特許第5948683号(P5948683)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5948683
(24)【登録日】2016年6月17日
(45)【発行日】2016年7月6日
(54)【発明の名称】悪性腫瘍転移抑制用医薬
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/22 20060101AFI20160623BHJP
   A61P 35/04 20060101ALI20160623BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20160623BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20160623BHJP
   A61K 47/30 20060101ALI20160623BHJP
   A61K 47/42 20060101ALI20160623BHJP
   A61K 47/48 20060101ALI20160623BHJP
   A61K 39/395 20060101ALN20160623BHJP
   A61K 38/00 20060101ALN20160623BHJP
   A61K 31/519 20060101ALN20160623BHJP
   A61K 31/53 20060101ALN20160623BHJP
   A61K 31/4985 20060101ALN20160623BHJP
   A61K 31/21 20060101ALN20160623BHJP
   A61K 31/341 20060101ALN20160623BHJP
   A61K 31/4406 20060101ALN20160623BHJP
   C07K 14/58 20060101ALN20160623BHJP
【FI】
   A61K37/24
   A61P35/04
   A61P43/00 111
   A61K45/00ZNA
   A61K47/30
   A61K47/42
   A61K47/48
   !A61K39/395 Y
   !A61K37/02
   !A61K31/519
   !A61K31/53
   !A61K31/4985
   !A61K31/21
   !A61K31/341
   !A61K31/4406
   !C07K14/58
【請求項の数】30
【全頁数】39
(21)【出願番号】特願2013-502349(P2013-502349)
(86)(22)【出願日】2012年2月27日
(86)【国際出願番号】JP2012054841
(87)【国際公開番号】WO2012118042
(87)【国際公開日】20120907
【審査請求日】2015年2月17日
(31)【優先権主張番号】特願2011-41263(P2011-41263)
(32)【優先日】2011年2月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】510094724
【氏名又は名称】国立研究開発法人国立循環器病研究センター
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000001926
【氏名又は名称】塩野義製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【弁理士】
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】寒川 賢治
(72)【発明者】
【氏名】細田 洋司
(72)【発明者】
【氏名】野尻 崇
(72)【発明者】
【氏名】奥村 明之進
【審査官】 六笠 紀子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2008−509900(JP,A)
【文献】 特表2008−500944(JP,A)
【文献】 特表2009−519215(JP,A)
【文献】 特表2005−527510(JP,A)
【文献】 特表2004−532208(JP,A)
【文献】 KONG, X., et al.,Natriuretic Peptide Receptor A as a Novel Anticancer Target,Cancer Research,2008年 1月 1日,Vol.68, No.1,p.249-256
【文献】 日本消化器学会雑誌,2001年,Vol.98 臨時増刊号総会,p.A46
【文献】 THE JOURNAL OF BIOLOGICAL CHEMISTRY,2001年,Vol.276, No.50,p.46870-46877
【文献】 European Journal of Pharmacology,1998年,Vol.354, No.1,p.99-104
【文献】 Journal of Allergy and Clinical Immunology,2004年,Vol.114, No.3,p.520-526
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/00−38/58
A61K 45/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
血管内皮細胞内cGMP増強剤を有効成分として含有する、悪性腫瘍の転移を抑制又は予防するための医薬であって、
血管内皮細胞内cGMP増強剤として、血管内皮細胞に作用して細胞内cGMP濃度を上昇させる活性を有するナトリウム利尿ペプチド受容体GC-Aアゴニスト、又は、血管内皮細胞に作用して細胞内cGMP濃度を上昇させる活性を有するナトリウム利尿ペプチド受容体GC-Bアゴニストを含有し、
ナトリウム利尿ペプチド受容体GC-Aアゴニストが、(a1) 心房性ナトリウム利尿ペプチド、(a2) 脳性ナトリウム利尿ペプチド、(a3) (a1)又は(a2)の活性断片を含む物質、(a4) (a1)乃至(a3)の何れか一つのアミノ酸配列において1〜数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は、付加された変異体、(a5) (a1)乃至(a4)の何れかの誘導体、並びに、(a6) (a1)乃至(a5)の何れかの修飾体、から選択されるいずれか一つ又はその薬理上許容される塩であり、且つ、ナトリウム利尿ペプチド受容体GC-Aに対してアゴニスト活性を有する物質であり、
ナトリウム利尿ペプチド受容体GC-Bアゴニストが、(b1) C型ナトリウム利尿ペプチド、(b2) (b1)の活性断片を含む物質、(b3) (b1)又は(b2)のアミノ酸配列において1〜数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は、付加された変異体、(b4) (b1)乃至(b3)の何れかの誘導体、並びに、(b5) (b1)乃至(b4)の何れかの修飾体、から選択されるいずれか一つ又はその薬理上許容される塩であり、且つ、ナトリウム利尿ペプチド受容体GC-Bに対してアゴニスト活性を有する物質であることを特徴とする医薬。
【請求項2】
前記(a1)の心房性ナトリウム利尿ペプチドが、配列表の配列番号1又は2に記載のアミノ酸配列からなることを特徴とする請求項に記載の医薬。
【請求項3】
前記(a2)の脳性ナトリウム利尿ペプチドが、配列表の配列番号3、4又は5に記載のアミノ酸配列からなることを特徴とする請求項に記載の医薬。
【請求項4】
前記(a3)の活性断片が、配列表の配列番号6のアミノ酸配列を有することを特徴とする請求項に記載の医薬。
【請求項5】
前記(a3)の活性断片が、配列表の配列番号1又は2の7位乃至27位のアミノ酸配列、配列番号3又は4の10位乃至30位のアミノ酸配列、或いは、配列表の配列番号5の23位乃至43位のアミノ酸配列、からなることを特徴とする請求項に記載の医薬。
【請求項6】
前記(a4)の変異体が、(i)配列番号1又は2のアミノ酸配列の1位乃至6位及び28位の何れか一箇所〜数箇所において一つ〜数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入及び/又は付加されたペプチド、(ii)配列番号3又は4のアミノ酸配列の1乃至9位、31位及び32位の何れか一箇所〜数箇所において一つ〜数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入及び/又は付加されたペプチド、又は(iii)配列番号5のアミノ酸配列の1位乃至22位、44位及び45位の何れか一箇所〜数箇所において一つ〜数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入及び/又は付加されたペプチド、であることを特徴とする請求項に記載の医薬。
【請求項7】
前記(a5)の誘導体が、配列表の配列番号1乃至5の何れかのアミノ酸配列を含むことを特徴とする、請求項に記載の医薬。
【請求項8】
前記(a5)の誘導体が、免疫グロブリンFc部分、血清アルブミン、及び、グレリン由来の部分配列の少なくとも一つをさらに含むことを特徴とする、請求項に記載の医薬。
【請求項9】
前記(a6)の修飾体が、配列表の配列番号1乃至5の何れかのアミノ酸配列を含み、その配列番号6に表示されたアミノ酸に相当するもの以外のアミノ酸の少なくとも一つにおいて、化学修飾を受けていることを特徴とする、請求項に記載の医薬。
【請求項10】
前記(a6)の修飾体が、製薬上用いられる高分子ポリマーを付加することにより化学修飾されたものである、請求項に記載の医薬。
【請求項11】
前記(b1)のC型ナトリウム利尿ペプチドが、配列表の配列番号7、8、9又は10に記載のアミノ酸配列からなるペプチドであることを特徴とする請求項に記載の医薬。
【請求項12】
前記(b2)の活性断片が、配列表の配列番号11のアミノ酸配列を有するものであることを特徴とする請求項に記載の医薬。
【請求項13】
前記(b2)の活性断片が、配列表の配列番号7の6位乃至22位のアミノ酸配列、配列番号9の6位乃至22位のアミノ酸配列、又は配列番号10の6位乃至22位のアミノ酸配列からなるものであることを特徴とする請求項に記載の医薬。
【請求項14】
前記(b3)の変異体が、(i)配列番号7、9又は10のアミノ酸配列の1位乃至5位の何れか一箇所〜数箇所において一つ〜数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入及び/又は付加されたペプチド、又は、(ii) 配列番号8のアミノ酸配列の1位乃至36位の何れか一箇所〜数箇所において一つ〜数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入及び/又は付加されたペプチドであることを特徴とする請求項に記載の医薬。
【請求項15】
前記(b4)の誘導体が、配列表の配列番号7乃至11の何れかのアミノ酸配列を含むものであることを特徴とする、請求項に記載の医薬。
【請求項16】
前記(b4)の誘導体が、免疫グロブリンFc部分、血清アルブミン、及び、グレリンのC末端由来の部分配列の少なくとも一つをさらに含むことを特徴とする、請求項15に記載の医薬。
【請求項17】
前記(b5)の修飾体が、配列表の配列番号7乃至10の何れかのアミノ酸配列を含み、その配列番号11に表示されたアミノ酸に相当するもの以外のアミノ酸の少なくとも一つにおいて、化学修飾を受けていることを特徴とする、請求項に記載の医薬。
【請求項18】
前記(b5)の修飾体が、製薬上用いられる高分子ポリマーを付加することにより化学修飾されたものである、請求項に記載の医薬。
【請求項19】
血管内皮細胞内cGMP増強剤が、患者の血圧、心拍数又は尿量の少なくとも一項目を大きく変動させない程度の用量で投与されることを特徴とする、請求項1乃至18に記載の医薬。
【請求項20】
血管内皮細胞内cGMP増強剤として、ナトリウム利尿ペプチド受容体GC-Aアゴニスト、又は、ナトリウム利尿ペプチド受容体GC-Bアゴニストが、0.1 μg/kg/分以下で、1乃至数日間継続投与されることを特徴とする、請求項19に記載の医薬。
【請求項21】
投与対象患者が、腫瘍の切除手術を受ける者であり、当該切除手術前から術後1〜数日間、継続的に投与されることを特徴とする、請求項19に記載の医薬。
【請求項22】
配列番号1乃至5及び7乃至10の何れかのアミノ酸配列からなるペプチドが、0.05 μg/kg/分以下の用量で、腫瘍切除手術前から手術後一定期間継続的に投与されることを特徴とする、請求項2、3又は11に記載の医薬。
【請求項23】
配列番号1のアミノ酸配列からなるペプチドが、0.025 μg/kg/分の用量で、腫瘍切除手術中から術後3日間継続的に投与されることを特徴とする、請求項22に記載の医薬。
【請求項24】
有効成分として、2種類以上の血管内皮細胞内cGMP増強剤が組み合わされることを特徴とする、請求項に記載の医薬。
【請求項25】
投与を受けた患者において、腫瘍細胞の血管内皮組織への着床及び/又は浸潤の阻害を生じさせることを特徴とする、請求項1に記載の医薬。
【請求項26】
細胞内cGMP増強剤として少なくとも一種類のナトリウム利尿ペプチド受容体GC-Aアゴニストを含み、上皮系悪性腫瘍の恐れのある対象に投与され、且つ、投与を受けた患者において、腫瘍細胞の上皮間葉転換(EMT)の抑制、腫瘍細胞の遊走能獲得の阻害、腫瘍細胞の運動能獲得の阻害、腫瘍細胞の浸潤の抑制、腫瘍細胞特異的なアポトーシス誘導、及び、腫瘍細胞の血管内皮組織への着床の阻害、から選択される少なくとも一つの薬理活性を生じさせることを特徴とする、請求項1に記載の医薬。
【請求項27】
悪性腫瘍の切除出術を受ける患者に用いられることを特徴とする、請求項1に記載の医薬。
【請求項28】
前記患者が、切除手術前日から術後数日間にナトリウム利尿ペプチド受容体GC-Aアゴニスト又はナトリウム利尿ペプチド受容体GC-Bアゴニストを投与されることを特徴とする、請求項27に記載の医薬。
【請求項29】
前記患者が、切除手術前日にナトリウム利尿ペプチド受容体GC-Aアゴニスト又はナトリウム利尿ペプチド受容体GC-Bアゴニストを投与されることを特徴とする、請求項27に記載の医薬。
【請求項30】
ナトリウム利尿ペプチド受容体GC-Aアゴニスト又はナトリウム利尿ペプチド受容体GC-Bアゴニストが、筋肉内投与もしくは皮下投与によって患者に投与されることを特徴とする、請求項27に記載の医薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナトリウム利尿ペプチド受容体GC-A及びGC-Bアゴニストに代表される血管内皮細胞内cGMP増強剤を有効成分とする、癌を含む悪性腫瘍の転移抑制用医薬組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
癌に代表される悪性腫瘍は細胞の異常増殖に基づく疾患であり、悪性腫瘍としての最大の特徴は周辺組織への浸潤と他臓器への転移である。悪性腫瘍患者の死因の多くは、原発巣の増大ではなく、腫瘍細胞の遠隔転移に伴う多臓器不全であることは古くから知られており、悪性腫瘍転移の制御は近年でも成し遂げられていない、癌治療全体における最重要課題の一つである。
【0003】
上皮系悪性腫瘍(癌)の転移は、上皮間葉転換(Epithelial to Mesenchymal Transition、以下、”EMT”という)による癌細胞の運動能及び浸潤能の獲得、周辺組織への浸潤、血管やリンパ管への移動と侵入、遠隔組織への定着と転移巣の形成など、多様な生理現象により引き起こされると考えられており、近年では特にEMTが注目されている。正常な上皮組織では、細胞同士が接着分子を介して緊密に接合して組織を形成しているが、EMTは、癌の悪性化の進行に伴い、細胞同士の接着能が失われ、遊走能・運動能を獲得した細胞へと形質転換する現象である。EMTの過程では、Eカドヘリンの発現が減少し、Nカドヘリンの発現が亢進するため、Nカドヘリン/Eカドヘリンの遺伝子発現比が、EMTの指標と考えることができる。このEMTにより遊走能・運動能を獲得した癌細胞は、原発巣から周辺組織への浸潤、血管やリンパ管への侵入が可能となることから、癌転移の引き金となる(非特許文献1:Thomas R. Geiger et al., Biochim. Biophys. Acta.、2009年、 293-308頁)。また、上皮系以外の悪性腫瘍(肉腫など)においても、悪性化して、運動能・浸潤能を獲得した腫瘍細胞が、血管等へ侵入し、遠隔組織の血管内皮への定着、組織内への浸潤を経て、転移巣が形成されることとなる。このように、悪性腫瘍の転移は、腫瘍細胞の増殖とは完全に異なるメカニズムで進行するものであり、既存の殺細胞効果や細胞増殖抑制活性を有する薬剤では十分抑制することができない。また、これらの薬剤には、一般に正常組織への悪影響があり、長期間投与した場合には深刻な副作用の問題がある。悪性腫瘍転移の制御には、通常長期間の投与が必要となる為、転移を抑制するための、安全性の高い薬剤の発見・開発が望まれている。
【0004】
細胞内のcGMPは、生体のシグナル伝達を仲介するセカンドメッセンジャーとして広く知られており、特に血管平滑筋の制御においてよく研究されている。血管平滑筋細胞の細胞内cGMPの上昇は、平滑筋を弛緩させ、血圧が下がることが一般に知られており、このような作用を有する薬剤の代表的なものとして、ナトリウム利尿ペプチドが挙げられる。
【0005】
ナトリウム利尿ペプチドと称されるペプチドには、心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)、脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)及びC型ナトリウム利尿ペプチド(CNP)があり、これらのペプチドは、細胞内にグアニレートシクラーゼドメインを有する膜貫通型受容体と特異的に結合して、細胞内のcGMPを上昇させることで様々な生理活性を発現することが知られている。このような受容体としてはナトリウム利尿ペプチド受容体GC-A(別名:NPR-A)とナトリウム利尿ペプチド受容体GC-B(別名:NPR-B)の2種類があり、ANPとBNPはGC-Aに、CNPはGC-Bに夫々特異的に結合することが知られている(非特許文献2:Silver MA, Curr. Opin. Nephrol. Hypertens., 2006年, 15巻, 14-21頁)。
【0006】
ANPは、心房細胞で産生され分泌されるアミノ酸28個から成る環状構造を有するペプチドであり、腎臓では利尿作用を示し、血管では血管平滑筋を弛緩・拡張する。ANPは、さらにレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系及びバソプレシンに対して拮抗的に作用する。これらの作用は、総合的に血圧の低下や体液量の低減などを通じて心臓の負担を軽減する方向に働く。BNPは、脳から見出されたアミノ酸32個から成る環状構造を有するペプチドであるが、その後の研究で脳よりも主に心筋細胞で産生・分泌されていることが判明し、ANPと同様な作用を有する。ANPとBNPは、GC-Aに特異的に結合して、cGMPの産生を促進して上記の作用を発現する(非特許文献3:Yoshibayashi M. et al, Eur. J. Endocrinol.,1996年、135巻,265-268頁)。実際、ANPはうっ血性心不全などにおいて心房膨満圧の上昇に伴い分泌が促進され、上記の作用によりうっ血性心不全などの症状を軽減する働きをしており、ヒト型ANP(hANP)は日本において急性心不全治療薬として臨床上用いられている。また、BNPも心不全患者において分泌が亢進され、上記の作用により心不全に伴う諸症状を和らげる働きをしており、ヒト型BNP(hBNP)はアメリカ合衆国などで急性心不全治療薬として認可されている。
【0007】
ANPやBNPは、利尿作用、血管拡張作用等の血圧調整作用以外にも様々な生理活性を有することが知られており、例えば細菌感染により引き起こされる炎症やそれに伴う内皮保護機能不全に対するANPの作用(例えば非特許文献4:Xung J., et al, J. appl. Physiol.(2011年)、110巻、1号、213-224頁、等)が報告されている。悪性腫瘍に関しては、ANPが、実験的に癌細胞の増殖を抑制する効果についてVeselyらから複数の報告がある(例えば、非特許文献5(Vesely BA et al, Eur J Clin Invest. (2005)、 35巻、60-69頁)等)。これらの報告では、ANPに加えて、Long Acting Natriuretic Peptide、Vessel Dilator及び Kalliuretic Peptideなど、そのアミノ酸配列からはナトリウム利尿ペプチド受容体GC-Aに結合するとは考えにくいペプチドが、ANPと同様か、それ以上に強い癌細胞増殖抑制活性を有するとされており、また、BNPはこのような増殖抑制作用を示さないとされている。このことから、彼らが報告するANPの癌細胞増殖抑制作用はGC-Aに対するアゴニスト活性に基づくものではないと考えられる。また、Veselyらの報告を含めても、ANPやBNPの腫瘍細胞の転移に関連した作用については知られていない。
【0008】
CNPは、ブタの脳内より発見された生理活性ペプチドであり、哺乳類の体内には、22個のアミノ酸からなるCNP-22と、そのN末端側が延長し、53個のアミノ酸からなるCNP-53が存在することが知られている。CNPは、当初は脳神経ペプチドとして機能していると考えられたが、その後の研究により末梢にも存在することが判明し、骨の成長過程において重要な役割を果たすことが確認されている。これまでに、CNPは、主に成長板の軟骨組織において軟骨細胞の分化や増殖を制御していることが確認されており、軟骨無形成症をはじめとした低身長症の治療薬としての可能性が期待されている。CNPは、骨・軟骨以外においても様々な生理活性が知られており、血管に対しては、血管平滑筋細胞の増殖を抑制したり、血管内皮細胞の増殖を促進する等の作用が知られている。しかしながら、悪性腫瘍の転移に対するCNPの作用については知られていない。
【0009】
また、その他の細胞内cGMP濃度を上昇させる薬剤として、クエン酸シルデナフィルのようなcGMPの分解酵素であるホスホジエステラーゼ(PDE)5の阻害剤、ニトログリセリンのようなNO供給剤、アルギニンのようなeNOS基質、ANPやBNPを分解する中性エンドペプチダーゼ(NEP)の阻害剤などが知られている。また、消化官において作用が知られているグアニレート サイクレースC(GC-C)のアゴニストであるグアニリン、ウログアニリンなども細胞内のcGMP濃度を上昇させる。これらの薬剤についても、炎症反応、アレルギー反応を含め様々な生理現象と関連していることが知られており、近年では、腫瘍細胞の制御に関連しているとの報告もいくつかなされているが、血管内皮細胞に作用して、実際の生理的条件下で腫瘍細胞の転移を抑制することについては知られていない。例えば、シルデナフィルについては、悪性腫瘍に対して抑制効果があるとの報告((例えば、非特許文献6:Das et al., Proc. Natl. Acad. Sci. (2010年)、107巻、42号、18202-18207頁、等)もある一方で、腫瘍細胞の増殖及び転移に対して影響しなかったとの報告(例えば、非特許文献7:Dian C. N., et al, Journal of. Urology (2003年)、170巻(3)、994-997頁)もある。GC-Cについては、結腸直腸癌細胞における発現亢進や癌細胞によるMMP9産生に関連すること(例えば、非特許文献8:Lubbe W. J., et al、Cancer Res.(2009年)、69巻、8号、3529-3536頁)などが知られている。NOに関しては、LPS処理された単葉ラット後毛細血管静脈への腫瘍細胞の接着を阻害するとの報告(非特許文献9:Kong L., et al、Clin Exp. Metastasis (1996年)、14巻、3号、335-343頁)があるが、これはLPSという強い炎症誘導剤を用いた実験であり、実際の腫瘍転移における生理現象とは掛け離れたものと考えられる。またその後十数年間においてこれを追随した報告はなされておらず、生理的な腫瘍転移に対する作用については不明である。
しかしながら、血管内皮細胞に作用して腫瘍の転移を抑制することについては知られていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Thomas R. Geiger et al., Biochim. Biophys. Acta.、2009年、 293-308頁
【非特許文献2】Silver MA, Curr. Opin. Nephrol. Hypertens., 2006年, 15巻, 14-21頁
【非特許文献3】Yoshibayashi M. et al, Eur. J. Endocrinol.,1996年、135巻,265-268頁
【非特許文献4】Xung J., et al, J. appl. Physiol.(2011年)、110巻、1号、213-224頁
【非特許文献5】Vesely BA et al, Eur J Clin Invest. (2005)、 35巻、60-69頁
【非特許文献6】Das et al., Proc. Natl. Acad. Sci. (2010年)、107巻、42号、18202-18207頁
【非特許文献7】Dian C. N., et al, Journal of. Urology (2003年)、170巻(3)、994-997頁
【非特許文献8】Lubbe W. J., et al、Cancer Res.(2009年)、69巻、8号、3529-3536頁
【非特許文献9】Kong L., et al、Clin Exp. Metastasis (1996年)、14巻、3号、335-343頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、癌をはじめとする悪性腫瘍の転移を抑制するための、安全性の高い医薬を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者等は、癌の転移を抑制することができる薬剤について鋭意検討した結果、ナトリウム利尿ペプチド受容体GC-Aアゴニストが、癌細胞のEMTを抑制し、また癌細胞の遊走能、運動能、浸潤能、等転移に関連した細胞活性の獲得を抑制する作用を有すること、癌細胞特異的にアポトーシスを誘導すること、さらには宿主側の因子である血管内皮細胞へ作用することで、癌の着床転移を抑制すること等を見出した。さらには、癌患者の癌切除術において、血圧が変動しない低用量のhANPを術後3日間投与した患者群において癌の再発が顕著に抑制されたこと、を実際の癌患者における臨床研究で見出した。さらにまた、腫瘍細胞のマウス尾静脈注入転移試験において、GC-Aを発現する腫瘍細胞のみならず、B6メラノーマのようなGC-Aを発現しない腫瘍細胞の転移に対しても、GC-Aアゴニストの投与により顕著な腫瘍転移抑制効果が確認された。さらには、内皮組織特異的にGC-A遺伝子をノックアウトさせたマウスを用いた同転移試験では、野生型マウスと比較して顕著な腫瘍転移の増大が確認され、逆にGC-A遺伝子を内皮細胞で過剰発現させたマウスを用いた同転移試験では、野生型マウスと比較して顕著な腫瘍転移の抑制が確認され、内皮組織に発現するGC-Aを介したシグナルが、腫瘍細胞の転移において中枢的役割を果たすことが示唆された更に、同転移試験に対して、CNPのようなGC-Bアゴニスト、クエン酸シルデナフィルのようなPDE5阻害剤など、GC-A以外のメカニズムで細胞内cGMPを上昇させる薬剤を投与しても、顕著な転移抑制効果が観察された。これらの知見に基づきさらに研究を重ね、本発明を完成するに至った。
すなわち、ナトリウム利尿ペプチド受容体GC-Aアゴニストは、GC-Aを発現する腫瘍細胞に対しては、腫瘍細胞に直接作用しEMTをはじめとした遊走能及び浸潤能を抑制することで転移を抑制する効果(直接効果)を示す。それに加えて、GC-Aアゴニスト、GC-BアゴニストやPDE5阻害剤のように、細胞内cGMPの上昇によるシグナル伝達を引き起こす物質が血管やリンパ管の内皮細胞に作用することによって、腫瘍細胞におけるGC-A発現の有無に関わらず腫瘍細胞の血管内皮への接着・浸潤が阻害され、腫瘍の転移を抑制する効果(間接効果)をも有する。内皮細胞には通常GC-A、GC-Bが発現しているため、この間接効果は腫瘍の種類によらず、腫瘍転移を抑制できる。
【0013】
本発明は、以下の発明を提供するものである。
本発明は、少なくとも一種類の血管内皮の細胞内cGMP濃度を上昇させる薬剤(「血管内皮細胞内cGMP増強剤」という)(例えば、ナトリウム利尿ペプチド受容体GC-Aアゴニスト)を有効成分として含有する、癌などの悪性腫瘍の転移を抑制又は予防するための医薬に関する。
また本発明は、癌などの悪性腫瘍・の転移制御が必要な患者に対し、少なくとも一種類の血管内皮細胞内cGMP増強剤(例えば、ナトリウム利尿ペプチド受容体GC-Aアゴニスト)の有効量を投与することを含む、癌などの悪性腫瘍の転移を予防又は抑制する方法に関する。
また本発明は、さらに、癌などの悪性腫瘍の転移の予防又は抑制における使用のための、少なくとも一種類の血管内皮細胞内cGMP増強剤(例えば、ナトリウム利尿ペプチド受容体GC-Aアゴニスト)、に関する。
【0014】
本発明が提供する医薬、治療方法等(以下、「医薬等」という。)において、血管内皮細胞内cGMP増強剤は、好ましくは、ナトリウム利尿ペプチド受容体GC-Aアゴニスト、ナトリウム利尿ペプチド受容体GC-Bアゴニスト、GC-Cアゴニスト、NEP阻害剤、PDE5阻害剤、NO供給剤、eNOS活性化剤、cGMPアナログ、などであって、血管内皮細胞に作用してその細胞内cGMP濃度を上昇させる活性を有する物質である。より好ましくは、ナトリウム利尿ペプチド受容体GC-Aアゴニスト、ナトリウム利尿ペプチド受容体GC-Bアゴニスト、NEP阻害剤又はPDE5阻害剤であり、更に好ましくは、ナトリウム利尿ペプチド受容体GC-Aアゴニストである。本発明の血管内皮細胞内cGMP増強剤は、少なくとも血管又はリンパ管の内皮細胞に作用して、その細胞内cGMP濃度を上昇させる活性を有するものであるが、好ましくは、生体に投与された場合に末梢血管の内皮細胞の細胞内cGMP濃度を上昇させるものである。
【0015】
本発明が提供する医薬等において、ナトリウム利尿ペプチド受容体GC-Aアゴニストは、以下の(a1)乃至(a6)から選択されるいずれか一つ又はその薬理上許容される塩であり、且つ、ナトリウム利尿ペプチド受容体GC-Aに対してアゴニスト活性を有する物質;
(a1) 心房性ナトリウム利尿ペプチド、(a2)脳性ナトリウム利尿ペプチド、(a1)又は(a2)の活性断片を含む物質、(a4)(a1)乃至(a3)の何れかのアミノ酸配列において1〜数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は、付加された変異体、 (a5)(a1)乃至(a4)の何れかの誘導体、並びに、(a6)(a1)乃至(a5)の何れかの修飾体、
であることが好ましい。
【0016】
ここで、ナトリウム利尿ペプチド受容体GC-Aアゴニストの更に好ましい態様として、以下のものなどをそれぞれあげることができる。
(a1)心房性ナトリウム利尿ペプチドとしては、配列表の配列番号1又は2に記載のアミノ酸配列からなるペプチドが好ましい。また、(a2)脳性ナトリウム利尿ペプチドとしては、配列表の配列番号3、4又は5に記載のアミノ酸配列からなるペプチドが好ましい。(a3)活性断片は、好ましくは、配列表の配列番号6のアミノ酸配列を有するペプチドであり、より好ましくは、配列表の配列番号1又は2の7位乃至27位のアミノ酸配列、配列番号3又は4の10位乃至30位のアミノ酸配列、或いは、配列表の配列番号5の23位乃至43位のアミノ酸配列、からなるペプチドである。(a4)変異体は、好ましくは、配列表の配列番号1乃至5の何れかに記載のアミノ酸配列において、配列番号6に表示されたアミノ酸以外のアミノ酸の1箇所〜数箇所において、1つ〜数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入及び/又は付加されたものであり、より好ましくは、(i)配列番号1又は2のアミノ酸配列の1位乃至6位及び28位の何れか一箇所〜数箇所において一つ〜数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入及び/又は付加されたペプチド、(ii)配列番号3又は4のアミノ酸配列の1乃至9位、31位及び32位の何れか一箇所〜数箇所において一つ〜数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入及び/又は付加されたペプチド、又は(iii)配列番号5のアミノ酸配列の1位乃至22位、44位及び45位の何れか一箇所〜数箇所において一つ〜数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入及び/又は付加されたペプチド、である。(a5)誘導体は、好ましくは、配列表の配列番号1乃至5の何れかのアミノ酸配列、あるいは上述した(a3)活性断片を含むものであり、より好ましくは、免疫グロブリンFc部分、血清アルブミン、及び、グレリンのC末端由来の部分配列の少なくとも一つをさらに含むものである。(a6)修飾体は、好ましくは、配列表の配列番号1乃至5の何れかのアミノ酸配列を含み、そのアミノ酸配列中の配列番号6に表示されたアミノ酸に相当するもの以外のアミノ酸の少なくとも一つにおいて、化学修飾を受けているものであり、より好ましくは、PEG、PVA等の製薬上用いられる高分子ポリマーを結合させることにより化学修飾されたものである。
【0017】
また、本発明の提供する医薬等において、ナトリウム利尿ペプチド受容体GC-Aアゴニストは、抗GC-A抗体であってもよい。このような抗GC-A抗体は、GC-Aに特異的に結合し、且つ、GC-Aに対してアゴニスト活性を有するものを使用することもできる。このような抗体としては、ポリクローナル抗体であっても、モノクローナル抗体であっても良いが、好ましくは、ヒト化モノクローナル抗GC-A抗体、又は、ヒト型モノクローナル抗GC-A抗体である。
【0018】
本発明の提供する医薬等においては、ナトリウム利尿ペプチド受容体GC-Bアゴニストは、以下の(b1)乃至(b5)から選択されるいずれか一つ又はその薬理上許容される塩であり、且つ、ナトリウム利尿ペプチド受容体GC-Bに対してアゴニスト活性を有する物質; (b1) C型ナトリウム利尿ペプチド、(b2)(b1)の活性断片を含む物質、(b3) (b1)又は(b2)のアミノ酸配列において1〜数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は、付加された変異体、 (b4)(b1)乃至(b3)の何れかの誘導体、並びに、(b5)(b1)乃至(b4)の何れかの修飾体、であることが好ましい。
【0019】
ここで、ナトリウム利尿ペプチド受容体GC-Bアゴニストの、さらに好ましい態様として、以下のものなどをそれぞれ挙げることができる。
(b1)C型ナトリウム利尿ペプチドは、配列表の配列番号7(hCNP-22)、配列番号8(hCNP-53)、配列番号9(ニワトリ由来CNP)又は配列番号10(カエル由来CNP)に記載のアミノ酸配列からなるもの、が好ましい。(b2)活性断片は、好ましくは配列表の配列番号11のアミノ酸配列を有するもの、より好ましくは、活性断片が配列表の配列番号7の6位乃至22位のアミノ酸配列(hCNP6−22)からなるもの、である。(b3)変異体は、配列表の配列番号7乃至10の何れかに記載のアミノ酸配列において、配列番号11に表示されたアミノ酸以外のアミノ酸の1〜数箇所において、1〜数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入及び/又は付加されたもの、より好ましくは変異体が (i)配列番号7、9又は10のアミノ酸配列の1位乃至5位の何れか一箇所〜数箇所において一つ〜数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入及び/又は付加されたペプチド、又は、(ii) 配列番号8のアミノ酸配列の1位乃至36位の何れか一箇所〜数箇所において一つ〜数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入及び/又は付加されたペプチド、である。(b4)誘導体は、好ましくは配列表の配列番号7乃至11の何れかのアミノ酸配列を含むものや、免疫グロブリンFc部分、血清アルブミン、及び、グレリンのC末端由来の部分配列の少なくとも一つをさらに含むもの、である。(b5)修飾体は、好ましくは配列表の配列番号7乃至10の何れかのアミノ酸配列を含み、その配列番号11に表示されたアミノ酸に相当するもの以外のアミノ酸の少なくとも一つにおいて、化学修飾を受けているもの、より好ましくは修飾体が製薬上用いられる高分子ポリマーを付加することにより化学修飾されたもの、である。
【0020】
また、本発明の提供する医薬等において、ナトリウム利尿ペプチド受容体GC-Bアゴニストは、抗GC-B抗体であってもよい。このような抗GC-B抗体は、GC-Bに特異的に結合し、、GC-Bに対してアゴニスト活性を有するものを採用することもできる。このような抗体としては、ポリクローナル抗体であっても、モノクローナル抗体であっても良いが、好ましくはヒト化モノクローナル抗GC-B抗体、又は、ヒト型モノクローナル抗GC-B抗体である。
本発明の医薬等に用いられるPDE5阻害剤としては、シルデナフィル、バルデナフィル、タダラフィル、ウデナフィル、ミルで名フィル等多くの化合物や、それらの薬理学上許容される塩を用いることができるが、好ましくは、、クエン酸シルデナフィル、塩酸バルデナフィル,又は、タダラフィル、である。
【0021】
また、本発明の提供する医薬等において、ナトリウム利尿ペプチド受容体GC-Aアゴニストなどの血管内皮細胞内cGMP増強剤は、患者の血圧、心拍数又は尿量の少なくとも一項目を大きく変動させない程度の用量に調節して投与されることができ、その用量としては、例えば、ナトリウム利尿ペプチド受容体GC-Aアゴニスト又はGC-Bアゴニストにおいて、0.1 μg/kg/分以下の継続投与であり、好ましくは0.05 μg/kg/分以下の継続投与であり、より好ましくは0.025 μg/kg/分以下の継続投与を採用することができる。継続投与の場合の投与期間は、通常1日以上であり、好ましくは1乃至数日間である。
【0022】
また、本発明の提供する医薬等は、悪性腫瘍の切除手術を受ける患者に対して、当該手術に対応した期間(例えば、当該切除手術前日から術後数日間)投与されるような形態において利用されうる。この場合の投与方法として、例えば、ナトリウム利尿ペプチド受容体GC-Aアゴニスト又はナトリウム利尿ペプチド受容体GC-Bアゴニストを0.1 μg/kg/分以下で、手術前から術後一定期間の継続投与であり、好ましくは配列番号1乃至5、7乃至10の何れかに記載のアミノ酸配列からなるペプチドを0.05 μg/kg/分以下の用量で、腫瘍切除手術前から術後一定期間(好ましくは、5日間以下)の期間継続的に投与するものであり、より好ましくは、配列番号1のアミノ酸配列からなるペプチドを、0.025 μg/kg/分の用量で、腫瘍切除手術前から術後3日間継続的に投与することである。
【0023】
また、本発明の提供する医薬等において、有効成分として、2種類以上の血管内皮細胞内cGMP増強剤が組み合わされて投与(単一の製剤に配合されても良く、別々に製剤化されたものを同時又は異なる時期に投与されても良い)されるような態様をも含む。このような組み合わせにおいて、好ましくは、ナトリウム利尿ペプチド受容体GC-Aアゴニスト又はナトリウム利尿ペプチド受容体GC-Bアゴニスト、と、PDE5阻害剤又はNO供給剤の組み合わせであり、より好ましくは、配列番号1、配列番号3、配列番号7又は配列番号7のアミノ酸番号6乃至22からなるアミノ酸配列からなるペプチドとシルデナフィルの組み合わせである。
【0024】
また、本発明は、血管内皮細胞内cGMP増強剤(例えば、ナトリウム利尿ペプチド受容体GC−Aアゴニスト)の投与により、患者の体内における血管内皮細胞に作用して、腫瘍細胞の血管内皮組織への接着及び浸潤の阻害を抑制する薬理作用を呈するような医薬又は治療方法等を提供する。
さらに、本発明の提供する医薬は、血管内皮細胞内cGMP増強剤としてナトリウム利尿ペプチドGC-Aアゴニストを含有し、上皮系悪性腫瘍の恐れがある対象(好ましくは、腫瘍細胞においてGC-Aが発現している対象)に投与されることを特徴とする医薬をも提供する。この場合、血管内皮に対する作用に加えて、GC-Aを発現する腫瘍細胞に対して腫瘍細胞の転移能獲得を抑制する薬理作用を示すことで相乗効果が期待できる。このような腫瘍細胞に対する薬理作用としては、癌細胞のEMTの抑制、癌細胞の遊走能獲得の阻害、癌細胞の運動能獲得の阻害、癌細胞の浸潤の抑制及び癌細胞特異的なアポトーシス誘導、から選択される少なくとも一つであり、複数の作用を示すことがより好ましい。
【発明の効果】
【0025】
本発明に係るナトリウム利尿ペプチド受容体GC-Aアゴニストなどの血管内皮細胞内cGMP増強剤を有効成分とする悪性腫瘍の転移を抑制又は予防するための医薬は、リンパ管又は血管の内皮細胞に作用して、腫瘍細胞の血管内皮への接着、浸潤を抑制することにより、腫瘍の種類を問わず転移を抑制又は予防できるという優れた効果がある。特に、血管内皮細胞内cGMP増強剤としてナトリウム利尿ペプチド受容体GC-Aアゴニストを含有する医薬については、GC-Aを発現する腫瘍細胞に対してEMT、遊走活性、浸潤活性等の転移に関連する各過程を抑制する効果を示し、悪性腫瘍の転移を複数の段階で抑制できるという格別な効果を奏するものである。このような本発明の優れた効果により、悪性腫瘍の転移や腫瘍切除術による治療後の再発の予防ばかりでなく、切除が困難な悪性腫瘍の転移をも効果的に抑制、予防することができる。さらに、hANP、hBNP、シルデナフィルなどは、既に臨床上多くの患者に投与され、安全性が確認されているため、本発明の提供する医薬は、副作用リスクが少なく、且つ、優れた腫瘍転移抑制作用を有する医薬となる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1図1は、A549細胞に対するナトリウム利尿ペプチド(hANP(●)、hBNP(▼)、hCNP(○))刺激による細胞内cGMPレベルの変動を示すグラフである。グラフの各点における例数は、n=5〜7である。
図2図2は、各濃度のhANP(図2A)、hBNP(図2B)、hCNP(図2C)存在下及び非存在下でのA549細胞の増殖状況を、培養48時間までの生細胞数により示したグラフである。各ナトリウム利尿ペプチドの濃度は、コントロール(0M)(○)、1×10-9 M(●)、1×10-8 M(△)、1×10-7 M(□)及び1×10-6 M(▼)である。グラフの各点における例数は、n=10〜12である。
図3図3は、1μM hANP存在下(図3C)及び非存在下(図3B)でのTGF-β1刺激によるA549細胞の形態変化を示す顕微鏡写真である(図3A:無刺激のA549細胞(コントロール)、図3B:TGF-β1(1ng/ml)、図3C:hANP(1μM)+TGF-β1(1ng/ml))。
図4図4は、A549細胞を、1μM hANP存在下及び非存在下で、それぞれ0.25、0.5及び1.0 ng/ml TGF-β1で刺激した際の、EMTの指標となる各因子(それぞれ図4A:VEGF-A、図4B:E-cadherin、図4C:N-cadherin、図4D:PDGF-B、図4E:TNF-α及び図4F:IL-6)の遺伝子発現について、mRNAレベルで示したグラフである。グラフ中、横軸はTGF-β1の濃度を表し、縦軸は、mRNAレベルを表す。また、グラフ中、1μM hANP非存在下での各遺伝子の発現は、灰色のバーで、hANP存在下での各遺伝子の発現は、黒色のバーで、それぞれ表される。
図5図5は、A549細胞を、1μM hANP存在下及び非存在下で、それぞれ0.25、0.5及び1.0 ng/ml TGF-β1で刺激した際の、E-CadherinとN-Cadherinの発現比率(N-Cad/E-Cad)を示したグラフである。グラフの横軸はTGF-β1の濃度を表し、縦軸は、E-CadherinとN-Cadherinの発現比率(N-Cad/E-Cad)を表す。1μM hANP非存在下でのE-CadherinとN-Cadherinの発現比率(N-Cad/E-Cad)は、灰色のバーで、hANP存在下でのE-CadherinとN-Cadherinの発現比率(N-Cad/E-Cad)は、黒色のバーで、それぞれ表される。
図6図6A及び図6Bは、遊走惹起物質としてTGF-β1を用いたBoyden Chamber Assayにおいて、hANPの存在下及び非存在下における、A549細胞の遊走能を示す図である。図6Aは、各群における、アッセイ20時間後のセルカルチャーインサート(cell culture insert)下面の細胞の顕微鏡写真である(図6Aa:コントロール群、図6Ab: TGF-β1群、図6Ac: TGF-β1+hANP群)。図6Bは、各群における、アッセイ20時間後のセルカルチャーインサート下面に付着した細胞数を示すグラフである。
図7図7は、創傷治癒アッセイ(Wound Healing Assay)における傷付直後のディッシュの傷部分の顕微鏡写真(図7A)、並びにコントロール群(図7B)、TGF-β1群(図7C)及びTGF-β1+hANP群(図7D)各群の、傷付24時間後のディッシュの傷部分の顕微鏡写真である。
図8図8は、創傷治癒アッセイにおけるコントロール群、TGF-β1群及びTGF-β1+hANP群各群の傷付24時間後の移動率を示すグラフである。
図9図9A及び図9Bは、遊走惹起物質としてTGF-β1を用い、上層にマトリゲル(Matrigel)層を形成したBoyden Chamber Assayにおいて、hANPの存在下及び非存在下における、A549細胞の浸潤能を示す。図9Aは、各群における、アッセイ40時間後のセルカルチャーインサート下面の細胞の顕微鏡写真である(図9Aa:コントロール群、図9Ab:TGF-β1群、図9Ac:TGF-β1+ hANP群)。図9Bは、各群における、アッセイ40時間後のセルカルチャーインサート下面に付着した細胞数を示すグラフである。
図10図10は、各種癌細胞(図10A:A549細胞、図10B:H460細胞、図10C:H520細胞、図10D:H358細胞)に対する、hANPの濃度(1、5、10μM)に依存したアポトーシス誘導を示すグラフである。
図11図11は、シスプラチンの各濃度における1μM hANPによる、各種癌細胞(図11A:A549細胞、図11B:H460細胞、図11C:H520細胞、図11D:H358細胞)に対するアポトーシス誘導を示すグラフである。グラフの横軸はシスプラチンの濃度を表す。各グラフ中、灰色はシスプラチン(CDDP)単独群、黒は1 μM hANP群である。
図12図12は、シスプラチンの各濃度における10μM hANPによる、各種癌細胞(図12A:A549細胞、図12B:H460細胞、図12C:H520細胞、図12D:H358細胞)に対するアポトーシス誘導を示すグラフである。グラフの横軸はシスプラチンの濃度を表す。各グラフ中、灰色はシスプラチン(CDDP)単独群、黒は10μM hANP群である。
図13図13は、飽和培養したHUVEC細胞の細胞間接着に対するVEGF、及びhANPの作用を示す顕微鏡写真である(図13の左上:コントロール、右上:VEGFを添加したHUVEC細胞、左下:hANPを添加したHUVEC細胞、右下:VEGF及びhANPを添加したHUVEC細胞)。図13中、円又は楕円状に染色(灰色(実際のカラー写真では青))された箇所は、Topro3により染色された細胞核である。細胞外縁付近に帯状に染色された箇所(細胞核以外の帯状の染色部分:灰色(実際のカラー写真では(緑))は、免疫染色されたVE-cadherinであり、細胞間接着の状況を示す。
図14図14は、肺癌切除術患者の、コントロール群及びhANP群における、術後早期(2年以内)無再発生存率(累積生存率)をKaplan-Meier法(打ち切り変数として癌の再発を採用)により解析した結果を、癌の進行度別(図14A:1A期(Stage 1A)、図14B:1B期(Stage 1B)、図14C:2期(Stage 2)、図14D:3期(Stage 3))に示すグラフである。平均観察期間は、hANP群:21.8カ月、コントロール群:22.0カ月である。図14A図14B図14C及び図14D中、●、■、▲及び◆はそれぞれ、コントロール群を示す。グラフ上にプロットが表示されないことは、死亡、再発等のイベントが発生しなかったことを意味する。
図15図15は、hANP投与群(○)(n=23)及びコントロール群(●)(n=21)の、癌切除術前から術後4日までの、拡張期血圧(図15A)、収縮期血圧(図15B)、心拍数(図15C)及び尿量(図15D)をそれぞれ示すグラフである。
図16図16は、蛍光ラベルしたA549細胞のマウス尾静脈注入転移試験における腫瘍細胞注入8週間後の肺の蛍光顕微鏡写真である。図16Aはコントロール群(生理食塩水28日間投与)の写真であり、図16BはANP投与群(hANP: 0.5μg/kg/分、28日間投与)の写真である。
図17図17は、GFPラベルしたA549細胞のマウス尾静脈注入転移試験における腫瘍細胞注入8週間後の肺への転移により形成された結節数を表すグラフである。縦軸は、肺に形成された結節数を示す。左のバーは、コントロール群(生理食塩水28日間投与)であり、右のバーはANP投与群(hANP: 0.5μg/kg/分、28日間投与)である。
図18図18は、マウスメラノーマB16-F10細胞のマウス尾静脈注入転移試験における腫瘍細胞注入2週間後の肺の顕微鏡写真である。黒い部分は転移したメラノーマにより形成された結節(転移巣)である。図18Aはコントロール群(生理食塩水)の写真であり、図18Bは、ANP投与群(hANP: 0.5μg/kg/分)の写真である。
図19図19は、マウスメラノーマB16-F10細胞のマウス尾静脈注入転移試験における腫瘍細胞注入2週間後の肺への転移により形成された結節数を表すグラフである。縦軸は、一個体あたりの肺に形成された結節数を示す。各バーは、左から右へ、コントロール群(生理食塩水投与)、ANP投与群(hANP: 0.5μg/kg/分、継続投与)、BNP投与群(マウスBNP: 0.5μg/kg/分、継続投与)、CNP投与群(hCNP-22: 2.5μg/kg/分、継続投与)及びシルデナフィル投与群(クエン酸シルデナフィル:20 mg/kg、腹腔内投与)である。
図20図20は、マウスメラノーマB16-F10細胞の、GC-Aノックアウトマウスへの尾静脈注入転移試験における腫瘍細胞注入2週間後の肺への転移により形成された結節数を表すグラフである。縦軸は、一個体あたりの肺に形成された結節数を示す。左のバーは野生型マウス、中央のバーは、全身性GC-Aノックアウトマウス、右のバーは内皮特異的GC-Aノックアウトマウスの結果を示す。
図21図21は、マウスメラノーマB16-F10細胞の、血管内皮特異的GC-A過剰発現マウスへの尾静脈注入試験における腫瘍細胞注入2週間後の肺への転移により形成された結節数を表すグラフである。縦軸は、一個体あたりの肺に形成された結節数を示す。右のバーは血管内皮特異的GC-A過剰発現マウス、左のバーは野生型の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0027】
<血管内皮細胞内cGMP増強剤>
本発明において、血管内皮細胞内cGMP増強剤とは、少なくとも、生体内のリンパ管や血管の内皮細胞に作用して、その細胞内cGMP濃度を上昇に起因するシグナル伝達を亢進する活性(細胞内cGMP増強活性)という)を有する薬剤を意味する。血管内皮細胞のcGMPは血中へも放出されるため、生体内において、この増強活性は、血管内皮細胞内のみならず血中のcGMP濃度の上昇としても観察することができる。細胞内のcGMPは、グアニレートサイクレース(GC、GCとしては、GC-AやGC-Bのような膜貫通受容体型と可溶型(sGC)がある)により産生されるため、GCの活性化を引き起こすことにより上昇する。また、細胞内のcGMPはホスホジエステラーゼ5(phosphodiesterase 5, (PDE5))により分解されるため、例えばシルデナフィルのようなPDE5阻害剤を作用させることでも細胞内cGMP濃度の上昇が引き起こされる。更に、外来性のcGMPやそのアナログが追加されることによっても、細胞内cGMP濃度上昇を介するシグナルが亢進されうる。本発明における細胞内cGMP増強活性とは、直接的、又は、間接的に、細胞内cGMP濃度の上昇を介したシグナル伝達を亢進する活性であれば、そのメカニズムを問わないが、好ましくはGC-Aの活性化、GC-Bの活性化及びPDE5の阻害であり、より好ましくはGC-Aの活性化作用である。
【0028】
膜貫通受容体型のGCとしては、ナトリウム利尿ペプチド受容体GC-A、ナトリウム利尿ペプチド受容体GC-Bが血管内皮細胞において発現が確認されている。そのため、これらに対するアゴニストであるANPやCNPなどのナトリウム利尿ペプチドが、本発明の血管内皮細胞内cGMP増強剤として用いることができる。特に、GC-Aアゴニストは、血管内皮への作用のみならず、腫瘍細胞にGC-Aが発現する上皮系の悪性腫瘍に対しては、腫瘍細胞のEMT,遊走活性等を抑制する活性を有しており、上皮系悪性腫瘍に対しては、良好な転移抑制作用を発揮する。また、各種ナトリウム利尿ペプチドは、NEP(Neutral endopeptidase)(NEP)によって切断され、活性が消失する。そのため、NEP阻害剤も本発明の細胞内cGMP増強剤として用いることができる。
【0029】
また、主に消化器官における作用が知られているGC-Cに対するアゴニストであるグアニリン、ウログアニリンなども細胞内cGMP増強活性を有することが知られている。
可溶型GCとしては、sGCα、sGCβなどが知られているが、これらはNO(Nitric Oxide)により活性化される。そのため、ニトログリセリンなどのNO供給剤、内皮細胞に発現するNO産生酵素であるeNOSの基質(アルギニンなど)や活性化剤についても、本発明の血管内皮細胞内cGMP増強剤として用いることができる。
腫瘍細胞の転移の多くは、末梢の血管やリンパ管の内皮組織へ接着することにより達成される。そのため、本発明の血管内皮細胞内cGMP増強剤は、生体に投与された際に、末梢血管の内皮細胞におけるcGMP濃度を上昇させる、又は、末梢血のcGMP濃度を上昇させることができる薬剤であることが好ましい。
【0030】
本発明に用いられる血管内皮細胞内cGMP増強剤の血管内皮細胞に対する細胞内cGMP増強活性は、本発明の知見に基づき、通常の方法を採用して確認することができる。例えば、HUVECのような血管内皮由来細胞や動物から採取した血管内皮組織の培養液に、被験物質を添加し、一定期間培養した後、市販のcGMP測定キット(例えば、Cyclic GMP Assay kit(ヤマサ社製)を用いて、細胞内又は培養液中のcGMP濃度を測定する。その結果を、被験物質非添加の場合と比較することでcGMP濃度の上昇を検出することができる。また、マウス等の実験動物に対して被験物質を投与し、血液中のcGMP濃度を測定し、同動物における投与前の血中cGMP濃度又は非投与群の血中cGMP濃度と比較することによっても、血管内皮細胞への細胞内cGMP増強活性を測定することができる。
【0031】
本発明に用いられる血管内皮細胞内cGMP増強剤としては、ナトリウム利尿ペプチド受容体GC-Aアゴニスト、ナトリウム利尿ペプチド受容体GC-Bアゴニスト、GC-Cアゴニスト、NEP阻害剤、PDE5阻害剤、NO供給剤、eNOS活性化剤、cGMPアナログ、などであって、血管内皮細胞に作用してその細胞内cGMP濃度を上昇させる活性を有するものであれば、特に限定されないが、好ましくは、ナトリウム利尿ペプチド受容体GC-Aアゴニスト、ナトリウム利尿ペプチド受容体GC-Bアゴニスト、NEP阻害剤又はPDE5阻害剤であり、更に好ましくは、ナトリウム利尿ペプチド受容体GC-Aアゴニストである。
【0032】
<ナトリウム利尿ペプチド受容体GC-Aアゴニスト>
本発明において、「ナトリウム利尿ペプチド受容体GC-Aアゴニスト」とは、ナトリウム利尿ペプチド受容体GC-A(以下、単に「GC-A」と表記する場合もある。(Chinkers M,et al.,Nature 338;78-83,1989))に結合し、そのグアニレートシクラーゼを活性化する作用(以下、「GC-Aアゴニスト活性」)を有する物質、を意味し、本明細書においては単に「GC-Aアゴニスト」と表記される場合もある。代表的なGC-Aアゴニストとしては、例えば、心房性ナトリウム利尿ペプチド(Atrial Natriuretic Peptide: ANP)や脳性ナトリウム利尿ペプチド(Brain Natriuretic Peptide: BNPが挙げられる。本発明のGC-Aアゴニストは、GC-Aアゴニスト活性を有するものであれば特に限定されず、ANP、BNP、それらの活性断片及びそれらの変異体、それらの誘導体並びにそれらの修飾体などを用いることができる。また、ANPやBNPとは構造上の共通性を有しないペプチドや低分子化合物であっても、GC-Aアゴニスト活性を有するものであれば、本発明のGC-Aアゴニストに包含される。
【0033】
本発明におけるANPとしては、28個のアミノ酸よりなるヒト由来ANP(SLRRSSCFGG RMDRIGAQSG LGCNSFRY:配列番号1)、ラット由来ANP(SLRRSSCFGG RIDRIGAQSG LGCNSFRY:配列番号2)などが挙げられる。ヒト由来ANPについては、Biochem.Biophys.Res.Commun.,118巻,131頁,1984年に記載のα−hANPが、一般名カルペリチド(carperitide)として、日本において製造販売承認を取得し、販売(商品名:ハンプ、HANP)されている。α−ANPは、一般的にはHuman pro−ANP[99−126]としても知られている。
【0034】
本発明におけるBNPとしては、32個のアミノ酸よりなるヒト由来BNP(SPKMVQGSGC FGRKMDRISS SSGLGCKVLR RH:配列番号3)、ブタ由来BNP(SPKTMRDSGC FGRRLDRIGS LSGLGCNVLR RY:配列番号4)、ラット由来BNP(SQDSAFRIQE RLRNSKMAHS SSCFGQKIDR IGAVSRLGCD GLRLF:配列番号5)などを例示する事ができる。ヒトBNPは一般名ネシリチド(nesiritide)として、米国等で薬事承認を受けており、商品名:ナトレコール(Natrecor)として販売されている。
【0035】
また、各種のANP及びBNPにおいて、配列中に含まれる2つのCys残基間のジスルフィド結合により形成されるリング構造(例えば、hANPでは、配列番号1の7位Cysと23位Cysの間でジスルフィド結合しリング構造を形成、hBNPでは、配列番号3の10位Cysと26位Cysの間でジスルフィド結合しリング構造を形成)に含まれる17個のアミノ酸からなる配列及びそのC末端に続くアミノ酸配列において、Cys -Phe -Gly -Xaa1 -Xaa2 -Xaa3 -Asp -Arg -Ile -Xaa5 -Xaa6 -Xaa7 -Xaa8 -Xaa9 -Leu -Gly -Cys -Xaa10 -Xaa11 -Xaa12 -Arg(ここで、Xaa3はMet、Leu又はIle)(配列番号6、以下「リング構造配列A」という)が、各種ペプチド間で良く保存されており、受容体の結合と活性発現に重要と考えられている。(Silver, MA,, Curr. Opin. Nephrol. Hypertens. (2006), 15, p14-21、A. Calderone, Minerva Endocrinol.(2004), 29, p.113-127)。
【0036】
<ナトリウム利尿ペプチド受容体GC-Bアゴニスト>
本発明において、「ナトリウム利尿ペプチド受容体GC-Bアゴニスト」とは、ナトリウム利尿ペプチド受容体GC-B(単に「GC-B」と表記する場合もある(Suga S., et al., Endocrinology (1992), 130(1), p.229-239))に結合し、そのグアニレートシクラーゼを活性化する作用(以下、「GC-Bアゴニスト活性」)を有する物質、を意味し、本明細書においては単に「GC-Bアゴニスト」と表記される場合もある。代表的なGC-Bアゴニストとしては、例えば、C型ナトリウム利尿ペプチド(C-type Natriuretic Peptide: CNP)が挙げられる。本発明のGC-Bアゴニストは、GC-Bアゴニスト活性を有する物質であれば特に限定されず、CNP、その活性断片、それらの変異体、それらの誘導体並びにそれらの修飾体などを用いることができる。また、CNPとは構造上の共通性を有しないペプチドや低分子化合物であっても、GC-Bアゴニスト活性を有するものであれば、本発明のアゴニストに包含される。
【0037】
本発明におけるCNPとしては、22個のアミノ酸よりなるヒト由来CNP-22(GLSKGCFGLK LDRIGSMSGL GC:配列番号7、本明細書中、hCNP-22ともいう、ブタ及びラット等哺乳類では共通のアミノ酸配列を有する)、53個のアミノ酸よりなるヒト由来CNP-53(DLRVDTKSRA AWARLLQEHP NARKYKGANK KGLSKGCFGL KLDRIGSMSG LGC:配列番号8、本明細書中、hCNP-53ともいう)、ニワトリ由来CNP(GLSRSCFGVK LDRIGSMSGL GC:配列番号9)、カエル由来CNP(GYSRGCFGVK LDRIGAFSGL GC:配列番号10)、などが挙げられる。
【0038】
各種のCNPにおいて、配列中に含まれる2つのCys残基間のジスルフィド結合により形成されるリング構造(例えば、hCNP-22では、配列番号7の6位Cysと22位Cysの間でジスルフィド結合しリング構造を形成)がGC-B受容体への結合と活性発現に重要と考えられている(Furuya, M. Et al, Biochem. Biophys. Res. Commun.,(1992), 183, No 3, p.964-969, Silver, MA,, Curr. Opin. Nephrol. Hypertens. (2006), 15, p14-21、A. Calderone, Minerva Endocrinol.(2004), 29, p.113-127)。Furuyaらの報告によれば、リング構造のみからなるペプチドであるhCNP6-22(配列番号7のアミノ酸番号6乃至22からなるペプチド)やリング構造のN末端とC末端にそれぞれANPのN末端側、C末端側の配列を付加しても、hCNP-22とほぼ同程度のGC-Bアゴニスト活性を示すこと、hCNP-22の9位Leuと10位Lysに変異を有するペプチドでは活性が減弱するが、それ以外の部位(例えば、17位Ser、18位Met)に変異を有するペプチドやhANPの10乃至12位のアミノ酸配列を対応するhCNP−22の配列であるLeu-Lys-Leu(配列番号7の9位乃至11位)に置換したペプチドは、hCNP-22とほぼ同程度のGC-Bアゴニスト活性を示すこと、などが報告されている。これらの知見から、GC-Bアゴニスト活性に重要なリング構造のアミノ酸配列は、Cys -Phe -Gly -Xaa3 -Lys -Leu -Asp -Arg -Ile -Gly -Xaa1 -Xaa2 -Ser -Gly -Leu -Gly -Cys(ここで、Xaa1は、Ser又はAla、Xaa2はMet、Phe又はGlu、Xaa3は、Leu又はValを示す:配列番号11)であり、以下、この配列を「リング構造配列B」という。
【0039】
本発明において、生物活性を有するペプチド又はタンパク質の「活性断片」とは、当該ペプチド又はタンパク質の生物活性に関連する部位からなり、且つ、当該ペプチド又はタンパク質の有する生物活性の少なくとも一部を保持するもの、を意味する。本発明におけるANP又はBNPの活性断片として、上述したGC-Aに結合し、そのグアニレートシクラーゼを活性化する作用を有するペプチドを用いることができる。そのような活性断片としては、上述のリング構造配列A(配列番号6のアミノ酸配列)を有するペプチド、好ましくはリング構造配列A(配列番号6のアミノ酸配列)からなるペプチドを挙げることができる。その具体例としては、配列番号1又は2の7乃至27位に記載されたアミノ酸配列、配列番号3又は4の10乃至30位に記載されたアミノ酸配列、或いは、配列番号5の23乃至43位に記載されたアミノ酸配列、からなるペプチド等が挙げられるが、これに限定されず、リング構造配列Aを有し、GC-Aアゴニスト活性を有するものは、本発明のANP又はBNPの活性断片として採用することができる。
【0040】
本発明におけるCNPの活性断片として、例えば、配列番号7乃至10の何れかのアミノ酸配列の少なくとも一部のアミノ酸配列からなり、且つ、GC-Bアゴニスト活性を有するペプチドを用いることができる。そのような活性断片としては、上述のリング構造配列B(配列番号11のアミノ酸配列)を有するペプチド、好ましくはリング構造配列B(配列番号11のアミノ酸配列)からなるペプチドを挙げることができ、その具体例としては、hCNP6-22、配列番号7、9又は10のアミノ酸配列の1位乃至5位において、1位を含む連続するアミノ酸が一部又は全て欠損したペプチド、配列番号8のアミノ酸配列の1位乃至36位において、1位を含む連続するアミノ酸が一部又は全て欠損したペプチド、などが挙げられるが、これに限定されず、リング構造配列Bを有し、GC-Bアゴニスト活性を有するものは、本発明のCNPの活性断片として採用することができる。
【0041】
本発明のGC-Aアゴニスト及びGC-Bアゴニストとしては、上述した活性断片そのものを採用することもでき、また、活性断片のN末端、C末端又はその両方に1乃至複数のアミノ酸が付加したようなペプチド(活性断片の誘導体)であっても、所望のアゴニスト活性を保持する限り、採用することができる。このようなペプチドとしては、hCNP6-22のN末端、C末端及びその両方に、ANPのC末端、及びN末端に由来する配列を付加したペプチド(Furuya, M. Et al, Biochem. Biophys. Res. Commun.,(1992), 183, No 3, p.964-969)などを挙げることができる。
【0042】
本発明において、生物活性を有するペプチド又はタンパク質の「変異体」とは、当該ペプチド又はタンパク質のアミノ酸配列の一箇所〜数箇所において、一つ〜数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は、付加(以下、「置換等」という)されたものであって、且つ、当該ペプチド又はタンパク質の有する生物活性の少なくとも一部を保持するもの、を意味する。「数箇所」とは、通常3箇所程度、好ましくは2箇所程度である。「数個」とは、通常10個程度、好ましくは5個程度、より好ましくは3個程度、さらに好ましくは2個程度である。複数箇所で置換等される場合には、置換、欠失、挿入及び付加の何れか一つであっても良く、二つ以上が組み合わされていても良い。また、置換等されるアミノ酸は、天然に存在するアミノ酸であってもよく、そのアシル化体等の修飾物であってもよく、人工的に合成されたアミノ酸類似体であってもよい。また、置換等される部位は、元となるペプチド又はタンパク質の活性の一部が保持される限り、どの部位を選択してもよいが、当該元となるペプチド又はタンパク質の活性部位又は受容体結合部位、以外の箇所が置換等されたものが好ましい。ANPやBNPの変異体としては、GC-Aアゴニスト活性が保持される限り、所望の部位において置換等されたものが採用できるが、好ましくは、上述したリング構造配列Aが保持され、それ以外の部位で置換等されたペプチドを挙げることができる。
【0043】
例えば、ANPの変異体は、GC-Aアゴニスト活性を有する限り、例えば、配列番号1又は2に記載のアミノ酸配列中の所望の1つ〜複数の箇所において1〜数個のアミノ酸が置換等されていても良いが、好ましくは、配列番号1又は2に記載のアミノ酸配列中の配列番号6に表示されたアミノ酸以外のアミノ酸において1箇所〜数箇所で一つ〜数個のアミノ酸が置換等されたものであり、より好ましくは配列番号1又は2に記載のアミノ酸配列の1乃至6位及び28位の何れか1箇所〜数箇所で一つ〜数個のアミノ酸が置換等されたものである。また、BNPの変異体は、GC-Aアゴニスト活性を有する限り、配列番号3、4又は5に記載のアミノ酸配列の所望の1つ〜複数の箇所において一つ〜数個のアミノ酸が置換等されていても良いが、好ましくは、配列番号3、4又は5に記載のアミノ酸配列中の配列番号6に表示されたアミノ酸以外のアミノ酸において1箇所〜数箇所で一つ〜数個のアミノ酸が置換等されたものであり、より好ましくは配列番号3又は4に記載のアミノ酸配列の1乃至9位、31位及び32位の何れか1箇所〜数箇所で一つ〜数個のアミノ酸が置換等されたもの、或いは、配列番号5に記載のアミノ酸配列の1位乃至22位、44位及び45位の何れか一箇所〜数箇所で一つ〜数個のアミノ酸が置換等されたペプチド等である。
【0044】
ANPの変異体の具体例としては、例えば、hANPの12位のMetがIleに置換されたラットα−rANP(Biochem.Biophys.Res.Commun.,121巻,585頁,1984年)、N末のSer−Leu−Arg−Arg−Ser−Serが欠失したhANP等が挙げられる。この様なANP又はBNP変異体に関しては、例えば、Medicinal Research Review,10巻,115頁,1990年に記載されている一連のペプチド等が挙げられる。また、アミノ酸配列の1乃至複数のアミノ酸が欠失するとともにアミノ酸配列の1乃至複数のアミノ酸が他のアミノ酸に置換された例としては、例えば、15アミノ酸残基から成るmini−ANP(Science,270巻,1657頁,1995年)等が挙げられる。
【0045】
また、CNPの変異体としては、GC-Bアゴニスト活性が保持される限り、所望の部位において置換等されたものが採用できるが、好ましくは、上述したリング構造配列Bが保持され、それ以外の部位で置換等されたペプチドを挙げることができる。具体的なCNPの変異体としては、GC-Bアゴニスト活性を有する限り、配列番号7乃至10に記載のアミノ酸配列中の所望の1つ〜複数の箇所において1〜数個のアミノ酸が置換等されていても良いが、好ましくは、配列番号7乃至10の何れかに記載のアミノ酸配列中の配列番号11に表示されたアミノ酸以外のアミノ酸において1箇所〜数箇所で一つ〜数個のアミノ酸が置換等されたものであり、より好ましくは配列番号7、9又は10に記載のアミノ酸配列の1乃至5位の何れか1箇所〜数箇所で一つ〜数個のアミノ酸が置換等されたもの、又は、配列番号8に記載のアミノ酸配列の1乃至36位の何れか1箇所〜数箇所で一つ〜数個のアミノ酸が置換等されたものである。
【0046】
CNPの変異体の具体例としては、hCNP-22の17位と18位に変異を有するペプチドがhCNP-22と同等のGC-Bアゴニスト活性を有すること、そのような変異体のリング構造部分のN末端とC末端をhANP由来の配列に置き換えた変異体の誘導体でもhCNP-22の活性の90%程度のGC-Bアゴニスト活性を示すこと、hCNP-22の9位から11位の何れか一箇所に変異を有するペプチドがhCNP-22の50%以上のGC−Bアゴニスト活性を示すこと、hCNP-22の10位と11位の両方に変異を有するペプチドがhCNP-22の40%以上のGC-Bアゴニスト活性を有することなどが報告されている(Furuya, M. Et al, Biochem. Biophys. Res. Commun.,(1992), 183, No 3, p.964-969)。また、別の文献では、hCNP-22の各種変異体が、GC-Bアゴニスト活性を保持することや、その中にはさらに、CNPの分解酵素である中性エンドペプチダーゼ(NEP)による切断への耐性を有することなどが記載されている(WO2009/067639号パンフレット)。また、別のhCNP−22の誘導体として、CD-NP が知られている。これはhCNP-22のC末にヘビ毒由来のナトリウム利尿ペプチドであるDNP (dendroapsis natriuretic peptide)のC末配列が付与されたペプチドであり、GC-Aアゴニスト活性とGC-Bアゴニスト活性の両方を保持するものとして知られている(Deborah et al., J. Biol. Chem.,(2008), Vol. 289, No.50, pp.35003-35009)。
【0047】
本発明において、生物活性を有するペプチド又はタンパク質の「誘導体」とは、当該ペプチド又はタンパク質のアミノ酸配列を含み、さらに別のペプチド又はタンパク質が付加された融合ペプチドであり、且つ、当該生理活性ペプチド又はタンパク質の有する生物活性の少なくとも一部を保持する融合ペプチドを意味する。このような生物活性(本発明においては、GC-A又はGC-Bに結合し、そのグアニレートシクラーゼを活性化する作用)の少なくとも一部を有する融合ペプチドを、生理活性ペプチドの誘導体ともいう。本発明の誘導体において、元となる生理活性ペプチド又はタンパク質の、C末端又はN末端の一方に付加ペプチドが融合されていてもよく、C末端及びN末端の両方に付加ペプチドが融合されたものであっても良い。付加されるペプチドとしては、特に限定されないが、そのペプチド自身が生理活性を有さないものが好ましい。また、付加ペプチドは直接結合していてもよく、1〜数個のアミノ酸からなるリンカー配列を介して結合していても良い。リンカー配列としては、様々なものが知られているが、Gly、Ser等を多く含むものが好ましく使用される。そのような付加ペプチドとしては、免疫グロブリン(好ましくはIgG)のFc部位、血清アルブミン、グレリンのC末端側配列などを挙げることができる(例えばANPを免疫グロブリンのFc部位と結合させた融合タンパク質(米国特許公開US2010-0310561等参照)、GLP-1を血清アルブミンと結合させた融合タンパク質(国際特許公開WO2002/046227等参照))。本発明のGC-Aアゴニストとして用いられる誘導体としては、ANP又はBNPの誘導体、ANP又はBNPの活性断片の誘導体、ANP又はBNPの変異体の誘導体、などを例示することができ、好ましくはhANPの誘導体及びhBNPの誘導体である。本発明のGC-Bアゴニストとして用いられる誘導体としては、CNPの誘導体、CNPの活性断片の誘導体、CNPの変異体の誘導体などを例示することができ、好ましくはhCNP-22の誘導体、hCNP-53の誘導体又はhCNP6-22の誘導体である。
【0048】
GC-Aアゴニストとして採用される誘導体の例としては、例えばANPを免疫グロブリンのFc部位と結合させた融合タンパク質(米国特許公開US2010-0310561等参照)がANPの生物活性を保持したまま、血中滞留性が改善されることが知られている。また、ANP及びBNPの各種誘導体に関しては、例えば、Medicinal Research Review,10巻,115頁,1990年に記載されている一連のペプチドが挙げられる。
【0049】
また、ANPやCNPの誘導体の具体例として、国際特許公開WO2009/142307号公報(対応米国特許公開US2010-305031号公報)に開示された各種のANP誘導体、CNP誘導体などを挙げることができる。ここでは、ANP、CNP、モチリンなどの生理活性ペプチドに、グレリンのC末端に由来する部分配列を付加した誘導体において、元ペプチドの生理活性を保持したまま、血中滞留性が改善されたことが報告されている。この報告では、hANPのN末端又はC末端の何れか一方及びそれらの両方にグレリンのC末端由来の部分ペプチドを付加した多様な誘導体のいずれにおいても、GC−Aアゴニスト活性が保持され、その血中半減期が延長された。また、hCNP6-22のN末端又はC末端の何れか一方及びそれらの両方にグレリンのC末端由来の部分ペプチドを付加した多様な誘導体のいずれにおいても、GC−Bアゴニスト活性が保持され、その血中半減期が延長された。
【0050】
さらに、CNP又はその活性断片の誘導体の別の例として、hCNP-22のC末端にANPのC末端部分が付加したペプチドや、hCNP6-22のN末端及びC末端にANPのN末端部分及びC末端部分が付加したペプチド(CNP活性断片の誘導体)においても、CNP-22と同程度のGC-Bアゴニスト活性が保持されていた(Furuya, M. Et al, Biochem. Biophys. Res. Commun.,(1992), 183, No 3, p.964-969)。さらに、別の文献において、hCNP−22及びhCNP−53の各種誘導体が、GC−Bアゴニスト活性を保持することや、その中の複数の誘導体がさらにNEP分解耐性を有することなどが記載されている(WO2009/067639号パンフレット)。
【0051】
これら、既知のナトリウム利尿ペプチドの誘導体は、本発明のGC-Aアゴニスト及び/又はGC-Bアゴニストとして採用することができる。
【0052】
本発明において、生物活性を有するペプチド又はタンパク質の「修飾体」とは、当該ペプチド又はタンパク質に含まれるアミノ酸の1箇所から数箇所が、別の化学物質との化学反応により修飾されたもので、且つ、当該ペプチド又はタンパク質の有する生物活性の少なくとも一部を保持するもの、を意味する。修飾を受ける部位は、元となるペプチド又はタンパク質の活性を保持する限り、いずれの部位を選択してもよい。例えばポリマーのようなある程度大きな化学物質を付加する修飾では、ペプチド又はタンパク質の活性部位、又は、受容体結合部位以外の箇所において修飾されることが好ましい。また、分解酵素による切断を防止するための修飾の場合、当該切断を受ける箇所が修飾されたものも採用する事ができる。
【0053】
化学修飾の方法としては、様々な方法が知られているが、例えばポリエチレングリコール(PEG)、ポリビニルアルコール(PVA)など製薬技術において利用される(薬理上用いられる)高分子ポリマーを付加する方法や、Lys残基等の側鎖のアミノ基にリンカーとなる化合物を付加させ、それを介して別のタンパク質等(例えば血清アルブミン)と結合させる方法などが知られているが、これらに限定されず、様々な方法を採用することができる。また、様々な生理活性ペプチドの修飾体の製造方法については、例えば、米国特許公開US2009-0175821号などを参考に、適宜作製することができる。修飾体は、好ましくは製薬上用いられる高分子ポリマーを付加することにより化学修飾されたものである。
【0054】
例えば、ANPの修飾体は、GC-Aアゴニスト活性を有する限り、配列番号1又は2のアミノ酸配列中の所望の1つ〜複数の箇所において修飾されていても良いが、好ましくは、配列表の配列番号1又は2のアミノ酸配列を含み、その配列番号6に表示されたアミノ酸に相当するもの以外のアミノ酸の少なくとも一つにおいて、化学修飾を受けているものである。より好ましくは、配列番号1又は2のアミノ酸配列中の配列番号6に表示されたアミノ酸以外のアミノ酸において1箇所〜数箇所で修飾されたものであり、さらに好ましくは配列番号1又は2のアミノ酸配列の1乃至6位及び28位の何れか1箇所〜数箇所で修飾されたものである。また、BNPの変異体は、GC-Aアゴニスト活性を有する限り、配列番号3、4又は5のアミノ酸配列の所望の1つ〜複数の箇所において修飾されていても良いが、好ましくは、配列表の配列番号3、4又は5のアミノ酸配列を含み、その配列番号6に表示されたアミノ酸に相当するもの以外のアミノ酸の少なくとも一つにおいて、化学修飾を受けているものである。より好ましくは、配列番号3、4又は5のアミノ酸配列中の配列番号6に表示されたアミノ酸以外のアミノ酸において1箇所〜数箇所で修飾されたものであり、より好ましくは配列番号3又は4のアミノ酸配列の1乃至9位、31位及び32位の何れか1箇所〜数箇所で修飾されたもの、或いは、配列番号5に記載のアミノ酸配列の1位乃至22位、44位及び45位の何れか1箇所〜数箇所で修飾されたものである。さらに、上述したANP又はBNPの活性断片、変異体及びそれらの誘導体の修飾体も本発明に含まれる。このような各種修飾体もGC-Aアゴニスト活性を保持する限り、本発明に用いることができる。
【0055】
このようなGC-Aアゴニストとして採用されうる修飾体の具体例としては、例えばhBNP、その変異体及びその活性断片に、PEG、PVA等の親水性ポリマーやアルキル基、アリール基などの炭化水素基に代表される疎水性基が結合された各種修飾体において、GC-Aアゴニスト活性を保持することが知られている(米国特許USP7,662,773号等参照)。
【0056】
ANP又はBNPと、GC-A受容体との結合は、ANP及びBNPのリング構造とそのC末端テール部分が重要であるため、特にそのN末端部に別の配列又は物質が結合した誘導体や修飾体は、その付加ペプチドや修飾物がリング構造に影響を与えることが少なく、GC-A受容体との結合を阻害することなくGC-Aアゴニスト活性を保持することになる。このことは、上述の多くの文献により実証されている。
【0057】
また、CNPの修飾体は、GC-Bアゴニスト活性を有する限り、配列番号7乃至10の何れかのアミノ酸配列中の所望の1つ〜複数の箇所において修飾されていても良いが、好ましくは、配列番号7乃至10の何れかのアミノ酸配列中の配列番号11に表示されたアミノ酸以外のアミノ酸において1箇所〜数箇所で修飾されたものであり、より好ましくは配列番号7、9又は10のアミノ酸配列の1乃至5位の何れか1箇所〜数箇所で修飾されたものである。また、酵素NEPによる切断への耐性を付与する修飾の場合は、各種CNPペプチドに含まれる、リング構造配列Bにおいて配列番号11の1位Cysと2位Pheの間で切断されることが知られている為、この間の結合を修飾することもできる。
【0058】
さらに、上述したCNPの活性断片、変異体及びそれらの誘導体の修飾体も本発明に含まれる。このような各種修飾体もGC-Bアゴニスト活性を保持する限り、本発明に用いることができる。
【0059】
このようなCNP、その活性断片、それらの変異体及びそれらの誘導体の修飾体の具体例としては、例えばWO2009/067639号パンフレットにおいて、hCNP-22及びhCNP-53にPEG等の各種親水性ポリマーを結合させた修飾体や、hCNP-22においてNEPによる切断部位であるCys6-Phe7のペプチド結合が(−CH−NH−)や(−C(=O)−N(R)−:Rは、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert-ブチル基などの低級アルキル基を表す)などの偽ペプチド結合に置換された修飾体の複数が、GC-Bアゴニスト活性を保持し、また、その多くがhCNP−22よりも改善された血中滞留性を有することが開示されている。また、様々な生理活性ペプチドの修飾体の製造方法については、例えば、米国特許公開US2009-0175821号などを参考に、適宜作製することができる。
【0060】
CNPとGC-B受容体との結合は、CNPのリング構造が重要であるため、特にそのC末端及び/又はN末端部に別の配列又は物質が結合した誘導体や修飾体は、その付加ペプチドや修飾物がリング構造に影響を与えることが少なく、GC-B受容体との結合を阻害することなくGC-Bアゴニスト活性を保持することになる。このことは、上述の多くの文献により実証されている。
【0061】
上記のANP、BNP及びCNP、それらの活性断片、それらの変異体、それらの誘導体並びにそれらの修飾体は、天然の細胞又は組織から採取されたものでもよく、遺伝子工学的、細胞工学的な手法を用いて生産したものであってもよく、化学合成したものであってもよく、さらにはそれらを酵素処理や化学処理してアミノ酸残基を修飾又はアミノ酸配列の一部を除去したものであってもよい。このような製造は、本明細書に記載された文献を参考に、常法に従って適宜なし得るものである。
【0062】
また、本発明のGC-Aアゴニスト又はGC-Bアゴニストとしては、単一の物質中にGC-AアゴニストとGC-Bアゴニストとしての性質を両方併せ持つ物質(本発明では、「両活性物質」ともいう)を用いることもできる。このような両活性物質としては、GC-Aアゴニスト活性とGC−Bアゴニスト活性を両方保持する物質であれば特に限定されない。そのような物質としては、例えば、リング構造配列A(配列番号6)とリング構造配列B(配列番号11)の両方を同一分子中に含む物質(例えば、両方の配列を含む融合ペプチドや、両方の配列からなるペプチドがリンカー化合物を介して連結された修飾体など)や、リング構造配列Aとリング構造配列Bの特徴を融合して併せ持つアミノ酸配列を含む物質などを挙げることができる。このような、両活性物質の具体例としては、CD-NP が知られている。これはhCNP-22のC末にヘビ毒由来のナトリウム利尿ペプチドであるDNP (dendroapsis natriuretic peptide)のC末配列が付与されたペプチドであり、GC−Aアゴニスト活性とGC−Bアゴニスト活性の両方を保持するものとして知られている(Deborah et al., J. Biol. Chem.,(2008), Vol. 289, No.50, pp.35003-35009)。また、別の例としては、hANP(配列番号1)の9位乃至11位を、Leu- Lys- Lueに置換したペプチドにおいて、GC−Aアゴニスト活性とGC−B−アゴニスト活性の両方が保持されていた(Furuya, M. Et al, Biochem. Biophys. Res. Commun.,(1992), 183, No 3, p.964-969)。
【0063】
また、本発明のGC-Aアゴニスト及びGC-Bアゴニストは、ナトリウム利尿ペプチド受容体GC-A又はGC-Bに対する抗体であり、且つ、それぞれの受容体に対するアゴニスト活性を有するものを採用することができる。
本発明において、「抗体」とは、対象となる抗原(GC-A又はGC-B)と特異的に結合する抗体又はその結合活性を保持する断片(結合断片、例えば、Fabフラグメント等)でる。また、本発明の抗体としては、抗血清、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、キメラ抗体、一本鎖抗体、ヒト型抗体、ヒト抗体、それらのうちいずれかの活性断片等を挙げることができる。これらの抗体は、免疫現となる受容体の全体又はその際妨害ドメインを免疫減として用い、通常の方法によって製造することができる。例えば、ヒト化抗体については、例えばWO91/009968号等、ヒト型抗体については、例えばWO92/03918号、WO94/25585号等の記載を参照し、更に様々な周知技術を採用することができる。また、製造された抗体について、後述の方法によりGC-Aアゴニスト活性又はGC-Bアゴニスト活性を測定することにより、所望の活性を有する抗体を選抜することができる。
【0064】
本発明のGC-Aアゴニストとして用いられる抗GC-A抗体は、ナトリウム利尿ペプチド受容体GC-Aに特異的に結合し、且つ、GC-Aアゴニスト活性を有する抗体又はその結合断片であり、好ましくは、モノクローナル抗体である抗GC-Aモノクローナル抗体であり、より好ましくはヒト化された抗GC-A抗体又はヒト型抗体である抗GC-A抗体である。
また、本発明のGC-Bアゴニストとして用いられる抗GC-B抗体は、ナトリウム利尿ペプチド受容体GC-Bに特異的に結合し、且つ、GC-Bアゴニスト活性を有する抗体又はその結合断片であり、好ましくは、モノクローナル抗体である抗GC-B抗体であり、より好ましくはヒト化抗体である抗GC-B抗体又はヒト型抗体である抗GC-B抗体である。
【0065】
ある物質が、GC-Aアゴニスト活性を有するか否かについては、当業者であれば従来知られている方法により容易に測定を実施することができる。具体的には、GC-A(Chinkers M,et al.,Nature 338;78−83,1989)を強制発現させた培養細胞に物質を添加し、細胞内cGMPレベルを測定することで可能である。GC-Aアゴニスト活性の一部が保持されるとは、同一の試験系を用いて、GC−Aアゴニスト物質とANP又はBNP(当該アゴニスト物質がANP又はBNPの配列を参考にして作製されたものである場合は、当該参考としたペプチド)とを並べてGC−Aアゴニスト活性を測定した場合に、cGMP上昇活性のピークが、少なくともANP又はBNPが示すcGMP上昇活性ピークの約10%以上を保持することを通常意味するが、好ましくは約30%以上を保持することであり、さらに好ましくは約50%以上を保持することであり、さらにより好ましくは約70%以上を保持することを意味する。
【0066】
ある物質が、GC-Bアゴニスト活性を有するか否かについては、当業者であれば従来知られている方法により容易に測定を実施することができる。具体的には、GC-B(Chinkers M,et al.,Nature 338;78−83,1989)を強制発現させた培養細胞に物質を添加し、細胞内cGMPレベルを測定することで可能である。GC-Bアゴニスト活性の一部が保持されるとは、同一の試験系を用いて、GC-Bアゴニスト物質とCNPとを並べてGC-Bアゴニスト活性を測定した場合に、cGMP上昇活性のピークが、少なくともCNPが示すcGMP上昇活性ピークの約10%を保持することを通常意味するが、好ましくは約30%以上を保持することであり、さらに好ましくは約50%以上を保持することであり、さらにより好ましくは約70%以上を保持することを意味する。
【0067】
また、本発明のGC-Aアゴニスト活性又はGC-Bアゴニスト活性において、上記の方法でピークにおいて活性の上昇が大きくなくても、生体に投与した場合の活性持続時間が長いものは、本発明に用いることができる。このような評価のためには、動物に対して被験物質を投与し、血中のcGMP濃度を経時的に測定する。得られたデータについて、X軸二時間、Y軸にcGMP濃度をプロットしたグラフを作成し、その線の下の面積(AUC)を、ANPやCNPなどの対照物質と比較して評価することができる。この評価方法において活性を保持するとは、対照物質と比較して、通常約10%以上を保持することを通常意味するが、好ましくは約30%以上を保持することであり、さらに好ましくは約50%以上を保持することであり、さらにより好ましくは約70%以上を保持することを意味する。
【0068】
また、このような評価系に対して、低分子の化合物を添加し、cGMP産生能が向上するような化合物であれば、ナトリウム利尿ペプチドと共通する構造を有しないもの(例えば、低分子化合物)であっても、GC-Aアゴニスト又はGC-Bアゴニストとして、本発明に用いることができる。
【0069】
本発明のGC-Aアゴニストとして好ましいものは、ANP、BNP、そのリング構造配列Aを有する活性断片、若しくは、そのリング構造配列A以外において置換等された変異体、それらの誘導体又は修飾体であり、より好ましくはhANP、hBNP 、それらの誘導体又はそれらの修飾体であり、さらにより好ましくは、hANP又はhBNPである。
【0070】
本発明のGC-Bアゴニストとして好ましいものは、CNP、そのリング構造配列Bを有する活性断片、若しくは、そのリング構造配列B以外において置換等された変異体、それらの誘導体又は修飾体であり、より好ましくはhCNP-22、hCNP-53、その活性断片であるhCNP6-22、それらの誘導体又はそれらの修飾体であり、さらにより好ましくは、hCNP-22、hCNP-53又はhCNP6-22である。
【0071】
<NEP阻害剤>
本発明に用いられるNEP阻害剤としては、NEPによる上述のようなナトリウム利尿ペプチドの天然型の切断を抑制する活性を有するものであれば、特に限定されずに用いることができ、多くの文献により紹介されている(例えば、Cuculi, E et al.(Expert Opinn Investig Drugs )(2011), 20(4), pp.457-463)、Matthew I. et al.(Br. J. Clin. Pharmacol.(2004), 57(1), pp.27-36)。本発明の目的において、NEP阻害剤として、NEP選択的阻害剤であっても良い。本発明のNEP阻害剤として、好ましくは、sampatrilat、sinorphan、omapatrilat、Gemopatrilat、Fasidotril、Mixanpril、Z-13752A、MDI-100240などである。これらの薬剤については、上記の参考文献(その引用文献を含む)の記載及び周知の技術により、製造及び製剤化することができる。
【0072】
<PDE5阻害剤>
本発明に用いられるPDE5阻害剤としては、血管内皮細胞に作用して、PDE5酵素によるcGMPの分解を阻害する活性を有する物質であれば、特に限定されず、公知の様々な薬剤を採用することができる(例えば、M. P. Govannoni, et al.(Curr. Med. Chem.(2010) 17, pp. 2564-2587)等参照)。。好ましくは、シルデナフィル(sildenafil)、バルデナフィル(vardenafil)、タダラフィル(tadalafil)、ウデナフィル(udenafil)、ミロデナフィル(mirodenafil)、SLx-2101、ロデナフィル(lodenafil)、 Lodenafil carbonate、Exisulindなど、及びそれらの誘導体、ならびにそれらの薬理学的に許容される塩であり、より好ましくは、シルデナフィル、バルデナフィル、タダラフィル、ウデナフィル、ミロデナフィル又はそれらの薬理学上許容される塩であり、更に好ましくは、クエン酸シルデナフィル、塩酸バルデナフィル、タダラフィル、ウデナフィル又はミロデナフィルであり、最も好ましくは、クエン酸シルデナフィルである。これらの薬剤については、上記の参考文献(その引用文献を含む)の記載及び周知の技術により、製造及び製剤化することができる。
【0073】
<GC-Cアゴニスト>
本発明に用いられるGC-Cアゴニストとしては、GC-Cに結合して、細胞内cGMP濃度を上昇させる活性を有するものであれば特に限定されず、公知の様々な物質を用いることができる(例えば、Potter L. R. (Pharmacology & Therapeutics (2011), 130(1), pp.71-82)など)。例えば、本発明に用いられるGC-Cアゴニストとしては、ST(Heat Stable Enterotoxin)やその類縁物質、グアニリン(guanylin)、ウログアニリン(uroguanylin)などのペプチド、その活性断片、それらの変異体、それらの誘導体又は修飾体などが挙げられ、好ましくは、リナクロチド(linaclotide)、グアニリン又はウログアニリンである。これらの薬剤については、上記の参考文献(その引用文献を含む)の記載及び周知の技術により、製造及び製剤化することができる。
【0074】
<NO供給剤>
本発明に用いられるNO供給剤とは、それ自身又はその分解物、代謝物がNO構造を有し、NOを放出する物質であり、本技術分野においては様々なNO供給剤が知られており(例えば、(J. Clin. Hypertens.(2006), No.12, vol.8, suppl.4, pp.40-52)など参照)、例えば、NOガス、硝酸薬、Sydnomineなどを挙げることができる。Sydnomineとしては、例えばmolsidomineやその活性代謝物であるlinsidomineなどが挙げられる。これらについては、例えば、R. P. Mason, et al(J. Clin Hypertens.(2006), 8(Sppl. S12), pp.40-52)などに記載されており、これらの文献(その引用文献を含む)の記載及び周知の技術により製造、製剤化等することができる。
【0075】
<eNOS活性化剤>
本発明のeNOS活性化剤は、NOS(Nitric Oxide Synthase)の基質又は当該酵素の活性を向上させる薬剤であれば、特に限定されず様々なものを用いることができるが、好ましくはL−アルギニンである。NOSは、L-アルギニンからNOを産生する酵素であり、血管内皮には、内皮型NOS(eNOS)が恒常的に発現している。そのため、eNOSの基質であるL-アルギニンの血中濃度を上げることによって、NO産生が亢進され、血管内皮細胞において細胞内cGMP濃度の上昇が引き起こされる。
【0076】
<cGMP又はそのアナログ>
本発明に用いられるcGMPアナログとしては、cGMPの化学構造(guanosine 3’, 5’-cyclic monophosphate)に化学修飾を施した物質であって、cGMP依存性プロテインキナーゼを活性化する作用を有する物質であり、公知の文献(例えば、Corbin J. D., et al.(J. Biol. Chem.(1986), 261(3), pp.1208-1214)等)に記載された様々なものが採用できるが、好ましくは、8-bromo cGMP(8-bromoguanosine 3’, 5’-cyclic monophosphate)である。
【0077】
本発明において、「医薬」とは、規定された有効成分を含有し、規定された薬理作用の発現のために利用される医薬品を意味し、その形態、組成、投与方法等には限定されない。本発明の医薬の実施態様としては、その有効成分が、単一の製品として製品化されてもよく、複数の製品を組み合わせて使用することにより本発明が達成されるような態様をも含む。
本発明において「有効成分」とは、医薬品に含まれる組成の一つであり、当該医薬品が目的とする薬理作用の少なくとも一部の作用を有する組成を意味する。医薬品に対する含有量/含有割合は特に限定されず、当該成分の有する薬理作用の程度に依存して、様々な割合で配合されうる。
【0078】
本発明に係る医薬において有効成分として用い得る物質は、上述したGC-Aアゴニスト等の血管内皮細胞内cGMP増強活性を有する物質の薬学的に許容される塩、好ましくはhANP、hBNP、hCNP-22、hCNP-53、 hCNP6-22又はシルデナフィルの薬学的に許容される塩であってもよい。すなわち、本発明においては、上述した物質の、無機酸、例えば塩酸、硫酸、リン酸、又は有機酸、例えばギ酸、酢酸、酪酸、コハク酸、クエン酸等の酸付加塩を、有効成分として使用することもできる。あるいは、本発明においては、上述した物質の、ナトリウム、カリウム、リチウム、カルシウム等の金属塩、有機塩基による塩の形態を有効成分として使用することもできる。また、本発明に係る医薬組成物は、その有効成分に係る物質の遊離形としても、又はその医薬的に許容し得る塩であってもよい。Sildenafilの塩としても最も好ましいものは、クエン酸塩である。
【0079】
本発明に係る医薬等の有効成分として用い得る物質又はその薬理学的に許容し得る塩は、公知の薬理学的に許容し得る担体、賦形剤、希釈剤などと混合して医薬組成物とし、医薬に一般に使用されている投与方法、即ち経口投与方法、又は、経粘膜投与、静脈内投与、筋肉内投与もしくは皮下投与等の非経口投与方法によって個体に投与するのが好ましい。
【0080】
有効成分がペプチド性物質の場合、消化管内で分解を受けにくい製剤、例えば活性成分であるペプチドをリボゾーム中に包容したマイクロカプセル剤として経口投与することも可能である。また、直腸、鼻内、舌下などの消化管以外の粘膜から吸収せしめる投与方法も可能である。この場合は坐剤、点鼻スプレー、吸入薬、舌下錠といった形態で個体に投与することができる。また、デキストランなどの多糖類、ポリアミン、PEG等に代表される生分解性高分子をキャリアとした各種の放出制御製剤、持続化製剤等を採用することにより、ペプチドの血中滞留性を改善させた製剤についても、本発明において用いることができる。
【0081】
本発明に係る医薬の有効成分として用い得る物質の投与量は、疾患の種類、個体(患者)の年齢、体重、症状の程度及び投与経路などによっても異なるが、一般的に、一種類の有効成分につき1日当りの合計の投与量の上限としては、例えば約100mg/kg以下であり、好ましくは約50mg/kg以下であり、さらに好ましくは1mg/kg以下である。また、一種類の有効成分につき一日あたりの合計の投与量の下限としては、例えば約0.1μg/kg以上であり、好ましくは0.5μg/kg以上であり、より好ましくは、1μg/kg以上である。
【0082】
本発明に係る薬剤(医薬組成物)の投与頻度は、使用する有効成分、投与経路、および処置する特定の疾患に依存しても変動する。例えばナトリウム利尿ペプチドを経口投与する場合、一日当たり4回以下の投与回数で処方することが好ましく、また非経口投与、例えば静脈内投与する場合にはインフュージョンポンプ、カテーテル等を利用して持続的に投与することが好ましい。
【0083】
ANPやBNP等のペプチド又はそれらの塩を投与する場合には、例えば凍結乾燥製剤を注射用水に溶解して微量輸液ポンプ(それがない場合には、小児用微量輸液セット)等を用いて連続投与(継続投与ともいう)すればよい。連続投与する場合の投与期間としては、数時間〜数日間(例えば3〜14日間(好ましくは、3〜7日間)程度)である。この場合の投与量の有効成分としての上限は、各有効成分につき例えば約50μg/kg/分(一日当たり、約72mg/kg)以下の濃度を適宜採用することができ、約5μg/kg/分(一日当たり、約7.2mg/kg)以下であってもよく、好ましくは約0.5μg/kg/分(一日当たり、720μg/kg)以下であり、より好ましくは約0.2μg/kg/分以下であり、更に好ましくは約0.1μg/kg/分以下であり、更により好ましくは約0.05μg/kg/分以下である。また下限としては、約0.0001μg/kg/分(一日あたり約0.144μg/kg)以上であり、好ましくは約0.001μg/kg/分(一日あたり1.44μg/kg)以上である。具体的な投与方法としては、例えば、3日間以上(好ましくは、3乃至4日間)、約0.025μg/kg/分を採用することができ、この場合の1日当りの投与量は、有効成分として、約36μg/kgとなる。
【0084】
ナトリウム利尿ペプチドは、前述のように血管を弛緩・拡張し血圧を低下させる作用を有することから、悪性腫瘍の転移の予防及び/又は治療に当たっては、血圧を必要以上に低下させない速度で投与することが好ましく、投与時及び投与直後には血圧をモニターすることが好ましい。また、この場合のhANP等の投与期間は、通常は1日以上である。この期間、継続投与することが好ましく、この場合の投与期間としては通常1日以上であり、好ましくは数日間であり、より好ましくは1日以上5日間以下である。長期間に亘って悪性腫瘍を制御する場合、上記の投与方法を適宜繰り返したり、患者の状態に応じて投与量や投与期間を適宜変更したりすることができる。
また、本発明の血管内皮細胞内cGMP増強剤の投与量としては、投与を受けた対象の末梢血管の内皮細胞に対して細胞内cGMP濃度を上昇させる、或いは、末梢血液中のcGMP濃度を上昇させる程度の用量、用法が選択されることが好ましい。このような、用量・用法は、患者の末梢血を採取し、cGMP濃度をモニターすることにより、適宜選択することができる。
【0085】
具体的にANPを静脈に投与する場合には、例えば、ANPの1000μg(例えば、ハンプ注射用1000、第一三共(株)製)を注射用水10mLに溶解し、“体重×0.06mL/時間”の速度(0.1μg/kg/分又はそれ以下の投与速度)で投与することが好ましい。投与速度は、上記の速度に限られることなく、病状により、0.2 μg/kg/分以下の速度(好ましくは、約0.01μg/kg/分以上)で、血圧や心拍数をモニターしながら適宜調整することが好ましい。特に、hANPを、0.025μg/kg/分の用量で3又は4日間継続投与しても、血圧、心拍等の体液状態を大きく変動させないことが確認されており、この用量用法を採用することが好ましい。
【0086】
BNPを静脈に投与する場合には、例えば、hBNPを約0.01μg/kg/分で連続投与することが好ましく、更にその投与開始前に約2μg/kgのhBNPのボーラス投与を組み合わせた投与方法を採用することもできる。この場合にも、血圧を必要以上に低下させない速度で投与することが好ましく、投与時及び投与直後には血圧をモニターすることが推奨される。ANPやBNPが上記の投与速度で血圧や心拍数等に大きな影響を与えない場合には、さらに投与速度を上げてもよい。なお、その他のANP又はBNPの活性断片、変異体、誘導体又は変異体等に関しては、その活性と持続性を考慮して、投与速度を決定すればよい。
天然型のペプチド(hANP、hBNP、hCNP-22など)ではなく、ANP、BNP、CNP等の活性断片、変異体、誘導体、修飾体等を用いる場合、その活性の強さ、体内における持続性、分子量等、その物質の特徴を考慮して、投与量、投与方法、投与速度、投与頻度等を適宜決定することができる。また、hANP、hBNP、CNP(hCNP-22、hCNP-53)等の有効成分について、放出制御製剤技術や持続化製剤技術、ペプチドの分解を受けにくくした各種の変異体、誘導体又は修飾体等を採用することにより、連続投与やボーラス投与に限定されず、より患者への負担の少ない投与方法、投与頻度等の選択が可能となる。
【0087】
投与の時期としては、患者に癌が発見された後であれば、いつでも投与され得るが、通常の転移抑制という観点からは継続的、又は一定期間の間隔を置いて定期的に投与されることが好ましい。また、癌の切除手術を行う場合、手術中から手術後数日間投与することにより、癌の再発を顕著に抑制することができる。
【0088】
本発明は、悪性腫瘍の転移を抑制することを目的とするものであるが、その対象患者は、通常悪性腫瘍の患者である。対象患者は、他の基礎疾患のない癌患者であってもよく、また、例えば心不全リスクが高い悪性腫瘍患者であってもよい。悪性腫瘍の種類としては、特に限定されず、あらゆる種類の悪性腫瘍の患者に対して投与されうる。このような悪性腫瘍としては、例えば、癌のような上皮系の悪性腫瘍、肉腫のような非上皮系の悪性腫瘍、メラノーマなど、様々な種類の悪性腫瘍が挙げられる。本発明の血管内皮細胞内cGMP増強剤は、血管内皮に作用して、あらゆる腫瘍細胞の転移に共通するプロセスである、腫瘍細胞のリンパ管又は血管内皮への接着、浸潤を抑制するため、腫瘍の種類によらず、あらゆる悪性腫瘍の転移を抑制する効果(間接効果)を発揮するものと考えられる。そのため、GC-Aを発現しない腫瘍細胞が悪性化して、血管やリンパ管へ侵入したとしても、この間接効果により血管内皮細胞への接着組織への浸潤ができず、転移が阻害される。このような作用は、腫瘍細胞にGC-Aが発現している肺癌由来細胞株A549やH460のみならず、GC-Aが発現せず、強い転移能を有するメラノーマ細胞に対してもマウス尾静脈注入転移モデルにおいて、GC-Aアゴニストをはじめ、GC-BアゴニストやPDE5阻害剤の投与により、腫瘍細胞の各臓器への転移が顕著に抑制されたことにより裏付けられる。更に、内皮組織特異的にGC-Aをノックアウトさせたマウスでは、同様のメラノーマ尾静脈注入転移試験において、野生型マウスと比較して顕著な転移の増大が確認されたこと、更に、内皮組織特異的にGC-Aを過剰発現させたマウスでは、野生型マウスと比較して顕著な転移の抑制が確認された。GC-Aノックアウトマウスでは、通常腫瘍が転移しない心臓においてもメラノーマの転移が認められたことから、細胞内cGMPを増強するシグナルの中でも、特にGC-Aを介したシグナルが、腫瘍細胞の内皮組織への接着・浸潤を阻害するものと考えられる。
【0089】
また、原発性腫瘍であっても、転移性腫瘍であっても良い。原発性腫瘍の場合、癌切除手術と併せて投与することが好ましい。転移性腫瘍の場合除去手術が可能であれば、同様に手術に併せて術中から数日間投与されることが好ましい。除去が困難、又は臓器への転移が疑われる場合には、定期的に投与することで、転移を制御することが好ましい。
【0090】
更に、上皮系の悪性腫瘍のように、腫瘍細胞においてナトリウム利尿ペプチド受容体GC-Aが発現している悪性腫瘍患者に対しては、GC-Aアゴニストの投与により、EMTの抑制をはじめとした直接効果と血管内皮への接着、浸潤を阻害することによる転移抑制という間接効果の両方によって、転移を多面的に抑制することができるため、更に良好な転移抑制効果が期待できる。このような悪性腫瘍としては、例えば、肺癌、膵臓癌、甲状腺癌、乳癌、子宮癌、卵巣癌、前立腺癌、骨腫瘍、脳腫瘍などを挙げることができる。このような本発明の医薬の投与により、腫瘍細胞自体の転移能獲得をも抑制できる投与対象を選別するにあたっては、投与前に腫瘍組織を採取し、細胞におけるGC−Aの発現を確認し、受容体の発現が確認された患者に対して投与することもできる。
【0091】
また、本発明の医薬等は、有効成分として、2種類以上の血管内皮細胞内cGMP増強剤が組み合わされて用いられるような、悪性腫瘍の転移を予防又は抑制する方法、そのための投与方法及び/又は、そのような方法に用いられる医薬をも包含する。複数の有効成分又は薬剤が「組み合わせて投与される医薬」とは、該有効成分又は薬剤が組み合わせて投与されることを想定された医薬である。
【0092】
本発明において、複数の有効成分又は薬剤が「組み合わせて投与される」とは、ある一定期間において、被投与対象が、組み合わせられる全ての有効成分又は薬剤をその体内に取り込むことを意味する。全ての有効成分が単一製剤中に含まれた製剤(いわゆる、配合剤)として投与されてもよく、またそれぞれの有効成分が別々に製剤化され、別々にそれらの全てが投与(いわゆる、併用投与)されても良い。別々に製剤化される場合、その投与の時期は特に限定されず、同時に投与されてもよく、時間を置いて異なる時間に、又は、異なる日に、投与されても良い。複数の有効成分が、それぞれ異なる時間又は日に投与される場合、有効成分の投与の順番は特に限定されない。通常、それぞれの製剤は、それぞれの投与方法に従って投与されるため、それらの投与は、同一回数となる場合もあり、異なる回数となる場合もある。また、それぞれの有効成分が別々に製剤化される場合、各製剤の投与方法(投与経路)は同じであってもよく、異なる投与方法(投与経路)で投与されてもよい。また、全ての有効成分が同時に体内に存在する必要は無く、ある一定期間(例えば一ヶ月間、好ましくは1週間、さらに好ましくは数日間、さらにより好ましくは1日間)の間に、全ての有効成分が体内に取り込まれていればよく、一つの有効成分の投与時に別の有効成分が体内から消失していてもよい。
【0093】
本発明の医薬等において、有効成分として2種類以上の血管内皮細胞内cGMP増強剤が組み合わされて投与される場合の組み合わせを例示すると、少なくとも一種類のGC-Aアゴニストを有効成分として含有する場合、さらに、GC-Bアゴニスト、NEP阻害剤、PDE5阻害剤、NO供給剤、eNOS活性化剤、GC-Cアゴニスト及びcGMPアナログから選択される少なくとも一つを組み合わせることができ、好ましくは、GC-Bアゴニスト、NEP阻害剤、PDE5阻害剤、及び、NO供給剤から選択される少なくとも一つを組み合わせることであり、より好ましくは、GC-Bアゴニスト又はPDE5阻害剤を組み合わせることである。また、少なくとも一種類のGC-Bアゴニストを有効成分として採用する場合、さらに、NEP阻害剤、PDE5阻害剤、NO供給剤、eNOS活性化剤、GC-Cアゴニスト及びcGMPアナログから選択される少なくとも一つを組み合わせることができ、好ましくは、NEP阻害剤、PDE5阻害剤、及び、NO供給剤から選択される少なくとも一つを組み合わせることであり、より好ましくは、NEP阻害剤又はPDE5阻害剤を組み合わせることである。また、少なくとも一種類のPDE5阻害剤を有効成分として採用する場合、さらに、NEP阻害剤、NO供給剤、eNOS活性化剤、GC-Cアゴニスト及びcGMPアナログから選択される少なくとも一つを組み合わせることができ、好ましくは、NEP阻害剤、及び、NO供給剤から選択される少なくとも一つを組み合わせることである。
【0094】
また、本発明の医薬は、他の通常用いられる抗腫瘍剤の少なくとも一つと併用することにより、効率的に悪性腫瘍の治療を行うことができ、本発明はこのような他の抗腫瘍剤との併用療法も提供する。本発明の医薬は、腫瘍細胞の転移や浸潤を制御することができる為、他の抗腫瘍剤による治療中に併せて適宜投与することで、当該抗腫瘍剤による治療の効率を上げること及び治療予後を改善できるものと期待される。併用される抗腫瘍剤としては、例えば、アルキル化剤、代謝拮抗剤、抗腫瘍抗生物質、抗腫瘍性植物成分、BRM(生物学的応答性制御物質)、ホルモン、ビタミン、抗腫瘍性抗体、分子標的薬、その他の抗腫瘍剤等が挙げられる。
【0095】
より具体的に、アルキル化剤としては、例えば、ナイトロジェンマスタード、ナイトロジェンマスタードN − オキシドもしくはクロラムブチル等のアルキル化剤;カルボコンもしくはチオテパ等のアジリジン系アルキル化剤;ディブロモマンニトールもしくはディブロモダルシトール等のエポキシド系アルキル化剤;カルムスチン、ロムスチン、セムスチン、ニムスチンハイドロクロライド、ストレプトゾシン、クロロゾトシンもしくはラニムスチン等のニトロソウレア系アルキル化剤;ブスルファン、トシル酸インプロスルファン又はダカルバジン等が挙げられる。
【0096】
各種代謝拮抗剤としては、例えば、6−メルカプトプリン、6−チオグアニンもしくはチオイノシン等のプリン代謝拮抗剤;フルオロウラシル、テガフール、テガフール・ウラシル、カルモフール、ドキシフルリジン、ブロクスウリジン、シタラビン若しくはエノシタビン等のピリミジン代謝拮抗剤;メトトレキサートもしくはトリメトレキサート等の葉酸代謝拮抗剤等が挙げられる。
【0097】
抗腫瘍性抗生物質としては、例えば、マイトマイシンC、ブレオマイシン、ペプロマイシン、ダウノルビシン、アクラルビシン、ドキソルビシン、ピラルビシン、THP−アドリアマイシン、4’−エピドキソルビシンもしくはエピルビシン等のアントラサイクリン系抗生物質抗腫瘍剤;クロモマイシンA3又はアクチノマイシンD等が挙げられる。
【0098】
抗腫瘍性植物成分としては、例えば、ビンデシン、ビンクリスチン若しくはビンブラスチン等のビンカアルカロイド類;パクリタキセル、ドセタキセル等のタキサン類;又はエトポシドもしくはテニポシド等のエピポドフィロトキシン類が挙げられる。
BRMとしては、例えば、腫瘍壊死因子又はインドメタシン等が挙げられる。
ホルモンとしては、例えば、ヒドロコルチゾン、デキサメタゾン、メチルプレドニゾロン、プレドニゾロン、プラステロン、ベタメタゾン、トリアムシノロン、オキシメトロン、ナンドロロン、メテノロン、ホスフェストロール、エチニルエストラジオール、クロルマジノン又はメドロキシプロゲステロン等が挙げられる。
【0099】
ビタミンとしては、例えば、ビタミンC又はビタミンA等が挙げられる。
抗腫瘍性抗体、分子標的薬としては、トラスツズマブ、リツキシマブ、セツキシマブ、ニモツズマブ、デノスマブ、ベバシズマブ、インフリキシマブ、メシル酸イマチニブ、ゲフィチニブ、エルロチニブ、スニチニブ、ラパチニブ、ソラフェニブ等が挙げられる。
その他の抗腫瘍剤としては、例えば、シスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチン、タモキシフェン、カンプトテシン、イホスファミド、シクロホスファミド、メルファラン、L−アスパラギナーゼ、アセクラトン、シゾフィラン、ピシバニール、プロカルバジン、ピポブロマン、ネオカルチノスタチン、ヒドロキシウレア、ウベニメクス又はクレスチン等が挙げられる。
【0100】
本発明において、血管内皮細胞内cGMP増強剤に加えて、別の抗腫瘍剤を組み合わせて投与する場合、1種類又は2種類以上の血管内皮細胞内cGMP増強剤及び別の抗腫瘍剤は、単一製剤中に含有されていてもよく、それぞれ異なる製剤の有効成分として含有されていてもよい。一種類又は2種類以上の血管内皮細胞内cGMP増強剤及び別の抗腫瘍剤を投与する順番等も特に限定されない。
【0101】
また、本発明の医薬はキットとして提供されうる。少なくとも一種類の血管内皮細胞内cGMP増強剤を含有する悪性腫瘍の転移の抑制又は予防のためのキットとしては、ANP、BNPやCNP等のナトリウム利尿ペプチド又はそれらの塩を凍結乾燥製剤として封入したバイアルとそれを溶解するための注射用水を組み合わせてキットとしたもの等が挙げられ、また溶解・投与に使用する注射用シリンジをそれらに組み合わせてもよく、さらには微量輸液ポンプや小児用微量輸液セットを組み合わせてもよい。また、有効成分として2種類以上の血管内皮細胞内cGMP増強剤を組み合わせて用いる場合、各有効成分を含むバイアル、錠剤等が組み合わされてキット化されていても良い。
【0102】
また、本発明の血管内皮細胞内cGMP増強剤が、ナトリウム利尿ペプチドなどのペプチド性の物質の場合、それをコードする遺伝子導入により患者の体内で、当該ペプチドを発現させることによる遺伝子治療を行うこともできる。
【0103】
ANPの遺伝子としては、配列番号1又は2のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を含む遺伝子(例えば、Science,226巻,1206頁,1984年に記載されているもの)を用いればよい。また、BNPの遺伝子としては、配列番号3、4又は5のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を含む遺伝子(例えば、Biochem.Biophys.Res.Commun.,165巻,650頁,1989年に記載されているもの)を用いればよい。また、CNPの遺伝子としては、配列番号7乃至10のいずれかのアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を含む遺伝子(例えば、Biochem.Biophys.Res.Commun.,165巻,650頁,1989年に記載されているもの)を用いればよい。上記の遺伝子を用いて治療を行う場合には、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルスあるいは人工ベクターをベクターとして用いて、筋肉注射や局所注射により遺伝子を導入すればよい。また、上記のようなベクターを使用せず、プラスミドの形で遺伝子を導入してもよい。具体的な遺伝子治療の方法については、実験医学,12巻,303頁,1994年に記載の方法又はそれに引用されている文献の方法等を用いればよい。
【0104】
本発明はさらに、少なくとも一種類の血管内皮細胞内cGMP増強剤を有効成分として含有し、それとは異なる種類の血管内皮細胞内cGMP増強剤の投与を受けている対象に対して投与されることを特徴とする、悪性腫瘍の転移の抑制又は予防のための医薬、及び一種類の血管内皮細胞内cGMP増強剤の有効量を、それと異なる種類の血管内皮細胞内cGMP増強剤による治療を受けている対象に対して投与することを特徴とする悪性腫瘍の転移の抑制又は予防方法も包含する。
有効成分である血管内皮細胞内cGMP増強剤、並びにこれらの投与方法等は、上述した医薬組成物におけるものと同様である。このような用法における血管内皮細胞内cGMP増強剤の組み合わせとしては、好ましくは、GC-Aアゴニスト又はGC-BアゴニストとPDE5阻害剤の組み合わせであり、より好ましくは、hANP、hCNP-22、hCNP6-22又はそれらの誘導体、と、シルデナフィル又はその薬理学的に許容される塩の組み合わせであり、更に好ましくはhANPとクエン酸シルデナフィルの組み合わせである。
【実施例】
【0105】
以下、実施例を用いて、本発明を具体的に説明する。実施例に示されたものは、本発明の実施形態の一例であり、本発明はこれに限定されるものではない。
【0106】
以下の実施例において使用される実験材料の入手方法及び調製方法は次の通りである。
hANP、及びhCNPは、アスビオファーマ(株)、hBNPはペプチド研究所(大阪)より、それぞれ入手した凍結乾燥品を、IBMXを含む生理食塩水で溶解し、これを適宜濃度を調節してIBMXの終濃度が5×10-4Mとなるようにして、以下の実験に用いた。
【0107】
肺腺癌由来細胞株A549細胞は、ATCC(Manassas, VA)より入手した。細胞培養は、10%FCSを含むDMEM(Invitrogen社、Carlsbad、VA)培養液を用い、37℃、5%CO2の条件下で行った。培養液量は、6-well dishでは1.5 ml、24-well dishでは400 μl、96-well dishでは150 μl、とした。以下の実施例中では、特に指定が無い限りこの培養液及び培養条件を採用した。
TGF-β1 (Transforming growth factor β1)は、R&D systems社(Minneapolis, MN)より購入したものを用い、生理食塩水を用いて適宜希釈して以下の実験に用いた。
【0108】
<実施例1> 癌細胞に対するナトリウム利尿ペプチド刺激による細胞内cGMPレベルの変動
A549細胞を、24-well dishに4×104 cell/wellで加えて培養し、翌日FCS freeのDMEM培養液へ交換した。培養液中に、hANP、hBNP及びhCNP溶液(最終濃度:1×10-11Mから1×10-6Mの10倍希釈系列、コントロールには同量の生理食塩水)を添加し、その10分後に400μLの冷却70%エタノール(0.1N 塩酸含有)を加え、素早く超音波処理した。処理後の溶液を凍結乾燥し、Cyclic GMP Assay kit(ヤマサ社製)を用いてcGMPレベルを測定した。cGMPレベルの測定結果を図1に示した。
【0109】
GC-AアゴニストであるhANPとhBNPは、A549細胞の細胞内cGMPを濃度依存的に亢進させた。一方CG-B受容体アゴニストで、GC-A受容体には結合しないhCNPでは、このような亢進は観察されなかった。このことから、A549細胞では、GC-A受容体からの刺激に特異的に応答してシグナル伝達が起こることが示された。
【0110】
<実施例2> ナトリウム利尿ペプチドのA549細胞に対する増殖抑制効果
A549細胞を、24-well dish に、4×104 cell/wellで加えて培養し、翌日FCS freeのDMEM培養液へ交換した。培養液中に、hANP、hBNP及びhCNP溶液(最終濃度:1×10-9Mから1×10-6Mの10倍希釈系列、コントロールには同量の生理食塩水)を添加し、24、48時間後に、生細胞数測定試薬SF(ナカライ社製)を用いて細胞増殖アッセイを行った。結果を図2に示す。
【0111】
A549細胞の48時間後までの細胞数は、hANP、hBNP及びhCNPの全てについて、最も高い1×10-6Mの濃度でも、コントロールとほとんど変化がなかった。Veselyらの報告によれば、ANPが膵臓癌、乳癌等に由来する各種癌細胞の増殖を抑制する効果があるとされているが、本発明の実施例の試験系では、1×10-6M(1 μM)において、全てのナトリウム利尿ペプチドが癌細胞の増殖に対して影響しなかった。
【0112】
<実施例3> TGF-β1によるEMT誘導に対するhANPの効果
A549細胞を、6-well dishに、1×105 cell/wellで加えて培養し、翌日FBS freeのDMEMの培養液へ交換し、24時間培養したものを、以下の実験に用いた。
【0113】
ANP群(ANP 溶液添加(終濃度:1μM))及びコントロール群(同量の生理食塩水添加)を作成し、それぞれ添加の2時間後にTGF-β1を終濃度が0.125、0.25、0.5、1.0及び2.0 ng/mlとなるように添加し、24時間後に顕微鏡下で細胞の形態変化を観察し、写真撮影した(図3)。
【0114】
その後、TRIZOL total RNA isolation reagent (Invitrogen社)を用いてtotal RNAを回収し、逆転写酵素を用いてcDNAを合成し、定量RT-PCR法によって、E-cadherin、N-cadherin、VEGF-A、PDGF-B、 TNF-α及びIL-6のmRNAレベルを測定した。mRNAレベル測定の結果を図4に示す。また、EMTにおいては、E-cadherinの発現が減少し、N-cadherinの発現が亢進することが知られており、N-cadherin/E-cadherinの発現比率は、EMTの程度を示す指標として有用と考えられる。この比率を図5に示した。
【0115】
図3に示すように、1 μMのhANP(図3C)は、TGF-β1刺激により誘導されたEMTによる細胞の形態変化(図3Bのように間葉系成分と同様な紡錘形へ変化する)を顕著に抑制した。また、図4に示されるように、TGFβ1刺激で誘導されたEMTにより発現が亢進する成長因子(VEGF-A, PDGF-B)や炎症性サイトカイン(TNF-α、IL-6)の遺伝子発現を顕著に抑制した。また、TGF-β1刺激によるN-cadherinの発現亢進は顕著に抑制され、同刺激によるE-cadherinの発現減少が阻害された。その結果、図5に示されるようにEMTの重要な指標であるN-cadherin / E-cadherinの発現比率は、1 μMのhANP存在下で顕著に低下した。また、肺大細胞癌由来のH460細胞を用いた同試験でも同様の結果が得られた。
【0116】
このように、hANPは、1 μMの濃度において、癌の転移のきっかけとなる重要な現象であるEMTを顕著に抑制する効果を示した。実施例2で示されたように、hANPは、この癌細胞に対して1 μMでは増殖に対してはほとんど影響を与えないことから、hANPは、癌の増殖に対する効果とは完全に異なるメカニズムによって、癌細胞のEMTを抑制しているものと考えられる。
【0117】
<実施例4> A549細胞の遊走能(Boyden Chamber Assay)に対するhANPの作用
A549細胞を、6-well dishに、1×105 cell/wellで加えて培養し、翌日FBS freeのDMEM培養液へ交換し、24時間培養したものを、コントロール群、TGF-β1群及びTGF-β1+hANP群の3群に分け、以下の実験に用いた。
【0118】
培養液に、TGFβ+hANP群にはhANPの最終濃度が1μMとなるようにhANP溶液、コントロール群及びTGF-β1群には同量の生理食塩水、を夫々添加した。添加から2時間後に、Boyden chamber assayを以下の通り行った。
【0119】
6-well dishに、夫々、コントロール群にはFBS freeのDMEM培養液、TGF-β群にはTGF-β1(最終濃度:1 ng/ml)を含む同培養液、TGF-β1+hANP群にはhANP(最終濃度: 1 μM)及びTGF-β1(最終濃度:1 ng/ml)を含む同培養液、を1.5 mL加えた。その液面に、cell culture insert(8.0μm pore size, BD社製)を置き、その上に各群のA549細胞をFBS freeのDMEM(TGF-β1+ANP群には、最終濃度1 μMのhANPを添加)に懸濁した細胞懸濁液1.5 mLを添加し、培養した。20時間後に、各群のcell culture insertを10%ホルマリンで固定し、上面を拭い、下面のみヘマトキシリン-エオジン(H&E)染色を行った。顕微鏡にてinsertの下面に付着したA549細胞の数を観察した。細胞の写真を図6A、細胞数のグラフを図6Bに示す。A549細胞の遊走能は、TGF-β1群において顕著に増加したが、この現象は1μMのhANPによって顕著に抑制された。また、大細胞癌由来のH460細胞を用いた同試験でも同様の結果が得られた。
【0120】
<実施例5> 癌細胞の運動能(Wound healing assay)に対するhANPの作用
A549細胞を、6-well dishに、4×105 cell/wellで加え、培養し、翌日FBS freeのDMEM培養液へ交換し、24時間培養後に、コントロール群、TGF-β1群及びTGF-β1+hANP群の3群に分け、以下の実験に用いた。
【0121】
培養液に、TGFβ1+hANP群にはhANPの最終濃度が1μMとなるようにhANP溶液、コントロール群及びTGF-β1群には同量の生理食塩水、を夫々添加した。2時間後に200μl用ピペットチップにてwellの中央部を傷つけた。傷つけ直後に顕微鏡下で各wellについて写真撮影した(図7A)。ここで、TGFβ+hANP群及びTGF-β1群に、最終濃度1 ng/mlとなるようにTGFβ1を添加し、24時間培養した後、再び各wellの同じ箇所を写真撮影し、傷つけ直後と24時間培養後の傷幅の差の平均の割合(移動率:% wounded area filled)を下の式に従って計算した。
移動率(%)= (最初の傷幅−24時間培養後の傷幅)/(最初の傷幅)×100
【0122】
各wellの24時間後の傷部分の写真を図7に、各群の移動率を図8に示す。
A549細胞の運動能は、TGF-β1刺激により亢進されたが、1 μMのhANP存在下では、この運動能の亢進が顕著に抑制されていた。また、肺大細胞癌由来のH460細胞を用いた同試験でも同様の結果が得られた。
【0123】
<実施例6> 癌細胞の浸潤能に対するhANPの作用
A549細胞を、6-well dishに、1×105 cell/wellで加えて培養し、翌日FBS freeのDMEMの培養液へ交換し、24時間培養したものを、コントロール群、TGF-β1群及びTGF-β1+hANP群の3群に分け、以下の実験に用いた。
【0124】
培養液に、TGFβ1+hANP群には、最終濃度が1μMとなるようにhANP溶液を、コントロール群及びTGFβ1群には同量の生理食塩水を、夫々添加した。添加から2時間後に、Boyden chamber assayを以下の通り行った。cell culture insert(8.0μm pore size, BD社)は、6-well dishに置き、その上に0.5 μg/μl Matrigel液(PBSにより調整)300μlを加え、12時間風乾させて作成したMatrigelコーティングしたものを事前に準備した。
【0125】
6-well dishの各wellに夫々、コントロール群にはFBS freeのDMEM培養液、TGF-β群にはTGF-β1(最終濃度:1 ng/ml)を含む同培養液、TGFβ1+hANP群にはhANP(最終濃度: 1 μM)及びTGF-β1(最終濃度:1 ng/ml)を含む同培養液、を1.5 mLずつ加えた。その液面に上述の通りコーティングしたcell culture insertをのせ、その上に各群のA549細胞をFBS freeのDMEM(TGFβ1+hANP群には、最終濃度1 μMのhANPを添加)に懸濁した細胞懸濁液1.5 mLを添加し、培養した。
【0126】
40時間培養後に、各群のcell culture insertを10%ホルマリンで固定し、上面を拭い、下面のみヘマトキシリン-エオジン(H&E)染色を行った。顕微鏡にてinsertの下面に付着したA549細胞の数を観察した。この細胞の写真を図9A、細胞数のグラフを図9B、に示す。
【0127】
Matrigel層を介した細胞浸潤は、TGF-β1群において顕著に増加したが、この細胞浸潤は1 μMのhANPによって顕著に抑制された。また、肺大細胞癌由来のH460細胞を用いた同試験でも同様の結果が得られた。
【0128】
<実施例7> hANPの癌細胞へのアポトーシス誘導活性
A549細胞を、96-well dishに、1×104 cell/wellで加えて培養した。翌日FBS freeのDMEM培養液へ交換し、24時間培養後に以下の実験を行った。
培養液中に、hANP の最終濃度が夫々1、5、10μMとなるよう希釈系列を調製したhANP溶液(コントロールには同量の生理食塩水)を添加し、さらに2、4、6時間後に、同濃度で同量のhANP溶液(コントロールには生理食塩水)を追加で添加した(計4回の添加)。48時間後にトリパンブルー染色を用いた細胞のviability(生細胞/全細胞)を自動細胞数計測器Countess(登録商標) (Invitrogen社)にて測定した。また、肺大細胞癌由来H460細胞、肺扁平上皮癌細胞由来H520細胞、気管支肺胞上皮癌由来H358細胞を用いて同様の試験を行った。結果を図10に示す。
【0129】
各種癌細胞の生細胞数は、hANPの濃度依存的に減少し、hANPが継続的に培養液中に存在することで、癌細胞に対してアポトーシスを誘導する事が示された。
【0130】
<実施例8> 癌細胞のアポトーシス誘導におけるhANPとシスプラチンの併用効果
シスプラチンはシスプラチン注「マルコ」(商品名、日医工ファーマ)を使用した。
A549細胞を、96-well dishに、1×104 cell/wellで加えて培養した。翌日FBS freeのDMEM培養液へ交換し、24時間培養後に、コントロール群、シスプラチン単独群、1 μM hANP群、シスプラチン+1 μM hANP群、10 μM hANP群、シスプラチン+10 μM hANP群、に分けて以下の実験を行った。
【0131】
培養液中に、hANP添加群には、最終濃度が夫々1 μM、10 μMとなるように調製したhANP溶液、コントロール群、シスプラチン単独群には、同量の生理食塩水を添加した。また、シスプラチン添加群には、最終濃度が夫々1、5、10、20、30μMとなるよう希釈系列を調製したシスプラチン溶液(コントロール群、hANP 単独群には同量の生理食塩水)を添加した。さらに2、4、6時間後に、同濃度で同量のhANP溶液(コントロール及びシスプラチン単独群には生理食塩水)を追加で添加した(計4回のhANP添加)。48時間後にトリパンブルー染色を用いた細胞のviability(生細胞/全細胞)を自動細胞数計測器Countess(登録商標) (Invitrogen社)にて測定した。また、H460細胞、H520細胞、H358細胞を用いて同様の試験を行った。hANP濃度1 μMの結果を図11、10 μMの結果を図12に夫々示す。
hANPによる癌細胞へのアポトーシス誘導活性は、シスプラチンと併用することにより増強されることが示された。
【0132】
<実施例9> 癌細胞の血管内皮細胞系への着床試験
正常ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)はタカラバイオ社から購入した。培地、継代は製品の添付の文書の指示に従って行った。核染色はTOPRO3(Invitrogen社より購入)、VE-cadherinの免疫染色は抗VE-cadherin抗体(BD Biosciences社より購入)を用いて行った。
【0133】
HUVEC細胞を飽和状態まで培養し、無血清培地に交換した後、VEGF及びhANPの存在下及び非存在下において、抗VE-cadherin抗体を用いた免疫染色及び核染色を行い、VE-cadherinの発現を観察した。各条件下での染色の様子を図13の写真に示す。
【0134】
VEGF単独存在下では、VE-cadherinの発現が低下し、細胞の間隙ができる現象が観察されたが、VEGF+hANPではこの現象は抑制され、コントロール群と同程度の緊密な細胞接着が維持されていた。又、このHUVEC細胞層上に、A549細胞を添加したところ、VEGF単独存在下では、A549細胞がHUVEC細胞層の下へ入り込む着床現象が観察されたのに対し、VEGF+hANP(1 μM)ではこの着床現象が抑制されていた。
このことから、hANPは、癌細胞が血管内皮組織に着床し、転移先の組織へ浸潤していくのを抑制する作用があると考えられる。
よって、これらを総合すると、hANPは癌細胞のEMTを抑制することで浸潤、転移能を低下させ、また癌細胞特異的にアポトーシスを誘導するといった癌細胞に対する直接効果と、着床する側である血管内皮細胞へ着床抑制作用を発揮するといった間接効果を有すると考えられた。
【0135】
<実施例10> 肺癌患者の癌切除術後のhANP投与による癌再発抑制効果
血中BNPレベルが30 pg/ml以上の肺癌患者の癌切除術においては、術後合併症リスクが高い事が報告されている。本試験においては、肺癌患者の癌切除術前に血中BNPレベルを測定し、30 pg/mlを基準にそれ以上の患者の一部又は主治医の判断で術後合併症リスクが高いと判断された患者をhANP群(全52例、癌の進行度内訳(1A期:26例(50%)、1B期:16例(23%)、2期:7例(13%)、3期:3例(6%))とした。また、血中BNP レベルによらずコントロール群(287症例、癌の進行度内訳(1A期:155例(54%)、1B期:65例(23%)、2期:35例(12%)、3期:32例(11%))を設定した。hANP群は、肺癌手術中より術後3日間、hANP(商品名:ハンプ注射用1000、非ボーラス、第一三共(株))を、0.025 μg/kg/分の用量になるように調製し、持続投与した。手術前及び術後4日間、各患者の、血圧(収縮期及び拡張期)、心拍数及び尿量を測定した(結果を図15に示す)。
【0136】
手術後約2年間、患者の癌の早期再発状況を追跡調査した。患者は1年毎に胸部CT検査、頭部MRI検査、骨シンチグラフィー、もしくはポジトロン断層撮影(PET)検査を施行し、再発の有無に関する全身チェックを行った。各群における癌無再発生存率の結果を図14に示す。
【0137】
手術後2年間における癌の無再発生存率は、コントロール群では癌の進行度に伴い低下し、1A期で91.6%、1B 期で73.4%、2期で48%、3期で29%であった。一方、hANP群では、癌の進行度に関わらず、癌の早期再発が認められなかった。また、図15に示すように、hANPの0.025 μg/kg/分という低用量療法においては患者の血圧、心拍、尿量等の体液状態には大きな変動は認められなかった。これは、この投与量であれば、循環器系の異常がない患者に投与した場合でも、hANPの主薬効に起因する生体変化が問題にならない程度であることが示唆される。
このことから、hANPの低用量療法は、心不全リスクを有する癌患者のみならず、心不全リスクのない患者に対しても、安全で、副作用が少ない抗転移療法として、非常に有用であることが示された。
【0138】
<実施例11>A549細胞のEMTに対する各種GC-Aアゴニストの作用
実施例3と同様の試験において、被験物質としてhANPに代えてhBNP(最終濃度:1 μM)、CD-NP(最終濃度:10 μM(Deborah et al., J. Biol. Chem.,(2008), Vol. 289, No.50, pp.35003-35009参照))、LKL-ANP(最終濃度:1 μM(hANPの10〜12位のアミノ酸がLKLに置換された変異体。(Furuya, M. Et al, Biochem. Biophys. Res. Commun.,(1992), 183, No 3, p.964-969)参照))を用いた試験を行った、その結果、E-cad/Ncadの値において、TGF-βに誘導されるEMTの抑制率は、BNPで44.8%、CD−NPで37.7%、LKL-ANPで52.9%であった。このように、各種のGC-Aアゴニストが、腫瘍細胞のEMTを抑制する作用を示した。
【0139】
<実施例12> マウス尾静脈注入転移試験におけるA549細胞の転移に対するhANPの効果
マウスは6週齢の雄のBalb/c nu/nuマウスを使用した(日本SLC株式会社より購入)。
Osmotic pumpはALZET(Cupertino, CA)のMODEL2004(28日間投与用)を使用した。
マウスの背部皮下に、0.9%生理食塩水を入れたOsmotic pumpを埋め込んだものをコントロール群とした。同様に、hANPを0.5μg/kg/分の投与量で投与されるように調製されたOsmotic pumpをマウスの皮下に埋め込んだ群をANP投与群とした。Osmotic pump埋め込み後翌日に腫瘍細胞懸濁液の注入を行った。
【0140】
腫瘍細胞としては、GFP(Green Fluorescent Protein)ラベルされたA549細胞株(和光純薬工業株式会社より購入)を、10% FCSを含む RPMI1640 (Life Technologies Corporation)にて37℃、5%CO2の条件下で培養し、サブコンフルエントの状態でEDTA-trypsin処理後、遠心し、1×107 cells/mLになるようserum free DMEMに懸濁した。100 μL/bodyの容量で、1×106 個のA549細胞懸濁液をマウスの尾静脈へ注入した。Osmotic pumpによる生理食塩水又はANPの投与は、4週間とし、腫瘍細胞注入から8週後の肺転移の様子を蛍光顕微鏡(オリンパスOV100)により観察した(図16)。また、蛍光顕微鏡下で観察されたマウス1匹あたりの肺転移により形成された結節数を図17のグラフに示した。
【0141】
図16及び図17に示されるように、hANPを最初の4週間投与することによって、癌細胞の転移が顕著に抑制された。
また、腫瘍細胞としてH460細胞を用いた試験でも、同様の結果が得られた。
【0142】
<実施例13> マウス尾静脈注入転移試験におけるメラノーマの転移に対する各種cGMP増強剤の作用
マウスは6週齢の雄のC56BL/6Nマウス(日本SLC株式会社より購入)を用いた。マウスメラノーマB16-F10はATCCより購入し、10% FCSを含む DMEM (Life Technologies Corporation)にて37℃、5%CO2の条件下で培養し、サブコンフルエントの状態でEDTA-trypsin処理後、遠心し、5×106 cells/mLになるようserum free DMEMに懸濁した。100 μL/mouseの容量で、5×105 個のメラノーマ細胞懸濁液をマウスの尾静脈より注入した。Osmotic pumpはALZET(Cupertino, CA)のMODEL2002(14日間投与用)を使用した。
【0143】
マウスの背部皮下に、0.9%生理食塩水を入れたOsmotic pumpを埋め込んだものをコントロール群とした。同様に、ANP群にはhANPを0.5μg/kg/分の投与量、BNP群にはマウスBNPを0.5μg/kg/分の投与量、CNP群にはhCNP-22を2.5μg/kg/分の投与量で、それぞれ投与されるように調製されたOsmotic pumpをマウスの皮下に埋め込んだ。またシルデナフィル群には、クエン酸シルデナフィルを20 mg/kgの用量で、一日一回腹腔内投与した。投与開始の翌日に、上述の要領で腫瘍細胞懸濁液の注入を行い、薬剤は2週間投与した。腫瘍細胞注入から2週間後の腫瘍細胞の肺転移の様子を観察(図18)し、その際観察されたマウス1匹当たりの肺転移による結節数を図19のグラフに示した。
【0144】
図18及び図19に示されるように、ANP群、BNP群、CNP群、及び、シルデナフィル群の全てにおいて、コントロール群と比較してメラノーマの肺転移が顕著に抑制された。
【0145】
<実施例14>GC-A ノックアウトマウスに対するメラノーマ尾静脈注入転移試験
マウスとして、12週齢の雄のGC-A ノックアウト(KO)マウス(全身、内皮組織特異的ノックアウト、 Tokudome T., Kishimoto I., Kangawa K., et al(Arterioscler Thromb Vasc Biol. 2009;29:1516-21)、Kishimoto I, Tokudome T, Nakao K, Kangawa K.(FEBS J. 2011;278:1830-41))を用いて、実施例13と同様に、(但しメラノーマB16-F10細胞懸濁液は、2.5×106 cells/mLとなるように調製し、100 μL/mouseの容量(2.5×105 celsl/mouse)で注入した)マウスメラノーマ細胞の肺転移試験を行い、2週間後の野生型、全身GC-A KO、及び内皮特異的GC-A KOの各マウスの肺に転移したメラノーマ細胞により形成された結節数を図20のグラフに示した。
図20に示されるように、全身GC-A KOマウスにおいても、内皮組織特異的GC-A KOマウスの両方において、野生型マウスと比較してメラノーマの肺転移が顕著に増加した。
【0146】
<実施例15> 内皮特異的GC-A 過剰発現マウスに対するメラノーマ尾静脈注入転移試験
マウスとして、12週齢の雄の内皮組織特異的GC-A過剰発現マウス(Zhun ML, et al(Cardiovasc Res. 2009;84:292-9)などを参考に作製)を用いて、実施例13と同様に、(但しメラノーマB16-F10細胞懸濁液は、1.0×107 cells/mLとなるように調製し、100 μL/mouseの容量(1.0×106 celsl/mouse)で注入した)尾静脈注入転移試験を行い、2週間後の野生型及びGC-A過剰発現マウスの肺に形成された結節数を図21のグラフに示した。
【0147】
図21に示されるように、内皮組織特異的GC-A過剰発現マウスでは、KOマウスの結果とは逆に、野生型マウスと比較してメラノーマの肺転移が顕著に抑制された。
【0148】
実施例14、15の結果から、生体において特に内皮組織におけるGC-Aを介したシグナル伝達が腫瘍の転移を抑制する働きがあることが強く示唆された。
図1
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【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]