって、アノード触媒として、上記した特定の触媒を有するものである。
【0089】
図2に示す水素発生装置は、外部回路を閉じることによって、カソード反応とアノード反応を自発的に進行させることができるので、水素発生のために外部電源が不要であり、装置の構造が簡略化される。更に、図2に示す水素発生装置によれば、外部回路を閉じるだけで水素発生反応進行するので、水素発生反応時のカソード電位とアノード電位の電位差を電気エネルギーとして取得できる。このため、自己発電作用を有する水素発生装置として、原料とするヒドラジン化合物から、高いエネルギー変換効率で化学エネルギーと電気エネルギーを得ることが可能となる。
【0090】
本発明の水素発生装置を用いて発生した水素の用途については特に限定はないが、例えば、燃料電池の燃料等として用いることができる。この場合には、例えば、上記した水素発生装置の水素取り出し口を水素供給ラインに接合して、発生した水素を燃料電池に供給すればよい。
【発明の効果】
【0091】
本発明の水素発生方法及び水素発生装置によれば、高い水素含有量を有する化合物であるヒドラジン、ヒドラジン誘導体、これらの水和物などのヒドラジン化合物を水素発生源として、水素発生量の制御が可能な条件下で、効率良く水素を発生させることができる。
【0092】
このため、本発明の水素発生方法は、例えば、燃料電池などに水素を供給する手段として、非常に有用性が高い方法である。
【図面の簡単な説明】
【0093】
図1】本発明の水素発生装置の一実施態様を示す概略構成図。
図2】本発明の水素発生装置のその他の実施態様を示す概略構成図。
図3】実施例1及び2において測定した水素発生反応時の電流−電圧曲線。
図4】実施例3及び4において測定した水素発生反応時の電流−電圧曲線。
図5】参考例1で測定したヒドラジンに対するサイクリックボルタモグラムの測定結果を示すグラフ。
図6】参考例1で測定したカルボヒドラジドに対するサイクリックボルタモグラムの測定結果を示すグラフ。
図7】参考例1で測定したメチルカルバゼートに対するサイクリックボルタモグラムの測定結果を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0094】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
【0095】
実施例1
図2に示す構造の水素発生装置を用いて以下の方法で水素発生試験を行った。
【0096】
まず、大きさ25mLのガラス製容器にヒドラジンを1mol/LとNaOHを1mol/L 含有するpH13.8の水溶液10.5 mLを入れた。この水溶液中に、コバルト線(直径0.05 cm)と白金線(直径0.05 cm)をそれぞれ2.1 cmの深さまで浸漬し、水素取出口を設けたゴム栓でこの容器を密閉した。ヒドラジンを含有する水溶液に浸漬したコバルト線と白金線は、それぞれの端部をゴム栓を通過させて容器外に露出させ、銅線で接続して外部回路を形成した。外部回路には回路を開閉するためのスイッチを設けた。
【0097】
外部回路に設置したスイッチを用いて外部回路を開いた状態として、130分後、気相中の水素ガスを定量した。カソード極の単位表面積当たりの水素発生量は、0.0052μmol/分・cm2であり、僅かな水素発生が確認されただけであった。
【0098】
その後、外部回路に設置したスイッチにより外部回路を閉じた状態として、コバルト線と白金線を電気的に接続し、130分後、気相中の水素ガスを定量した。カソード極の単位表面積当たりの水素発生量は、0.054μmol/分・cm2となり、水素発生速度が大幅に上昇した。
【0099】
この結果から、上記した構造の水素発生装置では。外部回路を開いて、コバルト線と白金線を接続していない状態ではほとんど水素が発生しないが、外部回路を閉じて、コバルト線と白金線とを電気的に接続した状態にすることによって、水素発生が激しくなり、水素発生反応が、外部回路の開閉によって制御されていることが分かった。
【0100】
また、上記した水素発生装置において、ヒドラジン水溶液を収容した容器外に露出したコバルト線と白金線を外部抵抗を介して接続し、水素発生している状態での電流-電圧曲線を求めた。結果を図3に示す。図3の電流―電圧曲線では、端子間電圧はコバルト線に対する白金線の電圧を示し、電流値は白金上での還元電流を正として示す。
図3から明らかなように、電位が正の領域で白金上での還元電流が正となっており、水素発生と同時に発電していることが確認できる。
【0101】
実施例2
ヒドラジンを含有する水溶液におけるNaOHの濃度を0.1mol/L(pH13.1)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして水素発生試験を行った。結果を下記表1に示す。
【0102】
また、上記した水素発生装置において、コバルト線と白金線を外部抵抗を介して接続し、水素発生している状態での電流-電圧曲線を求めた。結果を図3に示す。図3の電流―電圧曲線では、端子間電圧はコバルト線に対する白金線の電圧を示し、電流値は白金上での還元電流を正として示す。
【0103】
図3から明らかなように、電位が正の領域で白金上での還元電流が正となっており、水素発生と同時に発電していることが分かる。
【0104】
実施例3
白金線に代えてニッケル線(直径0.05cm)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして水素発生試験を行った。結果を下記表1に示す。
【0105】
また、上記した水素発生装置において、コバルト線とニッケル線を外部抵抗を介して接続し、水素発生している状態での電流-電圧曲線を求めた。結果を図に示す。図の電流−電圧曲線では、端子間電圧はコバルト線に対するニッケルの電圧を示し、電流値はニッケル線上での還元電流を正として示す。
【0106】
から明らかなように、電位が正の領域でニッケル上での還元電流が正となっており、水素発生と同時に発電していることが分かる。
【0107】
実施例4
コバルト線に代えてロジウム線(直径0.05cm)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして水素発生試験を行った。結果を下記表1に示す。
【0108】
また、上記した水素発生装置において、ロジウム線と白金線を外部抵抗を介して接続し、水素発生している状態での電流-電圧曲線を求めた。結果を図に示す。図の電流−電圧曲線では、端子間電圧はロジウム線に対する白金線の電圧を示し、電流値は白金上での還元電流を正として示す。
【0109】
から明らかなように、電位が正の領域で白金上での還元電流が正となっており、水素発生と同時に発電していることが分かる。
【0110】
【表1】
【0111】
実施例5
下記化学式
【0112】
【化8】
【0113】
で表されるコバルトオクタエチルポルフィリン錯体(Aldrich社製) 0.9マイクロモルを、ジクロロメタン20mL中に溶解させた後、この溶液にカーボンブラック(比表面積250 m/g、商標名:Vulcan XC 72R、Cabot社製)を30 mg加え、超音波洗浄機を用いてカーボンブラックをよく分散させた後、ロータリーエバポレーターによって溶媒を留去することにより、コバルトオクタエチルポルフィリン錯体をカーボンブラックに担持させた。
【0114】
次いで、コバルトオクタエチルポルフィリン錯体を担持したカーボンブラック5 mgを、0.25 mLのエタノール、0.25 mLの水、Nafion 0.005 mLの入った混合溶媒に懸濁し、この懸濁液を0.1 mL、グラッシーカーボン板に塗布し、自然乾燥させた(触媒を塗布した面積は2.25 cm2)。
【0115】
大きさ25mLのガラス製容器にカルボヒドラジドを1mol/LとNaOHを1mol/L 含有するpH13.8の水溶液10 mLを入れ、この水溶液中に上記した方法でコバルトオクタエチルポルフィリン錯体を担持させたグラッシーカーボン板と白金線(直径 0.1 cm)を浸漬し、水素取り出し口を設けたゴム栓でこの容器を密閉した。グラッシーカーボン板は、触媒の塗布面を全て浸漬し、白金線の浸漬した面積は2.25 cm2とした。グラッシーカーボン板と白金線は、それぞれの端部をゴム栓を通過させて容器外に露出させ、銅線で接続して外部回路を形成した。外部回路には回路を開閉するためのスイッチを設け、更に、グラッシーカーボン板と白金線には、外部の直流電源を接続した。
【0116】
外部回路を開いた状態として、40分後に気相中の水素ガスを定量したが、水素を検出できなかった。
【0117】
その後、外部回路を閉じてグラッシーカーボン板と白金線を電気的に接続し、白金に対してグラッシーカーボンの板が0.5 V正になるように、ポテンショスタットを使って電圧を印加したところ、水素発生反応が生じた。40分後、気相中の水素ガスを定量した結果、グラッシーカーボン板の表面積あたりの水素発生量は0.030μmol/分・cm2であった。
【0118】
以上の結果から、外部電源によって電圧を印加することによって、水素発生を制御できることが判った。
【0119】
参考例1〜9
以下、参考例を挙げて、金属成分として8族元素又は9族元素を含み、配位子として窒素含有多環式化合物を含む金属錯体が、ヒドラジン化合物の電気化学的酸化反応に対して活性を有すことを示す。
【0120】
(i)担持カーボン触媒の作製
下記表2及び3に示す各金属錯体を触媒成分として用い、各金属錯体を溶媒中に溶解させた後、この溶液にカーボンブラック(比表面積250 m/g、商標名:Vulcan XC 72R、Cabot社製)を30 mg加えた。溶媒としては、参考例1, 3, 6, 7, 8においてはジクロロメタン、参考例2においては蒸留水、参考例4,5においてはジメチルフォルムアミド、参考例9においてはエタノールを用い、溶媒の使用量はすべて20mLとした。各溶液における金属錯体の添加量は0.9マイクロモルとした。
【0121】
次いで、カーボンブラックを懸濁させた各溶液について、超音波洗浄機を用いてカーボンブラックをよく分散させた後、ロータリーエバポレーターによって溶媒を留去することにより、各金属錯体をカーボンブラックに担持させた。
【0122】
(ii)触媒活性の評価
上記した方法で各金属錯体をカーボンブラックに担持させた触媒を乳鉢で破砕し、5 mgを0.5 mLの混合溶媒(水:エタノール = 1 : 1)に懸濁させたのち、5 μLの5 % Nafion溶液 (Aldrich製)を加えた。この懸濁液を5分間超音波洗浄器に掛けることで、よく分散させた後、回転ディスク電極(直径3mm)の上に2 μLのせて乾燥させた。
【0123】
ヒドラジン化合物に対する各触媒の酸化活性評価は、エー・エル・エス製のポテンショスタット(ALS model 711B)を用いて行った。触媒を塗布したグラッシーカーボンの回転ディスク電極を作用電極とし、白金電極を対極、Ag/AgCl/KCl(sat.)電極を参照電極として用いた。
【0124】
ヒドラジン化合物としては、ヒドラジン、カルボヒドラジド、及びメチルカルバゼートを用い、電解液としては、1 M NaOHを用いた。この電解液に、1mol/Lとなるように各ヒドラジン化合物を加え、アルゴンをバブリングすることによって溶存酸素を除去した後、掃引速度10 mV/sでサイクリックボルタモグラムを測定した。測定中は、溶液の上部にアルゴンガスを吹き付けることにより酸素が混入しないようにした。
【0125】
参考例1のコバルトオクタエチルポルフィリンをカーボンブラックに担持させた触媒について、ヒドラジン、カルボヒドラジド、及びメチルカルバゼートの各ヒドラジン化合物を溶解した電解液中でのサイクリックボルタモグラムの測定結果を図5図7に示す。尚、図5〜7のサイクリックボルタモグラムでは、酸化電流を負の値で示す。
【0126】
図5は、ヒドラジンについての測定結果を示すものであり、-0.6 V付近から酸化電流が流れ始め、電位が正になるに従って酸化電流は急速に上昇し-0.4 Vのときの電流値は1.7 mA(電流密度では24 mA/cm2)を越えた。図6はカルボヒドラジドについての測定結果を示すものであり、-0.6 V付近から酸化電流が流れ始め、-0.4 Vのときの電流値は1.5 mA(電流密度では21 mA/cm2)を越えた。図7はメチルカルバゼートについての測定結果を示すものであり、-0.5 V付近から電流が流れ始め、-0.4 Vのときの電流値は0.13 mA(電流密度では1.8 mA/cm2)を越えた。
【0127】
以上の結果から明らかなように、コバルトオクタエチルポルフィリンをカーボンブラックに担持させた触媒は、ヒドラジン、カルボヒドラジド、及びメチルカルバゼートの各ヒドラジン化合物に対して酸化電流を与え、これらの化合物を電気化学的に酸化できることが明らかになった。
【0128】
下記表2及び3に、参考例1〜参考例9における各金属錯体を触媒成分として、上記担持カーボン触媒の作製方法と同様の方法で得られた担持触媒について、上記した触媒活性の評価方法で求めた-0.4 Vのときの金属1gあたりの電流値(A/g)を示す。この結果から、参考例1〜9の各金属錯体は、ヒドラジン、カルボヒドラジド、及びメチルカルバゼートに対して電気化学的酸化反応用触媒として有効に作用することが確認できた。
【0129】
【表2】
【0130】
【表3】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7