特許第5948385号(P5948385)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5948385点火プラグ用電極を製造するためのクラッド構造を有するテープ材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5948385
(24)【登録日】2016年6月10日
(45)【発行日】2016年7月6日
(54)【発明の名称】点火プラグ用電極を製造するためのクラッド構造を有するテープ材
(51)【国際特許分類】
   H01T 13/20 20060101AFI20160623BHJP
   H01T 13/39 20060101ALI20160623BHJP
   H01T 21/02 20060101ALI20160623BHJP
【FI】
   H01T13/20 B
   H01T13/20 E
   H01T13/39
   H01T21/02
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-191382(P2014-191382)
(22)【出願日】2014年9月19日
(65)【公開番号】特開2016-62825(P2016-62825A)
(43)【公開日】2016年4月25日
【審査請求日】2015年9月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】509352945
【氏名又は名称】田中貴金属工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000268
【氏名又は名称】特許業務法人田中・岡崎アンドアソシエイツ
(72)【発明者】
【氏名】坂入 弘一
(72)【発明者】
【氏名】松尾 寛
(72)【発明者】
【氏名】田中 邦弘
【審査官】 出野 智之
(56)【参考文献】
【文献】 特開平04−329286(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0265813(US,A1)
【文献】 国際公開第2013/015262(WO,A1)
【文献】 特開2008−243713(JP,A)
【文献】 特開平06−084582(JP,A)
【文献】 国際公開第2002/065604(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01T 13/20
H01T 13/39
H01T 21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
点火プラグの電極台材に設定された接合領域上に、卑金属層と貴金属層とがクラッドされた電極チップを形成するために利用される、前記電極チップが連続的に繋がったテープ材であって、
前記テープ材は、前記接合領域に接触する卑金属層に、前記卑金属層に接触する貴金属層をクラッドした長尺のテープ状の形態を有し、
前記テープ材の前記卑金属層の幅は、前記接合領域の縦、横、又は直径のいずれかに略等しい幅を有し、
更に、前記テープ材の断面形状において、卑金属層の接合領域側の面に1つ以上のプロジェクションが形成されており、前記プロジェクションは線状の形態である点火プラグ電極製造用のテープ材。
【請求項2】
卑金属層は、Ni又はNi合金、若しくは、Cu又はCu合金からなる請求項1記載の点火プラグ電極製造用のテープ材。
【請求項3】
貴金属層は、Pt又はPt合金、若しくは、Ir又はIr合金のいずれかよりなる請求項1又は請求項2記載の点火プラグ電極製造用のテープ材。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれかに記載の点火プラグ電極製造用のテープ材を用いて、点火プラグの電極台材上に電極チップを接合する工程を含む点火プラグの製造方法であって、
前記テープ材を前記点火プラグの電極台材に供給し、前記テープ材を位置決めし、抵抗溶接によりテープ材の卑金属層を前記電極台材に接合した後、テープ材を切断する工程を含む、点火プラグの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、点火プラグ電極(中心電極、接地電極)を形成するための部材として使用され、クラッド構造を有するテープ材に関するものある。詳しくは、貴金属層と卑金属層とからなり、卑金属層を点火プラグに接合して貴金属層を電極面とするクラッドテープ材に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関等に用いられる点火プラグ用の電極(中心電極、接地電極)に、Pt、Pt合金、Ir、Ir合金等の貴金属及びその合金が使用されている。従来、これらの貴金属材料を電極として使用する際には、点火プラグ側のNi合金等の耐熱材料からなる台材に、チップ状の貴金属材料を接合するのが一般的であった。この貴金属チップの接合方法としては、レーザー溶接が知られている。このレーザー溶接は、貴金属チップと台材とが接触する部分の外周表面へレーザーを照射することにより、その照射箇所を溶解して、貴金属チップと台材とを接合するものである。
【0003】
レーザー溶接は、貴金属チップと台材との接合部の外周表面を溶解させるものであるが、接合面の内側の部分は未溶解である可能性がある。この場合、接合界面に空隙が残留するおそれがあり、使用時に高温となったときに空隙内部のガスの膨張によりクラックが生じ貴金属チップが台材から剥離する傾向がある。
【0004】
また、レーザー溶接では接合部の外周表面に溶融帯が生じる。溶融帯は、材料の溶融・凝固により形成される領域であるが、その材料組成、組織は貴金属母材と相違し、脆くまた電気的性質にも劣る。即ち、溶融帯はプラグ材料として有効な部位ではない。そのため、貴金属チップの長さを余分に取る必要があり、貴金属使用量に基づくコスト面或いは省資源化の観点からは好ましいものではなかった。
【0005】
そこで、本発明者等は、従来の貴金属からなる貴金属チップに替えて、貴金属層と基材とから形成されるクラッド構造を有する電極チップの適用を推奨している。このプラグ電極用の電極チップは、接合条件が管理された拡散接合により薄い貴金属層をNi、Ni合金等からなる基材に接合して形成されたものである。この電極チップは、予め最適な接合条件を設定し貴金属層と基材とが接合されており、電極特性や寿命を確保しながらも貴金属層の厚さを最小限にすることができるので、貴金属使用量の低減に資するものである。また、基材としてプラグ電極の台材と同じNi合金等を使用しているので、チップ取り付けの接合も容易なものとすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−134209号公報
【特許文献2】国際公開第2013/015262号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者等による電極チップを利用したプラグ用電極の形成は、上記利点を有するものであるが、更なる改良が求められている。特に、電極チップの取り扱い性に関する製造効率の向上が指摘される。プラグ製造においては、固定されたプラグ本体の台材表面に電極チップを位置決めして載置した後に接合することで電極部分が形成される。この作業は、電極チップを一つ一つ取り扱う作業であり煩雑である。この改善要求については、従来の貴金属チップについても指摘されるところであるが、効率的なものとはいい難い。
【0008】
そこで、本発明では、薄型の貴金属層と基材とを組合せたクラッド構造の形式を利用しつつ、この構成によるプラグ電極を効率的に形成することのできる部材及び加工プロセスを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する本発明は、点火プラグの電極台材に設定された接合領域上に、卑金属層と貴金属層とがクラッドされた電極チップを形成するための部材であって、前記接合領域に接触する卑金属層に、前記卑金属層に接触する貴金属層をクラッドした長尺のテープ状の形態を有し、前記卑金属層の幅は、前記接合領域の縦、横、又は直径のいずれかに略等しい幅を有する点火プラグ電極製造用のテープ材である。
【0010】
上記従来技術では、電極チップを個別に製造し、個々にプラグの台材に接合していた。これに対して本発明は、前記電極チップと同様の構成を有し、チップが連続的に繋がったクラッド状のテープ材を利用するものである。プラグ電極の製造における、このクラッドテープからなる部材の利用態様は、プラグの電極台材にテープ材を搬送し、抵抗溶接等により接合して、テープ材を切断することで電極チップを形成することができる(図1)。この一連の操作は、微小な電極チップを一つ一つ取り扱うよりも効率的であり、設備コストも低廉なものとすることができる。
【0011】
以下、本発明に係るプラグ電極製造用の部材について説明する。本発明は、プラグ電極の台材に接合される卑金属層と、卑金属層に接触する貴金属層とがクラッドされたテープ状の部材である。
【0012】
貴金属層は、プラグの電極として通電・放電する金属であり、Pt又はPt合金、若しくは、Ir又はIr合金が好ましい。Pt合金の具体例としては、Pt−Rh合金、Pt−Ir合金、Pt−Ni合金、Pt−Cu合金等が挙げられる。この場合のPt濃度は60質量%以上97質量%以下のものが好ましい。また、Ir合金の具体例としては、Ir−Rh合金、Ir−Fe合金、Ir−FeNi合金、Ir−Cr合金等が挙げられる。Ir合金のIr濃度は50質量%以上99質量%以下が好ましい。更に、IrとPtとの合金Ir−Pt合金(Pt濃度が3質量%以上40質量%以下のもの)も適用できる。
【0013】
卑金属層は、Ni又はNi合金、若しくは、Cu又はCu合金からなるものが好ましい。具体的には、Ni−Cr合金、Ni−Fe−Al合金、Ni−Fe−Co合金、Ni−Pt合金、Ni−Pd合金、Ni−Ir合金、Cu−Cr合金、Cu−Ni合金、Cu―W合金、Cu―Pt合金、Cu−Ir合金、Cu−Pd合金等が挙げられる。代表的なNi合金としてインコネル合金といった耐熱性Ni基合金が好適に使用できる。
【0014】
テープ材の幅は、電極の台材と接合される卑金属層の幅が台材の接合領域と略等しければ良い。ここで、接合領域とは、台材の表面上に定められる矩形又は円形の領域であって、台材上に形成される電極チップの底面を規定する領域である。接合領域の縦幅、横幅、又は直径は、当然に台材の縦幅、横幅よりも狭い寸法となる。テープ材の卑金属層の幅を接合領域と略等しいものとすることで、接合後の切断箇所を1箇所のみとすることができ、効率的な電極チップの形成が可能となる。また、テープ材の卑金属層の幅について、接合領域の縦幅と横幅のいずれと等しくするかは、台材に対するテープ材の搬送方向によって定まる(図2参照)。尚、貴金属層の幅については、卑金属層と同一でも良いが、卑金属層よりも幅狭であっても良い。
【0015】
尚、貴金属層、卑金属層の厚さとしては、特に限定されるものではない。貴金属層は通電・放電の付加を受ける消耗部であり、その厚さは電極寿命や電気特性を考慮して適宜に設定される。これに対し卑金属層については、貴金属層に対して1.5倍以上5倍以下の厚さにするのが好ましい。
【0016】
また、貴金属層・卑金属層の向き(積層方向)は、縦・横いずれでも良い。一般的なプラグ電極への適用については、貴金属層と卑金属層とが上下(垂直方向)に積層した形態(オーバーレイ)を有する。但し、近年、接地電極の形状として、貴金属部分を突き出し形状としたプラグも開発されており、その用途に対して卑金属層と貴金属層とが横(水平方向)に積層した形態(エッジレイ)であっても良い(図3)。
【0017】
そして、本発明に係るクラッド構造のテープ材では、貴金属層と卑金属層との間に中間層が形成されていても良い。この中間層は、Niと貴金属との合金又はCuと貴金属との合金からなる。この中間層は、テープ材の製造過程で、貴金属層と卑金属層とを接合する際の熱履歴により形成される拡散層である。中間層は、傾斜的な組成(貴金属濃度)を有する合金層である。中間層があることで貴金属層と卑金属層との接合強度は向上する。この拡散層の厚さは、5μm以上150μm以下のものが好ましい。
【0018】
本発明に係るテープ状の部材のプラグ電極への利用形態としては、既に述べたように、テープ材をプラグの電極台材へ供給し接合及び切断することで電極チップを電極台材上に形成する。ここで、テープ材の電極台材への接合は、抵抗溶接の適用が好ましい。抵抗溶接は、微小領域に対して短時間で効率的な接合が可能であり、プラグ電極の形成に好適である。
【0019】
ここで、抵抗溶接による接合部の品質や接合作業の効率化を考慮し、本発明ではその断面形状において、卑金属層の接合領域側の表面に1つ以上の突起(プロジェクション)が形成されたものが好ましい。プロジェクションを形成することで、抵抗溶接の際に抵抗発熱を集中させて効率的な溶接が可能となる。図4で例示するようにプロジェクションは、1個でも良いし複数個形成されていても良い。尚、本発明はテープ状の部材であるので、形成されるプロジェクションの実際の形状は線状の形態を有する。
【0020】
本発明に係るプラグ電極用のテープ材の製造は、基本的には通常のクラッド構造のテープ材の製造プロセスに準じる。即ち、貴金属層と卑金属層の各層のテープ材を加工した後、両テープ材を重ねて圧延することでクラッド構造のテープ材が製造できる。卑金属層の接合領域側の面にプロジェクションを形成する場合、卑金属層のテープ材を製造する際に、適宜の型付きの圧延ロールを使用することで、テープ材への加工とプロジェクションの形成とを同時に行うことができる。
【0021】
貴金属層のテープ材と卑金属層のテープ材とをクラッド化した後には、熱処理を行うのが好ましい。貴金属層と卑金属層との界面に中間層(拡散層)を形成し接合強度を高めるためである。この熱処理は、非酸化性雰囲気(真空雰囲気、不活性ガス雰囲気等)で800℃以上1200℃以下で加熱するのが好ましい。
【0022】
また、貴金属層のテープ材と卑金属層のテープ材とをクラッド化する際、卑金属層の接合面についてNi又はCuをメッキすることで両層の接合強度をより向上することができる。特に、卑金属層にインコネル等のNi合金やCu合金を使用する際に有用である。このNiメッキ又はCuメッキの厚さは、0.5μm以上20μm以下とするのが好ましい。
【0023】
以上説明した本発明に係るプラグ電極用のテープ材は、点火プラグ用電極チップの製造に好適である。この電極チップは、本発明に係るテープ材を任意の長さに切断することで形成される。そして、この電極チップを台材上に備える点火プラグは、製造効率に優れたものといえる。
【0024】
電極チップ及び点火プラグの製造方法の具体的工程としては、本発明に係るテープ材を、点火プラグの電極台材に供給し、位置決め後、抵抗溶接等によりテープ材の卑金属層を電極台材に接合し、その後、テープ材を切断する工程を含むものである。テープ材は電極チップとして接合された状態となる。また、接合後適宜に金型による成形加工を行っても良い。
【発明の効果】
【0025】
以上説明したように、本発明は、貴金属層と卑金属層とからなる電極チップに関連して、従来は個々に分離独立していたものを、テープ状にした部材である。本発明によれば、取扱い性が改善された部材を使用することで電極チップを効率的に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明に係るプラグ電極製造用の部材を使用した電極チップの製造工程を説明する図。
図2】本発明に係るクラッドテープの幅と接合領域の幅との関係を説明する図。
図3】本発明に係るクラッドテープにおける貴金属層、卑金属層の積層方向について説明する図。
図4】本発明に係るクラッドテープについて、好ましい形態であるプロジェクションの形成について説明する図。
図5】本実施形態で製造したテープ材の断面組織を示す写真。
図6】本実施形態で製造したテープ材の接合界面についてのEPMA分析結果を示す図。
図7】本実施形態で製造したテープ材についての熱サイクル試験後の断面状態を示す写真。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら詳説する。本実施形態では、Pt合金からなる貴金属層とNi合金からなる卑金属層とがクラッドされたテープ材を製造した。
【0028】
Pt合金(Pt−20wt%Ir)からなるワイヤー(線径1.0mm、全長100mm)と、Ni合金(インコネル600)からなるワイヤー(線径1.0mm、全長100mm)を用意し、いずれも直径0.86mmまで伸線加工した。加工後のPt合金ワイヤー及びNi合金ワイヤーをそれぞれ圧延加工して、いずれも厚さ0.2mmのテープ材に加工した。尚、Ni合金ワイヤーのテープ加工の際には一面側について溝付圧延ロールを使用し、プロジェクションを形成した。
【0029】
次に、Ni合金の接合面について、1μmのNiメッキを行った。その後、Pt合金テープとNi合金テープとを圧延ロールでクラッド化した。クラッド化後、更に、テープ材を窒素炉に送り1000℃で1時間熱処理した。その後、仕上げ成形加工して断面台形のクラッド構造のテープ材を製造した。
【0030】
製造したテープ材について、その断面を観察した。図5は、断面組織を示す写真であるが、貴金属層と卑金属層との界面においても剥がれや異常変形のない良好な接合部が得られていることがわかる。また、この接合界面について、EPMAによる元素分布を分析したところ、図6のような結果が得られた。貴金属層と卑金属層との接合界面には、中間層として、貴金属(Pt、Ir)とNi合金の成分(Ni、Cr、Fe)とで構成される拡散層が存在することがわかる。この拡散層は約20μmであった。
【0031】
次に、製造したクラッドテープについて、熱サイクル負荷下での接合強度を評価した。熱サイクル試験は、テープ材を切断した試料を、電気炉に入れ、900℃の加熱温度と70℃の冷却温度にそれぞれ360秒保持する操作を1サイクルとし、これを200サイクル行った後に炉から取り出し、外観及び接合界面を観察した。
【0032】
熱サイクル試験の結果について、図7に示す。熱サイクルを受けた結果、接合界面の端部付近では酸化が生じているものの、界面においての剥離は生じておらず良好な状態を維持できていた。プラグ電極と使用した場合においても、貴金属部分の脱落の懸念の少ない良好な状態にあると推定される。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明によれば、貴金属チップと基材との接合を確実に維持でき、点火プラグの長寿命化を図ることができるため、貴金属の効率的な利用ができ、省資源化を図ることができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7