特許第5947097号(P5947097)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5947097速度制御装置及び速度制御装置用プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5947097
(24)【登録日】2016年6月10日
(45)【発行日】2016年7月6日
(54)【発明の名称】速度制御装置及び速度制御装置用プログラム
(51)【国際特許分類】
   F16D 48/02 20060101AFI20160623BHJP
【FI】
   F16D48/02 640K
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-104984(P2012-104984)
(22)【出願日】2012年5月1日
(65)【公開番号】特開2013-231495(P2013-231495A)
(43)【公開日】2013年11月14日
【審査請求日】2014年12月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000155023
【氏名又は名称】株式会社堀場製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100113468
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 明子
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 真大
(72)【発明者】
【氏名】小西 隆夫
【審査官】 北中 忠
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭51−116386(JP,A)
【文献】 実開平5−59281(JP,U)
【文献】 実開昭61−146435(JP,U)
【文献】 特開2010−151160(JP,A)
【文献】 特開平3−84225(JP,A)
【文献】 特開平3−92623(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0137957(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 25/00− 39/00
F16D 48/02− 48/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の実車速を取得する実車速取得部と、
車両の指令車速を取得する指令車速取得部と、
指令車速が0から立ち上がる時点である発進時点よりも所定時間前に、車両のクラッチ位置を、動力が一部伝達される初期中間位置に設定するとともに、前記発進時点以降は、実車速及び指令車速の偏差に応じてクラッチ位置を変化させ、実車速を指令車速に追従させるクラッチフィードバック制御を行う車速制御部とを具備し、
前記車速制御部が、前記初期中間位置を、指令車速の値が0から立ち上がるときの時間変化率である立ち上がり指令加速度が大きいほど、クラッチの接続位置に近い位置に設定することを特徴とする速度制御装置。
【請求項2】
車両の実車速を取得する実車速取得部と、
車両の指令車速を取得する指令車速取得部と、
指令車速が0から立ち上がる時点である発進時点よりも所定時間前に、車両のクラッチ位置を、動力が一部伝達される初期中間位置に設定するとともに、前記発進時点以降は、実車速及び指令車速の偏差に応じてクラッチ位置を変化させ、実車速を指令車速に追従させるクラッチフィードバック制御を行う車速制御部と、としての機能を発揮する速度制御装置用プログラムであって、
前記車速制御部が、前記初期中間位置を、指令車速の値が0から立ち上がるときの時間変化率である立ち上がり指令加速度が大きいほど、クラッチの接続位置に近い位置に設定することを特徴とする速度制御装置用プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばシャーシダイナモ上の車両を速度制御するものであって、特に車両の発進時にクラッチを制御して車両の実車速を指令車速に追従させる速度制御装置及びそのプログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載されているようなこの種の速度制御装置は、車両のアクセルやブレーキを制御することによって、所定の走行速度パターンにしたがって車両を自動運転することができる。しかして従来、マニュアル車のようなクラッチを有する車両の場合、発進からの一定期間は、クラッチの位置を制御することによって車両の速度を制御するようにしたものが知られている。
【0003】
具体的説明すると、従来の速度制御装置は、指令車速が0から立ち上がる発進時点よりも少しだけ前に、クラッチを非接続位置から予め定めたスリップ位置に前もって移動させ、発進時点以降は、指令車速に実車速が追従するように指令車速と実車速との偏差に応じた量だけクラッチを駆動する。
【0004】
このように、クラッチをスリップ位置に発進時点より少し前から予め移動させるのは、クラッチを非接続位置からフィードバック制御したのでは、図1に示すように、指令車速と実車速との偏差が生じた後に漸くクラッチが動き出すため、どうしてもタイムラグが生じて、発進時における指令車速への追従性が悪くなるからである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平09−133610号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、発進時点以前にクラッチを所定のスリップ位置(以下、初期中間位置とも言う。)に動かすので、指令車速の立ち上がり角度、すなわち指令加速度が小さい場合に、図2に示すように、発進当初、実車速が指令車速を上回る場合が生じ得る。スリップ位置にクラッチを移動させると、動力が車輪に伝わって車両はある程度の加速度で動こうとするからである。
かといって、スリップ位置をクラッチの非接続位置に近い位置に設定すると、今度は指令加速度が大きい場合に、発進直後に実車速が指令車速に十分追従できない場合が生じる。
【0007】
本発明は、かかる不具合を解決すべくなされたものであって、クラッチの制御に工夫を加えて発進時における実車速の指令車速に対する追従性をさらに向上させるべく図ったものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明に係る速度制御装置は、車両の実車速を取得する実車速取得部と、車両の指令車速を取得する指令車速取得部と、指令車速が0から立ち上がる時点である発進時点よりも所定時間前に、車両のクラッチ位置を、動力が一部伝達される初期中間位置に設定するとともに、前記発進時点以降の所定期間内は、実車速が指令車速に追従するように、実車速及び指令車速の偏差に応じてクラッチ位置を変化させるクラッチフィードバック制御を行う車速制御部とを具備し、
前記車速制御部が、前記初期中間位置を、指令車速の値が0から立ち上がるときの時間変化率である立ち上がり指令加速度が大きいほど、クラッチの接続位置に近い位置に設定することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
このような本発明によれば、立ち上がり指令加速度が大きくなるほどクラッチの初期中間位置は該クラッチの接続位置に近くなって初期動力伝達率が高くなる一方、立ち上がり指令加速度が小さくなるほど前記初期中間位置はクラッチの非接続位置に近くなって初期動力伝達率は低くなる。
したがって、発進時点において立ち上がり指令加速度が異なっても、それぞれに近似した立ち上がり実加速度を得ることができるので、その後の発進時点以降におけるクラッチフィードバック制御にスムーズに移行でき、指令車速に対する実車速の速度追従性を大幅に改善できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】クラッチを非接続位置からフィードバック制御したときの指令車速に対する実車速の時間変化を示す車速時間変化図。
図2】従来の制御をしたときの指令車速に対する実車速の時間変化を示す車速時間変化図。
図3】本発明の一実施形態における速度制御装置を示す機能ブロック図。
図4】同実施形態における制御をしたときの指令車速に対する実車速の時間変化を示す車速時間変化図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態につき、図面を参照して説明する。
【0012】
本実施形態に係る速度制御装置は、図3に示すように、シャーシダイナモSD上に設置された車両たる自動車Vの速度制御をするものであって、自動車Vの運転席に配置されてクラッチを駆動するクラッチ駆動機構1と、図示しないアクセルを駆動するアクセル駆動機構及びブレーキを駆動するブレーキ駆動機構と、これら各駆動機構に制御信号を出力してクラッチ位置、アクセル開度、ブレーキ踏度を制御する制御本体4とを具備したものである。
【0013】
各部を説明する。
クラッチ駆動機構1は、その先端部を進退させることができるように、シリンダ部材を具備している。そして、前記先端部がクラッチペダルCPに当接させてあり、該先端部の進退によってクラッチが駆動されるように構成してある。
また、このクラッチ駆動機構1には、先端部の進退位置を検出する図示しない位置検出部(例えばロータリーエンコーダなど)が設けられており、前記位置検出部から出力される位置信号によって、クラッチ位置がわかるように構成してある。なお、アクセル駆動機構及びブレーキ駆動機構は同様の構成なので説明及び図示は省略する。
【0014】
制御本体4は、例えば、図示しないCPU、メモリ、A/Dコンバータ、D/Aコンバータ、通信インタフェースなどから構成されたものであって、前記メモリに記憶された所定のプラグラムに従って、CPU及びその周辺機器が協働することにより、実車速取得部41、指令車速データ蓄積部42、指令車速取得部43、指令加速度取得部44、クラッチ位置取得部45、車速制御部46等としての機能を担う。
【0015】
実車速取得部41は、例えばシャーシダイナモSDや自動車Vに搭載された車速センサ3から車速信号を受信してその値を実車速に換算するものである。
指令車速データ蓄積部42は、メモリの所定領域に予め設定されたもので、指令車速の経時データ、すなわち時間ごとの指令車速を示す指令車速データを蓄積している。
【0016】
指令車速取得部43は、前記指令車速データ蓄積部42にアクセスして指令車速を取得するものである。
【0017】
指令加速度取得部44は、前記指令車速データ蓄積部42にアクセスして、指令車速の時間変化から指令加速度を算出するものである。
【0018】
クラッチ位置取得部45は、前記クラッチ駆動機構1から出力される位置信号を受信してその値を、クラッチ位置を示す数値に換算するものである。ここでは、図4に示すように、クラッチが動力を伝達しない完全に切り離された位置(以下、非接続位置と言う。)を100%とし、クラッチに接続されて動力を略完全に伝達する位置(以下、接続位置と言う。)を0%としている。
【0019】
車速制御部46は、指令車速が0からそれ以外の値に立ち上がる時点である発進時点よりも所定時間前に、車両Vのクラッチ位置を動力が一部伝達される中間位置に設定するとともに、前記発進時点以後は、実車速が指令車速に追従するように、実車速及び指令車速の偏差に応じてクラッチ位置を変化させるクラッチフィードバック制御を行うものである。
【0020】
次に、前記車速制御部46の詳細な説明も兼ねて、上述した本速度制御装置の動作について説明する。
最初は、指令車速が0でクラッチが非接続位置、つまりクラッチが動力を伝達しない状態にあるとする。
【0021】
まず、指令車速取得部43が、指令車速データ蓄積部42を参照して発進時点を特定するとともに、指令加速度取得部44が、発進時点からの指令車速の立ち上がり角度である立ち上がり指令加速度を算出する。
【0022】
次に、車速制御部46が、前記発進時点よりも所定時間(例えば0.2秒)前にクラッチ駆動機構1に指令を出して、クラッチ位置を前記非接続位置から予め定めた初期中間位置に移動させる。中間位置とは、エンジンの動力をクラッチが車輪側に一部伝達する領域内に設定された位置のことである。
【0023】
しかして、前記車速制御部46は、前記立ち上がり指令加速度に対応する初期中間位置を、メモリの所定領域に設けられている加速度−クラッチ位置テーブル47を参照して特定する。
【0024】
この加速度−クラッチ位置テーブル47とは、立ち上がり指令加速度とクラッチの初期中間位置とを対応付けたテーブルであり、立ち上がり指令加速度が大きいほど、初期中間位置の値は小さくなる、つまり、クラッチの接続位置に初期中間位置が近づくように設定してある。
【0025】
発進時点以後は、車速制御部46は、実車速取得部41で取得した実車速が前記指令車速に追従するように、指令車速と実車速との偏差に基づいて、クラッチ駆動機構1を介してクラッチ位置をフィードバック制御する。
【0026】
その後、発進時点から一定期間が過ぎたり、あるいは車速乃至指令車速が所定値を超えたりすると、車速制御部46は、クラッチを強制的に接続位置に移動させるとともに、アクセル又はブレーキによる速度フィードバック制御に切り替えて実車速を指令車速に追従させる。
【0027】
図4に具体的な実例を挙げる。
例えば立ち上がり指令加速度が大きい同図中(1)の場合、クラッチの初期中間位置は該クラッチの接続位置に近くなって初期動力伝達率が高くなる一方、立ち上がり指令加速度がそれよりも小さい同図中(2)の場合、前記初期中間位置はクラッチの非接続位置に近くなって初期動力伝達は低くなる。したがって、図4の速度グラフに示すように、発進時点において、立ち上がり指令加速度が異なっても、それぞれに近似した立ち上がり実加速度を得ることができ、その後のクラッチフィードバック制御における指令車速に対する実車速の速度追従性を大幅に改善できる。
【0028】
なお、本発明は前記実施形態に限られない。初期中間位置は、立ち上がり指令加速度に応じて、例えば2段階や3段階などのように段階的に変化するようにしてもよいし、前記加速度−クラッチ位置テーブルではなく、立ち上がり指令加速度をパラメータとする所定の算出式によって初期中間位置を算出するなどして、初期中間位置が略無段階に変化するようにしてもよい。
その他、本発明は前記実施形態に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。
【符号の説明】
【0029】
41・・・実車速取得部
42・・・指令車速データ蓄積部
43・・・指令車速取得部
44・・・指令加速度取得部
45・・・クラッチ位置取得部
46・・・速度制御部
図1
図2
図3
図4