【実施例1】
【0011】
[システム構成]
まず、本実施例に係る直流システムの構成について説明する。
図1は、直流送電を行う直流システムの概略的な構成を示す図である。
【0012】
図1に示す直流システム1は、送電側と受電側が同じ回路構成とされており、直流電力が送電される直流電力系統11の受電端と送電端にそれぞれ変換器10が設けられている。変換器10は、それぞれ別の交流電力系統12と接続されている。
【0013】
交流電力系統12には、上位系統から3相交流の電力が供給される。変換器10は、自己消弧半導体素子を使って交流電力系統12との間で高速かつ連続的に有効電力、無効電力の授受が可能な機器である。
【0014】
変換器10は、電力変換部20を有する。電力変換部20は、交流電力系統12との間で電力の授受を行う。電力変換部20は、交流電力系統12の各相毎にセル(Cell)と呼ばれる回路モジュール21を直列に3段接続した直列回路22をY結線したY結線回路23を2重に設けた、所謂、2重Y結線MMCの回路構成とされている。以下では、Y結線回路23の各相の直列回路22をアームとも言う。また、以下では、
図1の上側のY結線回路23のアームを上側アームとも言い、
図1の下側のY結線回路23のアームを下側アームとも言う。回路モジュール21は、例えば、コンデンサ24に対して、2つのスイッチング素子25を直列接続した2つの直列回路26がそれぞれ並列に接続された所謂、インバータセルタイプの回路構成としている。
【0015】
各回路モジュール21は、入力される搬送波と変調波を比較してスイッチング素子25のオン、オフするPWM(pulse width modulation)制御を行っている。
図2は、搬送波と変調波の一例を示す図である。
【0016】
直流システム1では、直流送電を行う場合、一方の変換器10を、交流電圧を直流電圧に変換する順変換器(REC)として動作させ、他方の変換器10を、直流電圧を交流電圧に変換する逆変換器(INV)として動作させる。直流システム1では、直流回路に入出力する電力にアンバランスが生じると直流コンデンサ電圧が変動する。このため、例えば、順変換器(REC)では、定電流制御を行う。また、逆変換器(INV)では、定電圧制御を行う。
【0017】
次に、本実施例に係る変換器10の制御について説明する。
図3は、直流送電を行う際の直流システムの制御特性を示す制御特性図の一例を示す図である。制御特性図の横軸は、直流電力系統11の直流電流を示し、制御特性図の縦軸は、直流電力系統11の直流電圧を示す。
【0018】
本実施例に係る変換器10は、後述する直流電流マージンImagと直流電圧マージンVmagを使用して、順変換器(REC)および逆変換器(INV)を同じ制御方式で制御する。定常状態では、順変換器(REC)の制御特性を示す線L1と逆変換器(INV)の制御特性を示す線L2の交点P1が運転点となる。すなわち、定常状態では、逆変換器(INV)が定電圧制御を行って直流電力系統11の電圧を一定に制御し、順変換器(REC)が定電流制御を行って直流電力系統11の一定の電流を供給することにより、直流電力系統11を介して直流送電を行う。一方、直流事故の際には、直流電流マージンImagおよび直流電圧マージンVmagの影響により両端が定電流制御を行うことで事故電流を抑制する。
【0019】
この
図3に示す制御特性図の制御特性を実現する制御を説明する。
図4は、
図3に示す制御特性を実現する制御の一例を示す制御ブロック図である。この
図4に示す制御ブロック図は、あくまでも一例であり、その他の演算により実現してもよい。
【0020】
本実施例では、直流電流指令値Idoと、直流電流測定値Idmと、直流電流マージンImagと、直流電圧指令値Vdoと、直流電圧測定値Vdmと、交流電圧測定値Vamと、直流電圧マージンVmagとをパラメータとして、直流電圧出力値Vdcを求める。
【0021】
直流電流指令値Idoは、直流送電を行う際の直流電力系統11に流れる直流電流の指令値である。直流電流測定値Idmは、変換器10が接続された直流電力系統11に実際に流れる直流電流の測定値である。直流電流マージンImagは、本制御において用いる直流電流のマージンを示す値である。直流電圧指令値Vdoは、直流送電を行う際の直流電力系統11の直流電圧の指令値である。交流電圧測定値Vamは、変換器10が接続された交流電力系統12の交流電圧の測定値である。直流電圧マージンVmagは、本制御において用いる直流電圧のマージンを示す値である。直流電圧出力値Vdcは、電圧の制御に用いる制御パラメータである。
【0022】
変換器10を電流制御端子として動作させる場合は、直流電流マージンImagを0とし、直流電圧マージンVmagを設定して制御を行う。一方、変換器10を電圧制御端子として動作させる場合、直流電流マージンImagを設定し、直流電圧マージンVmagを0として制御を行う。
【0023】
最初に、変換器10が順変換器(REC)として動作する場合の制御の流れについて説明する。変換器10が順変換器(REC)として動作する場合、直流電流マージンImagは0とされ、直流電圧マージンVmagはマージンとして所定値が設定される。
【0024】
図4に示す制御ブロック図では、直流電圧指令値Vdoと直流電圧マージンVmagを処理30に入力する。処理30は、直流電圧指令値Vdoと直流電圧マージンVmagを加算した値を処理32へ出力する。また、
図4に示す制御ブロック図では、交流電圧測定値Vamを処理31に入力する。
図5は、処理31の入力と出力の特性を示す図である。
図5に示すように、処理31では、入力値がゼロから所定値aまでの間、入力値に応じて出力値が0から1へ比例して増加し、入力が所定値a以上の場合に1が出力されるように特性が定められている。この所定値aは、変換器10が接続された交流電力系統12の定常状態の電圧値よりも小さい値であればよく、例えば、直流送電において交流電力系統12に定常状態で流れる電流値の0.8倍した値とする。
【0025】
処理31は、入力した交流電圧測定値Vamに応じた出力値を出力する。例えば、処理31は、交流電圧測定値Vamが定常状態の電圧値である場合、1を出力する。また、処理31は、交流電力系統12に地絡などの事故が発生して交流電圧測定値Vamが所定値aよりも低下した場合、出力値が1よりも低下し、交流電圧測定値Vamがゼロの場合、0を出力する。この処理31は、例えば、入力値に対する出力値をルックアップテーブルとして記憶し、ルックアップテーブルから入力値に対する出力値を読み出すことにより実現するものとしてもよい。また、処理31は、条件分けや演算により入力値に対する出力値を導出してもよい。例えば、処理31は、入力値が所定値以上の場合、1を出力し、入力値が所定値より小さい場合、所定値に対する入力値の割合を出力値として出力するものとしてもよい。
【0026】
処理32は、処理30の出力値と処理31の出力値を乗算し、乗演算結果の値を処理33、35へ出力する。例えば、交流電圧測定値Vamが定常状態の電圧値である場合、処理31の出力値が1であるため、処理32は、直流電圧指令値Vdoと直流電圧マージンVmagの加算値を処理33、35へ出力する。
【0027】
処理33は、一次遅れフィルタであり、処理32の出力値の一次遅れを求め、処理37へ出力する。例えば、直流電圧指令値Vdoの値が変更されて直流電圧指令値Vdoと直流電圧マージンVmagの加算値が変化した場合、処理33は、直流電圧指令値Vdoと直流電圧マージンVmagの加算値を変更前から変更後に緩やかに変化させて処理37へ出力する。処理33の「1/(1+ST)」は、一次遅れ制御を示している。Tは時定数であり、システムの速応性を示し、Sはラプラス演算子を示す。また、演算子34は、求めた値が上限値Uよりも大きい場合、上限値Uを出力し、求めた値が下限値Lよりも小さい場合、下限値Lを出力することを示している。すなわち、処理33は、出力する値が上限値Uおよび下限値Lの範囲で処理32の出力値の一次遅れの値を出力する。なお、この処理33は、直流電圧指令値Vdoの値が変更された場合の応答特性を向上させるために挿入された処理であり、必須の処理ではない。
【0028】
処理35は、処理32の出力値から直流電圧測定値Vdmを減算する演算を行い、演算結果の値を処理36へ出力する。例えば、交流電圧測定値Vamが定常状態の電圧値である場合、処理32の出力値は、直流電圧指令値Vdoと直流電圧マージンVmagの加算値となる。この場合、処理35では、直流電圧指令値Vdoと直流電圧測定値Vdmとの差に直流電圧マージンVmagを加算した値を出力することになる。
【0029】
処理36は、処理35の出力値に係数Kを乗算した値を算出する比例制御(所謂、P制御)を行う。処理36の「K」は比例制御を示している。Kはゲイン定数を示す。ところで、比例制御は、係数Kの値によっては直流電圧測定値Vdmを直流電圧指令値Vdoに到達させることができず、残留偏差が残る場合がある。そこで、処理36は、処理35の出力値に用いて積分制御(所謂、I制御)を行っている。処理36の「1/ST」は積分制御を示している。積分制御では、処理35の出力値を積分し、その積分値に係数を乗算した値を算出する。また、処理36は、演算子34により、出力する値が上限値Uおよび下限値Lの範囲に制限されている。処理36は、処理35の出力値を比例制御および積分制御する値をそれぞれ算出し、比例制御および積分制御の値を加算する演算を行う。そして、処理36は、演算結果の値が上限値Uおよび下限値Lの範囲であれば演算結果の値を処理37へ出力し、演算結果の値が上限値Uよりも大きい場合、上限値Uを処理37へ出力し、演算結果の値が下限値Lよりも小さい場合、下限値Lを処理37へ出力する。
【0030】
処理37は、処理33の出力値と処理36の出力値とを加算し、加算した値を、後述する処理39の上限値に設定する。
【0031】
処理38は、直流電流指令値Idoから直流電流測定値Idmを減算し、直流電流マージンImagを加算する演算を行い、演算結果の値を処理39へ出力する。ここで、変換器10を順変換器(REC)として動作させる場合、直流電流マージンImagを0としている。このため、変換器10を順変換器(REC)として動作させる場合、処理38は、直流電流指令値Idoから直流電流測定値Idmを減算した値を出力する。
【0032】
処理39は、処理38の出力値を比例制御および積分制御する値をそれぞれ算出し、比例制御および積分制御の値を加算する演算を行う。そして、処理39は、演算結果の値が上限値Uおよび下限値Lの範囲であれば演算結果の値を直流電圧出力値Vdcとして出力し、演算結果の値が上限値Uよりも大きい場合、上限値Uを直流電圧出力値Vdcとして出力し、演算結果の値が下限値Lよりも小さい場合、下限値Lを直流電圧出力値Vdcとして出力する。
【0033】
ここで、変換器10を順変換器(REC)として動作させる場合、直流電圧マージンVmagが設定されているため、処理35は、直流電圧指令値Vdoと直流電圧測定値Vdmが等しくなった場合でも直流電圧マージンVmagを出力する。処理36は、処理35から直流電圧マージンVmag分の値が常に入力した場合、時間の経過と共に積分制御の値が増加して上限値Uを超える。この結果、処理36は、時間の経過と共に、上限値Uを出力するようになる。処理33は、直流電圧指令値Vdoと直流電圧マージンVmagの加算値の一次遅れを求めて出力するため、直流電圧指令値Vdoが変更されない場合、時間の経過と共に直流電圧指令値Vdoと直流電圧マージンVmagの加算値を出力する。処理37は、処理33の出力値と処理36の出力値とを加算し、加算した値を、処理39の上限値に設定する。このため、処理36の上限値Uを十分に大きな値とした場合、処理39の演算結果の値が設定された上限値に達することが無くなり、処理39は、演算結果の値を出力することになる。すなわち、変換器10を順変換器(REC)として動作させる場合、処理39の演算結果の値が上限値で制限されることが無くなる。このため、
図4に示す制御は、直流電流測定値Idmを直流電流指令値Idoに近づける定電流制御となる。
【0034】
次に、変換器10が逆変換器(INV)として動作する場合の制御の流れについて説明する。変換器10が逆変換器(INV)として動作する場合、直流電流マージンImagはマージンとして所定値が設定され、直流電圧マージンVmagは0とされる。
【0035】
処理30は、直流電圧指令値Vdoと直流電圧マージンVmagを加算した値を処理32へ出力する。ここで、変換器10を逆変換器(INV)として動作させる場合、直流電圧マージンVmagを0としている。このため、変換器10を逆変換器(INV)として動作させる場合、処理30は、直流電圧指令値Vdoを出力する。処理32は、処理30の出力値と処理31の出力値を乗算し、乗演算結果の値を処理33、35へ出力する。交流電圧測定値Vamが定常状態の電圧値である場合、処理31の出力値が1であるため、処理32は、直流電圧指令値Vdoを処理33、35へ出力する。処理35は、処理32の出力値から直流電圧測定値Vdmを減算する演算を行い、演算結果の値を処理36へ出力する。この処理32の出力値は、交流電圧測定値Vamが定常状態の電圧値である場合、直流電圧指令値Vdoである。よって、変換器10を逆変換器(INV)として動作させ、交流電圧測定値Vamが定常状態の電圧値である場合、処理35は、直流電圧指令値Vdoから直流電圧測定値Vdmを減算した値を出力する。
【0036】
処理36は、処理35の出力値を比例制御および積分制御する値をそれぞれ算出し、比例制御および積分制御の値を加算する演算を行う。そして、処理36は、演算結果の値が上限値Uおよび下限値Lの範囲であれば演算結果の値を処理37へ出力し、演算結果の値が上限値Uよりも大きい場合、上限値Uを出力し、演算結果の値が下限値Lよりも小さい場合、下限値Lを出力する。
【0037】
ここで、変換器10を逆変換器(INV)として動作させる場合、直流電圧マージンVmagが0であるため、処理35は、直流電圧指令値Vdoと直流電圧測定値Vdmが等しくなった場合、0を出力する。すなわち、処理35は、直流電圧指令値Vdoと直流電圧測定値Vdmの差分を出力する。そして、処理36の上限値Uを十分に大きな値とした場合、処理35の演算結果の値が設定された上限値に達することが無くなり、処理36は、演算結果の値を出力する。
【0038】
処理33は、一次遅れフィルタであり、処理32の出力値の一次遅れを求めて処理37へ出力する。
【0039】
処理37は、処理33の出力値と処理36の出力値とを加算し、加算した値を処理39の上限値に設定する。
【0040】
ここで、処理33を設けていた場合、処理33は、直流電圧指令値Vdoを出力する。処理36は、比例制御および積分制御により、直流電圧測定値Vdmを直流電圧指令値Vdoへ調整するための制御量αを出力する。一方、処理33を設けていない場合、処理36は、比例制御および積分制御により、直流電圧指令値Vdoと制御量αとを加算した値を出力する。よって、処理37から出力される値は、何れの場合も直流電圧測定値Vdmを直流電圧指令値Vdoに近づける定電圧制御の制御量となる。
【0041】
一方、処理38は、直流電流指令値Idoから直流電流測定値Idmを減算し、直流電流マージンImagを加算する演算を行い、演算結果の値を処理39へ出力する。ここで、変換器10を逆変換器(INV)として動作させる場合、直流電流マージンImagに値が設定される。このため、処理38は、直流電流指令値Idoと直流電流測定値Idmが等しくなった場合でも直流電流マージンImagを出力する。
【0042】
処理39は、処理38の出力値を比例制御および積分制御する値をそれぞれ算出し、比例制御および積分制御の値を加算する演算を行う。そして、処理39は、演算結果の値が上限値Uおよび下限値Lの範囲であれば演算結果の値を直流電圧出力値Vdcとして出力し、演算結果の値が上限値Uよりも大きい場合、上限値Uを直流電圧出力値Vdcとして出力し、演算結果の値が下限値Lよりも小さい場合、下限値Lを直流電圧出力値Vdcとして出力する。
【0043】
ここで、変換器10を逆変換器(INV)として動作させる場合、直流電流マージンImagが設定されているため、処理38は、直流電圧指令値Vdoと直流電圧測定値Vdmが等しくなった場合でも直流電流マージンImagを出力する。処理39は、処理38から直流電流マージンImag分の値が常に入力した場合、時間の経過と共に積分制御の値が増加して上限値Uを超える。この結果、処理39は、時間の経過と共に、上限値Uを出力するようになる。この処理39の上限値は、処理37の出力値である。すなわち、変換器10を逆変換器(INV)として動作させる場合、処理39が上限値を出力するため、
図4に示す制御は、直流電圧測定値Vdmを直流電圧指令値Vdoに近づける定電圧制御となる。
【0044】
本実施例に係る直流システム1では、一方の変換器10の直流電流マージンImagを0とし、直流電圧マージンVmagを設定して順変換器(REC)として動作させ、他方の変換器10の直流電流マージンImagを設定し、直流電圧マージンVmagを0として逆変換器(INV)として動作させる。順変換器(REC)は、直流電力系統11の電流値を直流電流指令値Idoに保つ定電流制御を行い、逆変換器(INV)は、直流電力系統11の電圧値を直流電圧指令値Vdoに保つ定電圧制御を行う。これにより、
図3に示す交点P1が運転点となる。
【0045】
次に、直流電力系統11で地絡や短絡などの事故が発生した場合の制御の流れについて説明する。直流電力系統11で地絡や短絡などの事故が発生し、直流電力系統11の電圧値がゼロになった場合、直流電圧測定値Vdmが0となる。
【0046】
処理35は、処理32の出力値から直流電圧測定値Vdmを減算する演算を行い、演算結果の値を処理36へ出力する。直流電力系統11で事故が発生して直流電圧測定値Vdmが0となった場合、処理35は、処理32の出力値を処理36へ出力する。この処理32の出力値は、交流電圧測定値Vamが定常状態の電圧値である場合、直流電圧指令値Vdoと直流電圧マージンVmagを加算した値である。よって、交流電圧測定値Vamが定常状態の電圧値である場合、処理35は、直流電圧指令値Vdoと直流電圧マージンVmagを加算した値を出力する。
【0047】
処理36は、処理35の出力値を比例制御および積分制御する値をそれぞれ算出し、比例制御および積分制御の値を加算する演算を行う。そして、処理36は、演算結果の値が上限値Uおよび下限値Lの範囲であれば演算結果の値を処理37へ出力し、演算結果の値が上限値Uよりも大きい場合、上限値Uを処理37へ出力し、演算結果の値が下限値Lよりも小さい場合、下限値Lを処理37へ出力する。
【0048】
ここで、変換器10が順変換器(REC)として動作していた場合、直流電圧マージンVmagが設定されているため、処理36は、元々上限値Uを出力しており、出力値が変化しない。一方、変換器10を逆変換器(INV)として動作していた場合、直流電圧マージンVmagが0であるが、直流電圧指令値Vdoが常に入力するため、処理36は、時間の経過と共に積分制御の値が増加して上限値Uを超える。この結果、処理36は、時間の経過と共に、上限値Uを出力するようになる。処理37は、処理33の出力値と処理36の出力値とを加算し、加算した値を、処理39の上限値に設定する。このため、処理36の上限値Uを十分に大きな値とした場合、処理39の演算結果の値が設定された上限値に達することが無くなり、処理39は、演算結果の値を出力する。すなわち、変換器10を逆変換器(INV)として動作させた場合でも、直流電圧測定値Vdmが0となった場合、処理39の上限値で制限されることが無くなるため、
図4に示す制御は、直流電流測定値Idmを直流電流指令値Idoに直流電流マージンImagを加えたものに近づける定電流制御となる。
【0049】
よって、本実施例に係る直流システム1では、一方の変換器10を順変換器(REC)として動作させ、他方の変換器10を逆変換器(INV)として動作させて直流送電を行っている際に、直流電力系統11で事故が発生して直流電力系統11の電圧値がゼロになった場合、順変換器(REC)および逆変換器(INV)は、それぞれ電圧0の点を運転点として定電流制御を行う。
図6は、直流電圧測定値Vdmが0となった場合の直流システムの制御特性を示す制御特性図の一例を示す図である。
図6に示すように、順変換器(REC)は、制御特性を示す線L1の電圧0の点P2が運転点となる。逆変換器(INV)は、制御特性を示す線L2の電圧0の点P3が運転点となる。
【0050】
この結果、順変換器(REC)には直流電流指令値Idoの電流が流れる。逆変換器(INV)には直流電流指令値Idoと直流電流マージンImagとの差電流が流れる。このため、結果的に事故点には直流電流マージンImag分の電流が流れ込むこととなる。しかし、順変換器(REC)および逆変換器(INV)は、直流事故時にも運転点が直流電流指令値Ido以下となるため、過電流は流れない。
【0051】
次に、交流電力系統12で地絡や短絡などの事故が発生した場合の制御の流れについて説明する。交流電力系統12で地絡や短絡などの事故が発生した場合、交流電力系統12の電圧値が低下した場合、処理31から出力される値が低下する。処理32は、処理30の出力値と処理31の出力値を乗算する。この処理30の出力値は、直流電圧指令値Vdoと直流電圧マージンVmagの加算値である。よって、交流電力系統12の電圧値が低下した場合、処理32は、処理33、35へ出力する値が低下する。
【0052】
図7Aは、逆変換器(INV)側の交流電圧が低下した場合の直流システムの制御特性を示す制御特性図の一例を示す図である。
図7Bは、順変換器(REC)側の交流電圧が低下した場合の直流システムの制御特性を示す制御特性図の一例を示す図である。逆変換器(INV)側で交流側電圧低下が発生すると、運転点は
図7Aに示すように変化し、交流電圧の低下度合に応じて直流電圧が低下することとなる。順変換器(REC)側で交流側電圧低下が発生すると、運転点は
図7Bに示すように変化し、交流電圧の低下度合に応じて直流電圧が低下することとなる。
【0053】
すなわち、変換器10は、順変換器(REC)および逆変換器(INV)の何れとして動作した場合も、交流側電圧低下の際にも安定的に運転が継続される。また、変換器10は、事故が除去され、交流側電圧が戻った際には運転点が事故前の状態に戻るため、交流側電圧低下時に制御を切り替える必要がない。
【0054】
このように、本実施例に係る変換器10は、直流事故の際には
図6に示すように動作点を持ち、交流事故の際には
図7A、7Bに示すような動作点を持つため、系統事故の際にも定常状態に落ち着く。よって、本実施例に係る変換器10は、事故検出の速度にかかわらず、変換器10に過電流を流すことなく運転継続可能であり、高速な事故検出は必要ない。これにより、本実施例に係る変換器10を用いて直流送電やBTBシステムなどの直流システムを構成することにより、送電システムの信頼性向上に寄与することができる。
【0055】
また、本実施例に係る変換器10は、自端の電圧、電流情報のみで動作しており保護
操作に直流電力系統11の他端の情報を必要としない。本実施例に係る変換器10は、片端で事故が発生した場合に、制御の切り替えなしに自然と定常状態におちつく。これは変換器10の信頼性向上に寄与する。
【0056】
また、本実施例に係る変換器10は、変換器側の制御のみで直流事故を除去可能であり、直流遮断器を必要としない。また、本実施例に係る変換器10は、回路モジュール21にインバータセルタイプを使用しているため、回路モジュール21のゲートブロック(GB)を行うことで変換器10は即座に停止できる。一方、2レベル変換器、チョッパセルは、ゲートブロックしても直流事故時には事故が継続する。
【0057】
また、本実施例に係る変換器10は、高速に事故遮断を行いたい、直流事故除去時にも変換器をSTATCOM(STATic synchronous COMpensator)として動作させたいなどの事情により直流遮断器を使用する場合でも、事故電流を自由に制御可能なため直流遮断器の電圧、電流定格を下げることができる。
【0058】
また、通常の2レベル変換器などでは、交流事故等の理由により交流電圧が0になった場合、直流電流が0となる。事故除去後に交流電圧が回復してから再度直流電流を流し始めることにより、送電を再開するため、直流線路が非常に長い等の理由により直流回路のインダクタンスが非常に大きい場合、直流電流が速やかには立ち上がらず、事故除去の再起動が遅れる可能性がある。一方、本実施例に係る変換器10は、交流電圧低下時にも直流電流を流し続けるため、このような場合でも高速に復帰できる。
【0059】
次に、MMCの回路構成による事故除去の原理ついて説明する。例えば、半導体素子を多数直列されたアームでブリッジを構成した2レベル変換器や3レベル変換器では、至近端の直流回路で事故が発生した場合、直流線間電圧が0となる。2レベル変換器の場合、直流回路の線間電圧が0になると整流回路を通して交流回路側から電流が流れ込むため、遮断器を開放しない限り事故電流が継続する。
【0060】
一方、本実施例に係る変換器10の場合、直流回路の電圧が0の場合でも回路モジュール21がコンデンサ24を備え、コンデンサ24のコンデンサ電圧が0ではない。このため、MMCの回路構成の場合は、電圧を出力可能である。また、回路モジュール21は、スイッチングするスイッチング素子25の組み合わせにより、正負の電圧の波形が発生可能である。
【0061】
ここで、R相に注目して事故除去の原理を説明する。
図8は、変換器10による事故除去の原理する図である。なお、
図8では、各相の上側アーム、下側アームの回路モジュール21を1段に省略している。交流電力系統12のR相電圧は、V・cos(ωt)であるものとする。この場合、変換器10では、電力変換部20のR相上部アームで−V・cos(ωt)の電圧を出力し、R相下部アームでV・cos(ωt)の電圧を出力する。これにより、変換器10から交流電力系統12のR相に出力される電圧は、V・cos(ωt)であり、変換器10から直流電力系統11に出力される電圧は、−V・cos(ωt)+V・cos(ωt)=0である。このとき、変換器10が出力する交流電圧と交流電力系統12のR相電圧が等しい。このため、変換器10と交流電力系統12の間に電位差は存在せず、交流電力系統12から変換器10に流れる電流は増加しない。また、変換器10が出力する直流電圧は0である。このため、直流電力系統11側の電流も増加しない。つまり、直流電力系統11側で事故が発生しても、変換器10の電力変換部20の下部アームが交流電力系統12の電圧と同じ電圧を出力し、上部アームが交流電力系統12の電圧に−1を乗じた電圧を出力すれば事故電流は増加しない。S相、T相に関しても同様である。
【0062】
次に、潮流反転をさせる場合の制御の流れについて説明する。直流システム1では、直流送電を行う場合、一方の変換器10を、交流電圧を直流電圧に変換する順変換器(REC)として動作させ、他方の変換器10を、直流電圧を交流電圧に変換する逆変換器(INV)として動作させる。例えば、
図1に示す右側の変換器10Aから左側の変換器10Bへ直流電流指令値:Ido、直流電圧指令値:Vdoで直流送電を行う場合、変換器10Aおよび変換器10Bを以下のようなパラメータで運転する。
変換器10Aは、
直流電圧指令値 :Vdo
直流電流指令値 :Ido
直流電圧マージン:Vmag
直流電流マージン:0
とされて順変換器(REC)として動作する。
変換器10Bは、
直流電圧指令値 :Vdo
直流電流指令値 :Ido
直流電圧マージン:0
直流電流マージン:Imag
とされて逆変換器(INV)として動作する。
【0063】
直流システム1は、このようなパラメータで運転した場合、
図3に示す制御特性で運転する。
【0064】
ここで、直流システム1では、変換器10Aと変換器10Bの送電方向を反転させる潮流反転を行う場合、以下の(1)〜(3)の操作を実施する。
(1)直流電流指令値をIdoから−Idoに反転させる。
(2)電圧マージンを切り替える。
(3)電流マージンを切り替える。
【0065】
すなわち、変換器10Aおよび変換器10Bを以下のようなパラメータで運転する。
変換器10Aは、
直流電圧指令値 :Vdo
直流電流指令値 :−Ido
直流電圧マージン:0
直流電流マージン:Imag
とされて逆変換器(INV)として動作する。
変換器10Bは、
直流電圧指令値 :Vdo
直流電流指令値 :−Ido
直流電圧マージン:Vmag
直流電流マージン:0
とされて順変換器(REC)として動作する。
【0066】
この操作により、直流システム1の制御特性は、
図3から
図9に示すように変更され、潮流が反転される。
図9は、潮流反転させた際の直流システムの制御特性を示す制御特性図の一例を示す図である。本実施例の制御では、潮流反転前後で、直流電圧は変化せず直流電流を反転させることにより潮流反転を行える。
【0067】
次に、本実施例に係る変換器10を制御する制御系の構成ついて説明する。
図10は、変換器を制御する制御系の概略的な構成の一例を示す図である。
図10に示す例では、変換器10は、検出部41と、記憶部42と、制御部43と、信号生成部44とを有する。
【0068】
検出部41は、変換器10の制御に用いる各種の電圧や電流を検出する。例えば、検出部41は、変換器10が接続された直流電力系統11や交流電力系統12の電圧や電流を検出する。また、検出部41は、電力変換部20の各相のアーム毎に、アーム電流およびアーム電圧を検出する。
【0069】
記憶部42は、制御部43で実行されるOS(Operating System)や後述する制御処理に用いるプログラムなど各種プログラムを記憶する。さらに、記憶部42は、制御部43で実行されるプログラムの実行に必要な各種データを記憶する。例えば、記憶部42は、直流電流指令値Ido、直流電流マージンImag、直流電圧指令値Vdo、直流電圧マージンVmagとを記憶する。この直流電流指令値Ido、直流電流マージンImag、直流電圧指令値Vdo、直流電圧マージンVmagは、例えば、直流システム1を制御する図示しない外部の制御装置から設定されてもよく、図示しない操作パネルなどの操作入力部から設定されてもよい。
【0070】
制御部43は、検出部41による検出結果に基づき、各種の制御を行い電力変換部20の各回路モジュール21のスイッチング素子を制御する。例えば、制御部43は、検出部41により検出された直流電力系統11の直流電流測定値Idmや直流電圧測定値Vdm、交流電力系統12の交流電圧測定値Vamに基づき、
図4に示した制御ブロック図の制御を行って直流電圧出力値Vdcを導出し、直流電圧出力値Vdcに基づいて信号生成部44を制御する。
【0071】
信号生成部44は、電力変換部20の各相の各アームの回路モジュール21に対して搬送波と変調波を供給しており、制御部43からの制御に応じて、供給する変調波の波形を変更する。これにより、電力変換部20では、各相のアーム毎に、回路モジュール21のスイッチング素子25のオン、オフの期間を変更することにより、各相のアーム毎にアーム電圧が変化する。
【0072】
制御部43は、例えば、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)やFPGA(Field Programmable Gate Array)などの集積回路を用いた回路構成により制御を実現してもよい。また、CPU(Central Processing Unit)やMPU(Micro Processing Unit)などの電子回路とプログラムを記憶した記憶部を設け、電子回路によりプログラムの処理を実行することにより制御を実現してもよい。
【0073】
次に、本実施例に係る制御部43による直流送電の制御処理の流れを説明する。
図11は、制御処理の手順を示すフローチャートである。この制御処理は、直流送電を行う際に実行される。
【0074】
図11に示すように、制御部43は、検出された交流電圧測定値Vamがゼロから所定値aまでの間、値が0から1へ比例して増加し、交流電圧測定値Vamが所定値a以上の場合に1として値を求める(ステップS10)。制御部43は、直流電圧指令値VdoとステップS10で求めた値を乗算する(ステップS11)。制御部43は、ステップS11で求めた値の一次遅れを求める(ステップS12)。また、制御部43は、ステップS11で求めた値から直流電圧測定値Vdmを減算し、直流電圧マージンVmagを加算する演算を行う(ステップS13)。制御部43は、ステップS13で求めた値を比例制御および積分制御する値をそれぞれ算出し、比例制御および積分制御の値を加算する演算を行い、演算結果の値が上限値Uおよび下限値Lの範囲であれば演算結果の値を演算結果とし、演算結果の値が上限値Uよりも大きい場合、上限値Uを演算結果し、演算結果の値が下限値Lよりも小さい場合、下限値Lを演算結果とする(ステップS14)。制御部43は、ステップS12で求めた値とステップS14で求めた値とを加算する(ステップS15)。
【0075】
制御部43は、直流電流指令値Idoから直流電流測定値Idmを減算し、直流電流マージンImagを加算する演算を行う(ステップS16)。制御部43は、ステップS15で求めた値を比例制御および積分制御する値をそれぞれ算出し、比例制御および積分制御の値を加算する演算を行い、演算結果の値がステップS14で求めた値および下限値Lの範囲であれば演算結果の値を直流電圧出力値Vdcとして出力し、演算結果の値がステップS14で求めた値よりも大きい場合、ステップS14で求めた値を直流電圧出力値Vdcとして導出し、演算結果の値が下限値Lよりも小さい場合、下限値Lを直流電圧出力値Vdcとして導出し(ステップS17)、導出した直流電圧出力値Vdcに基づいて信号生成部44を制御する。
【0076】
これにより、変換器10は、直流電流マージンImagが0とされ、直流電圧マージンVmagが設定されている場合、順変換器(REC)として動作して定電流制御を行う。一方、変換器10は、直流電流マージンImagが設定され、直流電圧マージンVmagが0とされている場合、逆変換器(INV)として動作して定電圧制御を行う。
【0077】
制御部43は、変換器10全体を制御する他の制御部などから動作停止が指示されたか否かを判定する(ステップS18)。制御部43は、動作停止が指示された場合(ステップS18肯定)、処理を終了する。一方、制御部43は、動作停止が指示されていない場合(ステップS18否定)、ステップS10へ移行する。
【0078】
次に、本実施の形態に係る変換器10の制御が実際に動作することを確認するため、シミュレーションによる動作検証を行った結果について説明する。
図12は、シミュレーションに使用した直流システムの概略的な構成を示す図である。
図13は、シミュレーションを行った直流システムの主な仕様を示す図である。なお、以下のシミュレーションは、財団法人電力中央研究所において開発した瞬時値解析プログラムであるXTAP(eXpandable Transient Analysis Program)を使用して実施したものである。
【0079】
図12に示す直流システム1は、送電側と受電側が同じ回路構成とされており、直流電力系統11の受電端と送電端にそれぞれ変換器10が設けられている。変換器10は、それぞれ変圧器13によりそれぞれ別の交流電力系統12と接続されている。交流電力系統12は、無限大母線模擬の電圧源14と短絡容量模擬の抵抗15とリアクトル16により模擬されている。ここで、短絡容量比は8.0に設定している。交流側、直流側の事故地点は、変換器至近端とし、交流事故は、事故回線を不図示の遮断器により開放することで除去するものとする。また、それぞれの変換器10の直流側には、限流用のリアクトル17を挿入している。この限流リアクトル17は原理的には不要であり、変換器10の制御遅れが0の場合は取り除くことができる。しかし、実際には変換器10の制御には遅れ時間が存在するため、事故発生により直流電圧が低下してから変換器10が応答するまでの期間、電流を制限する要素が必要である。今回のシミュレーションでは制御遅れが50μsであることを考慮し限流リアクトルを100mHとした。
【0080】
最初に、潮流反転を行った場合についてシミュレーションを行った結果を説明する。
図14A〜
図14Eは、潮流反転させた際の瞬時値波形を示す。
図14Aは、潮流反転させた際の各変換器10の直流電力系統11側の直流電圧および直流電流の変化を示す図である。また、
図14Bは、送電側であった順変換器(REC)が受電側の逆変換器(INV)に変化する際の交流電圧実効値、交流電力、交流無効電力の変化を示す図であり、
図14Cは、送電側であった順変換器(REC)が受電側の逆変換器(INV)に変化する際の交流電流、アーム電流、コンデンサ電圧の3相の波形を示す図である。また、
図14Dは、受電側であった逆変換器(INV)が送電側の順変換器(REC)に変化する際の交流電圧実効値、交流電力、交流無効電力の変化を示す図であり、
図14Eは、受電側であった逆変換器(INV)が送電側の順変換器(REC)に変化する際の交流電流、アーム電流、コンデンサ電圧の3相の波形を示す図である。なお、
図14A、14B、14Dのそれぞれの波形の振幅は、正規化している。
【0081】
シミュレーションの結果、変換器10は、
図14Aに示すように、直流電圧はほぼ変化しないまま直流電流が1.0p.u.から−1.0p.u.になっており潮流が反転していることが確認できる。また、変換器10は、
図14A〜14Eに示すように、電圧マージン、電流マージンが切り替わるとともに、
図14A、14Bに示す変換器10が電流決定端子から電圧決定端子へ入れ替わり、
図14C、14Dに示す変換器10が電圧決定端子から電流決定端子へと入れ替わっており、潮流反転が
図9の制御特性図のとおりに実施されていることが分かる。
【0082】
次に、直流事故が発生した場合についてシミュレーションを行った結果を説明する。
図15は、直流事故のシーケンスを示す図である。
図15に示すように、本実施例では、直流事故発生から直流事故検出までの時間を0.1秒に設定している。これは事故検出に十分事故時間がかかっても、変換器に過電流が流れないことを確認するためである。また、直流事故を検出した後、下記(1)〜(4)の操作を行うことで高速にシステムを再起動させる。
(1)電流指令値を0に設定し、事故電流を制御により0とする。
(2)事故電流が0になったのを確認し、変換器10をゲートブロック(GB)し、停止させる。
(3)変換器10の停止により直流事故が除去される。
(4)事故除去から約0.3秒後に変換器10を再起動させる。
【0083】
事故除去から変換器10の再起動までの時間を0.3秒としている理由は、消イオン時間を考慮したためである。
【0084】
図16A〜
図16Eは、順変換器(REC)至近端で直流事故を発生させた場合の各部波形を示す。
図16Aは、順変換器(REC)至近端で直流事故を発生させた場合の各変換器10の直流電力系統11側の直流電圧および直流電流の変化を示す図である。また、
図16Bは、順変換器(REC)の交流電圧実効値、交流電力、交流無効電力の変化を示す図であり、
図16Cは、順変換器(REC)の交流電流、アーム電流、コンデンサ電圧の3相の波形を示す図である。また、
図16Dは、逆変換器(INV)の交流電圧実効値、交流電力、交流無効電力の変化を示す図であり、
図16Eは、逆変換器(INV)の交流電流、アーム電流、コンデンサ電圧の3相の波形を示す図である。なお、
図16A、16B、16Dのそれぞれの波形の振幅は、正規化している。
【0085】
シミュレーションの結果、変換器10は、
図16Aに示すように、事故直後順変換器(REC)端の電流は増加しているものの、定電流制御を行っているため即座に事故前の電流に落ち着く。また、逆変換器(INV)は、
図16D、16Eに示すように、事故直後に電流が減少するが、即座に定電流となる。このとき、逆変換器(INV)には、
図6に示した特性に従い事故前の電流から電流マージンを差し引いた電流が流れる。よって、事故点には電流マージン分の電流が流し込まれる。事故検出後、電流指令値を0にしたため、事故電流は、0となる。事故除去後の再起動も正常に行われていることから、本実施の形態の制御を使用することで直流事故からの再起動が高速に行えることが分かる。比較のため、
図17は、逆変換器(INV)至近端で直流事故を発生させた場合の各変換器10の直流電力系統11側の直流電圧および直流電流の変化を示す図である。
【0086】
次に、交流事故が発生した場合についてシミュレーションを行った結果を説明する。
図18は、直流事故のシーケンスを示す図である。
図18に示すように、本実施例では、3線地落(3LG)の交流事故発生から交流側の遮断器が開放されるまでの時間を0.1秒(5サイクル)に設定している。交流事故は、事故回線を開放することによって、除去される。
【0087】
図19A〜
図19Eは、順変換器(REC)至近端で交流事故を発生させた場合の各部波形を示す。
図19Aは、順変換器(REC)至近端で交流事故を発生させた場合の各変換器10の直流電力系統11側の直流電圧および直流電流の変化を示す図である。また、
図19Bは、順変換器(REC)の交流電圧実効値、交流電力、交流無効電力の変化を示す図であり、
図19Cは、順変換器(REC)の交流電流、アーム電流、コンデンサ電圧の3相の波形を示す図である。また、
図19Dは、逆変換器(INV)の交流電圧実効値、交流電力、交流無効電力の変化を示す図であり、
図19Eは、逆変換器(INV)の交流電流、アーム電流、コンデンサ電圧の3相の波形を示す図である。なお、
図19A、19B、19Dのそれぞれの波形の振幅は、正規化している。
【0088】
シミュレーションの結果、変換器10は、
図19Aに示すように、順変換器(REC)至近端で交流事故が発生して、交流側の事故によって交流電圧が低下すると、
図7Bの制御特性図に従い直流電圧が低下し、直流電流も電流マージン分低下する。交流事故が除去されると、交流電圧、直流電圧、直流電流ともに事故前の状況に戻り、交流事故時も変換器が安定的に運転可能であることが分かる。比較のため、
図20は、逆変換器(INV)至近端で交流事故を発生させた場合の各変換器10の直流電力系統11側の電圧および電流の変化を示す図である。変換器10は、
図20に示すように、逆変換器(INV)至近端で交流事故を発生させた場合、順変換器(REC)至近端で交流事故を発生させた時と同様、
図7Aの制御特性図に従い直流電圧が低下する。一方、変換器10は、
図20に示すように、逆変換器(INV)至近端で交流事故を発生させた場合と異なり、事故直後の動揺を除けば直流電流は1.0p.u.を保持する。
【0089】
[実施例1の効果]
上述してきたように、本実施例に係る変換器10は、自己消弧形のスイッチング素子25および当該スイッチング素子25のオン、オフに応じて電力を蓄積、放出するコンデンサ24を少なくとも備え、正負の電圧が発生可能とされた回路モジュール21が1つまた複数直列に、3相交流の交流電力系統12の各相毎に設けられた直列回路22をY結線したY結線回路23が2重に設けられ、2つのY結線に接続された直流電力系統11と交流電力系統12との間で電力変換を行う電力変換部20を有する。本実施例に係る変換器10は、直流電力系統11の直流電圧を検出する。本実施例に係る変換器10は、直流電力系統11に定電流制御で供給された直流電力を交流電力系統12の交流電力に変換する場合、定常状態において、検出される直流電力系統11の直流電圧が所定電圧となるように電力変換部20のスイッチング素子25を制御し、検出される直流電力系統11の直流電圧が低下した際に、直流電力系統11に定電流制御で供給される電流値よりも少ない電流値で定電流制御を行うように電力変換部20のスイッチング素子25を制御する。これにより、本実施例に係る変換器10によれば、直流事故や交流事故が発生して直流電力系統11の直流電圧が低下した場合でも、直流電力系統11に定電流制御で供給される電流値よりも少ない電流値で定電流制御を行うので、過電流の発生を抑制できる。
【0090】
また、本実施例に係る変換器10は、直流電力系統11の直流電圧と所定の直流電圧の指令値との差の比例制御および積分制御を行って第1の制御量を求めると共に、直流電力系統11の直流電流と所定の直流電流の指令値との差に所定の直流電流マージンを加算した値の比例制御および積分制御を行って第2の制御量を求め、第2の制御量が第1の制御量よりも大きい場合は第1の制御量に基づいて電力変換部20のスイッチング素子25を制御し、第2の制御量が第1の制御量以下の場合は第2の制御量に基づいて電力変換部20のスイッチング素子25を制御する。これにより、本実施例に係る変換器10によれば、直流事故や交流事故が発生していない定常状態において、直流電力系統11の定電圧制御を行うことができ、直流電力系統11の直流電圧が低下した場合に、直流電力系統11の定電流制御に制御を切り替えることができる。
【0091】
また、本実施例に係る変換器10は、順変換器として動作する場合は直流電流マージンを0とし、直流電圧マージンを所定値とし、逆変換器として動作する場合は直流電流マージンを所定値とし、直流電圧マージンを0として、直流電力系統11の直流電圧と所定の直流電圧の指令値との差に前記直流電流マージンを加算した値の比例制御および積分制御を行って第1の制御量を求めると共に、直流電力系統11の直流電流と所定の直流電流の指令値との差に前記直流電流マージンを加算した値の比例制御および積分制御を行って第2の制御量を求め、第2の制御量が第1の制御量よりも大きい場合は第1の制御量に基づいて電力変換部20のスイッチング素子25を制御し、第2の制御量が第1の制御量以下の場合は第2の制御量に基づいて電力変換部20のスイッチング素子25を制御する。これにより、本実施例に係る変換器10によれば、同じ制御方式で直流電流マージンと直流電圧マージンの設定を切り替えることにより、変換器10を順変換器(REC)または逆変換器(INV)として動作させることができる。