特許第5948334号(P5948334)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5948334界面活性剤被覆半水石膏およびその製造方法
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  • 特許5948334-界面活性剤被覆半水石膏およびその製造方法 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5948334
(24)【登録日】2016年6月10日
(45)【発行日】2016年7月6日
(54)【発明の名称】界面活性剤被覆半水石膏およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 11/00 20060101AFI20160623BHJP
   C04B 11/26 20060101ALI20160623BHJP
   C01F 11/46 20060101ALI20160623BHJP
【FI】
   C04B11/00
   C04B11/26
   C01F11/46 D
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-532540(P2013-532540)
(86)(22)【出願日】2012年8月21日
(86)【国際出願番号】JP2012071525
(87)【国際公開番号】WO2013035563
(87)【国際公開日】20130314
【審査請求日】2015年4月6日
(31)【優先権主張番号】特願2011-196205(P2011-196205)
(32)【優先日】2011年9月8日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(74)【代理人】
【識別番号】100080609
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 正孝
(74)【代理人】
【識別番号】100109287
【弁理士】
【氏名又は名称】白石 泰三
(74)【代理人】
【識別番号】100122404
【弁理士】
【氏名又は名称】勝又 秀夫
(72)【発明者】
【氏名】平中 晋吾
(72)【発明者】
【氏名】加藤 弘義
【審査官】 粟野 正明
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭53−011928(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/001538(WO,A1)
【文献】 特表2008−546618(JP,A)
【文献】 特表2006−521276(JP,A)
【文献】 特開平05−177124(JP,A)
【文献】 特開昭61−295233(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 11/00−11/30
C04B 28/14
B01J 2/00
B28C 1/00− 9/04
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半水石膏100重量部に対して0.01〜1重量部の被覆量で界面活性剤が被覆している界面活性剤被覆半水石膏であって、
該界面活性剤被覆半水石膏を300℃まで加熱したときの界面活性剤の残存割合が加熱前の40重量%以上であることを特徴とする、前記界面活性剤被覆半水石膏。
【請求項2】
上記界面活性剤の被覆量が半水石膏100重量部に対して0.1〜0.6重量部である、請求項1に記載の界面活性剤被覆半水石膏。
【請求項3】
上記界面活性剤が、ポリオキシアルキレンの硫酸エステル、高級脂肪酸のアルカリ金属塩、グリセリンの脂肪酸エステルおよびポリオキシアルキレン系非イオン性界面活性剤よりなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1または2に記載の界面活性剤被覆半水石膏。
【請求項4】
累積細孔容積が0.5mL/g以下である、請求項1または2に記載の界面活性剤被覆半水石膏。
【請求項5】
請求項1に記載の界面活性剤被覆半水石膏の製造方法であって、
少なくとも二水石膏と界面活性剤とを含有する組成物を110〜200℃で加熱する工程を経ることを特徴とする、前記方法。
【請求項6】
上記二水石膏が、天然石膏、排煙脱硫石膏および晶析工程を経た回収二水石膏よりなる群から選択される少なくとも1種である、請求項5に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、界面活性剤被覆半水石膏およびその製造方法に関する。さらに詳しくは、半水石膏の表面に界面活性剤が強く吸着し、界面活性剤を添加することの効果が最大限に発揮される界面活性剤被覆半水石膏およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半水石膏は、これを水と混合して半水石膏スラリーにすると水和して二水石膏として容易に硬化するため、石膏ボード、医学用ギブスなどの原料として広く用いられている。
半水石膏を水と混合すると、有意の誘導期間を経た後、発熱を伴って水和反応が始まり、徐々に硬化する。誘導期間の長さおよび水和反応の終了までに要する時間の長さは、原料である半水石膏の粒径、水との混合比、添加剤の有無などによって区々である。例えば試薬の半水石膏と水とを1:2の割合(重量比)で混合して実験室的に水和反応を行った場合には、誘導期間が十数分程度、水和反応が終了するまで1時間から2時間程度である。
水和の反応速度が速いほど、硬化時間が短くなって生産効率が向上するため、半水石膏の硬化は水和反応促進剤を添加して行われるのが通常である。前記水和反応促進剤としては、例えば硫酸のアルカリ金属塩が用いられている。
水和反応促進剤を配合した半水石膏スラリーは、誘導期間および硬化時間の双方が短縮される。つまり、硬化時間を短くするために水和反応促進剤を添加すると、硬化時間とともに誘導期間が連動して短縮されてしまうため、型枠への流し込み作業のために十分な程度に長い誘導時間と、作業効率の観点から十分に短い硬化時間とを両立することは、原理的に不可能である。さらに公知の水和反応促進剤は、ごく微量だけ添加してもその効果は発現せず、ある一定量を添加した場合に急激に効果が発現する。そのため、水和反応促進剤の添加量を変量することによって、誘導期間を、例えば5〜10分程度に調整することは、現実には極めて困難である。
ところで、半水石膏を硬化する際には、初期スラリーの流動性を確保するために一定量の水を加える必要がある。このとき、スラリー中の水の割合と、硬化物が完全に乾燥するまでの時間とが相関することは周知である。硬化物から蒸発除去すべき水の量が5重量%異なれば工程コストが大きく異なる。従って、スラリー中の水の割合をできるだけ少なくすることが要請される。しかしながら、スラリー中の水量を低減するとスラリーの流動性が損なわれることから、スラリー中の水量の低減には限界がある。
このように、型枠への流し込み作業の便宜の点で好適な数分程度の誘導期間と、作業効率の向上のために好適な数十分程度の短い硬化時間とを示し、さらにスラリー中の水量を減じても高い流動性を示す半水石膏は、従来知られていない。
【発明の概要】
【0003】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたものである。本発明の目的は、半水石膏と水とを混合して石膏スラリーとした後、型枠への流し込み作業のために十分な程度に長い誘導時間と、作業効率の観点から十分に短い硬化時間とが両立された半水石膏を提供することにある。
本発明の別の目的は、スラリー中の水の割合を低減しても十分な流動性を有するスラリーを与える半水石膏を提供することにある。
本発明のさらに別の目的は、上記のような半水石膏の製造方法を提供することにある。
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した。その結果、使用される界面活性剤の少なくとも一定の割合が、半水石膏表面上に強く吸着することによって、界面活性剤の効果が最大限に発揮されて、石膏スラリーの流動性および硬化挙動に良い影響を及ぼすことを見出して、本発明に到達した。
すなわち本発明の上記目的は、第1に、
半水石膏100重量部に対して0.01〜1重量部の被覆量で界面活性剤が被覆している界面活性剤被覆半水石膏であって、
該界面活性剤被覆半水石膏を300℃まで加熱したときの界面活性剤の残存割合が加熱前の40重量%以上であることを特徴とする、前記界面活性剤被覆半水石膏によって達成される。
本発明の上記目的は、第2に、
少なくとも二水石膏と界面活性剤とを含有する組成物を、110〜200℃で加熱する工程を経る、上記界面活性剤被覆半水石膏の製造方法によって達成される。
【図面の簡単な説明】
【0004】
図1は、比較例1で測定した水和発熱速度の経時変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0005】
<界面活性剤被覆半水石膏>
本発明の界面活性剤被覆半水石膏は、
半水石膏100重量部に対して0.01〜1重量部の被覆量で界面活性剤が被覆している界面活性剤被覆半水石膏であって、
被覆した界面活性剤のうちの少なくとも一定の割合は、半水石膏表面上に強く吸着している。
本発明の界面活性剤被覆半水石膏における界面活性剤の種類としては、例えばポリオキシアルキレンの硫酸エステル、高級脂肪酸のアルカリ金属塩、グリセリンの脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレン系非イオン性界面活性剤などを挙げることができ、これらのうちから選択される少なくとも1種であることができる。
上記ポリオキシアルキレンの硫酸エステルとしては、ポリオキシエチレンの硫酸エステルが好ましく、例えば下記式(S1)
O−(CHCHO)−SO (S1)
(上記式(S1)において、Rは炭素数12〜18のアルキル基であり、Mはアルカリ金属イオンまたは第3級アンモニウムイオンであり、mは2〜30の整数である。)
で表される界面活性剤を挙げることができる。上記アルカリ金属イオンとしてはナトリウムイオンが、上記第3級アンモニウムイオンとしてはNH(CHCHOH)が、それぞれ好ましい。上記式(S1)で表される界面活性剤の例としては、例えばポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸トリエタノールアミンなどを挙げることができる。これら化合物におけるアルキル基としては、例えばラウリル基、ステアリル基、オレイル基などを挙げることができる。このようなポリオキシアルキレンの硫酸エステルの市販品としては、例えば花王(株)製のエマール20C、エマールE−27C、エマール270J、エマール20CM、エマールD−3−D、エマールD−4−D、エマール20T、ラテムルE−118B、ラテムルE−150、ラテムルWX、レベノールWXなどを挙げることができる。
上記高級脂肪酸のアルカリ金属塩のうちの高級脂肪酸部分の炭素数は、カルボキシル基の炭素を含めた炭素数として、12〜18であることが好ましい。アルカリ金属としては、ナトリウムが好ましい。このような高級脂肪酸のアルカリ金属塩の具体例としては、例えばステアリン酸ナトリウム、オレイン酸ナトリウムなどを挙げることができる。
上記グリセリンの脂肪酸エステルとしては、モノエステルが好ましい。脂肪酸部分の炭素数は、カルボキシル基の炭素を含めた炭素数として、12〜18であることが好ましい。このようなグリセリン脂肪酸エステルとしては、グリセリンモノステアリン酸エステルなどを挙げることができる。
上記ポリオキシアルキレン系非イオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレン系非イオン性界面活性剤が好ましく、例えば下記式(S2)
O−(CHCHO)−H (S2)
(上記式(S2)において、Rは炭素数12〜18のアルキル基またはフェニル基であり、nは2〜30の整数である。)
で表される界面活性剤を挙げることができる。このような界面活性剤の例としては、例えばポリオキシエチレンモノラウリルエーテル、ポリオキシエチレンモノセチルエーテル、ポリオキシエチレンモノステアリルエーテル、ポリオキシエチレンモノオレイルエーテル、ポリオキシエチレンモノミリスチルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルドデシルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルなどを挙げることができる。このようなポリオキシアルキレン系非イオン性界面活性剤の市販品としては、例えば花王(株)製のエマルゲン102KG、エマルゲン103、エマルゲン104P、エマルゲン105、エマルゲン106、エマルゲン108、エマルゲン109P、エマルゲン120、エマルゲン123P、エマルゲン130K、エマルゲン147、エマルゲン150、エマルゲン210P、エマルゲン220、エマルゲン306P、エマルゲン320P、エマルゲン350、エマルゲン404、エマルゲン408、エマルゲン409PV、エマルゲン420、エマルゲン430、エマルゲン705、エマルゲン707、エマルゲン709、エマルゲン1108、エマルゲン1118S−70、エマルゲン1135S−70、エマルゲン1150S−60、エマルゲン4085、エマルゲン2020G−HA、エマルゲン2025Gなどを挙げることができる。
半水石膏に被覆した上記のような界面活性剤のうちの少なくとも一定の割合が半水石膏表面に強く吸着しているとは、界面活性剤被覆半水石膏を300℃まで加熱したときの界面活性剤の残存割合が加熱前の40重量%以上である場合である。この要件は、熱重量分析(TG/DTA)によって調べることができる。
界面活性剤被覆半水石膏の温度を徐々に上げて行くと、250℃程度から界面活性剤の脱離が始まり、温度上昇とともに吸着力の弱い界面活性剤から順に脱離し、1,000℃程度で脱離がほぼ終了する。本発明者らの検討によると、このとき、250〜300℃までに脱離する吸着力の弱い界面活性剤と、300℃以上で脱離する吸着力の強い界面活性剤とでは、界面活性剤の効果の発現の質ないし程度が異なることが明らかとなった。すなわち、界面活性剤被覆半水石膏において、吸着力の強い界面活性剤が一定量以上被覆している場合に、本発明の所期する効果が発現することが分かったのである。
そこで、界面活性剤被覆半水石膏について熱重量分析を行い、TGチャートから求めた250〜1,000℃の重量減少率R1から界面活性剤の被覆量を知ることができ、そして
上記TGチャートにおける250〜300℃の重量減少率R2を求め、このR2値および上記のR1値を下記数式(1)に代入することにより、界面活性剤被覆半水石膏を300℃まで加熱したときの界面活性剤の残存割合を知ることができる。
残存割合(%)={(R1−R2)÷R1}×100 (1)
界面活性剤被覆半水石膏における界面活性剤の被覆量は、半水石膏(界面活性剤を含まない量)100重量部に対して、0.01〜1重量部であるが、この値は0.1〜0.6重量部であることが好ましい。
界面活性剤被覆半水石膏を300℃まで加熱したときの界面活性剤の残存割合は40重量%以上であるが、この値は50〜80重量%であることが好ましい。
R1値およびR2値を求めるための熱重量分析の条件は、例えば以下のように設定することができる。
昇温速度:20℃/分
パージガス種類:空気
パージガス流速:100mL(STP)/分
本発明の界面活性剤被覆半水石膏は、その累積細孔容積が0.5mL/g以下であることが好ましい。界面活性剤被覆半水石膏の累積細孔容積が上記の範囲であることにより、半水石膏スラリー中の水の割合を少なくしても高い流動性を示すから、硬化物の良好な物性と高い作業効率とを両立することができ、好ましい。界面活性剤被覆半水石膏の累積細孔容積は小さいほど好ましく、より好ましくは0.45mL/g以下であり、さらに好ましくは0.4mL/g以下である。一方で、この値を極めて小さい値にしようとすると、原料の半水石膏の製造コストが過大となる。また、累積細孔容積を過度に小さくしても、物性と作業性とのバランスが無制限に向上するものではない。従って、界面活性剤被覆半水石膏の累積細孔容積の下限値は、0.3mL/g程度とすれば十分である。
界面活性剤被覆半水石膏の累積細孔容積は、市販の水銀圧入式細孔分布測定装置を用いて測定することができる。
<界面活性剤被覆半水石膏の製造方法>
上記のような本発明の界面活性剤被覆半水石膏は、例えば、少なくとも二水石膏と界面活性剤とを含有する組成物を、110〜200℃で加熱する工程を経る方法によって製造することができる。
本発明の界面活性剤被覆半水石膏の原料として用いることのできる二水石膏としては、天然石膏および副生石膏(排煙脱硫石膏)の双方ともを用いることができるほか、廃石膏ボードなどから回収された二水石膏を用いることも可能である。
しかしながら本発明の界面活性剤被覆半水石膏の製造方法においては、廃石膏ボードから回収し、ボード原紙などの異物を除去した後の二水石膏をそのまま用いることは好ましくない。すなわち、廃石膏ボードからの回収二水石膏はその累積細孔容積が大きく、この累積細孔容積は界面活性剤被覆半水石膏にもほぼそのまま維持される。従って本発明の製造方法の原料として回収二水石膏をそのまま用いると、スラリーとしたときの流動性に劣る界面活性剤被覆半水石膏となってしまう。流動性の問題を克服しようとスラリー中の水量を増加すると、得られる硬化物から水を乾燥除去する時間が過大となることとなり、好ましくない。
従って、本発明の界面活性剤被覆半水石膏の原料として廃石膏ボードからの回収二水石膏を用いる場合には、これを焼成して一旦半水石膏とした後、水に溶解し、下記の好ましい粒径および累積細孔容積を有する二水石膏として再結晶させる晶析工程を経たものを使用することが好ましい。
本発明の界面活性剤被覆半水石膏の原料として使用される二水石膏の平均粒径(D50)は、10〜100μmであることが好ましく、20〜60μmであることがより好ましい。本発明の界面活性剤被覆半水石膏の原料として使用される二水石膏の累積細孔容積は、0.5mL/g以下であることが好ましく、0.1〜0.4mL/gであることがより好ましく、さらに0.2〜0.3mL/gであることが好ましい。
少なくとも、上記のような二水石膏と界面活性剤とを含有する組成物は、例えば実質的に粉体状の二水石膏および界面活性剤のみからなるドライなものであってもよく、あるいは二水石膏および界面活性剤のほかに適当な液状媒体をさらに含有するケークであってもよい。
前者のドライな組成物は、例えば粉体状の二水石膏に、界面活性剤を噴霧する方法により製造することができる。
このドライな組成物においては、噴霧した界面活性剤のすべてが組成物中に残存することとなるため、界面活性剤の噴霧量は、得られる界面活性剤被覆半水石膏における所望の界面活性剤の割合から、加熱脱水によって減少する結晶水の重量割合を考慮して計算した値と等しい量とすることができる。
界面活性剤の噴霧は、二水石膏を撹拌しながら行うことが好ましい。このような撹拌下の噴霧は、粉体の表面処理を目的とした公知の適当な混錬機を用いて行うことができる。界面活性剤を噴霧する際の二水石膏の温度としては、好ましくは10〜80℃であり、より好ましくは20〜60℃である、噴霧終了後、好ましくは1〜30分、より好ましくは5〜10分程度撹拌を継続することが好ましい。
一方、後者の二水石膏、界面活性剤および液状媒体を含有するケーク状組成物は、二水石膏、界面活性剤および過剰の液状媒体を含有するスラリーから、過剰の液状媒体を分離することにより、製造することができる。
ここで使用される液状媒体としては、例えば水および有機溶媒を挙げることができ、これらのうちから選択される1種以上を使用することができる。この有機溶媒としては水溶性有機溶媒が好ましく、具体的には例えばメタノール、エタノール、アセトンなどを挙げることができる。これらのうち、使用する界面活性剤のHLB値に応じて、水および有機溶媒のうちから適宜に選択して使用することが好ましい。使用する界面活性剤に適する液状媒体の選択は、当業者にとっては容易である。スラリー中の二水石膏の濃度としては、5〜50重量%とすることが好ましく、20〜40重量%とすることがより好ましい。
ケーク状の組成物においては、使用した界面活性剤のすべてが組成物中に残存する訳ではなく、その一部は液状媒体中に溶解したままろ過により排出されることとなる。従ってケークの場合、得られる界面活性剤被覆半水石膏における界面活性剤の割合から加熱脱水によって減少する結晶水の重量割合を考慮して計算した値だけ使用したのでは、所望値よりも少ない割合の界面活性剤を有する界面活性剤被覆半水石膏しか得られない結果となる。このことを勘案すれば、ケークの場合における界面活性剤の使用割合としては、二水石膏の100重量部に対して、0.1〜10重量部とすることが好ましく、1〜5重量部とすることがより好ましい。
ケークを得るためのスラリーの調製は撹拌下に行うことが好ましい。スラリーの調製温度は好ましくは10〜60℃、より好ましくは20〜40℃であり、撹拌時間は好ましくは1分以上であり、より好ましくは3〜30分であり、さらに5〜10分とすることが好ましい。
このようにして得たスラリーから過剰の液状媒体を分離することにより、ケークを得ることができる。スラリーから過剰の液状媒体を分離するには、例えばロータリースクリーン、ドラムフィルター、ディスクフィルター、ヌッチェフィルター、フィルタープレス、スクリュウプレス、チューブプレスなどのろ別装置;スクリュウデカンター、スクリーンデカンターなどの遠心分離機などにより、液状媒体と分離する方法を採用することができる。
本発明の方法における組成物として後述の加熱工程に供するためのケークは、その固形分濃度が80重量%以上であることが好ましい。
次いで、好ましくはドライまたはケーク状の組成物を、110〜200℃で加熱する工程を経ることにより、本発明の界面活性剤被覆半水石膏を得ることができる。加熱温度としては、120〜160℃とすることが好ましい。加熱時間は10〜120分とすることが好ましく、20〜60分とすることがより好ましい。
このようにして、本発明の界面活性剤被覆半水石膏を得ることができる。
<界面活性剤被覆半水石膏の特徴>
上記のようにして得られた本発明の界面活性剤被覆半水石膏は、水と混合して石膏スラリーとした後、型枠への流し込み作業を余裕を持って行うことができる程度の長い誘導期間を有するとともに、該誘導期間が終了した後は速やかに硬化するから、作業性に極めて優れる。また、本発明の界面活性剤被覆半水石膏は流動性に優れるから、石膏スラリーとする際の水の使用量を低減することができ、このことによって向上された強度の硬化物を得ることができる。
本発明の界面活性剤被覆半水石膏と後述の好ましい割合の水とを混合して得られた石膏スラリーは、水和反応が立ち上がるまでの誘導期間T1が5〜15分であり、さらには5〜10分とすることができる。また、水和反応促進度の指標となる水和発熱速度が最大になるまでの時間T2を、15〜45分とすることができ、さらには20〜40分とすることができる。
このように長い誘導期間と短い水和時間とを示す半水石膏は、従来知られていない。
【実施例】
【0006】
以下の実施例および比較例において、二水石膏としては、和光純薬工業(株)の特級試薬を用いた。
実施例および比較例において得られた石膏の評価方法は、以下のとおりである。
(1)界面活性剤被覆半水石膏における界面活性剤の被覆量
製造した界面活性剤被覆半水石膏における界面活性剤の被覆量は、以下の条件で熱重量分析(TG)を測定し、得られたTGチャートから求めた250〜1,000℃の重量減少率R1を用いて計算により求めた。
使用装置:セイコーインスツル(株)製、TG/DTA6300
昇温速度:20℃/分
パージガス種類:空気
パージガス流速:100mL(STP)/分
(2)300℃まで加熱したときの界面活性剤の残存割合
上記(1)で得たTGチャートから、250〜300℃の重量減少率R2を求め、この値および上記(1)で得た250〜1,000℃の重量減少率R1を上記数式(1)に代入し、計算により求めた。
(3)累積細孔容積
石膏の累積細孔容積は、マイクロメリティックス社製の水銀圧入式細孔分布測定装置「AutoPore IVシリーズ」を用いて測定した。
(4)水和発熱速度
水和発熱速度は、各実施例および比較例で得られた、界面活性剤で被覆された、またはされていない半水石膏1gと水または水溶液2mLとを混合したものを試料とし、(株)東京理工製の双子型伝導微少熱量計を用いて測定した。
測定例として、後述の比較例1で測定した発熱速度−時間曲線を図1に示した。水和発熱速度が大きいほど、水和反応が活発に進行していると判断できる。水和発熱反応速度が立ち上がるまでの時間をT1とし、これを誘導期間の指標とした。また、水和発熱速度が最大になるまでの時間をT2とし、これを水和促進度の指標とした。
比較例1(界面活性剤で被覆されていない半水石膏の例)
二水石膏を120℃の乾燥機中で2時間加熱することにより、半水石膏を得た。得られた半水石膏について測定したT1は12分であり、T2は52分であった。
比較例2(水和反応促進剤として硫酸ナトリウムを添加した従来技術の例)
二水石膏を120℃の乾燥機中で2時間加熱して半水石膏とした。この半水石膏1gおよび濃度0.1mol/Lの硫酸ナトリウム水溶液2mLを混合して測定したT1は1分であり、T2は16分であった。
実施例1(本発明の方法による場合の例)
界面活性剤としてのポリオキシエチレンラウリルエーテル(花王(株)製、エマルゲン108(有効成分約100重量%))1mLを水100mLに溶解した水溶液中に、二水石膏50gを投入し、10分間撹拌した後、ADVANTEC製のNo.5Aろ紙を用いて真空ろ過して二水石膏ケーキを得た。この二水石膏ケーキを120℃の乾燥機中で2時間加熱することにより、界面活性剤被覆半水石膏を得た。
この界面活性剤被覆半水石膏における界面活性剤の被覆量は0.25重量%であり、300℃まで加熱したときの界面活性剤の残存割合は80重量%であった。また、この界面活性剤被覆半水石膏の水和発熱速度を測定したところ、T1が8分であり、T2が27分であった。
実施例2(本発明の方法による場合の例)
上記実施例1において、ポリオキシエチレンラウリルエーテル(花王(株)製、エマルゲン108(有効成分約100重量%))の使用量を5mLとしたほかは実施例1と同様に操作することにより、界面活性剤被覆半水石膏を得た。
この界面活性剤被覆半水石膏における界面活性剤の被覆量、界面活性剤の残存割合、T1およびT2を、表1にそれぞれ示した。
実施例3(本発明の方法による場合の例)
上記実施例1において、ポリオキシエチレンラウリルエーテルの代わりにポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム(花王(株)製、エマール20C(有効成分約25重量%))20mLを使用したほかは実施例1と同様に操作することにより、界面活性剤被覆半水石膏を得た。
この界面活性剤被覆半水石膏における界面活性剤の被覆量、界面活性剤の残存割合、T1およびT2を、表1にそれぞれ示した。
実施例4(本発明の方法による場合の例)
界面活性剤としてのポリオキシエチレン(2)オレイルエーテル(和光純薬工業(株))5mLをエタノール100mLに溶解した溶液中に、二水石膏50gを投入し、10分間撹拌した後、ADVANTEC製のNo.5Aろ紙を用いて真空ろ過して二水石膏ケーキを得た。この二水石膏ケーキを120℃の乾燥機中で2時間加熱することにより、界面活性剤被覆半水石膏を得た。
この界面活性剤被覆半水石膏における界面活性剤の被覆量、界面活性剤の残存割合、T1およびT2を、表1にそれぞれ示した。
比較例3(半水石膏と界面活性剤とを接触した場合の例1)
界面活性剤としてのポリオキシエチレンラウリルエーテル(花王(株)製、エマルゲン108)5mLをエタノール100mLに溶解した溶液中に、比較例1で得た半水石膏40gを投入し、10分間撹拌した後、ADVANTEC製のNo.5Aろ紙を用いて真空ろ過して半水石膏ケーキを得た。得られた半水石膏ケーキを、室温(25℃)、常圧下に24時間静置してエタノールを除去することにより、界面活性剤被覆半水石膏を得た。
この界面活性剤被覆半水石膏における界面活性剤の被覆量、界面活性剤の残存割合、T1およびT2を、表1にそれぞれ示した。
比較例4(半水石膏と界面活性剤とを接触した場合の例2)
界面活性剤としてのポリオキシエチレンラウリルエーテル(花王(株)製、エマルゲン108)5mLをエタノール100mLに溶解した溶液中に、比較例1で得た半水石膏40gを投入し、10分間撹拌した後、ADVANTEC製のNo.5Aろ紙を用いて真空ろ過して半水石膏ケーキを得た。得られた半水石膏ケーキを、室温(25℃)、常圧下に24時間静置してエタノールを除去した後、さらに120℃の乾燥機中で2時間加熱することにより、界面活性剤被覆半水石膏を得た。
この界面活性剤被覆半水石膏における界面活性剤の被覆量、界面活性剤の残存割合、T1およびT2を、表1にそれぞれ示した。
【表1】
以下の実施例および比較例では、半水石膏を水と混合してスラリーとした場合の流動性について調べた。
半水石膏スラリーの流動性は、以下の方法によって測定したフロー値を140mmとするために必要であった水の割合(混水量、半水石膏100gに対する水の量(mL))として評価した。
半水石膏スラリーのフロー値が140mmであれば、当該半水石膏スラリーは良好な流動性を有し、例えば40×40×160mm成形体の型に容易に流し込むことができることから、このフロー値を基準とした。
(5)フロー値の測定方法
界面活性剤で被覆された、またはされていない半水石膏の100gに、水(比較例6においては0.1mol/L硫酸ナトリウム水溶液)を加えて15秒間混合撹拌した後のスラリーを、板ガラス上に置いた内径50mm、高さ51mmの塩化ビニル製パイプ(内容積100mL)に充填した。その直後に上記塩化ビニル製パイプを引き上げ、充填されていたスラリーが板ガラス上に広がって静止した後、スラリーの直径を、互いに直交する2つの方向について測定し、その平均値をフロー値とした。
実施例5
上記実施例2で得た界面活性剤被覆半水石膏について、フロー値を140mmとするために必要であった水の割合を調べた。結果は表2に混水量として示した。
比較例5
上記比較例1で得た半水石膏について、フロー値を140mmとするために必要であった水の割合を調べた。結果は表2に混水量として示した。
比較例6
上記比較例1で得た水和反応促進剤被覆半水石膏について、水の代わりに0.1mol/L硫酸ナトリウム水溶液を用いてフロー値140mmとするために必要であった水溶液の割合を調べた。結果は表2に混水量として示した。
半水石膏スラリーが硬化するとき、スラリー中に含有される半水石膏は二水石膏となる。このときに結晶水として硬化物中に取り込まれる水の量は、半水石膏100gあたり18.6mLと計算される。従って、フロー値が140mmであるスラリーから得られた硬化物から蒸発除去すべき水の量は、下記表2に示した混水量の値から各18.6mLを減じた値となる。この値も表2に合わせて示した。
【表2】
従来技術で実際に使用されている半水石膏は、上記比較例6(比較例1)のような水和反応促進剤で被覆された半水石膏であるから、これを基準として本発明(実施例5)の水量削減効果を計算すると、次のようになる。
比較例6の硬化物から蒸発除去すべき水の量は86.4gであるのに対して、実施例5の硬化物から蒸発除去すべき水の量は75.4gに過ぎないから、その減少分(%)は{1−(75.4÷86.4)}×100=12.7重量%と計算できる。
背景技術の項で述べたとおり、硬化物から蒸発除去すべき水の量が5重量%異なれば工程コストが大きく異なる。従って使用水量を12重量%以上も削減可能な本発明の技術は、製造コストを大きく削減することを可能とするものである。
発明の効果
本発明の界面活性剤被覆半水石膏は、これを水と混合して石膏スラリーとした後に、長い誘導時間と短い硬化時間とが両立されている。そのため、型枠への流し込み作業を余裕を持って行うことができるとともに、流し込み作業が終了した後は速やかに硬化するから、硬化作業の効率が極めて高いものとなる。
また、本発明の界面活性剤被覆半水石膏は、通常よりも少ない量の水によって石膏スラリーとした場合でも十分に高い流動性を有するから、より短い時間で効率よく硬化物を形成することができる。
さらに、本発明の界面活性剤被覆半水石膏の製造方法によると、上記のような有利な特徴を有する本発明の界面活性剤被覆半水石膏を、簡易な方法で製造することができる。
図1