特許第5946662号(P5946662)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5946662
(24)【登録日】2016年6月10日
(45)【発行日】2016年7月6日
(54)【発明の名称】乳脂肪クリーム及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23C 13/14 20060101AFI20160623BHJP
【FI】
   A23C13/14
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-59472(P2012-59472)
(22)【出願日】2012年3月15日
(65)【公開番号】特開2013-192459(P2013-192459A)
(43)【公開日】2013年9月30日
【審査請求日】2015年3月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】711002926
【氏名又は名称】雪印メグミルク株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小杉 達也
(72)【発明者】
【氏名】木村 浩
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 裕輔
(72)【発明者】
【氏名】武藤 高明
【審査官】 伊達 利奈
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−259831(JP,A)
【文献】 特開2007−259830(JP,A)
【文献】 特開2006−141273(JP,A)
【文献】 特開2010−081840(JP,A)
【文献】 堀口早苗,外6名,,クリームの熱処理が脂肪球やタンパク質に与える影響,日本農芸化学会2011年度大会講演要旨集(2011.03.05),p.229
【文献】 K.INOUE,et al.,Effects of manufacturing process parameters on fat globule size and viscosity of whipping cream.,Milchwissenschaft(2011),Vol.66,No.2,p.141-144
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23C 13/14
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
DWPI(Thomson Innovation)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪球のメディアン径が2.4μm以下であり、かつ脂肪球皮膜におけるホエイタンパク質に対するカゼインの質量比が3.5以下であることを特徴とする乳脂肪クリーム。
【請求項2】
原料乳からクリームを分離するクリーム分離工程と、
前記分離工程によって分離されたクリームを殺菌するクリーム殺菌工程とを含む乳脂肪クリームの製造方法において、
前記クリーム分離工程前に原料乳を60℃程度で均質処理する原料乳均質工程を含み、
前記原料乳均質工程における均質処理の均質圧が2.0MPa〜5.0MPaであることを特徴とする乳脂肪クリームの製造方法。
【請求項3】
前記クリーム殺菌工程前及び/又は前記クリーム殺菌工程後に、分離後のクリームを均質処理するクリーム均質処理工程を含むことを特徴とする請求項2記載の乳脂肪クリームの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な乳脂肪クリーム及びその製造方法に関する。なお、本発明において、「乳脂肪クリーム」とは、乳及び乳製品の成分規格等に関する省令(昭和26年12月27日厚生省令第52号、以下「乳等省令」という。)によって規定される「種類別 クリーム」を意味するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、クリームと呼ばれるものには、乳脂肪のみからなる乳脂肪クリームのほか、乳脂肪に乳化剤や安定剤を加えたもの、植物性脂肪に乳化剤や安定剤を加えたもの、乳脂肪と植物性脂肪の混合脂肪に乳化剤や安定剤を加えたものがある。乳等省令上は、乳脂肪クリームのみが「種類別 クリーム」とされ、その他の乳化剤、安定剤を加えたもの(以下、「合成クリーム」という。)は「乳又は乳製品を主要原料とする食品」として定義されている。
【0003】
製菓、製パン、デザートの製造においては、乳脂肪クリーム、合成クリームのいずれも使用されているが、近年は添加剤を一切使用しないという点から乳脂肪クリームが好まれる傾向がある。合成クリームは、配合油脂の選択の自由度が高く、また乳化剤や安定剤の組み合わせも多種多様な選択が可能であることから、ホイップ性と乳化安定性に優れた製品を提供できるというメリットがあるが、一方で、乳脂肪クリームと比較すると、芳醇でフレッシュな乳の風味に欠け、風味の面で劣るというデメリットがある。
【0004】
乳脂肪クリームは、乳から分離したクリーム、もしくは乳から分離したクリームを殺菌処理したものを生乳で脂肪調整した後、均質、殺菌、再均質、冷却して製造されるのが一般的である。乳脂肪クリームは乳脂肪独特の風味やコクを有し、風味の点で合成クリームより優れるが、定義上、安定性を付与するための乳化剤や安定剤を添加することができないため、ホイップ性や乳化安定性等の物性の付与は、専ら製造条件の制御によって行わなければならない。よって、ホイップ性や乳化安定性においては、合成クリームに劣るという問題がある。乳脂肪クリームの乳化安定性の改善については、超高温殺菌法(UHT法)による殺菌工程の前後で均質化することにより脂肪層の浮上を抑制する方法(特許文献1)が報告されているが、この方法では、十分な乳化安定性は得られない。また、クリーム加熱殺菌処理後の冷却工程において、一旦7℃〜25℃まで急速に冷却し、その温度で1分間〜30分間保持し、その後3℃〜5℃まで急速に冷却することで、乳化安定性を付与する方法(特許文献2)が報告されている。しかし、この方法では冷蔵保存時での振動耐性は付与されるが、温度処理耐性は付与されず、乳化安定性としては不十分である。
この他にも乳脂肪クリームの製造に関して、生乳を膜濃縮処理、脱酸素処理を行なうことで風味と物性に優れたクリームの製造方法(特許文献3)も報告されているが、この方法は、製造に特別な装置や複雑な工程が必要となるほか、得られた乳脂肪クリームは、風味は改善されるものの、乳化安定性は十分なものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−259831号公報
【特許文献2】特開2006−325426号公報
【特許文献3】特開2006−141273号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、乳化安定性に優れ、かつ良好なホイップ性を有する乳脂肪クリームの提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下のとおりである。
(1)脂肪球のメディアン径が2.4μm以下であり、かつ脂肪球皮膜におけるホエイタンパク質に対するカゼインの質量比が3.5以下であることを特徴とする乳脂肪クリーム。
(2)原料乳からクリームを分離するクリーム分離工程と、前記分離工程によって分離された分離クリームを殺菌するクリーム殺菌工程とを含む乳脂肪クリームの製造方法において、前記クリーム分離工程前に原料乳を均質処理する原料乳均質工程を含むことを特徴とする乳脂肪クリームの製造方法。
(3)前記原料乳均質工程における均質処理の均質圧が2.0MPa〜5.0MPaであることを特徴とする(2)記載の乳脂肪クリームの製造方法。
(4)前記クリーム殺菌工程前及び/又は前記クリーム殺菌工程後に、分離したクリームを均質処理するクリーム均質処理工程を含むことを特徴とする(2)乃至(3)記載の乳脂肪クリームの製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、乳化安定性に優れ、かつ良好なホイップ性を有する乳脂肪クリームが得られる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明につき、さらに詳細に説明する。
本発明における乳脂肪クリームとは、乳等省令上の「種類別 クリーム」であり、乳化剤や安定剤などの添加物を含まないものである。乳脂肪クリームは、通常、原料乳をディスク型の遠心分離機を通してクリームと脱脂乳に分離するクリーム分離工程、分離されたクリームを殺菌するクリーム殺菌工程、殺菌後のクリームを冷却するクリーム冷却工程を経て製造される。また、必要に応じて殺菌工程前及び/又は殺菌工程後にクリームを均質化するクリーム均質工程を経てもよい。本発明の乳脂肪クリームは、前記の工程に加えて、クリーム分離工程前に、原料乳に均質処理を行なう原料乳均質工程を経ることを特徴とする。
【0010】
本発明の乳脂肪クリームは、原料乳均質工程を経ることによって、脂肪球のメディアン径を2.4μm以下、かつ脂肪球皮膜におけるホエイタンパク質に対するカゼインの質量比(以下、「カゼイン/ホエイタンパク質比」という。)を3.5以下とすることを特徴とする。本発明で言うメディアン径とは、体積基準での積算分布曲線の50%に相当する粒子径であって、例えばレーザー回折式粒度分布測定装置(SALD-3100、島津製作所社製)を用いて測定することができる。
なお、従来から行なわれているクリーム均質工程は、高脂肪のクリームに対して均質処理を行なうため、例えば2.0MPa以上の高い均質圧で均質処理を行なうと、微粒子化によって増加した脂肪球表面積を被覆するだけのタンパク質が不足し、脂肪球同士の凝集や合一が発生する。したがって、クリーム均質工程では2.0MPa未満の低い均質圧での均質処理を行なうことが一般的であるが、このような均質圧で脂肪球のメディアン径を2.4μm以下となるまで繰り返し均質を行なった場合、脂肪球皮膜におけるカゼイン/ホエイタンパク質比が3.5より大きくなる。逆に、脂肪球皮膜におけるカゼイン/ホエイタンパク質比を3.5より小さくするために、均質圧を下げたり、均質回数を減らしたりした場合は、脂肪球のメディアン径が2.4μm以下とはならない。
【0011】
本発明では、原料乳を均質処理する原料乳均質工程を採用することにより、脂肪球のメディアン径を2.4μm以下、かつ脂肪球皮膜におけるカゼイン/ホエイタンパク質比を3.5以下とすることができ、かつこのような条件を満たすことによって、乳化安定性、ホイップ性を兼ね備えた乳脂肪クリームを得ることができる。
原料乳均質工程では、原料乳を所定の均質化温度になるように加温した後、均質機を用いて均質化する。原料乳の加温には、プレート式熱交換機、バッチ式加熱機等が用いることができる。中でも、原料乳の加温効率の点から、プレート式熱交換機を用いることが好ましい。また、均質化には、ホモゲナイザーなどの均質機のほか、マイクロフルイダイザー、コロイドミル等を用いてもよい。原料乳の均質化効率及び処理量の能力の点から、ホモゲナイザーを用いることが好ましく、その中でも二段均質機を用いることが好ましい。また、均質化圧力は、均質機の種類、分離クリームの処理流量やホモバブルの形状、均質化温度等の製造条件の違いにより適宜変更すればよいが、例えば、2.0MPa以上の高い均質圧で処理することも可能である。
【0012】
なお、クリーム分離工程、クリーム殺菌工程は、適宜既存の手法を用いて行なえばよく、クリーム分離工程では、ディスク型の遠心分離機等を用いて行なえばよい。またクリーム殺菌工程では、例えば、保持殺菌法では63℃30分間、プレート式熱交換殺菌法では72〜75℃15秒、82〜85℃10秒間の高温短時間殺菌法(HTST法)あるいは130〜140℃2秒間の超高温殺菌法(UHT法)等の条件で実施すればよい。また、通常は、殺菌工程を経たクリームは直ちに10℃以下に冷却されるが、このクリーム殺菌工程前後でクリーム均質工程を行なってもよい。クリーム均質工程についても、既存の方法で行なえばよく、例えば1.0MPa程度の均質圧で均質処理を行なえばよい。
【0013】
以下に本発明の実施例、参考例、試験例を挙げて説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0014】
原料乳を60℃まで加温したものを均質圧2.0MPaで均質処理し、その後遠心分離機にて脂肪率45%のクリームを分離した。得られたクリームをプレート式殺菌機に通液し、120℃、2秒の殺菌処理を行なった。殺菌後、約50℃までプレート冷却したのち、クリームをパウチに700g採取し、冷却して乳脂肪クリーム(実施例品1)を得た。得られた乳脂肪クリームは5℃で保存した。
【実施例2】
【0015】
原料乳を60℃まで加温したものを均質機において均質圧2.0MPaで処理し、その後遠心分離機にて脂肪率45%のクリームを分離した。得られたクリームを均質圧1.0MPaで均質処理した後、プレート式殺菌機に通液し、120℃、2秒の殺菌処理を行なった。その後、約50℃までプレート冷却したのち、クリームをパウチに700g採取し、冷却して乳脂肪クリーム(実施例品2)を得た。得られた乳脂肪クリームは5℃で保存した。
【実施例3】
【0016】
原料乳を60℃まで加温したものを均質圧2.0MPaで均質処理し、その後遠心分離機にて脂肪率45%のクリームを分離した。得られたクリームを均質圧1.0MPaで均質処理した後、プレート式殺菌機に通液し、120℃、2秒の殺菌処理を行なった。その後、約50℃までプレート冷却したのち、再度均質圧1.0MPaで均質処理し、均質処理後のクリームをパウチに700g採取し、冷却して乳脂肪クリーム(実施例品3)を得た。得られた乳脂肪クリームは5℃で保存した。
【実施例4】
【0017】
原料乳を60℃まで加温したものを均質圧2.0MPaで均質処理し、その後遠心分離機にて脂肪率45%のクリームを分離した。得られたクリームをプレート式殺菌機に通液し、120℃、2秒の殺菌処理を行ない、その後約50℃までプレート冷却したのち、均質圧1.0MPaで均質処理し、均質処理後のクリームをパウチに700g採取し、冷却して乳脂肪クリーム(実施例品4)を得た。得られた乳脂肪クリームは5℃で保存した。
【0018】
[比較例1]
原料乳を60℃まで加温した後、遠心分離機にて脂肪率45%のクリームを分離した。得られたクリームをプレート式殺菌機に通液し、120℃、2秒の殺菌処理を行ない、その後、約50℃までプレート冷却した後、均質圧1.0MPaで均質処理し、均質処理後のクリームをパウチに700g採取し、冷却して乳脂肪クリーム(比較例品1)を得た。得られた乳脂肪クリームは5℃で保存した。
【0019】
[比較例2]
原料乳を60℃まで加温した後、遠心分離機にて脂肪率45%のクリームを分離した。得られたクリームを均質圧1.0MPaで均質処理した後、プレート式殺菌機に通液し、120℃、2秒の殺菌処理を行なった。その後、約50℃までプレート冷却し、均質圧1.0MPaで均質処理した。均質処理後のクリームをパウチに700g採取し、冷却して乳脂肪クリーム(比較例品2)得た。得られた乳脂肪クリームは5℃で保存した。
【0020】
[比較例3]
原料乳を60℃まで加温した後、遠心分離機にて脂肪率45%のクリームを分離した。得られたクリームを均質圧1.0MPaで均質処理し、プレート式殺菌機に通液して120℃、2秒の殺菌処理を行なった。その後、約50℃までプレート冷却したのち、クリームをパウチに700g採取し、冷却して乳脂肪クリーム(比較例品3)を得た。得られた乳脂肪クリームは5℃で保存した。
【0021】
[比較例4]
原料乳を60℃まで加温した後、遠心分離機にて脂肪率45%のクリームを分離した。得られたクリームをプレート式殺菌機に通液し、120℃、2秒の殺菌処理を行なった。その後、約50℃までプレート冷却し、均質圧2.0MPaで均質処理を行った後、クリームをパウチに700g採取し、冷却して乳脂肪クリーム(比較例品4)を得た。得られた乳脂肪クリームは5℃で保存した。
【0022】
[比較例5]
原料乳を60℃まで加温した後、遠心分離機にて脂肪率45%のクリームを分離した。得られたクリームをプレート式殺菌機に通液し、120℃、2秒の殺菌処理を行なった。その後、約50℃までプレート冷却し、均質圧5.0MPaで均質処理した後、クリームをパウチに700g採取し、冷却して乳脂肪クリーム(比較例品5)を得た。得られた乳脂肪クリームは5℃で保存した。
【0023】
[試験例1]
実施例品1〜4、比較例品1〜5について、脂肪球のメディアン径を測定した。また、脂肪球皮膜のタンパク質組成分析を行い、脂肪球皮膜におけるカゼイン/ホエイタンパク質比を算出した。
脂肪球のメディアン径の測定には、レーザー回折式粒度分布測定装置(SALD-3100、島津製作所社製)を用いた。
脂肪球皮膜のタンパク質組成分析は以下の方法により行なった。
各水準のクリーム150gに対して超純水250gを加えて希釈し、2500rpm、5℃、20分間遠心分離をし、下層の水層を捨てる。残ったクリーム層に超純水300gを加えて希釈し再び遠心分離し、下層を捨てる。この操作をさらに2回行ないクリーム層を回収する。回収したクリーム層25gにヘキサン15gを加えて混合後、1000rpm、25℃、5分間遠心分離をし、上層のヘキサンとともにクリーム層中の脂質を除去し試料とした。得られた試料10gをAmicon Ultra Ultrace-3Kを用いて、15000rpm、5℃、30分間遠心分離し濃縮した。濃縮した試料4gを精秤し、5.37mMクエン酸Naおよび6Mグアニジン塩酸塩を含有する0.1MBisTris緩衝液(pH6.8)5000μlと1MDTT300μlを加え混合し、試料を可溶化した。1N−NaOHでpHを8.2に調整後、蒸留水を加え10mlに定容した。このうち1mlを1.5mlマイクロチューブに採取し沸騰水中で3分間加熱し室温まで放冷した。このうち300μlを希釈液900μlと混合し、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)に供した。希釈液組成は以下に記載の移動相Aにグアニジン塩酸塩を終濃度4.5Mになるように溶解して用いた。高速液体クロマトグラフィー装置はELITE Lachrom(L2000、日立ハイテクノロジーズ社製)にPDAディテクター(L7490、日立ハイテクノロジーズ社製)を接続して用いた。カラムはODS-3カラム(直径4.6mm×長さ250mm、ジーエルサイエンス社製)を用いた。試料注入量は40μl、カラム温度は25℃、流速は1.2ml/min、検出は220nmで行った。移動相は0.1%TFAを含むアセトニトリル/水=1/9(移動相A)、0.1%TFAを含むアセトニトリル/水=9/1(移動相B)を用い、移動相Bの割合を開始27%から4分後32%、12分後34%、17分後36.5%、35分後39%、50分後43.5%、52分後80%まで濃度勾配をかけてカラムに通液し、溶出させた。溶出した各ピークは標品(シグマアルドリッチ)の溶出位置から同定した。α-ラクトアルブミン、β-ラクトグロブリン、κ-カゼインにおいては、ピーク面積値から、各標品より求めた検量線を用いて各々の質量を算出した。α-カゼイン、β-カゼインについては、HPLCに供した試料の全タンパク質量から、前述のα-ラクトアルブミン、β-ラクトグロブリン、κ-カゼインの質量を引いた値をα-カゼイン、β-カゼインの総質量とした。得られたα-ラクトアルブミン、β-ラクトグロブリンの質量の合計と、α-カゼイン、β-カゼイン、κ-カゼインの質量の合計の比から、ホエイタンパク質に対するカゼインの質量比(カゼイン/ホエイタンパク質比)を算出した。
【0024】
[試験例2]
実施例品1〜4、比較例品1〜5について、乳化安定性の指標として振動耐性試験と、ホイップ性の指標としてホイップ時の起泡性試験を行なった。
(振動耐性試験)
振動耐性試験は、クリーム調製後5℃で24時間保存したものと、一時的温度処理(25℃、1時間温浴)した後、5℃で24時間保存したもの(ヒートショック(HS)25℃処理品)を、それぞれ200gを250ml容量のカートン容器に入れ、20℃で167回/分の振とうを与えたとき、クリームが凝固するまでの回数を求めた。
【0025】
乳化安定性については、振動耐性試験(5℃保存品、ヒートショック(HS)25℃処理品)より、○、×の2段階で評価した。具体的には、5℃保存品で振動回数10,000回以上、かつHS25℃処理品で振動回数8,000回以上のものを○、これらの条件をいずれか一方でも満たさないものを×とした。
(ホイップ時起泡性試験)
ホイップ時の起泡性試験では、クリームをミキサー(GENERAL ELECTRIC製)でホイップした際のホイップ終点を最適造花性を示す荷重に設定し、この終点に到達するまでの時間(ホイップ時間)及びホイップ立ち上がりから終点までの時間(Δホイップ時間)を測定した。また、ホイップ終点に到達したクリームのオーバーランを、ホイップ前後で一定容積のクリーム重量を測定し、次式により求めた。

オーバーラン=((W1−W2)/W2)×100(%)
W1:一定容積のホイップ前のクリーム重量
W2:一定容積のホイップ後のクリーム重量

また、ホイップ終点に到達したクリームの硬度を、レオメーター(CR-200D、サン科学社製)を用いて、プランジャー直径20mm、侵入深度10mm、架台スピード60mm/minの条件で測定した。
評価は、ホイップ時間、Δホイップ時間、オーバーラン、硬度を総合して○、×の2段階で実施した。具体的には、ホイップ時間が18分間以内、Δホイップ時間が2分間以上、オーバーランが100%以上、硬度が20gf以上30gf未満のものを○とし、これらの条件を満たさないものを×とした。なお、Δホイップ時間とは、ホイップクリームの設定硬度(荷重25gf)の1/10の値から設定硬度に達するまでの時間を表すものとする。試験例1、試験例2の結果をあわせて表1に示す。
【0026】
【表1】
【0027】
表1に示したように、実施例品1〜4については、比較例品1〜3に比べ、5℃保存品およびHS25℃処理品の両条件で乳化安定性が飛躍的に向上した。また起泡性評価においても、比較例品1および比較例品3と比べ、Δホイップ時間が長く、オーバーランも向上し、思い通りの硬さにホイップしやすいものであった。実施例品1〜4で大きな違いは見られず、均質化の回数はクリーム物性にほとんど影響せず、原料乳均質のみをすれば目的の効果は得られることが明らかとなった。また、比較例品4より、クリーム分離後に均質処理をする場合には、均質圧力を高めて脂肪球径を小さくしても、乳化安定性は低下する。加えて、比較例品5より、クリーム分離後に均質圧5.0MPaで均質処理を行なうと均質過程で凝集してしまいクリームは調製できなかった。
【実施例5】
【0028】
原料乳を60℃まで加温したものを均質圧5.0MPaで均質処理し、その後遠心分離機にて脂肪率45%のクリームを分離した。得られたクリームをプレート式殺菌機に通液し、120℃、2秒の殺菌処理を行なった。殺菌後、約50℃までプレート冷却したのち、クリームをパウチに700g採取し、冷却して乳脂肪クリーム(実施例品5)を得た。得られた乳脂肪クリームは5℃で保存した。
【0029】
[比較例6]
原料乳を60℃まで加温したものを均質圧0.0MPaで均質処理し、その後遠心分離機にて脂肪率45%のクリームを分離した。得られたクリームをプレート式殺菌機に通液し、120℃、2秒の殺菌処理を行なった。殺菌後、約50℃までプレート冷却したのち、クリームをパウチに700g採取し、冷却して乳脂肪クリーム(比較例品6)を得た。得られた乳脂肪クリームは5℃で保存した。
【0030】
[比較例7]
原料乳を60℃まで加温したものを均質圧1.0MPaで均質処理し、その後遠心分離機にて脂肪率45%のクリームを分離した。得られたクリームをプレート式殺菌機に通液し、120℃、2秒の殺菌処理を行なった。殺菌後、約50℃までプレート冷却したのち、クリームをパウチに700g採取し、冷却して乳脂肪クリーム(比較例品7)を得た。得られた乳脂肪クリームは5℃で保存した。
【0031】
[比較例8]
原料乳を60℃まで加温したものを均質圧8.0MPaで均質処理し、その後遠心分離機にて脂肪率45%のクリームを分離した。得られたクリームをプレート式殺菌機に通液し、120℃、2秒の殺菌処理を行なった。殺菌後、約50℃までプレート冷却したのち、クリームをパウチに700g採取し、冷却して乳脂肪クリーム(比較例品8)を得た。得られた乳脂肪クリームは5℃で保存した。
【0032】
[比較例9]
原料乳を60℃まで加温したものを均質圧10.0MPaで均質処理し、その後遠心分離機にて脂肪率45%のクリームを分離した。得られたクリームをプレート式殺菌機に通液し、120℃、2秒の殺菌処理を行なった。殺菌後、約50℃までプレート冷却したのち、クリームをパウチに700g採取し、冷却して乳脂肪クリーム(比較例品9)を得た。得られた乳脂肪クリームは5℃で保存した。
【0033】
[試験例3]
実施例品1、実施例品5、比較例品6〜9について、試験例1および試験例2と同様の方法によって、脂肪球のメディアン径の測定、脂肪球皮膜のカゼイン/ホエイタンパク質比の算出、振動耐性試験及びホイップ時の起泡性試験を実施した。結果を表2に示す。
【0034】
【表2】
【0035】
表2に示したように、実施例品1および5について、比較例品6および7と比べ、5℃保存品およびHS25℃処理品の両条件で乳化安定性が飛躍的に向上した。また起泡性評価においても、Δホイップ時間が長く、オーバーランも向上し、思い通りの硬さにホイップしやすいものであった。比較例品8および9においては、実施例品1および5より、乳化安定性は向上するものの、ホイップ時間が顕著に延長されるため、ホイップクリームとしては適していない。