【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する本発明は、水素同位体を含む水分と水素含有ガスとを接触させて、前記水分中の水素同位体と前記水素含有ガス中の水素原子との交換反応を促進するための水−水素交換反応用触媒において、無機酸化物からなる担体に触媒金属が担持されてなり、前記担体は、その表面に疎水性化合物が結合され疎水性が付与された無機酸化物からなり、前記触媒金属は必須成分として白金を含む金属であることを特徴とする水−水素交換反応用触媒に関する。
【0009】
本発明に係る水−水素交換反応用触媒は、担体として無機酸化物を使用しつつその表面に疎水性化合物を結合させて疎水化したものを適用する。担体として無機酸化物を適用するのは、触媒層内で反応熱による局所的加熱が生じた場合でも着火の危険性がなく、また、放射性物質による放射線損傷のおそれがないからである。但し、無機酸化物は、水に対して親和性が高く容易に水分を吸着する。そこで、所定の疎水性化合物により無機酸化物に疎水性を付与し、水分吸着による活性低下を抑制する。
【0010】
また、本発明に係る水−水素交換反応用触媒は、触媒金属としての白金(Pt)の存在を必須の構成とする。本発明者等の検討によれば、疎水化された無機酸化物担体との組合せにおいて、水−水素交換反応に対して満足し得る活性を発揮するのは、白金を含む触媒金属のみである。
【0011】
以下、本発明の各構成についてより詳細に説明する。まず、担体に関して、無機酸化物を適用する理由は上記の通りである。無機酸化物としては、好ましいものとしては、アルミナ、シリカ、ゼオライト、ジルコニア、チタニアの少なくともいずれかを含むものが挙げられる。シリカ−アルミナ等の混合無機酸化物も適用できる。これらの無機酸化物は、他の反応の触媒担体としても知られており、担体として要求される多孔性を有すると共に耐熱性に優れたものである。この無機酸化物に関しては、特に好ましくは細孔径が所定範囲にあることである。無機酸化物担体の細孔径は、6nm以上200nm以下とするのが好ましい。
【0012】
尚、担体の形状については特に限定はない。円筒形、球形のペレット状に成形されたものが一般的であるが、この他、ハニカム、網等の適宜の支持体にこれら無機酸化物をコ−ティングし、このコ−ティング層が担体となることもある。
【0013】
そして、本発明では上記無機酸化物について、疎水性化合物により疎水化した状態のものを担体として適用する。疎水性化合物による疎水化は、無機酸化物表面にある親水基である水酸基(OH基)を疎水性化合物で修飾することにより達成される。
【0014】
本発明に係る触媒において、無機酸化物と結合する疎水性化合物としては、有機シラン化合物、フッ素樹脂化合物が挙げられる。これらは疎水性を有し、無機酸化物との結合性も良好である。本発明において、有機シラン化合物は、炭素−ケイ素結合を有する有機化合物であり、炭素、水素、酸素、塩素、フッ素のいずれか、又はこれらのいくつかを含む鎖状、環状、分枝構造の官能基を有する。そして、有機シラン化合物はケイ素を介して無機酸化物担体と共有結合している。一方、フッ素樹脂化合物としては、フッ素原子数と炭素原子数との比(F/C)が1.0以上である繰り返し単位を少なくとも1種有する重合体からなるフッ素含有樹脂である。フッ素樹脂は、無機酸化物上に分子間力により固定された状態にある。
【0015】
以上のように疎水化処理された無機酸化物担体に、触媒金属として白金が必須的に担持される。触媒金属の構成金属として白金を必須とするのは、水−水素交換反応に対する活性を確保する上、白金のない触媒では十分な活性を発揮しないからである。一般に、触媒金属として活性を有する金属としては、白金以外にも多くの貴金属(パラジウム、ルテニウム等)が知られているが、水−水素交換反応に関してはこれらの貴金属は十分な活性を発揮しない。本発明において触媒金属は、白金のみからなるものでも良いが、白金を含んでいれば他の金属を含んでいても良い。例えば、白金とパラジウムとを合金化した触媒金属は、本発明の触媒として機能し得る。
【0016】
ここで、白金の担持量は、触媒全体の質量(官能基により修飾された状態の無機酸化物と触媒金属との合計質量)を基準に0.3質量%以上とすることが好ましい。0.3質量%以上の白金で十分な活性を有するからである。白金合金からなる触媒金属を適用する場合でも、白金の担持量は0.3質量%以上とする。白金担持量の上限については、シンタリングによる活性低下の理由から15.0質量%以下にするのが好ましい。
【0017】
そして、本発明に係る触媒は、一定範囲の塩素を含むものがより好ましい。通常、塩素は、触媒が適用される反応系によっては触媒毒として忌避されることが多いが、水−水素交換反応においては、本発明者等の検討から、むしろある程度存在していることが好ましい。具体的には、白金担持量1質量%あたりの塩素含有量が25ppm以上1000ppm以下であることが好ましい。塩素含有量が白金担持量1質量%あたり25ppm未満である場合、水素同位体の分離能が向上しにくい。一方、塩素含有量が白金担持量1質量%あたり1000ppmを超えると、塩素は一般的な触媒毒として作用し、この場合も触媒活性が低下する。尚、本発明において塩素含有量とは、塩素原子としての含有量であり触媒全体の質量基準の含有量を示す。また、「白金担持量1質量%」と表記したように、本発明に係る触媒における好適な塩素含有量の実際の含有量(測定値)の範囲は、白金担持量に応じて変化する。例えば、白金担持量が0.3質量%(白金担持量について好適範囲の下限値)である触媒は、7.5ppm以上300ppm以下の範囲で塩素を含むものが好ましい。
【0018】
次に、本発明に係る触媒の製造方法について説明する。本発明に係る触媒製造方法は、(a)担体となる無機酸化物と、疎水性化合物を含む溶液とを接触させることで、前記無機酸化物表面に疎水性化合物を結合させて疎水化処理する工程、(b)疎水化処理した前記担体に、少なくとも白金化合物を含む金属化合物溶液を接触させ、少なくとも白金イオンを担持する担持工程、(c)前記担持工程後の担体を熱処理して白金イオンを還元する熱処理工程の各工程で構成される。
【0019】
担体の疎水化工程((a)工程)では、無機酸化物担体に疎水性化合物を含む溶液を接触させて、担体表面に疎水性化合物を結合させる工程である。ここで、疎水化処理のための疎水性化合物溶液に含まれる疎水性化合物としては、その構成に応じて区別すると、機能性シラン剤、シリル化剤、シランカップリング剤、フッ素樹脂剤の少なくともいずれかで構成される。
【0020】
機能性シラン剤及びシリル化剤としては、アルコキシシラン、シラザン、シロキサンといったシラン剤が適用できる。具体的には、メチルトリメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、トリメチルクロロシラン、エチルジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジメチルジクロロシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリクロロシラン、トリエチルメトキシシラン、トリエチルエトキシシラン、トリエチルクロロシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジエチルジクロロシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、エチルトリクロロシラン、トリプロピルメトキシシラン、トリプロピルエトキシシラン、トリプロピルクロロシラン、ジプロピルジメトキシシラン、ジプロピルジエトキシシラン、ジプロピルジクロロシラン、プロピルトリメトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、プロピルトリクロロシラン、フェニルトリメトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン等が挙げられる。
【0021】
シランカップリング剤は、ビニル基、エポキシ基、スチリル基、メタクリル基、アクリル基、アミノ基、イソシアヌレ−ト基、ウレイド基、メルカプト基、スルフィド基、イソシアネ−ト基を有するシランカップリング剤が挙げられる。具体的には、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−トリエトキシシリル−N−(1,3−ジメチル−ブチリデン)プロピルアミン、N−m3−アミノプロピルトリメトキシシラン、トリス−(トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレ−ト、3−ウレイドプロピルトリアルコキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、3−イソシアネ−トプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0022】
フッ素樹脂剤としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニル(PVF)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、エチレン−クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロジオキソール共重合体(TFE/PDD)等のフッ素樹脂化合物が挙げられる。
【0023】
ここで、疎水性化合物を含む溶液とは、溶媒中に疎水性化合物が溶解又は分散した溶液であり、疎水性化合物が完全に溶解した均一溶液に限らない。フッ素樹脂等は化学的に安定であり、均一溶液ではなく分散溶液の適用例が多くなる。溶媒の選択は疎水性化合物の種類に応じて任意に選択できる。シラン剤(機能性シラン剤、シリル化剤、シランカップリング剤)は、有機溶媒に溶解できるものが多いが、有機溶媒のみで処理溶液を調整しても良いし、有機溶媒と水との混合溶媒を使用しても良い。
【0024】
疎水化処理溶液の疎水性化合物の含有量については、シラン剤の溶液については、シラン化合物の含有量が、シラン化合物とその溶媒を含む疎水化処理溶液全体の重量に対して9%以上66%以下とするのが好ましい。また、フッ素樹脂の溶液は、フッ素樹脂の含有量が、フッ素樹脂とその分散溶媒を含む疎水化処理溶液全体の重量に対して0.5%以上10%以下とするのが好ましい。かかる濃度の溶液を使用することで、好適な疎水化処理ができる。尚、これら疎水化処理溶液の使用量は、無機酸化物100gに対して、100g以上500g以下とするのが好ましく、110g以上300g以下がより好ましい。
【0025】
担体への疎水化処理の具体的な方法としては、上記疎水性化合物を含む溶液に担体を浸漬し、その後担体を溶液から取り出し、適宜に洗浄、乾燥を行う。溶液の液温は常温で行うことができる。
【0026】
疎水化された無機酸化物担体については、次に、触媒金属を担持する工程に供される。この工程は、基本的には一般的な触媒金属の担持法を基本とする。即ち、担体と触媒金属の金属化合物の溶液とを接触させ、その後、熱処理により原子状金属を生成する方法である。
【0027】
ここで、上記の通り、本発明に係る触媒について好適な塩素含有量が存在する。この塩素含有量の好適範囲を考慮した触媒の製造方法としては、原料として塩素成分を含むものを適用しても良い。また、塩素フリーの原料を使用しつつ製造工程中に含有量を調整しつつ塩素成分を添加しても良い。
【0028】
好ましくは、塩素成分を含む金属化合物を原料として使用する。原料段階から塩素成分を含むものを使用することで、簡潔に触媒に塩素を導入させることができ、均一に分散させることができる。そして、塩素成分を含む原料としては、塩素を構成元素とする金属化合物を適用するのが好ましい。
【0029】
本発明で好適に使用される金属化合物化物としては、白金の塩化物としては、塩化白金酸、テトラアンミン白金ジクロライド、ヘキサアンミン白金テトラクロライド、塩化白金酸カリウム、塩化白金等の白金化合物が好ましい。これらの白金化合物は、溶液状態で担体に接触(吸着)させる。溶液の化合物濃度は、触媒金属の担持量に応じて調整される。また、白金と同時に他の金属(例えば、パラジウム、ルテニウム等)を担持する場合も、当該金属の塩化物(塩化パラジウム、塩化ルテニウム)の使用が好ましい。
【0030】
また、本発明では、塩素を構成元素としない塩化物以外の金属化合物も原料として使用可能である。つまり、ジニトロジアミン白金硝酸塩、テトラアンミン白金水酸塩のような塩化物ではない金属化合物であっても、その溶液中に塩素を含むものを原料として使用することができる。例えば、ジニトロジアミン白金硝酸溶液であっても、塩酸などの塩素源が液中に塩素換算で50ppm以上あるものは塩化物の溶液と同様の作用効果が期待できる。
【0031】
金属化合物の溶液の溶媒について、本発明では担体が疎水性を有していることから、化合物溶液の溶媒としてはアルコ−ル等の極性有機溶媒を適用することが好ましいが、水と極性有機溶媒との混合溶媒でも良い。混合溶媒は、水/極性有機溶媒の体積比で5以上90以下としたものが好ましく、40以上85以下がより好ましい。
【0032】
疎水化処理した担体に金属化合物溶液を接触させることで、担体上に金属化合物を吸着させる。溶液の吸着の方法は、溶液に担体を浸漬しても良いし、担体に溶液を滴下しても良い。吸着後、適宜に乾燥を行い熱処理することで、各イオンは還元され原子状の白金や金属が生成する。また、この熱処理の過程で白金原子等の再配列が生じ近接担持等の好適な担持状態が発現する。そして、本発明では熱処理条件を調整することで、触媒中の塩素の含有量を制御できる。熱処理による加熱は、原料段階で導入した塩素を揮発させることとなり、過度に熱処理すると塩素が規定含有量を下回ることとなる。
【0033】
この熱処理条件について特に重要なのが熱処理温度の設定である。熱処理温度が高いと塩素の過剰な揮発により、塩素の含有量の低い触媒となる。一方、熱処理温度が低い場合、白金の還元及び好適な担持状態が進行し難くなる。本発明者等の検討では、この還元と塩素含有量確保とのバランスを確保する熱処理温度として150℃以上280℃以下が設定される。この温度範囲を超えた場合、塩素の消失が激しくなり、塩素含有量を所定範囲にすることが困難となる。尚、塩素含有量の調節のためには、熱処理温度を150℃以上250℃以下とするのが特に好ましい。
【0034】
また、この熱処理は適切な還元雰囲気の下で行うことが必要である。好適な熱処理雰囲気としては、水素濃度3体積%以上100体積%以下のガス雰囲気が挙げられる。この雰囲気ガス中、水素以外の残部としては、不活性ガス(窒素、アルゴン等)が好適である。尚、熱処理時間としては、0.5時間以上10時間以下とするのが好ましい。0.5時間未満では十分な触媒金属の生成がなされず、10時間を超えると上記の熱処理温度でも塩素の含有量が低くなる。
【0035】
以上説明した本発明に係る触媒は、水−水素交換反応の反応促進に有用である。ここで、本発明が適用される水−水素交換反応(水−水素同位体交換反応)としては、下記式で例示される反応が挙げられる。これらの反応は、水(水蒸気)と水素ガスとの反応であって、少なくともいずれか一方が水素同位体(トリチウム、重水素)を含むものであり、両者の間で同位体水素を交換する反応である。尚、下記式において、Hは水素を示し、Tはトリチウムを示し、Dは重水素を示す。また、Vは蒸気(vapor)、gはガス(gass)、lは液体(liquid)の意義である。
【0036】
【化1】
【0037】
【化2】
【0038】
【化3】
【0039】
上記式からわかるように、本発明の対象となる水−水素交換反応は平衡反応(可逆反応)である点において、燃焼反応のような不可逆反応と相違する。例えば、上記の化1の式の最上段の反応式では、水素同位体を含む水素ガス(HT)と水蒸気(H2O)との反応(水素ガス中の水素同位体と水蒸気中の水素原子とを交換する反応)と、水素同位体を含む水蒸気(HTO)と水素ガス(H2)との反応(水蒸気中の水素同位体と水素ガス中の水素原子とを交換する反応)との平衡反応である。よって本発明は、水素同位体を含む水分からの水素同位体分離にも有用であるし、水素同位体を含む水素ガスからの水素同位体分離にも適用できる。本発明に係る触媒は、水−水素交換反応という平衡反応に対して、平衡反応率(限界反応率)を目指した反応の進行に寄与することができる。この同位体交換反応の反応温度は、比較的低温で進行させることができ、25℃以上95℃以下での反応も可能となる。
【0040】
また、化2、化3の反応式に基づく具体的事例としては、化2の反応式(H−D系)は、水中の重水素成分を濃縮又は分離する際に適用される。また、化3の反応式(D−T系)は、重水からトリチウムを除去する際に適用でき、例えば、重水炉(重水減速重水冷却圧力管型炉(CANDU炉)等)で使用される重水中で副生成するトリチウムを除去する際に適用される反応である。更に、上記化1〜化3の反応式は2成分系の反応式を例示するものであるが、3成分系に対しても本発明は有用である。
【0041】
尚、本発明における水−水素交換反応において、反応系内で生じる反応としては、水素同位体の交換反応(上記化1〜化3で例示された反応のいずれか)以外の反応が生じていても良い。例えば、同位体交換反応により水素同位体が濃縮されたトリチウム水(蒸気)を液体状態で濃縮・回収するための反応として下記反応を生じさせることがある。このような相変化のための反応(液体−蒸気間の平衡反応)は、本発明に係る触媒が作用して進行するものではないが、かかる補完的な反応を本発明の反応と共に生じさせても良い。
【0042】
【化4】
【0043】
そして、化2、化3の同位体交換反応に関しても、以下のような補完的反応が生じていても良い。
【0044】
【化5】
【0045】
【化6】
【0046】
本発明に係る水−水素交換反応用触媒を適用する反応方法について、反応物(水分と水素)の接触形態は特に限定されない。一般に流体の反応においては、反応させる流体を対向させて流通させて反応させる向流と、同一方向で流通させて反応させる並流とがあるが、本発明ではいずれかに限定されることはない。また、反応流体の流通方向も水平方向でも良いし垂直方向でも良い。
【0047】
そして、本発明の触媒は、水−水素交換反応のための処理装置を構成することができる。水−水素交換反応装置は、その反応部として本発明に係る水−水素交換反応用触媒を備える。この反応部では、導入された水分と水素と触媒の存在下で接触反応させるものであり、水素同位体交換後の反応物を放出する。
【0048】
本発明の水−水素交換反応装置の構成に関しては、本発明に係る触媒を備える反応部を備えること以外、限定される事項はない。また、反応部の構成についても、本発明の疎水化白金触媒を備えていることを必須とし、その他は特に制限されない。本発明に係る触媒を適宜の収容体に充填して反応部を形成しても良い。また、適宜の支持体(セラミックハニカム、金属ハニカム等)を本発明に係る触媒でコーティングした触媒構造物を反応部に組み込んでも良い。前者については、固定床型や流動床型の反応部が適用できる。また、後者の形態の触媒構造物は、支持体を担体である無機酸化物でコーティングした後、白金を担持して製造するのが好ましい。
【0049】
本発明の水−水素交換反応装置における反応部の数に関してもとくに制限はない。単一の反応部で構成しても良いが、反応部を複数段備え、それらを配列したものがより好ましい。単一の反応部で水素同位体の交換率は不十分となることが多い。その際、反応部の容量を増大するよりも、多段化して複数の反応部で順次流体を処理した方が結果的に効率的である。
【0050】
本発明に係る処理装置では、本発明に係る触媒の他、適宜の充填物を併用することができる。特に、上記した補完的反応(化4〜化6の相変化を目的とした反応)を生じさせ、水素同位体の分離・抽出を効率的にする上で充填物の使用が好ましい。充填物とは、気液接触の際の体積当たりの接触面積を拡大するためにハニカム状・網状・リング状等に成形・加工された固体物質である。充填物としては、ハニカム等の規則充填物や金網成形体やリング等の不規則充填物があり、いずれも使用可能である。尚、不規則充填物としては、精蒸留用充填物として知られている、金網成形体(ディクソンパッキン、マクマホンパッキン等)やリング状充填物(ラッシヒリング、ポールリング、クロスリング等)が適用できる。充填物の構成材料については、ステンレス等の金属製のものから樹脂、セラミック等からなるものがある。
【0051】
また、上記した充填物を使用する場合、充填物を反応部内に触媒と共に充填しても良い(トリクルベット型反応器)。また、充填物による充填層を形成し、反応部(触媒層)と触媒層とを別々に配しても良い。反応部(触媒層)と充填物層との配置に関しては両者を直列に配置しても良く、また、二重管構造の装置を形成し外管、内管のそれぞれに触媒層、充填物層を配置しても良い。
【0052】
尚、多段式の反応部で装置を構成するとき、反応部の段数は水素同位体含有水の処理装置の装置寸法にそのまま影響を及ぼす。本発明に係る触媒は、活性向上により従来の触媒を適用する場合よりも反応部の段数を低減することができる。これにより処理装置のダウンサイズを図ることができ、その建設コストを抑制することができる。
【0053】
図1は、本発明の水−水素交換反応装置の一態様として提示される、トリチウム含有水の処理装置に関する図面である。この図面では、触媒層(反応部)と充填物層とで組み合わされて1つのユニットを構成する。水−水素交換反応装置(トリチウム含有水処理装置)に関する
図1の処理ユニットでは、上方から処理対象となる水(トリチウム含有水)がフィードされ、下方から水素ガスがフィードされる。
【0054】
図1において、触媒層における反応(水素交換反応)は、水蒸気が反応物質であるので、フィードされた水は、一旦、充填物層にて蒸気となってから水素ガスと共に触媒層に到達し反応する。そして、触媒層における水素同位体交換反応と充填物層における水蒸気−水間の相平衡反応とを交互に繰り返すことで、トリチウム水を濃縮する。トリチウム水処理装置は、
図1のユニットを複数段重ねて構成され、各ユニットで順次繰返し反応することでトリチウムを効果的に濃縮・分離させることができる。
【0055】
また、
図2はこのトリチウム含有水処理装置を含むトリチウム水の処理プラントのプロセスフローを概略示すものである。
図2において、(2)の「液相化学交換塔が
図1のユニットを含むトリチウム含有水処理装置である。この処理プラントでは、前処理系統(1)にてトリチウム水中の不純物をイオン吸着塔などで前処理し取り除いた後、(2)の液相化学交換塔にて上記で説明したように、トリチウム水を濃縮する。尚、このフローでは、処理するトリチウム含有水を塔の中段で供給している。そして、塔頂から水(天然水)を供給している。これは、塔から排気される水素、水蒸気中のトリチウムを低減させるためである。
【0056】
液相化学交換塔(2)で濃縮したトリチウム水は、電解系統(3)で電気分解する。濃縮したトリチウム含有水を電気分解すると、トリチウムを含む水素状のトリチウムガスと酸素が生成する。このプロセスでは、酸素は不要であるため排気することとしているが、酸素中にトリチウムを含む水蒸気が同伴しているため、これを取り除くため酸素精製系統(4)で処理され、ガス処理系へ排気される。一方、電解系統(3)で生成した水素状トリチウムガスは、一部をトリチウム−水素精製系統(5)に送り、残りを液相化学交換塔(2)に戻す。
【0057】
電解系統(3)で生成した水素状トリチウムガスは、最終的には水素同位体分離系で純トリチウムガスとトリチウムを含まない水素に分離される。ここで、トリチウム−水素精製系統(5)は、水素同位体分離系が極低温で運転されるため、水素同位体分離系に送る水素ガス中に水蒸気等の不純物を含まないように、それらを分離する役割を担う。トリチウム−水素精製系統(5)では、水素のみを選択的に透過させることができるパラジウム金属膜が用いられる。
【0058】
尚、液相化学交換塔(2)においてトリチウム濃度を低減させた水素は排気系から放出されるが、排気系統(6)で排気前に爆発の危険性を回避するため窒素等で排ガスを希釈する。そして、万が一の爆発の危険性を考慮し、火炎が大量の水素を取り扱う液相化学交換塔に伝搬しないようにフレームアレスターを備える。更に、
図2のプロセスでは、メンテナンスを考慮して、システム内のトリチウム水を抜いて一時貯留しておくドレン系統(7)も備える。
【0059】
また、このプロセスは、高濃度のトリチウムを取扱う機器を複数有する。主要装置である液相化学交換塔(2)は勿論であるが、その他にもトリチウムの微量漏洩が懸念される部分がある。そこで、このプロセスでは電解系統(3)、酸素精製系統(4)、トリチウム−水素精製系統(5)について、その設備を覆うケイシング(換気機能付きが好ましい)を設置して二次封じ込めがなされている。