特許第5947732号(P5947732)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5947732制御システム、外乱推定システム、制御方法、制御プログラム及び設計方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5947732
(24)【登録日】2016年6月10日
(45)【発行日】2016年7月6日
(54)【発明の名称】制御システム、外乱推定システム、制御方法、制御プログラム及び設計方法
(51)【国際特許分類】
   G05B 13/02 20060101AFI20160623BHJP
   G05D 3/12 20060101ALI20160623BHJP
【FI】
   G05B13/02 C
   G05D3/12 305V
【請求項の数】21
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2013-34706(P2013-34706)
(22)【出願日】2013年2月25日
(65)【公開番号】特開2014-164498(P2014-164498A)
(43)【公開日】2014年9月8日
【審査請求日】2015年4月9日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (1)平成24年9月4日開催の「産業計測制御研究会」にて発表 (2)平成24年9月4日一般社団法人 電気学会発行の「電気学会研究会資料,産業計測制御研究会,IIC−12−171〜179」に掲載
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】藤本 博志
(72)【発明者】
【氏名】青木 元伸
(72)【発明者】
【氏名】高橋 太郎
【審査官】 谷治 和文
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭61−032120(JP,A)
【文献】 特開2005−174011(JP,A)
【文献】 特開平11−031014(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/105527(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/102060(WO,A1)
【文献】 特開2006−158026(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 13/02
G05D 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御対象を駆動する駆動手段と、
前記駆動手段側に設けられ該駆動手段側の角度情報または位置情報を検出する第1検出手段と、
前記制御対象側に設けられ該制御対象側の角度情報または位置情報を検出する第2検出手段と、
前記第1検出手段により検出された角度情報または位置情報に対して前記駆動手段の慣性及び粘性に関する所定係数を乗算し、前記第2検出手段により検出された角度情報または位置情報に対して前記制御対象の慣性及び粘性に関する所定係数を乗算し、該乗算結果を加算することで共振を相殺する自己共振相殺制御手段と、
を備え
前記自己共振相殺制御手段は、
前記第1検出手段により検出された角度情報または位置情報に対して所定係数α及びβを夫々乗算し、前記第2検出手段により検出された角度情報または位置情報に対して所定係数γ及びδを夫々乗算し、該乗算結果を加算しており、
前記所定係数α、β、γ、δを、前記制御対象における伝達関数を剛体モードと共振モードの積の形式に分離しない下記式に基づいて設定する、ことを特徴とする制御システム。
α=JMn
β=BMn
γ=JLn/n
δ=BLn/n
但し、上記式において、BMnは前記駆動手段の粘性減衰係数のノミナル値、JMnは前記駆動手段の慣性モーメントのノミナル値、JLnは前記制御対象の慣性モーメントのノミナル値、BLnは前記制御対象の粘性係数のノミナル値、nは前記制御対象内のギア比である。
【請求項2】
請求項記載の制御システムであって、
前記第1検出手段により検出された角度情報または位置情報に対して前記駆動手段の慣性及び粘性に関する所定係数を乗算し、前記第2検出手段により検出された角度情報または位置情報に対して前記制御対象の慣性及び粘性に関する所定係数を乗算し、該乗算結果を加算することで共振を相殺した加算結果に基づいて、外乱推定値を算出する外乱オブザーバを更に備える、ことを特徴とする制御システム。
【請求項3】
請求項記載の制御システムであって、
前記自己共振相殺制御手段は、前記外乱オブザーバにより算出された外乱推定値に基づいて前記駆動手段に対するトルク指令値を生成する、ことを特徴とする制御システム。
【請求項4】
請求項2又は3記載の制御システムであって、
前記自己共振相殺制御手段は、下記式に基づいて、前記共振成分を含まない角速度を算出し、前記外乱オブザーバに出力する、ことを特徴とする制御システム。
【数1】
但し、上記式において、θは前記第1検出手段により検出された前記角度情報、θは前記第2検出手段により検出された前記角度情報、である。
【請求項5】
請求項2乃至4のうちいずれか1項記載の制御システムであって、
前記外乱オブザーバは、下記式に基づいて前記外乱推定値を算出する、ことを特徴とする制御システム。
【数2】
但し、上記式において、Qはフィルタであり、ΔPMM、ΔPML、ΔPLM、ΔPLLは、モデル化誤差である。
【請求項6】
請求項2乃至5のうちいずれか1項記載の制御システムであって、
前記制御対象の角度情報または位置情報を検出する少なくとも1つ以上の前記第2検出手段を備え、
前記自己共振相殺制御手段は、前記制御対象及び駆動手段に関する複数の慣性系に対して、夫々、運動方程式を算出し該算出した運動方程式を足し合わせて生成した共振成分を含まない式に基づいて生成したフィードバック制御器を含む、ことを特徴とする制御システム。
【請求項7】
請求項記載の制御システムであって、
前記自己共振相殺制御手段は、前記第1及び少なくとも1つ以上の前記第2検出手段により検出されフィードバックされた角度情報または位置情報に第1制御ゲインを夫々乗算した各値と、入力される角度指令値に第2制御ゲインを乗算した値と、の偏差を夫々算出し、該各偏差を加算した値に基づいて、前記駆動手段に対するトルク指令値を生成する、または、入力される角度指令値と第2検出手段により検出されフィードバックされた角度情報の偏差に第1制御ゲインを夫々乗算し、それらを加算した値に基づいて、前記駆動手段に対するトルク指令値を生成する、ことを特徴とする制御システム。
【請求項8】
請求項記載の制御システムであって、
前記自己共振相殺制御手段は、前記第1及び少なくとも1つ以上の前記第2検出手段により検出されフィードバックされた角度情報または位置情報に第1制御ゲインを夫々乗算した各値と、入力される角度指令値に第2制御ゲインを乗算した値と、の偏差を夫々算出し、該各偏差を加算した値に基づいて、前記駆動手段に対する第1トルク指令値を生成し、
前記自己共振相殺制御手段は、前記第1及び少なくとも1つ以上の第2検出手段により検出された角度情報または位置情報に第3制御ゲインを夫々乗算し、該各乗算値を加算した値を、前記外乱オブザーバに出力し、
前記外乱オブザーバは、前記自己共振相殺制御手段から出力された値に基づいて外乱推定値を生成する、ことを特徴とする制御システム。
【請求項9】
請求項記載の制御システムであって、
前記自己共振相殺制御手段は、前記外乱オブザーバからの外乱推定値と、前記生成した第1トルク指令値と、に基づいて第2トルク指令値を生成する、ことを特徴とする制御システム。
【請求項10】
請求項記載の制御システムであって、
前記自己共振相殺制御手段は、前記生成した第2トルク指令値を前記外乱オブザーバに出力し、
前記外乱オブザーバは、前記自己共振相殺制御手段からの第2トルク指令値と、前記各乗算値を加算した値と、に基づいて、前記外乱推定値を生成する、ことを特徴とする制御システム。
【請求項11】
請求項6乃至10のうちいずれか1項記載の制御システムであって、
下記式に示す慣性系のn個の運動方程式を足し合わせて前記共振成分を含まない式を生成する、ことを特徴とする制御システム。
【数3】
但し、上記式において、Jはn番目の慣性モーメント、Kはn番目のギア比、Bはn番目の粘性減衰係数、θはn番目の角度センサにより検出される角度情報、である。
【請求項12】
請求項1乃至11のうちいずれか1項記載の制御システムであって、
前記制御対象の加速度情報を検出する加速度センサ及び/又はジャイロセンサを更に備え、
前記加速度センサ及び/又はジャイロセンサにより検出された加速度情報及び/又は角速度情報に基づいて、前記制御対象の角度情報又は位置情報を算出する、ことを特徴とする制御システム。
【請求項13】
請求項1乃至12のうちいずれか1項記載の制御システムであって、
前記制御対象は、ロボットの可動部である、ことを特徴とする制御システム。
【請求項14】
制御対象を駆動する駆動手段と、
前記駆動手段側に設けられ該駆動手段側の角度情報または位置情報を検出する第1検出手段と、
前記制御対象側に設けられ該制御対象側の角度情報または位置情報を検出する第2検出手段と、
前記第1検出手段により検出された角度情報または位置情報に対して所定係数を乗算し、前記第2検出手段により検出された角度情報または位置情報に対して所定係数を乗算し、該乗算結果を加算することで共振を相殺した加算結果に基づいて、外乱推定値を算出する外乱オブザーバと、
を備え
前記第1検出手段により検出された角度情報または位置情報に対して所定係数α及びβを夫々乗算し、前記第2検出手段により検出された角度情報または位置情報に対して所定係数γ及びδを夫々乗算し、該乗算結果を加算しており、
前記所定係数α、β、γ、δを、前記制御対象における伝達関数を剛体モードと共振モードの積の形式に分離しない下記式に基づいて設定する、ことを特徴とする外乱推定システム。
α=JMn
β=BMn
γ=JLn/n
δ=BLn/n
但し、上記式において、BMnは前記駆動手段の粘性減衰係数のノミナル値、JMnは前記駆動手段の慣性モーメントのノミナル値、JLnは前記制御対象の慣性モーメントのノミナル値、BLnは前記制御対象の粘性係数のノミナル値、nは前記制御対象内のギア比である。
【請求項15】
制御対象を駆動する駆動手段と、
前記駆動手段側に設けられ該駆動手段側の角度情報または位置情報を検出する第1検出手段と、
前記制御対象側に設けられ該制御対象側の角度情報または位置情報を検出する第2検出手段と、
前記第1及び第2検出手段により検出された角度情報または位置情報に対して所定係数を乗算し該乗算結果を加算することで共振を相殺する自己共振相殺制御手段と、
を備える制御システムであって、
前記自己共振相殺制御手段は、前記制御対象及び駆動手段に関する複数の慣性系に対して、夫々、運動方程式を算出し該算出した運動方程式を足し合わせて生成した共振成分を含まない式に基づいて生成したフィードバック制御器を含み、
前記自己共振相殺制御手段は、
前記第1検出手段により検出された角度情報または位置情報に対して所定係数α及びβを夫々乗算し、前記第2検出手段により検出された角度情報または位置情報に対して所定係数γ及びδを夫々乗算し、該乗算結果を加算しており、
前記所定係数α、β、γ、δを、前記制御対象における伝達関数を剛体モードと共振モードの積の形式に分離しない下記式に基づいて設定する、ことを特徴とする制御システム。
α=JMn
β=BMn
γ=JLn/n
δ=BLn/n
但し、上記式において、BMnは前記駆動手段の粘性減衰係数のノミナル値、JMnは前記駆動手段の慣性モーメントのノミナル値、JLnは前記制御対象の慣性モーメントのノミナル値、BLnは前記制御対象の粘性係数のノミナル値、nは前記制御対象内のギア比である。
【請求項16】
請求項15記載の制御システムであって、
前記自己共振相殺制御手段は、前記第1及び少なくとも1つ以上の第2検出手段により検出されフィードバックされた角度情報に第1制御ゲインを夫々乗算した各値と、入力される角度指令値に第2制御ゲインを乗算した値と、の偏差を夫々算出し、該各偏差を加算した値に基づいて、前記駆動手段に対するトルク指令値を生成する、ことを特徴とする制御システム。
【請求項17】
請求項15記載の制御システムであって、
前記自己共振相殺制御手段は、前記第1及び少なくとも1つ以上の第2検出手段により検出されフィードバックされた角度情報または位置情報に第1制御ゲインを夫々乗算した各値と、入力される角度指令値に第2制御ゲインを乗算した値と、の偏差を夫々算出し、該各偏差を加算した値に基づいて、前記駆動手段に対する第1トルク指令値を生成し、
前記自己共振相殺制御手段は、前記第1及び複数の前記第2検出手段により検出された角度情報または位置情報に第3制御ゲインを夫々乗算し、該各乗算値を加算した値を、出力し、
前記自己共振相殺制御手段から出力された値に基づいて外乱推定値を生成する外乱オブザーバを更に備える、ことを特徴とする制御システム。
【請求項18】
請求項17記載の制御システムであって、
前記自己共振相殺制御手段は、前記外乱オブザーバからの外乱推定値と、前記生成した第1トルク指令値と、に基づいて第2トルク指令値を生成する、
ことを特徴とする制御システム。
【請求項19】
制御対象を駆動する駆動手段と、
前記駆動手段側に設けられ該駆動手段側の角度情報または位置情報を検出する第1検出手段と、
前記制御対象側に設けられ該制御対象側の角度情報または位置情報を検出する第2検出手段と、を備える制御システムの制御方法であって、
前記第1検出手段により検出された角度情報または位置情報に対して前記駆動手段の慣性及び粘性に関する所定係数を乗算し、第2検出手段により検出された角度情報または位置情報に対して前記制御対象の慣性及び粘性に関する所定係数を乗算し、該乗算結果を加算することで共振を相殺し、
前記第1検出手段により検出された角度情報または位置情報に対して所定係数α及びβを夫々乗算し、前記第2検出手段により検出された角度情報または位置情報に対して所定係数γ及びδを夫々乗算し、該乗算結果を加算しており、
前記所定係数α、β、γ、δを、前記制御対象における伝達関数を剛体モードと共振モードの積の形式に分離しない下記式に基づいて設定する、ことを特徴とする制御システムの制御方法。
α=JMn
β=BMn
γ=JLn/n
δ=BLn/n
但し、上記式において、BMnは前記駆動手段の粘性減衰係数のノミナル値、JMnは前記駆動手段の慣性モーメントのノミナル値、JLnは前記制御対象の慣性モーメントのノミナル値、BLnは前記制御対象の粘性係数のノミナル値、nは前記制御対象内のギア比である。
【請求項20】
制御対象を駆動する駆動手段と、
前記駆動手段側に設けられ該駆動手段側の角度情報または位置情報を検出する第1検出手段と、
前記制御対象側に設けられ該制御対象側の角度情報または位置情報を検出する第2検出手段と、を備える制御システムの制御プログラムであって、
前記第1検出手段により検出された角度情報または位置情報に対して前記駆動手段の慣性及び粘性に関する所定係数を乗算し、第2検出手段により検出された角度情報または位置情報に対して前記制御対象の慣性及び粘性に関する所定係数を乗算し、該乗算結果を加算することで共振を相殺する、処理をコンピュータに実行させ、
前記第1検出手段により検出された角度情報または位置情報に対して所定係数α及びβを夫々乗算し、前記第2検出手段により検出された角度情報または位置情報に対して所定係数γ及びδを夫々乗算し、該乗算結果を加算しており、
前記所定係数α、β、γ、δを、前記制御対象における伝達関数を剛体モードと共振モードの積の形式に分離しない下記式に基づいて設定する、ことを特徴とする制御システムの制御プログラム。
α=JMn
β=BMn
γ=JLn/n
δ=BLn/n
但し、上記式において、BMnは前記駆動手段の粘性減衰係数のノミナル値、JMnは前記駆動手段の慣性モーメントのノミナル値、JLnは前記制御対象の慣性モーメントのノミナル値、BLnは前記制御対象の粘性係数のノミナル値、nは前記制御対象内のギア比である。
【請求項21】
制御対象を駆動する駆動手段と、
前記駆動手段側に設けられ該駆動手段側の角度情報または位置情報を検出する第1検出手段と、
前記制御対象側に設けられ該制御対象側の角度情報または位置情報を検出する複数の第2検出手段と、を備える制御システムの設計方法であって、
前記第1及び第2検出手段により検出された角度情報または位置情報に対して所定係数を乗算し、加算することで共振を相殺する自己共振相殺制御を行う制御システムの設計方法であって、
前記制御対象及び駆動手段に関する複数の慣性系に対して、夫々、運動方程式を算出するステップと、
該算出した運動方程式を足し合わせ、共振成分を含まない式を生成するステップと、
前記生成した式に基づいてフィードバック制御器を生成するステップと、
を含み、
前記第1検出手段により検出された角度情報または位置情報に対して所定係数α及びβを夫々乗算し、前記第2検出手段により検出された角度情報または位置情報に対して所定係数γ及びδを夫々乗算し、該乗算結果を加算しており、
前記所定係数α、β、γ、δを、前記制御対象における伝達関数を剛体モードと共振モードの積の形式に分離しない下記式に基づいて設定する、ことを特徴とする制御システムの設計方法。
α=JMn
β=BMn
γ=JLn/n
δ=BLn/n
但し、上記式において、BMnは前記駆動手段の粘性減衰係数のノミナル値、JMnは前記駆動手段の慣性モーメントのノミナル値、JLnは前記制御対象の慣性モーメントのノミナル値、BLnは前記制御対象の粘性係数のノミナル値、nは前記制御対象内のギア比である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロボットなどの制御対象を共振を抑制しつつ制御を行う制御システム、外乱推定システム、制御方法、制御プログラム及び設計方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、少子高齢化が深刻化しており、人に変わり得る労働力としてのロボットの利用に注目が集まっている。ところで、例えば、ヒューマノイドロボットなどの変速機構は低剛性であるために共振が低周波数に現れる。このため、制御帯域が上げられず、それ以上の運動性能の向上が困難となっている。したがって、そのようなロボットなどに共振抑制制御を導入することが重要となっている。これに対し、制御対象の操作点から計測点までを剛体としたときに現れる共振を相殺する駆動装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開公報第2012/102060号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に示す駆動装置においては、上記共振相殺を行う際に、粘性抵抗を無視している。このため、例えば、摩擦力が特に小さくなるように設計された駆動装置等においては上記粘性抵抗を無視してもその誤差は小さくてすむ。一方、ロボットなどのハーモニック減速機を含む駆動装置等においては、上記のように粘性抵抗を無視して共振相殺を行うと、誤差が大きくなり、共振が残存する虞がある。
【0005】
本発明は、このような問題点を解決するためになされたものであり、制御対象に生じる共振をより確実に低減できる制御システム、外乱推定システム、制御方法、制御プログラム及び設計方法を提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための本発明の一態様は、制御対象を駆動する駆動手段と、前記駆動手段側に設けられ該駆動手段側の角度情報または位置情報を検出する第1検出手段と、前記制御対象側に設けられ該制御対象側の角度情報または位置情報を検出する第2検出手段と、前記第1検出手段により検出された角度情報または位置情報に対して前記駆動手段の慣性及び粘性に関する所定係数を乗算し、前記第2検出手段により検出された角度情報または位置情報に対して前記制御対象の慣性及び粘性に関する所定係数を乗算し、該乗算結果を加算することで共振を相殺する自己共振相殺制御手段と、を備えることを特徴とする制御システムである。
この一態様において、前記自己共振相殺制御手段は、前記第1検出手段により検出された角度情報または位置情報に対して所定係数α及びβを夫々乗算し、前記第2検出手段により検出された角度情報または位置情報に対して所定係数γ及びδを夫々乗算し、該乗算結果を加算しており、前記所定係数α、β、γ、δは、前記制御対象における伝達関数を剛体モードと共振モードの積の形式に分離しない式に基づいて、設定してもよい。
この一態様において、前記自己共振相殺制御手段は、前記所定係数α、β、γ、δを、下記(13)式に基づいて設定してもよい。
この一態様において、前記第1検出手段により検出された角度情報または位置情報に対して前記駆動手段の慣性及び粘性に関する所定係数を乗算し、前記第2検出手段により検出された角度情報または位置情報に対して前記制御対象の慣性及び粘性に関する所定係数を乗算し、該乗算結果を加算することで共振を相殺した加算結果に基づいて、外乱推定値を算出する外乱オブザーバを更に備えていてもよい。
この一態様において、前記自己共振相殺制御手段は、前記外乱オブザーバにより算出された外乱推定値に基づいて前記駆動手段に対するトルク指令値を生成してもよい。
この一態様において、前記自己共振相殺制御手段は、下記(15)式に基づいて、前記共振成分を含まない角速度を算出し、前記外乱オブザーバに出力してもよい。
この一態様において、前記外乱オブザーバは、下記(16)及び(17)式に基づいて前記外乱推定値を算出してもよい。
この一態様において、前記制御対象の角度情報または位置情報を検出する少なくとも1つ以上の前記第2検出手段を備え、前記自己共振相殺制御手段は、前記制御対象及び駆動手段に関する複数の慣性系に対して、夫々、運動方程式を算出し該算出した運動方程式を足し合わせて生成した共振成分を含まない式に基づいて生成したフィードバック制御器を含んでいても良い。
この一態様において、前記自己共振相殺制御手段は、前記第1及び少なくとも1つ以上の前記第2検出手段により検出されフィードバックされた角度情報または位置情報に第1制御ゲインを夫々乗算した各値と、入力される角度指令値に第2制御ゲインを乗算した値と、の偏差を夫々算出し、該各偏差を加算した値に基づいて、前記駆動手段に対するトルク指令値を生成する、または、入力される角度指令値と第2検出手段により検出されフィードバックされた角度情報の偏差に第1制御ゲインを夫々乗算し、それらを加算した値に基づいて、前記駆動手段に対するトルク指令値を生成してもよい。
この一態様において、前記自己共振相殺制御手段は、前記第1及び少なくとも1つ以上の前記第2検出手段により検出されフィードバックされた角度情報または位置情報に第1制御ゲインを夫々乗算した各値と、入力される角度指令値に第2制御ゲインを乗算した値と、の偏差を夫々算出し、該各偏差を加算した値に基づいて、前記駆動手段に対する第1トルク指令値を生成し、前記自己共振相殺制御手段は、前記第1及び少なくとも1つ以上の第2検出手段により検出された角度情報または位置情報に第3制御ゲインを夫々乗算し、該各乗算値を加算した値を、前記外乱オブザーバに出力し、前記外乱オブザーバは、前記自己共振相殺制御手段から出力された値に基づいて外乱推定値を生成してもよい。
この一態様において、前記自己共振相殺制御手段は、前記外乱オブザーバからの外乱推定値と、前記生成した第1トルク指令値と、に基づいて第2トルク指令値を生成してもよい。
この一態様において、前記自己共振相殺制御手段は、前記生成した第2トルク指令値を前記外乱オブザーバに出力し、前記外乱オブザーバは、前記自己共振相殺制御手段からの第2トルク指令値と、前記各乗算値を加算した値と、に基づいて、前記外乱推定値を生成してもよい。
この一態様において、下記(29)式に示す慣性系のn個の運動方程式を足し合わせて前記共振成分を含まない式を生成してもよい。
この一態様において、前記制御対象の加速度情報を検出する加速度センサ及び/又はジャイロセンサを更に備え、前記加速度センサ及び/又はジャイロセンサにより検出された加速度情報及び/又は角速度情報に基づいて、前記制御対象の角度情報又は位置情報を算出してもよい。
この一態様において、前記制御対象は、ロボットの可動部であってもよい。
上記目的を達成するための本発明の一態様は、制御対象を駆動する駆動手段と、前記駆動手段側に設けられ該駆動手段側の角度情報または位置情報を検出する第1検出手段と、前記制御対象側に設けられ該制御対象側の角度情報または位置情報を検出する第2検出手段と、前記第1検出手段により検出された角度情報または位置情報に対して所定係数を乗算し、前記第2検出手段により検出された角度情報または位置情報に対して所定係数を乗算し、該乗算結果を加算することで共振を相殺した加算結果に基づいて、外乱推定値を算出する外乱オブザーバと、を備えることを特徴とする外乱推定システムであってもよい。
上記目的を達成するための本発明の一態様は、制御対象を駆動する駆動手段と、前記駆動手段側に設けられ該駆動手段側の角度情報または位置情報を検出する第1検出手段と、前記制御対象側に設けられ該制御対象側の角度情報または位置情報を検出する第2検出手段と、前記第1及び第2検出手段により検出された角度情報または位置情報に対して所定係数を乗算し該乗算結果を加算することで共振を相殺する自己共振相殺制御手段と、を備える制御システムであって、前記自己共振相殺制御手段は、前記制御対象及び駆動手段に関する複数の慣性系に対して、夫々、運動方程式を算出し該算出した運動方程式を足し合わせて生成した共振成分を含まない式に基づいて生成したフィードバック制御器を含む、ことを特徴とする制御システムであってもよい。
この一態様において、前記自己共振相殺制御手段は、前記第1及び少なくとも1つ以上の第2検出手段により検出されフィードバックされた角度情報に第1制御ゲインを夫々乗算した各値と、入力される角度指令値に第2制御ゲインを乗算した値と、の偏差を夫々算出し、該各偏差を加算した値に基づいて、前記駆動手段に対するトルク指令値を生成してもよい。
この一態様において、前記自己共振相殺制御手段は、前記第1及び少なくとも1つ以上の第2検出手段により検出されフィードバックされた角度情報または位置情報に第1制御ゲインを夫々乗算した各値と、入力される角度指令値に第2制御ゲインを乗算した値と、の偏差を夫々算出し、該各偏差を加算した値に基づいて、前記駆動手段に対する第1トルク指令値を生成し、前記自己共振相殺制御手段は、前記第1及び複数の前記第2検出手段により検出された角度情報または位置情報に第3制御ゲインを夫々乗算し、該各乗算値を加算した値を、前記外乱オブザーバに出力し、前記外乱オブザーバは、前記自己共振相殺制御手段から出力された値に基づいて外乱推定値を生成してもよい。
この一態様において、前記自己共振相殺制御手段は、前記外乱オブザーバからの外乱推定値と、前記生成した第1トルク指令値と、に基づいて第2トルク指令値を生成してもよい。
上記目的を達成するための本発明の一態様は、制御対象を駆動する駆動手段と、前記駆動手段側に設けられ該駆動手段側の角度情報または位置情報を検出する第1検出手段と、前記制御対象側に設けられ該制御対象側の角度情報または位置情報を検出する第2検出手段と、を備える制御システムの制御方法であって、前記第1検出手段により検出された角度情報または位置情報に対して前記駆動手段の慣性及び粘性に関する所定係数を乗算し、第2検出手段により検出された角度情報または位置情報に対して前記制御対象の慣性及び粘性に関する所定係数を乗算し、該乗算結果を加算することで共振を相殺する、ことを特徴とする制御システムの制御方法であってもよい。
上記目的を達成するための本発明の一態様は、制御対象を駆動する駆動手段と、前記駆動手段側に設けられ該駆動手段側の角度情報または位置情報を検出する第1検出手段と、前記制御対象側に設けられ該制御対象側の角度情報または位置情報を検出する第2検出手段と、を備える制御システムの制御プログラムであって、前記第1検出手段により検出された角度情報または位置情報に対して前記駆動手段の慣性及び粘性に関する所定係数を乗算し、第2検出手段により検出された角度情報または位置情報に対して前記制御対象の慣性及び粘性に関する所定係数を乗算し、該乗算結果を加算することで共振を相殺する、処理をコンピュータに実行させる、ことを特徴とする制御システムの制御プログラムであってもよい。
上記目的を達成するための本発明の一態様は、制御対象を駆動する駆動手段と、前記駆動手段側に設けられ該駆動手段側の角度情報または位置情報を検出する第1検出手段と、前記制御対象側に設けられ該制御対象側の角度情報または位置情報を検出する複数の第2検出手段と、を備える制御システムの設計方法であって、前記第1及び第2検出手段により検出された角度情報または位置情報に対して所定係数を乗算し、加算することで共振を相殺する自己共振相殺制御を行う制御システムの設計方法であって、前記制御対象及び駆動手段に関する複数の慣性系に対して、夫々、運動方程式を算出するステップと、該算出した運動方程式を足し合わせ、共振成分を含まない式を生成するステップと、前記生成した式に基づいてフィードバック制御器を生成するステップと、を含む、ことを特徴とする制御システムの設計方法であってもよい。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、制御対象に生じる共振をより確実に低減できる制御システム、外乱推定システム、制御方法、制御プログラム及び設計方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の実施の形態1に係る制御システムの概略的なシステム構成を示すブロック図である。
図2】DOBのブロック線図である。
図3】本発明の実施の形態1に係る制御装置の自己共振相殺制御部の制御ブロック線図である。
図4】3関節脚ロボットに適用した一例を示す図である。
図5A】プラントPmmの周波数特性の実測値を示す図である。
図5B】プラントPmmの周波数特性の実測値を示す図である。
図6】実測した周波数特性に基づいて決定したプラントのノミナル値を示す図である。
図7】本発明の実施の形態1に係る自己共振相殺制御と、従来の自己共振相殺制御とのシミュレーション結果を示す図である。
図8】本発明の実施の形態2に係る制御システムの概略的なシステム構成を示すブロック図である。
図9】本発明の実施の形態2に係る自己共振相殺制御外乱オブザーバの制御ブロック線図である。
図10A】自己共振相殺制御外乱オブザーバを比較したボーデ線図である。
図10B】自己共振相殺制御外乱オブザーバを比較したボーデ線図である。
図11A】自己共振相殺制御外乱オブザーバを比較したボーデ線図である。
図11B】自己共振相殺制御外乱オブザーバを比較したボーデ線図である。
図12】実施の形態1に係る自己共振相殺制御部と実施の形態2に係る自己共振相殺制御外乱オブザーバとを併用した制御ステムを示すブロック線図である。
図13】本発明の実施の形態2に係る制御方法と従来の制御方法とによるシミュレーション結果を示す図である。
図14】3慣性系のブロック線図である。
図15A】股関節における3慣性系モデルのボーデ線図である。
図15B】股関節における3慣性系モデルのボーデ線図である。
図16】プラントのモデルパラメータのノミナル値の一例を示す図である。
図17】3慣性系の自己共振相殺制御のブロック線図である。
図18】3慣性系の自己共振相殺制御外乱オブザーバのブロック線図である。
図19】n慣性系の自己共振相殺制御外乱オブザーバの制御ブロック図である。
図20A】1/sの伝達関数のボーデ線図である。
図20B】モデル化誤差が生じたときのPSRC、及びPSRCを自己共振相殺制御外乱オブザーバでノミナル化したときの伝達関数のボーデ線図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
実施の形態1.
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。本発明の実施の形態1に係る制御システムは、例えば、ロボットの足首関節部、膝関節部、股関節部などの各関節部の駆動を制御するものである。
【0010】
図1は本実施の形態1に係る制御システムの概略的なシステム構成を示すブロック図である。本実施の形態1に係る制御システム1は、制御対象である関節部2を駆動するモータ3と、モータ3側に設けられモータ3側の角度情報を検出する第1角度センサ4と、関節部2側に設けられ関節部2側の角度情報を検出する第2角度センサ5と、第1及び第2角度センサ4、5により検出された角度情報に基づいてモータ3を制御する制御装置6と、を備える。
【0011】
モータ3は、駆動手段の一具体例であり、関節部2に設けられており、関節部2を回転駆動する。第1角度センサ4は、第1検出手段の一具体例であり、モータ3側の角度情報(回転角度、回転角速度、回転角加速度など)を検出する。第2角度センサは、第2検出手段の一具体例であり、関節部2側の角度情報(回転角度、回転角速度、回転角加速度など)を検出する。第1及び第2角度センサ4、5は、例えば、エンコーダ、ポテンショメータなどにより構成されている。なお、本実施の形態において、関節部2は回転関節部に適用されているが、これに限らず、例えば、並進可動するなどの並進可動部などでもよく、ロボットの任意の可動部に適用可能である。
【0012】
制御装置6は、第1及び第2角度センサ4、5から出力される角度情報に基づいてモータ3を回転駆動する、所謂フィードバック制御を行っている。制御装置6は、例えば、演算処理、制御処理等と行うCPU(Central Processing Unit)、CPUによって実行される演算プログラム、制御プログラム等が記憶されたROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)からなるメモリ、外部と信号の入出力を行うインターフェイス部(I/F)、などからなるマイクロコンピュータを中心にして、ハードウェア構成されている。CPU、メモリ、及びインターフェイス部は、データバスなどを介して相互に接続されている。
【0013】
ロボットの各関節部の制御を行う際に、その計算量と、パラメータの同定誤差、などの問題が生じる、これに対して、外乱オブザーバ(DOB:Disturbance Observer)を用いることで、遠心力・コリオリ力・重力・摩擦力・同定誤差を全て外乱とみなし、プラントをノミナル化させるロバストなモーションコントロールを実現できる。
【0014】
ここで、外乱オブザーバについて、詳細に説明する。図2は、DOBのブロック線図である。なお、Pを実プラント、Pnをノミナルプラント、Tを入力トルク、dをトルク外乱、Qをフィルタとすると、その出力は下記(1)式のように表すことができる。
【数1】
【0015】
上記のようにプラントをノミナル化できるが、このノミナル化は1慣性系のみの適用となる。これは、2以上の慣性系に適用すると負荷慣性とばねによる大きな振動を誘発し、プラントをノミナル化することが困難となるからである。
【0016】
これに対し、本実施の形態1に係る制御装置6は、2慣性系の共振抑制手法である、いわゆる自己共振相殺制御(SRC:Self Resonance Cancellation Control)を用いて、ロボットの関節部2の制御を行っている。
【0017】
ロボットの関節部2の駆動を制御する場合、その関節部を構成するギアやベルトの撓み、軸の捻れなどに起因して関節角度誤差が発生する。そこで、本実施の形態1において、この関節角度誤差を抑制するために、モータ3側の第1角度センサ4に加えて、負荷側(関節部2のギア出力段)にも第2角度センサ5を設置し、1入力2出力の制御対象を構成している。本実施の形態1に係る制御装置6は、モータ3側の第1角度センサ4及び関節部2(負荷)側の第2角度センサ5から夫々出力されフィードバックされた角度情報に対して所定係数を乗算し足合わせることで、開ループ伝達関数の見かけのプラントの共振を相殺する上記自己共振相殺制御を行う。なお、自己共振相殺制御は、ばね定数Kを用いずに設計できるので、ばね定数Kの変動にロバストである。
【0018】
さらに、従来の自己共振相殺制御においては、上記共振相殺時に粘性項については近似などを行って無視をしていた為、共振が残存する虞があった。そこで、本実施の形態1に係る制御装置6においては、共振を相殺した角度情報を生成する際に無視をしていた粘性項を厳密に考慮して上記所定係数を決定し、自己共振相殺制御を行う。
【0019】
すなわち、本実施の形態1に係る制御装置6は、第1角度センサ4により検出された角度情報に対してモータ3の慣性及び粘性に関する所定係数を乗算し、第2角度センサ5により検出された角度情報に対して関節部2の慣性及び粘性に関する所定係数を乗算し、その乗算結果を加算することで共振を相殺する自己共振相殺制御部(自己共振相殺制御手段の一具体例)61を有している。
【0020】
これにより、ロボットの関節部2に生じる共振をより確実に低減することができる。特に、ヒューマノイドロボットや産業用ロボットなどの関節部においては、ハーモニックギアなどを用いているため、その粘性摩擦がより大きくなり問題となる。これに対し、上述の如く、粘性項を厳密に考慮して上記所定係数を決定し自己共振相殺制御を行うことで、より高精度な共振抑制効果が期待できる。
【0021】
次に、本実施の形態1に係る制御装置6において、粘性項を厳密に考慮して上記所定係数を決定する方法について、具体的に説明する。
【0022】
まず、モータ3の慣性モーメント、モータ3の粘性減衰係数、第1角度センサ4から出力されるモータ3の角度情報、関節部2の慣性モーメント、関節部2の粘性係数、第2角度センサ5から出力される関節部2(負荷)側の角度情報、及び、ばね定数を夫々、J、B、θ、J、B、θ、K、とする。また、モータ3の慣性モーメント、モータ3の粘性減衰係数、関節部2側の慣性モーメント、関節部2の粘性係数、及びばね定数のノミナル値を夫々、JMn、BMn、JLn、BLn、Kとし、関節部2のギア比をnとする。以下、添え字のnが付いたものは全てノミナル値とする。Tからθ図3参照)までの伝達関数PMM、Tからθまでの伝達関数PML、dからθまでの伝達関数PLM、dからθまでの伝達関数PLLを下記(3)式から(8)式で表すことができる。
【数2】
【0023】
なお、本実施の形態1に係る自己共振相殺制御においては、フィードバック制御の設計と、開ループ伝達関数の見かけのプラントの共振相殺と、を別々に行う。これにより、制御装置を自由に設計できる。
【0024】
図3は、本実施の形態1に係る制御装置の自己共振相殺制御部の制御ブロック線図である。ここで、Fをモデル応答とすると、関節部2側(負荷側)の角度指令値θrefからθまでの閉ループ伝達関数G、開ループ伝達関数G、それぞれのノミナル値GCn、GOn、は、下記(9)乃至(12)式のように表すことができる。
【数3】
【0025】
さらに、上記(12)式に示すGOnの見かけのプラントの共振の項が相殺されるように所定係数α、β、γ、δを、下記(13)式に示すように決定できる。特に、従来無視されていたβ及びδの項を考慮することで、粘性項を厳密に考慮することができる。
【0026】
従来は、制御対象における伝達関数を「剛体モード」と「共振モード」の積の形式で表しており、粘性項を積の形式で分離できないため、近似などを行い無視されていた。一方、本実施の形態1においては、伝達関数を「剛体モード」と「共振モード」の積の形式で分離しない下記(13)式を用いることで、粘性項を厳密に考慮することができる。
【数4】
【0027】
このとき、下記(14)式が成立する。
On=PSRCnFB
SRCn=1/JMn (14)
【0028】
上記(14)式に示す如く、見かけのプラントPSRCnに共振成分の粘性項が存在しない。したがって、従来、近似などを行って無視していた粘性項が存在しないことから、共振が残存することがない。
【0029】
本実施の形態1に係る制御装置6の自己共振相殺制御部61は、上記(13)式に基づいて所定係数α、β、γ、δを設定する。そして、自己共振相殺制御部61は、図3に示す如く、第1角度センサ4からの角度情報θ及び第2角度センサ5からの角度情報θに対して、設定した所定係数α、β、γ、δを夫々乗算する。さらに、自己共振相殺制御部61は、その乗算した各乗算結果を加算器で加算し、その加算結果に基づいて、モータトルク指令値を生成する。
【0030】
より具体的には、図3に示す如く、自己共振相殺制御部61は、入力された角度指令値θrefに基づいたモデル応答値と、フィードバックされた第2角度センサ5の角度情報θと、の偏差を算出し、その偏差に所定係数γ、δを夫々乗算する。さらに、自己共振相殺制御部61は、偏差に所定係数δを乗算して求めた値のみに積分処理を行う。
【0031】
また、自己共振相殺制御部61は入力された角度指令値θrefに制御ゲインを乗算し、その乗算値と、フィードバックされた第1角度センサの角度情報と、の偏差を算出し、その偏差に所定係数α、βを夫々乗算する。さらに、自己共振相殺制御部61は、偏差に所定係数βを乗算して求めた値のみに積分処理を行う。自己共振相殺制御部61は、上述のように所定係数α、β、γ、δを夫々乗算して算出した値を加算し、その加算値に基づいてモータトルク指令値Tを算出する。
【0032】
このように、モータ3及び関節部2の粘性係数を厳密考慮しつつ、制御対象の逆相となる所定係数を決定でき、共振を大きく低減できる。また、フィードバック制御を独立に設計できるため、制御装置6のフィードバック制御を自由に設計できる。
【0033】
次に、本実施の形態に係る自己共振相殺制御のシミュレーション結果について説明する。図4に示す如く、3関節脚ロボットに適用した一例について説明する。3関節脚ロボットの股関節まわりを2慣性系でモデル化し、本実施の形態1に係る自己共振相殺制御と、従来の自己共振相殺制御との比較を行う。
【0034】
図5A及びBは、プラントPmmの周波数特性の実測値を示す図である。この周波数特性の実測は、膝関節部を90度に屈曲させた状態と、股関節部を地面に対して垂直にした状態と、で行っている。図6は、実測した周波数特性に基づいて決定したプラントのノミナル値を示している。なお、Qフィルタは下記(24)式に示すように設定し、極を共に200Hzとし、各関節部に対する位置指令値を0[rad]としている。開始1sec後に10[Nm]のステップ外乱を負荷側に加えている。
Q=ω/(s+ω) (24)式
ω=150×2π[rad/sec]
【0035】
図7は、本実施の形態1に係る自己共振相殺制御と、従来の自己共振相殺制御とのシミュレーション結果を示す図である。図7に示す如く、従来の自己共振相殺制御を行った場合に(実線)、残存する共振によって制御が発散してしまうことが分かる。一方、本実施の形態1に係る自己共振相殺制御を行った場合(点線)、共振が残存することなく、制御が収束していることが分かる。
【0036】
以上、本実施の形態1に係る制御システム1においては、第1角度センサ4により検出された角度情報に対してモータ3の慣性及び粘性に関する所定係数を乗算し、第2角度センサ5により検出された角度情報に対して関節部2の慣性及び粘性に関する所定係数を乗算し、その乗算結果を加算することで共振を相殺する。これにより、従来無視されていた粘性項を厳密に考慮することができるため、ロボットの関節部2に生じる共振をより確実に低減することができる。
【0037】
実施の形態2.
図8は、本実施の形態2に係る制御システムの概略的なシステム構成を示すブロック図である。本実施の形態2に係る制御システム10の制御装置62は、上記実施の形態1に係る2慣性系の自己共振相殺制御部と外乱オブザーバとを組み合わせた自己共振相殺制御外乱オブザーバ(SRCDOB:Self Resonance Cancellation Control Disturbance Observer)63を備える点を特徴とする。これにより、従来の外乱オブザーバではノミナル化が1慣性系に限られ、さらに、自己共振相殺制御では慣性モーメントと粘性係数のモデル化誤差に弱いという2つの問題を同時に解決できる。すなわち、本実施の形態2に係る制御システムにおいて、2慣性系のシステムにおいてモデル変動しても外乱を抑制し制御帯域を向上させることができる。
【0038】
まず、共振相殺を行い剛体モードとなるロボットの関節部2の角速度(以下、関節角速度と称す)を以下の(15)式で定義することができる。なお、下記(15)式において、所定係数α、β、γ、δは上記(13)式を用いて求めることができる。
【数5】
【0039】
本実施の形態2においては、上記(15)式に示す出力に対して外乱オブザーバを設計することで自己共振相殺制御外乱オブザーバ63を構成する。すなわち、従来、外乱オブザーバを設計する場合、関節部側の第2角度センサの角度情報とモータ側の第1角度センサの角度情報との2種類が存在し、少なくとも一方が外乱オブザーバに入力される。しかしながら、いずれの角度情報も共振によるノイズが含まれるため、外乱を完全に抑制できない。
【0040】
一方、本実施の形態2に係る自己共振相殺制御外乱オブザーバ63において、自己共振相殺制御部は上記(13)式で決定した所定係数α、β、γ、δ及び上記(15)式を用いて、共振を完全に相殺した関節角速度を算出し、その算出した関節角速度を外乱オブザーバに入力する。したがって、外乱オブザーバは、その共振を完全に相殺した関節角速度に基づいて、外乱推定値を高精度に推定できるため、外乱をより確実に抑制できる。
【0041】
図9は、本実施の形態2に係る自己共振相殺制御外乱オブザーバの制御ブロック線図である。図9において、外乱推定値dSRCハットは下記(16)式で表すことができる。なお、下記(16)式において、モデル化誤差ΔPMM、ΔPML、ΔPLM、ΔPLLを下記(17)式で表すことができる。
【数6】
【0042】
上記(16)式に示す外乱推定値において、共振成分はモデル化誤差により発生する項のみに依存している。従来の外乱オブザーバにおいては、モデル化誤差が存在しない場合でも負荷側外乱dの係数に共振成分が存在していた。一方、本実施の形態2に係る自己共振相殺制御外乱オブザーバ63においては、外乱推定開始直後はモデル化誤差により共振が相殺されないものの、次第にプラントがノミナル化されて共振が相殺され、安定化していくことが分かる。
【0043】
さらに、Q≒約1として見かけ上のモータトルク指令値T'からθSRCの微分値(関節角速度)までの伝達関数を下記(18)式で表すことができる。
【数7】
【0044】
上記(18)式は、上記(14)式の見かけ上のプラントと一致する。ばね定数Kの変動に対して、ロバストな自己共振相殺制御と、この自己共振相殺制御の見かけのプラントをノミナル化できる外乱オブザーバと、を併用すれば、全パラメータ変動にロバストな2慣性系フィードバック制御が構成できる。このとき、見かけのモータトルク指令値T'からθまでの伝達関数を下記(19)式で表すことができる。
【数8】
【0045】
さらに、モデル化誤差を下記(21)式及び(22)式で表すことができるため、プラントの剛体モードがノミナル化されていることが確認できる。
【数9】
【0046】
また、上記(19)式に基づいて、共振周波数ωと反共振周波数ωarとの比である共振比Hを下記(23)式で表すことでき、共振比がノミナル化されることがわかる。
【数10】
【0047】
次に、上述した本実施の形態2に係る自己共振相殺制御外乱オブザーバ63のノミナル化について具体例を挙げて説明する。例えば、負荷(関節部2)の慣性モーメントJが変動した際に、自己共振相殺制御外乱オブザーバによりプラントがノミナル化されることをボーデ線図で確認できる。なお、J、B、Bのモデル化誤差に関しても、Jと同様にノミナル化できるため、詳細な説明は省略する。
【0048】
図10A及びBは、J=JLnの場合、J=2JLnの場合、及びJ=2JLnに自己共振相殺制御外乱オブザーバ(SRCDOB)を適用した場合、を比較したボーデ線図である。なお、Qフィルタは下記(25)式に示すように設定されている。
Q=ω/(s+ω) (25)式
ω=150×2π[rad/sec]
【0049】
図10A及びBに示す如く、本実施の形態2に係る自己共振相殺制御外乱オブザーバ63を用いることで剛体モードがノミナル化されていることが分かる。さらに、図11A及びBに示す如く、T'からθSRCの微分値までの伝達関数PSRCがノミナル化され、見かけのプラントの共振が相殺できていることが確認できる。
【0050】
次に、上述した本実施の形態2に係る自己共振相殺制御外乱オブザーバ63における制御のシミュレーションについて、詳細に説明する。ここでは、上記実施の形態1に係る自己共振相殺制御部61と本実施の形態2に係る自己共振相殺制御外乱オブザーバ63とを併用した制御システムと、従来のPID制御と外部オブザーバとを併用した制御システムと、の比較を行う。
【0051】
図12は、上記実施の形態1に係る自己共振相殺制御部と本実施の形態2に係る自己共振相殺制御外乱オブザーバとを併用した制御ステムを示すブロック線図である。各制御システムは、膝関節部を90度に屈曲させた状態のノミナルプラントPSCRnを制御している。なお、本実施の形態2に係る制御方法は、ω=−200×2πとし、Qフィルタのカットオフ周波数をω=150×2πとして設定している。一方、従来の制御方法はω=−100×2πとして、Qフィルタのカットオフ周波数をω=75×2πとして設定している。このように、各パラメータを制御が発散しない帯域に設定している。以上の条件で、J=2JLnとして、1sec後に10Nmのステップ外乱を入力し、本実施の形態2に係る制御方法と従来の制御方法の応答を比較する。
【0052】
図13は、本実施の形態2に係る制御方法と従来の制御方法とによるシミュレーション結果を示す図である。図13に示す如く、従来の制御方法においては、負荷側外乱により振動が発生していることが分かる。一方、本実施の形態2に係る制御方法によれば、帯域が上がっており、さらに、振動が発生しないことが分かる。
【0053】
以上、本実施の形態2に係る制御システム10において、2慣性系の自己共振相殺制御部と外乱オブザーバとを組み合わせた自己共振相殺制御外乱オブザーバ63を備える。これにより、2慣性系においてもノミナル化が可能となり、さらに、自己共振相殺制御における慣性モーメントと粘性係数のモデル化誤差を大きく改善できる。
【0054】
実施の形態3.
本発明の実施の形態3は、上記実施の形態1に係る自己共振相殺制御部61および上記実施の形態2に係る自己共振相殺制御外乱オブザーバ63を、n慣性系(nは3以上)に適用させた点を特徴とする。例えば、ヒューマノイドロボットの股関節部においては、低周波数に共振が複数表れている。このため、多慣性系のプラントのモデル化誤差にロバストな共振抑制制御が必要となる。これに対し、本実施の形態3に係る自己共振相殺制御部及び自己共振相殺制御外乱オブザーバは、モータ3側の第1角度センサ4だけでなく、負荷側にもn−1個(複数個)の第2角度センサ5を設け、各角度センサ4、5により検出される角度情報に所定係数を乗算し足し合わせることで、n−1の共振を相殺することができる。これにより、軸ねじれや撓みなどが複数個所で発生する場合でも、常時、共振を相殺できるため、制御性能を向上させることができる。
【0055】
なお、上述の如く、複数の第2角度センサを設ける場合、例えば、ロボットのハードウェア制限により、3つ目(或いは4つ目以上)の慣性を有する部位の変位をエンコーダなどで計測することが困難となることがある。この場合、加速度センサ及び/又はジャイロセンサにより検出された加速度情報に基づいてその慣性を有する部位の変位を算出してもよい。
【0056】
次に、本実施の形態3に係る自己共振相殺制御部および自己共振相殺制御外乱オブザーバを3関節脚ロボットとその3慣性系モデルに適用させた一例を説明する。まず、3関節脚ロボットの基本構成について説明する。
【0057】
3関節脚ロボットは、股関節部、膝関節部及び足首関節部の3つの関節部を備えている。図4に示すように、各モータ3は各関節部2のタイミングベルトを介してハーモニックギアに連結されている。各モータ3が回転駆動することで、各関節部2は回転駆動する。ここで、このタイミングベルトが持つばね特性の影響で1つの共振が発生している。また、股関節部においてはさらにもう1つ共振が発生している。したがって、股関節部においては3慣性系でのモデル化が必要になっている。
【0058】
図14は、上述した3慣性系のブロック線図である。n番目の慣性モーメント及び粘性減衰係数を夫々、J、Bと定義する。また、n番目の慣性とn+1番目の慣性との間のばね定数、及びギア比を夫々Kn,n+1、rn,n+1とする。また、ノミナル値は文字の右上にNを付するものとする。なお、本実施の形態3においては、3関節のうち股関節部に適用した場合について説明を行うが、膝関節部及び足首関節部についても股関節部と同様に適用可能である。
【0059】
ここで、股関節部周りの周波数特性について、説明する。図15A及びBは、股関節部における、1慣性目へのトルク指令値Tから関節角度θまでの周波数特性P11の計測結果と、その計測結果に基づく3慣性系モデルのボーデ線図である。3関節脚ロボットの大腿部および下腿部は地面に垂直にし、足先は地面に水平にして計測を行っている。図15A及びBは示す如く、60Hzに生じている共振は、タイミングベルトに依るものである。図16は、上記周波数特性に基づいて決定したプラントのモデルパラメータのノミナル値を示している。
【0060】
次に上述したような3慣性系のプラントに対する自己共振相殺制御、及び自己共振相殺制御外乱オブザーバの理論を説明する。3慣性系のプラントにおける運動方程式は、下記(26)式で表すことができる。
【数11】
【0061】
さらに、上記3つの運動方程式を全て足し合わせると、下記(27)式が導出される。
【数12】
【0062】
上記(27)式におけるPSRCには共振成分は存在しなくなるので、このPSRCに対しフィードバック制御器を構成すればよいこととなる。実際にはノミナル値に対し制御器は構成されるため、下記(28)式となるようにフィードバック制御器を構成すればよいこととなる。
【数13】
【0063】
上述したように、本実施の形態3に係る自己共振相殺制御においては、関節部2及びモータ3に関する3個の慣性系に対して、夫々、運動方程式を算出する。そして、その算出した運動方程式を足し合わせて生成した共振成分を含まない式に基づいてフィードバック制御器を生成する。
【0064】
これにより、元々P1、1やP2、1は共振を持っているにも関わらず、3つの信号に所定係数をかけて足し合わせることでフィードバック制御における見かけのプラントの共振が相殺される。これが3慣性系の自己共振相殺制御である。上記一例では、3慣性系について説明したが、4以上の慣性系についても同様に導出できる。このように、慣性系毎の運動方程式を単純に足し合わせた式に基づいて、自ずと共振成分を相殺したフィードバック制御器を構成できる。
【0065】
図17は、上述した3慣性系の自己共振相殺制御のブロック線図である。図17に示す如く、自己共振相殺制御部は、第1乃至第3角度センサにより検出された角度情報θ、θ、θに第1制御ゲインを夫々乗算した各値と、入力される角度指令値θref、θref、θrefに第2制御ゲインを乗算した値と、の偏差e、e、eを夫々算出する。そして、自己共振相殺制御部は、算出した各偏差e、e、eを加算した値eSRCに基づいて、モータに対するトルク指令値Tを生成する。
【0066】
図18は、上述した3慣性系の自己共振相殺制御外乱オブザーバのブロック線図である。図18に示す如く、自己共振相殺制御部は、第1乃至第3角度センサにより検出された角度情報θ、θ、θに第1制御ゲインを夫々乗算した各値と、入力される角度指令値θref、θref、θrefに第2制御ゲインを乗算した値と、の偏差e、e、eを夫々算出する。そして、自己共振相殺制御部は、算出した各偏差e、e、eを加算した値eSRCに基づいて、第1トルク指令値Tを生成する。さらに、自己共振相殺制御部は、第1乃至第3角度センサにより検出された角度情報θ、θ、θに第3制御ゲインを夫々乗算した各値を加算して関節角速度(θSRCの微分値)を算出し、外乱オブザーバに出力する。外乱オブザーバは、自己共振制御部からの関節角速度θSRCに基づいて外乱推定値dSRCハットを生成し、自己共振相殺制御部に出力する。自己共振相殺制御部は、外乱オブザーバからの外乱推定値dSRCハットと、生成した第1トルク指令値T'と、の偏差を求め、その偏差を第2トルク指令値Tとする。
なお、上述した図17及び18に示す自己共振相殺制御及び自己共振相殺制御外乱オブザーバは一例であり、これに限らず、例えば、図17及び18に示すブロック線図を等価変換あるいは、同等の数式変形に基づく制御システムであってもよい。
【0067】
なお、上述の如く、3慣性系モデルに適用させた一例を説明したがn(4≦n)慣性系モデルについても同様に適用させることができる。この場合、下記(29)式に示すようにn個の運動方程式を全て足し合わせる。
【数14】
【0068】
下記(30)式は、上記(29)式を足し合わせた結果である。
【数15】
【0069】
上記(30)式におけるPSRCには共振成分が存在しなくなる。実際にはノミナル値に対し制御器は構成されるため、開ループ伝達関数のノミナル値が下記(31)式に示すように制御器を構成する。
【数16】
【0070】
図19は、上述のように構成したn慣性系の自己共振相殺制御外乱オブザーバの制御ブロック図である。
【0071】
次に、上述した本実施の形態3に係る3慣性系の自己共振相殺制御部と自己共振相殺制御外乱オブザーバとを併用した制御のシミュレーションについて、詳細に説明する。本シミュレーションにおいて、従来のPID制御及び外乱オブザーバの制御と、本実施の形態3に係る3慣性系の自己共振相殺制御と自己共振相殺制御外乱オブザーバとを併用した制御との比較を行う。ここで、負荷の慣性モーメントJ=2JLnなるモデル化誤差を与えてシミュレーションを行う。
【0072】
負荷の慣性モーメントにJ=2J3なるモデル化誤差が生じたときに、自己共振相殺制御外乱オブザーバによってPSRCがノミナル化される。図20Aは、1/sの伝達関数のボーデ線図である。図20Bは、モデル化誤差が生じたときのPSRC(J=2J)、及びモデル化誤差が生じたときのPSRC(J=2J)を自己共振相殺制御外乱オブザーバでノミナル化したときの伝達関数のボーデ線図である。図20A及びBに示す如く、自己共振相殺制御外乱オブザーバを用いることで、負荷の慣性モーメントJに変動が生じた場合でも、SRCプラントPSRCがノミナル化され、共振がほとんど相殺されていることがわかる。なお、若干共振が残っているが、これはQ≠1であるためで、ω→∞となるとき、完全に共振が相殺される。
【0073】
以上、本実施の形態3において、関節部及びモータに関する複数の慣性系に対して、夫々、運動方程式を算出する。そして、その算出した運動方程式を足し合わせて生成した共振成分を含まない式に基づいてフィードバック制御器を生成する。これにより、軸ねじれや撓みなどが複数個所で発生する場合でも、共振を相殺できるため、制御性能を向上させることができる。
【0074】
なお、本発明は上記実施の形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。
例えば、上記実施の形態において、制御対象としてロボットの関節部に適用されているが、これに限らず、任意の可動部に適用可能である。
【0075】
また、本発明は、例えば、上記自己共振相殺制御及び外乱オブザーバの処理を、CPUにコンピュータプログラムを実行させることにより実現することも可能である。
【0076】
プログラムは、様々なタイプの非一時的なコンピュータ可読媒体(non-transitory computer readable medium)を用いて格納され、コンピュータに供給することができる。非一時的なコンピュータ可読媒体は、様々なタイプの実体のある記録媒体(tangible storage medium)を含む。非一時的なコンピュータ可読媒体の例は、磁気記録媒体(例えばフレキシブルディスク、磁気テープ、ハードディスクドライブ)、光磁気記録媒体(例えば光磁気ディスク)、CD−ROM(Read Only Memory)、CD−R、CD−R/W、半導体メモリ(例えば、マスクROM、PROM(Programmable ROM)、EPROM(Erasable PROM)、フラッシュROM、RAM(random access memory))を含む。
【0077】
また、プログラムは、様々なタイプの一時的なコンピュータ可読媒体(transitory computer readable medium)によってコンピュータに供給されてもよい。一時的なコンピュータ可読媒体の例は、電気信号、光信号、及び電磁波を含む。一時的なコンピュータ可読媒体は、電線及び光ファイバ等の有線通信路、又は無線通信路を介して、プログラムをコンピュータに供給できる。
【符号の説明】
【0078】
1 制御システム
2 関節部
3 モータ
4 第1角度センサ
5 第2角度センサ
6 制御装置
図1
図2
図3
図5A
図5B
図6
図8
図9
図10A
図10B
図11A
図11B
図12
図14
図15A
図15B
図16
図17
図18
図19
図20A
図20B
図4
図7
図13