(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面に基づいて、本発明の実施の形態を説明する。なお、本発明の実施の態様は、後述する実施例に限定されるものではなく、その技術思想の範囲において、種々の変形が可能である。
【0013】
〔実施例1〕
本実施例では、測定結果に影響を与えるような異物反応の有無を判定する機能、すなわち測定結果が正常か否かを判定する機能を搭載する自動分析装置の基本構成と判定原理の概略を説明する。
【0014】
図1に、反応液の散乱光を測定し、その時間変化に基づいて物質濃度を定量する自動分析装置の概略構成を示す。なお、
図1に示す自動分析装置の構成は、本明細書で提案する発明の基本概念を説明するためのみに用いられる。
【0015】
自動分析装置は、サンプルと試薬を混合させた反応液7を収めるセル8をその円周上に保持し、回転と停止を繰り返す反応ディスク9と、セル8に光を照射する光源160と、反応液7から発生した散乱光を異なる受光角度で受光する2つの受光器161、162と、2つの受光器161、162から出力される光量データを一定時間ごとに取得し、反応過程データとして出力する散乱光測定回路25と、受光器161により測定された反応液の反応過程データを処理し、反応液内の物質濃度を定量する第1のデータ処理部261と、2つの受光器161、162で測定された2つの反応過程データの演算値の比に基づいて、物質濃度の定量結果が正常か否かを判定する第2のデータ処理部262とを有している。
【0016】
なお、自動分析装置には、反応ディスク9の回転、散乱光測定部16(光源160、受光器161、162)の発光と受光を制御する制御回路23が設けられている。また、自動分析装置は、第1のデータ処理部261と第2のデータ処理部262を内蔵するデータ処理部26を有している。因みに、制御回路23及びデータ処理部26は、制御モジュールとして構成しても良いし、処理プログラムを実行するコンピュータとして構成しても良い。
【0017】
本実施例で説明する自動分析装置は、反応液7に対して照射される光の照射方向(光軸)とは異なる角度で散乱光を受光する2つの受光器161、162を有し、これら2つの受光器161、162で測定された2つの反応過程データの演算値の比に基づいて、物質濃度の定量結果が正常であるか否かを判定する機能を有することを特徴とする。この機能を用いることにより、実施例に係る自動分析装置は、異物反応による影響が仮にあったとしても、定量結果に異物反応の影響が及んでいることを作業者に提供することができる。
【0018】
なお、2つの反応過程データの演算値には、キャリブレーション前の演算値を用いることが望ましい。この場合、有効数字の影響などを受けずに定量値をチェックをすることができる。
【0019】
以下では、異なる受光角度で散乱光を受光する受光器161、162を設ける理由を説明する。ラテックス粒子による凝集体と、反応液中に含まれる異物は、その材質と大きさが異なっている。自動分析装置の試薬に含まれるラテックス粒子の材質はポリスチレンが多く、その粒径は0.1〜0.3μm程度であると考えられる。なお、粒径の測定には、例えば動的散乱光法、レーザ回折法、遠心沈降法、FFF法、電気的検知体法など様々な方法を用いることができる。測定する物質の濃度が低濃度であれば、ラテックス粒子による凝集体の大きさは平均的にはほとんど変わらず、その粒径は0.1〜0.3μm程度であるとみなすことができる。
【0020】
反応液中の異物の材質は不明であるが溶存酸素の場合は気体であり、その他の場合はポリスチレンと同様の屈折率を持つとみなしてかまわない。異物の大きさは、ラテックス粒子よりも少ないにもかかわらず同程度の光量として検知されることから概ね数μm程度の大きさを持つと考えられる。
【0021】
散乱光測定法による測定では、特にラテックス粒子による凝集体と、反応液中の異物の大きさの違いが重要である。
【0022】
図2に、水中に存在するポリスチレンの単一粒子(屈折率1.59)に波長700nmの光を照射した際に発せられる散乱光量の粒径依存性を、空気中換算角度15°、20°、25°、30°、35°の受光角度ごとに示す。受光角度とは、照射光の光軸に対する角度で定義される。これらの計算は、Mie散乱理論を用いて計算した。Mie散乱理論は、例えば非特許文献1に記載されている。
【0023】
Mie散乱理論では、散乱体の粒径が大きいほど、散乱光はより前方(照射光進行方向)に概ね集まる性質が知られている。そのため、粒径が同一の場合、受光される散乱光量は、受光角度が小さくなるほど大きくなる傾向にある。ラテックス粒子を含む反応液からの散乱光量は、簡単に言うと、単一のラテックス粒子からの散乱光量の重ね合わせと考えることができる。このため、反応液中に存在する多数個の粒子からの散乱光を受光する場合にも、その散乱光量は、受光角度が小さくなるほど大きくなると推測することができる。
【0024】
この受光角度依存性に着目し、本実施例では、受光器161の受光角度を20°、受光器162の受光角度を30°とする場合について、各受光器で受光される散乱光量の比と粒径との関係を検証する。
【0025】
図3に、受光角度が30°の受光器162に対応する演算値を、受光角度が20°の受光器161に対応する演算値で除算した値(以下、「30°/20°比」という。)と粒径との関係を示す。
図3のうち0.6μm以下の30°/20°比と粒径との関係を
図4に示す。
【0026】
図3から分かるように、粒径が10μm以下の範囲では、30°/20°比は散乱体の粒径が大きくなると概して小さくなる傾向にある。反応液中の粒子が気泡でも、ラテックス粒子等でも、本範囲では、同様の性質を示す。そして、
図3より、異物反応(数μm程度の大きさを持つと考えられる粒子による反応)についての30°/20°比は、概ね0.5以下と推測することができる。
【0027】
一方、
図4に示すように、ラテックス粒子の凝集体(粒径はおおよそ0.1〜0.3μm程度であるとみなすことができる)についての30°/20°比は、概ね0.9−0.5程度と推測することができる。
【0028】
ここで、2つの受光器161、162は、セル8の同じ透過面を通過した散乱光を受光することが望ましい。2つの受光器161、162が、セル8の異なる透過面を通過した散乱光を受光したのでは、透過面のばらつきの影響が測定結果に現れるためである。同じ透過面を通過するという条件を満たすためには、2つの受光器161、162の受光角度は、概ね35°以下の範囲で選択することが望ましい。この角度条件を満たす場合、2つの受光器161、162において、セル8の異なる面を透過した散乱光が検出されることはない。結果的に、測定結果の良否判定の精度を向上することができる。なお、本実施例における2つの受光角度は一例であり、受光角度が3つ以上の場合にも適用できる。
【0029】
第1のデータ処理部261は、ある受光角度で取得した反応過程データから一定時間の間に生じた変化量を演算値として算出し、この演算値に基づいて測定対象物質の濃度を定量する。本実施例では、受光器161で測定された反応過程データを処理対象とする。
【0030】
第2のデータ処理部262は、2つの受光角度について取得した反応過程データのそれぞれについて演算値を算出し、それら2つの演算値の比を演算値比として算出する。ここでの演算値比は、散乱光量の比と同じ傾向を示す。
【0031】
本実施例における第2のデータ処理部262は、受光角度が30°の場合の演算値と受光角度が20°場合の演算値比(30°/20°比)を所定の閾値(本実施例の場合、最大値と最小値の2つ)と比較し、異物からの散乱光の影響が大きいか否かを判定する。すなわち、測定された散乱光量がラテックス粒子からの散乱光に起因するものか、異物からの散乱光に起因するものかを判定する。
【0032】
具体的には、30°/20°の演算値比が0.5より大きい場合、定量された濃度は異物からの散乱光の影響を受けていないと判定される。一方、30°/20°の演算値比が0.5より小さい場合、定量された濃度は異物からの散乱光の影響を受けていると判定される。
【0033】
ここで、異物からの散乱光の影響が大きいと判定された場合、第2のデータ処理部262又は制御回路23は、例えばその旨を示すアラームを不図示の出力装置を通じて出力する。アラームの出力形態には、文字や画像による方法、音による方法、警告ランプ等の点灯・点滅等による方法がある。
【0034】
本実施例に係る自動分析装置を用いれば、定量された濃度に異物反応による影響が含まれるか否かを判定できるため、測定対象物質の濃度を散乱光測定法により高精度に定量することができる。
【0035】
〔実施例2〕
[装置構成]
以下では、実施例1の測定原理を応用した自動分析装置の具体例を説明する。本実施例では、セル8の照射方向に対して概ね20°と30°の方向に出力された散乱光の測定光量に基づいて、濃度の定量や正常・異常の判定を実行する自動分析装置について説明する。
【0036】
なお、本実施例における自動分析装置は、各受光角度に対応する散乱光を測定した反応過程データから算出される演算値比により定量結果が正しいか否かを画面表示する機能を備えている。
【0037】
図5は、本実施例に係る自動分析装置の全体構成例を示している。
図5と
図1との対応部分には、同一符号を付して示している。
【0038】
本実施例に係る自動分析装置は、サンプルディスク3、試薬ディスク6、反応ディスク9の3種類のディスクと、これらのディスク間でサンプルや試薬を移動させる分注機構、これらを制御する制御回路23、反応液の吸光度を測定する吸光度測定回路24、反応液からの散乱光を測定する散乱光測定回路25、各測定回路で測定されたデータを処理するデータ処理部26、データ処理部26とのインタフェースである入力部27及び出力部28で構成される。
【0039】
なお、データ処理部26は、データ格納部2601と解析部2602で構成される。実施例1における第1のデータ処理部261及び第2のデータ処理部262は、解析部2602の機能の一部を構成する。データ格納部2601には、制御データ、測定データ、データ解析に用いるデータ、解析結果データ等が格納される。入力部27及び出力部28は、データ格納部2601との間でデータを入出力する。
図5の例では、入力部27がキーボードの場合を表しているが、タッチパネル、テンキーその他の入力装置でも良い。
【0040】
サンプルディスク3の円周上には、サンプル1の収容容器であるサンプルカップ2が複数配置される。サンプル1は例えば血液である。試薬ディスク6の円周上には、試薬4の収容容器である試薬ボトル5が複数配置される。反応ディスク9の円周上には、サンプル1と試薬4を混合させた反応液7の収容容器であるセル8が複数配置される。
【0041】
サンプル分注機構10は、サンプルカップ2からセル8にサンプル1を一定量移動させる際に使用する機構である。サンプル分注機構10は、例えば溶液を吐出又は吸引するノズルと、ノズルを所定位置に位置決め及び搬送するロボット、溶液をノズルから吐出又はノズルに吸引するポンプで構成される。試薬分注機構11は、試薬ボトル5からセル8に試薬4を一定量移動させる際に使用する機構である。試薬分注機構11も、例えば溶液を吐出又は吸引するノズルと、ノズルを所定位置に位置決め及び搬送するロボット、溶液をノズルから吐出又はノズルに吸引するポンプで構成される。
【0042】
攪拌部12は、セル8内で、サンプル1と試薬4を攪拌し混合させる機構部である。洗浄部14は、分析処理が終了したセル8から反応液7を排出し、その後、セル8を洗浄する機構部である。洗浄終了後のセル8には、再び、サンプル分注機構10から次のサンプル1が分注され、試薬分注機構11から新しい試薬4が分注され、別の反応処理に使用される。
【0043】
反応ディスク9において、セル8は、温度及び流量が制御された恒温槽内の恒温流体15に浸漬されている。このため、セル8及びその中の反応液7は、反応ディスク9による移動中も、その温度は一定温度に保たれる。本実施例の場合、恒温流体15として水を使用し、その温度は制御回路23により37±0.1℃に温度調整される。勿論、恒温流体15として使用する媒体や温度は一例である。
反応ディスク9の円周上の一部には、吸光度測定部13と散乱光測定部16が配置される。
【0044】
図6は、吸光度測定部13の構成例を示している。
図6に示す吸光度測定部13は、ハロゲンランプ光源31から射出された光をセル8に照射し、セル8を透過した光32を回折格子33で分光し、フォトダイオードアレイ34で受光する構造を有している。フォトダイオードアレイ34で受光する波長は、340nm、405nm、450nm、480nm、505nm、546nm、570nm、600nm、660nm、700nm、750nm、800nmである。これら受光器による受光信号は、吸光度測定回路13を通じ、データ処理部26のデータ格納部2601に送信される。ここで、吸光度測定回路13は、一定期間毎に各波長域の受光信号を取得し、取得された光量値をデータ処理部26に出力する。
【0045】
図7は、散乱光測定部16の構成例を示している。本実施例の場合、光源17には、例えばLED光源ユニット等を使用する。LED光源ユニットから射出された照射光18は、その光路上に位置するセル8に照射され、セル8を透過した透過光19が透過光受光器20において受光される。照射光の波長には、例えば700nmを使用する。本実施例では、光源17としてLED光源ユニットを使用したが、レーザ光源、キセノンランプ、ハロゲンランプ等を用いても良い。
【0046】
散乱光測定部16は、照射光18又は透過光19の光軸に対し、空気中において角度20°だけ離れた方向の散乱光21aを散乱光受光器22aで受光する。また、散乱光測定部16は、照射光18又は透過光19の光軸に対し、空気中において角度30°だけ離れた方向の散乱光21bを散乱光受光器22bで受光する。散乱光受光器22a及び22bは、例えばフォトダイオードで構成する。これら散乱光受光器22a、22bの受光信号は、散乱光測定回路16を通じ、データ処理部26のデータ格納部2601に送信される。散乱光測定回路16も、一定期間毎に受光角度が異なる2つの受光信号を取得し、取得された光量値をデータ処理部26に出力する。
【0047】
散乱光受光器22a及び22bは、反応ディスク9の回転によるセル8の移動方向に対して概ね垂直である面内に配置される。ここでは、受光角度の基準位置(散乱の起点)を、セル8内を通過する光の光路の中央部に設定している。
【0048】
図7では、受光角度20°と30°にそれぞれ対応するように散乱受光器22a及び22bを配置する場合について説明したが、受光器を内部に多数保持する単体のリニアアレイを配置し、複数角度の散乱光を一度に受光する構成であってもよい。リニアアレイを用いることにより、受光角度の選択肢を広げることができる。また、受光器でなく、ファイバやレンズなどの光学系を配置し、別位置に配置された散乱光受光器に光を導いても良い。
【0049】
[被測定物質の濃度測定と測定結果の正常/異常判定]
サンプル1に含まれる被測定物質の濃度の定量は、次の手順により行われる。まず、制御回路23は、洗浄部14において、セル8を洗浄する。次に、制御回路23は、サンプル分注機構10により、サンプルカップ2内のサンプル1をセル8に一定量分注する。次に、制御回路23は、試薬分注機構11により、試薬ボトル5内の試薬4をセル8に一定量分注する。
【0050】
各溶液の分注時、制御回路23は、それぞれに対応する駆動部により、サンプルディスク3、試薬ディスク6、反応ディスク9を回転駆動させる。この際、サンプルカップ2、試薬ボトル5、セル8は、それぞれに対応する分注機構の駆動タイミングに応じ、所定の分注位置に位置決めされる。
【0051】
続いて、制御回路23は、攪拌部12を制御して、セル8内に分注されたサンプル1と試薬4とを攪拌し、反応液7を生成する。反応ディスク9の回転により、反応液7を収容するセル8は、吸光度測定部13が配置された測定位置と散乱光測定部16が配置された測定位置をそれぞれ通過する。測定位置を通過するたび、反応液7からの透過光又は散乱光は、それぞれ対応する吸光度測定部13及び散乱光測定部16を介して測定される。本実施例の場合、各測定時間は約10分である。吸光度測定部13及び散乱光測定部16による測定データはデータ格納部2601に順次出力され、反応過程データとして蓄積される。
【0052】
この反応過程データの蓄積の間、必要であれば、別の試薬4を試薬分注機構11によりセル8に追加で分注し、攪拌部12により攪拌し、さらに一定時間測定する。これにより、一定の時間間隔で取得された反応過程データが、データ格納部2601に格納される。
【0053】
図8に、反応過程データの一例を示す。
図8の横軸に示す測光ポイントは、反応過程データが測定された順番を表している。一方、
図8の縦軸は散乱光測定回路25により測定された散乱光量を示している。
図8は、ある受光角度に対応する反応過程データを表しているが、本実施例に係る散乱光測定回路25からは、受光角度20°に対応する反応過程データと受光角度30°に対応する反応過程データが別々に出力される。
【0054】
解析部2602は、不図示の分析設定画面を通じて指定される一定時間内の光量変化を演算値として算出する。ここで、演算値の算出に使用される一定期間は、測光ポイントの中から演算開始ポイントと演算終了ポイントを指定することで規定される。なお、演算値は、演算開始ポイントにおける光量と演算終了ポイントにおける光量の差分として計算される。
【0055】
データ格納部2601には、ここでの演算値と被測定物質濃度の関係を示す検量線データが予め保持されている。解析部2602は、計算された演算値と検量線データとを照合し、被測定物質の濃度を定量する。定量された濃度値は出力部28を通じて表示される。
【0056】
また、解析部2602は、受光角度30°における演算値を受光角度20°における演算値で除算した値を散乱光強度比として算出し、当該散乱光強度比が所定の条件を満たす場合、定量結果は正常に測定された値であると判定する。
【0057】
一方、解析部2602は、算出された散乱光強度比が所定の条件を満たさない場合、定量結果は異物反応の影響を含む測定異常であると判定する。判定結果も、データ格納部2601に格納される。
【0058】
なお、各部の制御・分析に必要なデータは、入力部27からデータ格納部2601に入力される。データ格納部2601に格納された各種のデータ、測定結果、分析結果、アラーム等は出力部28により表示される。
【0059】
[分析設定画面]
図9に、分析設定画面の一例を示す。ユーザーは、分析設定画面901を使用し、測定項目902ごとに、濃度定量角度903、分注条件904、演算条件905、アラーム条件906を設定する。
図9は、測定項目902がCRP(C反応性蛋白)の場合を表している。また、
図9は、濃度定量角度903が30°の場合を表している。また、
図9は、分注条件904として、サンプル量に2μL、第一試薬に180μL、第二試薬に60μLが設定された場合を表している。
【0060】
また、
図9は、演算条件905として、演算開始ポイントが20番目の測定ポイント、演算終了ポイントが第34番目の測定ポイントに設定された場合を表している。従って、
図9の場合、解析部2602は、20番目の測定ポイントから34番目の測定ポイントまでの一定時間内の反応に伴って測定される光量の変化から演算値を求める。
【0061】
また、
図9は、アラーム条件906として、演算値の定量下限値を「20」、散乱光強度比の最小値を「0.5」、散乱光強度比の最大値を「0.8」に設定した例を表している。従って、
図9の場合、算出された演算値が例えば「15」の場合、正常範囲の値ではないと解析部2602により判定される。
【0062】
なお、アラーム条件906として、演算値についての定量下限を設定したのは、以下の理由による。演算値が定量下限以下になるような測定状況では、測定値自体もばらつきが生じ易く、算出される散乱光強度比(すなわち、演算値の比)もばらつくためである。そこで、アラームを出力するか否かの判定は、定量下限を超える演算値が算出される場合に適用した。また、
図9では、散乱光強度比が正常である範囲の上限を与える最大値を「0.8」に設定しているが、当該値は「0.9」でも良い。
【0063】
アラーム条件906の正常範囲を与える数値は、試薬ごとに試薬メーカにより推奨されたパラメータを参考に、ユーザーが手入力してもよい。また、自動分析装置側にアラーム条件を自動的に設定する機能を設け、試薬ごとに試薬メーカが推奨する値等を予め自動的に設定しても良い。
【0064】
なお、ユーザーは、不図示の別画面を通じ、測定したい血液のサンプル番号とサンプルディスク中のサンプルポジションの対応関係を指定すると共に、検査項目も指定する。
【0065】
[自動分析装置の処理動作]
図10に、本実施例に係る自動分析装置において実行される処理動作の一例を示す。
図10は、自動分析装置による濃度の測定開始から定量結果が表示されるまでの一連の処理動作を表している。
【0066】
前処理として、制御回路23は、分析条件や検査項目が設定されたか否かを判定する。分析条件や検査項目の設定が確認されると、制御回路23は、自動分析装置の各部を制御し、ユーザーにより指定された所定のサンプル濃度の測定を開始する(ステップS1001)。測定の開始と共に、受光角度別に散乱光強度が測定され、測定された散乱光強度が時系列データ(すなわち、反応過程データ)としてデータ格納部2601に保存される。
【0067】
次に、解析部2602は、反応過程データから所定の測定ポイントを読み出して光量差を計算し、演算値として出力する(ステップS1002)。この演算値もデータ格納部2601に保存される。また、解析部2602は、計算された演算値と検量線データとを照合し、被測定物質の濃度を定量する。
【0068】
この後、解析部2602は、演算値が定量下限以下か否かを判定する(ステップS1003)。演算値が定量下限以下であった場合、解析部2602は、出力部28を通じ、定量結果とともに定量下限以下である旨を画面表示する(ステップS1004)。
【0069】
一方、演算値が定量下限超であった場合、解析部2602は、第一受光角度(例えば20°)の演算値と第二受光角度(例えば30°)の演算値の比(散乱光強度比)を計算し、演算値比(散乱光強度比)が正常範囲内か否かを判定する(ステップS1005)。この実施例の場合、演算値比(散乱光強度比)は、受光角度30°に対応する演算値を、受光角度20°に対応する演算値で除算することにより算出する。
【0070】
演算値比(散乱光強度比)が正常範囲内の場合、解析部2602は、出力部28を通じ、定量結果を画面表示する。なお、定量結果に異物反応の影響が含まれない旨や演算値比(散乱光強度比)についても、同時に画面表示しても良い。
【0071】
これに対し、演算値比(散乱光強度比)が正常範囲外の場合、解析部2602は、定量結果と共に定量結果に異物反応の影響が含まれることを示すアラームを表示する。
【0072】
[結果表示画面]
図11に、結果表示画面の一例を示す。結果表示画面1101は、サンプル番号1102、サンプルポジション1103、定量結果1104、結果詳細1105で構成される。
図11の場合、サンプル番号1102は「3125」であり、サンプルディスク上の位置を与えるサンプルポジション1103は「25」であることを示している。
【0073】
なお、定量結果1104は、検査項目、定量結果値、アラームを表示項目として有している。本実施例では、検査項目が「CRP」であり、定量結果値が「0.5mg/dL」であることが示されている。また、濃度測定に使用した受光角度が30°であることも示されている。また、この定量結果は、異物反応の影響を含む異常測定であるため、アラームの報知欄には「!」が表示されている。アラームは、演算値が定量下限以下の場合だけでなく、散乱光強度比が正常範囲に存在しない場合にも表示される。勿論、アラームの表示には、別の記号やマークを使用しても良い。
【0074】
アラームの報知欄には、例えば「定量下限以下」、「角度比異常」、「異物反応影響あり」など具体的な言葉で示しても良い。この表示形態により、アラームの内容を定量的かつ分かりやすく表示することができる。結果的に、ユーザーは、なぜアラームが表示されたかを具体的に理解し易くなる。なお、定量結果値が正常測定により得られた場合には、このアラームの報知欄は空白でも良いし、例えば「正常」など具体的な言葉で示しても良い。
【0075】
結果詳細1105には、アラーム種別とその結果(内容)が表示項目として示される。
図11は、アラーム種別が「演算値比」に基づくことを表しており、具体的には、演算値が「0.13」であることを表している。勿論、アラームの原因が「定量下限以下」の場合には、「定量下限以下」との表示と共に、その際に算出された演算値が表示される。
【0076】
[正常範囲の説明]
最後に、具体的な測定結果について正常範囲内にある反応と正常範囲外の反応との関係を示す。
図12に、サンプル中に含まれるCRP濃度が一定範囲で異なる全60回の反応について、20°の演算値と、30°/20°演算値比(散乱光強度比)の関係を示す。
図12は横軸が受光角度20°に対応する演算値であり、縦軸が散乱光強度比である。なお、グラフ中のマークは個々の反応を表している。
【0077】
図12の場合には、定量下限を20°演算値の「20」に定めている。従って、演算値が「20」以下の反応(図中、演算値の「20」より左側にマッピングされた反応は、定量下限以下としてアラームの表示対象となる。一方、演算値が「20」を超える場合でも、演算値比(散乱光強度比)が正常とみなされる範囲は、
図12の場合、2本の閾値線で挟まれた0.5から0.9の範囲である。従って、
図12の例は、演算値の比(散乱光強度比)が正常範囲からはずれる反応が2つあることを表している。
【0078】
以上の実施例に係る自動分析装置を用いれば、散乱光測定法により定量された結果が、測定値として信頼性が高いか否かをユーザーに通知することができる。これにより、信頼性の低い定量結果が得られたサンプルについては再測定を実行すること等により、信頼性を一段と向上させることができる。
【0079】
また、本実施例の場合には、画面表示を通じて、アラームが出力される原因の種別やその際の測定結果等を画面上で確認することができる。この機能の搭載により、ユーザーは、アラームが出力された原因を確認することができる。
【0080】
〔他の実施例〕
本発明は上述した実施例に限定されるものでなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上述した実施例は、本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部に他の構成を追加、又は構成の一部を削除、又は構成の一部を他の構成に置換することも可能である。
【0081】
また、上述した各構成、機能、処理部、処理手段等は、それらの一部又は全部を、例えば集積回路その他のハードウェアとして実現しても良い。また、上記の各構成、機能等は、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することにより実現しても良い。すなわち、ソフトウェアとして実現しても良い。各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、メモリやハードディスク、SSD(Solid State Drive)等の記憶装置、ICカード、SDカード、DVD等の記憶媒体に格納することができる。
【0082】
また、制御線や情報線は、説明上必要と考えられるものを示すものであり、製品上必要な全ての制御線や情報線を表すものでない。実際にはほとんど全ての構成が相互に接続されていると考えて良い。