(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5947541
(24)【登録日】2016年6月10日
(45)【発行日】2016年7月6日
(54)【発明の名称】DOPCの安定した結晶変態
(51)【国際特許分類】
C07F 9/10 20060101AFI20160623BHJP
A61K 9/107 20060101ALI20160623BHJP
A61K 9/127 20060101ALI20160623BHJP
A61K 9/14 20060101ALI20160623BHJP
A61K 31/7088 20060101ALI20160623BHJP
A61K 38/00 20060101ALI20160623BHJP
A61K 39/00 20060101ALI20160623BHJP
A61K 47/24 20060101ALI20160623BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20160623BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20160623BHJP
【FI】
C07F9/10 CCSP
A61K9/107
A61K9/127
A61K9/14
A61K31/7088
A61K37/02
A61K39/00 G
A61K47/24
A61K48/00
A61P43/00 105
【請求項の数】11
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2011-511994(P2011-511994)
(86)(22)【出願日】2009年5月13日
(65)【公表番号】特表2011-523951(P2011-523951A)
(43)【公表日】2011年8月25日
(86)【国際出願番号】EP2009003398
(87)【国際公開番号】WO2009146779
(87)【国際公開日】20091210
【審査請求日】2012年5月10日
【審判番号】不服2014-15822(P2014-15822/J1)
【審判請求日】2014年8月8日
(31)【優先権主張番号】08010331.0
(32)【優先日】2008年6月6日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】591032596
【氏名又は名称】メルク パテント ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Merck Patent Gesellschaft mit beschraenkter Haftung
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】プラチュアー、 ミハエル
(72)【発明者】
【氏名】ヘディンガー、 アルフレート
【合議体】
【審判長】
中田 とし子
【審判官】
冨永 保
【審判官】
齊藤 真由美
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2006/0067998(US,A1)
【文献】
西独国特許出願公開第2647395(DE,A)
【文献】
特表2011−513375(JP,A)
【文献】
特開2002−275187(JP,A)
【文献】
特開2004−51538(JP,A)
【文献】
特開2000−325775(JP,A)
【文献】
特開2015−13867(JP,A)
【文献】
Tetrahedron Letters(1960),No.22,p.7−11
【文献】
Chemistry and Physics of Lipids,(1982),31(3),p.283−9
【文献】
玉虫文一ら編、「岩波 理化学辞典 第3版増補版」、1981年10月20日、第3版増補版第2刷発行、1273−1274頁、「ホスファチジルコリン」の項
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F9/10
CAplus(STN)
REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3.6°、5.3°、18.3°、19.3°および21.7°の2θ値(波長 0.15406nmのCu−Kα放射線を使用して測定される)を含むXRDピークを特徴とする、1型結晶変態の、(R)−DOPCの結晶、(S)−DOPCの結晶、または、前記(R)−DOPCの結晶と前記(S)−DOPCの結晶の混合物であって、
前記(R)−DOPCは、下記の化学式の
(R)−2,3−ビス(オレオイルオキシ)プロピル−2−(トリメチルアンモニオ)エチルホスフェート
を意味し、
【化1-1】
前記(S)−DOPCは、下記の化学式の
(S)−2,3−ビス(オレオイルオキシ)プロピル−2−(トリメチルアンモニオ)エチルホスフェート
を意味し、
【化1-2】
前記(R)−DOPCの結晶中の(R)−DOPCの純度は100%であり;
前記(S)−DOPCの結晶中の(S)−DOPCの純度は100%である
ことを特徴とする、1型結晶変態の(R)−DOPCの結晶、(S)−DOPCの結晶、または、前記(R)−DOPCの結晶と前記(S)−DOPCの結晶の混合物。
【請求項2】
3.6°、5.3°、18.3°、19.3°および21.7°の2θ値(波長 0.15406nmのCu−Kα放射線を使用して測定される)を含むXRDピークを特徴とする、1型結晶変態の、(R)−DOPCの結晶または(S)−DOPCの結晶であって、
前記(R)−DOPCは、下記の化学式の
(R)−2,3−ビス(オレオイルオキシ)プロピル−2−(トリメチルアンモニオ)エチルホスフェート
を意味し、
【化2-1】
前記(S)−DOPCは、下記の化学式の
(S)−2,3−ビス(オレオイルオキシ)プロピル−2−(トリメチルアンモニオ)エチルホスフェート
を意味し、
【化2-2】
前記(R)−DOPCの結晶中の(R)−DOPCの純度は100%であり;
前記(S)−DOPCの結晶中の(S)−DOPCの純度は100%である
ことを特徴とする、1型結晶変態の(R)−DOPCの結晶または(S)−DOPCの結晶。
【請求項3】
3.6°、5.3°、18.3°、19.3°および21.7°の2θ値(波長 0.15406nmのCu−Kα放射線を使用して測定される)を含むXRDピークを特徴とする、1型結晶変態の、(R)−DOPCの結晶と(S)−DOPCの結晶の混合物であって、
前記(R)−DOPCは、下記の化学式の
(R)−2,3−ビス(オレオイルオキシ)プロピル−2−(トリメチルアンモニオ)エチルホスフェート
を意味し、
【化3-1】
前記(S)−DOPCは、下記の化学式の
(S)−2,3−ビス(オレオイルオキシ)プロピル−2−(トリメチルアンモニオ)エチルホスフェート
を意味し、
【化3-2】
前記(R)−DOPCの結晶中の(R)−DOPCの純度は100%であり;
前記(S)−DOPCの結晶中の(S)−DOPCの純度は100%である
ことを特徴とする、1型結晶変態の(R)−DOPCの結晶と(S)−DOPCの結晶の混合物。
【請求項4】
3.6°、5.3°、18.3°、19.3°および21.7°の2θ値(波長 0.15406nmのCu−Kα放射線を使用して測定される)を含むXRDピークを特徴とする、1型結晶変態の、(R)−DOPCの結晶であって、
前記(R)−DOPCは、下記の化学式の
(R)−2,3−ビス(オレオイルオキシ)プロピル−2−(トリメチルアンモニオ)エチルホスフェート
を意味し、
【化4-1】
前記(R)−DOPCの結晶中の(R)−DOPCの純度は100%である
ことを特徴とする、1型結晶変態の(R)−DOPC
の結晶。
【請求項5】
2θ値(波長 0.15406nmのCu−Kα放射線を使用して測定される)3.6°、5.3°、7.1°、8.8°、11.0°、12.3°、15.3°、17.6°、18.3°、19.3°、20.4°、21.1°、21.7°、22.8°および26.4°を有する
ことを特徴とする、請求項2に記載の1型結晶変態の(R)−DOPCの結晶または(S)−DOPCの結晶。
【請求項6】
2θ値(波長 0.15406nmのCu−Kα放射線を使用して測定される)3.6°、5.3°、7.1°、12.3°、17.6°、18.3°、19.3°、21.1°、21.7°および22.8°を有する
ことを特徴とする、請求項2に記載の1型結晶変態の(R)−DOPCの結晶または(S)−DOPCの結晶。
【請求項7】
60℃を超える融点および48J/gを超える溶融エンタルピーを有する
ことを特徴とする、請求項2に記載の1型結晶変態の(R)−DOPCの結晶または(S)−DOPCの結晶。
【請求項8】
医薬の調製のための構成成分としての、単独、または場合により他の脂質
と混合しての、
3.6°、5.3°、18.3°、19.3°および21.7°の2θ値(波長 0.15406nmのCu−Kα放射線を使用して測定される)を含むXRDピークを特徴とする、1型結晶変態の、(R)−DOPCの結晶、(S)−DOPCの結晶、または、前記(R)−DOPCの結晶と前記(S)−DOPCの結晶の混合物の使用であって、
前記(R)−DOPCは、下記の化学式の
(R)−2,3−ビス(オレオイルオキシ)プロピル−2−(トリメチルアンモニオ)エチルホスフェート
を意味し、
【化10-1】
前記(S)−DOPCは、下記の化学式の
(S)−2,3−ビス(オレオイルオキシ)プロピル−2−(トリメチルアンモニオ)エチルホスフェート
を意味し、
【化10-2】
前記(R)−DOPCの結晶中の(R)−DOPCの純度は100%であり;
前記(S)−DOPCの結晶中の(S)−DOPCの純度は100%である
ことを特徴とする、1型結晶変態の(R)−DOPCの結晶、(S)−DOPCの結晶、または、前記(R)−DOPCの結晶と前記(S)−DOPCの結晶の混合物
の使用。
【請求項9】
3.6°、5.3°、18.3°、19.3°および21.7°の2θ値(波長 0.15406nmのCu−Kα放射線を使用して測定される)を含むXRDピークを特徴とする、1型結晶変態の、(R)−DOPCの結晶、(S)−DOPCの結晶、または、前記(R)−DOPCの結晶と前記(S)−DOPCの結晶の混合物を、
単独で、
または、薬学的に活性な化合物
と共に含む、医薬組成物
であって、
前記(R)−DOPCは、下記の化学式の
(R)−2,3−ビス(オレオイルオキシ)プロピル−2−(トリメチルアンモニオ)エチルホスフェートを意味し、
【化11-1】
前記(S)−DOPCは、下記の化学式の
(S)−2,3−ビス(オレオイルオキシ)プロピル−2−(トリメチルアンモニオ)エチルホスフェートを意味し、
【化11-2】
前記(R)−DOPCの結晶中の(R)−DOPCの純度は100%であり;
前記(S)−DOPCの結晶中の(S)−DOPCの純度は100%である
ことを特徴とする、医薬組成物。
【請求項10】
前記薬学的に活性な化合物が、
ペプチド、ヌクレオチド、ワクチンおよび細胞増殖抑制剤の群から選択される活性化合物である
ことを特徴とする、請求項9に記載の医薬組成物。
【請求項11】
リポソーム、リポプレックス、ナノ粒子またはマイクロエマルションの形態である
ことを特徴とする、請求項9に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、DOPCの結晶
変態(crystal modification)、その調製方法および医薬組成物の調製におけるその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
上記および下記のDOPCは、天然の
1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリンを意味し、また、
1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−ホスファチジルコリン、
1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホリルコリン、
(R)−2,3−ビス(オレオイルオキシ)プロピル−2−(トリメチルアンモニオ)エチルホスフェート、
1,2−ジオレオイル−L−α−レシチン、または
(R)−DOPC、
天然ではないこれらの鏡像異性体、
2,3−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン、
ラセミ体(R,S)−DOPC、および上記の鏡像異性体の他の混合物を意味する。
【0003】
【化1】
【0004】
C
44H
84NO
8P, Mw786.11
CAS番号:4235−95−4(R型)および84366−67−6(S型)
リポソームは、通常は天然の脂質である両親媒性(ambiphilic)物質を含む合成多層小胞(閉鎖膜の球形)であり、親水性物質を水性内部に封入することができ、また、親油性物質を脂質膜の内部に組み込むこともできる。
【0005】
リポソームは、特に化粧品および医薬品に、とりわけ皮膚科学において用いられる。特に、ビタミン、補酵素、皮膚保護剤および日焼け止めが埋め込まれている。リポソームは、一般に局所適用される。
【0006】
しかし、リポソームの非経口投与により、活性化合物を自由に溶解した形態で使用する場合に比べてより特定された臓器分布の達成が可能になるので、リポソームは製薬技術において更なる重要性を得つつある。
【0007】
したがって、US2006/0067998A1は、癌疾患の治療または予防のために、クルクミンまたはクルクミン誘導体を活性物質として含むコロイド状封入製剤を投与する方法を開示している。適切な製剤は、例えばリポソーム、ナノ粒子、微粒子またはブロックポリマーから形成されるコポリマーミセルなどの、脂質に基づいたコロイド系とポリマーコロイド系の両方を含む。
【0008】
DNA−、RNA−またはタンパク質が含まれる場合、リポプレックスが得られる。
【0009】
ナノ粒子(ナノパーツ(nanopart))は、リポソームとほぼ同じ大きさの粒子であるが、内部に水相を有さず、代わりに油相または固体コアを有する。ナノ粒子は、親油性物質の封入に特に適している。
【0010】
マイクロエマルションは、水性の脂質様成分および界面活性剤様成分を含むコロイド状に分散した単相系である。これらは、1〜500nmの粒径を有し、液体と同様の挙動をする。
【0011】
上記の用途における可溶化作用は、特に、通常は可溶性の低いペプチド様活性化合物、ヌクレオチド、ワクチンおよび他の生物薬剤に関して非常に大きな重要性がある。
【0012】
加えて、体内における活性化合物の分解を遅延することができ、この方法により持続放出効果を達成することができる。
【0013】
(R)−DOPCは、天然の双性イオン性ホスホコリンの部類に属する。双性イオン性脂質を含むリポソームは、単独でまたは他のホスホコリンともしくは他の非荷電脂質様化合物と組み合わされて、中性の表面を有する。
【0014】
しかし、DOPCに基づいたリポソームおよびリポプレックスが細胞内に浸透し、したがって、その中に含まれた活性化合物を細胞内部に輸送する(移入(transfection)する)能力は、特に重要である。そのようなリポソームは、多くの場合、荷電脂質、特にカチオン性脂質を含む。しかし、リポプレックスがDOPCのみからなる適用も、例えば、SoodらによりJournal of the National Cancer Institute(2008)、100、359-372において発表されている。
【0015】
これらの特性全ても、DOPCを癌治療にとって非常に興味深いものにしている。これらの特性によって、DOPCリポソームに含まれるRNA、DNAまたは従来の細胞増殖抑制剤を投与する可能性をもたらす。
【0016】
医療、特に非経口の適用では、活性化合物および使用される助剤の品質および純度について要求が極めて高くなる。したがって、当局側において、これらの化合物の調製、調製の再現性および副産物プロフィールに関して非常に厳しい規制がある。非経口投与される物質の場合、病原性微生物および内毒素に起因する微生物学的不純物も、厳しく回避および制御される必要がある。
【0017】
DOPCは室温で不安定であり、したがって、医薬製剤の調製での使用に適するように許容される純度に調製することは、それ自体困難である。
【0018】
例えば天然リン脂質のPOPCおよびDOPEなどのオレイン酸残基を有するあらゆる脂質と同様に、DOPCは非常に酸素感受性である。しかし、不飽和脂肪酸誘導体の酸化生成物は一般に高い毒性を有する。
【0019】
ここで、適切な調製および精製方法が必要とされる。DOPCは、例えば、凍結乾燥物(lyophilisate)またはロウ状固体の形態であり、したがって、工業的に大きな困難を伴うことでしか適合した品質を得ることができない。
【0020】
例えばトコフェロールまたは還元型L−グルタチオンの形態の酸化防止剤の添加などの不安定性を克服する従来の方法は、後で埋め込まれる活性化合物との相互作用を排除することができないので、DOPCの一般的な有用性を大きく限定する。調製、保存および使用の際に酸素を完全に排除することは、実質的に不可能であるか、または非常に多大な努力を伴うことでしか達成することができない。
【0021】
したがって、製造者は、凍結乾燥DOPCを保護ガス下、−20℃で保存することを一般に推奨し、約12カ月の保存寿命しか保証していない。ロウ状DOPCではより長い保存寿命が保証されているが、酸化保護が加えられており、保存は、同様に−20℃で行われなければならない。
【0022】
凍結乾燥およびロウ状のDOPCは両方とも非結晶性物質の含有量が非常に高い。
【0023】
酸化(oxidatidation)感受性の他に、この非結晶性DOPCは極めて吸湿性でもあり、通常の大気湿度レベルでは極めて短い時間内に潮解して、べたべたした膜となる。加えて、ロウ状DOPCは、困難を伴うことでしか微粉砕することができず、凍結乾燥DOPCと同様に、困難を伴うことでしか計量することができない。このことは、この化合物の取扱を更により困難にしている。
【0024】
文献は、非結晶性DOPCの調製について多様な合成経路を開示しているだけである:
Ichiharaら、Chemistry and Physics of Lipids(2005)、137(1-2)、94-99は、SN−グリセロ−3−ホスホコリン(GPC)からのDOPCの合成を概説している。
【0025】
Roodsariら、Journal of Organic Chemistry(1999)、64(21)、7727-7737は、トリチルグリセロールから出発するDOPCの全合成を記載している。
【0026】
DOPCの合成および使用についての他の多くの出版物が発行されてきたが、結晶性材料を記載したものはない。
【0027】
Lewisら、Biochemistry(1988)、27(3)、880-7およびBiochemistry(1989)、28(2)、541-8は、凍結乾燥DOPCについて報告している。
【0028】
BaerおよびKindlerはBiochemistry(1962)、1(3)、518-21においてロウ状DOPCについて言及している。
【0029】
Lekim、BiedermannおよびGhyczyのDE2647395は、結晶化によるGPCエステルの精製を一般的に記載しているが、明確なDOPCの結晶化は記載されていない。
【0030】
ラセミ体DOPCは、鏡像異性体について記載された方法と同様にしてラセミ出発材料から得ることができる。
【0031】
加えて、多くの出版物のうちDOPCの融点を示したものはない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0032】
【特許文献1】US2006/0067998A1
【特許文献2】DE2647395
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0033】
したがって、本発明の目的は、高純度な、可能であれば結晶形態のDOPCを提供することである。本発明の更なる目的は、医薬製剤の調製に用いることができるように、長い保存寿命および良好な取扱特性をこの化合物にもたらすことである。更に、工業規模で実施することができる安定した形態のDOPCを調製する、再現可能な方法に対する強い必要性が存在する。
【0034】
驚くべきことに、現在、高い化学純度および優れた安定性を有する、ラセミ的に、また鏡像異性的にも純粋な結晶
の形態のDOPCを簡単に得られることが、実験を介して見出された。この方法により得られる結晶
の形態の生成物は、保護ガス下、室温で実質的に無
限の時間安定している。
【0035】
結晶
形のDOPCは、改善された吸湿性を有する取扱容易なルーズ材料(loose material)としても生成される。
【0036】
したがって、これらは医薬形態の調製のための構成成分または出発材料として適している。
【0037】
したがって、本発明は、DOPC鏡像異性体の安定した結晶
変態および同じ結晶形態を有する鏡像異性体の混合物に関する。
【0038】
安定した結晶
変態は、
結晶および部分的に
結晶の形態であることができる。これらは、これまで達成されていない>98%の純度と共に、空気を排除して、40℃、相対大気湿度75%で12カ月保存した後、ならびに25℃、相対大気湿度60%で18カ月後(酸化保護を加えておらず、この点に関して表1を参照のこと)に、これまで達成されていない初期値に基づいて>99%の安定性を有する。DOPC結晶
変態は、DOPC1当量あたり1当量未満の水または結晶化溶媒の含有量を有する。
【0039】
鏡像異性的に純粋なDOPCは、例えば
1型結晶変態であり、X線粉末回析測定において中狭帯域(medium−sharp bands)を示す(この点に関して、
図1および表2を参照のこと)。多様な結晶変態の選択された2θ値は、Cu Kα放射線により測定した3.6
°、5.3
°、18.3
°、19.3
°および21.7
°(
1型)である。反射もしくは透過または毛細管もしくは窓のような異なる機器または記録方法を選択した場合、あるいは大気湿度または温度に関して異なる記録条件が支配している場合、これらの値の個々の帯域において僅かな差が生じうる。
【0040】
結晶
変態の一部は、非常に高い結晶含有量を有し、このことは48J/gを超える溶融エンタルピーにより明白である。結晶
変態の融点は、一般に60℃を超える(
図9)。
【0041】
加えて、本発明の結晶
変態は、取扱が容易なルーズ材料として生成される(
図4)。結晶
の形態は、偏光顕微鏡により明らかになる(
図6)。
【0042】
例えば結晶
の形態のラセミ化合物などの結晶
の形態のDOPCの鏡像異性体の混合物も、同じXRDスペクトルを有しうる。
【0043】
本発明は、更に、DOPC結晶
変態の調製方法に関し、これはDOPCを非プロトン性媒質から結晶化させることを特徴とする。この目的に使用される非プロトン性媒質は、非プロトン性溶媒またはその混合物である。非プロトン性媒質は、例えば水などのプロトン性溶媒を少ない割合で含むこともできる。例外的な場合では、25重量%のプロトン性溶媒が適切な条件下で存在することもできる。本明細書において、予め精製することなく、DOPCの結晶化を、反応溶液から直接実施することができる。結晶
の形態のDOPCは、同様に、
非結晶性の、部分的に結晶または結晶の形態の材料の再結晶によって得ることができる。
【0044】
適切な非プロトン性溶媒は、特に、
例えば、テトラヒドロフラン、メチルテトラヒドロフランおよびジオキサンなどのエーテル、
例えば、ギ酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、炭酸ジメチル、炭酸ジエチルおよび1,3−ジオキソリジン−2−オンなどのエステル、
例えば、アセトン、2−ブタノン、メチルイソブチルケトン、メチルイソプロピルケトンなどのケトン、ならびに
例えばアセトニトリルなどのニトリルである。
【0045】
プロトン性溶媒添加物は、典型的には、
例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソ−プロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、2−ブタノール、tert−ブタノール、3−メチル−1−ブタノール、エチレングリコール、メトキシエタノール、エトキシエタノールなどのアルコール、
水、または
これらの混合物からなる。
【0046】
DOPC
の結晶化は、一般に、調製した溶液を30℃未満の温度に特にゆっくりと冷却することにより実施される。結晶は、自然にまたは対応するDOPC結晶
変態の添加により形成する。
【0047】
多様なDOPC結晶
変態を互いに変換することができる。変換は、単離した結晶
変態の高温での温度処理により、または結晶化条件下での懸濁液の長時間の撹拌により達成することができる。
【0048】
記載された方法における再結晶の出発材料として非結晶性
の、または部分的に結晶
の形態のDOPCを使用することは、これまで達成されていない純度と共にこれまで達成されていない安定性を有する実質的に結晶
の形態のDOPCを与える。
【0049】
結晶
の形態の性DOPCが所定の条件下において固体形態で優れた安定性、および一定の非常に良好な品質を実質的に無限の時間にわたって有するので、本発明は医薬製剤の調製のための結晶
の形態のDOPCの使用にも関する。
【0050】
したがって、本発明は、更に、特許請求されるDOPC形態の使用によってもたらされる医薬組成物にも関する。これらは、例えば、リポソーム、リポプレックス、マイクロエマルションおよびナノ粒子の形態であることができ、例えば、ペプチド、ヌクレオチド、ワクチンおよび細胞増殖抑制剤の群からの活性化合物を含むことができる。
【0051】
本記載は、当業者が本発明を包括的に使用することを可能にする。したがって、更なる記述がなくても、当業者は最も広い範囲で上記記載を利用することができると想定される。したがって、本記載は、当業者が本発明を包括的に使用および実施することを可能にする。
【0052】
明瞭性が欠如している場合には、引用されている出版物および特許文献を利用するべきであることは言うまでもない。したがって、これらの文書は、本記載の開示内容の一部として考慮される。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【
図1】
1型DOPCのXRDスペクトルを示す図である。
【
図2】凍結乾燥DOPCのXRDスペクトルを示す図である。
【
図3】ロウ状DOPCのXRDスペクトルを示す図である。
【
図6】偏光顕微鏡による
1型DOPC結晶の図である。
【
図7】偏光顕微鏡による凍結乾燥DOPCの図である。
【
図8】偏光顕微鏡によるロウ状DOPCの図である。
【
図10】凍結乾燥DOPCの溶融挙動を示す図である。
【
図11】ロウ状DOPCの溶融挙動を示す図である。
【0054】
本発明のより良好な理解および本発明を説明するために、以下に例を示すが、これらは本発明の保護の範囲内である。これらの例は、可能な変形形態を説明するためにも役立つ。しかし、本発明の原則の一般的な有効性のために、例は本出願の保護範囲をそれらのみに減少するには適していない。
【0055】
例および記載、ならびに請求項に示されている温度は、常に℃である。特に指示のない限り、含有データは、重量%で示される。
【0056】
更に、示された例および残りの記載の両方において、組成物中に存在する成分量は、組成物全体に基づいて、合計して常にちょうど100重量%または100mol%になり、示されるパーセント範囲からより高い値が生じうる場合でも、これを超えることはない。特に指示のない限り、体積データで示されている比を除いて、%データは重量%である。
【0057】
本発明の説明の例
例1
(R)−DOPCの結晶化
200gの非結晶性
の(R)−DOPCを、1700mlのアセトニトリルに25℃で溶解する。溶液を0.1℃/分で−10℃に冷却する。結晶化は10℃で始まる。結晶化が完了したら、生成物を濾過により単離し、真空下で乾燥する。結晶
の形態の(R)−DOPCの収量は、180g(90%)である。
【0058】
結晶
変態(R,S)−DOPCおよび(S)−DOPCを同様に得ることができる。
【0059】
例1a
酢酸エチルからのDOPCの再結晶化
20.0gのDOPCを100mlの酢酸エチルに35℃で溶解する。溶液を、20℃に急速に冷却し、次に0.01℃/分の速度で−10℃に冷却し、その間に結晶化が始まる。
晶出物質(crystallisate)を濾取し、真空下、室温で乾燥する。収量は、結晶
の形態のDOPC19.6g(理論量の98.1%)である。5℃/分の加熱速度で、生成物は、71℃の融点および49.4J/gの溶融エンタルピーを示す。
【0060】
例2
安定性
結晶の形態のDOPCの安定性を決定するために、
外気を遮断して、25℃および相対湿度60%、ならびに40℃および相対湿度75%
において、物質を、比較試料と共に保存する。DOPCの残留含有量を、定期的な間隔で測定し、初期値と比較して示す。
【0061】
DOPCの純度および含有量をHPLCにより決定する。
【0062】
1型結晶変態では、以下の値が見出された:
【0063】
【表1】
【0064】
例3
X線粉末回析パターン
DOPC結晶
変態の特性決定を行うために、これらの物質のX線粉末回析パターン(XRD回析スペクトル)を記録する。比較の目的で、凍結乾燥およびロウ状のDOPC変種のX線粉末回析パターン(XRD回析スペクトル)も記録する。
【0065】
1型DOPC結晶変態に
ついては、比較的高解像度の中狭帯域スペクトルが
該脂質において得られる。このスペクトルは高い結晶含有量を示す。偏光顕微鏡で認められる非結晶性成分はない。
【0066】
例示のスペクトルを
図1(
1型)において見ることができる。比較として、市販の非結晶性試料のスペクトルを、類似の条件下で同様に記録し、
図2(凍結乾燥)および
図3(ロウ状)に示す。
【0067】
表2は、
1型DOPC結晶変態における選択された2θ値
(単位 °;波長 0.15406nmのCu−Kα放射線を使用して測定される)を提示する。
【0068】
【表2】
【0069】
例4
結晶変態
1型DOPC結晶変態を、顆粒状のルーズ材料(
図4)として生成し、一方、市販のDOPC試料を、凍結乾燥物またはロウ状塊(
図5)のいずれかとして得る。
【0070】
偏光顕微鏡では、
1型DOPC結晶変態は、結晶性物質
であることは全く明白であり(
図6)、一方、凍結乾燥(
図7)およびロウ状の比較材料(
図8)は非結晶性と思われる。
【0071】
例5
溶融挙動
示差走査熱量(DSC)測定も同様に、
1型DOPC結晶変態(
図9)と凍結乾燥(
図10)およびロウ状の比較材料(
図11)の明確な差を示す。