(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
近年、半導体デバイスの微細化が数10nm以下へと進んでおり、従来のプレーナー型の構造に限らずFin−FETに代表されるような3次元構造の形状を持つデバイスの量産が始まろうとしている。また、トレンチやホールなどの立体パターンでの深化も著しく、Flashメモリなどにおけるゲートのアスペクト比は10以上、コンタクトホールのアスペクト比は30以上へと進んでいる。インラインでパターンの測長や欠陥を検査するために用いられるCD−SEM(Critical Dimension Scanning Electron Microscope)やDR−SEM(Detect Review Scanning Electron Microscope)においても、要求仕様は年々厳しくなっている。これらの電子顕微鏡応用装置では、1次電子を試料上で走査して試料表面化から放出される2次電子を検出することによって画像を形成している。デバイスの微細化がさらに進むと、試料内部での1次電子の拡散によりエッジコントラストが低下するため、SEM観察はさらに厳しくなることが予想される。
【0011】
特にパターンの底部においては、放出される2次電子が試料側壁に再衝突して消失するため底の形状がより見えにくい。よって、試料表面に正帯電を付着、或いは電子を上方に導くための電界を発生する電極の設置を行うことが考えられる。しかし、試料表面が導体の場合あるいはパターン底が絶縁体の場合には、2次電子を引き上げるために十分な正帯電を作ることが難しく、電位コントラストによるパターン底の強調が難しい。そのような場合、装置に2次電子をエネルギー、あるいは角度で弁別する機能を持たせ、パターンの底から放出された2次電子のみを選択的に検出して強調する方法が有効である。エネルギーフィルタを用いると、材料の電位ポテンシャルの差を利用して特定のパターンコントラストを強調することが可能である。この手法はLow−k材やメタルゲートなど異なる複数の材料が用いられている場合に有効である。
【0012】
また別手段として、2次電子を仰角あるいは方位角で弁別することによって、特定のパターンコントラストを強調することができる。仰角方向に弁別すれば、試料表面に垂直方向に放出された2次電子を選択的に検出することによって、パターン底や側面の情報を得ることが可能となる。
【0013】
エネルギーフィルタは一般的に、複数の導電性メッシュや電極などを用いて構成される。そのエネルギー分解能は、形成される電界の平坦性や電界強度、あるいは2次電子の進入角度、軌道分散などによって決まる。画像取得の際エネルギー分解能にばらつきがあると、エネルギーをカットする電位が変化するため画像コントラストや明るさにばらつきが生じる。
【0014】
一方、角度弁別では一般的に2次電子軌道を制限するための遮蔽物が置かれ、例えば遮蔽物に開けられた穴などを通過した2次電子のみを選択的に検出する。このとき、例えば試料垂直方向の2次電子を選択的に検出しようとしたとき、該当する2次電子の軌道が遮蔽物に当たってしまうと角度弁別の効果を出すことができなくなる。
【0015】
また、イメージシフト偏向器等によって電子ビームを偏向すると、電子ビームだけではなく、二次電子や後方散乱電子の軌道も曲げてしまい、適正な角度弁別を行うことが困難になる場合がある。
【0016】
そこで、本実施例では角度弁別用の開口と電子ビームの通過開口を兼用すると共に、当該開口に試料から放出された電子を方向付けるように偏向する偏向器と、当該開口を通過した電子、或いはその電子によってもたらされる電子を検出する検出器を設けることによって、正確な角度弁別と、角度弁別のための遮蔽物以外の遮蔽物への電子の衝突を最大限抑制する走査電子顕微鏡について説明する。電子線通路や電子光学系を構成する部材等に衝突する可能性の最も少ない通路は、電子ビームの通過軌道である。よって、イメージシフト偏向器等の偏向によらず、試料から放出される電子を電子ビームの通過開口に沿って通過させるように、偏向することにより、高精度に角度弁別を行いつつ、他部材への衝突を最大限抑制することが可能となる。
【0017】
また、角度弁別用の開口が設けられた開口形成部材を、電子検出器、或いは衝突電子の変換電極とすると、電子ビームに対し、軸対称に設けられる検出器の検出面、或いは変換電極面に最も多くの電子を導くことができるため、検出効率の極大化を実現することができる。
【0018】
本実施例では、特定の標準試料を必要とせず、イメージシフトに連動して2次電子軌道の制御を調整することを可能とする走査電子顕微鏡について説明する。さらに
図1に示す装置構成によりエネルギーフィルタへの2次電子の進入角度を固定できるようになるため、エネルギー分解能を一定に保った状態で信号弁別することが可能となる。
【0019】
本実施例では主に、2次電子制限板およびエネルギーフィルタを用いて2次電子を選択的に検出する際、安定に信号弁別するために2次電子アライナを用いて2次電子軌道を制御する例について説明する。初めに、構成および原理を示す。
図1は走査電子顕微鏡の概略構成図である。電界放出陰極11と引出電極13との間に引出電圧12を印加することで、1次電子ビーム1を引き出す。1次電子ビーム1はコンデンサレンズ14で収束作用を受け、上走査偏向器21、下走査偏向器22で走査偏向を受ける。上走査偏向器21、下走査偏向器22の偏向強度は、対物レンズ17のレンズ中心を支点として試料23上を二次元走査するように調整されている。同様に、走査位置を変化させるための上イメージシフト偏向器25、下イメージシフト偏向器26による偏向作用を受ける。偏向を受けた1次電子ビーム1は、対物レンズ17の通路に設けられた加速円筒18でさらに加速を受ける。
【0020】
後段加速された1次電子ビーム1は、対物レンズ17のレンズ作用で絞られホルダー24に保持された試料23に到達する。1次電子の照射によって、試料23の表面から2次電子が放出される。2次電子は光軸に平行方向の高角の2次電子2(a)、試料表面に平行方向の低角成分の2次電子(b)(高角の2次電子に対して相対的に電子ビーム光軸を中心として広い範囲に放出される電子)に分類できる。2次電子は、光軸を1次電子とは逆方法に進行し、2次電子制限板31に到達する。高角の2次電子2(a)は2次電子制限板31の孔を通過し、エネルギーフィルタ34を通過した後で反射板27に衝突して3次電子に変換され、上検出器28(a)で検出される。
【0021】
この2次電子制限板31は後述するように、電子ビームの通過開口を持つと共に、電子ビーム光軸方向に、上検出器28(a)とイメージシフト偏向器との間に配置される。電子ビームの通過開口は、試料から放出される電子の内、高角度成分を選択的に通過させるように形成されている。
【0022】
低角側の2次電子2(b)は2次電子制限板31(変換電極)に衝突して3次電子に変換され、下検出器28(b)で検出される。演算器40を用いて検出信号を処理し、各々の検出器で検出された信号を画像化する。画像S/Nを稼ぐために、得られた信号を加算して画像化しても良い。下検出器28(b)は、後述する2次電子アライナと上検出器28(a)との間に配置される。
【0023】
なお、演算器40は、制御装置41に接続されており、当該制御装置41の指示に基づいて、所定の演算を実行する。また、制御装置41は、対物レンズ制御電源42、ステージ制御電源43、及び加速電圧制御電源44にも接続されており、予めレシピとして記憶された光学条件や制御条件に基づいて、各電子顕微鏡の構成要素を制御する。
【0024】
角度弁別するためには高角の2次電子2(a)を2次電子制限板31の孔に通す必要があるが、2次電子の軌道はイメージシフトの使用や対物レンズ17通過の影響により光軸から離軸することがある。逆に、組み立て精度や光軸調整精度の結果、あるいは孔径の選択を目的として意図的に2次電子制限板31の孔が光軸から離軸した位置に搭載されることもある。高角の2次電子2(a)を常に2次電子制限板31の孔に通すため、2次電子アライナ(二次信号偏向器)を用いる。2次電子アライナII(L)33(a)、2次電子アライナII(U)33(b)を用いて、2次電子軌道を偏向制御する。2次電子アライナは1次電子の軌道に影響しないよう、電極と磁場コイルで構成されるウィーンフィルタを用いる。
【0025】
以上のように、試料から放出される電子の軌道を、電子ビーム光軸に沿うように(同軸に)偏向することによって、下検出器28(b)の検出効率を向上することができる。
図8はその原理を説明する図である。
図8は試料23側から見た2次電子制限板31であり、電子ビームの通過開口81(高角側電子の通過口)が設けられている。
図8(a)は試料から放出された電子の分散範囲82の中心が、電子ビームの通過開口81と一致した状態を示しており、
図8(b)は、試料から放出された電子の分散範囲82の中心が、電子ビームの通過開口81から離間した状態を示している。
図8のように試料から放出された電子が拡がりを持つ場合、
図8(a)のケースでは、電子ビームの通過開口81を除き、全ての電子が2次電子制限板31に衝突しているのに対し、
図8(b)のケースでは、電子の分散範囲82の一部が2次電子制限板31に衝突していない。
【0026】
このようにある程度の角度範囲を持つ放出電子を効率良く検出するためには、
図8(a)のような状態にすることが望ましく、試料から放出される電子の軌道を電子ビーム光軸に沿って偏向することによって、下検出器28(b)の検出効率を高くすることができる。本実施例装置によれば、二次電子の軌道を変化させる場合であっても、検出効率の低下を抑制することが可能となる。
【0027】
エネルギーフィルタ34は、例えば複数のメッシュ状電極からなり、試料から放出される電子を追い返すような電界を発生するものである。この電界強度を変化させることによって、所望のエネルギーの電子を選択的に検出器側に導くために設けられている。エネルギーフィルタ34は、2次電子制限板31より電子源11側に設置される。
【0028】
また、エネルギーフィルタ34では1次電子の通過経路を確保するための孔やパイプが設けられることが一般的であり、高角の2次電子(a)が孔やパイプに侵入するのを防ぐ必要がある。そこで同様に、2次電子アライナI32を設けエネルギーフィルタ34に進入する2次電子の角度を偏向制御する。2次電子絞り31を通過した高角の2次電子2(a)の角度は2次電子アライナII(L)33(a)、2次電子アライナII(U)33(b)によって制御されているため、2次電子アライナI32によってエネルギーフィルタ35に対する進入角度を一定に保つことができる。その結果、エネルギーフィルタのエネルギー分解能を一定とする効果も得ることができる。
図1の構成例では角度弁別とエネルギー弁別を両立しているが、エネルギー弁別のみを行うために2次電子制限板31を外した構成としても良い。
【0029】
2次電子アライナII33(a)、33(b)の制御方法の概念を
図2に示す。イメージシフト25、26を使用して試料表面の離軸した位置Lsに1次電子を照射する。そこから放出された高角の2次電子2(a)は光軸を逆方向に進行する。対物レンズ17、イメージシフト25、26を通過する際に偏向作用を受け、2次電子アライナII(L)33(b)に離軸量LL、角度θ
SEで進入する。2次電子アライナII(L)33(b)を用いて、2次電子アライナII(U)33(a)の中心を通過するように2次電子2(a)を角度θLで偏向する。次に2次電子アライナII(U)33(a)を用いて、光軸に平行になるように角度θ
Uで偏向すれば、2次電子制限板31の中心を光軸に平行に通すことができるようになる。この制御を満たすための条件として、幾何計算により以下の式(1)、(2)が導かれる。ここで、Z
SEALUは2次電子アライナII(U)33(a)の高さ、Z
SEALLは2次電子2次電子アライナII(L)33(b)の高さを示す。
【0032】
まず、イメージシフト使用による2次電子軌道の変化を2次電子アライナで補正することを想定する。2次電子アライナII(L)33(b)への進入角度θ
SEは次式の様に求められる。
【0034】
ここで、L
SEは2次電子2(a)がイメージシフトによって偏向される量を、2次電子制限板31での光軸からの距離で定義したものである。LSEは後述の2次電子到達位置検知方法、あるいは電子軌道シミュレーションなどを用いて求めることができる。Z
SEAPは2次電子制限板の高さであり、Z
SEは、2次電子の仮想射出高さ(=L
SE/tan(θ
SE))であり、実験値からの推定や電子軌道シミュレーションなどによって求めることができる。式(1)より、2次電子アライナII(L)33(b)で必要なθ
Lは次式のように求まる。
【0036】
(2)、(4)式より、2次電子アライナII(U)33(a)で必要なθ
Uは次式のように求まる。
【0038】
なお、
図2では断面図を用いて説明しているが、実際には対物レンズ17における磁場による回転を考慮して方位角方向についても制御する必要がある。その際は、イメージシフト、各2次電子アライナにおける方位各成分について、磁場による回転角度を予め求めておき、行列演算して制御する。磁場による回転角度は、後述の2次電子到達位置検知方法、あるいは電子軌道シミュレーションなどを用いて求めることができる。
【0039】
次に、2次電子制限板31において光軸外の孔へ偏向制御する方法について
図3に示す。イメージシフト未使用時の2次電子2(a)に対し、θ
Lとθ
Uが同角度で反対方向となるように制御すると、軌道は光軸と平行を保ったまま位置だけをずらすことができる。この原理では2次電子の軌道を平行移動するだけなので、イメージシフト連動と独立して制御することが可能である。2次電子制限板上での必要移動量をL
SHIFTとすると、(4)、(5)式に平行移動の項を追加することができる。
【0042】
上式に従ってθ
Lとθ
Uを制御するためには、2次電子に対するイメージシフトや2次電子アライナの偏向感度、方位角における回転方向を知る必要がある。本実施例では、偏向器を用いて1次電子を試料上で走査した際に、2次電子も同時に2次電子制限板31上で走査されることを利用する。1次電子を偏向器21、22で偏向して試料上に照射すると、放出された2次電子2(a)は対物レンズを通過した後に偏向器を逆方向に進行し、2次電子制限板31上に到達する。ここで2次電子2(a)は通常、放出されるエネルギーと角度にばらつきを持っているが、対物レンズ17と加速管18の条件次第では磁場レンズ、静電レンズのフォーカス作用によって2次電子制限板31に収束する。この場合、下検出器28(b)で検出した信号を画像化すると、2次電子制限板の形状を反映して
図4(a)に示すように2次電子制限板31の孔が暗い画像を得ることができる。一方、上検出器28(a)で検出すると、
図4(b)に示すように2次電子制限板31の孔が明るい画像が得られる。
【0043】
画面内における孔位置は、2次電子制限板31上での走査範囲を反映しているため、イメージシフトや2次電子アライナを使うと変化する。よって、逆に孔位置の変化量から、イメージシフトや2次電子アライナの偏向感度、方位角方向の角度を求めることができる。一定の光学条件から外れると、2次電子2(a)が2次電子制限板31で収束しなくなるため、孔の輪郭がぼやけて見え孔位置の確認が困難となる。その場合は電子軌道シミュレーションによって2次電子の軌道を追跡すれば良い。2次電子が収束する条件で実験と比較し、2次電子アライナの感度と方位角方向のずれに関してシミュレーション結果を補正すれば、種々の光学条件においても精度良く2次電子軌道を制御することができる。なお、空間分解能をもつ検出器を2次電子制限板31として設置し、2次電子到達位置を直接検出しても良い。また、孔のコントラストは2次電子制限板31の孔を通過するか否かによって生じているため、上検出器28(a)と下検出器28(b)で検出した信号を加算すると、孔の影の映りこみを消すことができる。
【0044】
第一の実施例として、2次電子アライナをイメージシフトに連動動作させ、信号弁別する方法について示す。
図5は、2つの検出器を用いて合成画像を形成する工程を示すフロチャートである。まず、ホルダー24を移動して所望の観察位置に試料23を保持する(ステップ501)。この位置において所望のパターンに1次電子を照射するべく、イメージシフトを数umの範囲で使用する(ステップ502)。
【0045】
イメージシフトの使用量に基づき、高角の2次電子2(a)を2次電子制限板31に導くための2次電子アライナII(U)33(a)、2次電子アライナII(L)33(b)の制御量を算出する(ステップ503)。この制御量(偏向電流、或いは電圧等の動作条件)とイメージシフト量(偏向電流、或いは電圧等の動作条件)を関連付けて、図示しないメモリに記憶しておけば、後からその条件を再現することができる。
【0046】
このとき2次電子制限板31の孔が光軸上にあり1次電子通過孔と共通となっていても良く、光軸外に設置されていても良い。光軸外に2次電子制限板31を配置した場合、あるいは軸ずれなどによって2次電子制限板31が光軸から離れた位置にある場合、2次電子制限板31孔の画像への映り込み位置が画面中心から離れた位置に現れる。これらのずれに対して、あらかじめ2次電子到達位置を制御式に基づき調整しておく(ステップ504)。
【0047】
エネルギーフィルタを使用する場合は、エネルギーフィルタの効率の高い進入角度になるように2次電子アライナI32を制御できるようにしておく。2次電子アライナはいずれも、あらかじめ電場と磁場のウィーン条件を調整され、偏向感度を求められているものとする。偏向器に走査信号を入力してスキャンを開始し、上検出器28(a)および下検出器28(b)で検出した信号を記憶装置45に保存する(ステップ505)。
【0048】
このとき、試料帯電によって2次電子軌道が偏向される可能性を考える必要がある。1次電子を絶縁性試料に照射すると、入射された1次電子と放出された2次電子の数が異なったとき、試料が正または負に帯電することが知られている。試料が帯電すると、帯電が作る電界によって2次電子が偏向されるため、高角成分の2次電子2(a)が2次電子制限板31の孔から外れた位置に到達し、角度弁別機能が低下する。
【0049】
この場合、2次電子制限板31孔の映り込み位置の変化から、あらかじめ調整した孔の位置ずれとは別に、2次電子軌道を再度制御する必要がある。画像から2次電子制限板31孔の映り込み位置を特定し、画面中心からの距離、角度を算出する(ステップ506)。2次電子アライナに対する孔位置の変化感度はあらかじめ調整時に分かっているので、孔位置を画面中心に移動するために必要な2次電子アライナII(U)33(a)、2次電子アライナII(L)33(b)の制御量を再計算し、出力する(ステップ507)。
【0050】
次に、あらかじめオペレーターにより画像を合成するか否か設定がなされているものとする。画像S/Nを稼ぐ、あるいは2次電子制限板31の孔の映り込み低減を目的として画像合成する場合は、上検出器28(a)と下検出器28(b)の信号を任意の演算式に基づいて乗除・加減算した後に画像化する(ステップ508、509)。画像合成しない場合は、各々の検出器で検出した2枚の画像を同時に取得できる。上検出器28(a)では高角成分の信号あるいはエネルギーフィルタされた高角成分の信号、下検出器28(b)では低角成分の信号が検出される。例えば、高角成分に多く含まれるパターン底部の情報を上検出器28(a)で検出し、低角成分に多く含まれるパターン上部の情報を下検出器28(b)で検出し、パターン底部と上部を同時に分けて観察するといった使い方が可能になる。
【0051】
第二の実施例として、2次電子アライナとエネルギーフィルタを用いた組み合わせについて示す。エネルギーフィルタのエネルギー分解能の関係は、電界のばらつきや電子の入射角度のばらつきに依存する。電子の入射角度の変化は、エネルギーフィルタの閾値エネルギーを変化させるため画像コントラストのばらつきの要因となる。2次電子アライナII(U)33(a)、2次電子アライナII(L)33(b)を用いると、2次電子制限板の中心を光軸に平行に2次電子2(a)を通すことができる。この状態で2次電子アライナI32に常に一定値を入力しておけば、イメージシフトの使用に関らずエネルギーフィルタに入射する2次電子の角度を一定に保つことができるため、コントラストを安定して画像取得することができる。さらに、
図6に示すように2次電子アライナI32を2段でのウィーンフィルタで構成すれば、2次電子2(a)をエネルギーフィルタ35入射時に光軸に平行にすることができるため、フィルタをメッシュ・電極などで構成した場合などには理想的なエネルギー分解能を期待できる。
【0052】
第三の実施例として、2次電子アライナを複数個配置することによって2次電子アライナ自身の発生する収差を打ち消し、1次電子の試料上での広がりを抑制する方法について示す。理想的なウィーンフィルタでは、1次電子の軌道に影響せずに2次電子のみを偏向することが可能である。しかし、一般にウィーンフィルタの発生する電場と磁場は光軸に沿って必ずしも一致しない。1次電子は電子源から放出される際にエネルギー分散を持ち、ウィーンフィルタ通過時に軌道分散が発生するため、試料上でビーム広がりが発生する。これを回避する手段として、一対の同等のウィーンフィルタを上下に配置し、反対方向に偏向する手法が知られている。
【0053】
2次電子アライナII(U)33(a)、2次電子アライナII(L)33(b)は打ち消す方向で用いるため、発生する収差は小さい。2次電子アライナI32の収差を打ち消すために、2次電子の制御と関係のない反射板27の上方に2次電子アライナをもう一つ設ける。追加した2次電子アライナは2次電子の軌道に関らず、常に2次電子アライナI32と反対方向に同角度偏向するように制御されるのが良い。一対の2次電子アライナで使用する量が異なる場合、例えば2次電子アライナII(U)33(a)、2次電子アライナII(L)33(b)使用時に残る収差が気になる場合は、それを打ち消すように2次電子アライナ制御に重畳しても良い。
【0054】
第四の実施例として、上下2段で検出した画像の合成方法について示す。
図7の上部に示す図は、観察対象となるデバイス構造の一例の断面を示したものである。パターン101は上部にあるライン形状のパターンであり、その下にテーパ付きのホールパターンを有する膜102があり、その下層に膜103がある。このデバイス構造をトップから上検出器28(a)で観察すると、
図7(a)に示す様に下層103のコントラストが明るい画像が得られる。これは2次電子制限板31を用いて高角成分の2次電子(a)を選択的に検出した結果であり、底部分103は高角方向に放出される2次電子を多く含むためである。一方、下検出器28(b)で検出すると、
図7(b)に示すように逆にトップ部分101のコントラストが強調される。これはライン部から放出された2次電子が低角成分を多く含むためである。ここで中間層102のテーパと下層103との境界の輪郭を観察したい場合、ライン101のコントラストは必要の無い余計な情報である。そこで
図7(a)と
図7(b)におけるライン部101の明るさが同じになるように画像明るさを乗除算し、その状態で
図7(a)から
図7(b)を減算する。即ち、画像の特定部位のコントラストを相殺するようにして合成画像を形成する。すると、
図7(c)に示すようにライン部101のコントラストを消去した画像を得ることができる。この画像ではライン部101のコントラストが無いため、所望の観察位置である中間層102と下層103との境界部における明るさのダイナミックレンジを広げることができ、精度の良い観察が可能となる。画像取得中に合成画像の明るさを調整できるようにしておけば、ダイナミックレンジを最適化して合成画像を取得することができる。
【0055】
なお、上述の実施例では変換電極を用いて、試料から放出された電子を三次電子に変換した上で検出する例を説明したが、変換電極に代えて、MCP(Multi Channel Plate)検出器のような試料から放出された電子を直接検出する検出器であっても良い。この場合、下段に配置される検出器は、低角成分を遮断する遮断部材となる。
【0056】
上記実施例によれば、2次電子の軌道を制御して2次電子制限板を用いたときの検出効率を一定に保ち、イメージシフトを使用しても常に同等の画像を得ることが可能になる。また、2次電子制限板の上段に配置されたエネルギーフィルタに対して2次電子が一定の角度で進入できるようになるため、エネルギー分解能を一定に保って画像を安定に取得することができるようになる。