特許第5946085号(P5946085)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5946085金属酸化物膜の硬質化方法及び硬質化装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5946085
(24)【登録日】2016年6月10日
(45)【発行日】2016年7月5日
(54)【発明の名称】金属酸化物膜の硬質化方法及び硬質化装置
(51)【国際特許分類】
   C01B 13/14 20060101AFI20160621BHJP
   C23C 14/58 20060101ALI20160621BHJP
   B05D 3/04 20060101ALI20160621BHJP
   C23C 14/06 20060101ALI20160621BHJP
   B05C 9/12 20060101ALI20160621BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20160621BHJP
   G02B 1/10 20150101ALI20160621BHJP
【FI】
   C01B13/14 A
   C23C14/58 C
   B05D3/04 C
   C23C14/06 P
   B05C9/12
   B05D7/24 302A
   G02B1/10
【請求項の数】8
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2012-59457(P2012-59457)
(22)【出願日】2012年3月15日
(65)【公開番号】特開2013-194250(P2013-194250A)
(43)【公開日】2013年9月30日
【審査請求日】2015年1月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(73)【特許権者】
【識別番号】390021577
【氏名又は名称】東海旅客鉄道株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000305
【氏名又は名称】特許業務法人青莪
(72)【発明者】
【氏名】竹井 日出夫
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 宗之
(72)【発明者】
【氏名】桃野 健
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 大輔
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 壮平
(72)【発明者】
【氏名】志知 哲也
【審査官】 森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/038894(WO,A1)
【文献】 特開平05−247658(JP,A)
【文献】 特開平08−108066(JP,A)
【文献】 特開2004−002094(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 13/00 − 13/36
B05C 9/12
B05D 3/04
B05D 7/24
C23C 14/06
C23C 14/58
G02B 1/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂板表面にアルミニウム、チタン、ジルコニウム、ニオブ、ハフニウム、タンタル、ルテニウム及びマンガンの中から選択される少なくとも1種の金属を含む金属酸化物膜を形成する第1工程と、
減圧下の処理室内で前記金属酸化物膜に対して酸素イオンを間欠照射する第2工程と、を含み、
前記第2工程にて硬質化された金属酸化物膜の表面をフッ素樹脂膜で被覆する工程を更に含むことを特徴とする金属酸化物膜の硬質化方法。
【請求項2】
酸素イオンが照射されない間、減圧下の処理室内で金属酸化物膜を不活性ガスのプラズマ雰囲気に曝す第3工程を更に含むことを特徴とする請求項1記載の金属酸化物膜の硬質化方法。
【請求項3】
樹脂板表面にアルミニウム、チタン、ジルコニウム、ニオブ、ハフニウム、タンタル、ルテニウム及びマンガンの中から選択される少なくとも1種の金属を含む金属酸化物膜を形成する第1工程と、
減圧下の処理室内で前記金属酸化物膜を不活性ガスのプラズマ雰囲気に曝す第2工程と、を含み、
前記第2工程にて硬質化された金属酸化物膜の表面をフッ素樹脂膜で被覆する工程を更に含むことを特徴とする金属酸化物膜の硬質化方法。
【請求項4】
前記第1工程において、アルミニウム、チタン、ジルコニウム、ニオブ、ハフニウム、タンタル、ルテニウム及びマンガンの中から選択される少なくとも1種の金属を含む金属酸化物のコロイド溶液を樹脂板表面に塗布することにより、前記金属酸化物膜を形成することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の金属酸化物膜の硬質化方法。
【請求項5】
前記第1工程において、酸化チタンナノシート又は酸化ニオブナノシートを含むコロイド溶液を樹脂板表面に塗布することにより、前記金属酸化物膜を形成することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の金属酸化物膜の硬質化方法。
【請求項6】
前記第1工程において、アルミニウム、チタン、ジルコニウム、ニオブ、ハフニウム、タンタル、ルテニウム及びマンガンの中から選択される少なくとも1種の金属と酸素とを含む金属錯体の溶液を樹脂板に塗布することにより、樹脂板表面に該金属酸化物を含む膜を形成することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の金属酸化物膜の硬質化方法。
【請求項7】
前記第1工程において前記金属酸化物膜をスパッタリング法により形成することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の金属酸化物の硬質化方法。
【請求項8】
樹脂板表面に形成されたアルミニウム、チタン、ジルコニウム、ニオブ、ハフニウム、タンタル、ルテニウム及びマンガンの中から選択される少なくとも1種の金属を含む金属酸化物膜を、減圧下の処理室内で不活性ガスのプラズマ雰囲気に曝して前記金属酸化物膜を硬質化させる硬質化装置において、
処理室内で、基板を保持するステージと、前記ステージと対向配置され、処理室内にガスを導入するガス導入部と、前記ステージにパルス電圧を印加する第1の電源と、前記ガス導入部に高周波電力を印加する第2の電源とを備え、
樹脂板表面に金属酸化物膜が形成されたもの前記ステージにより保持し、処理室内にガス導入部を介して不活性ガスを導入し、前記ステージにパルス電圧を印加すると共に前記ガス導入部に高周波電力を印加することで、処理室内にプラズマ雰囲気を形成し、このプラズマ雰囲気に金属酸化物膜が曝されるように構成したことを特徴とする硬質化装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属酸化物膜の硬質化方法及び硬質化装置に関し、より詳しくは、樹脂板表面に金属酸化物膜を形成してこの金属酸化物膜を硬質化させ、輸送機械用の窓材に適したものとするものに関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両や自動車等の輸送機械の窓材には、硬質の材料たるガラス材が一般に用いられてきたが(例えば特許文献1参照)、軽量化を図るには限界があり、しかも、水洗を繰り返すと、ガラス中のカルシウム成分の影響で白濁するという問題がある。そこで、新幹線やリニアモーターカーといった、速度アップ等のために軽量化の要請が特に強い高速鉄道車両、あるいは軽量化による燃費向上が必要な自動車において、より軽量なポリカーボネート等からなる樹脂板を用いる開発が進められている。このように窓材を樹脂板から構成すれば、上記白濁の問題も同時に解消することができる。
【0003】
他方、樹脂板はガラス材に比して硬度が低く、特に傷がつきやすい。このため、樹脂板を輸送機械の窓材として用いるには、樹脂板を硬質化する必要がある。然し、窓材として樹脂板を用いる場合、強度を持たせるため、樹脂板の厚みを、ガラス材を用いる場合と比較して厚くすることが通常である。このような比較的厚さのある樹脂板を効率的に硬質化するのは難しく、輸送機械の窓材を樹脂板から構成することの障害となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−310392号公報
【特許文献2】特開平9−025123号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、以上の点に鑑み、樹脂板表面に形成した金属酸化物膜を効率よく硬質化して、輸送機械の窓材として樹脂板を利用できるようにすることを第1の課題とする。また、本発明は、金属酸化物膜を効率よく硬質化させることが可能な簡単な構成の硬質化装置を提供することを第2の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記第1の課題を解決するために、本発明の第1形態は、樹脂板表面にアルミニウム、チタン、ジルコニウム、ニオブ、ハフニウム、タンタル、ルテニウム及びマンガンの中から選択される少なくとも1種の金属を含む金属酸化物膜を形成する第1工程と、減圧下の処理室内で金属酸化物膜に対して酸素イオンを間欠照射する第2工程と、を含み、前記第2工程にて硬質化された金属酸化物膜の表面をフッ素樹脂膜で被覆する工程を更に含むことを特徴とする。尚、本発明において、第1工程で形成される金属酸化物膜には、その前駆体膜を含むものとする。
【0007】
本発明の第1形態によれば、第1工程にて、樹脂板表面にアルミニウム、チタン、ジルコニウム、ニオブ、ハフニウム、タンタル、ルテニウム及びマンガンの中から選択される少なくとも1種の金属を含む金属酸化物膜を形成する。ここで、金属酸化物膜の形成方法としては、金属酸化物膜を樹脂板表面に直接成膜するPVD法(例えばスパッタリング法)やCVD法等の気相法だけでなく、塗布液を樹脂板表面に塗布して金属酸化物膜を形成する液相法を用いることができる。塗布方法としては、ディップコート法、スプレーコート法、フローコート法、ブレードコート法、シルクスクリーン法等の公知の方法を用いることができる。塗布液としては、金属酸化物又は金属水酸化物を含むコロイド溶液、金属アルコキシドを含むゾルゲル溶液、金属錯体溶液等を用いることができる。尚、樹脂板としては、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂等で構成されるものを用いることができる。また、樹脂板としては、その表面の平均粗さ(R)が0.05μm(より好ましくは0.03μm)より小さく、最大粗さ(Rp−p)が0.1μm(より好ましくは0.08μm)より小さいものを用いることが好ましい。樹脂板表面の平均粗さや最大粗さがこれらの数値よりも大きいと、樹脂板と金属酸化物膜との間の密着性が悪くなるという不具合が生じる。
【0008】
次に、第2工程では、金属酸化物膜が形成された樹脂板を処理室内に配置し、この処理室を所定圧力まで真空引きし、減圧下の処理室内で金属酸化物膜に対して酸素イオンを間欠照射する。酸素イオンの照射には、漏洩磁場域で発生させたプラズマからイオンを引き出し加速して照射するイオンガンやイオン源で発生させたイオンから特定のイオンを質量分離して加速して照射するイオン注入装置等の公知のものを用いることができる。上記第1工程で前駆体膜が形成されている場合、前駆体膜に照射された酸素イオンは、前駆体膜を酸化して金属酸化物膜を形成する。そして、このように前駆体膜の酸化により得られた金属酸化物膜または上記第1工程で形成された金属酸化物膜に照射された酸素イオンは、金属酸化物膜を構成する粒子を再配列させ、再配列した粒子がより大きな集合体(クラスター)となって結晶化する。その結果、金属酸化物膜が効率よく硬質化して、硬質化された金属酸化物膜を具備する樹脂板を輸送機械の窓材として利用できる。
【0009】
ここで、金属酸化物膜の膜厚は、20〜300nmの範囲内に設定することが好ましい。300nmより厚いと、金属酸化物膜の表面では十分に結晶化されるものの、金属酸化物膜の全体を効率よく硬質化できないという不具合が生じる虞がある。
【0010】
本発明において、酸素イオンが照射されない間、減圧下の処理室内で金属酸化物膜を不活性ガスのプラズマ雰囲気に曝す第3工程を更に含むことが好ましい。これによれば、第2工程と第3工程とが交互に繰り返し行われることとなる。酸素イオンの照射による金属酸化物の粒子の再配列に加えて、不活性ガスの電離により生じたイオンによる金属酸化物の粒子の再配列が行われる。このため、金属酸化物の原子の再配列が促進され、金属酸化物膜をより一層効率よく硬質化できる。また、不活性ガスとしては、窒素ガスやアルゴンガス、ヘリウムガス等の希ガスを用いることができ、アルゴンガスを好適に用いることができる。尚、プラズマ雰囲気の形成には、容量結合式、誘導結合式及びECR式等の公知の方式を用いることができる。
【0011】
また、上記第1の課題を解決するために、本発明の第2形態は、樹脂板表面にアルミニウム、チタン、ジルコニウム、ニオブ、ハフニウム、タンタル、ルテニウム及びマンガンの中から選択される少なくとも1種の金属を含む金属酸化物膜を形成する第1工程と、減圧下の処理室内で金属酸化物膜を不活性ガスのプラズマ雰囲気に曝す第2工程と、を含み、前記第2工程にて硬質化された金属酸化物膜の表面をフッ素樹脂膜で被覆する工程を更に含むことを特徴とする。
【0012】
本発明の第2形態によれば、金属酸化物膜が形成された樹脂板を処理室内に配置し、減圧下の処理室内で形成した不活性ガスのプラズマ雰囲気に金属酸化物膜表面が曝される。このとき、不活性ガスの電離により生じたイオンは、金属アルコキシド、金属錯体、金属水酸化物等からなる金属酸化物の前駆体膜に含まれる炭化水素や水分を除去して金属酸化物膜を形成し、次いで金属酸化物膜を構成する原子を再配列させ、再配列した原子がより大きな集合体(クラスター)となって結晶化する。その結果、金属酸化物膜を硬質化することができ、硬質化された金属酸化物膜を具備する樹脂板を輸送機械の窓材として利用できる。尚、第2工程では、処理室内を3×10−3Pa以下の圧力に減圧してから不活性ガスを導入することが好ましい。これによれば、プラズマにて水分が分解されることを抑制でき、ひいては、水分の分解により生じる水酸化物イオンや水素イオンによって金属酸化物膜の表面が還元されることが防止できる。また、不活性ガスとしては、窒素ガスやアルゴンガス、ヘリウムガス等の希ガスを用いることができ、アルゴンガスを好適に用いることができる。
【0013】
本発明は、第1工程において、アルミニウム、チタン、ジルコニウム、ニオブ、ハフニウム、タンタル、ルテニウム及びマンガンの中から選択された少なくとも1種の金属の酸化物を含むコロイド溶液を樹脂板表面に塗布することにより、金属酸化物膜を形成する場合に適している。この場合、第2工程に先立ち、金属酸化物膜を乾燥することが好ましい。金属酸化物膜の乾燥は、ホットプレートや加熱炉を用いることができ、樹脂板が熱変形しない条件で行うことができる。樹脂板がポリカーボネート樹脂で構成される場合、温度は100〜180℃の範囲内で設定できる。
【0014】
本発明は、第1工程において、酸化チタンナノシート又は酸化ニオブナノシートを含むコロイド溶液を樹脂板に塗布することにより、金属酸化物膜(即ち、金属酸化物ナノシートの膜)を形成する場合に特に適している。鱗片状の粒子である金属酸化物ナノシートが、その体積に比して広い面積をもって樹脂板表面に固定化されるため、膜の密着性が高く樹脂板表面の耐摩耗性を向上させる効果が一層高い。この場合、第2工程に先立ち、金属酸化物膜を乾燥することが好ましい。金属酸化物膜の乾燥は、ホットプレートや加熱炉を用いることができ、樹脂板が熱変形しない条件で行うことができる。樹脂板がポリカーボネート樹脂で構成される場合、温度は100〜180℃の範囲内で設定できる。
【0015】
ところで、上記酸化チタンナノシートのコロイド溶液は、公知の方法(例えば特許文献2参照)を用いて製造することができる。例えば層状チタン酸化合物であるKTi、Cs0.7Ti1.825などを酸処理した後、剥離剤であるアンモニウム化合物またはアミン化合物を水溶液中で作用させることによって得ることができる。同様に酸化ニオブナノシートのコロイド溶液は、例えば層状ニオブ酸化合物であるKNb、KNb17などを酸処理によりイオン交換してHNbO、HNb17などの化合物に変換した後、剥離剤を作用させると、層状構造が剥離してナノシート分散液を得ることができる。剥離剤としてはテトラブチルアンモニウムイオンやテトラエチルアンモニウム、テトラメチルアンモニウムなどの四級アンモニウムイオン、およびジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどのアミン類を利用することができる。
【0016】
前記酸化チタンナノシートおよび酸化ニオブナノシートは、鱗片状の形状を有する酸化チタンまたは酸化ニオブであり、その大きさは0.1〜50μmの範囲が好適であり、その厚みは0.3〜3nmの範囲が好適であり、更に望ましくは0.5〜1nmの範囲が好適である。また、酸化チタンナノシートや酸化ニオブナノシートにおけるアスペクト比は100〜100000の範囲が好適である。
【0017】
本発明は、第1工程において、アルミニウム、チタン、ジルコニウム、ニオブ、ハフニウム、タンタル、ルテニウム及びマンガンの中から選択される少なくとも1種の金属と酸素とを含む金属錯体の溶液を樹脂板表面に塗布することにより、樹脂板表面に金属酸化物膜を形成する場合に適している。この場合、第2工程に先立ち、金属酸化物膜を乾燥することが好ましい。金属酸化物膜の乾燥は、ホットプレートや加熱炉を用いることができ、樹脂板が熱変形しない条件で行うことができる。樹脂板がポリカーボネート樹脂板である場合、温度は100〜180℃の範囲内で設定できる。
【0018】
前記金属錯体としては、アセチルアセトナト錯体やEDTA(エチレンジアミン四酢酸)錯体など、配位子が有機化合物である錯体が好適である。配位子を有機化合物とすることで、様々な有機溶媒を用いて塗布液とすることが可能であり、そのため、樹脂板表面への濡れ性が良く良好な塗布膜を得られると共に、雰囲気中の水分に起因する加水分解による塗布液の劣化を防ぐことができる。具体的にはアセチルアセトンなどのベータジケトン類、エチレングリコールやカテコールなどの1,2−ジオール類、サリチル酸やその誘導体、マルトールやその誘導体など、多座配位子として働く配位子を用いた金属錯体を用いることが好ましい。また、広く市販されている金属アルコキシドを原料として用いることもできるが、水分に対して反応性が高く不安定である場合には、他の配位子を加えて安定化させた状態で塗布することが望ましい。具体的には前記に例示した多座配位子として働く化合物を安定剤として好適に用いることができる。塗布液の溶媒は、メタノールやエタノール、2−プロパノール等のアルコール類、酢酸エチルや乳酸エチル等のエステル類、ヘキサンやオクタン等の炭化水素類の他、アセトニトリル、γ−ブチロラクトン、クロロホルム等、種々の有機溶媒を単独または混合溶媒として用いることができる。
【0019】
本発明において、第1工程において金属酸化物膜をスパッタリング法により形成し、第2工程にて硬質化された金属酸化物膜の表面をフッ素樹脂で被覆することが好ましい。これによれば、防汚性が向上できると共に高い耐擦傷性を得ることができる。
【0020】
上記第2の課題を解決するために、本発明の第3形態は、樹脂板表面に形成されたアルミニウム、チタン、ジルコニウム、ニオブ、ハフニウム、タンタル、ルテニウム及びマンガンの中から選択される少なくとも1種の金属を含む金属酸化物膜を、減圧下の処理室内で不活性ガスのプラズマ雰囲気に曝して前記金属酸化物膜を硬質化させる硬質化装置であって、処理室内で、基板を保持するステージと、前記ステージと対向配置され、処理室内にガスを導入するガス導入部と、前記ステージにパルス電圧を印加する第1の電源と、前記ガス導入部に高周波電力を印加する第2の電源とを備え、樹脂板表面に金属酸化物膜が形成されたもの前記ステージにより保持し、処理室内にガス導入部を介して不活性ガスを導入し、前記ステージにパルス電圧を印加すると共に前記ガス導入部に高周波電力を印加することで、処理室内にプラズマ雰囲気を形成し、このプラズマ雰囲気に金属酸化物膜が曝されるように構成したことを特徴とする。

【0021】
本発明によれば、処理室内にステージとガス導入部とを対向配置し、ステージにパルス電圧を印加する第1の電源と、ガス導入部に高周波電力を印加する第2の電源とを備えるという簡単な構成を採用することにより、樹脂板表面に形成された金属酸化物膜を効率よく硬質化させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の第1実施形態の硬質化方法に用いられる硬質化装置を示す概略平面図。
図2】本発明の第1実施形態の硬質化方法を説明するフロー図。
図3】本発明の第2実施形態の硬質化装置を示す概略断面図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照して、本発明の第1実施形態の金属酸化物膜の硬質化方法について、樹脂板表面に金属酸化物膜を形成し、この金属酸化物膜への酸素イオンの照射と金属酸化物膜の不活性ガスのプラズマ雰囲気への暴露とを交互に行うことで金属酸化物膜を硬質化する場合を例に説明する。
【0024】
図1は、第1実施形態の硬質化方法で用いられる硬質化装置を示す。硬質化装置M1は、処理室10を画成する真空チャンバ1を備えている。処理室10の中央には、平面視正十角形のカルーセル型の回転ドラム2が設けられている。回転ドラム2の各外周面20には、図示省略の静電チャック等の保持手段が夫々設けられ、金属酸化物膜MOが形成された樹脂板Sの表面(すなわち、金属酸化物膜MOの形成面)を外側に向けた姿勢で、樹脂板Sを保持できる。回転ドラム2は、樹脂板Sを保持した状態で、中心軸2aを回転中心として回転できるようになっている。回転ドラム2の回転速度は、後述するイオンガンによるイオン照射やプラズマ雰囲気への暴露を行う時間を考慮して適宜設定できる。
【0025】
真空チャンバ1の側壁(図中右側の側壁)1aには、ロータリポンプ、ターボ分子ポンプなどの真空排気手段12に通じる排気管11が接続され、処理室10内を真空引きして所定の真空度に保持できる。この側壁1aと対向する側壁(図中左側の)1cには、基板搬出入口13が開設されており、この基板搬出入口13にはゲートバルブGVが設けられている。ゲートバルブGVを開くと、図示省略するベルヌーイチャック等を具備する搬送手段を用いて、側壁1cに対向する回転ドラム2の外周面20に対して樹脂板Sの受け渡しを行うことができる。
【0026】
真空チャンバ1の側壁(図中下側の側壁)1bには、酸素イオンを照射可能なイオンガン3が設けられている。回転ドラム2を例えば10rpmで回転させることで、イオンガン3の照射範囲に存する樹脂板Sに対して酸素イオンを照射できるようになっている。イオンガン3と樹脂板Sとの間の距離は、例えば、7〜15cmの範囲内で設定することが好ましい。イオンガン3としては、例えばRFイオンガン等の公知構造を有するものを用いることができるため、ここでは詳細な説明を省略する。この側壁1bと対向する側壁(図中上側の側壁)1dには、ECRプラズマ源4が設けられている。このECRプラズマ源4は、図示省略するが、アルゴンガス等の不活性ガスのガス源に通じるガス導入手段と、例えば周波数2.45GHz、電力1.2kW〜2.0kWのマイクロ波を投入可能なマイクロ波電源とを備えている。このECRプラズマ源4により不活性ガスを電離させてプラズマ雰囲気Pを形成できるようになっている。そして、ECRプラズマ源4で形成されたプラズマ雰囲気Pに樹脂板Sを曝すことができる。
【0027】
なお、上記硬質化装置M1は、マイクロコンピュータやシーケンサ等を備えた図示省略の制御手段を有し、制御手段により回転ドラム2、イオンガン3及びECRプラズマ源4の作動やゲートバルブGV及び搬送手段の作動等が統括制御されるようになっている。以下、上記硬質化装置M1を用いて、本実施形態の硬質化方法を、樹脂板Sをポリカーボネート樹脂板とし、この樹脂板S表面に形成された金属酸化物膜を酸化チタン膜MOとし、この酸化チタン膜MOを硬質化する場合を例に説明する。
【0028】
先ず、第1工程にて、樹脂板S表面に、硬質化される酸化チタン膜MOを形成する。樹脂板Sとしては、ポリカーボネート樹脂板以外に、アクリル樹脂板、エポキシ樹脂板等を用いることができる。樹脂板S表面の平均粗さ(R)は0.05μmより小さいことが好ましく、0.03μmより小さいことがより好ましい。樹脂板S表面の最大粗さ(Rp−p)は0.1μmより小さいことが好ましく、0.08μmより小さいことが好ましい。樹脂板S表面の平均粗さや最大粗さがこれらの数値よりも大きいと、樹脂板Sと金属酸化物膜MOとの間の密着性が悪くなるという不具合が生じる。樹脂板のサイズや厚みは、輸送機械の窓枠に応じて適宜選択できる。
【0029】
金属酸化物膜MOとしては、酸化チタン膜以外に、アルミニウム、ジルコニウム、ニオブ、ハフニウム、タンタル、ルテニウム及びマンガンの中から選択される少なくとも1種の金属を含むものを用いることができる。金属酸化物膜MOの形成方法としては、金属酸化物膜を樹脂板S表面に直接成膜する、PVD法(例えばスパッタリング法)やCVD法等の気相法だけでなく、樹脂板S表面に塗布液を塗布して金属酸化物膜を形成する液相法を用いることができる。塗布方法としては、ディップコート法、スピンコート法、フローコート法、スプレーコート法、ブレードコート法、シルクスクリーン法など公知の方法を用いることができ、特に、室温プロセスであるディップコート法が好適に用いられる。塗布液としては、金属酸化物又は金属水酸化物を含むコロイド溶液、金属アルコキシドを含むゾルゲル溶液、金属錯体溶液等を用いることができる。尚、液相法を用いて形成される金属酸化物膜には、前駆体膜が含まれる。
【0030】
第1工程において、酸化チタンナノシートや酸化ニオブナノシートのような金属酸化物ナノシートを含むコロイド溶液を樹脂板に塗布することにより、金属酸化物膜(即ち、金属酸化物ナノシートの膜)を形成することが好ましい。鱗片状の粒子である金属酸化物ナノシートが、その体積に比して広い面積をもって樹脂板表面に固定化されるため、膜の密着性が高く樹脂板表面の耐摩耗性を向上させる効果が一層高い。この場合、第2工程に先立ち、金属酸化物膜を乾燥することが好ましい。金属酸化物膜の乾燥は、ホットプレートや加熱炉を用いることができ、樹脂板が熱変形しない条件で行うことができる。乾燥条件は、樹脂板がポリカーボネート樹脂で構成される場合、温度は100〜180℃の範囲内で設定できる。
【0031】
酸化チタンナノシートのコロイド溶液は、公知の方法(例えば特許文献2参照)を用いて製造することができる。例えば層状チタン酸化合物であるKTi、Cs0.7Ti1.825などを酸処理した後、剥離剤であるアンモニウム化合物またはアミン化合物を水溶液中で作用させることによって得ることができる。同様に酸化ニオブナノシートのコロイド溶液は、例えば層状ニオブ酸化合物であるKNb、KNb17などを酸処理によりイオン交換してHNbO、HNb17などの化合物に変換した後、剥離剤を作用させると、層状構造が剥離してナノシート分散液を得ることができる。剥離剤としてはテトラブチルアンモニウムイオンやテトラエチルアンモニウム、テトラメチルアンモニウムなどの四級アンモニウムイオン、およびジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどのアミン類を利用することができる。これらの酸化チタンナノシートおよび酸化ニオブナノシートは、鱗片状の形状を有する酸化チタンまたは酸化ニオブであり、その大きさは0.1〜50μmの範囲が好適であり、その厚みは0.3〜3nmの範囲が好適であり、更に望ましくは0.5〜1nmの範囲が好適である。また、酸化チタンナノシートや酸化ニオブナノシートにおけるアスペクト比は100〜100000の範囲が好適である。
【0032】
また、第1工程において、アルミニウム、チタン、ジルコニウム、ニオブ、ハフニウム、タンタル、ルテニウム及びマンガンの中から選択される少なくとも1種の金属と酸素とを含む金属錯体の溶液を樹脂板に塗布することにより、樹脂板表面に金属酸化物膜を形成することが好ましい。この場合も、上記金属酸化物ナノシートを用いる場合と同様に、第2工程に先立ち、金属酸化物膜を乾燥することが好ましい。
【0033】
ここで、金属錯体としては、アセチルアセトナト錯体やEDTA(エチレンジアミン四酢酸)錯体など、配位子が有機化合物である錯体が好適である。配位子を有機化合物とすることで、様々な有機溶媒を用いて塗布液とすることが可能であり、そのため、樹脂板表面への濡れ性が良く良好な塗布膜を得られると共に、雰囲気中の水分に起因する加水分解による塗布液の劣化を防ぐことができる。具体的にはアセチルアセトンなどのベータジケトン類、エチレングリコールやカテコールなどの1,2−ジオール類、サリチル酸やその誘導体、マルトールやその誘導体など、多座配位子として働く配位子を用いた金属錯体を用いることが好ましい。また、広く市販されている金属アルコキシドを原料として用いることもできるが、水分に対して反応性が高く不安定である場合には、他の配位子を加えて安定化させた状態で塗布することが望ましい。具体的には前記に例示した多座配位子として働く化合物を安定剤として好適に用いることができる。塗布液の溶媒は、メタノールやエタノール、2−プロパノール等のアルコール類、酢酸エチルや乳酸エチル等のエステル類、ヘキサンやオクタン等の炭化水素類の他、アセトニトリル、γ−ブチロラクトン、クロロホルム等、種々の有機溶媒を単独または混合溶媒として用いることができる。
【0034】
また、液相法を用いて金属錯体の膜を形成する場合、塗布された金属錯体の膜は安定化されていることが好ましい。金属錯体としては、アセチルアセトナト錯体やEDTA(エチレンジアミン四酢酸)錯体など、配位子が有機化合物である錯体が好適である。配位子を有機化合物とすることで、様々な有機溶媒を用いて塗布液とすることが可能であり、そのため、樹脂性の基板表面への濡れ性が良く良好な塗布膜を得られると共に、雰囲気中の水分に起因する加水分解による塗布液の劣化を防ぐことができる。具体的にはアセチルアセトンなどのベータジケトン類、エチレングリコールやカテコールなどの1,2−ジオール類、サリチル酸やその誘導体、マルトールやその誘導体など、多座配位子として働く配位子を用いた金属錯体を用いることが好ましい。また、広く市販されている金属アルコキシドを原料として用いることもできるが、水分に対して反応性が高く不安定である場合には、他の配位子を加えて安定化させた状態で塗布することが望ましい。具体的には前記に例示した多座配位子として働く化合物を安定剤として好適に用いることができる。塗布液の溶媒は、メタノールやエタノール、2−プロパノール等のアルコール類、酢酸エチルや乳酸エチル等のエステル類、ヘキサンやオクタン等の炭化水素類の他、アセトニトリル、γ−ブチロラクトン、クロロホルム等、種々の有機溶媒を単独または混合溶媒として用いることができる。この場合も、上記酸化チタン膜MOと同様に、後述の第2工程に先立ち、金属錯体の膜を乾燥することが好ましい。
【0035】
次いで、ゲートバルブGVを開き、図示省略の搬送ロボットを用いて、酸化チタン膜MOが形成された樹脂板Sを回転ドラム2の外周面20に受け渡し、外周面20の保持手段により樹脂板Sを保持する。回転ドラム2を所定量(例えば36度)回転させ、回転ドラム2の他の外周面20にも樹脂板Sを保持する作業を繰り返すことで、回転ドラム2の各外周面20にて樹脂板Sを保持する。所定枚数の樹脂板Sを保持した後、ゲートバルブGVを閉じて、真空排気手段12により処理室10内を例えば、3×10−3Pa以下(好ましくは1×10−3Pa以下)の所定圧力に真空引きする。3×10−3Paよりも高いと、プラズマにて水分が分解され、ひいては、この水分の分解により生じる水酸化物イオンや水素イオンによって酸化チタン膜の表面が還元されて硬質化できないという不具合が生じる。
【0036】
処理室10内の圧力が所定圧力に達すると、回転ドラム2を回転させながら、イオンガン3からの酸素イオンの照射を開始する(第2工程)。第2工程では、イオンガン3の照射範囲に存する樹脂板S表面に形成された酸化チタン膜MOに対して酸素イオンが照射される。このため、特定の樹脂板Sについてみると、酸化チタン膜MOに対して酸素イオンが間欠照射されることとなる。このとき、酸化チタン膜MOに対する1回のイオン照射時間が5秒となるように、回転ドラム2の回転速度が適宜設定される。イオンの合計照射時間は、30〜200秒の範囲内に設定することが好ましく、30〜120秒の範囲内に設定することがより好ましい。
【0037】
また、第2工程において、酸素イオンと共にアルゴンイオン等の希ガスイオンを照射するようにしてもよい。この場合、イオンガン3に導入するアルゴンガスの流量比が40%以下にすることが好ましい。アルゴンガスの流量比が40%を超えると、酸化チタン膜MOがスパッタリングされるという不具合が生じる。
【0038】
酸素イオンが照射されない間、即ち、樹脂板Sがイオンガン3の照射範囲から外れた後に再び照射範囲内に入るまでの間、ECRプラズマ源4により形成されたアルゴンのプラズマ雰囲気Pに樹脂板S表面の酸化チタン膜MOが曝される(第3工程)。これにより、各樹脂板Sに対して、第2工程と第3工程とが交互に繰り返し行われることとなる(図2参照)。
【0039】
以上説明したように、第1実施形態によれば、樹脂板S表面に形成された酸化チタン膜MOに対して酸素イオンを間欠照射することで、酸化チタン膜MOを構成する原子を再配列させて、再配列した原子がより大きな集合体となって結晶化する。その結果、酸化チタン膜MOを効率よく硬質化でき、硬質酸化チタン膜MOを具備する樹脂板Sを輸送機械の窓材として利用できる。
【0040】
尚、樹脂板S表面に形成された前駆体膜に対して酸素イオンを間欠照射すると、先ず酸素イオンにより前駆体膜が酸化して金属酸化物膜となり、次いで酸素イオンによりこの金属酸化物膜を構成する原子が再配列し、再配列した原子がより大きな集合体となって結晶化する。この場合も、硬質金属酸化物膜を具備する樹脂板Sが得られる。
【0041】
また、酸素イオンが照射されない間、減圧下で酸化チタン膜MOをアルゴンプラズマ雰囲気Pに曝すことで、酸化チタン膜MOを構成する原子の再配列が促進され、酸化チタン膜MOをより一層効率よく硬質化できる。
【0042】
また、樹脂板S表面に酸化チタン膜MOをスパッタリング法により形成する場合、上記硬質化装置M1を用いて硬質化された酸化チタン膜MOの表面を、防汚層として機能するポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂膜で覆うことが好ましい。フッ素樹脂膜の形成方法としては、スパッタリング法を用いることができる。この場合、ポリテトラフルオロエチレンからなるターゲットに対してアルゴンイオンを10秒程度照射することで、フッ素樹脂膜の膜厚を5〜10nmの範囲内に制御できる。尚、スパッタリング装置や他のスパッタリング条件は公知であるため、ここでは詳細な説明を省略する。
【0043】
図3は、第2実施形態の硬質化方法で用いられる硬質化装置を示す。硬質化装置M2たるプラズマ処理装置は、処理室50を画成する真空チャンバ5を備える。真空チャンバ5の底部には、ステージ6が設けられている。ステージ6は、図示しない静電チャック等を有し、酸化チタン膜MOが形成された樹脂板Sを位置決め保持できる。ステージ6には、冷媒循環路61が穿設され、図外の熱交換機から冷媒循環路61に冷媒を供給することで、硬質化中、樹脂板Sが熱変形しない温度に冷却される。
【0044】
真空チャンバ5の底部には透孔51が開設され、処理室50を真空引きする図外の真空ポンプに通じる排気管52が接続されている。真空チャンバ5の上部には、絶縁体Iを介してガス導入部7が設けられている。ガス導入部7は、上部電極も兼ねており、上板71と、上板71の下面(処理室50側の面)からステージ6に向かって突設した環状の周壁部72と、この周壁部72の下端に設けた、ステージ6の表面62に保持させた基板Sに対向するシャワープレート74とから構成されている。ガス導入部7には、上板71と周壁部72とシャワープレート74とにより画成される空間73に不活性ガスを供給するガス供給管8が接続されている。ガス供給管8には、マスフローコントローラ81が介設され、硬質化中、不活性ガスを一定の流量で上記空間73に供給できるようになっている。
【0045】
ステージ6は、下部電極も兼ねており、パルス電源9bの出力が接続されており、ステージ6に例えば周波数20〜90kHz、0.8kV〜1.5kVのパルス電圧を印加できるようになっている。また、ガス導入部7の上板71には、高周波電源9aからの出力が接続され、例えば40MHzの高周波電力を投入できるようになっている。
【0046】
上記構成によれば、ガス供給管8及びシャワープレート74の各開口を介して不活性ガスを導入した状態で、ステージ6にパルス電圧を印加すると共に上板71に高周波電力を投入することで、処理室50内で不活性ガスのプラズマ雰囲気Pを形成することができる。そして、このプラズマ雰囲気Pに酸化チタン膜MOを曝すことで、酸化チタン膜MOを硬質化できる。従って、処理室50内にステージ6とガス導入部7を対向配置し、ステージ6にパルス電圧を印加する第1の電源9bと、ガス導入部7に高周波電力を印加する第2の電源9aとを備えるという簡単な構成を採用することにより、樹脂板S表面に形成された酸化チタン膜MOを効率良く硬質化させることができる。以下、上記硬質化装置M2を用いて、本実施形態の硬質化方法を、ポリカーボネート樹脂板表面に形成された酸化チタン膜を硬質化する場合を例に説明する。
【0047】
第1工程では、上記第1実施形態と同様に、ディップコート法等を用いて、樹脂板Sの表面に酸化チタン膜MOを形成する。次いで、図示省略の搬送手段を用いて、酸化チタン膜MOが形成された樹脂板Sを、上記硬質化装置M2のステージ6上に位置決め保持する。本実施形態では、ステージ6上に3枚の樹脂板Sを保持し、これら3枚の樹脂板Sに対して同時に硬質化が行われる。
【0048】
そして、アルゴンガスを供給した状態でパルス電圧をステージ6に印加すると共に上部電極7に高周波電力を投入すると、処理室50内にプラズマ雰囲気Pが形成され、プラズマ雰囲気Pに樹脂板Sが曝される。樹脂板Sがプラズマ雰囲気Pに曝される時間は、60〜900秒の範囲内に設定することが好ましく、90〜300秒の範囲内に設定することがより好ましい。これにより、プラズマ中で電離したアルゴンイオンが、酸化チタン膜を構成する原子を再配列させ、再配列した原子が大きな集合体(クラスター)となって結晶化する。その結果、酸化チタン膜を硬質化することができ、硬質化された酸化チタン膜を具備するポリカーボネート樹脂板を輸送機械の窓材として利用できる。
【0049】
上記実施形態の効果を確認するために、以下の実験を行った。実験1は、樹脂板Sとして、鉄道車両用の5mm厚のポリカーボネート基板を100mm×100mmにカットしたものを用いた。この基板Sの塗布面を酸素プラズマ照射により清浄化した後、塗布液である酸化チタンナノシートを含むコロイド溶液をディップコート法により塗布することによって、約20nmの厚みで酸化チタン膜MOを形成した。酸化チタンナノシートの剥離剤には、テトラブチルアンモニウムヒドロキシドを用いた。塗布液の溶媒として、工業用アルコールであるクリンソルブP−7を80%、イオン交換水を20%用い、塗布液の固形分濃度を0.3wt%に調整した(以下、このコロイド溶液を「塗布液1」という)。ディップコーターはSDI社製のKD−5000を用い、引上げ速度を140mm/分とした。このように酸化チタン膜MOが形成された基板Sを図1に示す硬質化装置M1の回転ドラム2で保持し、この回転ドラム2を10rpmで回転させながら、酸化チタン膜に対してイオンガン3による酸素イオン照射を行うことで硬質化した。酸素イオンの照射条件は、供給電力を200W(DC1000V、0.2A)、イオンガン3に導入する酸素ガスの流量を200sccm、イオンガン3から基板Sまでの距離を10cm、合計照射時間を10分とした。硬質化した酸化チタン膜に対して鉛筆引っかき試験を、JIS−K5600−5−4に記載の方法に準拠して実施したところ、酸素イオン照射前(硬質化前)の酸化チタン膜は、6Bの鉛筆でも膜の剥離が確認されたが、酸素イオン照射後(硬質化後)の酸化チタン膜はHBの鉛筆硬度を示し、酸素イオン照射処理により酸化チタン膜を硬質化できることが判った。さらに、ポリカーボネート基板では基板自体の硬度が低いために、鉛筆硬度がHBを超えると基板自体の変形によって酸化チタン膜が傷付く一方で、ポリカーボネート基板に代えて石英基板を用いて同様の実験を行うと、9H以上の鉛筆硬度を示し、酸化チタン膜がより一層硬質化していることが判った。また、硬質化した酸化チタン膜(実施例1−1〜4)に対して、テーバー摩耗試験を実施した。このテーバー摩耗試験は、JIS−R3212「自動車安全ガラス試験方法」の中に定められた耐摩耗性の試験方法に準拠し、CS−10F摩耗輪2個を4.9Nの荷重で1000回転させて摩耗試験を行い、試験前後の曇価を測定しその増加量ΔHzを算出した。テーバー磨耗試験を行ったところ、4つのサンプル(実施例1−1〜4)の磨耗前(未摩耗部)の曇価(Hz)は、それぞれHz=0.60、0.75、0.99、0.88であったのに対し、磨耗後(摩耗部)の曇価(Hz)は、それぞれHz=0.99、0.85、0.85、1.37であった。上記曇価Hz,Hzの値は、4点の計測値の平均値である。磨耗前後での曇価の変化量(ΔHz)は、それぞれΔHz=0.39、0.10、−0.14、0.49であり、これらの変化量の平均値は0.28であり、基板S(後述の比較例参照)に比べて大幅に耐摩耗性を向上できることが判った。以下の表1には、硬質化した金属酸化膜のテーバー摩耗試験の結果を示す。
【0050】
【表1】
【0051】
実験2では、樹脂板Sとして上記実験1で用いた基板(DMT−250)を用い、上記実験1と同一条件で、基板S表面に上記塗布液1をディップコート法により塗布することで酸化チタン膜MOを形成した。この酸化チタン膜MOに対して、上記硬質化装置M1のイオンガン3による酸素イオン照射とECRプラズマ源4によるプラズマ処理とを交互に繰り返すことにより硬質化した。酸素イオン照射条件は、処理時間が3分である以外は上記実験1と同一とした。ECRプラズマ照射条件は、ECR源4で導入されるマイクロ波を2.54GHz、1.6kWとした。硬質化した酸化チタン膜に対して鉛筆引っかき試験を行ったところ、上記実験1と同様、硬質化前は6B未満であった鉛筆硬度がHBまで硬質化できることが確認された。尚、実験1の場合と同様に、石英基板を用いると、鉛筆強度が9H以上までより一層硬質化できることが確認された。本実験2で硬質化した酸化チタン膜(実施例2−1〜4)に対してテーバー磨耗試験を行ったところ、4つのサンプルの磨耗前の曇価がHz=0.97、0.90、1.03、1.00であったのに対し、磨耗後の曇価はそれぞれHz=1.03、1.17、1.31、1.27であった。このため、磨耗前後での曇価の変化量は、それぞれΔHz=0.06、0.27、0.28、0.27であり、これらの変化量の平均値は0.22であり、上記実施例1−1〜4と同等に耐摩耗性を向上できることが判った。
【0052】
実験3では、樹脂板Sとして上記実験1で用いた基板(DMT−250)を用い、塗布液として、酸化チタンナノシートに代えて酸化ニオブナノシートを含み、固形分濃度を0.5wt%とする点以外は、上記塗布液1と同じであるコロイド溶液を用いた(以下、このコロイド溶液を「塗布液2」という)。この塗布液2を上記実験1と同一の条件でディップコート法により塗布することで、約20nmの厚みで酸化ニオブ膜MOを形成した。酸化ニオブナノシートの剥離剤には、3−メトキシプロピルアミンを用いた。この酸化ニオブ膜に対して上記実験1と同一条件で上記硬質化装置M1のイオンガン3による酸素イオン照射を行うことで硬質化した。硬質化した酸化ニオブ膜に対して鉛筆引っかき試験を行ったところ、硬質化前は6B未満であった鉛筆硬度がHBまで硬質化できることが確認された。尚、酸化チタン膜の場合と同様に、石英基板を用いると9H以上の鉛筆硬度を示し、酸化ニオブ膜がより一層硬質化していることが判った。また、硬質化した酸化ニオブ膜(実施例3−1〜4)に対してテーバー磨耗試験を行ったところ、これら4つのサンプルの磨耗前の曇価がそれぞれHz=1.17、1.08、0.97、0.84であったのに対し、磨耗後の曇価HzはそれぞれHz=0.99、1.14、0.85、0.74であった。このため、摩耗前後での曇価の変化量はそれぞれΔHz=−0.18、0.06、−0.12、−0.10であり、これらの変化量の平均値は0.12であり、上記実施例1−1〜4よりも高い耐摩耗性を達成できることが判った。
【0053】
実験4では、上記実験3と同様に、基板S(DMT−250)表面に塗布液2を塗布して酸化ニオブ膜を約20nmの厚さで形成した。そして、この酸化ニオブ膜に対して上記実験2と同一条件で上記硬質化装置M1のイオンガン3による酸素イオン照射とECRプラズマ源4によるプラズマ処理とを交互に繰り返して硬質化した。硬質化した酸化ニオブ膜に対して鉛筆引っかき試験を行ったところ、硬質化前は6B未満であった鉛筆硬度がHBまで硬質化できることが確認された。尚、上記実験3と同様に、石英基板を用いると9H以上の鉛筆硬度を示し、酸化ニオブ膜がより一層硬質化していることが判った。また、硬質化した酸化ニオブ膜(実施例4−1〜2)に対してテーバー磨耗試験を行ったところ、これら2つのサンプルの磨耗前の曇価がそれぞれHz=1.18、0.99であるのに対し、磨耗後の曇価はそれぞれHz=1.19、1.30であった。このため、摩耗前後での曇価の変化量はそれぞれΔHz=0.01、0.31であり、これらの変化量の平均値は0.16であり、上記実施例3−1〜4と同等に耐摩耗性を向上できることが判った。
【0054】
実験5は、上記実験1と同じ樹脂板Sを用い、塗布液として、酸化チタンナノシートを含むコロイド溶液に代えて、アルミニウム錯体溶液を用いた(以下、この錯体溶液を「塗布液3」という)。この塗布液3は、アルミニウムアセチルアセトナートに1当量のエチルマルトールを作用させて錯体を形成し、この錯体を乳酸エチルに溶解させて得た0.1mol/Lの溶液である。この塗布液3をスピンコート法により塗布することで、基板S表面に酸化アルミニウム膜の前駆体となる膜を形成した。塗布装置としてはスピンコーター(ミカサ株式会社製の1H−D7)を用い、基板回転数を2000rpmとし、塗布液3の滴下量を0.5mLとした。その後、上記実験1と同一条件で、前駆体膜に対して酸素イオン照射を行うことで、前駆体膜を酸化して酸化アルミニウム膜を形成すると共にこの酸化アルミニウム膜を硬質化した。硬質化した酸化アルミニウム膜に対して鉛筆引っかき試験を行ったところ、硬質化前は6B未満であった鉛筆強度がHBまで硬質化できることが確認された。また、石英基板を用いると、鉛筆強度が9H以上まで一層硬質化できることが確認された。硬質化した酸化アルミニウム膜(実施例5−1〜2)に対してテーバー摩耗試験を行ったところ、2つのサンプルの磨耗前の曇価がそれぞれHz=0.52、0.7であるのに対し、磨耗後の曇価がそれぞれHz=3.49、3.46であった。このため、摩耗前後での曇価の変化量はそれぞれΔHz=2.97、2.76であり、これらの変化量の平均値は2.87であり、基板S(後述の比較例参照)に比べて耐摩耗性を向上できることが判った。
【0055】
実験6は、樹脂板Sとして、帝人化成株式会社製のポリカーボネート基板(DMT−250)の代わりに同社製のポリカーボネート基板(DMT−200)を用いる点以外は、上記実験1と同様にして酸化チタン膜MOを形成した。この酸化チタン膜に対して上記実験1と同一条件で酸素イオン照射を行うことで硬質化した。この硬質化した酸化チタン膜に対して鉛筆引っかき試験を行ったところ、上記実験1と同様、硬質化前は6B未満であった鉛筆硬度がHBまで硬質化できることが確認された。また、硬質化した酸化チタン膜(実施例6−1〜2)に対してテーバー磨耗試験を行ったところ、これら2つのサンプルの磨耗前の曇価がHz=0.66、0.35であったのに対し、磨耗後の曇価はそれぞれHz=3.27、3.65であった。このため、磨耗前後での曇価の変化量はそれぞれΔHz=2.61、3.30であり、これらの変化量の平均値は2.96であり、基板S(後述の比較例参照)に比べて耐摩耗性を向上できることが判った。
【0056】
実験7は、樹脂板Sとして上記実験6で用いた基板(DMT−200)を用い、この基板Sの表面に上記塗布液2をディップコート法により塗布して酸化ニオブ膜を形成した。この酸化ニオブ膜に対して上記実験1と同一条件で酸素イオン照射を行うことで硬質化した。硬質化した酸化ニオブ膜に対して鉛筆引っかき試験を行ったところ、上記実験3と同様、硬質化前は6B未満であった鉛筆硬度がHBまで硬質化できることが確認された。また、硬質化した酸化チタン膜(実施例7−1〜2)に対してテーバー磨耗試験を行ったところ、これら2つのサンプルの磨耗前の曇価がHz=0.48、0.51であったのに対し、磨耗後の曇価はそれぞれHz=1.16、1.11であった。このため、磨耗前後での曇価の変化量はそれぞれΔHz=0.68、0.60であり、これらの変化量の平均値は0.64であり、基板S(後述の比較例参照)に比べて大幅に耐摩耗性を向上できることが判った。
【0057】
実験8は、上記実験1と同様に、樹脂板S(DMT−250)表面に塗布液1をディップコート法により塗布して酸化チタン膜MOを形成した。このように酸化チタン膜が形成された基板Sを、図3に示す硬質化装置M2の真空チャンバ5内に搬送してステージ6の表面62に位置決め保持し、酸化チタン膜に対してアルゴンプラズマ処理を行うことで硬質化した。処理条件としては、ステージ6に印加するパルス電圧を400kHz、1.5kVとし、上部電極71に印加する高周波電力を40MHz,1.8kWとし、アルゴンガス流量を300sccmとし、上部電極71と基板Sとの間の距離を75mmとし、処理室50内の圧力を10Paとし、処理時間を10分とした。硬質化した酸化チタン膜に対して鉛筆引っかき試験を3枚のサンプルで行ったところ、3枚のサンプルとも硬質化前は6Bの鉛筆で膜が剥がれていたのに対し、硬質化後は1枚の鉛筆強度がB、他の2枚の鉛筆強度がHBまで硬質化できることが確認された。
【0058】
上記実施例に対する比較例として、上記ポリカーボネート基板(DMT−250)に対して、上記実験1と同様にテーバー摩耗試験を行った。3つのサンプル(比較例1−1〜3)の摩耗前の曇価HzはそれぞれHz=0.27、0.21であったのに対し、摩耗後の曇価はそれぞれHz=4.42、3.10であった。このため、摩耗前後での曇価の変化量は、それぞれΔHz=4.15、2.89であり、これらの変化量の平均値は3.52であった。
【0059】
他の比較例として、上記実験6及び7で用いられたポリカーボネート基板(DMT−200)に対しても、実験1と同様にテーバー摩耗試験を行った。2つのサンプル(比較例2−1〜2)の摩耗前の曇価がそれぞれHz=0.20、0.19であったのに対し、摩耗後の曇価はΔHz=5.35、4.43であった。このため、摩耗前後での曇価の変化量はそれぞれΔHz=5.15、4.24であり、これらの変化量の平均値は4.70であった。
【0060】
また、他の実験として、樹脂板Sとして上記実験1で用いた基板(DMT−250)を用い、この基板S表面にスパッタリング法により酸化チタン膜MOを100nmの厚みで形成し、この酸化チタン膜MOに対して上記硬質化装置M1のイオンガン3による酸素イオン照射とECRプラズマ源4によるプラズマ処理とを交互に繰り返すことにより硬質化した。このとき、イオンガン3に導入する酸素ガスの流量を100sccmとし、イオンガン3からの酸素イオンの合計照射時間を50秒とし、ECRプラズマ源4で投入されるマイクロ波を波長2.45GHz、電力2.5kWとした。次いで、硬質化した酸化チタン膜の表面にポリテトラフルオロエチレンからなるフッ素樹脂膜をスパッタリング法により形成した。このとき、ポリテトラフルオロエチレン製のターゲットを用い、スパッタガスとしてアルゴンガスを用い、スパッタ時間を15秒とすることで、フッ素樹脂膜の厚みを10nmとした。このフッ素樹脂膜に対して鉛筆引っ掻き硬度試験を行ったところ、鉛筆硬度が9H以上と非常に高く、また、スチールウール耐擦傷性試験を行ったところ、全く傷が付かず(ランク1)、耐擦傷性に優れていることが確認された。そして、温度85℃、湿度90%の環境下で1万時間経過しても、上記特性に変化がないことが確認された。本実験によれば、硬質化した酸化チタン膜の表面をフッ素樹脂膜で覆うことにより、防汚性が向上することが判った。
【0061】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、第1実施形態ではイオンガンを用いて酸素イオンを照射しているが、イオンガンに代えて、イオン源で発生させた複数種のイオンから酸素イオンを質量分離して照射するイオン注入装置を用いることができる。
【符号の説明】
【0062】
M1…硬質化装置、MO…酸化チタン膜(金属酸化物膜)、P…プラズマ雰囲気、S…ポリカーボネート樹脂板(樹脂板)、6…ステージ、7…ガス導入部、10,50…処理室。
図1
図2
図3