(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
一定時間光を照射して、その照射停止後も自己発光する蓄光体の実用化が進められている。このような蓄光体は、日没後あるいは消灯後も太陽光あるいはランプの照射により蓄積されたエネルギーにより自己発光可能であることから、夜間向けの標識や光装飾品に利用することができる。また、停電時に機能する誘導標識や補助照明等の分野などでも利用することができ、様々な分野で需要が高まっている。
【0003】
前記蓄光体では、その残光輝度が高い程、視認性が向上することから、残光輝度の向上が課題とされ、これまで前記蓄光体を有する蓄光部材について種々の提案がされている。
例えば、最下面を反射層として、透明接着剤を用いて該反射層上に蓄光体粒子を一層ずつ積層させる方法が提案され、使用する前記蓄光体粒子を大きくすること、一層中の前記蓄光体粒子の密度を高くすること、また、前記蓄光体粒子の層を多層化することにより、残光輝度を向上させることとしている(特許文献1参照)。
しかしながら、前記蓄光体粒子を密に並べてしまうと、層間の光透過性が低下して、下層側の前記蓄光体粒子に十分な光が届かず、多層化の効果が失われる問題がある。
この様子を
図1を用いて説明する。
図1は、蓄光体粒子を密に並べた層を多層化したモデルを示す説明図である。
このモデルでは、基板200上に蓄光体粒子201の層が4層積層されている。光入射側の第1の粒子層202から、より深い位置に配される第2の粒子層203、第3の粒子層204に進むにしたがって、入射光は減衰し、最深層となる第4の粒子層205には、入射光が届かない。したがって、このモデルでは、第1の粒子層202〜第3の粒子層204までで得られる残光輝度の数値が飽和状態となり、これ以上に多層化しても残光輝度を向上させることができないという問題がある。なお、
図1中の符号206は、蓄光体粒子201の保護層を示す。
【0004】
また、蓄光体粒子をガラス材やシリカゲル材などの媒質中に分散配置させることにより、該媒質を経由させて深い位置の蓄光体粒子に光を入射させるとともに、深い位置の蓄光体粒子から発光された光を外部に放出させる方法が提案されている(例えば、特許文献2、3参照)。
例えば、特許文献2では、蓄光顔料と透光性を有する固形のスペーサとを支持母材となる透光性のバインダ中に分散させた蓄光部材が提案されている。この提案によれば、透光性のスペーサ及びバインダを経由させて、直接外部に露出していない深い位置の蓄光顔料に光を導くとともに、該蓄光顔料が発光する光を外部に導くこととして、高い残光輝度を得ることとしている。
また、この蓄光部材では、比較的長時間の発光性が得られるとされる。長時間発光させることができれば、例えば、日没後、翌朝まで発光させることができ、利便性に優れた蓄光部材を提供することができる。
しかしながら、これらの蓄光部材は、光照射停止後、時間の経過とともに残光輝度が減少することから、十分な視認性が求められる分野においては、依然としてより高い残光輝度で長時間発光する蓄光部材の開発が求められているのが現状である。
【0005】
また、長時間の発光を可能とする蓄光部材として、蓄光体粒子を含む成形体上に集光レンズを配して、前記成形体から得られる残光輝度が低下した場合でも、その光を前記集光レンズに集光して高輝度で発光させる方法が提案されている(例えば、特許文献4参照)。
しかしながら、前記集光レンズを用いる構成では、構造が複雑になるとともに、製造コストが嵩むという問題がある。また、この方法を用いても、部材全体の総光量が増加するわけでは無く、非集光部の減光を勘案すると実質的に部材単位では大幅な残光輝度の向上及び発光時間の長時間化を期待できないという問題がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、簡単な構造で、残光輝度及び部材全体の総光量が高く、視認可能な輝度で長時間発光する蓄光部材を提供することを目的とする。
【0008】
前記課題を解決するために、鋭意検討を行ったところ、以下の知見が得られた。
即ち、従来の蓄光体粒子の光透過性を考慮して蓄光体粒子を一つ一つバインダ中に分散させる構成よりも、前記蓄光体粒子の光透過性を考慮せず、前記蓄光体粒子で構成される蓄光体をその輝度が飽和状態に近くなるように形成可能とし、この蓄光体を部材中に複数配することで優れた残光特性を得る一方で、これら蓄光体を規則的に配置させることで、これら蓄光体間に入射光を配光させ、該蓄光体から放出される放出光を集光して外部に出射させる光路を付与した方が、結果として部材全体での残光輝度の平均値が高くなり、長時間の発光特性が得られることを知見した。また、出射光の前記光路上では、より高い残光輝度でより長時間の発光特性が得られることを知見した。
【0009】
前記知見に関し、従来技術においては、前記蓄光体粒子間を透光性の前記母材を存在させることで、部材全体として一定の透光性を確保する必要性から、粒子密度を一定以上に高くすることが困難となる。したがって、こうした従来技術の延長線上で、さらに突き詰めて輝度、光量、残光時間の向上の検討を進めた場合には、該部材内で、前記蓄光体粒子の高密度な充填と、前記蓄光体粒子の低密度の分散性との二律背反する問題に直面することになる。
そこで前記知見では、前記蓄光体を複数配して形成した蓄光体の層に、該蓄光体を所定の間隔をもって規則的に配置させることで、このままでは残光輝度の向上に寄与しない部分、即ち、入射光(励起光)が届かず前記蓄光部材の残光輝度の向上に寄与していない前記蓄光体の部分に前記入射光を配光させ、該蓄光体からの残光を集光する機構を付与し、その機構の存在により、減少する本来有効であった前記蓄光体の存在部位よりも、該機構によって新たに発光するようなる前記蓄光体の存在部位の方が多くなるように配置することで、部材全体としての光量、輝度、残光時間を向上させる。
即ち、前記入射光の照射面に密に前記蓄光体を敷き詰めて単一層として形成した場合よりも、実質的に同層の面積が広くなるように前記蓄光体の層を立体構成すれば、同単一層よりも輝度(光量)を高くすることが確実となる。
また、前記蓄光体粒子を単に前記母材中に混練して不規則に配置させるよりも、前記蓄光体粒子を含む前記蓄光体を規則的に配置させることで、前記入射光の光路の確保と、特性の最適化に向けた前記各蓄光体間の間隔調整を確実に行うことができる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 蓄光体粒子を含む蓄光体が内包される
複数の蓄光体部が、入射光の一の照射方向に対して略直交方向に間隔を有して規則的に並設され、全体略層状に配される
前記蓄光体部
で形成される層を複数有し、
前記蓄光体部で形成される前記複数の層が、一の層上に前記入射光が照射される側の層としての他の層が積層方向に間隔を有して積層され、かつ、前記他の層を構成する前記各蓄光体部が、前記一の層を構成する前記各蓄光体部に対して前記積層方向に向かって規則的に対向配置されるとともに、前記一の層及び前記他の層の各々の層が有する前記間隔が、前記入射光を前記他の層側から前記一の層に導き、前記一の層における前記各蓄光体部から放出される放出光を前記一の層から前記他の層側に導く光路を形成するように、前記入射光の前記照射方向と同一の方向に連ねて規則的に対向配置され、前記一の層及び前記他の層の各々の層において隣接する前記
各蓄光体部間に配され、照射される前記入射光を
前記光路を介して配光して
前記一の層及び前記他の層を構成する前記
各蓄光体部に導き、
これら蓄光体部から放出される
前記放出光を
前記光路を介して集光して外部に出射する透光性の配光集光
部を有することを特徴とする蓄光部材
。
<
2> 積層される蓄光体部で形成される層間に配光集光部が配される前記<
1>に記載の蓄光部材。
<
3> 配光集光部が、光散乱体を含有する前記<1>から<
2>のいずれかに記載の蓄光部材。
<
4> 更に、入射光を反射する反射層を有し、該反射層上に蓄光体部及び配光集光部が配される前記<1>から<
3>のいずれかに記載の蓄光部材。
<
5> 層中で隣接する蓄光体部間の間隔が、前記蓄光体部における並設方向の最大幅に対して、0.05倍〜10倍であ
り、対向配置される前記蓄光体部間の間隔が、前記蓄光体部における前記並設方向の最大幅に対して、0.05倍〜10倍であり、前記蓄光体部における前記並設方向の前記最大幅が、0.5μm〜100mmである前記<1>から<
4>のいずれかに記載の蓄光部材
。
<
6> 蓄光体部における入射光の一の照射方向の最大高さが、0.5μm〜500mmである前記<1>から<
5>のいずれかに記載の蓄光部材。
<
7> 配光集光部が、少なくとも層中で隣接する蓄光体部間の全空間に透光性部材が充填された構造を有する前記<1>から<
6>のいずれかに記載の蓄光部材。
<
8> 配光集光部が、蓄光体部を内包可能で、透光性を有し、少なくとも一部に曲面を有する部材で形成される前記<1>から<
7>のいずれかに記載の蓄光部材。
<
9> 配光集光部が、透光性を有し、蓄光体部を軸心方向に内挿可能な管状部材で形成される前記<1>から<
8>のいずれかに記載の蓄光部材。
<
10> 少なくとも2つの蓄光体部間で発光色又は発光強度の異なる蓄光体を用いる前記<1>から<
9>のいずれかに記載の蓄光部材。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、従来技術における前記諸問題を解決することができ、簡単な構造で、残光輝度及び部材全体の総光量が高く、視認可能な輝度で長時間発光する蓄光部材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(蓄光部材)
本発明の蓄光部材は、蓄光体部と、配光集光部とを有し、必要に応じて、反射層、収容容器等の他の部材を有する。
【0014】
<蓄光体部>
前記蓄光体部は、蓄光体粒子を含む蓄光体が内包されるとともに、入射光の一の照射方向に対して略直交方向に間隔を有して規則的に並設され、全体略層状に配される。
前記蓄光体部をこのように規則配置させると、前記蓄光部材に照射される前記入射光(励起光)を、前記間隔を通じて前記蓄光体部の前記入射光側の表面以外の部分にも導入して、前記蓄光体部により多くの前記入射光を導入可能とさせるとともに、前記蓄光体部から放出される放出光をより多く外部に出射させることを可能とさせる。
【0015】
前記蓄光体部で形成される層としては、特に制限はないが、複数積層されることが好ましく、この場合、一の層中の前記各蓄光体部の少なくとも一部が、他の層中の前記各蓄光体部の少なくとも一部と積層方向に間隔を有して規則的に対向配置されることが好ましい。
前記蓄光体部は、前述の通り、層中で隣接する前記蓄光体部間に間隔を有して配されることから、該間隔を通じて、前記入射光が照射される表面側から底部側のより深い位置に配される前記蓄光体部で形成される層に対して前記入射光(励起光)を導入可能とするとともに、該層中の前記蓄光体部から放出される放出光を外部に出射させることを可能とする。また、対向配置される前記蓄光体部間に間隔を有することで、前記蓄光体部の前記入射光を受け、前記放出光を放出する表面積を大きくとることができる。
その結果、多層化の効果を失わせることなく、前記蓄光体部で形成される層をより多段に積層させることが可能となるとともに、前記配光集光部に前記蓄光体部の放出光をより多く集光させることによって、より高い残光輝度でより長時間の発光特性を得ることができる。
【0016】
前記層中で隣接する前記蓄光体部間の間隔としては、特に制限はないが、前記蓄光体部における並設方向の最大幅に対して、0.05倍〜10倍が好ましく、0.1倍〜5倍がより好ましく、0.1倍〜2倍が特に好ましい。
前記間隔がこのような大きさであると、前記蓄光部材中の光路を確保しつつ、前記蓄光体部を前記蓄光部材中に高密度に集積(充填)させることができ、残光輝度を向上させ、前記蓄光部材全体の総光量を大きくするとともに、より長時間の発光特性を得ることが可能となる。
なお、前記間隔が0.05倍未満であると、前記蓄光体部の配置密度が必要以上に密となり、前記間隔を通じて前記配光集光部中に導入される前記入射光の光路が必要以上に制限されることがあり、前記間隔が10倍を超えると、前記蓄光体部の配置密度が疎となり、前記蓄光部材全体の総光量の向上を期待できないことがある。
【0017】
前記層中で隣接する前記蓄光体部間の具体的な間隔としては、前述の残光輝度を向上させ、前記蓄光部材全体の総光量を大きくするとともに、より長時間の発光特性を得る観点及び実用化に適した大きさで形成される前記蓄光体部との関係性から、0.05μm〜100mmが好ましく、0.1μm〜50mmがより好ましく、0.1μm〜20mmが特に好ましい。
なお、前記間隔は、前記層中で隣接する前記蓄光体部間の最短距離を示す。
【0018】
前記対向配置される前記蓄光体部間の間隔としては、特に制限はないが、前記蓄光体部における並設方向の最大幅に対して、0.05倍〜10倍が好ましく、0.1倍〜5倍がより好ましく、0.1倍〜2倍が特に好ましい。
前記間隔がこのような大きさであると、前記蓄光部材中の光路を確保しつつ、前記蓄光体部を前記蓄光部材中に高密度に集積(充填)させることができ、残光輝度を向上させ、前記蓄光部材全体の総光量を大きくするとともに、より長時間の発光特性を得ることが可能となる。
なお、前記間隔が0.05倍未満であると、前記蓄光体部の配置密度が必要以上に密となり、前記間隔を通じて前記各蓄光体部中に導入される前記入射光の光路が必要以上に制限されることがあり、前記間隔が10倍を超えると、前記蓄光体部の配置密度が疎となり、前記蓄光部材全体の総光量の向上を期待できないことがある。
【0019】
前記対向配置される前記蓄光体部間の具体的な間隔としては、前述の残光輝度を向上させ、前記蓄光部材全体の総光量を大きくするとともに、より長時間の発光特性を得る観点及び実用化に適した大きさで形成される前記蓄光体部との関係性から、0.05μm〜100mmが好ましく、0.1μm〜50mmがより好ましく、0.1μm〜20mmが特に好ましい。
なお、前記間隔は、前記対向配置される前記蓄光体部間の最短距離を示す。
【0020】
前記蓄光体部の前記並設方向の最大幅としては、特に制限はなく、小さくとも前記蓄光体粒子を内包可能な大きさであればよいが、0.5μm〜100mmが好ましく、5μm〜50mmがより好ましく、50μm〜50mmが更により好ましく、500μm〜20mmが特に好ましい。
前記最大幅が0.5μm未満であると、前記蓄光体の粒子径の選択に制約がかかり、前記最大幅が100mmを超えると、前記蓄光部材が必要以上に大型化する。
【0021】
前記蓄光体部における前記入射光の前記一の照射方向の最大高さとしては、特に制限はなく、小さくとも前記蓄光体粒子を内包可能な大きさであればよいが、0.5μm〜500mmが好ましく、5μm〜500mmがより好ましく、50μm〜500mmが更により好ましく、500μm〜100mmが特に好ましい。
前記最大高さが0.5μm未満であると、前記蓄光体の粒子径の選択に制約がかかり、前記最大高さが500mmを超えると、該蓄光体部に内包された、前記入射光が前記蓄光体部内の前記蓄光部材の表面側から深い位置に存する前記蓄光体粒子に届かず、輝度飽和の状態となり、残光輝度の向上に寄与しないことがある。
【0022】
前記蓄光体部の形成方法としては、特に制限はないが、前記配光集光部中に空間を持たせて形成することで、該空間を前記蓄光体部とする方法が挙げられる。
【0023】
前記蓄光体を構成する前記蓄光体粒子としては、特に制限はなく、SrAl
2O
4:Eu,Dy、Sr
4Al
14O25:Eu,Dy等のアルミン酸塩、Sr
2MgSi
2O
7:Eu,Dy等のケイ酸塩、ZnS:Cu等の硫化物等、公知の蓄光体粒子及びその市販品から適宜選択し、単一種又は複数種を混合し発光色等の発光特性を調整して用いることができる。励起波長特性の異なる複数種を選択すれば、より幅広い波長帯の励起光に対応可能となる。
前記蓄光体粒子の平均粒子径としては、特に制限はないが、該平均粒子径が大きい前記蓄光体粒子の方が、高い残光輝度が得られやすく、小さくとも0.1μmであることが好ましく、小さくとも1μmであることがより好ましい。
【0024】
前記蓄光体としては、前記蓄光体粒子を含むものであれば、特に制限はなく、一つの前記蓄光体粒子を含むものであっても、複数の前記蓄光体粒子を含むものであってもよく、更には、バインダ中に前記蓄光体粒子を分散させたものであってもよい。
【0025】
前記各蓄光体部の構成としては、特に制限はなく、同じ発光色又は発光強度の前記蓄光体を用いてもよいが、少なくとも2つの前記蓄光体部間で発光色又は発光強度の異なる前記蓄光体を用いることもできる。
後者の場合、残光射出時にそれらの発光特性差をデザイン要素として利用することで、模様や文字を表示することが可能となる。
【0026】
<配光集光部>
前記配光集光部は、少なくとも前記層中の隣接する前記蓄光体部間に配され、照射される前記入射光を配光して前記蓄光体部に導き、該蓄光体部から放出される放出光を集光して外部に出射する部であり、透光性を有する。
なお、本明細書において、配光とは、光を屈折又は反射させて、その光路を変更することを示し、集光とは、前記蓄光部材の前記放出光が出射される最表面上で、前記蓄光体部上よりも、前記層中で隣接する前記蓄光体部間の間隔上の方が高い残光輝度となることを示す。
【0027】
前記配光集光部としては、特に制限はないが、前記蓄光体部で形成される層が複数積層される場合には、該層間にも配されることが好ましい。
このような構成であると、前記層間に前記入射光を導きやすくなるとともに、前記蓄光体部から放出される放出光を集光させやすくなる。また、同時に、前記蓄光体部を特別な支持部材を用いることなく支持することができる。
【0028】
前記配光集光部の形成材料としては、透光性を有する限り、特に制限はなく、例えば、ガラス、透明樹脂材、導光材(導光板)等の公知の透光性部材が挙げられる。なお、これらは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用して前記配光集光部を形成してもよい。
なお、前記透光性を有するとは、用いる前記励起光の波長にもよるが、本明細書では、可視光領域中に含まれる、ある特定波長の光に対し、少なくとも、厚み1mmの層としたときの該層の光透過率が40%以上であることを示す。
【0029】
前記配光集光部の形成材料が有する光の屈折率としては、特に制限はないが、前記入射光を屈折させて、前記蓄光体部に前記入射光を配光して導入させ、該蓄光体部から放出される放出光を集光する観点から、1.2〜2.5であることが好ましい。
ただし、次に述べる光散乱体を含有させる場合には、前記形成材料は、必ずしも、このような屈折率を有する材料に限られない。
【0030】
前記配光集光部の構造としては、特に制限はなく、例えば、少なくとも前記層中で隣接する前記蓄光体部の全空間に前記透光性部材が充填された構造を有するものが挙げられる。
この充填構造に関し、前記蓄光体部で形成される層が複数積層される場合には、前記層間で対向される前記蓄光体部間の全空間に前記透光性部材が充填された構造とすることもできる。
また、前記蓄光体部を内包可能で、透光性を有し、少なくとも一部に曲面を有する部材で形成される構造を有するものが挙げられる。前記曲面としては、特に制限はないが、前記蓄光体粒子の半径よりも大きい曲率半径を有することが好ましい。このような曲率半径を有すると、内包される前記蓄光体部中に前記蓄光体粒子を無駄な空間を与えることなく、効率的に含有させることができる。
また、透光性を有し、前記蓄光体部を軸心方向に内挿可能な管状部材で形成される構造を有するものが挙げられる。なお、該管状部材として、角柱状のものを選択し、前記充填構造を形成してもよく、また、該管状部材として、円柱状のものを選択し、前記曲面を有する部材を形成してもよい。
【0031】
前記配光集光部としては、特に制限はないが、光散乱体が含有されていることが好ましい。
このような構成であると、前記蓄光体部に前記入射光が配光されない部分についても前記入射光を前記光散乱体により反射、屈折させて配光させることができ、同時に、該蓄光体部から放出される放出光を集光させやすくなる。
また、前記蓄光体部で形成される層が複数積層される場合、前記光散乱体により前記入射光を反射、屈折させて前記蓄光部材の表面側から深い位置に存する前記蓄光体部で形成される層に前記入射光を導入させやすく、同時に該蓄光体部から放出される放出光を集光させやすくなる。
前記光散乱体としては、光を反射、屈折させて散乱させるものであれば特に制限はなく、例えば、銀等の金属粉体、多孔質のガラスビーズなどが挙げられる。
【0032】
<他の部材>
前記他の部材としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記反射層、前記収容容器、電気的照明部等が挙げられる。
【0033】
前記反射層は、前記入射光を反射させる役割を有する。
前記反射層を配する場合、前記蓄光部材は、前記反射層上に前記蓄光体部及び前記配光集光部が配されて構成される。
このような構成によれば、前記蓄光部材の表面側から入射される前記入射光及び前記蓄光体部から放出される前記放出光を前記蓄光部材の最深部に位置する前記反射層により反射させることで、この反射光を前記配光集光部により、前記蓄光体部に導入させるとともに、前記蓄光体部から放出される前記放出光を集光させることができ、より高い残光輝度で長時間の発光が可能とされる。
また、こうした観点から、前記蓄光体部としては、最深部に位置する前記反射層に前記入射光を到達させ、その反射光に基づく前記蓄光体部の放出光と該放出光の反射光により残光が得られるように、所定の間隔を持たせて規則的に配されることが好ましい。
【0034】
前記収容容器は、前記蓄光部材を収容する役割を有する。
前記収容容器としては、例えば、断面凹状の函状体のものを用いることができ、内部に前記蓄光部材が収容される。
【0035】
前記電気的照明部は、前記蓄光部材に光を照射する役割を有する。
前記蓄光部材としては、太陽光に基づく残光発光も可能であるが、LED等の電気的照明部から照射される光に基づく残光発光も可能である。
前記電気的照明部としては、前述した前記蓄光部材の構成に対し、例えば、該構成の前記蓄光部材外部に配設される。
また、前記蓄光部材の内部に配設して、外部光源としての前記太陽光及び前記電気的照明部に対して補助的に光を供給することとしてもよい。例えば、前記配光集光部中に前記電気的照明部を配設させてもよい。
また、前記電気的照明部としては、異なる発光色の発光素子(例えば、LED)を配することにより、前記蓄光部材の発光色を調整可能としてもよく、また、前記蓄光部材中の前記各蓄光体の励起波長に応じた前記励起光を供給することとしてもよい。
【0036】
(第1の実施形態)
本発明に係る前記蓄光部材の実施形態を図面を用いてより詳細に説明する。
図2は、本発明の第1の実施形態に係る蓄光部材1の概要を示す断面図である。
蓄光部材1は、反射層2上に、蓄光体部3を並設させて形成される第1の層4と、第2の層5と、をこの順で積層させた構造を有し、各蓄光体部3間の全空間に透光性部材を充填させた構造を有する配光集光部6を有する。
ここで、各蓄光体部3は、以下の規則性を有して配される。
即ち、第1の層4及び第2の層5における各蓄光体部3は、その並設方向(層方向)に間隔Aを有して配される。また、第1の層4中の各蓄光体部3は、第2の層5における各蓄光体部3と対向配置される。第1の層4及び第2の層5間で対向配置される蓄光体部3同士は、間隔Bを有して配される。
また、各蓄光体部3は、その並設方向の最大幅がCとされ、その入射光L
1の照射方向の最大高さがDとされる。
また、配光集光部6は、前述の配置に加え、入射光L
1が照射される側の蓄光部材1の表面側に最表層となる第2の層5を保護するように第2の層5の表面側を覆うように形成されている。
【0037】
蓄光部材1に入射される入射光L
1は、配光集光部6により屈折して、第2の層5に加え、第1の層4における各蓄光体部3に導入される。また、最深部の反射層2に到達した入射光L
1は、反射層2により反射され、各蓄光体部3に導入される。各蓄光体部3では、導入された入射光L
1により励起され、一定時間光を放出する。その放出光は、配光集光部6を経由して蓄光部材1の外部に出射され、出射光L
2として蓄光部材1から取り出すことができる。
この際、第1の層4における蓄光体部3から放出された放出光のうち、第2の層5中に対向配置される蓄光体部3に向かう放出光の一部は、該蓄光体部3に吸収され、外部に取り出すことができないが、該蓄光体部3に隣接される第2の層5中の他の蓄光体部3から反射される一部の放出光、蓄光体部3による吸収、反射を受けずに外部に向かう放出光は、第1の層4中で隣接する各蓄光体部3間に配される配光集光部6を経由して外部に出射される。
このとき、各蓄光体部3間の間隔A,B及び蓄光体部3における幅C及び高さDを調整し、前記各蓄光体部3を規則的に配置させることで、蓄光部材1中の光路を確保しつつ、蓄光体部3を蓄光部材1中に高密度に集積(充填)させることができ、残光輝度を向上させ、前記蓄光部材全体の総光量を大きくするとともに、より長時間の発光特性を得ることが可能となる。
また、各蓄光体部3間における配光集光部6上の位置では、第1の層4中の蓄光体部3上の位置よりも高い残光輝度で発光が可能とされ、その結果、視認できる残光輝度での発光を長時間維持することができる。
また、蓄光部材1では、集光レンズ等の集光部材を配光集光部と別に配する必要がなく、簡単な構成とすることができる。
【0038】
(第2の実施形態)
続いて、本発明の第2の実施形態に係る蓄光部材を
図3を用いて説明する。
図3は、本発明の第2の実施形態に係る蓄光部材51の概要を示す断面図である。
蓄光部材51は、反射層52上に、蓄光体部53を並設させて形成される第1の層54と、第2の層55と、をこの順で積層させた構造を有し、各蓄光体部53間の全空間に透光性部材を充填させた構造を有する配光集光部56を有する。
蓄光体部53、配光集光部56及び反射層52の配置は、第1の実施形態における蓄光部材1のそれと同様であり、配光集光部56中に光散乱体57が含有されている点で異なっている。
【0039】
この蓄光部材51では、光散乱体57により、入射される入射光L
1を多方面に反射、屈折させることで、より多くの入射光L
1を蓄光体部53に導入させることができるとともに、蓄光体部53から放出される放出光を多方面に反射、屈折させることで、より多くの放出光を蓄光部材51の外部に取り出すことができる(
図3中の出射光L
2を参照)。
【0040】
ここで、第1の実施形態に係る蓄光部材1及び第2の実施形態に係る蓄光部材51のように、前記配光集光部が前記蓄光体部間の全空間に透光性部材が充填された構造を有する前記蓄光部材の製造方法について説明をする。
図4(a)〜(e)は、前記蓄光部材の製造工程を示す説明図である。
【0041】
先ず、反射層71上にガラスや透明樹脂などの光透過性材料を塗工した後、金型やマスキング技術を用いて凸部を形成し、層状の配光集光部72と、凸状の配光集光部73を形成する(
図4(a)参照)。
次いで、粉体ノズル75などを用いて、凸状の配光集光部73で仕切られた各領域に蓄光体74を導入する(
図4(b)参照)。
次いで、再度、前記光透過性材料を塗工した後、金型やマスキング技術を用いて凸部を形成し、層状の配光集光部76と、凸状の配光集光部77を形成する(
図4(c)参照)。
次いで、再度、粉体ノズル75などを用いて、凸状の配光集光部77で仕切られた各領域に蓄光体78を導入する(
図4(d)参照)。
最後に、再度、前記光透過性材料を塗工して層状の配光集光部79を形成して、蓄光体78が導入された領域を封止する(
図4(e)参照)。
以上により、前記配光集光部が前記蓄光体部間の全空間に透光性部材が充填された構造を有する蓄光部材80を製造することができる。
【0042】
(第3の実施形態)
続いて、本発明の第2の実施形態に係る蓄光部材を
図5を用いて説明する。
図5は、本発明の第3の実施形態に係る蓄光部材100の概要を示す断面図である。
蓄光部材100は、函状体103と、該函状体103内に収容される、透光性を有し、蓄光体101がその軸心方向に内挿された円柱状の管状部材102を並設させた第1の層105と、第1の層105上に配される管状部材102を並設させた第2の層106と、第2の層106上に配される第3の層107とを有する。
第1の層105〜第3の層107における各管状部材102は、その積層方向に向かって対向配置されるように規則性を有して位置決めされている。
また、函状体103の内壁面は、反射層104で被覆されている。
【0043】
このような構成からなる蓄光部材100は、第1の実施形態に係る蓄光部材1と同様に、管状部材102を前記配光集光部として機能させることができ、並設される管状部材102間の蓄光体101同士の間隔に配される部分の直上に位置する位置P1では、蓄光体101上の位置P2よりも高い残光輝度で発光が可能とされ、その結果、視認できる残光輝度での発光を長時間維持することができる。即ち、管状部材102及び管状部材102間の空隙にて、入射光を屈折、反射させ、蓄光体101に入射光を配光するとともに、その放出光を集光して外部に取り出すことができる。
また、函状体103内に管状部材102を配するだけで、簡便に製造することができる。
【実施例】
【0044】
(実施例)
本発明の有用性を確認するために、
図5に示す蓄光部材100と略同様の構成に係る実施例に係る蓄光部材を次のように作製した。
即ち、管状部材102としては、内径が3.5mmであり、直径方向の厚みが0.7mmであり、軸心方向の長さが50mmである石英ガラス管を用いた。
また、管状部材102に内挿される蓄光体101としては、根元特殊化学社製のN夜光の高輝度グレード品(平均粒子径;約250μmの蓄光体粒子、化学組成;SrAl
2O
4:Eu,Dy)を用いた。
また、管状部材102に蓄光体101を内挿した後、蓄光体101が外部に放出されないようにシールした。
この蓄光体101が内挿された管状部材102を24本作製し、1段8本ずつ3段の層構成として函状体103内に配設した。
函状体103としては、1段8本の管状部材102を配設したときに、隣接する管状部材102間に隙間が生じない大きさの幅と、該管状部材102の層を3段収容することができる高さの容器を用意し、該容器の内壁面をアルミ箔の反射層104で被覆したものを用いた。
【0045】
(比較例1)
実施例1において、管状部材102を用いず、函状体103内に蓄光体101を堆積させたこと以外は実施例1と同様にして、比較例1に係る蓄光部材を作製した。
なお、蓄光体101のN夜光量と残光輝度の関係を調べた結果、5mm以上の厚みでほぼ一定の残光輝度特性を示すことが確認されたため、ここでは、蓄光体101を9mmの厚みで函状体103内に堆積させている。
【0046】
(比較例2)
実施例に係る蓄光部材の比較製品として、有限会社筒山太一窯製のTF−42D15Hを用意し、これを比較例2に係る蓄光部材とした。
この比較例2に係る蓄光部材は、その全体が透光性の母材と蓄光体粒子を混練させた蓄光体で構成され、この種の蓄光部材としては、比較的高い残光輝度特性を有するものとして知られている。
【0047】
実施例1、比較例1及び比較例2に係る各蓄光部材に対して、D65 200ルクスの光を20分間照射し、照射停止後、10分経過後、20分経過後、60分経過後の各残光輝度を測定した。なお、D65 200ルクスの光を20分間照射する条件は、安全標識の製品規格(例えば、JIS Z 9107等)で一定の製品保証を示す目的で用いられる条件である。また、各測定は、暗室で行い、各残光輝度の測定には、分光放射輝度計(コニカミノルタセンシング株式会社社製CS−2000A)を用いた。
結果を下記表1に示す。
【0048】
次に、残光輝度の測定条件として、蓄光体101の励起状態をより飽和条件に近づけるために、実施例1、比較例1及び比較例2に係る各蓄光部材に対するD65 200ルクスの光の照度を1,000ルクスに、照射時間を20分間から60分間に延長し、照射停止後、10分経過後、20分経過後、60分経過後、120分経過後の各残光輝度を測定した。
結果を下記表1に示す。
【0049】
【表1】
【0050】
この表1から確認されるように、実施例に係る蓄光部材では、比較例1及び2に係る蓄光部材よりも、全ての時間帯で高い残光輝度を示した。
【0051】
ここで、表1に記載の各蓄光部材の残光輝度の数値は、蓄光部材の全体的な残光輝度を示す平均値である。即ち、前記分光放射輝度計では、その検出部と測定対象との間の距離を長くするごとに円形の測定スポット領域を広くすることができ、表1に示す数値は、この測定スポット領域の径を約20mmと広くして測定した結果である。
この点に関し、実施例1に係る蓄光部材では、管状部材102間(距離;ガラス管の厚み0.7mmの2倍)の部分が残光の集光部となっており、前記検出部と前記測定対象との間の距離を短くして測定スポット領域の径を約1.5mmとし、該集光部の部分をクローズアップして測定した残光輝度は、下記表2に示すように、さらに高い数値を示した。
【0052】
【表2】
【0053】
更に、人間が物の輪郭を視認できる輝度の下限値である3mcd/m
2以下に至るまでの時間は、表1のD65 1,000ルクスの光を60分間照射した場合で、実施例に係る蓄光部材が56時間以上であり、比較例1に係る蓄光部材が約39時間であり、比較例2に係る蓄光部材が約30時間であった。また、実施例に係る蓄光部材の集光部においては、110時間以上であった。
このように、本発明に係る蓄光部材では、厚み方向に飽和した状態の蓄光体の層を多段に内包させた蓄光コンデンサとして機能し、前記蓄光体から放出された光を集光して、残光をより高輝度かつ長時間放出させることができる。