(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載された血管の可視化装置は、生体認証が主たる目的であると考えられ、動脈穿刺を目的としたものではない。可視化する血管の解剖学的特徴についての記載がなく、対象となる生体として指が唯一挙げられているが(特許文献1の
図2および
図11)、指の動脈は細く、カテーテルを用いた検査あるいは治療のために穿刺されることはない。また、指の動脈は、橈骨動脈や上腕動脈に比べて、皮下の浅い部位(皮下2−3ミリメートル)を走行している。骨に囲まれていないため、透過光を照射し易い。また、光源から射出される近赤外光は、空気中を伝播して生体に照射されるが、皮膚表面で反射される光についての考慮がなされていない。
【0008】
上述の製品化された血管の可視化装置(「VeinViewer」(登録商標)、「StatVein」(登録商標)など)も、皮下2−3ミリメートル以内に存在する静脈を可視化できるに過ぎない。
【0009】
このように、皮下5−10ミリメートルに位置する穿刺する動脈、例えば、周辺を骨に囲まれた橈骨動脈などを可視化する装置は提案されていないのが実情である。
【0010】
そこで、本発明は、穿刺する動脈を好適に可視化し得る動脈可視化方法、動脈可視化装置、およびその動脈可視化装置に用いられる動脈撮像装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成する本発明の動脈可視化方法は、近赤外光を出射する光源を備え、穿刺する動脈が走行している可視化部位における背側の皮膚面に向けて前記光源から出射された近赤外光を照射する照射部と、前記光源を封止するとともに前記背側の皮膚面に押し付けられ、前記光源から出射された近赤外光を透過させるとともに前記背側の皮膚面の表面における近赤外光の反射を抑える材料から形成された導光部と、可視光を遮断するとともに前記可視化部位における表側の皮膚面を透過した近赤外光を透過させる光学フィルターと、前記光学フィルターを透過した近赤外光を受光し前記可視化部位を撮影する撮像部と、前記撮像部によって撮影した画像を表示する表示部と、を有する動脈可視化装置を用いる。そして、前記導光部を前記背側の皮膚面に押し付けることによって皮膚の毛細血管網を虚脱させ、穿刺する動脈を可視化する。
【0012】
上記目的を達成する本発明の動脈可視化装置は、近赤外光を出射する光源を備え、穿刺する動脈が走行している可視化部位における背側の皮膚面に向けて前記光源から出射された近赤外光を照射する照射部と、
前記光源を封止するとともに前記背側の皮膚面に押し付けられ、前記光源から出射された近赤外光を透過させるとともに前記背側の皮膚面の表面における近赤外光の反射を抑える材料から形成された導光部と、
可視光を遮断するとともに前記可視化部位における表側の皮膚面を透過した近赤外光を透過させる光学フィルターと、
前記光学フィルターを透過した近赤外光を受光し前記可視化部位を撮影する撮像部と、
前記撮像部によって撮影した画像を表示する表示部と、
近赤外光を遮断する材料から形成された遮光部、および、前記可視化部位を撮影する開口された観察窓が設けられ、前記表側の皮膚面に被せられる遮光部材と、を有し、
前記導光部は、前記背側の皮膚面に向けて突出して前記背側の皮膚面を圧迫する圧迫部を有してなる。
【0013】
また、上記目的を達成する本発明の動脈撮像装置は、近赤外光を出射する光源を備え、穿刺する動脈が走行している可視化部位における背側の皮膚面に向けて前記光源から出射された近赤外光を照射する照射部と、
前記光源を封止するとともに前記背側の皮膚面に押し付けられ、前記光源から出射された近赤外光を透過させるとともに前記背側の皮膚面の表面における近赤外光の反射を抑える材料から形成された導光部と、
可視光を遮断するとともに前記可視化部位における表側の皮膚面を透過した近赤外光を透過させる光学フィルターと、
前記光学フィルターを透過した近赤外光を受光し前記可視化部位を撮影する撮像部と、
近赤外光を遮断する材料から形成された遮光部、および、前記可視化部位を撮影する開口された観察窓が設けられ、前記表側の皮膚面に被せられる遮光部材と、を有し、
前記導光部は、前記背側の皮膚面に向けて突出して前記背側の皮膚面を圧迫する圧迫部を有してなる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の動脈可視化方法によれば、動脈可視化装置を用いて、穿刺する動脈が走行している可視化部位における背側の皮膚面から近赤外光を入射させ、可視化部位における表側の皮膚面の側から撮影する撮像部に、動脈による近赤外吸収像を結像させている。背側の皮膚面に近赤外光を入射させているので、表側の皮膚面の表面においては近赤外光の反射が生じない。光源を封止するとともに背側の皮膚面に押し付けた導光部が、近赤外光を透過させるとともに背側の皮膚面の表面における近赤外光の反射を抑える材料から形成されているので、可視化部位における背側の皮膚面に近赤外光を効率よく入射させることができる。導光部を背側の皮膚面に押し付けることによって、皮膚の毛細血管網を虚脱させ、近赤外光が入射する皮膚部分において近赤外光が吸収されることを抑止できる。これらの結果、穿刺する動脈を好適に可視化することが可能となる。
【0015】
本発明の動脈可視化装置によれば、穿刺する動脈が走行している可視化部位における背側の皮膚面から近赤外光を入射させ、可視化部位における表側の皮膚面の側から撮影する撮像部に、動脈による近赤外吸収像を結像させている。背側の皮膚面に近赤外光を入射させているので、表側の皮膚面の表面においては近赤外光の反射が生じない。光源を封止するとともに背側の皮膚面に押し付けた導光部が、近赤外光を透過させるとともに背側の皮膚面の表面における近赤外光の反射を抑える材料から形成されているので、可視化部位における背側の皮膚面に近赤外光を効率よく入射させることができる。導光部の圧迫部を背側の皮膚面に押し付けることによって、皮膚の毛細血管網を虚脱させ、近赤外光が入射する皮膚部分において近赤外光が吸収されることを抑止できる。これらの結果、穿刺する動脈を好適に可視化することが可能となる。
【0016】
本発明の動脈撮像装置によれば、既存の表示部に接続することによって、穿刺する動脈を好適に可視化し得る動脈可視化装置を構成でき、コスト的に有利なものとなる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
動脈が走行している可視化部位への照射光として、生体透過性が高くヘモグロビンに吸収される波長の近赤外光を使用することが望ましい。動脈内を流れる酸化ヘモグロビンの吸光係数は、波長依存性がある。生体透過性が高い近赤外波長領域では、850nm−930nmが極大である(http://www.frontech.fujitsu.com/services/products/palmsecure/what/interview/を参照)。
【0019】
皮膚の最表層に位置する表皮は、可視光および近赤外光を反射する。生体透過性の高い近赤外光であっても、照射した光の80%が表皮によって反射され、皮下3ミリメートルに到達する光はおよそ10%である(相津佳永、皮膚組織多層構造モデリングと光伝搬シミュレーション、日本機械学会誌2011.7 Vol.114 No.1112 541頁を参照)。
【0020】
カテーテル検査や観血的動脈圧測定を目的して行う穿刺術は、一般的に、橈骨動脈や上腕動脈を対象として行われている。このため、動脈の穿刺のための可視化装置においては、適用する動脈の解剖学的特徴を考慮しなければならない。
【0021】
橈骨動脈や上腕動脈は、周囲が骨組織に囲まれ、穿刺皮膚面の皮下5−10ミリメートルを走行している。このような解剖学的特徴を有する動脈を可視化するためには、動脈が走行している部位に効率よく近赤外光を入射させ、穿刺する皮膚面から近赤外光を射出させなければならない。
【0022】
皮下5−10ミリメートルを走行する動脈を近赤外吸収像として描出するためには、穿刺部の皮膚表面に近赤外光を照射してはいけない。反射された近赤外光が動脈による吸収像を無効にするためである。
【0023】
本件出願の発明者らは、上記のような知見に基づいて鋭意研究した結果、橈骨動脈および上腕動脈を穿刺することを目的として可視化する技術を完成させるに至った。
【0024】
以下、添付した図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる。
【0025】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係る動脈可視化装置10を示す断面図、
図2は、近赤外光の生体内への射入様式を模式的に示す断面図である。また、
図3(A)は、
図1に示される遮光部材90を展開して示す正面図、
図3(B)は、
図3(A)の3B−3B線に沿う断面図である。
【0026】
図1を参照して、第1の実施形態に係る動脈可視化装置10は、概説すると、近赤外光を出射する光源32を備え穿刺する動脈21が走行している可視化部位20における背側の皮膚面22に向けて光源32から出射された近赤外光を照射する照射部30と、光源32を封止するとともに背側の皮膚面22に押し付けられ光源32から出射された近赤外光を透過させるとともに背側の皮膚面22の表面における近赤外光の反射を抑える材料から形成された導光部40と、可視光を遮断するとともに可視化部位20における表側の皮膚面23を透過した近赤外光を透過させる光学フィルター50と、光学フィルター50を透過した近赤外光を受光し可視化部位20を撮影するカメラ60(撮像部に相当する)と、カメラ60によって撮影した画像を表示するモニター70(表示部に相当する)と、を有している。この動脈可視化装置10にあっては、表側の皮膚面23と撮像部60とを離間して配置し、表側の皮膚面23と撮像部60との間に穿刺を行う作業空間80を設けてある。以下、第1の実施形態に係る動脈可視化装置10について詳述する。
【0027】
図示する可視化部位20は、例えば、穿刺する動脈21としての橈骨動脈が走行している手首部分である。手の位置は、体側に伸ばし、手掌を上に向けた状態とされている。橈骨動脈21は、皮下5−10ミリメートルに位置し、周辺が、橈骨24、手根管25、屈筋腱26などによって囲まれている。図中の符号27は尺骨動脈を示し、符号28は尺骨を示している。
【0028】
照射部30は、中空の略箱形状に形成されたシャーシ31と、シャーシ31内に配置され近赤外光を発する光源32と、を有している。シャーシ31は、近赤外光を透過しないアルミなどの金属材料などから形成されている。シャーシ31の上面側から、可視化部位20を置く。光源32から発した近赤外光は、可視化部位20における背側の皮膚面22に向けて照射される。光源32は、例えば、近赤外光を発するLEDなどを使用することができる。照射する近赤外光は、波長840−950nmの範囲がよい。波長840nm未満では可視化部位20を透過し難くなり、波長950nmを超える長波長の近赤外光は、生体内に含まれる水による吸収のため透過し難くなるからである。
【0029】
照射する近赤外光は、波長850−930nmの範囲がより望ましい。動脈内を流れる酸化ヘモグロビンの吸光係数が波長850−930nmの範囲で極大となるので、動脈21により信号強度が低下した透過光が得られる。その結果、動脈21を透過した透過光と周囲組織を透過した透過光との間にコントラストの差が発生し、動脈を視認し易くなるからである。
【0030】
図2に示すように、近赤外光の生体内への射入様式は、擬似平行光による透過方式が好ましい。撮像面には、生体組織を透過した透過光像と、動脈21によって吸収された吸収像とが結像する。したがって、撮像面に対して垂直に入射する透過光が望ましい。
【0031】
生体透過性の高い近赤外光であっても、皮膚の最表層に位置する表皮によって反射され易い。近赤外光を用いて可視化部位20を鮮明に撮影するためには、背側の皮膚面22の表面における近赤外光の反射を抑える必要がある。そこで、光源32と可視化部位20との間に、光源32を封止するとともに背側の皮膚面22に押し付けられる導光部40を配置してある。導光部40は、光源32から出射された近赤外光を透過させるとともに背側の皮膚面22の表面における近赤外光の反射を抑える材料から形成されている。導光部40によって、光源32から背側の皮膚面22まで近赤外光が導かれ、かつ、皮膚面22の表面における近赤外光の反射が抑えられる。その結果、可視化部位20における背側の皮膚面22に近赤外光を効率よく入射させることができる。また、背側の皮膚面22に近赤外光を入射させているので、表側の皮膚面23の表面においては近赤外光の反射が生じない。
【0032】
導光部40の形成材料は、光源32から背側の皮膚面22まで近赤外光を透過させる観点から当然なことではあるが、近赤外光透過率が高い材料であることが望ましい。しかも、皮膚面22の表面における近赤外光の反射を抑える観点から、導光部40の形成材料は、屈折率が生体に近い屈折率であることが望ましい。導光部40の屈折率は、生体に多量に含まれる水の屈折率である1.33から、生体に多量に含まれるコラーゲンの屈折率である1.44までの範囲であることが好ましい。導光部40の形成材料の一例として、近赤外光透過率が高く、かつ、屈折率が生体に近いシリコーンゴムであり、その屈折率が1.33−1.44であるものを挙げることができる。このような形成材料からなる導光部40によれば、可視化部位20における背側の皮膚面22に近赤外光を効率よく入射させることができる。
【0033】
導光部40のうち背側の皮膚面22に押し付けられる面に、近赤外光透過率の高いクリームや軟膏を塗布することが好ましい。背側の皮膚面22の表面における近赤外光の反射を一層抑えることができるからである。
【0034】
導光部40を背側の皮膚面22に押し付けることによって、背側の皮膚面22を圧迫して皮膚の毛細血管網を虚脱させる。これによって、近赤外光が入射する皮膚部分において近赤外光が吸収されることを抑止できる。その結果、毛細血管網よりも深部に位置する動脈21に近赤外光を効率よく照射することができ、より鮮明に動脈21を可視化することが可能となる。
【0035】
導光部40には、背側の皮膚面22に向けて突出して背側の皮膚面22を圧迫する圧迫部42を形成することが好ましい。圧迫部42によって背側の皮膚面22を局所的に圧迫することによって、皮膚の毛細血管網を虚脱させ易くなるからである。これによって、近赤外光が入射する皮膚部分において近赤外光が吸収されることを一層抑止でき、より一層鮮明に動脈21を可視化することが可能となる。圧迫部42の形状は、背側の皮膚面22を圧迫して皮膚の毛細血管網を虚脱させ易い形状であれば特に限定されず、図示するように例えば半球形状とすることができる。また、圧迫部42は、1個の凸部を有する形状のほか、複数個の凸部を備える形状としてもよい。
【0036】
導光部40を背側の皮膚面22に押し付ける圧力は、20−40mmHgが好ましい。20−40mmHgの範囲で導光部40を押し付けることによって、背側の皮膚面22を圧迫して皮膚の毛細血管網を虚脱させ、近赤外光が入射する皮膚部分において近赤外光が吸収されることを抑止できるからである。
【0037】
光源32の背面側とシャーシ31との間には、圧力センサー43を配置している。圧力センサー43によって、導光部40を背側の皮膚面22に押し付ける接触圧を検出する。圧力センサー43における圧力検知の方式は特に限定されない。例えば、外部からの圧力によってダイヤフラムがたわみ、ダイヤフラム上に形成したピエゾ抵抗素子がひずむことで生じる電気抵抗の変化を、電圧信号として読み取ることによって圧力を検知する方式の圧力センサーを適用することができる。この方式の圧力センサーは、ダイヤフラムのたわみ量を直接ピエゾ抵抗素子の電気抵抗変化として捉えるため、素子構造がシンプルであり、小型化したものが多数存在している。圧力センサーにおいて検出された接触圧は、数値あるいはインジケータバーなどによってモニター70に表示される。この表示を確認しながら可視化部位20を導光部40に押し付ける力を調整することによって、背側の皮膚面22と導光部40との接触圧を20−40mmHgの範囲に調節することができる。
【0038】
光学フィルター50は、カメラ60内の撮像素子とレンズとの間に挿入したり、カメラ60の前に配置したりすることができる。皮下5−10ミリメートルに位置する動脈21を可視化するには、波長840nmより短波長の成分を遮断するのがよい。
【0039】
カメラ60は、可視化部位20および光学フィルター50を透過した近赤外光を撮影する近赤外線用のCCDカメラや、CMOSカメラなどが適用される。CCDカメラは、Charge Coupled Device素子からなるカメラであり、CMOSカメラは、Complementary Metal Oxide Semiconductorを利用したカメラである。近赤外線CCDカメラなどで取り込んだデータは、ノイズ処理、エッジ処理、コントラスト強調などの画像処理および画像解析が施され、モニター70に表示する画像用データに変換される。
【0040】
モニター70は、カメラ60によって撮影した画像を表示し得る限りにおいて特に限定されない。卓上型のディスプレイでもよいし、ヘッドマウント型のディスプレイでもよい。表示する画像は、モノクロームまたはカラーのいずれでもよい。術者等の医療従事者は、モニター70に表示される動脈21の画像を見て、動脈21が走行する位置や向きを正確に把握することができる。
【0041】
本実施形態の動脈可視化装置10は、動脈21の穿刺を行い易くすることを目的としているため、穿刺を行い得るように、穿刺部分の皮膚が開放されていることが必要である。そのため、表側の皮膚面23とカメラ60とを離間して配置してある。この結果、表側の皮膚面23とカメラ60との間に、穿刺を行う作業空間80が形成される。表側の皮膚面23とカメラ60との間の距離は、十分な作業空間80を確保する観点から適宜の距離に設定することができる。一例を挙げると、表側の皮膚面23とカメラ60とを20センチ以上離間させて配置することが望ましい。
【0042】
動脈可視化装置10は、表側の皮膚面23に被せられる遮光部材90をさらに有している。
図3(A)(B)に示すように、遮光部材90は、近赤外光を遮断する材料から形成された遮光部91と、可視化部位20を撮影する開口された観察窓92とが設けられている。遮光部材90は、観察窓92を橈骨動脈21の直上に位置させた状態で、表側の皮膚面23に被せられる。遮光部材90を被せることによって、表側の皮膚面23のうち穿刺部の部位のみから近赤外光を透過させることができ、穿刺する動脈21の可視化が確実なものとなる。近赤外光を遮断する材料として、例えば、遮光ゴムを例示することができるが、これに限定されるものではない。
【0043】
遮光部材90は、観察窓92の周囲に設けられるとともに遮光部91から突出する突出部93を備えている。突出部93を表側の皮膚面23に当接させることによって、表側の皮膚面23のうち観察窓92に臨む部位以外を透過した近赤外光が観察窓92に混入することを遮断している。表側の皮膚面23のうち穿刺部の部位のみから近赤外光を透過させることができ、穿刺する動脈21の可視化が一層確実なものとなる。
【0044】
遮光部材90の両端には、可視化部位20を導光部40に押し付け状態に固定する固定具94として、例えば、一般にマジックテープ(登録商標)などと呼ばれる面ファスナー95a、95bが設けられている。遮光部材90の面ファスナー95aは、シャーシ31側に取り付けた面ファスナー95bに剥離自在に接着される。固定具94によって遮光部材90を固定することによって、可視化部位20が導光部40に押し付けられた状態に固定され、動脈可視化時に遮光部材90の位置がずれたり、外れたりすることを防止できる。これによって、穿刺する動脈21の可視化をより一層確実に行うことができる。
【0045】
以上説明したように、第1の実施形態の動脈可視化装置10は、
(1)光源32から出射された近赤外光を透過させるとともに背側の皮膚面22の表面における近赤外光の反射を抑える材料から導光部40を形成し、この導光部40によって光源32を封止するとともに導光部40を背側の皮膚面22に押し付け、近赤外光を入射する側である背側の皮膚面22の表面において近赤外光の反射を生じさせない。
【0046】
(2)近赤外光を背側の皮膚面22から動脈走行部位に入射させ、表側の皮膚面23の側から撮影するカメラ60に、動脈21による近赤外吸収像を結像させる。背側の皮膚面22に近赤外光を入射させているので、表側の皮膚面23の表面において近赤外光の反射を生じさせない。
【0047】
(3)導光部40によって背側の皮膚面22を圧迫して皮膚の毛細血管網を虚脱させ、近赤外光が入射する皮膚部分において近赤外光が吸収されることを抑止する。
【0048】
という特徴点を備えており、穿刺する動脈21を好適に可視化することが可能となる。
【0049】
表側の皮膚面23と撮像部60とを離間して配置し、表側の皮膚面23と撮像部60との間に穿刺を行う作業空間80を設けてあるので、穿刺手技を妨げることなく、穿刺する動脈21を可視化できる。
【0050】
導光部40は、背側の皮膚面22に向けて突出して背側の皮膚面22を圧迫する圧迫部42が形成されているので、圧迫部42によって背側の皮膚面22を局所的に圧迫することによって、皮膚の毛細血管網を虚脱させ易くなる。これによって、近赤外光が入射する皮膚部分において近赤外光が吸収されることを一層抑止でき、より一層鮮明に動脈21を可視化することが可能となる。
【0051】
遮光部91と観察窓92とが設けられ、表側の皮膚面23に被せられる遮光部材90をさらに有するので、表側の皮膚面23のうち穿刺部の部位のみから近赤外光を透過させることができ、穿刺する動脈21の可視化が確実なものとなる。
【0052】
遮光部材90の突出部93を表側の皮膚面23に当接させることによって、表側の皮膚面23のうち穿刺部の部位のみから近赤外光を透過させることができ、穿刺する動脈21の可視化が一層確実なものとなる。
【0053】
照射する近赤外光は、波長840−950nmの範囲としたので、皮下5−10ミリメートルに位置する動脈21を好適に可視化できる。
【0054】
導光部40を形成する材料は、近赤外光透過率が高く、かつ、屈折率が生体に近いシリコーンゴムであり、その屈折率が1.33−1.44であるので、背側の皮膚面22の表面における近赤外光の反射を一層抑えることができる。
【0055】
導光部40を背側の皮膚面22に押し付ける圧力を20−40mmHgの範囲とすることによって、背側の皮膚面22を圧迫して皮膚の毛細血管網を虚脱させ、近赤外光が入射する皮膚部分において近赤外光が吸収されることを抑止できる。
【0056】
可視化する動脈が橈骨動脈21または上腕動脈の場合には、カテーテル検査や観血的動脈圧測定を目的して行う穿刺術において、橈骨動脈21や上腕動脈を可視化して穿刺を確実かつ容易に行うことができる。
【0057】
(第2の実施形態)
図4は、第2の実施形態に係る動脈可視化装置11を示す断面図である。第1の実施形態と共通する部材には同一の符号を付し、その説明は一部省略する。
【0058】
第2の実施形態に係る動脈可視化装置11は、第1の実施形態と同様に、可視化部位20における背側の皮膚面22に向けて光源32から出射された近赤外光を照射する照射部30と、光源32を封止するとともに背側の皮膚面22に押し付けられた導光部40と、光学フィルター50と、カメラ60と、モニター70と、作業空間80と、遮光部材90とを有している。但し、第2の実施形態は、導光部40を背側の皮膚面22に押し付ける圧力を調整自在な圧力調整部100をさらに有している点において、第1の実施形態と相違している。遮光部材90が、可視化部位20に巻き付けて取り付け可能なベルト形状を有している点においても、第1の実施形態と相違している。
【0059】
第2の実施形態の遮光部材90は、近赤外光を遮断する材料から形成され可視化部位20に巻き付け可能な遮光部91と、可視化部位20を撮影する開口された観察窓92とが設けられている。遮光部材90は、観察窓92を橈骨動脈21の直上に位置させた状態で、表側の皮膚面23に被せられ、さらに可視化部位20に巻き付けられる。遮光部材90を被せることによって、表側の皮膚面23のうち穿刺部の部位のみから近赤外光を透過させることができ、穿刺する動脈21の可視化が確実なものとなる。近赤外光を遮断する材料として、例えば、遮光ゴムを例示することができるが、これに限定されるものではない。
【0060】
遮光部材90の両端には、可視化部位20を導光部40に押し付け状態に固定する固定具94として、例えば、面ファスナー96a、96bが設けられている。面ファスナーは、遮光部91の裏面側端部に設けられた第1の面ファスナー96aと、表面側端部に設けられ第1の面ファスナー96aに剥離自在に接着される第2の面ファスナー96bとを有している。固定具94によって遮光部材90を可視化部位20に巻き付けて固定することによって、可視化部位20が導光部40に押し付けられた状態に固定され、動脈可視化時に遮光部材90の位置がずれたり、外れたりすることを防止できる。
【0061】
圧力調整部100は、流体を注入することによって拡張するバルーン101と、バルーン101内に流体を注入する注入部102とを有している。バルーン101は、血圧測定用のカフと同様に、膨脹自在なゴム材料から形成されている。注入部102は、バルーン101に接続さる中空チューブ103と、中空チューブ103を介して流体として空気をバルーン101に供給する送気球104とを有している。送気球104には、バルーン101内の空気圧を調節する図示しない弁を作動させる操作部105が設けられている。バルーン101の外面に、光源32が背側の皮膚面22に向かい合うように取り付けられている。図中符号106は、バルーン101に取り付けられ、バルーン101を保持する保持プレート106を示している。遮光部91を介して保持プレート106をテーブルなどの上に押し当てることによって、動脈可視化時において可視化部位20の姿勢を安定させることができる。
【0062】
導光部40を背側の皮膚面22に押し付ける圧力を調整するときには、モニター70に表示される圧力センサー43において検出された接触圧を確認しながら、圧力調整部100によってバルーン101内の空気圧を調節する。圧力調整部100を用いることによって、導光部40を背側の皮膚面22に押し付ける圧力を所望の範囲、例えば上述した20−40mmHgの範囲に簡単かつ確実に調整することができる。20−40mmHgの範囲で導光部40を押し付けることによって、背側の皮膚面22を圧迫して皮膚の毛細血管網を虚脱させ、近赤外光が入射する皮膚部分において近赤外光が吸収されることを抑止できる。
【0063】
以上説明したように、第2の実施形態の動脈可視化装置11は、上述した第1の実施形態の動脈可視化装置10と同様の作用効果を奏する。さらに、第2の実施形態の動脈可視化装置11は、導光部40を背側の皮膚面22に押し付ける圧力を調整自在な圧力調整部100を有しているので、導光部40を背側の皮膚面22に押し付ける圧力を所望の範囲に簡単かつ確実に調整することができる。
【0064】
上述した第1と第2の実施形態では、照射部30と、導光部40と、光学フィルター50と、撮像部60とを有する動脈撮像装置120、121に表示部70を接続した動脈可視化装置10、11を図示したが、動脈撮像装置120、121を既存の表示部に接続してもよい。この場合、動脈撮像装置120、121を準備するだけで、穿刺する動脈21を好適に可視化し得る動脈可視化装置を構成でき、コスト的に有利なものとなる。
【0065】
(実験例)
図4に示した動脈可視化装置11を用いて橈骨動脈21を可視化した実験結果について説明する。
【0066】
照射部30の光源32として、発光中心波長が850nmのLED(Vishay製、VSMY7850X1)を1個使用した。このLEDに1.75Volts、720mAの電流を流した。導光部40の材料として、液状シリコーンゴム(信越化学工業株式会社製信越シリコーン一液型RTVゴム「KE−441」)を使用した。使用した液状シリコーンゴムの屈折率は1.4である。カメラ60内の撮像素子とレンズとの間に、波長840nmより短波長の成分を遮断する光学フィルター50を挿入した。圧力調整部100によってバルーン内の空気圧を調節し、導光部40の圧迫部42を背側の皮膚面22に押し付ける圧力を40mmHgに調整した。可視化の対象は、50歳男性の左橈骨動脈21である。
【0067】
そして、前腕遠位背側から近赤外光を透過させ、橈骨動脈21の走行が期待される橈骨遠位掌側面を近赤外高感度カメラによって観察した。動脈21と静脈の判別は、血管拍動の有無によって行った。
【0068】
超音波診断装置によって橈骨動脈21の位置を確認したところ、皮下7ミリメートルを走行していた。
【0070】
動画映像の視認性を確認した。毎秒30フレームの動画映像では、動脈拍動があきらかであるため、橈骨動脈21の同定が容易であった。超音波診断装置によって観察される橈骨動脈21の走行と皮膚表面に投射される平面像は、映像データで視認されるものと完全に一致した。
【0071】
(対比例)
図6は、対比例に係る動脈可視化装置10Aを示す断面図である。
【0072】
対比例においては、実施形態と異なり、可視化部位20における表側の皮膚面23、つまり穿刺部が存在する側の皮膚面に向けて近赤外光を照射した。動脈21に向けて近赤外線を照射すると、動脈21により信号強度が低下した反射光が得られるので、動脈21における反射光と周囲組織の反射光との差によってコントラストを発生させ、透視画像を得ようとした。光源32、光学フィルター50、カメラ60は上述した実験例と同一のものを使用した。
【0074】
図7より明らかなように、表側の皮膚面23の表面からの反射光が観察されるだけで、動脈21を可視化することはできなかった。
【0075】
光源32を変え、近赤外光の波長を750−950nmの範囲で変更して撮影した。しかしながら、皮膚表面における近赤外光の反射が同様に生じているので、動脈21を可視化することはできなかった。
【0076】
本出願は、2012年5月29日に出願された日本特許出願番号2012−121700号に基づいており、その開示内容は、参照され、全体として、組み入れられている。